説明

電源装置

【課題】磁気結合型リアクトル素子を有する多相コンバータを備えた電源装置において、リップル電流を確実に所定レベルより低くする。
【解決手段】通常の昇圧チョッパ回路は、デューティ比の上昇に応じてリップル電流が単調に増大するリップル電流特性102を示す。これに対して、磁気結合型の多相コンバータのリップル電流特性101は、デューティ比の変化に対してリップル電流の極小点が存在するものとなる。したがって、リップル電流が所定レベル以下となるデューティ比範囲が予め定義できるので、このようなデューティ比範囲に対応した電圧範囲に限定してコンバータの電圧指令値を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電源装置に関し、より特定的には、磁気結合型リアクトルを含む多相コンバータを備えた電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
並列接続された複数のコンバータから成り、かつ位相をずらしてこれらのコンバータを動作させるように構成された、いわゆる多相コンバータが知られている。たとえば、特開2006−262601号公報(特許文献1)および特開2003−304681号公報(特許文献2)には、このような多相コンバータと磁気結合型リアクトルとを組合せることによって、小型化された回路構成によって平滑コンデンサのリップル電流を低減することが可能なDC−DCコンバータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−262601号公報
【特許文献2】特開2003−304681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2にも記載されるように、並列接続された複数のコンバータ間でリアクトルを磁気結合させた多相コンバータでは、リアクトル電流のリップル成分(以下、リップル電流と称する)を低減することが可能であり、通常の昇圧チョッパ型のコンバータとはリップル電流の特性が異なってくる。
【0005】
しかしながら、特許文献1,2には、リップル電流特性を考慮して、磁気結合型リアクトルを回路素子とする多相コンバータを制御することについては何ら記載されていない。このため、定性的にリップル電流の低下による温度上昇抑制等は図ることができるものの、コンバータの回路素子の設計等において、リップル電流低減による効果を最大限に発揮できない可能性がある。
【0006】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、磁気結合型リアクトル素子を有する多相コンバータを備えた電源装置において、リップル電流を確実に所定レベル以下とすることによって、回路素子設計における定格抑制等によりリップル電流低減の効果を最大限に享受することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による電源装置は、多相コンバータおよび制御回路を備える。多相コンバータは、負荷と接続される電源配線および直流電源の間に並列に接続される複数のチョッパ回路を含む。制御回路は、複数のチョッパ回路の動作を制御する。複数のチョッパ回路の各々は、制御回路によってオンオフ制御される少なくとも1個のスイッチング素子と、スイッチング素子によりスイッチングされた電流が通過するように配置されたリアクトルとを含む。そして、各チョッパ回路のリアクトルは、互いに磁気的に結合するように配置される。制御回路は、電圧指令値設定部と、デューティ比制御部と、スイッチング制御部とを含む。電圧指令値設定部は、負荷の動作状態に基づく電源配線の電圧要求値に従って、電源配線の電圧指令値を設定するように構成される。デューティ比制御部は、電圧指令値と電源配線の検出電圧とに基づいて、スイッチング素子のデューティ比を制御するように構成される。スイッチング制御部は、制御されたデューティ比に従って、かつ、複数のチョッパ回路間で互いに所定位相ずつタイミングがずれるように、各チョッパ回路のスイッチング素子のオンオフを制御するように構成される。さらに、電圧指令値設定部は、予め求められた多相コンバータのデューティ比に対するリップル電流の特性に従って、リップル電流が所定レベルより小さくなるデューティ比の範囲に対応させて多相コンバータの動作領域が限定されるように電圧指令値を設定する。
【0008】
好ましくは、電圧指令値設定部は、リップル電流が所定レベルより小さくなる動作領域に対応させて予め設定された所定デューティ比と直流電源の電圧検出値とに従って、電圧指令値の設定可能範囲を予め定めるとともに、電圧要求値が設定可能範囲外のときには、設定可能範囲のうちの電圧要求値よりも高い電圧範囲内の最小値に電圧指令値を設定するように構成される。
【0009】
さらに好ましくは、各チョッパ回路は、接地配線および電源配線の間に直列に接続された第1および第2のスイッチング素子を含む。そして、リアクトルは、第1および第2のスイッチング素子の接続点と直流電源との間に接続されたコイル巻線を有する。各チョッパ回路のコイル巻線は、共通のコアの異なる部位に巻回される。
【0010】
また、さらに好ましくは、デューティ比制御部は、電流指令値設定部と、複数のチョッパ回路のそれぞれ対応して設けられた複数の電流制御部とを含む。電流指令値設定は、電圧指令値および検出電圧に基づいて、複数のチョッパ回路の各々の電流指令値を設定するように構成される。複数の電流制御部の各々は、複数のチョッパ回路のうちの対応するチョッパ回路の通過電流と電流指令値とに従って、対応するチョッパ回路のデューティ比を独立に設定するように構成される。
【0011】
また好ましくは、負荷は、永久磁石型のモータジェネレータと、モータジェネレータおよび電源配線の間で双方向の電力変換を行なうように構成されたインバータとを含む。そして、モータジェネレータの定格最高回転速度における誘起電圧は、電圧指令値設定部によって限定的に設定されるデューティ比に対応する多相コンバータによる電源配線の電圧のうちの最高値におけるモータジェネレータへの印加電圧よりも低い。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、磁気結合型リアクトル素子を含む多相コンバータを備えた電源装置において、リップル電流を確実に所定レベル以下とすることによって、回路素子設計における定格抑制等によりリップル電流低減の効果を最大限に享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態による電源装置を備えたモータ駆動装置200の構成を示す回路図である。
【図2】磁気結合型リアクトルの構成例を示す回路図である。
【図3】図1に示した多相コンバータにおけるデューティ比に対するリップル電流の特性を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態による電源装置における多相コンバータ12の制御構成を説明する機能ブロック図である。
【図5】図4に示した電圧指令設定部による電圧指令値の設定を説明する概念図である。
【図6】デューティ比の設定可能範囲の設定の変形例を説明する概念図である。
【図7】電圧指令値の設定の変形例を説明する概念図である
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態による電源装置を備えたモータ駆動装置200の構成を示す回路図である。
【0016】
図1を参照して、モータ駆動装置200は、直流電源B1と、磁気結合型の多相コンバータ12と、平滑コンデンサC1と、制御回路210と、負荷220とを有する。多相コンバータ12および制御回路210により、本発明の実施の形態による電源装置が構成される。
【0017】
直流電源B1は、直流電圧を出力する。直流電源B1は、代表的には、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池から成る。
【0018】
多相コンバータ12は、平滑コンデンサC0と、並列接続されたチョッパ回路13−1および13−2とを含む。チョッパ回路13−1は、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)Q11およびQ12と、ダイオードD11およびD12と、リアクトルL1とを含む。スイッチング素子Q11およびQ12は、電源配線PLおよび接地配線GLの間に直列接続される。リアクトルL1は、スイッチング素子Q11およびQ12の接続ノードであるノードN1と、直流電源B1との間に電気的に接続される。ダイオードD11およびD12は、スイッチング素子Q11およびQ12に対してそれぞれ逆並列に接続される。平滑コンデンサC0は、直流電源B1の出力電圧である、多相コンバータ12の低圧側の直流電圧を平滑する。
【0019】
同様に、チョッパ回路13−2は、チョッパ回路13−1と同様に構成され、スイッチング素子Q21およびQ22と、ダイオードD21およびD22と、リアクトルL2とを含む。リアクトルL2は、スイッチング素子Q21およびQ22の接続ノードであるノードN2と、直流電源B1の間に電気的に接続される。
【0020】
多相コンバータ12では、リアクトルL1およびL2は、互いに磁気的に結合するように配置される。すなわち、リアクトルL1およびL2は、磁気結合型リアクトルを構成するように設けられる。
【0021】
図2には、磁気結合型リアクトルの構成例が示される。
図2を参照して、磁気結合型リアクトルは、コア250と、コア250に巻回されたコイル巻線241,242とを含む。コア250は、外脚部251a,251bと、ギャップ253を挟んで対向するように配置された中央脚部252とを含む。
【0022】
リアクトルL1を構成するコイル巻線241は、外脚部251aに巻回される。リアクトルL2を構成するコイル巻線242は、外脚部251bに巻回される。ここで、外脚部251aおよび251bの断面積をS1とし長さをLN1とすると、外脚部251a,251bの磁気抵抗R1は下記(1)式で示される。同様に、中央脚部252の断面積をS2、長さをLN2とし、ギャップ長をdとすると、中央脚部252の磁気抵抗R2は下記(2)式によって示される。なお、(1),(2)式において、μはコア250の透磁率を示し、μ0はギャップにおける空気中の透磁率を示す。
【0023】
R1≒(1/μ)・(LN1/S1) …(1)
R2≒(1/μ)・2・(LN2/S2)+1/μ0・(d/S2) …(2)
本実施の形態では、磁気結合型リアクトルの定数S1,LN1,S2,LN2,dは、(1),(2)式によるR2>>R1となるように設定される。
【0024】
このように設定することにより、コイル巻線241の通過電流によって生じた磁束の殆どがコイル巻線242と鎖交するとともに、コイル巻線242の通過電流によって生じた磁束の殆どがコイル巻線241と鎖交するようになる。この結果、図1において、リアクトルL1およびL2でそれぞれ生じた起電力の反対方向の逆起電力が、リアクトルL2およびL1にそれぞれ発生するようになる。
【0025】
なお、コア250の形状については、図2の例に限定されるものではなく、図1に記載した等価回路を構成可能である限り、任意とすることができる。たとえば、特開2003−304681号公報(特許文献2)の図5,6等に示される形状を用いてもよい。
【0026】
再び図1を参照して、平滑コンデンサC1は、電源配線PLおよび接地配線GLの間に接続される。そして、負荷220は、電源配線PLおよび接地配線GLと接続されたインバータ14と、インバータ14と接続された交流モータM1とを含む。
【0027】
インバータ14は、電源配線PL上の直流電力と、交流モータM1に入出力される交流電力との間の双方向の電力変換を行う。そして、交流モータM1は、インバータ14によって入出力される交流電力により駆動されて、正または負のトルクを発生する。
【0028】
インバータ14は、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とから成る。U相アーム15、V相アーム16、およびW相アーム17は、電源配線PLおよび接地配線GLの間に並列に設けられる。U相アーム15はスイッチング素子Q5,Q6から構成され、V相アーム16はスイッチング素子Q7,Q8から構成され、U相アーム17はスイッチング素子Q9,Q10から構成される。スイッチング素子Q5〜Q10とそれぞれ逆並列にダイオードD5〜D10が接続される。U相アーム15、V相アーム16およびW相アーム17のそれぞれの中間ノードは、交流モータM1のU相、V相およびW相の固定子巻線の一端と接続される。これらの固定子巻線の他端同士は中性点で接続される。
【0029】
交流モータM1は、たとえば、モータジェネレータとして動作する、永久磁石型の同期電動機により構成される。交流モータM1は、ハイブリッド自動車、電気自動車または燃料電池自動車等の電動車両の駆動輪の駆動トルクを発生するための駆動モータである。すなわち、モータ駆動装置200は、代表的には、電動車両に搭載される。交流モータM1は、電動車両の回生制動時には、駆動力の回転力によって回生発電を行う。
【0030】
あるいは、この交流モータM1は、エンジンにて駆動される発電機の機能を持つように、そして、エンジンに対して電動機として動作し、たとえば、エンジン始動を行い得るようなものとしてハイブリッド自動車に組み込まれるようにしてもよい。
【0031】
電圧センサ20は、直流電源B1の出力電圧に相当する、多相コンバータ12の低圧側の直流電圧VLを検出する。電圧センサ22は、電源配線PLの電圧、すなわち、多相コンバータ12の高圧側の直流電圧VHを検出する。
【0032】
電流センサ24は、インバータ14および交流モータM1の間を流れる各相のモータ電流MCRTを検出する。なお、3相の相電流の瞬時値の和は常に零であるため、3相中の2相にのみ電流センサ24を配置し、電流センサ24が非配置の相のモータ電流については、演算によって求めることも可能である。電流センサ25は、リアクトルL1を通過するリアクトル電流I1を検出し、電流センサ26は、リアクトルL2を通過するリアクトル電流I2を検出する。電圧センサ20,22による検出値VL,VH、電流センサ25,26による検出値I1,I2および電流センサ24による検出値MCRTは、制御回路210へ入力される。
【0033】
制御回路210は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵した電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)により構成され、当該メモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、所定の演算処理を実行するように構成される。あるいは、ECUの少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
【0034】
制御回路210は、上述した各センサによる検出値と、交流モータM1の回転数MRNおよびトルク指令値TRとに基づいて、交流モータM1が動作指令に従って動作するように、多相コンバータ12およびインバータ14におけるスイッチング素子Q11,Q11,Q21,Q22,Q5〜Q10のオンオフ(スイッチング)を制御する。具体的には、制御回路210は、電源配線PLの電圧を所望の電圧に制御するために、スイッチング素子Q11,Q12,Q21,Q22のオンオフを制御する信号PWM1,PWM2を生成する。さらに、制御回路210は、交流モータM1の出力トルクをトルク指令値TRに従って制御するために、交流モータM1へ印加される擬似交流電圧の振幅および/または位相を制御するように、スイッチング素子Q5〜Q10のオンオフを制御する信号PWMIを生成する。
【0035】
チョッパ回路13−1,13−2の各々は、下アームのスイッチング素子Q12,Q22をオンオフさせることにより、スイッチングされた電流をリアクトルL1,L2に通過させることによって、上アームのダイオードD11,D21による電流経路を用いて、低圧側の直流電圧VLを昇圧した直流電圧VHを電源配線PLに発生することができる(力行時、I1>0,I2>0)。
【0036】
反対に、チョッパ回路13−1,13−2の各々は、上アームのスイッチング素子Q11,Q21をオンオフさせることにより、スイッチングされた電流をリアクトルL1,L2に通過させることによって、下アームのダイオードD12,D22による電流経路を用いて、高圧側の直流電圧VHを降圧した直流電圧VLにより直流電源B1を充電することができる(回生時、I1<0,I2<0)。
【0037】
各チョッパ回路13−1,13−2では、力行時には上アームのスイッチング素子Q11,Q21はオフ固定することも可能であり、回生時には下アームのスイッチング素子Q12,Q22をオフ固定することも可能である。ただし、電流方向によって制御を切替えることなく回生および力行に連続的に対応するために、各スイッチング周期内で、上アームのスイッチング素子Q11,Q21および下アームのスイッチング素子Q12,Q22を相補的にオンオフさせてもよい。
【0038】
以下、本実施の形態では、スイッチング周期に対する下アームのスイッチング素子のオン期間の比率をデューティ比DTと定義することとする。すなわち、上アーム素子のオン期間比は、(1.0−DT)で示される。チョッパ回路の一般的な特性から、このデューティ比DTと各チョッパ回路13−1,13−2での電圧変換との関係は、下記(3)式によって示される。(3)式を変形することにより、高圧側の電圧VHは、(4)式によって示される。
【0039】
DT=1.0−(VL/VH) ・・・(3)
VH=VL/(1.0−VL) ・・・(4)
(3),(4)式より、下アームのスイッチング素子Q12,Q22がオフに固定(DT=0.0)されるとVH=VLとなり、デューティ比DTを上昇させるのに従って電圧VHが上昇することが理解される。すなわち、制御回路210は、チョッパ回路13−1,13−2におけるデューティ比DTの制御により、電源配線PLの電圧VHを制御することができる。このようなコンバータ制御の詳細については、後ほど詳細に説明する。
【0040】
多相コンバータ12を構成する2個のチョッパ回路13−1,13−2は、180(360/2)度、すなわちスイッチング周期に対して半周期分、位相をずらして動作する。したがって、信号PWM1およびPWM2の位相は、180度ずれている。
【0041】
さらに、多相コンバータ12では、磁気結合型リアクトルによって、チョッパ回路13−1,13−2間で、リアクトル電流I1,I2のリップル成分の影響が互いに打ち消し合うように作用する。したがって、図1の多相コンバータ12におけるデューティ比に対するリップル電流の特性は、図3に示す様に、通常のチョッパ回路とは異なるものとなる。
【0042】
図3を参照して、特性線102は、各チョッパ回路13−1,13−2におけるリアクトルL1,L2を通常の(磁気結合型でない)リアクトルで置換した通常のチョッパ回路における、デューティ比に対するリップル電流の特性をプロットしたものに相当する。通常のチョッパ回路では、下アームのスイッチング素子のオン期間が長くなるほど、リアクトルへの蓄積エネルギおよび、下アームのスイッチング素子オフ時の電流変化が大きなものとなるので、リップル電流が単調に増大する。
【0043】
これに対して、磁気結合型リアクトルを備えた多相コンバータ12では、リアクトルL1,L2間で逆方向に起電力が作用し合うので、180度位相がずれたチョッパ回路13−1,13−2間で、下アームのスイッチング素子Q12およびQ22が相補にオンオフする状況で、リップル電流の抑制効果が最大となる。すなわち、多相コンバータ12のデューティ比に対するリップル電流の特性を示す特性線101では、DT=0.5近傍にリップル電流の極小点が存在する。また、DT=0に近い領域では、電流のスイッチングが殆ど行われないため、リップル電流も当然小さくなる。
【0044】
解析や動作実験等によって、特性線101を予め求めることによって、多相コンバータ12のリップル電流を定量的に把握することができる、そして、多相コンバータ12の動作領域を、デューティ比について領域110,120に限定することによって、たとえば、デューティ比を0およびD0(図1の構成例では、D0=0.5)に限定することで、リップル電流を所定レベルよりも確実に低くすることができる。
【0045】
図4は、本発明の実施の形態による電源装置における多相コンバータ12の制御構成を説明する機能ブロック図である。図4に示した各ブロックによる機能は、制御回路210によるソフトウェア処理によって実現してもよく、当該機能を実現する電子回路(ハードウェア)を制御回路210に構成することによって実現してもよい。
【0046】
図4を参照して、図1に示した制御回路210は、電圧指令設定部300と、減算部310と、制御演算部320と、乗算部325と、電流制御部330,335と、変調部350,355とを有する。
【0047】
電圧指令設定部300は、負荷220の動作状態、具体的には交流モータM1の回転数(MRN)およびトルク(TR)に基づいて設定された要求電圧VHsysに従って、図3に示したリップル電流特性を考慮して電圧指令値VHrを設定する。
【0048】
ここで、図5を用いて電圧指令設定部300による電圧指令値の設定を詳細に説明する。
【0049】
図5を参照して、要求電圧VHsysは、負荷である交流モータM1の動作状態、すなわち、回転数(MRN)およびトルク(TR)に基づいて可変に設定される。要求電圧VHsysは、少なくとも、交流モータM1の固定子巻線に生じる誘起電圧の振幅よりも、インバータ14によって発生される交流電圧(交流モータM1への印加電圧)の振幅が大きくなるような、電源配線PLの電圧VHの範囲に設定される必要がある。
【0050】
図5を参照して、本発明の実施の形態による電源装置では、電圧指令値VHrは、図5に示したデューティ比=0,D0の2つに対応する電圧範囲に限定的に設定される。すなわち、(4)式に従って、DT=0に対応したVHr=VL、および、DT=D0に対応したVHr=V0=VL/(1−D0)の2つの値のみが限定的に設定される。そして、VHsys≦VLのときはVHr=VLに設定される一方で、VHsys>VLになると、VHr=V0に設定される。なお、V0=VL/(1−D0)は、可変に設定される要求電圧VHsysの最大値以上に設計される必要がある。たとえば、上述のように、電圧V0におけるインバータ14による交流モータ14への印加電圧が、交流モータM1が定格上の最高回転数で動作するときの誘起電圧よりも大きくなるように設計されている必要がある。
【0051】
さらに、要求電圧VHsysが電圧VLの近傍で変化したときに電圧指令値VHrが頻繁に切換わることを防止するために、電圧指令値VHrをVLからV0へ上昇させるときと、反対に、V0からVLへ低下させるときとの間で、ヒステリシスdVを設けるようにしてもよい。
【0052】
このようにして、多相コンバータ12の電圧指令値VHrは、リップル電流が確実に所定レベル以下となるデューティ比領域110,120に限定されるように、電圧指令値VHrが設定されることになる。
【0053】
再び図4を参照して、減算部310は、電圧指令設定部300によって設定された電圧指令値VHrから、電圧センサ22によって検出された電圧VHを減算することによって、電圧偏差ΔVHを算出する。制御演算部320は、代表的にはPI制御(比例積分)演算に従って、電圧偏差ΔVHを零に近付けるように電流指令値Irを設定する。定性的には、ΔVHが増加(正方向へ変化)すると電流指令値Irは上昇し、ΔVHが減少(負方向へ変化)すると電流指令値Irは低下する。
【0054】
乗算部325は、多相コンバータ12全体での電流指令値Irに0.5を乗算することによって、各チョッパ回路13−1,13−2の電流指令値Ir♯を算出する(Ir♯=Ir/2)。
【0055】
電流制御部330は、電流センサ25により検出されたリアクトル電流I1と、電流指令値Ir♯との電流偏差に基づく制御演算(PI制御演算等)に従って、デューティ指令値Id1を設定する。同様に、電流制御部335は、電流センサ26により検出されたリアクトル電流I2と、電流指令値Ir♯との電流偏差に基づく制御演算(PI制御演算等)従って、デューティ指令値Id2を設定する。
【0056】
デューティ指令値Id1,Id2は、0.0≦Id1,Id2<1.0の範囲で設定される。電流制御部330,335は、電流指令値Ir♯に対してリアクトル電流I1,I2を増加させるときにはデューティ比を上昇させる一方で、リアクトル電流I1,I2を減少させるときにはデューティ比を低下させるように、デューティ指令値Id1,Id2を設定する。
【0057】
変調部350は、所定周波数の三角波またはのこぎり波である搬送波CWと、デューティ指令値Id1との電圧比較に従って、チョッパ回路13−1を制御するための信号PWM1を生成する。搬送波CWの周波数は、チョッパ回路13−1,13−2のスイッチング周波数に相当する。また、搬送波CWのピーク−ピーク電圧は、デューティ指令値Id1によって示されるデューティ比の0〜1.0の範囲と対応する。変調部350は、Id1>CWの期間では下アームのスイッチング素子Q12をオンし、CW>Id1の期間には、下アームのスイッチング素子Q12をオフするように、信号PWM1を生成する。
【0058】
以上のように、電圧VHが電圧指令値VHrより低い場合には、下アームのデューティ比が増加する方向にデューティ指令値Id1が設定されることにより、リアクトル電流I1が増大するように、チョッパ回路13−1がパルス幅変調(PWM)により制御される。反対に、電圧VHが電圧指令値VHrより高い場合には、下アームのデューティ比が減少する方向にデューティ指令値Id1が設定されることにより、リアクトル電流I1が低下するように、チョッパ回路13−1がパルス幅変調(PWM)により制御される。
【0059】
変調部355は、変調部350と同様の機能を有し、上記搬送波CWの反転信号、すなわち、搬送波CWから位相が180度ずれた信号と、デューティ指令値Id2との電圧比較に従って、チョッパ回路13−2を制御するための信号PWM2を生成する。これにより、チョッパ回路13−1,13−2では、スイッチング制御の位相を180度ずらした上で、電圧VHを電圧指令値VHrに制御するためのスイッチング制御(デューティ比制御)がそれぞれ独立に実行される。なお、上述のように、下アームのスイッチング素子Q12,Q22のオフ期間には、上アーム素子のスイッチング素子Q11,Q21をオンしてもよい。
【0060】
このように、図4に示す制御構成に従って、多相コンバータ12では、並列接続された2つのチョッパ回路13−1および13−2が、電気角180°ずつ位相がずれるように動作するとともに、チョッパ回路13−1,13−2のそれぞれにおいて、電圧VHを電圧指令VHrへ制御するためのリアクトル電流I1,I2の制御が独立に行なわれる。
【0061】
すなわち図4の構成によれば、減算部310、制御演算部320、乗算部325および電流制御部330,335によって本発明による「デューティ制御部」が構成され、変調部350,355によって本発明の「スイッチング制御部」が構成される。特に、減算部310、制御演算部320および、乗算部325によって、本発明の「電流指令値設定部」が構成される。
【0062】
次に、図6および図7を用いて、電圧指令設定部300による電圧指令値VHrの設定の変形例を説明する。
【0063】
図6を参照して、変形例では、リップル電流の設計上限値I0が設定されるとともに、図3と同一の特性線101に対して、リップル電流がI0より低くなる動作領域の境界値としてのデューティ比D1およびD2が定められる。図3と比較すれば、D1<D0(図3)<D2となる。
【0064】
式(4)に照らして、デューティ比D1,D2における電圧VHに相当する電圧V1,V2が、下記の(5)、(6)式により決定される。
【0065】
V1=1/(1−D1)・VL …(5)
V2=1/(1−D2)・VL …(6)
図7を参照して、電圧指令設定部300は、VHsys≦VLのときには、VHr=VLに設定する一方で、VL<VHsys≦V1の範囲では、VHr=V1とし、VHsys≧V2の範囲では、VHsys=V2に設定する。また、V1<VHsys<V2の範囲では、VHr=VHsysに設定される。なお、図5と比較すれば、V1<V0<V2であることが理解される。また、V2は、可変に設定される要求電圧VHsysの最大値以上に設計される必要がある。
【0066】
このように、図5または図7に従って、電圧指令設定部300は、リップル電流特性(図3)に照らしたデューティ比の限定的な適用範囲に対応させて電圧指令値VHrの設定可能範囲を予め定めるとともに、要求電圧VHsysがこの設定可能範囲外のときには、設定可能範囲のうちの、要求電圧VHsysよりも高い電圧範囲内の最小値に電圧指令値VHrを設定することになる。
【0067】
また、VHsys=VL近傍では、図5と同様のヒステリシスdVを設けるようにしてもよい。逆に言えば、DT=0.0に対して図6中のデューティ比D3を設定して、VHsys=VL近傍におけるVHrを連続的に設定するよりも、このようなヒステリシスを設ける方が実際上は好ましい。
【0068】
以上説明したように、本実施の形態による電源装置では、磁気結合型リアクトルを含む多相コンバータの特徴的なリップル電流特性に着目して、リップル電流が確実に所定レベル以下となる動作領域(デューティ比)に限定して多相コンバータ12を動作させることができる。したがって、リップル電流による発熱レベルをより確実に予測できる他、リップル電流を含む電流最大値についてもより確実に見積もることができる。この結果、多相コンバータを構成するスイッチング素子Q11,Q12,Q21,Q22や平滑コンデンサC0,C1等の回路素子の定格値の設計がより確実なものとなり、定格抑制によるコスト削減を図ることができる。すなわち、リップル電流低減による効果を最大限に発揮できる。
【0069】
なお、図4では、チョッパ回路13−1,13−2のそれぞれで独立に電流制御のためのデューティ制御を実行する構成を例示したが、より簡素な制御構成として、電圧偏差ΔVHに対する制御演算結果に従って、チョッパ回路13−1,13−2のデューティ比を共通に設定することも可能である。ただし、図4の構成では、チョッパ回路13−1,13−2を通過する電流をそれぞれ直接制御することにより、チョッパ回路間の回路定数差のばらつき等による不均衡な動作を解消することができる。この結果、多相コンバータをより安定的に動作させることができる。特に、コンバータ間での電流ばらつきを抑制することができるので、上記の回路素子の定格値設計の確実性を向上できる。
【0070】
また、図1では、並列接続された2個のチョッパ回路によって多相コンバータ12を構成したが、特開2003−304681号公報(特許文献2)の図7,10のように、3以上の複数個(N個)のチョッパ回路の並列接続によって多相コンバータ12を構成してもよい。この場合には、N個のチョッパ回路は、それぞれ(360/N)度ずつ位相をずらしたタイミングでオンオフ制御される。ただし、このような多相コンバータでは、デューティ比に対するリップル電流特性(図3)も変化するので、リップル電流特性を予め求めるとともに、当該特性に従って、リップル電流を確実に所定レベルより低くするためのデューティ比の範囲、および、これに対応する電圧指令値VHrの範囲を決めることが必要である。
【0071】
なお、各チョッパ回路について、上アームおよび下アームの両方にスイッチング素子を設ける図1の構成例のみならず、下アームにスイッチング素子(Q12,Q22)を設けるとともに上アームにはダイオード(D11、D21)を配置する回路構成、または、上アームにスイッチング素子(Q11,Q21)を設けるとともに下アームにはダイオード(D12,D22)を配置する回路構成とすることも可能である。この場合にも、予め把握可能なデューティ比に対するリップル電流の特性に対応させて、リップル電流を確実に所定レベルより低くするためのデューティ比の範囲、および、これに対応する電圧指令値VHrの範囲を決めることができる。
【0072】
また、本実施の形態では、負荷220について、ハイブリッド自動車または電気自動車等に搭載される交流モータM1およびインバータ14を例示したが、本発明の適用はこれに限定されるものではない。すなわち、負荷220を特に限定することなく本発明の適用が可能である点について、確認的に記載する。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
この発明は、磁気結合型リアクトルを含む多相コンバータの制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
12 多相コンバータ、13−1,13−2 チョッパ回路、14 インバータ、15〜17 各相アーム(インバータ)、20,22 電圧センサ、24,25,26 電流センサ、101 特性線(通常コンバータ)、102 特性線(磁気結合型多相コンバータ)、110,120 デューティ比領域(リップル電流小)、200 モータ駆動装置、210 制御回路(ECU)、220 負荷、241,242 コイル巻線、250 コア、251a,251b 外脚部、252 中央脚部、253 ギャップ、300 電圧指令設定部、310 減算部、320 制御演算部、325 乗算部、330,335 電流制御部、350,355 変調部、B1 直流電源、C0,C1 平滑コンデンサ、CW 搬送波、DT,D0,D1,D2 デューティ比、D11,D21,D12,D22 ダイオード(コンバータ)、D5〜D10 ダイオード(インバータ)、d ギャップ長、dV ヒステリシス、GL 接地配線、I0 設計上限値(リップル電流)、I1,I2 リアクトル電流、Id1,Id2 デューティ指令値、Ir 電流指令値、L1,L2 リアクトル、M1 交流モータ、MCRT モータ電流、MRN 回転数、N1,N2 ノード、PL 電源配線、PWM1,PWM2 信号(コンバータ制御)、PWMI 信号(インバータ制御)、Q11,Q11,Q21,Q22 スイッチング素子(コンバータ)、Q5〜Q10 スイッチング素子(インバータ)、S1,S2 断面積、TR トルク指令値、VH 直流電圧(コンバータ高圧側)、VHr 電圧指令、VHsys 要求電圧、VHr 電圧指令値、VL 直流電圧(コンバータ低圧側)、ΔVH 電圧偏差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷と接続される電源配線および直流電源の間に並列に接続される複数のチョッパ回路を含む多相コンバータと、
前記複数のチョッパ回路の動作を制御するための制御回路とを備え、
前記複数のチョッパ回路の各々は、
前記制御回路によってオンオフ制御される少なくとも1個のスイッチング素子と、
前記スイッチング素子によりスイッチングされた電流が通過するように配置されたリアクトルとを含み、
各前記チョッパ回路の前記リアクトルは、互いに磁気的に結合するように配置され、
前記制御回路は、
前記負荷の動作状態に基づく前記電源配線の電圧要求値に従って、前記電源配線の電圧指令値を設定するための電圧指令値設定部と、
前記電源配線の電圧を前記電圧指令値に制御するために、前記スイッチング素子のデューティ比を制御するためのデューティ比制御部と、
制御された前記デューティ比に従って、かつ、前記複数のチョッパ回路間で互いに所定位相ずつタイミングがずれるように、各前記チョッパ回路の前記スイッチング素子のオンオフを制御するためのスイッチング制御部とを含み、
前記電圧指令値設定部は、予め求められた前記多相コンバータの前記デューティ比に対するリップル電流の特性に従って、前記リップル電流が所定レベルより小さくなる前記デューティ比の範囲に対応させて前記多相コンバータの動作領域が限定されるように前記電圧指令値を設定する、電源装置。
【請求項2】
前記電圧指令値設定部は、前記リップル電流が所定レベルより小さくなる動作領域に対応させて予め設定されたデューティ比範囲と前記直流電源の電圧検出値とに従って、前記電圧指令値の設定可能範囲を予め定めるとともに、前記電圧要求値が前記設定可能範囲外のときには、前記設定可能範囲のうちの前記電圧要求値よりも高い電圧範囲内の最小値に前記電圧指令値を設定する、請求項1記載の電源装置。
【請求項3】
各前記チョッパ回路は、
接地配線および前記電源配線の間に直列に接続された第1および第2のスイッチング素子を含み、
前記リアクトルは、前記第1および第2のスイッチング素子の接続点と前記直流電源との間に接続されたコイル巻線を有し、
各前記チョッパ回路の前記コイル巻線は、共通のコアの異なる部位に巻回される、請求項1または2記載の電源装置。
【請求項4】
前記デューティ比制御部は、
前記電圧指令値および前記検出電圧に基づいて、前記複数のチョッパ回路の各々の電流指令値を設定するための電流指令値設定部と、
前記複数のチョッパ回路のそれぞれ対応して設けられた複数の電流制御部とを含み、
前記複数の電流制御部の各々は、前記複数のチョッパ回路のうちの対応するチョッパ回路の通過電流と前記電流指令値とに従って、前記対応するチョッパ回路のデューティ比を独立に設定するように構成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項5】
前記負荷は、
永久磁石型のモータジェネレータと、
前記モータジェネレータおよび前記電源配線の間で双方向の電力変換を行なうように構成されたインバータとを含み、
前記モータジェネレータの定格最高回転速度における誘起電圧は、前記電圧指令値設定部によって限定的に設定されるデューティ比に対応する前記多相コンバータによる前記電源配線の電圧のうちの最高値における前記モータジェネレータへの印加電圧よりも低い、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−109869(P2011−109869A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264836(P2009−264836)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】