説明

電波暗箱

【課題】 電磁波の遮蔽性が高く、構造が簡易で、使用勝手の良い電波暗箱を提供する。
【解決手段】 本発明の電波暗箱100は、台座部1と、中空の立体状からなり、台座部1と中空とで閉塞空間を構成する蓋部4とを備え、台座部1の上面には、シート状の電波吸収体2aが取り付けられ、電波吸収体2aの周囲には、枠状にソフトシールド材3が取り付けられ、蓋部4の底面には、枠状の折返し部4bが形成され、蓋部4の中空を構成する内面には、折返し部4bも含めて、シート状の電波吸収体2bが取り付けられ、蓋部4の折返し部4bが、電波吸収体2aの周縁部と、ソフトシールド材3に当接するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波暗箱に関し、さらに詳しくは、電磁波の遮蔽性が高く、構造が簡易で、使用勝手の良い電波暗箱に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの無線装置や高周波モジュールなどの動作試験は、外部からの不要な電磁波が試験結果に影響を与えないよう、また動作試験により発生した電磁波が外部に影響を与えないよう、さらに動作試験により発生した電磁波が反射して試験結果に影響を与えないよう、試験対象を電波暗箱内に収容しておこなうことが一般的である。
【0003】
電波暗箱としては、たとえば、特許文献1(特開平10‐93286号公報)に開示されたものが使用される。
【0004】
図2(A)、(B)に、特許文献1に開示された電波暗箱200を示す。ただし、図2(A)は斜視図、図2(B)は図2(A)の鎖線矢印部分を示す横断面図である。なお、図2(A)は後述する扉部103が閉じた状態を示しているが、図2(B)は扉部103が開いた状態を示している。
【0005】
電波暗箱200は、金属製で、中空の直方体状からなる筺体101を備える。筺体101は、側面の1つに開口101aを有する。そして、開口101aには、蝶番102により、金属製の扉部103が開閉自在に取り付けられている。電波暗箱200は、金属製の筺体101と蓋部103とで、外部との間の電磁波の往来を防止している。なお、扉部103には、把手104が取り付けられている。
【0006】
電波暗箱200の、筺体101および扉部103の内壁には、全面に、シート状の電波吸収体105が取り付けられている。電波吸収体105は、たとえば、ゴムにフェライト粉を混合したものからなる。電波暗箱200は、電波吸収体105の機能により、内部で発生した電磁波を減衰させ反射させない。
【0007】
かかる構造からなる電波暗箱200は、外部からの電磁波の侵入を防ぐことができるため、また内部で発生した電磁波を減衰させ、反射しないようにすることができるため、携帯電話などの動作試験に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10‐93286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の電波暗箱200は、筺体101の開口部101aに、機械的に扉部103を取り付けただけであり、この部分の電磁波の遮蔽性が必ずしも十分ではなく、所望の遮蔽性を得ることは難しかった。
【0010】
この遮蔽性を高めるためには、たとえば、筺体101の開口部101aと扉部103との間に金属製でバネタイプのガスケットなどを取り付け、かつ、筺体101の内部から扉部103を吸引し、ガスケットを変形させて、より完全な電磁波の遮蔽空間を形成することが必要であった。
【0011】
しかしながら、筺体101の内部から扉部103を吸引するためには、たとえば、真空装置が必要であり、電波暗箱が大型化する、重量が大きくなる、コストが高くなるといった問題があった。
【0012】
また、真空装置で内部から扉部103を吸引する電波暗箱は、試験対象を入れ直すたびに、大気圧からの減圧を繰り返す必要があり、作業性が悪いという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した従来の電波暗箱の有する問題点を解決するためになされたものであり、その手段として、本発明の電波暗箱は、平板状の台座部と、底面に開口を有する中空の立体状からなり、台座部に対して開閉自在で、台座部と中空とで閉塞空間を構成する蓋部とを備え、台座部の上面には、少なくとも蓋部の底面の開口が当接する領域を含んで、シート状の電波吸収体が取り付けられ、台座部の上面の、電波吸収体の周囲には、枠状に、ソフトシールド材が取り付けられ、蓋部の底面の、開口の周囲には、枠状の折返し部が形成され、蓋部の中空を構成する内面には、折返し部も含めて、シート状の電波吸収体が取り付けられ、蓋部の底面の折返し部が、台座に取付けられた電波吸収体の周縁部と、台座に取付けられたソフトシールド材に当接するようにした。なお、上記蓋部の立体状との記述には、直方体状、立方体状、円柱状など、種々の形状を含む。
【0014】
ソフトシールド材としては、たとえば、ウレタンに金属メッシュを巻き付けたものを用いることができる。
【0015】
なお、台座部に取付けられたソフトシールド材の厚みは、台座部に取付けられた電波吸収体の厚みよりも大きくすることが好ましい。この場合には、蓋部を閉じた際に、蓋部の自重により、蓋部の折返し部とソフトシールド材が密着する構造となり、電波暗箱が構成する閉塞空間を、より完全な電磁波の遮蔽空間とすることができ、電磁波の遮蔽性が向上するからである。
【0016】
また、ソフトシールド材は、グランドに接地されていることが好ましい。この場合には、蓋部もソフトシールド材を介して間接的にグランドに接地され、蓋部は安定したグランド電位を備え、蓋部が受けたノイズをグランドに落とすことができるからである。
【0017】
さらに、蓋部のいずれかの側面と平行であり、かつ開口を含む、台座部および蓋部の任意の縦断面を見た場合に、蓋部の折返し部が台座部に取り付けられた電波吸収体に当接する線長が、蓋部の折返し部が台座部に取り付けられたソフトシールド材に当接する線長よりも大きいことが好ましい。この場合には、台座部に取り付けられた電波吸収体と、蓋部の折返し部の内面に取り付けられた電波吸収体との重なり面積が大きくなり、電波暗箱の形成する閉塞空間を、ほぼ漏れなく電波吸収体で覆うことができ、電波暗箱内で発生した電磁波を確実に減衰させることができるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電波暗箱は、上記構成としたため、電磁波の遮蔽性が高い。しかも、構造が簡易で、真空装置なども不要であり、小型で、軽量で、コストも低い。また、真空装置を使用しないので、使用勝手も良い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(A)、図1(B)は、いずれも、本発明の実施形態にかかる電波暗箱100を示す縦断面図であり、図1(A)は蓋部が閉じた状態、図1(B)は蓋部が開いた状態を示す。
【図2】図2(A)は、従来の電波暗箱200を示す斜視図である。図2(B)は、電波暗箱200の横断面図であり、図2(A)の鎖線矢印部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面とともに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0021】
図1(A)および(B)に、本実施形態にかかる電波暗箱100を示す。なお、図1(A)、図1(B)はいずれも縦断面図であり、図1(A)は蓋部が閉じた状態、図1(B)は蓋部が開いた状態を示している。
【0022】
電波暗箱100は、平板状の台座1を備える。台座1は、たとえば、アルミニウムなどの金属からなる。また、台座1は、たとえば、2mmの厚みを有する。なお、台座1の平面的な大きさは、所望する電波暗箱100の大きさに応じて、適宜、設定することができる。台座1は、グランドに接地されている。
【0023】
台座1の上面の中央部には、シート状の電波吸収体2aが取り付けられている。電波吸収体2aは、たとえば、シリコンゴムに鉄粉を含有させたものからなる。電波吸収体2aは、たとえば、2.7mmの厚みを有する。電波吸収体2aとしては、たとえば、本件の出願人である(株)村田製作所が市販しているEMCアブソーバーの品番EA1075A270を使用することができる。
【0024】
台座1の上面の、電波吸収体2aの周囲には、枠状に、ソフトシールド材(ソフトガスケット)3が取り付けられている。ソフトシールド材3は、たとえば、ウレタンに金属メッシュを巻き付けたものからなり、導電性を有する。また、ソフトシールド材3は、たとえば、3.5mmの厚みを有している。ソフトシールド材3としては、たとえば、太陽金網(株)製のソフト・シールド、品番4000−035−1270−5080を使用することができる。ソフトシールド材3は、台座1を経由するなどして、グランドに接地されている。
【0025】
電波暗箱100は、中空で、直方体状からなる蓋部4を備える。蓋部4は、たとえば、アルミニウムなどの金属からなる。また、蓋部4は、たとえば、2mmの厚みを有する。蓋部4の底面には、矩形状の開口4aが形成されている。そして、開口4aの周囲には、枠状の折返し部4bが形成されている。なお、開口4aの大きさおよび折返し部4bの幅は任意であるが、折返し部4bの幅が大きいほど、電磁波の遮蔽性は高くなる。
【0026】
蓋部4の中空を構成する内面には、折返し部4bも含めて、シート状の電波吸収体2bが取り付けられている。電波吸収体2bには、上述した電波吸収体2aと同じものを用いることができる。なお、電波吸収体2bは、上述のとおり、たとえばシリコンゴムに鉄粉を含有させたものであり、ある程度大きな重量を有しており、蓋部4の重りとしての機能も果たしている。
【0027】
蓋部4の側面の1つには、把手5が取り付けられている。また、蓋部4の、把手5が取り付けられた側面と反対側の側面には、ゴムなどからなるストッパ6が取り付けられている。なお、ストッパ6は、蓋部4にではなく、台座1の対応する部分に取り付けるようにしても良い。
【0028】
蓋部4は、蝶番7により、台座1に開閉自在に取り付けられている。そして、台座部1と、蓋部4の中空とで、閉塞空間が構成されている。
【0029】
かかる構造からなる電波暗箱100は、図1(B)に示すように、蓋部4を開いた際には、ストッパ6が台座1に当接し、蓋部4が保持される。この状態で、電波吸収シート2a上に、携帯電話などの試験対象を設置することができる。
【0030】
また、図1(A)に示すように、電波暗箱100の蓋部4を閉じた際には、蓋部4の折返し部4bが、台座1の上面に取り付けられた電波吸収シート2aおよびソフトシールド材3に当接する。このとき、ソフトシールド材3の厚みが電波吸収シート2aの厚みよりも大きいため、ソフトシールド材3は蓋部4の重量により適度に変形する一方、電波吸収シート2aは蓋部4のストッパとして機能する。上述したとおり、蓋部4の内面には、ある程度の重量を有する電波吸収体2bが取り付けられており、蓋部4の重量が大きくなっているため、折返し部4bは電波吸収シート2aおよびソフトシールド材3に密着する。この結果、電波暗箱100の電磁波の遮蔽性は高くなっており、たとえば、−50dbレベルの遮蔽性を得ることができる。
【0031】
また、電波暗箱100は、台座1および蓋部4が、いずれも、金属からなり、グランドに接地されているため、安定したグランド電位を備え、受けたノイズをグランドに落とすことができる。すなわち、台座1は、直接、グランドに接地され、蓋部4は、導電性をもつソフトシールド材3を経由して、グランドに接地されている。
【0032】
さらに、電波暗箱100は、電波暗箱の形成する閉塞空間が、電波吸収体2a、2bにより、ほぼ漏れなく覆われているため、電波暗箱内で発生した電磁波を確実に減衰させることができる。なお、電波吸収体2a、2bの厚みは、内部で発生した電磁波のうち、電波吸収体2a、2bの表面で反射した反射波と、電波吸収対2a、2bを通過して、台座1、蓋部4の表面で反射した反射波とが、相殺されるように設計されている。そのため、電波吸収体2a、2bの厚みは、電波暗箱100内部において発生する電磁波の周波数に応じて、適宜、選択しなければならない。たとえば、2.4GHzの電磁波を減衰させるためには、電波吸収体2a、2bの厚みは、2.7mmに設定しなければならない。
【0033】
なお、電波暗箱100の形成する閉塞空間を、電波吸収体2a、2bにより、確実に覆うためには、蓋部4のいずれかの側面と平行で、開口4aを含む、電波暗箱100の縦断面を見た場合に、折返し部4bが電波吸収体2aに当接する線長が、折返し部4bがソフトシールド材3に当接する線長よりも大きいことが好ましい。この場合には、台座1に取り付けられた電波吸収体2aと、蓋部4の折返し部4bに取り付けられた電波吸収体2bとの重なり面積が、より大きくなるからである。
【0034】
以上、本発明の実施形態にかかる電波暗箱100について説明した。しかしながら、本発明がこの内容に限定されることはなく、発明の主旨に沿って、種々の変更をなすことができる。
【0035】
たとえば、蓋部4の形状は、立方体状であっても良い。また、蓋部4の底面に形成される開口4aの形状も任意である。
【0036】
また、台座1や蓋部4の材質は、アルミニウムの代わりに他の金属を用いても良い。さらに、台座1や蓋部4の厚みも2mmには限られない。
【0037】
また、電波吸収体2a、2bやソフトシールド材3の材質や厚みも、上述したものには限られない。なお、電波吸収体2a、2bの厚みは、上述したとおり、減衰させたい電磁波の周波数に応じて、適宜、選択することができる。
【符号の説明】
【0038】
1:台座
2a、2b:電波吸収体
3:ソフトシールド材
4:蓋部
4a:開口
4b:折返し部
5:把手
6:ストッパ
7:蝶番

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の台座部と、
底面に開口を有する中空の立体状からなり、前記台座部に対して開閉自在で、前記台座部と前記中空とで閉塞空間を構成する蓋部と、を備えた電波暗箱であって、
前記台座部の上面には、少なくとも前記蓋部の前記底面の前記開口が当接する領域を含んで、シート状の電波吸収体が取り付けられ、
前記台座部の上面の、前記電波吸収体の周囲には、枠状に、ソフトシールド材が取り付けられ、
前記蓋部の前記底面の、前記開口の周囲には、枠状の折返し部が形成され、
前記蓋部の前記中空を構成する内面には、前記折返し部も含めて、シート状の電波吸収体が取り付けられ、
前記蓋部の前記底面の前記折返し部が、前記台座に取付けられた前記電波吸収体の周縁部と、前記台座に取付けられたソフトシールド材に当接する電波暗箱。
【請求項2】
前記ソフトシールド材が、ウレタンに金属メッシュを巻き付けたものからなる、請求項1に記載された電波暗箱。
【請求項3】
前記台座部に取付けられた前記ソフトシールド材の厚みが、前記台座部に取付けられた前記電波吸収体の厚みよりも大きい、請求項1または2に記載された電波暗箱。
【請求項4】
前記ソフトシールド材がグランドに接地されている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載された電波暗箱。
【請求項5】
前記蓋部のいずれかの側面と平行であり、かつ前記開口を含む、前記台座部および前記蓋部の任意の縦断面を見た場合に、前記蓋部の折返し部が前記台座部に取り付けられた前記電波吸収体に当接する線長が、前記蓋部の折返し部が前記台座部に取り付けられた前記ソフトシールド材に当接する線長よりも大きい、請求項1ないし4のいずれか1項に記載された電波暗箱。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−195450(P2012−195450A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58300(P2011−58300)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】