説明

電気自動車

【課題】衝突の際に冷媒が漏れて冷却装置用のポンプが空転してしまうことによるポンプの損傷を防止する技術を提供する。
【解決手段】電気自動車は、冷媒を循環させるポンプと、ポンプを制御するコントローラを備える。コントローラは、車両が衝突したことを示す信号を受信した場合に、ポンプに現在の駆動指令値以上の新たな駆動指令値を与える(S5)。そしてコントローラは、ポンプの実際の回転数が新たな駆動指令値に対応した予め定められた異常判断閾値を超える場合にはポンプを停止し(S7)、異常判断閾値を超えない場合にはポンプの駆動を継続する(S22)。冷媒が漏れている場合には空転するのでポンプの回転数が予期した回転数(即ち異常判断閾値)よりも大きくなる。コントローラは、そのことを検知してポンプを停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車の冷却装置用のポンプの制御に関する。特に、車両が衝突したときのポンプの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(エンジンとモータの双方を有するハイブリッド車を含む)は、車輪駆動用のモータ、高電圧高容量のバッテリ、バッテリから供給される直流電力を交流電力に変換してモータへ供給するインバータなど、従来のエンジン車とは異なり、大電流を扱う電気デバイスを備える。そのため、車両が衝突した際の電気系の安全対策について、様々な技術が提案されている。なお、本明細書における「衝突」は、主として、車両の一部が損傷する程度のものを想定している。ただし、その程度の衝突であっても、漏電等で機器の損傷が拡大すると修理コストも増大するので、電気系の安全対策には万難を排することが望ましい。
【0003】
衝突時の安全対策の一つに、インバータやコンバータ等の電気デバイスが通常備える大容量のコンデンサの放電処理がある。例えば、特許文献1には、車両の衝突が検知されると、インバータのスイッチング回路を、モータが回転しないようなスイッチングルールで制御することによってコンデンサを放電する技術が開示されている。
【0004】
即ち、電気自動車の場合、車両が衝突した後も大電流を扱う電気デバイスを作動させることがある。大電流を扱う電気デバイスは発熱も大きい。それゆえ、そのような電気デバイスを作動させるときには冷却装置も一緒に作動させることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−20952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車載の大電流を扱う電気デバイスの冷却には大抵液冷式の冷却装置が使われるが、車両が衝突した場合には冷媒が漏れる可能性がある。液冷式の冷却装置は冷媒を循環させるポンプを備えているが、冷媒が漏れた場合、ポンプが空転し、電気デバイスを冷却するどころか、逆に、ポンプまでも損傷してしまう虞がある。本明細書では、車両が衝突した場合、ポンプが損傷することを回避しつつ、ポンプを有効に使う技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する電気自動車は、モータやインバータなどの電気デバイスに冷媒を循環させるポンプと、ポンプを制御するコントローラとを備える。コントローラは、車両が衝突したことを示す信号を受信したとき、ポンプに現在の駆動指令値以上の新たな駆動指令値を与える。そしてコントローラは、ポンプの回転数が与えた新たな駆動指令値に対応した予め定められた異常判断閾値を超える場合にはポンプを停止する。あるいは、コントローラは、ポンプの回転数が異常判断閾値を超えない場合にはポンプの駆動を継続する。ポンプの駆動源は通常は電動モータであり、同じ駆動指令値が与えられても負荷、即ち、冷媒の状態によって変化する。即ち、同じ駆動指令値が与えられても冷媒が少なければ回転数は増大する。異常判断閾値は、十分な量の冷媒が存在する場合の駆動指令値に対するポンプ回転数の上限値に設定される。それゆえ、特定の駆動指令値を与えたときに、ポンプ回転数が異常判断閾値を超えていれば、冷媒の量が少ない、即ち、冷媒が漏れている蓋然性が高い。逆に、ポンプ回転数が異常判断閾値を超えていなければ、十分な量の冷媒が存在していると判断してよい。衝突したことを示す信号を受信したときにポンプに現在の駆動指令値以上の新たな駆動指令値を与えるのは、現在の駆動指令値を下回る駆動指令値を与えたのでは、それまでの冷媒の流れの慣性が影響し、冷媒の過多に依存したポンプ回転数を決定し難いからである。それゆえ、新たな駆動指令値は、現在の駆動指令値以上とする。より好ましくは、新たな駆動指令値は、できるだけ大きい方が良い。新たな駆動指令値が大きい方が、現在の冷媒の流れに影響されることが少なくなり、冷媒が漏れているか否かをより正確に判別できるからである。
【0008】
上記のコントローラの制御により、冷媒が漏れている可能性が高い場合には空転によるポンプの損傷を防止することができ、冷媒が漏れていない可能性が高い場合には、ポンプの駆動を継続し、電気デバイスを冷却することができる。なお、電気デバイスは、典型的には、放電デバイスである。放電デバイスは、インバータに流れる大電流を平滑化するためのコンデンサを放電する電気デバイスである。放電デバイスについては後述するが、モータとインバータの少なくとも一方が放電デバイスとして利用されることもあり、また、専用の放電デバイスが備えられることもある。電気デバイスが放電デバイスである場合、コントローラは、車両が衝突したことを示す信号を受信すると、放電デバイスを作動させる。
【0009】
冷媒が漏れていない可能性が高い場合にポンプを効果的に用いるには、冷却能力を最大限に引き出すのがよい。具体的には、本明細書が開示する電気自動車は、より好ましくは冷媒流路を循環する冷媒を外気と熱交換して冷却するラジエータと、ラジエータに外気を供給するラジエータファンを備える。このとき、コントローラは、ポンプの回転数が異常判断閾値を超えない場合には、ポンプの出力を最大にする駆動指令値を与えるとともに、ラジエータファンにもその出力を最大にする駆動指令値を与える。そのような処理により、電気デバイスを最大冷却能力で冷却することができる。
【0010】
ポンプが空転するのは、冷媒流路の損傷のみに起因するとは限らない。衝突の衝撃により、冷媒流路は損傷しないものの冷媒流路の途中に設けられたリザーブタンク上層の空気が冷媒流路に流れ込み、ポンプが一時的に空転することがある。この場合、ポンプの回転数が一時的に異常判断閾値を上回ったとしても、冷媒流路中の気泡が再びリザーブタンクに戻ればポンプ回転数は異常判断閾値以下に戻る可能性は十分にある。そこで、コントローラには次の処理も加えられているとよい。即ち、コントローラは、ポンプ停止後、予め定められた時間待機してポンプを再開し、ポンプの回転数が異常判断閾値を上回るか否か、再度判断する。そしてコントローラは、ポンプの回転数が異常判断閾値を超える場合には、ポンプを停止し、ポンプの回転数が判断閾値を超えない場合には、ポンプの駆動を維持する。ポンプの駆動を維持する場合、ポンプとラジエータファンの双方に最大出力の駆動指令値を与えるのが一層好ましい。
【0011】
予め定められた時間経過後にポンプを再開させてポンプの回転数を計測することで、直前に計測したポンプの回転数が一時的に増加したものであるのか、あるいは、冷媒流路の損傷により増加したものであるのか、を区別することができる。それゆえ、コントローラは、ポンプが作動可能であるのに停止してしまう事態を回避できる。
【0012】
コントローラは、車両が衝突したことを示す信号に基づいてポンプを停止する場合に、その旨を示すデータを記録することが好ましい。そのようなデータは、後日車両のメンテナンス時の診断データ(ダイアグノシスデータ)として活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の電気自動車のシステム図である。
【図2】車両衝突時にコントローラが実行する処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、電気自動車100のシステム図を示す。図1は、冷却システム100a(破線の上側の図)と、駆動システム100b(破線の下側の図)を同時に示している。冷却システム100a側に描かれたインバータ3及びモータ7と、駆動システム100b側に描かれたインバータ3及びモータ7は同一のものであることに留意されたい。また、図1における破線の矢印は信号の流れを示している。実施例の車両は、車輪駆動用の一つのモータ7を有する1モータの電気自動車である。
【0015】
冷却システム100aから説明する。冷却システム100aは、モータ7と、モータ7に交流電力を供給するインバータ3を冷却するためのシステムである。冷却システム100aは、インバータ3とモータ7とラジエータ2とリザーブタンク5の間で冷媒を循環させる冷媒流路4を備えており、その冷媒流路4には、冷媒を送り出すポンプ6が取り付けられている。インバータ3とモータ7を冷却し、温度が上昇した冷媒は、ラジエータ2にて外気と熱交換されることで冷やされ、ポンプ6により送り出され、再びモータ7、インバータ3へと循環する。ラジエータ2にはラジエータファン13が取り付けられており、ラジエータ2に外気を供給することで、冷媒の冷却効率を高める。ラジエータファン13には、ラジエータファン13の回転数を検出するファン回転数センサ(図示せず)が取り付けられており、ファン回転数センサが計測するラジエータファン13の回転数はコントローラ10に送られる。
【0016】
ポンプ6には、ポンプ6の回転数を計測するポンプ回転数センサ8が取り付けられている。ポンプ回転数センサ8が計測するポンプの回転数もコントローラ10に送られる。ポンプ6の近傍には冷媒の温度を計測する温度センサ9が取り付けられている。温度センサ9が計測する冷媒温度もコントローラ10に送られる。通常の走行中は、コントローラ10は、冷媒温度が所定の温度範囲内に収まるように、ラジエータファン13とポンプ6の出力を調整する。すなわち、冷媒温度が高ければラジエータファン13とポンプ6の出力を高め、冷媒温度が所定の温度範囲となったらラジエータファン13とポンプ6の出力を低くする。また、コントローラ10は、インバータ3の出力が大きければ、その後にインバータ3の温度上昇が見込まれるので、ポンプ出力を上げる。
【0017】
ポンプ6は、電動モータの出力軸に羽根車が取り付けられた構造を有する。ポンプ6のモータは、オープンループで制御される。また、コントローラ10がポンプ6(モータ)に与える指令値(駆動指令値)は、ポンプのモータを駆動するための電力の大きさを示すものである。よく知られているように、オープンループ制御の場合、モータに同じ駆動指令値を与えても(同じ電力を供給しても)、モータの回転数は負荷に応じて変化する。即ち、コントローラ10は、予め定められた駆動指令値をモータに与えるだけであり、モータの回転数は負荷、即ち冷媒の状態に応じて定まる。また、モータに駆動指令値を与えることの一例は、駆動指令値に相当する電力をモータに供給することである。
【0018】
本実施例では、コントローラ10がポンプ6に与える駆動指令値として、次の6段階、すなわち、(1)スーパーHi、(2)Hi、(3)Mid、(4)Lo、(5)スーパーLo、及び、(6)停止、が定められている。(6)から(1)の順に駆動指令値の値が大きくなる(ポンプ出力が大きくなる)。上記の6段階は、ポンプの運転モードと呼ばれる場合もある。
【0019】
次に、駆動システム100bを説明する。電気自動車100であるので、駆動システム100bは、メインバッテリ14からモータ7への電気系に相当する。メインバッテリ14は、システムメインリレー18を介して、インバータ3内の交流生成回路3aに接続している。交流生成回路3aは、6個のスイッチング回路SWで構成されている。夫々のスイッチング回路SWは、IGBTとダイオード(還流ダイオード)が逆並列に接続された回路構成を有している。2個のスイッチング回路SWが直列に接続されており、その組が3組並列に接続されている。直列に接続された2個のスイッチング回路SWの中間点から線が伸びており、モータ7に繋がっている。3組の直列スイッチング回路SWから伸びる3本の線が、UVW3相交流を構成する。モータインバータ3内にはインバータ制御回路3bがあり、その回路3bが各スイッチング回路SWへスイッチング指令(PWM信号)を与える。
【0020】
交流生成回路3aの入力側(交流生成回路3aとメインバッテリ14の間)には、平滑化コンデンサ16が接続されている。平滑化コンデンサ16は、交流生成回路3aに入力する電流を平滑化するために備えられている。メインバッテリ14の出力電圧は例えば300[Volt]であり、大電流が流れる。そのため、平滑化コンデンサ16の容量も、5Vや12V等で作動する制御回路内のコンデンサとは桁違いに大きい。車両が衝突した際、感電などの二次災害を防止するために、コントローラ10は、大容量の平滑化コンデンサ16を放電する処理を実施する。本実施例では、インバータ3内の交流生成回路3aとモータ7を放電デバイスとして利用する。コントローラ10は、交流生成回路3aのスイッチング回路SWに、モータ7が回転せずに僅かな回転角で振動するようなスイッチングルールで生成したスイッチング信号を与える。そうすると、平滑化コンデンサ16に蓄えられた電気エネルギーは、スイッチングロスとモータ7のフリクションロスによる熱エネルギーとして散逸する。本実施例では、スイッチングロス等により高温となったインバータ3とモータ7を、ポンプ6を用いて冷媒を循環させることで冷却する。
【0021】
図1の符号12はエアバッグシステムが備える加速度センサである。加速度センサ12は、予め定められた大きさの加速度を検知したときに、その旨をコントローラ10に伝える。すなわち、加速度センサ12の信号が、車両が衝突したことを示す信号に相当する。コントローラ10は、車両が衝突したことを示す信号を加速度センサ12から受信すると、図2に示すフローチャートの処理を実行する。以下、車両が衝突したことを示す信号を「衝突信号」と称する。
【0022】
図2を参照して、コントローラ10が実行する処理について説明する。コントローラ10は、衝突信号を受信すると、まず一旦インバータ3を停止する(S2)。即ちモータ7を停止する。次いでコントローラ7は、システムメインリレー18を開放し、メインバッテリ14とインバータ3を切り離す(S3)。メインバッテリ14を切り離すことによって、インバータ3の内部の平滑化コンデンサ16への電力供給を遮断する。コントローラ10は、前述したようにモータ7が振動するようなスイッチングルールに基づいて生成したスイッチング信号をインバータ3に与える(S4)。なお、図2のステップS4には、「モータ7が振動するようなスイッチングルール」を「非回転ルール」と表現している。こうして、平滑化コンデンサ16の放電が始まる。
【0023】
次に、コントローラ10は、ポンプ6に、現在の駆動指令値以上の大きさを有する新たな駆動指令値を与える。具体的にはコントローラ10は、ポンプ6の運転モードを最大出力であるスーパーHiに設定する(S5)。すなわち、コントローラ10は、現在のポンプ6の運転モードを維持するか、又は、現在のポンプ6の運転モードよりも高い出力を実現する運転モードでポンプ6を作動させる。本実施例では、コントローラ10は、衝突信号を受信すると、ポンプ6に、運転モードをスーパーHiモードに切替える信号(駆動指令値)を送信する(S5)。ポンプ6が取り得る運転モード(コントローラ10が出力し得る駆動指令値)は、前述した6段階であり、そのうち、スーパーHiモードが最も出力が大きい。従って、コントローラ10が新たな駆動指令値としてスーパーHiモードに切り換える信号をポンプ6に与えることは、現在の駆動指令値以上の新たな駆動指令値を与えることの一例に相当する。
【0024】
冷媒流路4が十分な冷媒で満たされているときに冷媒がポンプ6に与える負荷は、実験やシミュレーションで予め特定できる。従って、コントローラ10が各々の運転モードを指定したときのポンプの予想回転数も特定できる。コントローラ10には、各運転モードを指定したときの予想回転数の上限値が予め記憶されている。別言すれば、上限値は、ポンプ運転モード(駆動指令値)に対応したポンプ回転数に相当する。
【0025】
次にコントローラ10は、ポンプ回転数センサ8からポンプの回転数を取得する。そして、コントローラ10は、ポンプ6の回転数が、スーパーHiモードに対応する上限値を超えるか否かを判断する(S6)。すなわち、コントローラ10は、計測された回転数が、コントローラ10が与えた駆動指令値に対応する異常判断閾値を超えるか否かを判断する。ポンプ6の回転数が異常判断閾値を超えない場合には(S6:NO)、コントローラ10は、ポンプ6が正常に作動していると判断して、ポンプ6の駆動を継続する。すなわち、コントローラ10は、ポンプ6の運転モードを改めてスーパーHiモードに設定する(S22)。なお、この場合は、既にスーパーHiモードに設定されているので、ステップS22の処理は、それまでのスーパーHiモードを維持することに相当する。さらに、インバータ3とモータ7の冷却効率を高めるために、コントローラ10は、ラジエータファン13にも、最大出力の駆動指令値を与える(S23)。なお、ラジエータファン13が回転数制御タイプ(実際の回転数を目標回転数に一致させるフィードバックループを備える制御系)の場合、ステップS23の処理は、最大回転数を目標値としてラジエータファン13に与えることになる。
【0026】
一方において、計測されたポンプ回転数が異常判断閾値を超えた場合には(S6:YES)、コントローラ10は、ポンプ6が空転していると判断して、ポンプ6を停止する(S7)。ポンプ6が空転する理由は前述した通りである。
【0027】
次いで、コントローラ10は、既定の時間待機して(S8)、ポンプ6の運転を再開させる(S9)。既定の時間は、例えば5秒でよい。本実施例では、ステップS9において運転モードをスーパーHiに設定して作動させるが、他の運転モードであってもよい。ステップS9の直前にはポンプ6は停止しているのだから、コントローラ10がどの運転モード(駆動指令値)を与える場合であっても、その運転モードは「現在の指令値以上の指令値」に相当する。コントローラ10は、再度、ポンプ回転数センサ8からポンプ6の回転数を取得し、計測されたポンプ回転数が、S9における運転モードに対応する上限値(即ち異常判断閾値)を超えるか否かを判断する(S10)。S10における上限値も、スーパーHiに対応する上限値である。計測されたポンプ回転数が異常判断閾値を超えていない場合は(S10:NO)、コントローラ10は、ステップS6における判断はポンプの空転が一時的なものであったと判断して、ポンプ6の運転モードをスーパーHiに切り替える指令を与え(S22)、ラジエータファン13にも最大出力の駆動指令値を与える(S23)。
【0028】
一方において、計測されたポンプ回転数が異常判断閾値を超えている場合には(S10:YES)、コントローラ10は、ポンプ6が空転していると判断して、ポンプ6を停止する(S12)。続いて、コントローラ10は、車両衝突信号に基づいてポンプ6を停止させたことをログデータとして記憶する(S13)。なお、ログデータは、後日、車両メンテナンス時の診断データとして利用される。
【0029】
ここで、異常判断閾値は、前述したように、冷媒流路4に冷媒が十分に存在している状況下では回転数がその値を超えることがなく、且つ、冷媒が抜けている状況下では、回転数がその値を超えるような値に予め設定されている。また、コントローラ10は、各運転モード(駆動指令値)に対応した異常判断閾値を記憶している。コントローラ10は、運転モードがスーパーHiのときはこれに対応する異常判断閾値を用い、運転モードがMidのときはこれに対応する異常判断閾値を用いる。
【0030】
上記の処理の利点を説明する。コントローラ10は、車両が衝突した際に、ステップS6において、ポンプ6の回転数が異常判断閾値を超えるか否かを判断する。これにより、ポンプが空転しているか否かを判断することが可能となる。ポンプ6が空転していると判断する場合(即ち、ポンプ6の回転数が異常判断閾値を超えている場合)、ステップS7においてポンプ6を停止する。その結果、ポンプ6が本来の機能を果たしていない(すなわち、空転している)場合には、ポンプ6の運転を不必要に継続させることがなくなる。ポンプ6の無用な損傷を防ぐことができる。一方において、冷媒流路が冷媒で満たされておりポンプ6が正常に冷媒を循環させていると判断する場合には、コントローラ10は、ポンプ6の駆動を継続し、インバータ3とモータ7を冷却する。具体的には、コントローラ10は、ステップS22においてポンプ6の運転モードをスーパーHiに切替えるとともに、ステップS23においてラジエータファン13を最大回転数で作動させ、迅速にインバータ3とモータ7を冷却する。平滑化コンデンサ16を放電することで高温となったインバータ3とモータ7が、過熱により損傷することが防止される。ポンプ6を有効に活用できる。
【0031】
さらに、上記の処理では、ステップS7においてポンプ6を一旦停止した後に、再度ポンプ6を駆動して、ポンプ6の回転数が異常判断閾値を超えるか否かを判断する(以下、この処理をリトライと呼ぶ)。前述のように、ポンプ6が空転を起こす原因は、冷媒流路4の損傷だけではない。衝突時の衝撃によりリザーブタンク5から冷媒流路4への気泡の混入が生じた場合にも、ポンプ6は空転する。ただし、この場合は冷媒流路4が損傷しているわけではないので、気泡がリザーブタンク5に戻れば回転数は異常判断閾値以下に戻る。即ち、ポンプ6の空転は一時的なものである。この場合に、前述のようにリトライすると、コントローラ10はステップS10においてNOと判断する。つまり、1度目の判断ではポンプ6が空転していると判断してポンプ6を停止したが、2度目の判断(リトライ)によりポンプ6を再び作動させることが可能となる。これにより、ポンプ6が正常に機能する場合に、誤ってポンプ6を停止してしまうことがなくなる。ポンプ6が無用に損傷するのを回避しつつ、ポンプ6を有効に活用できる。
【0032】
また、ステップS13において、ポンプ6が停止したことを記憶することにより、メンテナンス時にそのログデータを参照することでポンプの運転停止履歴を把握できる。ポンプ運転停止履歴は車両のメンテナンスに有用である。
【0033】
また、上記の処理では、衝突後にポンプ回転数を切替える際、コントローラ内に既に用意されているポンプ運転モード(前述した「スーパーHi」や「Hi」など)を活用する。既定のポンプ運転モードを活用することによって、上記の処理はプログラムの追加だけで低コストで実現することができる。
【0034】
実施例の技術に関する留意点を述べる。「異常判断閾値を超えている」、及び、「異常判断閾値を超えていない」との表現には、厳密には、ポンプの回転数が異常判断閾値と同じ場合を含まない。しかしこれは説明の便宜のためである。ポンプの回転数が異常判断閾値と同じ場合は、「異常判断閾値を超えている」場合と同じ処理を実行してもよいし、逆に、「異常判断閾値を超えていない」場合と同じ処理を実行してもよい。ポンプの回転数が異常判断閾値と同じ場合をどのように扱うかは重要ではなく、異常判断閾値という判断基準を設けた点が重要であることに留意されたい。
【0035】
「車両が衝突したことを示す信号」(衝突信号)は、より正確に表現すれば、「車両が衝突した際に生じるであろう現象を通知する信号」である。実施例では、衝突信号として、加速度センサの出力を用いた。既定の閾値を超える加速度が検出される状況は、車両が衝突した際に生じるであろう現象の典型である。衝突信号は、加速度センサの出力に限られない。例えば、車速の変化が所定の変化閾値を超えたことを示す信号も、衝突信号となり得る。また、車載の異なるコントローラ間の通信が途絶したことを通知する信号も、衝突信号となり得る。
【0036】
実施例では、リトライの回数は1回であったが、2回以上でもよい。コントローラ10は、既定時間待機後にリトライする処理を複数回実行する構成であってもよい。
【0037】
異常判断閾値、及び、既定時間は、自動車における冷却システムによって異なる。また、自動車のその他の性能によっても異なる。
【0038】
図2のフローチャートの処理手順は、本発明の技術的思想を超えない範囲で入れ替えてもよい。例えば、ステップS22とステップS23は逆の順序であってもよい。即ち、ラジエータファン13に最大出力の駆動指令値を与え(S23)次いで、ポンプ6の運転モードをスーパーHiに切り替える手順であってもよい(S22)。
【0039】
ここで、ポンプ6の運転モードを整理しておく。ステップS5では、運転モードは、現在の運転モード以上のポンプ出力を実現する運転モードであればよい。例えば、現在の運転モードがMidのとき、ステップS5ではMidか、Hiか、スーパーHiのいずれかの運転モードに切り替えればよい。ステップS9では、運転モードは、「停止」以外のいずれの運転モードでもよい。例えば、スーパーLoでもよい。ステップS22では、運転モードは、スーパーHiでなければならない。コントローラ10は、図2のフローチャートに示した処理手順に従って、適切にポンプ6の運転モードを切り替える。ここで、一例として、運転モードをステップS5でMidに切替え、ステップS9でLoに切替える場合を考える。この場合、実施例のようにステップS5及びステップS9においてスーパーHiで作動する場合に比して、ステップS22に至るまでの冷却効率は劣る。しかしながら、車両衝突時からステップS22に至るまでの時間が、インバータ3とモータ7が発熱のため損傷に至る時間に比べて十分に短ければ、この時間における冷却効率はそれほど問題ではない。この場合、ステップS22にて運転モードをスーパーHiに切替えることで、インバータ3とモータ7は適切に冷却され得る。
【0040】
実施例では、衝突時にポンプへ新たな駆動指令値を与える際、コントローラ内に既に用意されている通常時のポンプ運転モード群を活用した。新たな駆動指令値は、予め定められている通常時のポンプ運転モード群とは異なる運転モードであってもよい。例えば、「スーパーHi」は、通常時には選択されることはなく、図2の処理においてのみ選択され得るモードに決められていてもよい。また、図2のステップS5及び/又はS22において、駆動指令値を複数段階に分けてポンプ出力が徐々に増加するようにしてもよい。
【0041】
実施例の電気自動車100は、インバータ3とモータ7を平滑化コンデンサ16の放電デバイスとして利用するものであり、冷却システム100aは、放電デバイスであるインバータ3とモータ7の双方を冷却するものであった。電気自動車100は、インバータ3とモータ7に代わる放電デバイスを有するものであってもよい。例えば、電気自動車100は、放電デバイスとして、平滑化コンデンサ16と並列に接続される放電抵抗を有するものであってもよい。放電抵抗とは、電気抵抗と耐熱温度が高く、通電すると発熱して電気エネルギーを散逸させるものであってもよい。その場合、冷却システム100aは、冷媒を放電抵抗へも循環させる。
【0042】
本明細書が開示する技術は、また、インバータ又はモータのいずれか一方だけを冷却する冷却システムに適用してもよい。また、実施例の車両は1個のモータを備える電気自動車であったが、本明細書が開示する技術は、車輪を駆動するモータとエンジンを共に備えるハイブリッド車に適用することも可能である。
【0043】
実施例の説明は、本発明の特徴を説明するものであり、車両のシステムが完全に作動するために必要ないくつかの要素は説明を省略していることに留意されたい。
【0044】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0045】
2:ラジエータ
3:インバータ
3a:交流生成回路
3b:インバータ制御回路
4:冷媒流路
5:リザーブタンク
6:ポンプ
7:モータ
8:ポンプ回転数センサ
9:温度センサ
10:コントローラ
12:加速度センサ
13:ラジエータファン
14:メインバッテリ
16:平滑化コンデンサ
18:システムメインリレー
100:電気自動車
100a:冷却システム
100b:駆動システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載の電気デバイスに冷媒を循環させるポンプと、
ポンプを制御するコントローラと、を備えており、
コントローラは、車両が衝突したことを示す信号を受信したとき、ポンプに現在の駆動指令値以上の新たな駆動指令値を与え、ポンプの回転数が前記新たな駆動指令値に対応した予め定められた異常判断閾値を超える場合にはポンプを停止し、異常判断閾値を超えない場合にはポンプの駆動を継続する、
ことを特徴とする電気自動車。
【請求項2】
冷媒冷却用のラジエータに外気を供給するラジエータファンと、をさらに備え、
コントローラは、ポンプの回転数が異常判断閾値を超えない場合には、ポンプの出力を最大にする駆動指令値をポンプに与えるとともに、ラジエータファンにもその出力を最大にする駆動指令値を与えることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車。
【請求項3】
コントローラは、車両が衝突したことを示す信号に基づいてポンプを停止した場合、予め定められた時間の後にポンプを再駆動し、ポンプの回転数が異常判断閾値を超える場合にはポンプを停止し、ポンプの回転数が異常判断閾値を超えない場合にはポンプの駆動を継続することを特徴とする請求項1または2に記載の電気自動車。
【請求項4】
前記電気デバイスは、車輪駆動用のモータに電力を供給するインバータが備えるコンデンサを放電する放電デバイスであり、コントローラは、車両が衝突したことを示す信号を受信したときに放電デバイスを作動させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電気自動車。
【請求項5】
コントローラは、車両が衝突したことを示す信号に基づいてポンプを停止した場合に、その旨を示すデータを記録することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電気自動車。

【図1】
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【図2】
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