説明

電池温調システムおよび温調方法

【課題】電池温度を制御する熱交換器の冷熱特性および温熱特性にヒステリシス特性をもたせることにより、温冷切替え付近の温度差が小さい状態であっても、安定した温度制御が可能でかつ電池の温度を的確に調整する。
【解決手段】電池温調システムは、電池の温度を検出する温度検出手段と、電池の温度を熱伝達により変化させる熱交換手段と、温度検出手段の検出温度に応じて熱交換手段を温度制御して電池の温度を調整する温度制御手段、を備える。温度制御手段は、温度上昇の立ち上り特性と立ち下り特性がそれぞれ異なるヒステリシス特性をもって、電池の温度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の温度を調整する電池温調システム及び温調方法に関し、詳しくは、例えば車両に搭載される走行駆動源としての電池の温調システム及び温調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電池ケースの電池収納空間に複数の電池セルが収納され、電池収納空間の相互間には、供給される電流の向きによって、放熱または吸熱するペルチェ素子が設けられ、電池セルの温度を温度センサによって検出し、その温度に応じてペルチェ素子に供給される電流の向きを変えることにより、電池を温熱または冷熱する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−176487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、上述の従来技術を含めて、ペルチェ方式による電池温調システムでは、ペルチェ素子を使用して電池を直接に温熱または冷熱するが、温度差が大きい制御の場合には、ペルチェ素子に対して高電圧の制御電圧が必要となる。他方、温度差が小さい場合には、ペルチェ素子に対する制御電圧の電位差を小さくしなければならず、熱交換器の温冷切替え点の近傍では、温度差が小さい温度制御が極めて不安定な状態となる。
【0005】
図7は、従来の電池温調システムにおける一般的な制御電圧に対する温度変化の特性図である。図7において、横軸はペルチェ素子に印加される制御電圧、縦軸は電池を昇温または降温させるペルチェ素子の温度を示す。図7に示すペルチェ素子の制御電圧−温度特性によれば、ペルチェ素子に印加される制御電圧が0Vのとき、電池の温度が0℃でかつ昇温または降温の立ち上り及び立ち下り特性A、Bが同一である特性を有する。
【0006】
したがって、上述の特性において、温度差が小さい0℃近傍における温冷切替え付近では温度差が小さいために、温度制御系として不安定な状態となり、電池の温度を適正に調整することが困難である。
【0007】
本発明の目的は、上述の課題を解消するためになされたもので、温冷切替え点の近傍の温度差が小さい状態であっても、安定した温度制御が可能な制御系を確保すると共に、電池の温度を的確に調整することができる電池温調システム及び温調方法を提供することにある。なお、本発明において、「電池」とは、リチウムニ次電池、ニッケル水素電池、その他の充放電可能な電池を総称するものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解消するために、つぎの手段を採用する。即ち、本発明の電池温調システムは、電池の温度を検出する温度検出手段と、前記電池の温度を熱伝達により変化させる熱交換手段と、前記温度検出手段の検出温度に応じて前記熱交換手段を温度制御して前記電池の温度を調整する温度制御手段とを備え、前記温度制御手段は、温度上昇の立ち上り特性と立ち下り特性がそれぞれ異なるヒステリシス特性をもって前記電池の温度を制御する。
【0009】
前記温度制御手段は、温度上昇の立ち上り及び立ち下り特性が比較的急峻で、かつ前記温度上昇の立ち上り及び立ち下りの後方側特性が比較的に緩やかなヒステリシス特性をもって前記電池の温度を制御してもよい。
【0010】
前記熱交換手段は、供給される電流の向きによって放熱または吸熱するペルチェユニットと、前記電池の近傍に配置された流体通路とを備え、前記ペルチェユニットは、前記流体通路の流体を昇温または降温させて前記電池の温度を調整してもよい。
【0011】
前記ペルチェユニットは、複数のP型熱電半導体素子と複数のN型熱電半導体素子とが電極を介して電気的に直列に接続して平板状に形成され、放熱側には第1の流体が流れる第1の流体通路が設けられ、吸熱側には第2の流体が流れる第2の流体通路が設けられ、放熱側の電極及び吸熱側の電極が前記第1及び第2の流体通路にそれぞれ露出し、かつ前記第1及び第2の流体通路間の第1及び第2の流体の移動を阻止するように配置されるようにしてもよい。
【0012】
本発明の電池温調方法は、電池の温度を検出する温度検出手段と、前記電池の温度を熱伝達により変化させる熱交換手段と、前記温度検出手段の検出温度に応じて前記電池の温度制御をする温度制御手段とを備えた電池温調システムにおける温調方法であって、温度上昇の立ち上り及び立ち下り特性がそれぞれ異なるヒステリシス特性をもって前記電池の温度を制御する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電池温度を制御する熱交換器の冷熱特性及び温熱特性にヒステリシス特性をもたせることにより、温冷切替え点の近傍の温度差が小さい状態であっても、安定した温度制御が可能であり、かつ電池の温度を的確に調整することができる電池温調システム及び温調方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る電池温調システムの一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電池温調システムの概略図である。
【図3】ペルチェユニットの温度制御回路の一例を示す概略図である。
【図4】電池の温調制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】熱交換器の制御電圧−温度特性図である。
【図6】熱交換器の他の制御電圧−温度特性図である。
【図7】従来のペルチェ素子の制御電圧−温度特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る電池温調システムの一例を示す。図1において、電池温調システム1は、電池2の近傍に配置された第1の熱交換器3と、第1の熱交換器3を温熱または冷熱するペルチェユニット4と、第1の熱交換器3およびペルチェユニット4に流体を供給する第1の流体通路5Aと、第1の流体通路5Aの流体を循環させる第1のポンプユニット5を含む。
【0016】
また、電池温調システム1は、電池2に対し離間して配置された第2の熱交換器6と、第2の熱交換器6を温熱または冷熱するペルチェユニット4と、ペルチェユニット4および第2の熱交換器6に流体を供給する第2の流体通路7Aと、第2の流体通路7Aの流体を循環させる第2のポンプユニット7と、第2の熱交換器6を空冷するファンユニット8を含む。
【0017】
さらに、電池温調システム1は、電池電圧、電池電流、および電池温度を検出して監視する電池監視部11を備える。電池電圧、電池電流、および電池温度についての検出信号は、制御部(ECU)に導かれる。また、ペルチェユニット4は、DC/DCコンバータ10で制御される。
【0018】
図2は、本発明の実施形態に係る電池温調システムの概略図である。図2において、電池2の近傍には、第1の空洞21が配置されている。第1の空洞21に対向する離間位置には、第2の空洞22が配置されている。第1および第2の空洞21、22の間には、中間空洞23が配置されている。第1の空洞21および中間空洞23は、連結管24a、24bで連結されている。また、第2の空洞22および中間空洞23は、連結管25a、25bで連結されている。
【0019】
中間空洞23には、複数のP型熱電半導体素子26および複数のN型熱電半導体素子27が不図示の電極を介して電気的に直列に接続されたペルチェユニット4が配置されている。ペルチェユニット4の吸熱側には、第1の流体5aが流れる第1の流体通路5Aが設けられている。ペルチェユニット4の放熱側には、第2の流体7aが流れる第2の流体通路7Aが設けられている。ペルチェユニット4は、吸熱側の電極および放熱側の電極がそれぞれ第1および第2の流体通路5A、7Aに露出し、かつ第1および第2の流体通路5A,7A間の流体の移動を阻止するように配置されている。この構成により、第1および第2の熱交換器3、6、およびペルチェユニット4を含む電池温調システム1が構成されている。
【0020】
電池温調システム1は、電池電圧、電池電流、および電池温度を検出する電池監視部11を備える。電池監視部11は、電池2の電圧を検出する電池電圧検出センサ11A、電池2の電流を検出する電池電流検出センサ11B、および電池2の温度を検出する電池温度検出センサ11Cを備える。センサ11A、11B、11Cの検出信号は、制御部(ECU)9に導かれる。そして、制御部9は、これらの検出信号に基づいて、第1および第2の熱交換器3、6、ペルチェユニット4、第1および第2のポンプユニット5、7、ファンユニット8、およびDCDCコンバータ10を制御する。
【0021】
図3は、ペルチェユニットの温度制御回路の一例を示す概略図である。図3において、トランスTの二次側には、メイントランジスタSdを介して、インダクタンスL1およびキャパシタCを含むフィルタ回路、およびトランジスタSd1〜Sd4から構成されるブリッジ回路12が設けられる。ブリッジ回路12にペルチェユニット4が電気的に接続されている。トランスTの1次側には、不図示の直流電源が接続されている。
【0022】
上記構成の制御回路において、メイントランジスタSdをON状態に制御すると共に、ブリッジ回路12におけるトランジスタSd1、Sd2を矩形パルス信号の印加で導通さる。そうすると、ペルチェユニット4を介して第1の方向に電流が流れ、一方の表面において吸熱が行われる。
【0023】
他方、前記ブリッジ回路12におけるトランジスタSd3、Sd4を導通させると、ペルチェユニット4を介して第1の方向と逆方向に電流が流れ、他方の表面において放熱が行われる。ペルチェユニット4の放熱量および吸熱量は、ブリッジ回路12のトランジスタSd1〜Sd4に印加されるパルス信号のデューティ比を調整することにより増減させることができる。
【0024】
次に、上記構成のシステムの動作について説明する。図2で示す電池温調システム1において、第1の熱交換器3における第1のポンプユニット5を駆動すると、中間空洞23の第1の流体5aが矢印方向へ移動し、連結管24aを通って第1の空洞21に流入した後、連結管24bを通って中間空洞23に還流して循環する。他方、第2のポンプユニット7を駆動すると、中間空洞23の第2の流体7aが矢印方向へ移動し、連結管25bを通って第2の空洞22に流入した後、連結管25aを通って中間空洞23に還流して循環する。なお、ファンユニット8を駆動すると、第2の空洞22が空冷される。また、第1および第2の流体5a、7aは、例えば、シリコーンオイル等の電気絶縁性の流体で実現される。
【0025】
いま、ペルチェユニット4に対し電流を一方向へ通電すると、ペルチェユニット4は、一方の流体5aに放熱して第1の熱交換器3の温度を上昇させると共に、他方の流体7aから吸熱して第2の熱交換器6の温度を下降させることができる。他方、ペルチェユニット4に対し電流を逆方向へ通電すると、ペルチェユニット4は、一方の流体5aから吸熱して第1の熱交換器3の温度を下降させると共に、他方の流体7aに放熱して第2の熱交換器6の温度を上昇させることができる。
【0026】
第1の熱交換器3は、図5に示す温度特性を有する。横軸は、ペルチェユニット4に印加される制御電圧を示し、縦軸は、電池2を昇温または降温させる第1の熱交換器3の温度を示す。図5において、実線Bは、熱交換器温度の立ち上り特性を表し、点線Aは、熱交換器温度の立下り特性を表す。これらの立ち上りおよび立ち下り特性A、Bは、比較的急峻でかつ後方側特性が比較的に緩やかなヒステリシス特性を有する。
【0027】
いま、電池2が電力消費によって温度上昇し、その温度上昇が所定値以上であるものとする。この場合、温度検出センサ11cの検出信号を受けて、ペルチェユニット4には制御電圧X2が印加される。そうすると、吸熱作用で第1の熱交換器3を冷熱特性Aに従って温度降下させ、例えば電池2の温度が0℃となるように制御する。
【0028】
他方、外気の温度が低下して電池2の温度が降下し、その温度降下が所定値以上であるものとする。この場合、温度検出センサ11cの検出信号を受けて、ペルチェユニット4には制御電圧X1が印加され、放熱作用で第1の熱交換器3を温熱特性Bに従って温度上昇させ、例えば電池2の温度が0℃となるように制御する。
【0029】
図4は、図5に示すヒステリシス特性をもった熱交換器の温度特性を得るためのフローチャートである。ステップS1において、ペルチェユニット4の温度Tpをペルチェ温度検出センサ4Aで検出する。ステップS2において、第1の熱交換器3の温度Tcを温度検出センサ28で検出する。
【0030】
ステップS3において、検出されたペルチェ温度Tpと熱交換器温度Tcとの温度差(Tp−Tc)がプラスであれば、ステップS4において、ペルチェユニット4に制御電圧X2が印加され、その吸熱作用で第1の熱交換器3を冷熱特性Aに従って温度降下させ、例えば電池2の温度が0℃となるように制御する。
【0031】
他方、ステップS3において、検出されたペルチェ温度Tpと熱交換器温度Tcとの温度差(Tp−Tc)がマイナスであれば、ステップS5において、ペルチェユニット4には制御電圧X1が印加され、その放熱作用で第1の熱交換器3を温熱特性Bに従って温度上昇させ、例えば電池2の温度が0℃となるように制御する。
【0032】
前述のとおり、第1の熱交換器3の冷熱特性Aおよび温熱特性Bは、図5に示すようなヒステリシス特性を利用して温度制御される。このため、例えば電池2の温度を0℃とする制御において、温冷切替え点の近傍の温度差が小さい状態であっても、安定した温度制御が可能である。なお、冷熱特性Aおよび温熱特性Bは、図5に示す例では直線的に変化するが、図6に示すように曲線的に変化する特性であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 電池温調システム
2 電池
3 第1の熱交換器
4 ペルチェユニット
4A ペルチェ温度検出センサ
5 第1のポンプユニット
5A 第1の流体通路
5a 第1の流体
6 第2の熱交換器
7 第2のポンプユニット
7A 第2の流体通路
7a 第2の流体
11c 電池温度検出センサ
26 P型熱電半導体素子
27 N型熱電半導体素子
28 熱交換器温度検出センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の温度を検出する温度検出手段と、
前記電池の温度を熱伝達により変化させる熱交換手段と、
前記温度検出手段の検出温度に応じて前記熱交換手段を温度制御して前記電池の温度を調整する温度制御手段と、を備え、
前記温度制御手段は、温度上昇の立ち上り特性と立ち下り特性がそれぞれ異なるヒステリシス特性をもって前記電池の温度を制御することを特徴とする電池温調システム。
【請求項2】
前記温度制御手段は、温度上昇の立ち上り及び立ち下り特性が比較的急峻で、かつ前記温度上昇の立ち上り及び立ち下りの後方側特性が比較的に緩やかなヒステリシス特性をもって前記電池の温度を制御することを特徴とする請求項1に記載の電池温調システム。
【請求項3】
前記熱交換手段は、供給される電流の向きによって放熱または吸熱するペルチェユニットと、前記電池の近傍に配置された流体通路とを備え、
前記ペルチェユニットは、前記流体通路の流体を昇温または降温させて前記電池の温度を調整することを特徴とする請求項1に記載の電池温調システム。
【請求項4】
前記ペルチェユニットは、複数のP型熱電半導体素子と複数のN型熱電半導体素子とが電極を介して電気的に直列に接続して平板状に形成され、放熱側には第1の流体が流れる第1の流体通路が設けられ、吸熱側には第2の流体が流れる第2の流体通路が設けられ、放熱側の電極及び吸熱側の電極が前記第1及び第2の流体通路にそれぞれ露出し、かつ前記第1及び第2の流体通路間の第1及び第2の流体の移動を阻止するように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の電池温調システム。
【請求項5】
電池の温度を検出する温度検出手段と、前記電池の温度を熱伝達により変化させる熱交換手段と、前記温度検出手段の検出温度に応じて前記電池の温度制御をする温度制御手段とを備えた電池温調システムにおける温調方法であって、
温度上昇の立ち上り及び立ち下り特性がそれぞれ異なるヒステリシス特性をもって前記電池の温度を制御することを特徴とする電池温調方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−226927(P2012−226927A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92605(P2011−92605)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】