説明

電磁波吸収舗装体

【課題】路側送信手段から出力されて路面に当たった高周波電磁波を効率的に吸収して路面から高周波電磁波が乱反射して誤動作や誤処理が発生するのを防止する。雨等が降った場合であっても、高周波電磁波を効率的に吸収する。
【解決手段】路盤17上に少なくとも表層21を舗設した舗装体5において、表層21は酸化スラグ21bを骨材体積の5〜100%の割合で混入すると共に空隙率を10〜30%とする。舗装体5に照射される高周波電磁波を酸化スラグ21bによる導電損失及び空隙21cによる誘電損失により吸収可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有料道路の通行料を収受する料金所に設置された路側アンテナと車輌との間で5.8GHzの電磁波を使用して各種情報を送受信することにより通行料を自動的に収受する自動料金収受システム(以下において、ETCと称する。)の通信システムを含む狭域通信システムが設置される道路の磁波吸収舗装体に関する。
【0002】
なお、ETCとしては、上記した有料道路の料金収受システムの他に駐車場や各種店舗等の料金支払い所に採用される料金自動収受システムをも含む。また、狭域通信システムとしては、上記ETCシステムの他に道路の路側に設けられた送信装置から走行する車輌に対して道路情報等を送信するVICS(Vehicle Information and Communication System)等のように5.8GHzの電磁波を使用する通信システムを含む。
【背景技術】
【0003】
近年、例えば有料道路においては、通行料収受作業を省力化したり、料金所で車輌が停止することに起因にする渋滞の発生を防止したり、一旦停止して料金を支払った後に車輌が再発進する際の加速時における燃料消費を低減及びその際のCO2発生を低減したりするため、ETCが採用されている。
【0004】
このETCは、料金所の通過レーン上に設けられた路側送受信装置と、車輌に搭載される車載送受信装置との間で車輌情報や料金情報等の各種情報を、例えば5.8GHz帯の高周波電磁波(マイクロ波)を送受信して通行料を自動決済するシステムであるが、複数の通過レーンにETCをそれぞれ設置した料金所にあっては、特に路側送信装置から車輌に向かって出力された高周波電磁波が対象とする通過レーンの舗装体や車輌に当たって乱反射し、隣の通過レーンを走行する車輌の車輌受信装置に受信されることにより料金収受エラーが発生する恐れがある。
【0005】
これを防止するため、各通過レーンの両側や周辺に、例えば特許文献1に示す電磁波吸収パネルを設置し、特に舗装体から乱反射した高周波電磁波を吸収して他の通過レーンを走行する車輌の車載受信機に受信されないようにしている。
【0006】
しかし、通過レーンの舗装体から反射する高周波電磁波の方向がランダムなため、上記した電磁波吸収パネルでは、舗装体から乱反射した高周波電磁波を確実に吸収すること自体が極めて困難であり、料金収受エラーを確実に防止することができなかった。
【0007】
また、特許文献2に示すように、路盤上に鋼板床板等の電波反射板を設けてコンクリートやアスファルトに、酸化物、酸化鉄、そのダスト、カーボン、アルミナ絶縁体等の高誘電率材からなる電波吸収体を混入した基層を舗設した後に、コンクリートやアスファルトの表層を舗設した電波吸収道路が提案されている。
【0008】
しかし、この電波吸収道路は、特許文献2の詳細な説明中の段落0022に明記されているように、路面に雨水等の水溜ができた場合には、電波反射減衰量が0dB、従って電波を全く吸収することができない致命的な欠点を有している。
【特許文献1】特開2003−119726号公報
【特許文献2】特開2002−266308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、路側送信手段から出力された高周波電磁波が路面に当たって不特定な方向に乱反射して他の電子機器を誤動作させたり、処理エラーを発生させる点にある。路面に雨水等が溜まっている場合には、高周波電磁波を吸収できない点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の電磁波吸収舗装体は、路盤上に少なくとも表層を舗設した舗装体において、表層は酸化スラグを骨材体積の5〜100%の割合で混入すると共に空隙率を10〜30%とし、舗装体に照射される高周波電磁波を酸化スラグによる導電損失及び空隙による誘電損失により吸収可能にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、路側送信手段から出力されて路面に当たった高周波電磁波を効率的に吸収して路面から高周波電磁波が乱反射して他の通過レーンを走行する車輌の車載送受信装置に誤動作や誤処理を発生させるのを防止することができる。また、雨等が降った場合であっても、高周波電磁波を効率的に吸収し、上記した誤動作や誤処理を発生させるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、舗装体の表層に、酸化スラグを骨材体積の5〜100%の割合で混入すると共に空隙率を10〜30%とすることを最良の形態とする。
【実施例1】
【0013】
以下に、実施例1を示す図に従って本発明を説明する。
図1において、例えば有料道路の料金収受所に設けられた複数の料金所分離帯1相互間の車輌通過レーン3には少なくともその進入側に本発明に係る電磁波吸収舗装体5が舗設される。また、各料金所分離帯1間の車輌通過レーン3進入側にはゲート7が立設され、該ゲート7の上部バー7a中央部には路側送受信アンテナ9が電磁波吸収舗装体5に向って取付けられている。
【0014】
路側送受信アンテナ9は5.8GHz帯の高周波電磁波を送受信する送受信装置及びデータ処理制御装置(何れも図示せず。)に接続され、上部バー7aの下方に位置する電磁波吸収舗装体5の路面側に向って上記した高周波電磁波を送信すると共に車輌通過レーン3を走行する車輌11に車載された車輌側送受信装置(図示せず。)から出力される上記した高周波電磁波を受信する。
【0015】
尚、図中の符号13は料金所分離帯1に設置された路側表示装置で、路側送受信アンテナ9と車輌側送受信装置との間で送受信される車輌情報、料金所情報等に基づいて車輌11の通過が許可された際に、文字情報「通過」を、反対に通過が拒否された際に、文字情報「通過禁止」等の各種情報を表示させる。また、図中の符号15は開閉バーであり、車輌11の通過が許可された際には開側へ、また通過が拒否された際には閉側へそれぞれ作動される。
【0016】
各車両通過レーン3の進入側に舗設される各電磁波吸収舗装体5は、以下の構造からなる。即ち、図2に示すように、各走行レーン3進入側の路盤17上には所定の厚さで、コンクリート製またはアスファルト製からなる基層としての非透水版19が舗設される。また、非透水版19の上面には電磁波吸収表層21が接着層23を介して舗設される。上記非透水版19は、内部に格子状の鉄筋や所望の網目の網体を設けてその曲げ強度を高めた構造であってもよい。
【0017】
該電磁波吸収表層21は砕石や砂等の骨材21aに対して酸化スラグ21bを骨材体積比5〜100%の割合で加え、これら骨材及び酸化スラグを、セメント1重量部に対して4.0〜8.0重量部の割合とし、これら骨材及び酸化スラグとセメントに、セメント1重量部に対し結合剤としてのアクリル樹脂または酢酸ビニル樹脂等の樹脂エマルジョン0.01〜0.2重量部、全空隙率が硬化コンクリート版の約10〜30%となるように重量を配合調整した砂またはスラグを、水セメント比が25〜35%の割合で加えて混練して硬化してなる。尚、図中の符号21cは電磁波吸収表層21に形成される空隙であり、電磁波吸収表層21はこれら空隙21cにより降った雨水を透水して排水する透水機能を有している。
【0018】
上記酸化スラグ21bは、電気炉においてスクラップを溶解し、これに酸素を吹込み、生石灰等を投入して酸化性フラックスを生成してスクラップ中の不純物を除去する酸化精錬時に発生する産業廃棄物であり、鉄分を約30%の割合で含有している。
【0019】
また、電磁波吸収表層21には、必要に応じてナイロン、アクリル等の繊維を含有して強度を高めてもよい。その際に添加される混入繊維としては、酸化鉄(フェライト)等の電磁波吸収材微粉末を含有した繊維とし、上記酸化スラグ21bと共に高周波電磁波吸収機能を持たせてもよい。
【0020】
次に、電磁波吸収舗装体5による高周波電磁波の吸収作用を説明する。
料金所分離帯1間の車輌通過レーン3内に車輌11が進入して来ると、路側送受信アンテナ9と車輌側送受信装置との間で、5.8GHz帯の高周波電磁波を介して車輌識別情報、料金所情報等の料金自動収受に必要な各種情報を送受信し合う。このとき、路側送受信アンテナ9から車輌11に向って出力される高周波電磁波の一部は車輌11に当ったり、電磁波吸収舗装体5の路面にも当ることになる。
【0021】
車輌に当った高周波電磁波は、車輌ボディが金属体であるため、乱反射することになるが、電磁波吸収表層21に添加された酸化スラグ21bは、当たった高周波電磁波により誘電されて発生する起電力の渦電流により導電損失させて熱エネルギーに変換して高周波電磁波を吸収する。また、電磁波吸収表層21に形成された間隙21cは、当たった高周波電磁波により電界が発生することにより誘電損失させて熱エネルギーに変換して高周波電磁波を吸収する。
【0022】
これにより電磁波吸収舗装体5の路面に当った高周波電磁波を、電磁波吸収表層21中の酸化スラグ21b,空隙21cにより吸収して電磁波吸収舗装体5からの乱反射をなくす。
【0023】
また、電磁波吸収舗装体5に雨等が降ったとき、この雨水は電磁波吸収表層21中の空隙21cを介して電磁波吸収表層21外の排水路(図示せず。)へ排水される。このため、降雨状態下であっても、電磁波吸収舗装体5の路面に当たった高周波電磁波を、電磁波吸収表層21中の酸化スラグ21b及び空隙21cによる上記した作用により吸収し、路面からの乱反射を低減させることができる。
【0024】
以下に、電磁波吸収表層21による高周波電磁波の吸収実験例を示す。この実験例は、電磁波吸収表層21に対する高周波電磁波の入射角度と反射減衰比との関係を示す。
図3は実施装置例を示し、図中の符号31は半円弧状の取付けガイド、33は送信ホーンアンテナ、35は受信ホーンアンテナであり、取付けガイド31の各位置(鉛直線に対し、15度、30度、45度、60度の各位置)に送信ホーンアンテナ33を取付けると共にて送信ホーンアンテナ33の鉛直線対称位置に受信ホーンアンテナ35を取付け、サンプル台37上に載置された電磁波吸収表層21に向って高周波電磁波(周波数5.8GHz)を出力し、電磁波吸収表層21からの反射波強度により反射減衰比を測定した。
【0025】
サンプル1
電磁波吸収表層の構成
酸化スラグの骨材堆積比20%、砕石80%
サンプル2
電磁波吸収表層の構成
砕石100%、硅砂:酸化スラグ粉 50:50
サンプル3
電磁波吸収表層の構成
砕石100%
【0026】
上記サンプル1,2、3とコンクリート版を使用し、高周波電磁波の垂直偏波(TE波)及び水平偏波(TM波)ごとに反射減衰比を測定した。尚、路面からの乱反射による誤動作をなくすには、入射角度15度でTE波、TM波共に減衰比10dB以上、30度でTE波、TM波共に10dB以上、45度でTE波が7dB以上、TM波が15dB以上、60度でTE波が5dB以上、TM波が15dB以上であることが要求される。
【0027】
図4に示すように、サンプル1及び2にあっては、それぞれの角度で要求される反射減衰比を達成している。サンプル3及びコンクリート版にあっては、それぞれの角度で要求される反射減衰比を達成できなかった。
【0028】
本発明は、以下のように変更実施することができる。
1.上記説明は、路盤17上に、基層として非透水版19を舗設した後に、非透水版19上に電磁波吸収表層21を舗設して電磁波吸収舗装体15としたが、図5に示すように粒状路盤材で敷設された路盤51上に、基層を設けずに電磁波吸収表層21を直接舗設した電磁波吸収舗装体53であってもよい。
【0029】
2.上記説明は、路盤17上に舗設された基層としての非透水版19上に電磁波吸収表層21を舗設し、この表層21を透水した雨水を側方へ排水する排水構造の電磁波吸収舗装体15としたが、図6に示すように路盤17上に、基層である透水性コンクリート版等の透水版61を舗設し、この透水版61上に電磁波吸収表層21を舗設してこの表層21を透水した雨水を路床に浸透可能にした透水構造の電磁波吸収舗装体63としてもよい。
【0030】
3.上記説明は、ETCシステムが設置される道路に舗設された電磁波吸収舗装体を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、路側に設けられた送信装置から走行する車輌に対して道路情報等を送信するVICS(Vehicle Information and Communication System)等のように5.8GHzの電磁波を使用する狭域通信システムが設置される道路の舗装体にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の電磁波吸収舗装体が舗設されるETCの概略を示す説明図である。
【図2】電磁波吸収舗装体の縦断面図である。
【図3】電磁波吸収舗装体による高周波電磁波の吸収度を測定する実験装置を示す説明図である。
【図4】各入射角度に応じた高周波電磁波の反射減衰比を示す説明図である。
【図5】電磁波吸収舗装体の変更構造を示す説明図である。
【図6】電磁波吸収舗装体の変更構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
5 電磁波吸収舗装体
17 路盤
19 非透水版
21 電磁波吸収表層
21a 骨材
21b 酸化スラグ
21c 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路盤上に少なくとも表層を舗設した舗装体において、表層は酸化スラグを骨材体積の5〜100%の割合で混入すると共に空隙率を10〜30%とし、舗装体に照射される高周波電磁波を酸化スラグによる導電損失及び空隙による誘電損失により吸収可能にした電磁波吸収舗装体。
【請求項2】
請求項1の表層は、路盤上に舗設した電磁波吸収舗装体。
【請求項3】
請求項1の表層は、路盤上に舗設された基層上に舗設した電磁波吸収舗装体。
【請求項4】
請求項3の基層は、非透水版とし、表層を透水した雨水を表層の側方へ排水可能にした電磁波吸収舗装体。
【請求項5】
請求項3の基層は、透水版とし、表層を透水した雨水を路床に浸透可能にした電磁波吸収舗装体。
【請求項6】
請求項3乃至5の基層は、コンクリート版及びアスファルト版のいずれかとした電磁波吸収舗装体。
【請求項7】
請求項1の表層は、繊維を混入して補強可能にした電磁波吸収舗装体。
【請求項8】
請求項7の繊維は、電磁波吸収材を混入してなる電磁波吸収舗装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−265927(P2006−265927A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85071(P2005−85071)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成16年10月19日から平成16年10月24日 ITS世界会議 愛知・名古屋2004日本組織委員会開催の「第11回 ITS世界会議 愛知・名古屋2004」に出品
【出願人】(505206705)
【Fターム(参考)】