説明

電池電極の製造方法、この方法によって製造された電極、及び斯かる電極を有する電池

少なくとも一つの鉛電池電極の製造方法であって、前記電極を形成する態様で、活性ペーストを支持体に配置する工程と、前記電極を、制御された雰囲気環境に置き、前記電極を、オゾンを富化したガスに晒す工程とを含み、前記電極の表面の1平方メートルに対して、1時間あたり100リットル未満の流量のオゾン富化をしたガスに、前記電極を晒すことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主クレームの前提事項部に記載された電池電極の製造方法、この方法によって製造された電極、及び斯かる電極を有する電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、無停電電源装置に用いられる電池は、一般に、二つの向かい合うプレートの形態の正電極と負電極を内部に備えた複数のセルから形成されている。二つの電極の間には、イオンと電荷が自由に移動できるよう、微細孔セパレータとともに、電解質(硫酸)が存在している。これらの電極は、一般的には鉛グリッドである支持体から形成される電流伝導のための内部構造を提供する。支持体グリッドは、例えば、重力鋳造、ドラム上への連続鋳造、鉛ストリップからの延伸又は適当な装置による穿孔など、種々の方法で形成することができる。鉛、酸化鉛、硫酸、水及び幾分かの添加剤の混合物からなる活性ペーストを、この支持体グリッドに塗布する。活性ペースト混合物は、好適な密度、湿潤度、多孔性及びコンシステンシー特性を得るため、適当な工業用ミキサーによって調製される。このペーストは、塗布機によって適当にグリッドに塗布され、活性ペーストの特性が、このペーストが適当にグリッドの穴を塞ぎ、グリッドの表面に付着することを可能にしている。
【0003】
塗布作業の後、プレートをプレスして活性ペーストとグリッド表面との間の接触を向上させる。
【0004】
次いで、プレートを速乾オーブンに入れ、活性ペーストの含水量を減少させる。この速乾過程は、他の化合物に加えて酸化鉛及び水酸化鉛の生成を伴う発熱反応も誘発し、この発熱反応は、プレートを加熱し、活性ペーストの塊(mass)の構造における変化を誘発する。
【0005】
次いで、プレートを適当なチャンバー内での硬化作業にかける。この硬化作業の間に、活性ペースト中に存在する鉛の酸化が終了する。この過程の終わりにおいて、この活性ペーストは、固化して活性材料になる。これらのプレートは、硬化を行うため、並べて配置するのが一般的である。
【0006】
鉛の反応は、発熱反応なので、速乾過程の間にひとたび誘発されると、この反応は、鉛の酸化が終了するまで、又は、酸素と、酸素を得る水とが使い果たされるまで、進行する。この反応は、たとえ急速オーブン乾燥がなくても、何れにしろ誘発されるが、混合物中に過剰の水量があると硬化時間があまりにも長くなる。
【0007】
温度と乾燥パターンも、どちらの硫酸鉛が硬化させたプレートに存在するか、及び活性材料の構造と硬さを決定する。水がなくなって反応が停止する場合には、鉛粒子を取り囲む材料の構造が、不可逆変化を受け、たとえプレートを再び濡らしても、反応を再活性化することはできない。
【0008】
ヨーロッパ特許第228 647号は、プレートをオゾン富化したガスに晒して薄い外層を二酸化鉛に変換することからなる電極の電気伝導度のための方法を記述している。具体的には、その方法は、1時間あたりプレートの1平方フィートあたり1.6立方フィートの割合で3%のオゾンを含むガス流を当てるものである。これは、485リットル/mのガス流に等しいので、16グラム/mのオゾンを含んでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、特定の構造と化学組成物をプレート表面に造ることのできる方法を提供することである。
【0010】
もう一つの目的は、電池容量を増やすことである。
【0011】
別の目的は、エネルギーを節約することである。
【0012】
他の目的は、電池形成過程に要する時間を減らすことである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、公知の技術と比較して向上した特性を有する電極と電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
それらの目的は、特徴が請求項において定義されている方法により、電極により、及び電池により達成される。
【0015】
本願出願人等は、驚くべきことに、より少量のガス流(したがって、より少ないオゾン量)が、例えば、より多量のガス流を用いて得られた公知技術のプレートよりもより良いプレート効率を得る等の、プレートにおける変化を生じさせることを見出した。
【発明の効果】
【0016】
オゾンの使用量を減らしてより良い電池効率を得ることにより、より少ない製造過程でのリスクで、相当な製造費用の削減が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の特徴及び利点は、限定するものでない例として例示されている本発明の一実施の形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【0018】
本方法は、以下の工程を含むものである。
【0019】
1.鉛、酸化鉛、硫酸、水及び幾分かの添加剤の混合物からなる活性ペーストを調製する工程、
2.混合物を混合機で混合する工程、
3.通常、鉛グリッドの形態である支持体を作成する工程、
4.活性ペーストを、スプレッダによって支持体に配置し、ペーストを塗布した支持体を形成する工程、
5.プレートを、100℃〜250℃の間の温度で、15〜30秒間、速乾処理にかける工程、
6.このようにして得られたプレートを取り出し、このプレートをオゾン処理工程のための制御された雰囲気環境に置く工程、
7.プレートを、35℃〜65℃の間の温度で約90%の湿度の12〜24時間続く次の硬化工程のための環境に置く工程、及び
8.硬化の終わりに、プレートが電池セルに配置できる状態の電極になる工程。
【0020】
本発明によれば、上述の処理は、陽極プレートに施すのが好ましいが、陰極プレートにも施すと、酸化時間が速められるので、製造時間が短縮される。
【0021】
オゾン処理工程用に、0.7mの容積のチャンバーが用いられ、このチャンバー内において、120個のプレートが、適当なフレーム上に配置された。チャンバーは気密に密封され、オゾンを含んだガス流が、180リットル/時間(l/hour)の流量で45分間供給される。
【0022】
導入するオゾンの量は1グラム/時間(g/hour)であり、ガス流は、1時間あたり処理するプレート表面の1平方メートルあたり26リットルのガスであり、1時間あたり表面1平方メートルあたり858mgのオゾン(1時間あたり1平方メートルあたり26リットルx1リットルあたり33mgのオゾン)に相当する。
【0023】
チャンバーの温度は、30℃〜50℃の間に制御され、相対湿度は、80%よりも高い。
【0024】
使用するオゾンの量は、プレートの寸法によって、したがって、取り扱う表面によって変化する。
【0025】
ガスとして、空気又は酸素を用いることができる。空気を用いる場合には、最高オゾン濃度は3容量%であるのに対し、酸素を用いる場合には、最高オゾン濃度は6容量%である。
【0026】
プレートの硬化は、プレートの鉛が完全有効酸化(complete effective oxidation)したことになる。この工程を省略すると、良好ではあるが、それでも尚、より低いプレート効率が得られる。
【0027】
この過程による処理の後、ペーストを塗布した支持体の表面は、異なる結晶形態構造によって特徴付けられる。解析的分析によって示される化学的組成は、伝統的な技術によって製造された支持体とほんの少しの相違を示すだけである。表1に示す様に、本発明の方法を用いると、PbO(二酸化鉛)は存在せず、その代わり、一群の成分が存在する。
【0028】
得られるプレートには導電性がないこと、より正確には、導電性は、元々存在したものから変わらずに残っていることも分かった。この点において、PbO(導電性である)が形成されていないので、導電性がない。
【0029】
この分析は、X線回折装置を用いて行われ、オゾンで処理されたプレートと通常に製造されたプレートの表面に存在する成分を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
処理過程の結果として、斯かる電極又はプレートは、表面結晶の特定の形態構造の特徴を示す。
【0032】
オゾン処理をした活性支持体材料とオゾン処理をしていない活性支持体材料との双方に関するX線回折分析を処理することにより得られた結晶化度測定は、大きな違いを示していない。
【0033】
しかしながら、顕微鏡観察レベルでは、本発明の方法によって処理をしていない支持体の結晶の形態構造は、1〜40μmの間の寸法を有する個々の結晶によって境界が明瞭な結晶質構造を示している。処理をした支持体においては、表面のほとんどが、互いに凝集して最大70〜80μmまでの10μmの倍数の寸法を有する構造体を形成したずっと小さな結晶を示している。
【0034】
上述の様に、オゾンで処理をし、硬化させた支持体は、形成過程及びその後の放電試験の間に、通常の参照電極と比較して、特定の性質及び顕著な相違を示した。
【0035】
定格容量を確認するための異なる電池強度での放電試験が、国際電気標準会議(IEC)の標準60896−21に記載されている。
【0036】
表2は、オゾン処理を施していない通常に生産された電池(基準電池)、ヨーロッパ特許第228 647号における様に処理された電池(1時間あたり100リットル/mを越えるオゾン含有ガス流で処理をした電池)、及び本発明にしたがい、1時間あたり処理するプレート表面の1平方メートルあたり26リットルのガス流で処理された電池に関して、10時間における放電試験(C10)及び1時間における放電試験(C1)を比較するものである。
【0037】
【表2】

【0038】
両方の試験において、ヨーロッパ特許第228 647号において教示されるよりも少量のオゾン富化をしたガスの使用が、驚くべきことに歩留まり(yield)の向上につながることが、明らかに分かる。
【0039】
正の参照電極は、処理を受けたものと同じ製造過程によって製造された。負の電極は、全ての組み立てられたセルに関し、同じ製造バッチからのものである。
【0040】
組み立てられた電池に関する試験の準備及び条件は、同じであった。定電流ボックス形成手法が用いられた。
【0041】
空気冷却過程を伴う形成の間、先に説明したようなオゾン処理をした支持体の形態の正電極を有するそれらのセルは、以下の利点を示した。
【0042】
* 形成の間、参照セルと比較して、セル温度が低い(3℃〜8℃)。
【0043】
* 初期形成工程の間、内部抵抗が、より少ない。
【0044】
* 形成過程が、より早い(分極が、2〜5時間早く達成される)。
【0045】
* 過程がより早いこと、及びセルが分極状態により長い時間とどまることの結果として、形成の間により多くの水が失われる。
【0046】
* 形成の間の放電試験の終了時における電圧が、より高い。処理された支持体を用いて又は用いないで製造されたセルは、容量の面で大きな違いを示した。
【0047】
* セルが完全に形成された結果として、オゾンで処理をした上述の正の電極は、放電試験(10時間、1.8Vの放電)において、5〜10%多い容量を示す。この優れた容量性能は、何週間もの荷電状態の後に順に三つの放電試験を行った後でさえも、試験され、確認された。
【0048】
* オゾンで処理をした支持体から形成される正の電極を有するセルは、次の1時間放電試験において、参照セルよりも最大10%容量が多いというより良好な性能を示す。
【0049】
利点は、以下のように要約することができる。
【0050】
* 処理をした支持体の硬化及び形成に用いるエネルギーの低減
* 高率及び低率(C及びC10)での放電試験の間の得られる電流容量の増加

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの鉛電池電極の製造方法であって、
前記電極を形成する態様で、活性ペーストを支持体に配置する工程と、
前記電極を、制御された雰囲気環境に置き、前記電極を、オゾンを富化したガスに晒す工程とを含み、
前記電極の表面の1平方メートルに対して、1時間あたり100リットル未満の流量のオゾン富化をしたガスに、前記電極を晒すことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電極の表面の1平方メートルに対して、1時間あたり50リットル未満の流量のオゾン富化をしたガスに、前記電極を晒すことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガスは、1容量%〜3容量%の間のオゾン量で富化されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ガスは、3容量%〜6容量%の間のオゾン量で富化されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ガスは、3%のオゾン量で富化されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ガスは、空気であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ガスは、酸素であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記電極を、30℃〜50℃の間の温度のチャンバー内で、オゾン富化をしたガスに晒すことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記電極を、80%より高い相対湿度のチャンバー内で、オゾン富化をしたガスに晒すことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
以下の工程:
活性ペーストを支持体に配置して、ペーストを塗布した支持体を形成する工程と、
前記ペーストを塗布した支持体を、オゾン富化をしたガスで処理する工程と、
前記処理をした支持体を、硬化させる工程とを、
含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記硬化工程が、35℃〜65℃の間の温度で約90%の湿度の環境で、12〜24時間の間の時間行われることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1の方法によって得られる鉛電池電極。
【請求項13】
支持体と前記支持体に配置された活性材料とを備えた請求項12に記載の鉛電池電極であって、オゾン富化をしたガスで処理をした後、その表面に、10μmの倍数である寸法を有する結晶凝集体が生じていることを特徴とする鉛電池電極。
【請求項14】
処理をした活性ペーストには、二酸化鉛が存在しないことを特徴とする請求項12に記載の鉛電池電極。
【請求項15】
オゾン富化をしたガスによる処理によっては、前記電極の導電性が変化を受けないことを特徴とする請求項12に記載の鉛電池電極。
【請求項16】
少なくとも一つの請求項12に記載の電極を備えた鉛電池。

【公表番号】特表2009−541918(P2009−541918A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515711(P2009−515711)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009995
【国際公開番号】WO2007/147429
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(508277069)
【出願人】(508375480)オエルリコン ステーショナール−バッテリエン アーゲー アエシュ べー エル (1)
【Fターム(参考)】