説明

電気脱イオン装置

【課題】被処理水中に硬度成分が含まれていても、スケールを発生させることなく、長期間安定に運転することができる電気脱イオン装置を提供する。
【解決手段】電気脱イオン装置は、陰極12と陽極11との間に、複数のアニオン交換膜13とカチオン交換膜14とを交互に配列して濃縮室15と脱塩室16とを交互に形成してなり、濃縮室15内に一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20を設けて濃縮室15内を陰極側と陽極側とに区画する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極と陽極との間に複数のアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配列して濃縮室と脱塩室とを交互に形成してなる電気脱イオン装置に関し、特に、濃縮室の構成を改良することにより、濃縮室内でのスケールの発生を防止して長期間安定的に、かつ効率的に運転可能な電気脱イオン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工場、液晶製造工場、製薬工業、食品工業、電力工業等の各種の産業又は民生用ないし研究施設等において使用される脱イオン水の製造には、図4に示すように、電極(陽極11,陰極12)の間に複数のアニオン交換膜(A膜)13及びカチオン交換膜(C膜)14を交互に配列して濃縮室15と脱塩室16とを交互に形成し、脱塩室16にイオン交換樹脂、イオン交換繊維又はグラフト交換体等からなるアニオン交換体及びカチオン交換体を混合又は複層状に充填した電気脱イオン装置が多用されている(特許文献1〜3参照)。なお、図4において、17は陽極室、18は陰極室である。
【0003】
電気脱イオン装置は、水解離によってHイオンとOHイオンとを生成させ、脱塩室内に充填されているイオン交換体を連続して再生することによって、効率的な脱塩処理が可能であり、従来から広く用いられてきたイオン交換樹脂装置のような薬品を用いた再生処理を必要とせず、完全な連続採水が可能で、高純度の水が得られるという優れた効果を発揮する。
【0004】
しかしながら、浄水場等で河川水、地下水等を除濁、脱塩素、軟化処理した水道水を電気脱イオン装置の被処理水として直接用いた場合や被処理水のカルシウム濃度が高い場合には、(1)濃縮室15内でのスケール発生や(2)CO負荷増大による処理水導電率の悪化等が起こることから、水道水を直接電気脱イオン装置の被処理水として通水することは行われていない。
【0005】
上記(1)又は(2)の問題点のうち、(2)のCO負荷の増大については、比較的安価な脱炭酸装置を電気脱イオン装置の前処理装置として用いることにより解決できる。
【0006】
しかしながら、(1)の濃縮室15内でのスケールを防止するためには、さらに軟化装置等を設置して水中の硬度成分を完全に除去することが必要となるが、軟化装置を用いた場合にはその再生が必要となり、再生不要の電気脱イオン装置を用いることによる利点が失われてしまう。
【0007】
このような問題点を解決するために、従来から電気脱イオン装置の前処理装置として、硬度成分及びCO濃度を低減することを目的として、一般的に逆浸透膜装置(RO膜装置)、脱炭酸塔などを設置する方法が用いられている。
【特許文献1】特許第1782943号公報
【特許文献2】特許第2751090号公報
【特許文献3】特許第2699256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、RO膜装置は1〜2MPaという高圧で運転することから、高価な設備が必要となり、運転費用も上昇する。しかも、電気脱イオン装置の前処理装置としてRO膜装置を用いた場合でも、RO膜からわずかにリークしてくるカルシウムによって、電気脱イオン装置の濃縮室15内で炭酸カルシウムスケールが発生するため、長期間安定運転を行うことはできないという問題もあった。
【0009】
そこで、RO膜装置を直列に2段配置してカルシウム等をさらに除去することも行われているが経費等の点で実用的でない。このため、通常の給水条件において1段のRO膜装置で処理できる場合には、1段のRO膜装置で純水製造システムを設計せざるを得ず、かかる場合には突発的なCa濃度や炭酸濃度等の給水条件の悪化や、RO膜装置の破過に対応できず、濃縮室15内でスケールが発生する懸念がある。
【0010】
このようにして電気脱イオン装置においてスケールが発生するメカニズムを、図5に基づいて説明する。
電気脱イオン装置のスケール発生因子として最も問題となるのが炭酸カルシウムである。電気脱イオン装置では、濃縮室15の供給水として一般的に被処理水が分岐して用いられる。この濃縮室15内においては、カチオン交換膜14側の脱塩室16からカルシウムイオン(Ca2+)がイオン交換されて透過し、電気的作用によってアニオン交換膜13の表面に近づいてくる。
【0011】
一方、アニオン交換膜13側の脱塩室16からは炭酸水素イオン(HCO)が透過する。そして、濃縮室15内では、カルシウムイオン(Ca2+)又は炭酸水素イオン(HCO)のどちらか一方の濃度が高くなると、下記(1),(2)の反応により炭酸カルシウム(CaCO)が形成される。
HCO+OH→CO2−+HO・・・(1)
Ca2++CO2−→CaCO・・・(2)
【0012】
このようにして濃縮室15内でスケールが発生すると、電気抵抗が上昇し、電圧値を一定に保てなくなるため、安定した処理性能を維持できなくなる。しかも、上記反応は不可逆反応であるため、上記反応が進行した場合には、モジュールの洗浄や、さらに放置し続けると最終的には装置の交換という事態もあり得る。
【0013】
また、一般に、炭酸カルシウムの飽和条件は下記式で表される。
log[Ca2+]+log[HCO]+pHs=log(Ks/K)
式中、Ksは「炭酸カルシウムの溶解度積」を表し、Kは「炭酸の第2解離定数」を表し、pHsは「炭酸カルシウムの飽和pH」を表す。
【0014】
実際の水溶液中のpHと炭酸カルシウムの飽和pH(pHs)との差は、ランジェリア指数(LSI)と呼ばれ、「LSI=pH−pHs>0」となると、炭酸カルシウムが析出することになる。
【0015】
電気脱イオン装置の濃縮室15内にもアニオン交換膜13側から脱塩室16内の水解離で発生したOHイオンが透過してくるため、局所的にアルカリ性となっている。そのため、アニオン交換膜13の表面でのLSIは正(>0)となることから、この濃縮室15内のアニオン交換膜13の近傍、炭酸カルシウムスケールが析出することになる。また、水酸化カルシウムが形成されることもあり得る。
【0016】
本発明は上記課題を解決し、被処理水中に硬度成分が含まれていても、電気脱イオン装置内に、特に濃縮室内にスケールを発生させることなく、長期間安定に運転することができる電気脱イオン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明は、陰極と陽極との間に、複数のアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配列して濃縮室と脱塩室とを交互に形成してなる電気脱イオン装置において、前記濃縮室に一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜を設けて、前記濃縮室内を陰極側と陽極側とに区画したことを特徴とする電気脱イオン装置を提供する(請求項1)。
【0018】
上記発明(請求項1)によれば、濃縮室内に一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜を配置することで、アニオン交換膜側の脱塩室から濃縮室内に透過してきた炭酸水素イオンと、カチオン交換膜側から透過してきたカルシウムイオンとは、それぞれ一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜により遮断されるため、濃縮室内で炭酸カルシウムを形成することがない。これにより、濃縮室内での炭酸カルシウムスケールの発生を防止することができる。さらに、アニオン交換膜側から透過してくる脱塩室内の水解離で発生したOHイオンも一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜により遮断されるため、濃縮室内で水酸化カルシウムを形成することもない。
【0019】
上記発明(請求項1)においては、前記脱塩室内にイオン交換体を充填することが好ましい(請求項2)。かかる発明(請求項2)によれば、脱塩室内で得られる脱イオン水の水質をより向上させることができる。
【0020】
さらに、上記発明(請求項1,2)においては、前記脱塩室の流出水の一部を、前記濃縮室の流入側へ供給する流路を設けることが好ましい(請求項3)。かかる発明(請求項3)によれば、水道水のようにカルシウム濃度の高い水を処理する場合であっても、脱イオン水の一部を濃縮室に導入することで、濃縮室の循環水を脱イオン水で希釈してカルシウム濃度を低減することができ、これにより、スケールの発生を一層防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電気脱イオン装置によれば、濃縮室内に一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜を配置することにより、濃縮室内で炭酸水素イオン又は水酸イオンとカルシウムイオンとが会合することがないので、濃縮室内での炭酸カルシウム又は水酸化カルシウムの形成を抑制することができ、被処理水中に硬度成分が含まれていても濃縮室内にスケールを発生させることがなく、電気脱イオン装置を長期間安定に運転させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電気脱イオン装置を示す構成図であり、図2は、本発明の一実施形態に係る電気脱イオン装置の濃縮室の拡大断面図である。なお、図1及び図2において、図4及び図5の従来の電気脱イオン装置と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0023】
本実施形態に係る電気脱イオン装置は、濃縮室15内に一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20を設けて、濃縮室15内を陰極側と陽極側とに区画したこと以外は図4に示す従来の電気脱イオン装置と同様の構成とされている。
【0024】
この一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20は、(1)陽イオン交換膜の表面部を緻密な構造(例えば、表層部を架橋度の高い層又は固定イオン濃度の高い層)にする、(2)陽イオン交換膜の表面にイオン交換基を含まない電気的に中性の薄層を形成する、(3)陽イオン交換膜の表面に陰イオン交換性の薄層(以下「反対電荷層」という。)を形成する等の方法を単独で用いることにより、又はこれらの方法を併用することにより、二価以上の陽イオンを膜面からほとんど透過させずに一価の陽イオンを選択的に透過させるものである。本実施形態においては、特に(3)の方法により一価の陽イオンを選択的に透過させるものを用いることが好ましい。
【0025】
このような一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20としては、例えば、陽イオン交換膜の少なくとも一側面に、第4級アンモニウム塩基と、3個以上のビニルベンジル基を有するビニル化合物との重合体による薄層を形成したものが挙げられる。この基材となる陽イオン交換膜としては、特に制限されるものではなく、陽イオン交換選択性が高いものが好ましい。一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20としては、例えば、アストム社製のCMS(商品名)等を用いることができる。
【0026】
このように濃縮室15内に一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20を設けると、図2に示すように、アニオン交換膜13側の脱塩室16から透過してきた炭酸水素イオン(HCO)及び水酸イオン(OH)は、一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20を透過できず、また、カチオン交換膜14側の脱塩室16から透過してきたカルシウムイオン(Ca2+)もこれを透過できない。このため、これらが反応することによる炭酸カルシウム又は水酸化カルシウムのスケールの発生を防止することができる。このとき、ナトリウムイオン(Na)等の一価の陽イオンは、一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20を透過する。
【0027】
なお、一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20は、二価以上の陽イオンを完全に遮断するものではなく、わずかにこれを透過する。その比率は、一価陽イオン:二価陽イオン=100:1〜100:2程度であり、二価陽イオンの透過の影響をほとんど無視できる程度である。
【0028】
本実施形態に係る電気脱イオン装置は、濃縮室15内に一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20を用いること以外は、従来の電気脱イオン装置と同様の構成とされ、脱塩室16内には、イオン交換繊維又はグラフト交換体等からなるアニオン交換体及びカチオン交換体を混合して充填してもよいし、複層状に充填してもよい。これにより、得られる脱イオン水の水質を向上させることができる。
【0029】
また、濃縮室15内にもイオン交換体が充填されているのが好ましく、カチオン交換体とアニオン交換体とを40:60〜70:30の比率で混合したイオン交換体を充填するのが好ましい。さらに、陽極室17及び陰極室18にイオン交換体を充填してもよい。
【0030】
本実施形態に係る電気脱イオン装置では、上述したように、濃縮室15内に一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜20を設けることで、濃縮室15内での炭酸カルシウムスケールを有効に防止することができるが、この場合においても、水道水のようにカルシウム濃度の高い水を処理する場合には、スケールが発生するおそれがある。この場合には、図3に示すように、脱塩室16から得られる脱イオン水の一部を濃縮室15に導入して、濃縮室15の循環水を脱イオン水で希釈してカルシウム濃度を低減することが好ましい。同様に電極室17,18内の水についても、脱イオン水を用いることが好ましい。
【0031】
また、濃縮室15に導入する被処理水のみ軟化処理するようにしてもよく、この場合には、軟化装置が必要となるが、すべての被処理水を軟化処理する場合に比べてその処理コストは大幅に低減される。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。なお、試験用の被処理水として以下のものを用意した。
被処理水:給水Ca濃度;1.0ppm(CaCO換算)
給水CO濃度;4.0ppm(CaCO換算)
【0033】
〔比較例1〕
電気脱イオン装置のイオン交換膜及び脱塩室に充填するイオン交換樹脂として下記のものを用い、上記被処理水を表1に示す条件で通水を行い、得られる処理水の1週間後及び1月後の比抵抗値、並びに濃縮室流量0.06L/hrで通水したときの濃縮室の1週間後及び1月後の電圧を測定した。結果を表1に示す。また、初期状態における処理水の比抵抗値及び濃縮室の電圧を合わせて示す。なお、電気脱イオン装置の運転条件は、濃縮室循環水の補給水及び電極室水として被処理水を用い、回収率85%で、処理水量0.4m/hr、電流効率20%で印加電圧の許容値は60Vを上限とした。
【0034】
アニオン交換膜:アシプレックスA501SB(旭化成工業社製)
カチオン交換膜:アシプレックスK501SB(旭化成工業社製)
イオン交換樹脂:SA10A(アニオン交換樹脂,三菱化学社製)とSK1B(カチオン交換樹脂,三菱化学社製)とを体積混合比率6:4で混合したもの
【0035】
〔実施例1〕
比較例1で用いた電気脱イオン装置の濃縮室に一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜を設けて図1示す電気脱イオン装置を組み立て、この電気脱イオン装置を用いたこと以外は同様にして、表1に示す通水条件で試験を行った。結果を表1に示す。
なお、一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜としては、CMS(商品名,アストム社製)を用いた。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より明らかなように、比較例1の電気脱イオン装置では1週間で濃縮室側の差圧が上昇し、1月で印加電圧の許容値である60Vに到達し、水質も低下(比抵抗値が低下)したが、実施例1の電気脱イオン装置では、1月間良好な水質を維持したまま安定して運転することができた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態による電気脱イオン装置を示す模式的な断面図である。
【図2】前記実施形態における濃縮室のイオンの流れを示す断面図である。
【図3】本発明の電気脱イオン装置の実施の形態を示す系統図である。
【図4】従来の電気脱イオン装置を示す模式的な断面図である。
【図5】従来の電気脱イオン装置の濃縮室のイオンの流れを示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
11…陽極
12…陰極
13…アニオン交換膜
14…カチオン交換膜
15…濃縮室
16…脱塩室
20…一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と陽極との間に、複数のアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配列して濃縮室と脱塩室とを交互に形成してなる電気脱イオン装置において、
前記濃縮室に一価陽イオン選択透過性陽イオン交換膜を設けて、前記濃縮室内を陰極側と陽極側とに区画することを特徴とする電気脱イオン装置。
【請求項2】
前記脱塩室内にイオン交換体を充填することを特徴とする請求項1に記載の電気脱イオン装置。
【請求項3】
前記脱塩室の流出水の一部を、前記濃縮室の流入側へ供給する流路を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気脱イオン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−268337(P2007−268337A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93880(P2006−93880)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】