説明

電気連結器

【課題】 接触片内の断線がなく、また両側の電気連結器管の芯合せが確実、容易に行なわれる電気連結器を実現する。
【解決手段】 前方可動接触子32の円筒状部321に後方可動接触子31のピン状部311が挿入される構造の接触片3において、前記円筒状部321に内径をやや大きくした大径部を形成し、接触用の環状ばね34を挿入するとともに、接触片3を収容する箱体21を少なくとも片側の電気連結器について芯合せが容易であるように揺動支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両において車両間の電気回路の接続、切り離しを行なう場合に使用される電気連結器に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両において、車両間の電気回路の接続、切り離しを効率的に1操作で行なおうとする場合に、電気連結器が使用される。一例として、運転台からの遠隔操作で自動連結、自動解放するため、車両間を連結する機械連結器に付設される電気車の電気連結器を図面により説明する。
複数の車両を連結して構成される電車列車、気動車列車等においては、各車両間に動力用、制御用、信号(情報)用等の直流、交流、高圧、低圧さまざまな電線(光ケーブルを含む)が引き通されているが、これらは車両そのものの連結、解放と同時に接続、切り離しを行なうことが望ましい。従来、これらの電線はブレーキ用の空気配管と共に作業員による手作業で連結、切り離しを行なっていたが、時間がかかるばかりでなくこのために危険な車両間に立ち入らねばならなかった。そこで近年では機械連結器に電気連結器を付設し、車両の連結解放と同時に電線の接続、切り離しを行なえるようにすることが一般的になっている。
【0003】
その一例として、図6は特許文献1に記載された機械連結器に電気連結器を付設した状態を示す正面図、図7は同じく側面図で、1は密着式の機械連結器、2は電気連結器、21はその箱体、211は箱体21の前面を囲んで取り付けられたガスケット、22は箱体21の前面要部を覆う蓋、221は蓋22を閉じる方向に付勢する引張りばねである蓋ばね、222は蓋22を回転支持する支持軸、223は蓋22の側面に取り付けられたカムローラ、23は押し棒、231は押し棒を押し出し方向に付勢する圧縮ばねである戻しばね、24は当て板、3は電気回路の接触片、5はこれに接続されるケーブルである。なお、本明細書において、車両からみて連結器の連結面側を「前」、車両側を「後」と呼ぶ。
【0004】
この電気連結器は箱体21前面の開口内に複数の接触片3を配置した絶縁台を収納し、連結時には箱体21後部上方に退避し、非連結時には支持軸222回りに回動降下して前記開口をふさぐ略円筒状の蓋22を備えている。非連結時、すなわちこの電気連結器が列車の先頭部になっている場合等には接触片3の先端部分が水にぬれたり、塵埃が付着したりしないよう、正面の開口を蓋22でふさいで保護する。
【0005】
車両が連結直前の距離まで接近すると前記の押し棒23が相手車両の当て板24に当たって押され、押し棒23に設けられたカムによってカムローラ223が押され、蓋22が開いて接触片3が露出し、機械連結器1の連結された状態で相手車両の接触片3と接触して電気回路がつながるようになっている。221は連結器が解放されたとき蓋を閉じるための蓋ばね、222は回転中心となる支持軸である。なお、連結する相手車両が電気連結器を備えていない場合は押し棒23が押されることがないので蓋22は閉じたままである。
【0006】
車両間に引き通される配線は数本から多いもので二百本以上に達するため、箱体21の内部にはこれら多数の接触片3が所定の間隔を保って縦横に配置されている。しかしこのように非連結時は正面の開口を蓋22でふさぎ、連結時は両側のガスケット211を密着させることで一応の防塵、防水効果は達せられるものの、蓋が閉じた状態においても蓋22と箱体21との間には至るところに微小な隙間が存在するから、列車の高速化に伴いこうした隙間から侵入する水滴、塵埃は無視できないものとなってきている。そこで特許文献2には、箱体21や蓋22の各所に弾性シートを貼り付けたりふさぎ部材等を取り付けることで、蓋の閉じた電気連結器の解放状態において蓋22と箱体21との接触部分における隙間を極力なくす構造とすることが記載されている。
【0007】
一方特許文献3には、接触片3の内部に挿入式の接触子を組み込んだ可動型の接触片が記載されている。接触片3が箱体21に対して固定されていると、製作時や取り付け時の寸法誤差によって連結したときに双方の接触片3が強く押されたり、逆に十分接触しないなどの不具合が生じるので、両側の接触片3のうち少なくとも片側のものについては車両の進行方向に出入り可能とするのが普通である。従来一般的な例では、接触片3が移動しても常時通電を確保するため、内部に撚り導線と呼ばれる可撓性の導線が使用されている。図8はその接触片3aを示す断面図で、31は後方可動接触子、32は前方可動接触子、33は撚り導線である。後方可動接触子31の筒状の部分に前方可動接触子32のピストン状の部分が嵌合し、前方可動接触子32はばねで前方に付勢されており、両者は撚り導線33によって電気的に導通している。しかし車両の連結、解放や走行に伴う動きによって撚り導線33が繰り返したわみを受けるので、疲労によりしばしば断線が発生する。
【0008】
そこで特許文献3に記載の接触片3bは、後方可動接触子31前面の円筒状部312と前方可動接触子32後面のピン状部311とを直接嵌合させ、摺動接触で導通させるようにして疲労発生部分をなくしている。図9は組み立て断面図、図10は分解状態の断面図で、35は絶縁台、3cは相手側電気連結器の接触子である。しかしこの構造では円筒状部312とピン状部311との製作段階における精度管理が困難であり、また繰り返し使用による摩耗によって接触不良が発生するという問題もある。
【0009】
電気連結器の接触片には、図9に示したような突き合わせ形のほかに、先端がオス、メスになった挿入形がある。いずれの場合も、多数の接触片がせまい間隔で縦横に並んでいるので、対応する接触辺同士が正しく接触するためには両側の電気連結器の芯が正確に合っていることが重要である。図6、7に示したように電気連結器が機械連結器に直接取り付けられていると、接触片の数が多くなり間隔が密になった場合、機械連結器の摩耗や取り付け精度不良などによって電気連結器の接触片が正しく向き合わないおそれがある。
【特許文献1】実公平7-30449号公報
【特許文献2】特開2002-225705号公報
【特許文献3】実開昭63-99773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電気連結器における技術的な課題は連結される車両間の回路が確実に接続されることであり、具体的には両側の電気連結器内の接触片の内部導通が確実に保持されること、そして両側の電気連結器間の接触が確実に保持されることである。
本発明は、従来の接触片内部の導通、接触における問題点を解消して接触の確実化を図るとともに、相互の電気連結器を確実に芯合せして無理なく接触させるようにした電気連結器を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、箱体正面の開口内に複数の接触片を配置した絶縁台を収納する電気連結器において、前記接触片が、前方可動接触子の円筒状部に後方可動接触子のピン状部が挿入される構造であり、前記前方可動接触子の円筒状部に内径をやや大きくした大径部を形成するとともに、この大径部に接触用の環状ばねを挿入したことを特徴とする電気連結器であり、さらに望ましくは前記箱体が、前面に連結時において相互に嵌合する案内ピンならびに案内受けを備えるとともに、箱体外周部分に設けられた押し出し機構と前記箱体の上面および左右側面を覆う形状の取り付け枠とを介して機械連結器に取り付けられ、非連結状態では前記押し出し機構により前方に押し出されて前記取り付け枠に拘束支持され、連結状態では相手側の電気連結器に押されて水平方向ならびに上下方向について前記取り付け枠に拘束されない状態となって前記案内ピンおよび案内受けの嵌合により芯合わせが行なわれることを特徴とする前記の電気連結器である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接触片内部の接触子間の導通が確実で、また双方の電気連結器間の接触片先端の芯合せが確実かつ容易に行なわれ、これらの状態が長期にわたって維持できるというすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の望ましい実施例を図面により詳細に説明する。図1は実施例の電気連結器を示す正面図、図2は同じく平面図、図3は側面図で、図1、図3においてはこの電気連結器が取り付けられる機械連結器を想像線で示してある。各符号はこれまでに説明したもののほか、4は箱体21の上面および左右側面を覆う形状の取り付け枠、25は箱体21内部の結露を防止する結露防止管、26は箱体21を前面に押し出す押し出し機構、27は箱体21内部を保温するヒータ、28は案内ピン、29は案内受けで、連結状態においてこれらが嵌合することにより上下左右の位置合せが行なわれ、内部の各接触片3が正しく接触する。41は取り付け枠4を機械連結器1に取り付ける取り付けボルトである。
【0014】
実施例の電気連結器2は、箱体21正面の開口内に複数の接触片3を配置した絶縁台を収納している。図6、7で説明したものと同様の回転する蓋22を備え、箱体21の前面、絶縁台の周囲にシールのためのガスケット211を有するほか、前記の結露防止管25、押し出し機構26、ヒータ27、案内ピン28、案内受け29を有している。箱体21は、外周部分に設けられた押し出し機構26と前記箱体21の上面および左右側面を覆う形状の取り付け枠4とを介して機械連結器1に取り付けられている。なお結露防止管25は、上端が箱体21内部に開口し、側面に空気孔を設け、下端が水ぬき孔を有する蓋でふさがれた短管であり、これを備えた結露防止形電気連結器は特開2004−224221号公報に記載されている。またヒータを備えた耐雪形の電気連結器も実公平7−30449号公報に記載されており、これら自体はそれぞれ公知である。
【0015】
つぎに実施例の接触片3について、図4の断面図により説明する。この接触片3は、図9、10に示した従来の可動接触式を改良したもので、前方可動接触子32後面の円筒状部321に後方可動接触子31前面のピン状部311が挿入される構造であり、前記前方可動接触子32の円筒状部321に内径をやや大きくした大径部を形成するとともに、この大径部に接触用の環状ばね34を挿入したことを特徴とする。
【0016】
環状ばね34は確実な接触による導通を図るものであるから、電導性とばね性を兼ね備えたりん青銅、ベリリウム銅等の板ばねを鼓状に巻いたもの、あるいは非円形断面に巻いたコイルばねなどが好ましい。
つづいて押し出し機構26について図5により説明する。この図は一対の電気連結器が若干の距離を隔てて対峙している状態を示す部分平面図で、261はガイドバー、262は箱体21の外周部分、この例では両脇の張り出し部分に設けられたガイド孔、263は押し出しばね、264は補助ばねである。押し出しばね263、補助ばね264にはそれぞれ図示したように箱状のカバーを設けてもよい。
【0017】
ガイドバー261は補助ばね264により取り付け枠4に対し前方に付勢され、またガイド孔262、すなわち箱体21も押し出しばね263により取り付け枠4に対し前方に付勢されている。ガイドバー261には細径の部分が設けてあるが、図5の状態ではガイド孔262はこの細径の部分ではなく太い径の部分と嵌合しているから上下左右にほとんど隙間がなく、箱体21は前方に押し出されて取り付け枠4に拘束支持されている。ところが、両側の連結器が接近し図5の2本の連結面が一致すると、補助ばね264のばね力は弱いのでガイドバー261は互いに押し込まれて後退し、ガイド孔262の位置には細径の部分がくるので上下左右に隙間が生じ、箱体は水平方向ならびに上下方向について前記取り付け枠4には拘束されない状態となる。一方このとき、両側の電気連結器の案内ピン28と案内受け29とが嵌合するので、電気連結器同士が正しく芯の合った状態で合体する。取り付け枠4は機械連結器1と一体であるが、機械連結器1と電気連結器2との間には取り付け誤差や摩耗による芯の狂いなども発生している可能性がある。しかしこのように電気連結器2を取り付け枠4から切り離し、直接電気連結器同士を合体させるようにすれば接触片3間の芯ずれは発生しないので、良好な連結状態が保証される。押し出しばね263のばね力はそのまま電気連結器の連結力として作用する。
【0018】
なお、この実施例では電気連結器が横長形状であるため押し出し機構26は左右2基としたが、電気連結器の形状によっては上部に1基のみでもよい。また、連結される車両について、少なくとも片側の電気連結器がこのように機械連結器1に拘束されない構造であることが望ましい。逆に、同一路線の車両のすべての電気連結器が押し出し機構を有するものであっても、便利でこそあれ、何ら差し支えはない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明実施例の電気連結器を示す正面図である。
【図2】本発明実施例の電気連結器を示す平面図である。
【図3】本発明実施例の電気連結器を示す側面図である。
【図4】本発明実施例の接触片を示す断面図である。
【図5】実施例の一対の電気連結器を示す部分平面図である。
【図6】従来の技術における機械連結器に電気連結器を付設した状態を示す正面図である。
【図7】同じく従来の技術における機械連結器に電気連結器を付設した状態を示す側面図である。
【図8】従来の技術における接触片を示す断面図である。
【図9】他の従来の技術における接触片を示す組み立て断面図である。
【図10】図9の接触片を示す分解状態の断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 機械連結器
2 電気連結器
3、3a、3b、3c 接触片
4 取り付け枠
5 ケーブル
21 箱体
22 蓋
23 押し棒
24 当て板
25 結露防止管
26 押し出し機構
27 ヒータ
28 案内ピン
29 案内受け
31 後方可動接触子
32 前方可動接触子
33 撚り導線
34 環状ばね
35 絶縁台
41 取り付けボルト
211 ガスケット
221 蓋ばね
222 支持軸
223 カムローラ
231 戻しばね
261 ガイドバー
262 ガイド孔
263 押し出しばね
264 補助ばね
311 ピン状部
312 円筒状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱体(21)正面の開口内に複数の接触片(3)を配置した絶縁台を収納する電気連結器(2)において、前記接触片(3)が、前方可動接触子(32)の円筒状部(321)に後方可動接触子(31)のピン状部(311)が挿入される構造であり、前記前方可動接触子の円筒状部(321)に内径をやや大きくした大径部を形成するとともに、この大径部に接触用の環状ばね(34)を挿入したことを特徴とする電気連結器。
【請求項2】
前記箱体(21)が、前面に連結時において相互に嵌合する案内ピン(28)ならびに案内受け(29)を備えるとともに、箱体(21)外周部分に設けられた押し出し機構(26)と前記箱体(21)の上面および左右側面を覆う形状の取り付け枠(4)とを介して機械連結器(1)に取り付けられ、非連結状態では前記押し出し機構(26)により前方に押し出されて前記取り付け枠(4)に拘束支持され、連結状態では相手側の電気連結器に押されて水平方向ならびに上下方向について前記取り付け枠(4)に拘束されない状態となって前記案内ピン(28)および案内受け(29)の嵌合により芯合わせが行なわれることを特徴とする請求項1に記載の電気連結器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−76591(P2007−76591A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269932(P2005−269932)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(591150258)株式会社ユタカ製作所 (12)
【Fターム(参考)】