説明

電磁制振装置、電磁制振制御プログラム

【課題】上位コンピュータから蛇行量が提供されない使用環境下であっても、専用のエッジ位置検出センサや蛇行量検出機器を必須の構造とすることなく、通常の姿勢で走行する鋼板の振動は勿論のこと、幅方向に蛇行して走行する鋼板の振動を適切に抑制することが可能な電磁制振装置を提供する。
【解決手段】電磁石対2を鋼板Sの幅方向に複数並べ、制御部4によって各電磁石対2の電磁石2A,2B間を走行する鋼板Sの振動を抑制する電磁制振装置1において、電磁石対2に付帯させたセンサのオン・オフ状態の切替に基づいて鋼板Sの疑似変位量を算出する疑似変位量算出手段と、疑似変位量に基づいて鋼板Sの疑似エッジ位置を算出する疑似エッジ位置算出手段と、疑似エッジ位置に基づいて電磁石2A,2Bに流す電流量を個別に制御する電流量制御手段とを備えた制御部4を適用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁石から出力する電流によって、搬送中の鋼板が振動することを防止・抑制可能な電磁制振装置、及びこのような電磁制振装置に適用可能な電磁制振制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば連続溶融亜鉛メッキラインにおいて、溶融亜鉛槽を通過して引き上げられながら走行する鋼板に対して、エアーナイフ部(例えば空気ノズルを用いて構成したもの)から加圧空気又は加圧ガスを噴出させることによって過剰な溶融亜鉛を吹き落とし、所望のメッキ厚みにすることが行われている。このような場合、鋼板がエアーナイフ部に対して接離する方向に振動すれば、ノズルと鋼板との距離が変動し、その結果、鋼板が受ける圧力(噴射力)が変動してメッキの厚みが不均一となり、品質の劣化を招くことがある。
【0003】
そこで、走行する鋼板を挟む位置に対向配置した電磁石に流す電流を制御することにより、電磁石の吸引力を制御し、走行する鋼板の振動を低減する電磁制振装置が考えられている(例えば特許文献1)。この種の電磁制振装置は、鋼板との相対位置(距離)を検知する変位センサを各電磁石に関連付けて設けた組を鋼板の幅方向に複数配置し、各変位センサが検出する鋼板との相対位置(距離)に基づいて各電磁石に流す電流を制御するように構成されている。
【0004】
ところで、対向する電磁石間を走行する鋼板は幅方向に蛇行する場合がある。そして、蛇行が発生した前後では鋼板のエッジ位置(端縁)が変化するため、このエッジ位置の変化に応じて各電磁石の出力電流を調節する制御仕様が要求されている。
【0005】
そこで、特許文献1には、走行中の鋼板のエッジ位置を常時検出できるように、鋼板のエッジ位置に対向し得る位置に変位センサとは別のセンサ(エッジ位置検出センサ)を鋼板の幅方向に所定ピッチで複数配置し、各エッジ位置検出センサによって鋼板が存在するか否かを判定し、鋼板の存在を検出した場合には、そのエッジ位置検出センサに対応付けている電磁石を駆動させる一方、鋼板の存在を検出しない場合には、そのエッジ位置検出センサに対応付けている電磁石の駆動を停止するように構成した態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−179834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した態様では変位センサに加えて、エッジ位置を検出する目的のために別のセンサを複数配置する構成が必須であり、しかも、鋼板の種類(板幅等)に応じて蛇行した際の鋼板の最大振り幅(蛇行量)を考慮してエッジ位置検出センサの配置領域を設定しなければならず、この配置設定が不適切であれば鋼板に対する制振を安定して行うことができず、適切な制御が困難になるという問題が想定される。また、より精度の高い検出結果を得るようにするためにエッジ位置検出センサの数や配置密度を増加した場合には、さらなる構造の複雑化及びコスト高を招来するという問題があった。なお、鋼板の種類に応じてエッジ位置検出センサの取付位置を変更する態様も考えられ得るが、鋼板の種類が変わる度に取替作業が要求され、作業効率が低下する。
【0008】
そこで、本出願人は、エッジ位置検出用の専用センサを必須の構造とすることなく、走行する鋼板の振動を適切に抑制することが可能な電磁制振装置として、入力された鋼板の幅寸法及びリアルタイムリアルタイム又は所定時間毎に入力された鋼板の幅方向への変位量に基づいて鋼板のエッジ位置を演算して求める疑似エッジ位置算出手段と、疑似エッジ位置算出手段で求めた鋼板のエッジ位置に基づいて電磁石に流す電流量を個別に制御する電流量制御手段とを備えた電磁制振装置を開発し、既に特許出願している(特願2010−64841)。
【0009】
しかしながら、上記態様は、電磁制振装置とは別の装置(例えば上位コンピュータ等)又は電磁制振装置の一部(例えば蛇行量検出機器等)から鋼板の幅方向への変位量(蛇行量)が入力されることが前提である。したがって、この前提条件が満たされない使用条件下では、電磁制振装置自体で鋼板の変位量を判断し、制振制御を行うことが望ましいと考えられた。
【0010】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、エッジ位置検出用の専用センサや特別な蛇行量検出機器を必須の構造とすることなく、また上位コンピュータなどから蛇行量に関する情報が提供されない使用環境下においても、通常の姿勢で走行する鋼板の振動は勿論のこと、幅方向に蛇行して走行する鋼板の振動を適切に抑制することが可能な電磁制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、所定方向に走行する鋼板の厚み方向に対向配置した電磁石の組である電磁石対を鋼板の幅方向に複数並べ、各電磁石に流す電流を制御する制御部によって各電磁石対の電磁石間を走行する鋼板の振動を抑制する電磁制振装置に関するものである。ここで、本発明では、鋼板の搬送方向は特に限定されず、引き上げながら電磁石の間を通過するようにした鋼板、または引き下げながら電磁石の間を通過するようにした鋼板、或いは水平に移動しながら電磁石の間を通過するようにした鋼板、これら何れの方向に搬送される鋼板であっても本発明の電磁制振装置の制振対象になる。
【0012】
そして、本発明に係る電磁制振装置は、複数の電磁石対を幅方向に配置した電磁石対領域の幅方向中央部又は幅方向中央部近傍に配置される電磁石対を除く各電磁石対に、当該電磁石対の電磁石間における鋼板の存否を検出可能なセンサを付帯させ、制御部として、幅方向に蛇行していない正規状態における鋼板の幅方向中央位置である鋼板中央位置から、電磁石対の電磁石間に鋼板の存在を検出したオン状態から電磁石対の電磁石間に鋼板の存在を検出しないオフ状態に切り替わったセンサのうち電磁石対領域の幅方向中央部に最も近いセンサの位置、又はオフ状態からオン状態に切り替わったセンサのうち電磁石対領域の幅方向中央部から最も遠いセンサの位置の少なくとも何れか一方のセンサの位置に基づく切替センサ基準位置までの距離と、鋼板の幅寸法の半分の長さとの差を鋼板の疑似変位量として算出する疑似変位量算出手段と、疑似変位量算出手段で算出した疑似変位量に基づいて鋼板の疑似エッジ位置を演算して求める疑似エッジ位置算出手段と、疑似エッジ位置算出手段で求めた鋼板の疑似エッジ位置に基づいて電磁石に流す電流量を個別に制御する電流量制御手段とを備えたものを適用したことを特徴としている。なお、鋼板の幅寸法を制御部に対して出力する出力源は電磁制振装置とは別の装置(例えば上位コンピュータ等)又は電磁制振装置の一部の何れであってもよい。また、鋼板の疑似変位量を算出するタイミングや、疑似変位量に基づいて鋼板の疑似エッジ位置を算出するタイミングは、リアルタイム又は所定時間毎であればよい。
【0013】
このような電磁制振装置であれば、制御部の疑似変位量算出部により、オン状態からオフ状態に切り替わったセンサのうち電磁石対領域の幅方向中央部から最も近いセンサ(最内側のセンサ)の位置、又はオフ状態からオン状態に切り替わったセンサのうち電磁石対領域の幅方向中央部から最も遠いセンサ(最外側のセンサ)の位置に基づいて切替センサ基準位置を決定し、この切替センサ基準位置と鋼板の幅寸法に関する情報を利用して鋼板の疑似変位量(鋼板の疑似蛇行量)を演算して求め、この疑似変位量に基づいて疑似エッジ位置算出手段により鋼板の疑似エッジ位置を演算して求めるように構成しているため、上位コンピュータなどの外部から制御部に対して鋼板の実際の変位量(蛇行量)に関する情報が入力されない使用環境下であっても、鋼板のエッジ位置を検出するためのセンサを配置することなく、鋼板のおおよそのエッジ位置(疑似エッジ位置)を特定することができる。そして、疑似変位量算出部では、オン状態とオフ状態との間で切り替わったセンサの位置情報(切替センサ基準位置)に基づいて鋼板のおおよその変位量を疑似変位量として求めるが、この疑似変位量は鋼板の実際の変位量と一致する可能性は低い。しかしながら、実際の変位量と疑似変位量との誤差は、通常隣り合うセンサ同士の離間寸法より大きくなることはなく、このような疑似変位量に基づいて算出した疑似エッジ位置と鋼板の実際のエッジ位置との誤差も隣り合うセンサ同士の離間寸法より大きくなることはない。そして、このような誤差が実際の運用上において問題となり難い点に着目し、本発明者は疑似変位量を積極的に利用して疑似エッジ位置算出手段で鋼板の疑似エッジ位置を算出し、この疑似エッジ位置に基づいて電流量制御手段により各電磁石に流す電流を個別に調整する構成を想到するに至った。このような構成を採用することにより、上位コンピュータなどの外部から制御部に対して鋼板の実際の変位量(蛇行量)に関する情報が入力されない使用環境下であっても、鋼板のエッジ位置を検出するためのセンサを配置することなく、通常の姿勢で走行する鋼板及び幅方向に蛇行して走行する鋼板の振動を適切に抑制することができる。
【0014】
また、本発明の電磁制振装置では、電流量制御手段が「電流量制御」として電流の出力強度を制御するものであってもよいが、簡単な制御仕様とする場合には、電磁石を励磁状態と無励磁状態との間でのみ切り替えること(電流のオン・オフ)によって各電磁石からの出力電流量をゼロかゼロ以上の所定値の何れかに設定するようにする態様を採用することが好ましい。
【0015】
この場合、電流量制御手段による好適な制御態様としては、各電磁石のうち、疑似エッジ位置算出手段で求めた鋼板の疑似エッジ位置よりも鋼板の幅方向中央側に存在する電磁石を励磁状態とし、それ以外の電磁石を無励磁状態とするものが挙げられる。
【0016】
さらに、本発明に係る電磁制振装置の制御部では、前記疑似エッジ位置算出手段で求めた鋼板の疑似エッジ位置が電磁石間に存在する電磁石対を電流制御手段で特定し、この特定した電磁石対(エッジ位置特定電磁石対)において疑似エッジ位置がどこに存在するかによってこのエッジ位置特定電磁石対を構成する電磁石の電流量を調節することができる。具体的な制御部の制御態様としては、複数の電磁石対を配置した電磁石対領域とした場合に、エッジ位置特定電磁石対において疑似エッジ位置が電磁石対を構成する電磁石の幅方向中央を中心として設定された所定値よりも電磁石対領域の幅方向エンド(端部)側にあると判別した場合には、エッジ位置特定電磁石対を構成する電磁石を励磁状態とし、疑似エッジ位置が所定値よりも電磁対領域の幅方向中央側にあると判別した場合にエッジ位置特定電磁石対を構成する電磁石を無励磁状態とする電流制御信号を出力する態様が挙げられる。
【0017】
また、本発明の電磁制振制御プログラムは、上述した構成をなす電磁制振装置に適用されるプログラムであり、幅方向に蛇行していない正規状態における鋼板の幅方向中央位置である鋼板中央位置から、オン状態からオフ状態に切り替わったセンサのうち電磁石対領域の幅方向中央部に最も近いセンサの位置、又はオフ状態からオン状態に切り替わったセンサのうち電磁石対領域の幅方向中央部から最も遠いセンサの位置の少なくとも何れか一方に基づく切替センサ基準位置までの距離と、鋼板の幅寸法の半分の長さとの差を鋼板の疑似変位量として算出する疑似変位量算出ステップと、疑似変位量算出ステップで算出した疑似変位量に基づいて鋼板の疑似エッジ位置を演算して求める疑似エッジ位置算出ステップと、疑似エッジ位置算出ステップで求めた鋼板の疑似エッジ位置に基づいて電磁石に流す電流量を個別に制御する電流量制御ステップとを経ることを特徴としている。このような電磁制振制御プログラムであれば蛇行して走行する鋼板に対しても走行中の振動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電磁制振装置によれば、上位コンピュータから鋼板の蛇行量が提供されない使用環境下であっても、専用のエッジ位置検出センサや蛇行量検出機器を必須の構造とすることなく、通常の姿勢で走行する鋼板の振動を適切に抑制することができるとともに、蛇行して走行する鋼板の振動も効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る電磁制振装置の全体構成模式図。
【図2】図1のa方向模式矢視図。
【図3】同実施形態に係る電磁制振装置における制御部の機能ブロック図。
【図4】同実施形態に係る電磁制振装置に用いる電磁制振制御プログラムのフローチャート。
【図5】同実施形態における疑似変位量を算出する際の概念図。
【図6】同実施形態における疑似変位量を算出する際の概念図。
【図7】同実施形態における疑似変位量を算出する際の概念図。
【図8】同実施形態における疑似変位量を算出する際の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態に係る電磁制振装置1は、図1に示すように、連続メッキ鋼板ラインLにおいて、溶融金属槽(実施形態では溶融亜鉛槽Zを適用)よりも下流側に配設され、溶融亜鉛槽Zを通過して引き上げられながら走行する鋼板Sの振動を抑制するものである。なお、図1では鋼板Sを側面から見た状態を模式的に示し、図2では図1のa方向矢視図を模式的に示している。
【0022】
連続メッキ鋼板ラインL(特に溶融亜鉛を用いるメッキ鋼板ラインは「連続溶融亜鉛メッキライン」(CGL;Continuous Galvanizing Line)と称される)は、溶融亜鉛槽Zと電磁制振装置1との間に、噴出口を鋼板Sに向けたノズルA1を備えたエアーナイフ部Aを設け、溶融亜鉛槽Zを通過して引き上げられながら走行する鋼板Sに対して各ノズルA1の噴出口から加圧空気又は加圧ガスを噴出させることによって過剰な溶融亜鉛を吹き落とすようにしている。溶融亜鉛槽Z及びエアーナイフ部Aは既知のものを適用することができ、詳細な説明は省略する。
【0023】
電磁制振装置1は、図1及び図2に示すように、鋼板Sを厚み方向に挟み得る位置に対向配置した第1電磁石2A及び第2電磁石2Bの組である電磁石対2を鋼板Sの幅方向に所定ピッチで複数配置したものである。各電磁石対2を構成する第1電磁石2A、第2電磁石2Bは、それぞれ断面コ字形状ないし略コ字形状をなす鉄心21と、鉄心21の各脚部に巻回されたコイル22とから構成され、コイル22に給電するか否かによって鉄心21から磁気吸引力を出力可能な励磁状態と、鉄心21から磁気吸引力を出力しない無励磁状態との間で切替可能であり、コイル22への給電量によって磁気吸引力の強弱を調整可能な既知のものである。本実施形態では、図2に示すように、複数の電磁石対2を鋼板Sの幅方向に所定ピッチで配設しており、以下の説明では、これら複数の電磁石対2を配設した領域を「電磁石対領域2X」とする。
【0024】
電磁制振装置1には、各第1電磁石2A、各第2電磁石2Bのうち鋼板Sに対向する面に鋼板Sまでの距離を検出する第1センサ3A及び第2センサ3Bを設けている。本実施形態では、例えば渦電流式のセンサ3A,3Bを適用し、これらセンサ3A,3Bを各電磁石2A,2Bの凹部(鉄心21の脚部に挟まれ得る位置)に配置している。第1センサ3A及び第2センサ3Bは、検出面をそれぞれ対応する各電磁石2A,2Bの磁極面と同一面又はほぼ同一面に設定され、鋼板Sを挟んで対向する位置に設けられている。第1センサ3A及び第2センサ3Bは、鋼板Sまでの距離d1、d2を検出し、それぞれの検出結果を検出信号として制御部4に出力するものである。なお、本実施形態では、センサ3A,3Bの検出面全体が鋼板Sによって完全ないし略完全に覆われた状態でのみ、センサ3A,3Bが鋼板Sまでの距離を検出できるように設定している。各電磁石対2には一対のセンサ3A,3Bが対応付けられており、以下の説明では1つの電磁石対2に対応付けて設けた一対のセンサ3A,3Bを総称して単に「センサ3」と称する場合がある。ここで、図2に示すように、センサ3の中心(検知ポイント)を電磁石対2の幅方向中央2cに一致または略一致させたレイアウトを採用したり、図5に示すように、センサ3の中心(検知ポイント)を各電磁石対2の端部、より具体的には電磁石対2のうち電磁石対領域2Xの幅方向中央部2Xcから相対的に遠い方の端部と一致または略一致させたレイアウトを採用することもできる。また、図2及び図5に示すように、全ての電磁石対2のうち、電磁石対領域2Xの幅方向中央部2Xcに配置された電磁石対2(図5で「iv」を付した電磁石対2)にはセンサ3を設けていない。これは、電磁石対領域2Xの幅方向中央部2Xcに配置された電磁石対2を鋼板Sのエッジ位置が通過する程度までに鋼板Sが蛇行することは想定し難いからである。なお、電磁石対領域2Xの幅方向中央部2Xcに配置された電磁石対2にもセンサ3を設け、このセンサ3が電磁石対2の電磁石2A,2B間に鋼板Sの存在を検出したオン状態から電磁石対2の電磁石間2A,2Bに鋼板Sの存在を検出しないオフ状態に切り替わった時点で異常事態発生と判断して電磁制振装置1を強制停止するように構成してもよい。図2及び図5乃至図8では、正規状態の鋼板Sを実線で示し、蛇行した鋼板Sを一点鎖線または破線で示している。
【0025】
そして、本実施形態に係る電磁制振装置1は、各電磁石対2の電磁石2A,2Bに電気的に接続されてこれら各電磁石2A,2Bに流す電流量に基づく各電磁石2A,2Bの磁気吸引力を制御する制御部4を備えている。この制御部4が、各センサ3A,3Bにも電気的にも接続されている点、及び各センサ3A,3Bで検出した鋼板Sの位置情報(鋼板Sの振動情報)に基づいて鋼板Sの振動を抑制するように各電磁石2A,2Bの磁気吸引力を制御するものである点は周知の電磁制振装置と同様であるが、以下の点で本実施形態に係る電磁制振装置1は周知の電磁制振装置と異なる。
【0026】
すなわち、本実施形態の電磁制振装置1における制御部4は、図3に示すように、鋼板Sの移送中にオン状態とオフ状態との間で切り替わったセンサ3の位置を利用して鋼板Sの幅方向への疑似的な変位量(蛇行量)である疑似変更量α’を算出する疑似変位量算出手段41と、算出した疑似変位量α’(疑似蛇行量)に基づいて鋼板Sの疑似エッジ位置Se’を演算して求める疑似エッジ位置算出手段42と、疑似エッジ位置算出手段42で求めた鋼板Sの疑似エッジ位置Se’に基づいて電磁石2A,2Bに流す電流量を個別に制御する電流量制御手段43とを備えている。
【0027】
疑似変位量算出手段41は、幅方向に蛇行していない正規状態における鋼板Sの幅方向中央位置である鋼板中央位置Scから、オン状態からオフ状態に切り替わったセンサ3のうち電磁石対領域2Xの幅方向中央部2Xcに最も近いセンサ(最内側のセンサ)の位置、又はオフ状態からオン状態に切り替わったセンサ3のうち電磁石対領域2Xの幅方向中央部2Xcに最も遠いセンサ(最外側のセンサ)の位置の少なくとも何れか一方である「切替センサ基準位置3p」までの距離と、鋼板Sの幅寸法の半分の長さとの差を鋼板Sの疑似変位量α’として算出する。ここで、疑似変位量算出手段42は、鋼板中央位置Scから切替センサ基準位置3pまでの距離(仮蛇行幅)を算出する第1次算出部と、第1次算出部で算出した仮蛇行幅と鋼板Sの幅寸法の半分の長さとの差を算出する第2次算出部とによって鋼板Sの疑似変位量α’を算出するものと捉えることができる。
【0028】
疑似エッジ位置算出手段42は、疑似変位量算出手段41で算出した疑似変位量α’に基づいて電磁石対領域2Xを走行する鋼板Sの疑似エッジ位置Se’を演算して求めるものである。鋼板Sが蛇行せずに正常な姿勢で電磁石対領域2Xを走行する場合(正規状態)、図2及び図5の実線で示すように、鋼板Sの幅方向中央Scは電磁石対領域2Xの幅方向中央2Xcと一致しており、鋼板Sのエッジ位置Seは鋼板Sの幅方向中央Sc(=電磁石対領域2Xの幅方向中央2Xc)から鋼板Sの幅寸法の半分(2分の1)に等しい距離だけ離れた位置と一致ないし略一致する。ここで、鋼板Sの幅寸法を「W」で表すと、正規状態における鋼板Sのエッジ位置Seは電磁石対領域2Xの幅方向中央2Xcを基準として「1/2W」で表すことができる。
【0029】
そして、疑似エッジ位置算出手段42では、実際の蛇行量αではなく疑似蛇行量α’を用いて演算処理を行い、鋼板Sの疑似エッジ位置Se’を「1/2W±α’」として求めることができる。本実施形態では、図5乃至図8に示すように、鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が「切替センサ基準位置3p」と一致する関係にあり、この疑似エッジ位置Se’が、正規状態にある鋼板Sのエッジ位置「1/2W」よりも電磁石対領域2Xの幅方向中央2Xcから一方のエンド(図5乃至図8における右端のセンサ3「i」)側へ蛇行した場合にはその疑似エッジ位置Se’を「1/2W+α」として求め(図6及び図8参照)、鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が正規状態にある鋼板Sのエッジ「1/2W」よりも電磁石対領域2Xの幅方向中央2Xcから他方のエンド(図5乃至図8における左端のセンサ3「vii」)側へ蛇行した場合にはその疑似エッジ位置Se’を「1/2W―α」として算出するように設定している。
【0030】
このように、制御部4の疑似蛇行量算出手段41及び疑似エッジ位置算出手段42によって搬送中の鋼板Sの疑似エッジ位置Se’を算出することにより、本実施形態に係る電磁制振装置1は、例えば専用のエッジ位置検出器等によって検出した鋼板Sの実際のエッジ位置に基づく鋼板Sの蛇行量(蛇行量情報)を外部(例えば上位コンピュータ)から入力されない使用環境下でも、疑似エッジ位置Se’を利用して電流量制御手段43で電磁石2A,2Bに流す電流量を調整して適切な制振機能を発揮し得るものとなる。なお、上位コンピュータからラインL側の情報、つまり走行する鋼板Sに関する情報である板厚、板幅、鋼種、張力等が制御部4にリアルタイム又は予め設定された一定の時間毎に入力されるように構成してもよい。
【0031】
電流量制御手段43は、疑似エッジ位置算出手段42で求めた疑似エッジ位置「1/2W±α’」に基づき、当該疑似エッジ位置Se’が電磁石2A,2B間に存在する電磁石対2を特定し、この特定した電磁石対2(以下「エッジ位置特定電磁石対2(T)」と称す)よりも電磁石対領域2Xの幅方向中央2Xc側に配置している電磁石対2を構成する各電磁石2A,2Bを駆動可能な状態にするとともに、エッジ位置特定電磁石対2(T)よりも電磁石対領域2Xの幅方向エンド2Xe側に配置している電磁石対2を構成する電磁石2A,2Bを駆動させない状態にする。
【0032】
さらに、本実施形態の電流量制御手段43は、疑似エッジ位置算出手段42で求めた鋼板Sの疑似エッジ位置Se’である「1/2W±α’」に基づいて当該疑似エッジ位置「1/2W±α’」が電磁石2A,2B間に存在する電磁石対2を特定すると同時ないし略同時に、このエッジ位置特定電磁石対2(T)において疑似エッジ位置Se’が当該エッジ位置特定電磁石対2(T)を構成する電磁石2A,2Bの幅方向中央2cを中心にして設定した所定値2a(図2参照)よりも電磁石対領域2Xの幅方向エンド2Xe側にあるか否かを判別する。そして、電流量制御手段43は、鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が前記所定値2aよりも電磁石対領域2Xの幅方向エンド2Xe側にあると判別した場合(図2の1点鎖線で示す鋼板Sの紙面右側の疑似エッジ位置Se’)には当該エッジ位置特定電磁石対2(T)を構成する電磁石2A,2Bを励磁状態(On)にする一方で、鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が前記所定値2aよりも電磁石対領域2Xの幅方向エンド2Xe側にないと判別した場合(図2の1点鎖線で示す鋼板Sの紙面左側の疑似エッジ位置Se’)には当該エッジ位置特定電磁石対2(T)を構成する電磁石2A,2Bを無励磁状態(Off)にする。ここで、電流量制御手段43が、鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が所定値2aよりも電磁石対領域2Xの幅方向エンド2Xe側にないと判別する場合とは、鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が前記所定値2a内に存在している場合(図2の1点鎖線で示す鋼板Sの紙面左側の疑似エッジ位置Se’)、又は鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が前記所定値2aよりも電磁石対領域2Xの幅方向中央2Xc側に存在している場合(図示省略)である。なお、上述したように図5乃至図8では、各電磁石対2におけるセンサ3の配置箇所を、電磁石2A,2Bの幅方向中央2cから前記所定値2aよりも電磁石対領域2Xのエンド2Xe側に変位させた位置に設定した態様を例示している。なお、エッジ位置特定電磁石対2(T)を構成する電磁石2A,2Bの幅方向中央2cを中心として設定される「所定値2a」は適宜変更しても構わない。
【0033】
また、本実施形態の制御部4は、各センサ3A,3Bにより検知された鋼板Sと各電磁石2A,2Bとの距離、すなわち鋼板Sの振動情報(鋼板Sが振動しているか否か、振動している場合にはその振動度合い(振動量))に基づいて、鋼板Sの反りを矯正するように励磁状態にある電磁石2A,2Bに流す電流量の大小を制御し、鋼板Sの振動を抑制するものでもある。なお、制御部4は、図示しないが、各センサ3A,3Bからの出力信号が入力されるコントローラと、制御ゲインに関する指令等をコントローラに出力するシーケンサと、コントローラが出力した各電磁石2A,2Bに流す電流に関する指令(電流量制御情報(電流量制御信号))に基づいて各電磁石2A,2Bにそれぞれ電流を供給する第1アンプ、第2アンプとを備えたものであるが、これらコントローラ、シーケンサ、各アンプの詳細な説明は省略する。
【0034】
次に、このような構成を有する電磁制振装置1の使用方法及び作用について説明する。
【0035】
電磁制振装置1は、本実施形態に係る電磁制振制御プログラムを実行して以下のように各部を作動させる。まず、図1に示すように、溶融亜鉛槽Zを通過して引き上げられながら第1電磁石2Aと第2電磁石2Bとの間を走行する鋼板Sの疑似変位量α’を制御部4の疑似変位量算出手段41により算出する(疑似変位量算出ステップS1;図4参照)。具体的には、図5及び図6に示すように、正規状態では電磁石対領域2Xの幅方向両エンド2Xeの電磁石対2(図5及び図6に示す電磁石対「i」,「vii」)に付帯させたセンサ3がオフ状態となる幅寸法の鋼板Sが、電磁石対領域2Xの幅方向の一方のエンド側(図5では紙面左側、図6では紙面右側)に蛇行し、当該一方のエンド側2Xeに配置した電磁石対2に付帯させたセンサ3(図5では左端の電磁石対「vii」に付帯させたセンサ3、図6では右端の電磁石対「i」に付帯させたセンサ3)のみがオフ状態からオン状態に切り替わった場合、疑似変位量算出部41では、以下の手順で疑似変位量α’を算出する。つまり、オフ状態からオン状態に切り替わったセンサ3のうち、電磁石対領域2Xの幅方向中央部2Xcから最も遠いセンサ3(最外側のセンサ3)の位置を切替センサ基準位置3pとし、切替センサ基準位置3pから鋼板中央位置Scまでの距離を算出し、その距離と鋼板Sの幅寸法の半分の長さとの差を算出し、その算出値を疑似変位量α’とする。ここで、図5及び図6に示すように、鋼板Sの蛇行によりオン状態からオフ状態に切り替わるセンサ3が無い場合には、上述したオフ状態からオン状態に切り替わったセンサ(電磁石対viiに付帯させたセンサ3、又は電磁石対iに付帯させたセンサ3)のみに着目して疑似変位量α’を求めることができる。このような場合、つまり、鋼板Sが蛇行してオフ状態からオン状態に切り替わったセンサ3のみに着目して疑似変位量α’を求める場合の式は「(鋼板中央位置Scから切替センサ基準位置3pまでの距離)−鋼板Sの幅寸法の半分」となる。
【0036】
また、図7及び図8に示すように、例えば正規状態では電磁石対領域2Xの幅方向両エンド2Xcの電磁石対2(図7及び図8に示す電磁石対「i」,「vii」)に付帯させたセンサ3がオフ状態となる幅寸法であって且つ図5及び図6に示す鋼板Sよりも幅寸法が小さい鋼板Sが、電磁石対配置領域2Xの何れか一方のエンド2Xe側(図7では紙面左側、図8では紙面右側)に蛇行し、他方のエンド側に配置した電磁石対2に付帯させたセンサ3(図7では右から2番目の電磁石対「vi」に付帯させたセンサ3、図8では左から2番目の電磁石対「ii」に付帯させたセンサ3)がオン状態からオフ状態に切り替わった場合、疑似変位量算出部41では、以下の手順で疑似変位量α’を算出する。つまり、オン状態からオフ状態に切り替わったセンサ3のうち、電磁石対領域2Xの幅方向中央部2Xcに最も近いセンサ3(最内側のセンサ3)の位置を切替センサ基準位置3pとし、切替センサ基準位置3pからから鋼板中央位置Scまでの距離を算出し、その距離と鋼板Sの幅寸法の半分の長さとの差を算出し、その算出値を疑似変位量α’とする。ここで、図7及び図8に示すように、鋼板Sの蛇行によりオフ状態からオン状態に切り替わるセンサ3が無い場合には、上述したオン状態からオフ状態に切り替わったセンサ3(図7では右から2番目の電磁石対「vi」に付帯させたセンサ3、図8では左から2番目の電磁石対「ii」に付帯させたセンサ3)のみに着目して疑似変位量α’を求めることができる。このような場合、つまり、鋼板Sが蛇行してオン状態からオフ状態に切り替わったセンサ3のみに着目して疑似変位量α’を求める場合の式は「鋼板Sの幅寸法の半分−(鋼板中央位置Scから切替センサ基準位置3pまでの距離)」となる。
【0037】
次いで、本実施形態に係る電磁制振装置1は、疑似変位量算出手段41により演算して求めた疑似変位量α’に基づいて制御部4の疑似エッジ位置算出手段42により搬送中の鋼板Sの疑似エッジ位置Se’を演算して求める(疑似エッジ位置算出ステップS2;図4参照)。本実施形態では、切替センサ基準位置3pが疑似エッジ位置Se’と等しい関係にある。引き続いて、制御部4は、疑似エッジ位置算出手段42により演算して求めた鋼板Sの疑似エッジ位置Se’である「1/2W±α’」を基に、電磁石2A,2Bに流す電流量を個別に制御する(電流量制御ステップS3;図4参照)。具体的には、疑似エッジ位置算出手段42で求めた鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が電磁石2A,2B間に存在する電磁石対2を特定する。そして、この特定した電磁石対2(エッジ位置特定電磁石対2(T))において、鋼板Sの疑似エッジ位置Se’がエッジ位置特定電磁石対2(T)を構成する電磁石2A,2Bの幅方向中央2cを基準とした所定値2aよりも電磁石対領域2Xの幅方向エンド2Xe側に存在するか否かを判別する。鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が所定値2aよりも電磁石対領域2Xの幅方向エンド2Xe側に存在すると判別した場合(鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が電磁石2A,2Bの幅方向中央2cを基準とした所定値2aよりも大きい範囲にある場合)には、エッジ位置特定電磁石対2(T)を構成する電磁石2A,2Bを励磁状態にする電流量制御情報(ここで「電流量制御情報」は本発明の「電流量制御信号」に相当する)を電磁石2A,2Bに出力する。一方、鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が所定値2aよりも電磁石対領域2Xの幅方向エンド2Xe側に存在しないと判別した場合(鋼板Sの疑似エッジ位置Se’が電磁石2A,2Bの幅方向中央2cを基準とした所定値2a以下である場合)には、エッジ位置特定電磁石対2(T)を構成する電磁石2A,2Bを無励磁状態にする電流量制御情報を電磁石2A,2Bに出力する。また、電流量制御手段43は、鋼板Sの一方の疑似エッジ位置Se’が電磁石2A,2B間に存在すると特定された電磁石対2と、鋼板Sの他方の疑似エッジ位置Se’が電磁石2A,2B間に存在すると特定された電磁石対2との間に配置されている複数の電磁石対2を構成する各電磁石2A,2Bを励磁状態にする電流量制御情報をこれら各電磁石2A,2Bに出力する。以上の手順により、鋼板Sのエッジ位置を検出するための専用のセンサを要することなく、各電磁石2A,2BのOn/Off制御を行うことができる。
【0038】
さらに、本実施形態の電磁制振装置1では、溶融亜鉛槽Zを通過して引き上げられながら前記電流量制御情報に基づいて励磁状態にある第1電磁石2Aと第2電磁石2Bとの間を走行する鋼板Sに対して、これら電磁石2A,2Bに対応付けられている第1センサ3A及び第2センサ3Bがそれぞれ鋼板Sまでの距離、すなわち鋼板Sの厚み方向の位置(鋼板Sの振動情報)をリアルタイムで検出し、それぞれの検出情報(鋼板Sの振動情報)を制御部4に出力する。制御部4は、これらの検出情報(鋼板Sの振動情報)に基づいて、励磁状態にある各第1電磁石2A、第2電磁石2Bに流す電流量の大小に関する電流量制御情報をこれら電磁石2A,2Bに出力する。このように本実施形態では、センサ3A,3Bによって、鋼板Sの厚み方向の位置情報、すなわち鋼板Sの振動情報のみを検出し、制御部4ではこの振動情報に基づいて各電磁石2A,2Bに流す電流量の大小を制御するように構成している。そして制御部4から出力された電流量の大小に関する電流量制御情報に基づいて第1電磁石2A、第2電磁石2Bに流す電流量が制御され、その結果、鋼板Sは、各電磁石2A,2Bの磁気吸引力により第1電磁石2Aと第2電磁石2Bとの中間位置に近付くように誘導され、走行中の振動が抑制される。
【0039】
したがって、溶融亜鉛槽Zを通過して引き上げられながら走行する鋼板Sと、エアーナイフ部Aを構成する各ノズルA1における噴出口との距離を一定範囲内に維持することができ、鋼板Sに作用する噴射力の変動を防止し、均一又はほぼ均一なメッキ厚みにすることができる。
【0040】
このように、本実施形態に係る電磁制振装置1では、電磁石対2に付帯させたセンサ3のうちオン状態からオフ状態に切り替わったセンサ3のうち最外側のセンサ3の位置、またはオフ状態からオン状態に切り替わったセンサ3のうち最内側のセンサ3の位置を切替センサ基準位置3pとし、この切替センサ基準位置3pに基づいて鋼板Sの疑似変位量α’を演算して求める疑似変位量算出手段41と、疑似変位量算出手段41で算出した鋼板Sの疑似変位量α’に基づいて鋼板Sの疑似エッジ位置Se’を演算して求める疑似エッジ位置算出手段42と、疑似エッジ位置算出手段42で求めた鋼板Sの疑似エッジ位置Se’に基づいて電磁石2A,2Bに流す電流量を個別に制御する電流量制御手段43とを備えた制御部4を用いている。ここで、疑似変位量算出手段41で求める疑似変位量α’は実際の鋼板Sの変位量αとは異なり得るが、その誤差は最大でも電磁石対領域2Xの幅方向に隣り合う電磁石対2同士の離間寸法程度であり、具体的には隣り合う電磁石対2にそれぞれ付帯させたセンサ3の検知ポイント同士の距離程度であり、実際の運用上では問題になり難い誤差である。したがって、このような実際の運用上において許容範囲内の誤差である疑似変位量α’を鋼板Sの厚み方向の位置情報(鋼板Sの振動情報)を検出するセンサ3を利用して算出することができ、この疑似変位量α’を用いて鋼板Sの疑似エッジ位置Se’を算出するように構成した本実施形態に係る電磁制振装置1では、鋼板Sの厚み方向の位置情報(鋼板Sの振動情報)を検出するセンサ3とは別に鋼板Sのエッジ位置を検出するためのセンサを配置する必要が無く、疑似エッジ位置算出手段42で求めた鋼板Sのエッジ位置情報に基づいて各電磁石2A,2Bを励磁状態にするか否かを適切且つ確実に制御することができ、正常姿勢で走行する鋼板S及び幅方向に蛇行して走行する鋼板Sの振動を効果的に抑制することができ、実用性に優れたものとなる。したがって、このような電磁制振装置1を、鋼板Sに付着した余剰な溶融金属を吹き飛ばすエアーナイフ部Aとともに連続メッキ鋼板ラインLに配設した場合には、この電磁制振装置1によって、正常姿勢で走行中の振動を効果的に抑制することができ、その結果、鋼板Sとエアーナイフ部Aとの距離を一定範囲内に維持することが可能になり、鋼板Sに作用する噴射力の変動を防止し、均一又はほぼ均一なメッキ厚みにすることができる。
【0041】
また、本実施形態に係る電磁制振プログラムは、電磁石対2に付帯させたセンサ3の位置情報を利用して求めた疑似変位量α’を疑似変位量算出ステップS1と、疑似変位量算出ステップS1で求めた疑似変位量α’に基づいて当該鋼板Sの疑似エッジ位置Se’を演算して求める疑似エッジ位置算出ステップS2と、疑似エッジ位置算出ステップS2で求めた鋼板Sの疑似エッジ位置Se’に基づいて電磁石2A,2Bに流す電流量を個別に制御する電流量制御ステップS3とを経るため、上述した通り、正常姿勢で走行する鋼板S及び幅方向に蛇行して走行する鋼板Sの振動を適切に抑制することができる。
【0042】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、オン状態からオフ状態に切り替わったセンサと、オフ状態からオン状態に切り替わったセンサが両方存在する場合、疑似変位量算出部では、オン状態からオフ状態に切り替わったセンサのうち最内側のセンサの位置、オフ状態からオン状態に切り替わったセンサのうち最外側のセンサの位置、これら両方のセンサ位置を切替センサ基準位置としてそれぞれの疑似変位量を求め、その値を足して2で割った値(平均値)を疑似変位量として算出するように構成したり、何れか一方の切替センサ基準位置を優先的に利用して疑似変位量を算出するように構成することができる。
【0043】
また、各電磁石対に対するセンサの相対位置は適宜変更してもよく、センサの検出ポイントを電磁石対の幅方向中央部に一致させたり、電磁石対の幅方向中央部より幅方向エンド側へ変位させた位置に設定することができる。
【0044】
また、電流量制御手段が電流出力オン・オフ(電磁石を励磁状態にするか無励磁状態にするか)に加えて、あるいは電流出力のオン・オフに代えて、出力強度(電磁石に流す電流量の大小)を調整することにより電磁石の電流量を制御するものであっても構わない。特に、電流量制御手段を、電流出力のオン・オフの切替を制御するものではなく、電流出力をオフにする(電磁石を無励磁状態にする)ことなく出力強度を調整するものとする場合は、上述した実施形態における電流出力のオフ状態(電磁石の無励磁状態)の代わりに、電磁石対間の鋼板を電磁石の磁気吸引力によっては幅方向に移動させないか、もしくは移動させたとしても無視し得る程度の極小距離しか移動させない程度の微弱な電流を流すようにすることが望ましい。このような電流制御を行えば、電流出力のオン・オフ制御を行う態様と比較すると、鋼板を幅方向に移動させない状態でも常に微弱電流を出力することとなるため、鋼板を所望距離だけ幅方向に移動させるように電流出力を上昇させる際の応答性が向上し、鋼板の制振制御効率を高めることが可能となる。
【0045】
また、鋼板の幅寸法を制御部に対して出力する出力源は、電磁制振装置とは別の装置又は電磁制振装置の一部の何れであってもよい。
【0046】
電磁石対の数や、幅方向に隣り合う電磁石対同士のピッチは適宜変更することができる。また、幅方向に隣り合う電磁石対同士のピッチを不均一に設定してもよい。この場合、電磁石対に付帯させるセンサ同士のピッチも不均一となり得るが、鋼板の実際の変位量(蛇行量)と疑似変位量との最大誤差は、最もピッチが大きいセンサ間の距離(具体的には最もピッチが大きい検出ポイント同士の離間距離)になる。また、電磁石対の数や電磁石対同士のピッチの変更に応じて電磁石対領域の幅寸法も適宜変えてもよい。
【0047】
また、上述した実施形態では全ての電磁石対のうち、電磁石対領域2Xの幅方向中央部2Xcに配置された電磁石対2(図5で「iv」を付した電磁石対2)にはセンサ3を付帯させていない態様を例示したが、この電磁石対2「iv」に隣り合う電磁石対2「iii」,「v」を電磁石対領域2Xの幅方向中央部2Xc近傍に配置された電磁石対とし、これら電磁石対2にセンサ3を付帯させない態様を採用してもよい。さらに、電磁石対を電磁石対領域の幅方向に偶数配置した場合には、少なくとも電磁石対領域の幅方向中央部に近い2つの電磁石対にはセンサを付帯させなくてもよい。
【0048】
また、上述した実施形態では、溶融金属槽として溶融亜鉛槽を例示したが、これに代えて、例えば溶融した錫又はアルミニウム或いは樹脂塗料などを貯留した槽を適用しても構わない。本発明の電磁制振装置では、鋼板に対する表面被覆処理として、メッキ塗工処理の他、適宜の表面処理材料を鋼鈑に噴霧することによって表面被覆処理を施す表面カラーリング処理等、他の表面被覆処理を採用することができる。
【0049】
またさらに、本発明の電磁制振装置が、表面被覆処理を施した後に引き下げながら電磁石の間を通過するようにした鋼板の振動を抑制制御する装置であったり、表面被覆処理を施した後に水平に移動させながら電磁石の間を通過するようにした鋼板の振動を抑制制御する装置であっても構わない。また、上述した実施形態では、電磁石間を通過する鋼板の姿勢が鉛直の場合を示したが、本発明において鋼板は鉛直以外の姿勢、例えば水平姿勢、傾斜姿勢の何れかで電磁石間を通過させるようにすることもできる。
【0050】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…電磁制振装置
2…電磁石対
2A,2B…電磁石
4…制御部
41…疑似変位量算出手段
42…疑似エッジ位置算出手段
43…電流量制御手段
S…鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に走行する鋼板の厚み方向に対向配置した電磁石の組である電磁石対を前記鋼板の幅方向に複数並べ、各電磁石に流す電流を制御する制御部によって前記各電磁石対の電磁石間を走行する鋼板の振動を抑制する電磁制振装置であって、
複数の電磁石対を幅方向に配置した電磁石対領域の幅方向中央部又は幅方向中央部近傍に配置される電磁石対を除く各電磁石対に、当該電磁石対の電磁石間における鋼板の存否を検出可能なセンサを付帯させ、
前記制御部が、
幅方向に蛇行していない正規状態における鋼板の幅方向中央位置である鋼板中央位置から、電磁石対の電磁石間に鋼板の存在を検出したオン状態から電磁石対の電磁石間に鋼板の存在を検出しないオフ状態に切り替わった前記センサのうち前記電磁石対領域の幅方向中央部に最も近いセンサの位置、又はオフ状態からオン状態に切り替わった前記センサのうち前記電磁石対領域の幅方向中央部から最も遠いセンサの位置、の少なくとも何れか一方に基づく切替センサ基準位置までの距離と、鋼板の幅寸法の半分の長さとの差を鋼板の疑似変位量として算出する疑似変位量算出手段と、
前記疑似変位量算出手段で算出した疑似変位量に基づいて当該鋼板の疑似エッジ位置を演算して求める疑似エッジ位置算出手段と、
当該疑似エッジ位置算出手段で求めた鋼板の疑似エッジ位置に基づいて前記電磁石に流す電流量を個別に制御する電流量制御手段とを備えたものであることを特徴とする電磁制振装置。
【請求項2】
前記電流量制御手段が、各電磁石を励磁状態又は無励磁状態にする電流制御信号を出力するものである請求項1に記載の電磁制振装置。
【請求項3】
前記電流量制御手段が、前記各電磁石のうち、前記疑似エッジ位置算出手段で求めた鋼板の疑似エッジ位置よりも鋼板の幅方向中央側に存在する電磁石を励磁状態とし、それ以外の電磁石を無励磁状態とする電流制御信号を出力するものである請求項2に記載の電磁制振装置。
【請求項4】
前記電流制御手段が、前記疑似エッジ位置算出手段で求めた鋼板の疑似エッジ位置が電磁石間に存在する電磁石対を特定し、この特定した電磁石対において、前記疑似エッジ位置が当該電磁石対を構成する電磁石の幅方向中央を中心にして設定した所定値よりも前記複数の電磁石対を配置した電磁石対領域の幅方向エンド側にあると判別した場合に前記特定した電磁石対を構成する電磁石を励磁状態とし、前記エッジ位置が前記所定値よりも前記電磁対領域の幅方向中央側にあると判別した場合に前記特定した電磁石対を構成する電磁石を無励磁状態とする電流制御信号を出力するものである請求項3に記載の電磁制振装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の電磁制振装置に適用される電磁制振制御プログラムであって、
幅方向に蛇行していない正規状態における鋼板の幅方向中央位置である鋼板中央位置から、電磁石対の電磁石間に鋼板の存在を検出したオン状態から電磁石対の電磁石間に鋼板の存在を検出しないオフ状態に切り替わったセンサのうち電磁石対領域の幅方向中央部に最も近いセンサの位置、又はオフ状態からオン状態に切り替わった前記センサのうち電磁石対領域の幅方向中央部から最も遠いセンサの位置の、少なくとも何れか一方に基づく切替センサ基準位置までの距離と、鋼板の幅寸法の半分の長さとの差を鋼板の疑似変位量として算出する疑似変位量算出ステップと、
前記疑似変位量算出ステップで算出した疑似変位量に基づいて当該鋼板の疑似エッジ位置を演算して求める疑似エッジ位置算出ステップと、
当該疑似エッジ位置算出ステップで求めた鋼板の疑似エッジ位置に基づいて前記電磁石に流す電流量を個別に制御する電流量制御ステップとを経ることを特徴とする電磁制振制御プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−207296(P2012−207296A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75937(P2011−75937)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】