電磁式係合装置
【課題】解放状態から係合状態への切替応答性を向上できる電磁式係合装置を提供する。
【解決手段】電磁式係合装置5は、一対のカム部材8、9を有し係合状態での結合力を増加させるカム機構6と、解放状態から係合状態へ切り替えられる過程で可動カム部材9が固定カム部材8に対して所定方向に捻られながら軸線Ax方向に移動するように、可動カム部材9を電磁駆動部7の吸引時に誘導するヘリカルスプライン機構20とを備える。
【解決手段】電磁式係合装置5は、一対のカム部材8、9を有し係合状態での結合力を増加させるカム機構6と、解放状態から係合状態へ切り替えられる過程で可動カム部材9が固定カム部材8に対して所定方向に捻られながら軸線Ax方向に移動するように、可動カム部材9を電磁駆動部7の吸引時に誘導するヘリカルスプライン機構20とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する2つの要素間に介在してこれら要素の結合力をカム機構にて増加させることができる電磁式係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カム機構を備えた電磁式クラッチとして、共通の軸線上に配置された一対のカム部材のうち、一方のカム部材を電磁コイルの電磁力にて吸引して軸線方向に移動させて一対のカム部材を相対回転させるとともに、その相対回転に伴って生じた軸線方向の推力を利用して回転要素間の結合力を増加させるものが知られている(特許文献1)。このクラッチは、一対のカム部材が解放状態の際に相対回転しないように、互いに対面する一対のカム部材の側面に摩擦部が設けられている。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−60863号公報
【特許文献2】特開2001−12509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電磁式クラッチは、解放状態から係合状態へ切り替える際に、一方のカム部材が電磁コイルにて軸線方向に吸引されて、そのカム部材と一体移動するアーマチュアとヨークとが接触し一対のカム部材間に回転速度差が生じてから、一方のカム部材が他方のカム部材に対して捻られることによってカム機構が推力を発生させる。そのため、一方のカム部材が吸引されてから他方のカム部材に対して捻られるまでに時間がかかり解放状態から係合状態への切替応答性が悪化するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、解放状態から係合状態への切替応答性を向上できる電磁式係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電磁式係合装置は、共通の軸線の回りを相対回転可能な第1要素と第2要素との間に介在し、前記第1要素と前記第2要素とを結合する係合状態とその結合を解放する解放状態とを電磁力を利用して切り替え可能な電磁式係合装置において、前記軸線の回りを所定の角度範囲内で相対回転可能かつ前記軸線方向に相対移動可能な一対のカム部材を有し、前記一対のカム部材の相対回転角度が前記角度範囲の上限に達した状態で一方のカム部材が他方のカム部材に対して所定方向に捻られるトルクが入力された場合に該トルクを前記軸線方向の推力に変換して前記係合状態時における前記第1要素と前記第2要素との結合力を増加させるカム機構と、前記解放状態から前記係合状態へ切り替える際に、前記一方のカム部材を前記他方のカム部材から離れるように電磁力にて前記軸線方向に吸引する電磁駆動手段と、前記解放状態から前記係合状態へ切り替えられる過程で前記一方のカム部材が前記他方のカム部材に対して前記所定方向に捻られながら前記軸線方向に移動するように、前記一方のカム部材を前記電磁駆動手段の吸引時に誘導する誘導機構と、を備えるものである(請求項1)。
【0007】
この電磁式係合装置によれば、解放状態から係合状態への切り替えに伴って一方のカム部材が電磁力にて吸引されて軸線方向に移動する際に、係合状態でカム機構が結合力を増加させるときに捻られる方向と同じ方向に誘導される。従って、一方のカム部材が軸線方向に移動完了してから捻られる場合に比べて、短時間でカム機構によって推力が発生して結合力を増加できる。よって、解放状態から係合状態への切替応答性が向上する。
【0008】
本発明の電磁式係合装置の一態様において、前記他方のカム部材は、前記第1要素又は前記第2要素のいずれか一方の要素と一体回転可能に設けられ、かつ前記一方の要素が所定の駆動源によって両方向に回転駆動可能であり、前記一方のカム部材又は前記他方のカム部材のいずれか一方と一体回転でき、歯すじが前記軸線方向に対して傾きながら延びる第1歯部と、前記一方のカム部材又は前記他方のカム部材のいずれか他方と一体回転でき、前記第1歯部と噛み合う第2歯部とを有するヘリカルスプライン機構が、前記誘導手段として設けられ、前記係合状態から前記解放状態へ切り替えられる場合に、前記一方の要素が前記解放状態から前記係合状態へ切り替えられる際とは反対方向に回転するように前記駆動源を制御する制御手段を更に備えてもよい(請求項2)。この態様によれば、係合状態から解放状態へ切り替えられる際に、他方のカム部材と一体回転可能な一方の要素が解放状態から係合状態へ切り替えられる際とは反対方向に回転するので、ヘリカルスプライン機構によってカム機構が発生させる推力と反対方向の力が一方のカム部材に伝達される。これにより、一方のカム部材が他方のカム部材に接近するように軸線方向に移動する。従って、確実に係合状態から解放状態へ切り替えることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明の電磁式係合装置によれば、一方のカム部材が電磁力にて吸引されて軸線方向に移動する際に所定方向に誘導されるため、一方のカム部材が軸線方向に移動完了してから捻られる場合に比べて、解放状態から係合状態への切替応答性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図。
【図2】解放状態におけるヘリカルスプライン機構の状態を示した図。
【図3】係合状態におけるヘリカルスプライン機構の状態を示した図。
【図4】ヘリカルスプライン機構の第1歯部のピッチを説明する説明図。
【図5】ヘリカル部の先端部間の間隔を説明する説明図。
【図6A】カム機構の動作を説明するための図で、解放状態におけるヘリカルスプライン機構の状態を示した図。
【図6B】カム機構の動作を説明するための図で、解放状態におけるカム部材の状態を示した図。
【図7A】カム機構の動作を説明するための図で、係合状態におけるヘリカルスプライン機構の状態を示した図。
【図7B】カム機構の動作を説明するための図で、係合状態におけるカム部材の状態を示した図。
【図8A】係合状態から解放状態への切り替え過渡時のヘリカルスプライン機構の状態を示した図。
【図8B】係合状態から解放状態への切り替え過渡時のカム部材の状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、動力伝達装置1はいわゆるハイブリッド型自動車の駆動装置に搭載されて使用される。動力伝達装置1は軸線Ax方向に延びる回転軸2を有しており、その回転軸2は軸線Axの回りに回転可能な状態でベアリング4等を介してケース3に支持されている。即ち、回転軸2とケース3とは共通の軸線Axの回りを相対回転する。従って、回転軸2は本発明に係る第1要素に、ケース3は本発明に係る第2要素にそれぞれ相当する。電磁式係合装置5は回転軸2とケース3とを結合する係合状態とその結合を解放する解放状態とを電磁力を利用して切り替えることができるブレーキ装置として動力伝達装置1に搭載されている。電磁式係合装置5は、回転軸2に設けられたカム機構6と、ケース3とカム機構6との間に配置されてケース3に固定された電磁駆動手段としての電磁駆動部7とを備えている。
【0012】
カム機構6は軸線Ax上に同軸的に配置された一対のカム部材8、9を有している。一対のカム部材8、9は軸線Axの回りを相対回転可能かつ軸線Ax方向に相対移動可能である。一対のカム部材8、9の間には周方向に並んだ複数(図1では一つ)のカムボール10が介在しており、そのカムボール10は各カム部材8、9に形成された周方向に並ぶ複数のV字溝11、12にて保持されている。各V字溝11、12は、各カム部材8、9を半径方向外側から見た場合にV字状に形成されていて、回転軸2の回転方向に関して深さが徐々に浅くなるように構成されている。
【0013】
一対のカム部材8、9のうち、図1の左側に位置する固定カム部材8は回転軸2上に固定されており、回転軸2と一体回転する。一方、図1の右側に位置する可動カム部材9は誘導手段としてのヘリカルスプライン機構20を介して回転軸2の外周に装着されている。図2及び図3に示したように、ヘリカルスプライン機構20は、回転軸2に形成され固定カム部材8と一体回転できる第1歯部21と、可動カム部材に形成され第1歯部21と噛み合う第2歯部22とを有している。第1歯部21は歯すじが軸線Ax方向に延びる基部21aと、その基部21aから軸線Ax方向に対して回転軸2の回転方向後方に向かって傾きながら延びるスプライン部21bとを含んでいる。基部21a及びスプライン部21bのそれぞれは回転軸2の周方向に等間隔で並べられている。スプライン部21bは先端に向かって幅が先細りのテーパ状に形成されている。一方、第2歯部22は断面形状が円形の円柱状に形成されていて、可動カム部材9の取付孔9a(図1参照)の内周面に形成され可動カム部材9と一体回転できる。第2歯部22は周方向に等間隔で複数個配置されている。
【0014】
図4に示したように、第1歯部21のピッチaは、隣接する基部21a間の中央部から、隣接するスプライン部21bの先端間の中央部までの角度として定義され、一対のカム部材8、9が相対回転し得る所定の角度範囲に対応する。また、図5に示したように、隣接するスプライン部21bの先端部における間隔bは係合状態の弾性変形によって可動カム部材9が捻られる捻れ角以上に設定されている。このようにして、ピッチa及び間隔bがそれぞれ設定されているため、第2歯部22が第1歯部21から外れなくても解放状態から係合状態へ切り替えることが可能となる。
【0015】
ヘリカルスプライン機構20を介して可動カム部材9が回転軸2に装着されているから、可動カム部材9が軸線Ax方向に移動すると、可動カム部材9はその移動とともに固定カム部材8に対して軸線Axの回りを相対回転する。その相対回転が許容される角度範囲の上限に達した状態で、図2及び図3の矢印で示された固定カム部材8の回転方向の反対方向に可動カム部材9が捻られるトルクがカム機構6に入力されると、カムボール10及びV字溝11、12の間に生じる楔効果によってそのトルクは軸線Ax方向の推力に変換される。この推力によって係合状態での結合力が増加する。
【0016】
図1の解放状態においては、一対のカム部材8、9間に意図しない相対回転が生じないように、電磁式係合装置5には固定カム部材8に接近する方向に可動カム部材9を付勢する付勢部材であるリターンスプリング25が設けられている。リターンスプリング25は図1の右方向の移動がスナップリング26にて阻止された状態で回転軸2の外周に配置されている。
【0017】
電磁駆動部7は電磁コイル30と、ケース3に固定されて電磁コイル30を保持するヨーク31とを有している。電磁駆動部7は、解放状態から係合状態へ切り替える際に電磁コイル30に電力が供給されると図1の破線で示すように磁界Aが形成されて電磁力を発生し、その電磁力によってアーマチュアとして機能する磁性体の可動カム部材9が軸線Ax方向に吸引される。図7A及び図7Bに示すように、その吸引時にはヘリカルスプライン機構20によって可動カム部材9が上記方向に捻られながら軸線Ax方向に移動するように誘導される。そして、可動カム部材9がヨーク31に突き当たって電磁力に加えて摩擦力が生じると、その時には固定カム部材8に対する可動カム部材9の相対回転量が図6A及び図6Bの解放状態を基準とした回転範囲の上限に又はその近くに達している。従って、上述したトルクがカム機構6に直ちに入力されて軸線Ax方向の推力に変換される。
【0018】
可動カム部材9が捻られずに軸線Ax方向に吸引される形態の場合、一対のカム部材8、9間に回転方向の遊びが生まれ、カム機構6が推力を発生するにはその遊びが無くなるまで可動カム部材9がヨーク31と接触した状態で一対のカム部材8、9が相対回転する必要がある。従って、解放状態から係合状態へ切り替える際に、電磁コイル30に通電されてからカム機構6が推力を発生させるまでに時間的な遅れが生じる。本形態の電磁式係合装置5は、可動カム部材9の吸引時にヘリカルスプライン機構20にて可動カム部材9が上記方向に捻られながら軸線Ax方向に移動するため、解放状態から係合状態へ切り替える際に、このような遅れは生じない。つまり、短時間でカム機構6によって推力が発生して結合力を増加できる。従って、解放状態から係合状態への切替応答性が向上する。
【0019】
図1に示したように、回転軸2には駆動源としての電動機40のトルクが不図示の伝達機構を介して伝達される。電動機40の動作を制御することによって回転軸2は両方向に回転駆動され得る。電動機40の動作はコンピュータとして構成された制御手段としての駆動制御装置41にて制御される。駆動制御装置41は電動機40を制御する他にも電磁駆動部7を操作して解放状態と係合状態とを切り替える。解放状態から係合状態への切り替えは、駆動制御装置41が電磁駆動部7へ通電することによって実現される。反対に、係合状態から解放状態への切り替えは、駆動制御装置41が電磁駆動部7への通電を停止するとともに、その通電の停止と同期して解放状態から係合状態へ切り替える際とは反対方向に回転軸2が回転するように電動機40を制御することによって実現される。
【0020】
図8A及び図8Bに示すように、係合状態から解放状態への切り替え過程で回転軸2が反対方向に回転駆動されると、ヘリカルスプライン機構20の第1歯部21によって第2歯部22が押されて可動カム部材9をヨーク31から離れる方向に移動させる力Fが発生する。従って、係合状態から解放状態へ切り替える際にこの力Fがリターンスプリング25の付勢力とともに可動カム部材9に作用するため、係合状態から解放状態への切り替えに要する力をリターンスプリング25の付勢力のみに頼る形態に比べて係合状態から解放状態への切替応答性が向上する。
【0021】
本発明は、上記形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。上記形態では、本発明の電磁式係合装置をブレーキ装置として利用しているが、本発明を2つの回転要素間に介在させるクラッチとして実施することも可能である。また、上記形態は誘導手段としてヘリカルスプライン機構を用いているが当該機構は一例にすぎない。例えば噛み合いではなく、一方の要素に溝を形成し、その溝にて案内されるピンを他方の要素に設けることによって誘導手段を実施することも可能である。
【符号の説明】
【0022】
2 回転軸(第1要素)
3 ケース(第2要素)
5 電磁式係合装置
7 電磁駆動部(電磁駆動手段)
8 固定カム部材(他方のカム部材)
9 可動カム部材(一方のカム部材)
20 ヘリカルスプライン機構(誘導手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する2つの要素間に介在してこれら要素の結合力をカム機構にて増加させることができる電磁式係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カム機構を備えた電磁式クラッチとして、共通の軸線上に配置された一対のカム部材のうち、一方のカム部材を電磁コイルの電磁力にて吸引して軸線方向に移動させて一対のカム部材を相対回転させるとともに、その相対回転に伴って生じた軸線方向の推力を利用して回転要素間の結合力を増加させるものが知られている(特許文献1)。このクラッチは、一対のカム部材が解放状態の際に相対回転しないように、互いに対面する一対のカム部材の側面に摩擦部が設けられている。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−60863号公報
【特許文献2】特開2001−12509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電磁式クラッチは、解放状態から係合状態へ切り替える際に、一方のカム部材が電磁コイルにて軸線方向に吸引されて、そのカム部材と一体移動するアーマチュアとヨークとが接触し一対のカム部材間に回転速度差が生じてから、一方のカム部材が他方のカム部材に対して捻られることによってカム機構が推力を発生させる。そのため、一方のカム部材が吸引されてから他方のカム部材に対して捻られるまでに時間がかかり解放状態から係合状態への切替応答性が悪化するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、解放状態から係合状態への切替応答性を向上できる電磁式係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電磁式係合装置は、共通の軸線の回りを相対回転可能な第1要素と第2要素との間に介在し、前記第1要素と前記第2要素とを結合する係合状態とその結合を解放する解放状態とを電磁力を利用して切り替え可能な電磁式係合装置において、前記軸線の回りを所定の角度範囲内で相対回転可能かつ前記軸線方向に相対移動可能な一対のカム部材を有し、前記一対のカム部材の相対回転角度が前記角度範囲の上限に達した状態で一方のカム部材が他方のカム部材に対して所定方向に捻られるトルクが入力された場合に該トルクを前記軸線方向の推力に変換して前記係合状態時における前記第1要素と前記第2要素との結合力を増加させるカム機構と、前記解放状態から前記係合状態へ切り替える際に、前記一方のカム部材を前記他方のカム部材から離れるように電磁力にて前記軸線方向に吸引する電磁駆動手段と、前記解放状態から前記係合状態へ切り替えられる過程で前記一方のカム部材が前記他方のカム部材に対して前記所定方向に捻られながら前記軸線方向に移動するように、前記一方のカム部材を前記電磁駆動手段の吸引時に誘導する誘導機構と、を備えるものである(請求項1)。
【0007】
この電磁式係合装置によれば、解放状態から係合状態への切り替えに伴って一方のカム部材が電磁力にて吸引されて軸線方向に移動する際に、係合状態でカム機構が結合力を増加させるときに捻られる方向と同じ方向に誘導される。従って、一方のカム部材が軸線方向に移動完了してから捻られる場合に比べて、短時間でカム機構によって推力が発生して結合力を増加できる。よって、解放状態から係合状態への切替応答性が向上する。
【0008】
本発明の電磁式係合装置の一態様において、前記他方のカム部材は、前記第1要素又は前記第2要素のいずれか一方の要素と一体回転可能に設けられ、かつ前記一方の要素が所定の駆動源によって両方向に回転駆動可能であり、前記一方のカム部材又は前記他方のカム部材のいずれか一方と一体回転でき、歯すじが前記軸線方向に対して傾きながら延びる第1歯部と、前記一方のカム部材又は前記他方のカム部材のいずれか他方と一体回転でき、前記第1歯部と噛み合う第2歯部とを有するヘリカルスプライン機構が、前記誘導手段として設けられ、前記係合状態から前記解放状態へ切り替えられる場合に、前記一方の要素が前記解放状態から前記係合状態へ切り替えられる際とは反対方向に回転するように前記駆動源を制御する制御手段を更に備えてもよい(請求項2)。この態様によれば、係合状態から解放状態へ切り替えられる際に、他方のカム部材と一体回転可能な一方の要素が解放状態から係合状態へ切り替えられる際とは反対方向に回転するので、ヘリカルスプライン機構によってカム機構が発生させる推力と反対方向の力が一方のカム部材に伝達される。これにより、一方のカム部材が他方のカム部材に接近するように軸線方向に移動する。従って、確実に係合状態から解放状態へ切り替えることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明の電磁式係合装置によれば、一方のカム部材が電磁力にて吸引されて軸線方向に移動する際に所定方向に誘導されるため、一方のカム部材が軸線方向に移動完了してから捻られる場合に比べて、解放状態から係合状態への切替応答性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図。
【図2】解放状態におけるヘリカルスプライン機構の状態を示した図。
【図3】係合状態におけるヘリカルスプライン機構の状態を示した図。
【図4】ヘリカルスプライン機構の第1歯部のピッチを説明する説明図。
【図5】ヘリカル部の先端部間の間隔を説明する説明図。
【図6A】カム機構の動作を説明するための図で、解放状態におけるヘリカルスプライン機構の状態を示した図。
【図6B】カム機構の動作を説明するための図で、解放状態におけるカム部材の状態を示した図。
【図7A】カム機構の動作を説明するための図で、係合状態におけるヘリカルスプライン機構の状態を示した図。
【図7B】カム機構の動作を説明するための図で、係合状態におけるカム部材の状態を示した図。
【図8A】係合状態から解放状態への切り替え過渡時のヘリカルスプライン機構の状態を示した図。
【図8B】係合状態から解放状態への切り替え過渡時のカム部材の状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、動力伝達装置1はいわゆるハイブリッド型自動車の駆動装置に搭載されて使用される。動力伝達装置1は軸線Ax方向に延びる回転軸2を有しており、その回転軸2は軸線Axの回りに回転可能な状態でベアリング4等を介してケース3に支持されている。即ち、回転軸2とケース3とは共通の軸線Axの回りを相対回転する。従って、回転軸2は本発明に係る第1要素に、ケース3は本発明に係る第2要素にそれぞれ相当する。電磁式係合装置5は回転軸2とケース3とを結合する係合状態とその結合を解放する解放状態とを電磁力を利用して切り替えることができるブレーキ装置として動力伝達装置1に搭載されている。電磁式係合装置5は、回転軸2に設けられたカム機構6と、ケース3とカム機構6との間に配置されてケース3に固定された電磁駆動手段としての電磁駆動部7とを備えている。
【0012】
カム機構6は軸線Ax上に同軸的に配置された一対のカム部材8、9を有している。一対のカム部材8、9は軸線Axの回りを相対回転可能かつ軸線Ax方向に相対移動可能である。一対のカム部材8、9の間には周方向に並んだ複数(図1では一つ)のカムボール10が介在しており、そのカムボール10は各カム部材8、9に形成された周方向に並ぶ複数のV字溝11、12にて保持されている。各V字溝11、12は、各カム部材8、9を半径方向外側から見た場合にV字状に形成されていて、回転軸2の回転方向に関して深さが徐々に浅くなるように構成されている。
【0013】
一対のカム部材8、9のうち、図1の左側に位置する固定カム部材8は回転軸2上に固定されており、回転軸2と一体回転する。一方、図1の右側に位置する可動カム部材9は誘導手段としてのヘリカルスプライン機構20を介して回転軸2の外周に装着されている。図2及び図3に示したように、ヘリカルスプライン機構20は、回転軸2に形成され固定カム部材8と一体回転できる第1歯部21と、可動カム部材に形成され第1歯部21と噛み合う第2歯部22とを有している。第1歯部21は歯すじが軸線Ax方向に延びる基部21aと、その基部21aから軸線Ax方向に対して回転軸2の回転方向後方に向かって傾きながら延びるスプライン部21bとを含んでいる。基部21a及びスプライン部21bのそれぞれは回転軸2の周方向に等間隔で並べられている。スプライン部21bは先端に向かって幅が先細りのテーパ状に形成されている。一方、第2歯部22は断面形状が円形の円柱状に形成されていて、可動カム部材9の取付孔9a(図1参照)の内周面に形成され可動カム部材9と一体回転できる。第2歯部22は周方向に等間隔で複数個配置されている。
【0014】
図4に示したように、第1歯部21のピッチaは、隣接する基部21a間の中央部から、隣接するスプライン部21bの先端間の中央部までの角度として定義され、一対のカム部材8、9が相対回転し得る所定の角度範囲に対応する。また、図5に示したように、隣接するスプライン部21bの先端部における間隔bは係合状態の弾性変形によって可動カム部材9が捻られる捻れ角以上に設定されている。このようにして、ピッチa及び間隔bがそれぞれ設定されているため、第2歯部22が第1歯部21から外れなくても解放状態から係合状態へ切り替えることが可能となる。
【0015】
ヘリカルスプライン機構20を介して可動カム部材9が回転軸2に装着されているから、可動カム部材9が軸線Ax方向に移動すると、可動カム部材9はその移動とともに固定カム部材8に対して軸線Axの回りを相対回転する。その相対回転が許容される角度範囲の上限に達した状態で、図2及び図3の矢印で示された固定カム部材8の回転方向の反対方向に可動カム部材9が捻られるトルクがカム機構6に入力されると、カムボール10及びV字溝11、12の間に生じる楔効果によってそのトルクは軸線Ax方向の推力に変換される。この推力によって係合状態での結合力が増加する。
【0016】
図1の解放状態においては、一対のカム部材8、9間に意図しない相対回転が生じないように、電磁式係合装置5には固定カム部材8に接近する方向に可動カム部材9を付勢する付勢部材であるリターンスプリング25が設けられている。リターンスプリング25は図1の右方向の移動がスナップリング26にて阻止された状態で回転軸2の外周に配置されている。
【0017】
電磁駆動部7は電磁コイル30と、ケース3に固定されて電磁コイル30を保持するヨーク31とを有している。電磁駆動部7は、解放状態から係合状態へ切り替える際に電磁コイル30に電力が供給されると図1の破線で示すように磁界Aが形成されて電磁力を発生し、その電磁力によってアーマチュアとして機能する磁性体の可動カム部材9が軸線Ax方向に吸引される。図7A及び図7Bに示すように、その吸引時にはヘリカルスプライン機構20によって可動カム部材9が上記方向に捻られながら軸線Ax方向に移動するように誘導される。そして、可動カム部材9がヨーク31に突き当たって電磁力に加えて摩擦力が生じると、その時には固定カム部材8に対する可動カム部材9の相対回転量が図6A及び図6Bの解放状態を基準とした回転範囲の上限に又はその近くに達している。従って、上述したトルクがカム機構6に直ちに入力されて軸線Ax方向の推力に変換される。
【0018】
可動カム部材9が捻られずに軸線Ax方向に吸引される形態の場合、一対のカム部材8、9間に回転方向の遊びが生まれ、カム機構6が推力を発生するにはその遊びが無くなるまで可動カム部材9がヨーク31と接触した状態で一対のカム部材8、9が相対回転する必要がある。従って、解放状態から係合状態へ切り替える際に、電磁コイル30に通電されてからカム機構6が推力を発生させるまでに時間的な遅れが生じる。本形態の電磁式係合装置5は、可動カム部材9の吸引時にヘリカルスプライン機構20にて可動カム部材9が上記方向に捻られながら軸線Ax方向に移動するため、解放状態から係合状態へ切り替える際に、このような遅れは生じない。つまり、短時間でカム機構6によって推力が発生して結合力を増加できる。従って、解放状態から係合状態への切替応答性が向上する。
【0019】
図1に示したように、回転軸2には駆動源としての電動機40のトルクが不図示の伝達機構を介して伝達される。電動機40の動作を制御することによって回転軸2は両方向に回転駆動され得る。電動機40の動作はコンピュータとして構成された制御手段としての駆動制御装置41にて制御される。駆動制御装置41は電動機40を制御する他にも電磁駆動部7を操作して解放状態と係合状態とを切り替える。解放状態から係合状態への切り替えは、駆動制御装置41が電磁駆動部7へ通電することによって実現される。反対に、係合状態から解放状態への切り替えは、駆動制御装置41が電磁駆動部7への通電を停止するとともに、その通電の停止と同期して解放状態から係合状態へ切り替える際とは反対方向に回転軸2が回転するように電動機40を制御することによって実現される。
【0020】
図8A及び図8Bに示すように、係合状態から解放状態への切り替え過程で回転軸2が反対方向に回転駆動されると、ヘリカルスプライン機構20の第1歯部21によって第2歯部22が押されて可動カム部材9をヨーク31から離れる方向に移動させる力Fが発生する。従って、係合状態から解放状態へ切り替える際にこの力Fがリターンスプリング25の付勢力とともに可動カム部材9に作用するため、係合状態から解放状態への切り替えに要する力をリターンスプリング25の付勢力のみに頼る形態に比べて係合状態から解放状態への切替応答性が向上する。
【0021】
本発明は、上記形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。上記形態では、本発明の電磁式係合装置をブレーキ装置として利用しているが、本発明を2つの回転要素間に介在させるクラッチとして実施することも可能である。また、上記形態は誘導手段としてヘリカルスプライン機構を用いているが当該機構は一例にすぎない。例えば噛み合いではなく、一方の要素に溝を形成し、その溝にて案内されるピンを他方の要素に設けることによって誘導手段を実施することも可能である。
【符号の説明】
【0022】
2 回転軸(第1要素)
3 ケース(第2要素)
5 電磁式係合装置
7 電磁駆動部(電磁駆動手段)
8 固定カム部材(他方のカム部材)
9 可動カム部材(一方のカム部材)
20 ヘリカルスプライン機構(誘導手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の軸線の回りを相対回転可能な第1要素と第2要素との間に介在し、前記第1要素と前記第2要素とを結合する係合状態とその結合を解放する解放状態とを電磁力を利用して切り替え可能な電磁式係合装置において、
前記軸線の回りを所定の角度範囲内で相対回転可能かつ前記軸線方向に相対移動可能な一対のカム部材を有し、前記一対のカム部材の相対回転角度が前記角度範囲の上限に達した状態で一方のカム部材が他方のカム部材に対して所定方向に捻られるトルクが入力された場合に該トルクを前記軸線方向の推力に変換して前記係合状態時における前記第1要素と前記第2要素との結合力を増加させるカム機構と、
前記解放状態から前記係合状態へ切り替える際に、前記一方のカム部材を前記他方のカム部材から離れるように電磁力にて前記軸線方向に吸引する電磁駆動手段と、
前記解放状態から前記係合状態へ切り替えられる過程で前記一方のカム部材が前記他方のカム部材に対して前記所定方向に捻られながら前記軸線方向に移動するように、前記一方のカム部材を前記電磁駆動手段の吸引時に誘導する誘導手段と、
を備える電磁式係合装置。
【請求項2】
前記他方のカム部材は、前記第1要素又は前記第2要素のいずれか一方の要素と一体回転可能に設けられ、かつ前記一方の要素が所定の駆動源によって両方向に回転駆動可能であり、
前記一方のカム部材又は前記他方のカム部材のいずれか一方と一体回転でき、歯すじが前記軸線方向に対して傾きながら延びる第1歯部と、前記一方のカム部材又は前記他方のカム部材のいずれか他方と一体回転でき、前記第1歯部と噛み合う第2歯部とを有するヘリカルスプライン機構が、前記誘導手段として設けられ、
前記係合状態から前記解放状態へ切り替えられる場合に、前記一方の要素が前記解放状態から前記係合状態へ切り替えられる際とは反対方向に回転するように前記駆動源を制御する制御手段を更に備える請求項1に記載の電磁式係合装置。
【請求項1】
共通の軸線の回りを相対回転可能な第1要素と第2要素との間に介在し、前記第1要素と前記第2要素とを結合する係合状態とその結合を解放する解放状態とを電磁力を利用して切り替え可能な電磁式係合装置において、
前記軸線の回りを所定の角度範囲内で相対回転可能かつ前記軸線方向に相対移動可能な一対のカム部材を有し、前記一対のカム部材の相対回転角度が前記角度範囲の上限に達した状態で一方のカム部材が他方のカム部材に対して所定方向に捻られるトルクが入力された場合に該トルクを前記軸線方向の推力に変換して前記係合状態時における前記第1要素と前記第2要素との結合力を増加させるカム機構と、
前記解放状態から前記係合状態へ切り替える際に、前記一方のカム部材を前記他方のカム部材から離れるように電磁力にて前記軸線方向に吸引する電磁駆動手段と、
前記解放状態から前記係合状態へ切り替えられる過程で前記一方のカム部材が前記他方のカム部材に対して前記所定方向に捻られながら前記軸線方向に移動するように、前記一方のカム部材を前記電磁駆動手段の吸引時に誘導する誘導手段と、
を備える電磁式係合装置。
【請求項2】
前記他方のカム部材は、前記第1要素又は前記第2要素のいずれか一方の要素と一体回転可能に設けられ、かつ前記一方の要素が所定の駆動源によって両方向に回転駆動可能であり、
前記一方のカム部材又は前記他方のカム部材のいずれか一方と一体回転でき、歯すじが前記軸線方向に対して傾きながら延びる第1歯部と、前記一方のカム部材又は前記他方のカム部材のいずれか他方と一体回転でき、前記第1歯部と噛み合う第2歯部とを有するヘリカルスプライン機構が、前記誘導手段として設けられ、
前記係合状態から前記解放状態へ切り替えられる場合に、前記一方の要素が前記解放状態から前記係合状態へ切り替えられる際とは反対方向に回転するように前記駆動源を制御する制御手段を更に備える請求項1に記載の電磁式係合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【公開番号】特開2012−233513(P2012−233513A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101418(P2011−101418)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]