説明

電磁波吸収シート、その製造方法、電磁波吸収シート積層体及び部材

【課題】厚みを小さくすることが可能であり、かつ電磁波吸収効率の良好な電磁波吸収シート及び電磁波吸収シート積層体を提供する。
【解決手段】電磁波吸収シート1は、絶縁フィルム2と、該絶縁フィルム2の表面に形成された電磁波吸収膜3群とからなっている。この絶縁フィルム2は左右方向に長い長方形状となっている。電磁波吸収膜3は横長の長方形状を有しており、長辺方向が互いに略平行となるようにして配置されている。電磁波吸収膜3の長手方向の長さaと短手方向の長さbとの比a/bは1〜2000、長手方向の長さaと厚さcとの比a/cは5〜2000000、短手方向の長さbと厚さcとの比b/cは2.5〜1000000である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波吸収シート、その製造方法、電磁波吸収シート積層体と、この電磁波吸収シート又は電磁波吸収シート積層体を備えた部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、OA機器や通信機器等の普及にともない、これらの機器から発生する電磁波が問題視されるようになっている。即ち、電磁波の人体への影響が懸念され、また、電磁波による精密機器の誤作動等が問題となっている。
【0003】
そこで、磁気や電波を遮断するために、種々の電磁波吸収材が実用に供されている。かかる電磁波吸収材は、例えばOA機器のPDPの前面フィルタ、病院や研究室等の精密機器設置場所の窓材、パソコン内のCPU、フレキシブルプリント基板(液晶、光ピックアップ)、デジタルカメラ内の基板、HF帯等のRFID用などとして利用されている。
【0004】
特開平10−322085号公報には、絶縁層の表面に金属粉末を層状に埋設してなる電磁波遮断用シートを、ロール成形又は押出成形によって製造することが開示されている。
【0005】
ロール成形を行う場合には、一対のロールの間に絶縁材を挿入すると共に、この挿入される絶縁材の表面に金属粉末を噴射して添加する。これにより、金属粉末が層状に埋設された電磁波遮断用シートが製造される。
【0006】
押出成形を行う場合には、塊状の絶縁材の表面全体に金属粉末を添加したものを、プレス等で上下方向に押圧して薄く延ばして成形する。この成形体を所定の面積で切り出すことにより、金属粉末が層状に埋設された電磁波遮断用シートが製造される。
【0007】
かかる電磁波遮断用シートに電磁波が当たると、該電磁波遮断用シート内の金属粉末自体が電磁波を吸収する。
【0008】
また、特開2005−183652号公報には、金属ターゲットとベースフィルムとの間にマスクを配置し、該金属ターゲットをスパッタリングすることにより、該ベースフィルム上に網目状の透明導電膜を形成してなる電磁波シールド材を形成することが開示されている。この網目状の透明導電膜はアースに導通されている。
【0009】
この電磁波シールド材の透明導電膜に電磁波が入射すると電流が発生し、この電流が該透明導電膜内を通ってアースに流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−322085号公報
【特許文献2】特開2005−183652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1(特開平10−322085号公報)のようにロール成形又は押出成形によって電磁波遮断用シートを製造する場合、金属粉末の絶縁材中における分散状態を精密に制御することが困難である等のため、電磁波遮断用シートの厚さを小さくすることや電磁波吸収性能を十分に向上させることが困難である。
【0012】
また、特許文献2(特開2005−183652号公報)の電磁波シールド材は、透明導電膜をアースにつなげることが可能な場合にしか用いることができない。
【0013】
さらに、特許文献2の電磁波シールド材は、透明導電膜のパターン形状をアースにつなげ得る形状にするひつようがあるため、かかるパターン形状を工夫して透明導電膜の電磁波吸収効率を向上させることが困難である。
【0014】
すなわち、電磁波吸収材の形状は、電磁波吸収効率に影響を与える。例えば、電磁波吸収材の長辺と短辺との比(長辺/短辺)は大きい方が基本的には好ましいが、大きすぎると逆に電磁波吸収効率は低下する。特許文献2の電磁波シールド材にあっては、透明導電膜内を流れる電流をアースに流す必要があるため、透明導電膜のパターン形状を網状(複数の線が互いに繋がった形状)とする必要がある。このように透明導電膜の形状が制限されるため、透明導電膜の電磁波吸収効率を向上させることが困難である。
【0015】
本発明は、厚みを小さくすることが可能であり、かつ電磁波吸収効率を向上させることが可能な電磁波吸収シート及びその製造方法と、該電磁波吸収シートを積層してなる電磁波吸収シート積層体と、この電磁波吸収シート又は電磁波吸収シート積層体を備えた部材とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明(請求項1)の電磁波吸収シートは、絶縁フィルムと、該絶縁フィルムの表面に間隔をおいて形成された複数個の電磁波吸収膜とを有する電磁波吸収シートであって、該電磁波吸収膜は、長手方向の長さが短手方向の長さよりも大きい細長形状を有しており、該複数個の電磁波吸収膜は、長手方向が互いに略平行となっていることを特徴とする。
【0017】
請求項2の電磁波吸収シートは、請求項1において、該電磁波吸収膜は長方形又は楕円形であることを特徴とする。
【0018】
請求項3の電磁波吸収シートは、請求項1又は2において、該電磁波吸収膜は、長手方向の長さaと短手方向の長さbとの比a/bが1〜2000であることを特徴とする。
【0019】
請求項4の電磁波吸収シートは、請求項1ないし3のいずれか1項において、該電磁波吸収膜は、短手方向の長さbと厚さcとの比b/cが2.5〜1000000であることを特徴とする。
【0020】
請求項5の電磁波吸収シートは、請求項1ないし4のいずれか1項において、該電磁波吸収膜は、長手方向の長さaと厚さcとの比a/cが5〜2000000であることを特徴とする。
【0021】
請求項6の電磁波吸収シートは、請求項1ないし5のいずれか1項において、該絶縁フィルムの面積の50〜95%が該電磁波吸収膜で覆われていることを特徴とする。
【0022】
請求項7の電磁波吸収シートは、請求項1ないし6のいずれか1項において、該絶縁フィルムは合成樹脂よりなることを特徴とする。
【0023】
請求項8の電磁波吸収シートは、請求項7において、該合成樹脂は、光硬化樹脂、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂であることを特徴とする。
【0024】
請求項9の電磁波吸収シートは、請求項7又は8において、該絶縁フィルムの厚さが1〜200μmであることを特徴とする。
【0025】
請求項10の電磁波吸収シートは、請求項1ないし8のいずれか1項において、該電磁波吸収膜は磁性材料の薄膜よりなることを特徴とする。
【0026】
請求項11の電磁波吸収シートは、請求項10において、該電磁波吸収膜が一定方向に磁化されていることを特徴とする。
【0027】
本発明(請求項12)の電磁波吸収シート積層体は、請求項1ないし11のいずれか1項に記載された電磁波吸収シートが複数層含まれていることを特徴とする。
【0028】
請求項13の電磁波吸収シート積層体は、請求項12において、少なくとも1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンが、他の少なくとも1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンと異なることを特徴とする。
【0029】
請求項14の電磁波吸収シート積層体は、請求項13において、各電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンは、他の少なくとも1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンの位相をずらした配置パターンとなっていることを特徴とする。
【0030】
本発明(請求項15)の電磁波吸収シートの製造方法は、請求項1ないし11のいずれか1項の電磁波吸収シートを製造する方法であって、絶縁フィルムに重ねて又は対面させてマスクを配置してスパッタリングすることにより、前記電磁波吸収膜を形成することを特徴とする。
【0031】
本発明(請求項16)の部材は、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の電磁波吸収シートを備えたものである。
【0032】
本発明(請求項17)の部材は、請求項12ないし14のいずれか1項に記載の電磁波吸収シート積層体を備えたものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明(請求項1)の電磁波吸収シートにあっては、複数個の電磁波吸収膜が絶縁フィルムの表面に間隔をおいて形成されている。このため、特許文献1のように絶縁層の表面に金属粉末を層状に埋設させる場合と比べて、電磁波吸収シートの厚さを小さくし、且つ電磁波吸収効率を良好なものとすることができる。
【0034】
また、電磁波吸収膜は、長手方向の長さが短手方向の長さよりも大きい細長形状を有しているため、長手方向の長さと短手方向の長さが同一である場合と比べて、電磁波吸収効率が高くなる。
【0035】
さらに該複数個の電磁波吸収膜は、長手方向が互いに略平行となっている。このため、複数個の電磁波吸収膜を密に配置して電磁波吸収効率を良好なものとすることができる。
【0036】
この電磁波吸収シートにおいて、電磁波吸収膜は長方形又は楕円形であることが好ましい。これにより、複数個の電磁波吸収膜をより密に配置することができる。
【0037】
この電磁波吸収膜にあっては、長手方向の長さaと短手方向の長さbとの比a/bが1〜2000、短手方向の長さbと厚さcとの比b/cが2.5〜1000000、長手方向の長さaと厚さcとの比a/cが5〜2000000であることが好ましい。かかる範囲であると、電磁波吸収効率が高いものとなる。
【0038】
なお、ここで長手方向の長さaとは、電磁波吸収膜の周縁のうち最も離隔した2点を結ぶ線分(以下、長線分)の長さを意味し、短手方向の長さbとは、該電磁波吸収膜における該長線分と直角方向の幅のうち最も大きい幅の長さを意味する。
【0039】
この絶縁フィルムの面積の50〜95%が該電磁波吸収膜で覆われていることが好ましい。50%以上であると電磁波吸収効率が良好となり、95%であると各電磁波吸収膜同士が接触してしまうことが良好に防止される。
【0040】
この絶縁フィルムは、PP、PE、PET等の合成樹脂よりなることが好ましい。また、この絶縁フィルムの厚さは、1〜200μmであることが好ましい。1μm以上であると絶縁フィルム2の取扱性が向上し、200μm以下であると電磁波吸収シートの薄膜化が図られる。
【0041】
この電磁波吸収膜は磁性材料の薄膜よりなることが好ましい。
【0042】
この電磁波吸収膜は一定方向に磁化されていることが好ましい。これにより、電磁波吸収膜の電磁波吸収効率がより良好なものとなる。
【0043】
本発明(請求項12)の電磁波吸収シート積層体にあっては、上記の電磁波吸収シートを複数層有するため、電磁波吸収効率がより向上する。なお、絶縁フィルムを熱可塑性樹脂よりなるものにした場合、複数枚の電磁波吸収シートを重ね合わせて熱融着することにより、接着剤を用いることなく容易に電磁波吸収シート積層体を得ることができる。
【0044】
この電磁波吸収シート積層体にあっては、少なくとも1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンが、他の少なくとも1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンと異なることが好ましい。この場合、該1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜同士の間隔の少なくとも一部が、該他の少なくとも1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜で覆われることになる。これにより、電磁波が該間隔から漏洩することがより防止される。
【0045】
なお、各電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンは、他の少なくとも1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンの位相をずらした配置パターンとなっていることが好ましい。これにより、ある層の電磁波吸収膜同士の間隔を、他層の電磁波吸収膜で良好に覆うことができる。
【0046】
この電磁波吸収シートを製造する方法としては、絶縁フィルムに重ねて又は対面させてマスクを配置してスパッタリングすることにより、前記電磁波吸収膜を形成することが好ましい。これにより、電磁波吸収シートを簡易に製造することができる。また、電磁波吸収膜の形状を所望の形状にすることができる。
【0047】
この電磁波吸収シート及び電磁波吸収シート積層体は、携帯電話やPC、電子機器等の電磁波発生源となる各種部材に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)は電磁波吸収シート1の平面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図、(c)は電磁波吸収膜の寸法説明図である。
【図2】電磁波吸収シート1の製造方法の一例を示す図面である。
【図3】第2図のマスク10の平面図である。
【図4】(a)は4枚の電磁波吸収シート1を重ね合わせる前の平面図、(b)は重ね合わせた状態を示す断面図である。
【図5】異なる実施の形態に係る電磁波吸収シート1Aの部分的な平面図である。
【図6】別の電磁波吸収膜3Bの平面図である。
【図7】さらに別の電磁波吸収膜3Cの平面図である。
【図8】電磁波吸収膜3Dの平面図である。
【図9】(a)は電磁波吸収シート1Bの平面図、(b)は電磁波吸収シート積層体の断面図である。
【図10】電磁波吸収シート1Cの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。第1図(a)は実施の形態に係る電磁波吸収シートの平面図、第1図(b)は第1図(a)のB−B線に沿う断面図、第2図は第1図の電磁波吸収シートの製造方法の一例を説明する図面、第3図は第2図のマスクの平面図である。
【0050】
第1図の通り、電磁波吸収シート1は、絶縁フィルム2と、該絶縁フィルム2の表面に間隔をおいて形成された複数個(本実施の形態では36個)の電磁波吸収膜3よりなる電磁波吸収膜群とからなっている。
【0051】
第1図(a)に示す通り、この絶縁フィルム2は図の左右方向に長い長方形状となっている。この電磁波吸収膜群は、横方向に間隔をおいて配置された複数個の電磁波吸収膜3よりなる横列が、縦方向に複数列に配置されてなるものである。これらの電磁波吸収膜3は横長の長方形状を有しており、長手方向が互いに略平行となるようにして配置されている。
【0052】
なお、ここで略平行とは、平行であるか、又は異なる電磁波吸収膜3の長手方向(この場合は対角線方向)の延長線同士の交叉角度が5°以下であることを意味する。
【0053】
この長方形状の電磁波吸収膜3の長手方向の長さ(対角線長さ)aは10〜10000μm、特に50〜5000μm、とりわけ100〜1000μmであることが好ましい。10000μm以上であると、渦電流が発生し、電磁波が放出される。10μm以下であると、蒸着膜の成膜後のパターンの位置合わせが難しい。
【0054】
この長方形状の電磁波吸収膜3の短手方向の長さ(対角線と直交方向の長さ)bは5〜5000μm、特に10〜1000μm、とりわけ20〜500μmであることが好ましい。5000μm以上であると、渦電流による不要な電磁波が発生しやすい。5μm以下であると、蒸着後のパターンの位置合わせが難しい。
【0055】
この長方形状の電磁波吸収膜3の厚さcは0.005〜2μm、特に0.05〜1μm、とりわけ0.1〜0.5μmであることが好ましい。0.1μm以上であると、電磁波吸収効率が良好である。0.5μm以下であると、電磁波吸収膜の薄膜化が図られる。
【0056】
長辺方向に隣り合う電磁波吸収膜3同士の間隔dは、5〜500μm、特に10〜250μm、とりわけ20〜100μmであることが好ましい。20μm以上であると、絶縁フィルム2上に電磁波吸収膜3を製造する際に、隣り合う電磁波吸収膜3同士が接触してしまうことが良好に防止される。100μm以下であると、電磁波吸収膜3を絶縁フィルム2上に密に配置することができ、電磁波吸収効率の向上を図ることができる。
【0057】
短辺方向に隣り合う電磁波吸収膜3同士の間隔dは、5〜500μm、特に10〜250μm、とりわけ20〜100μmであることが好ましい。20μm以上であると、絶縁フィルム2上に電磁波吸収膜3を製造する際に、隣り合う電磁波吸収膜3同士が接触してしまうことが良好に防止される。100μm以下であると、電磁波吸収膜3を絶縁フィルム2上に密に配置することができ、電磁波吸収効率の向上を図ることができる。
【0058】
この電磁波吸収膜3の長手方向の長さaと短手方向の長さbとの比a/bは1〜2000、特に1〜200、とりわけ1〜20であることが好ましい。この範囲であると、電磁波吸収効率が高いものとなる。
【0059】
この電磁波吸収膜3の長手方向の長さaと厚さcとの比a/cは5〜2000000、特に100〜500000、とりわけ200〜10000であることが好ましい。この範囲であると、電磁波吸収効率が高いものとなる。
【0060】
この電磁波吸収膜3の短手方向の長さbと厚さcとの比b/cは2.5〜100000、特に20〜100000、とりわけ40〜5000であることが好ましい。この範囲であると、電磁波吸収効率が高いものとなる。
【0061】
この電磁波吸収膜3の材質には特に限定はないが、例えばFe−Si−Al合金(センダスト)等の軟磁性金属、Ni−Fe合金(パーマロイ)、ソフトフェライト、鉄、ケイ素鋼、Fe−Ni−Mo、Fe−Co、μメタル(Fe−Ni−Cu−Cr)などの磁性材料が挙げられる。
【0062】
この絶縁フィルム2の厚さは、1〜200μm、特に10〜50μm、とりわけ10〜20μmであることが好ましい。10μm以上であると、絶縁フィルム2の取扱性が向上する。20μm以下であると、電磁波吸収シートの薄膜化が図られる。
【0063】
この絶縁フィルム2の面積の50〜95%が電磁波吸収膜3で覆われていることが好ましい。50%以上であると、電磁波吸収効率が良好なものとなる。95%以下であると、各電磁波吸収膜3同士が接触してしまうことが良好に防止される。
【0064】
この絶縁フィルム2の材質には特に限定はないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂が挙げられる。
【0065】
次に、上記の電磁波吸収シート1の製造方法の一例を説明する。
【0066】
第3図のマスク10には、第1図(a)の電磁波吸収シート1における電磁波吸収膜3の配置パターンと同一パターンの開口11が設けられている。
【0067】
第2図の通り、このマスク10を絶縁フィルム2に重ねて又は対面させてスパッタリング装置内に配置し、ホルダ21に保持されたターゲット20をスパッタリングする。これにより、該絶縁フィルム2上に電磁波吸収膜3が形成される。このようにスパッタリングによって製造された電磁波吸収膜3は歪の小さいものとなる。
【0068】
このターゲット20の材料としては、Fe−Si−Al合金(センダスト)等の軟磁性金属、Ni−Fe合金(パーマロイ)などの磁性体が挙げられる。なお、組成の異なる複数個のターゲットをスパッタするようにしてもよい。例えば、Ni−Fe合金よりなる電磁波吸収膜を製造する際には、NiターゲットとFeターゲットを同時にスパッタするようにしてもよく、また組成の異なる2種類のNi−Fe合金ターゲットを同時にスパッタするようにしてもよい。
【0069】
スパッタリングの条件としては、例えばスパッタ電圧を1.0〜1.5kW、スパッタ時のArガス流量を5〜50sccm、スパッタ時間60〜600秒間、スパッタ圧力0.5〜1.2Pa、成膜速度0.1〜0.5nm/sとすることが好ましい。
【0070】
このマスクの材質としては、Ni−Co、SUS等が好適である。
【0071】
本実施の形態に係る電磁波吸収シート1にあっては、複数個の電磁波吸収膜3が絶縁フィルム2の表面に間隔をおいて形成されている。このため、従来のように電磁波吸収材を絶縁フィルムの表面に層状に埋設させる場合と比べて、電磁波吸収シート1の厚さを小さくし、且つ電磁波吸収効率を良好なものとすることができる。
【0072】
また、この電磁波吸収膜1は、長辺方向の長さaが短辺方向の長さbよりも大きい細長形状を有しているため、長手方向の長さと短手方向の長さが同一である場合と比べて、電磁波吸収効率が高くなる。
【0073】
さらに該複数個の電磁波吸収膜3は、長辺方向が互いに略平行となっている。このため、複数個の電磁波吸収膜3を密に配置して電磁波吸収効率を良好なものとすることができる。
【0074】
上記の電磁波吸収シート1に磁場を印加し、電磁波吸収膜3を一定方向に磁化させる方法をとることもできる。これにより、電磁波吸収膜の電磁波吸収効率がより良好なものとなる。
【0075】
上記の電磁波吸収シート1にあっては、外側に位置する電磁波吸収膜3が絶縁フィルム2の周縁から離隔しているので、電磁波吸収膜3が外部の導電体と導通することが防止される。この離隔距離は、50〜1000μm特に100〜500μmであることが好ましい。但し、電磁波吸収膜3は絶縁フィルム2の周縁にまで延在していてもよい。
【0076】
次に、第4図を用いて、電磁波吸収シートを複数層に積層してなる電磁波吸収シート積層体の一例について説明する。第4図(a)は4枚の上記電磁波吸収シート1を重ねる前の状態を示す平面図であり、第4図(b)はこれら4枚の電磁波吸収シート1を重ね合わせたものを該電磁波吸収シート1の長辺方向に沿う縦断面図である。
【0077】
第4図(a)、(b)の通り、上記の電磁波吸収シート1を複数層(本実施の形態では4層)に積層し、これらを互いに接合することにより、電磁波吸収シート積層体が形成される。
【0078】
電磁波吸収シート1同士を接合する方法には特に限定はないが、絶縁フィルム2の材質を熱可塑性樹脂とし、これら電磁波吸収シート1を積層したものを加熱して各層を熱圧着するのが好ましい。また、電磁波吸収シート1同士を接着剤で接着してもよい。
【0079】
この電磁波吸収シート積層体の厚さは、10〜500μm特に20〜150μmとりわけ25〜100μmであるのが好ましい。25μm以上であると電磁波吸収効率が向上する。100μm以下であると、小型化、軽量化が図られる。
【0080】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0081】
例えば上記実施の形態にあっては、電磁波吸収膜3は長方形状であるが、これに限定されるものではなく、長手方向の長さaが短手方向の長さbよりも大きい細長形状であれば長方形以外の形状であってもよい。
【0082】
具体的には、第5図の電磁波吸収シート1Aの通り、電磁波吸収膜3Aは楕円形状を有していてもよく、図示は省略するが、両端側が半円形のグラウンド形状や、瓢箪形などであってもよい。また、第6図のような菱形の電磁波吸収膜3B、第7図のような三角形状の電磁波吸収膜3C、第8図のような六角形の電磁波吸収膜3Dであってもよい。また、五角形や七角形以上の多角形や、凹多角形であってもよい。三角形、四角形又は多角形の角部は湾曲していてもよい。
【0083】
なお、ここで長手方向の長さaとは、電磁波吸収膜の周縁のうち最も離隔した2点を結ぶ線分(以下、長線分)の長さを意味し、短手方向の長さbとは、該電磁波吸収膜における該長線分と直角方向の幅のうち最も大きい幅の長さを意味する。但し、第1図(c)に示した通り、電磁波吸収膜が長方形状である場合には、長手方向の長さaとは対角線Lの長さを意味し、短手方向の長さbとは対角線Lと直交方向の幅を意味する。
【0084】
第4図の電磁波吸収シート積層体にあっては、電磁波吸収シート1を4層積層させたが、2〜3層であってもよく、5層以上であってもよい。また、電磁波吸収シート1以外の層を積層させてもよい。例えば、絶縁フィルム2を放熱シートにしてもよく、また、アンテナ形状の金属が印刷されたフィルムでもよい。
【0085】
上記実施の形態では、電磁波吸収膜3をスパッタリングによって形成しているが、これに限定されるものではなく、イオンプレーティング法等の真空蒸着法、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、静電印刷等の印刷法、ディスペンサーなどによって形成してもよい。
【0086】
第4図の電磁波吸収シート積層体では、1種類の電磁波吸収シート1を複数層に積層させたが、電磁波吸収膜の配列パターンが異なる複数種類の電磁波吸収シートを積層させてもよい。このことについて第9図を用いて説明する。
【0087】
第9図(a)は電磁波吸収シート1Bの平面図、第9図(b)は第9図(a)の電磁波吸収シート1Bと第1図の電磁波吸収シート1とを2枚ずつ交互に重ね合わせたものを該電磁波吸収シート1,1Bの長辺方向に沿って切断した状態を示す縦断面図である。
【0088】
第9図(a)の電磁波吸収シート1Bは、第1図(a)の電磁波吸収シート1において、電磁波吸収膜の配置パターンの位相を横方向にずらしたものである。具体的には、該電磁波吸収シート1Bの電磁波吸収膜群を構成する各横列は、間隔をおいて左右方向に配置された5個の電磁波吸収膜3と、最左側の電磁波吸収膜3の左側に間隔をおいて配置された電磁波吸収膜3Eと、最右側の電磁波吸収膜3の右側に間隔をおいて配置された電磁波吸収膜3Eとからなっている。これら左右の電磁波吸収膜3Eは、電磁波吸収膜3と比べて長辺の長さが略1/2となっている。
【0089】
第9図(b)の通り、この第9図(a)の電磁波吸収シート1Bと、第1図の電磁波吸収シート1とを交互に2層ずつ積層してこれらを接合することにより、電磁波吸収シート積層体が形成される。
【0090】
第9図(b)に示す通り、上から第1,3段目の電磁波吸収シート1の各々における電磁波吸収膜3同士の間隙の左右方向位置は、上から第2,4段目の電磁波吸収シート1Bの各々における電磁波吸収膜3,3E同士の間隙の左右方向位置とずれている。このため、電磁波がかかる間隙を通って電磁波吸収シート積層体の厚さ方向に通過することが良好に防止される。
【0091】
なお、第9図(a)の電磁波吸収シート1Bは、第1図の電磁波吸収シート1と比べて、電磁波吸収膜の横方向の位相のみをずらしているが、縦方向の位相もずらすようにしてもよい。これにより、電磁波の通過がより良好に防止される。また、第9図(b)では、位相の異なる電磁波吸収シート1,1Bを交互に積層させたが、これに限定されるものではなく、例えば上から電磁波吸収シート1,1,1B,1Bの順、電磁波吸収シート1B,1B,1,1の順、電磁波吸収シート1B,1,1,1Bの順、電磁波吸収シート1,1B,1B,1の順に積層させてもよい。あるいは、電磁波吸収シート1と電磁波吸収シート1Bの枚数を異ならせてもよい。例えば、例えば上から電磁波吸収シート1,1,1B,1の順に積層してもよい。
【0092】
第1図(a)の電磁波吸収シート1にあっては、電磁波吸収膜群を構成する6つの横列の配置パターンが同一であるが、異なっていてもよい。例えば第10図の電磁波吸収シート1Cのように、上から第2,4,6段目の横列を横方向にずらしてもよい。
【0093】
電磁波吸収膜が一定方向に磁化されている電磁波吸収シート積層体を製造する場合には、予め電磁波吸収膜が一定方向に磁化されている電磁波吸収シートを用意し、これらを積層して電磁波吸収シート積層体としてもよい。また、電磁波吸収膜が磁化されていない電磁波吸収シートを積層して電磁波吸収シート積層体を製造した後に、該電磁波吸収シート積層体を一定方向に磁化させてもよい。
【実施例】
【0094】
以下に実施例及び比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0095】
実施例1〜25
以下のスパッタリング条件により、第1図の電磁波吸収シート1を製造した。
【0096】
ターゲット:センダスト(寸法:150×150×0.3mm)
スパッタ電圧:スパッタ電圧を1〜1.5kW
スパッタ雰囲気:Arガス(流量5〜50sccm)
スパッタ時間:60〜600秒間
スパッタ圧力:0.5〜1.2Pa
成膜速度:0.1〜0.5nm/s
得られた電磁波吸収シート1の材質及び寸法は表1に示す通りである。
【0097】
【表1】

【0098】
得られた電磁波吸収シートを4枚重ね合せ、以下の条件で熱圧着して電磁波吸収シート積層体を製造した。
【0099】
加熱温度:130〜200℃
加熱時間:30〜180秒
【0100】
比較例1
電磁波吸収膜の指向方向をランダムとしたことの他は実施例1〜25と同様にして、電磁波吸収シートを製造した。得られた電磁波吸収シートの材質及び寸法は表1に示す通りである。
【0101】
この電磁波吸収シートを4枚重ね合せ、実施例1〜25と同様の条件で熱圧着して電磁波吸収シート積層体を製造した。
【0102】
<透磁率の測定>
得られた実施例1〜25及び比較例1の電磁波吸収シート積層体について、絶縁フィルムをトロイダル形状に加工し、これを治具に設定し、インピーダンスアナライザーを用いて透磁率を測定した。その結果を表1に示す。
【0103】
<考察>
膜をランダムに配向させた比較例1は透磁率が5と低いのに対して、膜を略平行に配向させた実施例1〜25は、いずれも透磁率10以上と良好な電磁波吸収効果が得られた。特にa/bが1.0〜2000(実施例2〜5)、b/cが2.5〜1000000(実施例8〜12)、a/cが5.0〜2000000(実施例15〜19)、面積比が55〜95%(実施例22〜24)のものは透磁率が30以上と優れた電磁波吸収効果が得られた。
【符号の説明】
【0104】
1,1A,1B,1C 電磁波吸収シート
2 絶縁フィルム
3,3A,3B、3C,3D,3E 電磁波吸収膜
10 マスク
11 開口
20 ターゲット
21 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁フィルムと、該絶縁フィルムの表面に間隔をおいて形成された複数個の電磁波吸収膜とを有する電磁波吸収シートであって、
該電磁波吸収膜は、長手方向の長さが短手方向の長さよりも大きい細長形状を有しており、
該複数個の電磁波吸収膜は、長手方向が互いに略平行となっていることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項2】
請求項1において、該電磁波吸収膜は長方形又は楕円形であることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項3】
請求項1又は2において、該電磁波吸収膜は、長手方向の長さaと短手方向の長さbとの比a/bが1〜2000であることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該電磁波吸収膜は、短手方向の長さbと厚さcとの比b/cが2.5〜1000000であることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該電磁波吸収膜は、長手方向の長さaと厚さcとの比a/cが5〜2000000であることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、該絶縁フィルムの面積の50〜95%が該電磁波吸収膜で覆われていることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、該絶縁フィルムは合成樹脂よりなることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項8】
請求項7において、該合成樹脂は、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂であることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項9】
請求項7又は8において、該絶縁フィルムの厚さが1〜200μmであることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、該電磁波吸収膜は磁性材料の薄膜よりなることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項11】
請求項10において、該電磁波吸収膜が一定方向に磁化されていることを特徴とする電磁波吸収シート。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載された電磁波吸収シートが複数層含まれていることを特徴とする電磁波吸収シート積層体。
【請求項13】
請求項12において、少なくとも1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンが、他の少なくとも1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンと異なることを特徴とする電磁波吸収シート積層体。
【請求項14】
請求項13において、各電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンは、他の少なくとも1つの電磁波吸収シートにおける電磁波吸収膜の配置パターンの位相をずらした配置パターンとなっていることを特徴とする電磁波吸収シート積層体。
【請求項15】
請求項1ないし11のいずれか1項の電磁波吸収シートを製造する方法であって、絶縁フィルムに重ねて又は対面させてマスクを配置してスパッタリングすることにより、前記電磁波吸収膜を形成することを特徴とする電磁波吸収シートの製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の電磁波吸収シートを備えた部材。
【請求項17】
請求項12ないし14のいずれか1項に記載の電磁波吸収シート積層体を備えた部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−283075(P2010−283075A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134205(P2009−134205)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】