説明

電源装置、ステージ装置、露光装置

【課題】小型、軽量、安価で、高電力を発生することが可能な電源装置、ステージ装置、露光装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ドライバ22はFET1とFET2を高周波で交互にオン/オフさせることにより、コンデンサC3に蓄積された電荷をコンデンサC2に転送する。これによって、電源装置の出力電圧は、三相交流200Vを整流して得られる280Vの2倍の電圧(560V)になる。しかも、高周波でFET1とFET2をオン/オフさせているため、コンデンサC2の容量も小さくて済む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高電力を出力する電源装置、ステージ装置、及び露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電源装置として、高電力を出力可能な電源装置が求められている。例えば、露光装置では、ステージを移動させるためのモータ駆動用電源として、モータの移動速度の上昇、及びトルクの上昇に伴い、高電力(例えば、500V以上の高電圧、20A以上の高電流)を出力可能なものが求められている。以下、露光装置を例にして、従来技術について説明する。
【0003】
従来の露光装置におけるステージ駆動用モータの電源装置では、スイッチングレギュレータを用いた電源装置が用いられている。しかし、スイッチングレギュレータをステージ駆動用モータの電源装置に用いて、高電力を発生可能にするためには、電源装置の形状と重量がともに増大し、高価格化する。例えば、スイッチングレギュレータを用いた電源装置としては、電源装置の出力が1.5KW程度であっても、質量(重量に相当)が6Kgと記載されている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】ティーディーケイ株式会社ホームページ(http://www.tdk.co.jp/tjfx01/ja111_rkw.pdfの33、34頁:平成16年 8月9日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したように、スイッチングレギュレータを用いた電源装置は、駆動対象であるモータの大出力化や高精度化に伴い、モータに出力すべき電力(電流・電圧)が増大し、電源が大型化し、重量も大きくなっていった。さらに、露光装置やステージ装置において、モータ駆動用電源が占める容積や価格の割合が大きくなり、モータ駆動用電源が大型化し、重さが大きくなった分だけ、ステージ装置や露光装置が大型化し、重量も増大化している。
【0005】
本発明は、前記した従来技術の問題点に鑑み為されたもので、小型、軽量、安価で、高電力を発生することが可能な電源装置、ステージ装置、露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、交流入力を直流に変換する整流手段と、10KHzから100KHzに亘る高周波のクロック信号を出力するクロック発生手段と、前記クロック発生手段から出力される高周波のクロック信号を受けて、第1スイッチング素子と第2スイッチング素子を10KHzから100KHzの範囲で交互にオン/オフさせるドライバと、第1スイッチング素子がオン状態で、第2スイッチング素子がオフ状態のとき、前記整流手段の高圧側から電荷を蓄積する第1蓄積手段と、第1スイッチングがオフ状態で、第2スイッチング素子がオン状態のとき、前記第1蓄積手段に蓄積された電荷を転送し蓄積する第2蓄積手段と、前記整流手段のプラス側の電圧と第2蓄積手段の両端の電圧とを加算して、出力電圧とすることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の電源装置において、モータ駆動用の電源装置であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の電源装置において、前記出力電圧は、前記整流手段の出力電圧の2倍の電圧であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、ステージ装置であって、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の電源装置をステージ移動のためのモータ駆動用電源として備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項5に記載の発明は、露光装置であって、請求項4に記載のステージ装置を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、第1スイッチング素子と第2スイッチング素子を10KHzから100KHzの範囲で交互にオン/オフさせるため、第1蓄積手段と第2蓄積手段として容量の小さいものを用いることができる。しかも、出力電圧は、整流手段のプラス側の電圧と第2蓄積手段の両端の電圧を加算したものになるため、高電力を出力することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型、軽量でありながら、高電力を発生することが可能な電源装置を提供することができる。
また、電源装置が、小型、軽量に提供できるので、ステージ装置や露光装置の大型化と高価格化を抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態では、電源装置として、モータ駆動用電源を例にして説明する。なお、モータ駆動装置を組み込んだステージ装置および露光装置に関し、その全体構成について初めに説明する。
図1は、本発明のモータ駆動用電源によって動作するモータを複数備えたステージ装置、及び露光装置であり、図2は、モータ駆動用電源の回路図である。以下の説明では、モータの例として三相モータを挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、この実施形態は、特許請求の範囲に記載する全ての請求項に対応する。
【0011】
まず、複数のモータによりステージが駆動される露光装置について、図1を用いて説明する。
図1は、この露光装置の概略構成を示す図である。この露光装置は、レチクルのパターンの縮小像をウエハの各ショット領域に露光するステッパー型(ステップアンドリピート型)の露光装置である。
【0012】
なお、この実施の形態の説明ではレチクルという用語を使用するが、本明細書では、レチクルもマスクもウエハ上に投影すべきパターンが形成されたものとして同義のものとして扱う。
図1において、照明光学系1からの露光光ILが、ダイクロイックミラー2により反射されてレチクルRのパターン領域を照明する。ダイクロイックミラー2により反射された後の露光光ILの光軸に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な2次元平面内で、図1の紙面に平行な方向にX軸、図1の紙面に垂直な方向にY軸を取る。
【0013】
レチクルRは、レチクル側Yステージ3Y及びレチクル側Xステージ3Xを介して、レチクルベース4上に搭載される。レチクル側Xステージ3Xは、レチクルベース4に対して、固定子5A及び可動子5Bからなるリニアモータ(以下、「リニアモータ5」と呼ぶ)によりX方向に駆動される。レチクル側Yステージ3Yは、レチクル側Xステージ3Xに対して、不図示のリニアモータによりY方向に駆動される。
【0014】
また、レチクル側Yステージ3Y上に、X軸用の移動鏡6X及び不図示のY軸用の移動鏡が固定されている。移動鏡6X、及び外部に設置されたX軸用のレチクル側のレーザ干渉計(以下、「レチクル干渉計」という)7Xにより、レチクル側Xステージ3XのX座標XRが計測される。不図示のY軸用の移動鏡、及びY軸用のレチクル干渉計7Yにより、レチクル側Yステージ3YのY座標YRが計測される。計測されたX座標XR及びY座標YRは、装置全体の動作を統括制御する中央制御系8に、コネクタ17,18を介して供給される。レチクル側Yステージ3Y、レチクル側Xステージ3X、レチクルベース4、X軸用のリニアモータ5、及びY軸用のリニアモータからなるステージ系を、レチクルステージ装置3と呼ぶ。
【0015】
露光光ILのもとで、レチクルRのパターンの像は、投影倍率β(βは例えば1/5)の投影光学系PLを介して縮小されて、ウエハWの各ショット領域に投影露光される。ウエハWは、ウエハ側Yステージ10Y及びウエハ側Xステージ10Xを介して、ウエハベース11上に搭載されている。ウエハ側Xステージ10Xは、ウエハベース11に対して、固定子12A及び可動子12Bからなるリニアモータ(以下、「リニアモータ12」と呼ぶ)を介してX方向に駆動される。ウエハ側Yステージ10Yは、ウエハ側Xステージ10Xに対して、不図示のリニアモータによりY方向に駆動される。
【0016】
また、ウエハ側Yステージ10Y上に、X軸用の移動鏡13X及び不図示のY軸用の移動鏡が固定されている。移動鏡13X、及び外部に設置されたX軸用のウエハ側のレーザ干渉計(以下、「ウエハ干渉計」という)14Xにより、ウエハ側Xステージ10XのX座標XWが計測される。不図示のY軸用の移動鏡、及びY軸用のウエハ干渉計14Yにより、ウエハ側Yステージ10YのY座標YWが計測される。計測されたX座標XW及びY座標YWは、中央制御系8にコネクタ19,20を介して供給される。ウエハ側Yステージ10Y、ウエハ側Xステージ10X、ウエハベース11、X軸用のリニアモータ12、及びY軸用のリニアモータ、並びにウエハWのZ方向への位置及び傾斜角を制御するZレベリングステージ(図示せず)からなるステージ系を、ウエハステージ装置10と呼ぶ。
【0017】
この実施の形態では、リニアモータとして三相リニアモータを使用する。例えばリニアモータ12を例に説明する。リニアモータ12は、固定子12Aと可動子12Bとで構成され、固定子12Aは三相の電機子巻線(図示せず)からなり、可動子12Bはウエハ側Xステージ10Xの側面に極性が順次反転してX方向に並べて固定された4個の永久磁石(図示せず)からなる。すなわち、リニアモータ12は、ムービング・マグネット型のリニア同期モータである。なお、可動子側の電機子巻線を収納したムービング・コイル型のリニアモータを使用してもよい。
【0018】
中央制御系8は、レチクルステージ駆動系15を介してレチクル側のX軸用のリニアモータ5及びY軸用のリニアモータの動作を制御して、レチクルRの位置決めを行うとともに、ウエハステージ駆動系16を介してウエハ側のX軸用のリニアモータ12及びY軸用のリニアモータの動作を制御して、ウエハWの位置決めを行う。このような制御により、レチクルRのパターンは、ウエハWの各ショット領域に縮小されて露光される。
【0019】
これらリニアモータには処理速度向上のため、より高電圧な電力を供給することが求められている。
そこで、レチクルステージ駆動系15及びウエハステージ駆動系16は、単電源を駆動電源として各リニアモータをそれぞれ駆動する高電圧な電力が供給可能なモータ駆動用電源を搭載する。次に、そのモータ駆動用電源について説明する。
【0020】
図2は、モータ駆動用電源の一実施形態を示す回路図である。
図2に示すように、モータ駆動用電源は、ヒューズFU1〜FU3と、ダイオードD1〜D6から成る三相全波整流回路と、力率改善用のコイルL1と、平滑用のコンデンサC1と、サイリスタS1と抵抗R1からなる突入電流防止回路と、クロック発生器21と、電界効果型トランジスタFET1、FET2(以下、単にFET1とFET2と称する)を交互にオン/オフさせるドライバ22と、コンデンサC2、C3とダイオードD7、D8とから構成されている。
【0021】
図2に示すモータ駆動用電源の動作を図3に示す波形図を用いて説明する。
ヒューズFU1〜FU3を介して入力された商用200Vの三相交流は、ダイオードD1〜D6から成る三相全波整流回路によって整流され、その後、コイルL1によって力率が改善され、コンデンサC1において平滑化される。
突入電流防止回路は、図2に示すモータ駆動用電源が始動するとき、コンデンサC1〜C3に充電するための突入電源が流れ、各素子が破壊されるのを防止するものである。すなわち、始動後の所定時間はサイリスタS1が非導通状態になり、抵抗R1に電流が流れて、始動時の突入電流を制限する。前記所定期間が経過した後は、サイリスタS1に図示しない制御回路からトリガ信号が入力され、サイリスタS1が導通状態になる。これによって、抵抗R1に電流が流れなくなり、モータ駆動用電源は通常の動作に移行する。
【0022】
図2に示すモータ駆動用電源が始動されると、コンデンサC1の両端に直流280Vの電圧が発生し、図2に示す点Aの電圧が約280Vになる。
クロック発生器21は、10KHz〜100KHzの高周波のクロック信号を出力し、ドライバ22に出力する。図3(a)は、クロック発生器21から出力されるクロック信号の一例を示す図である。
【0023】
図2に示すドライバ22は、クロック発生器21から出力される前記クロック信号を受けて、FET1、FET2を交互にオン/オフさせる。図3(b)は、FET1、FET2の出力(点B:図2参照)の電位変化を示す図である。点Bの電位は、FET2がオン(FET1がオフ)のときほぼ0Vになり、FET1がオン(FET2がオフ)のとき約280Vになる。
【0024】
すなわち、FET2がオン(FET1がオフ)されたタイミングでは、B点の電圧(コンデンサC1の280Vの電圧)に基づいて、ダイオードD7→コンデンサC3→FET2の経路で電流が流れ、コンデンサC3に電荷が蓄積される。
逆に、FET1がオン(FET2がオフ)されたタイミングでは、コンデンサC3に蓄積された電荷がコンデンサC3→ダイオードD8→コンデンサC2の経路でコンデンサC2に蓄積される。したがって、FET1とFET2がオン/オフを繰り返す毎に、コンデンサC2の両端の電圧は上昇する。
【0025】
図3(c)は、コンデンサC3に電荷が蓄積され、蓄積された電荷がコンデンサC2に転送されることによって、モータ駆動用電源の出力電圧が上昇して行く過程を示す図である。
図示するように、図2の点Aの電圧は約280Vであり、この約280VにコンデンサC2の両端の電圧が加わるため、モータ駆動用電源の出力電圧は最終的には約280Vの2倍、すなわち約560Vまで上昇する。したがって、高電圧・高電流の電源を得ることができる。
【0026】
ここで、前記したように、クロック発生器21は、高周波(10KHz〜100KHz)のクロック信号を出力するため、図3(c)に示す出力電圧の上昇は短時間で生じる。
同様に、クロック発生器21が高周波(10KHz〜100KHz)のクロック信号を出力するため、コンデンサC2、C3は容量の小さいもので足りる。例えば、コンデンサC2、C3としては、理論的には10μF程度のものを用いることが可能である。しかし、実際には、コンデンサC2、C3の発熱及び寿命の問題から、1000μF程度のものを用いるのが好ましい。もちろん、要求される出力電力によって、この数値は適宜変化するものである。
【0027】
本実施形態によれば、FET1とFET2を高い周波数でオン/オフするので、コンデンサC2、C3の容量が小さくて済み、高電力なモータ駆動用電源であっても、小型で安価なものを提供できる。
なお、モータ駆動用電源の出力電圧は図3(c)に示すように、クロック信号の1サイクルにおいて、前半部分では傾きを持って上昇し、後半部分では傾きを持って下降する。前半部分において傾きを持って上昇するのは、FET1の抵抗成分等の影響によるものである。また、後半部分において傾きを持って下降するのは、モータ駆動用電源に接続された負荷の影響等によるものである。
【0028】
なお、図2において、力率改善用のコイルL1は、力率を改善する上で設けることが好ましいが、必ずしも設ける必要はない。
また、図2に示す実施形態では、商用の三相交流電源を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、単相の交流電源を用いることも可能である。
以上の説明から明らかなように、図2に示すモータ駆動用電源によれば、全波整流回路により三相200Vの交流電源が全波整流され、コイルL1を介して力率が改善され、平滑コンデンサC1により平滑され、出力端子間に高電圧・高電流を出力することが可能な電源装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、電源装置、モータ駆動用電源、ステージ装置、露光装置等の各分野で、産業上大いに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ステージ装置、露光装置の概略構成を示す図である。
【図2】モータ駆動用電源を示す回路図である。
【図3】図2に示すモータ駆動用電源の動作を説明するための波形図である。
【符号の説明】
【0031】
1 照明光学系
2 ダイクロイックミラー
3 レチクルステージ装置
3X レチクル側Xステージ
3Y レチクル側Yステージ
4 レチクルベース
5 リニアモータ(X軸用)
5A 固定子
5B 可動子
6X 移動鏡
7X、7Y レチクル干渉計
8 中央制御系
10 ウエハステージ装置
10X ウエハ側Xステージ
10Y ウエハ側Yステージ
11 ウエハベース
12 リニアモータ(X軸用)
12A 固定子
12B 可動子
13X 移動鏡
14X ウエハ干渉計
14Y ウエハ干渉計
15 レチクルステージ駆動系
16 ウエハステージ駆動系
17〜20
21 クロック発生器
22 ドライバ
C1、C2、C3 コンデンサ
D1〜D6、D7、D8 ダイオード
FET1、FET2 電界効果型トランジスタ
FU1〜FU3 ヒューズ
L1 コイル
S1 サイリスタ
R レチクル
R1 抵抗
W ウエハ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流入力を直流に変換する整流手段と、
10KHzから100KHzに亘る高周波のクロック信号を出力するクロック発生手段と、
前記クロック発生手段から出力される高周波のクロック信号を受けて、第1スイッチング素子と第2スイッチング素子を10KHzから100KHzの範囲で交互にオン/オフさせるドライバと、
第1スイッチング素子がオン状態で、第2スイッチング素子がオフ状態のとき、前記整流手段の高圧側から電荷を蓄積する第1蓄積手段と、
第1スイッチングがオフ状態で、第2スイッチング素子がオン状態のとき、前記第1蓄積手段に蓄積された電荷を転送して蓄積する第2蓄積手段と、
前記整流手段のプラス側の電圧と第2蓄積手段の両端の電圧とを加算して、出力電圧とすることを特徴とする電源装置。
【請求項2】
請求項1記載の電源装置において、
前記電源装置はモータ駆動に用いられることを特徴とする電源装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電源装置において、
前記出力電圧は、前記整流手段の出力電圧の2倍の電圧であることを特徴とする電源装置。
【請求項4】
モータでステージを駆動するステージ装置において、
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の電源装置をステージ移動のためのモータ駆動用電源として備えたことを特徴とするステージ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のステージ装置を備えたことを特徴とする露光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−87200(P2006−87200A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268451(P2004−268451)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】