説明

電池電極用バインダー組成物、電池電極用ペースト、及び電池電極

【課題】高速放電での容量低下が少なく、サイクル特性に優れた電池を製造し得る、集電体との密着性が良好な、粘度安定性に優れた電池電極用バインダー組成物を提供する。
【解決手段】(A)多価金属イオンと結合可能な官能基を有する非架橋ポリマーと、(B)(B)多価金属、及び分子量が30以上である配位子を含む多価金属化合物と、(C)有機溶媒と、を含有する電池電極用バインダー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池電極用バインダーとして好適に用いられる電池電極用バインダー組成物、並びにそれを用いた電池電極用ペースト、電池電極、及び電池電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化・軽量化は目覚しく、それに伴い、電源となる電池に対しても小型化・軽量化の要求が非常に強い。かかる要求を満足するために種々の二次電池が開発されており、例えばニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池等が実用化されている。
【0003】
これらの二次電池の構成部材となる電極を製造する方法としては、一般的には、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂をバインダーとして使用し、N−メチルピロリドン(NMP)等の有機溶剤を分散媒として使用し、これらと活物質を分散混合してペーストを得た後、集電体上に塗布・乾燥する方法がある。
【0004】
ここで、バインダーは、活物質を含む電極層と、集電体との密着性を向上させるために機能するものである。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂は、集電体との密着性が必ずしも十分であるとはいえなかった。電極層と集電体との密着性が十分ではない電極を用いた二次電池では、充放電サイクル特性をはじめとする電池特性の向上を図ることができないという問題がある。
【0005】
関連する従来技術として、水添ジエン系重合体にカルボキシル基等の官能基を導入した変性重合体をリチウム二次電池用のバインダーとして用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1で開示されたバインダーであっても、電極層と集電体との密着性を向上させる効果は必ずしも十分であるとはいえない。また、密着性不十分な電極を備えた二次電池は、特に高速放電での容量低下や繰り返し充放電(サイクル特性)による容量低下が顕著となる。
【0006】
一方、高速放電での容量低下や繰り返し充放電(サイクル特性)による容量低下等を改善し得るものとして、フッ素を含有する重合体と、カルボキシル基等の官能基を有するアクリル系重合体とを複合化した複合化重合体の水系分散体が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2で開示された複合化重合体の水系分散体を用いて調製した電極ペーストは、長期間放置した場合には沈降物が生じ易くなる場合があり、ペースト安定性に関しても改良する必要がある。また、上記の容量低下に対する改善効果も決して十分とはいえなかった。
【0007】
また、架橋ポリマーと電極活物質をNMP等の有機分散媒中に分散させた電池用スラリー組成物が開示されている(例えば、特許文献3参照)。また、ポリイソシアネートや金属キレート等の架橋剤によって架橋された熱可塑性樹脂を含有する結着剤、及びこの結着剤を用いた電極を有する非水電界液二次電池が開示されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、これらの電極用スラリー組成物や結着剤であっても、電極層と集電体との密着性を向上させる効果やペースト安定性等の物性については十分であるとはいえなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平10−17714号公報
【特許文献2】特許第3601250号公報
【特許文献3】国際公開第98/14519号パンフレット
【特許文献4】特開2000−21408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、(1)高速放電での容量低下が少なくサイクル特性に優れた電池を製造し得る、集電体との密着性が良好な、粘度安定性に優れた電池電極用バインダー組成物、(2)高速放電での容量低下が少なくサイクル特性に優れた電池を製造し得る、集電体との密着性が良好な、ペースト安定性に優れた電池電極用ペースト、並びに(3)高速放電での容量低下が少なくサイクル特性に優れた電池を製造し得る、電極層と集電体との密着性が良好な電池電極、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定の官能基を有する非架橋ポリマー、特定の配位子を含有する多価金属化合物、及び有機溶媒を含有させることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下に示す電池電極用バインダー組成物、電池電極用ペースト、及び電池電極が提供される。
【0012】
[1](A)多価金属イオンと結合可能な官能基を有する非架橋ポリマーと、(B)多価金属、及び分子量が30以上である配位子を含む多価金属化合物と、(C)有機溶媒と、を含有する電池電極用バインダー組成物。
【0013】
[2]前記官能基が、カルボキシル基、スルホン酸基、カルボニル基、ヒドロキシル基、及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の電池電極用バインダー組成物。
【0014】
[3]前記配位子が、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、及び乳酸からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]又は[2]に記載の電池電極用バインダー組成物。
【0015】
[4]前記(B)多価金属化合物が、アルミニウムアセチルアセトナート錯体、アルミニウムエチルアセトアセテート錯体、チタンラクテート錯体、及びチタンアセチルアセトナート錯体からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の電池電極用バインダー組成物。
【0016】
[5]前記(A)非架橋ポリマーが、(a−1)(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位40〜80質量%、(a−2)官能基含有不飽和単量体に由来する構成単位0.01〜20質量%、及び(a−3)その他の不飽和単量体0〜40質量%(但し、(a−1)+(a−2)+(a−3)=100質量%)、からなるものである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の電池電極用バインダー組成物。
【0017】
[6](d−1)フッ化ビニリデンに由来する構成単位50〜80質量%、(d−2)六フッ化プロピレンに由来する構成単位20〜50質量%、及び(d−3)その他の不飽和単量体に由来する構成単位0〜30質量%(但し、(d−1)+(d−2)+(d−3)=100質量%)、からなる(D)フッ素系重合体を更に含有する前記[1]〜[5]のいずれかに記載の電池電極用バインダー組成物。
【0018】
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の電池電極用バインダー組成物と、電極活物質と、を含有する電池電極用ペースト。
【0019】
[8]集電材と、前記集電材の表面上に前記[7]に記載の電池電極用ペーストが塗布及び乾燥されて形成された電極層と、を備えた電池電極。
【0020】
[9]集電材の表面上に、前記[7]に記載の電池電極用ペーストを塗布した後、80℃以上の温度で乾燥して、前記集電材と、前記集電材の表面上に形成された電極層とを備えた電池電極を得る電池電極の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電池電極用バインダー組成物は、高速放電での容量低下が少なく、サイクル特性に優れた電池を製造し得るものである。また、集電体との密着性が良好であるとともに、粘度安定性に優れたものである。
【0022】
本発明の電池電極用ペーストは、高速放電での容量低下が少なく、サイクル特性に優れた電池を製造し得るものである。また、集電体との密着性が良好であるとともに、ペースト安定性に優れたものである。
【0023】
本発明の電池電極は、高速放電での容量低下が少なく、サイクル特性に優れた電池を製造し得るものであり、電極層と集電体との密着性が良好なものである。
【0024】
本発明の電池電極の製造方法によれば、高速放電での容量低下が少なく、サイクル特性に優れた電池を製造し得るものであり、電極層と集電体との密着性が良好な電池電極を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0026】
1.電池電極用バインダー組成物:
本発明の電池電極用バインダー組成物(以下、単に「バインダー組成物」ともいう)の一実施形態は、(A)多価金属イオンと結合可能な官能基を有する非架橋ポリマー(以下、「(A)成分」ともいう)と、(B)多価金属、及び分子量が30以上である配位子を含む多価金属化合物(以下、「(B)成分」ともいう)と、(C)有機溶媒(以下、「(C)成分」ともいう)とを含有するものである。以下、その詳細について説明する。
【0027】
((A)非架橋ポリマー)
(A)成分は、多価金属イオンと結合可能な官能基を有する非架橋ポリマーである。「多価金属イオンと結合可能な官能基」の好適例としては、カルボキシル基、スルホン酸基カルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基等を挙げることができる。なかでも、カルボキシル基、スルホン酸基、及びアミノ基が更に好ましい。(A)成分は、これらの官能基の二種以上を有するものであってもよい。
【0028】
本明細書にいう「非架橋ポリマー」とは、架橋し得るものではあるが、未だ架橋していない状態にあるポリマーをいう。従って、本明細書にいう「非架橋ポリマー」には、架橋し得ないポリマーは概念的に包含されない。
【0029】
具体的な(A)成分としては、(a−1)(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位(以下、「(a−1)構成単位」ともいう)と、(a−2)官能基含有不飽和単量体に由来する構成単位(以下、「(a−2)構成単位」ともいう)とを有する共重合体を好適例として挙げることができる。この共重合体は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと官能基含有不飽和単量体を含む単量体成分を重合させることによって調製することができる。
【0030】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
官能基含有不飽和単量体中の官能基としては、前述の「多価金属イオンと結合可能な官能基」を挙げることができる。即ち、官能基含有不飽和単量体中の官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、カルボニル基、ヒドロキシル基等を挙げることができる。なかでも、カルボキシル基、スルホン酸基、及びアミノ基が更に好ましい。
【0032】
カルボキシル基を有する官能基含有不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和ポリカルボン酸類;前記不飽和ポリカルボン酸の遊離カルボキシル基含有アルキルエステルや遊離カルボキシル基含有アミド類等を挙げることができる。
【0033】
スルホン酸基を有する官能基含有不飽和単量体としては、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸(塩)、イソプレンスルホン酸(塩)等を挙げることができる。
【0034】
アミノ基を有する官能基含有不飽和単量体としては、例えば、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0035】
上述してきた各種の官能基を有する官能基含有不飽和単量体は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。なお、官能基含有重合体にビニル基を導入する方法としては、例えば、カルボキシル基含有重合体と前記不飽和基含有グリシジル化合物とのエステル化反応、エポキシ基含有重合体と前記カルボキシル基含有不飽和単量体とのエステル化反応、カルボキシル基含有重合体と前記アミノ基含有不飽和単量体とのアミド化反応、アミノ基含有重合体と前記カルボキシル基含有不飽和単量体とのアミド化反応等を挙げることができる。
【0036】
(A)成分が、(a−1)構成単位と(a−2)構成単位とを有する共重合体である場合において、この共重合体には、(a−3)その他の不飽和単量体に由来する構成単位(以下、「(a−3)構成単位」ともいう)が更に含まれていてもよい。(a−3)構成単位を構成するために用いられる単量体としては、例えば、芳香族ビニル化合物、ビニルエステル類、ハロゲン化ビニル系化合物、共役ジエン類、エチレン等を挙げることができる。
【0037】
(A)成分に含まれる(a−1)構成単位の割合は、(A)成分の全体を100質量%とした場合に、40〜80質量%であることが好ましく、45〜80質量%であることが更に好ましく、50〜80質量%であることが特に好ましい。(a−1)構成単位の割合が40質量%未満であると、例えば後述するフッ素系重合体を共存させた場合に、このフッ素系重合体と(A)成分との相溶性が不足する傾向にある。一方、80質量%超であると、電池電極用ペースト中での体積膨潤が大きくなり過ぎる傾向にある。
【0038】
(A)成分に含まれる(a−2)構成単位の割合は、(A)成分の全体を100質量%とした場合に、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.02〜18質量%であることが更に好ましく、0.03〜15質量%であることが特に好ましい。(a−2)構成単位の割合が0.01質量%未満であると、水系での重合の際に粒子の化学的安定性が不足して、良好な水系分散体を得難くなる傾向にある。一方、20質量%超であると、水系での重合の際に粘度が高くなり過ぎる傾向があり、粒子が合一凝集して、良好な水系分散体を得難くなる傾向にある。
【0039】
また、(A)成分に含まれる(a−3)構成単位の割合は、0〜40質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることが更に好ましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。(a−3)構成単位の割合が40質量%超であると、例えば後述するフッ素系重合体を共存させた場合に、このフッ素系重合体と(A)成分との相溶性が不足する傾向にある。
【0040】
((B)多価金属化合物)
(B)成分は、多価金属、及び分子量が30以上である配位子を含む多価金属化合物である。この(B)成分に含有される多価金属は、イオン化された場合に、(A)成分の官能基と結合して(A)成分を架橋させることのできる金属であれば特に限定されない。具体的な多価金属としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等を挙げることができる。なかでも、Al、Ti、Niが好ましい。
【0041】
(B)成分に含有される配位子は、分子量が30以上であり、かつ前述の多価金属とともに錯体を形成し得るものであれば特に限定されない。分子量が30未満であると、上記多価金属の保護効果が小さいため、溶液保存中に上記多価金属がイオン化されやすく、結果として溶液の保存安定性が劣る。分子量の上限は特に限定されないが、一般的な電極乾燥条件において速やかに架橋を進行させるためには、分子量が200以下であることが好ましい。
【0042】
配位子の好適例としてはアセチルアセトン(分子量=100)、アセト酢酸エチル(分子量=130、及び乳酸(分子量=90)、グリシン(分子量=75)等を挙げることができる。これらの配位子は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、(B)成分の好適例としては、アルミニウムアセチルアセトナート錯体、アルミニウムエチルアセトアセテート錯体、チタンラクテート錯体、及びチタンアセチルアセトナート錯体等を挙げることができる。これらの多価金属化合物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
((C)有機溶媒)
(C)成分は、有機溶媒である。この(C)成分の1気圧における沸点は、100℃以上であることが好ましく、115℃以上であることが更に好ましく、130℃以上であることが特に好ましい。(C)成分の1気圧における沸点が100℃未満であると、密着性が低下する傾向にある。なお、(C)成分の沸点の上限値については特に限定されないが、実質的には300℃以下であればよい。
【0044】
(C)成分の具体例としては、トルエン、N−メチルピロリドン(NMP)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等を挙げることができる。なかでも、NMP、DMSO、DMFが好ましい。
【0045】
((D)フッ素系重合体)
本発明のバインダー組成物には、その分子構造中にフッ素を含有するフッ素系重合体(以下、単に「(D)成分」ともいう)が更に含まれていることが好ましい。この(D)成分は、その分子構造中にフッ素を含有するものであれば特に限定されないが、具体的には、(d−1)フッ化ビニリデンに由来する構成単位(以下、「(d−1)構成単位」ともいう)と、(d−2)六フッ化プロピレンに由来する構成単位(以下、「(d−2)構成単位」ともいう)とを有する共重合体を好適例として挙げることができる。なお、本発明のバインダー組成物に(D)成分が含有される場合において、この(D)成分は(A)成分とともに、いわゆる複合化重合体を形成していることが好ましい。
【0046】
(D)成分が、(d−1)構成単位と(d−2)構成単位とを有する共重合体である場合において、この共重合体には、(d−3)その他の不飽和単量体に由来する構成単位(以下、「(d−3)構成単位」ともいう)が更に含まれていてもよい。(d−3)構成単位を構成するために用いられる単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル系化合物;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類、エチレンの他、特定の官能基を有する不飽和単量体等を挙げることができる。これらの不飽和単量体は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
上述の特定の官能基を有する不飽和単量体中の官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、アミド基、アミノ基、シアノ基、エポキシ基、ビニル基、スルホン酸基等を挙げることができる。なかでも、カルボキシル基、アミド基、エポキシ基、シアノ基、スルホン酸基が好ましい。
【0048】
カルボキシル基を有する不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和ポリカルボン酸類;前記不飽和ポリカルボン酸の遊離カルボキシル基含有アルキルエステルや遊離カルボキシル基含有アミド類等を挙げることができる。
【0049】
カルボン酸無水物基を有する不飽和単量体としては、例えば、前記不飽和ポリカルボン酸の酸無水物類等を挙げることができる。
【0050】
アミド基を有する不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、α−クロロアクリルアミド、N,N’−メチレン(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレン(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、クトロン酸アミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸ジアミド等の不飽和カルボン酸アミド類等を挙げることができる。
【0051】
アミノ基を有する不飽和単量体としては、例えば、2−アミノメチル(メタ)アクリレート、2−メチルアミノメチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−n−プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−n−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−メチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、3−メチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸のアミノアルキルエステル類;N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N−2−アミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−メチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−3−アミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−3−メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の不飽和カルボン酸アミドのN−アミノアルキル誘導体類等を挙げることができる。
【0052】
シアノ基を有する不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等の不飽和カルボン酸ニトリル類;2−シアノエチル(メタ)アクリレート、2−シアノプロピル(メタ)アクリレート、3−シアノプロピル(メタ)アクリレートの不飽和カルボン酸のシアノアルキルエステル類等を挙げることができる。
【0053】
エポキシ基を有する不飽和単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテル等の不飽和基含有グリシジル化合物等を挙げることができる。
【0054】
スルホン酸基を有する不飽和単量体としては、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸(塩)、イソプレンスルホン酸(塩)等を挙げることができる。
【0055】
(D)成分に含有される、(d−1)構成単位の割合は、(D)成分の全体を100質量%とした場合に、50〜80質量%であることが好ましく、55〜80質量%であることが更に好ましく、60〜80質量%であることが更に好ましい。(d−1)構成単位の割合が50質量%未満であると、(D)成分が(A)成分とともに複合化重合体を形成する場合において、特に(a−1)構成単位との相溶性が悪くなり、得られる複合化重合体が層分離現象を生じ易くなる傾向にある。一方、80質量%超であると、(D)成分が(A)成分とともに複合化重合体を形成する場合において、フッ素系重合体をシードとした、(a−1)構成単位及び(a−2)構成単位のシード重合が起こり難くなるため、(D)成分と(A)成分との相溶性が不足し、得られる複合化重合体が層分離現象を生じ易くなる傾向にある。
【0056】
(D)成分に含有される、(d−2)構成単位の割合は、(D)成分の全体を100質量%とした場合に、20〜50質量%であることが好ましく、20〜45質量%であることが更に好ましく、20〜40質量%であることが特に好ましい。(d−2)構成単位の割合が20質量%未満であると、(D)成分が(A)成分とともに複合化重合体を形成する場合において、(D)成分をシードとした、(a−1)構成単位及び(a−2)構成単位のシード重合が起こり難くなるため、(D)成分と(A)成分との相溶性が不足し、得られる複合化重合体が層分離現象を生じ易くなる傾向にある。一方、50質量%超の場合にも、(D)成分が(A)成分とともに複合化重合体を形成する場合において、特に(a−1)構成単位との相溶性が悪くなるために、(D)成分と(A)成分との相溶性が不足し、得られる複合化重合体が層分離現象を生じ易くなる傾向にある。
【0057】
また、(a)成分に含有される、(d−3)構成単位の割合は、(D)成分の全体を100質量%とした場合に、0〜30質量%であることが好ましく、0〜25質量%であることが更に好ましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。(a−3)構成単位の割合が30質量%超であると、(D)成分が(A)成分とともに複合化重合体を形成する場合において、(D)成分と(A)成分との相溶性が不足し、得られる複合化重合体が層分離現象を生じ易くなる傾向にある。
【0058】
本発明のバインダー組成物に(D)成分が含有される場合において、(D)成分と(A)成分の合計100質量部に対する、(D)成分の割合は、5〜60質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることが更に好ましい。(D)成分の割合が5質量部未満であると、耐薬品性等が低下する傾向にある。一方、60質量部超であると、バインダー性能が低下する傾向にある上、高速放電の際の容量低下やサイクル特性が低下する傾向にある。
【0059】
また、(D)成分が(A)成分とともに複合化重合体を形成する場合において、この複合化重合体に含有されるトルエン不溶分は、通常、20〜100質量%であり、30〜90質量%であることが好ましい。複合化重合体に含有されるトルエン不溶分が20質量%未満であると、この複合化重合体を用いて調製した電池電極用ペーストを使用した場合に、塗工後の乾燥工程でポリマーフローが生じて電極活物質を過度に被覆し易くなり、電極の導電性を阻害して過電圧の原因となる場合がある。また、電解液に対する耐久性が低下し易くなり、集電材から電極活物質が脱離し易くなる場合がある。
【0060】
また、複合化重合体の融点(Tm)は、170℃以下であることが好ましく、0〜110℃であることが更に好ましく、30〜60℃であることが特に好ましい。複合化重合体の融点(Tm)が170℃超であると、柔軟性や粘着性に乏しくなり、電極活物質の集電材への結着性が低下する傾向にある。
【0061】
(バインダー組成物の製造方法)
本発明のバインダー組成物は、例えば以下に示す方法に従って製造することができる。先ず、(A)成分、及び要すれば(D)成分を含有する水分散体と、(C)成分とを混合して混合組成物原料を得る。次いで、得られた混合組成物原料から水分を除去し、(B)成分を添加すれば、本発明のバインダー組成物を製造することができる。なお、水分を除去する方法については、特に限定されないが、具体的には、蒸留法、限外濾過法、分別濾過法、分散媒相転換法等を挙げることができる。
【0062】
本発明のバインダー組成物に含有される水分の割合は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることが更に好ましく、1.0質量%以下であることが特に好ましい。水分の含有割合が2.0質量%超であると、スラリー中で活物質に対し悪影響を及ぼして、電池容量の低下の原因となる場合がある。
【0063】
既に述べたように、本発明のバインダー組成物に含有されている(A)成分は、架橋し得るものではあるが、未だ架橋していない状態にあるポリマーである。ここで、本発明の一実施形態であるバインダー組成物を含有する電池電極用ペーストを、集電材の表面上に塗布及び乾燥することによって電極層を形成する場合を想定する。この場合、集電材の表面上に塗布した電池電極用ペーストを所定条件下で乾燥させると、この電池電極用ペーストに含有されるバインダー組成物の構成要素である(B)成分中の配位子が揮発する。配位子が揮発すると、(B)成分中の多価金属のイオンが(A)成分の官能基と結合し、(A)成分が架橋されることになる。
【0064】
一方、乾燥の前段階において架橋が進行すると、バインダー組成物のゲル化や粘度上昇、また場合によっては極端な粘度低下が生じる。本発明のバインダー組成物は、(B)成分中の多価金属は配位子とともに錯体を形成しているため長期間放置した場合であっても(A)成分が架橋し難いものであり、粘度安定性に優れたものである。本発明のバインダー組成物は、このような特性を生かし、二次電池電極用バインダー、電気二重層キャパシタ電極用バインダー等として好適に用いることができる。
【0065】
2.電池電極用ペースト:
本発明の電池電極用ペーストの一実施形態は、前述の電池電極用バインダー組成物と、電極活物質とを含有するものである。本発明の電池電極用ペーストは、バインダー組成物と電極活物質とを、必要に応じて添加される各種添加剤とともに混合することにより、調製することができる。
【0066】
本発明の電池電極用ペーストは、前述の電池電極用バインダー組成物を含有するものであるため、長期間放置された場合であっても好適な粘度を維持でき、その結果、増粘や沈降等の変化を生じ難い。従って、本発明の電池電極用ペーストは、ペースト安定性に優れたものである。また、本発明の電池電極用ペーストを、集電材の表面上に塗布及び乾燥することによって電極層を形成する場合には、既に述べたとおり、乾燥に伴って(B)成分中の配位子が揮発し、(B)成分中の多価金属のイオンが(A)成分の官能基と結合して(A)成分が架橋される。このため、架橋された(A)成分(架橋ポリマー)は、電極活物質を良好な状態で分散させつつ、集電体との高い密着性を発現し得る。
【0067】
本発明の電池電極用ペーストは、電極活物質100質量部に対して、バインダー組成物を、固形分として0.1〜10質量部含有するものであることが好ましく、0.5〜10質量部含有するものであることが更に好ましく、1〜10質量部含有するものであることが特に好ましい。バインダー組成物の量が0.1質量部未満であると、良好な密着性が得られなくなる傾向にある。一方、10質量部超であると、内部抵抗が大きくなり過ぎて電池特性に影響を及ぼす傾向にある。なお、バインダー組成物と電極活物質との混合には、各種混練機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を使用することができる。
【0068】
必要に応じて添加される各種添加剤としては、使用する有機溶媒に溶解可能な粘度調整用ポリマーや、グラファイト等の導電性カーボン、金属粉末等の導電材等を挙げることができる。使用する有機溶媒に溶解可能な粘度調整用ポリマーとしては、使用する有機溶媒がNMPである場合を例に挙げると、エチレンビニルアルコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン等を挙げることができる。
【0069】
本発明の電池電極用ペーストに含有される電極活物質としては、水系電池、例えばニッケル水素電池では、水素吸蔵合金粉末が好適に用いられる。より具体的には、MmNiをベースに、Niの一部をMn、Al、Co等の元素で置換したものが好適に用いられる。なお、「Mm」は、希土類の混合物であるミッシュメタルを表している。電極活物質は、その粒子径が3〜400μmである、100メッシュを通過した粉末であることが好ましい。また、非水系電池においては、例えば、MnO、MoO、V、V13、Fe、Fe、Li(1−x)CoO、Li(1−x)・NiO、LiCoSn、Li(1−x)Co(1−y)Ni、TiS、TiS、MoS、FeS、CuF、NiF等の無機化合物;フッ化カーボン、グラファイト、気相成長炭素繊維及び/又はその粉砕物、PAN系炭素繊維及び/又はその粉砕物、ピッチ系炭素繊維及び/又はその粉砕物等の炭素材料;ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子等を挙げることができる。特に、Li(1−x)CoO、Li(1−x)NiO、LiCoSn、Li(1−x)Co(1−y)Ni等のリチウムイオン含有複合酸化物を用いた場合、正負極共に放電状態で組み立てることが可能となるために好ましい。
【0070】
負極用活物質としては、例えば、フッ化カーボン、グラファイト、気相成長炭素繊維及び/又はその粉砕物、PAN系炭素繊維及び/又はその粉砕物、ピッチ系炭素繊維及び/又はその粉砕物等の炭素材料、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子、スズ酸化物やフッ素等の化合物からなるアモルファス化合物等を好適例として挙げることができる。特に、黒鉛化度の高い天然黒鉛や人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン等の黒鉛質材料を用いた場合、充放電サイクル特性が良く、容量が高い電池を得ることができる。また、負極活物質として炭素質材料を用いた場合における、この炭素質材料の平均粒径は、電流効率の低下、ペーストの安定性低下、得られる電極の塗膜内での粒子間抵抗増大等を考慮すると、0.1〜50μmであることが好ましく、1〜45μmであることが更に好ましく、3〜40μmの範囲であることが特に好ましい。
【0071】
3.電池電極:
本発明の電池電極の一実施形態は、集電材と、前述の電池電極用ペーストが集電材の表面上に塗布及び乾燥されて形成された電極層とを備えたものである。本発明の電池電極は、前述の電池電極用ペーストが集電材の表面上に塗布及び乾燥されて形成された電極層を備えたものである。従って、本発明の電池電極は、電極層と集電体との密着性に優れたものであり、高速放電での容量低下が少なくサイクル特性に優れた電池を製造し得るものである。
【0072】
集電材としては、水系電池では、例えばNiメッシュ、Niメッキされたパンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体等を挙げることができる。また、非水系電池では、例えばアルミ箔や銅箔等の部材を好適例として挙げることができる。この集電材の少なくとも一方の表面上に、前述の電池電極用ペーストを所定の厚みとなるように塗布した後、加熱・乾燥することによって電極層を形成すれば、本発明の電池電極を得ることができる。集電材の表面上に電池電極用ペーストを塗布する方法としては、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法等の任意のコーターヘッドを用いる方法を採用することができる。
【0073】
また、集電材の表面上に塗布された電池電極用ペーストを加熱・乾燥する方法としては、例えば放置して自然乾燥する方法の他、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、又は遠赤外線加熱機等を使用する乾燥方法等を採用することができる。乾燥温度は、通常、20〜250℃とすることが好ましく、130〜170℃とすることが更に好ましい。また、乾燥時間は、1〜120分とすることが好ましく、5〜60分とすることが更に好ましい。
【0074】
本発明の電池電極は、水系電池、非水系電池の何れの電池用の電極としても好適に用いることができる。水系電池としてはニッケル水素電池正極、非水系電池としてはアルカリ二次電池正極やリチウムイオン電池正極等で優れた特性を発揮することができる。
【0075】
本発明の電池電極を用いて電池を組み立てる場合、非水系電解液としては、通常、電解質が非水系溶媒に溶解されてなるものが用いられる。電解質としては特に限定されないが、アルカリ二次電池での例を示せば、LiClO、LiBF、LiAsF、CFSOLi、LiPF、LiI、LiAlCl、NaClO、NaBF、NaI、(n−Bu)NClO、(n−Bu)NBF、KPF等を挙げることができる。
【0076】
また、電解液に用いられる溶媒としては、例えばエーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、硫黄化合物、塩素化炭化水素類、エステル類、カーボネート類、ニトロ化合物、リン酸エステル系化合物、スルホラン系化合物等を用いることができる。これらの中でも、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、塩素化炭化水素類、カーボネート類、スルホラン系化合物が好ましい。具体的には、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アニソール、モノグライム、ジグライム、トリグライム、アセトニトリル、プロピオニトリル、4−メチル−2−ペンタノン、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、1,2−ジクロロエタン、γ−ブチロラクトン、ジメトキシエタン、メチルフオルメイト、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルチオホルムアミド、スルホラン、3−メチル−スルホラン、リン酸トリメチル、若しくはリン酸トリエチル、又はこれらの混合溶媒等を挙げることができる。水系電池用の電解液としては、通常、5規定以上の水酸化カリウム水溶液が使用される。
【0077】
更に、要すればセパレータ、端子、絶縁板等の部品を用いて電池が構成される。また、電池の構造としては、特に限定されるものではないが、正極、負極、及び要すればセパレータを単層又は複層としたペーパー型電池、或いは正極、負極、及び要すればセパレータをロール状に巻いた円筒状電池等を例示することができる。本発明の電池電極を用いて製造した(二次)電池は、例えばAV機器、OA機器、通信機器等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0079】
[正極の作製]:LiCoOを100部、アセチレンブラック5部、及びバインダー組成物4部(固形分換算)をNMP中で混合撹拌し、その粘度が約8000mPa・sの正極用ペースト(スラリー)を得た。得られた正極用ペーストを、アルミニウム箔上に、乾燥後の膜厚(アルミニウム箔の厚みを含む)が100μmとなるように塗工し、120℃で20分乾燥した。その後、ロールプレスにより膜厚60μmまで圧縮し、正極を作製した。
【0080】
[電池の作製]:直径16.16mmに打ち抜いた商品名「ピオクセルA100」(パイオニクス社製)を負極として用意した。この負極を、2極式コインセル(商品名「HSフラットセル」(宝泉社製))内に載置した。直径18mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(商品名「セルガード#2400」(セルガード社製))を負極上に載置するとともに、空気が入らないように電解液を注入した。その後、直径15.95mmに打ち抜いた正極を載置し、外装ボディーをネジで閉めて封止することにより二次電池を作製した。なお、使用した電解液は、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/1(Vol/Vol)の溶媒に、LiPFが1モル/リットルの濃度で溶解した溶液である。
【0081】
[金属箔への密着性]:上述のようにして作製した電池電極(正極)から、幅2cm×長さ10cmの試験片を切り出した。この試験片の電極層側の表面を、両面テープを用いてアルミ板に貼り付けた。また、試験片の集電材側の表面に、幅18mmテープ(商品名「セロテープ(登録商標)」(ニチバン社製))(JIS Z1522に規定)を貼り付け、90°方向に50mm/minの速度でテープを剥離したときの強度(g/cm)を5回測定し、その平均値をピール強度(g/cm)として算出した。なお、ピール強度の値が大きいほど、集電材と電極層との密着強度が高く、集電体から電極層が剥離し難いと評価することができる。
【0082】
[容量維持率]:上述のようにして作製したリチウムイオン二次電池について、25℃雰囲気下、0.2Cの定電流法で4Vまで充電した後に3Vまで放電する充放電を300回繰り返した。5サイクル目の放電容量(mAh/g(活物質1g当たりの放電容量))と、100サイクル、200サイクル、及び300サイクル経過後の放電容量(mAh/g)を測定し、下記式(1)から、100サイクル、200サイクル、及び300サイクル経過後の容量維持率(%)を算出した。
容量維持率(%)={(所定サイクル経過後の放電容量)/(5サイクル目の放電容量)}×100 (1)
【0083】
[バインダー組成物の粘度安定性]:調製直後のバインダー組成物をガラス容器に入れ、50℃にて1週間保存した。保存後のバインダー組成物の流動性を目視にて観察し、下記の基準に従って粘度安定性を評価した。
○:流動性がある(ゲル化しなかった)。
×:流動性がない(ゲル化した)。
【0084】
[ペースト安定性]:調製した正極用ペースト(電極用塗工液)を100mlのサンプルビンに入れて静置し、2日後の性状について、以下に示す基準に従ってペースト安定性として評価した。なお、下記の基準に照らし、○△(○と△の間)、△×(△と×の間)等の中間的な判定基準を適宜設定した。
○:沈降物が確認されない。
△:軟らかい沈降物(容易に再撹拌が可能な程度のもの)が僅かに確認される。
×:固い沈降物(再撹拌が容易にはできない程度のもの)が確認される、又は多量の沈降物が確認される。
【0085】
(実施例1)
電磁式撹拌機を備えた内容積約6リットルのオートクレーブの内部を十分に窒素置換した後、脱酸素した純水2.5リットル、及び乳化剤としてパーフルオロデカン酸アンモニウム25gを仕込み、350rpmで撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、フッ化ビニリデン(VDF)44.2%、及び六フッ化プロピレン(HFP)55.8%からなる混合ガスを、内圧が20kg/cmGに達するまで仕込んだ。その後、重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを20%含有するフロン113溶液25gを、窒素ガスを使用して圧入し、重合を開始させた。重合中はVDF60.2%、及びHFP39.8%からなる混合ガスを逐次圧入して、圧力を20kg/cmGに維持した。また、重合の進行とともに重合速度が低下するため、3時間経過後に、先と同量の重合開始剤を、窒素ガスを使用して圧入して、更に3時間反応を継続させた。反応液を冷却するとともに撹拌を停止し、未反応単量体を放出して反応を停止させ、フッ素系重合体ラテックスを得た。
【0086】
セパラブルフラスコに、得られたフッ素系重合体ラテックス10部(固形分換算)、及びイオン交換水200部を投入した。別容器に、イオン交換水90部、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR10」、旭電化工業社製)1部、メチルメタクリレート20部、n−ブチルアクリレート67部、スチレン10部、スチレンスルホン酸ナトリウム(商品名「スピノマーNaSS」、東ソー社製)2部、及びアクリル酸1部を仕込み、撹拌下に乳化することにより乳化物を得た。得られた乳化物を、前述のセパラブルフラスコに投入し、撹拌下、窒素置換した。50℃まで昇温後、過硫酸カリウム0.6部、及び亜硫酸ナトリウム0.2部を投入し、3時間撹拌した。次いで75℃に昇温して1時間撹拌した後、25℃まで冷却し、2%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整してポリマーの水分散体を得た。水分散体110部(固形分換算)に対して、n−メチルピロリドン1300部を投入し、80℃の減圧蒸留にて水を揮発させることにより、ポリマーのNMP溶液を得た。アルミニウムトリスアセチルアセトナート(商品名「アルミキレートA(W)」、川研ファインケミカル社製)2部を加え、バインダー組成物(実施例1)を得た。
【0087】
得られたバインダー組成物の金属箔への密着性の評価結果は「135g/cm」、及び粘度安定性の評価結果は「○」であった。また、得られたバインダー組成物を用いて調製した正極用ペーストのペースト安定性の評価結果は「○」であった。更に、得られたバインダー組成物を用いて作製した二次電池の容量維持率は、99%(100サイクル経過後)、98%(200サイクル経過後)、及び97%(300サイクル経過後)であった。
【0088】
(実施例2〜4、比較例1、2)
表1に示す配合処方としたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様の操作により、バインダー組成物(実施例2〜4、比較例1、2)を得た。得られたバインダー組成物の金属箔への密着性、及び粘度安定性の評価結果を表1に示す。また、得られたバインダー組成物を用いて調製した正極用ペーストのペースト安定性の評価結果を表1に示す。更に、得られたバインダー組成物を用いて作製した二次電池の容量維持率の測定結果を表1に示す。なお、実施例4で用いたチタンラクテートは、松本製薬工業製の商品名「オルガチックスTC−310」である。また、表1の配合処方における単量体成分の略称は、以下に示す通りである。
【0089】
nBA:n−ブチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
ST:スチレン
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
ATBS:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
NASS:スチレンスルホン酸ナトリウム
【0090】
(比較例3)
酸化亜鉛14部、炭酸アンモニウム12部、25体積%アンモニア水40部、及び水30部を混合することにより、Zn/アンモニア錯体を調製した。アルミニウムトリスアセチルアセトナートに代えて、調製したZn/アンモニア錯体を用いたこと、及び表1に示す配合処方としたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様の操作により、バインダー組成物(比較例3)を得た。得られたバインダー組成物の金属箔への密着性、及び粘度安定性の評価結果を表1に示す。また、得られたバインダー組成物を用いて調製した正極用ペーストのペースト安定性の評価結果を表1に示す。更に、得られたバインダー組成物を用いて作製した二次電池の容量維持率の測定結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示すように、実施例1〜4では、比較例1〜3と比べて、集電体と電極層との密着性に優れた電極を製造可能であるとともに、サイクル特性に優れた二次電池を提供可能であることが明らかである。また、実施例1〜4で得られたバインダー組成物は、比較例3で得られたバインダー組成物に比して粘度安定性に優れたものであることが判明した。更に、実施例1〜4で得られた正極用ペーストは、比較例1及び3で得られた正極用ペーストに比してペースト安定性に優れたものであることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の電池電極用バインダー組成物を用いれば、高速放電での容量低下が少なく、サイクル特性に優れた、AV機器、OA機器、通信機器等に好適に使用可能な二次電池を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)多価金属イオンと結合可能な官能基を有する非架橋ポリマーと、
(B)多価金属、及び分子量が30以上である配位子を含む多価金属化合物と、
(C)有機溶媒と、
を含有する電池電極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記官能基が、カルボキシル基、スルホン酸基、カルボニル基、ヒドロキシル基、及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載の電池電極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記配位子が、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、及び乳酸からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の電池電極用バインダー組成物。
【請求項4】
前記(B)多価金属化合物が、アルミニウムアセチルアセトナート錯体、アルミニウムエチルアセトアセテート錯体、チタンラクテート錯体、及びチタンアセチルアセトナート錯体からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の電池電極用バインダー組成物。
【請求項5】
前記(A)非架橋ポリマーが、
(a−1)(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位40〜80質量%、
(a−2)官能基含有不飽和単量体に由来する構成単位0.01〜20質量%、及び
(a−3)その他の不飽和単量体0〜40質量%(但し、(a−1)+(a−2)+(a−3)=100質量%)、
からなるものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の電池電極用バインダー組成物。
【請求項6】
(d−1)フッ化ビニリデンに由来する構成単位50〜80質量%、
(d−2)六フッ化プロピレンに由来する構成単位20〜50質量%、及び
(d−3)その他の不飽和単量体に由来する構成単位0〜30質量%(但し、(d−1)+(d−2)+(d−3)=100質量%)、
からなる(D)フッ素系重合体を更に含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の電池電極用バインダー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電池電極用バインダー組成物と、
電極活物質と、
を含有する電池電極用ペースト。
【請求項8】
集電材と、
前記集電材の表面上に請求項7に記載の電池電極用ペーストが塗布及び乾燥されて形成された電極層と、
を備えた電池電極。
【請求項9】
集電材の表面上に、請求項7に記載の電池電極用ペーストを塗布した後、80℃以上の温度で乾燥して、
前記集電材と、前記集電材の表面上に形成された電極層とを備えた電池電極を得る電池電極の製造方法。

【公開番号】特開2008−166058(P2008−166058A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352675(P2006−352675)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】