説明

電磁波シールド材

【課題】導電性の凸状パターン層を覆う全面に透明保護層を設けた電磁波シールド材において、画像表示装置の前面に配置した場合に透過画像が歪むという課題を解決した電磁波シールド材を提供する。
【解決手段】透明基材1と、透明基材1上に形成された導電性組成物からなる凸状パターン層2と、凸状パターン層2を覆う全面に形成された透明保護層3とを有し、透明保護層3が電離放射線硬化性樹脂からなり、透明保護層3の表面における水に対する接触角が79°以上であるように構成した。この場合において、透明基材1と凸状パターン層2の間にはプライマー層4が設けられていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド材に関し、さらに詳しくは、導電性の凸状パターン層上に、透過画像に歪みを生じさせない透明保護層を設けてなる電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビ又はパーソナルコンピュータのモニター等の画像表示装置(ディスプレイ装置ともいう。)として、例えば、陰極線管(CRT)ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置(LCD)、プラズマディスプレイ装置(PDP)、電場発光(EL)ディスプレイ装置等が知られている。これらのディスプレイ装置のうち、大画面ディスプレイ装置の分野で注目されているプラズマディスプレイ装置は、発光にプラズマ放電を利用するため、30MHz〜1GHz帯域の不要な電磁波が外部に漏洩して他の機器(例えば、遠隔制御機器、情報処理装置等)に影響を与えるおそれがある。そのため、プラズマディスプレイ装置に用いられるプラズマディスプレイパネルの前面側(観察者側)に、漏洩する電磁波をシールドするためのフィルム状の電磁波シールド材を設けるのが一般的である。
【0003】
電磁波シールド材は今までに種々検討されているが、例えば特許文献1には、透明基材と金属箔の少なくともどちらか一方又は両方に樹脂(接着剤)を塗布して両者を貼り合わせ、次いで金属箔をケミカルエッチングプロセスによりエッチング加工して金属製メッシュを形成し、次いでその金属製メッシュ上に、活性エネルギー線(紫外線)で硬化可能な透明樹脂(アクリル樹脂)を塗布、硬化してなるEMIシールドフィルム及びその製造方法が提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載のEMIシールドフィルムの製造方法では、貼り合わせた金属箔のほとんどをエッチング除去してメッシュパターンを形成するので、材料がムダになるとともにエッチング廃液の処理にも多大なコストがかかる等の問題があった。本出願人は、こうした問題を解決する手段として、紫外線硬化型の樹脂からなる半流動状態のプライマー層を設けた透明基板と、導電性組成物を充填した凹版とを圧着し、その後硬化して、プライマー層上に導電性の凸状パターン層を極めて高い転写率で形成してなる電磁波シールド材及びその製造方法を提案している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−39981号公報
【特許文献2】WO2008/149969 A1(国際公開パンフレット)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2において、導電性の凸状パターン層上には、その凸状パターン層を埋めて表面を平坦化する目的で、アクリル系の電離放射線硬化性樹脂からなる透明保護層を設けてもよいことが記載されている(同文献の第0113段落)。また、その透明保護層の大部分が密着するプライマー層として、電離放射線硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を塗工してなる層が好ましいと記載されている(同文献の第0064段落)。しかしながら、一般的に電離放射線硬化性樹脂同士の密着力は強くなく、したがって、特許文献2における透明保護層と、電離放射線硬化性樹脂からなるプライマー層との密着性を向上させる必要があった。
【0007】
本発明者は、プライマー層と透明保護層がいずれも電離放射線硬化性樹脂層である場合における密着性向上の研究を行っている過程で、透明保護層を構成するアクリル系の電離放射線硬化性樹脂として、長いポリマーを含む樹脂材料を用いることによって密着性の向上が図れるという知見を得た。しかし、そうした樹脂材料は流動性が悪く、導電性の凸状パターン層を覆うように設けた場合に平坦性が低下し、得られた電磁波シールド材を画像表示装置の前面に配置した場合に透過画像が歪むという問題が生じた。
【0008】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであって、第1の目的は、導電性の凸状パターン層を覆う全面に透明保護層を設けた電磁波シールド材において、画像表示装置の前面に配置した場合に透過画像が歪むという課題(第1の課題)を解決した電磁波シールド材を提供することにある。
【0009】
また、本発明の第2の目的は、透過画像が歪むという前記した第1の課題を解決した電磁波シールド材において、さらに、その凸状パターン層の線幅を30μm以下(好ましくは20μm以下)に微細化した場合に、断面積の減少にともなう電気抵抗の増加が生じ、表面抵抗率が増大してシールド特性が悪化するという課題(第2の課題)を解決した電磁波シールド材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記第1及び第2の課題を解決するための研究を行っている過程で、上記のように、長いポリマーを含む樹脂材料で透明保護層を形成した場合には、同じ電離放射線硬化性樹脂からなる層に対して密着性の向上が図れるという知見を得たが、そうした樹脂材料は流動性が悪く、導電性の凸状パターン層を覆うように設けた場合に平坦性が低下し、得られた電磁波シールド材を画像表示装置の前面に配置した場合に透過画像が歪むという問題が生じた。この問題に対して、本発明者はさらに研究を深めたところ、表面の水に対する接触角が特定範囲となる透明保護層が、透過画像の歪みを解消できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するための本発明に係る電磁波シールド材は、透明基材と、該透明基材上に形成された導電性組成物からなる凸状パターン層と、該凸状パターン層を覆う全面に形成された透明保護層とを有し、前記透明保護層が電離放射線硬化性樹脂からなり、該透明保護層の表面における水に対する接触角が79°以上であることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、導電性組成物からなる凸状パターン層を覆う全面に形成された透明保護層が電離放射線硬化性樹脂からなり、その透明保護層の表面における水に対する接触角が79°以上となるように構成した結果、得られた電磁波シールド材を画像表示装置の前面に配置した場合に透過画像が歪むという問題を解決することができた。本発明者は、その理由として、水に対する接触角が79°以上となる透明保護層表面が、高い平坦性をもたらしているものと推察している。
【0013】
本発明に係る電磁波シールド材において、前記導電性組成物が、導電性粒子とバインダー樹脂とを有し、前記凸状パターン層中での該導電性粒子の分布が、前記透明基材側の界面近傍で相対的に疎であり、前記透明基材から遠ざかる側の頂部近傍で相対的に密である。
【0014】
この発明によれば、導電性組成物を構成する導電性粒子の分布が、凸状パターン層の透明基材側の界面近傍で相対的に疎であり、透明基材から遠ざかる側の頂部近傍で相対的に密であるので、凸状パターン層の頂部近傍に導電性粒子が集中して各導電性粒子同士の電気的接触が確保される。その結果、凸状パターン層の線幅を30μm以下(好ましくは20μm以下)に微細化した場合であっても、断面積の減少にともなう電気抵抗の増加を抑制でき、表面抵抗率の増大を抑制して良好なシールド特性を有する電磁波シールド材を提供できる。また、この発明によれば、透明基板側の界面近傍では、導電性粒子が相対的に疎であり、バインダー樹脂が相対的に多いので、透明基板(透明基板上にプライマー層が設けられている場合にはプライマー層)への密着性を高めることができる。その結果、凸状パターン層の界面剥離と脱落を抑制し、高い密着性を確保することができる。また、この発明によれば、凸状パターン層の透明基材側の導電性粒子分布が疎であるので、そうした部位に存在する導電性粒子の影響(光の反射)を少なくすることができ、導電性粒子の分布が疎な面側を外光側(観察者側)に向けた場合には、外光による画像の白化及びコントラスト低下を防止することができる。一方、導電性粒子の分布が疎な面側を画像表示装置側に向けた場合には、画像光の画面への反射による画像の白化とコントラスト低下を防止することができる。
【0015】
本発明に係る電磁波シールド材において、前記導電性粒子が、多面体状、球状又は回転楕円体状で平均粒子径が1μm以下である。
【0016】
この発明によれば、多面体状、球状又は回転楕円体状で平均粒子径が1μm以下の導電性粒子を用いた場合に、導電性粒子の分布を前記のようにすることを容易にするので、凸状パターン層の頂部近傍に導電性粒子を集中させて各導電性粒子同士の電気的接触を確保することができる。その結果、凸状パターン層の線幅を30μm以下(好ましくは20μm以下)に微細化した場合であっても、良好なシールド特性を有する電磁波シールド材を提供できる。
【0017】
本発明に係る電磁波シールド材において、前記透明保護層が、表面調整剤を含む電離放射線硬化性樹脂で形成されている。
【0018】
この発明によれば、例えば同じ電離放射線硬化性樹脂からなる層(プライマー層等)に対して密着性の向上を図ることができる電離放射線硬化性樹脂材料で透明保護層を形成した場合に、その電離放射線硬化性樹脂に表面調整剤を含有させることにより、その透明保護層表面の水に対する接触角を79°以上とすることができる。
【0019】
本発明に係る電磁波シールド材において、前記透明基材と前記凸状パターン層との間には電離放射線硬化性樹脂からなるプライマー層が設けられており、前記プライマー層のうち前記凸状パターン層が形成されているパターン形成部におけるプライマー層の厚さは、該凸状パターン層が形成されていないパターン非形成部におけるプライマー層の厚さよりも厚く、前記凸状パターン層形成部におけるプライマー層と凸状パターン層との界面は、(a)該プライマー層と該凸状パターン層との界面が非直線状に入り組んでいる断面形態、(b)該プライマー層を構成する成分と該凸状パターン層を構成する成分とが混合している層を有する断面形態、及び、(c)該凸状パターン層を構成する導電性組成物中に該プライマー層に含まれる成分が存在している断面形態、のいずれか1又は2以上の断面形態を有する。
【0020】
この発明によれば、透明基材と凸状パターン層との間に電離放射線硬化性樹脂からなるプライマー層が設けられているので、そのプライマー層に対して凸状パターン層を密着性よく接着させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る電磁波シールド材によれば、導電性組成物からなる凸状パターン層を覆う全面に形成された透明保護層が電離放射線硬化性樹脂からなり、その透明保護層の表面における水に対する接触角が79°以上となるように構成したので、結果として、得られた電磁波シールド材を画像表示装置の前面に配置した場合に透過画像が歪むという問題を解決することができた。
【0022】
また、本発明に係る電磁波シールド材によれば、導電性組成物を構成する導電性粒子の分布が、凸状パターン層の透明基材側の界面近傍で相対的に疎であり、透明基材から遠ざかる側の頂部近傍で相対的に密であるので、凸状パターン層の頂部近傍に導電性粒子が集中して各導電性粒子同士の電気的接触が確保される。その結果、凸状パターン層の線幅を30μm以下(好ましくは20μm以下)に微細化した場合であっても、断面積の減少にともなう電気抵抗の増加を抑制でき、表面抵抗率の増大を抑制して良好なシールド特性を有する電磁波シールド材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る電磁波シールド材の一例を示す模式的な平面図である。
【図2】凸状パターン層の一例を示す拡大断面図である。
【図3】凸状パターン層の他の一例を示す拡大断面図である。
【図4】凸状パターン層のさらに他の一例を示す拡大断面図である。
【図5】凸状パターン層中の導電性粒子の疎密分布を示す模式的な説明図である。
【図6】凸状パターン層中の導電性粒子の疎密分布を示す断面写真である。
【図7】凸状パターン層とプライマー層との界面形態の模式的な断面図であり、(A)は第1の断面形態であり、(B)は第2の断面形態態であり、(C)は第3の断面形態である。
【図8】凹部内の導電性材料組成物の凹みにプライマー層を充填し、その導電性材料組成物が転写する形態を示す模式図である。
【図9】電磁波シールド材の製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図10】電磁波シールド材の製造装置の他の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明に係る電磁波シールド材の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0025】
[電磁波シールド材]
本発明に係る電磁波シールド材10は、図2に示すように、透明基材1と、透明基材1上に形成された導電性組成物からなる凸状パターン層2と、凸状パターン層2を覆う全面に形成された透明保護層3とを有する。また、必要に応じて、透明基材1と凸状パターン層2との間にプライマー層4が設けられていてもよいし(図3参照)、凸状パターン層2上に金属層6が設けられていてもよい(図4参照)。
【0026】
ここで、凸状パターン層2は、所定のパターンで形成された導電性パターンであり、電磁波遮蔽パターンとして一般的な、メッシュ(網乃至格子)状、ストライプ(平行線群乃至縞模様)状、螺旋(乃至は渦巻)状、又は線分群等のパターンである。また、本発明に係る電磁波シールド材10は、図1に示すように、中央部に位置し、ディスプレイ装置の画像表示領域に対峙する電磁波遮蔽パターン部11を有し、その電磁波遮蔽パターン部11の周縁部の少なくとも一部(好ましくは周縁全周)には接地部12を有している。
【0027】
以下、本発明の構成を詳しく説明する。
【0028】
(透明基材)
透明基材1は、可視光線領域での透明性(光透過性)、耐熱性、機械的強度等の要求物性を考慮して、公知の材料及び厚さを適宜選択すればよい。そうした透明基材1としては、ガラス、セラミックス等の透明無機物の板又は樹脂板等の板状体の剛直物でもよいが、生産性に優れるロール・トゥ・ロールでの連続加工適性を考慮すると、フレキシブルな樹脂フィルム(乃至シート)が好ましい。なお、ロール・トゥ・ロールとは、巻取(ロール)から巻き出して供給し、適宜加工を施し、その後、巻取に巻き取る加工方式をいう。
【0029】
透明基材1の樹脂材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレングリコール−1,4シクロヘキサンジメタノール−テレフタール酸共重合体、エチレングリコール−テレフタール酸−イソフタール酸共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリプロピレン、シクロオレフィン重合体等のポリオレフィン系樹脂;トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリイミド(PI)系樹脂;等を挙げることができる。中でも、ポリエチレンテレフタレートの2軸延伸フィルムは、耐熱性、機械的強度、光透過性及びコスト等の点で好ましい。また、無機材料としては、ソーダ硝子、カリ硝子、硼珪酸硝子、鉛硝子等の硝子、又はPLZT等の透明セラミックス、石英等を挙げることができる。
【0030】
透明基材1の厚さは基本的には特に制限はなく、用途等に応じ適宜選択することができる。例えばフレキシブルな樹脂フィルムを透明基材1としたときの厚さは、例えば12〜500μm、好ましくは25〜200μm程度である。また、樹脂材料又は無機材料の板を透明基材1としたときの厚さは、例えば500〜5000μm程度である。こうした透明基材1には、下記の凸状パターン層2又はプライマー層4を密着性よく設けるための表面処理を施したり、易接着層又は下地層を設けたりしてもよい。表面処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等を挙げることができる。また、易接着層としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩素化ポリプロピレン等の樹脂層を挙げることができる。
【0031】
(凸状パターン層)
凸状パターン層2は、図2及び図3に示すように、透明基材1上に所定のパターンで設けられている。図2は、凸状パターン層2が透明基材1上に直接設けられている例であり、図3は、凸状パターン層2がプライマー層4を介して透明基材1上に設けられている例である。ここで、「所定のパターン」とは、メッシュ(網目乃至格子)形状が代表的であるが、その他、ストライプ(平行線群乃至縞模様)形状、螺旋形状等も挙げられる。メッシュ形状のパターンの場合における単位格子形状としては、正三角形、不等辺三角形等の三角形、正方形、長方形、台形、菱形等の四角形、六角形、八角形等の多角形、円、楕円等が挙げられる。また、モアレを軽減する目的で、ランダム網目状又は擬似ランダム網目状のパターンであってもよい。
【0032】
凸状パターン層2の線幅と線間ピッチは、通常採用されている寸法であればよく、例えば線幅:5〜50μm、線間ピッチ:100〜500μmとすることができる。なお、特に最近の画像表示装置では、良好な電磁波シールド特性を有しつつ一層の細線化が要求されており、その線幅は30μm以下、特に10μm〜20μmとすることが好ましい。こうした凸状パターン層2が形成された電磁波シールド材10の開口率[電磁波遮蔽パターン部11における開口部(凸状パターン層2以外の部分)の占有比率]は、通常、75〜98%程度である。
【0033】
凸状パターン層2の厚さTは、その凸状パターン層2の抵抗値によっても異なるが、その中央部(凸状パターン層2の頂部)での測定において、通常、2μm以上50μm以下であり、好ましくは、5μm以上20μm以下である。
【0034】
凸状パターン層2上には、後述する金属層6を電気めっきにより設けてもよいが、そのためには、凸状パターン層2の表面抵抗率は低い程好ましい。具体的には、表面抵抗率が2Ω/□以下であることが好ましい。一方、凸状パターン層2の表面に金属層6を設けない場合には、その凸状パターン層2自身で良好な電磁波シールド特性を持つ必要がある。例えば線幅が25μm以下で厚さTが20μm以下の凸状パターン層2である場合には、凸状パターン層2の表面抵抗率は1.2Ω/□以下とし、より好ましくは0.8Ω/□以下とすることがよい。
【0035】
凸状パターン層2は、各種の材料で各種の手段で形成することができる。凸状パターン層2は、例えば、(i)上記した表面処理し又は易接着層を設けた透明基材1上に金属箔を貼り合わせた後にエッチングして形成してもよいし、(ii)上記した表面処理し又は易接着層を設けた透明基材1上に金属パターンを転写して形成してもよいし、(iii)上記した表面処理し又は易接着層を設けた透明基材1上に導電性塗料を通常の凹版印刷、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等によって印刷して形成してもよいし、(iv)後述するプライマー層4を設けた透明基材1上に導電性組成物を凹版印刷して形成してもよい。この場合、好ましくは、WO2008/149969A1公報記載の特定の凹版印刷方法を用いる。(i)〜(iii)の手段で形成した凸状パターン層2は図2に示す態様となり、(iv)の手段で形成した凸状パターン層2は図3に示す態様となる。
【0036】
凸状パターン層2の形成材料は、上記(i)〜(iv)の形成手段によって異なるが、例えば上記(i)及び(ii)においては銅、アルミニウム等の低抵抗率金属、上記(iii)及び(iv)においては金、銀、白金、銅、ニッケル、錫、アルミニウム等の導電性粒子を含む導電性塗料乃至は導電性組成物が好ましく用いられる。
【0037】
これらの内、上記(iv)の手段は、導電性粒子とバインダー樹脂とを含む導電性組成物(導電性インキ或は導電性ペースト)を、凹版印刷法で後述するプライマー層4上に転移形成する手段である。以下の段落では、この(iv)の手段で用いる導電性組成物について説明するが、この導電性組成物を構成する導電性粒子として、金、銀、白金、銅、ニッケル、錫、アルミニウム等の低抵抗率金属の粒子、或いは、高抵抗率金属粒子、樹脂粒子若しくは非金属無機粒子等の芯材粒子の表面を金若しくは銀等の低抵抗率金属で被覆した粒子、黒鉛粒子、導電性高分子粒子、又は導電性セラミックス粒子等を挙げることができる。導電性粒子の形状は、正多面体状、截頭多面体状等の多面体状、球状、回転楕円体状、鱗片状、円盤状、樹枝状、繊維状等から選ぶことができる。特に、多面体状、球状、又は回転楕円体状が好ましい。これらの材料や形状は適宜混合して用いてもよい。
【0038】
導電性粒子の大きさは種類に応じて任意に選択されるので一概に特定できないが、好ましくは、平均粒子径が0.01〜10μm程度のものを用いることができる。
【0039】
導電性組成物中の導電性粒子の含有量は、導電性粒子の導電性又形態に応じて任意に選択されるが、例えば導電性組成物の固形分100質量部のうち、導電性粒子を40〜99質量部の範囲で含有させることができる。なお、本明細書において、平均粒子径というときは、粒度分布計、又はTEM(透過型電子顕微鏡)観察で測定した値を指している。
【0040】
バインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂等の樹脂を挙げることができ、また、電離放射線硬化性樹脂としては、後述するプライマー層4用形成材料を挙げることができ、これらを1種単独で又は2種以上混合して用いることができる。また、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の樹脂を挙げることができ、これらを1種単独で、又は2種以上混合して用いることができる。なお、熱硬化性樹脂を用いる場合は、必要に応じて硬化触媒を添加してもよい。電離放射線硬化性樹脂を用いる場合は、必要に応じて光重合開始剤を添加してもよい。
【0041】
また、版面33の凹部34への導電性組成物の充填に適した流動性を得るために、導電性組成物は通常、溶剤に溶けた導電ペーストとして使用する。導電性ペーストとして用いる溶剤の種類には特に制限はなく、一般的に印刷インキに用いられる溶剤の中から適宜選択して使用できるが、プライマー層4の安定硬化を阻害したり、硬化後のプライマー層4を膨潤、白化又は溶解させたりしないものが好ましい。溶剤の含有量は通常、10〜70質量%程度であるが、必要な流動性が得られる範囲でなるべく少ないほうが好ましい。また、電離放射線硬化性樹脂を用いる場合には、もともと流動性があるため、必ずしも溶剤を必要としない。なお、溶剤は、後述する透明保護層の説明欄で挙げた溶剤を適用できる。
【0042】
また、導電性組成物の流動性及び安定性を改善するために、導電性及びプライマー層4との密着性に悪影響を与えない限りにおいて、適宜充填剤、増粘剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、分散剤、沈降防止剤等を添加してもよい。
【0043】
(凸状パターン層内の導電性粒子の疎密分布)
次に、凸状パターン層2内での導電性粒子の疎密分布について説明する。凸状パターン層2内における導電性粒子2aの分布は、所望の特性や製造適性に応じて各種形態を選択可能であるが、特に好ましい分布形態としては、図5及び図6に示すように、凸状パターン層2の頂部近傍(透明基材1又はプライマー層4から遠ざかる方向)においては、相対的に粒子間の間隔が小さく、粒子数密度(単位体積当りの粒子数)が高く(密に)なり、一方、凸状パターン層2の底部近傍(透明基材1又はプライマー層4に近づく方向)においては、相対的に粒子間の間隔が大きく、粒子数密度が低く(疎又は粗)になる形態が挙げられる。
【0044】
こうした分布形態からなる凸状パターン層2が形成された電磁波シールド材10を、その凸状パターン層2側(すなわち透明保護層3側)が画像表示装置の表示面側に向かい、透明基材1側が観察者側に向かうように配置した場合において、観察者側に対峙する導電性粒子2aは、密度が疎になっているために、外光(電燈光又は日光等)を散乱させ、観察者の目に入る反射光(特に鏡面反射光)を低減するように作用する。その結果、外光存在下における画像の白化を防止し、又は、周囲の風景の映り込みを防止し、画像コントラストの低下を防止することができる。この効果をより一層有効に発現させるためには、鱗片状の導電性粒子よりも、多面体状、球状又は回転楕円体状の導電性粒子を選択することが好ましく、凸状パターン層2のプライマー層4側の表面に鏡面に近い面が形成されるいのを防ぐことができる。一方、鱗片状の導電性粒子を用いる場合は、凸状パターン層2中の鱗片状導電性粒子の配向方向(配向方向:ここでは、鱗片の一番広い面の法線方向として定義する。)を乱雑(ランダム)に分布するようにすると、鏡面反射を低減させることができるので好ましい。なお、導電性粒子が多面体状、球状又は回転楕円体状の場合においても、その配向方向を乱雑化することが好ましく、鏡面反射光を低減させることができる。この場合において、画像表示装置の表示面側に対峙する該導電性粒子は、緻密に集合し、各粒子間の電気的接触も良好になり、電気抵抗が下がり、電磁波シールド効果も高まる。なお、このように高密度で分布する導電性粒子は、可視光線の反射率も高いが、導電性粒子は画像観察者の目に触れない側(観察者と反対側の表示面側)の面に位置するため、画像コントラストの低下等の心配はない。
【0045】
上記の場合とは逆に、凸状パターン層2側(すなわち透明保護層3側)が観察者側に向かい、透明基材側が画像表示装置の表示面側に向かうように、電磁波シールド材10を配置した場合においては、必要に応じて、凸状パターン層2の表面に黒化処理等を施せばよい。
【0046】
凸状パターン層2中における導電性粒子の密度分布を制御し、図5及び図6に示すように、透明基材1側(又はプライマー層4側)の界面近傍での分布を相対的に疎にし且つ凸状パターン層2の頂部近傍での分布を相対的に密にしたり、又は、透明基材1側(又はプライマー層4側)の界面近傍での導電性粒子の配向方向を乱雑にし且つ凸状パターン層2の頂部近傍での導電性粒子の配向方向を平行若しくは略平行に配向したりするためには、例えば後述する特定の凹版印刷法で用いる版面33の凹部34内に充填された導電性組成物2’の上面の凹み8(図8(A)参照)に、透明基材1上の流動状態のプライマー層4を押圧する圧力を高めに設定すると共に、未硬化状態の導電性組成物の粘度を低めに設定し、さらに導電性組成物を凹部34内で固化させずに、版面33から離型した後に固化させることが有効である。その他、これら導電性粒子の密度分布又は配向状態は、導電性組成物のバインンダー樹脂の種類、導電性粒子の材料と粒子径と粒子形状、バインダー樹脂と導電性粒子との配合比、及び導電性組成物の塗工条件又は固化条件等に依存する。現実には、これら導電性粒子の密度分布又は配向状態に影響する各種条件から、実験的に、求める導電性粒子の密度分布及び配向に合致する条件を決定することになる。
【0047】
こうした構成とすることにより、以下の(ア)〜(エ)の効果がある。すなわち、(ア)導電性組成物を構成する導電性粒子の分布が、凸状パターン層2の透明基材1側(又はプライマー層4側)の界面近傍で相対的に疎であり、透明基材1から遠ざかる側の頂部近傍で相対的に密であるので、導電性組成物中の導電性粒子の濃度が同じであっても、凸状パターン層2の頂部近傍に導電性粒子が集中して各導電性粒子同士の電気的接触が確保される。その結果、凸状パターン層2の線幅を30μm以下(好ましくは20μm以下)に微細化した場合であっても、断面積の減少にともなう電気抵抗の増加を抑制でき、表面抵抗率の増大を抑制して良好なシールド特性を有する電磁波シールド材を提供できる。また、(イ)透明基板1側(又はプライマー層4側)の界面近傍では、導電性粒子が相対的に疎であり、バインダー樹脂が相対的に多いので、透明基板1(透明基板1上にプライマー層4が設けられている場合にはプライマー層4)への密着性を高めることができる。その結果、凸状パターン層2の界面剥離と脱落を抑制し、高い密着性を確保することができる。また、(ウ)凸状パターン層2の透明基材1側の導電性粒子分布が疎であるので、そうした部位に存在する導電性粒子の影響(光の反射)を少なくすることができ、導電性粒子の分布が疎な面側を外光側(観察者側)に向けた場合には、外光による画像の白化及びコントラスト低下を防止することができる。一方、導電性粒子の分布が疎な面側を画像表示装置側に向けた場合には、画像光の画面への反射による画像の白化とコントラスト低下を防止することができる。さらに、(エ)凸状パターン層2の頂部近傍において導電性粒子が緻密に存在するという構造は、例えば凸状パターン層2を接地部品と接触させる場合において、その接触抵抗を下げるという効果もある。
【0048】
(粒子径分布を持つ導電性粒子)
次に、導電性組成物を構成する導電性粒子の粒子径を小粒子径粒子と大粒子径粒子との混合系にする場合について説明する。得られる凸状パターン層2の電気抵抗を低く(好ましくは表面抵抗率が0.8Ω/□以下)して良好な電磁波シールド性を得るためには、平均粒子径は小さい方が好ましく、0.1〜1μmが好ましい。一般に「ナノ粒子」と呼ばれるような平均粒子径が数十nmと小さい粒子はコスト高につながり、また、バインダー樹脂を配合すると電気抵抗が高くなって電磁波シールド特性が低下し、さらにはインキとしての安定性も低下する傾向がある。こうしたことから、凸状パターン層2の電気抵抗を低くするためには、粒子径の分布幅が狭く単一粒子径に近いよりも、相対的に大粒子径の粒子と相対的に小粒子径の粒子との混合系からなる方がよい。例えば、粒子径が0.01μm〜1μmの範囲の小粒子径粒子と、粒子径が5〜10μmの範囲の大粒子径粒子との混合系が好ましい。かかる混合系における両粒子の混合比は、小粒子径粒子数:大粒子径粒子数が1:9〜9:1、特に小粒子径粒子数:大粒子径粒子数が5:5〜9:1の範囲が好ましい。当然のことながら、凸状パターン層2の線幅や厚さTよりも大きな粒子が混入すると、印刷時に抜けやスジ等の不良が多発するため、大粒子径粒子の平均サイズ又は最大粒子径はパターン設計により変わってくる。また、異なる平均粒子径を持つ複数種類の粒子を混合する以外に、ある程度の粒度分布を持った粒子を最初から用いてもよい。
【0049】
導電性粒子の粒子径を小粒子径粒子と大粒子径粒子との混合系にした導電性組成物で凸状パターン層2を形成した場合にその表面抵抗率が低下する理由としては、得られた凸状パターン層2の断面を顕微鏡観察すると、大粒子径粒子の分布する間隙に小粒子径粒子が充填されて分布した形態が観察されることから推察して、大粒子径粒子同士の接触が無い部分の間隙を、そこに介在する小粒子径粒子の接触によって補完し、導電性組成物内に分散する大小粒子相互の電気的接触面積の総和が増大するためと考えられる。
【0050】
(透明保護層)
透明保護層3は、凸状パターン層2を覆う全面に形成されている。本発明においては、透明保護層3が電離放射線硬化性樹脂からなり、その透明保護層3の表面の水に対する接触角θが79°以上であることに特徴がある。こうした接触角θを示す透明保護層3が設けられた電磁波シールド材10を、電磁波シールド材10を画像表示装置の前面に配置した場合に、良好な写像性を示していた(後述の実施例を参照)。また、水に対する接触角が79°以上となる透明保護層3は、防汚性に優れるという効果も併せ持つ。その結果、電磁波シールド材10への汚れの付着等を抑制することができる。
【0051】
一方、水に対する接触角θが79°未満では、透明保護層3の表面に歪みが生じ、電磁波シールド材10を画像表示装置の前面に配置した場合に、透過画像が歪むという問題が生じる。さらに、接触角が79°未満では、防汚性の点でやや劣る。なお、接触角θの上限は特に限定されないが、95°程度であることが望ましい。接触角が95°を超える透明保護層3を有する電磁波シールド材10は、ロール巻き取り時に巻きずれが生じるという難点がある。この巻きずれは、透明保護層3の表面が平滑すぎたためと推察される。
【0052】
ここで、「写像性」とは、写像性測定器(スガ試験機株式会社:ICM−1DPで測定した値であって、0.125mmの間隔を有する光学櫛の間隔から透過する光を、JIS K 7374(2007)の「プラスチック像鮮明度の求め方」により計算して求めた値である。接触角が79°〜95°の範囲での写像性の値は、73%〜85%の範囲内である。
【0053】
透明保護層3の形成材料としては、電離放射線で架橋等の反応により重合硬化するモノマー及び/又はプレポリマーが用いられる。モノマーとしては、ラジカル重合性モノマーとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート類;ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、ここで(メタ)アクリレートとの表記は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。また、カチオン重合性モノマーとして、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート等の脂環式エポキシド類;ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類;4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン等のオキセタン類;等が挙げられる。
【0054】
また、プレポリマー(乃至オリゴマー)としては、ラジカル重合性プレポリマーとして、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、シリコン(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートプレポリマー;トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオール系プレポリマー;不飽和ポリエステルプレポリマー;等が挙げられる。その他、カチオン重合性プレポリマーとして、例えば、ノボラック系型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等が挙げられる。
【0055】
これらモノマー又はプレポリマーは、要求される性能及び塗布適性等に応じて、1種類単独で用いる他、モノマーを2種類以上混合したり、プレポリマーを2種類以上混合したり、又はモノマー1種類以上とプレポリマー1種類以上とを混合して用いたりすることができる。
【0056】
これらの材料の中でも、特に、本発明の効果を奏する上で好適なものは、(メタ)アクリレートプレポリマー、特に長分子鎖を含む(メタ)アクリレートプレポリマーである。かかる長分子鎖を含む(メタ)アクリレートプレポリマーとしては、例えば、分子中にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを2〜6単位含むウレタン(メタ)アクリレートに後述の表面調整剤を添加して、塗膜硬化物表面の水に対する接触角を79°以上とした組成物が挙げられる。
【0057】
こうした組成物を電離放射線硬化させてなる透明保護層3は、透明基材1上に電離放射線硬化性樹脂の硬化物からなるプライマー層4を用いた場合において、そのプライマー層4との密着性が良好であり、且つ透明保護層3自体も流動性が良いため表面平滑性も良好となる。即ち、透明保護層3及びプライマー層4の両方が電離放射線硬化性樹脂の硬化物からなる電磁波シールド材において、従来、両立が難しかった透明保護層3とプライマー層4との密着性と表面平滑性とが両立する。
【0058】
電離放射線として、紫外線又は可視光線を採用する場合には、通常は、光重合開始剤を添加する。光重合開始剤としては、ラジカル重合性のモノマー又はプレポリマーの場合には、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系等の化合物が用いられ、また、カチオン重合系のモノマー又はプレポリマーの場合には、メタロセン系、芳香族スルホニウム系、芳香族ヨードニウム系等の化合物が用いられる。これら光重合開始剤は、上記モノマー及び/又はプレポリマーからなる組成物100質量部に対して0.1〜5質量部程度添加することが好ましい。なお、電離放射線としては、紫外線又は電子線が代表的なものであるが、可視光線、X線、γ線等の電磁波、又は、α線、各種イオン線等の荷電粒子線を用いることもできる。
【0059】
透明保護層形成用の電離放射線硬化性組成物は、溶剤を含なまいノンソルベント型(無溶媒型)組成物でも溶剤を含むソルベント型組成物であってもよい。溶剤の種類には特に制限はなく、一般的に印刷インキに用いられる溶剤を使用できる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン類;メチルエーテル、エチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル酪酸メチル、酢酸ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル類;ペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ターピネオール等のアルコール類;水;等の中から適宜選択した1種乃至2種以上が用いられる。溶剤の含有量は、透明保護層形成用組成物全体の10重量%〜70重量%程度であるが、必要な流動性が得られる範囲でなるべく少ない方が好ましい。
【0060】
また、表面調整剤を含有させてもよい。表面調整剤としては、導入有機基としてポリエーテル、ポリエステル変性基を有するシリコン系化合物、及びフッ素系化合物等の中から適宜選択した1種乃至2種以上が用いられる。これらの内、ポリエステル変性基を有するシリコン系化合物としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルシロキサン、ポリエステル変性メチルアルキルポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、さらには水酸基を有するポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、さらには反応型置換基を有するポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン等の中から適宜選択した1種乃至2種以上を挙げることができる。また、フッ素系化合物としては、例えば、パーフルオロアルキル基含有オリゴマー、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基含有カルボン酸塩等の中から適宜選択した1種乃至2種以上を挙げることができる。表面調整剤の含有量は、透明保護層形成用組成物全体の0.06重量%〜0.6重量%程度である。
【0061】
透明保護層3の厚さTは、凸状パターン層2を覆うとともに、その表面が平坦層となる程度の厚さであればよく、凸状パターン層2の高さHにより一概には言えないが、通常は凸状パターン層2の高さHよりも少なくとも3μm厚く、且つ硬化後の厚さTで10μm〜100μm程度である。
【0062】
このように、透明保護層3の表面を特定の接触角の範囲内とすることにより、電磁波シールド材10を画像表示装置の前面に配置した場合に、透過画像が歪むという課題を解決することができた。この範囲内で透過画像の歪みが生じないのは、おそらくその表面が平坦化されているためであろうと考えられる。
【0063】
なお、本発明者は、紫外線硬化性樹脂からなるプライマー層4上に凸状パターン層2を設けた場合において、その凸状パターン層2を覆う全面に透明保護層3を接着性(密着性)よく形成するために、長いポリマーを含むアクリル系の紫外線硬化性樹脂組成物を用いた。しかしながら、そうした長いポリマーを含むアクリル系の紫外線硬化性樹脂組成物は、プライマー層4に対して密着性はよいが、流動性が悪く、透明保護層3の表面の平坦性が悪いという難点があり、その結果、電磁波シールド材10を画像表示装置の前面に配置した場合に、透過画像が歪むという問題があった。こうした問題に対して、例えば表面調整剤等を配合した紫外線硬化性樹脂組成物を用いて透明保護層3を形成したところ、プライマー層4との密着性に優れ、且つ得られた電磁波シールド材10の透過画像の歪みを減少(写像性を向上)させることができた。
【0064】
(プライマー層)
プライマー層4は、凸状パターン層2の上記(iv)の形成手段の場合に、透明基材1上に設けられる層であり、凸状パターン層2の上記(i)〜(iii)の形成手段の場合には必ずしも必要ない。このプライマー層4を設ける主目的は、後述の図8に示すように、凸状パターン層2の凹版印刷による形成時に、凹版40から透明基材1への導電性組成物2’の転移性を向上させ、転移後の導電性組成物2’と透明基材1との密着性を向上させるためである。すなわち、透明基材1及び凸状パターン層2の双方に密着性が良く、また開口部(凸状パターン層非形成部B)での良好な光透過性を確保のために透明な層でもある。さらに、このプライマー層4は、流動性を保持できる状態で透明基材1上に設けられ、凹版印刷時の凹版40に接触している間に硬化させる層として形成される。
【0065】
プライマー層4を構成する材料としては、熱可塑性樹脂組成物であっても電離放射線硬化性樹脂組成物であってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0066】
また、電離放射線硬化性樹脂としては、電離放射線で架橋等の反応により重合硬化するモノマー(単量体)、或いはプレポリマーやオリゴマーが用いられる。モノマーとしては、例えば、ラジカル重合性モノマーとして、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。或いは、カチオン重合性モノマーとしては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート等の脂環式エポキシド類、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン等のオキセタン類、等が挙げられる。また、プレポリマー(乃至はオリゴマー)としては、例えば、ラジカル重合性プレポリマー、具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、等の各種(メタ)アクリレートプレポリマー、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオール系プレポリマー、不飽和ポリエステルプレポリマー等が挙げられる。その他、カチオン重合性プレポリマー、例えば、ノボラック系型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートという表記は、アクリレート又はメタクリレートという意味である。これらモノマー、或いはプレポリマーは、要求される性能、塗布適性等に応じて、1種類単独で用いる他、モノマーを2種類以上混合したり、プレポリマーを2種類以上混合したり、或いはモノマー1種類以上とプレポリマー1種類以上とを混合して用いたりすることができる。
【0067】
光重合開始剤としては、ラジカル重合性のモノマー又はプレポリマーの場合には、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン系等の化合物が、また、カチオン重合系のモノマー又はプレポリマーの場合には、メタロセン系、芳香族スルホニウム系、芳香族ヨードニウム系等の化合物が用いられる。これら光重合開始剤は、上記モノマー及び/又はプレポリマーからなる組成物100重量部に対して0.1〜5重量部程度添加する。なお、電離放射線としては、紫外線又は電子線が代表的なものであるが、この他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、或いはα線等の荷電粒子線を用いることもできる。
【0068】
必要に応じて適宜添加剤を添加する。該添加剤としては、例えば、熱安定剤、ラジカル捕捉剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素(着色染料、着色顔料)、体質顔料、光拡散剤、溶剤等が挙げられる。
【0069】
なお、溶剤については、プライマー層用組成物自体の流動性が不十分な場合に、必要に応じて添加するものである。かかる溶剤は、プライマー層4を透明基材1上に塗工形成する際の流動性を増し、塗膜厚さを均一化し、塗膜表面の鏡面平滑性を向上させるために使用される。
【0070】
プライマー層4を版表面で硬化させた後に剥離する際、剥離が重い(版との密着が良い)材料系を用いる場合には、版表面に離型加工をしたり、離型材を塗布したりする等の方法もとられるが、加工コストや離型能力の寿命等と勘案し、必要に応じてプライマー層4に離型剤を添加する。離型剤とは、電磁波シールド材の製造において、プライマー硬化工程を経た透明基材1上のプライマー層4が、版面からの剥離に要する力(剥離力)を小さくして、円滑に剥がれるように剥離性を向上させるための添加剤をいう。
【0071】
離型剤としては、一価又は多価アルコールの高級脂肪酸エステル、リン酸エステル、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤等が挙げられる。高級脂肪酸エステルとしては、炭素数1〜20の一価又は多価アルコールと炭素数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステル又は完全エステルであるものが好ましい。一価又は多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステル又は完全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ベヘニン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。これらの中では、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート等のステアリン酸エステルが、透明性、離型性の観点から特に好ましい。これらの離型剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。離型剤は、プライマー層4を形成する電離放射線硬化性組成物全量に基づき、0.1〜5質量%添加することが好ましく、0.5〜3質量%が特に好ましい。0.1質量%未満では、プライマー層4の版面からの離型性が向上せず、5質量%を超えて添加しても離型性能は飽和し経済的でない。
【0072】
電離放射線硬化性組成物は溶剤を含んでもよいが、その場合には塗布後に乾燥工程が必要となる。そのため、コストを考えれば溶剤を含まないノンソルベント型(無溶剤型)であることが好ましい。外観改善や塗工適性改善等のために溶剤を添加する場合には乾燥が必要となるが、溶剤の添加量が数%程度の量であるならば、硬化後に乾燥させてもよい。残留溶剤量はなるべく少ない方が好ましいが、物性、耐久性に影響が無ければ完全にゼロでなくてもよい。
【0073】
ただし、図8に示すように、導電性組成物2’を凹部34内に充填した凹版40上にプライマー層4が圧着される時点においては、プライマー層4中の溶剤は、実用上支障がない程度に十分に乾燥、除去しておくことが好ましい。また、凹版40と透明基材1との間に挟持されたプライマー層4において、そのプライマー層4中の残留溶剤は逃げ場がなくて気化して、硬化したプライマー層中に気泡が発生するおそれがあるためでもある。なお、ここで使用する溶剤は、前述の透明保護層形成用組成物の溶剤として列記するものと同様のものの中から適宜選択すればよい。
【0074】
このプライマー層4は、版に圧着された状態で流動状態と硬化(乃至固化)状態の2つの状態を保持できる。具体的には、プライマー層4は、プライマー層を塗工した後においては流動性を保持できる状態で透明基材1上に設けられており、その後、プライマー層4上に導電性組成物層2’(図8参照)が転写形成される際においては短時間で流動状態から硬化状態に変化させることができるものである。こうしたプライマー層4を透明基材1上に形成することにより、プライマー層4上に導電性組成物層2’を転写する際に、その導電性組成物層2’とプライマー層4との間に空隙がない状態で転写することができるので、従来生じるおそれがあった導電性組成物層2’とプライマー層4との間の隙間の発生をなくすことができ、その隙間の存在による転写不良、密着不良の問題が生じない。
【0075】
なお、本願で言うプライマー層4の「流動性」又は「流動状態」とは、プライマー層4を導電性組成物が充填された版面に圧着する際の圧力によって流動(変形)する性質又は状態をいい、水のように低粘度である必要はない。また、必ずしもNewton粘性である必要もなく、チキソトロピー性或いはダイラタンシー性のような非Newton粘性を有していてもよい。塗工に適した粘度に調整されたプライマー層が透明基材1上に塗布された後、プライマー層4が熱可塑性樹脂である場合には、版面に圧着する際に流動(変形)すればよく、プライマー層4は圧着時において流動(変形)する温度になっていればよい。この場合、軟化状態と言い換えてもよい。流動状態になっているプライマー層4の粘度は、通常、1mPa・s〜100000mPa・sの範囲内であり、好ましくは、50mPa・s〜2000mPa・sの範囲内である。
【0076】
プライマー層4の流動性状態は、プライマー層用の樹脂として未硬化状態において室温で固体の電離放射線硬化性樹脂を用いた場合には、電離放射線硬化性を持ったインキを透明基材1上に塗布するだけで得られる。電離放射線硬化型インキは、一般に前記のような電離放射線硬化性を持つモノマーやオリゴマーからなり、必要に応じて、更に、光重合開始剤(紫外線硬化、或いは光硬化の場合)、各種添加剤等を含み、電離放射線で硬化させるまでは流動性を示す。このインキは溶剤を含んでもよいが、その場合、塗布後に乾燥工程が必要であるため、インキは溶剤を含まないタイプ(いわゆるノンソルベントタイプ)であることが好ましい。
【0077】
また、プライマー層用の樹脂として室温で固体の熱可塑性樹脂組成物を用いた場合には、透明基材1上に熱可塑性樹脂組成物を塗布し、流動性状態になる程度(例えば、50℃〜200℃程度)に加熱して生じさせることができる。こうした流動性状態のプライマー層4を、後述するように導電性組成物が充填された版面に圧着した後、冷却することで硬化させて転写すれば、その導電性組成物層2’とプライマー層4との間に空隙がない状態で転写することができる。ここで、透明基材1上に熱可塑性樹脂組成物を塗布する方法としては、熱可塑性樹脂組成物の溶液を塗布後乾燥する方法や、ホットメルト状態の樹脂を塗布する方法がある。また、透明基材1上に塗布された熱可塑性樹脂組成物の加熱は、導電性組成物が充填された版面に接触する前に行ってもよく、版面に圧着する際に加熱ロール等を用いて圧着と加熱を同時に行ってもよいが、いずれにしろ、導電性組成物層2’をプライマー層4に転移する際にはプライマー層の流動性がなくなる程度まで冷却されている必要がある。
【0078】
プライマー層4の厚さは特に限定されないが、通常は硬化後の厚さで1μm〜100μm程度(後述の厚さTで評価した数値)となるように形成される。また、プライマー層4の厚さ(T)は、通常は、凸状パターン層2とプライマー層4との合計値(総厚。図3で言うと凸状パターン層2の頂部と透明基材1の表面との高度差)の1〜50%程度である。なお、後の製造方法の説明欄で詳述するが、導電性組成物層2’がプライマー層4上に転写され、さらにその導電性組成物層2’を硬化させて電磁波シールド材を製造した後におけるプライマー層4は、図3等に示すように、凸状パターン層2が形成されている部分Aの厚さTが、凸状パターン層2が形成されていない部分Bの厚さTよりも厚い。そして、そのプライマー層4において、厚さの厚い部分Aのサイドエッジ7,7は、図3に示すように、厚さの薄い部分Bの側に凸状パターン層2が回り込んだ形態になっている。
【0079】
図3等に示す形態は、硬化させる前の流動状態のプライマー層4を、凹版内に設けられた導電性組成物に圧着した後、プライマー層4を硬化させ、そのプライマー層4と導電性組成物を充填した所定のパターンの賦形版面とを圧着して、プライマー層4と導電性組成物とを空隙なく密着(図8に示す凹み8がある場合は、これを充填)した後に、プライマー層4を硬化し、又はプライマー層4と導電性組成物とを同時硬化し、その後に転写したことよって形成することができる。一例として、後述の図8(A)(C)(D)の製造工程図に示すように、透明基材1上に形成したプライマー層4を流動状態とし、そのプライマー層4を、導電性組成物2’を凹部内に充填した版面に圧着し、プライマー層4を硬化することにより形成できる。版面では、ドクターブレードやワイピングロール等によって凹部内以外の余分な導電性組成物が掻き取られるが、その際に、凹部内の導電性組成物の上部には、図8に示すように凹み8が生じやすく、その凹み8を有した状態で版面にプライマー層4を圧着することにより、図8(A)(B)のように、流動性のあるプライマー層4がその凹み8内に流入、充填されて、その結果、図3等に示すような形態になる。
【0080】
このようにして形成された凸状パターン層2がメッシュ形状である場合、互いに方向の異なる2群以上の平行線群がからなる線部が交差して、これら線部に囲繞されて開口部(パターン非形成部B)が形成される。なお、3群以上の平行線群(線部)が交差する場合も、その基本的な設計要領及び作用効果は共通である。各線群の交差角度、すなわち、第一方向線部と第二方向線部との交差角度θは、0°<θ<180°の範囲から選択できるが、θ=90°が通常広く用いられている。
【0081】
(凸状パターン層とプライマー層との界面形態)
導電性組成物からなる凸状パターン層2とプライマー層4との界面は、図7(A)〜(C)に示すように、3つの態様の断面形態をとり得る。具体的には、図7(A)に示すように、プライマー層4と凸状パターン層2との界面が非直線状に入り組んでいる第1の断面形態、図7(B)に示すように、プライマー層4を構成する成分と凸状パターン層2を構成する成分とが混合している層を有する第2の断面形態、及び、図7(C)に示すように、凸状パターン層2を構成する導電性組成物中にプライマー層4に含まれる成分が存在している第3の断面形態を挙げることができる。これらの断面形態(界面形態とも言う)は、密着性、導電性組成物の転移性の点で好ましい結果を与えている。
【0082】
第1の断面形態は、図7(A)に示すように、プライマー層4と凸状パターン層2との界面13が、プライマー層4側と凸状パターン層2側とに交互に非直線状に入り組んだ形態である。第1の断面形態において、入り組んだ界面は、全体としては中央が高い山型の断面形態となっている。この形態において、その界面13が、プライマー層4を構成する樹脂と凸状パターン層2を構成するバインダー樹脂又は導電性粒子との界面であるように構成されていてもよいが、通常は、凸状パターン層2中の導電性粒子とプライマー層4を構成する樹脂とが入り組んだ非直線状の態様で形成される。このときの入り組みの程度と形態は、導電性粒子の形状や大きさ、プライマー層4を凹部内に圧着する際の圧力等によって影響を受ける。
【0083】
こうした第1の断面形態は、そもそも平坦面でない山型のプライマー層4上に凸状パターン層2が形成されていることを以ってしても密着性が良いのに加え、上記のように界面13が入り組んだ形態になっているので、いわゆる投錨効果により、プライマー層4と凸状パターン層2との密着性が著しく高くなっている。さらに、こういう界面形態をとる故に、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層4上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果を備えている。
【0084】
第2の断面形態は、図9(B)に示すように、プライマー層4と凸状パターン層2との界面13の近傍に、プライマー層4に含まれるプライマー成分と、凸状パターン層2を構成する成分とが混合する混合領域14が存在している形態である。図9(B)では界面が明確に現れているが、実際には、明瞭でない曖昧な界面が現れる。また、図9(B)において、混合領域14は界面13を上下に挟むように存在する。この場合は、プライマー層4中のプライマー成分と凸状パターン層2中の任意の成分とが両層内に相互に侵入する場合である。なお、混合領域14は界面13の上側(透明基材1とは反対側)に存在しても下側(透明基材1側)に存在してもよい。混合領域14が界面13の上側に存在する場合としては、プライマー層4中のプライマー成分が凸状パターン層2内に侵入し、凸状パターン層2中の成分がプライマー層4内に侵入しない場合であり、一方、混合領域14が界面13の下側に存在する場合としては、凸状パターン層2中の任意の成分がプライマー層4内に侵入し、プライマー層4中のプライマー成分が凸状パターン層2内に侵入しない場合である。
【0085】
こうした第2の断面形態は、そもそも平坦面でない山型のプライマー層4上に凸状パターン層2が形成されていることを以ってしても密着性が良いのに加え、上記のように界面13近傍に混合領域14を有するので、プライマー層4と凸状パターン層2との密着性が著しく高くなっている。さらに、こういう界面形態をとるゆえに、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層4上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果を備えている。
【0086】
第3の断面形態は、図9(C)示すように、凸状パターン層2中に広く、プライマー層4に含まれるプライマー成分16が存在している形態である。図9(C)ではプライマー成分16が界面13付近で多く、頂部に向かって少なくなる態様を模式的に表しているが、こうした態様には特に限定されない。プライマー成分16は、凸状パターン層2の頂部から検出される程度に凸状パターン層2内に侵入していてもよいし、主として界面近傍で検出される程度であってもよい。なお、この第3の断面形態において、特に、プライマー成分16が凸状パターン層2内に存在している領域が界面13の近傍に局在化している場合が、上記第2態様において混合領域が界面13の上側にのみ存在する形態に相当するといえる。
【0087】
こうした第3の断面形態も上記第1及び第2の断面形態の場合と同様、そもそも平坦面でない山型のプライマー層4上に凸状パターン層2が形成されていることを以ってしても密着性が良いのに加え、上記のようにプライマー成分16が凸状パターン層2に侵入しているので、プライマー層4と凸状パターン層2との密着性が著しく高くなっている。さらに、こういう界面形態をとるゆえに、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層4上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果を備えている。
【0088】
本発明における導電性組成物からなる凸状パターン層2とプライマー層4の界面13は、上記の第1〜第3の断面形態の特徴を少なくとも1つ有しているが、それらの特徴を2つ以上有していてもよく、3つの全てを有していてもよい。
【0089】
(金属層)
金属層6は、凸状パターン層2のみでは所望の導電率に不足する場合に、導電率を更に向上させるために必要に応じて形成するものである。凸状パターン層2上にめっきにより形成される。めっきの方法としては、電気(電解)めっき、無電解めっき等の方法があるが、電気めっきは無電解めっきに比べて通電量を増やすことでめっき速度を数倍に上げることができ、生産性を著しく向上させることができるため好ましい。
【0090】
電気めっきの場合、凸状パターン層2への給電は凸状パターン層2が形成された面に接触させた通電ロール等の電極から行われるが、凸状パターン層2が電気めっき可能な程度の導電性(例えば、100Ω/□以下)を有するので、電気めっきを問題なく行うことができる。金属層6を構成する材料としては、導電性が高く容易にめっき可能な、銅、銀、金、クロム、ニッケル、錫を挙げることができる。斯かる金属層6は凸状パターン層2に比べると一般的に体積抵抗率が1桁以上小さいため、凸状パターン層2単体で電磁波シールド性を確保する場合に比べて、必要な導電材料の量を減らせるという利点がある。
【0091】
なお、金属層6を形成した後においては、必要に応じて、その金属層6を黒化処理したり、表面を粗面化したりしてもよい。黒化処理は、例えば黒化ニッケルめっき、銅−コバルト合金めっき等の処理を例示できるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0092】
[電磁波シールド材の製造方法]
次に、凸状パターン層2の上記(iv)の形成手段を伴う場合における電磁波シールド材の製造方法を説明する。図8は、そうした電磁波シールド材の製造方法についての説明図である。図9は、電磁波シールド材の製造方法と製造装置の一例を示す概略構成図であり、図10は、電磁波シールド材の製造装置と製造装置の他の一例を示す概略構成図である。なお、本願では、「転写」と「転移」は同義で用いており、したがって、「転写」を「転移」と置き換え、また、「転写工程」を「転移工程」と置き換えることができる。
【0093】
電磁波シールド材10の製造方法は、図8に示すように、未硬化の導電性組成物2’が充填された所定パターンの凹部34を有する版面33と、その導電性組成物2’の転写対象である透明基材1の一方の面S1とを、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層4を介して圧着し、その後、その圧着を保持した状態で少なくともプライマー層4を硬化し、その後、透明基材1及びプライマー層4を版面33から剥がして前記の導電性組成物2’をプライマー層4を介して透明基材1の一方の面S1に所定のパターンで転写することを特徴とするものである。
【0094】
詳しくは、図8(A)は、未硬化の導電性組成物2’が凹部34に充填された版面33上に、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層4が設けられた側の透明基材1を圧着しようとする工程である。すなわち、この工程は、先ず、予め流動状態のプライマー層4を透明基材1の面S1上に塗工しておき、一方、未硬化の導電性組成物2’が充填された所定パターンの凹部34を有する版面33を用意し、該版面33と、その導電性組成物2’の転写対象である透明基材1の一方の面S1とを、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層4を介して圧着しようとする工程を示している。
【0095】
なお、プライマー層4の形成を版面33側に対して行うことも可能ではある。すなわち、図8(B)及び図10に示すように、未硬化の導電性組成物2’が充填された凹部34を含む版面33全体を覆うように、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層4を塗工して設け、そのプライマー層4上から未塗工の透明基材1の面S1側を圧着する工程である。ただし、透明基材1上にプライマー層形成用組成物を塗工することは比較的容易なのに対し、版面33上にプライマー層形成用組成物を塗工することは比較的難しい。特に、凹版40が図10に示すような円筒状の場合は、重力によって塗工したプライマー層が垂れ下がるため、均一な膜厚の塗工が困難となる。それゆえ、本発明においては図8(A)及び図9に示すような透明基材1側にプライマー層4を塗工する形態を採用することが好ましい。
【0096】
なお、図8(A)(B)において、凹部34以外の版面には、導電性組成物2’は全く存在していないか実質的に存在していない。ここでいう「実質的に存在していない」とは、ドクターブレード(図10の符号35を参照。)やワイピングロール(図9の符号44を参照。)等を用いて導電性組成物2’を凹部34内に充填する際、その導電性組成物2’が凹部34以外の版面33(表面のこと。)にも存在してしまうことがある場合において、最終的に得られる図8(D)に示す電磁波シールド材10が、その目的を損なわない程度に凸状パターン層非形成部B(凸状パターン層2が形成されていない部分)での導電性組成物2’の存在を許容できることを意味している。その許容程度としては、例えば、前記のように、導電性組成物2’からなる凸状パターン層2の厚さTや、導電性組成物2’の凸状パターン層非形成部Bにおける被覆率や、凸状パターン層非形成部Bの透過率等の特性、等を挙げることができる。そうした厚さT、被覆率、特性等は、凸状パターン層2を形成する電磁波シールド材10の仕様によっても異なるが、いずれにしても、凸状パターン層非形成部Bには導電性組成物2’が全く存在しないか実質的に存在しないように、版面33上の導電性組成物2’が掻き落とされる。
【0097】
図8(C)は、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層4を介して、透明基材1と版面33とを圧着する工程である。図8(A)の工程ルートを経た後においては、ドクターブレードやワイピングロール等を用いて導電性組成物2’を版面33から掻き落とす際に「導電性組成物2’の凹み8」が凹部34に生じるが、その凹み8は、圧着時に、硬化するまで流動性のあるプライマー層4で埋められる。なお、図8(B)の工程ルートでは、プライマー層を版面33上に設ける際に、そのプライマー層4が凹み8を埋める。したがって、この図8(C)の工程では、透明基材1と版面33とがプライマー層4を介した態様で圧着し、その結果、硬化するまで流動性のあるプライマー層4は導電性組成物2’の凹み8を埋めた態様となっている。なお、この時点においては、導電性組成物2’も未硬化状態に保っておく。これによって、導電性組成物層とプライマー層との界面に、図7(A)〜図7(C)のような構造が形成される。本発明では、この圧着を保持した状態で少なくともプライマー層4を硬化する。「少なくとも」としたのは、プライマー層4のみを硬化して導電性組成物2’を硬化しない場合と、プライマー層4と導電性組成物2’とを同時に硬化する場合とを含む意味である。そして、その硬化処理は、電離放射線照射又は冷却によって行うことが好ましい。
【0098】
図8(D)は、その後において、透明基材1及びプライマー層4を版面33から剥がした態様である。得られた電磁波シールド材10においては、導電性組成物2’を、プライマー層4を介した態様で透明基材1の一方の面S1に所定のパターンで転写することができた。ここで、図8(C)(D)は実際の断面観察結果に近い形状で示しているが、図8(D)に示したプライマー層4及び凸状パターン層2の形状が、図8(C)に示したプライマー層4及び導電性組成物2’の形状と完全に一致しないのは、両層の構成材料がいずれも可塑性を有する樹脂材料であることに基づいている。なお、凸状パターン層2は、図8(C)の工程で硬化処理されてもよいし、図8(D)の剥離工程後に硬化処理されてもよい。
【0099】
次に、図9及び図10に示す製造方法及び製造装置について説明する。図9に示す電磁波シールド材10の製造方法においては、先ず、供給された透明基材1の一方の面にプライマー層4を塗布する。この塗布工程は、ピックアップロール41が容器43内のプライマー層用樹脂組成物42に下方で接触し、そのプライマー層用樹脂組成物42を引き上げて透明基材1に塗布することにより行われる。プライマー層4が塗布された透明基材1は、ニップロール36によってプライマー層4側の基材面(S1)を版面33に圧着させることにより行われる。一方、圧着対象となる版面33には導電性組成物2’が塗布されている。このときの塗布工程は、ピックアップロール31が容器38内の導電性組成物2’に下方で接触し、その導電性組成物2’を引き上げて版面33に塗布することにより行われる。なお、図9においては、版面33上の凹部34以外の部分に導電性組成物2’が乗らないように、ワイピングロール44で掻き落とす。
【0100】
圧着は、ニップロール36によってプライマー層4側の基材面を版面33に所定の圧力で付勢して密着させることにより行われる。この圧着により、凹部34内の導電性組成物2’とプライマー層4とを空隙なく密着させることができる。プライマー層4は未だ硬化しておらずに流動性を有しているので、図8(A)で示した凹み8内にプライマー層用樹脂組成物が充填され、透明基材1及び導電性組成物2’の間は全てプライマー層4で隙間なく満たされる。
【0101】
図9に示すニップロール36での圧着工程後、プライマー層4と導電性組成物2’とが空隙なく密着し、その後、図9に「UVゾーン」と記された領域において、高圧水銀燈等の紫外線光源(図示しない)から輻射される紫外線を照射して、プライマー層4を硬化させることにより硬化工程を行い、次いでニップロール37(剥離ロール)を介して透明基材1及び硬化したプライマー層4を版面33から剥離する転写工程を経ることにより、版面内に充填された導電性組成物2’の透明基材1への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われる。そして、得られた電磁波シールド材10が有する凸状パターン層パターンは、図7に示したように、プライマー層4と凸状パターン層2との界面12が単純な界面構造にならず、両層の密着性が向上する。なお、硬化工程及び転写工程、及びその後に必要に応じて設けられる乾燥処理、硬化処理、めっき工程等、また、プライマー層4の厚さ、得られた所定パターンからなる凸状パターン層2の断面形態、転移率、アスペクト比等は、上記した電磁波シールド材10の説明欄で示したものと同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0102】
一方、本発明で採用する図9に示す態様の代わりに、版面上に直接プライマー層4を塗工する製造方法及び製造装置も可能である。図10に示す製造方法は、圧着工程までの工程が図9に示した製造方法とは異なっている。すなわち、先ず、透明基材1は、ニップロール36によって版面33に圧着されるように供給される。その透明基材1が圧着される版面33には、図10に示すように、最初に導電性組成物2’が塗布され、その後にプライマー層4が塗布形成される。導電性組成物2’の塗布工程は、ピックアップロール31が容器38内の導電性組成物2’に下方で接触し、その導電性組成物2’を引き上げて版面33に塗布することにより行われ、その後引き続いて、版面33上の凹部34以外の部分に導電性組成物2’が乗らないように、ドクターブレードで掻き落としている。また、プライマー層4の塗布工程も同様、ピックアップロール41が容器43内のプライマー層用樹脂組成物42に下方で接触し、そのプライマー層用樹脂組成物42を引き上げて、凹部34内に導電性組成物2’が充填されてなる版面33上に所定の厚さで塗布することにより行われる。プライマー層用樹脂組成物は未だ硬化しておらずに流動性を有しているので、図8(B)で示すように、凹み8内にプライマー層用樹脂組成物が空隙なく充填される。
【0103】
圧着は、ニップロール36によって、透明基材1を版面33に所定の圧力で付勢して密着させることにより行われる。この圧着により、透明基材1はプライマー層4に密着する。圧着工程以後の工程、及びニップロール36等その他の構成については、図9での説明と同じであるので、ここでは詳しい説明を省略するが、図10に示すニップロール36での圧着工程後、プライマー層4と導電性組成物2’とが空隙なく密着し、その後に硬化工程や転写工程を経ることにより、版面内に充填された導電性組成物2’の透明基材1への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われる。そして、得られた電磁波シールド材10が有する凸状パターン層パターンは、電磁波シールド材10の説明欄で示した図7に示すように、プライマー層4と凸状パターン層2との界面12が単純な界面構造にならず、両層の密着性が向上する。
【0104】
図9と図10においては、ドラム型の版を用いているが、必ずしもドラム型の版でなくてもよく、平版であってもよい。平版を用いた場合には図9や図10のようなロール・トゥ・ロールのような連続製造はできないが、固定された平版に導電性組成物2’を塗布し、その後、ドクターブレード等で掻き取り、その後、プライマー層用樹脂組成物42をその上に塗布した後に例えば枚葉の透明基材1を圧着したり、プライマー層4を設けた枚葉の透明基材1をその上に圧着したりした後、透明基材1とプライマー層4とを剥がすことにより凸状パターン層2を基材側に転写することができる。そして、こうした工程を繰り返すことにより、透明基材1上にプライマー層4及び凸状パターン層2を少なくとも有する枚葉の電磁波シールド材10を連続的に製造することができる。
【0105】
以上のように、本発明に係る電磁波シールド材10を製造する方法によれば、未硬化の導電性組成物2’が充填された所定パターンの凹部34を有する版面33と、導電性組成物2’の転写対象である透明基材1の一方の面S1とを、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層4を介して圧着するので、凹部34内の導電性組成物2’上部に生じやすい凹み8に流動性のあるプライマー層4が充填される。その結果、プライマー層4が導電性組成物2’の凹み8に空隙なく密着するので、凹部34内の導電性組成物2’を透明基材1側に未転写部のない状態で正確に転写させることができる。こうして、導電性組成物2’の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材10を製造することができる。
【0106】
また、電磁波シールド材10の製造方法によれば、転移後の凸状パターン層2の断面形状は、凹版の凹部形状を比較的良好に再現する。例えば、凹版の深さが20μmの版を用いれば、転移後の凸状パターン層2の乾燥時の体積収縮はあるものの、約20μm近い厚さTの凸状パターン層パターンを形成することができる。この方法による凹版凹部形状の転移率([転移し硬化した凸状パターンの高さ/版凹部の深さ]×100〔%〕で定義する。)は、導電性組成物の硬化収縮率にも依存するため、一概には言えないが、通常、90%程度以上の値が得られる。これらの現象は、従来の凹版(グラビア)印刷では考えられないことである。従来の凹版印刷の場合、同じ導電性組成物を用いて印刷しても、凹版凹部形状の転移率は、本発明で用いるような流動性の低い導電性組成物の場合は、通常、最大でも20%程度である。
【0107】
本発明において、こうした転移性改善効果が見られる原因についてはまだはっきりとはわからないが、実験結果を調査した結果では、断面のTEM分析において、プライマー層4と凸状パターン層2とを染色して観察したところ、既述のように、転移後の凸状パターン層2とプライマー層4との界面がはっきりと2層に分かれておらず、お互いに入り組んだ状態で相溶している形態を確認できた。
【0108】
また、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)により、(1)導電性組成物2’が転移した凸状パターン層パターンの表面、(2)導電性組成物2’が転移していない部分(開口部又は凸状パターン層非形成部B)のプライマー層表面、(3)導電性組成物2’を透明基材1上にベタ塗りし、乾燥させた塗工膜の表面、(4)プライマー層4を透明基材1上にベタ塗りし、固化させた塗膜の表面、を分析した。その結果、前記(3)の導電性組成物2’の塗工膜には見られず、前記(4)は見られるフラグメントが、前記の(1)(2)でも検出され、プライマー層4の成分が導電性組成物2’中を拡散していることが示唆された。これらの状況から考えると、流動性があるプライマー層4を導電性組成物2’と接触させた際に境界部分の相溶及び/又は境界の乱れが生じ、この状態でプライマー層4を固化させると、境界部分から導電性組成物2’の方向に向かう領域で、導電性組成物2’の増粘やゲル化などの現象が起こり、導電性組成物2’を版から引き抜きやすくなっているのではないかと推測される。
【0109】
また、流動性のあるプライマー層4を構成する成分の一部が凹部にある未硬化の導電性組成物2’と混ざり、プライマー層4を固化させた際に導電性組成物2’の粘度を全体的に上げている可能性もある。いずれにしろ、流動性のあるプライマー層4を導電性組成物2’に接触させて、少なくともプライマー層4を固化させた後に剥離すれば、導電性組成物2’が完全に固化していないにもかかわらずほぼ100%近い転移が可能であった。
【0110】
[光学フィルタ]
本発明に係る電磁波シールド材10は、単品で用いることもできるが、電磁波シールド材10の表面、裏面又は表裏両面に各種の機能層を積層してもよい。そうした機能層として光学機能層を挙げることができ、電磁波シールド機能と光学機能との両機能を備えた光学フィルタとして利用することができる。光学機能層としては、従来公知の近赤外線吸収層、ネオン光吸収層、調色層、紫外線吸収層、特開2007−272161号公報等に記載のいわゆる薄膜ミクロルーバ層、反射防止層及び防眩層等を挙げることができる。また、必要に応じて、耐衝撃層、帯電防止層、ハードコート層、抗菌層、防黴層及び防汚層等の機能層を複合することができる。
【0111】
こうした各機能層は、透明保護層3上に設けてもよいし、可能であればその透明保護層3に各機能を持たせてもよい。各機能層は、直接形成する方法及び別途形成した機能層を貼合する方法によって形成される。直接形成する場合には、機能を発現する材料を透明保護層3に含有させ、又は透明保護層3上に、コーティング装置を用いて塗布形成する方法、又は、スパッタ又は蒸着等の一般的な手法が適用できる。
【0112】
塗布形成する方法としては、グラビア(ロール)コート、ロールコート、コンマコート、孔版印刷、ダイコート等の一般的な装置が使用可能であり、材料の性状や必要な塗布精度に合わせて適宜選定する。また、面内において一部領域に形成する場合は、孔版パターン印刷、間欠塗工、ストライプ塗工等の塗工時にパターン形成する方法や、形成しない箇所をマスクして全面塗工した後マスクを剥がす方法、又は不要な箇所の機能層を除去する等の方法を使用可能である。
【0113】
機能層は単層で機能を発現するようにしてもよいし、複数の層で機能を発現するようにしてもよい。単層の場合の例としては、ハードコート機能、平坦化機能、近赤外線吸収機能、ネオン光吸収機能、紫外線吸収機能、調色機能、反射防止機能、防眩機能、耐衝撃機能、帯電防止機能、防汚機能等の1つあるいは複数の機能を発現させてもよく、複数層の場合は、例えば平坦化層+反射防止層、密着層+ハードコート層、近赤外線吸収層+ハードコート層等といった機能分担をさせることが可能である。
【0114】
機能層が耐擦傷機能(ハードコート)層である場合は、JIS K 5600−5−4(1999)で規定される鉛筆硬度試験で「H」以上の硬度を示すものであることが好ましく、このような硬度と前述の透明基材と同様な透明性を実現できるものであれば、材料は特に限定されない。用いる硬化性樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂、その他公知の硬化性樹脂等を要求性能等に応じて適宜採用すればよい。電離放射線硬化性樹脂の例としては、前記透明保護層3の材料の記載箇所に例示されているのでここでは省略する。なお、このような機能層は、透明保護層3に備えさせることが好ましい。
【0115】
[用途]
本発明に係る電磁波シールド材10は、各種用途に使用可能である。特に、各種の、テレビジョン受像装置、測定機器、計器類、事務用機器、医療機器、遊戯機器、電算機器、電話機、電飾看板等の表示部等に用いられるPDP、CRT、LCD、EL等の画像表示装置の前面フィルタ用として好適である。特にPDP用として好適である。また、その他、住宅、学校、病院、事務所、店舗等の建築物の窓、車輛、航空機、船舶等の乗物の窓、電子レンジ等の各種家電製品の窓等の電磁波及び赤外線遮蔽用途にも使用可能である。
【実施例】
【0116】
実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0117】
[実施例1]
(凹版の準備)
先ず、凹版ロールとして、線幅が17μmで線ピッチが270μm、版深10μmの格子状のメッシュパターンとなる凹部が形成されたグラビア版胴を準備した。
【0118】
(透明基材の準備)
透明基材1として、片面に易接着処理がされた幅1000mmで厚さ100μmの長尺ロール巻のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。供給部にセットしたPETフィルムを繰り出し、易接着処理面にプライマー層用の紫外線硬化性樹脂組成物を硬化後に厚さ14μmとなるように塗布した。塗布方式は、通常のグラビアリバース法を採用した。紫外線硬化性樹脂組成物としては、エポキシアクリレート35質量部、ウレタンアクリレート12質量部、フェノキシエチルアクリレートからなる単官能モノマー44質量部、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレートからなる3官能モノマー9質量部、さらに光開始剤としてイルガキュア184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)3質量部を添加したものを使用した。このときの粘度は約1300cps(at25℃、B型粘度計)であり、塗布後のプライマー層は、触ると流動性を示すものの、PETフィルム上から流れ落ちることはなかった。こうして塗布厚さ約20μmのプライマー層が形成された透明基材を準備した。
【0119】
(電磁波シールド材の製造)
準備した上記凹版ロールの版面に、導電性組成物をピックアップロールで塗布し、ドクターブレードで凹部内以外の導電性組成物を掻き取って凹部内のみに導電性組成物を充填させた。導電性組成物を凹部内に充填させた状態の凹版ロールと、ニップロールとの間に、プライマー層が形成された透明基材(PETフィルム)を、プライマー層側が凹版側を向く向きにて供給し、凹版ロールに対するニップロールの押圧力(付勢力)によって、プライマー層を凹部内に存在する導電性組成物の凹みに流入させ、導電性組成物とプライマー層とを隙間なく密着させると共に、該プライマー層の樹脂の一部を凹部内の該導電性組成物内に浸透させた。なお、用いた導電性組成物は、以下の組成の銀ペーストを用いた。
【0120】
銀ペースト:導電性粒子として平均粒径約2μmの鱗片状銀粒子93質量部、バインダー樹脂として熱可塑性のポリエステルウレタン樹脂7質量部、溶剤としてブチルカルビトールアセテート25質量部を配合し、十分に攪拌混合した後、3本ロールで混練りして導電性組成物として作製した銀ペースト。
【0121】
その後、さらに凹版ロールを回転しながら高圧水銀灯の紫外線ランプで紫外線を照射し、光硬化性樹脂組成物からなるプライマー層を硬化させた。プライマー層の硬化により、凹版ロールの凹部内の導電性組成物はプライマー層に密着し、その後、出口側のニップロールによってPETフィルムを凹版ロールから離版した。離版させたPETフィルムのプライマー層上には、導電性組成物層が凸状パターン層として転移し、印刷された。このようにして得られた印刷フィルムを、110℃の乾燥ゾーンを通過させて銀ペーストの溶剤を蒸発させて固化させ、プライマー層上に導電性組成物層からなる凸状パターン層を形成した。
【0122】
凸状パターン層が存在するパターン部分の厚さT(凸状パターン層が形成されているメッシュパターン部分とそれ以外の部分との厚さの差)は9μmで、版の深さの90%の厚さで版から転移しており、版の凹部内の銀ペーストが高い転移率で転移していた。転移後の凹部内を観察したところ、銀ペーストの版残りは見られず、また、メッシュパターンの断線や形状不良も見られなかった。
【0123】
この段階での印刷フィルムについて、その凸状パターン層のパターン部分の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行った。オスミウム染色液で染色したプライマー層と染色した凸状パターン層との界面がグラデーションのようになっており、また、細かく入り組んだ両層界面の構造も観察され、境界部分が一部なじんでいる(相溶)ことが明確に確認された。
【0124】
また、凸状パターン層側の表面部分を二次イオン質量分析(SIMS分析)したところ、導電性組成物には含まれないがプライマー層には含まれる樹脂組成物成分が観測され、樹脂組成物成分の一部が硬化前に導電性組成物層中に侵入していることが確認された。これらの状況から考えると、流動性があるプライマー層が導電性組成物に接触した際に、その境界部分の相溶及び/又は境界の乱れが生じ、この状態でプライマー層を固化させると、境界部分から導電性組成物内部に向かう領域で、導電性組成物の増粘又はゲル化などの現象が起こり、導電性組成物を版から引き抜きやすくなっているのではないかと推測された。又は、流動性のあるプライマー層の樹脂組成物成分の一部が版内の導電性組成物と混ざり、プライマー層を固化させた際に導電性組成物の粘度を全体的に上げていることが推察された。いずれにしろ、流動性のあるプライマー層を導電性組成物に接触させて、プライマー層を固化させた後に剥離すれば、導電性組成物が版凹部内で完全に固化していないにもかかわらず、ほぼ100%近い転移が可能であった。また、凸状パターンの横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、図6に示すように、銀粒子の分布は、プライマー層に近いほど疎であり、凸状パターン層の頂部に近づくほど密な粒子分布であった。
【0125】
(凸状パターン層上への透明保護層の形成)
イソホロンジイソシアネート(IPDI)とペンタエリスリトール多官能アクリレートとからなるウレタンアクリレートプレポリマー(A);ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA:大阪有機化学工業株式会社製、ビスコート300);光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、商品名:イルガキュア184);表面張力調整剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミージャパン株式会社製、商品名:BYK−300);溶剤としてMIBK;を、表1に示す配合量(質量部)で攪拌配合したコーティング剤を準備した。このコーティング剤をダイコーターにより凸状パターン層を覆う全面に直接間欠塗布し、80℃で乾燥した。その後、高圧水銀燈により照射線量200mJ/cm2で紫外線照射を行うことにより硬化させ、凸状パターン層込みで厚さ20μmの透明保護層を形成してなる実施例1の電磁波シールド材を得た。
【0126】
[実施例2〜7、比較例1〜4]
コーティング剤の成分及び配合量を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして透明保護層を形成し、各実施例及び比較例の電磁波シールド材を得た。なお、用いた表面調整剤を以下に示す。
【0127】
(表面張力調整剤)
ポリエーテル変性シリコーン化合物:商品名「BYK−325」(ビックケミージャパン株式会社製);ポリエーテル変性シリコーン化合物:商品名「BYK−333」(ビックケミージャパン株式会社製);ポリエステル変性シリコーン化合物:商品名「BYK−3570」(ビックケミージャパン株式会社製);パーフルオロアルキル化合物:商品名「MEGAFAC F−477」(大日本インキ化学工業株式会社製)。
【0128】
[測定、結果]
(外観)
実施例1〜7及び比較例1〜4の電磁波シールド材について、1mの大きさにカットして得たサンプルを検査台に吊るし、蛍光灯による透過検査を行い、蛍光灯の像の歪みを目視により判定した。判定基準としては、歪みのないものを「○」とし、歪みのあるものを「×」とした。
【0129】
(写像性)
実施例1〜7及び比較例1〜4の電磁波シールド材について、光学櫛0.125mmの間隔を有するものを、写像性測定器ICM−1DP(スガ試験機株式会社製)に適用して、光学櫛の間隔から透過する光(%)を測定し、写像性をJIS K 7374(2007)の「プラスチック像鮮明度の求め方」により計算して求めた。
【0130】
(水の接触角)
実施例1〜7及び比較例1〜4の電磁波シールド材の透明保護層の表面について、接触角計(協和界面科学株式会社製、CA−X型)を用い、乾燥状態(20℃、65%RH)で直径2mmの液滴(純水を使用)を針先に作った。これを透明保護層表面に接触させて液滴を作り、その液滴を含む方の角度を求めた。
【0131】
(指紋拭き取り性)
実施例1〜7及び比較例1〜4の電磁波シールド材について、透明保護層の表面に、指紋を付着させ、付着した指紋をセルロース製不織布(旭化成株式会社製、「ベンコット M−3」)で拭き取り、その取れ易さを目視により判定した。判定基準としては、付着した指紋を除去できたものを「○」とし、除去できなかったものを「×」とした。
【0132】
(密着性)
実施例1〜7及び比較例1〜4の電磁波シールド材について、透明保護層の表面を1mm角の大きさで100点カットし、その上にセロハンテープ(、ニチバン株式会社製、工業用24mm巾)を密着させた後、セロハンテープを引き剥がした。剥離の有無を目視で確認し、100個中剥離せずに残存する個数を求めた。
【0133】
[評価結果]
上記の評価結果を表1に示した。
【0134】
【表1】

【符号の説明】
【0135】
1 透明基材
2 凸状パターン層
2’ 導電性組成物(導電性組成物層)
2a 導電性粒子
2b バインダー樹脂
3 透明保護層
4 プライマー層
5 盛り上がり部
6 金属層
7 サイドエッジ
8 凹み
10(10A〜10D) 電磁波シールド材
11 電磁波シールドパターン部
12 接地部
13 界面
14 混合領域
16 プライマー成分
31 ピックアップロール
32 凹版ロール
33 版面
34 凹部
35 ドクターブレード
36 ニップロール
37 ニップロール
38 充填容器
40 凹版
41 ピックアップロール
42 プライマー層用樹脂組成物
43 容器
44 ワイピングロール
H 凸状パターン層の高さ
A 導電性材料層が形成されている部分
Aの厚さ
B 導電性材料層が形成されていない部分
Bの厚さ
凸状パターン層の厚さ
透明保護層の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、該透明基材上に形成された導電性組成物からなる凸状パターン層と、該凸状パターン層を覆う全面に形成された透明保護層とを有し、
前記透明保護層が電離放射線硬化性樹脂からなり、該透明保護層の表面における水に対する接触角が79°以上であることを特徴とする電磁波シールド材。
【請求項2】
前記導電性組成物が、導電性粒子とバインダー樹脂とを有し、
前記凸状パターン層中の該導電性粒子の分布が、前記透明基材側の界面近傍で相対的に疎であり、前記透明基材から遠ざかる側の頂部近傍で相対的に密である、請求項1に記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
前記導電性粒子が、多面体状、球状又は回転楕円体状で平均粒子径が1μm以下である、請求項2に記載の電磁波シールド材。
【請求項4】
前記透明保護層が、表面調整剤を含む電離放射線硬化性樹脂で形成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁波シールド材。
【請求項5】
前記透明基材と前記凸状パターン層との間には電離放射線硬化性樹脂からなるプライマー層が設けられており、
前記プライマー層のうち前記凸状パターン層が形成されているパターン形成部におけるプライマー層の厚さは、該凸状パターン層が形成されていないパターン非形成部におけるプライマー層の厚さよりも厚く、
前記凸状パターン層形成部におけるプライマー層と凸状パターン層との界面は、(a)該プライマー層と該凸状パターン層との界面が非直線状に入り組んでいる断面形態、(b)該プライマー層を構成する成分と該凸状パターン層を構成する成分とが混合している層を有する断面形態、及び、(c)該凸状パターン層を構成する導電性組成物中に該プライマー層に含まれる成分が存在している断面形態、のいずれか1又は2以上の断面形態を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電磁波シールド材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−77068(P2011−77068A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223713(P2009−223713)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】