説明

電気防食用電極の押し込み工具

【課題】電極を必要以上に深く押し込むこと無く容易に電極を押し込むことができる作業性に優れた電気防食用電極の押し込み工具を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物に形成された溝内に電気防食用電極を押し込むための電気防食用電極の押し込み工具5であって、電気防食用電極を押圧して溝内に押し込む押し込み部6と、コンクリート構造物に当接することにより、前記押し込み部の溝内への進入距離を規制する規制部7とが備えられてなることを特徴とする電気防食用電極の押し込み工具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物に電気防食工事を施す際に用いる電気防食用電極の押し込み工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の鉄筋防食方法として、電気防食工法が知られている。該電気防食工法は、コンクリート構造物の表面にチタン等からなる電気防食用の電極を埋設し、該電気防食電極を陽極、鉄筋を陰極として通電することにより、鉄筋の腐食を防止するものである。
通常、斯かる電気防食電極の陽極としては、棒状又は帯状に形成された長尺状の電極が使用され、コンクリート構造物に設けられた溝の内部にこの長尺状の電極を設置し、その溝を左官施工やグラウト注入等で充填することにより、該電極をコンクリート構造物中に埋設している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種の電気防食工法を実施する場合に於いて、長尺状の電極を溝内に固定配置する方法としては、溝よりも僅かに幅広で且つ弾性変形により幅が収縮する長尺状の電極を用い、押し込み工具にて順次溝内に押し込んでいく方法が好ましいことを本件発明者らは見い出した。
ここで、斯かる方法を実施する押し込み工具としては、電極に当接させて電極を溝内に押し込む車輪を備えたローラを用いることが考えられる。
【0004】
しかしながら、斯かる押し込み工具に於いては、押し込む深さを力加減で調整しつつ電極を押し込む必要があることから、必要以上に深く溝内に電極を押し込んでしまうという事態が生じうるものであり、例えば、コンクリート構造物の鉄筋と電極との短絡を引き起こす等の問題が予想される。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、電極を必要以上に深く押し込むこと無く容易に電極を押し込むことができる作業性に優れた電気防食用電極の押し込み工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明は、コンクリート構造物に形成された溝内に電気防食用電極を押し込むための電気防食用電極の押し込み工具であって、電気防食用電極を押圧して溝内に押し込む押し込み部と、コンクリート構造物に当接することにより、前記押し込み部の溝内への進入距離を規制する規制部とが備えられてなることを特徴とする電気防食用電極の押し込み工具を提供する。
【0007】
斯かる電気防食用電極の押し込み工具に於いては、押し込み部で電気防食用電極を押圧して、溝内に押し込みつつ、規制部にて押し込み部の溝内への進入距離、即ち電気防食用電極の押し込み距離を規制できることから、該電極を必要以上に押し込むこと無く容易に電極を押し込むことができ、作業性に優れている。
【0008】
本発明に於いては、前記押し込み部として、溝内に進入しうる押し込み用車輪が備えられ、前記規制部として、前記押し込み用車輪と同心状に配された前記押し込み用車輪のよりも径小の円形規制部が備えられてなるものが好ましい。
斯かる構成の電気防食用電極の押し込み工具に於いては、押し込み用車輪で押圧して、該車輪と円形規制部の半径差の分だけ電極の一部を溝内に押し込むことができ、更に、車輪を回転させて溝(即ち、電極の長手方向)に沿って移動させることにより、溝に沿って長尺状の電極を容易に押し込んでいくことができる。
【0009】
更に、斯かる構成に於いては、前記円形規制部は直径の調整が可能とされてなるものが好ましい。
斯かる構成の電気防食用電極の押し込み工具に於いては、円形規制部の直径を調整することにより、押し込み用車輪と円形規制部との半径差を調整することができ、容易に電極の押し込み距離を調整することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の電気防食用電極の押し込み工具は、電極を必要以上に深く押し込むこと無く容易に電極を押し込むことができ、作業性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電気防食用電極の一例を示し、(a)は斜視図、(b)はその断面図、(c)はその側面図。
【図2】(a)は一実施形態の電気防食用電極の押し込み工具を示す正面図、(b)はその側面図、(c)は同実施形態の円形規制部を構成しうる部材を示す側面図。
【図3】(a)〜(d)は電気防食用電極をコンクリート構造物に埋設する方法に於ける各工程を示す概略断面図。
【図4】一実施形態の電気防食用電極の押し込み工具の使用状態を示す概略側面図。
【図5】他実施形態の電気防食用電極の押し込み工具を示し、(a)は正面図、(b)はその側面図。
【図6】他実施形態の電気防食用電極の押し込み工具を示し、(a)は正面図、(b)はその側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明にかかる実施形態について説明する。
まず、本実施形態の電気防食用電極の押し込み工具にて押し込まれる電気防食用電極の具体例について説明する。
【0013】
図1は、電気防食用電極の一例を示す概略図である。図1に示す如く、前記電気防食用電極1は、例えば、網目を有する長尺帯状の金属体から構成され、該金属体が幅方向(短手方向)に湾曲された形状を有している。具体的には、該電極1は、エキスパンドメタル状に加工されたものであって、前記網目を構成する各々の穴は、図1(c)に示す如く、エキスパンドメタル状に加工する際の延伸時に形成された菱形状のものである。
【0014】
前記電気防食用電極1は、該電極1の長手方向が、エキスパンドメタル状に加工する際の金属体の延伸方向となるように構成されている。エキスパンドメタル状に加工された金属体は、製造時の延伸方向に対しては比較的湾曲されやすく、延伸方向と直交する方向においては比較的湾曲され難いという特性がある。従って、該延伸方向が長手方向となるように構成することにより、長手方向において比較的柔軟性に優れたものとなり、例えば、長尺状の電極1をコイル状に券回して、保存、運搬、設置等における該電気防食用電極1の取り扱い性を良好とすることができる。
また、延伸方向と直交する方向が幅方向となるため、幅方向の長さ(つまり、電極1の幅)を収縮させながら溝3の内側へ挿入した後には、溝3と電極1とが強固に擦れあう状態となり、該電極1をより確実に溝3の内側に固定することが可能となる。
【0015】
なお、エキスパンドメタル状とは、JIS G 3351に規定されたエキスパンドメタルの形状、又はこれと同様の形状をいう。
【0016】
前記電気防食用電極1は、図1(b)に示す如く、幅方向(短手方向)の断面が略U字状となるように湾曲した状態に構成されており、より具体的には、短手方向中央部に円弧状に湾曲して下方に向かって突出するような湾曲部11と、該湾曲部11の両側から直線的に上方へ向かって延びる一対の側壁部12、12とから構成されている。
【0017】
斯かる構成の電気防食用電極1であれば、幅方向両側から圧縮力を加えることによって円弧状の湾曲部11が更に湾曲し、その結果、一対の側壁部12、12が内側へと傾斜し、幅方向の長さが収縮するように変形するため、該電極1の幅よりも狭幅の溝3へ押し込みながら設置することができる。そして、溝3の内部に挿入された電極1は、弾性変形によって幅方向に収縮した状態となるため、その復元力によって溝3の側面を押圧する。具体的には、該電気防食用電極1の側壁部12、12が溝3の側面を押圧し、電極1と溝3との間に生じる摩擦力によって該電気防食用電極1が溝3の内部に保持される。
【0018】
前記電気防食用電極1の材質としては、特に限定されるものではなく、上述のように、湾曲させた状態で弾性変形しうる任意の電極材を使用することができる。具体的には、白金メッキチタン製電極、高珪素鋳鉄製電極、黒鉛製電極、フェライト製電極または金属酸化物製電極等を使用することができる。
【0019】
また、該電気防食用電極1の寸法は、電気防食工法が実施されるコンクリート構造物2の状況や実施される電気防食工法の条件等によって適宜決定することができる。
【0020】
電気防食用電極1の具体例は上記の通りであるが、次に、本実施形態に於ける電気防食用電極1の押し込み工具5について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図2(a)は一実施形態の電気防食用電極の押し込み工具を示す正面図、(b)はその側面図、(c)は同実施形態の円形規制部を構成しうる部材を示す側面図である。
本実施形態の電気防食用電極の押し込み工具5は、コンクリート構造物2に形成された溝3内に電気防食用電極1を押し込むものであり、図2(a)、(b)に示すように、電気防食用電極1を押圧して溝3内に押し込む押し込み部6と、コンクリート構造物2に当接することにより、前記押し込み部6の溝3内への進入距離を規制する規制部7とが備えられてなる。
詳しくは、押し込み工具5は、前記押し込み部6として、溝3内に進入しうる押し込み用車輪6が備えられ、前記規制部7として、前記押し込み用車輪6と同心状に配された前記押し込み用車輪6のよりも径小の円形規制部7が備えられて構成されている。更に、押し込み工具5は、前記押し込み用車輪6を枢支する枢支部8と、該枢支部8から棒状に延出した使用者が把持するためのハンドル4とを備えている。
前記枢支部8は、前記押し込み用車輪6の回転軸となる枢支軸9と該枢支軸9を支持するフォーク10とを有している。
前記円形規制部7は、前記押し込み用車輪6の両側、詳しくは、前記枢支部8の両外側(より詳しくは前記フォーク10の両外側)に、前記押し込み用車輪6と同心状となるように配置されてなり、例えば、前記押し込み用車輪6と同期して回転するように取り付けられている。
【0022】
本実施形態の電気防食用電極の押し込み工具5は、図2(c)に示すように、円形規制部7を構成しうる部材として前記枢支部8に取り付けられた円形体7aと該円形体7aに外嵌装着されうる環状スリーブ7bとを備え、前記円形規制部7は、前記円形体7aのみによって構成された最径小状態と、円形体7aと該円形体7aに外嵌装着された環状スリーブ7bとで構成された径大状態とをとりうるように構成されている。
好ましくは、本実施形態の電気防食用電極の押し込み工具5は、円形規制部7毎に、円形規制部7を構成しうる部材として前記円形体7aと該円形体7aに順次外嵌装着されうる複数の環状スリーブ7b1、7b2とを備え、前記円形規制部7は、前記円形体7aのみによって構成された最径小状態と、前記円形体7aと1以上の環状スリーブ7bとで構成された複数の径大状態とをとりうるように構成されてなり、構成部材として用いる環状スリーブ7bの数を調整することにより、直径調整が可能とされてなる。
【0023】
本実施形態の電気防食用電極の押し込み工具5は、上記の如く構成されてなるが、次に斯かる電気防食用電極の押し込み工具5を使用して電気防食用電極1を埋設する方法について説明する。
図3は、電気防食用電極1の埋設方法の一例を示した概略図である。図3に示す如く、まず、コンクリート構造物2に、該電気防食用電極1の幅よりも幅狭の溝3を形成する。具体的には、電気防食用電極1の幅に対して、0.8〜0.9倍程度の幅の溝3を形成することが好ましく、例えば、該電気防食用電極1の幅が10mmであれば、溝3の幅は8〜9mmとすることが好ましい。
該溝3は、例えばコンクリートカッター等を用いて形成することができ、必要に応じて複数の溝3を形成することができる。
【0024】
また、該溝3の深さについては、特に限定されるものではなく、上記のような電気防食用電極1をその内部に収容し、モルタルやグラウト材を充填することで該電極1を埋設可能な深さであればよい。特に、モルタルやグラウト材の厚みを十分に確保し、より確実に該電極1を埋設するという観点からは、該電極1の高さよりも5〜15mm程度大きな深さとすることが好ましい。
【0025】
斯かる寸法の溝3を形成した後、図3に(a)に示す如く、該溝3に沿って該溝3の上方に電極1を配し、次いで、図3(b)および(c)に示す如く、上記構成の電極1を該溝3の内部に挿入する。
挿入する際に於いては、本実施形態の電気防食用電極の押し込み工具5を用いて、該電極1を幅方向に弾性変形させつつ幅方向の長さを収縮させながら、長手方向に沿って順次溝3に押し込んでいく。
具体的には、例えば、図4に示す如く、ハンドル4を把持しつつU字状に湾曲した電極1の内側(即ち、前記側壁部12と側壁部12との間)に押し込み部6としての押し込み用車輪6を挿入し、且つ円形規制部7を溝3の両壁たるコンクリート構造物2に当接させる。そして、押し込み工具5を溝3方向(電極1の長手方向)に進行させることにより、連続的に長尺状の電極1を溝3に押し込んで行くことができる。
斯かる押し込み工具5を用いることにより、図5に示す如く、電極1を必要以上に深く押し込むこと無く、溝3内の所定の深さに押し込むことができる。
ここで、押し込み深さの調整は、予め円形規制部7と押し込み用車輪との半径の差L(図2(b)参照)が所定の値となるように、円形規制部7を構成する環状スリーブ7bの数を調整して(即ち、より深く押し込む場合には、環状スリーブ7bを用いずに、浅く押し込む場合には、環状スリーブ7bを必要数外嵌装着して)円形規制部7の直径を調節することにより行うことができる。
【0026】
また、前記電気防食用電極1は、幅方向中央部に下方へ突出した円弧状の湾曲部11を備えているため、溝3の内部へ押し込む際には、該湾曲部11によって電極1が順次溝3の内部に案内されるため、挿入作業が行いやすいという効果がある。
【0027】
挿入された電極1は、図3(c)に示す如く、短手方向に弾性変形して収縮した状態で溝3の内部に収容され、即ち、側壁部12、12が溝3の両側から挟持された状態となる。
【0028】
次いで、図3(d)に示す如く、溝3を埋めるべく、溝3の内部にモルタルやグラウト材を充填することにより、電気防食用電極1を埋設することができる。
尚、上記に於いては、電極1を埋設する方法として、電極1を押し込んだ後にのみモルタルやグラウト材を充填する方法を例示したが、例えば、電極1を押し込む前に、モルタルやグラウト材の一部(例えば、2〜5割程度)を予め充填し、次いで、電極1を押し込んだ後に残りのモルタルやグラウト材を充填することにより電極1を埋設してもよい。
【0029】
本実施形態の電気防食用電極の押し込み工具5は、上記の如く構成され、上記の如く使用されるものであったが、本発明の電気防食用電極の押し込み工具5は、上記構成に限定されず適宜設計変更可能である。
【0030】
例えば、図5に示すように、押し込み部6として、溝3内に進入しうる押し込み用車輪6を備え、更に、該押し込み用車輪6を枢支する枢支部8を備え、該枢支部8は、押し込み用車輪6の回転軸となる枢支軸9と該枢支軸9を支持する1対のフォーク10とを備え、規制部7として、各フォーク10の枢支軸側先端部が溝3の両壁部たるコンクリート構造物2に当接しうるように形成されてなり、更に、該規制部7たる各フォーク10の枢支軸側先端部が、コンクリート構造物2に当接しつつ摺動しうるように曲面状に形成されなる構成であってもよい。
斯かる構成に於いては、規制部7たる各フォーク10の枢支軸側先端部が曲面状に形成されてなるので、該規制部7をコンクリート構造物2に当接させながら容易に摺動させることができ、その結果、容易に長手方向に沿って連続的に電極1を押し込んでいくことができる。
【0031】
また、図6に示すように、押し込み部6として、溝3内に進入しうる押し込み用車輪6を備え、更に、該押し込み用車輪6よりも径小で軸方向に長い円柱状体が押し込み用車輪6に同軸状に嵌入されることにより、規制部7として、押し込み用車輪6の両側に円形規制部7が形成されてなる場合であってもよい。
更に、斯かる構成においては、円形規制部7と押し込み用車輪6とが同期して一体的に回転するように構成されてなるものであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1・・・電気防食用電極、 2・・・コンクリート構造物、 3・・・溝、 5・・・電気防食用電極の押し込み工具、 6・・・押し込み用車輪(押し込み部)、 7・・・円形規制部(規制部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に形成された溝内に電気防食用電極を押し込むための電気防食用電極の押し込み工具であって、
電気防食用電極を押圧して溝内に押し込む押し込み部と、コンクリート構造物に当接することにより、前記押し込み部の溝内への進入距離を規制する規制部とが備えられてなることを特徴とする電気防食用電極の押し込み工具。
【請求項2】
前記押し込み部として、溝内に進入しうる押し込み用車輪が備えられ、前記規制部として、前記押し込み用車輪と同心状に配された前記押し込み用車輪のよりも径小の円形規制部が備えられてなる請求項1記載の電気防食用電極の押し込み工具。
【請求項3】
前記円形規制部は、直径調整が可能である請求項2記載の電気防食用電極の押し込み工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−138481(P2010−138481A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79239(P2009−79239)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】