説明

電気音響変換システム

【課題】電気音響変換の改良を図った小型ラウドスピーカ・システムを提供する。
【解決手段】電気音響変換装置は、オーディオ電気信号を受け取る入力を含む。第1電気音響変換器は、この入力上のオーディオ電気信号に応答して、第1周波数範囲内の第1音波を第1方向に放射するように構成かつ配置されている。第2電気音響変換器は、第2周波数範囲内の音響エネルギを第2方向に放射するように構成かつ配置されている。第3電気音響変換器は、第2周波数範囲内の音響エネルギを第3方向に放射するように構成かつ配置されている。相互結合回路は、入力を第2変換器および第3変換器に相互結合し、第2変換器および第3変換器に、第2および第3方向に音響エネルギを放射させるように構成かつ配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、電気音響変換に関し、更に特定すれば、所定のパターンの音波を放射し、変換対象音源の真に迫った音響像(acoustic image)を発生する、小型ラウドスピーカ・システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
背景技術として、米国特許第4,503,553号および第5,210,802号、および"Stereophonic Projection Console" (IRE Transactions on AudioVol. AU-8, No. 1, pp. 13-16 (1/2月、1996年)と題する文献を引用する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の重要な目的は、電気音響変換の改良を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、ラウドスピーカ・システムは、オーディオ電気信号を受け取る入力と、第1方向を向き、前記入力に結合され、第1周波数範囲内の第1音波を放射する第1変換器と、第2方向を向き、第2音波を放射する第2変換器と、第3方向を向き、第3音波を放射する第3変換器とを含む。ロー・パス・フィルタが、前記入力を前記第2変換器および前記第3変換器に結合し、前記第2変換器および前記第3変換器に変更されたオーディオ電気信号を供給する。遅延ネットワークが、第2音波および第3音波の放射を遅延させ、これらが第2および第3方向に放射される第1音波の部分と実質的に対向することによって、第2および第3方向における第1音波を実質的に打ち消す。
【0005】
本発明の他の態様においては、指向性ラウドスピーカ・システムは、第1周波数範囲において実質的にダイポール音響放射パターンを有する第1ラウドスピーカと、前記第1周波数範囲内において実質的に無指向性音響放射パターンを有する第2ラウドスピーカとを含む。前記第1ラウドスピーカおよび前記第2ラウドスピーカは、第1および第2方向の放射を、それぞれ、累積的および差分的に結合するように構成されている。
【0006】
本発明の他の態様においては、マルチチャネル・オーディオ再生装置は、エンクロージャと、第1オーディオ電気信号を受け取る第1入力と、前記エンクロージャ内にあり、前記第1入力に結合され、第1音波を放射する第1変換器と、前記エンクロージャ内にあり第2音波を放射する第2変換器と、前記第1入力を前記第2変換器に結合し、前記第2音波が第1方向において前記第1音波と対向するように構成かつ配置されている第1信号変更部と、第2オーディオ電気信号を受け取る第2入力と、前記エンクロージャ内にあり、前記第2入力に結合され、第3音波を放射する第3変換器と、前記エンクロージャ内にあり、第4音波を放射する第4変換器と、前記第2入力を前記第4変換器に結合し、前記第4音波が第2方向において前記第2音波と対向するように構成かつ配置されている第2信号変更部とを含む。
【0007】
本発明の更に他の態様においては、マルチチャネル・オーディオ再生システムは、第1オーディオ電気信号を受け取り、第1音波を放射する第1変換器に結合されている第1入力と、第2オーディオ電気信号を受け取り、第2音波を放射する第2変換器に結合されている第2入力と、前記第1入力を第3変換器に結合する第1信号変更部と、前記第2入力を第3変換器に結合する第2信号変更部とを含み、前記第3変換器が、前記第1方向において前記第1音波および前記第2音波と実質的に対向する第3音波を放射するように構成かつ配置されている。
【0008】
その他の特徴、目的および利点は、添付図面との関連において以下の詳細な説明を読むことによって明白となろう。尚、図面を通じて、同一参照記号は対応する要素を識別するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明によるラウドスピーカ・システムの等角投影図。
【図2】室内オーディオ再生システムにおける、図1のラウドスピーカ・システムの概略図。
【図3】本発明によるラウドスピーカ・システムの第2実施例の概略図。
【図4】本発明による室内ラウドスピーカ・システムの第3実施例の概略図。
【図5】本発明による室内ラウドスピーカ・システムの第4実施例の概略図。
【図6】本発明によるラウドスピーカの第5実施例の概略図。
【図7】本発明によるラウドスピーカ・システムの第6実施例を総合的に示す図。
【図8】本発明によるラウドスピーカ・システムの第7実施例を総合的に示す図。
【図9】図2のラウドスピーカ・システムの、ネットワークを更に詳細に示す線図。
【図10】図2のラウドスピーカ・システムの、ネットワークを更に詳細に示す線図。
【図11】図2のラウドスピーカ・システムの、ネットワークを更に詳細に示す線図。
【図12】図2のラウドスピーカ・システムの、ネットワークを更に詳細に示す線図。
【図13】図9ないし図12のようなネットワークの相対的位相対時間遅延の関係を示すグラフ。
【図14】本発明の実施例において使用されるような変換器の音場の極座標図。
【図15】本発明の実施例において使用されるような変換器の音場の極座標図。
【図16】本発明の実施例において使用されるような変換器の音場の極座標図。
【図17】本発明の実施例において使用されるような変換器の音場の極座標図。
【図18】本発明の実施例のネットワーク部分を実施する回路の構成図。
【図19】図18の回路について、位相差を周波数の関数として示すグラフ。
【図20】図18の回路について、遅延を周波数の関数として示すグラフ。
【図21】図18の回路について、振幅を周波数の関数として示すグラフ。
【図22】本発明の実施例の音場の極座標図。
【図23】本発明の実施例の音場の極座標図。
【図24】本発明の実施例の音場の極座標図。
【図25】本発明の実施例の音場の極座標図。
【図26】本発明の実施例の音場の極座標図。
【図27】本発明の実施例の音場の極座標図。
【図28】本発明によるラウドスピーカ・システムによって異なる2方向に放射される音の強度を、周波数の関数として表すグラフ。
【図29】本発明によるラウドスピーカ・システムによって異なる2方向に放射される音の強度を、周波数の関数として表すグラフ。
【図30】本発明による他のラウドスピーカ・システムの等角投影図。
【図31】図30によるラウドスピーカの音場の極座標によるグラフ。
【図32】図32Aは本発明の他の実施例の斜視図。図32Bは本発明の他の実施例の部分的正面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面特に図1を参照すると、本発明によるラウドスピーカ・ユニット10の等角投影図が示されている。ハウジング即ちエンクロージャ(包囲体)8は、それぞれ方向18,20および22に向いている3つの電気音響変換器(トランスデューサ)即ちラウドスピーカ・ドライバ12,14,16を支持する。
【0011】
図2を参照すると、ある部屋のオーディオ再生システムにおける、図1のラウドスピーカ・ユニット10の概略図が示されている。第1ドライバ12は、第2ドライバ14および第3ドライバ16に対してほぼ直角な空間に向けられており、それぞれ、長さl1およびl2の経路33および35によってそれぞれ分離されている。
【0012】
オーディオ信号源24は、オーディオ電気信号を電気音響変換器12,14,16に送出し、対応する音波を放射する。ネットワーク100は、変換器に送出される信号を変更し、変換器12,14,16の組み合わせによって放射される音波のパターンを制御することによって、所望の音場を生成する。一実施例では、ネットワーク100は、ラウドスピーカ・ユニット10の放射パターンが方向18に強い指向性を有するように、信号の変更を行う。動作において、オーディオ信号源24は、ネットワーク100を通じてオーディオ信号を第1変換器12、第2変換器14、および第3変換器16に送出し、これらの変換器は音波を放射する。ネットワーク100は、第1変換器12において放射される音波が第2変換器14に到達するときに、第2変換器14が第1変換器12から到達した音波とは位相が外れ、振幅が同様の音波を放射するように、オーディオ信号の時間および振幅特性を変更する。その結果、方向20において、第2変換器14から放射された音波が、第1変換器12から放射された音波と実質的に対向することになる。同様に、ネットワーク100は、第1変換器12によって放射された音波が第3変換器16に到達するときに、第3変換器16が第1変換器12から到達する音波とは位相が外れ、振幅が同様の音波を放射するように、オーディオ信号を変更する。その結果、方向22において、第3変換器16から放射された音波が、第1変換器12から放射されら音波と実質的に対向する(反対となる)ことになる。第1変換器12から到達する音波は、方向20および22において実質的に対向するので、ラウドスピーカ・ユニットからの放射は、方向18に対する指向性が強くなる。尚、ラウドスピーカ・ユニットが指向性を有する方向に音を放射する変換器を「主変換器」と定義し、主変換器によって放射される音波に対向する音波を放射する変換器を「バッキング変換器(bucking transducer)」と定義すると好都合であろう。単一の変換器が主変換器およびバッキング(対抗)変換器双方となる場合もあり、また1つのバッキング変換器が1つ以上の主変換器によって放射される音波に対向する場合もある。
【0013】
図2の実施例では、方向18に放射され音響反射面36で反射されて、目的の聴取位置にいる聴取者34に到達する音波の音響経路の方が長く、したがって(変換器12,14,16から直接到達する音波のような)他の音源から直接到達する音波よりも到達が遅れる。しかしながら、方向18に放射され、音響反射面36において反射する、振幅が格段に大きな音波(約10dB)を生成することによって、聴取者34は、心理音響学的受容基準(accepted psychoacoustic criteria)にしたがって、反射面36の一般的な方向において1つ以上の「仮想音源」として、音源を知覚するので、知覚音像の拡張が生ずる。仮想音源は、反射面の後ろ(即ち、反射面36および位置13の間)、またはラウドスピーカ・ユニット10および反射面36の間の位置という場合もある。音源における代わりに、「仮想音源」の反射面に向かうこの知覚、即ち、定位は、本発明の利点の1つである。
【0014】
図3を参照すると、図2の実施例の原理にしたがって構成された2つのラウドスピーカ・ユニットを含む、ラウドスピーカ・システムが示されている。ステレオ音響信号源24は、ネットワーク100Lおよび100Rをそれぞれ通じて、左信号および右信号を左ラウドスピーカ・ユニット10Lおよび右ラウドスピーカ・ユニット10Rにそれぞれ配信する。ラウドスピーカ・ユニット10Lおよび10Rは、各々、図2のラウドスピーカ・ユニット10と同様の電気音響変換器(12L,14L,16Lおよび12R,14R,16R)を有するものとすることができる。
【0015】
ラウドスピーカ10Lおよび10Rは、図2の考察において概略的に説明した動作原理にしたがって、矢印18Lおよび18Rによって示される方向にそれぞれ音を放射する。ラウドスピーカ・システム10Lおよび10Rによって放射される音は、それぞれ音響反射面36Lおよび36Rにおいて反射し、図2の考察において先に論じたように、反射面36Lおよび36Rの方向に位置する「仮想音源」によって放射されたという知覚を聴取者に対して生成する。「仮想音源」の位置は、ラウドスピーカ・ユニット10Lおよび10Rと、音響反射面36Lおよび36Rとの間の距離を変更するか、あるいは音響反射面に対するラウドスピーカ・ユニットの方位を変更することによって変化させることが可能である。図3によるラウドスピーカ・システムは、物理的にラウドスピーカを配置することが非現実的または不可能な位置に、「仮想音源」の配置を可能にするので、有利である。加えて、図3によるラウドスピーカ・システムは、ラウドスピーカを配置した部屋よりも大きな、知覚音像を発生することが可能である。なぜなら、音響反射面36Lおよび36Rからの最初の反射は、仮想音源によって音響反射面36Lおよび36Rを超えて放射されたように感じ得るからである。
【0016】
図4を参照すると、図3のラウドスピーカ・システムの他の実施例が示されている。システム200は、単一のエンクロージャに、ネットワーク100Lおよび100Rを通じてそれぞれラウドスピーカ・ユニット10Lおよび10Rに結合されている、ステレオ音響信号源24を含む。図4のシステムは、図3のシステムと同じ要素を有する(そのいくつかは図4には示されていない)。図4によるシステムは、典型的にステレオ音響信号源から離れて位置する、2つの大きく分離されたスピーカを有する多くのステレオ音響システムと同様な、またはそれよりも優れた知覚音像幅(perceived sound image width)を与えるので、有利である。図3の実施例の原理にしたがってシステム200を動作させた場合、左ラウドスピーカ・ユニット10Lおよび右ラウドスピーカ・ユニット10Rの放射パターンは、それぞれ方向18Lおよび18Rにおいて最大値を有する。方向18Lおよび18Rに放射され、それぞれ音響反射面36Lおよび36Rによって目的聴取位置にいる聴取者34に向かって反射される音波は、変換器12L,14L,16L,12R,14R,16Rによって聴取者に直接放射される音波よりも、振幅は格段に大きくなっている。図2の考察において既に論じたように、聴取者34は、反射面36Lおよび36Rの方向の仮想音源から放出される音を知覚する。
【0017】
図5を参照すると、意図する聴取位置と反対の方向に放射される音波阻止する必要のない状況に合わせた、図2のラウドスピーカ・システムの代替実施例が示されている。この例には、壁に装着するラウドスピーカ・システム、またはテレビジョン・コンソールのようなキャビネット内に取り付けるラウドスピーカ・システムを含むことができる。ラウドスピーカ・ユニット10’は、矢印18で示す方向を向いている第1電気音響変換器12’、および第1変換器12’と直交する矢印20で示す方向を向いている第2電気音響変換器14’を含む。オーディオ信号源24’が、図2のネットワーク100と同様に信号源24’からの信号を変更するネットワーク100’を通じて、第1変換器12’および第2変換器14’と結合されている。その結果、第1変換器12から放射される音波は、方向20において、第2変換器14によって放射される音波と対向する。方向18に放射され音響反射面36で反射されて目的聴取位置にいる聴取者34に向けられた音波は、聴取者34に直接放射される音波よりも格段に音が大きくなっている。この反射エネルギが、音響反射面36の方向に「仮想音源」を形成する。図5の実施例は、ラウドスピーカ・ユニット10’が壁80付近にあるときに有利である。壁80を、テレビジョン・コンソールのようなキャビネットで置き換えれば、同様の構成を用いることができる。図5の実施例は、図3、図4および図5の考察において開示した原理を組み合わせることによって、ステレオ・システムとして実施することが可能である。
【0018】
次に図6Aを参照すると、図3に示したラウドスピーカ・システムの代替実施例が示されている。ステレオ音響信号源24の左チャネルは、左ネットワーク100Lによって、第1変換器72、第2変換器74、および第3変換器76に結合されている。同様に、ステレオ音響信号源24の右チャネルは、右ネットワーク100Rを通じて、第4変換器78に結合されている。
【0019】
動作において、ステレオ音響信号源24は、ネットワーク100Lを通じて、左チャネル信号を第1変換器72、ならびに第2および第3変換器74および76に送出する。図2の実施例と同様に、ネットワーク100Lは、第2および第3変換器74および76によって放射される音波が、第1変換器72から到達する音波と対向するようにこの信号を変更する。その結果、左チャネル音場は、第1変換器72が面する方向18Lに対して指向性を有することになる。同様に、ステレオ音響信号源24は、ネットワーク100Rを通じて、第4変換器78ならびに第2および第3変換器74および76に右チャネル信号を送出する。図2の実施例と同様に、ネットワーク100Rは、第2および第3変換器74および76によって放射される音波が、第4変換器78から到達する音波と対向するように、この信号を変更する。その結果、右チャネル音場は、第4変換器78が面する方向18Rに対して指向性を有することになる。本実施例では、第2および第3変換器74,76は、第1変換器72および第4変換器78双方から到達する音波に対向するように作用する。図4の実施例におけると同様、左および右チャネルは、それぞれ音響反射面36Lおよび36Rの方向に、仮想音源から放射されるように感じられる。
【0020】
次に図6Bを参照すると、図4、図5および図6Aの実施例の態様を組み合わせた、図6Aの実施例の代替構成が示されている。この実施例およびその他の実施例では、主変換器(本図では、変換器72および78)の放射方向は、鋭角φ1およびφ2の角度に(バッキング変換器74の軸に対して)方位付けられているが、他の実施例では、この軸とほぼ直角な空間にあるものとすることも可能である。図4の実施例と同様、この構成も、ラウドスピーカ・ユニットを壁に装着したり、テレビジョン・コンソールのようなキャビネット内に取り付ける状況に、特に適している。加えて、図6Bの実施例は、マルチチャネル・システムの2つのチャネルを放射するように容易に改造可能である。これについては、以下で図7A〜図7Bおよび図8A〜図8Cの考察において説明することにする。
【0021】
次に図7Aおよび図7Bを参照すると、本発明の他の実施例が示されている。明確化の目的のために、要素間の結合は、2つの別個の図において示すこととする。マルチチャネル・オーディオ信号源95の左チャネルは、図7Aに示すように、左チャネル・ネットワーク100Lによって、第1、第2および第3変換器101,102,103に結合されている。マルチチャネル・オーディオ信号源95の右チャネルは、図7Aに示すように、第1、第2および第3変換器104,105,106に結合されている。図7Bに示すように、マルチチャネル・オーディオ信号源95の中央チャネルは、中央チャネル・ネットワーク100Cを通じて、第2、第3、第5、第6チャネル変換器102,103,105,106にそれぞれ結合されていると共に、第7および第8変換器107および108に結合されている。
【0022】
第1、第2、第3および第7変換器101,102,103および107は第1ラウドスピーカ・ユニット10L内にあり、第4、第5、第6および第8変換器104,105,106,および108は第2ラウドスピーカ・ユニット10R内にある。
【0023】
図2との関連において先に説明したのと同様に、左チャネル信号に応答して放射される音波(以降「左チャネル音波」と呼ぶ)に関して、第2および第3変換器102,103によって放射される左チャネル音波は、第2および第3変換器102,103がそれぞれ面する方向20および22において、第1変換器101から放射される左チャネル音波と実質的に対向するので、左チャネル音波は、実質的に第1変換器101が面する方向に指向性を持って放射される。中央チャネル信号に応答して放射される音波(以降、「中央チャネル音波」)に関して、第1および第7変換器101,107によって放射される中央チャネル音波は、方向18Lおよび18LCにおいて、第2変換器102から放射される中央チャネル音波に対向する。同様に、第4および第8変換器104,108によって放射される中央チャネル音波は、第4および第8変換器104,108が面する方向18RC,18Rにおいて、第5変換器105から放出される音波に対向する。したがって、中央チャネル音波は、実質的に第2変換器102および第5変換器105が面する方向20に、指向性を持って放射される。右チャネル信号に応答して放射される音波(以降、「右チャネル音波」)に関して、第5および第6変換器105,106によって放射される右チャネル音波は、第4変換器104から到達する右チャネル音波に対向するので、右チャネル音波は、実質的に第4変換器108が面する方向18Rに指向性を持って放射される。その結果、左チャネル音波は、左音響反射面36Lの方向の仮想音源において発するように見え、右チャネル音波は、右反射面36Rの方向の仮想音源において発するように見え、更に中央チャネル音波は、ラウドスピーカ・ユニット10Lおよび10R間にある仮想音源において発するように感じられることになる。図7Aおよび図7Bの実施例は、中央チャネルが方向18LCおよび18RCに指向性を持って放射するように変更することも可能である。図7Aおよび図7Bの実施例は、チャネルの1つが中央チャネルまたはモノラルであるようなマルチチャネル・システムの構成要素として有用であろう。
【0024】
図8A〜図8Cを参照すると、図7A〜図7Bのマルチチャネル・システムの代替実施例が示されている。明確化のために、左、右および中央チャネルの要素間の結合は、3つの別個の図面において示すこととする。図8Aに示すように、マルチチャネル信号源95の左チャネルは、左チャネル・ネットワーク100Lによって、第1変換器72、第2変換器74および第3変換器76に結合されている。図8Bに示すように、マルチチャネル信号源95の中央チャネルは、中央チャネル・ネットワーク100Cによって、第1変換器72、第2変換器74および第4変換器78に結合されている。マルチチャネル信号源95の右チャネルは、右チャネル・ネットワーク100Rによって、第2変換器74、第3変換器76、および第4変換器78に結合されている。
【0025】
第1、第2および第3変換器72,74,76は、図7Aおよび図7Bの変換器101,102,103と同様に動作し、実質的に第1変換器72が面する方向18Lに指向性を持って、左チャネル音波を放射する。第1、第2および第4変換器72,74,78は、図7Aおよび図7Bの変換器101,102,107、または図7Aおよび図7Bの変換器108,105,104と同様に動作し、実質的に第2変換器74が面する方向20に指向性を持って、中央チャネル音波を放射する。第2、第3および第4変換器74,78,76は、図7Aおよび図7Bの変換器105,104,106と同様に動作し、実質的に第4変換器78が面する方向18Rに指向性を持って、左チャネル音波を放射する。図8A、図8Bおよび図8Cの実施例では、第1、第2および第4変換器72,74,78は、主変換器としておよびバッキング変換器として用いられている。
【0026】
図2ないし図8Cの実施例は、空間的にほぼ直角に方位付けた主変換器およびバッキング変換器を主に示すが、本発明は、他の相対的方位でも実施可能である。
【0027】
次に図9を参照すると、図1および図2のラウドスピーカ・ユニット10の、ネットワーク100を更に詳細に示すブロック図が示されている。ネットワーク100は、第1変換器12に結合されている入力25を含む。また、入力25は、移相器27a、減衰器29aおよびロー・パス・フィルタ32aを介して第2変換器14に結合されていると共に、移相器27b、減衰器29bおよびロー・パス・フィルタ32bを介して第3変換器16にも結合されている。
【0028】
動作において、オーディオ信号源24からのオーディオ信号は、オーディオ信号入力25に入り、次いで第1変換器12に進む。オーディオ信号入力24からのオーディオ信号は、減衰および移相の後、第2変換器14を付勢する。減衰および移相の量は、第1変換器12によって放射される音波が第2変換器14に到達するときに、第2変換器14が、第1変換器12から到達する音波と振幅が同様で、移相が外れた音波を放射するように決める。同様に、オーディオ信号入力24上のオーディオ信号は、減衰よび移相の後、第3変換器16を付勢する。減衰および移相の量は、第1変換器12によって放射される音波が第3変換器16に到達するときに、第3変換器16が、第1変換器12から到達する音波と振幅が同様で、位相がずれた音波を放射するように決める。図2の考察において既に述べたように、第2変換器14および第3変換器16によって放射される移相外れ音波が、第1変換器12から到達する音波と振幅が同様である場合、方向20および22のそれぞれにおいて、実質的に打ち消し合い、約10dB以上の大幅な減少が送出音波に発生し、これによって、図2の考察において上述した効果が達成される。
【0029】
移相器27aが与える移相量Δφ1は、典型的には、−180゜−k1fであり、ここで、fは周波数、k1は第1変換器12および第2変換器14を分離する(図2の)音響経路l1の長さによって決定される定数である。移相器27bが与える移相量Δφ2は、典型的には、−180゜−k2fであり、ここで、fは周波数、k2は第1変換器12および第3変換器16を分離する(図2の)音響経路l2の長さによって決定される定数である。第2および第3変換器14および16に対する減衰量は、第1変換器12からそれらの付近に到達する音波が同様の振幅となるのに十分とする。
【0030】
定数kは、主変換器およびバッキング変換器間の音響経路の長さによって決定され、あるいは言い換えると、主変換器から放射される音波がバッキング変換器付近に到達するのに要する時間によって決定され、一般的に次の式で表される。
【0031】
[数1]k=360l/c
ここでlは、バッキング変換器および主変換器間の音響経路の長さであり、cは度数で測定した位相シフトに対する音速である。一例として、図2の実施態様では、主変換器12およびバッキング変換器14間の音響経路l1(図2)の長さが5インチ(約0.4167フィート)である場合、音の速度を1130フィート/秒と仮定すると、次のように求められる。
【0032】
[数2]k=(360x0.4167)/1130
即ち、0.133であり、移相器27aは、位相を−180−0.133fだけ位相をシフトさせる。したがって、周波数が500Hzの場合、移相量は、−180−(0.133x500)=−246.5゜となる。
【0033】
次に図10を参照すると、図9のラウドスピーカ・システムの代替実施例が示されている。ネットワーク100は、第1変換器12に結合されている入力25を含む。また、入力25は、移相器27a’、減衰器29a、およびロー・パス・フィルタ32aを介して第2変換器14に結合されていると共に、移相器27b’、減衰器29bおよびロー・パス・フィルタ32bを介して第3変換器16に結合されている。第1変換器12における「+」、ならびに第2変換器14および第3変換器16における「−」は、変換器14および16が第1変換器12とは逆の位相で駆動されていることを示す。この駆動構成は、効果的に−180゜の位相シフトを達成するので、第2変換器14付近において、第1変換器12および第2変換器14から到達する音波間に位相外れ関係を達成するための移相器27a’によって与えられる移相量Δφ1は、−k1fとなる。ここで、k1は、第1変換器12および第2変換器14を分離する音響経路の長さによって決定される定数である。同様に、第3変換器16の付近において、第1変換器12および第3変換器16から到達する音波間に位相外れ関係を達成するために移相器27b’によって与えられる移相量Δφ2は、−k2fとなり、ここでk2は、第1変換器12および第3変換器16を分離する音響経路の長さによって決定される定数である。本実施例および以降の実施例における定数k,k1,およびk2の決定は、図9の考察において上述した通りである。第1(主)変換器12および第2(バッキング)変換器14間の距離lが0.4167フィートである例では、k1の値は0.133であり、移相器27a’は、−0.133fに等しい量Δφ1、即ち、周波数が500Hzの場合を例に取ると、−66.5゜だけ位相をシフトする。必要な−244.5゜(図9の考察において教示したように)は、逆極性接続によって得られる−180゜の位相シフト、ならびに移相器27a’および27b’によって得られる−66.5゜によって達成する。
【0034】
次に図11を参照すると、図9のラウドスピーカ・システムの他の代替実施例が示されている。図11のラウドスピーカ・システムにおいて、第1変換器12における「+」、ならびに第2変換器14および第3変換器16における「−」は、図10の考察において上述したのと同じ関係を示す。図11のネットワーク100は、第1変換器12に結合されていると共に、共通移相器27、減衰器29およびロー・パス・フィルタ32を介して第2および第3変換器14および16に結合されている入力25を含む。本実施例では、第1変換器12および第2変換器14間の音響経路の長さ、ならびに第1変換器12および第3変換器16間の音響経路の長さはほぼ等しい。移相器27によって発生する移相量Δφは、−kfであり、ここでkは図10の定数k1およびk2と同様に決定される定数である。図11の実施例は、図9の移相器、ならびに第2および第3変換器14,16に対する適切な接続によって実施することができる。
【0035】
図12を参照すると、図9のラウドスピーカ・システムの他の代替実施例が示されている。オーディオ信号入力25は第1変換器12に結合されている。また、入力25は、遅延ネットワーク28a、減衰器29a、およびロー・パス・フィルタ32aを介して第2変換器14に結合されていると共に、遅延ネットワーク28b、減衰器29bおよびロー・パス・フィルタ32bを介して第3変換器16にも結合されている。図12のラウドスピーカ・システムでは、第1変換器12における「+」、ならびに第2変換器14および第3変換器16における「−」は、図10の考察において上述したのと同じ関係を示す。遅延ネットワーク28aが発生する時間遅延量Δtは、第1変換器12によって放射される音波が第2変換器14に到達するのにかかる時間量、即ちl1/cである。ここで、l1は第1変換器12および第2変換器14間の音響経路の長さ、cは音速である。したがって、例えば、距離l1が0.4167フィートであり、音速が毎秒1130フィートである場合、遅延Δt=0.4167/1130、即ち369μ秒となる。図12の実施例は、図11のように、共通の減衰器、遅延、およびロー・パス・フィルタによって実施することができる。
【0036】
図13を参照すると、図9ないし図12の移相器および図12の遅延ネットワーク間の関係を説明する際に役立つ、異なる周波数における信号波形のグラフが示されている。周波数f0(波形30)において、間隔Δtの時間遅延は、90゜の位相ずれΔφ(波形40)と等価である。周波数1.5f0(波形42)では、間隔Δtの時間遅延は、135゜の位相ずれ(波形44)と等価である。即ち、波形40によって示される位相ずれの1.5倍である。周波数2f0(波形46)では、間隔Δtの時間遅延は、180゜の位相ずれΔφ(波形48)と等価である。即ち、波形40によって示される位相ずれの2倍である。同様に、他の周波数においても、間隔Δtの時間遅延は、周波数に比例する位相ずれΔφと等価となることを示すことができる。
【0037】
図14ないし図17を参照すると、例として周波数がそれぞれ250Hz、500Hz、1000Hzおよび2000Hzの場合のフル・レンジ変換器(fullrange transducer)によって生成される音場の極座標パターン(polar pattern)の例を示す。図14ないし図16のパターンは、図9、図10および図12のロー・パス・フィルタ32b、ならびに図11のロー・パス・フィルタ32を説明する際に役立つものである。図14は、約177Hzないし354Hzの周波数のオクターブ(以降、250Hzオクターブと呼ぶ)における音場極座標パターン(sound field polar pattern)を近似したものである。第1変換器は、この周波数範囲では事実上ほぼ無指向性である。即ち、この変換器からいずれの方向に放射される音も、方向18の変換器軸に沿って放射される音と振幅が等しい。図15は、約354Hzないし707Hzの周波数のオクターブ(以降、500Hzオクターブと呼ぶ)における極座標パターンを示す。この音場極座標パターンは全体的に無指向性であるが、図14に示した周波数範囲におけるよりは、多少指向性がある。矢印20および22によって示される方向および矢印18の方向とは逆の方向では、音場は約1db弱くなっている。図16は、約707Hzないし1414Hzの周波数のオクターブ(以降、1Khzオクターブと呼ぶ)における音場極座標パターンを示す。この周波数範囲では、第1変換器12はいくらか指向性を呈している。矢印20および22によって示される方向、ならびに矢印18の方向とは逆の方向では、音場は約5dB弱くなっている。図17は、約1.4Khzないし2.8Khzの周波数のオクターブ(以降、2Khzオクターブと呼ぶ)における音場を示す。この周波数範囲では、第1変換器12は一層指向性が強くなっている。矢印20および22によって示される方向、ならびに矢印18の方向とは逆の方向において、音場は5dB以上弱くなっている。
【0038】
再び図2を参照し、所定の周波数以上では(上述の実施例では、約1Khz)、変換器12,14,16は、実質的に変換器の軸に沿って(この場合、方向18)指向性を有する。その結果、軸が概略的に直交する変換器群からの音響エネルギは、高周波数では、低周波数におけるほど相互作用を行わない。その結果、この所定の周波数以上の音波は、第2変換器14によって聴取者34に直接放射され、あるいは第3変換器16によって放射され後方の反射面37によって反射されて聴取者34に到達し、方向18に放射され聴取者に反射される音に対して強くなる可能性がある(と共に、到達も早い)。したがって、聴取者34は、第2変換器14上を音の定位として判定する(localize)ことができる。
【0039】
本発明の特徴は、典型的には主変換器が実質的に無指向的に音波を放射する周波数範囲であり、主変換器からの周波数範囲のうちより狭い周波数範囲で、バッキング変換器を動作させることにある。ロー・パス・フィルタ32aおよび32b(図9、図10および図12)またはロー・パス・フィルタ32(図11)は、所定のカットオフ周波数以上のオーディオ信号のスペクトル成分を大幅に減衰させることによって、この特徴を達成するための一手法を具体化するものである。
【0040】
変換器が本質的に無指向的に音を放射する周波数範囲は、典型的には、当該変換器の放射面の寸法に関係がある。音波の波長が変換器の放射面の寸法に接近する周波数において、変換器が放射する音の指向性が強くなり始める。例えば、上述の例示実施例において用いた直径が2−1/4インチの変換器では、周波数が1Khz(波長は約13インチであり、変換器の周囲の約2倍)において、変換器は本質的に指向的に音を放射する。したがって、約1Khzのカットオフ周波数を有するロー・パス・フィルタを用いると、バッキング変換器を約1Khzまでの周波数範囲で動作させ、一方主変換器はこれよりもかなり高い周波数まで動作することになる。
【0041】
遅延ネットワーク28、移相器27、減衰器29、または等化器(イコライザ)26のパラメータを変化させることによって、またロー・パス・フィルタ32の周波数応答を変化させることによって、あるいは異なる変換器を用いることによって、種々の異なる音場を発生することが可能である。
【0042】
図18を参照すると、図11のネットワーク100の移相器27、減衰器29、およびロー・パス・フィルタ32を実施する回路が示されている。オーディオ信号入力24の第1端子50は、第1変換器54の正端子52に接続されている。第1変換器54の負端子56は、バイポーラ・コンデンサ(bipolar capacitor)66および76の第1端子に結合されていると共に、第2および第3変換器60,64の負端子68,70にもそれぞれ結合されている。オーディオ信号入力24の第2端子74は、バイポーラ・コンデンサ76の第2端子に結合されていると共に、インダクタ78の第1端子にも結合されている。変換器60,64の正端子は、バイポーラ・コンデンサ66の第2端子、およびインダクタ78の第2端子に結合されている。第1変換器54は、図11の第1変換器12に対応する。第2および第3変換器60,64は、図11の第2および第3変換器14,16に対応する。
【0043】
本発明の一実施例では、変換器54,60,64は、2−1/4インチのフル・レンジ電気音響変換器であり、その放射面は約5インチの距離だけ分離されている。第1コンデンサ66が47μF、第2コンデンサ76が94μF、インダクタ78が0.5mhとしたネットワークでは、変換器60,64の変換器54に対する相対的な振幅および位相応答は、図19ないし図21に示すようになる。以下これについて説明する。
【0044】
図19を参照すると、第2および第3変換器60,64に入力されるオーディオ信号(図11の打ち消し変換器14,16のグラフと同等である)と、第1変換器54に入力されるオーディオ信号との間の位相差が、周波数の関数として示されている。曲線67は、式Δφ=−180゜−kfにしたがって、約5インチ(0.4167フィート)の音響経路に対する、位相差および周波数間の理論的に理想的な関係を表す。ここで、k=0.133であり、fは周波数である。位相差は周波数に比例するので、曲線67は一定の傾斜を有する。曲線69は、図18の回路によって得られる実際の位相差を表す。
【0045】
図20を参照すると、図18の回路について、第2および第3変換器60,64(図11の打ち消し変換器14,16と同等である)に入力されるオーディオ信号と、第1変換器54(図11の主変換器12と同等である)に入力されるオーディオ信号との間の時間差曲線73のグラフが、周波数の関数として示されている。曲線71は、音速を毎秒1130フィートとした場合に、音が5インチ(0.4167フィート)進むのにかかる時間長を表す。
【0046】
図21を参照すると、第2、第3変換器60,64(図11の打ち消し変換器14,16と同等である)の端子間電圧の、第1変換器54(図11の主変換器12と同等である)の端子間電圧に対する比が、周波数の関数として示されている。図18の回路は、折点周波数が約1Khzのロー・パス・フィルタとして作用する。このロー・パス・フィルタは、第2および第3変換器によって直接放射される音を、それらの軸に沿って指向性がある周波数領域において大幅に減少させるので、聴取者34は、第1変換器12によって放射され音響反射面36によって反射される音波に定位を認める。
【0047】
図22ないし図27を参照すると、図18において実施したように図4の実施例のシステムから得られる、1オクターブ周波数範囲において平均化された音場極座標パターン測定値(変換器12,14,16の軸の面における)が示されている。図22ないし図27の各々において、矢印18L,18R,20,および22で示す方向は、図4において同様に付番された方向に対応する。曲線130および131は、図4のラウドスピーカ・ユニット10Lおよび10Rから放射された音の強度をそれぞれdBで表したものである。グラフの各同心円は、−5dBの差を表す。各オクターブ帯域について、それぞれ、方向18Lおよび18Rにおける音の振幅と、方向20および22における音の振幅との間の差は、−10dB以上となっている。
【0048】
図28を参照すると、図4のラウドスピーカ・ユニット10Lによって方向18Lおよび20に放射された音の振幅の測定値を、周波数の関数としてdBで表したグラフが示されている。曲線210は、方向18Lに放射された音場の振幅を表し、曲線212は、方向20に放射された音場の振幅を表す。
【0049】
図29を参照すると、図4のラウドスピーカ・ユニット10Rによって方向18Rおよび20に放射された音の振幅の測定値を、周波数の関数としてdBで表したグラフが示されている。曲線214は、方向18Rに放射された音場の振幅を表し、曲線216は、方向20に放射された音場の振幅を表す。図22および図23の双方では、実質的に全周波数において、音場の振幅は、方向18Lおよび18Rでは、方向20よりもそれぞれ少なくとも10dB以上大きくなっている。
【0050】
図30Aおよび図30Bを参照すると、本発明の他の実施例の前方斜視図および後方斜視図が示されている。第1変換器217は、エンクロージャ内に密閉されており、低および中間周波数範囲において、無指向的に音波を放射する。第2変換器218は第1変換器217と同じ方向を向いており、例えば、第1変換器217の上に、この第1変換器217に密接して配置されている。第2変換器218は、後方開放型ダイポール(open-backed dipole)であり、方向18およびこの方向18と逆の方向23に音波を放射する。第1および第2変換器217および218は、双方とも、この図には示していない、オーディオ信号源に結合されている。
【0051】
図31を参照すると、図30の構成によって放射される音場の極座標パターンの平面図が示されている。第1変換器217は、音場極座標パターン220によって示されるように、実質的に無指向的に音を放射する。第2変換器218(この図では点線で示す)は、音場の8の字型極座標パターン222によって特徴付けられる指向性で、音波を放射する。音場220および222は、方向18では相加し合い、方向23では対向し、方向20および22では音場222からの寄与はない。その結果、結合音場224は、方向18では音場220よりも約6dB大きく、方向20および22では、方向18における音場220と同一であり、方向23には何もない。これは、ハート型パターンに対応するものである。
【0052】
再び図2を参照する。図30および図31の構成を図2の実施例に組み込んだ場合、図2の聴取者34が、方向18に放射し反射面36によって反射される音の定位を判定するには、方向20および22における減衰は、多くの状況において6dBで十分であろう。
【0053】
図32Aおよび図32Bを参照すると、断面三角形のラウドスピーカ・ユニット55を備えた本発明の他の実施例の斜視図および部分的正面図がそれぞれ示されている。ユニット55は、前側変換器55、ならびに左側変換器51および右側変換器52をそれぞれ支持する。ラウドスピーカ・ユニット55の底面56を壁またはテーブルのような境界面57に隣接して配置した場合、ラウドスピーカ・ユニット55の面57との相互作用は、ラウドスピーカ・ユニット55’の仮想音源の鏡像によってモデル化することができる。当業者には公知であろうが、鏡像の変換器50’,51’および52’は、面57における変換器50,51および52の最初の反射挙動をそれぞれ模擬するものである。したがって、変換器50,51および52によって放射され、面57において反射される音波は、それぞれ仮想変換器50’,51’および52’から発するように感じられる。同様に、仮想変換器50’からの反射音波は、仮想変換器51’および52’それぞれによって放射される音波と、方向22”および20”で対向する。したがって、第1変換器50および仮想変換器50’からの結合音波放射は、方向18に優先的に放射され、それらの軸に直交するあらゆる方向では殆ど打ち消される。したがって、このラウドスピーカ・ユニットは、水平面に置こうが垂直面に置こうが、同様に振る舞う。本実施例は、一方向のみの音波放射、またはホーム・シアターのためのサラウンド音響ラウドスピーカのように、配置の多様性が望ましい用途において有用である。
【0054】
他の実施例も特許請求の範囲に該当するものとする。
【符号の説明】
【0055】
8 ハウジング
10 ラウドスピーカ・ユニット
10L 左ラウドスピーカ・ユニット
10R 右ラウドスピーカ・ユニット
10’ ラウドスピーカ・ユニット
12,14,16 ラウドスピーカ・ドライバ
12L,14L,16L,12R,14R,16R 電気音響変換器
12’ 第1電気音響変換器
14’ 第2電気音響変換器
24 オーディオ信号源
24’ オーディオ信号源
25 入力
27a,27b 移相器
27a’,27b’ 移相器
29a,29b 減衰器
32a,32b ロー・パス・フィルタ
34 聴取者
36 音響反射面
36L,36R 音響反射面
100 ネットワーク
100L 左チャネル・ネットワーク
100C 中央チャネル・ネットワーク
100R 右チャネル・ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性ラウドスピーカ・システムであって、所定の周波数範囲において、ダイポール音響放射パターンを有する第1ラウドスピーカと、前記周波数範囲において無指向性音響放射パターンを有する第2ラウドスピーカと、を備え、前記第1ラウドスピーカおよび前記第2ラウドスピーカは、前記第1および第2ラウドスピーカからの放射が第1方向において累積的に結合され、前記第1方向と対向する第2方向において差分的に結合されるように構成かつ配置されている、指向性ラウドスピーカ・システム。
【請求項2】
請求項1記載の指向性ラウドスピーカにおいて、前記第1ラウドスピーカは、前方および後方放射面を有する変換器を備えており、更に、2つの対向する開放面を有する、前記第1変換器のための第1エンクロージャを備えており、前記第1変換器は、前記前方および後方放射面が前記開放面のそれぞれと面するように、前記第1エンクロージャ内に配置されている、指向性ラウドスピーカ。
【請求項3】
請求項2記載の指向性ラウドスピーカにおいて、前記第2ラウドスピーカは、前方および後方放射面を有する変換器を備えており、更に、1つの開放面を有する、前記第2変換器のための第2エンクロージャを備えており、前記第2変換器は、前記放射面の1つが前記開放面に面するように前記第2エンクロージャ内に配置され、前記第1および第2エンクロージャは近接している、指向性ラウドスピーカ。
【請求項4】
マルチチャネル・オーディオ再生システムであって、
第1チャネル信号の第1信号源と、
前記第1信号源に結合されている第1変換器であって、前記第1チャネル信号を表す音波を放射する第1変換器と、
第2チャネル信号の第2信号源と、
前記第2信号源に結合されている第2変換器であって、前記第2チャネル信号を表す音波を放射する第2変換器と、
前記第1信号源と前記第2変換器とを相互結合し、第1方向において、前記第1変換器から放射される音波の振幅を減少させる音波を前記第2変換器が放射するように、変更された第1チャネル信号を前記第2変換器に供給する第1信号変更部と、を備えたマルチチャネル・オーディオ再生システム。
【請求項5】
請求項4記載のマルチチャネル・オーディオ再生システムにおいて、
前記第1信号変更部はロー・パス・フィルタを備えているマルチチャネル・オーディオ再生システム。
【請求項6】
請求項4記載のマルチチャネル・オーディオ再生システムにおいて、
前記第1信号変更部は、周波数依存移相器を備えているマルチチャネル・オーディオ再生システム。
【請求項7】
電気音響変換装置であって、
音響ダイポールであり、第1周波数範囲において第1および第2の逆位相のローブを有する8の字型放射パターンによって特徴付けられる第1電気音響変換器と、
前記第1周波数範囲において無指向性放射パターンを有し、前記第1電気音響変換器と協動し、前記ローブの一方において音響エネルギとの累積的結合を与え、前記ローブの他方において音響エネルギとの差分的結合を与える第2電気音響変換器と、を備えた電気音響変換装置。
【請求項8】
請求項7記載の電気音響変換装置において、
前記第1電気音響変換器は、前面および背面を有し、振動可能なダイアフラムを有するラウドスピーカ・ドライバを備えており、更に、前記第1電気音響変換器を支持し、前記前面および背面双方からの放射を可能とするように構成かつ配置されている第1エンクロージャを備えている、電気音響変換装置。
【請求項9】
請求項8記載の電気音響変換装置において、
前記第2電気音響変換器は、振動可能なダイアフラムを有するラウドスピーカ・ドライバを備えており、更に、前記第2電気音響変換器を支持し、前記前面および背面の一方のみからの放射を可能とするように構成かつ配置されている第2エンクロージャを備えている、電気音響変換装置。
【請求項10】
請求項4記載のマルチチャネル・オーディオ再生システムであって、
更に、前記第2信号源と前記第1変換器とを相互結合し、前記第1変換器が、前記第2チャネル信号を表わし、前記第2変換器によって前記第1方向に放射される前記第2チャネル信号を表わす音波の振幅を減少させる音波を放射するように、前記第1変換器に変更された第2チャネル信号を供給する第2信号変更部を備えているマルチチャネル・オーディオ再生システム。
【請求項11】
マルチチャネル・オーディオ再生システムであって、
異なる複数の放射方向に各々関連付けられた複数のオーディオ信号チャネルと、
前記複数のオーディオ信号チャネルの各々に1対1に結合されている、複数の電気音響変換器と、
前記複数の電気音響変換器の少なくとも1つに前記結合されているオーディオ信号チャネルとは異なるオーディオ信号チャネルを結合する、少なくとも1つの信号変更部と、を備え、
前記マルチチャネル・オーディオ再生システムは、前記電気音響変換器の各々からの放射が、前記異なる複数の放射方向における1つの放射方向を除く方向の各々にいて、前記複数の電気音響変換器の1つからの放射と他の電気音響変換器からの放射とが180度位相がずれるように構成かつ配置されている、マルチチャネル・オーディオ再生システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2011−244471(P2011−244471A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152945(P2011−152945)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【分割の表示】特願平9−334033の分割
【原出願日】平成9年12月4日(1997.12.4)
【出願人】(591009509)ボーズ・コーポレーション (121)
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
【Fターム(参考)】