説明

電気自動車のアクセル操作応答制御方法および制御装置

【課題】 変速制御を伴わない通常走行において、アクセルのONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、ローラクラッチのショックトルクや異音を低減することができる電気自動車の制御方法および装置を提供する。
【解決手段】 電気自動車におけるアクセル操作応答制御方法において、アクセルのONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に適用する。このとき、前記ローラクラッチのショックトルクまたは異音が低減するように、前記電動モータの制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える一連の制御であるショック低減制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車アクセル操作時のショックトルク低減制御、および電動モータで回生制御を行うための制御に係る電気自動車のアクセル操作応答制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の駆動装置として、電動モータ、変速機、および差動装置(デファレンシャル)を介し駆動輪に動力を伝達する車両用モータ駆動装置がある。変速機の変速段の切換には、例えば2ウェイ型のローラクラッチが用いられる。
この種の車両用モータ駆動装置を使用すると、走行条件に応じて変速機の変速比を切り換えることにより、駆動および回生時において、効率の高い回転数およびトルク領域で電動モータを使用することが可能となる。また、適切な変速比とすることで、高速走行時の変速機の回転部材の回転速度が下がり、変速機の動力損失が低減して車両のエネルギ効率を向上させることができる。このような車両用モータ駆動装置として、例えば特許文献1や特許文献2に記載のものが知られている。
【0003】
上記形式の車両用モータ駆動装置は、変速完了後, ローラクラッチ係合時、大きな変速ショックと異音が生じることがある。そこで、変速ショックと異音を低減するため、変速制御の改良方法がいくつか提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−57030号公報
【特許文献2】特開平8−168110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の2ウェイ型のローラクラッチを用いた車両用モータ駆動装置の改良技術として、変速時の車速と選択された目標変速段の変速比に基き目標電動モータ回転数を算出して、目標電動モータ回転数に応じて電動モータの出力を制御する技術を提案した。これは、変速制御方法として、トルク制御と回転数制御の二つフィードバック制御法を切換える手法である。
【0006】
しかし、変速制御を伴わない通常走行において、アクセルOFF→ON操作時や、アクセルON→OFF時に電動モータで回生制御を行う時に、ローラクラッチに起因するショックトルク、異音が生じる懸念がある。
【0007】
具体的には、次の課題がある。
(1) 車両起動時、アクセル操作によって、係合ショックが発生する。アクセルを抜くと現変速段のローラクラッチの係合が解除される状態になる可能性がある。一旦、ローラクラッチの係合が解除された場合、再びアクセルを踏むと、ローラクラッチが再度正方向に素早く係合するので、係合ショックは、大きくなる。
(2) 車両速度が一定以上で、電動モータを回生する場合、ローラクラッチを負方向に係合する制御が必要となる。アクセルを踏むと、電動モータは正トルクを発生し、ローラクラッチは正方向で係合する。アクセルを抜いて電動モータを回生する場合、ローラクラッチは負方向で係合する。このように、電動モータの駆動と回生相互間の動作切換に伴って、ローラクラッチの正方向⇔負方向係合制御が必要となる。
なお、この明細書において、「正方向」は、電動モータを駆動する時、ローラクラッチが係合している方向とする。「負方向」は、電動モータを回生する時、ローラクラッチが係合している方向とする。
【0008】
上記(1) と(2) に関して、ローラクラッチ係合時のショックトルクを低減するため、アクセルのOFF→ON動作に伴うローラクラッチの制御を行う必要がある。
【0009】
この発明の目的は、変速制御を伴わない通常走行において、アクセルのONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、ローラクラッチのショックトルクや異音を低減することができる電気自動車のアクセル操作応答制御方法および制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の電気自動車のアクセル操作応答制御方法は、次の構成の電気自動車に適用する制御方法である。
この電気自動車は、互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備える。前記各ローラクラッチは、内輪のカム面と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となり、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に位置させることで切断状態となる構成である。前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータにより切り換える機構である。
この発明方法は、上記構成の電気自動車におけるアクセル操作応答制御方法であって、アクセルのONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、前記ローラクラッチのショックトルクまたは異音が低減するように、前記電動モータの制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える一連の制御であるショック低減制御を行うことを特徴とする。
【0011】
この方法によると、アクセルのONからOFFへの操作時や、OFFからONへの操作時に、電動モータの制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える。そのため、ローラクラッチのショックトルクや異音を低減することができる。
【0012】
この発明方法において、前記ショック低減制御の一つとして、ある一定の加速判断用のトルク閾値Aを設け、アクセルOFFからアクセルONに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)>(トルク閾値A)
となったことを条件として加速する制御であるON操作時加速制御を行うようにしても良い。
【0013】
この発明方法において、前記ショック低減制御の一つとして、ある一定の回生判断用のトルク閾値Bを設け、アクセルONからアクセルOFFに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)<(トルク閾値B)
となったことを条件として前記電動モータの回生を行う制御であるOFF操作時回生制御を行うようにしても良い。
【0014】
上記のように、 (アクセルのトルク指令値)>(トルク閾値A)
となったことを条件として加速する制御であるON操作時加速制御を行う場合に、
前記ショック低減制御の一つとして、ある一定の回生判断用のトルク閾値Bを設け、アクセルONからアクセルOFFに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)<(トルク閾値B)
となったことを条件として前記電動モータの回生を行う制御であるOFF操作時回生制御を行い、
アクセルOFFとアクセルONが繰り返し実行されたときに、前記ON操作時加速制御と前記OFF操作時回生制御の誤作動を防止するために、
トルク閾値に関して、(トルク閾値A)>(トルク閾値B)とし、
かつこれら2つのトルク閾値A,Bの間に一定幅のヒステリシス特性を持たせるようにしても良い。
閾値A>閾値B、且つ一定幅のヒステリシス特性という条件を設けた場合は、トルク指令信号に含まれているノイズの影響により、アクセルOFF→ON制御とアクセルON→OFF制御の誤動作が防止される。
【0015】
この発明方法において、前記ショック低減制御における、アクセルOFFからアクセルONに操作された場合の制御の一つとして、電動モータの制御をトルク制御から回転数制御へ切換えて、回転数制御によりローラクラッチを駆動側楔空間に係合させるアクセルON時回転数制御過程を含むようにしても良い。
【0016】
この発明方法において、前記ショック低減制御における前記回転数制御に使われる目標回転数と回転数制限電流は、各変速段での各走行速度に関して、変速ECU内にそれぞれ設定し、走行条件に応じて定められた設定値を用いるようにしても良い。
【0017】
この発明方法において、前記ショック低減制御おける、アクセルOFFからアクセルONに操作された場合の制御の一つとして、回転数制御完了後、トルク制御に切換えた時点で、アクセルのトルク指令値が過大な場合に生じるショックトルクを低減するため、アクセルのトルク指令値を補間しながら電動モータをトルク制御するトルク補間制御を行うようにしても良い。この補間により、円滑な制御が行える。
この場合に、アクセルのトルク指令値の補完完了後、リアルタイムのアクセルのトルク指令値で電動モータをトルク制御する、リアルタイムトルク制御としても良い。
【0018】
この発明方法において、車両の電源を起動した時に、変速ECU内に設定された回転数制御目標回転数と回転数制御電流を用いて、回転数制御により、ローラクラッチを駆動側楔空間に係合させる制御である起動時回転数制御を行うようにしても良い。
【0019】
この発明方法において、前記ショック低減制御における、アクセルONからアクセルOFFに操作された場合の制御の一つとして、電動モータの制御を、トルク制御から回転数制御へ切換えて、回転数制御によりローラクラッチ非駆動側楔空間に係合させる制御である、OFF操作時制御方法切換制御を行うようにしても良い。
【0020】
この発明方法において、車両を停車させるときに、電動モータの制御を回転数制御からトルク制御に切換えて、ローラクラッチを駆動側楔空間に係合させ、この場合のトルク制御値を、変速ECUに設定されたトルク指令値を用いる、停車時制御方法切換制御を行うようにしても良い。
この方法の場合、次の利点が得られる。通常、アクセルを抜いた状態では、トルクが抜けて、ローラクラッチは正方向係合位置からニュートラル位置に戻され、次回の発進時、ローラクラッチを回転数制御で制御することが必要となる。そのため、無駄にエネルギーを消耗してしまう。停車時も、トルク制御でローラクラッチを正方向に係合する制御を行うことによって、次回車両発進時に、直接トルク制御で電動モータを制御することが出来、回転数制御をする必要がない。そのため、無駄なエネルギー消耗が回避される。
【0021】
この発明の電気自動車のアクセル操作応答制御装置は、次の構成の電気自動車における制御方法である。
この電気自動車は、互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備える。前記各ローラクラッチは、内輪のカム面と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となり、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に位置させることで切断状態となる構成である。前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータにより切り換える機構である。
この発明のアクセル操作応答制御装置は、上記構成の電気自動車を制御する装置であって、
アクセル63のONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、前記ローラクラッチ16A,16Bのショックトルクまたは異音が低減するように、前記電動モータ3の制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える一連の制御を行うショック低減制御手段83を設けたことを特徴とする。
【0022】
この構成のアクセル操作応答制御装置によると、アクセル63のONからOFFへの操作時や、OFFからONへの操作時に、電動モータ3の制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える。そのため、ローラクラッチ16A,16Bのショックトルクや異音を低減することができる。
【0023】
この発明の制御装置において、前記ショック低減制御手段83は、ある一定の加速判断用のトルク閾値Aが設定され、アクセルOFFからアクセルONに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)>(トルク閾値A)
となったことを条件として加速するON操作時加速制御手段84を有するものとしても良い。
【0024】
この発明の制御装置において、前記ショック低減制御手段83は、ある一定の回生判断用のトルク閾値Bが設定され、アクセルONからアクセルOFFに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)<(トルク閾値B)
となったことを条件として前記電動モータ3の回生を行うOFF操作時回生制御手段85を有するものとしても良い。
【0025】
この構成の場合に、前記ショック低減制御手段83は、ある一定の回生判断用のトルク閾値Bが設けられ、アクセルONからアクセルOFFに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)<(トルク閾値B)
となったことを条件として電動モータ3の回生を行うOFF操作時回生制御手段85を有し、
アクセルOFFとアクセルONが繰り返し実行されたときに、前記ON操作時加速制御手段84と前記OFF操作時回生制御手段85の誤作動を防止するために、
トルク閾値に関して、(トルク閾値A)>(トルク閾値B)とし、
かつこれら2つのトルク閾値A,Bの間に一定幅のヒステリシス特性を持たせた、
繰り返し操作時制御手段86を有するものとしても良い。
【発明の効果】
【0026】
この発明の電気自動車のアクセル操作応答制御方法は、互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備え、前記各ローラクラッチは、内輪のカム面と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となり、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に位置させることで切断状態となる構成であり、前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータにより切り換える機構である、電気自動車におけるアクセル操作応答制御方法において、アクセルのONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、前記ローラクラッチのショックトルクまたは異音が低減するように、前記電動モータの制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える一連の制御であるショック低減制御を行うため、変速制御を伴わない通常走行において、アクセルのONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、ローラクラッチのショックトルクや異音を低減することができる。
【0027】
この発明の電気自動車のアクセル操作応答制御装置は、上記構成の電気自動車におけるアクセル操作応答制御装置であって、アクセルのONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、前記ローラクラッチのショックトルクまたは異音が低減するように、前記電動モータの制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える一連の制御であるショック低減制御手段を設けたため、変速制御を伴わない通常走行において、アクセルのONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、ローラクラッチのショックトルクや異音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施形態に係る電気自動車のアクセル操作応答制御方法を適用する電気自動車の概略図である。
【図2】同実施形態に係る電気自動車のアクセル操作応答制御方法を適用するハイブリッド車の概略である。
【図3】図1,図2に示す車両の車両用モータ駆動装置の断面図である。
【図4】同車両用モータ駆動装置の減速比切換機構の断面図である。
【図5】同車両用モータ駆動装置を制御する変速制御システムの概略ブロック図である。
【図6】同車両用モータ駆動装置のインバータ装置の構成図である。
【図7】同車両用モータ駆動装置のインバータ制御装置のブロック図である。
【図8】同車両用モータ駆動装置のアクセルOFFからONへの制御の全体を示すフローチャートである。
【図9】同車両用モータ駆動装置のアクセルONからOFFへの制御の全体を示すフローチャートである。
【図10】図8における主フローチャートの抜粋図である。
【図11】図8における通常モードの副フローチャートの抜粋図である。
【図12】図8における移動モードの副フローチャートの抜粋図である。
【図13】図9における主フローチャートの抜粋図である。
【図14】図9における停止モードの副フローチャートの抜粋図である。
【図15】この発明の一実施形態に係る電気自動車のアクセル操作応答制御装置の概念構成を示すブロック図である。
【図16】図4の一部の拡大断面図である。
【図17】図4のXVII-XVII 線に沿った断面図である。
【図18】図4のXVIII-XVIII 線に沿った断面図である。
【図19】図4のXIX-XIX 線に沿った断面図である。
【図20】同車両用モータ駆動装置のシフト機構を示す断面図である。
【図21】図4の減速比切換機構におけるローラクラッチ等の分解斜視図である。
【図22】同車両用モータ駆動装置の自動変速制御方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の一実施形態にかかる電気自動車のアクセル操作応答制御方法を説明する。図1は、左右一対の前輪1を車両用モータ駆動装置Aで駆動される駆動輪とし、左右一対の後輪2を従動輪とした電気自動車EVを示す。
【0030】
図2は、左右一対の前輪1をエンジンEによって駆動される主駆動輪とし、左右一対の後輪2を車両用モータ駆動装置Aで駆動される補助駆動輪としたハイブリッド自動車HVを示す。ハイブリッド自動車HVには、エンジンEの回転を変速するトランスミッションTと、トランスミッションTから出力された回転を左右の前輪1に分配するディファレンシャルDとが設けられている。この実施形態の電気自動車のアクセル操作応答制御方法およびアクセル操作応答制御装置は、図1,図2の車両用モータ駆動装置Aに適用される。
【0031】
図3に示すように、車両用モータ駆動装置Aは、走行用の電動モータ3と、複数段の変速比を有し電動モータ3の出力軸4の回転を変速して出力する変速機5と、その変速機5から出力された回転を図1に示す電気自動車EVの左右一対の前輪1に分配し、または、図2に示すハイブリッド車の左右一対の後輪2に分配するディファレンシャル6とを有する。
【0032】
変速機5は、図3に示すように、変速段数が2段であって、互いに変速比が異なる複数(この例では2列)の変速段のギヤ列LA,LBを有し、かつ変速段を切り換えるための断続手段として、電動モータ3の出力軸であるモータ軸4に連結された入力軸7と前記各変速段のギヤ列LA,LBにそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチ16A,16Bと、これら各ローラクラッチ16A,16Bの断続の切換を行う変速比切換機構40とを有する。
前記2ウェイ型のローラクラッチ16A,16Bの断続による変速切換は、後述のシフトフォーク45(図4)のシフト位置の制御、および電動モータ3のシンクロ制御により行われる。
【0033】
図3,図4の変速機5および変速比切換機構40については、ここではアクセル操作応答制御方法の理解に必要な範囲で簡単に説明し、アクセル操作応答制御方法・装置の説明の後に、詳細に説明する。
【0034】
図3において、変速機5は、モータ軸4の回転が入力される入力軸7と、入力軸7に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸8と、上記各ギヤ列LA,LBとを有する平行軸常時噛合型変速機である。1速ギヤ列LAの入力ギヤ9Aおよび2速ギヤ列LBの入力ギヤ9Bが入力軸に一体に設けられ、1速ギヤ列LAの出力ギヤ10Aおよび2速ギヤ列LBの出力ギヤ10Bが出力軸8の外周に回転自在に設置されている。これら各出力ギヤ10A,10Bと出力軸8の間に、前記ローラクラッチ16A,16Bが介在させてある。
【0035】
各ローラクラッチ16A,16Bは、図17に示す2速のローラクラッチ16Bの例で説明するように、外周面が多角形状とされた内輪18Bの外周の平面状の各カム面19と外輪23の内周の円筒面間に設けられた各楔状空間Sにローラ20が介在する。楔状空間Sは、円周方向の両側が狭まり、円周方向の中央が広がり部分となる。各ローラクラッチ16A,16Bは、各ローラ20が楔状空間Sの狭まり部分に係合することで接続状態となり、保持器21Bにより各ローラ20を楔状空間Sの広がり部分に位置させることで切断状態となる構成である。
【0036】
外輪23は、外周部が前記出力ギヤ10A,10Bとされている。内輪18A,18Bは、スプライン等により出力軸8に対して相対回転不能に設けられる。円滑な相対回転、つまり空転を可能とするため、外輪23を構成する出力ギヤ10A,10Bと内輪18A,18Bとの間には、ローラクラッチ16A,16B以外に軸受15(図3,図4)が設けられる。
【0037】
変速比切換機構40は、図4に示すように、ローラクラッチ16A,16Bの保持器21A,21Bに連結されて回転する環状の摩擦板35A,35Bの外輪23への接触と離間とを変速切換アクチュエータ47による、シフト部材であるシフトフォーク45の進退によって切り換える機構である。シフト機構41は、変速比切換機構40のうちの、摩擦板35A,35Bを動作される機構部分であり、変速切換アクチュエータ47とシフトフォーク45により構成される。
【0038】
変速切換アクチュエータ47は、シフト用の電動モータであり、その出力軸47aの回転を、送りねじ機構48によりシフトロッド46の直動運動に変換し、シフトロッド46に取り付けたシフトフォーク45を軸方向に移動させる。シフトフォーク45の移動により、シフトスリーブ43およびシフトリング34が移動する。シフトリング34が摩擦板35A,35Bを、クラック外輪23(出力ギヤ10A,10B)の側面に押し付ける。これにより、カム面付きの内輪18A,18Bと外輪23とが相対回転する場合に、摩擦板35A,35Bと外輪23との間に摩擦力(トルク)が作用し、保持器21A,21Bを介してローラ20を楔状空間Sの狭まり部分に押し込むことができる。
【0039】
なお、保持器21A,21Bは内輪18A,18Bに対して回転自在であるが、スイッチばね22A,22B(図16,図18)により、内輪18A,18Bのカム面19(図17)の中央、つまり楔状空間Sの広がり部分であ中立位置とポケット21aの円周方向中央とが一致するように付勢される。摩擦板35A,35Bは、上記スイッチばね22A,22Bにより、保持器21A,21Bと共に回転可能なように連結されている。
【0040】
図5は、車両用モータ駆動装置Aを制御する制御システムを示すブロック図である。この制御システムは、統合ECU60、変速ECU61、およびインバータ装置62を有する。統合ECU60、変速ECU61、およびインバータ装置62の3者間の信号転送はCAN通信(コトローラー・エリア・ネットワーク)で行われる。
統合ECU60は、車載全ての電子制御装置間の協調制御を行う電子制御装置であり、図示しない車両用ブレーキ装置やステアリング装置と協調して指示を出す。統合ECU60はアクセルペダルおよびその踏み込み量の検出手段からなるアクセル63に接続されており、アクセル63からの信号に基づいて算出されるアクセル開度の信号であるアクセル信号を変速ECU61に出力する。
【0041】
変速ECU61は、車速の検出信号と、ECU60から出力されたアクセル信号を受け取り、自動変速の制御を行う電子制御装置であり、各種入力信号に基づいて変速判断を行ない、変速機5の変速切換アクチュエータ47とインバータ装置62に指令を出す。
具体的には、変速ECU61は、変速切換アクチュエータ47へ駆動指令を出力し、インバータ装置62へトルク指令(状況によっては、回転数指令)と変速指令を送信する。変速ECU61には、運転者により操作される変速操作部64(例えば、自動変速モードと手動変速モードを切り替えるタクトスイッチや、手動変速モードにおいて変速段を手動で切り替えるためのシフトレバー)から変速操作の状態を示す信号が入力される。変速ECU61には、車速センサ65から現在の車両の速度を示す信号が入力される。また、変速ECU61は、変速切換アクチュエータ47のシフト位置センサ68からシフト位置を検出し、インバータ装置62から電動モータ3の回転数を取得する機能を有する。この他に、変速ECU61は、運転席の液晶表示装置や表示ランプ等の表示部67に、車速、走行用の電動モータ回転数、トルク指令値等を表示させる手段(図示せず)を備える。
【0042】
変速ECU61には、自動変速モードと手動変速モードの変速モードがプログラムされており、自動変速モードと手動変速モードは、運転者による変速操作部64の操作によって切り替えられる。
変速ECU61は、図15に示す各種の機能達成手段(81〜91)を有しているが、これらの手段については後に説明する。
【0043】
図5において、インバータ装置62は、バッテリ69から直流電力が供給されて、電動モータ3に交流のモータ駆動電力を供給するとともに、その供給電力を変速ECU61からの信号に基づいて制御する。インバータ装置62には、電動モータ3に設けられた回転検出装置であるレゾルバ66から、電動モータ3の回転数を示す信号が入力される。
【0044】
インバータ装置62は、図6に示すように、IGBTモジュールからなるインバータ71と、このインバータ71を制御するインバータ制御回路72とで構成される。インバータ71と、U,V,W相の上側アームスイッチング素子Up,Vp,Wpと、U,V,W相の下側アームスイッチング素子Un,Vn,Wnの接続点に電動モータ3の各相(U,V,W相)の端子が接続される。インバータ71には、3相180度通電型(正弦波通電)の交流電力を出力するように、インバータ制御回路72から各スイッチング素子Up,Vp,Wp,Un,Vn,Wnに開閉指令が与えられる。
【0045】
電動モータ3は、3相の正弦波通電により、転流を行っている。電動モータ3は、IPMモータ(埋込永久磁石同期モータ)である。IPM電動モータ3の駆動のためには大電流が必要であり、インバータ71内の前記各スイッチング素子には、IGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor)が使用されている。低騒音、高効率、高トルク等の要求に対して、IPM電動モータの駆動方式は180度通電型(正弦波通電) が使用される。
【0046】
図7はインバータ制御回路72の構成を主に示すブロック図である。このインバータ制御回路72は、トルク制御と回転数制御とに切り換えて制御可能としてあり、トルク制御と回転数制御とも、フィードバック制御で、かつベクトル制御である。変速時はトルク制御と回転数制御とを行い、変速時以外のときはトルク制御を行う。
【0047】
同図のインバータ制御回路72の構成を、トルク制御方法の概要と共に説明する。
電流指令部101には、トルク制御時は、アクセル信号から変速ECU61のトルク指令部110で生成されたトルク指令が入力される。なお、図7おける変速ECU61のトルク指令部110および速度指令部106は、変速ECU61の構成要素のうち、トルク指令および速度指令を出力する手段を総称して示している。
電流指令部101は、このトルク指令と、レゾルバ66で検出された電動モータ回転数とから、定められた規則に従って電流指令値を作り出す。具体的には、トルク指令と電動モータ回転数に応じて、変速ECU61またはインバータ制御回路72に設けられた最大トルク制御テーブル(図示せず)を参照し、相応なトルク指令値を算出する。算出されたトルク指令値に基づき、電動モータ3の相電流(Ia)と電流位相角(β)の指令値を生成する。これら相電流Iaと電流位相角βの指令値に基づき、d軸電流(界磁成分)O_Idと、q軸電流(トルク成分)O_Iqに分けて電流のベクトル制御およびフィードバック制御を行う。
O_Id = Ia * sinβ,
O_Iq = Ia * cosβ
【0048】
電流PI制御部102は、電流指令部101から出力されたd軸電流O_Id、q軸電流O_Iqの値と、モータ電流および回転子角度から3相・2相変換部104で計算された2相電流Id,Iqとから、PI制御による電圧値による制御量Vd,Vqを算出する。前記3相・2相変換部104では、電流センサ105で検出される電動モータのu相電流(Iu)とw相電流(Iw)の検出値から、次式、Iv=- (Iu+Iw)、で求められるv相電流(Iv)を算出し、Iu,Iv,1wの3相電流からId,Iq の2相電流に変換する。この変換に使われる電動モータ3の回転子角度は、レゾルバ66から取得する。最後に前記PI制御による制御量Vd,Vqの算出を行う。
【0049】
2相・3相変換部103は、入力された2相の制御量Vd,Vqに基づき、3相のPWMデューティVu,Vv,Vwに変換する。変換に使われるモータ回転子の回転角は、計算時間、信号転送等の遅れに影響されないように、予測計算部111の計算で、Θ+ΔΘ(ΔΘ=Θ- OId_Θ)式から求められる予測値を使用している。
ここで、Θ:現サンプル時間内での回転子の回転角度(電気角)
OId_Θ:前サンプル時間での回転角度(電気角)
である。
【0050】
電力変換部62aは、PWMデューティVu,Vv,Vwに従ってインバータ71(IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor) モジュール)をPWM制御し、電動モータ3を駆動する。
【0051】
同図のインバータ制御回路72による回転数制御を説明する。
速度指令部106は、インバータ制御回路72に対して速度指令を与える手段であり、変速ECU61に設けられている。速度指令部106は、変速時の車速と選択された目標変速段の変速比に基づき、電動モータ3の目標回転数を算出する。算出した目標回転数は、速度指令としてインバータ装置62のインバータ制御回路72に指示される。
【0052】
また、電動モータ3の回転子角度をレゾルバ66から取得し、実際の電動モータ3の回転数を速度計算部108で算出する。速度指令部106の速度指令と、速度計算部108で算出した実際の電動モータ回転数の差分を比較部109で求め、その差分に対つき、制御部107でPID制御(比例積分微分制御)、あるいはPI制御(比例積分制御)を行い、制御量をトルク指令として、電流指令部101に入力する。回転数制御時、この速度計算部108の速度指令に基づくトルク指令が、トルク指令部110からのトルク指令に代えて電流指令部101に入力される。
回転数制御では、電動モータ3の目標回転数は1msec間隔で計算され、変速中に車速が急に変化しても、変速の目標回転数は車速の変化を追及できる特徴をもつ。それによって、変速ショックやアクセル操作時の係合ショックを低減することができる。
【0053】
次に、上記構成の車両用モータ駆動装置Aを持つ電気自動車におけるアクセル操作応答制御方法を説明する。図9はアクセルOFFからONへの制御のフローチャートを、図10はアクセルONからOFFへの制御のフローチャートをそれぞれ示す。これら図9,図10は、ショック低減制御の全体を示す。また、図11〜図14に図9,図10内の各フローチャートを抜粋した図を示す。
【0054】
これらの制御の説明の前に、アクセルOFF,ONの切換に対処する制御を行う理由を説明する。
(1)電動モータ3の回生制御を行わない場合(車両起動時、停車時等)
アクセル63を抜くと、現変速段のローラクラッチ16A,16Bの係合(ローラ20が楔状空間Sの狭まり部分に係合した状態)が解除される可能性がある。ローラクラッチ16A,16Bの係合が解除された状態で、再びアクセル63を踏むと、現変速段のローラクラッチ16A,16Bが素早く係合して、ショックトルク、異音が生じる。
(2) 電動モータ3の回生制御を行う場合(一定車速以上で走行時)
車速が一定以上になった時に、アクセル63をOFFした状態で、回生を行う( 回生:エネルギーはバッテリ69で吸収する) 。電動モータ3を正トルクで駆動している時、ローラクラッチ16A,16Bは正方向で係合している。回生時は、ローラクラッチ16A,16Bは負方向で係合する必要がある。駆動と回生の相互の切換に伴い、ローラクラッチの係合方向は、正方向と負方向とに切換り、その都度ショックトルク、異音が生じる。
上記(1)と(2)に関して、ローラクラッチ係合時のショックトルク、異音を低減するため、アクセル63のOFFとON間の切換時の、ショックトルクを低減する制御を行う必要がある。
【0055】
図10の制御に関して説明する。「正方向」は、電動モータ3の駆動時に、ローラクラッチ16A,16Bが係合している方向、「負方向」は、電動モータ3の回生時に、ローラクラッチ16A,16Bが係合している方向とする。
【0056】
第1ステップ(Q1):トルク制御を継続。
アクセル63のペダルを踏むと、アクセル開度(電圧アナログ値)は、AD変換によりデジタル値に変換され、統合ECU60に入力される(AD変換は統合ECU60)内で行う) 。アクセル開度のデジタル変換値はトルク指令値として使用される。トルク指令値は、統合ECU60から変速ECU61CAN通信を経由して送信される。
【0057】
第2ステップ(Q2):停止モードであるかどうかを判断。
停止モードとは、車両停車時に、ローラクラッチ16A,16Bを制御するモードである。車両停止状態から発進する場合のショックトルクを無くすため、停止モードでは常にローラクラッチ16A,16Bを正方向に係合させている(図14で詳細説明) 。停止モードの場合、アクセルOFF→ON制御は行わず、リアルタイムのトルク指令を受信して、インバータへ送信する。停止モードでない場合は、アクセルOFF→ON制御するかどうかを判断する。
【0058】
第3ステップ(Q3):アクセルOFF→ON制御するかどうかを判断。
このステップでは、ある一定の加速判断用のトルク閾値Aを用い、アクセルOFFからアクセルONに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)>(トルク閾値A)
となったことを条件として加速する制御、すなわちON操作時加速制御を行う。
変速ECU61は、アクセルOFF→ON制御のトルク閾値(閾値A)とアクセルON→OFF制御のトルク閾値(閾値B)を持つ。閾値Bは、請求項で言う回生判断用の閾値である。閾値A>閾値Bであり、一定幅のヒステリシス特性をもつ。トルク指令値がトルク閾値Aを上回った時に、アクセルOFF→ON制御を開始する。逆に、トルク指令値がトルク閾値Bを下回った時に、アクセルON→OFF制御を開始する。
閾値A>閾値B、且つ一定幅のヒステリシス特性という条件を設けたため、トルク指令信号に含まれているノイズの影響により、アクセルOFF→ON制御とアクセルON→OFF制御の誤動作が防止される。
【0059】
第4ステップ(Q4〜Q7):アクセルOFF→ONの制御実行。
アクセルOFF→ON制御実行と判断されたら、最初にトルク指令値を記録する(T0)(Q4)。次に、電動モータの回転数を判断する(Q5)。電動モータ回転数≧100rpm 場合:通常モードに移す(Q6(図11で詳細を説明))。電動モータ回転数<100rpm 場合:起動モード(Q7(図12で詳細を説明))に移す。起動モードは、車両起動時に一回だけ実行する。
【0060】
図11の制御(図10の通常モード(Q6))に関して説明する。
第1ステップ(R1,R2):現変速段が1速か2速か判断して(R1)、現変速段の目標回転数制御テーブルと回転数制限電流テーブル(いずれも図示せず)から回転数制御に使われる目標回転数と回転数制限電流を変速ECU61から取り出す(R2)。
前記目標回転数制御テーブルは、1速と2速、それぞれにつき、車速5 km/h おきに目標回転数の値を設けている。
回転数制限電流制御テーブルは、1速と2速、それぞれにつき、車速5km/hおきに制限電流の値を設けている。
【0061】
第2ステップ(R3〜R5):回転数制御を一定時間内(例えば、100msec) 行い(R1,R2)、ローラクラッチ16A,16Bを正方向に係合させる(アクセルON時回転数制御)。回転数制御完了時点のアクセル信号を記録する(T1)(R5)。回転数制御を実施している間に、変速ECU61は、リアルタイムのアクセル信号を受信しているが、これを電動モータ3の制御に、指令値としては送らない。
【0062】
第3ステップ(R6〜R8):現時トルク指令T1とアクセルOFF→ON制御開始時に記録されたトルク指令値T0との比較を行う(R6)。
T1<T0であれば、第4ステップ(R9)へジャンプする。
T1≧T0であれば、トルク指令値T2=T0+(T1−T0)/Δt式に基づき、トルク指令を補間して(R7)、電動モータ3をトルク制御する(トルク補間制御)。T1時、補間動作を完了させる(R8)。
【0063】
第4ステップ(R9)ではリアルタイムのアクセル信号を用いてトルク制御を行う(リアルタイムトルク制御)。
【0064】
図12の制御(図10の起動モード(Q5))に関して説明する。起動モードは、車両起動時に1回だけ実施するモードである。
【0065】
第1ステップ(S1〜S3):現変速段が1速か2速かを判断して(S1)、現変速段の回転数制御目標回転数と回転数制御電流を選択する(S2,S3)。変速ECU61に、1速の目標回転数と制御電流、および2速の目標回転数と制御電流が各々設定されている。
第2ステップ(S4,S5):目標回転数(例えば100rpm)に応じて、回転数制御を一定時間( 例えば500msec) 行って(RS,S5)、ローラクラッチ16A,16Bを係合させる(起動時回転数制御)。
第3ステップ(S6)では、リアルタイム上のアクセル信号で、トルク制御を行う。
【0066】
図13の制御に関して説明する。同図は、アクセルON→OFF時に、電動モータ3で回生制御を行うための制御主フローチャート(通常走行時)である。
【0067】
同図の制御は、車両が一定速度に到達してから、電動モータ3の回生制御を行うために、ローラクラッチ16A,16Bを負方向に係合させる制御と車両停車時にローラクラッチ16A,16Bを正方向に係合させる制御である。
【0068】
第1ステップ(同図のステップU1の前):トルク制御を継続する。
アクセル63のペダルを踏むと、アクセル開度(電圧アナログ値)はAD変換により、デジタル値に変換され、統合ECU60に入力される(AD変換は統合ECU60内で行う) 。アクセル開度のデジタル変換値はトルク指令値として使用される。トルク指令値を統合ECU60から変速ECUへCAN通信を経由して送信する。
【0069】
第2ステップ(U1):アクセルON→OFF制御するかどうかを判断。
変速ECU61はON→OFF制御のトルク閾値(閾値B)とOFF→ON制御のトルク閾値(閾値A)をもつ。トルク指令値がトルク閾値Bを下回った時に、ON→OFF制御を開始する。
そして、電動モータの回転数を判断する(U2)。電動モータ回転数≧100rpm 場合は、第3ステップ(U3)へジャンプする。電動モータ回転数<100rpm 場合は、停止モード(U8)(図14)に移す。「停止モード」は、車両駐車時に使用するモードである。
【0070】
第3ステップでは、現変速段が1速か2速どちらかを判断して(U3)、現変速段での目標回転数制御テーブルと回転数制限電流テーブルから回転数制御に使われる目標回転数と回転数制限電流を取り出す(U4)。
目標回転数制御テーブルは、1速と2速、それぞれにつき、車速5 km/h おきに目標回転数の値を設けている。
回転数制限電流制御テーブルは、1速と2速、それぞれにつき、車速5km/hおきに回転数制限電流の値を設けている。
【0071】
第4ステップでは、回転数制御を一定時間内(例えば100msec)だけ行い(U5,U6)、ローラクラッチ16A,16Bを負方向に係合させる(OFF操作時回転数制御)。この回転数制御を実施している間、変速ECU61はリアルタイム上のアクセル信号を受信しているが、電動モータ3への制御の指令値としては使用しない。なお、ステップU2〜U6を、OFF操作時制御方法切換制御と称す。
【0072】
第5ステップ(U7)では、電動モータ3の回転数を判定する(U7)。
電動モータ回転数≧100rpm 場合は、前記OFF→ONのフローチャート(図10)の制御に移す(U9)。
電動モータ回転数<100rpm 場合は、停止モードに移す(U8)。
【0073】
図14の制御(図6のステップU8)について説明する。同図は、アクセルON→OFF時に電動モータ3で回生制御を行うための制御副フローチャートであり、同図の制御は、車両停車時に使われるモード(停車モード)である。同図の制御が、請求項で言う停車時制御方法切換制御である。
第1ステップ(W1,W2)では、アクセル63のON→OFF時に、電動モータ3の制御方法を回転数制御からトルク制御へ切換る(W1,W2)。
第2ステップ(W3)では、電動モータ3のトルク制御に使われるトルク指令値をT3とし、制御時間を例えば500msecとする(W3)。
第3ステップ(W4)では、トルク制御を継続する(W4)。
現在のアクセル信号T4<T3時は、T4<T3として使用する。この理由は、停車モードは車両停車時に使われるモードであり、アクセル63を抜いた状態である。通常、アクセル63を抜いた状態では、トルクが抜けて、ローラクラッチ16A,16Bは正方向係合位置からニュートラル位置に戻され、次回の発進時、ローラクラッチ16A,16Bを回転数制御で制御することが必要となる。(無駄にエネルギーを消耗してしまう。)無駄にエネルギー消耗をしないように、停車時も、トルク制御で、ローラクラッチ16A,16Bを正方向に係合する制御を行うことにする。このことによって、次回車両発進時に、直接トルク制御で電動モータを制御することが出来、回転数制御をする必要がない。
【0074】
この実施形態の電気自動車のアクセル操作応答制御方法によると、上記のように、アクセル63のONからOFFへの操作時や、OFFからONへの操作時に、電動モータ3の制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える。そのため、ローラクラッチ16A,16Bのショックトルクや異音を低減することができる。
【0075】
次に、電気自動車のアクセル操作応答制御装置につき、図15のブロック図を参照して説明する。制御対象となる電気自動車は、上記実施形態のアクセル操作応答制御方法を適用する図1〜図6と共に前述の電気自動車である。
このアクセル操作応答制御装置は、変速ECU61に、上記実施形態のアクセル操作応答制御方法を実施する装置であって、上記変速ECU61にアクセル操作時用のショック低減制御83を設けたものである。
【0076】
変速ECU61は、その基本的な制御手段として、変速指令生成手段81、変速操作時制御手段82を備えるECUであり、これらの概要を先に説明する。
変速指令生成手段81は、統合ECUから与えられるアクセル信号と車速の検出値とから、定められた規則に従って目標変速段への変速指令を生成する手段である。
変速操作時制御手段82は、変速指令生成手段81で生成された変速指令に従って、変速切換アクチュエータ47およびインバータ装置62に対して、定められた一連の制御を行う手段である。
変速指令生成手段81および変速操作時制御手段82による自動変速制御方法の一例の概要を図22に示す。この自動変速制御方法では、変速操作時にも回転数制御とトルク制御とを併用している。同図の具体的な説明は省略する。
【0077】
図15において、ショック低減制御83は、アクセル63のONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、ローラクラッチ16A,16Bのショックトルクまたは異音が低減するように、電動モータ3の制御方法をトルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える一連の制御を行う手段である。
【0078】
ショック低減制御83は、ON操作時加速制御制段84、OFF操作時回生制御手段85、繰り返し操作制御手段86、トルク補間制御手段87、リアルタイムトルク制御手段88、起動時回転数制御手段89、OFF操作時制御方法切換手段90、および停車時制御方法切換手段91を有する。
【0079】
ON操作時加速制御手段84は、ある一定の加速判断用のトルク閾値Aが設定され、アクセルOFFからアクセルONに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)>(トルク閾値A)
となったことを条件として加速する手段である。
ON操作時加速制御手段84は、より具体的には、図10のステップQ3につき前述した処理を行う手段である。
【0080】
OFF操作時回生制御手段85は、ある一定の回生判断用のトルク閾値Bが設定され、アクセルONからアクセルOFFに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)<(トルク閾値B)
となったことを条件として前記電動モータ3の回生を行う。
OFF操作時回生制御手段85は、具体的には、図13のステップU1,U2の制御を行う。
【0081】
繰り返し操作時制御手段86は、アクセルOFFとアクセルONが繰り返し実行されたときに、前記ON操作時加速制御手段84と前記OFF操作時回生制御手段85の誤作動を防止するために、
トルク閾値に関して、(トルク閾値A)>(トルク閾値B)とし、
かつこれら2つのトルク閾値A,Bの間に一定幅のヒステリシス特性を持たせた手段である。
【0082】
トルク補間制御手段87は、アクセルOFFからアクセルONに操作された場合の制御の一つとして、回転数制御完了後、トルク制御に切換えた時点で、アクセルのトルク指令値が過大な場合に生じるショックトルクを低減するため、アクセルのトルク指令値を補間しながら電動モータをトルク制御する手段である。トルク補間制御手段87は、図11と共に前述したステップR7の制御を行う。
【0083】
リアルタイムトルク制御手段88は、アクセル63のトルク指令値の補完完了後、リアルタイムのアクセルのトルク指令値で電動モータ3をトルク制御する手段である。リアルタイムトルク制御手段88は、図11と共に前述したステップR9の制御を行う。
【0084】
起動時回転数制御手段89は、車両の電源を起動した時に、変速ECU61内に設定された回転数制御目標回転数と回転数制御電流を用いて、回転数制御により、ローラクラッチ16A,16Bを駆動側楔空間に係合させる制御である起動時回転数制御を行う。起動時回転数制御手段89は、図12と共に前述したステップS2〜S5の制御を行う。
【0085】
OFF操作時制御方法切換手段90は、アクセルONからアクセルOFFに操作された場合の制御の一つとして、電動モータ3の制御を、トルク制御から回転数制御へ切換えて、回転数制御によりローラクラッチ非駆動側楔空間に係合させる制御を行う。OFF操作時制御方法切換手段90は、具体的には、図13と共に前述したステップU2〜U6の制御を行う。
【0086】
停車時制御方法切換手段91は、車両を停車させるときに、電動モータ3の制御を回転数制御からトルク制御に切換えて、ローラクラッチ16A,16Bを駆動側楔空間に係合させ、この場合のトルク制御値を、変速ECU61に設定されたトルク指令値を用いる手段である。停車時制御方法切換手段91は、具体的には、図14と共に前述したステップW1〜W4の制御を行う。
【0087】
図5のショック低減制御手段83は、以上の各制御の他に、この実施形態に係るアクセル操作応答制御方法を実施する各機能を有する。
【0088】
このアクセル操作応答制御装置によると、上記のように、アクセル63のONからOFFへの操作時や、OFFからONへの操作時に、電動モータ3の制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える。そのため、ローラクラッチ16A,16Bのショックトルクや異音を低減することができる。
【0089】
図3,4のモータ駆動装置の詳細を、図16〜図21と共に説明する。
図3において、モータ軸4は、入力軸7と同軸上に直列に配置されており、ハウジング11に固定された電動モータ3のステータ12で回転駆動される。入力軸7は、ハウジング11内に組込まれた対向一対の軸受13により回転可能に支持され、入力軸7の軸端はスプライン嵌合によってモータ軸4に接続されている。出力軸8は、ハウジング11内に組込まれた対向一対の軸受14により回転可能に支持されている。
【0090】
1速入力ギヤ9Aと2速入力ギヤ9Bは軸方向に間隔をおいて配置され、入力軸7を中心として入力軸7と一体に回転するように入力軸7に固定されている。1速出力ギヤ10Aと2速出力ギヤ10Bも軸方向に間隔をおいて配置されている。
【0091】
図4に示すように、1速出力ギヤ10Aは、出力軸8を貫通させる環状に形成され、軸受15を介して出力軸8で支持されており、出力軸8を中心として出力軸8に対して回転可能となっている。同様に、2速出力ギヤ10Bも、軸受15を介して出力軸8で回転可能に支持されている。
【0092】
1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aは互いに噛合しており、その噛合によって1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aの間で回転が伝達するようになっている。2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bも噛合しており、その噛合によって2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bの間で回転が伝達するようになっている。2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bの減速比は、1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aの減速比よりも小さい。
【0093】
1速出力ギヤ10Aと出力軸8の間には、1速出力ギヤ10Aと出力軸8の間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう1速の2ウェイローラクラッチ16Aが組込まれている。また、2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間には、2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう2速の2ウェイローラクラッチ16Bが組込まれている。
【0094】
1速の2ウェイローラクラッチ16Aと2速の2ウェイローラクラッチ16Bは、左右対称の同一構成なので、2速の2ウェイローラクラッチ16Bを以下に説明し、1速の2ウェイローラクラッチ16Aについては、2速の2ウェイローラクラッチ16Bに対応する部分に同一の符号または末尾のアルファベットBをAに置き換えた符号を付して説明を省略する。
【0095】
図16〜図18に示すように、2速の2ウェイローラクラッチ16Bは、2速出力ギヤ10Bの内周に設けられた円筒面17と、出力軸8の外周に回り止めした環状の2速カム部材18Bに形成されたカム面19と、カム面19と円筒面17の間に組み込まれたローラ20と、ローラ20を保持する2速保持器21Bと、2速スイッチばね22Bとからなる。カム面19は、円筒面17との間で周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭くなる楔状空間Sを形成するような面であり、例えば、図17に示すように円筒面17と対向する平坦面である。
【0096】
図4、図21に示すように、2速保持器21Bは、ローラ20を収容する複数のポケット21aが周方向に間隔をおいて形成された円筒部24と、円筒部24の一端から径方向内方に延び出す内向きフランジ部25とを有する。内向きフランジ部25の径方向内端は、2速カム部材18Bの外周で周方向にスライド可能に支持され、この周方向のスライドによって、2速保持器21Bは、カム面19と円筒面17の間にローラ20を係合させる係合位置とローラ20の係合を解除する中立位置との間で出力軸8に対して相対回転可能となっている。また、2速保持器21Bの内向きフランジ部25は軸方向両側への移動が規制され、これにより2速保持器21Bが軸方向に非可動とされている。
【0097】
図17に示すように、各カム面19は、回転中心を含む仮想平面に対して対称に形成され、これにより、各カム面19と円筒面17の間に配置されたローラ20は、正転方向と逆転方向の両方向で係合可能となっている。すなわち、電動モータ3が発生するトルクにより車両を前進させるときは、2速保持器21Bを出力軸8に対して正転方向に相対回転させることにより、2速保持器21Bに保持されたローラ20を、カム面19と円筒面17の間の正転方向側の空間狭まり部分に係合させ、そのローラ20を介して2速出力ギヤ9Bと出力軸8の間で正転方向のトルクを伝達することが可能となっており、一方、電動モータ3が発生するトルクにより車両を後退させるときは、2速保持器21Bを出力軸8に対して逆転方向に相対回転させることにより、2速保持器21Bに保持されたローラ20を、カム面19と円筒面17の間の逆転方向側の空間狭まり部分に係合させ、そのローラ20を介して2速出力ギヤ9Bと出力軸8の間で逆転方向のトルクを伝達することが可能となっている。
【0098】
図18、図21に示すように、2速スイッチばね22Bは、鋼線をC形に巻いたC形環状部26と、C形環状部26の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部27,27とからなる。C形環状部26は、2速カム部材18Bの軸方向端面に形成された円形のスイッチばね収容凹部28に嵌め込まれ、一対の延出部27,27は、2速カム部材18Bの軸方向端面に形成された径方向溝29に挿入されている。
【0099】
径方向溝29は、スイッチばね収容凹部28の内周縁から径方向外方に延びて2速カム部材18Bの外周に至るように形成されている。2速スイッチばね22Bの延出部27は、径方向溝29の径方向外端から突出しており、その延出部27の径方向溝29からの突出部分が、2速保持器21Bの円筒部24の軸方向端部に形成された切欠き30に挿入されている。径方向溝29と切欠き30は同じ幅に形成されている。
【0100】
延出部27,27は、径方向溝29の周方向で対向する内面と、切欠き30の周方向で対向する内面にそれぞれ接触しており、その接触面に作用する周方向の力によって2速保持器21Bを中立位置に弾性保持している。
【0101】
すなわち、2速保持器21Bを出力軸8に対して相対回転させて、図18に示す中立位置から周方向に移動させると、径方向溝29の位置と切欠き30の位置が周方向にずれるので、一対の延出部27,27の間隔が狭まる方向にC形環状部26が弾性変形し、その弾性復元力によって2速スイッチばね22Bの一対の延出部27,27が径方向溝29の内面と切欠き30の内面を押圧し、その押圧によって2速保持器21Bを中立位置に戻す方向の力が作用するようになっている。
【0102】
図4に示すように、1速カム部材18Aと2速カム部材18Bの出力軸8に対する回り止めは、スプライン嵌合によって行なわれている。1速カム部材18Aのカム面19と2速カム部材18Bのカム面19は同数かつ同位相となっている。また、1速カム部材18Aと2速カム部材18Bは、出力軸8の外周に嵌合した一対の止め輪31によって軸方向
に非可動となっている。1速カム部材18Aと2速カム部材18Bの間には間座32が組み込まれている。
【0103】
1速の2ウェイローラクラッチ16Aと2速の2ウェイローラクラッチ16Bは、変速アクチュエータ33により選択的に係合することができるようになっている。
【0104】
図16に示すように、変速アクチュエータ33は、1速出力ギヤ10Aと2速出力ギヤ10Bの間に軸方向に移動可能に設けられたシフトリング34と、1速出力ギヤ10Aとシフトリング34の間に組み込まれた1速摩擦板35Aと、2速出力ギヤ10Bとシフトリング34の間に組み込まれた2速摩擦板35Bとを有する。
【0105】
ここで、1速摩擦板35Aと2速摩擦板35Bは、左右対称の同一構成なので、2速摩擦板35Bを以下に説明し、1速摩擦板35Aについては、2速摩擦板35Bに対応する部分に同一の符号または末尾のアルファベットBをAに置き換えた符号を付して説明を省略する。
【0106】
2速摩擦板35Bには、2速保持器21Bの切欠き30に係合する突片36が設けられ、この突片36と切欠き30の係合によって、2速摩擦板35Bが2速保持器21Bに回り止めされている。2速保持器21Bの切欠き30は、2速摩擦板35Bの突片36を軸方向にスライド可能に収容しており、このスライドによって、2速摩擦板35Bは、2速保持器21Bに回り止めされた状態のまま、2速出力ギヤ10Bの側面に接触する位置と離反する位置との間で、2速保持器21Bに対して軸方向に移動可能となっている。
【0107】
2速摩擦板35Bの突片36の先端に凹部37が形成されて、間座32の外周には、凹部37に係合する凸部38が形成されている。そして、凹部37と凸部38は、2速摩擦板35Bが2速出力ギヤ10Bの側面から離反した位置にある状態では、凹部37と凸部38が係合することで、2速摩擦板35Bを間座32を介して出力軸8に回り止めし、このとき、2速摩擦板35Bに回り止めされた2速保持器21Bが中立位置に保持されるようになっている。また、2速摩擦板35Bが2速出力ギヤ10Bの側面に接触する位置にある状態では、凹部37と凸部38の係合が解除することで、2速摩擦板35Bの回り止めが解除されるようになっている。
【0108】
2速摩擦板35Bと2速カム部材18Bの間には、軸方向に圧縮された状態で2速離反ばね39Bが組み込まれており、この2速離反ばね39Bの弾性復元力によって2速摩擦板35Bが2速出力ギヤ10Bの側面から離反する方向に付勢されている。
【0109】
2速離反ばね39Bは、間座32の外周に沿って巻回されたコイルスプリングであり、その一端が2速ワッシャ39Bを介して2速カム部材18Bの軸方向端面で支持されている。2速ワッシャ39Bは、2速カム部材18Bの軸方向端面の径方向溝29を覆うように環状に形成されている。
【0110】
シフトリング34は、1速摩擦板35Aを押圧して1速出力ギヤ10Aの側面に接触させる1速シフト位置SP1fと、2速摩擦板35Bを押圧して2速出力ギヤ10Bの側面に接触させる2速シフト位置SP2fとの間で軸方向に移動可能に支持されている。また、シフトリング34を1速シフト位置SP1fと2速シフト位置SP2fの間で軸方向に移動させるシフト機構41が設けられている。シフト機構41は、前述のように変速比切換機構40の一部を構成する。
【0111】
図19、図20に示すように、シフト機構41は、シフトリング34を転がり軸受42を介して回転可能に支持するシフトスリーブ43と、そのシフトスリーブ43の外周に設
けられた環状溝44に係合する二股状のシフトフォーク45と、シフトフォーク45が固定されたシフトロッド46と、シフトモータである変速切換アクチュエータ47と、変速切換アクチュエータ47の回転をシフトロッド46の直線運動に変換する運動変換機構48(送りねじ機構等)とからなる。
【0112】
図20に示すように、シフトロッド46は、出力軸8に対して間隔をおいて平行に配置され、ハウジング11内に組み込まれた一対の滑り軸受49で軸方向にスライド可能に支持されている。シフトリング34とシフトスリーブ43の間に組み込まれた転がり軸受42は、シフトリング34とシフトスリーブ43のいずれに対しても軸方向に非可動となるように組み付けられている。
【0113】
このシフト機構41は、変速切換アクチュエータ47の回転が運動変換機構48により直線運動に変換されてシフトフォーク45に伝達し、そのシフトフォーク45の直線運動が転がり軸受42を介してシフトリング34に伝達することにより、シフトリング34を軸方向に移動させる。
【0114】
図16に示すように、シフトフォーク45と環状溝44の間の両側の軸方向隙間には、軸方向に圧縮可能な予圧ばね50が組み込まれている。これにより、シフトリング34で1速摩擦板35Aを押圧して1速出力ギヤ10Aの側面に接触させるときに、シフトスリーブ43に対するシフトフォーク45の軸方向の相対位置を調節することによって予圧ばね50のばね力を調節し、1速摩擦板35Aと1速出力ギヤ10Aの接触面間の摩擦力を調整することが可能となっている。また、シフトリング34で2速摩擦板35Bを押圧して2速出力ギヤ10Bの側面に接触させるときも、2速摩擦板35Bと2速出力ギヤ10Bの接触面間の摩擦力を調整することが可能となっている。
【0115】
図3に示すように、出力軸8には、出力軸8の回転をディファレンシャル6に伝達するディファレンシャル駆動ギヤ51が固定されている。
【0116】
ディファレンシャル6は、一対の軸受52で回転可能に支持されたデフケース53と、デフケース53の回転中心と同軸にデフケース53に固定され、ディファレンシャル駆動ギヤ51に噛合するリングギヤ54と、デフケース53の回転中心と直角な方向にデフケース53に固定されたピニオン軸55と、ピニオン軸55に回転可能に支持された一対のピニオン56と、その一対のピニオン56に噛合する左右一対のサイドギヤ57とからなる。左側のサイドギヤ57には、左側の車輪に接続されたアクスル58の軸端部が接続され、右側のサイドギヤ57には、右側の車輪に接続されたアクスル58の軸端部が接続されている。出力軸8が回転するとき、出力軸8の回転はディファレンシャル駆動ギヤ51を介してデフケース53に伝達され、そのデフケース53の回転がピニオン56とサイドギヤ57を介して左右の車輪に分配される。
【0117】
以下に、車両用モータ駆動装置Aの動作例を説明する。
まず、図16に示すように、1速摩擦板35Aが1速出力ギヤ10Aの側面から離反し、かつ、2速摩擦板35Bも2速出力ギヤ10Bの側面から離反した状態では、1速保持器21Aは1速スイッチばね22Aの弾性力により中立位置に保持され、2速保持器21Bも2速スイッチばね22Bの弾性力により中立位置に保持されるので、1速の2ウェイローラクラッチ16Aはローラ20の係合が解除された状態となり、2速の2ウェイローラクラッチ16Bもローラ20の係合が解除された状態となる。
【0118】
この状態では、図3に示す電動モータ3の駆動により入力軸7が回転しても、1速の2ウェイローラクラッチ16Aと2速の2ウェイローラクラッチ16Bによって回転の伝達が遮断されるので、1速出力ギヤ10Aおよび2速出力ギヤ10Bは空転し、入力軸7の
回転は出力軸8に伝達されない。
【0119】
次に、シフト機構41を作動させて、図16に示すシフトリング34を1速出力ギヤ10Aに向けて移動させると、1速摩擦板35Aが1速出力ギヤ10Aの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって1速摩擦板35Aが出力軸8に対して相対回転し、この1速摩擦板35Aに回り止めされた1速保持器21Aが1速スイッチばね22Aの弾性力に抗して中立位置から係合位置に移動するので、1速保持器21Aに保持されたローラ20が、円筒面17とカム面19の間の楔状空間Sの狭まり部分に押し込まれて係合した状態となる。
【0120】
この状態では、1速出力ギヤ10Aの回転は、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを介して出力軸8に伝達され、出力軸8の回転が、ディファレンシャル6を介してアクスル58に伝達される。その結果、図1に示す電気自動車EVにおいては、駆動輪としての前輪1が回転駆動され、図2に示すハイブリッド車HVにおいては補助駆動輪としての後輪2が回転駆動される。
【0121】
次に、シフト機構41の作動により、シフトリング34を1速シフト位置から2速シフト位置に向かって軸方向移動させると、1速摩擦板35Aと1速出力ギヤ10Aの接触面間の摩擦力が小さくなるので、1速スイッチばね22Aの弾性力により1速保持器21Aが係合位置から中立位置に移動し、この1速保持器21Aの移動によって1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合が解除される。
【0122】
シフトリング34が2速シフト位置に到達すると、2速摩擦板35Bがシフトリング34で押圧されて2速出力ギヤ10Bの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって2速摩擦板35Bが出力軸8に対して相対回転し、2速摩擦板35Bに回り止めされた2速保持器21Bが2速スイッチばね22Bの弾性力に抗して中立位置から係合位置に移動するので、2速保持器21Bに保持されたローラ20が、円筒面17とカム面19の間の楔状空間Sの狭まり部分に押し込まれて係合した状態となる。
【0123】
この状態では、2速出力ギヤ10Bの回転は、2速の2ウェイローラクラッチ16Bを介して出力軸8に伝達され、出力軸8の回転がディファレンシャル6を介してアクスル58に伝達される。
【0124】
同様に、シフトリング34を2速シフト位置から1速シフト位置に軸方向移動させることにより、2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除して、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを係合させることができる。
【0125】
ところで、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを係合解除するときに、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを介してトルクが伝達していると、そのトルクがローラ20を円筒面17とカム面19の間の楔状空間Sの狭まり部分に押し込むように作用し、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合解除が妨げられる。そのため、シフト機構41の作動により、シフトリング34が1速シフト位置SP1fから2速シフト位置SP2fに向かって軸方向移動を開始したときに、1速摩擦板35Aが、1速出力ギヤ10Aの側面から既に離反しているにもかかわらず、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合が解除されない可能性がある。
【0126】
このため、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを確実に係合解除するためには、シフト機構41の作動により、1速摩擦板35Aを1速出力ギヤ10Aの側面から離反させるだけでなく、電動モータ3の出力を制御して、入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクを変化させる必要がある。2速の2ウェイローラクラッチ16Bを係合解除するときも同様である。
【0127】
そこで、上記制御システムでは、図15に示す変速制御装置により、電動モータ3と変速切換アクチュエータ47を制御し、この制御により1速の2ウェイローラクラッチ16Aまたは2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除するときの動作の信頼性を確保している。
【符号の説明】
【0128】
1…前輪
2…後輪
3…電動モータ
4…モータ軸
5…変速機
6…ディファレンシャル
7…入力軸
8…出力軸
9A,9B入力ギヤ
10A,10B…出力ギヤ
16A,16B…ローラクラッチ
17…円筒面
19…カム面
20…ローラ
18A,18B…内輪
21A,21B…保持器
22A,22B…スイッチばね
23…外輪
34…シフトリング
35A,35B…摩擦板
39A,39B…離反ばね
40…変速比切換機構
41…シフト機構
47…変速切換アクチュエータ
45…シフトフォーク(シフト部材)
60…統合ECU
61…変速ECU
62…インバータ装置
71…インバータ
72…インバー制御回路
41…シフト機構
81…変速指令生成手段
82…変速操作時制御手段
83…ショック低減制御
84…ON操作時加速制御制段
85…OFF操作時回生制御手段
86…繰り返し操作制御手段
87…トルク補間制御手段
88…リアルタイムトルク制御手段
89…起動時回転数制御手段
90…OFF操作時制御方法切換手段
91…停車時制御方法切換手段
A…車両用モータ駆動装置
EV…電気自動車
HV…ハイブリッド自動車
LA,LB…ギヤ列


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備え、
前記各ローラクラッチは、内輪のカム面と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となり、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に位置させることで切断状態となる構成であり、
前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータにより切り換える機構である、
電気自動車におけるアクセル操作応答制御方法において、
アクセルのONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、前記ローラクラッチのショックトルクまたは異音が低減するように、前記電動モータの制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える一連の制御であるショック低減制御を行うことを特徴とする、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項2】
請求項1において、前記ショック低減制御の一つとして、ある一定の加速判断用のトルク閾値Aを設け、アクセルOFFからアクセルONに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)>(トルク閾値A)
となったことを条件として加速する制御であるON操作時加速制御を行う、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記ショック低減制御の一つとして、ある一定の回生判断用のトルク閾値Bを設け、アクセルONからアクセルOFFに操作されたときに、 (アクセルのトルク指令値)<(トルク閾値B)
となったことを条件として前記電動モータの回生を行う制御であるOFF操作時回生制御を行う、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項4】
請求項2において、前記ショック低減制御の一つとして、ある一定の回生判断用のトルク閾値Bを設け、アクセルONからアクセルOFFに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)<(トルク閾値B)
となったことを条件として前記電動モータの回生を行う制御であるOFF操作時回生制御を行い、
アクセルOFFとアクセルONが繰り返し実行されたときに、前記ON操作時加速制御と前記OFF操作時回生制御の誤作動を防止するために、
トルク閾値に関して、(トルク閾値A)>(トルク閾値B)とし、
かつこれら2つのトルク閾値A,Bの間に一定幅のヒステリシス特性を持たせた、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記ショック低減制御おける、アクセルOFFからアクセルONに操作された場合の制御の一つとして、電動モータの制御をトルク制御から回転数制御へ切換えて、回転数制御によりローラクラッチを駆動側楔空間に係合させるアクセルON時回転数制御過程を含む、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記ショック低減制御における前記回転数制御に使われる目標回転数と回転数制限電流は、各変速段での各走行速度に関して、変速ECU内にそれぞれ設定し、走行条件に応じて定められた設定値を用いる、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記ショック低減制御おける、アクセルOFFからアクセルONに操作された場合の制御の一つとして、回転数制御完了後、トルク制御に切換えた時点で、アクセルのトルク指令値が過大な場合に生じるショックトルクを低減するため、アクセルのトルク指令値を補間しながら電動モータをトルク制御するトルク補間制御を行う、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項8】
請求項7において、アクセルのトルク指令値の補完完了後、リアルタイムのアクセルのトルク指令値で電動モータをトルク制御する、リアルタイムトルク制御とする、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、車両の電源を起動した時に、変速ECU内に設定された回転数制御目標回転数と回転数制御電流を用いて、回転数制御により、ローラクラッチを駆動側楔空間に係合させる制御である起動時回転数制御を行う、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記ショック低減制御おける、アクセルONからアクセルOFFに操作された場合の制御の一つとして、電動モータの制御を、トルク制御から回転数制御へ切換えて、回転数制御によりローラクラッチ非駆動側楔空間に係合させる制御である、OFF操作時制御方法切換制御を行う、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、車両を停車させるときに、電動モータの制御を回転数制御からトルク制御に切換えて、ローラクラッチを駆動側楔空間に係合させ、この場合のトルク制御値を、変速ECUに設定されたトルク指令値を用いる、停車時制御方法切換制御を行う、
電気自動車のアクセル操作応答制御方法。
【請求項12】
互いに変速比が異なる複数の変速段のギヤ列と、走行用の電動モータの出力軸であるモータ軸に連結された入力軸と前記各変速段のギヤ列との間にそれぞれ介在し断続の切換が可能な各変速段の2ウェイ型のローラクラッチと、これら各ローラクラッチの断続の切換を行う変速比切換機構とを有する変速機を備え、
前記各ローラクラッチは、内輪のカム面と外輪間に設けられた各楔状空間にローラが介在し、各ローラが楔状空間の狭まり部分に係合することで接続状態となり、保持器により各ローラを楔状空間の広がり部分に位置させることで切断状態となる構成であり、
前記変速比切換機構は、保持器に連結されて回転する摩擦板の外輪への接触と離間とを変速切換アクチュエータにより切り換える機構である、
電気自動車におけるアクセル操作応答制御装置において、
アクセルのONからOFFへの操作時、およびOFFからONへの操作時のいずれか一方または両方の時に、前記ローラクラッチのショックトルクまたは異音が低減するように、前記電動モータの制御方法を、トルク制御と回転数制御との2種類のフィードバック制御の間で切換える一連の制御を行うショック低減制御手段を設けたことを特徴とする、
電気自動車のアクセル操作応答制御装置。
【請求項13】
請求項12において、前記ショック低減制御手段は、ある一定の加速判断用のトルク閾値Aが設定され、アクセルOFFからアクセルONに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)>(トルク閾値A)
となったことを条件として加速するON操作時加速制御手段を有する、
電気自動車のアクセル操作応答制御装置。
【請求項14】
請求項12または請求項13において、前記ショック低減制御手段は、ある一定の回生判断用のトルク閾値Bが設定され、アクセルONからアクセルOFFに操作されたときに、 (アクセルのトルク指令値)<(トルク閾値B)
となったことを条件として前記電動モータの回生を行うOFF操作時回生制御手段を有する、
電気自動車のアクセル操作応答制御装置。
【請求項15】
請求項14において、前記ショック低減制御手段は、ある一定の回生判断用のトルク閾値Bが設けられ、アクセルONからアクセルOFFに操作されたときに、
(アクセルのトルク指令値)<(トルク閾値B)
となったことを条件として電動モータの回生を行うOFF操作時回生制御手段を有し、
アクセルOFFとアクセルONが繰り返し実行されたときに、前記ON操作時加速制御手段と前記OFF操作時回生制御手段の誤作動を防止するために、
トルク閾値に関して、(トルク閾値A)>(トルク閾値B)とし、
かつこれら2つのトルク閾値A,Bの間に一定幅のヒステリシス特性を持たせた、
繰り返し操作時制御手段を有する、
電気自動車のアクセル操作応答制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−113435(P2013−113435A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263402(P2011−263402)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】