説明

電気防食用電極体及び電極装置

【課題】 緩みや接触不良がなく安定して使用でき、また電極体の交換が簡便化され、かつ電極体そのものの長寿命化が達成され、経済性及び環境性に優れた電気防食用電極体及び電極装置を提供すること。
【解決手段】 不導態金属とその表面の貴金属被覆層からなる棒状の電気防食用電極体であって、末端部にナットと電極受体先端部に形成された雄ネジと螺合するための内面に雌ネジが形成された保持穴又は電極受体先端部の保持穴に形成された雌ネジと螺合するための雄ネジとを有し、かつ先端部の断面が円弧状である電気防食用電極体、並びに該電極体と電極受体とを有する電極防食用電極装置を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、復水器、熱交換器等の金属製機器類を海水等の腐食性液体による腐食から防止するための電気防食用電極体及び電極装置に関し、より詳しくは電極体の交換を簡便化し、かつ電極体そのものの長寿命化が達成され、経済性に優れ、また産業廃棄物を低減させることができる電気防食用電極体及び電極装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、復水器、熱交換器等の金属製機器類は、鉄、銅、チタン等の金属から構成され、腐食を防止するためその表面に防食塗装がなされている。
【0003】
しかし、防食塗装の一部にピンホールが生じた場合には、金属が露出し、そこに局部電池が形成され、金属がイオン化し、海水等の電解液中に溶出する。このため、金属の露出部分に腐食が生成することとなる。
【0004】
このため、上記金属機器類には電気防食用電極装置を設置し、電気防食が行われている。このような電気防食用電極装置に用いられる電極としては、鉛銀合金製のものが用いられていた。
【0005】
ところが、この鉛銀合金製電極は、電極表面積当たりの単位発生電流が小さく、消耗率が大きい。そこで、電極形状を大きくするか、電極数を多くしなければならないという不都合が生じる。また、鉛を使用することから廃棄処分等において環境性の点からも問題がある。
【0006】
そこで、特許文献1(特公昭42−23810号公報)等に示されるように、電極表面積当たりの単位発生電流が大きく、消耗率が小さい電極としてチタン等の不導態金属の表面に、白金等の貴金属をメッキ又は溶射した貴金属被覆層を有する不溶性電極が従来より提案されている。
【0007】
このような不溶性電極は、不導態金属の表面に形成された貴金属被覆層によって発生電流密度が定められる。このため貴金属被覆層を有効に利用し、不溶性電極の長寿命化を図る種々の試みがなされている。例えば特許文献2(特公平3−43354号公報)には、表面にイオン照射処理又はイオンミキシング処理を施すことによって、不導態金属の表面への露出等を防止することにより、不溶性電極を長寿命化することが記載されているが、不溶性電極の長寿命化には限度がある。
【0008】
不溶性電極は、上述のように、表面に形成された貴金属被覆層によって発生電流密度が定められるため、チタン等の不導態金属は表面が有効に利用できればよい。高価な不導態金属を必要以上に使用することは、電極コストを引き上げることになり、非常に不経済である。そのため、従来の不溶性電極は、経済的観点から線状又は筒状に形成して使用するのが一般的である。しかし、このような形状の不溶性電極は、水流等の物理的影響に弱く、また短絡事故等を起こす恐れがあった。
【0009】
また、不溶性電極の表面に被覆された貴金属被覆層の消耗後に残されたチタン等の不導態金属は、使用可能な状態にも拘われらず、廃棄処分されており、極めて不経済である。
【0010】
上記金属機器類、例えば復水器に不溶性電極を設置するには、不溶性電極を電極受体に取り付けフランジ型電極装置として使用し、電極を交換する際には、フランジ型電極装置に外足場を組み、フランジ型電極装置と水室外の通電用ケーブルと電線管を取り外す必要がある。また、交換後に、水密検査、ケーブルの接続、電線管の復旧作業が伴う。また、電極と電極受体は一体構造となっているので、交換後は、白金等の貴金属を回収するため電極を切断して貴金属を回収する必要が生じる。
【0011】
上述した課題の一つの対策として、不溶性電極の交換を容易にするため、電極と電極受体を取り外し可能とした電気防食用電極装置が提案されている。特許文献3(実公昭57−55330号公報)には、絶縁リングが嵌入固定された金属製筒状支持マウントがフランジ当板を介して機器類内壁に貫通固定され、支持マウントに不導態金属製ボルトが貫通固定され、このボルトの内壁側突端部に、不導態金属製筒状体の表面に貴金属層が形成された不溶性陽極がネジ込まれている電気防食用電極装置が記載されている。
【0012】
また、特許文献4(特開2001−226788号公報)には、電極棒と保持体とを含み、電極棒は一端に固定端部を含み、固定端部は表面に雄ねじが形成されており、保持体は電気絶縁性を有し、一端に保持穴を含み、保持穴は内面に雌ねじが形成されており、電極棒及び保持体は、固定端部の雄ねじ及び保持穴の雌ねじの部分で互いにねじ結合している電気防蝕用電極装置が記載されている。
【0013】
これら特許文献3及び4に記載の電極装置によって、電極の交換が容易であったり、長期間しても機能の低下が少ないとされている。
【0014】
しかし、これらの電極装置においても、電極の交換が容易に行うことは難しい。例えば、電極(不溶性陽極)の交換が容易であるとされている特許文献3の電極装置においても、ねじを外すのが容易ではなく、またボルトと不溶性陽極が共回りしたり、使用中に緩みや接触不良が生じたりして実用的ではなく、筒状体の陽極を用いるため強度的に問題がある。
【0015】
このように、従来においては、緩みや接触不良がなく安定して使用でき、また電極(体)の交換を簡便化し、かつ電極体そのものの長寿命化が達成された電気防食用電極体及び電極装置は得られていない。
【0016】
【特許文献1】特公昭42−23810号公報
【特許文献2】特公平3−43354号公報
【特許文献3】実公昭57−55330号公報
【特許文献4】特開2001−226788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の目的は、緩みや接触不良がなく安定して使用でき、また電極体の交換が簡便化され、かつ電極体そのものの長寿命化が達成され、経済性及び環境性に優れた電気防食用電極体及び電極装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、検討の結果、末端部にナットを設け、かつ先端部の断面を円弧状とした電気防食用電極体、並びに電極体と電極受体とを有し、両者を螺合してなり、螺合部分の電極体及び電極受体のそれぞれにナットを配置することにより、上記目的が達成し得ることを知見して本発明に至った。
【0019】
すなわち、本発明は、不導態金属とその表面に設けられた貴金属被覆層とからなる棒状の電気防食用電極体であって、末端部にナットと電極受体先端部に形成された雄ネジと螺合するための内面に雌ネジが形成された保持穴とを有し、かつ先端部の断面が円弧状であることを特徴とする電気防食用電極体を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、不導態金属とその表面に設けられた貴金属被覆層とからなる棒状の電気防食用電極体であって、末端部にナットと電極受体先端部の保持穴に形成された雌ネジと螺合するための雄ネジとを有し、かつ先端部の断面が円弧状であることを特徴とする電気防食用電極体を提供するものである。
【0021】
本発明に係る上記電気防食用電極体において、上記不導態金属がチタンであり、上記貴金属が白金であることが望ましい。
【0022】
本発明に係る上記電気防食用電極体において、上記貴金属被覆層が全面に形成されていることが好ましい。
【0023】
本発明に係る上記電気防食用電極体において、上記先端部の貴金属被覆層の厚みが、他の部分の貴金属被覆層の厚みより厚いことが好ましい。
【0024】
また、本発明は、電極体と電極受体とを有する電気防食用電極装置であって、該電極受体の先端部に設けられた雄ネジと該電極体の末端部の保持穴に形成された雌ネジとを螺合してなり、該電極受体の先端部と該電極体の末端部とにそれぞれナットが配置されていることを特徴とする電気防食用電極装置を提供するものである。
【0025】
また、本発明は、電極体と電極受体とを有する電気防食用電極装置であって、該電極受体の先端部の保持穴に形成された雌ネジと該電極体の末端部に設けられた雄ネジとを螺合してなり、該電極受体の先端部と該電極体の末端部とにそれぞれナットが配置されていることを特徴とする電気防食用電極装置を提供するものである。
【0026】
本発明に係る上記電気防食用電極装置において、上記電極受体の先端部に配置されたナットと上記電極体の末端部に配置されたナット間に座金が挿入されていることが望ましい。
【0027】
本発明に係る上記電気防食用電極装置において、上記電極受体が共回り防止手段を備えることが望ましい。上記共回り防止手段は、上記電極受体を被覆する凸部を有する絶縁性樹脂とその外周を被覆し、凹部を有する支持金具とからなり、該凸部と該凹部を嵌合してなるものが好ましく用いられる。
【0028】
本発明に係る上記電気防食用電極装置において、上記電極体は、上述した本発明に係る電気防食用電極体が好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る電気防食用電極体は、先端部の断面が円弧状になっているため、貴金属被覆層の電流分布の偏りを軽減でき、また貴金属被覆層の剥離等の事態も回避できる。さらに、断面が円弧状の先端部の貴金属被覆層の厚みを他の部分の貴金属被覆層の厚みより厚くすることによって、電極寿命を延長することができる。しかも、電極受体との螺合部にナットを有することから、電極受体との緩みや接触不良を防止することができる。また、貴金属被覆層が消耗した電極体は、再度、貴金属を被覆することにより再利用できるので、産業廃棄物が大幅に減少すると共に経済的である。
【0030】
また、本発明に係る電気防食用電極装置は、電極体と電極受体との螺合部にそれぞれナットを有することから、電極体の交換が極めて容易となる。また、ナット間に座金が挿入されているので使用時の緩みや接触不良が一層防止される。また、電極受体に共回り防止手段を備えているので、電極受体が電極体と共回りすることがないので電極体の交換が一層容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は、本発明に係る電気防食用電極装置1の一実施形態を示す概略断面図である。
【0032】
図1において、本発明に係る電気防食用電極装置1は、棒状の電極体2と電極受体6とを有する。電極体2は、不導態金属3とその表面を被覆した貴金属被覆層4からなるものである。従来用いられている電極体は筒状が一般的であるが、機械的強度が不充分であるため、本発明では棒状の電極体2が用いられる。不導態金属としてはチタン、タンタル、ニオブ等が用いられるが、チタンが一般的に用いられる。また、貴金属被覆層としては白金、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ロジウム、オスミウム、もしくはそれらの合金が用いられるが、白金が通常用いられる。また、電極受体6は不導態金属3と同様の材質からなり、チタン製等が一般的である。
【0033】
図2に示されるように、本発明に係る電気防食用電極体2は、先端部の断面が円弧状、すなわち棒状の電極体の先端部が丸目加工されている。従来の電極体のように角部を有する場合には、角部付近からより多くの電流が流れるので、角部近傍での貴金属被覆層の消耗が著しいため、剥離、脱落等の事態を招く、そこで本発明では、先端部の断面を円弧状としている。
【0034】
貴金属層4は、破壊電圧等を考慮してチタン等の不導態金属の露出し、不導態金属の溶出を防ぐために、ナット等の表面を含めて全面に被覆されていることが望ましい。
【0035】
また、図2に示されるように、本発明に係る電極体の先端部の貴金属被覆層3の厚みは、他の貴金属被覆層3の厚みよりも厚くなっていることが望ましい。これは先端部の消耗が他の部分の消耗の2倍程度あるからであり、先端部の貴金属被覆層の厚みを他の貴金属被覆層の厚みの2〜3倍とすることが望ましい。先端部の貴金属被覆層の厚みは10〜15μm、他の部分の貴金属被覆層の厚みは3〜7μmとするのが望ましい。
【0036】
図1に示されるように、本発明に係る電気防食用電極体2の末端部には、電極体側ナット5を有し、また電極受体先端部に形成された雄ネジと螺合するための内面に雌ネジが形成された保持穴(図示せず)を有している。上記電極体側ナットを設けるのは、後述するように電極受体から電極体の取り外しを容易にするためである。なお、図1は、電極受体先端部に形成された雄ネジと螺合するための内面に雌ネジが形成された保持穴を設けたものを示しているが、本発明に係る電気防食用電極体は、逆に電極受体先端部の保持穴に形成された雌ネジと螺合するための雄ネジを形成てもよい。
【0037】
本発明に係る電気防食用電極装置1の電極体2と電極受体6の螺合部の斜視図を図3に示し、図1と共に説明する。電極体2の末端部に形成された雌ネジが形成された保持穴(図示せず)に電極受体6の先端部に設けられた雄ネジ8を螺合する。電極体2には電極体側ナット5が電極受体6には電極受体側ナット7がそれぞれ配置され、電極体の交換を容易にしている。なお、図3は、電極体2に雌ネジ、電極受体6に雄ネジを形成したものを示しているが、本発明に係る電気防食用電極装置は、電極体に雄ネジ、電極受体に雌ネジを形成してもよい。
【0038】
また、電極体側ナット5と電極受体側ナット7の間には、座金9,10が挿入され、電極装置使用時の電極体1と電極受体6の緩みや接触不良を防止している。なお、図1及び3において、11は共回り防止手段、12は絶縁性樹脂、13は絶縁性スリーブ、14は絶縁体、15は支持金具、16は固定ボルト及び17はケーブル接続端子であり、絶縁性樹脂12はエポキシ系接着性樹脂等からなり、絶縁性スリーブ13はポリ塩化ビニル等からなる。
【0039】
図4は、図1のA−A部分の断面図であり、本発明に係る電気防食用電極装置に用いられる共回り防止手段11を示す図である。図1及び図4に示されるように、電極受体6は絶縁性樹脂12と絶縁性スリーブ13で被覆されいる。共回り防止手段11は、さらにその外周を被覆する凸部を有する絶縁性樹脂12とその外周を被覆し、凹部を有する支持金具15とからなり、該凸部と該凹部を嵌合してなるものである。この共回り防止手段11は、電極受体6から電極体2を外し、電極体2を交換する際に、電極受体6の共回りを防止している。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る電気防食用電極体及び電極装置により、電極体の交換が簡便化され、使用中にも緩みや接触不良がなく安定しており、また電極体そのものの長寿命化が達成され、経済性及び環境性に優れる。従って、本発明に係る電気防食用電極体及び電極装置は、復水器、熱交換器等の金属製機器類の電気防食用電極体及び電極装置として好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明に係る電気防食用電極装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】図2は、本発明に係る電気防食用電極体の先端部の断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る電気防食用電極装置の電極体と電極受体との螺合部の斜視図である。
【図4】図4は、図1のA−A部分の断面図であり、本発明に係る電気防食用電極装置に用いられる共回り防止手段を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1:電気防食用電極装置
2:電極体
3:不導態金属(チタン)
4:貴金属被覆層(白金被覆層)
5:電極体側ナット
6:電極受体
7:電極受体側ナット
8:雄ネジ
9:座金1
10:座金2
11:共回防止手段
12:絶縁性樹脂
13:絶縁スリーブ
14:絶縁体
15:支持金具
16:固定ナット
17:ケーブル接続端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不導態金属とその表面に設けられた貴金属被覆層とからなる棒状の電気防食用電極体であって、末端部にナットと電極受体先端部に形成された雄ネジと螺合するための内面に雌ネジが形成された保持穴とを有し、かつ先端部の断面が円弧状であることを特徴とする電気防食用電極体。
【請求項2】
不導態金属とその表面に設けられた貴金属被覆層とからなる棒状の電気防食用電極体であって、末端部にナットと電極受体先端部の保持穴に形成された雌ネジと螺合するための雄ネジとを有し、かつ先端部の断面が円弧状であることを特徴とする電気防食用電極体。
【請求項3】
上記不導態金属がチタンであり、上記貴金属が白金である請求項1又は2記載の電気防食用電極体。
【請求項4】
上記貴金属被覆層が全面に形成されている請求項1、2又は3記載の電気防食用電極体。
【請求項5】
上記先端部の貴金属被覆層の厚みが、他の部分の貴金属被覆層の厚みより厚い請求項1、2、3又は4記載の電気防食用電極体。
【請求項6】
電極体と電極受体とを有する電気防食用電極装置であって、該電極受体の先端部に設けられた雄ネジと該電極体の末端部の保持穴に形成された雌ネジとを螺合してなり、該電極受体の先端部と該電極体の末端部とにそれぞれナットが配置されていることを特徴とする電気防食用電極装置。
【請求項7】
電極体と電極受体とを有する電気防食用電極装置であって、該電極受体の先端部の保持穴に形成された雌ネジと該電極体の末端部に設けられた雄ネジとを螺合してなり、該電極受体の先端部と該電極体の末端部とにそれぞれナットが配置されていることを特徴とする電気防食用電極装置。
【請求項8】
上記電極受体の先端部に配置されたナットと上記電極体の末端部に配置されたナット間に座金が挿入されている請求項6又は7記載の電気防食用電極装置。
【請求項9】
上記電極受体が共回り防止手段を備える請求項6、7又は8記載の電気防食用電極装置。
【請求項10】
上記共回り防止手段が、上記電極受体を被覆する凸部を有する絶縁性樹脂とその外周を被覆し、凹部を有する支持金具とからなり、該凸部と該凹部を嵌合してなるものである請求項9記載の電気防食用電極装置。
【請求項11】
上記電極体が、請求項1〜5のいずれかに記載の電極体である請求項6〜10のいずれかに記載の電気防食用電極装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−51320(P2007−51320A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236484(P2005−236484)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000211891)株式会社ナカボーテック (42)
【Fターム(参考)】