説明

電磁摩擦係合装置の制御装置

【課題】電磁摩擦係合装置における解放異常を適切に検出可能な電磁摩擦係合装置の制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置1は、電磁摩擦係合装置2に対して所定の係合電流を供給することで電磁摩擦係合装置2の係合制御を行う係合制御手段100と、電磁摩擦係合装置2に対して係合電流より小さい試験電流の供給を行う試験電流供給手段100と、電磁摩擦係合装置が係合状態にあるか否かを判定する係合検出手段100とを備え、係合検出手段は、試験電流の供給中に電磁摩擦係合装置2が係合状態にあるか否かの判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電磁クラッチや電磁ブレーキなどの電磁摩擦係合装置に対して、電流の供給を行うことで係合状態の制御を行う電磁摩擦係合装置の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に電磁摩擦係合装置においては、電流の供給により磁化した電磁石がアーマチュアと呼ばれる可動部を吸引することで回転体に押しつけ、該アーマチュアと回転体との間に生じる摩擦力によって係合が実施される。他方で、電流の供給が停止されると、例えばスプリングなどの弾性材料によってアーマチュアが回転体から引き離され、係合が解放される。このような電磁摩擦係合装置の一例である電磁クラッチは、該摩擦力によってアーマチュアが回転体と共回りすることでクラッチ動作を行うよう構成されており、電磁ブレーキは、該摩擦力によってブレーキ動作を行うよう構成されている。
【0003】
ところで、このような電磁摩擦係合装置においては、解放制御後にアーマチュアが所定の初期位置に帰還せず、吸引された位置と該初期位置との間で停止するような、解放異常が生じる場合がある。このような解放異常の発生時には、例えば、アーマチュアが回転体に接した状態で停止することで、適切な係合状態の解放が為されていない場合などがある。
このとき、回転体の回転によって、アーマチュア及び該アーマチュアに接続されるクラッチのトランスミッションなどが引き摺られ、所謂引き摺りトルクと呼ばれるトルク損失が生じることがある。また、電磁クラッチ装置においては、ギア操作における同期が十分でないことに起因する係合ショックの発生や、変速時間の増大に繋がる虞がある。
【0004】
また、アーマチュアの停止位置が初期位置に比べて回転体により近い位置になっているため、所定の係合制御が実施される場合、アーマチュアが回転体に接触するまでの時間が、アーマチュアが初期位置に停止している場合(言い換えれば、通常時)と比べて、短くなる。このとき、通常時に比べて高い速度でアーマチュアが回転体に接触することとなり、衝突音の発生や、部材の破損が生じる場合がある。
【0005】
このような種々の技術的な問題を引き起こす要因となり得るため、電磁摩擦係合装置において、上述したような解放異常を好適に検出及び回避するための構成が研究されている。 例えば、特許文献1には、クラッチの解放制御を実施した後のクラッチ回転数を規定値と比較することで、引き摺りの発生を検出する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2006−283818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される構成においては、適切な解放制御後のアーマチュアの回転数が0になることを想定している。このため、解放制御後のアーマチュアが所定の回転数を有するような装置構成の場合、引き摺りによるアーマチュアの回転との区別が出来ず、正確な引き摺りの発生を検出出来ない。
【0008】
また、このような引き摺りの発生を検出するための他の手法として、電磁摩擦係合装置に対しストロークセンサなどアーマチュアの位置検知を行う構成を搭載することが考えられるが、このような構成を備えることにより、装置構成上のコスト増加や搭載性の悪化などの新たな技術的問題が生じる。しかしながら、引き摺りの発生の検出を行わない場合、結果的にトルク損失の増大や摩擦面の発熱などの更なる技術的問題に繋がる虞もあり、好ましくない。
【0009】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みてなされたものであり、比較的簡単な構成によってアーマチュアの解放異常を好適に検出するとともに、解放異常の発生時には適切な以上制御を実施可能な電磁摩擦係合装置の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置は、上記課題を解決するために、回転体との間に生じる摩擦力によって該回転体と係合可能な可動部と、電流の供給により該可動部を該回転体に係合させるよう移動可能な電磁石とを備え、前記回転体と前記可動部とが係合される係合状態と、前記回転体と前記可動部とが係合されない解放状態とを切り替え可能に構成される電磁摩擦係合装置を制御する電磁摩擦係合装置の制御装置であって、前記電磁摩擦係合装置に対して所定の係合電流を供給することで前記電磁摩擦係合装置の係合状態への移行制御を行うとともに、前記係合電流の供給を停止することで解放状態の移行制御を行う係合制御手段と、前記電磁摩擦係合装置の係合状態への移行制御前、及び該電磁摩擦係合装置の解放状態の移行制御後の少なくとも一方において、該電磁摩擦係合装置に対して前記係合電流より小さい試験電流の供給を行う試験電流供給手段と、前記電磁摩擦係合装置が係合状態にあるか否かを判定する係合検出手段とを備え、前記係合検出手段は、前記試験電流の供給中に前記電磁摩擦係合装置が係合状態にあるか否かの判定を行う。
【0011】
本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置によれば、係合手段の動作により、電磁摩擦係合装置が備える電磁石への係合電流の供給を停止する解放状態の移行制御後に、試験電流供給手段により電磁摩擦係合装置が係合状態とならない程度の試験電流の供給が実施される。
【0012】
電磁石は、供給される電流量に応じて吸引力(即ち、電磁石からの吸引可能な距離を規定する要素)が規定される。このため、一般的な電磁式の摩擦係合装置においては、電磁石に係合のための係合電流が供給される際の吸引力(即ち、電磁石からの吸引可能な距離を規定する要素)により、適切な可動部の吸引が行えるよう可動部の初期位置と電磁石との距離が決定される。または、逆に可動部の初期位置と電磁石との位置に応じて、係合電流が設定されていても良い。ここに、可動部の初期位置とは、電磁摩擦係合装置が正常な解放状態にあるときの可動部の停止位置を示す趣旨である。
【0013】
このため、係合状態が正常に解放され、可動部が所定の初期位置において停止している場合には、試験電流の供給中に可動部が吸引されることなく、係合は生じない。
【0014】
他方で、何らかの要因により、解放制御後の電磁摩擦係合装置において、可動部が所定の初期位置に帰還せず、吸引された位置と該所定の初期位置との間で停止するような、解放異常が生じる場合がある。このとき、可動部は、係合制御時の電磁石の吸引力よりも低い吸引力によって吸引されるため、例えば、上述した係合電流よりも小さい試験電流の供給によって電磁石が磁化される場合でも可動部と回転体とが係合状態となる。このような、適切な係合電流よりも小さい電流によって生じる意図しない係合によれば、所謂引き摺りトルクによるトルク損失が生じ、電磁摩擦係合装置における仕事率の悪化に繋がる。また、解放異常に起因する上述した各種の技術的な問題も生じる。
【0015】
ところで、このような解放異常が生じている場合、係合電流よりも小さい電流の供給によっても可動部の吸引が生じ、可動部と回転体とが係合することから、可動部においてトルク変化が生じる。このため、このときの可動部におけるトルク変化を検出することで、遡って可動部に解放異常が生じていたか否かを判定することが可能となる。
【0016】
例えば、解放制御後の電磁摩擦係合装置において、係合電流よりも小さい試験電流を短期間供給し、該試験電流の供給期間中の可動部におけるトルク変化を観察することで、解放異常の発生の有無、また、可動部の停止位置を検出することが出来る。
【0017】
特に、上述した試験電流の供給による係合状態の確認を、係合状態への移行制御前、即ち係合電流の供給前に実施すれば、可動部が所定の初期位置より回転体に近い位置で停止しているか否かを検出することが可能となる。このため、解放異常の発生を好適に検出することが可能となり、例えば、後述するように係合制御時の係合電流を低下させることによって、可動部と回転体との衝突などの技術問題を好適に回避することが可能となる。
【0018】
また、試験電流の供給による係合状態の確認を解放状態の移行制御後に実施すれば、解放異常を好適に検出することが可能となる。ここで解放異常が検出される場合、例えば可動部を適切に解放する制御を行うことで、好適に解放異常に起因する上述した種々の技術的問題を回避することが可能となる。
【0019】
このように構成することで、例えばストロークセンサなどの可動部の位置検出を可能とする構成を更に備えることなく、好適に解放異常の発生を検出することが可能となるため、このようなストロークセンサを排した構成が可能となり、コスト面や搭載性において有益である。
【0020】
尚、本発明における係合検出手段とは、例えば後述するように可動部のトルク変化を検出することで係合状態であるか否かを検出するトルクセンサなどであっても良く、また、何らかの手段により該電磁摩擦係合装置が係合状態にあることを検出可能なその他の構成であっても良い。
【0021】
本発明における電磁石とは、典型的には通電により磁化する電磁コイルなどの電磁石であるが、上述した係合を好適に行うためのヨークを備えていても良く、可動部を好適に吸引可能な吸引力及び吸着力を充分に発揮可能な構成をまとめて電磁石と称している。
【0022】
本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置の一の態様は、上記課題を解決するために、前記係合検出手段は、前記可動部のトルク変化を検出することで、前記電磁摩擦係合装置が係合状態にあるか否かの判定を行う。
【0023】
この態様によれば、試験電流により係合が生じる場合、引き摺りトルクによる可動部のトルク変化を検出することで、好適に解放異常の発生を検出することが可能となる。これにより、上述した各種効果を好適に享受することが出来る。
【0024】
本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置の他の態様は、上記課題を解決するために、前記試験電流供給手段は、前記試験電流の供給中に前記電磁摩擦係合装置が係合状態にあると判定される場合、前記試験電流の供給終了後に再度前記試験電流の供給を行う。
【0025】
この態様によれば、試験電流の供給により係合が生じる場合、該係合状態の解除後に、再度試験電流を供給することで、係合が生じるか否かの確認が行われる。このため、より確実に解放異常が生じる事態を解消することが可能となる。
【0026】
尚、このような再度の試験電流の供給による係合状態の確認動作は、複数回実施されても良い。この場合、試験電流の供給によって係合状態が生じなくなることが確認されたことをトリガとして、係合状態の確認動作を終了させるよう構成することが好ましい。
【0027】
上述したように、試験電流の供給中に電磁摩擦係合装置が係合状態にあると判定される場合、試験電流の供給終了後に前記試験電流の供給を行う態様においては、前記試験電流供給手段は、前記試験電流の供給中に前記電磁摩擦係合装置が係合状態にあると判定される場合、前記試験電流の供給を断続的に実施するとともに、前記試験電流の供給を所定の回数実施した後に、前記断続的な前記試験電流の供給を終了しても良い。
【0028】
このように構成すれば、試験電流供給手段は、試験電流の供給中に可動部と回転体とが係合していると判定される場合、試験電流の供給中でも可動部と回転体とが係合しなくなるまで(つまり、可動部が解放状態において初期位置で停止していると判断されるまで)、複数回の試験電流の供給を断続的に実施する。このため、より確実に解放異常が生じていないことを確認することが可能となる。
【0029】
他方で、この態様の試験電流供給手段は、所定の回数の試験電流の断続的な供給を実施した後、依然可動部と回転体とが係合していると判定されていても(つまり、可動部が初期位置に戻っていないと判断される場合であっても)、試験電流の断続的な供給を終了する。このため、継続して解放異常が生じ続ける場合などに、試験電流の供給を反復して継続し続けることによる電力の損失などを抑制することが出来る。
【0030】
上述したように、試験電流の供給中に電磁摩擦係合装置が係合状態にあると判定される場合に所定の回数試験電流の供給を断続的に行う態様においては、前記係合制御手段は、前記試験電流の供給を所定の回数実施した後に、前記断続的な前記試験電流の供給を終了した場合、前記係合電流を低減させる。
【0031】
このように構成すれば、試験電流の継続的な供給中においても、依然として可動部と回転体とが係合していると判定され続ける場合、係合制御手段が電磁摩擦係合装置を係合させるための係合電流の電流値を減少させる。
【0032】
試験電流の供給により、継続的に可動部の吸引が確認される場合、何らかの要因により可動部が初期位置に帰還出来ず、より回転体に近い位置において停止している事態が生じている可能性がある。このように可動部がより回転体に近い位置において停止している場合に、通常の係合電流による係合状態への移行制御を行えば、初期位置に停止している場合と比較してより強い吸着力により回転体方向へと吸引され、想定より高速度及び短期間で回転部に突き当たってしまう。
【0033】
そこで、係合状態への移行時の係合電流の電流値を減少させることで、可動部が回転体に突き当たる際の衝突速度を低下させることが出来、結果、突き当たり時の衝突音及び衝突荷重が緩和される。これは摩擦係合装置の寿命の面からも有益である。
【0034】
本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置の他の態様は、上記課題を解決するために、前記電磁摩擦係合装置に対し供給される電流の電流値に基づいて前記可動部の位置を推測可能な位置推測手段を更に備え、前記位置推測手段は、供給された前記試験電流に基づいて前記可動部の位置を推測する。
【0035】
この態様によれば、試験電流の供給により可動部が吸引される場合の試験電流の電流値と、該電流値に応じた電磁石の吸引力との関係に基づき、可動部の停止位置の推測が行われる。具体的には、位置推測手段は、可動部が吸引される際の試験電流の電流値に基づき、電磁石に供給される電流値と吸引力(即ち、電磁石が可動部の吸引を行うことが可能な距離)との関係を示すマップなどを参照することで、可動部の停止位置を推測する。
【0036】
このように構成することで、例えばストロークセンサなどの可動部の位置検出を可能とするハードウェア上の検出手段を更に備えることなく、好適に解放異常の発生を検出することが可能となるため、コスト面や搭載性において有益である。
【0037】
上述したように位置推測手段を備える態様においては、前記係合制御手段は、推測される前記可動部の位置に基づき、前記可動部が前記回転体に係合する際の係合電流を減少させても良い。
【0038】
上述したように可動部の位置が推測されることで、吸引時に可動部が回転体に係合する(言い換えれば、突き当たる)までの所要時間が概算可能となる。このような構成においては、概算された時間に基づき、可動部が回転体に突き当たる直前に電磁石への供給電流を減少させることで、電磁石の吸着力を減少させることが可能となる。このため、可動部が回転体に突き当たる際の衝突速度を低下させることが出来、結果、突き当たり時の衝突音及び衝突荷重が緩和されることとなり、摩擦係合装置の寿命の面からも有益である。
【0039】
本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置の他の態様は、上記課題を解決するために、前記電磁摩擦係合装置は、前記係合状態にある場合、前記可動部と前記回転体とが係合されることでブレーキ動作を行う電磁ブレーキであり、該電磁ブレーキを制御する電磁ブレーキの制御装置である。
【0040】
前記電磁摩擦係合装置は、前記係合状態において、前記可動部と前記回転体とが係合されることでブレーキ動作を行う電磁ブレーキである。
【0041】
この態様における電磁摩擦係合装置は、例えばブレーキキャリパ(及びブレーキパッド)である可動体を吸引することで、例えばブレーキディスクなどの回転体との間に生じる摩擦力により、回転運動に対する制動及び保持を行う。
【0042】
このように構成すれば、このような制動の解除時における解放異常を好適に検出することが可能となる。
【0043】
本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置の他の態様は、上記課題を解決するために、前記電磁摩擦係合装置は、前記係合状態にある場合、前記可動部と前記回転体とが係合されることでクラッチ動作を行う電磁クラッチであり、該電磁クラッチを制御する電磁クラッチの制御装置である。
【0044】
この態様における電磁摩擦係合装置は、例えばカムシャフトなどの回転体に対し、共回り可能に構成されるアーマチュアなどの可動体を吸引により摩擦を生じさせることで、回転運動の伝達及び遮断を行う。
【0045】
このように構成すれば、このような回転運動の伝達の際の解放異常を好適に検出することが可能となる。
【0046】
本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置の他の態様は、上記課題を解決するために、前記電磁摩擦係合装置は、内燃機関と、該内燃機関の回転に伴って回転する回転体を備え、該回転体の回転により発電可能なモータジェネレータとを備えるハイブリッド車両に対し固定されて搭載され、前記係合状態にある場合には、前記モータジェネレータの前記回転体と前記可動部とが係合されることにより、前記回転体の回転を停止させる。
【0047】
この態様における電磁摩擦係合装置は、例えばエンジンなどの内燃機関の他にモータジェネレータなどの動力源を備えるハイブリッド車両に搭載される。電磁摩擦係合装置は、エンジンの動力軸の回転によるトルクの伝達を受け、回転可能に構成されるモータジェネレータの回転部材を上述した回転体として、該回転体の係合及び解放を実施する。
【0048】
この態様の電磁摩擦係合装置において、回転体と可動部とが係合している場合には、回転体の回転が停止されるよう構成される。この時、例えば電磁摩擦係合装置の可動部は、ハイブリッド車両に対し固定されて配置され、係合状態において、回転体と係合することにより、該回転体の回転を停止可能に構成される。
【0049】
本発明の電磁摩擦係同装置の制御装置によれば、上述のように構成される電磁摩擦係合装置の係合状態及び解放状態を制御することが可能であり、該電磁摩擦係合装置における解放異常を好適に検出することが可能となる。
【0050】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の電磁クラッチの制御装置及び電磁クラッチの構造を概略的に示す模式図である。
【図2】本発明の電磁クラッチの制御装置の動作の流れの一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の電磁クラッチの制御装置の動作に係る時系列的な供給電流を示すグラフである。
【図4】本発明の電磁クラッチの制御装置の動作による電磁クラッチの電流トルク特性と、試験電流との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の電磁クラッチの制御装置の動作におけるアーマチュアの位置推測を概念的に示すグラフである。
【図6】本発明の電磁クラッチ装置が適用されて成る、ハイブリッド車両の基本的な構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0053】
(1)基本構成例
初めに、図1を参照して、本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置と、当該制御装置の制御の対象となる電磁摩擦係合装置の基本的な構成について説明する。ここに、図1は、本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置の一例たる電磁クラッチの制御装置と、当該制御装置の制御の対象となる電磁摩擦係合装置の一例たる電磁クラッチの基本的な構成を模式的に示す、該電磁クラッチに接続される回転体の回転軸方向の断面図である。
【0054】
電磁クラッチ制御装置1は、電子制御ユニット100、電流源110及びトルクセンサ120を備えて構成される。
【0055】
電子制御ユニット100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、電磁クラッチ制御装置1が搭載される車両の各部の動作を制御することが可能に構成された制御ユニットであり、本発明に係る「電磁摩擦係合装置の制御装置」の一具体例である。電子制御ユニット100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する係合電流、保持電流及び試験電流を含む所定の電流を電磁クラッチ2の電磁石210に対して供給するよう電流源110の制御を行う。尚、電子制御ユニット100は、本発明に係る「係合制御手段」、「試験電流供給手段」、「係合検出手段」及び「位置推測手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全て電子制御ユニット100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていても良い。
【0056】
係合電流は、電磁クラッチ2の係合のための電流を示す趣旨であり、アーマチュアの停止位置(典型的には、後述する初期位置)にまで及ぶ吸引力を生じるよう電磁石を励磁させ、アーマチュアの吸引を可能とするよう設定された電流値を有する。
【0057】
保持電流とは、係合時に吸引により回転体に係合したアーマチュアの係合状態を維持可能な吸着力を生じるよう電磁石を励磁させる電流を示す趣旨である。このような保持電流は、後述する図3に示されるように、係合電流と比較してより低い電流値を有する。
【0058】
試験電流は、電磁クラッチ2の係合のために必要な係合電流と比較して小さい所定の電流値を有するものであり、試験電流の電流値は、電磁石210に対し、後述する初期位置にまで吸引力を及ぼすほどの励磁を行わないものの、該初期位置にごく近い位置まで吸引力を及ぼす程度の電流値であることが好ましい。
【0059】
ここで、更に図2を参照して、このような試験電流と電磁クラッチの電流対伝達トルク容量特性との関係について説明する。図2は、電磁クラッチ2の電流対伝達トルク容量特性と、試験電流との関係を示すグラフである。図2に示されるように、電磁クラッチ2の伝達トルク容量は、供給電流量に応じて比例的に増大する一方で、伝達トルク容量の増大が生じない不感帯と呼ばれる相対的に小さい供給電流域がある。このような不感帯とは、例えば、アーマチュアの吸引が生じない程度に電磁石を励磁させる電流域である。試験電流は、このような不感帯に属する電流値である。
【0060】
電流源110は、例えば電磁クラッチ制御装置1が搭載される車両に搭載されるバッテリであり、電子制御ユニット100の制御のもと、上述した係合電流、保持電流及び試験電流を含む所定の電流を電磁クラッチ2の電磁石210に供給可能に接続されている。
【0061】
トルクセンサ120は、電磁クラッチ2におけるアーマチュア230のトルクを検出可能となるようにアーマチュア230に接続され、検出されたトルク情報を電子制御ユニット100に出力可能に接続される。尚、アーマチュア230のトルクとは、典型的には、クラッチ係合中に回転体300よりアーマチュア230に伝達される回転のトルクであるが、クラッチ解放中にアーマチュア230が何らかの原因によりディスク310から完全に解放されないことによって回転体300より伝達される、一種の制動トルクである引き摺りトルクもまたトルク検出動作の対象となる。
【0062】
続いて、該電磁クラッチ制御装置1の制御動作の対象となる電磁クラッチ2の基本的な構成について説明する。図1に示すように電磁クラッチ2は、ケース200内に、電磁石210、吸引部220、アーマチュア230、及びストッパ250が搭載されてなる構成である。電磁クラッチ2は、例えば動力軸などの回転体300に備えられるディスク310を介して、アーマチュア230に該回転軸のトルクの伝達及び遮断が可能となるよう構成される。
【0063】
電磁石210は、電磁クラッチ制御装置1の電流源110から、所定のクラッチ係合電流(所謂励磁電流である)が供給された励磁状態において磁力を発生可能に構成された磁石である。このような励磁状態において電磁石210から発せられる磁力は、磁性金属材料により構成されたアーマチュア230及び該アーマチュアに備えられるクラッチ板240を、電磁石210側であって、回転体300のディスク310に接触させる方向へ移動させる電磁力を付与する構成となっている。尚、電磁石210は、一般的な電磁石の特性として、供給電流に応じて電磁力を付与可能な電磁石からの距離範囲が変化する特性を備える。
【0064】
吸引部220は、磁性金属材料により構成されると共に電磁石210を収容可能に構成された、電磁クラッチ2の筐体である。吸引部220は、このような電磁クラッチの外郭部材たるケース200に対し固定されている。
【0065】
アーマチュア230は、磁性金属材料により構成されると共に、回転体300のディスク310面と対向配置されてなる、クラッチ版と一対をなす円板状の係合部材である。アーマチュア230は、電磁石210による吸引力や、アーマチュア230の弾性力による付勢を受けて回転体300の回転軸方向に移動可能に構成されている。また、アーマチュア230は、不図示の第2回転体と共回り可能となるように接続されており、電磁クラッチ2が係合状態にある場合には、クラッチ板240及びディスク310を介して回転体300のトルクの伝達を受け、該トルクを第2回転体に伝達可能に構成される。
【0066】
クラッチ板240は、アーマチュア230における、回転体300のディスク310との対抗面に面に形成された摩擦機能体であり、形成されない場合と較べて、接触状態にある物体の移動をより大きく阻害し得るようにその摩擦係数が設定されている。また、上述したように、アーマチュア230は、アーマチュア230の弾性力により、クラッチ解放時には、ストッパ250方向に付勢を受ける。このため、クラッチ板240は、通常、この付勢により、所定の対向間隔を隔ててディスク310と対向する非接触位置で停止している。
【0067】
ストッパ250は、弾性力によりディスク310との接触状態から離脱したアーマチュア230を電磁石210から所定の距離離れた初期位置(即ち、ディスク310と所定の対向間隔を隔てた位置)に停止させるための部材である。ストッパ250は、好適にはケース200と一体化し、可動するアーマチュア230を所定の初期位置に停止させる。
【0068】
以上、説明した電磁クラッチ2によれば、電磁石210に係合電流が供給される状態では、吸引部220が磁化され、アーマチュア230がディスク310に吸着され、回転体300のトルクが伝達されることでクラッチが係合状態となる。
【0069】
一方、電磁石210に十分な係合電流が供給されない状態では、アーマチュア230は弾性力により、ストッパ250側に付勢されるとともにストッパ250により停止され、ディスク310と非接触の位置において停止する。即ち、電磁石210への通電時に電磁クラッチ2が係合状態となり、非通電時にクラッチが解放状態となる。
【0070】
(2)基本動作例
続いて、図3を参照しながら上述した電磁クラッチ制御装置1の基本的な動作例について説明する。ここに、図3は電磁クラッチ制御装置2の基本的な動作の流れを示すフローチャートである。
【0071】
電磁クラッチ2の係合中(ステップS101:Yes)に、ドライバの操作などによって係合解除指示が行われる場合(ステップS102:Yes)、電磁クラッチ制御装置1の電子制御ユニット100は、電流源110からの電磁石210への係合電流の供給を停止することで、係合解放制御を実施する(ステップS103)。
【0072】
続いて、電子制御ユニット100は、電流源110から電磁石210に対し、試験電流を供給する制御を実施する。また、電子制御ユニット100は、トルクセンサ120を用いて試験電流供給中のアーマチュア230のトルクの検出を行う(ステップS104)。
【0073】
上述の係合解放制御が正しく完了されている場合、電磁石210による吸引が停止されることで、アーマチュア230は、上述した初期位置まで帰還する。しかしながら、何らかの要因により、アーマチュア230が該初期位置まで帰還せず、例えばより回転体300に近い位置において停止する場合がある。このようにアーマチュア230が初期位置よりも回転体300に近い位置で停止している場合、係合電流よりも小さい試験電流による電磁石210の励磁であってもアーマチュア230の吸引が生じる。このため、アーマチュア230が回転体300と係合し、回転体300のトルクを受けることでトルク変化が生じることがある。
【0074】
ここで、図4を参照して、試験電流の供給時の電磁クラッチの挙動について説明する。図4は、電磁クラッチ制御装置1の動作により電磁クラッチ2の電磁石210に供給される電流の時系列的変化を示すグラフである。
【0075】
図4に示されるように、電子制御ユニット100は、電磁クラッチの係合制御時に、電流源より所定の係合電流を電磁石210に供給する制御を行う。このような係合電流の供給を受けることで、電磁石210はアーマチュア230の初期位置に及ぶ吸引力を有するよう励磁され、アーマチュア230の吸引が発生する。その後、例えばトルクセンサ120によるアーマチュア230のトルクの検出結果などに基づき、アーマチュア230が回転体300に係合されたことが確認されると、電子制御ユニット100は、電磁石210に供給する電流を係合電流より小さい保持電流へと変更する。電磁石210は該保持電流の供給による励磁によって、アーマチュア230と回転体300との係合状態を保持するようアーマチュア230の吸引を行う。また、電子制御ユニット100は、保持電流の供給を停止することで、電磁クラッチの解放制御を実施する。
【0076】
電磁クラッチの解放制御後、電子制御ユニット100は、電磁石210に対し試験電流の供給を比較的短い期間行う。
【0077】
再び図3に戻り、電磁クラッチ制御装置の動作について説明を続ける。試験電流の供給中に、アーマチュア230のトルクに変化が生じない場合(ステップS105:Yes)、アーマチュア230は初期位置、または初期位置の概ね近傍で停止していることで、アーマチュア230の吸引が生じなかったと判断することが出来る。このとき、電磁制御ユニットにより、電磁クラッチ2の解放制御が適切に完了されたものと確認される(ステップS106)
他方で、試験電流の供給中に、アーマチュア230のトルク変化が検出される場合(ステップS105:No)、アーマチュア230が初期位置まで帰還することなくより回転体300に近い位置で停止しているなどの解放異常が生じていると判断される(ステップS107)。
【0078】
続いて、電子制御ユニット100は、電磁石210に対し再度試験電流の供給を行うとともにもに、アーマチュア230のトルク変化の検出を行う(ステップS108)。この試験電流の供給中に、アーマチュア230のトルクに変化が生じない場合(ステップS109:Yes)、電磁クラッチ2の解放制御が適切に完了されたと判断される(ステップS106)。
【0079】
他方で、アーマチュア230のトルク変化が検出される場合、依然解放異常が継続して生じているものと判断され(ステップS107)、試験電流の供給とアーマチュア230のトルク変化の検出が反復して実施される(ステップS108及びステップS109)。
【0080】
試験電流の供給による解放異常発生の確認動作(つまり、ステップS107〜ステップS109の一連の動作)を規定回数実施した後に、依然解放異常の発生が検出される場合(つまり、試験電流の供給中に、継続してアーマチュア230のトルク変化が検出される場合)(ステップS110:Yes)、電子制御ユニット100は、解放異常発生の確認動作を終了し、次回以降の係合制御時に供給される係合電流の電流値を減少させる(ステップS111)。
【0081】
複数回の試験電流の供給時に継続してアーマチュア230の吸引が確認される場合、何らかの要因により、アーマチュア230が初期位置まで帰還出来ず、該初期位置と回転体300との間で停止してしまう状態にあるものと判断出来る。このとき、係合制御のために設定された通りの係合電流が電磁石210に供給されると、アーマチュア230は、初期位置に停止している場合と比較してより強い吸着力により回転体300方向へと吸引されるため、想定より高速度及び短期間で回転部に突き当たってしまう。このため、アーマチュア230が回転体300に衝突する際の衝突音や衝突荷重の増大が見込まれ、またクラッチの係合制御実施から実際に係合されるまでの期間が短くなり、操作性の悪化にも繋がる可能性がある。
【0082】
そこで、係合状態への移行時の係合電流の電流値を減少させることで、アーマチュア230吸引時の吸引力を低減させることが出来、回転体300に衝突する際の衝突音及び衝突荷重が緩和される。尚、このときの係合電流の減少量とは、予め規定される所定の減少量が採用されても良く、その他何らかの手段で決定されるものであっても構わない。例えば、後述するアーマチュア230の位置推測制御により推測されるアーマチュア230の停止位置に基づく理想的な係合電流が採用されても良い。
【0083】
(3)アーマチュアの位置推測制御
続いて、図5を参照しながら、本発明の電磁クラッチ制御装置1の動作の一例たる、アーマチュア230の位置推測制御について説明する。
【0084】
電子制御ユニット100は、ROM内に電磁クラッチ2に備えられる電磁石210における供給電流と、該供給電流に応じたアーマチュア230吸引可能距離との関係を示すマップが格納されて構成されている。該マップは、言い換えれば、電磁石210とアーマチュア230との距離と、該距離におけるアーマチュア230の吸引可能電流との関係を示すマップであり、該マップによれば、例えば図5のグラフに示される関係となる。
【0085】
試験電流の供給時に、該試験電流の供給中にアーマチュア230のトルク変化が検出される場合(例えば、図3のステップS105:No)、アーマチュア230の吸引が生じている。このため、このときのアーマチュア230の停止位置は、図5のマップに基づき、試験電流以下の電流供給により吸引可能な距離であることが推測出来る。このため、アーマチュア230の推測が可能となる。
【0086】
尚、試験電流を適宜変更させながら複数回供給し、夫々の試験電流に応じた係合の発生の有無を確認することで、より詳細にアーマチュア230の停止位置を推測することが可能となる。
【0087】
アーマチュア230の停止位置が、アーマチュア初期位置より電磁石210、ひいては回転体300に近い位置である場合、電磁クラッチ2の係合制御時に付与される係合電流に応じた電磁石210の電磁力がより大きくなる。このため、アーマチュア230は、初期位置に停止している場合よりも高速度で回転体300方向へと吸引される。このため、係合制御時にアーマチュア230(ひいては、クラッチ板240)が吸引によってディスク310に接触(言い換えれば、衝突)する際の衝突音及び衝突荷重が増大してしまう。
【0088】
そこで、電子制御ユニット100は、アーマチュア230の停止位置が、試験電流によりアーマチュア230の吸引が生じる範囲内にある場合、アーマチュア230の位置に応じた、係合制御時のアーマチュア230の吸引の発生からディスク310へ衝突するまでの時間を概算する。そして、アーマチュア230がディスク310に衝突する直前に、供給される係合電流を減少させ、電磁石210の電磁力を減少させる制御を行う。
【0089】
このような制御によれば、係合制御時におけるアーマチュア230の衝突速度を低減させることが出来、ディスク310との衝突時の衝突音及び衝突荷重を軽減せしめることが出来る。このため、部品寿命の改善に繋がるという利点も享受可能となる。
【0090】
また、ストロークセンサなどのハードウェア構成を追加することなく、アーマチュア230の位置を推測可能となるため、装置構成上のコスト面及び搭載性の点からも有益である。
【0091】
上述の説明においては、本発明の電磁摩擦係合装置の制御装置の一具体例として、電磁クラッチ制御装置の構成及び動作について説明してきたが、このような電磁摩擦係合装置の制御装置の他の具体例として電磁ブレーキ制御装置が採用されても良い。このときの電磁ブレーキ制御装置の構成及び動作については、上述の電磁クラッチ制御装置の構成及び動作が適用されても構わないものである。つまり、該電磁クラッチ制御装置に係るクラッチ動作をブレーキ動作に置き換えることで、電磁ブレーキ制御装置に対しても上述の構成及び動作を適用することが可能となり、上述の効果を享受することが可能となる。
【0092】
また、上記の例以外にも、電流の供給により摩擦面を有するアーマチュアなどの可動部を吸引し、回転体と係合させることで該回転体の回転力の伝達及び遮断、または制動及び保持を行うその他の機構に対しても容易に適用可能である。このような構成においては、上述した利点の各種を享受可能となることはこれまでの説明から明らかである。
【0093】
このような機構の一例について、以下に更に説明を行う。
【0094】
(4)電磁クラッチを備えるハイブリッド車両の構成例
続いて、図6を参照して、上述した電磁クラッチ制御装置1及び電磁クラッチ2を適用可能な機構の一具体例である電磁クラッチ制御装置1を備えるハイブリッド車両の構成について説明する。図6は、動力源としてエンジン10の他に第1のモータジェネレータMG1及び第2のモータジェネレータMG2を備えるハイブリッド車両3の基本的な構成を示す概略図である。
【0095】
図6に示されるように、ハイブリッド車両3は、エンジン10、第1のモータジェネレータMG1、第2のモータジェネレータMG2、動力分配機構20、電磁クラッチ機構2、電磁クラッチ制御機構1、減速機構30、駆動輪FL、FR、インバータ40及びバッテリ50を備える。ハイブリッド車両3においては、動力源に相当するエンジン10と第1のモータジェネレータMG1とは、動力分配機構20に連結されている。動力分配機構20の駆動軸12には、駆動軸12のトルク(言い換えれば、駆動力)又はブレーキ力のアシストを行うための動力源である第2のモータジェネレータMG2が連結されている。さらに、駆動軸12は減速機構30を介して左右の駆動輪FL、FRに連結されている。第1のモータジェネレータMG1と第2のモータジェネレータMG2とは、インバータ40を介してバッテリ50に電気的に接続され、バッテリ50からの電力の供給によって第2のモータジェネレータMG2を駆動可能であると共に、第1のモータジェネレータMG1で生じた電力でバッテリ50を充電可能に構成されている。
【0096】
エンジン10は、本発明に係る「内燃機関」の一具体例であって、例えばガソリンなどの燃料を燃焼させることでクランクシャフトを回転駆動させる原動機である。
【0097】
第1のモータジェネレータMG1は、ロータ300などの回転部材を備え、該ロータ300がエンジン10から動力分配機構20を介してトルクの供給を受けて回転することで、発電可能に構成されている。また、発電が行われる際には、供給されるトルクに対して反力が作用する。尚、後述するように第1のモータジェネレータMG1のロータ300は、電磁クラッチ2に接続され、図1に示される回転体300の一例としての構成となる。このため、ロータ300については、図1の回転体300と同様の符号を付して説明する。
【0098】
第2のモータジェネレータMG2は、主にエンジン10の駆動におけるトルクまたはブレーキ力を補助(言い換えれば、駆動輪FL、FRのトルクを減殺)する構成である。具体的には、トルクを補助する際には、第2のモータジェネレータMG2は、バッテリ50から電力の供給を受けて回転し、トルク補助を行う電動機として機能する。他方で、ブレーキ力を補助する際には、第2のモータジェネレータMG2は、駆動輪FL、FRから伝達されるトルクにより回転し、発電を行うことで、該トルクに反力を作用させる。
【0099】
動力分配機構20は、所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構であって、リングギアR1、キャリアC1、サンギアS1を備えて構成される。また、キャリアC1は、リングギアR1とサンギアS1との両方に噛み合っているピニオンギアCP1を保持している。
【0100】
エンジン10のクランクシャフト(不図示)に接続される出力軸11は、動力分配機構20における遊星歯車機構のキャリアC1と共回り可能な態様で連結されている。モータジェネレータMG1のロータ300の一端は、遊星歯車機構のサンギアS1に連結されている。リングギアR1は、駆動軸12と共回り可能な態様で連結されている。このような構成のため、エンジン10の駆動によって回転する出力軸11のトルクは、駆動軸12と第1のモータジェネレータMG1のロータ300とに伝達可能となっている。
【0101】
電磁クラッチ2は、電磁クラッチ制御装置1から供給される電流に基づいて、図1に示される電磁石210が磁化することにより、アーマチュア230の吸引が発生し、係合状態及び解放状態が制御される。尚、電磁クラッチ2においては、第1のモータジェネレータMG1のロータ300の一方の端部が図1に示される回転体300の一例となっており、電磁クラッチ2における一方の係合要素を構成している。また、該回転体300に対応する他方の係合要素であるアーマチュア230はケース200に固定される。
【0102】
このため、電磁クラッチ制御装置1は、電磁クラッチ2を係合することにより、第1のモータジェネレータMG1のロータ300を固定するとともに、連結される動力分配機構20のサンギアS1を固定する。また、電磁クラッチ制御装置1は、電磁クラッチ2の係合を解放することにより、第1のモータジェネレータMG1のロータ300を解放し、動力分配機構20のサンギアS1を解放する。このため、電磁クラッチ制御装置1及び電磁クラッチ2は、動力分配機構20のサンギアS1を固定するブレーキとして機能する。このような構成によれば、エンジン10の駆動時の動力分配機構20におけるトルクの伝達において、上述した種々の利点を享受可能となる。
【0103】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電磁摩擦係合装置の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0104】
1…電磁クラッチ制御装置、
2…電磁クラッチ、
3…ハイブリッド車両、
10…エンジン、
20…動力分配機構、
30…減速機構、
40…インバータ、
50…バッテリ、
110…電子制御ユニット、
120…電流源、
130…トルクセンサ、
200…ケース、
210…電磁石、
220…吸引部、
230…アーマチュア、
240…クラッチ板、
300…回転体(ロータ)、
310…ディスク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体との間に生じる摩擦力によって該回転体と係合可能な可動部と、電流の供給により該可動部を該回転体に係合させるよう移動可能な電磁石とを備え、前記回転体と前記可動部とが係合される係合状態と、前記回転体と前記可動部とが係合されない解放状態とを切り替え可能に構成される電磁摩擦係合装置を制御する電磁摩擦係合装置の制御装置であって、
前記電磁摩擦係合装置に対して所定の係合電流を供給することで前記電磁摩擦係合装置の係合状態への移行制御を行うとともに、前記係合電流の供給を停止することで解放状態の移行制御を行う係合制御手段と、
前記電磁摩擦係合装置の係合状態への移行制御前、及び該電磁摩擦係合装置の解放状態の移行制御後の少なくとも一方において、該電磁摩擦係合装置に対して前記係合電流より小さい試験電流の供給を行う試験電流供給手段と、
前記電磁摩擦係合装置が係合状態にあるか否かを判定する係合検出手段と
を備え、
前記係合検出手段は、前記試験電流の供給中に前記電磁摩擦係合装置が係合状態にあるか否かの判定を行うことを特徴とする電磁摩擦係合装置の制御装置。
【請求項2】
前記係合検出手段は、前記可動部のトルク変化を検出することで、前記電磁摩擦係合装置が係合状態にあるか否かの判定を行うことを特徴とする請求項1に記載の電磁摩擦係合装置の制御装置。
【請求項3】
前記試験電流供給手段は、前記試験電流の供給中に前記電磁摩擦係合装置が係合状態にあると判定される場合、前記試験電流の供給終了後に再度前記試験電流の供給を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁摩擦係合装置の制御装置。
【請求項4】
前記試験電流供給手段は、前記試験電流の供給中に前記電磁摩擦係合装置が係合状態にあると判定される場合、前記試験電流の供給を断続的に実施するとともに、前記試験電流の供給を所定の回数実施した後に、前記断続的な前記試験電流の供給を終了することを特徴とする請求項3に記載の電磁摩擦係合装置の制御装置。
【請求項5】
前記係合制御手段は、前記試験電流の供給を所定の回数実施した後に、前記断続的な前記試験電流の供給を終了した場合、前記係合電流を低減させることを特徴とする請求項4に記載の電磁摩擦係合装置の制御装置。
【請求項6】
前記電磁摩擦係合装置に対し供給される電流の電流値に基づいて前記可動部の位置を推測可能な位置推測手段を更に備え、
前記位置推測手段は、供給された前記試験電流に基づいて前記可動部の位置を推測することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電磁摩擦係合装置の制御装置。
【請求項7】
前記係合制御手段は、推測される前記可動部の位置に基づき、前記可動部が前記回転体に係合する際の係合電流を減少させることを特徴とする請求項6に記載の電磁摩擦係合装置の制御装置。
【請求項8】
前記電磁摩擦係合装置は、前記係合状態にある場合、前記可動部と前記回転体とが係合されることでブレーキ動作を行う電磁ブレーキであり、該電磁ブレーキを制御する電磁ブレーキの制御装置であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電磁摩擦係合装置の制御装置。
【請求項9】
前記電磁摩擦係合装置は、前記係合状態にある場合、前記可動部と前記回転体とが係合されることでクラッチ動作を行う電磁クラッチであり、該電磁クラッチを制御する電磁クラッチの制御装置であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電磁摩擦係合装置の制御装置。
【請求項10】
前記電磁摩擦係合装置は、内燃機関と、該内燃機関の回転に伴って回転する回転体を備え、該回転体の回転により発電可能なモータジェネレータとを備えるハイブリッド車両に対し固定されて搭載され、前記係合状態にある場合には、前記モータジェネレータの前記回転体と前記可動部とが係合されることにより、前記回転体の回転を停止させることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電磁摩擦係合装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−64311(P2011−64311A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217502(P2009−217502)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】