説明

電磁誘導加熱コイル、電磁誘導加熱装置及び金属体の加熱方法

【課題】金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルであって、金属体を均一に加熱することができる電磁誘導加熱コイルを提供する。
【解決手段】本発明に係る電磁誘導加熱コイル1は、金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルである。コイル1は、長さ方向と幅方向とを有する。コイル1は、2層以上に導線が巻かれて形成されており、2層以上に導線が巻かれていることによって、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とを有する。コイル1の長さ方向の一端1a側において、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12との内の少なくとも一方が、導線の積層方向の片側に向かって折り曲げられた領域を、コイル1は有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱する用途に用いられる電磁誘導加熱コイル、並びに該電磁誘導加熱コイルを用いた電磁誘導加熱装置に関する。また、本発明は、電磁誘導加熱コイルに電流を流すことにより渦電流を発生させ、上記金属体を加熱する金属体の加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を加熱する方法として、電磁誘導加熱を用いる方法が知られている。金属体上に配置された電磁誘導加熱コイルに電流を流して、強力な磁場を発生させると、電磁誘導により渦電流が発生し、金属体が加熱される。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、予め定められた流れ方向に送られる金属体などのストリップを電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱装置が開示されている。特許文献1に記載の電磁誘導加熱装置は、上記ストリップの板幅方向に、互いに並列に且つ上記ストリップと対向するように配列された複数個の磁極セグメントと、各磁極セグメントを上記ストリップの厚み方向に、他の磁極セグメントとは独立に移動させるための駆動機構と、上記複数個の磁極セグメントをそれぞれ取り囲むように設けられた電磁誘導加熱コイルとを有する。特許文献1に記載の電磁誘導加熱装置は、上記ストリップのエッジ部が局所的に高温に加熱されるのを抑制するために、上記ストリップのエッジ部を冷却するための冷却手段をさらに有する。該冷却手段は、ストリップのエッジ部に渦電流が集中して、エッジ部が他の部分よりも加熱されるのを抑制するために設けられている。冷却手段としては、具体的には、エアーブローノズルにより、局所的に加熱されやすい上記ストリップのエッジ部に、エアーを吹き付ける手段が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−6860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電磁誘導加熱装置に記載のように、エアーブローノズルなどの冷却手段を用いて、局所的に加熱されやすい金属体部分を冷却する方法では、金属体の温度を高精度に制御することは困難である。具体的には、金属体が局所的に高温に加熱されるのを十分に抑制できなかったり、逆に局所的に温度が低下してしまったりすることがある。さらに、特許文献1に記載の電磁誘導加熱装置では、エアーブローノズルなどの冷却手段を別途設けなければならず、かつエアーの吹き付け速度及び吹き付け量などを制御しなければならない。
【0006】
本発明の目的は、金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルであって、金属体を均一に加熱することができる電磁誘導加熱コイル、並びに該電磁誘導加熱コイルを用いた電磁誘導加熱装置及び金属体の加熱方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルは、金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルであって、長さ方向と幅方向とを有し、2層以上に導線が巻かれて形成されており、2層以上に上記導線が巻かれていることによって、上記導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部と第2の巻き導線部とを有し、コイルの長さ方向の一端側において、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部との内の少なくとも一方が、上記導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域を有する、電磁誘導加熱コイルが提供される。
【0008】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルのある特定の局面では、コイルの長さ方向の一端側において、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部との双方が、上記導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域を有する。
【0009】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルの他の特定の局面では、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とは、上記曲げられた領域に、巻かれた上記導線が曲線状に延びる曲線部を有する。
【0010】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルの他の特定の局面では、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とは、上記曲げられた領域全体に、上記曲線部を有する。
【0011】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルの別の特定の局面では、上記第1,第2の巻き導線部はそれぞれ、巻かれた上記導線が直線状に延びる第1の直線部と、巻かれた上記導線が直線状に延びる第2の直線部と、該第1の直線部に一端が連なっておりかつ該第2の直線部に他端が連なっている上記曲線部とを有する。
【0012】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルのさらに別の特定の局面では、上記曲線部が、コイルの長さ方向の外側に向かって突出した円弧状である。
【0013】
前記導線の積層方向における上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部との曲げ最大距離はそれぞれ、2mm以上、20mm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルの他の特定の局面では、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とが、1本の同じ導線により形成されている。
【0015】
本発明に係る電磁誘導加熱装置は、本発明に従って構成された電磁誘導加熱コイルと、該電磁誘導加熱コイルに電流を流すための電流供給装置とを備える。
【0016】
また、本発明の広い局面によれば、金属体の少なくとも一方の表面上に、本発明に従って構成された電磁誘導加熱コイルを、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部との上記曲げられた領域が上記金属体の表面に対向するように、かつ上記曲げられた領域の曲げ方向が上記金属体から遠ざかる方向であるように配置して、上記金属体を移動させ、かつ上記電磁誘導加熱コイルに電流を流すことにより渦電流を発生させ、上記金属体を加熱する、金属体の加熱方法が提供される。
【0017】
本発明に係る金属体の加熱方法のある特定の局面では、上記金属体の移動方向と直交する方向と、上記電磁誘導加熱コイルの長さ方向とが略平行となるように、上記電磁誘導加熱コイルを配置して、上記金属体を加熱する。
【0018】
本発明に係る金属体の加熱方法の他の特定の局面では、上記金属体と上記電磁誘導加熱コイル(上記曲げられた領域を除く)との間の隙間の距離の、導線の積層方向における上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部との曲げ最大距離に対する比が0.5以上、5以下となるように、上記金属体と上記電磁誘導加熱コイルとを配置して、上記金属体を加熱する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルは、長さ方向と幅方向とを有し、2層以上に導線が巻かれて形成されており、2層以上に上記導線が巻かれていることによって、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部と第2の巻き導線部とを有し、コイルの長さ方向の一端側において、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部との内の少なくとも一方が上記導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域を有するので、本発明に係る電磁誘導加熱コイルを用いて、金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱したときに、金属体を均一に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る電磁誘導加熱コイルを備えた電磁誘導加熱装置を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る電磁誘導加熱コイルを備えた電磁誘導加熱装置を示す平面図である。
【図3】図3は、図1に示す電磁誘導加熱装置と金属体との位置関係を説明するための図である。
【図4】図4は、図1に示す電磁誘導加熱コイルの金属体の表面上における他の配置例を示す正面図である。
【図5】図5は、図1に示す電磁誘導加熱コイルの金属体の表面上における別の配置例を示す正面図である。
【図6】図6(a)及び(b)は、電磁誘導加熱コイルの変形例を示す平面図及び正面図である。
【図7】図7(a)及び(b)は、電磁誘導加熱コイルの他の変形例を示す平面図及び正面図である。
【図8】図8は、電磁誘導加熱コイルの別の変形例を示す正面図である。
【図9】図9は、電磁誘導加熱コイルのさらに別の変形例を示す正面図である。
【図10】図10は、図1に示す電磁誘導加熱コイルの用途の一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0022】
図1に、本発明の一実施形態に係る電磁誘導加熱コイルを備えた電磁誘導加熱装置を斜視図で示す。図2に、図1に示す電磁誘導加熱装置を平面図で示す。図1〜2では、電磁誘導加熱装置の電磁誘導加熱コイルが、金属体の表面上に配置された状態が示されている。
【0023】
図1〜2に示す電磁誘導加熱装置21は、コイル1を備える。コイル1は、電磁誘導加熱コイルである。具体的には、コイル1は、金属体22を移動させながら、金属体22を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルである。コイル1は、金属体22を移動させながら、金属体22を電磁誘導により加熱する用途に用いられる。金属体22は、被加熱体である。
【0024】
図1〜2では、金属体22の第1の表面22a上に、電磁誘導加熱コイル1が配置されている。金属体22を加熱する際には、例えば、金属体22を矢印Xで示す方向に移動させる。金属体22は、長尺状であり、長さ方向と幅方向とを有する。図1〜2では、金属体22は、該金属体22の長さ方向に移動される。コイル1は、長さ方向と幅方向とを有する金属体22を長さ方向に移動させながら、該金属体22を電磁誘導により加熱するために好適に用いられる。金属体22は、例えば、板状体である。
【0025】
コイル1は、長さ方向と幅方向とを有する。コイル1は、2層以上に導線が巻かれて形成されている。該導線は、コイル1が長さ方向と幅方向とを有するように巻かれている。コイル1は、導線が環状に巻かれて形成されている。
【0026】
コイル1の長さ方向の一端1a側において、導線は2層以上に積層されており、コイルの長さ方向の他端1b側において、導線は一端1a側より一層少なく積層されている。電磁誘導加熱コイルの一部の領域及び導線の一部の領域は、2層以上に積層されていなくてもよい。例えば、電磁誘導加熱コイルの長さ方向の一端側において、導線が2層以上に積層されており、電磁誘導加熱コイルの長さ方向の他端側において、導線が2層以上に積層されていなくてもよい。なお、他端1bは、導線が巻かれている部分を示し、導線が巻かれていない部分を除くこととする。
【0027】
2層以上に導線が巻かれていることによって、コイル1は、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とを有する。
【0028】
コイル1は、1本の導線により形成されている。第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とは、1本の同じ導線により形成されている。コイル1を形成する導線の両端は、コイル1に電流を流すための電流供給装置23に接続されている。電流供給装置23は、コイル1の他端1b側に配置されている。
【0029】
コイル1は、コイル1の長さ方向の一端1a側において、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが上記導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域Rを有する。具体的には、コイル1では、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12との曲げられた領域Rの曲げ方向が、金属体22に対して遠ざかる方向であるように、第1,第2の巻き導線部11,12が形成されている。言い換えれば、第1の巻き導線部11(上記曲げられた領域Rを除く)の主面に対して、第1の巻き導線部11が片側に向かって突出するように、第1の巻き導線部11が曲げられている。第2の巻き導線部12(上記曲げられた領域Rを除く)の主面に対して、第2の巻き導線部12が片側に向かってに突出するように、第2の巻き導線部12が曲げられている。
【0030】
本実施形態の主な特徴の一つは、コイル1の長さ方向の一端1a側において、上記導線の積層方向の片側に向かって、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが曲げられた領域Rを、コイル1が有することである。コイル1の長さ方向の一端1a側において、第1の巻き導線部11の主面に対して片側方向に、第1の巻き導線部11が曲げられた領域Rを、コイル1は有する。また、コイル1の長さ方向の一端1a側において、第2の巻き導線部12の主面に対して片側に、第2の巻き導線部12が曲げられた領域Rを、コイル1は有する。
【0031】
コイル1は、導線の積層方向において、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域Rを有する。仮に、電磁誘導加熱コイルの長さ方向の一端側において、第1,第2の巻き導線部が、導線の積層方向の一方向側又はその反対側に向かって曲げられておらず、曲げられた領域Rが設けられていない場合には、電磁誘導加熱コイルの長さ方向の一端に対向する金属体部分に、渦電流が集中し、金属体が局所的に高温に加熱されやすい。これに対して、上記曲げられた領域Rを設けることにより、該曲げられた領域Rに対向する金属体部分に、渦電流が集中し難くなり、金属体が局所的に加熱されるのを抑制でき、金属体を均一に加熱することができる。
【0032】
電磁誘導加熱コイルは、コイルの長さ方向の一端側において、第1の巻き導線部と第2の巻き導線部との内の少なくとも一方が、導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域Rを有していればよい。すなわち、電磁誘導加熱コイルは、コイルの長さ方向の一端側において、第1の巻き導線部と第2の巻き導線部との双方が、導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域を有していなくてもよい。但し、金属体が局所的に加熱されるのをより一層抑制し、かつ金属体をより一層均一に加熱する観点からは、コイルの長さ方向の一端側において、第1の巻き導線部と第2の巻き導線部との双方が、導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域Rを有することが好ましい。
【0033】
第1の巻き導線部11は、曲げられた領域R全体に、巻かれた導線が曲線状に延びる曲線部11aを有する。第2の巻き導線部12は、曲げられた領域R全体に、巻かれた導線が曲線状に延びる曲線部12aを有する。曲線部11a,12aは、コイルの長さ方向の外側に向かって突出した円弧状である。曲線部11a,12aは、コイル1の長さ方向の一端に位置している。このように、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが、曲げられた領域R全体に曲線部11a,12aを有すると、コイル1の長さ方向の一端1aに対向する金属体22部分に渦電流がより一層集中し難くなり、金属体22が局所的に加熱されるのをより一層効果的に抑制できる。また、曲線部11a,12aが、コイルの長さ方向の外側に向かって突出した円弧状であれば、金属体22をより一層均一に加熱することができる。
【0034】
第1の巻き導線部11は、巻かれた導線が直線状に延びる第1の直線部11bと、巻かれた導線が直線状に延びる第2の直線部11cと、第1の直線部11bに一端が連なっておりかつ第2の直線部11cに他端が連なっている曲線部11aとを有する。第1,第2の直線部11b,11cは、コイル1の長さ方向に延びている。曲線部11aは、コイル1の幅方向に延びている。第1の直線部11bと第2の直線部11cとは、略平行に配置されている。第1の直線部11bと第2の直線部11cとは、対向している。
【0035】
第2の巻き導線部12は、巻かれた導線が直線状に延びる第1の直線部12bと、巻かれた導線が直線状に延びる第2の直線部12cと、第1の直線部12bに一端に連なっておりかつ第2の直線部12cに他端が連なっている曲線部12aとを有する。第1,第2の直線部12b,12cは、コイル1の長さ方向に延びている。曲線部12aは、コイル1の幅方向に延びている。第1の直線部12bと第2の直線部12cとは、略平行に配置されている。第1の直線部12bと第2の直線部12cとは、対向している。
【0036】
このように、2つの第1,第2の直線部が1つの曲線部に連なっている場合には、曲線部に対向する金属体部分が他の部分よりも高温に加熱されやすくなる傾向がある。しかし、曲線部11aと曲線部12aとが導線の積層方向の片側に向かって曲げられていることによって、曲線部11a,12aと金属体22との隙間の距離が遠くなることから、曲線部11a,12aに対向する金属体部分が他の部分よりも高温に加熱され難くなる。この結果、金属体22をむらなく均一に加熱することができる。
【0037】
なお、第1の巻き導線部11の第2の直線部11cは、曲線部13の一端に連なっており、第2の巻き導線部12の第1の直線部12bは、曲線部13の他端に連なっている。従って、コイル1は、第1の直線部11bと、曲線部11aと、第2の直線部11cと、曲線部13と、第1の直線部12bと、曲線部12aと、第2の直線部12cとがこの順で連なっている。第1の直線部11bの曲線部11a側とは反対側の端部が、電流供給装置23に接続されている。第2の直線部11cの曲線部12a側とは反対側の端部が、電流供給装置23に接続されている。
【0038】
図1〜3に示すように、電磁誘導加熱コイル1を備えた電磁誘導加熱装置21を用いて、金属体22を加熱する際には、金属体22の第1の表面22a上に、電磁誘導加熱コイル1を配置する。このとき、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが曲げられた領域Rが金属体22の第1の表面22aに対向するように、コイル1を配置する。すなわち、曲げられた領域Rが、金属体22の第1の表面22a上に位置するように、コイル1を配置する。さらに、曲げられた領域Rの曲げ方向が金属体に対して遠ざかる方向であるように、コイル1を配置する。この配置では、コイル1の曲げられた領域Rと金属体22との隙間の距離は、コイル1の曲げられた領域Rを除く部分と金属体22との隙間の距離よりも大きくなる。
【0039】
ここでは、第1の巻き導線部11が金属体22側、第2の巻き導線部12が金属体22側とは反対側に位置するように、コイル1が配置されている。
【0040】
図1〜3に示す配置で、金属体22を矢印Xの方向に移動させ、かつ電流供給装置23からコイル1に電流を流すことにより渦電流を発生させる。この結果、金属体22が加熱される。金属体22を矢印Xの方向とは反対側の方向に移動させてもよい。
【0041】
図1〜2に示すように、金属体22の移動方向(矢印Xの方向)と直交する方向と、電磁誘導加熱コイル1の長さ方向とが略平行となるように、電磁誘導加熱コイル1を配置して、金属体22を加熱することが好ましい。この場合には、金属体22を広範囲にわたり効果的に加熱することができる。
【0042】
コイル1の長さ方向寸法L(mm)は、コイル1の幅方向寸法Wを超えていればよく、任意に選ぶことができる。長さ方向寸法Lは特に限定されない。長さ方向寸法Lは、好ましくは20mm以上、より好ましくは100mm以上である。コイル1の長さ方向寸法Lは、加熱される金属体22の長さ方向寸法L2(mm)に応じて適宜決められる。コイル1の長さ方向寸法Lは、加熱される金属体22の長さ方向寸法L2よりも小さいことが好ましい。好ましくはL≦(L2−10)であり、より好ましくはL≦(L2−15)である。
【0043】
コイル1の長さ方向における第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12との曲げ最大距離D1は、適宜変更することができる。図3に示す曲げ最大距離D1は、好ましくは2mm以上、好ましくは20mm以下である。曲げ最大距離D1は、第1の巻き導線部11の主面に対して、第1の巻き導線部11が導線の積層方向に曲げられた領域Rの曲げ最大距離を示す。言い換えれば、曲げ最大距離D1は、第1の巻き導線部11の主面と、曲げられた領域Rの曲げ先端部分における第1の巻き導線部11の主面と平行な面との距離を示す。また、曲げ最大距離D1は、第2の巻き導線部12の主面に対して、第2の巻き導線部12が導線の積層方向に曲げられた領域Rの曲げ最大距離を示す。言い換えれば、曲げ最大距離D1は、第2の巻き導線部12の主面と、曲げられた領域Rの曲げ先端部分における第1の巻き導線部11の主面と平行な面との距離を示す。コイル1では、曲げ最大距離D1は、第1の巻き導線部11の主面と曲げられた領域Rの先端との導線の積層方向における距離を示し、第2の巻き導線部12の主面と曲げられた領域Rの先端との導線の積層方向における距離を示す。
【0044】
曲げられた領域Rの曲げ角度αは、適宜変更することができる。図3に示す曲げ角度αは、好ましくは120度以上、好ましくは180度未満である。曲げ角度αは、第1の巻き導線部11の主面と、曲げられた領域Rの曲げ開始部分と曲げ先端部分とを結ぶ直線とのなす角度である。また、曲げ角度αは、第2の巻き導線部12の主面と、曲げられた領域Rの曲げ開始部分と曲げ先端部分とを結ぶ直線とのなす角度である。
【0045】
図3に示すように、金属体22と電磁誘導加熱コイル1(曲げられた領域Rを除く)との間の隙間の距離D2の、導線の積層方向における第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12との曲げ最大距離D1に対する比(D2/D1)が0.5倍以上、5倍以下となるように、金属体22と電磁誘導加熱コイル1とを配置して、金属体22を加熱することが好ましい。この場合には、金属体22をより一層均一に加熱することができる。
【0046】
図4に示すように、金属体22の第1の表面22a上には、2つの電磁誘導加熱コイル1が積層されて配置されてもよい。ここでは、2つのコイル1,1の曲げられた領域Rの曲げ方向がそれぞれ、金属体22に対して遠ざかる方向であるように、2つのコイル1,1が配置されている。また、1つのコイル1に対して、他のコイル1が、長さ方向に反転された状態で、2つのコイル1,1が配置されている。この場合には、金属体をより一層効果的に加熱することができる。さらに、金属体の幅方向の一端と他端側とにおいて、金属体が局所的に加熱されるのをより一層効果的に抑制できる。
【0047】
図5に示すように、金属体22の第1の表面22a上だけでなく、第1の表面22aとは反対の第2の表面22b上にも、コイル1が配置されていてもよい。ここでは、2つのコイル1,1の曲げられた領域Rの曲げ方向がそれぞれ、金属体22に対して遠ざかる方向であるように、2つのコイル1,1を配置されている。また、1つのコイル1に対して、他のコイル1が、長さ方向に反転された状態で、2つのコイル1,1が配置されている。
【0048】
図1〜3に示すコイル1では、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とは、曲げられた領域R全体に、曲線部11a,12aを有する。図6(a)及び(b)に示すコイル31のように、第1の巻き導線部32と第2の巻き導線部33とは、曲げられた領域Rの一部に、巻かれた導線が曲線状に延びる曲線部32a,33aを有していてもよい。コイル31では、第1の巻き導線部32は、曲げられた領域Rに、2つの曲線部32aを有する。2つの曲線部32aは、巻かれた導線が直線状に延びる直線部32bの一端と他端とに連なっている。第2の巻き導線部33は、曲げられた領域Rに、2つの曲線部33aを有する。2つの曲線部33aは、巻かれた導線が直線状に延びる直線部33bの一端と他端とに連なっている。
【0049】
また、図7(a)及び(b)に示すコイル36のように、第1の巻き導線部37と第2の巻き導線部38とは、曲げられた領域Rに、巻かれた導線が直線状に延びる直線部37a,38aを有していてもよく、曲線部を必ずしも有していなくてもよい。コイル36では、第1の巻き導線部37は、曲げられた領域Rに直線部37aを有し、第2の巻き導線部38は、曲げられた領域Rに直線部38aを有する。直線部37aは、巻かれた導線が直線状に延びる第1の直線部(図7(a)及び(b)に現れていない)に一端が直角に連なっており、巻かれた導線が直線状に延びる第2の直線部37cに他端が直角に連なっている。直線部38aは、巻かれた導線が直線状に延びる第1の直線部38bに一端が直角に連なっており、巻かれた導線が直線状に延びる第2の直線部38cに他端が直角に連なっている。
【0050】
図1に示すコイル1は、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とを有し、2層に導線が巻かれている。図8に示すように、コイル41は、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部42と第2の巻き導線部43と第3の巻き導線部44と有し、3層に導線が巻かれていてもよい。さらに、4層以上に導線が巻かれていてもよい。
【0051】
コイル41では、コイル41の長さ方向の一端41a側において、第1の巻き導線部42と第2の巻き導線部43と第3の巻き導線部44とが、導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域Rを有する。このように、コイルの長さ方向の一端側において、第1の巻き導線部と第2の巻き導線部と第3の巻き導線部とが、導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域Rを有することが好ましい。この場合には、金属体22をより一層均一に加熱することができる。但し、コイルの長さ方向の一端側において、第1の巻き導線部と第2の巻き導線部と第3の巻き導線部との内の少なくとも1つが、導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域Rを有していればよく、第1の巻き導線部と第2の巻き導線部と第3の巻き導線部との内の全てが、導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域Rを有していなくてもよい。
【0052】
図1〜3に示すコイル1では、第1,第2の巻き導線部11,12の曲げられた領域Rは、第1,第2の巻き導線部11,12の主面に対して、所定の角度で直線状に延びるように折り曲げられている。すなわち、図3に示す正面視において、曲げられた領域Rの第1,第2の巻き導線部11,12は、第1,第2の巻き導線部11,12の主面に対して、所定の角度で直線状に延びている。
【0053】
図9に示すコイル46のように、第1,第2の巻き導線部47,48の曲げられた領域Rは、第1,第2の巻き導線部47,48の主面に対して、曲線状に曲げられていてもよい。すなわち、図9に示す正面視において、曲げられた領域Rの第1,第2の巻き導線部11,12は、第1,第2の巻き導線部47,48の主面に対して、曲線状に延びていてもよい。
【0054】
電磁誘導加熱コイル1は、金属体が加熱される様々な用途に用いられる。電磁誘導加熱コイル1は、例えば、樹脂層により被覆された金属体を得る用途などに用いることができる。
【0055】
具体的に説明すると、図10に示すように、例えば、ローラー61,62を回転させて、金属体22を移動させながら、電磁誘導加熱コイル1により金属体22を加熱する。金属体22が加熱された状態で、金属体22の第1の表面22a上に、ローラー63により樹脂シート51を圧接しながら積層して、金属体22の熱により樹脂シート51を加熱する。それによって、金属体22と樹脂シート51とを接着させる。このようにして、樹脂層により被覆された金属体を得ることができる。本発明に係る電磁誘導加熱コイルは、この用途以外にも用いることができる。なお、図10では、電磁誘導加熱装置21は、略図的に示されている。
【0056】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果を明らかにする。
【0057】
(実施例1)
金属体として、厚み0.3mm、幅方向寸法400mmのSUS304を用意した。図1に示す電磁誘導加熱コイル1を用意した。コイル1の長さ方向寸法Lは360mm、コイル1の幅方向寸法は60mm、曲げ最大距離D1は10mmとした。
【0058】
金属体の表面上に、コイル1を配置した。金属体と電磁誘導加熱コイル1(曲げられた領域Rを除く)との間の隙間の距離D2は、10mmとした。また、コイル1の長さ方向において、第1の巻き導線部11が金属体22側に、第2の巻き導線部12が金属体22側とは反対側に位置するように、第1,第2の巻き導線部11,12を配置した。また、曲げられた領域Rが金属体22の表面22aに対向するように、かつ曲げられた領域Rの曲げ方向が金属体22に対して遠ざかる方向であるように、コイル1を配置した。
【0059】
金属体を1.2m/分の移動速度で移動させ、コイル1に400kHzの高周波で24Aの電流を流し、金属体を加熱した。
【0060】
(実施例2)
曲げ最大距離D1を10mmから7mmに変更したこと以外は実施例1と同様に構成されたコイルを用いて、金属体を加熱した。
【0061】
(実施例3)
曲げ最大距離D1を10mmから15mmに変更したこと以外は実施例1と同様に構成されたコイルを用いて、金属体を加熱した。
【0062】
(実施例4)
金属体の移動速度を1.2m/分から1.8m/分に変更したこと以外は実施例1と同様にして、金属体を加熱した。
【0063】
(比較例1)
曲げられた領域Rが存在せず、曲げ最大距離D1を0mmに変更したこと以外は実施例1と同様に構成されたコイルを用いて、金属体を加熱した。
【0064】
(評価)
金属体が、該金属体の幅方向に均一に加熱されているか否かを評価した。
【0065】
金属体の幅方向全体の温度をサーモビュアで観察し、温度を計測した。コイルの中心部に対向する金属体の温度をT(℃)としたときに、金属体の温度が0.95T以上、1.05T以下である温度を示す部分を、均一加熱範囲とした。該均一加熱範囲の金属体の幅方向における距離を、金属体が均一に加熱されているか否かの指標とした。均一温度範囲は大きいほどよい。
【0066】
金属体が、該金属体の幅方向に均一に加熱されているかを下記の判定基準で判定した。
【0067】
[判定基準]
○○:コイルの長さ方向寸法L対して、均一加熱範囲の金属体の幅方向における距離が、100%以上
○:コイルの長さ方向寸法Lに対して、均一加熱範囲の金属体の幅方向における距離が、97%以上、100%未満
△:コイル長さ方向寸法Lに対して、均一加熱範囲の金属体の幅方向における距離が、90%以上、97%未満
×:コイル長さ方向寸法Lに対して、均一加熱範囲の金属体の幅方向における距離が、90%未満
【0068】
結果を下記の表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すように、コイル1に曲げられた領域Rが存在することで、金属体を均一に加熱することができることがわかる。また、金属体の移動速度をかえると場合に、金属体の温度はかわるものの、金属体が均一に加熱される幅方向における距離に大きな変化はないことがわかる。
【符号の説明】
【0071】
1…コイル
1a…一端
1b…他端
11…第1の巻き導線部
11a…曲線部
11b…第1の直線部
11c…第2の直線部
12…第2の巻き導線部
12a…曲線部
12b…第1の直線部
12c…第2の直線部
13…曲線部
21…電磁誘導加熱装置
22…金属体
22a…第1の表面
22b…第2の表面
23…電流供給装置
31…コイル
32,33…第1,第2の巻き導線部
32a,33a…曲線部
32b,33b…直線部
36…コイル
37,38…第1,第2の巻き導線部
37a,38a…直線部
38b…第1の直線部
37c,38c…第2の直線部
41…コイル
41a…一端
42〜44…第1〜第3の巻き導線部
46…コイル
47,48…第1,第2の巻き導線部
47a,48a…曲線部
51…樹脂シート
61〜63…ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルであって、
長さ方向と幅方向とを有し、
2層以上に導線が巻かれて形成されており、2層以上に前記導線が巻かれていることによって、前記導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部と第2の巻き導線部とを有し、
コイルの長さ方向の一端側において、前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部との内の少なくとも一方が、前記導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域を有する、電磁誘導加熱コイル。
【請求項2】
コイルの長さ方向の一端側において、前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部との双方が、前記導線の積層方向の片側に向かって曲げられた領域を有する、請求項1に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とは、前記曲げられた領域に、巻かれた前記導線が曲線状に延びる曲線部を有する、請求項1又は2に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項4】
前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とは、前記曲げられた領域全体に、前記曲線部を有する、請求項3に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項5】
前記第1,第2の巻き導線部はそれぞれ、巻かれた前記導線が直線状に延びる第1の直線部と、巻かれた前記導線が直線状に延びる第2の直線部と、該第1の直線部に一端が連なっておりかつ該第2の直線部に他端が連なっている前記曲線部とを有する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項6】
前記曲線部が、コイルの長さ方向の外側に向かって突出した円弧状である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項7】
前記導線の積層方向における前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部との曲げ最大距離がそれぞれ、2mm以上、20mm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項8】
前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とが、1本の同じ導線により形成されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイルと、
前記電磁誘導加熱コイルに電流を流すための電流供給装置とを備える、電磁誘導加熱装置。
【請求項10】
金属体の少なくとも一方の表面上に、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイルを、前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部との前記曲げられた領域が前記金属体の表面に対向するように、かつ前記曲げられた領域の曲げ方向が前記金属体に対して遠ざかる方向であるように配置して、
前記金属体を移動させ、かつ前記電磁誘導加熱コイルに電流を流すことにより渦電流を発生させ、前記金属体を加熱する、金属体の加熱方法。
【請求項11】
前記金属体の移動方向と直交する方向と、前記電磁誘導加熱コイルの長さ方向とが略平行となるように、前記電磁誘導加熱コイルを配置して、前記金属体を加熱する、請求項10に記載の金属体の加熱方法。
【請求項12】
前記金属体と前記電磁誘導加熱コイル(前記曲げられた領域を除く)との間の隙間の距離の、導線の積層方向における前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部との曲げ最大距離に対する比が0.5以上、5以下となるように、前記金属体と前記電磁誘導加熱コイルとを配置して、前記金属体を加熱する、請求項10又は11に記載の金属体の加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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