説明

電界放出電子銃及びその制御方法

【課題】W(310)面からの放出電流の減衰の仕方の特徴を用いて、電界放出型電子源をより安定して使う方法の開示を目的とする。
【課題手段】本発明では、タングステンの<310>単結晶からなる電界放出電子源と、当該電子源が配置される真空室と、前記真空室を排気する排気系と、前記電子源と接続され、電流を流して前記電子源を加熱するフィラメントと、当該フィラメントに電流を流す電源と、当該電子源から放出される総電流量を測定する電流計と、を備える荷電粒子線装置であって、前記総電流量を定期的に測定し、当該総電流量が、最初の電子線放出直後の前記電子源からの総電流量、または前記フィラメントに電流を流した直後の前記電子線からの総電流量に対して所定の比率以下になったときに、前記電源が前記フィラメントに電流を流すように制御する制御部を備えることを特徴とする荷電粒子線装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界放出型電子銃及びその制御方法に関し、特にW<310>電界放出電子源を搭載した電子銃及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面に強電界が掛かると、真空との境界でポテンシャル障壁が傾斜を持つが、電界が107V/cm以上になると障壁が極めて薄くなり、トンネル効果で電子が真空中に放出される。これを電界放出と言う。放出電子のエネルギーのばらつきは小さく、0.3eV程度である。電界放出電子源は強電界を作るためにその先端は100nm程度の曲率半径に仕上げられている。
【0003】
電界放出電子源のスポット径の大きさは5〜10nmと小さいため、輝度が極めて高いのが特徴であり、高分解能SEMとTEM用の電子銃として多く用いられる。また、放出電子のエネルギー幅が小さいことから、低加速電圧でも高分解能が得やすい。
【0004】
一方で、室温で動作するためガス吸着によって放出電流が不安定になりやすく、超高真空が必要であること、放出電子によってイオン化された残留ガス分子の衝撃で陰極表面が荒れて最終的には陰極が破壊される可能性があること、などがある。そのため、特許文献1に記載のように、吸着ガスを除去するために時々フラッシングという陰極の瞬間的な加熱を行う。
【0005】
電界放出電子源としては通常、タングステン(W)の針(チップ)が用いられる。W電子源を1500K以上の温度でフラッシングを行うと吸着層が蒸発されて清浄表面が得られる。
【0006】
W表面が清浄な場合、図2の電界放出パターンが示すように、あらゆる面の中で相対的に仕事関数の低い(111)面と(310)面から主に電子が放出される。そこで電界放出電子源としては(111)面または(310)面が先端に配置される、W<111>或いはW<310>電界放出電子源が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−73521号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】B. Cho, Applied Physics Letters, Volume 91, (2007) P012105.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、W(310)面からの放出電流の減衰の仕方の特徴を見出した。この知識を用いて、電界放出型電子源をより安定して使う方法の開示を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、タングステンの<310>単結晶からなる電界放出電子源と、当該電子源が配置される真空室と、前記真空室を排気する排気系と、前記電子源と接続され、電流を流して前記電子源を加熱するフィラメントと、当該フィラメントに電流を流す電源と、当該電子源から放出される総電流量を測定する電流計と、を備える荷電粒子線装置であって、前記総電流量を定期的に測定し、当該総電流量が、最初の電子線放出直後の前記電子源からの総電流量、または前記フィラメントに電流を流した直後の前記電子線からの総電流量に対して所定の比率以下になったときに、前記電源が前記フィラメントに電流を流すように制御する制御部を備えることを特徴とする荷電粒子線装置を提供する。
【0011】
また、前記排気系は、前記真空室の圧力を、10-9Pa台以下に維持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、W<310>電界放出電子源本来の高輝度を有効に生かすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例になる構成を説明する図。
【図2】Wチップの電界電子放出パターン。
【図3】本発明で用いる電子源周辺の配置構造の一例を示す図。
【図4】本発明が解決しようとする課題を説明する実験結果を示す図。
【図5】本発明が解決しようとする課題を説明する実験結果を示す図。
【図6】本発明が解決しようとする課題を説明する実験結果を示す図。
【図7】本発明を用いた放出電流制御方法を説明する図。
【図8】本発明が解決しようとする課題を説明する実験結果を示す図。
【図9】本発明の放出電流制御方法の一実施例になる構成を説明する図。
【図10】本発明の放出電流制御方法の一実施例になる構成を説明する図。
【図11】本発明の放出電流制御方法の一実施例になる構成を説明する図。
【図12】本発明で用いる非蒸発ゲッターポンプとイオンポンプの配置構造の一例を説明する図。
【図13】本発明で用いるチタンサブレメーションポンプとイオンポンプの配置構造の一例を説明する図。
【図14】本発明で用いるクライオポンプの配置構造の一例を説明する図。
【図15】本発明で用いるタンデム方式ターボ分子ポンプ排気系の配置構造の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施例を説明する前に、本件発明の原理について説明する。
【0015】
電界放出電子源の清浄表面に残留ガス(例えば、水素)が吸着すると仕事関数が増加して放出電流量が減衰する。その減衰時間τは圧力Pと反比例関係がありτ・Pは一定である(非特許文献1)。従って減衰時間τの変化を測定することにより、電子源周辺の圧力の変化がわかる。
【0016】
図3で示すように電子顕微鏡では電子源から放出される電子線のトータルエミッション電流量(Ie)中でチップ先端の面から出る極一部のプローブ電流量(Ip)だけを用いる。
【0017】
以下、W<310>電界放出電子源の場合で実験した放出電流減衰の仕方について説明する。
【0018】
W<310>電界放出電子源の場合、フラッシング洗浄すると、その直後の放出電流の減衰は図4のようになる。図4の放出電流減衰曲線が示すようにIe,Ip共に減衰するが、時間の関数でそれぞれ異なる減衰曲線を描く。
【0019】
Ipの場合初期電流の90%程度までは非常にゆっくり減衰する。その後減衰が早くなり急激に電流量が落ちる。この落ちる領域を減衰領域IIIと名付ける。
【0020】
一方Ieの場合、図4で示すように減衰速度は大(領域I)→小(領域II)→大(領域III)の順に変化する。その後電子源の表面が完全にガスで覆われたらIe電流量は初期の数十分の一になるが、電流量変化は止まり安定になる。なお、通常の電子顕微鏡等では、電流量がフラッシング直後の数十分の一であるものの、この安定した領域を用いて使用している。
【0021】
Ie,Ipの異なる減衰様子は、水素吸着によるタングステン表面の仕事関数の変化が各面ごとに違うことから生じると考えられる。(111)面は水素吸着によって仕事関数が初期から増えるため、(111)面からの放出電流は初期値の数%程度まで減衰し続ける。一方(310)面は初期水素吸着では仕事関数が増えず、初期値の90%減衰時間をτ90とすると、平均的にτ90時間後本格的な減衰が始まる(図4のIp曲線)。Ieの主な成分は(111)面及び(310)面からの放出電流I(111)及びI(310)であり、また、本実験ではIpは放出電流I(310)である。
【0022】
したがってIeの速い初期減衰(領域I)は早いI(111)の初期減衰を反映していることがわかる。一方減衰末期(領域III)にIeの減衰が早くなるのは、IeとIpが同時に急速に減衰するためであり、つまりI(310)の減衰速度が急激に増えるためである。これを示す根拠として、W<310>電界放出電子源の先端面(310)面だけカーボンを吸着させ、Ipが減衰しないようにすると、(310)面からの放出電流減衰を反映する領域IIIで、Ieは図5で示すように減衰しなくなる。
【0023】
上記の実験結果から、W<310>電界放出電子源では、プローブ電流量Ipが領域IとIIで減衰しないのが特徴であることがわかった。
【0024】
次に、電子銃の真空度と放出電流量との関係について説明する。
【0025】
圧力10-8Pa台の従来電子銃では、図6で示すように放出電流が完全に減衰した後、引出電圧を上げてトータルエミッション電流Ieを初期値(通常〜10μA)に戻してから本格的な電子顕微鏡像の観察が始まる。
【0026】
しかしIeを初期値に上げても、プローブ電流Ipは減衰前初期値の半分以下の電流量にしか上がらない。これは像観察に使うチップ先端(310)面からの電子線の輝度が、減衰後半分以下に落ちることを意味する。トータルエミッション電流Ieを変えながら測定した放射角電流密度(単位立体角あたりのプローブ電流)I′データも、減衰後はI′が減衰前に比べて半分以下になることを示す。10-8Pa台の従来の電界放出電子源を搭載した電子顕微鏡で像を観察するときは、高輝度が要求される場合は(310)面からのIpが減衰する前(τ90)の約15分間で観察を行う。
【0027】
一方、電子銃の真空を圧力10-9Pa台まであげると、図7で示すようにτ90が10倍弱増えて、減衰前の安定した像観察時間が数時間まで延びることがわかった。本格的に減衰が始まる時刻にあわせてフラッシングすると、従来電子銃のような減衰時間待ちをすることなく即座で高輝度像の観察ができる。
【0028】
これらの知識を用いて、本格的に減衰が始まる時刻にあわせてフラッシングすれば、長時間非常に大きい放出電流(高輝度)で長時間の観察が可能となる。さらに、圧力10-9Pa台まであげれば、フラッシング間隔は長くなり、実用的にも優れた電子顕微鏡となる。
【実施例1】
【0029】
フラッシングのタイミングとして、実際のIpを測定する電流計を備え、Ipが本格的に減衰する時刻であるIpが初期値の90%になったタイミング(τ90)をモニターし、その時点で制御装置にフラッシングの制御を行うようにする。
【0030】
一方、電子源表面に水素以外のガス分子が残った場合、或いはアノード等の周辺電極が汚れている場合等は別の方式で行う方がよい場合がある。
【0031】
電子顕微鏡の電子源としてW<310>電界放出電子源を用いる場合、プローブ電流Ipの本格的な減衰が始まる時間をτf(図4においては、安定領域(領域I及びII)と減衰領域(領域III)の境界)とすると、τfにあわせてフラッシングを行うと常に高輝度像観察ができる。τfは通常τ90に近いが電子源の表面状態によっては、図8に示すようにτ90とは異なる時間で本格的な減衰が始まる。
【0032】
図8(a)は電子源表面が清浄な場合の減衰曲線で、τ90付近で本格的な減衰が始まる。一方電子源表面に水素以外のガス分子が残った場合、或いはアノード等の周辺電極が汚れている場合は図8(b)のように放出電流の初期減衰が比較的早くなり、本格的な減衰はτ90より後で始まる。プローブ電流Ipは電子源先端の(310)面の狭いナノ領域から放出されるので、電子源表面状態に敏感になるためである。
【0033】
電子源表面と周辺部品の汚れはありうることなので、Ipをモニターしてτ90を探す方法とは異なる方法も必要になる。方法は以下のとおりである。
【0034】
トータルエミッション電流Ieは電子源全体表面から放出するため、電子源先端一部から出るプローブ電流Ipに比べノイズが小さく、初期表面清浄度や周辺部品のガス放出による減衰曲線の偏差も少ない。IeとIpの減衰曲線を比較してみると、図7で示すようにIpの本格的な減衰が始まる時間τfとIeの50%減衰時間τe50が圧力に関係なくほぼ一致することがわかった。Ipが本格的に減衰する前の領域I及びIIで電子顕微鏡像を観察するためには、トータルエミッション電流Ieをモニターしてτe50付近でフラッシングを行う方法でプローブ電流Ipをコントロールする方法が、より正確なフラッシングのタイミングを正確に取得する上で有効である。本発明では、W<310>単結晶電界放出電子源を搭載する超高真空電子銃において、図4で示すように(310)面から放出するプローブ電流Ipがフラッシング直後の高輝度の領域I及びIIを経て減衰領域に入る時間τfを、トータルエミッション電流Ieをモニターすることで把握する。電子源表面を洗浄するため行うフラッシングは、プローブ電流Ipが本格的に減衰する時間τfに合わせて実施し、(310)面から放出する電子線が高輝度を維持する領域I及びIIで電子顕微鏡の像観察を行う。
【実施例2】
【0035】
次に、電子源周辺の圧力について説明する。
【0036】
高輝度観察時間を数時間以上延ばすには、構成する部品を圧力10-3Pa台以下の真空炉で400℃以上加熱する脱ガス及び電界研磨を実施しガス放出量を減らした電子銃にW<310>単結晶電界放出電子源を搭載し、10-9Pa台以下に下げられる排気系を用いて電子源周辺の圧力を10-9Pa台以下に維持する。
【実施例3】
【0037】
以下、上記説明した本発明を実施するための具体的な形態を図面に基づき詳述する。
【0038】
図1は、本発明の一実施例である超高真空電子銃とその制御系の構成を示した概略図である。本実施例では、超高真空電子銃は、W<310>単結晶針を用いたW<310>電界放出電子源1と真空室2を有する。真空室2の電子銃室内の圧力は10-9Pa台以下の超高真空に維持される。なお、本実施例は、実施例1の発明と、実施例2の発明を併用したものであるが、いずれか一方の発明を用いることも可能である。
【0039】
同図において、超高真空電子銃は電子源としてW<310>単結晶ワイヤをエッチングして作製したW<310>電界放出電子源1を配する真空室2,超真空室を2排気する排気系11,電流を流してW<310>電界放出電子源1を加熱させるフラッシング用のタングステンのフィラメント6,フィラメント6に電流を流せるフラッシング電源7,W<310>電界放出電子源1から放出するトータルエミッション電流Ieを測定する電流計8,電流計8から送られたIeの測定値でW<310>電界放出電子源1の適切なフラッシング時間を判断しフラッシング電源7がフィラメント6に電流を流してW<310>電界放出電子源1を洗浄するようにコントロールする電子源制御部4,電子源制御部4にフラッシングタイミング,時間,フラッシング電流量等を決めるパラメータを入力する操作部5を備える。
【0040】
フラッシングはフィラメント6に一定時間電流を流し、通電加熱によってW<310>電界放出電子源1の温度をたとえば1500K以上に上げることで行う。電流を流す時間は最大数秒程度であり、表面の状態によって複数回行う。フラッシングは図4で示すようにIpの本格的な減衰が始まる時間τfに合わせて行うと、より効果的に高輝度安定領域I及びIIで電子顕微鏡像観察ができる。
【0041】
フラッシングのタイミングは以下の手順で決める。操作部5で入力された電流,電圧,パワー,時間等のパラメータに合わせてフラッシング電源7を制御しフラッシングを行う。W<310>電界放出電子源1表面がフラッシングで清浄になったら、電子源制御部4は引き出し電源9を制御し、引き出し電極3に正の引き出し電圧を掛け、操作部5で決められたトータルエミッション電流値Ie0の電子線をW<310>電界放出電子源1から放出させる。その直後電子源制御部4は電流計8で測定した電流値Ie0をメモリに保管する。W<310>電界放出電子源1から電子線が放出される間、電流計8はトータルエミッション電流測定値Ieを数秒間隔で測定し、測定値を電子源制御部4に送る。電子源制御部4は送られてきたトータルエミッション電流測定値Ieをメモリに保管した初期値Ie0と比較し、測定値Ieが図7で示すようにトータルエミッション電流値Ieが初期値の50%付近の決められた割合Rx Ie0(例えば、30%〜70%の決められた値)以下になるとフラッシングを行い、プローブ電流の減衰を防ぐ。
【0042】
フラッシングのタイミングは、電子源制御部4がIe≦Rx Ie0を検出した時点で自動的に行う。ただし、電子源制御部4は、電子顕微鏡の稼動状態をモニターし、二次電子画像,反射電子画像,EDXマッピング像,EELSマッピング像などの電子顕微鏡画像やEDX,WDX,EELSなどのスペクトルを取得している間はフラッシングを行わないようにし、上記画像,スペクトルを所得した一定時間後にフラッシングを行うように制御する。
【0043】
他の方法として、電子源制御部4は、Ie≦Rx Ie0から電子顕微鏡の稼動状態のモニターを開始し、電子顕微鏡操作者が、電子顕微鏡観察を中断した時に、自動的にフラッシングを行う。たとえば試料交換のタイミングを検知して、試料交換中に自動的にフラッシングを行う。
【0044】
他の方法として、W<310>電界放出電子源1と試料との間の電子線通路を遮断するバルブ動作のタイミングを検知して、バルブがW<310>電界放出電子源1と試料との間を遮断している間に自動的にフラッシングを行う。
【0045】
他の方法として、電子顕微鏡操作者の焦点調整,視野移動,倍率調整などの操作状況を監視し、ある一定時間電子顕微鏡の操作を行わない場合に、自動的にフラッシングを行う。
【0046】
但し、電子源制御部4がIe≦Rx Ie0から電子顕微鏡の稼動状態のモニターを開始して、電子顕微鏡操作者が電子顕微鏡観察を中断しない場合には、モニターを開始して一定時間後、あるいは、たとえば、R′<RとなるR′をあらかじめ定めておき、Ie≦R′x Ie0になった時点で、フラッシングを自動的に行うように電子源制御部4が制御するようにしても良い。
【0047】
また、電子源制御部4は、Ie≦Rx Ie0になった時点で、操作者の観察モニター上に、フラッシングを促すメッセージを表示する命令を実行して、操作部に配置されたフラッシング開始ボタンを操作者が実行することで、マニュアルでフラッシングを実施しても良い。
【0048】
微小電流計を用いたトータルエミッション電流値Ieの測定方法について説明する。加速電圧V0が低く、W<310>電界放出電子源1,フィラメント6,引き出し電極3,加速電源10を含む高電圧側からのリーク電流が少ない場合は、図1と図9で示すように微少電流計をW<310>電界放出電子源1側,引き出し電極3側どちらの配線に直列配置して電流値を測定しても良い。
【0049】
一方高い負の加速電圧V0が掛かる場合、図10,図11で示すように高圧側にリーク電流が発生する場合がある。
【0050】
図10で示すようにW<310>電界放出電子源1に掛かる電圧は一定値V0を維持する。引き出し電極に正の引き出し電圧を掛けると、引き出し電源9とW<310>電界放出電子源1との間に配する電流計A213に流れる電流量はリーク電流IL1からIe+IL1に増加する。従って引き出し電圧印加前後の電流値の差分を取ればW<310>電界放出電子源1からの放出電流量に相当する。
【0051】
図11で示すように細いワイヤ等で作製し電子線が殆ど当たらないようにした極細引き出し電極15を採用し、電子線が当たるグラウンド側にファラデーカップ23を設けると、ファラデーカップ23は電圧が0に近いためリーク電流が発生しなくなる。ファラデーカップ23とグラウンドの間に電流計A314で測れる電流値はファラデーカップ23の絞りを抜ける電流Ipを除いた値Ie−Ipになるが、IpがIeに比べて小さいため電流計A314で測れる電流値をIeとして用いても良い。
【0052】
W<310>電界放出電子源1搭載電子銃で、電子源先端(310)面から放出されるプローブ電流Ipが高輝度安定であるフラッシング直後から減衰前の間に(図4の領域I,II)用いるためには、領域I,IIの時間を伸ばす必要がある。W<310>電界放出電子源1が配する真空室2の圧力を10-9Pa台以下に維持すると、領域I,IIの時間は30分以上になる。本発明ではW<310>電界放出電子源1搭載電子銃の真空系を下記するように構築することで、上記W<310>電界放出電子源1搭載電子銃周辺の圧力を10-9Pa台以下にする。
【0053】
上記W<310>電界放出電子源1が配する真空室2中の全ての部品と真空容器は300℃以上加熱可能な材料で作製し、10-3Pa台以下の圧力を維持する真空炉で1時間以上脱ガスを行う。脱ガス前金属部品を研磨するとよりガス放出量が減るが、必修ではない。
【0054】
上記W<310>電界放出電子源1が配する真空室2の排気系として、図12で示すように非蒸発ゲッターポンプ16と1l/s以上の排気速度を持つイオンポンプ17を併用する。
【0055】
別の方法として、上記W<310>電界放出電子源1が配する上記真空室2の排気系として、図13で示すようにチタンサブレメーションポンプ18とイオンポンプ17を併用する。
【0056】
また、別の方法として、上記W<310>電界放出電子源1が配する上記超高真空真空室2の排気系として、図14で示すようにクライオポンプ19を用いる。
【0057】
さらに、別の方法として、上記W<310>電界放出電子源1が配する真空室2の排気系として、図15で示すように上記超高真空真空室2は100l/s以上の排気速度を持つ1段ターボ分子ポンプ20で排気し、上記1段ターボ分子ポンプ20の排出口に2段ターボ分子ポンプ21を、上記2段ターボ分子ポンプ21の排出口には補助ポンプ22を着けて排気を行う。
【0058】
上記のような手法により、上記W<310>電界放出電子源1周辺の圧力を10-9Pa台以下にすると、領域I及びIIの時間を伸ばすことができ、W<310>電界放出電子源本来の高輝度を有効に生かすことができる。
【符号の説明】
【0059】
1 W<310>電界放出電子源
2 真空室
3 引き出し電極
4 電子源制御部
5 操作部
6 フィラメント
7 フラッシング電源
8 電流計
9 引き出し電源
10 加速電源
11 排気系
12 電流計A1
13 電流計A2
14 電流計A3
15 極細引き出し電極
16 非蒸発ゲッターポンプ(NEG)
17 イオンポンプ
18 チタンサブレメーションポンプ
19 クライオポンプ
20 1段ターボ分子ポンプ
21 2段ターボ分子ポンプ
22 補助ポンプ
23 ファラデーカップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンの<310>単結晶からなる電界放出電子源と、
当該電子源が配置される真空室と、前記真空室を排気する排気系と、
前記電子源と接続され、電流を流して前記電子源を加熱するフィラメントと、当該フィラメントに電流を流す電源と、当該電子源から放出される総電流量を測定する電流計と、を備える荷電粒子線装置であって、
前記総電流量を定期的に測定し、当該総電流量が、最初の電子線放出直後の前記電子源からの総電流量、または前記フィラメントに電流を流した直後の前記電子線からの総電流量に対して所定の比率以下になったときに、前記電源が前記フィラメントに電流を流すように制御する制御部を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、当該総電流量が、電子線放出直後あるいは前記フィラメントに電流を流した直後の総電流量に対して半分になったときに、前記電源が前記フィラメントに電流を流すように制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1の荷電粒子線装置において、
制御部にフィラメントに電流を流す時期,電流を流す時間、及び電流量を決めるパラメータを入力する操作部を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1の荷電粒子線装置において、
前記排気系は、前記真空室の圧力を10-9Pa台以下に維持することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1の荷電粒子線装置において、
前記フィラメントに一定時間1回又は複数回電流を流し、通電加熱によって前記電子源の温度を1500K以上にあげることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、試料から放出された信号を検出している間は、前記電子源に電流を流す制御を中止することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1の荷電粒子線装置において、
前記制御部は、当該荷電粒子線装置が操作されている間は、前記電子源に電流を流す制御を中止することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1の荷電粒子線装置において、
当該荷電粒子線装置はモニターを備え、
前記制御部は、当該総電流量が、最初の電子線放出直後の前記電子源からの総電流量、または前記フィラメントに電流を流した直後の前記電子線からの総電流量に対して所定の比率以下になったときに、前記モニター上に、前記フィラメントに電流を流すことを促すメッセージを表示することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記引き出し電極は金属の細線からなり、電子線が当たるグラウンド側にファラデーカップを設け、前記ファラデーカップとグラウンドの間に電流計を配置することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項4記載の荷電粒子線装置において、
前記真空室内部品及び真空室は、300℃以上加熱可能な材料で作製され、10-3Pa台以下の圧力を維持する真空炉で1時間以上300℃以上の温度で脱ガスの処理が施されたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項4記載の荷電粒子線装置において、
前記排気系として非蒸発ゲッターポンプと1l/s以上の排気速度を持つイオンポンプを併用することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項4記載の荷電粒子線装置において、
前記排気系として、チタンサブレメーションポンプ
とイオンポンプを併用することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項4記載の荷電粒子線装置において、
前記排気系として、クライオポンプ
を用いることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項4記載の荷電粒子線装置において、
前記排気系として、100l/s以上の排気速度を持つ1段ターボ分子ポンプと、前記1段ターボ分子ポンプの排出口に配置された2段ターボ分子ポンプと、前記2段ターボ分子ポンプの排出口に配置された補助ポンプからなることを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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