説明

電池からのマンガンの回収方法

【課題】
使用済み電池の電極部材含有物から電解二酸化マンガン製造に利用できるマンガンの回収方法を提供する。
【解決手段】
電池の電極部材含有物を2≦pH≦4で処理して固相(固相1)と液相(液相1)に分離する第一工程、得られた液相(液相1)を7≦pH≦9で処理して固相(固相2)と液相(液相2)に分離する第二工程、さらに得られた液相(液相2)をpH≧10で処理する第三工程によるマンガン化合物からなる固相(固相3)とする第三工程からなり、固相1及び/又は固相3を回収する電池からのマンガン回収方法。回収されたマンガン化合物は、電解二酸化マンガン用原料として再利用および有効活用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池から電解二酸化マンガン製造に利用可能なマンガン化合物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題、資源の有効活用の観点から、使用後の電池、特にマンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池等のマンガンと亜鉛を含有する一次電池の回収・再利用が求められている。中でも乾電池中のマンガン材料を回収し、電池用電解二酸化マンガンの原料として再利用することが強く求められている。
【0003】
廃乾電池中のマンガンを電池用電解二酸化マンガンの原料として利用するためには、マンガンを亜鉛化合物、炭素棒、塩化亜鉛や水酸化カリウム等の電解液、セパレーター、缶体の金属類(鉄、ニッケル、銅)などから分離して回収することが必要であり、特にカリウム濃度をマンガン鉱石と同等以下まで減少させて回収することが必要である。
【0004】
従来、廃乾電池の再利用は、廃乾電池を加熱煤焼した後、磁選により鉄分を除いた残渣を酸に溶解する有価金属抽出が行われていた。しかしながら、この方法では加熱煤焼処理によってマンガンがカリウムや鉄と反応して難分解性化合物を生成し、この難分解性化合物からはマンガンとカリウムとを分離して回収することができなかった(特許文献1、2)。
【0005】
また、その様な難分解性化合物を形成しない方法として、加熱煤焼処理をせずに硫酸あるいは塩酸に溶解する回収法も検討されている。しかしながら、これらの回収方法ではマンガン電池とアルカリマンガン電池では異なる処理工程を必要とするなどの問題があり(特許文献3、4)、さらには、いずれの方法においてもカリウム除去が十分ではなく、回収物を電解二酸化マンガン用原料として使用することができなかった(特許文献5〜7)。
【0006】
また、廃乾電池の内容物を塩酸や硫酸などの酸溶液で処理し、亜鉛やカリウムなどの不純物を溶解分離して、二酸化マンガンと炭素を回収する方法も提案されている(特許文献8)。しかしながら、この方法では溶解性マンガンは回収することができず、かつ、マンガンの回収率を上げると回収物中のカリウムと亜鉛の除去率が低下するものであった。
【0007】
このように、従来の乾電池からのマンガン回収方法では、電解二酸化マンガン用原料として使用可能な低カリウム濃度のマンガン化合物を、高い回収率で回収することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平02−187187号公報
【特許文献2】特公平03−006208号公報
【特許文献3】特公平03−031116号公報
【特許文献4】特開平11−191439号公報
【特許文献5】特開昭61−281467号公報
【特許文献6】特開平04−310280号公報
【特許文献7】特開2001−256984
【特許文献8】特開2007−012527
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、電池の電極部材含有物から、電解二酸化マンガン用原料として使用可能なマンガン化合物を高回収率で回収できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、廃乾電池から電解二酸化マンガン用原料として利用可能なマンガン化合物として回収する方法について鋭意検討を行った結果、マンガン電池やアルカリマンガン電池等の電池の電極部材含有物を、特定の溶解・再析出条件で制御して処理することで、電解二酸化マンガン用原料として使用可能なマンガン化合物が高い回収率で得られる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、電池の電極部材含有物を2≦pH≦4で処理して固相(固相1)と液相(液相1)に分離する第一工程、得られた液相(液相1)を7≦pH≦9で処理してさらに固相(固相2)と液相(液相2)に分離する第二工程、さらに得られた液相(液相2)をpH≧10で処理する第三工程により固相(固相3)とし、固相1及び/又は固相3を回収する電池からのマンガン回収方法である。
【0012】
以下、本発明の回収方法を詳細に説明する。
【0013】
本発明の方法では、電池の電極部材含有物を2≦pH≦4で処理して固相(固相1)と液相(液相1)に分離する第一工程を有する。
【0014】
本発明において、電池とは、主に放電後の一次電池、マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、およびこれらの混合物であり、正極合剤に二酸化マンガン等のマンガン酸化物、負極に金属亜鉛等の亜鉛酸化物、電解液に塩化亜鉛水溶液もしくは水酸化カリウム水溶液を主成分とした溶液を含んでいるものである。また、これらのマンガン回収に供する電池(使用済み電池)は、全てが完全に放電した状態である必要はなく、個々に異なる放電状態であってもよい。さらに、使用済み電池には、未放電もしくはそれに近い放電状態の電池が含まれていてもよい。
【0015】
電池は正極,負極,電解液およびこれらの混合化合物以外の部材を有するが、本発明の方法でマンガンの回収に用いる電池の電極部材含有物は、電極部材ではない電池のジャケット、鉄・ニッケルなどの外装缶、外部端子、プラスチック類などの外装部品、集電体、およびセパレーター等のプラスチック、紙類などの外装部材等は除去して用いることが好ましい。
【0016】
電池から外装部材等を除去した後の電極部材含有物は主に正極,負極,電解液およびこれらの混合物からなり、主にマンガン化合物,亜鉛化合物,カリウム化合物、および正極合剤に含まれる副資成分(導電材であるカーボンやアセチレンブラック等の炭素分(以下、単に「炭素分」とする)および正極添加剤など)を含む混合物である。
【0017】
本発明の方法で処理する電極部材含有物は、個々に異なる放電度合いの使用済み電池から得られるため、電極部材含有物に含有される化合物は様々な状態のものが含まれている。従って、本発明の方法で処理する電極部材含有物中のマンガン化合物や亜鉛化合物は、様々な還元・酸化状態であってもよく、さらに、これらの混合化合物の状態であってもよい。特にマンガン化合物は異なる量の亜鉛イオンやカリウムイオンを含んだ状態のものが混在していてもよい。そのため、電極部材含有物は使用済み電池から得られればよく、マンガン電池とアルカリマンガン電池との分別、電池形状による分別、放電度合いによる分別など、電池の種類を更に分別する必要はない。
【0018】
本発明において電極部材含有物を得る方法は、使用済み電池を粉砕し、得られた粉砕物を磁選・風選して外装部材を除去する方法などが例示できる。一方、焼成・煤焼等の加熱工程によって処理するとマンガンがカリウムと難溶性化合物を形成する。そのため、電極部材含有物を得る際には加熱処理は行わないことが好ましい。
【0019】
本発明の第一工程の処理pHは2≦pH≦4であり、2.5≦pH≦3.5であることが好ましい。処理pHをこの範囲にすることで、カリウムや亜鉛などの成分を液相(液相1)に分離することができる。pHが2未満、もしくは4を超える場合、固相(固相1)にカリウムや亜鉛を含有する不溶性明礬が取込まれ、固相(固相1)中のマンガン化合物中のカリウム含有量が増加する。
【0020】
電極部材含有物の2≦pH≦4での処理は酸水溶液を使用して行えば特に制限はないが、酸溶液には硫酸水溶液を使用することが好ましい。電解二酸化マンガンは硫酸−硫酸マンガン浴から製造されるため、回収されたマンガンが硫酸根を含有していても、電解二酸化マンガン用原料と使用するに際しては悪影響がない。一方、硫酸以外の酸水溶液、例えば塩酸水溶液を用いた場合、塩素ガスの問題が生じる場合や、塩素イオンの混入により、後述する第二工程で亜鉛化合物が溶出して、回収されるマンガン化合物中の亜鉛濃度が高くなりやすい。
【0021】
酸水溶液中の酸濃度は特に制限されないが、濃度が高すぎると処理中に発熱するなど、処理装置等へ負荷がかかりやすい。そのため、後述する第一工程における最終的な酸水溶液の酸濃度として15mol%以下が例示できる。
【0022】
第一工程では、電極部材含有物を2≦pH≦4で処理した後に固相(固相1)と液相(液相1)を分離し、固相(固相1)を回収する。これにより、非溶解性のマンガン化合物と炭素分を固相(固相1)、カリウムおよび亜鉛を液相(液相1)として分離して回収することができる。
【0023】
本発明の第一工程において電極部材含有物を処理する際は、酸水溶液を添加する前に、残渣混合物に水を添加してスラリーとしておくことが好ましい。電極部材含有物に酸水溶液を直接添加すると、急激かつ局所的なpH低下が生じるため、電極部材含有物中のマンガンがカリウムと難分解性化合物を形成しやすい。電極部材含有物に添加する水は、実質的に金属不純物を含有していなければ特に制限はない。電極部材含有物スラリーの濃度は、電極部材含有物が分散すれば特に制限されないが、水を添加した後の電極部材含有物スラリー濃度として550g/L以下を例示することができる。
【0024】
本発明の第一工程において、pH調整は、酸水溶液の量及び酸濃度で調整することにより行うことが好ましい。酸水溶液でpH調整をすることで、pH調整剤由来の不純物の混入を防ぐことができる。
【0025】
本発明の第一工程における電極部材含有物の処理量に制限はないが、pH調製後のスラリー中の電極部材含有物濃度として、100〜500g/Lを例示することができる。電極部材含有物濃度が100g/L未満だと回収効率が著しく低下しやすく、500g/Lを超えると処理時間が長くなりやすい。
【0026】
本発明の第一工程の処理温度は、電極部材含有物中の亜鉛化合物、カリウムが溶出すれば特に制限はないが、例えば20〜60℃が好ましく、特に40〜60℃が好ましい。また、処理時間として0.5〜5時間を挙げることができる。
【0027】
本発明の第一工程における固相の分離、回収方法は、処理pHを2≦pH≦4で十分に処理した後に固相と液相に分離できれば制限はなく、通常の濾過方法により濾過残渣(固相1)、濾液(液相1)に分離して回収することが例示できる。
【0028】
第一工程で得られた液相1は溶解性のマンガン化合物、亜鉛、カリウムが混合しているため、以下の処理を経ることによって、さらにマンガンを分離して回収することができる。
【0029】
本発明では、第一工程で得られた液相(液相1)をさらに7≦pH≦9で処理する第二工程によりさらに液相1中の亜鉛等とマンガンとを分離する。
【0030】
本発明の第二工程の処理pHは、7≦pH≦9であり、好ましくは8≦pH≦9である。処理pHをこの範囲にすることで、マンガンとカリウムを液相2に、亜鉛を不溶性化合物として固相2に分離することができる。
【0031】
本発明の第二工程においてpHを調整する方法は、カルシウム等のアルカリ土類金属及びカリウムを含まない溶液、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液等を使用してpHを調整することが好ましい。特にアンモニア水を使用してpH調整をすることが金属カチオンの混入がないため好ましい。pH調整にアルカリ土類金属を含む溶液、例えば、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などを使用すると、アルカリ土類金属やカリウムが液相に混入しやすく、マンガンとの分離が困難となりやすい。
【0032】
本発明の第二工程の処理温度は、亜鉛の固相への析出が進行する条件であれば特に制限はなく、例えば20〜60℃が好ましく、特に40〜60℃が好ましい。また、処理時間として0.5〜5時間を挙げることができる。
【0033】
本発明の第二工程における液相の分離、回収方法は、処理pHを7≦pH≦9で十分に処理した後に固相(固相2)と液相(液相2)に分離できれば制限はなく、通常の濾過方法により濾液を液相2として分離、回収することが例示できる。
【0034】
本発明の第三工程は、第二工程で得られた液相2をpH≧10で処理した後に固相(固相3)を回収する。これにより、第二工程で得られた液相2に含まれるマンガンをカリウムと分離して回収することができる。
【0035】
本発明では第二工程で得られた液相2をpH≧10で処理し、マンガンを有する固相3を得る第三工程を行う。第三工程における処理pHがpH<10である場合、マンガンが液相(液相3)に残存しやすく、固相(固相3)へのマンガンの回収率が低下する。
【0036】
本発明の第三工程においてpH調整をする方法は、カルシウム等のアルカリ土類金属やカリウムを含まない水溶液、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等でpH調整することが好ましく、特に金属カチオンを含有しないアンモニア水でpH調整をすることが好ましい。pH調整でアルカリ土類金属やカリウムを含む溶液、例えば水酸化カルシウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などを使用すると、これらが固相3に混入しやすくなる。
【0037】
本発明の第三工程の処理温度は、マンガンの固相への析出が進行する条件であれば特に制限はなく、例えば20〜60℃が好ましく、特に好ましくは40〜60℃である。また、処理時間として0.5〜5時間を挙げることができる。
【0038】
本発明の第三工程においては、酸化剤を添加して処理することが好ましい。酸化剤を添加することで、マンガンの固相3への析出が促進され、マンガンの回収率を上げることができる。使用する酸化剤は、マンガン以外の金属元素を含まない酸化剤であれば特に制限はないが、酸化剤自体も固相中に回収できるためマンガン酸化物が特に好ましく、さらには二酸化マンガンであることが好ましい。なお、第一工程および第二工程で酸化剤を添加すると亜鉛がマンガンに取込まれやすくなる。そのため、第三工程以外では酸化剤を添加しないことが好ましい。
【0039】
本発明の第三工程における液相(液相3)と固相(固相3)の分離は、処理pHをpH≧10で十分に処理した後に固相3と液相3に分離し、固相3が回収できれば制限はなく、通常の濾過方法により濾過残渣を固相3として分離、回収することが例示できる。
【0040】
本発明の方法では、第一工程および第三工程で得られた固相1及び/又は固相3を回収する。回収後の固相1及び/又は固相3は、適宜乾燥し、電解二酸化マンガン用原料として再利用することができる。
【0041】
本発明の方法では、マンガン回収率が高く、かつ、亜鉛、カリウムの除去率が高い。そのため、電極部材含有物が含有するマンガンの90%以上、好ましくは95%以上を回収することができる。また、電極部材含有物が含有する亜鉛およびカリウムを、それぞれ90%以上、好ましくは95%以上除去することができる。
【0042】
本発明の方法ではマンガンに加えて炭素分を回収することができる。炭素分の回収率は、電極部材含有物が含有する炭素分の90%以上、特に95%以上であることが好ましい。回収された炭素分はマンガン化合物に含有され、電解二酸化マンガン用原料としてマンガン鉱石と同様な処理をする際に還元剤として利用することができる。
【0043】
本発明の方法で回収されるマンガン化合物は、カリウム濃度がマンガン化合物中の金属元素に対して1重量%以下、好ましくは0.8重量%以下である。マンガン化合物中のカリウム濃度が1重量%を超えると、マンガン鉱石(鉱石中の全金属元素に対するカリウム濃度:1.2重量%〜2.0重量%)と同時に使用して電解二酸化マンガンを製造することが困難になる。
【0044】
本発明の方法で回収されるマンガン化合物は、カリウム及び亜鉛の合計含有量が、マンガン化合物中の全金属元素量に対して5重量%以下であることが好ましく、4重量%以下であることが特に好ましい。カリウム及び亜鉛の合計含有量が5重量%以下であれば、それ以上の不純物処理操作、例えば硫化水素による亜鉛除去などを行わなくても、マンガン鉱石とともに電解二酸化マンガン原料として使用することができる。
【0045】
本発明の方法で回収されるマンガン化合物は、マンガン以外の重金属元素が含まれていても、通常の電解二酸化マンガン製造工程におけるマンガン鉱石の処理時に除去することが出来る。そのため、回収されるマンガン化合物が、鉄、ニッケル、チタンなどの重金属元素を含んでいても問題はないが、その含有量は1重量%以下であることが好ましい。
【0046】
本発明の方法で回収されるマンガン化合物は、不純物含有量、特にカリウム含有量が低く、かつ、含有されるカリウムがマンガンと難分解性化合物を生成していない。そのため、本発明の方法で回収されるマンガン化合物は、電解二酸化マンガン用の原料としてマンガン鉱石と同様な処理をすることができ、従来の電解二酸化マンガンの製造工程にそのまま適用できる。また、回収されるマンガン化合物は、単体で使用する以外にもマンガン鉱石と混合して電解二酸化マンガン用原料とすることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の方法により、使用済み電池から高い回収率でカリウム濃度が1重量%以下のマンガン化合物を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のマンガン回収方法の概略図
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
【0050】
なお、実施例および比較例においては、使用済みマンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池等の電池を粉砕し、外装部材等を除去した電極部材含有物を使用した。実施例および比較例で使用した電極部材含有物の組成を表1に示した。なお、表1に示した以外の金属成分は検出限界以下であった。
【0051】
【表1】

【0052】
(カリウム、マンガン、亜鉛の定量)
各処理工程で得られた固相を2mol%硫酸水溶液に過酸化水素を10%加えた溶液で溶解した後、濾過して濾液を回収した。回収した濾液は原子吸光法を用いて各元素の定量化学分析をした。各処理工程で得られた液相はそのまま原子吸光法を用いて各元素の定量化学分析をした。
(カーボンの定量)
第一工程で得られた固相を2mol%硫酸水溶液に過酸化水素を10%加えた溶液で溶解した後、濾過して濾過残渣を回収した。回収した濾過残渣の重量を測定してカーボン量を定量した。
【0053】
実施例1
(第一工程)
電極部材含有物100gを300mlの純水中に分散し電極部材含有物のスラリーとした。当該スラリーは攪拌しながら40℃に加温し、温度を維持したまま10mol%硫酸水溶液を加えてpH=4とした。温度40℃、pH=4を維持したまま、1時間攪拌を行い処理した。処理後、5Cのろ紙を用いてろ過を行なって硫酸水溶液(液相1)と濾過残渣(固相1)に分別した。結果を表2に示した。得られた固相1は主にマンガン化合物とカーボンからなる混合物であった。
【0054】
(第二工程)
第一工程で得られた硫酸水溶液(液相1)をさらに40℃に加温維持して、アンモニア水を滴下してpH=7にした。pH=7を維持したまま、1時間攪拌した。その後、生じた沈殿物を5Cのろ紙でろ過し、硫酸水溶液(液相2)と濾過残渣(固相2)を分離した。結果を表3に示した。得られた固相2には主に第一工程で得られた液相1の亜鉛を含有しており、液相2には主に第一工程で得られた液相1中のマンガン、カリウムを含有していた。
【0055】
(第三工程)
第二工程で得られた硫酸水溶液(液相2)にアンモニア水を、pH=10を維持するように添加し、40℃で1時間攪拌して処理した。処理後、生じた沈澱物を5Cのろ紙でろ過し、硫酸水溶液(液相3)と濾過残渣(固相3)に分離した。結果を表4に示した。得られた固相3は第二工程で得られた液相2中のマンガンを含有していた。
【0056】
第一工程で得られた濾過残渣(固相1)と第三工程で得られた濾過残渣(固相3)を合せて回収し、マンガン化合物を得た。結果を表5に示した。本発明の方法により、カリウム濃度の低いマンガン化合物が高回収率で回収できることが確認された。
【0057】
実施例2
第一工程の処理pHをpH=2、第二工程の処理pHをpH=9、第三工程の処理pHをpH=11とした以外は実施例1と同様の方法で処理してマンガン回収を行った。結果を表2〜5に示した。
【0058】
実施例3
第一工程の処理pHをpH=3、温度60℃、第二工程の処理pHをpH=8、温度60℃、第三工程の処理pHをpH=10、温度60℃とした以外は実施例1と同様の方法で処理してマンガン回収を行った。結果を表2〜表5に示した。
【0059】
実施例4
第三工程において、酸化剤として二酸化マンガン5g(Mn含有量:3.01g,Zn含有量:0g,K含有量:0.02g)を第二工程で得られた濾液に加えた以外は実施例1と同様の方法で処理してマンガン回収を行った。結果を表2〜5に示した。
【0060】
比較例1
第一工程の処理pHをpH=6、第二工程の処理pHをpH=6.5、第三工程の処理pHをpH=9とした以外は、実施例1と同様の方法で処理してマンガン回収を行った。結果を表2〜5に示した。
【0061】
比較例2
第一工程の処理pHをpH=1、温度60℃、第二工程の処理pHをpH=9、温度60℃、第三工程の処理pHをpH=11、温度60℃とした以外は実施例1と同様の方法で処理してマンガン回収を行った。結果を表2〜5に示した。
【0062】
比較例3
第一工程の処理pHをpH=5、温度60℃、第二工程の処理pHをpH=6、温度60℃、第三工程の処理pHをpH=9、温度60℃とした以外は実施例1と同様の方法で処理してマンガン回収を行った。結果を表2〜5に示した。
【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の方法により、使用済み電池中のマンガン成分をカリウム、亜鉛等と分離し、かつ、高い回収率で回収することができる。回収されるマンガン化合物は、電解二酸化マンガン用の原料として、単独、もしくは、マンガン鉱石と混合して用いることができ、さらに、既存の処理設備にそのまま適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の電極部材含有物を2≦pH≦4で処理して固相(固相1)と液相(液相1)に分離する第一工程、得られた液相(液相1)を7≦pH≦9で処理してさらに固相(固相2)と液相(液相2)に分離する第二工程、さらに得られた液相(液相2)をpH≧10で処理することによるマンガン化合物からなる固相(固相3)とする第三工程からなり、固相1及び/又は固相3を回収する電池からのマンガン回収方法。
【請求項2】
電池の電極部材含有物を2≦pH≦4で処理して固相(固相1)と液相(液相1)に分離する工程において、電極部材含有物に水を添加してスラリーとした後に、酸水溶液を添加することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸水溶液が硫酸水溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
pH≧10で処理した後に固相(固相3)を回収する工程において、酸化剤を添加して処理することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
酸化剤が二酸化マンガンであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
マンガン化合物のカリウム濃度が1重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−129336(P2011−129336A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286112(P2009−286112)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】