説明

電気絶縁油

【課題】環境負荷が低減され且つ植物油より低粘度、低流動点の物性をもち、植物油と同等の電気特性を有する電気絶縁油を提供することにある。
【解決手段】炭素数8〜20の脂肪酸と平均重合度が2〜10のポリグリセリンとのエステル化物が粘度、流動点、引火点等の物性に優れた電気絶縁油としての特性を有する。植物油より低粘度、低流動点の物性をもち、植物油と同等の電気特性を有し且つ、植物由来原料より構成することにより石油系や合成系絶縁油に比べ環境負荷を低減可能な電気絶縁油を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気絶縁油に関し、詳しくは環境負荷が低減され且つ動粘度、流動点等の物性が改善された絶縁油に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器、ケーブル、遮断機、コンデンサー等の絶縁、冷却の目的で使用される電気絶縁油は、古くは大豆油、菜種油、ヒマシ油等の天然の植物油が使用されていたが、その後、重質原油から分留・精製された石油系絶縁油や、アルキルベンゼン等の炭化水素系油、塩化ジフェニル等の塩素化炭化水素系油、エステル系油、シリコーン油等の合成絶縁油が使用されるようになった。
しかしながら、石油系絶縁油は引火点が低い等の防災上の問題や、近年の環境問題を考慮した場合、地球温暖化防止対策における二酸化炭素排出量削減の観点から見ればカーボンニュートラルの考え上、地球環境に対し好ましいものではない。
また、合成系絶縁油は、フタル酸エステル類における内分泌撹乱作用の疑いや、PCBの毒性問題など、安全性や環境汚染に問題を有していた。
このような経緯より、安全性に優れる植物油を電気絶縁油として再び活用できれば石油系や合成系絶縁油が有する上記のような問題が解決できることになるが、植物油は粘度が高いことや流動点が高いという問題を有している。
植物油が有する上記問題を解決するために、天然植物油の低級アルコールエステル化物を電気絶縁油として使用する提案がなされている(例えば、特許文献1、2、3、4参照)。
しかしながら、これらの絶縁油では低粘度化は実現できるが、引火点が低く、また流動点が高いため物性上満足のいくものではなかった。
植物油と類似の化学構造を持つ化合物としてポリグリセリン脂肪酸エステルを挙げることができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルはその分子を構成する脂肪酸とポリグリセリンの選択により常温で固体から液体まで種々の性状の化合物を調製することが可能であり、電気絶縁油としての使用可能性が考えられるが、ポリグリセリン脂肪酸エステルを電気絶縁油として使用する提案はなされていない。
【特許文献1】特開平9−259638号公報
【特許文献2】特開平11−306864号公報
【特許文献3】特開2000−90740号公報
【特許文献4】WO2005/022558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、環境負荷が低減され且つ植物油より低粘度、低流動点の物性をもち、植物油と同等の電気特性を有する電気絶縁油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、炭素数8〜20の脂肪酸と平均重合度が2〜10のポリグリセリンとのエステル化物が粘度、流動点、引火点等の物性に優れ、本発明の上記目的を達成するに至ったものである。
すなわち本発明は、以下の構成である。
1.炭素数8〜20の脂肪酸と平均重合度2〜10のポリグリセリンより構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする電気絶縁油。
2.前記脂肪酸がカプリル酸及び/又はカプリン酸であることを特徴とする前記1記載の電気絶縁油。
3.前記ポリグリセリンの平均重合度が2であることを特徴とする前記1又は2記載の電気絶縁油。
4.前記1、2又は3記載のポリグリセリン脂肪酸エステル50〜100質量%と植物油及び/又は中鎖脂肪酸トリグリセライド0〜50質量%よりなることを特徴とする電気絶縁油。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、植物油より低粘度、低流動点の物性をもち、植物油と同等の電気特性を有し且つ、植物由来原料より構成することにより石油系や合成系絶縁油に比べ環境負荷を低減可能な電気絶縁油を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、発明を実施するための最良の形態により、本発明を詳細に説明する。
本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数が8〜22であり、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸等が挙げられ、これらの1種もしくはこれらを任意の比率に混合して使用することができる。また、これら脂肪酸の原料起源は動植物油であることが好ましい。
【0007】
本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、グリセリンの重合物として平均重合度2〜100のものが知られているが、人体・環境に対する安全性の見地から、平均重合度2〜10のものが好ましい。また、その原料起源が動植物油であることが更に好ましい。
【0008】
本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは上記脂肪酸とポリグリセリンを原料として公知の種々のエステル化法を用いて製造することができる。例えば、ポリグリセリンと脂肪酸を、(脂肪酸のカルボキシル基のモル数)/(ポリグリセリンの水酸基のモル数)=1.05〜1.3の比率で仕込み無触媒、アルカリ触媒或いは酸触媒を用いて、不活性ガス雰囲気下、200℃〜250℃で常圧或いは減圧反応を5〜20時間行い、過剰の脂肪酸を減圧留去或いは水蒸気蒸留により留去する。このとき、生成されたポリグリセリン脂肪酸エステルの品質は、酸価が1以下、好ましくは0.1以下であり、水酸基価が10以下、好ましくは5以下である。酸価が1より大きい或いは水酸基価が10より大きい場合、ポリグリセリン脂肪酸エステルの電気特性を悪化させる。
【0009】
また、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルは、上記エステル化反応後、活性白土、活性アルミナ等の無機合成吸着剤や活性炭等の吸着剤を用いてエステル中に含有される微量の遊離脂肪酸や不純物を吸着除去することが好ましい。さらに、真空下、脱気処理を行い、空気および水分を除去することが好ましい。
【0010】
また、本発明の電気絶縁油は、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルと植物油及び/又は中鎖脂肪酸トリグリセライドを混合して使用することができる。植物油及び/又は中鎖脂肪酸トリグリセライドの電気絶縁油全量に対する混合比率は50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。植物油の混合は、引火点を高めることに有効であるが、電気絶縁油全量に対する混合比率が50質量%を超えると流動点が高くなり過ぎるため好ましくない。中鎖脂肪酸トリグリセライドの混合は、粘度低下に有効であるが、電気絶縁油全量に対する混合比率が50質量%を超えると引火点の低下が大きく好ましくない。
【0011】
上記植物油としては例えば、大豆油、菜種油、ヒマシ油、コーン油、紅花油、ヒマワリ油等を挙げることができ、中鎖脂肪酸トリグリセライドとしてはトリカプリル酸グリセリド、トリカプリン酸グリセリド、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリドを挙げることができる。
【0012】
本発明の電気絶縁油は、これ自体単独でも使用することができるが、発明の効果を損なわない範囲でこれに酸化防止剤、流動点降下剤、流動帯電防止剤等の添加剤を配合して使用することができる。
【0013】
本発明の電気絶縁油の適用対象物には特に制限は無く、従来より電気絶縁油の使用が知られた電気機器、例えば変圧器、ケーブル、遮断機、コンデンサーなどに適用することができる。
【実施例】
【0014】
次に、本発明の実施例を挙げ更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0015】
実施例1〜3、比較例1〜2
下記合成方法により電気絶縁油A〜Cを作成し、物性及び電気特性の評価を行った。また、比較例として菜種白絞油とトリカプリル酸グリセリドについて同様の評価を行った。物性及び電気特性を表1に示す。
尚、試験に用いた試料の分析、物性及び電気特性の評価方法は以下の試験法に準拠して行った。
全酸価:JIS C 2101
水酸基価:油化学会法(2.3.6−1996)
水分:JIS C 2101(カールフィッシャー式容量滴定法)
動粘度:ASTM D7042
流動点:ASTM D6749
引火点:JIS K 2265(クリーブランド開放式)
絶縁破壊電圧:JIS C 2101
体積抵抗率:JIS C 2101
誘電正接:JIS C 2101
【0016】
〈電気絶縁油Aの作成〉
ジグリセリン(ジグリセリンS:阪本薬品工業(株)社製)325gとカプリル酸(NAA−82:日本油脂(株)社製、以下同様)1276gを4つ口フラスコに仕込み、撹拌下、窒素ガスを吹き込みながら230℃で8時間反応を行った。次に1.5kPaの減圧下、水蒸気を吹き込みながら未反応の脂肪酸を留去してジグリセリンカプリレートを得た。
このジグリセリンカプリレート100質量部に対し無機吸着剤(キョーワード500SH:協和化学工業(株)社製)を2質量部添加し、120℃で1時間吸着処理をした後、ろ過により無機吸着剤を除去した。更に1.5kPaの減圧下、120℃で1時間脱気処理を行い電気絶縁油Aを得た。
得られた電気絶縁油Aは全酸価0.07、水酸基価0.4、水分92ppmであった。
〈電気絶縁油Bの作成〉
デカグリセリン(ポリグリセリン#750:阪本薬品工業(株)社製)558gとカプリル酸(NAA−82:日本油脂(株)社製、以下同様)1328gを4つ口フラスコに仕込み、撹拌下、窒素ガスを吹き込みながら230℃で8時間反応を行った。次に1.5kPaの減圧下、水蒸気を吹き込みながら未反応の脂肪酸を留去してデカグリセリンカプリレートを得た。
このデカグリセリンカプリレート100質量部に対し無機吸着剤(キョーワード500SH:協和化学工業(株)社製)を2質量部添加し、120℃で1時間吸着処理をした後、ろ過により無機吸着剤を除去した。更に1.5kPaの減圧下、120℃で1時間脱気処理を行い電気絶縁油Bを得た。
得られた電気絶縁油Bは全酸価0.09、水酸基価2.2、水分123ppmであった。
〈電気絶縁油Cの作成〉
上記電気絶縁油A960gとトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリド(アクターM−1:理研ビタミン(株)社製)640gを4つ口フラスコに仕込み、窒素ガスを吹き込みながら80℃で30分間撹拌して電気絶縁油Cを得た。
得られた電気絶縁油Cは全酸価0.07、水酸基価0.4、水分88ppmであった。
【0017】
【表1】

表1の結果から明らかな通り、本発明の電気絶縁油、特に電気絶縁油A及びCは菜種油や中鎖脂肪酸トリグリセライドとほぼ同等の電気特性を有し且つ、菜種油より低粘度、低流動点を実現している。また、引火点が250℃以上であり防災上の安全性も向上している。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、植物油より低粘度、低流動点でありながら植物油と同等の電気特性を有し且つ、植物由来原料より製造することにより石油系や合成系絶縁油に比べ環境負荷が低減された電気絶縁油を提供することができ、変圧器、ケーブル、遮断機、コンデンサーなど従来より電気絶縁油の使用が知られている電気機器に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8〜20の脂肪酸と平均重合度2〜10のポリグリセリンより構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする電気絶縁油。
【請求項2】
前記脂肪酸がカプリル酸及び/又はカプリン酸であることを特徴とする請求項1記載の電気絶縁油。
【請求項3】
前記ポリグリセリンの平均重合度が2であることを特徴とする請求項1又は2記載の電気絶縁油。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載のポリグリセリン脂肪酸エステル50〜100質量%と植物油及び/又は中鎖脂肪酸トリグリセライド0〜50質量%よりなることを特徴とする電気絶縁油。

【公開番号】特開2009−76288(P2009−76288A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243348(P2007−243348)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】