説明

電池用集電体ならびに電池

【課題】革新的な電池集電体によるリチウムイオン電池の容量増加と軽量化。
リチウムイオン電池における集電体の薄膜化による軽量化と容量の増大という、一挙両得の発想自体は独創的なものではないが、実際にその要求を満たせる材料はこれまで発明されなかった。
【解決手段】有機基材の両面に導電性物質層を配置した積層フィルムを負極集電体や正極集電体あるいはその両方に用いることによって、これまで実現困難であった新しい手法での大幅な容量増加と軽量化を同時に実現する。このとき積層フィルムの両面の導通には、塗布する活物質への固体微粒子添加により実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間に有機材料のフィルム(以下有機フィルムと略称する)を挟み、その両面に金属などの導体材料(導電性物質)の薄膜を設けた積層フィルムを用いて、電池の集電体を薄膜化・軽量化し、体積当たりの電池容量を増やすと同時に、電池の軽量化を行う技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の実用化に伴って、負極集電体として一般的に圧延銅箔が用いられてきた。また正極集電体には一般的にアルミニウム箔が用いられてきた。電池の容量の増大には、集電体をより薄くすることが必要な技術の一つに上げられる。また集電体を薄くすることで電池を軽量化することにもつながる。したがって、できるだけ薄い材料が求められるのであるが、圧延銅箔にしろ、圧延アルミニウム箔にしろ、これらの生産技術は既に成熟段階に入っており、現実には集電体を薄膜化して軽量化や容量の増加をする試みは現状の材料を使う限りにおいては最適な状態に達していると言ってもよい。
【0003】
導電性薄膜材としての単材料の金属箔は産業上さまざまな用途に使われているが、圧延銅箔の場合、薄いものではおよそ10μmもしくは8μm厚が量産の製造限界である。さらなる薄膜化が出来ない原因としては、圧延で作成される銅箔は、製造段階での加工ひずみが残るため欠陥を多く持っており、極薄の圧延に耐えられないことが挙げられる。また10μmもしくは8μm厚の銅箔では、加工硬化しているため表面の傷などには極めて弱く、脆性的に破れやすいことも極薄圧延に耐えられない原因の1つである。歩留まりや製品の品質を無視するなら、原理的には、繰り返し圧延をすることでより薄い銅箔を作製することは可能である。しかしながらそれは工業製品として成立しない。破れや不均質さによって製造歩留まりが非常に悪いからである。非常に注意をして圧延することで少量を薄膜化することは不可能ではないが、大面積で均質な材料は得難く、工業製品としてのコストには見合わないものとなってしまう。
【0004】
このような銅箔の生産技術が現実にあっても、電池用集電体としては20μm程度の圧延銅箔が一般的に用いられている。よしんば、コストを無視して8μm程度に薄膜化された銅箔を用いたとしても、リチウム電池の製造工程では集電体への活物質の塗布作業、ローラープレス機による圧延など、集電体に高い張力のかかる工程がいくつもあり、薄膜化された銅箔ではこの段階で破れなどを生じる可能性が非常に高い。このように薄い銅箔を用いることには大きなメリットがあるにもかかわらず、実用上は破れが発生するため工業化の大きなハードルになっている。破れなどを生じないような十分な強度を持ったより薄い銅箔が求められているが、実際の生産では強度の問題から20μm程度の厚さのものが採用されている。
【0005】
同様に正極のアルミニウム集電体についても、リチウムイオン電池の実用化後には、強度を保ったままアルミニウム箔あるいはアルミニウム合金箔を薄くする技術の大きな進展はなく、リチウムイオン電池の容量増大に、集電体の薄膜化で対応する技術は大きく進展してこなかった。
【0006】
こうした技術背景には、リチウムイオン電池が開発された時代には、既に銅・銅合金やアルミニウム・アルミニウム合金(以下アルミニウム及びアルミニウム合金を含めアルミニウムと表記する)の圧延技術は成熟しており、電池の構成要素として既存の強度と厚さをもった材料を用いるしか方法はなく、一定の強度を保持したままでの薄膜化の技術進歩も既に限界に達していた事情がある。
【0007】
従って、電池容量の増大については別の観点から行われてきた。例えば特許文献1に示すような、負極材料(炭素)への添加物質(ゲルマニウム)による方法がある。同じく非特許文献1で報じられているようにスズ系アモルファスといった新しい負極活物質の研究も近年精力的に進められている。
【0008】
また、特許文献2で示されるような、例えばスピネル系リチウムマンガン複合酸化物を用いるといった、正極活物質の研究は多くの物質について行われている。
【0009】
単材料の導体箔には強度上の限界があるため、これに替わる新規な材料として有機フィルムを支持体とした積層両面導通フィルムが考案されているが、こうした材料もいくつかの問題を抱えており、これまでのところ工業的には実用化には至っていない。
有機フィルムの両面に導体層を配置した積層フィルムは、支持体である中央の有機フィルムが絶縁体であるため、そのままでは両面間の導通性が無く、限られた用途にしか用いることができない。そのため、有機フィルムに貫通孔を形成し、この貫通孔に導電性物質を充填し、この導電性物質を介して、両面の導電性物質間を導通させようといういくつかの試みがある。
【0010】
その代表的な例として、特許文献3或いは特許文献4が知られている。これらは針(特許文献3)やレーザービーム(特許文献4)で物理的に穴を開けた後に有機フィルム両面に金属を蒸着やメッキさせたものである。しかしこうした物理的な穿孔手法による積層両面導通フィルムでは、有機フィルムに0.5〜1mm程度の穴を開けるものであるため、有機フィルムの強度が低下するので、実用性が低いという欠点がある。また穿孔処理が別途1工程必要であるために処理にコストがかかるという問題も指摘される。
【0011】
さらには、有機フィルムを微多孔とし、この微多孔に導電性物質を浸透させることによって両面の導通を確保する方法がある。この方法にはフィルムの強度を落とすことなく表面を電気的に導通させるというメリットがあり単に導通さえあれば良いという場合には有効な方法である。しかしながら、上市されている有機フィルムに等しく同じような性質があるわけではなく、微多孔であっても導通は不安定で電池集電体として実用化するには至ってはいない。
【0012】
【特許文献1】特開平11-329428
【非特許文献1】http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200502/05-006/
【特許文献2】特開2005-158627
【特許文献3】特開平9-27695
【特許文献4】特開平10-51135
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そもそも、リチウムイオン電池における集電体の薄膜化による軽量化と容量の増大という、一挙両得の発想自体は独創的なものではないが、実際にその要求を満たせる材料はこれまで発明されなかった。
【0014】
本発明は、リチウムイオン電池の集電体にこれまでは用いられることのなかった全く新しい材料を提案するものである。すなわち、従来に用いられてきた集電体は金属の箔であり、電気伝導性こそ良いものの、金属であるが故重いという欠点があり、またそれを改善しようとしてさらに圧延を行い薄膜化すれば脆性的に破れ易いという別の欠点が現れてしまう。
【0015】
本発明は、有機フィルムを基材として、その表裏に導電性物質を配置した積層フィルムを用いる。有機フィルムの素材としては種々の選択があり、要求される性能によって、いくつかの選択肢がある。また積層させる導電性物質も千差万別であり、純銅や純アルミニウムだけではなく、様々な合金を準備することが可能である。
【0016】
負極集電体を例にとって見れば、従来から用いられている圧延銅箔の圧化率を上げて、より薄い素材を提供できるのであれば、なんら問題はない。しかしながら、現在の技術では生産可能な厚さは8μm程度が限界である。これは先に述べているように工業生産性という観点から見た場合の限界点である。さらに、前述しているようにリチウムイオン電池用の電極として実用的に用いるためには、20μm程度の厚さを持って、強度を満たすしか方法はない。
【0017】
これに対し、本発明品を用いることで、破断しにくい有機フィルムの特長を存分に生かしたものを作ることが可能となり、集電体の大幅な薄膜化・軽量化が実現する。
【0018】
正極のアルミニウム箔についても負極と同種の問題があり、薄膜化による容量増加や軽量化はこれまでの技術進歩で限界に達していた。
【0019】
正極では、集電体としてアルミニウムを用いていることから同じ素材でより薄い材料が開発されたとしても電池の軽量化に寄与する割合は負極に比べれば小さいが、負極の場合と同様に容量の向上には直接影響を与える。リチウムイオン電池用として実用されているアルミニウム箔は15〜20μmであり、それ以下の集電体が開発されれば画期的な技術革新となる。本発明品は、これを現実のものとする。さらに、有機フィルムの比重はアルミニウムの半分程度であるから、軽量化という点においても一石を投じる材料になる。
【0020】
本発明では、上記積層フィルムを用いて、数μmから15μm程度の厚さで、強度に優れ、取り扱いが容易で、歩留まりが向上し生産性も改善され、なお且つ両面の導電性物質間で十分な導通性を備えた電池用集電体及びその製造方法を提供することを目的とし、従来の金属製集電体では実現できなかった新しい特長を発現していく。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記集電体を創生するに当たって、有機フィルムの両面に導電性物質材料を効率よく積層させる技術は、真空蒸着法に代表されるPVDなどの既存のものであるが、総厚が5μm以下の非常に薄い積層フィルムの作製は、蒸着時にフィルムが熱負けするなどして、工業的な生産を行うことが困難だと考えられてきた。しかし、巻き取り式蒸着機のキャンを効率よく冷却し、蒸着速度をコントロールするなどの創意工夫を行った結果、ベースフィルムが4μm、あるいは2.5μmの場合であっても両面に積層させる技術を確立した。
【0022】
このようにして、例えばリチウムイオン電池の負極集電体用として、有機フィルムの両面に銅を積層することによって、5μm以下の柔軟な積層フィルムを作り出すことが可能となった。特にPETフィルムを2.5μmとした場合には、両面に0.3μmの銅を蒸着することによって、総厚3.1μmとなる。工業生産されている圧延銅箔に比べ半分以下の厚さが実現できる。したがって、大幅な電池容量アップが出来ると同時に驚くほどの軽量化が可能になる。これは飛躍的な革新である。
【0023】
正極集電体でも同じように、有機フィルムの両面にアルミニウムを積層したものを銅の場合と同じ規格で作ることが可能であり、工業的に生産できる圧延箔に比べれば半分以下の厚さが実現できる。実際には電池に使われているアルミニウムは15〜20μm程度であるから、厚さにして5分の1程に薄膜化できることになる。
【0024】
上記のような有機フィルムを基材とした材料は、絶縁体を挟んで表裏に導電物質が配置されているため、原理的に表裏に導通がなく、金属薄膜の代替材料とはなりえないと考えられがちである。しかしながら、詳細な研究の結果、こうした材料でも不安定ながら表裏に導通を取れる方法がないわけではない。
【0025】
有機フィルム自体は完全な絶縁体であるが、表裏をつなぐ非常に小さな微孔がわずかではあるが存在しており、導電性物質を両面から真空蒸着などの方法で積層させた場合にはこの微孔を通して電気的に導通することが分かっている。
【0026】
しかしながら、前項に示した電気的導通は不安定でありまた微少電流しか通せないという欠点もある。そこで、安定して一定の電流を表裏に流すことが出来る工夫が必要となり、この点が本発明において最も新規性のある部分である。
【0027】
この方法として、電池電極への加工時に活物質に固体微粒子を混入させる方法を発明した。すなわち、集電材の表面に活物質を塗布するときに同時に固体微粒子を混入させておき、ローラープレスを通す段階で、この固体微粒子が有機フィルムを突き破り表裏の導電性物質が物理的に接触し電気的導通が得られる、という仕組みである。
【0028】
上記積層フィルムを電池集電体として利用することによって、革新的な電池の軽量化と容量増大を実現することが可能になった。
【発明の効果】
【0029】
上記集電用積層フィルムは、リチウムイオン電池の集電体としては極めて画期的なものである。
【0030】
これまで用いられてきた銅箔・アルミニウム箔よりもはるかに薄い資材を提供できるため、容積が同じ大きさの電池であっても、電極面積を大幅に拡大することが可能である。これは電池容量の増大に直結する。
【0031】
さらには、中心基材が有機フィルムであるため大幅な軽量化が可能になる。例えば、同じ1mの面積で厚さ20μmの銅箔と、PETを中心基材とした総厚3.1μmの積層フィルムを比較してみると、銅箔は178gになるのに対し、上記積層フィルムでは8.9gとなり、実に銅箔の5%の重量しかなく、その軽量化の効果は絶大であることが分かる。
【0032】
一方のアルミニウム箔では、同じように1m2の重量を比べたとき厚さ20μmのアルミニウム箔は54gであるのに対し、前記銅積層フィルムと同じ構成を持った総厚3.1μmの積層フィルムでは5.1gとなる。この場合でも、フィルムの重量はアルミニウム箔に対し9.4%しかなく、基材として有機フィルムを用いたことで、軽量化の効果は非常に大きなものとなることがわかる。
【0033】
さらに、金属箔と比較すれば、比類ない柔軟性を備えており、機械的強度も十分にあり加工性にも優れているという長所をもつ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
電池集電体としての積層フィルムにとって、焦点となる技術は二つある。一つは有機フィルムと導電性物質層との密着性、換言すれば耐久性であり、もう一つは安定した両面導通性である。
【0035】
有機フィルムとしては各種の素材が利用可能であり特に制限はない。この際導電性物質層との密着強度を問題点とすれば、おおよそコロナ処理、プラズマ処理、原子状水素処理などで表面改質を行った後に、真空蒸着法・スパッタ法などの方法で導電性物質層の積層を行う方法は推奨される。表面改質や有機フィルムの両面に導電性物質を配置する方法として、これらの方法が限定を与えるものではない。
【0036】
実際の問題として、最も薄い薄膜タイプを製造するに当たっては使用できる有機フィルムに制限を受ける。上市されている2.5μmの有機フィルムは主としてポリエチレンテレフタレート(PET)に限られる。従って、現時点での選択肢は限られたものとなってしまう。しかし今後他の有機フィルムで、同等の膜厚の物が上市されれば、それらを基材としてもなんら差し支えはない。また、有機フィルムの強度に目を向けたとき、必ずしもPETが最適とは言えない。電池の製造工程にあわせた強度を求める場合に、集電体の薄さという優位性を犠牲にしても、他の有機フィルムを選択することも可能である。これは、薄さを犠牲にしても、強度と軽さという点においては、金属箔を用いる場合より優位性が認められるからである。
【0037】
例えば、強度や耐熱性を要求する場合においてはポリアミド系フィルムやポリイミドフィルムなどを基材とすることも可能である。
【0038】
両面導通性に関しては、2.5μmのPETフィルムでは、フィルムの不均一性から、両面に導電性材料を形成した際には、表裏不安定ながら電流が流れる現象が確認された。しかしながら、これは微小電流に限った事であり、電池集電体として安定した電流を流すには不十分である。
【0039】
これを改善する手段が本発明の中心となる技術である。すなわち、両極に塗布される活物質に固体微粒子を混合させる方法がある。この固体微粒子は研磨材などの砥粒であっても良い。砥粒を活物質に混合した状態にすることで、ローラープレス機による活物質の圧縮工程で、この砥粒がフィルム表面を押さえつけ、この効果により上記積層フィルム上に形成していた導通物質が反対面まで貫通する。これにより非常に安定した導通が得られることが分かっている。
【0040】
混入させる固体微粒子として砥粒を使用する場合、砥粒の種類としてはいくつか考えられる。すなわち天然のものとしては、コランダム、エメリー、ガーネット、ケイ石、スピネル、ダイヤモンド、ケイソウ土、ドロマイト、トリポリ、浮石粉、などがあり、人造のものとしては、溶融アルミナ、炭化ケイ素炭化ホウ素、人造ダイヤモンド、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物、酸化鉄酸化クロム、仮焼アルミナ、などがある。
【0041】
前項で上げた固体微粒子として、負極並びに正極にそれぞれどの物質が適しているかは、実際に電池を組んだときの起電力や、繰り返し充放電を行った場合の性能劣化などを詳細に調べなければ最適の組み合わせを見つけることは出来ない。特に、金属酸化物を用いる場合には、電池の電極性能に影響を及ぼす可能性が非常に高いので、その使用に関しては慎重な選択が要求される。
【0042】
砥粒の種類の優劣は実際に電池に組んだときに、より電池の性能が向上するものが好ましいと言える。まず塗布する活物質に化学的及び電位的影響を与えないものが適する。砥粒の形状は積層されている導通物質を効果的に押し込むためには鋭利な角を持つものが好ましい。砥粒の粒径としては後でさらに詳細を述べるが、PETフィルム厚程度の2.5μmから最大で塗布される活物質の厚さ程度の大きさのものが好適である。
【0043】
前項で述べた観点で、活物質に混入させる固体微粒子を再検討すると、活物質そのものと同じかあるいはそれに近い化学的性質を備えているもの、もしくは化学的に安定で電池内での反応に影響を与えないものが好ましい。負極に炭素を活物質として使っている場合であれば、固体微粒子をグラファイトの結晶とすることで、電位的にも全く影響を与えない電極を作ることができる。正極では、集電体がアルミニウムであることから、その酸化物であるアルミナは好適な砥粒であると言える。あるいは、活物質にコバルト酸リチウムを使用している場合、これを適度な粒径に微細結晶化し混入させることも可能である。以上に述べた以外の活物質を使っている場合についても、活物質と同じ組成を持った結晶粒子を有機フィルム貫通用の固体微粒子として混入させる方法が有効である。ただし、ここで例に挙げた物質は、混入させる固体微粒子の種類を限定するものではない。
【0044】
混入させる固体微粒子には有機フィルムを貫通するという役目がある。したがって、まず固体微粒子の最低の粒径として、使用する有機フィルムの厚さよりも大きなものが必要である。つまり2.5μmのPETフィルムを使用している場合には粒径が2.5μm以上あることが好ましく、使用するフィルムの厚さが6μmであるならば、粒径が6μm以上あることが好ましい。このように、使用する有機フィルムの厚さによって、固体微粒子の粒径も適切に変更する必要がある。
【0045】
固体微粒子の粒径についてはさらに言及が必要である。ロールプレス後の活物質層が60μmの厚さであるような場合、有機フィルムの厚さに合わせた固体微粒子を準備しても、そのほとんどが活物質中に埋もれてしまい、本来の効果を期待できない可能性が高い。従って、ロールプレス後の活物質層の厚さを考慮して固体微粒子の粒径を決定する必要がある。すなわち、製造される活物質層の厚さになるべく近い粒径のものを準備して混入させる方が、より両面導通性の良い集電体を製造できることになる。
【0046】
粒径もさることながら固体微粒子の形状にも好・不適がある。有機フィルムを貫通させるためには、固体微粒子が球状をしているよりも、鋭利な突起を持つほうが好ましい。すなわち、混入される固体微粒子の方向まで制御することは困難であることから、固体微粒子の表面に鋭利な突起を多数有している方が、有機フィルムを貫通するという目的達成のためには有利である。
【0047】
以下実施例にて、本発明について具体的な記述をするが、これらの実施例は本発明についてなんら制限を与えるものではない。
【実施例1】
【0048】
有機フィルムとして2.5μm厚のPETフィルムを使い、その両面に0.3μmずつ両面対象に銅を配置した積層フィルムを準備した。この積層フィルムを一辺20cmの正方形に切り出し、片面だけを格子状にエッチングし100のブロックに分割した。エッチングした各ブロックとエッチングしていない面との間に電気的導通があるかどうかを調べたところ。不安定ながら3つのブロックで導通が確認された。このように、薄い有機フィルムでは面積あたりにある一定のエラーを含んでおり、この実施例のように片面をエッチングしないサンプルでは、全体としてはあたかも表裏に導通があるように観察される。こうした活物質の塗布前に既に導通しているブロックを「自然導通」と称する。
【0049】
次に、エッチングをしなかった面に活物質としてハードカーボンを塗布した。ハードカーボンには市販の平均粒径が22μmの活性炭を用い、活性炭100gに対し平均粒径50μmのエメリーを5g、ポリフッ化ビニリデン樹脂のN-メチル-2-ピロリドン溶液(呉羽化学工業製KF1320)を200g加えミキサーで30分間混練してスラリーとした。このスラリーをバーコーターで塗布し総厚がおよそ100μmとなるようにした。
【0050】
ハードカーボンを塗布したサンプルは、80℃に保ち24時間乾燥させた。これにローラープレスを行い、最終的に総厚80μmとなるようにした。ハードカーボンを塗布した面と、エッチングしたブロックとの間の導通を調べたところ、全てのブロックでの導通が確認できた。すなわち、有機フィルムの表裏で、安定した電気的導通が取れるようになったことを示している。
【0051】
(比較例1)研磨材としてのエメリーを混合させなかった場合の様子を説明する。
片面をエッチングしたサンプルで自然導通が4ブロックである2.5μm厚のPETフィルムの両面に0.3μmずつ両面対象に銅を配置した積層フィルムを用いて、実施例1と同じ条件で、エメリーを混合させないで同じ実験を行った。ローラープレスで80μmまで圧縮した場合には、導通したブロックは23であった。これは、砥粒を混合させなくてもハードカーボンの一部が圧縮力によって、フィルムに破れを作ったことを示している。
【0052】
さらにローラープレスを行い、最終的に総厚が70μmとなるまで活物質を圧縮したところ、導通が取れたブロックは43まで増加した。ハードカーボン自体が有機フィルムに破れを作る作用をすることがわかる。
【実施例2】
【0053】
片面をエッチングしたサンプルで自然導通が3ブロックである2.5μm厚のPETフィルムの両面に0.3μmずつ両面対象に銅を配置した積層フィルムを用いて、実施例1で用いたハードカーボンの代わりに、平均粒径500nmのアセチレンブラックを活物質として用いて、その他は実施例1と全く同じ実験を行った。この場合にもアセチレンブラックを塗布した面とエッチングした全てのブロックとの間に導通が生じることが確認された。
【0054】
(比較例2)研磨材としてのエメリーを混合させなかった場合の様子を説明する。
片面をエッチングしたサンプルで自然導通が2ブロックである2.5μm厚のPETフィルムの両面に0.3μmずつ両面対象に銅を配置した積層フィルムを用いて、実施例2と同じ条件で、エメリーだけを混合させずに同じ実験を行った。この場合にはアセチレンブラックを塗布した面とエッチングしたブロックとの間には7ブロックでしか導通が確認されなかった。フィルムを貫通して破れを作る成分がなければ、導通が上手く得られないことを示している。
【0055】
さらに、ローラープレスを行い最終的に総厚が70μmとなるまで活物質を圧縮したが、導通が取れたブロックは12までしか増えなかった。アセチレンブラックはハードカーボンの場合と比べ活物質の粒径が小さいため有機フィルムを破る効果が小さいことがわかる。
【0056】
表1は実施例と比較例をまとめた表。活物質にエメリーを加えた場合100%の導通を示すが、エメリーを加えなかった場合には、完全な導通を作ることはできない様子が分かる。
【表1】

【実施例3】
【0057】
実施例1と同様に片面を100ブロックにエッチングした2.5μm厚のPETフィルムの両面に0.3μmずつ両面対象にアルミニウムを配置した積層フィルムを準備した。このとき自然導通は4ブロックであった。この積層フィルムのエッチングを行っていない面に正極物質を塗布したサンプルを作った。
【0058】
正極活物質はLiCoO2を82g、導電性粒子としてアセチレンブラック8g、ポリフッ化ビニリデン5g、平均粒径10μmの研磨用アルミナ粉末5g、N-メチル-2-ピロリドン40gを加え、ミキサーで30分間混練したものとした。パーコーターを用いてこのスラリーを総厚がおよそ25μmとなるように塗布した。
【0059】
活物質を塗布したサンプルは、80℃に保ち24時間乾燥させた。これにローラープレスを行い、まず総厚22μmとなるようにしたが、活物質を塗布した面と、エッチングしたブロックとの間の導通を調べたところ、導通したブロックは32にとどまった。そこでさらにローラープレスを行い、総厚18μmとなるようにしたところ、全てのブロックでの導通が確認できた。表裏での安定した電気的導通が取れるようになったことを示しており、ローラープレスで掛ける圧力も条件の決定要因であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料のフィルムの両面に金属などの導電性物質を配置した多層膜構造を持つ、電池電極用集電体フィルム。
【請求項2】
上記多層膜構造を持つフィルムにおいて正極ならびに負極に電極材料(活物質)を塗布する段階において、これら電極材料に固体微粒子を混入させることもしくは塗布する活物質の一部を適当な形状を持った微粒子に置き換えることによって、ロールプレス機による電極の圧延工程で有機材料のフィルムに適度な破れを生じさせ、この破れを通じて表裏の電気伝導性を安定化させた電池用集電体フィルムならびに電池電極。
【請求項3】
活物質内に固体微粒子を混合させることによって、両面に導通のある集電体フィルムを形成する製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載した集電体を用いて作製された電池。

【公開番号】特開2008−152994(P2008−152994A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337891(P2006−337891)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000231280)日本資材株式会社 (9)
【Fターム(参考)】