説明

電磁波測定装置、測定方法、プログラム、記録媒体

【課題】非破壊試験により、層構造を有する試料を試験する。
【解決手段】電磁波測定装置は、二つ以上の層1a、1bを有する被測定物1に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する電磁波出力器2と、二つ以上の層1a、1bの各々によって反射された電磁波である反射電磁波を検出する電磁波検出器4と、反射電磁波の各々の電場の極値I1、I2および反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングt0、t1の時間差Δt1のいずれか一方または双方に基づき、被測定物1を測定する層解析装置10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層構造を有する試料について、電磁波(周波数が0.01[THz]以上100[THz]以下)(例えば、テラヘルツ波(例えば、周波数が0.03[THz]以上10[THz]以下))を使用して、層を非破壊で測定することに関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品には、美観、表面保護または機能付加のためにコーティングが施された層構造を有する製品が数多くある。たとえば医薬品錠剤では、見た目、苦味マスキング、耐環境性向上および溶出性制御などの機能付加のために高分子材料を主成分とするコーティングが施される場合がある。
【0003】
非特許文献1によると、これまでに様々な錠剤コーティングの品質評価がなされているが、そのほとんどが破壊試験や、コーティングのみに着目した評価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−517031号公報
【非特許文献1】Linda A. Felton, “Characterization of Coating Systems,” AAPS PharmSciTech, vol. 8, No. 4 (2007) pp.E1-E9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、非破壊試験により、層構造を有する試料を試験することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる電磁波測定装置は、二つ以上の層を有する被測定物に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する電磁波出力器と、前記二つ以上の層の各々によって反射された前記電磁波である反射電磁波を検出する電磁波検出器と、前記反射電磁波の各々の電場の極値および前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差のいずれか一方または双方に基づき、前記被測定物を測定する測定部とを備えるように構成される。
【0007】
上記のように構成された電磁波測定装置によれば、電磁波出力器が、二つ以上の層を有する被測定物に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する。電磁波検出器が、前記二つ以上の層の各々によって反射された前記電磁波である反射電磁波を検出する。測定部が、前記反射電磁波の各々の電場の極値および前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差のいずれか一方または双方に基づき、前記被測定物を測定する。
【0008】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記測定部は、さらに、前記被測定物に向けて出力された電磁波の電場の極値に基づき、前記被測定物を測定するようにしてもよい。
【0009】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記電磁波出力器が、金属面に向けて、前記電磁波を出力し、前記測定部が、前記被測定物に向けて出力された電磁波の電場の極値を、前記金属面から反射された電磁波の電場の極値として測定するようにしてもよい。
【0010】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記測定部が、前記反射電磁波の各々の電場の極値と、前記被測定物に向けて出力された電磁波の電場の極値との比に基づき、前記被測定物を測定するようにしてもよい。
【0011】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記測定部が、前記反射電磁波の各々の電場の極値と、前記被測定物に向けて出力された電磁波の電場の極値との比の積または前記積の絶対値に基づき、前記被測定物を測定するようにしてもよい。
【0012】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記測定部が、前記積または前記積の絶対値に、前記二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さを乗じた値に基づき、前記被測定物を測定するようにしてもよい。
【0013】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記測定部が、前記積または前記積の絶対値を、前記二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さで割った値に基づき、前記被測定物を測定するようにしてもよい。
【0014】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記反射電磁波の各々の電場の極値の比に基づき、前記被測定物を測定するようにしてもよい。
【0015】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記測定部が、前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差に基づき、前記二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さを測定するようにしてもよい。
【0016】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記反射電磁波の各々の電場の極値の比の積または前記積の絶対値に基づき、前記被測定物を測定するようにしてもよい。
【0017】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記測定部が、前記積または前記積の絶対値に、前記二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さを乗じた値に基づき、前記被測定物を測定するようにしてもよい。
【0018】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記測定部が、前記積または前記積の絶対値を、前記二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さで割った値に基づき、前記被測定物を測定するようにしてもよい。
【0019】
なお、本発明にかかる電磁波測定装置は、前記測定部が、前記反射電磁波の各々の電場の極値の積または前記積の絶対値に基づき、前記被測定物を測定するようにしてもよい。
【0020】
本発明は、二つ以上の層を有する被測定物に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する電磁波出力工程と、前記二つ以上の層の各々によって反射された前記電磁波である反射電磁波を検出する電磁波検出工程と、前記反射電磁波の各々の電場の極値および前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差のいずれか一方または双方に基づき、前記被測定物を測定する測定工程とを備えた電磁波測定方法である。
【0021】
本発明は、二つ以上の層を有する被測定物に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する電磁波出力器と、前記二つ以上の層の各々によって反射された前記電磁波である反射電磁波を検出する電磁波検出器とを備える電磁波測定装置における電磁波測定処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記電磁波測定処理は、前記反射電磁波の各々の電場の極値および前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差のいずれか一方または双方に基づき、前記被測定物を測定する測定工程を備えたプログラムである。
【0022】
本発明は、二つ以上の層を有する被測定物に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する電磁波出力器と、前記二つ以上の層の各々によって反射された前記電磁波である反射電磁波を検出する電磁波検出器とを備える電磁波測定装置における電磁波測定処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能な記録媒体であって、前記電磁波測定処理は、前記反射電磁波の各々の電場の極値および前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差のいずれか一方または双方に基づき、前記被測定物を測定する測定工程を備えたプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能な記録媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態にかかる電磁波測定装置100の構成を示す図である。
【図2】参照ミラー20により反射された電磁波(図2(a)参照)およびその測定結果(図2(b)参照)、2層構造の被測定物1により反射された電磁波(図2(c)参照)およびその測定結果(図2(d)参照)を示す図である。
【図3】層解析装置(測定部)10の構成を示す機能ブロック図である。
【図4】3層構造の被測定物1により反射された電磁波(図4(a)参照)およびその測定結果(図4(b)参照)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態にかかる電磁波測定装置100の構成を示す図である。図2は、参照ミラー20により反射された電磁波(図2(a)参照)およびその測定結果(図2(b)参照)、2層構造の被測定物1により反射された電磁波(図2(c)参照)およびその測定結果(図2(d)参照)を示す図である。
【0026】
本発明の実施形態にかかる電磁波測定装置100は、電磁波出力器2、電磁波検出器4、層解析装置(測定部)10を備える。電磁波測定装置100は、被測定物1を測定するためのものである。
【0027】
被測定物1は、図2(c)を参照して、層1a、層1bを有する。層1aの方が、層1bよりも上にある。なお、本発明の実施形態では、被測定物1は二つの層を有しているが、二つ以上の層を有していてもよい。図4は、3層構造の被測定物1により反射された電磁波(図4(a)参照)およびその測定結果(図4(b)参照)を示す図である。被測定物1は、図4(a)を参照して、層1a、層1b、層1cを有するようにしてもよい。層1aの方が層1bよりも上にあり、層1bの方が層1cよりも上にある。
【0028】
電磁波出力器2は、被測定物1に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する。なお、被測定物1に向けて出力される電磁波の周波数は、テラヘルツ波帯(例えば、0.03[THz]以上10[THz]以下)を含むものである。そこで、本発明の実施形態においては、電磁波の一例として、テラヘルツ波を想定している。
【0029】
ただし、電磁波出力器2は、被測定物1に向けてテラヘルツ波を照射する前に、参照ミラー20に向けて、テラヘルツ波を出力するようにしてもよい(図2(a)参照)。参照ミラー20は、金属面20a(材質は、例えば金、銀、アルミ等)を有し、金属面20aの反射率は、ほぼ100%である。
【0030】
被測定物1に向けて出力されたテラヘルツ波は被測定物1の層の各々(層1a、層1b、層1c)により反射される。電磁波検出器4は、被測定物1の層の各々によって反射された電磁波(例えば、テラヘルツ波)である反射電磁波を検出する。
【0031】
なお、被測定物1をx軸、y軸およびz軸に沿って走査し、さらに、x軸、y軸およびz軸を中心に回転させて走査するようにしてもよい。また、電磁波出力器2および電磁波検出器4をx軸、y軸およびz軸に沿って走査し、さらに、x軸、y軸およびz軸を中心に回転させて走査するようにしてもよい。
【0032】
層解析装置(測定部)10は、反射電磁波の各々の電場の極値(I1、I2、I3)および反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミング(t0、t1、t2)の時間差Δt1、Δt2のいずれか一方または双方に基づき、被測定物1を測定する。
【0033】
図3は、層解析装置(測定部)10の構成を示す機能ブロック図である。層解析装置10は、電場測定部11、ピーク取得部12、参照ピーク記録部14、測定ピーク記録部16、解析部18を有する。
【0034】
電場測定部11は、電磁波検出器4の検出結果から、電場の強度を時間の関数として測定する。電場の強度は、図2(b)(テラヘルツ波が参照ミラー20により反射される場合)および図2(d)(テラヘルツ波が被測定物1の層の各々により反射される場合)に図示されている。電場測定部11においては、デコンボリューションなどの信号処理を行ってもよい。
【0035】
ピーク取得部12は、電場測定部11により測定された電場の強度の極値およびそのタイミングを取得する。例えば、図2(b)を参照して、ピーク取得部12は、金属面20aから反射されたテラヘルツ波の電場の極値I0を時間t0に対応づけて取得する。例えば、図2(d)を参照して、ピーク取得部12は、層1aによって反射されたテラヘルツ波である反射電磁波の電場の極値I1を時間t0に対応づけて取得し、さらに、層1bによって反射されたテラヘルツ波である反射電磁波の電場の極値I2を時間t1に対応づけて取得する。
【0036】
なお、被測定物1が3層構造である場合は(図4(a)参照)、ピーク取得部12は、さらに、層1cによって反射されたテラヘルツ波である反射電磁波の電場の極値I3を時間t2に対応づけて取得する(図4(b)参照)。また、被測定物1が4個以上の層1k(ただし、k=1〜4以上の整数であり、kが大きいほど電磁波出力器2から遠い層である)を有することも考えられる。かかる場合は、ピーク取得部12は、層1kによって反射されたテラヘルツ波である反射電磁波の電場の極値Ikを時間tk-1に対応づけて取得する。なお、層1aが層11に、層1bが層12に、層1cが層13に対応する。
【0037】
参照ピーク記録部14は、ピーク取得部12の取得結果のうち、金属面20aから反射されたテラヘルツ波の電場の強度の極値およびそのタイミングを記録する。例えば、極値I0を時間t0に対応づけて記録する。参照ピーク記録部14の記録内容は、金属面20aから反射された電磁波の電場の極値であるが、これは被測定物1に向けて出力された電磁波の電場の極値であるとみなすことができる。
【0038】
測定ピーク記録部16は、ピーク取得部12の取得結果のうち、被測定物1の層の各々(層1a、層1b、層1c)から反射されたテラヘルツ波の電場の強度の極値およびそのタイミングを記録する。例えば、極値I1を時間t0に、極値I2を時間t1に対応づけて記録する。さらに、例えば、極値I3を時間t2に対応づけて記録する。より一般的に表現すれば、極値Ikを時間tk-1に対応づけて記録する。
【0039】
解析部18は、参照ピーク記録部14の記録内容(被測定物1に向けて出力された電磁波の電場の極値)および測定ピーク記録部16の記録内容に基づき、被測定物1の層1a、層1b、層1cを解析する。
【0040】
解析部18は、測定ピーク記録部16から反射電磁波の各々の電場の極値I1、I2を読み出し、参照ピーク記録部14から被測定物1に向けて出力された電磁波の電場の極値I0を読み出す。解析部18は、反射電磁波の各々の電場の極値I1、I2と、被測定物1に向けて出力された電磁波の電場の極値I0との比である、反射率R1 = I1/I0、反射率R2 = I2/I0を求める。これらは、それぞれ、被測定物1の層1a、層1bの反射率である。
【0041】
テラヘルツ波パルスが被測定物の入射面に対してp偏光で入射すると仮定した場合、フレネルの公式より、反射率R1は、(n1cosα−n0cosβ)/(n1cosα+n0cosβ)となる。ただし、n0は被測定物1が配置されている媒質である空気の屈折率、n1は層1aの屈折率、αは被測定物1に対するテラヘルツ波の入射角、βは層1aを透過したテラヘルツ波の屈折角である。
【0042】
ここで、n0は一定であるため、反射率R1は層1aの屈折率n1に依存して変化する。さらに物質の屈折率は、その物質の密度の指示的な値といえる。よって、反射率R1を取得することが、被測定物1の層1aの密度を測定することとなる。
【0043】
より一般的には、層1kの反射率Rkは、層1kの屈折角をβkとし、層1kへの入射角(すなわち、層1k-1の屈折角)をβk-1とすると、(nkcosβk-1−nk-1cosβk)/(nkcosβk-1+nk-1cosβk)となる。
【0044】
反射率R1はI1/I0であり、フレネルの公式より、反射率R1 = (n1cosα−n0cosβ)/(n1cosα+n0cosβ)である。しかも、スネルの法則により、sinα/sinβ = n1/n0である。反射率R1は測定結果より取得でき、入射角αおよび空気の屈折率n0は既知である。よって、上記の二つの式により、屈折角βおよび層1aの屈折率n1を求めることができる。
【0045】
続いて、層1b(層12)の反射率R2は、層1bの屈折角をβ2とし、層1bへの入射角(すなわち、層1aの屈折角)をβとすると、(n2cosβ−n1cosβ2)/(n2cosβ+n1cosβ2)となる。しかも、スネルの法則により、sinβ/sinβ2 = n2/n1である。反射率R2は測定結果より取得でき、入射角βおよび屈折率n1は既知である。よって、上記の二つの式により、屈折角β2および層1bの屈折率n2を求めることができる。
【0046】
以下、同様にして、層1kの屈折角βkおよび屈折率nkを求めることができる。
【0047】
なお、被測定物1に対しテラヘルツ波パルスが垂直に入射し(α=β=0となる)、しかもn0=1とした場合、層1aの屈折率n1は、反射率R1 = (n1cosα−n0cosβ)/(n1cosα+n0cosβ) = (n1−1)/(n1+1)をn1について解くことで求められる。すなわち、n1
= (1+R1)/(1−R1)となる。
【0048】
反射率R2は、フレネルの公式から層1aの屈折率n1と、層1bの屈折率n2との差(層1aと層1bの密度の差に対応)に応じて変化する。また、反射率R2の正負はn1、n2の大小関係によって決まり、
R2
> 0 (n1 < n2)
R2
< 0 (n1 > n2)
となる。
【0049】
反射率R2は、被測定物1の層1aと層1bの屈折率の大小関係や、被測定物1の層1aと層1bの境界面の明瞭さを表している。よって、反射率R2を取得することが、被測定物1の層1a、層1bを測定することとなる。また、反射率R2から層1aと層1bの境界面の剥離性や膨張に対する柔軟性等の特性を非破壊で解析することができる。
【0050】
なお、同様に、層1kの反射率Rk = Ik/I0を求めることができる。反射率Rkから層1k-1と層1kの境界面の剥離性や膨張に対する柔軟性等の特性を非破壊で解析することができる。
【0051】
また、解析部18は、反射電磁波の各々の電場の極値I1、I2の比R2’=I2/I1を求める。比R2’も、反射率R2と同様に、被測定物1の層1aと層1bの屈折率の大小関係や、被測定物1の層1aと層1bの境界面の明瞭さを表している。なお、比R2’は、極値I2を層1aの密度の指示的な指標であるI1で規格化したものなので、層1aと層1bとの境界面からの反射されたテラヘルツ波パルスが層1aを通過する際の吸収等の影響を抑えた評価ができる。よって、比R2’を取得することが、被測定物1の層1a、層1bを測定することとなる。すなわち、R2を取得することと同様に、比R2’を取得することによっても、境界面の剥離性や膨張に対する柔軟性等の特性の解析が可能となる。
【0052】
なお、解析部18は、反射電磁波の各々の電場の極値Ik、Ik-1の比Rk’=Ik/Ik-1を求める。これにより、層1kについて解析でき、層1aから層1k-1の影響を抑えた解析ができる。
【0053】
さらに、解析部18は、反射電磁波の各々の電場が極値I1、I2をとるタイミングt0、t1の時間差Δt1=t1−t0に基づき、二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さを測定する。例えば、解析部18は、被測定物1の層1aの厚さL1を、cΔt1/(2n1)として求めることができる。ただし、cは光速であり、テラヘルツ波が被測定物1に対して垂直に入射するものとする。なお、解析部18は、Δt2=t2−t1に基づき、被測定物1の層1bの厚さL2をcΔt2/(2n2)として求めることができる。ただし、n2は上記のように求めることができる。また、解析部18は、Δtk=tk−tk-1により、被測定物1の層1kの厚さLkをcΔtk/(2nk)として求めることができる。ただし、nkは上記のようにして求めることができる。
【0054】
また、解析部18は、層構造やコーティングが施された工業製品の強度および柔軟性に関する指数(Layer Strength and Flexibility Index: LSFI)を取得する。なお、LSFIとは、本願出願人が新たに提案する指数である。また、LSFI1は層1aについての指数であり、LSFIkは層1kについての指数である。
【0055】
例えば、解析部18は、LSFI1として、反射率R1と反射率R2 = I2/I0の積R1×R2を求め、その絶対値である|R1×R2|を取得する。LSFI1=|R1×R2|が高いほど、層1aの強度が強く、柔軟性に富んでいると予測できる。よって、解析部18は、反射率R1と反射率R2の積R1×R2に基づき、被測定物1の層1aを測定している。なお、より一般的には、解析部18は、LSFIkとして、反射率Rkと反射率Rk+1の積Rk×Rk+1を求め、その絶対値である|Rk×Rk+1|を取得する。LSFIk=|Rk×Rk+1|が高いほど、層1kの強度が強く、柔軟性に富んでいると予測できる。
【0056】
ただし、層1kの反射率Rk = Ik/I0は、反射電磁波の電場の極値Ikと、被測定物1に向けて出力された電磁波の電場の極値I0との比である。
【0057】
また、解析部18は、LSFI1として、反射率R1と反射率R2 = I2/I0の積R1×R2を求める。LSFI1=R1×R2の正負によって、隣り合う層1aおよび層1bの密度差の関係を解析することができる。よって、解析部18は、反射率R1と反射率R2の積R1×R2に基づき、被測定物1の層1aおよび層1bを測定している。なお、より一般的には、解析部18は、LSFIkとして、反射率Rkと反射率Rk+1の積Rk×Rk+1を求める。LSFIk=Rk×Rk+1の正負によって、隣り合う層1kおよび層1k+1の密度差の関係を解析することができる。
【0058】
さらに、解析部18は、LSFI1として、極値I1と極値I2の積またはその絶対値を求める。LSFI1の絶対値が大きいほど、層1aの強度が強く、柔軟性に富んでいると予測できる。LSFI1として、極値I1と極値I2の積を求める場合は、隣り合う層1aおよび層1bの密度差の関係を解析することができる。より一般的には、解析部18は、LSFIkとして、極値Ikと極値Ik+1の積またはその絶対値を求める。LSFIkの絶対値が大きいほど、層1kの強度が強く、柔軟性に富んでいると予測できる。LSFIkとして、極値Ikと極値Ik+1の積を求める場合は、隣り合う層1kおよび層1k+1の密度差の関係を解析することができる。
【0059】
また、解析部18は、LSFIkとして、Rk×Rk+1/Lkまたはその絶対値を求める。層の密度と層厚との相関がある場合、層厚の影響を規格化した解析が可能である。さらに、解析部18は、LSFIkとして、Rk×Rk+1×Lkまたはその絶対値を求める。層厚の影響を増長させた解析が可能である。
【0060】
さらに、解析部18は、LSFIkとして、Rk’×Rk+1’またはその絶対値を求める。被測定物1が多層であり、各層の吸収が無視できない場合、層1aよりも電磁波出力器2から遠い層の強度および柔軟性に関する解析を非破壊で行うことができる。
【0061】
ただし、比Rk’ = Ik/Ik-1は、反射電磁波の電場の極値Ik、Ik-1の比である。
【0062】
また、解析部18は、LSFIkとして、Rk’×Rk+1’/Lkまたはその絶対値を求める。層の密度と層厚との相関がある場合、層厚の影響を規格化した解析が可能である。さらに、解析部18は、LSFIkとして、Rk’×Rk+1’×Lkまたはその絶対値を求める。層厚の影響を増長させた解析が可能である。
【0063】
次に、本発明の実施形態の動作を説明する。
【0064】
まず、電磁波出力器2は、参照ミラー20に向けて、テラヘルツ波を出力する。すると、テラヘルツ波はほぼ100%反射され、電磁波検出器4により検出される。検出結果は、層解析装置(測定部)10に与えられ、電場測定部11およびピーク取得部12により、テラヘルツ波の電場の極値I0、時間t0が取得され(図2(a)および図2(b)参照)、参照ピーク記録部14に記録される。
【0065】
次に、電磁波出力器2は、被測定物1に向けて、テラヘルツ波を出力する。この際、被測定物1、または電磁波出力器2および電磁波検出器4を走査する。すると、テラヘルツ波は層1aおよび層1bにより反射され、電磁波検出器4により検出される。検出結果は、層解析装置(測定部)10に与えられ、電場測定部11およびピーク取得部12により、テラヘルツ波の電場の極値I1、時間t0および極値I2、時間t1が取得され(図2(c)および図2(d)参照)、測定ピーク記録部16に記録される。さらに、極値I3、時間t2が取得され(図4(a)および図4(b)参照)、測定ピーク記録部16に記録される。
【0066】
解析部18は、参照ピーク記録部14の記録内容および測定ピーク記録部16の記録内容に基づき、被測定物1の層1a、層1b、層1cを解析する。
【0067】
例えば、解析部18は、反射率R1 = I1/I0、反射率R2 = I2/I0、反射率R3 = I3/I0、LSFIk(例えば、|R1×R2|)、比R2’=I2/I1、比R3’=I3/I2、層1aの厚さL1=cΔt1/(2n1)、層1bの厚さL2=cΔt2/(2n2)を求める。
【0068】
本発明の実施形態によれば、非破壊試験により、層構造を有する試料を試験することができる。
【0069】
しかも、本発明の実施形態によれば、テラヘルツ波を用いることで数ミクロンから数センチの層を有する層状試料を解析可能である。
【0070】
解析部18により反射率R1、R2、層1aの厚さを求め、これらを用いて、層構造やコーティングが施された工業製品の強度、剥離性、柔軟性などを非破壊で指標化可能となる。そのような工業製品の一例として医薬品のフィルムコート錠剤があり、一般的に表面の第1層がフィルムコート層、第2層(内層)が主薬、賦形剤、添加剤からなる素錠で構成されている。
【0071】
フィルムコート層は、保存環境等により剥離や亀裂が生じる可能性があり、品質上問題となる。フィルムコート層の屈折率(密度)や、素錠との境界面の屈折率(密度)差は、フィルムコート基剤の化学的な組成のみでは決まらず、フィルムコーティング装置のスケール、運転条件によっても変化する。
【0072】
フィルムコート錠剤の製品としての仕様、品質を満たすためには最適なフィルムコート基剤の選択とコーティングプロセス条件の最適化が必要となるが、これまでは経験的な手法で最適化されるのみであった。
【0073】
しかし、本発明によるフィルムコート錠剤の解析により、フィルムコート層の密度や素錠との境界面の状態を定量的に指標化可能となる。
【0074】
例えば、フィルムコート錠剤のフィルムコート層の密度は、高いほど強度が増す。また、フィルムコート層と素錠との境界面の密度差が大きいほど境界面が明瞭となり、剥離性が高くなる。別の観点からでは、膨張に対しての耐性(柔軟性)が高まるとも言える。
【0075】
また、上記の実施形態は、以下のようにして実現できる。CPU、ハードディスク、メディア(フロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROMなど)読み取り装置を備えたコンピュータに、上記の各部分、例えば層解析装置(測定部)10を実現するプログラムを記録したメディアを読み取らせて、ハードディスクにインストールする。このような方法でも、上記の機能を実現できる。
【符号の説明】
【0076】
20 参照ミラー
1 被測定物
100 電磁波測定装置
2 電磁波出力器
4 電磁波検出器
10 層解析装置(測定部)
11 電場測定部
12 ピーク取得部
14 参照ピーク記録部
16 測定ピーク記録部
18 解析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つ以上の層を有する被測定物に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する電磁波出力器と、
前記二つ以上の層の各々によって反射された前記電磁波である反射電磁波を検出する電磁波検出器と、
前記反射電磁波の各々の電場の極値および前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差のいずれか一方または双方に基づき、前記被測定物を測定する測定部と、
を備えた電磁波測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁波測定装置であって、
前記測定部は、さらに、前記被測定物に向けて出力された電磁波の電場の極値に基づき、前記被測定物を測定する、
電磁波測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁波測定装置であって、
前記電磁波出力器が、金属面に向けて、前記電磁波を出力し、
前記測定部が、前記被測定物に向けて出力された電磁波の電場の極値を、前記金属面から反射された電磁波の電場の極値として測定する、
電磁波測定装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の電磁波測定装置であって、
前記測定部は、
前記反射電磁波の各々の電場の極値と、前記被測定物に向けて出力された電磁波の電場の極値との比に基づき、前記被測定物を測定する、
電磁波測定装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載の電磁波測定装置であって、
前記測定部は、
前記反射電磁波の各々の電場の極値と、前記被測定物に向けて出力された電磁波の電場の極値との比の積または前記積の絶対値に基づき、前記被測定物を測定する、
電磁波測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電磁波測定装置であって、
前記測定部は、
前記積または前記積の絶対値に、前記二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さを乗じた値に基づき、前記被測定物を測定する、
電磁波測定装置。
【請求項7】
請求項5に記載の電磁波測定装置であって、
前記測定部は、
前記積または前記積の絶対値を、前記二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さで割った値に基づき、前記被測定物を測定する、
電磁波測定装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電磁波測定装置であって、
前記反射電磁波の各々の電場の極値の比に基づき、前記被測定物を測定する、
電磁波測定装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電磁波測定装置であって、
前記測定部は、
前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差に基づき、前記二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さを測定する、
電磁波測定装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電磁波測定装置であって、
前記反射電磁波の各々の電場の極値の比の積または前記積の絶対値に基づき、前記被測定物を測定する、
電磁波測定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電磁波測定装置であって、
前記測定部は、
前記積または前記積の絶対値に、前記二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さを乗じた値に基づき、前記被測定物を測定する、
電磁波測定装置。
【請求項12】
請求項10に記載の電磁波測定装置であって、
前記測定部は、
前記積または前記積の絶対値を、前記二つ以上の層のいずれか一つ以上の厚さで割った値に基づき、前記被測定物を測定する、
電磁波測定装置。
【請求項13】
請求項1に記載の電磁波測定装置であって、
前記測定部は、
前記反射電磁波の各々の電場の極値の積または前記積の絶対値に基づき、前記被測定物を測定する、
電磁波測定装置。
【請求項14】
二つ以上の層を有する被測定物に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する電磁波出力工程と、
前記二つ以上の層の各々によって反射された前記電磁波である反射電磁波を検出する電磁波検出工程と、
前記反射電磁波の各々の電場の極値および前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差のいずれか一方または双方に基づき、前記被測定物を測定する測定工程と、
を備えた電磁波測定方法。
【請求項15】
二つ以上の層を有する被測定物に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する電磁波出力器と、前記二つ以上の層の各々によって反射された前記電磁波である反射電磁波を検出する電磁波検出器とを備える電磁波測定装置における電磁波測定処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記電磁波測定処理は、
前記反射電磁波の各々の電場の極値および前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差のいずれか一方または双方に基づき、前記被測定物を測定する測定工程を備えたプログラム。
【請求項16】
二つ以上の層を有する被測定物に向けて、0.01[THz]以上100[THz]以下の周波数の電磁波を出力する電磁波出力器と、前記二つ以上の層の各々によって反射された前記電磁波である反射電磁波を検出する電磁波検出器とを備える電磁波測定装置における電磁波測定処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能な記録媒体であって、
前記電磁波測定処理は、
前記反射電磁波の各々の電場の極値および前記反射電磁波の各々の電場が極値をとるタイミングの時間差のいずれか一方または双方に基づき、前記被測定物を測定する測定工程を備えたプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−237657(P2012−237657A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106887(P2011−106887)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(390005175)株式会社アドバンテスト (1,005)
【Fターム(参考)】