説明

電波吸収体

【課題】設置場所の変更が容易であり、低コストの電波吸収体を提供する。
【解決手段】移動可能な物体12が部屋30の内部に配置されている。そして、この物体12には単層の導電層で構成された電波吸収膜46が設けられている。よって、電波吸収膜46により、部屋30の内部で発生した電波Uを吸収することができる。また、電波吸収膜46が設けられた物体12の配置を容易に変更することができる。また、電波吸収膜46は単層の導電層で構成された簡単な構造なので低コストであり、物体12に容易に設けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部屋の内部で発生した電波を吸収する電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、部屋200の内部で使用するパソコン202、無線LAN(不図示)、携帯電話204等の機器からは電波Gが発生するので、この電波Gが部屋の外部に漏洩することを防ぐために部屋200の内壁を電波シールド層206で覆うことがある。
【0003】
しかし、機器から発生した電波Gは部屋200の内壁で何度も反射を繰り返し、長い時間を掛けて減衰するので、複数の機器を使用している場合には機器の性能に悪影響を与える。また、部屋200の内部に居る人への影響も懸念される。
【0004】
この問題を解決するために、図8に示すように、シールドされた部屋の天井等に電波吸収体208が取り付けられた部屋構造が実用化されている。これにより、部屋200の中で発生した電波を短時間で低減することが可能となる。
【0005】
しかし、このような電波吸収体208を壁や天井に取り付ける際には内装工事が必要となる。また、電波Gを発生する機器の配置変更に対応するために、電波吸収体208を床、壁、又は天井の全体に設けておくのは不経済である。
【0006】
図9に示すように、特許文献1の電波吸収体212は、極細導電繊維を含んだ透明な抵抗膜214と、光を透過する電波反射体216との間に、透明な誘電体層218を備えたものである。
【0007】
しかし、シールドされた部屋の天井等に電波吸収体212を設けようとした場合、電波吸収体212は複雑な多層構造になっているので高価であり、また、厚さがあるために部屋の壁、天井等に取り付けるのが難しい。
【特許文献1】特開2005−311330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は係る事実を考慮し、設置場所の変更が容易であり、低コストの電波吸収体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、部屋の内部に配置された移動可能な物体と、前記物体に設けられた電波吸収膜と、を備え、前記電波吸収膜は、単層の導電層で構成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項1に記載の発明では、移動可能な物体が部屋の内部に配置されている。そして、この物体には単層の導電層で構成された電波吸収膜が設けられている。
【0011】
よって、電波吸収膜により、部屋の内部で発生した電波を吸収することができる。電波吸収膜は単層の導電層で構成されているので、部屋の構造部材や部屋の内部にある電波反射物との距離が離れている場合には、広帯域の電波を吸収することができる。
【0012】
また、部屋の内部の電波の発生状況に応じて、電波吸収膜が設けられた物体の配置を容易に変更(移動)することができる。例えば、電波を発生する機器が多く配置されている付近に電波吸収膜が設けられた物体を多く置いて、部屋全体としての電波吸収効果を高めることができる。
【0013】
また、電波吸収膜は単層の導電層で構成された簡単な構造なので、低コストである。
【0014】
また、電波吸収膜は膜材なので、物体に容易に設けることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記電波吸収膜の外側に誘電体が設けられていることを特徴としている。
【0016】
請求項2に記載の発明では、電波吸収膜の外側に誘電体が設けられているので、電波吸収膜が設けられた物体を部屋のどこに配置しても、電波吸収膜は部屋の構造部材や電波を反射する物と接触しない。すなわち、電波吸収膜は誘電体を介して、部屋の構造部材や部屋の内部にある電波反射物と非接触な状態を維持することができるので所定の面抵抗値を維持し、電波吸収膜の有する電波吸収性能を効果的に発揮することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記部屋は、床、壁、及び天井の一部又は全部に設けられた反射層で覆われ、前記反射層は、前記部屋の内部で発生した電波を反射することを特徴としている。
【0018】
請求項3に記載の発明では、部屋の内部で発生した電波を反射する反射層が、部屋の床、壁、及び天井の一部又は全部に設けられている。そして、この反射層が部屋を覆っている。
【0019】
電波吸収膜に多重反射が生じると、電波吸収膜は固有の周波数の電波のみを吸収する周波数特性を有するようになるが、この周波数特性は電波吸収膜に対する電波の入射角によって異なる。
【0020】
そこで、請求項3では、反射層を部屋の床、壁、及び天井の一部又は全部に設け、部屋の内部で発生した電波を反射層によって繰り返し何度も反射させて、さまざまな入射角で電波吸収膜に入射させることにより、広帯域の電波を吸収することができる。
【0021】
請求項4に記載の発明は、前記物体は、家具であることを特徴としている。
【0022】
請求項4に記載の発明では、部屋の内部に一般に置かれている家具に電波吸収膜を設けることによって、部屋に電波吸収のための特別なスペースを確保しなくてよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は上記構成としたので、設置場所の変更が容易であり、低コストの電波吸収体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る電波吸収体を説明する。
【0025】
なお、本実施形態では、建物の部屋に本発明の電波吸収体を適用した例を示すが、これに限らずに、航空機、電車等の部屋空間に対しても本実施形態を適用することができる。
【0026】
まず、本発明の第1の実施形態に係る電波吸収体について説明する。
【0027】
図1に示すように、建物の部屋30を形成する躯体床32、躯体壁34、38、及び躯体天井36の内面の全部に、反射層としての電波シールド層40A〜40Dが設けられている。そして、この電波シールド層40A〜40Dが部屋30を覆っている。すなわち、部屋30は電波シールドルームになっている。
【0028】
部屋30の内部には、パソコン42や携帯電話44が使用されており、パソコン42の無線LANや携帯電話44の通信時に電波Uが発生する。そして、電波シールド層40A〜40Dは、部屋30の内部で発生した電波Uを反射する。
【0029】
さらに、部屋30の内部には、電波吸収体10、14、18、22、26が配置されている。
【0030】
電波吸収体10は、移動可能な物体としての椅子12の座部及び背もたれの表面に電波吸収膜46を設けたものである。椅子12に用いられるフレーム(不図示)は木製であり、座部及び背もたれの内部は発泡樹脂製のクッション48によって形成されている。
【0031】
電波吸収体14は、移動可能な物体としてのパーティション16の壁材52の表面に電波吸収膜50を設けたものである。壁材52は木製の合板である。
【0032】
電波吸収体18は、移動可能な物体としての電気スタンド20の笠部56の表面に電波吸収膜54を設けたものである。笠部56は紙によって形成されている。
【0033】
電波吸収体22は、移動可能な物体としてのソファー24の背もたれの背面に電波吸収膜58を設けたものである。ソファー24に用いられるフレーム(不図示)は木製であり、ソファー24の内部は発泡樹脂製のクッション60及び金属製コイル(不図示)によって形成されている。
【0034】
電波吸収体26は、移動可能な物体としての掛軸28の紙面の裏側に電波吸収膜62を設けたものである。掛軸28は、躯体壁38から突設された支持部64から吊り下げされている。
【0035】
また、椅子12、パーティション16、電気スタンド20、ソファー24、掛軸28に設けられた電波吸収膜46、50、54、58、62は単層の導電層で構成されている。
【0036】
さらに、椅子12、パーティション16、電気スタンド20、ソファー24、掛軸28は、図1に示すように、椅子12、パーティション16、電気スタンド20、ソファー24、掛軸28に設けられた電波吸収膜46、50、54、58、62が、電波シールド層40A〜40Dや部屋30にある電波反射物から離れるように配置されている。
【0037】
次に、本発明の第1の実施形態に係る電波吸収体の作用及び効果について説明する。
【0038】
図1に示すように、椅子12、パーティション16、電気スタンド20、ソファー24、掛軸28には、電波吸収膜46、50、54、58、62が設けられているので、部屋30の内部で発生した電波Uを吸収することができる。
【0039】
ここで、第1の実施形態で用いられる電波吸収膜46、50、54、58、62の電波吸収性について説明する。
【0040】
図2の各曲線は、フィルムに電波を照射したときの、フィルムの面抵抗値(横軸)に対する電波の反射、透過、及び吸収エネルギーの割合(縦軸)を示している。実線66は吸収エネルギー、一点鎖線68は透過エネルギー、二点鎖線70は反射エネルギーをそれぞれ示している。これらの値は、有限要素法シミュレーションにより計算した結果である。
【0041】
例えば、フィルムの面抵抗値が十分に低い1.E−01(Ω□)程度の金属等の場合には、照射された電波は、ほぼ全て反射される。また逆に、フィルムの面抵抗値が十分に高い1.E+06(Ω□)程度のビニールシート等の絶縁膜の場合には、照射された電波は、ほぼ全て透過される。
【0042】
そして、フィルムの面抵抗値が60π(Ω□)(A点)のときに吸収エネルギーが最大となり、図3に示すように、フィルム72に照射された電波Hの入射エネルギーの50%が吸収されて(符号H)、25%が透過され(符号H)、25%が反射される(符号H)。
【0043】
このようにフィルムの電波吸収特性は、面抵抗値が60π(Ω□)(A点)のときの吸収エネルギーの値50%を頂点とする正規分布の曲線になり、さらに、図2より、面抵抗値が30π(Ω□)(B点)、120π(Ω□)(B点)のときに入射エネルギーの45%が吸収され、面抵抗値が45π(Ω□)(C点)、90π(Ω□)(C点)のときに入射エネルギーの47.5%が吸収されるので、優れた電波吸収性(照射された電波エネルギーの45%〜50%を吸収)を得るためには、フィルムの面抵抗値を30π(Ω□)〜120π(Ω□)とすればよく、45π(Ω□)〜90π(Ω□)とするのが好ましく、60π(Ω□)とするのがより好ましい。
【0044】
また、これらの特性は、フィルムの導電層が単層であれば周波数に依存しないので、広帯域の電磁波に対して利用できる。
【0045】
よって、第1の実施形態の椅子12、パーティション16、電気スタンド20、ソファー24、掛軸28に設けられた電波吸収膜46、50、54、58、62は、ある程度の電波吸収性を有するものであればよいが、優れた電波吸収性(照射された電波エネルギーの45%〜50%を吸収)を得るためには、面抵抗値を30π(Ω□)〜120π(Ω□)とすればよく、45π(Ω□)〜90π(Ω□)とするのが好ましく、60π(Ω□)とするのがより好ましい。
【0046】
また、電波吸収膜46、50、54、58、62は、単層の導電層で構成されており、電波シールド層40A〜40Dや部屋30の内部にある電波反射物と離れているので、広帯域の電波を吸収することができる。
【0047】
また、電波吸収膜46、50、54、58、62と、電波シールド層40A〜40Dや部屋30の内部にある電波反射物が接触していないので所定の面抵抗値を維持し、電波吸収膜46、50、54、58、62の有する電波吸収性能を効果的に発揮することができる。
【0048】
フィルムの面抵抗値が60π(Ω□)のときに電波吸収エネルギーの値が最大になることは、等価回路をキルヒホッフの法則によって解くことからも立証できる。
【0049】
図4に示すような、電磁波をフィルムに照射したモデルの等価回路74にキルヒホッフの法則を適用し、フィルムに到達する電磁波の起電力をV、等価回路に流れる電流をI、I、空間のインピーダンスをZ、フィルムの面抵抗値をRとすると、式(1)、(2)が得られる。
【0050】
【数1】

【0051】
【数2】

この式(1)、(2)より、フィルムで消費される電力Pは式(3)によって算出される。
【0052】
【数3】

さらに、フィルムの面抵抗値Rで式(3)を偏微分して電力吸収の極値を求め、空間のインピーダンスZを120π(Ω)とすると、式(4)よりフィルムの面抵抗値は60π(Ω)となり、シミュレーション結果と一致する。
【0053】
【数4】

また、第1の実施形態では、部屋30の内部で発生する電波の状況に応じて、電波吸収膜が設けられた物体の配置を容易に変更(移動)することができる。例えば、電波を発生する機器が多く配置されている付近に電波吸収膜が設けられた物体を多く置いて、部屋30全体としての電波吸収効果を高めることができる。
【0054】
図5は、反射板と電波吸収膜との間隔を10mmとしたときの電波吸収膜の電波吸収特性を有限要素シミュレーションにより計算した結果である。電波吸収膜の面抵抗値は60π(Ω□)とした。横軸は電波の周波数であり、縦軸は電波吸収特性である。電波吸収特性のマイナスの値が大きい(縦軸の下に行く)ほど、電波吸収特性が高い(電波吸収量が多い)ことを示している。
【0055】
電波の入射面に対して偏波面を垂直にしたTE波において、符号76は入射角が15°のときの値を示し、符号78は入射角が30°のときの値を示し、符号80は入射角が45°のときの値を示している。また、電波の入射面に対して偏波面を平行にしたTM波において、符号82は入射角が15°のときの値を示し、符号84は入射角が30°のときの値を示し、符号86は入射角が45°のときの値を示している。また、符号88は入射角が0°(正面照射)のときの値を示している。
【0056】
図5に示されているように、電波吸収膜に多重反射が生じると、電波吸収膜の電波吸収特性は固有の周波数で電波吸収のピークを持つ波形となる。すなわち、電波吸収膜は固有の周波数の電波のみを吸収する周波数特性を有するようになる。そして、この周波数特性は電波吸収膜に対する電波の入射角によって異なる。
【0057】
そこで、これらの特性を生かして、第1の実施形態では、椅子12、パーティション16、電気スタンド20、ソファー24、掛軸28に設けられた電波吸収膜46、50、54、58、62に多重反射が生じた場合においても、部屋の床、壁、及び天井に設けられた反射層としての電波シールド層40A〜40Dにより、部屋の内部で発生した電波Uを繰り返し何度も反射させて、電波Uをさまざまな入射角で椅子12、パーティション16、電気スタンド20、ソファー24、掛軸28に設けられた電波吸収膜46、50、54、58、62に入射させる。そして、これにより広帯域の電波を吸収することができる。
【0058】
なお、図5は、電波吸収膜の面抵抗値を60π(Ω□)としたときの有限要素シミュレーション結果であるが、他の面抵抗値の電波吸収膜を用いた場合においても、「固有の周波数で電波吸収のピークを持つ。」、「周波数特性は電波吸収膜に対する電波の入射角によって異なる。」といった図5と同様の特性を示す。
【0059】
また、第1の実施形態では移動可能な物体として、椅子12、パーティション16、ソファー24といった家具を用いた例を示したが、部屋の内部に一般に置かれているこのような家具に電波吸収膜を設けることによって、部屋に電波吸収のための特別なスペースを確保しなくてよい。電波吸収膜は、これらの物体の表面に設けてもよいし、内部に設けられていてもよい。
【0060】
物体は移動可能なものであればよいので、椅子12やパーティション16等の他に、机、ベッド、スクリーン、襖、障子、屏風、造花、人工観葉樹、ホワイトボード、カーテン、ブラインド等に電波吸収膜を設けてもよい。但し、スチール板が入っておらず、電波が透過できる構造のものに限る。
【0061】
また、単層の導電層で構成された電波吸収膜は、物体に間隔を空けて複数設けてもよいし、円筒状のゴミ箱等をカバーするように設けられた円筒状の膜であってもよい。
【0062】
単層の導電層で構成された電波吸収膜46、50、54、58、62は、多層の電波吸収体に比べて一度に吸収できる電波の量は小さい。例えば、先に述べたように、高い電波吸収性を有する面抵抗値が60π(Ω□)の電波吸収膜においても、電波吸収膜に照射された電波の50%程度しか吸収できない。しかし、第1の実施形態のように、反射層(電波シールド層40A〜40D)が設けられた部屋内では電波が何度も反射するので数回の反射のうちにエネルギーを低減させることができる。
【0063】
さらに、電波吸収膜46、50、54、58、62は、単層の導電層で構成された簡単な構造なので、低コストである。
【0064】
また、電波吸収膜46、50、54、58、62は膜材なので、物体に容易に設けることができる。電波吸収膜46、50、54、58、62は厚さが5μm〜60μm程度の薄い膜材である。
【0065】
なお、反射層としての電波シールド層40A〜40Dが部屋30全体を覆う例を示したが、反射層は部屋30の床、壁、及び天井の一部又は全部に設けられて部屋30を覆っていればよく、部屋30には窓や出入り口等の電波が逃げる開口があってもよい。反射層は、部屋30の内部で発生した電波を反射するものであればよく、鉄筋入りのコンクリート壁、床や天井に配置された金属製のデッキプレート、電波を反射するスチール家具等であってもよい。
【0066】
また、電波吸収膜46、50、54、58、62が、電波シールド層40A〜40Dや部屋30にある電波反射物から十分に離れて非接触となるように電波吸収体10、14、18、22、26を部屋30に配置すれば、電波吸収膜46、50、54、58、62には多重反射が起こらない。この場合には、電波吸収膜46、50、54、58、62は、固有の周波数の電波のみを吸収する周波数特性を持たないので、部屋30を覆う反射層を設けなくてもよい。
【0067】
また、電波発生源としてのパソコン42、携帯電話44を部屋30の内部に存在させた例を示したが、第1の実施形態は、広帯域の電波を吸収することができるので、電波を発生するさまざまな機器を部屋30の内部で使用してもよい。例えば、携帯電話24の電界強度が低減して使用に支障を来す場合には、ブースタを用いてその周波数だけ増幅すればよい。
【0068】
次に、本発明の第2の実施形態に係る電波吸収体について説明する。
【0069】
第2の実施形態は、第1の実施形態の部屋30に、電波吸収膜の外側に誘電体が設けられた電波吸収体を配置したものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0070】
図6に示すように、部屋30の内部には、パソコン42や携帯電話44が使用されており、パソコン42の無線LANや携帯電話44の通信時に電波Uが発生する。そして、電波シールド層40A〜40Dは、部屋30の内部で発生した電波Uを反射する。第2の実施形態では、躯体壁34に窓ガラス80が設けられており、窓ガラス80も電波を反射する。
【0071】
部屋30の内部には、電波吸収体82、92、102、112、120が配置されている。
【0072】
電波吸収体82は、移動可能な物体としての本棚86の本体88の背面に電波吸収膜84を設けたものである。本体88は木製であり、また、電波吸収膜84の外側には、誘電体としてのベニヤ板90が設けられている。
【0073】
電波吸収体92は、移動可能な物体としての机100のボード98の裏面に電波吸収膜94を設けたものである。ボード98と、ボード98を支持する脚部96は木製である。すなわち、電波吸収膜94の外側に誘電体としての脚部96、ボード98が設けられている。
【0074】
電波吸収体102は、移動可能な物体としてのソファー106の表面付近の内部に、通気性を有する電波吸収膜104を設けたものである。ソファー106に用いられるフレーム(不図示)は木材であり、ソファー106の内部は発泡樹脂製のクッション110及び金属製コイル(不図示)によって形成されている。ソファー106には、誘電性の布地カバー108がかけられている。すなわち、電波吸収膜104の外側に誘電体としての布地カバー108が設けられている。
【0075】
電波吸収体112は、移動可能な物体としてのカーテン116を構成する誘電体としての布地129の表側に電波吸収膜114を設けたものである。カーテン116は、躯体壁34から突設された誘電性の支持部118から吊り下げされている。すなわち、電波吸収膜114の外側に誘電体としての布地129が設けられている。例えば、部屋30の内部に居る人がカーテン116に触れたり、空調から吹き出す空気等によってカーテン116が揺れることによって、カーテン116が反射層としての窓ガラス80に接触しても、電波吸収膜114は布地129によって窓ガラス80に直接触れることはない。
【0076】
電波吸収体120は、移動可能な物体としてのホワイトボード124の樹脂板131の裏面に、電波吸収膜122を設けたものである。ホワイトボード124は石膏ボード126の上面に設けられている。すなわち、電波吸収膜122の外側に誘電体としての石膏ボード126が設けられている。
【0077】
また、本棚86、机100、ソファー106、カーテン116、ホワイトボード124に設けられた電波吸収膜84、94、104、114,122は単層の導電層で構成されている。
【0078】
さらに、電波吸収体82、92、102、120は、図6に示すように、電波シールド層40A〜40Dやホワイトボード124が設けられた電波シールド層40Eと接触するように配置されている。
【0079】
次に、本発明の第2の実施形態に係る電波吸収体の作用及び効果について説明する。
【0080】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0081】
また、電波吸収膜84、94、104、114,122の外側に誘電体(ベニヤ板90、脚部96、ボード98、布地カバー108、布地129、石膏ボード126)が設けられているので、電波吸収膜84、94、104、114,122が設けられた物体(本棚86、机100、ソファー106、カーテン116、ホワイトボード124)を部屋30のどこに配置しても、電波吸収膜は部屋30の構造部材や部屋30にある電波反射物と接触しない。すなわち、電波吸収膜は誘電体を介して、部屋30の構造部材や部屋30にある電波反射物と非接触な状態を維持することができるので所定の面抵抗値を維持し、電波吸収膜の有する電波吸収性能を効果的に発揮することができる。
【0082】
なお、移動可能な物体としての椅子等に用いられるフレームが金属製であっても、誘電性を有する樹脂、布地、クッション材等で覆われていればよい。
【0083】
このように、第1及び第2の実施形態では、移動可能な物体に低コストの電波吸収膜を設けることにより、電波吸収体の設置場所の変更が容易である。
【0084】
また、第1及び第2の実施形態の電波吸収体は、広帯域の電波を吸収することができるので、部屋の内部で使用する機器を制限することなく、部屋の内部の電磁エネルギー密度を低減することができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電波吸収体が配置された部屋を示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る電波吸収膜の面抵抗値に対する電波の吸収、透過、及び反射エネルギーの割合を示す線図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る電波吸収膜の吸収、透過、反射の状態を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る電波吸収膜の等価回路を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る電波吸収膜の周波数に対する電波吸収特性を示す線図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る電波吸収体が配置された部屋を示す説明図である。
【図7】従来の電波シールドルームを示す説明図である。
【図8】従来の電波シールドルームを示す説明図である。
【図9】従来の電波吸収体を示す断面図である。
【符号の説明】
【0087】
10 電波吸収体
12 椅子(物体)
14 電波吸収体
16 パーティション(物体)
18 電波吸収体
20 電気スタンド(物体)
22 電波吸収体
24 ソファー(物体)
26 電波吸収体
28 掛軸(物体)
30 部屋
32 躯体床(床)
34 躯体壁(壁)
36 躯体天井(天井)
38 躯体壁(壁)
40A 電波シールド層
40B 電波シールド層
40C 電波シールド層
40D 電波シールド層
40E 電波シールド層
46 電波吸収膜
50 電波吸収膜
54 電波吸収膜
58 電波吸収膜
62 電波吸収膜
82 電波吸収体
84 電波吸収膜
86 本棚(物体)
90 ベニヤ板(誘電体)
92 電波吸収体
94 電波吸収膜
96 脚部(誘電体)
98 ボード(誘電体)
100 机(物体)
102 電波吸収体
104 電波吸収膜
106 ソファー(物体)
108 布地カバー(誘電体)
112 電波吸収体
114 電波吸収膜
116 カーテン(物体)
120 電波吸収体
122 電波吸収膜
124 ホワイトボード(物体)
126 石膏ボード(誘電体)
129 布地(誘電体)
U 電波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部屋の内部に配置された移動可能な物体と、
前記物体に設けられた電波吸収膜と、
を備え、
前記電波吸収膜は、単層の導電層で構成されていることを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
前記電波吸収膜の外側に誘電体が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記部屋は、床、壁、及び天井の一部又は全部に設けられた反射層で覆われ、前記反射層は、前記部屋の内部で発生した電波を反射することを特徴とする請求項1又は2に記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記物体は、家具であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の電波吸収体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−108832(P2008−108832A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288871(P2006−288871)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年7月31日 社団法人 日本建築学会発行の「2006年度大会(関東)学術講演梗概集」に発表
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】