説明

電池制御装置

【課題】負極活物質の充放電領域の遷移を適切に検出可能な電池制御装置を提供すること。
【解決手段】電池内部から発生するアコースティックエミッション信号を検出するアコースティックエミッション検出手段20と、前記アコースティックエミッション信号が増大したことを検知する信号増大検知手段10と、負極活物質の充放電領域の遷移に伴う充放電曲線の変曲点と前記アコースティックエミッション信号の発生との関係を示す情報を、充放電変曲点−信号発生情報として予め記憶している記憶手段10と、前記信号増大検知手段により前記アコースティックエミッション信号の増大を検知した場合に、前記充放電変曲点−信号発生情報に基づいて、前記電池の負極活物質の充放電領域を判断する判断手段10と、を備えることを特徴とする電池制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素材料はリチウムイオン二次電池の負極活物質、燃料電池の水素吸蔵材料などエネルギー貯蔵材料としての利用が非常に注目されている。たとえば、リチウムイオン二次電池の負極活物質として広く用いられているグラファイトは、過充電により負極表面に金属リチウムが析出したり、電解液の反応が促進されたりということが原因で安全性、寿命が損なわれる可能性があることが知られており、そのため、精度良く充電状態を把握し、充電を制御する必要がある。このような観点の下、電池内部で起こっている現象を、アコースティックエミッション信号を測定することにより検出する研究が進んでおり、グラファイトの充放電領域の遷移に伴いアコースティックエミッション信号の発生回数が増大することが見出されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Damage detection of graphite electrode in lithium ion battery by acoustic emission” , The 20th International Acoustic Emission Symposium, (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、負極活物質としてのグラファイトの充放電領域の遷移が起こる際にアコースティックエミッション信号の発生回数が増大することが開示されているのみであり、グラファイトの充放電領域の遷移を検出できたとしても、実際の充電、放電におけるどの充放電領域に遷移したかを検出することができず、そのため、電池状態を適切に判断することができないという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、負極活物質の充放電領域の遷移を適切に検出可能な電池制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電池内部から発生するアコースティックエミッション信号から、アコースティックエミッション信号が増大したことを検知し、アコースティックエミッション信号が増大した場合に、予め取得した負極活物質の充放電領域の遷移に伴う充放電曲線の変曲点とアコースティックエミッション信号の発生との関係を示す情報に基づいて、電池の負極活物質の充放電領域を判断することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、予め取得した負極活物質の充放電領域の遷移に伴う充放電曲線の変曲点とアコースティックエミッション信号の発生との関係を示す情報を用いて、負極活物質の充放電領域の遷移を判定することができるため、負極活物質の充放電領域を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本実施形態に係る電池制御システムを示す構成図である。
【図2】図2は、負極活物質の一例としてのグラファイト系活物質の電極電位と、アコースティックエミッション信号の発生頻度との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、負極活物質の一例としてのグラファイト系活物質/Liメタルの充電プロファイルと充放電領域との関係を示す図である。
【図4】図4は、本実施形態の電池制御システムの動作例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、本実施形態の第1の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図6】図6(A)は、劣化前の負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電プロファイルの一例を示す図、図6(B)は、劣化後の負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電プロファイルの一例を示す図である。
【図7】図7は、本実施形態の第2の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図8】図8は、バッテリコントローラ10に記憶されている負極電位および正極電位の関係の一例を示す図である。
【図9】図9は、正極および負極の間でリチウムイオンのバランスズレが発生した場合における、正極電位および負極電位の関係の一例を示す図である。
【図10】図10は、正極および負極の間でリチウムイオンのバランスズレが発生した場合における、正極電位および負極電位の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る電池制御システムを示す構成図である。図1に示すように、本実施形態に係る電池制御システムは、二次電池40を制御するためのシステムであり、バッテリコントローラ10と、アコースティックエミッションセンサ20と、充放電装置30とを備えている。
【0011】
二次電池40は、たとえば、リチウムイオン二次電池であり、負極活物質として、リチウムイオンの挿入・脱離に伴って充放電電位が段階的に変化する複数の充放電領域を有する活物質を用いたものが挙げられる。本実施形態では、このようなリチウムイオンの挿入・脱離に伴って充放電電位が段階的に変化する複数の充放電領域を有する活物質として、グラファイト構造を含有するグラファイト系活物質が好適であり、そのため、以下においては、グラファイト系活物質を用いた場合を例示して説明を行なうが、このようなリチウムイオンの挿入・脱離に伴って充放電電位が段階的に変化する複数の充放電領域を有する活物質としては、グラファイト系活物質に特に限定されるものではない。また、正極活物質としては、リチウム−遷移金属複合酸化物などのリチウムイオン二次電池用の正極活物質として公知のものを限定なく用いることができる。
【0012】
充放電装置30は、二次電池40の充放電を行なうための装置であり、バッテリコントローラ10からの指令に基づき、二次電池40の充電および放電を行なう。
【0013】
アコースティックエミッションセンサ20(以下、「AEセンサ20」とする。)は、二次電池40内部から発生するアコースティックエミッション信号(以下、「AE信号」とする。)を検出するためのセンサであり、図1に示すように二次電池40に接触した状態で設置される。AEセンサ20としては、二次電池40内部の構成物の構造変化に伴って発生する信号に対応する周波数帯を検出可能なセンサであればよく、特に限定されない。
【0014】
バッテリコントローラ10は、AEセンサ20からの出力に基づき、二次電池40の充電状態を検出するための装置である。
【0015】
ここで、図2に、二次電池40の負極を構成する負極活物質として、グラファイト構造を含有するグラファイト系活物質を用いた場合における、負極の充放電プロファイルと、二次電池40内部から発生したAE信号の発生頻度との関係を示す。なお、図2中においては、負極の充放電プロファイルを実線で、AE信号の発生頻度を棒グラフでそれぞれ示した。また、図2においては、左側の縦軸は、時間に対する負極の電極電位(v.s.Li)を、右側の縦軸は、AE信号の発生頻度(1時間あたりの発生回数)を、それぞれ示している。また、本実施形態においては、負極の電極電位が低くなる方向を「充電」とし、負極の電極電位が高くなる方向を「放電」として、以下、説明を行なう。
【0016】
図3からも確認できるように、負極活物質としてグラファイト系活物質を使用した場合には、充放電容量に対する電圧変化率の異なる複数の充放電領域を有しており、これにより、負極活物質としてグラファイト系活物質は、二次電池の充放電に伴って、段階的に充放電領域が変化していくことが知られている。具体的には、図3に破線で囲って示すように、負極電位0.21V付近において、第1領域から第2領域へと遷移し、負極電位0.13V付近において、第2領域から第3領域へと遷移し、さらに、負極電位0.08V付近において、第3領域から第4領域へと遷移することが知られている。そして、図3に示すように、このような負極活物質としてグラファイト系活物質においては、図3に破線で囲って示すように、充放電領域が遷移する際に、充放電曲線の変曲点P(充放電容量に対する電圧変化率が大きく変化する点)が観測されることとなる。なお、この負極電位の低下は、充放電レートや、使用する電解質の種類等によって、若干変化する場合がある。そして、図2からも確認できるように、二次電池40内部から発生するAE信号は、図2に破線で囲って示すように、このようなグラファイト系活物質の充放電領域の遷移による変曲点Pにおいて、その発生頻度が増大するという関係にある。なお、この理由としては、たとえば、充放電領域の遷移により、変曲点Pにおいて、グラファイト系活物質のステージ構造の変化などグラファイト系活物質内部で何らかの構造変化が発生することに起因すると考えられる。
【0017】
そして、バッテリコントローラ10は、このような図2に示すようなAE信号の発生頻度と、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域の遷移に伴う充放電曲線の変曲点Pとの関係を予め記憶しており、また、このようなAEセンサ20からの出力に基づき、このようなAE信号の発生頻度の増大の検出を行う。そして、AE信号の発生頻度の増大が検出された場合には、予め記憶されたAE信号の発生頻度と、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域の遷移に伴う充放電曲線の変曲点Pの関係を参照し、AE信号の発生頻度の増大が、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域の遷移に伴う充放電曲線の変曲点Pによるものか否かの判定を行なうことで、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域の遷移を検出し、これにより、充放電領域の判別を行なうものである。すなわち、現在の充放電領域が、図3に示す第1領域〜第4領域のいずれの領域であるかの判別を行なうものである。
【0018】
具体的には、バッテリコントローラ10は、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域の遷移に基づく、AE信号の発生頻度の増大が発生した発生回数を、AE増大回数CountAEとして記憶している。そして、バッテリコントローラ10は、AE信号の発生頻度の増大を検出した場合に、AE信号の発生頻度の増大が検出された際における二次電池40の状態が、充電中であった場合には、AE増大回数CountAEを+1とし、AE増大回数CountAEを1増加させる。すなわち、たとえば、AE信号の発生頻度の増大が検出される前におけるAE増大回数CountAEが2であった場合には、AE増大回数CountAEを1増加させ、CountAE=3に変更する。一方、AE信号の発生頻度の増大を検出した場合に、AE信号の発生頻度の増大が検出された際における二次電池40の状態が、放電中であった場合には、AE増大回数CountAEを−1とし、AE増大回数CountAEを1減少させる。すなわち、たとえば、AE信号の発生頻度の増大が検出される前におけるAE増大回数CountAEが2であった場合には、AE増大回数CountAEを1減少させ、CountAE=1に変更する。なお、二次電池40が充電中であるか、あるいは、放電中であるかを検出する方法としては、たとえば、二次電池40に流れる電流を検出する方法や、二次電池40の電圧の変化を検出する方法など、公知の方法を特に制限なく使用することができる。
【0019】
たとえば、図3に示す場面において、二次電池40の使用開始時から、二次電池40の充電を行なった場合を例示して説明を行なう。なお、本実施形態では、二次電池40の使用開始時(完全放電状態)においては、CountAE=0に設定する。図3に示すように、充電開始後、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域が第1領域から第2領域に変化し、この充放電領域の遷移に起因するAE信号の発生頻度の増大が検出された場合には、バッテリコントローラ10は、二次電池40は充電中であるため、AE増大回数CountAEを+1とし、AE増大回数CountAEを1増加させる。そして、この場合には、AE信号の発生頻度の増大が検出される前のAE増大回数CountAEは、CountAE=0であったため、バッテリコントローラ10は、CountAE=1に変更する。
【0020】
そして、さらに二次電池40の充電が進み、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域が第2領域から第3領域に変化し、この充放電領域の遷移に起因するAE信号の発生頻度の増大が検出された場合には、バッテリコントローラ10は、二次電池40は充電中であるため、AE増大回数CountAEを+1とし、AE増大回数CountAEを1増加させる。そして、この場合には、AE信号の発生頻度の増大が検出される前のAE増大回数CountAEは、CountAE=1であったため、バッテリコントローラ10は、CountAE=2に変更する。同様に、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域が第3領域から第4領域に変化した場合にも、バッテリコントローラ10は、CountAE=2から、CountAE=3に変更する。
【0021】
一方、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域が第4領域にあり、CountAE=3である場合に、充電から放電への切り替えが行なわれ、放電開始後、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域が第4領域から第3領域に変化し、この充放電領域の遷移に起因するAE信号の発生頻度の増大が検出された場合には、バッテリコントローラ10は、二次電池40は放電中であるため、AE増大回数CountAEを−1とし、AE増大回数CountAEを1減少させる。すなわち、バッテリコントローラ10は、CountAE=3から、CountAE=2に変更する。さらに二次電池40の放電が進み、同様に、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域が第3領域から第2領域、さらには第2領域から第1領域に変化した場合にも、バッテリコントローラ10は、CountAE=2からCountAE=1、CountAE=1からCountAE=0に、それぞれ変更する。
【0022】
このように、本実施形態においては、二次電池40の使用開始時におけるAE増大回数CountAEを、CountAE=0に設定しておき、二次電池40の使用開始時から、AE信号の発生頻度の増大の検出を継続して行い、AE信号の発生頻度の増大が検出された場合に、AE増大回数CountAEを、+1(充電中)、あるいは、−1(放電中)とする処理を繰り返すことにより、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域を適切に把握することができる。すなわち、CountAE=0である場合には、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域は、第1領域であると判断することができ、同様に、CountAE=1である場合には、第2領域であり、CountAE=2である場合には、第3領域であり、CountAE=3である場合には、第4領域であると判断することができる。
【0023】
このように本実施形態においては、二次電池40の使用開始時におけるAE増大回数CountAEを、CountAE=0に設定しておき、二次電池40の使用開始時から、AE信号の発生頻度の増大の検出を継続して行うことで、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域の遷移を適切に把握するものである。その一方で、データ消失等の理由により、このようなAE増大回数CountAEのカウントを継続して行なうことができなくなる場合等も考えられるが、このような場合には、一度、二次電池40を完全放電状態とし、これにより負極の充放電領域を、図3に示す第1領域とし、CountAE=0にリセットする方法などにより、再度、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域の遷移を適切に把握することができる。
【0024】
また、図3に示すように、たとえば、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域が、第4領域(すなわち、CountAE=3)であり、かつ、二次電池40が充電中である場面を考えた場合、この場面において、AE信号の発生頻度の増大が検出された場合には、コントローラ10は、AE増大回数CountAEを+1とし、AE増大回数CountAEを1増加させることにより、CountAE=3から、CountAE=4に変更することとなる。この場合には、図3に示すように、負極活物質としてのグラファイト系活物質が、第4領域を超えてさらに充電されてしまい、このように、第4領域を超えてさらに充電が進んでしまうと、負極が過充電状態となってしまうおそれがある。そのため、AE増大回数CountAEの値がCountAE=4となった場合には、バッテリコントローラ10は、負極が過充電状態となってしまうことを防止するために、充放電装置30に、二次電池40の充電を終了させるための信号を送り、これにより二次電池40の充電を終了させる。
【0025】
また、コントローラ10は、上述したAE信号に基づく、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域の判別に加えて、二次電池40の劣化判定も行なう。コントローラ10による、具体的な劣化判定方法については後述する。
【0026】
次いで、本実施形態の動作例を図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0027】
まず、ステップS1では、AEセンサ20によって、二次電池40内部から発生するAE信号を検出する処理が行われる。そして、AEセンサ20による検出結果は、バッテリコントローラ10により取得される。
【0028】
次いで、ステップS2では、バッテリコントローラ10により、AEセンサ20により検出された二次電池40内部からのAE信号の発生頻度が増大しているか否かの判断が行なわれる。たとえば、バッテリコントローラ10は、ステップS1において繰り返し取得したAEセンサ20による検出結果に基づいて、二次電池40内部からのAE信号の発生頻度が急上昇したと判断される場合には、AE信号の発生頻度が増大していると判定することができる。そして、この場合には、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域の遷移が行なわれたと判断して、ステップS3に進む。一方、AE信号の発生頻度の急上昇が認められず、AE信号の発生頻度の増大が認められない場合には、ステップS1に戻り、AE信号の発生頻度の増大が認められるまで、ステップS1,S2を繰り返し実行する。
【0029】
ステップS2において、AE信号の発生頻度の増大が認められた場合には、ステップS3に進み、ステップS3では、バッテリコントローラ10により、二次電池40が充電中であるか、あるいは放電中であるかの判定が行なわれる。そして、二次電池40が充電中である場合にはステップS4に進み、一方、二次電池40が放電中である場合にはステップS7に進む。
【0030】
ステップS3において、二次電池40が充電中であると判定された場合にはステップS4に進み、ステップS4では、バッテリコントローラ10は、充電中に、AE信号の発生頻度の増大が検出されたと判断し、AE増大回数CountAEを+1とし、AE増大回数CountAEを1増加させる。たとえば、バッテリコントローラ10は、図3に示す例において、CountAE=2であった場合には、CountAEを1増加させて、CountAE=3とし、これにより、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域が第3領域から第4領域へと変化したと判定する。
【0031】
そして、ステップS5では、AE増大回数CountAEが、CountAE=4であるか否かの判定が行なわれる。CountAE=4である場合には、コントローラ10は、負極活物質としてのグラファイト系活物質が、第4領域を超えてさらに充電されていると判断し、ステップS6に進み、負極が過充電状態となってしまうことを防止するために、充放電装置30に、二次電池40の充電を終了させるための信号を送り、これにより二次電池40の充電を終了させる処理が実行され、次いで、ステップS8に進む。あるいは、CountAE=4でない場合には、二次電池40の充電を終了させる処理を行なうことなく、ステップS8に進む。
【0032】
一方、ステップS3において、二次電池40が放電中であると判定された場合にはステップS7に進み、ステップS7では、バッテリコントローラ10は、放電中に、AE信号の発生頻度の増大が検出されたと判断し、AE増大回数CountAEを−1とし、AE増大回数CountAEを1減少させて、ステップS8に進む。たとえば、バッテリコントローラ10は、図3に示す例において、CountAE=2であった場合には、CountAEを1減少させて、CountAE=1とし、これにより、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域が第3領域から第2領域へと変化したと判定し、ステップS8に進む。
【0033】
次いで、ステップS8では、バッテリコントローラ10により、第1の劣化判定処理が実行される。図5に、第1の劣化判定処理のフローチャートを示す。第1の劣化判定処理は、負極活物質としてのグラファイト系活物質の各充放電領域(図3に示す第1領域〜第4領域)における充放電容量を算出し、算出した充放電容量に基づいて、二次電池40の劣化を判定する処理である。
【0034】
まず、図5に示すステップS801では、バッテリコントローラ10により、充電中または放電中に、連続して、AE信号の発生頻度の増大を検出したか否かの判定が行なわれる。すなわち、今回処理時において、充電中に、AE信号の発生頻度の増大を検出した場合であり、かつ、前回AE信号の発生頻度の増大を検出した際にも、充電中であった場合や、逆に、今回処理時において、放電中に、AE信号の発生頻度の増大を検出した場合であり、かつ、前回AE信号の発生頻度の増大を検出した際にも、放電中であった場合には、充電中または放電中に、連続して、AE信号の発生頻度の増大を検出したと判定し、ステップS802に進み、以下に説明する第1の劣化判定処理を実行する。すなわち、本実施形態では、AE増大回数CountAEを2回連続して+1とした場合や、逆に、2回連続して−1とした場合には、ステップS802に進む。
【0035】
たとえば、前回AE信号の発生頻度の増大を検出した際に、充電中であり、そのため、CountAE=0からCountAE=1とし、さらに、今回処理時において、充電中にAE信号の発生頻度の増大を検出し、CountAE=1からCountAE=2とした場合には、前回AE信号の発生頻度の増大を検出してから、今回処理時において、AE信号の発生頻度の増大を検出するまでに、第2領域の最初から最後まで、充電を行なっていることとなり、そのため、第2領域における充電容量を算出することが可能となる。また、同様の理由より、第2領域以外の各充放電領域についても、充電容量の算出や、さらには放電容量の算出が可能となる。そのため、本実施形態では、このような場合には、各充放電領域における充放電容量を算出することができると判断し、ステップS802に進み、以下に説明する第1の劣化判定処理を実行する。
【0036】
一方、今回処理時において、充電中または放電中に、連続して、AE信号の発生頻度の増大を検出しなかったと判定された場合には、以下に説明する第1の劣化判定処理を実行することなく、図4に示すステップS9に進む。すなわち、今回処理時において、充電中に、AE信号の発生頻度の増大を検出した一方で、前回AE信号の発生頻度の増大を検出した際には、放電中であった場合や、逆に、今回処理時において、放電中に、AE信号の発生頻度の増大を検出した一方で、前回AE信号の発生頻度の増大を検出した際には、充電中であった場合には、第1の劣化判定処理を実行することなく、図4に示すステップS9に進む。すなわち、AE増大回数CountAEを、前回AE信号の発生頻度の増大を検出した際には+1とし、今回処理時は−1とした場合、あるいは、前回AE信号の発生頻度の増大を検出した際には−1とし、今回処理時は+1とした場合には、第1の劣化判定処理を実行することなく、図4に示すステップS9に進む。このような場合には、上述した充電中または放電中に、連続して、AE信号の発生頻度の増大を検出した場合とは異なり、各充放電領域における充放電容量の算出を行なうことができないため、適切に第1の劣化判定処理を実行することができない。そのため、本実施形態では、このような場合には、第1の劣化判定処理を実行することなく、図4に示すステップS9に進むこととする。
【0037】
ステップS801において、充電中または放電中に、連続して、AE信号の発生頻度の増大を検出したと判定された場合には、ステップS802に進み、ステップS802では、前回AE信号の発生頻度の増大を検出してから、今回処理時において、AE信号の発生頻度の増大を検出するまでにおける、二次電池40の実際の充放電容量CBATの算出を行なう。二次電池40の実際の充放電容量CBATの算出方法としては、特に限定されないが、たとえば、電流積算による方法など公知の方法を制限なく用いることができる。
【0038】
次いで、ステップS803では、上述したステップS802で算出した実際の充放電容量CBATが、負極活物質としてのグラファイト系活物質のいずれの充放電領域における充放電容量に相当するかを判定する処理が行なわれる。具体的には、今回処理時における変更前のAE増大回数CountAEを検出し、検出したAE増大回数CountAEに基づいて、いずれの充放電領域における充放電容量に相当するかを判定する。すなわち、たとえば、今回処理時において、CountAE=1からCountAE=2とした場合には、変更前のAE増大回数CountAEは、CountAE=1であるため、この場合には、二次電池40の実際の充放電容量CBATが、第2領域における充放電容量であると判定することができる。
【0039】
次いで、ステップS804では、バッテリコントローラ10により、バッテリコントローラ10も予め記憶された劣化前の二次電池40の充放電情報を参照することで、対応する充放電領域における劣化前の負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電容量を、劣化前の充放電容量CREFとして読み出す処理が行なわれる。たとえば、ステップS803において、ステップS802で算出された実際の充放電容量CBATが、第2領域における充放電容量であると判定された場合には、劣化前の充放電容量CREFとして、同じ第2領域における充放電容量が読み出される。ここで、図6(A)に、劣化前の負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電プロファイルの一例を、図6(B)に、劣化後の負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電プロファイルの一例を、それぞれ示す。本実施形態においては、バッテリコントローラ10は、劣化前の二次電池40の充放電情報として、図6(A)に示すような劣化前の負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電プロファイルおよび各充放電領域の充放電容量を予め記憶しており、バッテリコントローラ10は、これに基づいて、劣化前の充放電容量CREFの読み出しを行なう。なお、図6(A)、図6(B)中においては、上述した図2と同様に、グラファイト系活物質の充放電領域の遷移による充放電曲線の変曲点Pを破線で囲って示している。
【0040】
次いで、ステップS805では、バッテリコントローラ10により、ステップS802で算出した実際の充放電容量CBATと、ステップS804で算出した劣化前の充放電容量CREFとを比較することで、二次電池40の劣化度Dを判定する処理が行なわれる。ここで、図6(A)、図6(B)に示すように、負極活物質としてのグラファイト系活物質は、充放電に伴い劣化していき、図6(A)に示す劣化前の状態から、図6(B)に示すような劣化後の状態に徐々に変化していくこととなる。すなわち、充放電に伴い劣化してき、徐々に充放電可能な容量が減少していくこととなる。これに対して、ステップS805では、たとえば、図6(B)に示すような劣化後の(現在の)二次電池40を構成する負極活物質としてのグラファイト系活物質の各充放電領域における充放電容量と、図6(A)に示す劣化前のグラファイト系活物質の各充放電領域における充放電容量とを比較することで、二次電池40の劣化度Dを判定する。
【0041】
たとえば、ステップS802で算出した実際の充放電容量CBATと、劣化前の充放電容量CREFとに基づき、劣化度D=CBAT/CREFにしたがって、劣化度を算出することができる。なお、この場合においては、劣化度Dが小さいほど、二次電池40は劣化していると判断することができる。
【0042】
あるいは、実際の充放電容量CBATとして、複数の充放電領域における充放電容量が算出されている場合には、複数の充放電領域における充放電容量CBATに基づいて、劣化度Dを求めるような構成としてもよい。たとえば、図6(B)に示すように、第2領域における実際の充放電容量CBATをCBAT_2ndとし、第3領域における実際の充放電容量CBATをCBAT_3rdとし、さらに、図6(A)に示すように、第2領域における劣化前の充放電容量CREFをCREF_2ndとし、第3領域における実際の充放電容量CREFをCREF_3rdとした場合に、それぞれの比、D2nd=CBAT_2nd/CREF_2nd、D3rd=CBAT_3rd/CREF_3rdを算出し、これらに基づいて、劣化度Dを求めてもよい。すなわち、たとえば、D2ndとD3rdとを単純平均あるいは重み付け平均することにより平均値を求め、これを劣化度Dとしてもよいし、あるいは、D2ndとD3rdとのうち、より値の小さい方(容量減少率が大きい方)を劣化度Dとしてもよい。さらには、CBAT’=CBAT_2nd/CBAT_3rd、CREF’=CREF_2nd/CREF_3rdを算出し、さらに、これらの比CBAT’/CREF’を求め、これを劣化度Dとしてもよい。なお、この場合においても、劣化度Dが小さいほど、二次電池40は劣化していると判断することができる。
【0043】
次いで、ステップS806では、バッテリコントローラ10により、ステップS805で算出した劣化度Dに応じて、二次電池40の最大充放電レートを設定するための処理が行なわれる。二次電池40の最大充放電レートは、たとえば、劣化前における二次電池40の最大充放電レートを、PMAXとした場合に、D×PMAXで算出することができる。そして、バッテリコントローラ10は、設定した最大充放電レートを、充放電装置30に送信し、これにより、二次電池40の最大充放電レートを、劣化度Dに応じて制限する。
【0044】
以上のようにして、第1の劣化判定処理は実行される。
【0045】
そして、第1の劣化判定処理が終了すると、図4に示すステップS9に進み、ステップS9では、第2の劣化判定処理が実行される。図7に、第2の劣化判定処理のフローチャートを示す。第2の劣化判定処理は、二次電池40を構成する正極または負極が容量劣化したり、正極または負極上で副反応が起こることにより、正極および負極の間で発生する「リチウムイオンのバランスズレ」に基づく劣化を判定するための処理である。
【0046】
まず、ステップS901では、バッテリコントローラ10により、二次電池40の開回路電圧を検出するための処理が行われる。二次電池40の開回路電圧を検出するための方法としては、公知の方法を制限なく使用することができる。たとえば、二次電池40に印加される電流値および電圧値のデータを複数検出し、検出した複数の電流値および電圧値のデータから、二次電池40の開回路電圧を検出する方法や、あるいは、充放電により二次電池40に流れる電流を積算する処理を行ない、予め測定した無負荷状態における二次電池40の開回路電圧から、電流積算に基づいて算出される電圧の変位量ΔVの値を加減する方法などが挙げられる。あるいは、二次電池40の充放電を中止し、二次電池40を無負荷状態として、二次電池40の開回路電圧を検出するような方法を採用してもよい。
【0047】
次いで、ステップS902では、バッテリコントローラ10により、二次電池40の負極電位を推定する処理が行なわれる。具体的には、バッテリコントローラ10は、上述したステップS2において、AE信号の発生頻度の増大が検出され、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域が遷移した際における、負極電位を推定する。なお、負極活物質としてのグラファイト系活物質が、異なる充放電領域に遷移する際の電位は予め決まっているものであり、そのため、バッテリコントローラ10に、負極活物質としてのグラファイト系活物質が、各充放電領域に遷移する際の電位のデータを予め記憶させておき、記憶されたデータを参照することにより、負極電位を推定することができる。たとえば、図8に示すように、第1領域から第2領域に変化する際の負極電位をVAN_1、第2領域から第3領域に変化する際の負極電位をVAN_2、第3領域から第4領域に変化する際の負極電位をVAN_3として、記憶することができる。なお、図8は、バッテリコントローラ10に記憶されている負極電位および正極電位の関係の一例を示す図であり、図8に示すように、バッテリコントローラ10は、負極電位のデータに加えて、対応する正極電位のデータも記憶している。なお、図8中においては、上述した図3と同様に、グラファイト系活物質の充放電領域の遷移による充放電曲線の変曲点Pを破線で囲って示している。
【0048】
たとえば、グラファイト系活物質の充放電領域が、第3領域から第4領域へと変化した場合、すなわち、AE増大回数CountAEが、CountAE=2からCountAE=3に変化した場合には、図8に示すように、第3領域から第4領域へと変化する際の負極電位VAN_3を、二次電池40の負極電位として採用することができる。
【0049】
なお、図8に示すデータは、二次電池40が劣化する前におけるデータであり、たとえば、二次電池40が劣化していない状態においては、負極電位VAN_1であるときは、正極電位はVCA_1であり、同様に、負極電位VAN_2であるときは、正極電位はVCA_2、負極電位VAN_3であるときは、正極電位はVCA_3となる。また、二次電池40の開回路電圧(電池電圧)は、「開回路電圧(電池電圧)=正極電位−負極電位」で求められるため、負極電位VAN_1であるときにおける開回路電圧(電池電圧)は、VCA_1−VAN_1で求められ、同様に、負極電位VAN_2であるときにおける開回路電圧(電池電圧)は、VCA_2−VAN_2で求められ、負極電位VAN_3であるときにおける開回路電圧(電池電圧)は、VCA_3−VAN_3で求められる。
【0050】
ステップS903では、バッテリコントローラ10により、二次電池40の正極電位の推定が行なわれる。具体的には、バッテリコントローラ10は、ステップS901で検出した二次電池40の開回路電圧に、ステップS902で検出した負極電位を加えることで、二次電池40の正極電位を推定する。すなわち、「正極電位=開回路電圧(電池電圧)+負極電位」にしたがって、正極電位を推定する。
【0051】
次いで、ステップS904では、バッテリコントローラ10により、二次電池40を構成する正極および負極の間で発生する「リチウムイオンのバランスズレ」に基づく劣化を判定し、これに基づいて、二次電池40を構成する正極・負極の利用率を推定する。
【0052】
ここで、図9は、リチウムイオンのバランスズレが発生した場合における、正極電位および負極電位の関係の一例を示す図である。なお、図9中においても、上述した図3と同様に、充放電領域の遷移による充放電曲線の変曲点Pを破線で囲って示している。たとえば、図9に示す例において、グラファイト系活物質の充放電領域が、第3領域から第4領域へと変化した場合、すなわち、AE増大回数CountAEが、CountAE=2からCountAE=3に変化した場合には、負極電位はVAN_3である。また、この場合において、二次電池40に劣化が発生していない場合には、正極電位はVCA_3となることとなる(図8参照)。しかしその一方で、リチウムイオンのバランスズレに基づく劣化が発生し、その結果として、図9に示すように、「正極電位=開回路電圧(電池電圧)+負極電位」にしたがって、正極電位を推定した結果、得られた正極電位はVCA_3ではなく、VCA_3よりも高いVx1となったとする。
【0053】
このような場合には、図9に示すように、充電時について考えると、負極が満充電に達するよりも大分手前で、正極が満充電に達してしまい、この場合には、負極の高SOC側(満充電側)が利用されないこととなる。また、同様に、放電時について考えると、正極が完全放電に達するよりも大分手前で、負極が完全放電してしまい、この場合には、正極の低SOC側(完全放電側)が利用されないこととなる。そして、このように、正極と負極のリチウムイオンのバランスにズレが生じ、負極の高SOC側および正極の低SOC側が利用されないことにより、二次電池40の容量が低下してしまうこととなる。
【0054】
これに対して、ステップS904では、ステップS901で検出した二次電池40の開回路電圧(電池電圧)と、ステップS902で推定された負極電位とに基づいて、正極と負極のリチウムイオンのバランスズレを検出する。具体的には、たとえば、図8、図9に示すように、ステップS902で推定された負極電位がVAN_3である場合には、劣化前の二次電池40の正極電位はVCA_3となり、そのため、劣化前の二次電池40の開回路電圧(電池電圧)は「VCA_3−VAN_3」となる。その一方で、図9に示すように、実際の(劣化後の)二次電池40において、負極電位がVAN_3であり、正極電位がVX1である場合には、劣化後の二次電池40の開回路電圧は「VX1−VAN_3」となる。そのため、本実施形態では、劣化後の二次電池40の開回路電圧と、劣化前の二次電池40の開回路電圧との差分「VX1−VCA_3」を算出し、差分「VX1−VCA_3」と、図8、図9に示すバッテリコントローラ10に記憶されている負極電位および正極電位の関係に基づいて、正極と負極のリチウムイオンのバランスズレを検出する。そして、差分「VX1−VCA_3」がプラスである場合には、図9に示すように、負極のSOCよりも、正極のSOCの方が高くなるような方向に、リチウムイオンのバランスズレが発生することとなる。また、差分「VX1−VCA_3」の絶対値が大きいほど、リチウムイオンのバランスズレは大きく、一方、差分「VX1−VCA_3」の絶対値が小さいほど、リチウムイオンのバランスズレは小さくなる傾向にある。
【0055】
あるいは、ステップS904では、ステップS902で推定された負極電位およびステップS903で推定された正極電位に基づいて、負極のSOCおよび正極のSOCを求め、これらのズレを、正極と負極のリチウムイオンのバランスズレとして検出するような構成としてもよい。この場合において、負極のSOCとしては、たとえば、バッテリコントローラ10に、各充放電領域における充放電領域遷移時のSOCのデータを予め記憶させておき、このようなデータを用いて求めることができる。また、正極のSOCとしては、バッテリコントローラ10に、正極電位とSOCとの関係を示すデータを予め記憶させておき、このようなデータを用いて求めることができる。
【0056】
そして、バッテリコントローラ10は、検出された正極と負極のリチウムイオンのバランスズレに基づいて、正極・負極の利用率を推定する。
【0057】
次いで、ステップS905に進み、S905〜S909において、正極および負極のリチウムイオンのバランスズレが発生していることに起因して、負極が過充電されてしまうことを防止するための処理が行なわれる。なお、以下においては、図10に示す場面例を参照しながら説明を行なう。ここで、図10は、リチウムイオンのバランスズレが発生した場合における、正極電位および負極電位の関係の一例を示す図である。
【0058】
まず、ステップS905では、バッテリコントローラ10により、負極の残存充電可能容量CRES_ANの算出が行なわれる。なお、図10には、グラファイト系活物質の充放電領域が、第3領域から第4領域へと変化した場面、すなわち、AE増大回数CountAEが、CountAE=2からCountAE=3に変化した場面において、負極の残存充電可能容量CRES_ANを算出する場合を例示して示している。なお、負極の残存充電可能容量CRES_ANは、たとえば、バッテリコントローラ10に予め記憶された負極活物質としてのグラファイト系活物質の各充放電領域における充放電容量のデータから、求めることができる。あるいは、このようなデータに代えて、上述した第1の劣化判定処理(図5参照)において算出された、負極活物質としてのグラファイト系活物質の各充放電領域における充放電容量のデータを用いてもよい。
【0059】
次いで、ステップS906では、バッテリコントローラ10により、正極の残存充電可能容量CRES_CAの算出が行なわれる。なお、図10においては、ステップS903において、正極電位として、負極電位であるVAN_3に対応する電位であるVCA_3ではなく、VCA_3よりも高いVX2が算出された場合を例示して示している。なお、正極の残存充電可能容量CRES_CAは、たとえば、バッテリコントローラ10に予め記憶された正極活物質の電位と、充放電容量との関係を示すデータから求めることができる。
【0060】
そして、ステップS907では、バッテリコントローラ10により、ステップS905で算出した負極の残存充電可能容量CRES_ANと、ステップS906で算出した正極の残存充電可能容量CRES_CAとを比較する処理が行われ、CRES_CA>CRES_ANである場合には、ステップS908に進む。一方、CRES_CA≦CRES_ANである場合には、ステップS909に進む。
【0061】
ステップS908では、CRES_CA>CRES_ANである、すなわち、正極の残存充電可能容量CRES_CAの方が、負極の残存充電可能容量CRES_ANよりも大きいと判断され、この場合には、正極が満充電状態となるまで充電を行なうと、負極が過充電状態となってしまうおそれがある。そのため、このように負極が過充電状態となってしまうことを避けるため、コントローラ10は、充放電装置30に、充電上限電圧を下げるための指令を送出し、これにより充電上限電圧を下げる制御を実行し、第2の劣化判定処理を終了し、次いで、図4に示すステップS1に戻る。なお、この場合においては、正極の残存充電可能容量CRES_CAと、負極の残存充電可能容量CRES_ANとの差が大きいほど、充電上限電圧を低く設定するような構成とすることができる。
【0062】
一方、ステップS909では、CRES_CA≦CRES_ANである、すなわち、負極の残存充電可能容量CRES_ANの方が、正極の残存充電可能容量CRES_CAよりも大きいと判断され、この場合には、正極が満充電状態となるまで充電を行なっても、負極が過充電状態となるおそれがない。そのため、この場合には、上述したステップS908のような充電上限電圧を下げる制御を行うことなく、第2の劣化判定処理を終了し、次いで、図4に示すステップS1に戻る。
【0063】
本実施形態の電池制御システムは、以上のように動作する。
【0064】
本実施形態によれば、二次電池40内部から発生するAE信号の検出を行い、AE信号の発生頻度の増大が検出された際における、二次電池40の状態が、充電中であるか、あるいは放電中であるかに基づいて、AE増大回数CountAEを増減させこれにより、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域の遷移を判断するものであるため、適切に、負極活物質としてのグラファイト系活物質の充放電領域を把握することができる。また、負極中のグラファイト系活物質の充放電領域を適切に把握することが可能となることにより、たとえば、負極活物質としてのグラファイト系活物質が第4領域を超えてさらに充電されてしまうような場面を検出することができ、このような場合に、二次電池40の充電を終了させることにより、負極において過充電が発生することを有効に防止することもできる。しかも、本実施形態によれば、このような判定を、非破壊で、かつ、適切に行なうことができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、負極活物質としてのグラファイト系活物質の各充放電領域における充放電容量CBATを算出し、算出した充放電容量と、劣化前の二次電池40の対応する充放電領域における充放電容量CREFとを比較することにより、二次電池40の劣化状態を適切に検出することができる。さらに、本実施形態によれば、このようにして検出された二次電池40の劣化状態に基づき、二次電池40の最大充放電レートを制御することにより、二次電池40の充放電を劣化状態に応じて適切に行なうことが可能となる。
【0066】
さらに、本実施形態によれば、正極および負極の間で発生するリチウムイオンのバランスズレを検出し、これにより、正極・負極の利用率を算出することができるため、これにより、種々の劣化現象(たとえば、正極活物質自体の容量劣化、負極活物質自体の容量劣化や正極・負極上における副反応、抵抗劣化、可逆なLiイオンの減少等)のうちから、該当する劣化現象を推定することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態によれば、負極の残存充電可能容量CRES_ANと、正極の残存充電可能容量CRES_CAとを算出し、CRES_CA>CRES_ANである場合に、正極が満充電状態となるまで充電を行なうと、負極が過充電状態となってしまうと判断し、充電上限電圧を下げる制御を行うため、より適切に、負極が過充電状態となってしまうとことを防止することができる。
【0068】
なお、上述の実施形態において、二次電池40は本発明の電池に、AEセンサ20は本発明のアコースティックエミッション検出手段に、バッテリコントローラ10は本発明の信号増大検知手段、記憶手段、判断手段、充放電制御手段、第1劣化判定手段、充放電レート制御手段および第2劣化判定手段に、それぞれ相当する。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0070】
たとえば、上述した実施形態では、ステップS8において第1の劣化判定処理を行なうとともに、ステップS9において第2の劣化判定処理を行なうような構成を例示したが、第1の劣化判定処理および第2の劣化判定処理のいずれか一方のみを行なうような構成としてもよいし、あるいは、第1の劣化判定処理および第2の劣化判定処理のいずれも行なわないような構成としてもよい。また、上述した実施形態では、第1の劣化判定処理を行なった後に、第2の劣化判定処理を行なうような構成としたが、第2の劣化判定処理を行なった後、第1の劣化判定処理を行なうような構成としてもよいし、第1の劣化判定処理および第2の劣化判定処理を同時に行なうような構成としてもよい。
【0071】
また、上述した実施形態では、第1の劣化判定処理を行なう際には、グラファイト系活物質の充放電領域に関係なく、第1の劣化判定処理を行なうような構成としたが、特定の充放電領域にある場合にのみ(たとえば、第3領域のみ)、第1の劣化判定処理を行なうような構成としてもよい。このように、特定の充放電領域にある場合にのみ、第1の劣化判定処理を行なうことにより、得られる劣化状態のデータの安定度を高めることができ、これにより、劣化状態の検出精度を高めることができる。
【0072】
同様に、上述した実施形態では、第2の劣化判定処理を行なう際には、グラファイト系活物質の充放電領域に関係なく、第2の劣化判定処理を行なうような構成としたが、特定の充放電領域にある場合にのみ(たとえば、第3領域から第4領域に変化した場合のみ)、第2の劣化判定処理を行なうような構成としてもよい。このように、特定の充放電領域にある場合にのみ、第2の劣化判定処理を行なうことにより、同様に、得られる劣化状態のデータの安定度を高めることができ、これにより、劣化状態の検出精度を高めることができる。
【0073】
さらに、上述した実施形態では、第2の劣化判定処理において、負極の残存充電可能容量CRES_ANと、正極の残存充電可能容量CRES_CAとを比較し、CRES_CA>CRES_ANである場合に、充電上限電圧を下げる制御を行うような構成としたが、残存電池容量をCRES_ANに設定し、CRES_AN以上に充電されないような制御を行うような構成としてもよい。
【0074】
また、上述した実施形態では、一つの二次電池40のみからなる電池制御システムを例示して説明したが、本発明の電池制御装置は、複数の二次電池40からなる電池モジュールについてももちろん適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
10…バッテリコントローラ
20…アコースティックエミッションセンサ
30…充放電装置
40…二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池内部から発生するアコースティックエミッション信号を検出するアコースティックエミッション検出手段と、
前記アコースティックエミッション信号が増大したことを検知する信号増大検知手段と、
負極活物質の充放電領域の遷移に伴う充放電曲線の変曲点と前記アコースティックエミッション信号の発生との関係を示す情報を、充放電変曲点−信号発生情報として予め記憶している記憶手段と、
前記信号増大検知手段により前記アコースティックエミッション信号の増大を検知した場合に、前記充放電変曲点−信号発生情報に基づいて、前記電池の負極活物質の充放電領域を判断する判断手段と、を備えることを特徴とする電池制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池制御装置において、
前記判断手段は、前記アコースティックエミッション信号の増大が発生した回数を、信号増大回数としてカウントし、カウントした前記信号増大回数と、前記充放電変曲点−信号発生情報とに基づいて、前記負極活物質の充放電領域を判断することを特徴とする電池制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電池制御装置において、
前記判断手段は、前記電池が充電されている際に、前記アコースティックエミッション信号の増大を検知した場合には、前記信号増大回数を加算し、前記電池が放電されている際に、前記アコースティックエミッション信号の増大を検知した場合には、前記信号増大回数を減算することを特徴とする電池制御装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の電池制御装置において、
前記判断手段は、前記信号増大回数のカウントを、前記電池の使用開始時から継続して行なうことを特徴とする電池制御装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の電池制御装置において、
前記電池の充放電を制御する充放電制御手段をさらに備え、
前記判断手段は、前記電池が充電されている際に、前記信号増大回数が、前記充放電変曲点−信号発生情報から定められる所定の規定値以上となった場合に、前記負極活物質の充放電領域が満充電の領域であると判断し、
前記充放電制御手段は、前記負極活物質の充放電領域が満充電の領域であると判断された場合に、前記電池の充電を終了させることを特徴とする電池制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電池制御装置において、
前記電池の劣化を判定する第1劣化判定手段をさらに備え、
前記第1劣化判定手段は、
前記アコースティックエミッション信号の増大が1度検出された後、再度、前記アコースティックエミッション信号の増大が検出されるまでにおける、電池の充放電容量を、信号増大間容量とした場合に、
実際の電池における信号増大間容量と、前記充放電変曲点−信号発生情報から求められる劣化前の電池における信号増大間容量のうち、対応する充放電領域に基づく信号増大間容量と、を比較することで、前記電池の劣化状態を判定することを特徴とする電池制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電池制御装置において、
前記第1劣化判定手段は、実際の電池における信号増大間容量のうち、特定の充放電領域に対応する信号増大間容量と、これに対応する劣化前の電池における信号増大間容量と、を比較することで、前記電池の劣化状態を判定することを特徴とする電池制御装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の電池制御装置において、
前記第1劣化判定手段は、実際の電池における信号増大間容量が、劣化前の電池における信号増大間容量と比較して小さくなるほど、前記電池の劣化が進行していると判定することを特徴とする電池制御装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の電池制御装置において、
前記電池の充放電レートを制御する充放電レート制御手段をさらに備え、
前記充放電レート制御手段は、前記第1劣化判定手段により判定された前記電池の劣化の進行度合いに応じて、前記電池の充放電レートを補正することを特徴とする電池制御装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の電池制御装置において、
前記電池の劣化を判定する第2劣化判定手段をさらに備え、
前記第2劣化判定手段は、
実際の電池において、前記アコースティックエミッション信号の増大が検知されたときの電池電圧と、前記充放電変曲点−信号発生情報から求められる、対応する充放電領域間における充放電曲線の変位が起こった場合における劣化前の電池電圧との差分を算出し、前記差分に基づいて、前記電池の劣化状態を判定することを特徴とする電池制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電池制御装置において、
前記第2劣化判定手段は、特定の充放電領域間における充放電曲線の変位に対応するアコースティックエミッション信号の増大が発生した場合における、実際の電池の電池電圧と、これに対応する劣化前の電池における電池電圧とを比較することで、前記電池の劣化状態を判定することを特徴とする電池制御装置。
【請求項12】
請求項10または11に記載の電池制御装置において、
前記第2劣化判定手段は、実際の電池において、前記アコースティックエミッション信号の増大が検知されたときの電池電圧から算出される容量と、これに対応する劣化前の電池における電池電圧から算出される容量との差に基づいて、前記電池の劣化状態を判定することを特徴とする電池制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載の電池制御装置において、
前記第2劣化判定手段は、実際の電池における容量が、劣化前の電池における容量と比較して小さくなるほど、前記電池の劣化が進行していると判定することを特徴とする電池制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−89423(P2013−89423A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228190(P2011−228190)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】