説明

電磁式リターダ

【課題】商用車エンジンの主流を占めるディーゼルエンジンは、アイドリングや短時間の運転を繰り返すので、DPF再生ヒータ等に大電力を必要とするので、商用電力の接続やオルタネータを増強しなければならず、重量、コストの増加が見込まれる。
【解決手段】複数個の電磁コイルと固定子ヨークとより成る固定子と、この固定子を囲む、タイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とにより構成されたリターダ本体部分5と、作動信号7により制御される上記リターダ本体部分5の駆動装置10と、付加設備17に対する出力端子とより成り、上記電磁コイルは三相または二相結線とし、各電磁コイルはコンデンサと共に夫々共振回路を形成し、上記回転体の回転により誘起される交流電圧による回転磁界の回転速度が上記回転体の回転数より小さくなるようにすると共に、上記交流電圧をタイマーを介して所定時間経過後上記付加設備17の入力端子に加えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁式リターダ、特に、トラックやバスなどの大型車輌の補助制動装置である電磁式リターダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、渦電流を利用して制動トルクを得る電磁式リターダは特許文献1に示すように既知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−125219号公報
【0004】
図5〜図7は、特許文献1、特開2008−125219号公報に示すような従来の電磁式リターダを示し、1はタイヤ、2はスタータ、5は電磁式リターダを示し、このリターダ5は、リターダ本体部分6と、作動信号7を処理する制御装置8と、この制御装置8からの駆動パルス9によって夫々開閉制御されるトランジスタT1〜T3より成る駆動装置10から構成されている。
【0005】
上記リターダ本体部分(電気回路)6は、固定子ヨーク11と、この固定子ヨーク11の外周に円周方向に互いに離間して配置した鉄心を有する12個の電磁コイルL1〜L12とより成る固定子12と、この固定子12を囲む、上記タイヤ1の回転に応じて回転するスチール回転体(ドラム)13と、スチール回転体13の外周に設けたフィン14とより成る。上記各電磁コイルL1〜L12はA相、B相、C相の三相結線を形成する。
【0006】
なお、奇数番号の電磁コイルL1、L3、L5、L7、L9及びL11に対し偶数番号の電磁コイルL2、L4、L6、L8、L10及びL12の極性は互に逆極性である。
【0007】
この電磁式リターダでは、作動信号7をONにすると、制御装置8から駆動パルス9が出力され、駆動装置10のトランジスタT1〜T3がONし、コンデンサCと電磁コイルL1〜L12の共振回路が形成される。
【0008】
回転体13の回転数が上記コンデンサと電磁コイルの共振周波数で計算された回転磁界より早くなると、回転体13の残留磁気により発生した電磁コイルの電圧は、上記コンデンサと電磁コイルの共振回路の作用で特定周波数の三相交流電圧となる。この時、回転体13には、三相交流電圧による回転磁界Nsと回転体13の回転数Ndの差により、渦電流が流れる。回転体13に発生する渦電流は電磁コイルの電圧を高めるため、回転体13には更に大きな渦電流が流れる。この作用の繰り返しは、最終的にコイル電圧が上がっても磁界が増えない点で安定する。回転体内部の渦電流はジュール熱を発生し回転体に従来より大きな制動力が発生する。この制動エネルギーは、熱に変換され、上記回転体13の外周に設けたフィン14より大気に発散される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
商用車エンジンの主流を占めるディーゼルエンジンは、アイドリングや短時間の運転を繰り返すので、大電力を必要とする特開2008−082288に示されるDPF再生ヒータやアイドリング自動停止装置等が付加的に装備されている。これらには大電力を必要とするので、商用電力の接続やオルタネータを増強しなければならず、重量、コストの増加が見込まれる。
【0010】
図8は、スチール回転体が回転磁界の回転数以上で回転する時の電磁コイル電流と電磁コイル電圧の関係である。図8においてA点は、電磁コイル電圧が飽和した点であり、A点から求めたインピーダンス線は、電磁コイル自身で発電エネルギーを消費し、外部出力不可能な電磁コイル電圧を示す。電磁コイル電圧がインピーダンス線より上側のとき外部出力が可能となる。従って、未飽和状態B点の電磁コイル電圧とインピーダンス線の差が出力可能なエネルギーとなる。コンデンサ容量をC、B点コイル電圧をVB、C点コイル電圧をVC、周期をT0 とすると出力可能電力は、Pout =C(VB2−VC2)/T0となる。
【0011】
そこで、本発明者等は種々実験研究の結果図5〜図7に示す自己発電型リターダの発電能力は極めて高くオルタネータの3倍の電力を供給可能で、重量、コストは変わらず、上記のような付加設備に自己発電型リターダから交流高電圧や直流低電圧を供給することが可能であることを見出した。
【0012】
また、上記自己発電型リターダは図3及び図8に示すように発電開始直後は発生電圧が低く出力可能なエネルギーが少なく供給し得ないことを見い出した。
【0013】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の電磁式リターダは、鉄心を有する円周方向に配置した複数個の電磁コイルと固定子ヨークとより成る固定子と、この固定子を囲む、タイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とにより構成されたリターダ本体部分と、作動信号により制御される上記リターダ本体部分の駆動装置と、DPF再生ヒータ等の付加設備に対する出力端子とより成り、上記電磁コイルはA相、B相、C相の三相結線とし、各電磁コイルはコンデンサと共に夫々共振回路を形成し、上記駆動装置には上記各三相結線に直列に接続された、上記作動信号により夫々開閉制御されるトランジスタを有し、上記共振回路を形成する上記電磁コイルに上記スチール回転体の回転により誘起される三相交流電圧による回転磁界の回転速度が上記スチール回転体の回転数より小さくなるようにすると共に、上記三相交流電圧をタイマーを介して所定時間経過後上記付加設備の入力端子に加えるようにしたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の電磁式リターダは、鉄心を有する円周方向に配置した複数個の電磁コイルと固定子ヨークとより成る固定子と、この固定子を囲む、タイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とにより構成されたリターダ本体部分と、作動信号により制御される上記リターダ本体部分の駆動装置と、アイドリングストップ電力供給用バッテリ等の付加設備に対する出力端子とより成り、上記電磁コイルはA相、B相、C相の三相結線とし、各電磁コイルはコンデンサと共に夫々共振回路を形成し、上記駆動装置には上記各三相結線に直列に接続された、上記作動信号により夫々開閉制御されるトランジスタを有し、上記共振回路を形成する上記電磁コイルに上記スチール回転体の回転により誘起される三相交流電圧による回転磁界の回転速度が上記スチール回転体の回転数より小さくなるようにすると共に、上記三相交流電圧を直流電圧に整流後上記付加設備の入力端子に加えるようにしたことを特徴とする。
【0016】
上記電磁コイルの三相結線は三相星型または三相三角結線である。
【0017】
また、本発明の電磁式リターダは、鉄心を有する円周方向に配置した複数個の電磁コイルと固定子ヨークとより成る固定子と、この固定子を囲む、タイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とにより構成されたリターダ本体部分と、作動信号により制御される上記リターダ本体部分の駆動装置と、DPF再生ヒータ等の付加設備に対する出力端子とより成り、上記電磁コイルは二相V結線とし、各電磁コイルはコンデンサと共に夫々共振回路を形成し、上記駆動装置には上記二相V結線に直列に接続された、上記作動信号により夫々開閉制御されるトランジスタを有し、上記共振回路を形成する上記電磁コイルに上記スチール回転体の回転により誘起される二相交流電圧による回転磁界の回転速度が上記回転体の回転数より小さくなるようにすると共に、上記二相交流電圧をタイマーを介して所定時間経過後上記付加設備の入力端子に加えるようにしたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の電磁式リターダは、鉄心を有する円周方向に配置した複数個の電磁コイルと固定子ヨークとより成る固定子と、この固定子を囲む、タイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とにより構成されたリターダ本体部分と、作動信号により制御される上記リターダ本体部分の駆動装置と、アイドリングストップ電力供給用バッテリ等の付加設備に対する出力端子とより成り、上記電磁コイルは二相V結線とし、各電磁コイルはコンデンサと共に夫々共振回路を形成し、上記駆動装置には上記二相V結線に直列に接続された、上記作動信号により夫々開閉制御されるトランジスタを有し、上記共振回路を形成する上記電磁コイルに上記スチール回転体の回転により誘起される二相交流電圧による回転磁界の回転速度が上記回転体の回転数より小さくなるようにすると共に、上記二相交流電圧を直流電圧に整流後上記付加設備の入力端子に加えるようにしたことを特徴とする。
【0019】
上記直流電圧が減圧手段を介して上記入力端子に加えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
(1)本発明の電磁式リターダによれば下記のような効果が得られる。
【0021】
DPF再生ヒータや、車両停止時エンジンを自動的に停止するアイドリングストップ制御装置のエンジン再始動電力供給用バッテリ等の付加設備に対し電力の供給が可能になる。
【0022】
(2)アイドリングストップ制御装置のエンジン再始動電力供給用バッテリには、オルタネータによる充電が不要となるので、燃費が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の電磁式リターダの説明図である。
【図2】本発明の電磁式リターダの他の実施例の説明図である。
【図3】本発明の電磁式リターダにおける発生電圧と経過時間の関係を示す線図である。
【図4】電磁式リターダの回転体の回転数と制動トルクの関係を示す線図である。
【図5】従来の電磁式リターダの説明図である。
【図6】図5の電磁式リターダにおけるリターダ本体の縦断正面図である。
【図7】図5に示すリターダ本体の縦断側面図である。
【図8】従来の電磁式リターダの電磁コイル電流と電磁コイル電圧の関係を示す線図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下図面によって本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は本発明の電磁式リターダの第1の実施例を示し、図5〜図7に示す従来の電磁式リターダと同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0026】
本発明の第1実施例においては、自己発電型電磁式リターダ5から発生した三相交流電圧または、二相交流電圧を制御装置8によって制御されるタイマー15のオンオフ接点16を介して付加設備、例えばDPF再生ヒータ17の入力端子(図示せず)に加え、リターダ作動信号7の発生による電磁式リターダ5の発電開始後発生電圧が十分高く出力可能なエネルギが多くなる、例えば1秒後にタイマー15のオンオフ接点16がオンされるようにする。
【0027】
本発明の電磁式リターダは上記のような構成であるから付加設備のための付加電源を不要となし得る。
【実施例2】
【0028】
図2は本発明の電磁式リターダの第2実施例を示し、図5〜図7に示す電磁式リターダと同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0029】
本発明の第2実施例においては、付加設備として例えばアイドリングを自動停止後エンジン再始動せしめるために必要なアイドリングストップ電力供給用バッテリ22を対象とする。
【0030】
即ち、本発明の第2実施例においては自己発電型電磁式リターダ5から発生した三相交流電圧または、二相交流電圧を例えば全波整流器18で全波整流し、デューティ制御器19及びCPU20を有する降圧チョッパー21で降圧し、アイドリングストップ電力供給用バッテリ22を充電せしめる。
【0031】
また、バッテリ電圧が満充電電圧に達した場合には、降圧チョッパー21でバッテリ充電電流Irを減少せしめ、アイドリングストップ電力供給用バッテリ22の過充電による寿命低下を防止せしめる。
【0032】
本発明の電磁式リターダの第2実施例によれば、上記アイドリングストップ電力供給用バッテリ22を、エンジン2によって駆動されるオルタネータ4によって常時充電せしめる必要がない。
【0033】
図4は本発明の自己発電型電磁式リターダの制動トルクと回転体13の回転数の関係を示す線図であってアイドリングストップ電力供給用バッテリ等の付加設備にリターダの出力を給供しない場合の曲線aと、給供した場合の曲線bを示し、両者間に大きな制動トルク低下は見られなかった。
【0034】
なお、電磁コイルの数を12極から例えば24極に増加せしめれば自己発電型電磁式リターダ5からの三相交流電圧を増大することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 タイヤ
2 スタータ
4 オルタネータ
5 電磁式リターダ
6 リターダ本体部分(電気回路)
7 作動信号
8 制御装置
9 駆動パルス
10 駆動装置
11 固定子ヨーク
12 固定子
13 スチール回転体
14 フィン
15 タイマー
16 オンオフ接点
17 DPF再生ヒータ
18 全波整流器
19 制御器
20 CPU
21 チョッパー
22 バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心を有する円周方向に配置した複数個の電磁コイルと固定子ヨークとより成る固定子と、この固定子を囲む、タイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とにより構成されたリターダ本体部分と、作動信号により制御される上記リターダ本体部分の駆動装置と、付加設備に対する出力端子とより成り、上記電磁コイルはA相、B相、C相の三相結線とし、各電磁コイルはコンデンサと共に夫々共振回路を形成し、上記駆動装置には上記各三相結線に直列に接続された、上記作動信号により夫々開閉制御されるトランジスタを有し、上記共振回路を形成する上記電磁コイルに上記スチール回転体の回転により誘起される三相交流電圧による回転磁界の回転速度が上記スチール回転体の回転数より小さくなるようにすると共に、上記三相交流電圧をタイマーを介して所定時間経過後上記付加設備の入力端子に加えるようにしたことを特徴とする電磁式リターダ。
【請求項2】
上記電磁コイルの三相結線が三相星型結線にあることを特徴とする請求項1記載の電磁式リターダ。
【請求項3】
上記電磁コイルの三相結線が三相三角結線であることを特徴とする請求項1記載の電磁式リターダ。
【請求項4】
鉄心を有する円周方向に配置した複数個の電磁コイルと固定子ヨークとより成る固定子と、この固定子を囲む、タイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とにより構成されたリターダ本体部分と、作動信号により制御される上記リターダ本体部分の駆動装置と、付加設備に対する出力端子とより成り、上記電磁コイルは二相V結線とし、各電磁コイルはコンデンサと共に夫々共振回路を形成し、上記駆動装置には上記二相V結線に直列に接続された、上記作動信号により夫々開閉制御されるトランジスタを有し、上記共振回路を形成する上記電磁コイルに上記スチール回転体の回転により誘起される二相交流電圧による回転磁界の回転速度が上記回転体の回転数より小さくなるようにすると共に、上記二相交流電圧をタイマーを介して所定時間経過後上記付加設備に対する入力端子に加えるようにしたことを特徴とする電磁式リターダ。
【請求項5】
上記付加設備がDPF再生ヒータであることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の電磁式リターダ。
【請求項6】
鉄心を有する円周方向に配置した複数個の電磁コイルと固定子ヨークとより成る固定子と、この固定子を囲む、タイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とにより構成されたリターダ本体部分と、作動信号により制御される上記リターダ本体部分の駆動装置と、付加設備に対する出力端子とより成り、上記電磁コイルはA相、B相、C相の三相結線とし、各電磁コイルはコンデンサと共に夫々共振回路を形成し、上記駆動装置には上記各三相結線に直列に接続された、上記作動信号により夫々開閉制御されるトランジスタを有し、上記共振回路を形成する上記電磁コイルに上記スチール回転体の回転により誘起される三相交流電圧による回転磁界の回転速度が上記スチール回転体の回転数より小さくなるようにすると共に、上記三相交流電圧を直流電圧に整流後上記付加設備の入力端子に加えるようにしたことを特徴とする電磁式リターダ。
【請求項7】
上記電磁コイルの三相結線が三相星型結線にあることを特徴とする請求項6記載の電磁式リターダ。
【請求項8】
上記電磁コイルの三相結線が三相三角結線であることを特徴とする請求項6記載の電磁式リターダ。
【請求項9】
鉄心を有する円周方向に配置した複数個の電磁コイルと固定子ヨークとより成る固定子と、この固定子を囲む、タイヤの回転に応じて回転されるスチール回転体とにより構成されたリターダ本体部分と、作動信号により制御される上記リターダ本体部分の駆動装置と、付加設備に対する出力端子とより成り、上記電磁コイルは二相V結線とし、各電磁コイルはコンデンサと共に夫々共振回路を形成し、上記駆動装置には上記二相V結線に直列に接続された、上記作動信号により夫々開閉制御されるトランジスタを有し、上記共振回路を形成する上記電磁コイルに上記スチール回転体の回転により誘起される二相交流電圧による回転磁界の回転速度が上記回転体の回転数より小さくなるようにすると共に、上記二相交流電圧を直流電圧に整流後上記付加設備の入力端子に加えるようにしたことを特徴とする電磁式リターダ。
【請求項10】
上記直流電圧が減圧手段を介して上記入力端子に加えられることを特徴とする請求項6、7、8または9記載の電磁式リターダ。
【請求項11】
上記付加設備がアイドリングストップ電力供給用バッテリであることを特徴とする6、7、8、9または10記載の電磁式リターダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−188585(P2011−188585A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49187(P2010−49187)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000220712)株式会社TBK (13)
【Fターム(参考)】