説明

電流滴定バイオセンサーテストストリップ

【課題】サンプル中の3−ヒドロキシ酪酸のレベルを測定するための試薬と方法が提供される。
【解決手段】その試薬は、フェリシアン化物塩、サンプル中の3−ヒドロキシ酪酸の酸化を触媒する上で有効な触媒量の第1の酵素、前記第1の酵素に対応する補因子、および前記補因子の酸化と前記フェリシアン化物の還元を触媒する上で有効な触媒量の第2の酵素を含む。その試薬を、試薬がサンプルと接触したときに3−ヒドロキシ酪酸のレベルを指示する電気出力信号を生じるテストストリップに組み込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中のアナライト濃度の測定に関するものであり、より具体的には、そのような測定で用いられる電流滴定バイオセンサーに関する。最も詳細には本発明は、流体中の3−ヒドロキシ酪酸レベル測定で使用される電流滴定バイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
3−ヒドロキシ酪酸(以下、「3−HBA」)は、炭水化物の利用障害または供給不足が関与する条件下で肝臓において脂肪酸の不完全代謝によって産生される。炭水化物摂取が制限される場合のように代謝される脂肪量が増えると、3−HBA、アセトンおよびアセト酢酸などのケトン体の濃度が上昇し得る。ケトン体が血液中に過剰に存在する場合、その状態はケトーシスと呼ばれる。
【0003】
糖尿病は、ケトーシスに関連する障害である。糖尿病は、グルコース代謝の障害である。インシュリン欠乏性糖尿病においては、脂肪酸を利用して身体のエネルギー要求を満足するだけのグルコース代謝障害がある。過剰量の脂肪酸が代謝されると、ケトン体が血液中に蓄積されてケトーシスとなり、尿中に排泄されてケトン尿症となる。さらに、ケトン体は通常の塩基性イオンとともに身体から排泄されることで、身体の二酸化炭素結合力が低下し、全身性アシドーシス、すなわち血液の酸性度上昇を生じる。ケトアシドーシスという用語は、糖尿病に関連するケトーシス状態とアシドーシス状態が合併した状態を指す。高3−HBAレベルは、ケトアシドーシスの診断指標となる。
【0004】
糖尿病患者におけるケトアシドーシスの検出は、それがインシュリン投与その他の管理法における変更の必要性を示す場合が多いという点で有用である。サンプル中のケトン体の存在または濃度を測定する一つの手法は、そのサンプルについて比色定量アッセイを行うというものであった。例えば、液体サンプルと接触すると色変化を生じる指示試薬組成物とそのサンプルとを接触させることで、ケトン体の存在または濃度を測定することが知られている(例えば、米国特許第4803158号、同5326697号、同5510245号および同5190863号参照)。
【0005】
ケトン体についての電流滴定アッセイも用いられている(例えば、1998年10月16日出願のPCT/US98/21815およびBatchelor, et al., Amperometric Assay for the Ketone Body Hydroxybutyrate, Analytic Chimica Acta. 289-294 (1989)参照)。これらのアッセイは、3−HBAの酸化を触媒する酵素、酸化可能な形態の補因子、および例えばキノン類などの酸化剤を利用するものである。
【発明の開示】
【0006】
本発明のバイオセンサーと方法によってユーザーは、グルコース検査にも使用される電流滴定計で血中ケトンを調べることが可能となる。本発明のバイオセンサーテストストリップは、市販の電流滴定グルコース測定センサーと適合するものである。そのテストストリップは、サンプル中の3−ヒドロキシ酪酸(以下、「3−HBA」)レベルを指示する電気出力信号を発生させる上で有効な形でサンプルと反応性である試薬を含む。その試薬は、フェリシアン化物塩、サンプル中の3−HBAの酸化を触媒する上で有効な触媒量の第1の酵素、その第1の酵素に対応するメディエータまたは補因子、および還元型の補因子の電気化学的酸化を触媒する上で有効な触媒量の第2の酵素を含む。
【0007】
本発明のテストストリップは、互いに絶縁された少なくとも2つの導電路を有する。各導電路は、前記試薬と電気的に接触するようになっている。導電路の一方は、試薬からの電子伝達を受け入れ、そこで電子伝達の量がサンプル中の3−HBAレベルを指示する。
【0008】
市販の電流滴定グルコース測定センサーと適合する、サンプル中の3−HBAレベルを指示する情報を決定する方法も提供される。その方法は、フェリシアン化物塩、サンプル中の3−HBAの酸化を触媒するのに有効な触媒量の第1の酵素、前記第1の酵素に対応する補因子、および還元型の前記補因子の電気化学的酸化を触媒する触媒量の第2の酵素を含む試薬とサンプルとを反応させる段階を有する。その試薬は、サンプル中の3−HBAレベルを指示する電気的出力を生ずる。次にその電気的出力を測定し、測定された電気的出力を含む情報を用いてサンプル中の3−HBAレベルを求める。
【0009】
さらに本発明は、サンプル中の3−HBAレベルを指示する情報を決定する方法を具体化する。その方法は、作用電極および対極ならびに、それらの電極と連通しており、フェリシアン化物塩、流体サンプル中の3−HBAの酸化を触媒する上で有効な触媒量の第1の酵素、前記第1の酵素に対応する補因子、および還元型の前記補因子の電気化学的酸化を触媒する上で有効な触媒量の第2の酵素を含む試薬を有するセンサーを準備する段階を有する。前記試薬を流体サンプルと接触させ、流体サンプル中の3−HBAレベルを指示する試薬から電気的出力を発生させるだけの直流電位差を電極間に印加する。
【0010】
当業者であれば、以下の詳細な説明および現在わかっている本発明を実施する上での最良の形態を例示する好ましい実施形態を考慮することで、本発明の別の特徴および利点が明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
電気化学の分野は、多くの金属、金属イオンおよび共役分子が電子を容易に受容および/または放出する現象に基づいたものである。化合物は、その化合物が電子を放出または受容する可能性が等しいエネルギーレベルである標準電位を有する。化合物が酸化されるか還元されるかは、その化合物に加わる電位がそれの標準電位より大きいか小さいかによって決まる。本発明は、電位を印加し、移動する電子を電流として集める電流滴定と称される電気化学的方法に基づいたものである。
【0012】
ヘキサシアノ鉄(III)酸塩をメディエータとして用い、サンプル中の3−HBAレベルを指示する電気出力信号を発生させる電流滴定バイオセンサーテストストリップに組み込むことができることが発見された。3−HBA用テストストリップでのメディエータとしてのヘキサシアノ鉄(III)酸塩の使用は、対応するテストストリップが既存の電流滴定グルコース計と適合し、ケトン類とグルコースを1個の計器で試験することが可能となることから有利である。本明細書および特許請求の範囲で使用されるメディエータという用語は、電気化学的な可逆的酸化−還元反応をすることができる酸化剤を含むものである。酸化型のメディエータは、酵素、アナライト(またはアナライト反応から生成する補因子)および酸化型のメディエータが関与する反応から1以上の電子を受容できるものでなければならない。
【0013】
これらのメディエータは、対象とするサンプル中の3−HBAレベルを指示する電気的出力を生じる3−HBAなどのアナライト用の電流滴定バイオセンサーテストストリップの製造に用いることができる。テストストリップは、全血、血清、血漿などの生体サンプルを受容するように形成する。テストストリップは、メディエータ、サンプル中の3−HBAの酸化を触媒する上で有効な触媒量の第1の酵素、前記第1の酵素に対応する補因子および還元型の前記補因子の電気化学的酸化を触媒する上で有効な触媒量の第2の酵素を含む試薬をもっている。
【0014】
試薬組成物は、サンプル中の3−ヒドロキシ酪酸(以下、「3−HBA」)レベルを決定するバイオセンサーテストストリップ装置に組み込む。理論に拘束されるものではないが、試薬組成物は2元反応機構で3−HBAと反応するものと考えられる。第1の反応には、サンプル中の3−HBAの実質的な酸化が関与し、第2の反応には、第1の反応から生じた1以上の還元型反応生成物の電気化学的酸化が関与する。電気化学的酸化によって電流が生じ、その強さが血液サンプル中の3−HBA量を指示する。試薬組成物には、メディエータであるフェリシアン化物、酵素である3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼ(それぞれ、前記反応の一方を触媒する)ならびに補因子NADが含まれる。従って、サンプル中の3−HBAの存在または濃度に関するアッセイでは、以下の反応図式に示したように、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼが、順に反応する。
【0015】
3−HBA+NAD→アセト酢酸+NADH+H (1)
NADH+フェリシアン化物→NAD+フェロシアン化物 (2)
ここで、(1)の反応を3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼが触媒し、(2)の反応をジアホラーゼが触媒する。
【0016】
この原理を使用すると、アナライト3−HBAを含むサンプルを試薬に加えたとき、アナライトは酸化され、酸化型の補因子が還元される。この補因子は次に、第2の酵素と相互作用し、酸化型メディエータが還元される。その反応を、アナライト濃度を正確に決定するのにそれ以上時間が必要ないところまで進行させる。
【0017】
反応完了後、電源(例:電池)によって、作用電極と対極の間に電位差を印加する。電位差を印加する際、対極での酸化型メディエータの量および電位差は、作用電極表面での還元型メディエータの拡散律速的電気酸化を起こすのに充分なものでなければならない。電流測定計で、作用電極表面での還元型メディエータの酸化によって生じた拡散律速電流を測定し、得られた電流測定値をサンプル中の3−HBA濃度に関係付ける。
【0018】
従って、本発明の試薬を用いるテストストリップおよび方法により、ユーザーは、血中3−HBAレベルを決定する簡便かつ容易な方法が得られる。このテストストリップおよび方法は、ユーザーが血糖検査用および3−HBA検査用に別個の装置を購入または使用しなければならないという短所を実質的になくすものである。前記テストストリップ装置は、クリスモア(Crismore)らに対する米国特許第5997817(その開示内容は、参照により本明細書に組み入れられる)に記載のテストストリップと同様の構成を有する。しかしながら、本発明のテストストリップが、本明細書の開示の範囲を逸脱しない限りにおいて、ポルマン(Pollmann)らに対する米国特許第5288636号およびプリチャードら(Pritchard)に対する同5762770号に開示のバイオセンサーならびに非常に多くの市販のグルコース測定センサーの構成と同様であることが可能なことは明らかである。
【0019】
図1〜2について具体的に説明すると、本発明のバイオセンサーテストストリップには、第1の絶縁基板1、第2の絶縁基板7、基板1、7間に位置する導電路5、6、検査試薬12、検査試薬12とほぼ位置を合せて配置された概して親水性のフィルム25およびフィルム25を覆うように位置する天板13がある。後述するように、試薬12は、本発明の試薬組成物を含む。さらに、テストストリップは材料のロールから製造される。従って、テストストリップを構築する上での材料の選択では、ロール加工できるように充分な可撓性を有するが、最終のテストストリップに有用な剛性を与えるのに充分な硬さを有する材料を使用する必要がある。
【0020】
第1の基板1には、導電路5、6を支持する第1の表面22と反対側の第2の表面23がある(図1参照)。第1の基板1にはさらに、凹部2、切欠部3、ならびに第1および第2の表面22と23間に延びる通気孔4がある。基板1は、非常に多様な絶縁材料から構築することができる。望ましい電気的および構造的特性を提供する絶縁材料の例としては、ビニルポリマー類、ポリイミド類、ポリエステル類およびスチレン系材料などがあるが、これらに限定されるものではない。第1の絶縁基板1は、デュポン社(DuPont; 3411 Silverside Road, PO Box 15391, Wilmington, Delaware 19850)から販売されているポリエステルである厚さ約0.18mm(7ミル)のMELINEX(登録商標)329プラスチックである。
【0021】
図1に示したように、導電路5および6は、第1の絶縁基板1の第1の表面22上にある。導電路5は作用電極であることができ、導電路6は対極であることができる。導電路5、6は、導電性材料から構成されている。具体的には導電路は、パラジウム、白金、金、炭素およびチタンから構築することができる。導電路6は、パラジウム、白金、金、銀、銀含有合金、ニッケルクロム合金、炭素、チタンおよび銅から構築することができる。
【0022】
導電路5および6は、ポリイミドまたはポリエステルなどの絶縁性裏材上に析出させて、テストストリップの取り扱いおよび製造時における電極材料の破壊の可能性を減らす。そのような導電路の例としては、米国コネチカット州TECHNI-METから金、パラジウムまたは白金で予めコーティングされて入手可能な日本の宇部興産からのポリイミドUPILEX上の5Ω/□未満の表面抵抗を有するパラジウムコーティングがある。
【0023】
導電路5および6は、バイオセンサーテストストリップの電極となる。それらの電極は、一方の電極での電気化学的事象が他方の電極での電気化学的事象を妨害しないように十分に離れていなければならない。電極5および6間の距離は、約1.2mmである。
【0024】
図1に示したテストストリップでは、導電路5が作用電極となり、導電路6が対極もしくは参照電極となる。導電路6は、銀/塩化銀などの代表的な参照電極材料で製造されている場合には参照電極となる。導電路5は、パラジウム製の作用電極であり、導電路6は、やはりパラジウム製であって、作用電極と実質的に同じ大きさの対極である。
【0025】
テストストリップにおいて導電路6と通気孔4との間に追加の導電路が配置されている3電極配置も可能である。3電極配置では、導電路5が作用電極となり、導電路6が対極となり、導電路6と通気孔4の間の第3の電極が参照電極となる。
【0026】
導電路5、6はテストストリップの電極となる。導電路5、6は、リール(不図示)から巻き出し、予め約1.5mm幅にカットする。次に導電路5、6を、基板1の第1の表面22と貼り合わせる。導電路5、6を、基板1の表面22上に置いたユピレックス(Upilex)裏材(Courtalds−Andus Performance Filmsareから販売)上に乗せて、ユピレックス裏材が表面22に隣接するようにする。直流電位励起の際、還元型メディエータは主に作用電極で酸化され、対極は主として回路を完成させる働きを行う。
【0027】
第2の基板7は導電路5、6に重なっている。第2の基板7は、第1の表面8と導電路5、6に向き合う第2の表面9を有する。図1に示したように、第2の基板7は、第1および第2の開口10、11を有するように形成されている。第1の開口10は、テストストリップの試薬12と混合した後におけるサンプルの何らかの電気的特性を測定する計器(不図示)との電気的接続を得るため、導電路5、6の一部を露出させる。第2の開口11には、キャピラリーテストチャンバの周囲を定める縁部がある。さらに、第1の基板の凹部2とほぼ位置を合せて配置された凹部19が、第1の開口11から第2の基板7の縁部まで延びている。第2の基板7は、ホットメルト接着剤などの接着剤によって、第1の基板1および導電路5、6と貼り付けられている。そのような接着剤の例としては、DYNAPOL(登録商標)S-1358接着剤(Huls America, Inc., Somerset, NJ, USから販売)があるが、これに限定されるものではない。
【0028】
図3および4に示したように、天板13は第1の表面8の一部および第2の開口11を覆っている。天板13には、第1の表面16ならびに第2の基板7の第1の表面8に貼り合わされた第2の表面17がある。天板13はさらに、第2の基板7の第2の開口11とほぼ位置を合せて配置された窓18を有する。窓18は、導電路5の全幅および導電路6の幅の少なくとも約10%を窓18が覆うような寸法および位置を有する。さらに、窓18が透明に維持されるように、実質的に不透明なインクをパターン27で第1の表面16上に印刷する。再度図1について説明すると、天板13には、凹部14および窓18に形成された切欠部15があり、それらの形状および位置は、第1の基板の凹部2および切欠部3とほぼ位置が合うようになっている。切欠部2、15は、底辺の長さ約0.6〜1.3mmおよび頂点の角度約70〜110°となるように該当する縁部から切り取ったほぼ三角形の切り込みと定義することができる。切欠部の寸法および形状は、本明細書の開示に従って変えることが可能であることは明らかであろう。
【0029】
天板13は、厚さ約2ミル(0.05mm)〜6ミル(0.15mm)の透明もしくは半透明のポリエステルホイルなどのプラスチック材料から構築することができる。天板13は、感圧接着剤をコートしてあるMELINEX(登録商標)351(不透明とするために二酸化チタンを含んだポリエステル)から形成されている。好適な接着剤の例としては、3M 9458アクリル接着剤(3M, Identification and Converter Systems Division, St. Paul, MN, USから販売)があるが、これに限定されるものではない。
【0030】
さらに天板13は、本来的に親水性であるか、あるいは天板13が、第2の基板7の方に向いた親水性表面を有するように改質されているものである。表面17は、表面17の接着剤に貼り合わされた親水性フィルム25によって改質されている。親水性フィルム25は、例えば洗剤を含むコーティング剤または親水性ポリマーの光架橋マトリックスでフィルムをコーティングすることによって親水性とされる。そのフィルムはまた、プラズマ処理またはスルホニル基もしくは窒素基による表面のプラズマ誘導共有結合的改質によって改質することもできる。親水性フィルム25は、VITEL(The Goodyear Tire & Rubber Co., Akron, OH, US)およびRHODAPEX(登録商標)(Rhodia, Cranbury, NJ, US)界面活性剤の混合物で、厚さ約4ミル(0.1mm)でコーティングする。
【0031】
キャピラリーテストチャンバは、親水性フィルム25が貼り付けられた天板13の第2の表面17、第2の基板7の第2の開口11の縁部および基板1の第1の表面22によって定められる。テストチャンバは、導電路5、6の露出表面に試薬12を塗布するため、導電路5、6の一部を露出させるように配置されている。そのキャピラリーテストチャンバの長さおよび幅は開口11の長さおよび幅によって決定され、テストチャンバの高さは第2の基板7の厚さによって決定される。テストチャンバは、一辺約3.2mmおよび他方の辺約6.7mmの長方形に形成される。導電路5、6が露出する程度によって、各電極の表面積が決まる。作用電極および対極はそれぞれ、約5mmという実質的に同等の表面積を有する。しかしながら、導電路5、6の露出程度は、第2の開口11が各導電路5、6の幅の少なくとも約10%を露出させる限りにおいて変動可能であることは明らかであろう。
【0032】
3−HBA用の試薬12を、それが作用電極5を覆うようにテストチャンバ内に配置する。試薬12は、テストチャンバの床表面全体にわたってほぼ均一な厚さを有するフィルムとして設ける。そのとき試薬12はテストチャンバの内部に親水性表面を向けることになる。試薬12は第1の基板1の通気孔4とほぼ位置を合せた通気口を有するように形成される(図3参照)。通気孔および通気口は、約1.8×0.5mmの寸法をもっており、テストチャンバから空気を逃がすことができる。
【0033】
本発明の試薬12を組み込んだテストストリップは、米国特許第5997817号(この開示内容は、参照によって本明細書に組み入れられるものとする)に記載の方法によって製造される。その製造方法の変法および改良法が想到されるが、それは本開示の範囲を逸脱するものではないことが想到される。
【0034】
試薬12は、ヒト血液サンプル中の3−HBA測定用に調製される。試薬12は、サンプル中の3−HBAレベルを指示する電気出力信号を発生させる上で有効な形でサンプルと反応し得る。試薬12は、メディエータ、複数の酵素および補因子を含む。試薬12はさらに、必要に応じて、耐久性を与え、親水性を与えるフィルム形成剤を含む。別段の断りがない限り、以下に挙げる成分の濃度はいずれも、試薬をテストストリップに付着および乾燥する以前の湿った試薬での所定の物質の濃度を指すことは明らかであろう。
【0035】
前述のように、試薬12での使用に好適なメディエータは、電気化学的な可逆的酸化−還元反応をすることができるものである。酸化型のメディエータは、酵素、アナライト(またはアナライト反応から生成する補因子)および酸化型メディエータが関与する反応から、少なくとも1個の電子を受け取ることができるものでなければならない。メディエータは、例えばヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムなどのヘキサシアノ鉄(III)酸塩である(以下、「フェリシアン化物」)。フェリシアン化物はまたグルコース測定センサーのテストストリップにも組み込まれることから、本発明の3−HBAテストストリップは、対応するグルコーステストストリップと同じ機器で機能するので有益である。対応するグルコーステストストリップの例は、米国特許第5997817号(その開示内容は、参照により本明細書に組み入れられる)に記載されている。
【0036】
測定したいアナライトの濃度範囲ならびに試薬およびサンプルを介したメディエータの拡散特性が、試薬中のメディエータの必要量を決定する。具体的には、還元型メディエータの量は、電気還元時に生じる電流が作用電極表面での酸化型メディエータの還元によって制限されるようにする上で十分なものでなければならない。一般に、メディエータの溶解度および過剰のメディエータが生成物の安定性に与える影響によって、メディエータ濃度の上限が決まる。3−HBA分析用の試薬は、容量約3.5〜7マイクロリットル(μL)のヒト全血のサンプル中の3−HBAレベルを測定するのに、329.26mg/mmolとして、約112.8mM〜56.4mMのフェリシアン化物を含む。テストストリップ上には、7μLより多いサンプルを使うことができるが、溶解試薬中のフェリシアン化物の濃度はテストチャンバに入るサンプルの量のみに依存することは明らかであろう。しかしながら、フェリシアン化物の濃度は、テストチャンバに入るヒト全血の容量に応じて変動することも明らかであろう。
【0037】
本発明の3−HBA試験試薬はさらに、酵素、アナライトおよび酸化型メディエータが関与する反応を触媒するのに充分な種類および充分な量の複数の酵素を含む。試薬での使用に好適な1つの酵素は、サンプル中での3−HBAの酸化を触媒する上で有効であり、第2の酵素は還元型補因子の電気化学的酸化を触媒する上で有効である。第1の酵素はデヒドロゲナーゼであり、第2の酵素はジアホラーゼである。より詳細には、第1の酵素は、市販の(Toyobo Co., Ltd. Biochemical Operations Department, Osaka, JapanおよびRoche Diagnostics Corporation, Roche Molecular Biochemicals, Indianapolis, IN, USから)3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼである。ジアホラーゼは市販されている(Roche Diagnostics Corporation, Roche Molecular Biochemicals, Indianapolis, IN, USから)。
【0038】
3−HBA分析用に設計されたテストストリップの場合、試薬1リットル当たり約0.20〜20×10単位の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼおよび約0.1〜10×10単位のジアホラーゼが含まれ、反応は最低約15秒進行させてから、電位を印加する。より好ましくはその反応を最低約50秒進行させてから、電位を印加する。しかしながら、本明細書の開示の範囲を逸脱しない限りにおいて、試薬に含まれる酵素の量は、所望の安定性、電極の幾何形状および試薬フィルムの物性に応じて変動可能であることは明らかであろう。
【0039】
さらに試験試薬は、酵素およびメディエータと共働する補因子を含む。好適な補因子の例には、NAD、NADP、NADH、NADPHおよびフェナジンメトサルフェートなどがあるが、これらに限定されるものではない。好ましくは補因子はNADである。NADは市販されている(Roche Diagnostics Corporation, Roche Molecular Biochemicals, Indianapolis, IN, USから)。3−HBA分析用の試薬には、容量約3.5〜7マイクロリットル(μL)のヒト全血サンプル中の3−HBAレベルを測定する場合、663.44g/molとして、約21.1μM〜43μMのNADが含まれる。7μLより多いサンプルをテストストリップに適用することができるが、溶解試薬中のNADの濃度はテストチャンバに入るサンプルの量にのみ依存することは明らかであろう。しかしながら、NADの濃度はテストチャンバに入るヒト全血の容量に応じて変動することも明らかであろう。
【0040】
メディエータの溶解性を向上させるため、各種「充填剤」物質を試薬に含有させることができる。本明細書において充填剤とは、試薬調合時に試薬マトリックスを通って均一に分散する顕微鏡的粒径の不溶性粒子状物と定義される。好ましい充填剤は、印加した電位で、あるいはメディエータの電位との関係で電子の受容や供与を行わない金属酸化物である。試薬12には、約0.2〜2.0%(湿重量:湿重量)の量で存在する二酸化チタンなどの充填剤が含まれ、好ましくは約0.22%(湿重量:湿重量)である。
【0041】
充填剤を用いる場合、通常ポリマーなどの物質を試薬に含ませて、試薬12の粘度を上昇させる。試薬12には、ポリマーNATROSOL 250K(ヒドロキシエチルセルロース、Aqualon Oil Field Chemicals, Houston, TX, USから販売)を含ませる。NATROSOL 250Kの量は約0.05〜0.5%(湿重量:湿重量)の範囲で変動し得るものであり、好ましい濃度は約0.19%(湿重量:湿重量)である。各種の市販の増粘剤を本発明に従って用いることができることは明らかであろう。
【0042】
親水性ポリマーは、試薬に対して耐久性と親水性の両方を与えることができる。許容されるポリマーの例をいくつか挙げると、ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキサイド、ポリビニル−アルコール、ポリビニル−ピロリジン、ポリスチレンスルホネート、ポリ酢酸ビニルおよび酢酸ビニルのマイクロエマルションなどがあるが、これらに限定されるものではない。平均分子量約100〜900キロダルトンのポリエチレンオキサイド(Union Carbide Corporation, Danbury, CT, US)は約0.2%〜2%(湿重量:湿重量)の濃度で使用する。試薬12には、約0.59%(湿重量:湿重量)で、平均分子量約300キロダルトンのポリエチレンオキサイドを含ませる。
【0043】
界面活性剤は通常、表面張力を調節(低下)するために試薬に含ませる。許容される洗剤の例を挙げると、DONS(スルホコハク酸ジオクチルナトリウム)、分岐−ノニルフェノキシポリ(エチレン−オキシ)エタノール(Igepal CO-630としてRhone-Poulenc, Collegeville, PAから、またはTRITON X-100(登録商標)としてRoche Diagnostics, Biochemicals, Indianapolis, INから販売)があるが、これらに限定されるものではない。試薬中の洗剤の品質および種類は、表面張力を約20〜70ダイン/cmまで低下させるのに充分なものとする。サンプルを血液とする場合、洗剤の全体濃度を約0.3%未満のレベル(洗剤の種類に依存する)に制限することで、細胞の望ましくない溶解を回避するべきである。グルコースデヒドロゲナーゼを用いて3−HBAのアッセイを行うためのテストストリップの場合、TRITON X-100(登録商標)を、約0.05%(湿重量:湿重量)以下の濃度で存在させるが、約0.035%(湿重量:湿重量)が好ましい。
【0044】
試薬12はバッファーを含むことができる。バッファーは、酵素の安定性および活性がともに至適となるpHを提供および維持するのに充分な種類および量とする。酵素の活性とは、アナライトとメディエータの間、または複数酵素試薬の場合はアナライトとアナライト誘導体の間での反応を酵素が触媒できる能力を指す。酵素の安定性とは、経時的および試薬が熱および湿気などの各種形態のストレスに曝された場合におけるその活性の保存性を指す。さらにバッファーは、還元型メディエータより低い酸化電位を有するものであってはならない。好適なバッファーの例としては、pHが約7.8〜9.0、最も好ましくは約8.7であるピロリン酸塩類などがあるが、それに限定されるものではない。好適なピロリン酸塩類の例としては、ピロリン酸二ナトリウムおよびピロリン酸四ナトリウムなどがあるが、それらに限定されるものではない。酵素活性に至適なpHがサンプルのpHと大きく異なる場合、バッファーの濃度は、再水和試薬およびサンプルの最終pHを所望のレベルとするのに充分なものでなければならない。通常使用されるバッファー濃度は、試薬中で約50〜200mMである。好ましい濃度は約53.6mMである。
【0045】
試薬はまた、各種成分を安定化させる物質を含むこともできる。本発明の試薬で補因子と組み合わせる酵素用の許容される安定剤は、フラビンモノヌクレオチド、アデノシン二リン酸、マグネシウムイオン、乳糖、トレハロースおよびラフィノースである。試薬12は、約0.5〜5%(湿重量:湿重量)、好ましくは約0.68%(湿重量:湿重量)の濃度でラフィノースなどの安定剤を含む。
【0046】
乾燥試薬フィルムの厚さは、固有の化学特性を加味して、ヘマトクリット変動による妨害に対する系の感受性が軽減されるようなものとする。フィルムの厚さ(湿った試薬分配容量の分配表面積に対する比によって測定)は、試薬約10μLが面積約22.5mmに分配されるようなものとする。以下に記載の試薬からは、主要なポリマーとしてポリエチレンオキサイドを用いることにより、またフィルム厚と組み合わせて、ヘマトクリット変動に対する感受性が低いテストストリップが得られる。
【0047】
アナライトである3−HBAを含むサンプルを試薬に加えると、アナライトは酸化され、酸化型補因子は還元される。次にその補因子は第2の酵素と相互作用し、酸化型メディエータが還元される。その反応は、アナライトおよび酸化型メディエータの利用がアナライト濃度の正確な測定にそれ以上の時間が必要なくなるレベルに到達する時点まで進行させる。このインキュベーション時間中、電極に小さい交流電位を印加して、インピーダンスのシフトによる妨害の程度を確認することが必要な場合がある(例えば、国際公開番号WO99/32881として1999年7月1日に公開された国際特許出願PCT/US98/27203(その開示内容は、参照によって本明細書に明瞭に組み込まれるものとする)参照)。
【0048】
アナライトの酸化および酸化型補因子の還元を完結させる。本明細書および特許請求の範囲を通じて使用される完結という用語は、アナライト、補因子および酵素が関与する反応が、1以上の還元反応生成物を生成する上で十分であり、1以上の還元型反応生成物、酵素およびメディエータが関与する反応が、作用電極表面でメディエータの酸化によって発生する拡散律速電流に対してアナライト濃度を関係付ける上で十分であることと定義される。
【0049】
反応完結後、作用電極と対極の間に電位差を印加して、作用電極表面で還元型メディエータの拡散律速電気酸化を生じさせる。電流測定計により、作用電極表面での還元型メディエータの酸化によって生じる拡散律速電流を測定する。測定電流は、以下の要件が満足されている場合、サンプル中の3−HBAの濃度と正確に関係付けることができる。
【0050】
1.還元型メディエータの酸化速度が、作用電極表面への還元型メディエータの拡散速度によって支配される。
【0051】
2.発生電流が、作用電極表面での還元型メディエータの酸化によって制限される。
【0052】
本発明のテストストリップは、可逆性の高いメディエータを含む試薬12を用い、拡散律速電気酸化時に発生する電流が作用電極表面での還元型メディエータの酸化によって制限されるように充分な量で酸化型メディエータを試薬に含ませることによって、上記の要件を満足する。電気酸化時に発生する電流が作用電極表面での還元型メディエータの酸化によって制限されるようにするには、対極表面での酸化型メディエータの量は、常に作用電極表面での還元型の量より多くなければならない。
【0053】
従って、本発明の試薬を用いるテストストリップおよび方法は、血液中の3−HBAレベル測定のための簡便かつ容易な手段をユーザーに提供するものである。そのテストストリップおよび方法は、ユーザーが血糖および3−HBAを検査するのに別個の機器を購入たり使用したりしなければならないという欠点を実質的になくすものである。
【0054】
酵素であるヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼならびにメディエータであるフェリシアン化物を利用して3−HBA測定試薬1リットルを製造するプロトコールを以下に示す。
【0055】
段階1:約30分間以上にわたり毎分約400回転(rpm)以上の速度で回転混合機および撹拌羽根を用いて混和しながら、脱イオン水430gの表面にNATROSOL K 1.90gを加えることで、NATROSOL(250K)の脱イオン水溶液を調製する。
【0056】
段階2:約60分間以上にわたり約400rpm以上の速度で混合しながら段階1の溶液表面に粉末を徐々に加えることで、その溶液にポリエチレンオキサイド(平均分子量300キロダルトン)(Union Carbide 750NF)6.1gを分散させる。
【0057】
段階3:段階2の混合物に、10分間以上にわたり400rpm以上の速度で混合しながら溶液表面に粉末を徐々に加えることで、ラフィノース6.8gを分散させる。
【0058】
段階4:20分間以上にわたり400rpmの速度で混合しながら、ピロリン酸二ナトリウム(無水)58.8gおよびピロリン酸四ナトリウム(無水)73.1gを加えることで、段階3の混合物を緩衝する。最終pHが8.7であることを確認する。この半調製物(sub-build)を、以下において「ポリマーマトリックス」と称する。
【0059】
段階5:20分間以上にわたり600rpm以上の速度で回転混合機および撹拌羽根を用いて混合しながら、脱イオン水377.8gに二酸化チタン粉末2.3gを分散させることで、二酸化チタン懸濁液を調製する。その半調製物を、以下において「充填剤懸濁液」と称する。
【0060】
段階6:段階5の充填剤懸濁液を、段階4のポリマーマトリックスと混合した。この混合物を混合段階の前またはその途中で、粗い(200ミクロン)メッシュで充填剤懸濁液を濾過して、大粒径で未分散の二酸化チタン分子を除去することで、その混合物を予備調製する。
【0061】
段階7:次に、段階6の試薬にフェリシアン化カリ13.3gを加える。試薬を、20分間以上にわたり、あるいは最終試薬調製(段階13)の準備ができるまで、500rpm以上で混合する。このマトリックスを、以下において「試薬基材」と称する。
【0062】
段階8:撹拌プレートおよび磁気攪拌子を用いて200rpm以上の速度で撹拌しながら、β−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ酵素200000単位を脱イオン水100g中に分散させることで、別の溶液を調製する。
【0063】
段階9:段階8の溶液に、ジアホラーゼ酵素200000単位を加え、10分間混合する。その溶液を、以下において「酵素溶液」と称する。得られた溶液は、最終試薬に組み入れる(段階13)準備ができるまで、約4℃〜10℃で冷蔵する。
【0064】
段階10:塩化マグネシウム・6水和物96mgを脱イオン水50gに溶解させることで、別の溶液を調製する。
【0065】
段階11:段階10の溶液に、200rpmで5分間混合しながら、補因子NAD200mgを溶解させる。
【0066】
段階12:段階11の溶液に、200rpmで5分間混合しながら、フラビンモノヌクレオチド145mgを溶かす。それを以下において、「補因子溶液」と称する。補因子溶液は、最終試薬に組み入れる(段階13)準備ができるまで、約4℃〜10℃で冷蔵する。
【0067】
段階13:段階7の試薬基材に段階9の酵素溶液および段階12の補因子溶液を加えることで、最終試薬を調製した。最終試薬を、15分間以上にわたり400rpmの低速で撹拌した。
【0068】
段階14:Triton X-100 0.35gを加え、15分間以上400rpmで撹拌することで最終試薬を完成させてから、使用に供する。
【0069】
本発明のテストストリップは、米国特許第5997817号(その開示内容は、参照によって本明細書に組み込まれる)に記載の方法によって製造される。テストストリップに対して、3−HBAを測定するために、上記プロトコールによって製造した試薬10μLを、テストチャンバの電極を有する表面に加えた。試薬の量は約3〜10μLで変動可能であり、好ましい使用量は10μLである。この試薬量は、電極の表面領域を実質的に覆うものである。得られた試薬フィルムは、3−HBA(ヒト全血サンプル由来)の酸化およびフェリシアン化物の還元を触媒して、約60秒以内の初期インキュベーション(電位印加の前)後の3−HBA濃度を正確かつ高精度で測定可能とするのに充分なフェリシアン化物および酵素(β−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼおよびジアホラーゼ)を含む。
【0070】
テストチャンバの電極を有する表面を乾燥した時に均一に分布した均質試薬層を確実に得るために、試薬をつける直前にその表面を、約0.635μm(1/40000インチ)のギャップで150ワットのコロナアークで処理する。そのためには、約6.5m/分のプロセスラインに材料を通す。この処理によって、標的領域の表面エネルギーが上昇して、乾燥前の湿った試薬の展着が促進される。コロナアークを最長約5分間、より好ましくは約45秒未満当ててから、材料上への試薬の分配を行う。アークを当てた後試薬分配の前に、試薬の付着が望ましくないスペーサー層の表面でコロナ処理(の程度)を減らす。
【0071】
このコロナ消散(corona dissipation)は、水がスペーサー層表面と接触するようになるが、基材層の電極を有する表面とは接触しないように、脱イオン水の膜を設けることで行う。スペーサー層表面に設ける水の膜は、材料が試薬分配領域に達する前に、赤外線または機械式対流法によって乾燥するのに充分な程度の薄さのものである。
【0072】
次に、約70℃に加熱することで試薬を乾燥させる。乾燥によって、試薬の含水量の少なくとも約98%が除去される。残留水分は、後に最終包装装置で乾燥する際に痕跡量レベルまで減少する。得られた乾燥試薬フィルムは、1g当たり1000〜5000単位の酵素活性を有するものと考えられる。
【0073】
本発明の試薬100gを形成するのに使用される成分の例を以下の表1に挙げるが、これらに限定されるものではない。
【表1】

各個別のテストストリップは、以下のものと共に用いる。
【0074】
1.作用電極および対極と電気的に接続され、作用電極と対極の間に作用電極表面で還元型メディエータの拡散律速電気酸化を起こすのに充分な電位差を供給することができる電源;ならびに
2.作用電極および対極と電気的に接続し、上記電位差を印加することで還元型メディエータの酸化によって生じる拡散律速電流を測定することができる測定計器。
【0075】
この測定計器は通常、アナライト濃度を与えて視覚的に表示する後述のアルゴリズムを電流測定に適用するように作られている。このような電源、測定計器およびバイオセンサー系は、米国特許第4963814号、同4999632号;同4999582号および同5243516号、ならびにWO99/32881(これらの開示内容は、参照によって本明細書に明瞭に組み込まれる)に記載されている。
【0076】
本発明の試薬を含むテストストリップを用いて、以下の段階を行うことにより、流体サンプル中のアナライト濃度を測定することができる。
【0077】
a.実質的に同面積の作用電極と対極を実質的に覆う試薬と流体サンプルとを接触させる段階;
b.アナライトと酸化型メディエータとの間の反応を完結させ、インキュベーション時の内部較正用に中ないし高周波数(100Hz+)の低(強さ57mV)交流電位を用いることで、バックグラウンドインピーダンスを測定する段階;
c.次に、作用電極表面で還元型メディエータの拡散律速電気酸化を起こすのに充分な直流電位差を、電極間に印加する段階;
d.その後、生じた拡散律速電流を測定する段階;ならびに
e.電流測定値を流体中のアナライト濃度に関係付ける段階。
【0078】
多くの3−HBA含有流体を分析することができる。例えば、全血、血清、尿および脳脊髄液などのヒト体液中の3−HBAを測定することができる。さらに、食品、発酵製品および環境汚染物質を含む可能性のある環境物質中で認められる3−HBAを測定することができる。
【0079】
ヒト体液、特に全血で認められるアナライトを測定する場合、電極間に印加する電位差は、約500mV以下でなければならない。電極間に約500mVを超える電位差を印加すると、作用電極表面の酸化(パラジウムの場合)および一部の血液成分の酸化が許容できないものとなって、電流をアナライト濃度に正確・精密に関係付けることができなくなる場合がある。酸化型メディエータがフェリシアン化物である全血サンプル中の3−HBAのアッセイの場合、約150mV〜500mVの電位差を電極間に印加して、作用電極表面での還元型フェリシアン化物の拡散律速電気酸化を行うことができる。電極間には、約300mVの電位差を印加する。
【0080】
還元型メディエータの酸化によって生じる電流は、電極間への電位差印加から約0.5秒〜30秒のいずれの時点でも測定可能である。約0.5秒未満では、拡散律速電流はまだ得られていない。約30秒後には、対流が顕著になることで、拡散律速電流の測定が妨害される。
【0081】
流体サンプルに由来するアナライトのアッセイ時に測定される電流は、電流測定計によるアルゴリズム適用によって、サンプル中のアナライト濃度に関係付けることができる。そのアルゴリズムは、以下の例で示すように簡単なものであることができる。
【0082】
[アナライト]=Ci7.5+d
式中、[アナライト]は、サンプル中の3−HBAアナライトの濃度を表し(mmol/L、図5参照);iは、電極間への電位差印加から9.0秒後に測定される電流(μA)であり;Cは直線の傾きであって、例えば試験Aでは0.483であり、試験Bでは0.528であり;dは軸切片であり、例えば試験Aでは-2.82であり、試験Bでは-1.23である。従って、試験AおよびBでの3−HBA濃度を以下のように求めた。
【0083】
試験A:[3−HBA]=電流×0.483−2.82
試験B:[3−HBA]=電流×0.528−1.23
既知濃度の3−HBAアナライトでの測定を行うことで、図5に示した較正曲線を得ることができる。この較正は、測定器の読取専用メモリー(ROM)キーに保存しておき、個々のロットのバイオセンサーに適用することができる。
【0084】
ヒト全血サンプルの3−HBAの分析方法においては、上記の試薬12に全血5μLを加える。反応を安定なところまで進行させて、安定な濃度のフェロシアン化物の安定な濃度を得る。その間に、強さ57mVで周波数2kHzの交流電流を印加して、バックグラウンドインピーダンスを測定する。全血サンプル添加から約50秒後に、直流電位差約300mVを電極間に印加して、作用電極表面でのフェロシアン化物のフェリシアン化物への酸化を行う。電極間への電位差印加から1秒〜9.0秒において、0.5秒間隔で電流測定を行う。その電流測定値を、血液サンプル中の3−HBA濃度に関係付ける。
【0085】
血液サンプルの3−HBAを測定するこの例では、電流測定は、単一の固定時間ではなく、各種時点(電位差印加から1秒〜7.5秒後)で行い(前述の通り)、得られるアルゴリズムは以下の式によって表される。
【0086】
[3−HBA]=C1i1+C2i2+C3i3+...Cnin+d
式中、i1は最初の測定時間(300mVの電位差印加から1秒後)で測定される電流であり;i2は2回目の測定時間(300mVの電位差印加から1.5秒後)で測定される電流であり;i3は3回目の測定時間(300mVの電位差印加から2秒後)で測定される電流であり;inは、n回目の測定時間(この例では、300mVの電位差印加から14番目の測定時間すなわち7.5秒後)で測定される電流であり;C1、C2、C3およびCnは、主要成分分析(Principle Components Analysis)または部分最小二乗法(Partial Least Squares)などの多変量回帰分析法から得られる係数であり;dは、回帰切片(3−HBA濃度単位)である。
【0087】
別法として、測定サンプル中の3−HBAの濃度は、ある時間間隔(例えば、300mVの電位差印加から1秒〜7.5秒)にわたって測定時間に対して電流iをプロットして得られる曲線を積算することで測定期間中に移動した総電荷を得ることによって求めることができる。移動した総電荷は、測定サンプル中の3−HBA濃度に正比例する。
【0088】
さらに3−HBA濃度測定値は、実際の測定時の環境温度と時間較正時の環境温度の間の差に関して補正することができる。例えば、3−HBAについての較正曲線を23℃の環境温度で得た場合、以下の式を用いることによって3−HBA測定値を補正する。
【0089】
補正後[3−HBA]=測定[3−HBA]×(1−K(T−23℃))
式中、Tは、サンプル測定時の環境温度(℃)であり;Kは、下記の回帰式から得られる定数である。
【0090】
Y=K(T−23)
Y=(23℃で測定した[3−HBA])−(Tで測定した[3−HBA])
Kの値を計算するには、複数の3−HBA濃度それぞれを、各種温度Tおよび23℃(基礎値)で測定器によって測定する。次に、T−23に関するYの線形回帰を行う。Kの値は、その回帰の傾きである。
【0091】
本発明のテストストリップを利用する本発明の方法によって、サンプルの3−HBA濃度を測定することができる。さらに、ヒト全血サンプルを測定する場合、ヘマトクリット効果による誤差は、約30〜55%のヘマトクリット範囲では有意性がない。
【0092】
以上、触媒量の酵素存在下に酸化されるアナライトおよび還元されるメディエータによって本発明を説明した。しかしながら、本発明、試薬および方法を用いて、触媒量の酵素(例:レダクターゼ)存在下にアナライトを還元し還元型メディエータを酸化する流体サンプル中のアナライト濃度を測定してもよい。アナライト、酵素および還元型メディエータが関与する反応が完結した後に、電極間に電位差を印加する。対極(この場合、カソードではなくアノード)での還元型メディエータの量および印加する電位差は、作用電極(この場合、アノードではなくカソード)表面での酸化型メディエータの拡散律速電気還元を起こすのに充分なものでなければならない。作用電極表面での酸化型メディエータの還元によって生じる拡散律速電流を、分析サンプル中のアナライト濃度と関係付ける。
【0093】
以上、ある種の好ましい実施形態を参照しながら本発明について詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲に記載および定義される本発明の範囲および精神の範囲内で、変更および改良が存在することは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】第1の絶縁基板、第1の絶縁基板上に乗るように形成された複数の導電路、前記導電路と位置を合せて配置された試験試薬、第2の絶縁基板、親水性コーティングおよび天板を有するストリップを示すテストストリップの分解斜視図である。
【図2】図1のテストストリップの斜視図である。
【図3】第1の絶縁基板と第2の絶縁基板の間における電極、試薬および親水性フィルムの相対的配置を示す、図2の28−28線での断面図である。
【図4】一体となってテストチャンバを定める天板、親水性フィルム、第2の基板の第2の開口の縁部および第1の絶縁基板ならびにテストチャンバ内に配置された試薬を示す、図2の29−29線での断面図である。
【図5】テストストリップの異なるロットについての較正曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の3−ヒドロキシ酪酸を検出するテストストリップ装置において、
基板;
前記基板上に配置された少なくとも1個の電極;ならびに
前記少なくとも1個の電極と連通している試薬であって、前記サンプル中の3−ヒドロキシ酪酸のレベルを指示する電気出力信号を発生させる上で有効な形で前記サンプルと反応性であり、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩、前記サンプル中の3−ヒドロキシ酪酸の酸化を触媒する上で有効な触媒量のヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、前記ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼに対応する補因子、および還元型の前記補因子の電気化学的酸化を触媒する上で有効な触媒量の第2の酵素を含んでなる乾燥試薬フィルムである試薬
を有することを特徴とする前記装置。
【請求項2】
前記第2の酵素がジアホラーゼである請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記補因子が、NAD、NADP、NADHおよびNADPHからなる群から選択される請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記補因子がNADである請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記ヘキサシアノ鉄(III)酸塩がヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムである請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記試薬がさらに充填剤を含む請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記充填剤が金属酸化物である請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記試薬がさらに、ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキサイド、ポリビニル−アルコール、ポリビニル−ピロリジン、ポリスチレンスルホネート、ポリ酢酸ビニルおよび酢酸ビニルのマイクロエマルションからなる群から選択されるポリマーを含む請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記試薬がさらに界面活性剤を含む請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記界面活性剤が、スルホコハク酸ジオクチルナトリウムおよび分岐−ノニルフェノキシポリ(エチレン−オキシ)エタノールからなる群から選択される請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記試薬がさらに無機バッファーを含む請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記バッファーがピロリン酸塩である請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記試薬がさらに、フラビンモノヌクレオチド、アデノシン二リン酸、マグネシウムイオン、乳糖、およびラフィノースからなる群から選択される安定剤を含む請求項1に記載の装置。
【請求項14】
サンプル中の3−ヒドロキシ酪酸のレベルを指示する情報を決定する方法において、
請求項1〜13のいずれか1項に記載のテストストリップ装置を準備する段階;
前記テストストリップ装置の試薬を前記流体サンプルと接触させる段階;ならびに
前記流体サンプル中の3−ヒドロキシ酪酸のレベルを指示する電気的出力を前記試薬から発生させるのに充分な直流電位差を、前記電極間に印加する段階
を有することを特徴とする方法。
【請求項15】
前記印加段階を、前記接触段階の少なくとも約15秒後に行う請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記印加段階を、前記接触段階の約50秒後に行う請求項15に記載の方法。
【請求項17】
アナライトおよび試薬のバックグラウンドインピーダンスを測定する段階をさらに有する請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−147638(P2007−147638A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2669(P2007−2669)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【分割の表示】特願2001−546953(P2001−546953)の分割
【原出願日】平成12年12月14日(2000.12.14)
【出願人】(591186073)ロシュ ダイアグノスティックス コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】