説明

電池システムの故障検出システム

【課題】多数の電池セルを有する電池システムの故障を、比較的少ない計算機資源により検出する。
【解決手段】電池モジュール101には、各電池セル100のデータを計測する電池計測装置201を設ける。電池パック102に、各電池モジュールのデータの取得及び充放電の管理を行う電池パック管理装置202を設ける。電池パック管理装置に、電池計測装置から取得した各電池セルのデータを短期的に保存する記憶装置202bと、この記憶装置に記憶された各電池セルのデータに基づいて異常を判定する異常判定部202aを設ける。複数の電池パックに、各電池パックの電池パック管理装置と接続された電池群管理装置203を設ける。電池群管理装置に、前記電池計測装置から取得した各電池セルのデータを長期的に保存する記憶装置203bと、この記憶装置に記憶された各電池セルのデータに基づいて異常を判定する異常判定部203aを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複数の電池セルを直列に組み合わせた電池パックをさらに複数組み合わせて使用する電池システムにおいて、異常なセルを効率的に検知あるいは監視するための故障検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電池セルを直列に組み合わせて使用する電池パックシステムでは、電池セル単体の電圧を測定して制御に用いるのが一般的である。特にリチウムイオン電池などの2次電池では、安全面および性能活用の面から、すべての電池セル単体の電圧を正しく精度よく計測することが求められる。
【0003】
電池パックシステムでは、数十から数百程度の電池セルを用い、すべてのセルの電圧を数十から数百ミリ秒程度の頻度で常時監視することが一般的である。何らかの異常判断をする場合は、数百ミリ秒間から数分間程度の比較的少ない観測データを対象とすることが多い。これは、電池パック管理システムの計算機資源の制約が厳しいことに由来する。このような事情から、電池パックシステムの責務は短期的な監視と保護が中心とならざるを得ない。
【0004】
一方、スマートグリッドなどに用いられる大規模な電池システムでは、数万から数十万の電池セルが用いられる。また、大規模な電池システムの使用年数は電池パックシステムよりも長くなるため、システム全体のいずれかの電池セルに異常が発生する確率は高くなる。このような電池システムを運用するには、異常な状態になった電池セルを入れ替え、継続利用できるようにする機能が不可欠である。
【0005】
大規模な電池システムには、電池パックシステムのような短期的な監視と保護に加え、より長期的な観点で、異常兆候を示す電池セルを特定して交換を促す機能が求められる。より長期間にわたり、大量の電池データを解析すれば、小規模な電池パックの単位では発見できなかったような異常を検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−111284号公報
【特許文献2】特開2008−5593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したように電池パックシステムで利用できる計算機資源は性能が限定されるため、大量のデータを長期的に保存したり処理したりすることは難しい。また、電力貯蔵に用いられることから、計算機の消費電力も極力低いことが望ましい。
【0008】
計算機資源の課題に対しては、データセンタに全電池セルのデータを送信し、蓄積・解析を行うことも検討されている。しかしながらデータセンタでの電池データの処理には大規模な設備投資が必要である。これには社会インフラを含めた検討が必要であり、大規模な電池システムの導入を阻害する要因となる。また、全電池セルのデータを送信する必要があることから、消費電力の側面でも不利である。
【0009】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、例えば数万から数十万に及ぶ大多数の電池セルを有する電池システムの故障を、比較的少ない計算機資源により検出することのできる電池システムの故障検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態の電池システムの故障検出システムは、以下のような特徴を有する。
【0011】
(1) 複数の電池セルから電池モジュールを形成し、複数の電池モジュールから電池パックを形成し、複数の電池パックをその充放電を管理する電力管理装置に接続し、この電力管理装置を送配電系統及び/または発電装置に対して接続する。
(2) 前記電池モジュールには、その電池モジュールを構成する各電池セルのデータを計測する電池計測装置を設ける。
【0012】
(3) 前記電池パックには、その電池パックを構成する各電池モジュールのデータの取得及び充放電の管理を行う電池パック管理装置を設ける。
(4) この電池パック管理装置には、前記電池計測装置から取得した各電池セルのデータを短期的に保存する記憶装置と、この記憶装置に記憶された各電池セルのデータに基づいて短期的な異常を判定する異常判定部を設ける。
【0013】
(5) 複数の電池パックには、各電池パックの電池パック管理装置と接続された電池群管理装置を設ける。
(6) 前記電池群管理装置には、前記電池計測装置から取得した各電池セルのデータを長期的に保存する記憶装置と、この記憶装置に記憶された各電池セルのデータに基づいて長期的な異常を判定する異常判定部を設ける。
【0014】
(7) 前記電池群管理装置をシステム外部の上位装置に接続する。
(8) 電池システムを構成する各電池セルの長期的な異常判定に必要な各電池セルと電池群管理装置間のデータの送受信を電池システム内部で行い、異常判定結果を電池群管理装置から上位装置に送信する。
【0015】
また、前記電池群管理装置が予備診断を行って異常判定の対象とする電池セルを絞り込むことや、予備診断にかかる時間を短縮するために、電池パック管理装置が電力管理装置に送信する電池パックの基本データを用いて、予備診断の対象とする電池セルを絞りこむことも、本発明の一態様である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態の電池システムの故障検出システムを示す配線図。
【図2】第1実施形態における電池群管理装置、電池パック管理装置、電池計測装置の構成を示すブロック図。
【図3】第1実施形態での異常判定の手順を示すフローチャート。
【図4】第1実施形態での電池群管理装置、電池パック管理装置、電池計測装置間のデータの処理を示すシーケンス図。
【図5】第1実施形態での電池群管理装置を用いなかった場合のデータの処理を示すシーケンス図。
【図6】第2実施形態における電池群管理装置、電池パック管理装置、電池計測装置の構成を示すブロック図。
【図7】第2実施形態での予備診断の手順を示すフローチャート。
【図8】第2実施形態での追跡調査の手順を示すフローチャート。
【図9】第3実施形態における電池群管理装置、電池パック管理装置、電池計測装置の構成を示すブロック図。
【図10】第3実施形態での予備診断の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.第1実施形態
1−1.構成
図1に示す第1実施形態の電池システムは、情報の接続の系統と、電気的な接続の系統から構成される。電気的な接続の系統は、電池の最小単位である電池セル100、電池セル100を組み合わせた電池モジュール101、電池モジュール101を組み合わせた電池パック102、およびこれらを組み合わせた回路での充放電を制御する電力管理装置103から構成される。これらは電力線20によって接続され、電力線20を経由して電力の充放電が行われる。すなわち、電力管理装置103は、例えば、DC/DC変換器及びAC/DC変換器を介して、送配電系統400や太陽光発電装置などに接続されており、これらの機器と各電池パック102の間の充放電を制御する。
【0018】
本実施形態における電池セル100や電池モジュール101の接続は、直並列の如何を問わず適用が可能である。本実施形態では、電池セル100が直列に接続されて電池モジュール101を構成し、電池モジュール101が直列に接続されて電池パックを構成し、複数の電池パック102が並列に電力管理装置103に接続されている。各電池パック102と電力管理装置103とは、両者を接続する電力線20に設けられた切離しスイッチ104によって、開閉自在に接続されている。この切離しスイッチ104は、電池パック102全体あるいは電池パックに含まれる電池モジュール101の交換・保守点検時に開放される。
【0019】
情報の接続の系統は、複数の電池セル100の故障検出に必要な各種データを計測する電池計測装置201、電池計測装置201で計測した各種データの取りまとめと短期的な管理を行う電池パック管理装置202、電池パック管理装置202からの情報を元に長期的な管理を行う電池群管理装置203から構成される。
【0020】
前記電池計測装置201は各電池モジュール101にそれぞれ設けられ、電池パック管理装置202は各電池パック102にそれぞれ設けられている。電池群管理装置203は、複数の電池パックに対して1台が設けられている。これらは、図1に示すように通信線30で接続され、通信線30を経由して各種のデータが送受信される。本実施形態において、故障検出に必要な各種データとは、例えば、電池セル100の電圧、電流、温度、使用開始時期、故障発生回数などが含まれる。これらの情報系統に通信線30を経由して接続される各装置は、各装置間で情報を送受信するための通信部を備えている。なお、これらの通信部は、公知の手段によって構成されるものであるから、特に図示しない。
【0021】
図2に示す通り、前記電池計測装置201は、電池モジュール101に内蔵されている各電池セル100の電圧・温度などの各種データを、複数セル分同時に計測するための計測部201aを有する。この計測部201aは、計測のために必要な電圧検出線やサーミスタなどの結線によって電池セル100と接続されている。
【0022】
電池計測装置201は定期的に電池パックに含まれる複数の電池セル100の各特性を計測して、上位の電池パック管理装置202に送信する。電池計測装置201は、揮発性の記憶装置201bを持っている。この揮発性の記憶装置201bに記憶される情報は、たとえば、今のセル電圧や、起動後に異常が発生したかどうかといった瞬時的な値のみである。簡易的な異常診断を行って上位の電池パック管理装置202に送信する機能を付加することもできる。
【0023】
電池パック管理装置202は、下位の複数の電池計測装置201から取得したデータを一定のサイクル(例えば、数百msから数時間程度)で処理して、電圧・温度異常値の検出、残容量の推定などを常時行うための異常判定部202aを有する。また、自身で算出した推定結果や故障判断結果の他、下位から取得したデータも上位の電池群管理装置203に送信する。この場合、電池パック管理装置202は、下位の電池計測装置201が計測したデータのうち、指定された電池セル100に関するものだけを上位電池群管理装置203に送信する機能を有する。
【0024】
電池パック管理装置202は不揮発性の記憶装置202bを有している。この不揮発性の記憶装置202bとしては、EEPROM等が使用される。この不揮発性の記憶装置に記憶される情報はたとえば、電池パック全体の残容量値や過去の故障発生情報などである。電池パック管理装置202の記憶装置202bは、電池計測装置201の記憶装置201bよりは多くの情報を記録しているが、大半のデータは数秒程度の間保持されるものであり、また個々のセルの履歴などを管理できるほどの大きな容量はない。
【0025】
電池群管理装置203は、下位の電池パック管理装置202を経由して電池計測装置201から取得した推定データおよび計測データを長期間(例えば、数日から数ヶ月程度)蓄積し、統計的な解析処理を行う。数日・数週間・数ヶ月といったデータの蓄積を行うための記憶装置203bを有する。この記憶装置203bは大容量のハードディスクやフラッシュメモリなどで実装される。
【0026】
電池群管理装置203で行われる解析処理はたとえば、次のものである。
(1) 各電池セル100の容量の推移の解析。
(2) 並列接続されたセル・モジュール・パック同士の容量バランス崩れの推移の解析。
(3) 電池劣化を示す内部抵抗値の分析。
【0027】
そのため、電池群管理装置203には、これらのデータを分析して異常を判定するための異常判定部203aが設けられている。また、各電池セル100がどの電池パック102のどの電池モジュール101に属しているか、また、各電池セル100の各種の属性、例えば、電池セルの設置時期、交換予定時期などを記録したリスト203cを備えている。このリスト203cは、電池群管理装置203に設けられた記憶装置203bに保存されていても良いし、この記憶装置203bとは別に設けられた記憶装置に保存されていても良い。
【0028】
電池群管理装置203は、データセンタ300や監視制御盤などの上位の装置に接続されており、電池群管理装置203からのデータや警報が通信線30を経由してこれら上位の装置に送信される。また、上位の装置からの制御指令なども通信線30を経由して電池群管理装置203に送信される。なお、図示しないが、これらの情報や前記電力管理装置103に対する充放電指令などを送受信する通信装置も備えている。
【0029】
1−2.作用
このような構成を有する本実施形態において、各電池モジュール101内の電池セル100の異常判定には、
(a)短期的な異常判定
(b)長期的な異常判定
の2種類がある。以下、これらについて、図3のフローチャート及び図4のシーケンス図を用いて説明する。
【0030】
(a)短期的な異常判定
各電池セル100の短期的な異常判定は、電池パック102に設けられた電池パック管理装置202が行う。図4のシーケンス図の中央部分に示すように、各電池モジュール101にそれぞれ設けられた電池計測装置201は、各電池モジュール101を構成する各電池セル100のデータ(電圧、電流、容量、温度など)を計測し、そのデータを電池パック管理装置202の要求に従い、電池パック管理装置202に送信する。電池パック管理装置202は、全ての電池セルのデータが集まったら、その解析処理を行い、異常を検知した場合には、上位の電池群管理装置203を経由して、データセンタ300や監視制御盤などに警告や交換メッセージを送信する。
【0031】
この場合、電池パック管理装置202が行う各電池セル100の異常判定は、例えば、図3に示すフローチャートのような手順で行う。
【0032】
(1) 電池パック管理装置202は、電池群管理装置203に設けられた全てのセルのリスト203cから未判定の電池セルnを判定対象として選択する(ステップ1)。ここでセルnは複数であってもよいが、簡単のために1つのセルを選択するものとする。
(2) 電池パック管理装置202は、下位の電池計測装置201に指令を送り、電池セルnのデータを取得し(ステップ2)、これを電池パック管理装置202内の記憶装置202bに蓄積する(ステップ3)。
【0033】
(3) 記憶装置202bに判定に必要な量のデータが蓄積されたら、異常判定部202aは異常判定を実施する(ステップ4)。
(4) 異常判定部202aにより異常が発見されたら(ステップ5のYES)、当該電池セルの交換を促すような処理を上位システムであるデータセンタ300などに通知する(ステップ6)。
【0034】
(5) 異常が発見されない場合には(ステップ5のNO)、全ての電池セルの異常判定を行った否かを判定し、全ての電池セルの異常判定を行った場合には(ステップ7のYES)、異常判定処理を終了する。
(6) 全ての電池セルの異常判定を行っていない場合には(ステップ7のNO)、ステップ1に戻り、次の電池セル100に対して、異常判定処理を繰り返す。
【0035】
(b)長期的な異常判定
各電池セル100の長期的な異常判定は、図4のシーケンス図の左側に示すように、電池群管理装置203からの電池データの計測要求から開始される。この電池データの計測要求は、前記電池群管理装置203に属する各電池パック管理装置202を経由して、各電池モジュール101に設けられた電池計測装置201に伝達される。電池計測装置201は、前記短期的な異常判定処理の場合と同様に、各電池セル100のデータを取得して、電池群管理装置203へ送信する。この場合、途中の電池パック管理装置202において診断データが生成されている場合には、その診断データも送信する。
【0036】
電池群管理装置203は、全ての電池セルのリスト203cを参照して、各電池パック102の全ての電池セル100について、その特性などのデータ及び診断データを収集し、その記憶装置203b(例えばハードディスクなど)に蓄積する。この場合、データの蓄積期間、すなわち、データの解析対象となる期間は、数日から数ヶ月程度であり、検出対象となる異常の種類に応じて、適宜設定される。
【0037】
全ての電池パック管理装置202からのデータが集まったら、電池群管理装置203の異常判定部203aは解析処理を開始し、異常の有無を判定する。この電池群管理装置203における異常判定の結果は、電池システム外部に設けられた上位の機器、すなわちデータセンタ300や監視制御盤に送信され、この判定結果に従い、異常と判定された電池セル単体やそれを含む電池モジュールの交換が行われる。
【0038】
なお、個々の電池セルに対するデータの集積及び異常の判定の処理は、判定の主体が電池パック管理装置202の代わりに電池群管理装置203となっている点以外は、前記図3に示した短期的な異常判定のフローチャートに示す処理と同様である。
【0039】
1−3.効果
前記のような本実施形態においては、電池システム外部に対する通信量を削減できることである。すなわち、図4に示すように、本実施形態では、システム内部に設けられた電池群管理装置203と、電池パック管理装置202及び電池計測装置201間でデータの送受信が行われる。これに対して、電池群管理装置203を置かず、電池パック管理装置202から収集したデータをデータセンタで蓄積・解析する場合は、多数の電池セル100のデータを全てシステム外部に送信することになる。
【0040】
図5に、電池群管理装置203を設けることなく、電池パック管理装置202と外部のデータセンタ300との間で直接データを送受信する場合のシーケンス図を示す。図4と図5を比較すると、本実施形態では大量の通信が電池システム内部に止まっていることがわかる。このように、本実施形態によれば、設備投資を電池システム内部に閉じることができるため、電池システム外部のインフラへの負荷が少なく、導入が容易である。
【0041】
2.第2実施形態
2−1.構成
本実施形態は、第1実施形態の電池システムで、電池群管理装置203で異常判定を行う際の対象を、予備診断によって一部に限定するようにしたものである。すなわち、第1実施形態で行った長期的な解析による異常判定を、ごく短時間の予備診断と、長期的な解析を行う追跡調査の2つの手順に分割して行う。
【0042】
第1実施形態の手順と比較した場合のこの手順の主な特徴は、予備診断によって異常判定の対象となる電池セル100が絞り込まれることである。通常、ほとんどの電池セル100は異常を発生させないため、精査が必要な電池セル100のみを対象として異常判定を行うことで、異常判定の回数を少なくすることに主眼がある。
【0043】
そのため、本実施形態では、図6に示すように、電池群管理装置203には、予備診断部203dと追跡調査部203eとが設けられている。また、電池群管理装置203には、予備診断の対象となる全てのセルのリスト203cと、予備診断の結果選択され、追加調査の対象となる電池セルを記憶しておく追跡調査リスト203fが設けられている。
【0044】
2−2.作用
次に、本実施形態の作用を説明する。なお、第1実施形態で説明した短期的な異常判定については、本実施形態でも同様に行われる。よって、予備診断(b−1)と追加調査(b−2)から成る長期的な異常判定についてのみ、説明する。
【0045】
(b−1)予備診断
本実施形態における予備診断は、図7に示すフローチャートに示すように、以下の手順で行われる。
【0046】
(1) 電池群管理装置203の予備診断部203dは、全てのセルのリスト203cから未診断の電池セルmを予備診断対象として選択する(ステップ1)。ここでセルmは複数であってもよいが、簡単のために1つのセルを選択するものとする。
(2) 予備診断部203dは、下位の電池パック管理装置202に指令を送り、電池セルmのデータだけを一定の予備診断期間だけ取得し(ステップ2)、その記憶装置203bに蓄積する(ステップ3)。
【0047】
(3) 予備診断部203dは、蓄積したデータを解析し、予備診断用の判定アルゴリズムを用いて、その電池セル100に異常を思わせる傾向があるかどうかを判定する(ステップ4)。判定用のアルゴリズムとしては、例えば、判定対象の電池セルの温度、電圧など短時間で判定できる現象を単独あるいは組み合わせて判定したり、これらの現象と予め全てのセルのリスト203cに記憶されている各電池セルの設置時期や交換時期との組み合わせなどによって、異常を起こしやすいと思われる電池セルを決定する。
【0048】
(4) 前記のアルゴリズムに従い、診断対象となる電池セルmの異常傾向の有無が判別した場合は(ステップ5のYES)、追加調査リスト203fに診断対象の電池セル100を追加したり、削除したりする(ステップ6)。この場合、追加削除のルールは任意に決定できる。例えば、
(i) 予備診断により異常を起こしやすいと、所定回数以上判定された電池セルを追加対象とする。
(ii)異常を起こしやすいとリストアップされている電池セルについて、所定回数正常と判断された場合は、リストから削除する。
などのルールを定めることができる。
【0049】
(5) 予備診断部203dは、全ての電池セルの予備診断を完了したか否かを判定し、予備診断が完了した場合には(ステップ7のYES)、予備診断を終了する。
(6) 全てのセルについて、予備診断が完了していない場合には(ステップ7のNO)、ステップ1に戻り、次の未調査の電池セルに対して、予備診断を行う。以下、同様にして、全ての電池セル100に対して、予備診断の処理を繰り返す。
【0050】
(b−2)追跡調査
追跡調査では、予備診断で一定の基準を超えて異常傾向を示した電池セル100のデータをさらに継続的に取得・蓄積・解析して異常判定を行う。これは第1実施形態での実施手順で、異常判定の対象を全ての電池セル100から追加調査リスト203fに登録された電池セル100に変更したものである。
【0051】
図8にこの追跡調査のフローチャートを示すが、ステップ1とステップ7において、電池セルの選択対象が全てのリスト203cから追跡調査リスト203fに代わった点と、異常判定の主体が異常判定部203aから追跡調査部203eに代わった点以外は、図3に示す第1実施形態のフローチャートと同じ処理が行われるので、各ステップの説明は省略する。
【0052】
本実施形態の有効性は、予備診断および追跡調査の手法に何を選択するかに依存しないが、予備診断の方法には、追跡調査より、少ない時間、少ない記憶装置、低い計算負荷で実施できるような手法を選択すると有利である。
【0053】
予備診断と追跡調査を行う頻度は、それぞれにどの手法を利用するかによって任意に決定できる。予備診断と追跡調査で用いる診断方法は、同じものを採用しても良いし、異なるものを採用しても良い。予備診断では電池の内部抵抗が劣化しているものを選び出し、追跡調査では電圧の変化傾向を長期間観察する、というように組み合わせる方法や、いずれも内部抵抗の推定を採用するが、予備診断は概略的に、追跡調査ではより詳細に行うといった方法がある。
【0054】
予備診断と追跡調査は、別々の頻度で並行して実施しても良い。たとえば予備診断は1日1回実行するが、一旦追加調査リストにセルが追加されたら、追跡調査を1週間行うなどの方法がある。
【0055】
2−3.効果
本実施形態特徴は、第1実施形態に比較して実行時間の短いことである。予備診断による絞り込みによって、必要な異常判定の回数が削減できる。1度に1セルを判定する場合では、異常判定の完了までの時間が削減できる。一方、1度に異常判定が必要な全電池セル100の判定を行う場合も、より少ない記憶容量、プロセッサ能力、通信量で行うことができる。すなわち、より安価で消費電力の低いハードウェアで実現可能である。
【0056】
この点を第1実施形態と比較すると次の通りである。
まず、本実施形態の手順の実行にかかる時間は、1つの電池セル100について予備診断に必要な時間をTp、全電池セル100の予備診断を完了するまでのTp_all_ex2とすると、以下のように表される。
Tp_all_ex2=Tp×(全電池セル数/同時に予備診断可能なセル数)
【0057】
そして、異常判定完了までの全体時間Tf_ex2は、以下のように表される。
Tf_ex2=Tp_all_ex2+Tf×(予備診断で異常を示したセル数/同時に異常判定できるセル数)
【0058】
一方、第1実施形態において、1つの電池セル100の異常判定にかかる時間を異常判定時間をTfとし、すべての電池セル100の異常判定にかかる時間Tf_ex1とすると、
Tf_ex1=Tf×(全電池セル数/同時に異常判定できるセル数)
である。全電池セル100を一斉に異常判定する場合は、Tf_ex1=Tfである。
【0059】
前記第1実施形態は、全ての電池セル100について異常判定を行う。そのため、異常判定の方法が長期的な観測を行う必要があるものである場合、実施が難しくなる。例えば大規模な電池システムにおいて、10万セルを対象にし、異常判定の方法に1週間分の電池データの蓄積と解析が必要であるものと仮定する。1度に1セル分の異常判定を行う場合、全電池セル100の異常判定を完了する間までの時間は、10万週間となる。
【0060】
また、第1実施形態において、全電池セル100を対象に行おうとすると、10万セル分のデータを蓄積する必要があり、このためには大容量の記憶装置、高速な処理性能、大量の通信が必要となる。また、大容量の記憶装置、高速なプロセッサ、高速な通信路は大きな消費電力を要求する。従って、第1実施形態は、比較的少数の電池セルを対象とし、異常判定に要する期間も比較的短い場合に適している。
【0061】
一方、第2実施形態においては、予備診断を実施することにより、異常判定にかかる時間を大幅に短縮することができる。特に、長期間に亘って電池セルを観測することが必要な異常判定に付いては、第1実施形態に比較して格段に優れている。
【0062】
3.第3実施形態
3−1.特徴
第2実施形態は、予備診断を追跡調査に比較してごく短時間(例えば1分間)で行うことにより、判定時間の短縮を可能とした。しかし、第2実施形態において、予備診断自体の回数は、第1実施形態の異常判定と同様、全セル数分行う必要がある。
【0063】
第1実施形態で異常判定について考えたのと同様に、例えば10万セルを対象にし、予備診断のデータ蓄積と解析に1セル分あたり1分間が必要とする。1度に1セル分の予備診断を行う場合、全電池セル100の予備診断が完了する間までの時間は、実施時間は10万分=約70日となる。また、複数の電池セル100について予備診断を並行して実施することを考えても多量の計算機資源が必要となる。
【0064】
現実には同時に予備診断を行うセル数を調整することになるが、予備診断は異常判定の準備であるので、より実行に必要なハードウェアまたは時間を減らせると有利である。第3実施形態は、上述の第2実施形態において、異常判定の方法自体は任意のものを使うこととし、異常判定の対象をさらに絞り込むことで、判定時間の短縮を図ったものである。
【0065】
第3実施形態は、第2実施形態の電池システムで、電池群管理装置203で行う予備診断の対象とする電池セル100を一部に限定するようにしたものである。さらに、電池パック管理装置は下位の電池計測装置201から取得した電池セル100のデータから、最大の電圧値とそのセルの番号を選んで、上位の電池群管理装置203に送信する機能を有するものとする。
【0066】
3−2.構成
第3実施形態では、第2実施形態と同じく、長期的な解析による異常判定を予備診断と追跡調査の2ステップに分割して行う。このうち、異常判定の手順は第2実施形態と同じである。予備診断の手順は、第2実施形態の予備診断の手順に変更を加えたものである。
【0067】
第2実施形態の手順と比較した場合のこの手順の主な特徴は、判定条件によって予備診断の対象となる電池セル100を絞り込むことである。
【0068】
ここまでの説明では、短期的な診断や保護の機能は電池パック管理装置202のみで実現するものとしてきた。しかし、一般的な実装では、電池パック102ごとの最大電池セル電圧や最低電池セル電圧、温度などの基本データについては、上位の電池群管理装置203や、電力管理装置103にも送信され、二重三重の保護を行うことが多いため、通常の処理の中で入手可能であることが期待できる。
【0069】
そこで、本実施形態では、図9に示すように、電池群管理装置203に電池パック管理装置202が電力管理装置103に送信する基本データの取得部203gを設ける。そして、このデータ取得部203gからの基本データを基準として、予備診断部203dが予備診断対象の電池セルを絞り込む。この場合、本実施形態では、予備診断対象の絞り込みの手法として、電池パック102ごとの最大電池セル電圧を使用する。そのため、電池群管理装置203には、すべての電池パックのリスト203hが設けられている。
【0070】
3−3.作用
次に、本実施形態の作用を説明する。なお、前記各実施形態における短期的な異常判定については、本実施形態でも同様に行われる。よって、予備診断(b−1)と追加調査(b−2)から成る長期的な異常判定についてのみ、説明する。
【0071】
(b−1)予備診断
以下、本実施形態の予備診断の処理を、図10のフローチャートにより説明する。
(1) 電池群管理装置203の予備診断部203dは、全ての電池パックのリスト203hから未判定の電池パックNを予備診断対象として選択する(ステップ1)。ここで電池パックNは複数であってもよいが、簡単のために1つのセルを選択するものとする。
【0072】
(2) 予備診断部203dは、下位の電池パック管理装置202に指令を送り、パック中の最大電池セル電圧のデータを一定の予備診断期間だけ取得し(ステップ2)、記憶装置203bに蓄積する(ステップ3)。このとき、最大電池セル電圧の値と共に、どのセルが最大電圧であったかを示す番号も一緒に取得する。
【0073】
(3) 予備診断部203dは蓄積したデータを解析し、追加調査リスト203fを更新する。予備診断用の判定アルゴリズムを用いて、その電池セル100に異常を思わせる傾向があるかどうかを判定する。異常傾向の有無によって、追加調査リスト203fに診断対象の電池セル100を追加したり、削除したりする。
【0074】
本実施の形態において用いるデータは、電池パック102中の最大電池セル電圧であるので、同じ電池セル100の電圧を示しているとは限らない。このため、ある1つの電池セル100を対象とした予備診断を行うために必要なデータに欠落が生じる恐れがある。このことに対処するために、以下のような処理を行う。
【0075】
(4) 予備診断中、最大電圧を示す電池セル100が変化した場合には(ステップ4のNO)、予備診断をはじめからやり直す(ステップ5)。
(5) 予備診断中、もっとも長い時間最大電圧を示していた電池セル100を診断対象とし、対象セルの電圧が最大でないために取得出来ていない期間のデータを前後のデータから補間して考える。たとえば対象セルのデータが取得できてない期間について、セルのデータが取得できなくなった直前のタイミングと次に取得できたタイミングの中間値とする。
【0076】
(6) 予備診断の開始時に最大セル電圧値を示していた電池セル100を、一貫してセルmが最大電圧を示していたと判定した場合には(ステップ4のYES)、予備診断中はその電池セル100のデータを常に送信するように電池パック管理装置202に指示する。
(7) 予備診断部203dは、電池パック管理装置202から受信したデータに基づいて電池mの予備診断を行う。この予備診断は、前記第2実施形態で示したものと同様である。
【0077】
(8) 予備診断の結果、診断の対象となった電池セルmに異常の兆候があった場合は(ステップ7のYES)、その電池セルmを追跡調査リスト203fに追加する(ステップ8)。一方、診断の対象となった電池セルmに異常の兆候がない場合は(ステップ7のNO)、予備診断部203dは、全ての電池パックNの予備診断を完了したか否かを判定し、予備診断が完了した場合には(ステップ9のYES)、予備診断を終了する。なお、すべての電池パックNについて予備診断が終わったとしても、実際には、異常監視自体は継続するので、全ての電池パックを未診断として前記の各手順を最初から繰り返すことになる。
【0078】
(9) 全てのセルについて、予備診断が完了していない場合には(ステップ9のNO)、ステップ1に戻り、次の未調査の電池セルに対して、予備診断を行う。以下、同様にして、全ての電池セル100に対して、予備診断の処理を繰り返す。
【0079】
本実施の形態において、予備診断対象の絞り込み手法は、異常判定の手法と関連のあるものを選定する。例えば、異常判定の手法が低いセル電圧と関係するのであれば、各電池パックの最低セル電圧を予備診断の絞り込み手法として選択するとよい。
【0080】
(b−2)追跡調査の手順
追跡調査の手順は、第2実施形態での追跡調査の手順と同じであるので、省略する。
【0081】
3−4.効果
本実施形態は、前記第2実施形態に比較して、下記のように、予備診断の量を大幅に減らすことができる。
【0082】
第1実施形態で異常判定について考えたのと同様に、例えば10万セルを対象にし、予備診断のデータ蓄積と解析に1セル分あたり1分間が必要とする。また、電池パック1つで100個の電池セルを管理し、1000セルごとの最大電圧を算出・送信しているものとする。予備診断の対象は10万/100=1000セルとなる。すべての電池パックに付いて予備診断が完了する間までの時間は、1000分=17時間程度となる。
【0083】
その結果、いくつかの処理を並列に実施することも考えると、本実施形態では、第2実施形態と比較して妥当な実施時間と計算機資源で、多数の電池セルの異常監視を実現できる。
【0084】
4.他の実施形態
上記の各実施形態は、本明細書において一例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図するものではない。すなわち、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことが可能である。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0085】
例えば、本発明の対象となる電池システムは、システムを構成する電池セル数は数万から数十万に及ぶ大規模なものに限定されず、より少ない電池セル数のシステムにも適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
100…電池セル
101…電池モジュール
102…電池パック
103…電力管理装置
201…電池計測装置
201a…計測部
201b…記憶装置
202…電池パック管理装置
202a…異常判定部
202b…記憶装置
203…電池群管理装置
203a…異常判定部
203b…記憶装置
203c…全電池セルのリスト
203d…予備診断部
203e…追跡調査部
203f…追跡調査リスト
203g…基本データの取得部
300…データセンタ
400…送配電系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルから電池モジュールを形成し、複数の電池モジュールから電池パックを形成し、複数の電池パックを電力管理装置に接続し、この電力管理装置を送配電系統及び/または発電装置に対して接続し、
前記電池モジュールには、その電池モジュールを構成する各電池セルのデータを計測する電池計測装置を設け、
前記電池パックには、その電池パックを構成する各電池モジュールのデータの取得及び充放電の管理を行う電池パック管理装置を設け、
この電池パック管理装置には、前記電池計測装置から取得した各電池セルのデータを短期的に保存する記憶装置と、この記憶装置に記憶された各電池セルのデータに基づいて短期的な異常を判定する異常判定部を設け、
前記複数の電池パックには、各電池パックの電池パック管理装置と接続された電池群管理装置を設け、
前記電池群管理装置には、前記電池計測装置から取得した各電池セルのデータを長期的に保存する記憶装置と、この記憶装置に記憶された各電池セルのデータに基づいて長期的な異常を判定する異常判定部を設け、
前記電池群管理装置をシステム外部の上位装置に接続し、
電池システムを構成する各電池セルの長期的な異常判定に必要な各電池セルと電池群管理装置間のデータの送受信を電池システム内部で行い、異常判定結果を電池群管理装置から上位装置に送信することを特徴とする電池システムの故障検出システム。
【請求項2】
前記電池群管理装置の異常判定部が、電池パック管理装置から取得したデータを用いて異常判定の対象を絞り込む予備診断部と、この予備診断部によって選択された電池セルに対して長期的な異常判定を実施する追加調査部を有することを特徴とする請求項1に記載の電池システムの故障検出システム。
【請求項3】
前記電池パック管理装置が、前記各電池セルの充放電制御時において前記電池パック管理装置との間で送受信する基本データを取得する基本データの取得部を備え、
前記電池群管理装置の予備診断部が、電池パック管理装置から受信したこの基本データを用いて予備診断を行うことを特徴とする請求項2に記載の電池システムの故障検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−64649(P2013−64649A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203577(P2011−203577)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】