電池用電極、非水溶液系電池、および非水溶液系電池の製造方法
【課題】本発明の課題は、電極材料の質量当たりの容量が高く、しかも常温以下であっても使用することができる非水溶液系電池を提供することにある。
【解決手段】本発明の非水溶液系電池1は、次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、リチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含む電極を正極2とし、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極を負極3としたことを特徴とする。この正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、常温以下においてもリチウムイオンを吸蔵し、そして放出する。
【解決手段】本発明の非水溶液系電池1は、次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、リチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含む電極を正極2とし、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極を負極3としたことを特徴とする。この正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、常温以下においてもリチウムイオンを吸蔵し、そして放出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄を含む有機化合物を、活物質として用いた電池用電極、非水溶液系電池、および非水溶液系電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギ密度の高い電池の要求が高まっている。このような電池としては、単電池の電圧が高いリチウム電池が挙げられる。リチウム電池は、非水溶液系の電解液を用いることによって3V以上の高い電圧を得ることができる。しかしながら、従来のリチウム電池は、正極および負極の電極材料の質量当たりの容量が低く、例えば、コバルト酸リチウムを含む正極を有する電池は、その容量が140〜150mAh/g程度にとどまっている。
【0003】
そこで、有機硫黄高分子化合物を正極に用いた電池が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2等参照)。前記の有機硫黄高分子化合物は、次式(A):
R−S−S−R・・・(A)
(ただし、前記式(A)中、Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよい、脂肪族有機基または芳香族有機基を表す)で示される。
【0004】
この有機硫黄高分子化合物は、還元状態でS−S結合が開裂することによって、有機チオレート(R−SH)を形成する。そして、この有機チオレートは、酸化状態でS−S結合が形成されて有機硫黄高分子化合物(R−S−S−R)に復元する。つまり、この有機硫黄高分子化合物を正極に使用した電池は、この有機硫黄高分子化合物の可逆的な酸化還元反応によって充放電を行うことができる。
【特許文献1】米国特許第4833048号明細書
【非特許文献1】J.Electrochem.Soc.,vol 136,p.661-664(1989)
【非特許文献2】J.Electrochem.Soc.,vol 136,p.2570-2575(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記式(A)で示される有機硫黄高分子化合物は、常温での酸化電位と還元電位との差が大きいことから反応速度が遅い。したがって、この有機硫黄高分子化合物を正極に使用した電池は、少なくとも80℃程度の高温でなければ使用することができないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、電極材料の質量当たりの容量が高く、しかも常温以下であっても使用することができる電池用電極、非水溶液系電池、および非水溶液系電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の電池用電極は、次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、リチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含むことを特徴とする。
【0008】
このような電池用電極においては、前記ルベアン酸または前記ルベアン酸ポリマが、次式(2):
R1−(NH−CS−CS−NH)n−R2 ・・・(2)
(ただし、前記式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1〜3のアルキル基、アミノ基、水酸基、またはスルホン基を表し、nは、1〜20の整数を表す)
で示されるものであってもよい。
【0009】
また、このような電池用電極は、前記式(1)で示される構造単位が、次式(3)で示される酸化還元反応を行うルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含むように構成されている。
【0010】
【化2】
【0011】
このルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、還元された際にリチウムイオンと結合し、酸化された際にその結合したリチウムイオンを放出する。つまり、ルベアン酸およびルベアン酸ポリマは、電池用電極での活物質となる。また、リチウムイオンと結合し、そして放出するルベアン酸およびルベアン酸ポリマの反応は、常温以下であっても生じることとなる。
また、このルベアン酸およびルベアン酸ポリマは、従来の非水溶液系電池において活物質として使用される金属酸化物と比較して、電池用電極の軽量化を図ることができる。
【0012】
そして、本発明の非水溶液系電池は、前記した電池用電極を正極とし、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極を負極としたことを特徴とする。
この非水溶液系電池は、前記した電池用電極を正極として備えることによって、常温以下であっても使用することができる。そして、この非水溶液系電池は、従来の非水溶液系電池と異なって、正極が軽量となるので電極材料の質量当たりの容量が高くなる。
このような非水溶液系電池おいては、前記した電池用電極に更にリチウムを含む電極が正極とされ、リチウム非含有導電性化合物からなる電極が負極とされたものであってもよい。
この非水溶液系電池は、電池として組みあがった状態で既に放電状態であるため、使用者に供される前に放電作業を行なう必要がない。そのため、製品としての安全性を容易に向上させることができる。
【0013】
また、このような非水溶液系電池おいては、前記正極と前記負極との間に介在する電解質が、ゲル状物または固形物に含まれるように構成することもできる。
この非水溶液系電池は、電解質が電解液に含まれるものと異なって、活物質としてのルベアン酸またはルベアン酸ポリマが電解液に溶出することが避けられるので、非水溶液系電池の劣化を防止することができる。
【0014】
そして、本発明の非水溶液系電池の製造方法は、次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、リチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含む電極体を作製する工程と、前記電極体にリチウムを吸蔵させて第1電極を得る工程と、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極材料から第2電極を作製する工程と、前記第1電極を正極として組み込むとともに、前記第2電極を負極として組み込む工程とを有することを特徴とする。
このような非水溶液系電池の製造方法によれば、前記したように電極材料の質量当たりの容量が高く、しかも常温以下であっても使用することができる非水溶液系電池を製造することができる。
また、このような製造方法によれば、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマに、リチウムイオンを結合させて正極を作製することで、リチウムイオンを含む正極を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極材料の質量当たりの容量が高く、しかも常温以下であっても使用することができる電池用電極、非水溶液系電池、および非水溶液系電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図1は、実施形態に係る非水溶液系電池の縦断面図である。なお、以下の説明において、上下方向を説明するときは図1の上下を基準として説明する。
【0017】
図1に示すように、非水溶液系電池1は、その外形が円盤形状のコイン型リチウム電池(コイン型リチウム電池)であって、CR2032規格に相当するものである。
この非水溶液系電池1は、周知の構造を有しており、下側に配置される正極缶Caと上側に配置される負極缶Cbとの間に、下側から正極2と、負極3とがこの順番に配置されている。なお、正極2は、本発明に係る「電池用電極」に相当する。
正極2と負極3との間には、その双方を互いに隔てるセパレータ4が挟み込まれている。そして、正極2と正極缶Caとの間には、集電体5が配置されており、正極缶Caと負極缶Cbとは、ガスケット6で電気的に絶縁されている。
【0018】
正極2は、活物質として、次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、後記するようにリチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含んでいる。
【0019】
具体的に言うと、前記ルベアン酸または前記ルベアン酸ポリマとしては、例えば、次式(2):
R1−(NH−CS−CS−NH)n−R2 ・・・(2)
ただし、前記式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1〜3のアルキル基、アミノ基、水酸基、またはスルホン基を表す。
前記ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
前記炭素数が1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、およびイソプロピル基が挙げられる。
前記式(2)中、nは、1〜100、好ましくは、1〜20の整数である。
【0020】
このような式(2)で示されるもののうち、NH2−CS−CS−NH2で示されるルベアン酸は好ましい。ちなみに、このルベアン酸自体は、導電性を有していない。
【0021】
このようなルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、後記するように、このルベアン酸またはルベアン酸ポリマが還元された形態で予めリチウム(リチウムイオン)を含んだものであってもよい。
【0022】
また、正極2には、さらに導電助剤、およびバインダが含まれている。
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト、鱗状黒鉛等の炭素材料、ニッケル粉末、チタン粉末、銀粉末、タングステン粉末等の金属粉末、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性高分子化合物が挙げられる。
バインダとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0023】
また、正極2には、後記する電解質がさらに含まれていてもよい。
また、正極2には、ルベアン酸およびルベアン酸ポリマ以外に他の活物質が含まれていてもよい。このような他の活物質としては、リチウムイオンを吸蔵し、および放出するものであれば特に制限はないが、例えば、リチウム塩等のリチウムイオンを含むものが挙げられ、中でもリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
このリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム等が挙げられる。
このような正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマの含有率は、10〜100質量%、好ましくは50〜100質量%である。
【0024】
負極3は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極で構成されている。リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質としては、リチウム元素を含むもの(例えば、リチウム原子、金属リチウム、リチウムイオン、リチウム塩)とリチウム元素を含まないものとが挙げられる。
リチウム元素を含むものとしては、例えば、金属リチウム(アルミニウム等を含有するリチウム合金を含む)のほか、Li2.4Co0.6Nのようなリチウム窒化物、チタン酸リチウムのようなリチウム酸化物が挙げられる。
リチウム元素を含まないものとしては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の黒鉛質材料、フェノール樹脂やピッチ等を焼成炭化したもの、活性炭、グラファイト等の炭素系材料、SiO、SiO2等のシリコン系材料、SnO、SnO2等の錫系材料、PbO、PbO2等の鉛系材料、GeO、GeO2等のゲルマニウム系材料、リン系材料、ニオブ系材料、アンチモン系材料、およびこれらの材料の混合物が挙げられる。
【0025】
また、負極3には、さらに前記したと同様の導電助剤、およびバインダが含まれていてもよい。
このような負極3としては、正極2にリチウム元素が含まれない場合には、例えば、金属リチウムを含むものが用いられ、正極2にリチウム元素(リチウムイオン等)が含まれる場合には、リチウム元素を含むものも使用されるが、リチウム元素が含まれていないものが好ましい。
ちなみに、正極2にリチウム元素を含まず、負極3に金属リチウムを含む非水溶液系電池は、一次電池として機能させることもできる。
【0026】
セパレータ4としては、後記する電解液を含む樹脂製シート、ならびに後記する電解質を含むゲル状物および固形物が挙げられる。ちなみに、前記したゲル状物、および固形物は板状体に成形して用いられる。樹脂製シートを形成する樹脂としては、公知のものでよく、例えば、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。そして、電解質を含む固形物からなるセパレータ4のマトリックス樹脂としては、例えば、ポリエチレンオキシド系導電性ポリマ、ホウ酸エステル系導電性ポリマ等が挙げられる。
【0027】
電解液としては、電解質を溶媒に溶解させたものが用いられる。
電解質としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、
LiCl、LiBr、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、
LiC(CF3SO2)3等が挙げられる。
溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0028】
次に、この非水溶液系電池1の動作について説明する。ここでは金属リチウムを含む負極3を有する非水溶液系電池1において、その正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマの酸化還元反応について主に説明する。
【0029】
この非水溶液系電池1においては、正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、次式(3)中、上段に示す酸化された形態(以下、単に「酸化形態」ということがある)と、下段に示す還元された形態(以下、単に「還元形態」ということがある)とに可逆的に変異する基を有する。
【0030】
【化3】
【0031】
この非水溶液系電池1では、充電および放電のいずれも行われていない初期状態において、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、前記式(3)に示すように、前記した酸化形態の基を有している。
【0032】
そして、この非水溶液系電池1では、ルベアン酸を例にとると、放電時に次の正極反応と負極反応とが生じる。
正極反応: (CS−NH2)2+2Li++2e−→(CSLi−NH2)2
負極反応: Li→Li++e−
そして、非水溶液系電池1の放電時における全反応は、次のようになる。
全反応: (CS−NH2)2+2Li→(CSLi−NH2)2
さらに、具体的にいうと、この非水溶液系電池1では、図1に示す正極缶Caと負極缶Cbとの間に図示せぬ負荷が電気的に接続されて放電が開始すると、負極3の金属リチウム(Li)は、リチウムイオン(Li+)となることで電子(e−)を発生する。この電子(e−)は、負極缶Cb、負荷(図示せず)、正極缶Ca、および集電体5を介して正極2に向かう。そして、正極2では、酸化形態の基(前記式(3)中、上段に示す基)が前記した還元形態の基(前記式(3)中、下段に示す基)に変異することで、炭素原子(C)に結合する硫黄原子(S)は、電気的に負となる。
【0033】
その一方で、リチウムイオン(Li+)は、セパレータ4に含まれる電解質を介して正極2に供給される。そして、前記式(3)に示すように、還元形態の基(前記式(3)中、下段に示す基)で電気的に負となった硫黄原子(S−)にリチウムイオン(Li+)は結合する。
なお、正極2がリチウムを含み、負極3がリチウム非含有化合物(例えば、グラファイト)である場合は、非水溶液系電池1を組み立てた直後は放電状態であるため充電から開始される。充電時に次の正極反応と負極反応とが生じる。
正極反応:(CSLi−NH2)2→(CS−NH2)2+2Li++2e−
負極反応:C6+Li++e−→C6Li
そして、非水溶液系電池1の充電時における全反応は、次のようになる。
全反応:(CSLi−NH2)2−+2C6→(CS−NH2)2+2C6Li
さらに、具体的にいうと、図1に示す正極缶Caと負極缶Cbとの間に図示せぬ負荷が電気的に接続されて充電が開始すると、正極2ではLi塩中のLiイオン(Li+)が脱離すると同時に、電子(e−)を発生する。この電子(e−)は、正極缶Ca、負荷(図示せず)、負極缶Cb、および集電体5を介して負極3に向かう。そして、負極3では、六角形の形をした6個の炭素群でπ電子1個を受け取ったり、出したりして1個のリチウムを挿入する。
【0034】
また、この非水溶液系電池1では、その充電時に、正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマの還元形態の基(前記式(3)中、下段に示す基)は、酸化形態の基(前記式(3)中、上段に示す基)に変異するとともに、リチウムイオン(Li+)を放出する。このリチウムイオン(Li+)は、セパレータ4に含まれる電解質を介して負極3に向かうとともに、電子(e−)を供与されることで金属リチウム(Li)となって負極3で析出する。
【0035】
次に、非水溶液系電池1の製造方法について説明する。なお、ここでは負極2に金属リチウムを含む非水溶液系電池1の第1の製造方法と、負極2に金属リチウムを含まない非水溶液系電池1の第2の製造方法とについて説明する。なお、第2の製造方法は、特許請求の範囲(請求項7)に記載した製造方法に相当する。
【0036】
まず、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマと、導電助剤と、バインダとの混練物をシート状に展延した後にこれを所定の形状に打ち抜くことによって正極2(図1参照)が形成される。
その一方で、例えば、リチウムやリチウム合金等の金属リチウムを含む箔を所定の形状に打ち抜くことによって負極3(図1参照)が形成される。
【0037】
次に、正極缶Ca(図1参照)の底部に集電体5(図1参照)を介して正極2が配置される。そして、正極2の上にセパレータ4(図1参照)が配置される。このセパレータ4は、例えば、正極2の上に配置した多孔質の樹脂シート(図示せず)に電解液を含浸させることによって形成することができる。また、セパレータ4は、電解質を含むゲル状物または固形物を正極2の上に配置することに形成することもできる。
【0038】
次に、セパレータ4の上に負極3が配置されるとともに、この負極3の上に負極缶Cbが配置される。この際、正極缶Caと負極缶Cbとを電気的に絶縁するようにガスケット6(図1参照)が配置される。そして、正極缶Caの外周縁がかしめられて正極缶Caと負極缶Cbとがガスケット6を介して接合されることで非水溶液系電池1は完成する。
【0039】
次に、非水溶液系電池1の第2の製造方法について説明する。
この第2の製造方法では、まず、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含む電極体が作製される。この工程では、前記した第1の製造方法で正極2を形成する工程と同様にして電極体が作製される。
【0040】
次に、この第2の製造方法では、得られた電極体にリチウム(リチウムイオン)を吸蔵させて第1電極が作製される。この第1電極は、電極体に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマの酸化形態の基(前記式(3)の上段に示す基)を還元して還元形態の基(前記式(3)の下段に示す基)に変異させるとともに、これにリチウムイオンを結合させることによって得ることができる。このような第1電極としては、例えば、第1の製造方法で得られた非水溶液系電池1を放電させた後に、この非水溶液系電池1から取り出した正極2を使用することができる。
【0041】
その一方で、この第2の製造方法では、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質であって、金属リチウムを含まない電極材料から第2電極が作製される。この第2電極は、前記した黒鉛質材料、炭素系材料、金属酸化物等の負極用の活物質、およびバインダ、ならびに必要に応じて導電助剤を含むこれらの混練物をシート状に展延した後にこれを所定の形状に打ち抜くことによって作製することができる。
【0042】
次に、この第2の製造方法では、第1電極を正極2(図1参照)として組み込むとともに、第2電極を負極3(図1参照)として組み込む工程を経て非水溶液系電池1は完成する。この工程としては、第1電極および第2電極を正極2および負極3に使用した以外は、第1の製造方法と同様に、正極缶Caに、集電体5、正極2、セパレータ4、および負極缶Cbを順番に組み付けていく工程を採用することができる。
【0043】
次に、本実施形態に係る正極2(本発明の電池用電極)、これを用いた非水溶液系電池1、およびこの非水溶液系電池1の製造方法の作用効果について説明する。
正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、前記したように、還元形態の基と、酸化形態の基とに可逆的に変異する際に、リチウムイオンと結合し、そして結合したリチウムイオンを放出する。つまり、このルベアン酸およびルベアン酸ポリマは、正極2での活物質となる。また、リチウムイオンと結合し、そして放出するルベアン酸およびルベアン酸ポリマの反応は、常温以下であっても生じることとなる。
【0044】
また、このルベアン酸およびルベアン酸ポリマは、従来の非水溶液系電池において正極の活物質として使用される金属酸化物と比較して、電池用電極の軽量化を図ることができる。
【0045】
このような正極2を備える非水溶液系電池1は、常温以下であっても使用することができる。そして、非水溶液系電池1は、従来の非水溶液系電池と異なって、正極2が軽量となるので電極材料の質量当たりの容量が高くなる。
【0046】
また、セパレータ4として電解質を含むゲル状物および固形物からなるものを使用した非水溶液系電池1は、セパレータ4に電解質が電解液として含まれるものと異なって、正極2に含まれる活物質としてのルベアン酸またはルベアン酸ポリマが経時的に電解液に溶出することが避けられるので、非水溶液系電池1の劣化を防止することができる。
【0047】
このような非水溶液系電池1は、非水溶液系一次電池および非水溶液系二次電池の両方に適用することができる。非水溶液系一次電池は、例えば、腕時計用電源、小型音楽再生機器用電源、パソコンのバックアップ等の小型電子機器の電源等に使用することができる。また、非水溶液系二次電池は、携帯電話、デジタルカメラ等のモバイル機器や、電気自動車、二足歩行用ロボットの移動体用電源等に使用することができる。
【0048】
また、このような非水溶液系電池1の製造方法によれば、前記したように電極材料の質量当たりの容量が高く、しかも常温以下であっても使用することができるものを製造することができる。
【0049】
また、このような製造方法のうち、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマに、リチウムイオンを結合させて正極2を作製する工程を有する前記した第2の製造方法では、反応性の高い金属リチウムを含まない負極3を使用することができる。
【0050】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。
前記実施形態では、コイン型リチウム電池を非水溶液系電池1として例示したが、本発明は、角型、円筒型、またはペーパ型の非水溶液系電池に適用されてもよい。
【0051】
また、前記実施形態に係る製造方法では、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマにリチウムイオンを結合させたものを正極2に使用するとともに、リチウムイオンを含まない活物質を負極3に使用する非水溶液系電池1の製造方法について説明したが、本発明の製造方法はこれに限定されるものではなく、リチウム元素を含有する負極3を使用するものであってもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
この実施例1では、まず、純度99%以上のルベアン酸(東京化成工業社製、D0957)を60℃で12時間真空乾燥した後に分級することによって、粒子径5〜40μmのルベアン酸粉末5gが準備された。このルベアン酸粉末は、電気的に絶縁物質であることが確認された。
【0054】
次に、60℃で12時間真空乾燥したアセチレンブラック(電気化学工業社製)0.5gと、バインダとしてのポリテトラウルオロエチレン(三井デユポンフロロケミカル社製、6−J)0.5と、前記したルベアン酸粉末4gとを小型Vミキサで十分に攪拌した後に、これを自動乳鉢で練り上げて混練物が調製された。
【0055】
次に、この混練物から得られた厚さ0.3mmのシート状物を直径14mmで打ち抜いた円板と、これと同径で円形の純チタン製のネット(北斗電工社製)とを重ね合わせて油圧プレスで加圧することで円板とネットとが一体となった正極が作製された。そして、この正極は、80℃で16時間乾燥した後に、アルゴンガスを循環させた露点−70℃以下のグローブボックス内に保管された。
【0056】
次に、前記した正極と、市販のコイン型電池(宝泉社製、CR2032)の構成部品とを使用して本発明に係る非水溶液系電池が作製された。ちなみに、この非水溶液系電池の負極には、純度99.95質量%で円形の金属リチウム箔(厚さ0.2mm、直径16mm)が使用された。セパレータには、ポリオレフィン系樹脂(旭化成ケミカルズ社製、NB630)からなる円板(厚さ30μm、直径20mm)を60℃で24時間真空乾燥したものに、さらに次の電解液を含浸させたものが使用された。
【0057】
電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1(容量比)で混合した溶媒を使用したLiPF6の1モル/L溶液(キシダ化学社製、LBG−ESA10)400μLが使用された。
【0058】
本実施例では、この非水溶液系電池が2個作製された。この2個の非水溶液系電池は、以下に、「電池A」と言う。
次に、1個目の電池Aについてサイックリックボルタンメトリの測定が行われた。このサイックリックボルタンメトリの測定は、作製直後の電池Aを室温で6時間放置した後に、25±2℃に管理した恒温槽内で掃引速度0.1mV/secの条件で行った。その結果を図2に示す。図2は、本発明に係る電池Aの25±2℃におけるサイックリックボルタンメトリの測定結果を示すグラフである。図2の横軸は、正負極間の電位差(V)、つまり負極における金属リチウムおよびリチウムイオンの相互の酸化還元電位を0としたときの正極の電位を示しており、縦軸は、正負極間の電流値(mA)である。この「正負極間の電位差(V)」は、図2中、単に「電圧(V)」と記す。
【0059】
そして、2個の電池Aについて、それぞれ異なった温度環境で、その電池性能の試験が行われた。なお、この試験は、作製直後の電池Aを室温で6時間放置した後に行われた。
1個目の電池Aについては、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電したときに、経時的に変化する電圧(正負極間の電位差)が測定された。次いで、100μAの定電流で充電したときに、経時的に変化する電圧(正負極間の電位差)が測定された。その結果を図3に示す。なお、図3は、本発明の実施例1で得られた電池Aが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図3の縦軸は、電圧(V)を表し、横軸は、正極の活物質(ルベアン酸)の質量当たりの容量(mAh/g)を表す。そして、図3中、実線は放電時の電圧曲線を示し、破線は充電時の電圧曲線を示す。
【0060】
2個目の電池Aについては、0±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電したときに、経時的に変化する電圧(正負極間の電位差)が測定された。次いで、100μAの定電流で充電したときに、経時的に変化する電圧(正負極間の電位差)が測定された。その結果を図4に示す。なお、図4は、本発明の実施例1で得られた電池Aが、0±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際にその電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図4の縦軸は、電圧(V)を表し、横軸は、正極の活物質(ルベアン酸)の質量当たりの容量(mAh/g)を表す。そして、図4中、実線は放電時の電圧曲線を示し、破線は充電時の電圧曲線を示す。
【0061】
また、1個目の電池Aについては、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電と充電とからなるサイクルを繰り返して行って、このサイクルごとに電池Aの放電時の容量が測定された。この放電時の容量については、後記する実施例2、および比較例1で得られた電池Bおよび電池Dの放電時の容量の測定結果とともに、図12に示す。
【0062】
(実施例2)
この実施例2では、はじめに、実施例1と同様に電池を作製した。次に、この電池について、電池電圧が開回路電圧から1.6Vとなるまで20μAの定電流で放電が行われた。なお、この放電は、25±2℃に維持された恒温槽内で行われた。この放電によって、リチウムイオンが正極に吸蔵された。この工程は、特許請求の範囲にいう「電極体にリチウムを吸蔵させて第1電極を得る工程」に相当する。
【0063】
次に、この電池が前記したグローブボックス内で解体されて、電池内の正極(以下に、「リチウム含有正極」という場合がある)のみが取り出された。
その一方で、平均粒径25μmのメソカーボンマイクロビーズ(大阪ガス社製、MCMB25−28)90質量%、アセチレンブラック(電気化学工業社製)5質量%、およびポリテトラフルオロエチレン(三井デユポンフロロケミカル社製、6−J)5質量%を含む混合物が調製された。そして、この混合物を小型Vミキサで十分に攪拌した後に、これを自動乳鉢で練り上げて混練物が調製された。
【0064】
次に、この混練物から得られた厚さ0.8mmのシート状物を直径16mmで打ち抜いた円板と、これと同径で円形の純チタン製のネット(北斗電工社製)とを重ね合わせて油圧プレスで加圧することで円板とネットとが一体となった負極が新たに作製された。そして、この負極は、100℃で12時間乾燥した後に、前記したグローブボックス内に保管された。
【0065】
また、セパレータとして、実施例1の電池Aで使用したものと同様のものが新たに作製された。ちなみに、このセパレータは、400μリットルの電解液をセパレータ上に注液することにより得られるものである。このセパレータは、前記したグローブボックス内に保管された。
【0066】
次に、これらの保管されたリチウム含有正極、新たに作製した負極、およびセパレータを使用し、そして、これら以外は市販のコイン型電池(宝泉社製、CR2032)の構成部品を使用して本発明に係る非水溶液系電池が作製された。
【0067】
本実施例では、この非水溶液系電池が2個作製された。この2個の非水溶液系電池は、以下に、「電池B」と言う。
そして、2個の電池Bについて、それぞれ異なった温度環境で、その電池性能の試験が行われた。なお、この試験は、作製直後の電池Bを室温で6時間放置した後に行われた。
【0068】
1個目の電池Bについては、実施例1と同様に、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で充電、および放電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図5に示す。なお、図5は、本発明の実施例2で得られた電池Bが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図5の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0069】
2個目の電池Bについて、実施例1と同様に、0±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で充電、および放電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図6に示す。なお、図6は、本発明の実施例2で得られた電池Bが、0±2℃の下に100μAの定電流で充電、および放電したが行われた際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図6の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0070】
また、1個目の電池Bについては、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で充電と放電とからなるサイクルを繰り返して行って、このサイクルごとに電池Bの放電時の容量が測定された。この放電時の容量については、前記した実施例1、および後記する比較例1で得られた電池Aおよび電池Dの放電時の容量の測定結果とともに、図12に示す。
【0071】
(実施例3)
この実施例3では、まず、実施例1で得られたと同様のルベアン酸粉末(粒子径5〜40μm)4gと、60℃で12時間真空乾燥したアセチレンブラック(電気化学工業社製)2gとが小型Vミキサで十分に攪拌された混合物が調製された。
その一方で、次式(4):
【0072】
【化4】
【0073】
(ただし、式(4)中、p、qは、それぞれ独立に6000〜13000の整数である。
で示される分子量80万のポリエチレンオキシド系導電性ポリマ2.6gと、LiClO4粉末0.37gとを混合した後に、これにN−メチル2−ピロリドン35.5gをさらに加えて24時間混合することで、ポリエチレンオキシド系導電性ポリマを完全に溶解させたポリマ溶液が調製された。
【0074】
そして、前記した混合物に、前記したポリマ溶液13.2gを加えるとともに、これを混練機で混練することによってスラリが調製された。
次に、このスラリは、アルミニウム箔(厚さ15μm)の上にドクタブレード法によって塗布された。そして、スラリは、まず80℃で30分間、次いで120℃で1時間加熱乾燥された後に、アルミニウム箔とともに2ロールタイプのプレス機によって加圧された。その結果、塗布物とアルミニウム箔とは、それらの合計の厚さで41μmのシート状物となった。
【0075】
そして、このシート状物を直径14mmの円形に打ち抜くことで正極が作製された。この正極は、80℃で16時間乾燥した後に、前記したグローブボックス内に保管された。
その一方で、純度99.95質量%で円形の金属リチウム箔(厚さ0.2mm、直径16mm)が負極として準備された。この負極は、前記したグローブボックス内に保管された。
【0076】
また、ポリエチレンオキシド系導電性ポリマ中にLiClO4を含む樹脂シート(厚さ10μm)を直径20mmの円形に打ち抜くことでセパレータが作製された。このセパレータは、45℃で24時間真空乾燥した後に、前記したグローブボックス内に保管された。
【0077】
次に、これらの保管された正極、負極、およびセパレータを使用し、そして、これら以外は市販のコイン型電池(宝泉社製、CR2032)の構成部品を使用して本発明に係る非水溶液系電池が作製された。
【0078】
本実施例では、この非水溶液系電池が2個作製された。この2個の非水溶液系電池は、以下に、「電池C」と言う。
そして、2個の電池Cについて、それぞれ異なった温度環境で、その電池性能の試験が行われた。なお、この試験は、作製直後の電池Cを室温で24時間放置した後に行われた。
【0079】
1個目の電池Cについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図7に示す。なお、図7は、本発明の実施例3で得られた電池Cが、80±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図7の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0080】
また、1個目の電池Cについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図8に示す。なお、図8は、本発明の実施例3で得られた電池Cが、80±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図8の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0081】
2個目の電池Cについては、40±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図9に示す。なお、図9は、本発明の実施例3で得られた電池Cが、0±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。図9の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0082】
また、1個目の電池Cについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電と充電とからなるサイクルを繰り返して行って、このサイクルごとに電池Cの放電時の容量が測定された。この放電時の容量については、後記する比較例2で得られた電池Eの放電時の容量の測定結果とともに、図16に示す。
【0083】
(比較例1)
この比較例1では、ルベアン酸に代えて、次式(5):
【0084】
【化5】
【0085】
で示される有機硫黄化合物である2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールが正極の活物質として使用された。なお、この2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールは、還元形態であって、酸化形態では、モノマ単位としての2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールのメルカプト基(−SH)同士がS−S結合を形成することでポリマを形成する。そして、このポリマは、還元されることで2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールに復元する。
【0086】
この比較例1では、まず、純度98%の2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(アルドリッチ社製、D129003)を60℃で12時間真空乾燥した後に分級することによって、粒子径5〜40μmの粉末4gが得られた。
この2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールの粉末4gを、実施例1におけるルベアン酸粉末4gに代えて使用した以外は、実施例1と同様に正極用の混練物が調製された。そして、この混練物から得られたシート状物の厚さを実施例1での0.3mmから0.4mmに変更した以外は、実施例1と同様にして電池が作製された。
【0087】
次に、この電池について、4時間放置された後に電池電圧が4.25Vとなるまで5μAの定電流で充電が行われた。なお、この充電は、80±2℃に維持された恒温槽内で行われた。この充電によって、充電された容量に相当する水素イオン(プロトン)が電気化学的に正極から脱離された。その容量は、活物質の重量当たりの計算で約260mAh/gであった。
【0088】
次に、この電池が前記したグローブボックス内で解体されて、電池内の正極(以下に、「充電正極」という場合がある)のみが取り出された。
その一方で、純度99.95質量%で円形の金属リチウム箔(厚さ0.2mm、直径16mm)が新たに負極として準備された。
【0089】
また、セパレータとして、実施例1の電池Aで使用したものと同様のものが新たに作製された。ちなみに、このセパレータには、実施例1と同様に、LiPF6の1モル/L溶液400μLが含浸されている。
【0090】
次に、これらの充電正極、新たに作製した負極、およびセパレータを使用し、そして、これら以外は市販のコイン型電池(宝泉社製、CR2032)の構成部品を使用して非水溶液系電池が作製された。
【0091】
本比較例では、この非水溶液系電池が2個作製された。この2個の非水溶液系電池は、以下に、「電池D」と言う。
そして、2個の電池Dについて、それぞれ異なった温度環境で、その電池性能の試験が行われた。なお、この試験は、作製直後の電池Dを室温で6時間放置した後に行われた。
【0092】
1個目の電池Dについては、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図10に示す。なお、図10は、比較例1で得られた電池Dが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図10の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0093】
2個目の電池Dについては、0±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図11に示す。なお、図11は、比較例1で得られた電池Dが、0±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図11の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0094】
また、1個目の電池Dについては、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電と充電とからなるサイクルを繰り返して行って、このサイクルごとに電池Dの放電時の容量が測定された。その結果を前記した実施例1、および実施例2得られた電池A、および電池Bの放電時の容量の測定結果とともに、図12に示す。ここで図12は、本発明の実施例1および実施例2で得られた電池Aおよび電池B、ならびに比較例1で得られた電池Dの25±2℃における充放電サイクルの特性図である。この図12の縦軸は、電池A、電池B、および電池Dにおける正極の活物質の質量当たりの放電時の容量(mAh/g)を表し、横軸は、放電と充電とからなるサイクルの繰り返し回数(回)を表している。
【0095】
(比較例2)
この比較例2では、比較例1で得られた2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールの粉末4gを、実施例3におけるルベアン酸粉末4gに代えて使用した以外は、実施例3と同様にしてスラリが調製された。
【0096】
次に、このスラリは、実施例3と同様にしてアルミニウム箔の上に塗布され、乾燥され後に、アルミニウム箔とともに2ロールタイプのプレス機によって加圧された。その結果、塗布物とアルミニウム箔とは、それらの合計の厚さで42μmのシート状物となった。
そして、このシート状物から直径14mmの円形に打ち抜かれた正極を使用した以外は、実施例3と同様の電池が作製された。
【0097】
次に、この電池について、4時間放置された後に電池電圧が4.25Vとなるまで5μAの定電流で充電が行われた。なお、この充電は、80±2℃に維持された恒温槽内で行われた。この充電によって、充電された容量に相当する水素イオン(プロトン)が電気化学的に正極から脱離された。その容量は、活物質の重量当たりの計算で約240mAh/gであった。
【0098】
次に、この電池が前記したグローブボックス内で解体されて、電池内の正極(以下に、「充電正極」という場合がある)のみが取り出された。
その一方で、新たに実施例3の負極およびセパレータと同様のものがそれぞれ準備された。そして、これらの充電正極、新たに作製した負極、およびセパレータを使用し、そして、これら以外は市販のコイン型電池(宝泉社製、CR2032)の構成部品を使用して非水溶液系電池が作製された。
本比較例では、この非水溶液系電池が2個作製された。この2個の非水溶液系電池は、以下に、「電池E」と言う。
【0099】
1個目の電池Eについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図13に示す。なお、図13は、比較例2で得られた電池Eが、80±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図13の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0100】
また、1個目の電池Eについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図14に示す。なお、図14は、比較例2で得られた電池Eが、80±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図14の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0101】
2個目の電池Eについては、40±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図15に示す。なお、図15は、比較例2で得られた電池Eが、40±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。図15の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0102】
また、1個目の電池Eについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電と充電とからなるサイクルを繰り返して行って、このサイクルごとに電池Eの放電時の容量が測定された。その結果を前記した実施例3で得られた電池Cの放電時の容量の測定結果とともに、図16に示す。ここで図16は、本発明の実施例3で得られた電池C、および比較例2で得られた電池Eの80±2℃における充放電サイクルの特性図である。この図16の縦軸は、電池Cおよび電池Eにおける正極の活物質の質量当たりの放電時の容量(mAh/g)を表し、横軸は、放電と充電とからなるサイクルの繰り返し回数(回)を表している。
【0103】
(電池Aから電池Eの評価)
図2に示すように、電池Aの正極では、充電に起因するピークXと、放電に起因するピークYとが現れている。そして、正極側に分極する正極電流が検出されるとともに、負極側に分極する負極電流が検出されている。つまり、この電池Aでは、25±2℃(常温)において、2電子相当の酸化反応および還元反応が行われていることが確認された。
【0104】
図10および図11に示すように、比較例1で得られた電池Dは、25±2℃(図10参照)、および0±2℃(図11参照)において、放電反応および充電反応が殆ど進行していない。
これに対して、実施例1で得られた電池Aは、図3に示すように、25±2℃(常温)においても放電反応および充電反応が良好に進行している。また、この電池Aは、図4に示すように、0±2℃(低温)においても放電反応および充電反応が良好に進行している。
【0105】
そして、実施例2で得られた電池Bは、図5に示すように、25±2℃(常温)においても放電反応および充電反応が良好に進行している。また、この電池Bは、図6に示すように、0±2℃(低温)においても放電反応および充電反応が良好に進行している。
以上のことから、ルベアン酸を正極の活物質とする本発明の電池A、および電池Bは、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを正極の活物質とする従来の電池Dと異なって、常温以下の環境下であっても放電反応および充電反応が良好に進行することが検証された。
【0106】
そして、図3に示すように、常温における電池Aの正極における活物質(ルベアン酸)の質量当たりの電池Aの放電容量は、300mAh/gを大幅に超えるとともに、図5に示すように、常温における電池Bの正極における活物質(ルベアン酸)の質量当たりの電池Bの放電容量は、400mAh/gを大幅に超えている。つまり、本発明の電池Aおよび電池Bの放電容量は、図示しないが、従来のコバルト酸リチウムを正極の活物質とする非水溶液系電池(リチウムイオン電池)の常温における放電容量(150mAh/g)の2倍以上となっている。
【0107】
また、図13に示すように、比較例2で得られた電池Eでは、80±2℃(高温)において、放電反応および充電反応が進行している。また、図7に示すように、実施例3で得られた電池Cにおいても放電反応および充電反応が進行している。ただし、比較例2で得られた電池Eの放電容量が、200mAh/g程度(図13参照)であるのに対して、実施例3で得られた電池Cの放電容量は、440mAh/g程度(図7参照)となっている。
【0108】
その一方で、図15に示すように、比較例2で得られた電池Eでは、40±2℃(中温)において、放電反応および充電反応が殆ど進行していない。
これに対して、実施例3で得られた電池Cは、図9に示すように、40±2℃(中温)においても放電反応および充電反応が良好に進行している。また、この電池Cでは、40±2℃(中温)であってもその放電容量が約200mAh/gとなっており、比較例2で得られた電池Eの80±2℃(高温)での放電容量と略同程度(図13参照)の電池性能を発揮している。
【0109】
以上のことから、ルベアン酸を正極の活物質とする本発明の電池Cは、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを正極の活物質とする従来の電池Eと比較して、中温、および高温においても、はるかに大きい放電容量を発揮することが検証された。
【0110】
また、図12に示すように、比較例1で得られた電池Dでは、25±2℃(常温)において、3回目のサイクルで放電時の容量が0mAh/gとなっている。
これに対して、実施例1で得られた電池Aは、3回にわたる充放電のサイクルを重ねても放電時の容量の減少率が3%程度であった。また、実施例2で得られた電池Bは、3回にわたる充放電のサイクルを重ねても、放電時の容量の減少率が2%程度であった。20回の充放電のサイクルの後においても、本発明の電池Aおよび電池Bは、初期の放電時の容量の95%以上を維持している。
つまり、本発明の電池Aおよび電池Bは、充放電が繰り返して行われたとしても劣化が極めて少ないことが検証された。
このことは、比較例1で得られた電池Dは、正極に活物質として含まれる酸化形態としての2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールが、電解液に溶解しやすいために、正極から電解液に溶出するためと考えられる。
これに対して、実施例1および実施例2で正極の活物質として使用されるルベアン酸は、電解液に溶出しにくいために、電池Aおよび電池Bは、充放電が繰り返して行われてもその劣化が防止されたものと考えられる。
【0111】
また、図16に示すように、実施例3で得られた電池Cは、比較例2で得られた電池Eと比較して、80±2℃(高温)での20回にわたる充放電のサイクルを重ねても放電時の容量の減少率が小さい。そして、実施例3で得られた電池Cでは、20回にわたる充放電のサイクルを重ねても、放電時の容量の減少率がわずか4%程度であった。つまり、電解液が正極と接する実施例2で得られた電池Bにおける放電時の容量の前記した減少率(5%)よりもその減少率が小さくなっている。
このことは、実施例3で得られた電池Cには、電解質が固体として含まれているために、正極に含まれる活物質の溶出がないことによるものと考えられる。
【0112】
また、前記したように、比較例2で得られた電池Eは、80±2℃で20μAの定電流で放電を行った場合の放電容量が200mAh/g程度(図13参照)となっている。そして、図14に示すように、80±2℃で100μAの高率放電を行った電池Eは、その放電容量が80mAh/g程度となっている。つまり、100μAの高率放電を行った電池Eは、20μAのときの放電容量の40%程度に落ち込んでいる。
これに対して、前記したように、実施例3で得られた電池Cは、80±2℃で20μAの定電流で放電を行った場合の放電容量が440mAh/g程度(図7参照)となっている。そして、図8に示すように、80±2℃で100μAの高率放電を行った電池Cは、その放電容量が360mAh/g程度となっている。つまり、100μAの高率放電を行った電池Cは、20μAのときの放電容量の80%以上となる高い放電容量を維持している。
【0113】
以上のことから、実施例3で得られた本発明の電池Cは、比較例2で得られた電池Eと比較して、高率放電特性においても優れていることが検証された。
本願発明は、実施例の形態にとらわれない。たとえば電極の作成については、活物質と導電助剤とを混合し、予めバインダを溶媒に溶かした溶液をそこに加え、スラリ状態にし、それを金属箔(正極はアルミニウム、負極は銅)上に均一な厚さに塗工し、合剤の膜を形成する。次にそれを加熱乾燥することで前記した溶媒を気化させ除去し、その後に加圧プレスすることによっても得られる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】実施形態に係る非水溶液系電池の縦断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係る電池Aの25±2℃におけるサイックリックボルタンメトリの測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1で得られた電池Aが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図4】本発明の実施例1で得られた電池Aが、0±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図5】本発明の実施例2で得られた電池Bが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図6】本発明の実施例2で得られた電池Bが、0±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図7】本発明の実施例3で得られた電池Cが、80±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図8】本発明の実施例3で得られた電池Cが、80±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図9】本発明の実施例3で得られた電池Cが、40±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図10】比較例1で得られた電池Dが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図11】比較例1で得られた電池Dが、0±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図12】本発明の実施例1および実施例2で得られた電池Aおよび電池B、ならびに比較例1で得られた電池Dの25±2℃における充放電サイクルの特性図である。
【図13】比較例2で得られた電池Eが、80±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図14】比較例2で得られた電池Eが、80±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図15】比較例2で得られた電池Eが、40±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図16】本発明の実施例3で得られた電池C、および比較例2で得られた電池Eの80±2℃における充放電サイクルの特性図である。
【符号の説明】
【0115】
1 非水溶液系電池
2 正極(電池用電極)
3 負極
4 セパレータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄を含む有機化合物を、活物質として用いた電池用電極、非水溶液系電池、および非水溶液系電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギ密度の高い電池の要求が高まっている。このような電池としては、単電池の電圧が高いリチウム電池が挙げられる。リチウム電池は、非水溶液系の電解液を用いることによって3V以上の高い電圧を得ることができる。しかしながら、従来のリチウム電池は、正極および負極の電極材料の質量当たりの容量が低く、例えば、コバルト酸リチウムを含む正極を有する電池は、その容量が140〜150mAh/g程度にとどまっている。
【0003】
そこで、有機硫黄高分子化合物を正極に用いた電池が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2等参照)。前記の有機硫黄高分子化合物は、次式(A):
R−S−S−R・・・(A)
(ただし、前記式(A)中、Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよい、脂肪族有機基または芳香族有機基を表す)で示される。
【0004】
この有機硫黄高分子化合物は、還元状態でS−S結合が開裂することによって、有機チオレート(R−SH)を形成する。そして、この有機チオレートは、酸化状態でS−S結合が形成されて有機硫黄高分子化合物(R−S−S−R)に復元する。つまり、この有機硫黄高分子化合物を正極に使用した電池は、この有機硫黄高分子化合物の可逆的な酸化還元反応によって充放電を行うことができる。
【特許文献1】米国特許第4833048号明細書
【非特許文献1】J.Electrochem.Soc.,vol 136,p.661-664(1989)
【非特許文献2】J.Electrochem.Soc.,vol 136,p.2570-2575(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記式(A)で示される有機硫黄高分子化合物は、常温での酸化電位と還元電位との差が大きいことから反応速度が遅い。したがって、この有機硫黄高分子化合物を正極に使用した電池は、少なくとも80℃程度の高温でなければ使用することができないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、電極材料の質量当たりの容量が高く、しかも常温以下であっても使用することができる電池用電極、非水溶液系電池、および非水溶液系電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の電池用電極は、次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、リチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含むことを特徴とする。
【0008】
このような電池用電極においては、前記ルベアン酸または前記ルベアン酸ポリマが、次式(2):
R1−(NH−CS−CS−NH)n−R2 ・・・(2)
(ただし、前記式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1〜3のアルキル基、アミノ基、水酸基、またはスルホン基を表し、nは、1〜20の整数を表す)
で示されるものであってもよい。
【0009】
また、このような電池用電極は、前記式(1)で示される構造単位が、次式(3)で示される酸化還元反応を行うルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含むように構成されている。
【0010】
【化2】
【0011】
このルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、還元された際にリチウムイオンと結合し、酸化された際にその結合したリチウムイオンを放出する。つまり、ルベアン酸およびルベアン酸ポリマは、電池用電極での活物質となる。また、リチウムイオンと結合し、そして放出するルベアン酸およびルベアン酸ポリマの反応は、常温以下であっても生じることとなる。
また、このルベアン酸およびルベアン酸ポリマは、従来の非水溶液系電池において活物質として使用される金属酸化物と比較して、電池用電極の軽量化を図ることができる。
【0012】
そして、本発明の非水溶液系電池は、前記した電池用電極を正極とし、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極を負極としたことを特徴とする。
この非水溶液系電池は、前記した電池用電極を正極として備えることによって、常温以下であっても使用することができる。そして、この非水溶液系電池は、従来の非水溶液系電池と異なって、正極が軽量となるので電極材料の質量当たりの容量が高くなる。
このような非水溶液系電池おいては、前記した電池用電極に更にリチウムを含む電極が正極とされ、リチウム非含有導電性化合物からなる電極が負極とされたものであってもよい。
この非水溶液系電池は、電池として組みあがった状態で既に放電状態であるため、使用者に供される前に放電作業を行なう必要がない。そのため、製品としての安全性を容易に向上させることができる。
【0013】
また、このような非水溶液系電池おいては、前記正極と前記負極との間に介在する電解質が、ゲル状物または固形物に含まれるように構成することもできる。
この非水溶液系電池は、電解質が電解液に含まれるものと異なって、活物質としてのルベアン酸またはルベアン酸ポリマが電解液に溶出することが避けられるので、非水溶液系電池の劣化を防止することができる。
【0014】
そして、本発明の非水溶液系電池の製造方法は、次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、リチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含む電極体を作製する工程と、前記電極体にリチウムを吸蔵させて第1電極を得る工程と、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極材料から第2電極を作製する工程と、前記第1電極を正極として組み込むとともに、前記第2電極を負極として組み込む工程とを有することを特徴とする。
このような非水溶液系電池の製造方法によれば、前記したように電極材料の質量当たりの容量が高く、しかも常温以下であっても使用することができる非水溶液系電池を製造することができる。
また、このような製造方法によれば、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマに、リチウムイオンを結合させて正極を作製することで、リチウムイオンを含む正極を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極材料の質量当たりの容量が高く、しかも常温以下であっても使用することができる電池用電極、非水溶液系電池、および非水溶液系電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図1は、実施形態に係る非水溶液系電池の縦断面図である。なお、以下の説明において、上下方向を説明するときは図1の上下を基準として説明する。
【0017】
図1に示すように、非水溶液系電池1は、その外形が円盤形状のコイン型リチウム電池(コイン型リチウム電池)であって、CR2032規格に相当するものである。
この非水溶液系電池1は、周知の構造を有しており、下側に配置される正極缶Caと上側に配置される負極缶Cbとの間に、下側から正極2と、負極3とがこの順番に配置されている。なお、正極2は、本発明に係る「電池用電極」に相当する。
正極2と負極3との間には、その双方を互いに隔てるセパレータ4が挟み込まれている。そして、正極2と正極缶Caとの間には、集電体5が配置されており、正極缶Caと負極缶Cbとは、ガスケット6で電気的に絶縁されている。
【0018】
正極2は、活物質として、次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、後記するようにリチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含んでいる。
【0019】
具体的に言うと、前記ルベアン酸または前記ルベアン酸ポリマとしては、例えば、次式(2):
R1−(NH−CS−CS−NH)n−R2 ・・・(2)
ただし、前記式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1〜3のアルキル基、アミノ基、水酸基、またはスルホン基を表す。
前記ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
前記炭素数が1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、およびイソプロピル基が挙げられる。
前記式(2)中、nは、1〜100、好ましくは、1〜20の整数である。
【0020】
このような式(2)で示されるもののうち、NH2−CS−CS−NH2で示されるルベアン酸は好ましい。ちなみに、このルベアン酸自体は、導電性を有していない。
【0021】
このようなルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、後記するように、このルベアン酸またはルベアン酸ポリマが還元された形態で予めリチウム(リチウムイオン)を含んだものであってもよい。
【0022】
また、正極2には、さらに導電助剤、およびバインダが含まれている。
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト、鱗状黒鉛等の炭素材料、ニッケル粉末、チタン粉末、銀粉末、タングステン粉末等の金属粉末、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性高分子化合物が挙げられる。
バインダとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0023】
また、正極2には、後記する電解質がさらに含まれていてもよい。
また、正極2には、ルベアン酸およびルベアン酸ポリマ以外に他の活物質が含まれていてもよい。このような他の活物質としては、リチウムイオンを吸蔵し、および放出するものであれば特に制限はないが、例えば、リチウム塩等のリチウムイオンを含むものが挙げられ、中でもリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
このリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム等が挙げられる。
このような正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマの含有率は、10〜100質量%、好ましくは50〜100質量%である。
【0024】
負極3は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極で構成されている。リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質としては、リチウム元素を含むもの(例えば、リチウム原子、金属リチウム、リチウムイオン、リチウム塩)とリチウム元素を含まないものとが挙げられる。
リチウム元素を含むものとしては、例えば、金属リチウム(アルミニウム等を含有するリチウム合金を含む)のほか、Li2.4Co0.6Nのようなリチウム窒化物、チタン酸リチウムのようなリチウム酸化物が挙げられる。
リチウム元素を含まないものとしては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の黒鉛質材料、フェノール樹脂やピッチ等を焼成炭化したもの、活性炭、グラファイト等の炭素系材料、SiO、SiO2等のシリコン系材料、SnO、SnO2等の錫系材料、PbO、PbO2等の鉛系材料、GeO、GeO2等のゲルマニウム系材料、リン系材料、ニオブ系材料、アンチモン系材料、およびこれらの材料の混合物が挙げられる。
【0025】
また、負極3には、さらに前記したと同様の導電助剤、およびバインダが含まれていてもよい。
このような負極3としては、正極2にリチウム元素が含まれない場合には、例えば、金属リチウムを含むものが用いられ、正極2にリチウム元素(リチウムイオン等)が含まれる場合には、リチウム元素を含むものも使用されるが、リチウム元素が含まれていないものが好ましい。
ちなみに、正極2にリチウム元素を含まず、負極3に金属リチウムを含む非水溶液系電池は、一次電池として機能させることもできる。
【0026】
セパレータ4としては、後記する電解液を含む樹脂製シート、ならびに後記する電解質を含むゲル状物および固形物が挙げられる。ちなみに、前記したゲル状物、および固形物は板状体に成形して用いられる。樹脂製シートを形成する樹脂としては、公知のものでよく、例えば、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。そして、電解質を含む固形物からなるセパレータ4のマトリックス樹脂としては、例えば、ポリエチレンオキシド系導電性ポリマ、ホウ酸エステル系導電性ポリマ等が挙げられる。
【0027】
電解液としては、電解質を溶媒に溶解させたものが用いられる。
電解質としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、
LiCl、LiBr、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、
LiC(CF3SO2)3等が挙げられる。
溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0028】
次に、この非水溶液系電池1の動作について説明する。ここでは金属リチウムを含む負極3を有する非水溶液系電池1において、その正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマの酸化還元反応について主に説明する。
【0029】
この非水溶液系電池1においては、正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、次式(3)中、上段に示す酸化された形態(以下、単に「酸化形態」ということがある)と、下段に示す還元された形態(以下、単に「還元形態」ということがある)とに可逆的に変異する基を有する。
【0030】
【化3】
【0031】
この非水溶液系電池1では、充電および放電のいずれも行われていない初期状態において、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、前記式(3)に示すように、前記した酸化形態の基を有している。
【0032】
そして、この非水溶液系電池1では、ルベアン酸を例にとると、放電時に次の正極反応と負極反応とが生じる。
正極反応: (CS−NH2)2+2Li++2e−→(CSLi−NH2)2
負極反応: Li→Li++e−
そして、非水溶液系電池1の放電時における全反応は、次のようになる。
全反応: (CS−NH2)2+2Li→(CSLi−NH2)2
さらに、具体的にいうと、この非水溶液系電池1では、図1に示す正極缶Caと負極缶Cbとの間に図示せぬ負荷が電気的に接続されて放電が開始すると、負極3の金属リチウム(Li)は、リチウムイオン(Li+)となることで電子(e−)を発生する。この電子(e−)は、負極缶Cb、負荷(図示せず)、正極缶Ca、および集電体5を介して正極2に向かう。そして、正極2では、酸化形態の基(前記式(3)中、上段に示す基)が前記した還元形態の基(前記式(3)中、下段に示す基)に変異することで、炭素原子(C)に結合する硫黄原子(S)は、電気的に負となる。
【0033】
その一方で、リチウムイオン(Li+)は、セパレータ4に含まれる電解質を介して正極2に供給される。そして、前記式(3)に示すように、還元形態の基(前記式(3)中、下段に示す基)で電気的に負となった硫黄原子(S−)にリチウムイオン(Li+)は結合する。
なお、正極2がリチウムを含み、負極3がリチウム非含有化合物(例えば、グラファイト)である場合は、非水溶液系電池1を組み立てた直後は放電状態であるため充電から開始される。充電時に次の正極反応と負極反応とが生じる。
正極反応:(CSLi−NH2)2→(CS−NH2)2+2Li++2e−
負極反応:C6+Li++e−→C6Li
そして、非水溶液系電池1の充電時における全反応は、次のようになる。
全反応:(CSLi−NH2)2−+2C6→(CS−NH2)2+2C6Li
さらに、具体的にいうと、図1に示す正極缶Caと負極缶Cbとの間に図示せぬ負荷が電気的に接続されて充電が開始すると、正極2ではLi塩中のLiイオン(Li+)が脱離すると同時に、電子(e−)を発生する。この電子(e−)は、正極缶Ca、負荷(図示せず)、負極缶Cb、および集電体5を介して負極3に向かう。そして、負極3では、六角形の形をした6個の炭素群でπ電子1個を受け取ったり、出したりして1個のリチウムを挿入する。
【0034】
また、この非水溶液系電池1では、その充電時に、正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマの還元形態の基(前記式(3)中、下段に示す基)は、酸化形態の基(前記式(3)中、上段に示す基)に変異するとともに、リチウムイオン(Li+)を放出する。このリチウムイオン(Li+)は、セパレータ4に含まれる電解質を介して負極3に向かうとともに、電子(e−)を供与されることで金属リチウム(Li)となって負極3で析出する。
【0035】
次に、非水溶液系電池1の製造方法について説明する。なお、ここでは負極2に金属リチウムを含む非水溶液系電池1の第1の製造方法と、負極2に金属リチウムを含まない非水溶液系電池1の第2の製造方法とについて説明する。なお、第2の製造方法は、特許請求の範囲(請求項7)に記載した製造方法に相当する。
【0036】
まず、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマと、導電助剤と、バインダとの混練物をシート状に展延した後にこれを所定の形状に打ち抜くことによって正極2(図1参照)が形成される。
その一方で、例えば、リチウムやリチウム合金等の金属リチウムを含む箔を所定の形状に打ち抜くことによって負極3(図1参照)が形成される。
【0037】
次に、正極缶Ca(図1参照)の底部に集電体5(図1参照)を介して正極2が配置される。そして、正極2の上にセパレータ4(図1参照)が配置される。このセパレータ4は、例えば、正極2の上に配置した多孔質の樹脂シート(図示せず)に電解液を含浸させることによって形成することができる。また、セパレータ4は、電解質を含むゲル状物または固形物を正極2の上に配置することに形成することもできる。
【0038】
次に、セパレータ4の上に負極3が配置されるとともに、この負極3の上に負極缶Cbが配置される。この際、正極缶Caと負極缶Cbとを電気的に絶縁するようにガスケット6(図1参照)が配置される。そして、正極缶Caの外周縁がかしめられて正極缶Caと負極缶Cbとがガスケット6を介して接合されることで非水溶液系電池1は完成する。
【0039】
次に、非水溶液系電池1の第2の製造方法について説明する。
この第2の製造方法では、まず、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含む電極体が作製される。この工程では、前記した第1の製造方法で正極2を形成する工程と同様にして電極体が作製される。
【0040】
次に、この第2の製造方法では、得られた電極体にリチウム(リチウムイオン)を吸蔵させて第1電極が作製される。この第1電極は、電極体に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマの酸化形態の基(前記式(3)の上段に示す基)を還元して還元形態の基(前記式(3)の下段に示す基)に変異させるとともに、これにリチウムイオンを結合させることによって得ることができる。このような第1電極としては、例えば、第1の製造方法で得られた非水溶液系電池1を放電させた後に、この非水溶液系電池1から取り出した正極2を使用することができる。
【0041】
その一方で、この第2の製造方法では、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質であって、金属リチウムを含まない電極材料から第2電極が作製される。この第2電極は、前記した黒鉛質材料、炭素系材料、金属酸化物等の負極用の活物質、およびバインダ、ならびに必要に応じて導電助剤を含むこれらの混練物をシート状に展延した後にこれを所定の形状に打ち抜くことによって作製することができる。
【0042】
次に、この第2の製造方法では、第1電極を正極2(図1参照)として組み込むとともに、第2電極を負極3(図1参照)として組み込む工程を経て非水溶液系電池1は完成する。この工程としては、第1電極および第2電極を正極2および負極3に使用した以外は、第1の製造方法と同様に、正極缶Caに、集電体5、正極2、セパレータ4、および負極缶Cbを順番に組み付けていく工程を採用することができる。
【0043】
次に、本実施形態に係る正極2(本発明の電池用電極)、これを用いた非水溶液系電池1、およびこの非水溶液系電池1の製造方法の作用効果について説明する。
正極2に含まれるルベアン酸またはルベアン酸ポリマは、前記したように、還元形態の基と、酸化形態の基とに可逆的に変異する際に、リチウムイオンと結合し、そして結合したリチウムイオンを放出する。つまり、このルベアン酸およびルベアン酸ポリマは、正極2での活物質となる。また、リチウムイオンと結合し、そして放出するルベアン酸およびルベアン酸ポリマの反応は、常温以下であっても生じることとなる。
【0044】
また、このルベアン酸およびルベアン酸ポリマは、従来の非水溶液系電池において正極の活物質として使用される金属酸化物と比較して、電池用電極の軽量化を図ることができる。
【0045】
このような正極2を備える非水溶液系電池1は、常温以下であっても使用することができる。そして、非水溶液系電池1は、従来の非水溶液系電池と異なって、正極2が軽量となるので電極材料の質量当たりの容量が高くなる。
【0046】
また、セパレータ4として電解質を含むゲル状物および固形物からなるものを使用した非水溶液系電池1は、セパレータ4に電解質が電解液として含まれるものと異なって、正極2に含まれる活物質としてのルベアン酸またはルベアン酸ポリマが経時的に電解液に溶出することが避けられるので、非水溶液系電池1の劣化を防止することができる。
【0047】
このような非水溶液系電池1は、非水溶液系一次電池および非水溶液系二次電池の両方に適用することができる。非水溶液系一次電池は、例えば、腕時計用電源、小型音楽再生機器用電源、パソコンのバックアップ等の小型電子機器の電源等に使用することができる。また、非水溶液系二次電池は、携帯電話、デジタルカメラ等のモバイル機器や、電気自動車、二足歩行用ロボットの移動体用電源等に使用することができる。
【0048】
また、このような非水溶液系電池1の製造方法によれば、前記したように電極材料の質量当たりの容量が高く、しかも常温以下であっても使用することができるものを製造することができる。
【0049】
また、このような製造方法のうち、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマに、リチウムイオンを結合させて正極2を作製する工程を有する前記した第2の製造方法では、反応性の高い金属リチウムを含まない負極3を使用することができる。
【0050】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。
前記実施形態では、コイン型リチウム電池を非水溶液系電池1として例示したが、本発明は、角型、円筒型、またはペーパ型の非水溶液系電池に適用されてもよい。
【0051】
また、前記実施形態に係る製造方法では、ルベアン酸またはルベアン酸ポリマにリチウムイオンを結合させたものを正極2に使用するとともに、リチウムイオンを含まない活物質を負極3に使用する非水溶液系電池1の製造方法について説明したが、本発明の製造方法はこれに限定されるものではなく、リチウム元素を含有する負極3を使用するものであってもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
この実施例1では、まず、純度99%以上のルベアン酸(東京化成工業社製、D0957)を60℃で12時間真空乾燥した後に分級することによって、粒子径5〜40μmのルベアン酸粉末5gが準備された。このルベアン酸粉末は、電気的に絶縁物質であることが確認された。
【0054】
次に、60℃で12時間真空乾燥したアセチレンブラック(電気化学工業社製)0.5gと、バインダとしてのポリテトラウルオロエチレン(三井デユポンフロロケミカル社製、6−J)0.5と、前記したルベアン酸粉末4gとを小型Vミキサで十分に攪拌した後に、これを自動乳鉢で練り上げて混練物が調製された。
【0055】
次に、この混練物から得られた厚さ0.3mmのシート状物を直径14mmで打ち抜いた円板と、これと同径で円形の純チタン製のネット(北斗電工社製)とを重ね合わせて油圧プレスで加圧することで円板とネットとが一体となった正極が作製された。そして、この正極は、80℃で16時間乾燥した後に、アルゴンガスを循環させた露点−70℃以下のグローブボックス内に保管された。
【0056】
次に、前記した正極と、市販のコイン型電池(宝泉社製、CR2032)の構成部品とを使用して本発明に係る非水溶液系電池が作製された。ちなみに、この非水溶液系電池の負極には、純度99.95質量%で円形の金属リチウム箔(厚さ0.2mm、直径16mm)が使用された。セパレータには、ポリオレフィン系樹脂(旭化成ケミカルズ社製、NB630)からなる円板(厚さ30μm、直径20mm)を60℃で24時間真空乾燥したものに、さらに次の電解液を含浸させたものが使用された。
【0057】
電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1(容量比)で混合した溶媒を使用したLiPF6の1モル/L溶液(キシダ化学社製、LBG−ESA10)400μLが使用された。
【0058】
本実施例では、この非水溶液系電池が2個作製された。この2個の非水溶液系電池は、以下に、「電池A」と言う。
次に、1個目の電池Aについてサイックリックボルタンメトリの測定が行われた。このサイックリックボルタンメトリの測定は、作製直後の電池Aを室温で6時間放置した後に、25±2℃に管理した恒温槽内で掃引速度0.1mV/secの条件で行った。その結果を図2に示す。図2は、本発明に係る電池Aの25±2℃におけるサイックリックボルタンメトリの測定結果を示すグラフである。図2の横軸は、正負極間の電位差(V)、つまり負極における金属リチウムおよびリチウムイオンの相互の酸化還元電位を0としたときの正極の電位を示しており、縦軸は、正負極間の電流値(mA)である。この「正負極間の電位差(V)」は、図2中、単に「電圧(V)」と記す。
【0059】
そして、2個の電池Aについて、それぞれ異なった温度環境で、その電池性能の試験が行われた。なお、この試験は、作製直後の電池Aを室温で6時間放置した後に行われた。
1個目の電池Aについては、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電したときに、経時的に変化する電圧(正負極間の電位差)が測定された。次いで、100μAの定電流で充電したときに、経時的に変化する電圧(正負極間の電位差)が測定された。その結果を図3に示す。なお、図3は、本発明の実施例1で得られた電池Aが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図3の縦軸は、電圧(V)を表し、横軸は、正極の活物質(ルベアン酸)の質量当たりの容量(mAh/g)を表す。そして、図3中、実線は放電時の電圧曲線を示し、破線は充電時の電圧曲線を示す。
【0060】
2個目の電池Aについては、0±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電したときに、経時的に変化する電圧(正負極間の電位差)が測定された。次いで、100μAの定電流で充電したときに、経時的に変化する電圧(正負極間の電位差)が測定された。その結果を図4に示す。なお、図4は、本発明の実施例1で得られた電池Aが、0±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際にその電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図4の縦軸は、電圧(V)を表し、横軸は、正極の活物質(ルベアン酸)の質量当たりの容量(mAh/g)を表す。そして、図4中、実線は放電時の電圧曲線を示し、破線は充電時の電圧曲線を示す。
【0061】
また、1個目の電池Aについては、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電と充電とからなるサイクルを繰り返して行って、このサイクルごとに電池Aの放電時の容量が測定された。この放電時の容量については、後記する実施例2、および比較例1で得られた電池Bおよび電池Dの放電時の容量の測定結果とともに、図12に示す。
【0062】
(実施例2)
この実施例2では、はじめに、実施例1と同様に電池を作製した。次に、この電池について、電池電圧が開回路電圧から1.6Vとなるまで20μAの定電流で放電が行われた。なお、この放電は、25±2℃に維持された恒温槽内で行われた。この放電によって、リチウムイオンが正極に吸蔵された。この工程は、特許請求の範囲にいう「電極体にリチウムを吸蔵させて第1電極を得る工程」に相当する。
【0063】
次に、この電池が前記したグローブボックス内で解体されて、電池内の正極(以下に、「リチウム含有正極」という場合がある)のみが取り出された。
その一方で、平均粒径25μmのメソカーボンマイクロビーズ(大阪ガス社製、MCMB25−28)90質量%、アセチレンブラック(電気化学工業社製)5質量%、およびポリテトラフルオロエチレン(三井デユポンフロロケミカル社製、6−J)5質量%を含む混合物が調製された。そして、この混合物を小型Vミキサで十分に攪拌した後に、これを自動乳鉢で練り上げて混練物が調製された。
【0064】
次に、この混練物から得られた厚さ0.8mmのシート状物を直径16mmで打ち抜いた円板と、これと同径で円形の純チタン製のネット(北斗電工社製)とを重ね合わせて油圧プレスで加圧することで円板とネットとが一体となった負極が新たに作製された。そして、この負極は、100℃で12時間乾燥した後に、前記したグローブボックス内に保管された。
【0065】
また、セパレータとして、実施例1の電池Aで使用したものと同様のものが新たに作製された。ちなみに、このセパレータは、400μリットルの電解液をセパレータ上に注液することにより得られるものである。このセパレータは、前記したグローブボックス内に保管された。
【0066】
次に、これらの保管されたリチウム含有正極、新たに作製した負極、およびセパレータを使用し、そして、これら以外は市販のコイン型電池(宝泉社製、CR2032)の構成部品を使用して本発明に係る非水溶液系電池が作製された。
【0067】
本実施例では、この非水溶液系電池が2個作製された。この2個の非水溶液系電池は、以下に、「電池B」と言う。
そして、2個の電池Bについて、それぞれ異なった温度環境で、その電池性能の試験が行われた。なお、この試験は、作製直後の電池Bを室温で6時間放置した後に行われた。
【0068】
1個目の電池Bについては、実施例1と同様に、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で充電、および放電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図5に示す。なお、図5は、本発明の実施例2で得られた電池Bが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図5の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0069】
2個目の電池Bについて、実施例1と同様に、0±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で充電、および放電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図6に示す。なお、図6は、本発明の実施例2で得られた電池Bが、0±2℃の下に100μAの定電流で充電、および放電したが行われた際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図6の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0070】
また、1個目の電池Bについては、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で充電と放電とからなるサイクルを繰り返して行って、このサイクルごとに電池Bの放電時の容量が測定された。この放電時の容量については、前記した実施例1、および後記する比較例1で得られた電池Aおよび電池Dの放電時の容量の測定結果とともに、図12に示す。
【0071】
(実施例3)
この実施例3では、まず、実施例1で得られたと同様のルベアン酸粉末(粒子径5〜40μm)4gと、60℃で12時間真空乾燥したアセチレンブラック(電気化学工業社製)2gとが小型Vミキサで十分に攪拌された混合物が調製された。
その一方で、次式(4):
【0072】
【化4】
【0073】
(ただし、式(4)中、p、qは、それぞれ独立に6000〜13000の整数である。
で示される分子量80万のポリエチレンオキシド系導電性ポリマ2.6gと、LiClO4粉末0.37gとを混合した後に、これにN−メチル2−ピロリドン35.5gをさらに加えて24時間混合することで、ポリエチレンオキシド系導電性ポリマを完全に溶解させたポリマ溶液が調製された。
【0074】
そして、前記した混合物に、前記したポリマ溶液13.2gを加えるとともに、これを混練機で混練することによってスラリが調製された。
次に、このスラリは、アルミニウム箔(厚さ15μm)の上にドクタブレード法によって塗布された。そして、スラリは、まず80℃で30分間、次いで120℃で1時間加熱乾燥された後に、アルミニウム箔とともに2ロールタイプのプレス機によって加圧された。その結果、塗布物とアルミニウム箔とは、それらの合計の厚さで41μmのシート状物となった。
【0075】
そして、このシート状物を直径14mmの円形に打ち抜くことで正極が作製された。この正極は、80℃で16時間乾燥した後に、前記したグローブボックス内に保管された。
その一方で、純度99.95質量%で円形の金属リチウム箔(厚さ0.2mm、直径16mm)が負極として準備された。この負極は、前記したグローブボックス内に保管された。
【0076】
また、ポリエチレンオキシド系導電性ポリマ中にLiClO4を含む樹脂シート(厚さ10μm)を直径20mmの円形に打ち抜くことでセパレータが作製された。このセパレータは、45℃で24時間真空乾燥した後に、前記したグローブボックス内に保管された。
【0077】
次に、これらの保管された正極、負極、およびセパレータを使用し、そして、これら以外は市販のコイン型電池(宝泉社製、CR2032)の構成部品を使用して本発明に係る非水溶液系電池が作製された。
【0078】
本実施例では、この非水溶液系電池が2個作製された。この2個の非水溶液系電池は、以下に、「電池C」と言う。
そして、2個の電池Cについて、それぞれ異なった温度環境で、その電池性能の試験が行われた。なお、この試験は、作製直後の電池Cを室温で24時間放置した後に行われた。
【0079】
1個目の電池Cについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図7に示す。なお、図7は、本発明の実施例3で得られた電池Cが、80±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図7の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0080】
また、1個目の電池Cについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図8に示す。なお、図8は、本発明の実施例3で得られた電池Cが、80±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図8の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0081】
2個目の電池Cについては、40±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図9に示す。なお、図9は、本発明の実施例3で得られた電池Cが、0±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。図9の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0082】
また、1個目の電池Cについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電と充電とからなるサイクルを繰り返して行って、このサイクルごとに電池Cの放電時の容量が測定された。この放電時の容量については、後記する比較例2で得られた電池Eの放電時の容量の測定結果とともに、図16に示す。
【0083】
(比較例1)
この比較例1では、ルベアン酸に代えて、次式(5):
【0084】
【化5】
【0085】
で示される有機硫黄化合物である2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールが正極の活物質として使用された。なお、この2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールは、還元形態であって、酸化形態では、モノマ単位としての2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールのメルカプト基(−SH)同士がS−S結合を形成することでポリマを形成する。そして、このポリマは、還元されることで2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールに復元する。
【0086】
この比較例1では、まず、純度98%の2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(アルドリッチ社製、D129003)を60℃で12時間真空乾燥した後に分級することによって、粒子径5〜40μmの粉末4gが得られた。
この2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールの粉末4gを、実施例1におけるルベアン酸粉末4gに代えて使用した以外は、実施例1と同様に正極用の混練物が調製された。そして、この混練物から得られたシート状物の厚さを実施例1での0.3mmから0.4mmに変更した以外は、実施例1と同様にして電池が作製された。
【0087】
次に、この電池について、4時間放置された後に電池電圧が4.25Vとなるまで5μAの定電流で充電が行われた。なお、この充電は、80±2℃に維持された恒温槽内で行われた。この充電によって、充電された容量に相当する水素イオン(プロトン)が電気化学的に正極から脱離された。その容量は、活物質の重量当たりの計算で約260mAh/gであった。
【0088】
次に、この電池が前記したグローブボックス内で解体されて、電池内の正極(以下に、「充電正極」という場合がある)のみが取り出された。
その一方で、純度99.95質量%で円形の金属リチウム箔(厚さ0.2mm、直径16mm)が新たに負極として準備された。
【0089】
また、セパレータとして、実施例1の電池Aで使用したものと同様のものが新たに作製された。ちなみに、このセパレータには、実施例1と同様に、LiPF6の1モル/L溶液400μLが含浸されている。
【0090】
次に、これらの充電正極、新たに作製した負極、およびセパレータを使用し、そして、これら以外は市販のコイン型電池(宝泉社製、CR2032)の構成部品を使用して非水溶液系電池が作製された。
【0091】
本比較例では、この非水溶液系電池が2個作製された。この2個の非水溶液系電池は、以下に、「電池D」と言う。
そして、2個の電池Dについて、それぞれ異なった温度環境で、その電池性能の試験が行われた。なお、この試験は、作製直後の電池Dを室温で6時間放置した後に行われた。
【0092】
1個目の電池Dについては、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図10に示す。なお、図10は、比較例1で得られた電池Dが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図10の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0093】
2個目の電池Dについては、0±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図11に示す。なお、図11は、比較例1で得られた電池Dが、0±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図11の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0094】
また、1個目の電池Dについては、25±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電と充電とからなるサイクルを繰り返して行って、このサイクルごとに電池Dの放電時の容量が測定された。その結果を前記した実施例1、および実施例2得られた電池A、および電池Bの放電時の容量の測定結果とともに、図12に示す。ここで図12は、本発明の実施例1および実施例2で得られた電池Aおよび電池B、ならびに比較例1で得られた電池Dの25±2℃における充放電サイクルの特性図である。この図12の縦軸は、電池A、電池B、および電池Dにおける正極の活物質の質量当たりの放電時の容量(mAh/g)を表し、横軸は、放電と充電とからなるサイクルの繰り返し回数(回)を表している。
【0095】
(比較例2)
この比較例2では、比較例1で得られた2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールの粉末4gを、実施例3におけるルベアン酸粉末4gに代えて使用した以外は、実施例3と同様にしてスラリが調製された。
【0096】
次に、このスラリは、実施例3と同様にしてアルミニウム箔の上に塗布され、乾燥され後に、アルミニウム箔とともに2ロールタイプのプレス機によって加圧された。その結果、塗布物とアルミニウム箔とは、それらの合計の厚さで42μmのシート状物となった。
そして、このシート状物から直径14mmの円形に打ち抜かれた正極を使用した以外は、実施例3と同様の電池が作製された。
【0097】
次に、この電池について、4時間放置された後に電池電圧が4.25Vとなるまで5μAの定電流で充電が行われた。なお、この充電は、80±2℃に維持された恒温槽内で行われた。この充電によって、充電された容量に相当する水素イオン(プロトン)が電気化学的に正極から脱離された。その容量は、活物質の重量当たりの計算で約240mAh/gであった。
【0098】
次に、この電池が前記したグローブボックス内で解体されて、電池内の正極(以下に、「充電正極」という場合がある)のみが取り出された。
その一方で、新たに実施例3の負極およびセパレータと同様のものがそれぞれ準備された。そして、これらの充電正極、新たに作製した負極、およびセパレータを使用し、そして、これら以外は市販のコイン型電池(宝泉社製、CR2032)の構成部品を使用して非水溶液系電池が作製された。
本比較例では、この非水溶液系電池が2個作製された。この2個の非水溶液系電池は、以下に、「電池E」と言う。
【0099】
1個目の電池Eについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図13に示す。なお、図13は、比較例2で得られた電池Eが、80±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図13の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0100】
また、1個目の電池Eについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、100μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図14に示す。なお、図14は、比較例2で得られた電池Eが、80±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。この図14の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0101】
2個目の電池Eについては、40±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電、および充電が行われた際の電圧が測定された。その結果を図15に示す。なお、図15は、比較例2で得られた電池Eが、40±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。図15の縦軸および横軸は、図3の縦軸および横軸と同様である。
【0102】
また、1個目の電池Eについては、80±2℃に維持した恒温槽内で、20μAの定電流で放電と充電とからなるサイクルを繰り返して行って、このサイクルごとに電池Eの放電時の容量が測定された。その結果を前記した実施例3で得られた電池Cの放電時の容量の測定結果とともに、図16に示す。ここで図16は、本発明の実施例3で得られた電池C、および比較例2で得られた電池Eの80±2℃における充放電サイクルの特性図である。この図16の縦軸は、電池Cおよび電池Eにおける正極の活物質の質量当たりの放電時の容量(mAh/g)を表し、横軸は、放電と充電とからなるサイクルの繰り返し回数(回)を表している。
【0103】
(電池Aから電池Eの評価)
図2に示すように、電池Aの正極では、充電に起因するピークXと、放電に起因するピークYとが現れている。そして、正極側に分極する正極電流が検出されるとともに、負極側に分極する負極電流が検出されている。つまり、この電池Aでは、25±2℃(常温)において、2電子相当の酸化反応および還元反応が行われていることが確認された。
【0104】
図10および図11に示すように、比較例1で得られた電池Dは、25±2℃(図10参照)、および0±2℃(図11参照)において、放電反応および充電反応が殆ど進行していない。
これに対して、実施例1で得られた電池Aは、図3に示すように、25±2℃(常温)においても放電反応および充電反応が良好に進行している。また、この電池Aは、図4に示すように、0±2℃(低温)においても放電反応および充電反応が良好に進行している。
【0105】
そして、実施例2で得られた電池Bは、図5に示すように、25±2℃(常温)においても放電反応および充電反応が良好に進行している。また、この電池Bは、図6に示すように、0±2℃(低温)においても放電反応および充電反応が良好に進行している。
以上のことから、ルベアン酸を正極の活物質とする本発明の電池A、および電池Bは、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを正極の活物質とする従来の電池Dと異なって、常温以下の環境下であっても放電反応および充電反応が良好に進行することが検証された。
【0106】
そして、図3に示すように、常温における電池Aの正極における活物質(ルベアン酸)の質量当たりの電池Aの放電容量は、300mAh/gを大幅に超えるとともに、図5に示すように、常温における電池Bの正極における活物質(ルベアン酸)の質量当たりの電池Bの放電容量は、400mAh/gを大幅に超えている。つまり、本発明の電池Aおよび電池Bの放電容量は、図示しないが、従来のコバルト酸リチウムを正極の活物質とする非水溶液系電池(リチウムイオン電池)の常温における放電容量(150mAh/g)の2倍以上となっている。
【0107】
また、図13に示すように、比較例2で得られた電池Eでは、80±2℃(高温)において、放電反応および充電反応が進行している。また、図7に示すように、実施例3で得られた電池Cにおいても放電反応および充電反応が進行している。ただし、比較例2で得られた電池Eの放電容量が、200mAh/g程度(図13参照)であるのに対して、実施例3で得られた電池Cの放電容量は、440mAh/g程度(図7参照)となっている。
【0108】
その一方で、図15に示すように、比較例2で得られた電池Eでは、40±2℃(中温)において、放電反応および充電反応が殆ど進行していない。
これに対して、実施例3で得られた電池Cは、図9に示すように、40±2℃(中温)においても放電反応および充電反応が良好に進行している。また、この電池Cでは、40±2℃(中温)であってもその放電容量が約200mAh/gとなっており、比較例2で得られた電池Eの80±2℃(高温)での放電容量と略同程度(図13参照)の電池性能を発揮している。
【0109】
以上のことから、ルベアン酸を正極の活物質とする本発明の電池Cは、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを正極の活物質とする従来の電池Eと比較して、中温、および高温においても、はるかに大きい放電容量を発揮することが検証された。
【0110】
また、図12に示すように、比較例1で得られた電池Dでは、25±2℃(常温)において、3回目のサイクルで放電時の容量が0mAh/gとなっている。
これに対して、実施例1で得られた電池Aは、3回にわたる充放電のサイクルを重ねても放電時の容量の減少率が3%程度であった。また、実施例2で得られた電池Bは、3回にわたる充放電のサイクルを重ねても、放電時の容量の減少率が2%程度であった。20回の充放電のサイクルの後においても、本発明の電池Aおよび電池Bは、初期の放電時の容量の95%以上を維持している。
つまり、本発明の電池Aおよび電池Bは、充放電が繰り返して行われたとしても劣化が極めて少ないことが検証された。
このことは、比較例1で得られた電池Dは、正極に活物質として含まれる酸化形態としての2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールが、電解液に溶解しやすいために、正極から電解液に溶出するためと考えられる。
これに対して、実施例1および実施例2で正極の活物質として使用されるルベアン酸は、電解液に溶出しにくいために、電池Aおよび電池Bは、充放電が繰り返して行われてもその劣化が防止されたものと考えられる。
【0111】
また、図16に示すように、実施例3で得られた電池Cは、比較例2で得られた電池Eと比較して、80±2℃(高温)での20回にわたる充放電のサイクルを重ねても放電時の容量の減少率が小さい。そして、実施例3で得られた電池Cでは、20回にわたる充放電のサイクルを重ねても、放電時の容量の減少率がわずか4%程度であった。つまり、電解液が正極と接する実施例2で得られた電池Bにおける放電時の容量の前記した減少率(5%)よりもその減少率が小さくなっている。
このことは、実施例3で得られた電池Cには、電解質が固体として含まれているために、正極に含まれる活物質の溶出がないことによるものと考えられる。
【0112】
また、前記したように、比較例2で得られた電池Eは、80±2℃で20μAの定電流で放電を行った場合の放電容量が200mAh/g程度(図13参照)となっている。そして、図14に示すように、80±2℃で100μAの高率放電を行った電池Eは、その放電容量が80mAh/g程度となっている。つまり、100μAの高率放電を行った電池Eは、20μAのときの放電容量の40%程度に落ち込んでいる。
これに対して、前記したように、実施例3で得られた電池Cは、80±2℃で20μAの定電流で放電を行った場合の放電容量が440mAh/g程度(図7参照)となっている。そして、図8に示すように、80±2℃で100μAの高率放電を行った電池Cは、その放電容量が360mAh/g程度となっている。つまり、100μAの高率放電を行った電池Cは、20μAのときの放電容量の80%以上となる高い放電容量を維持している。
【0113】
以上のことから、実施例3で得られた本発明の電池Cは、比較例2で得られた電池Eと比較して、高率放電特性においても優れていることが検証された。
本願発明は、実施例の形態にとらわれない。たとえば電極の作成については、活物質と導電助剤とを混合し、予めバインダを溶媒に溶かした溶液をそこに加え、スラリ状態にし、それを金属箔(正極はアルミニウム、負極は銅)上に均一な厚さに塗工し、合剤の膜を形成する。次にそれを加熱乾燥することで前記した溶媒を気化させ除去し、その後に加圧プレスすることによっても得られる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】実施形態に係る非水溶液系電池の縦断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係る電池Aの25±2℃におけるサイックリックボルタンメトリの測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1で得られた電池Aが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図4】本発明の実施例1で得られた電池Aが、0±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図5】本発明の実施例2で得られた電池Bが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図6】本発明の実施例2で得られた電池Bが、0±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図7】本発明の実施例3で得られた電池Cが、80±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図8】本発明の実施例3で得られた電池Cが、80±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図9】本発明の実施例3で得られた電池Cが、40±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図10】比較例1で得られた電池Dが、25±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図11】比較例1で得られた電池Dが、0±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図12】本発明の実施例1および実施例2で得られた電池Aおよび電池B、ならびに比較例1で得られた電池Dの25±2℃における充放電サイクルの特性図である。
【図13】比較例2で得られた電池Eが、80±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図14】比較例2で得られた電池Eが、80±2℃の下に100μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図15】比較例2で得られた電池Eが、40±2℃の下に20μAの定電流で放電し、または充電された際に、その電圧が経時的に変化する様子を示す電圧曲線図である。
【図16】本発明の実施例3で得られた電池C、および比較例2で得られた電池Eの80±2℃における充放電サイクルの特性図である。
【符号の説明】
【0115】
1 非水溶液系電池
2 正極(電池用電極)
3 負極
4 セパレータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、リチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含むことを特徴とする電池用電極。
【請求項2】
前記ルベアン酸または前記ルベアン酸ポリマが、次式(2):
R1−(NH−CS−CS−NH)n−R2 ・・・(2)
(ただし、前記式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1〜3のアルキル基、アミノ基、水酸基、またはスルホン基を表し、nは、1〜20の整数を表す)
で示されることを特徴とする請求項1に記載の電池用電極。
【請求項3】
前記式(1)で示される構造単位が、次式(3)で示される酸化還元反応を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電池用電極。
【化1】
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池用電極を正極とし、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極を負極としたことを特徴とする非水溶液系電池。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池用電極に更にリチウムを含む電極が正極とされ、リチウム非含有化合物からなる電極が負極とされたことを特徴とする非水溶液系電池。
【請求項6】
前記正極と前記負極との間に介在する電解質が、ゲル状物または固形物に含まれていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の非水溶液系電池。
【請求項7】
次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、リチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含む電極体を作製する工程と、
前記電極体にリチウムを吸蔵させて第1電極を得る工程と、
リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極材料から第2電極を作製する工程と、
前記第1電極を正極として組み込むとともに、前記第2電極を負極として組み込む工程と、
を有することを特徴とする非水溶液系電池の製造方法。
【請求項1】
次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、リチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含むことを特徴とする電池用電極。
【請求項2】
前記ルベアン酸または前記ルベアン酸ポリマが、次式(2):
R1−(NH−CS−CS−NH)n−R2 ・・・(2)
(ただし、前記式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1〜3のアルキル基、アミノ基、水酸基、またはスルホン基を表し、nは、1〜20の整数を表す)
で示されることを特徴とする請求項1に記載の電池用電極。
【請求項3】
前記式(1)で示される構造単位が、次式(3)で示される酸化還元反応を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電池用電極。
【化1】
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池用電極を正極とし、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極を負極としたことを特徴とする非水溶液系電池。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池用電極に更にリチウムを含む電極が正極とされ、リチウム非含有化合物からなる電極が負極とされたことを特徴とする非水溶液系電池。
【請求項6】
前記正極と前記負極との間に介在する電解質が、ゲル状物または固形物に含まれていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の非水溶液系電池。
【請求項7】
次式(1):
−(NH−CS−CS−NH)− ・・・(1)
で示される構造単位を有し、リチウムイオンと結合可能であるルベアン酸またはルベアン酸ポリマを含む電極体を作製する工程と、
前記電極体にリチウムを吸蔵させて第1電極を得る工程と、
リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な活物質を含む電極材料から第2電極を作製する工程と、
前記第1電極を正極として組み込むとともに、前記第2電極を負極として組み込む工程と、
を有することを特徴とする非水溶液系電池の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−147015(P2008−147015A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332771(P2006−332771)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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