説明

電池劣化判定装置および方法

【課題】電池の劣化判定に用いる等価回路モデルの未知の回路定数を増やすことなくフィッティング誤差を小さくする。
【解決手段】交流インピーダンス測定データを、抵抗RとCPEとが並列接続された回路ブロックを1つ以上有する等価回路モデルにフィッティングし、等価回路モデルの回路定数を求めるフィッティング部と、基準となる電池の交流インピーダンス測定データを、等価回路モデルにフィッティングして得られたCPE指数P値を保管するP値保管部と、電池の劣化度と等価回路モデルの回路定数との相関を記録したデータベースを参照し、判定対象電池の交流インピーダンス測定データを、等価回路モデルにP値を固定値としてフィッティングを行なって得られた回路定数に基づいて、判定対象電池の劣化判定を行なう劣化判定部と、を備えた電池劣化判定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の交流インピーダンス測定データに基づいて電池劣化度を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池、燃料電池等の電池は、充電回数や使用環境、保存状態等によって劣化していき、やがて寿命を迎えて使用不能となる。このため、従来から電池の劣化度を判定する方法が種々提案されており、例えば、電池の交流インピーダンス測定データを電池の等価回路モデルにフィッティングして得られた回路定数に基づいて劣化度を判定する方法が知られている。
【0003】
等価回路モデルは、図9に示すような抵抗R1にRC並列回路ブロックを2段接続したRC2段モデルが広く用いられている。RC並列回路ブロックにおいて未知の回路定数は1段につきRとCの2つであり、RC2段モデルであれば未知の回路定数が多くならず、フィッティングを容易に行なうことができる。
【0004】
交流インピーダンス特性は、一般に、ナイキスト線図で複素インピーダンス特性として表わされるが、図10に示すように、等価回路モデルとしてRC2段モデルを用いた場合、つぶれた円弧状の複素インピーダンス特性を持つ電池に対して、フィッティング誤差が大きくなる傾向がある。ここで、本図において、破線は実際に測定された複素インピーダンス特性を示し、実線はRC2段モデルにフィッティングして得られた回路定数による複素インピーダンス特性を示している。
【0005】
現実の電池では、複素インピーダンス特性がきれいな半円状となることはまれであり、図10の破線のようにつぶれた円弧状の複素インピーダンス特性となることも多い。このため、RC2段モデルにフィッティングして得られた回路定数に基づく劣化度の判定結果は、必ずしも十分な妥当性を有しているとは言い切れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−241325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、RC並列回路ブロックを3段以上接続した等価回路を用いることで、つぶれた円弧状の複素インピーダンス特性に対してフィッティング誤差を小さくできる。しかし、その分フィッティングすべき未知の回路定数が増加することになる。
【0008】
また、RとCPEとの並列回路ブロックを1つ以上用いることで、つぶれた円弧状の交流インピーダンス特性に対してフィッティング誤差を小さくできることが知られている。ここで、CPEは、[数1]に示すようなインピーダンスZCPEで表わされる非線形要素であり、回路定数としてCPE指数のPとCPE定数のTとが用いられる。
【数1】

【0009】
例えば、図11に示すようなRとCPEとの並列回路ブロックを2段接続した等価回路モデルを用いることで、図12に示すように、つぶれた円弧状の複素インピーダンス特性に対してフィッティング誤差を小さくできる。なお、図12において、破線は実際に測定された複素インピーダンス特性を示し、実線はRとCPEとの並列回路ブロックを2段接続した等価回路モデルにフィッティングして得られた回路定数による複素インピーダンス特性を示している。
【0010】
しかし、RとCPEとの並列回路ブロックは1段についてフィッティングすべき未知の回路定数はRとPとTの3つになり、2段モデルであっても、RC2段モデルと比較してフィッティングすべき未知の回路定数が増加する。
【0011】
フィッティングすべき未知の回路定数が多くなると、フィッティング処理が煩雑化し、得られる解が複数存在して劣化判定が不能となったり困難となる場合がある。このため、等価回路モデルの未知の回路定数を増やすことなくフィッティング誤差を小さくする技術が望まれている。
【0012】
そこで、本発明は、電池の劣化判定に用いる等価回路モデルの未知の回路定数を増やすことなくフィッティング誤差を小さくする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様である電池劣化判定装置は、交流インピーダンス測定データを、抵抗RとCPE(Constant Phase Element)とが並列接続された回路ブロックを1つ以上有する等価回路モデルにフィッティングし、前記等価回路モデルの回路定数を求めるフィッティング部と、基準となる電池の交流インピーダンス測定データを、前記等価回路モデルにフィッティングして得られたCPE指数P値を保管するP値保管部と、電池の劣化度と前記等価回路モデルの回路定数との相関を記録したデータベースを参照し、判定対象電池の交流インピーダンス測定データを、前記等価回路モデルに前記P値を固定値としてフィッティングを行なって得られた回路定数に基づいて、前記判定対象電池の劣化判定を行なう劣化判定部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
ここで、前記劣化判定部は、前記得られた回路定数によるフィッティング誤差があらかじめ設定した基準値以上の場合は、前記判定対象電池が使用不適当である旨の判定を行なうことができる。
【0015】
また、前記フィッティング部によるフィッティングに先立ち、回路定数の初期値を設定するフィッティング初期値設定部をさらに備え、前記フィッティング初期値設定部は、交流インピーダンス測定データをナイキスト線図に表わした場合に、Zim=0となるゼロクロスポイントと、dZim/dZreの周波数特性線図の変曲点およびゼロを用いた楕円近似を利用して回路定数の初期値を設定するようにしてもよい。
【0016】
上記課題を解決するため本発明の第2の態様である電池劣化判定方法は、基準となる電池の交流インピーダンス測定データを、抵抗RとCPE(Constant Phase Element)とが並列接続された回路ブロックを1つ以上有する等価回路モデルにフィッティングして得られたCPE指数P値を保管するP値保管ステップと、電池の劣化度と前記等価回路モデルの回路定数との相関を記録したデータベースを参照し、判定対象電池の交流インピーダンス測定データを前記等価回路モデルに前記P値を固定値としてフィッティングを行なって得られた回路定数に基づいて、前記判定対象電池の劣化判定を行なう劣化判定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0017】
ここで、既知の劣化度の電池の交流インピーダンス測定データを前記等価回路モデルに前記P値を固定値としてフィッティングを行なって得られた回路定数と前記既知の劣化度との相関を複数の劣化度について記録することで、前記データベースを作成するステップをさらに含めるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電池の劣化判定に用いる等価回路モデルの未知の回路定数を増やすことなくフィッティング誤差を小さくする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】電池劣化判定システムの構成を示すブロック図である。
【図2】電池劣化判定装置の電池劣化判定動作の概要を示すフローチャートである。
【図3】電池劣化判定用等価回路モデルのP値を設定する処理の詳細な手順を説明するフローチャートである。
【図4】基準電池の交流インピーダンスを測定して得られたナイキスト線図の例を示す図である。
【図5】P2初期値、P3初期値の設定について説明する図である。
【図6】等価回路モデルの回路定数と劣化程度の相関データを作成する処理の詳細な手順を説明するフローチャートである。
【図7】回路定数と劣化度との相関例を示す図である。
【図8】判定対象電池の劣化判定処理の詳細な手順を説明するフローチャートである。
【図9】RC2段モデルの例を示す図である。
【図10】測定値と、RC2段モデルのフィッティング結果とを説明する図である。
【図11】RとCPEとの並列回路ブロックを2段接続した等価回路モデルを示す図である。
【図12】測定値と、RとCPEとの並列回路ブロックを2段接続した等価回路モデルのフィッティング結果とを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る電池劣化判定システムの構成を示すブロック図である。本図に示すように電池劣化判定システム10は、電池劣化判定装置100と、回路定数−劣化度相関データベース200と、交流インピーダンス測定装置300を備えて構成される。電池劣化判定システム10は、これらを1台の装置として構成してもよいし、それぞれ独立した装置として構成してもよい。劣化判定対象の電池は、リチウムイオン電池等の二次電池が好適であるが、本発明は、燃料電池その他の電池の劣化判定に適用することができる。さらには、電池のSOC(State Of Charge)判定に適用することも可能である。
【0021】
本実施形態においては、抵抗RとCPE(Constant Phase Element)とが並列接続された回路ブロックを1つ以上有する等価回路モデルをフィッティングに用いるものとする。これにより、つぶれた円弧状の複素インピーダンス特性に対してフィッティング誤差を小さくする。
【0022】
具体的には、図11に示したように、抵抗R1と、抵抗R2とCPE2とが並列になった回路ブロックと、抵抗R3とCPE3とが並列になった回路ブロックと、CPE4と、抵抗R5とコイルL5とが並列になった回路ブロックとが接続された等価回路モデルを用いるものとする。ただし、本発明は、この等価回路モデルに限られず、抵抗RとCPEとが並列になった回路ブロックを1つ以上含んだ等価回路モデルであればよい。
【0023】
交流インピーダンス測定装置300は、測定対象の電池400の交流インピーダンスを測定し、測定結果を記録する装置であり、交流インピーダンス測定部310、交流インピーダンス測定条件設定部320、測定データ格納部330を備えている。交流インピーダンス測定部は、交流インピーダンス測定条件設定部320がユーザから受け付けた測定条件にしたがって、電池400に交流電圧あるいは交流電流を印加し、電流あるいは電圧を測定することで交流インピーダンスを算出する。測定は複数の周波数について行ない、記憶領域である測定データ格納部330に、例えば、ナイキスト線図データとして格納する。
【0024】
ただし、交流インピーダンスの測定方法は、上述の例に限られず種々の手法を用いることができる。例えば、複数の周波数信号が重畳された電圧波形あるいは電流波形を印加して、電流波形あるいは電圧波形を測定し、電圧波形、電流波形をそれぞれ離散フーリエ変換(DFT)して、周波数成分ごとの比を求めるようにしてもよい。また、交流インピーダンスを測定せずに別途取得したナイキスト線図データを測定データ格納部330に格納するようにしてもよい。
【0025】
回路定数−劣化度相関データベース200は、等価回路パラメータの回路定数と電池の劣化度(容量劣化、出力劣化等)との相関関係を記録するデータベースである。劣化判定対象の電池の交流インピーダンスを測定し、得られた複素インピーダンス特性を等価回路モデルにフィッティングすることにより回路定数を取得し、回路定数−劣化度相関データベース200を参照することで、電池の劣化判定を行なうことができる。
【0026】
電池劣化判定装置100は、コンピュータプログラムにしたがって動作を行なうPC等の情報処理装置を用いて構成することができ、制御部110、入出力部120、フィッティング初期値設定部130、フィッティング部140、P値保管部150、劣化判定部160を備えている。
【0027】
制御部110は、電池劣化判定装置100の各機能部を後述するような手順で動作させることにより、電池劣化判定処理を制御する。入出力部120は、回路定数−劣化度相関データベース200に対するデータ入出力、交流インピーダンス測定装置300の測定データ格納部330からのデータ読込を制御するとともに、ユーザから操作・設定を受け付けたり、図示しない表示装置等に電池劣化判定結果等を出力する。
【0028】
フィッティング初期値設定部130は、測定データ格納部330から取得したナイキスト線図データから、所定のアルゴリズムに基づいて等価回路モデルの回路定数のフィッティング初期値を設定する。
【0029】
フィッティング部140は、フィッティング初期値設定部130が設定した初期値を用いて、等価回路モデルの回路定数のフィッティングを行なう。フィッティングアルゴリズムは既存の種々のアルゴリズムを採用することができる。
【0030】
P値保管部150は、判定対象の電池の劣化判定処理に先立ち、あらかじめ所定の条件で取得したP値を保管する記憶領域である。
【0031】
劣化判定部160は、回路定数−劣化度相関データベース200を参照して、劣化度測定対象の電池の複素インピーダンス特性を等価回路モデルにフィッティングして得られた回路定数から電池の劣化度を判定する。劣化度は、容量劣化量、出力劣化量等種々の態様で表現することができる。
【0032】
次に、本実施形態の電池劣化判定装置100の電池劣化判定動作について説明する。図2は、電池劣化判定動作の概要を示すフローチャートである。
【0033】
本実施形態では、まず、電池劣化判定用等価回路モデルのP値を設定する(S10)。すなわち、実際の電池劣化判定に先立ち、等価回路モデルのP値を設定しておき、設定されたP値を固定値として等価回路モデルのフィッティングを行なう。これにより、CPEの未知の回路定数はCPE定数Tのみとなるため、RとCPEとの並列回路ブロックを含んだ等価回路モデルであっても、未知の回路定数の数をCR並列回路ブロックと同数にすることができる。したがって、未知の回路定数を増やすことなくフィッティング誤差を小さくすることができる。
【0034】
ここで、あらかじめ設定されたP値を用いて、劣化判定対象電池のフィッティングを行なうようにしているのは、P値は、同種の電池であれば、電池としての特性が大きく損なわれない程度の劣化度、SOC、温度等にかかわらず、一定の値とみなせることが、実験的に確かめられたためである。
【0035】
次に、劣化度が既知の電池の回路定数を、設定されたP値を固定値としたフィッティングにより求めて、等価回路モデルの回路定数と劣化程度との相関データを作成する(S20)。相関データは、異なる劣化度について作成し、回路定数−劣化度相関データベース200に記録する。
【0036】
以降は、設定されたP値と、回路定数−劣化度相関データベース200に記録された相関データに基づいて、判定対象電池の劣化判定を繰り返すことができる(S30)。
【0037】
これらの処理の詳細な手順について説明する。まず、電池劣化判定用等価回路モデルのP値を設定する処理(S10)の詳細な手順について図3のフローチャートを参照して説明する。
【0038】
本処理では、P値を設定するための基準となる電池を用意し、解が複数になったり発散せずにP値を特定できる複素インピーダンスが得られる電池状態にコンディションニングする(S101)。解が複数になったり発散せずにP値を特定できる複素インピーダンス特性は、例えば、低周波領域方向で線が広がるような形状であり、一般に、所定の劣化状態や、温度が低い場合、SOC(State Of Charge)が低い場合等に広がるような特性になる。上述のように、これらの条件が変化した場合であっても、P値は一定とみなせるため、フィッティングを容易に行なえる電池状態を任意に設定することができる。逆に、円弧が近接した複素インピーダンス特性は、フィッティングが発散する場合があるため、このような複素インピーダンス特性となる電池状態は避けるようにする。
【0039】
そして、交流インピーダンス測定装置300を用いて基準電池の交流インピーダンスを測定する(S102)。得られた測定データは、測定データ格納部330にナイキスト線図として格納する。
【0040】
次に、得られた基準電池のナイキスト線図について、フィッティング初期値設定部130を用いて、フィッティング初期値を設定する(S103)。フィッティング初期値は、例えば、以下のようなアルゴリズムで設定することができる。なお、基準電池の交流インピーダンスの測定の結果、図4に示すようなナイキスト線図が得られたものとする。
【0041】
R1初期値については、ナイキスト線図のゼロクロスポイントにおけるZreであるZre0を求め、Zre0をR1初期値とする。
【0042】
P2初期値、P3初期値については、図5に示すようなdZim(f)/DZre(f)の周波数特性を求め、周波数の高い方からdZim(f)/DZre(f)のゼロ、あるいは変曲点を探し、第1の周波数をf1、第2の周波数をf2とする。ただし、先に変曲点が現れた場合は、変曲点の周波数を使用し、ゼロは1回無視する。
【0043】
そして、[数2]に示すように、dZim(f1)とDZre(f1)−Zre0との比から、P2初期値を求める。
【数2】

【0044】
次いで、Zreが、Zre(f2)−Zim(f2)×3/4、Zre(f2)−Zim(f2)/4、Zre(f2)+Zim(f2)/4、Zre(f2)+Zim(f2)×3/4となる点のZimを求める。データ点がない場合は直線補間すればよい。
【0045】
求められた4つのデータ点から、長軸がZre方向と平行となる楕円を既存の方法で近似する。そして、求められた楕円の長軸長さをb、短軸長さをaとし、[数3]からP3初期値を求める。
【数3】

【0046】
また、R2初期値は、R2=(Zre(f1)−Zre0)×2で求め、T2初期値は、T2=1/[(2πf1)^P2×R2]で求め、R3初期値は、R3=bで求め、T3初期値は、T3=1/[(2πf2)^P3×R3]で求める。もちろん、他のアルゴリズムで各回路定数のフィッティング初期値を設定するようにしてもよい。
【0047】
図3の説明に戻って、フィッティング用初期値が設定されると、フィッティング部140が、設定された初期値を用いて等価回路モデルのフィッティングを行なう(S104)。低周波領域方向で広がるような形状のナイキスト線図が得られるように基準電池をコンディショニングしているため、既存のアルゴリズムを用いてフィッティングすることにより、各回路定数を容易に求めることができる。
【0048】
そして、フィッティングにより得られた回路定数のうち、P値(P2、P3)を、P値保管部150に格納し(S105)、電池劣化判定用等価回路モデルのP値を設定する処理(S10)を終了する。
【0049】
次に、等価回路モデルの回路定数と劣化程度の相関データを作成する処理(S20)の詳細な手順について図6のフローチャートを参照して説明する。
【0050】
まず、容量劣化や出力劣化等の劣化度が既知の電池を採択する(S201)。そして、採択された電池を劣化判定用のインピーダンス測定条件にコンディションニングし(S202)、交流インピーダンス測定装置300を用いて交流インピーダンスを測定する(S203)。劣化判定用のインピーダンス測定条件は、所定の温度、所定のSOC等とすることができる。得られた測定データは、測定データ格納部330にナイキスト線図として格納する。
【0051】
次に、得られた既知劣化度の電池のナイキスト線図について、フィッティング初期値設定部130を用いて、フィッティング初期値を設定する(S204)。フィッティング初期値は、上述の処理(S103)と同様のアルゴリズムで設定することができる。ただし、P値については固定値とするため初期値を算出する必要がない。
【0052】
そして、フィッティング部140が、P値保管部150に保管されているP値を固定の回路定数とし、設定された初期値を用いて等価回路モデルのフィッティングを行なう(S205)。P値を固定の回路定数としているため、未知の回路定数がRC2段モデルと同数である。したがって、既存のアルゴリズムを用いてフィッティングすることにより、各回路定数を容易に求めることができる。
【0053】
求められた回路定数は、電池の既知の劣化度と関連付けて回路定数−劣化度相関データベース200に相関データとして登録する(S206)。
【0054】
以上の処理を、異なる劣化度の電池に対して繰り返し行ない(S207:No)、登録された相関データの個数が充足すると(S207:Yes)、等価回路モデルの回路定数と劣化程度の相関データを作成する処理(S20)を終了する。図7は、回路定数R3と出力劣化量との相関例を示す図である。本図に示すように、等価回路モデルのRは、充放電サイクルを繰り返すことによって大きくなることが知られている。
【0055】
次に、判定対象電池の劣化判定処理(S30)の詳細な手順について図8のフローチャートを参照して説明する。
【0056】
まず、劣化判定対象電池を劣化判定用のインピーダンス測定条件にコンディションニングする(S301)。具体的には、温度、SOC等を、等価回路モデルの回路定数と劣化程度の相関データを作成する処理(S20)時と同等にコンディショニングする。
【0057】
そして、交流インピーダンス測定装置300を用いて判定対象電池の交流インピーダンスを測定する(S302)。得られた測定データは、測定データ格納部330にナイキスト線図として格納する。
【0058】
次に、得られた判定対象電池のナイキスト線図について、フィッティング初期値設定部130を用いて、フィッティング初期値を設定する(S303)。フィッティング初期値は、上述の処理(S103)と同様のアルゴリズムで設定することができる。ただし、P値については固定値とするため初期値を算出する必要がない。
【0059】
そして、フィッティング部140が、P値保管部150に保管されているP値を固定の回路定数とし、設定された初期値を用いて等価回路モデルのフィッティングを行なう(S304)。P値を固定の回路定数としているため、未知の回路定数がRC2段モデルと同数である。したがって、既存のアルゴリズムを用いてフィッティングすることにより、各回路定数を容易に求めることができる。
【0060】
そして、劣化判定部160が、回路定数−劣化度相関データベース200を参照して、求められた回路定数から判定対象電池の劣化度を判定する(S305)。判定結果は、図示しない表示装置や印刷装置等に出力し(S306)、判定対象電池の劣化判定処理(S30)を終了する。
【0061】
なお、本実施形態ではフィッティング誤差を小さくすることができるが、電池の劣化が進んで使用不能状態となると、P値を含んだ特性が変動し、フィッティング誤差が大きくなる。
【0062】
このため、劣化判定部160は、フィッティングの結果得られた回路定数を用いて算出された複素インピーダンス特性と、測定の結果得られた複素インピーダンス特性との2乗誤差を求め、2乗誤差があらかじめ設定した基準値以上となった場合には、その電池が使用不適当である旨の判定結果を、入出力部120を介して出力するようにしてもよい。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の劣化度判定は、抵抗RとCPEとが並列になった回路ブロックを含んだ等価回路モデルを用いてフィッティングを行なっているため、フィッティング誤差を小さくすることができる。したがって、判定結果の妥当性を高めることができる。また、CPEの回路定数のうち、P値を固定値としているため、フィッティングすべき未知の回路定数をRCモデルと同等となり、容易にフィッティングを行なうことができる。
【符号の説明】
【0064】
10…電池劣化判定システム
100…電池劣化判定装置
110…制御部
120…入出力部
130…フィッティング初期値設定部
140…フィッティング部
150…P値保管部
160…劣化判定部
200…回路定数−劣化度相関データベース
300…交流インピーダンス測定装置
310…交流インピーダンス測定部
320…交流インピーダンス測定条件設定部
330…測定データ格納部
400…電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流インピーダンス測定データを、抵抗RとCPE(Constant Phase Element)とが並列接続された回路ブロックを1つ以上有する等価回路モデルにフィッティングし、前記等価回路モデルの回路定数を求めるフィッティング部と、
基準となる電池の交流インピーダンス測定データを、前記等価回路モデルにフィッティングして得られたCPE指数P値を保管するP値保管部と、
電池の劣化度と前記等価回路モデルの回路定数との相関を記録したデータベースを参照し、判定対象電池の交流インピーダンス測定データを、前記等価回路モデルに前記P値を固定値としてフィッティングを行なって得られた回路定数に基づいて、前記判定対象電池の劣化判定を行なう劣化判定部と、
を備えたことを特徴とする電池劣化判定装置。
【請求項2】
前記劣化判定部は、前記得られた回路定数によるフィッティング誤差があらかじめ設定した基準値以上の場合は、前記判定対象電池が使用不適当である旨の判定を行なうことを特徴とする請求項1に記載の電池劣化判定装置。
【請求項3】
前記フィッティング部によるフィッティングに先立ち、回路定数の初期値を設定するフィッティング初期値設定部をさらに備え、
前記フィッティング初期値設定部は、交流インピーダンス測定データをナイキスト線図に表わした場合に、Zim=0となるゼロクロスポイントと、dZim/dZreの周波数特性線図の変曲点およびゼロを用いた楕円近似を利用して回路定数の初期値を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の電池劣化判定装置。
【請求項4】
基準となる電池の交流インピーダンス測定データを、抵抗RとCPE(Constant Phase Element)とが並列接続された回路ブロックを1つ以上有する等価回路モデルにフィッティングして得られたCPE指数P値を保管するP値保管ステップと、
電池の劣化度と前記等価回路モデルの回路定数との相関を記録したデータベースを参照し、判定対象電池の交流インピーダンス測定データを前記等価回路モデルに前記P値を固定値としてフィッティングを行なって得られた回路定数に基づいて、前記判定対象電池の劣化判定を行なう劣化判定ステップと、
を含むことを特徴とする電池劣化判定方法。
【請求項5】
既知の劣化度の電池の交流インピーダンス測定データを前記等価回路モデルに前記P値を固定値としてフィッティングを行なって得られた回路定数と前記既知の劣化度との相関を複数の劣化度について記録することで、前記データベースを作成するステップをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の電池劣化判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−26114(P2013−26114A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161762(P2011−161762)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】