説明

電線、リッツ線および巻線

【課題】柔軟性を向上させたリッツ線を提供する。
【解決手段】リッツ線(101)は、芯線(10)の周りに複数の素線(1)を撚り付けたものであり、芯線(10)は柔軟性のある材質の断面円形の線であり、線長方向に所定間隔で付けられた複数の窪み(11)を有し、窪み(11)は芯線(10)を1周している。
【効果】曲げるときに、曲げる外側では窪み(11)が開き、内側では窪み(11)が閉じて、芯線(10)が曲がり易いので、柔軟性が向上し、リッツ線(101)を巻線に用い易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線、リッツ線および巻線に関し、さらに詳しくは、柔軟性を向上させた電線、リッツ線およびそれら電線またはリッツ線を用いた巻線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高固有抵抗材芯線の周りに複数の導体素線を撚ったリッツ線(中空リッツ線)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−153328号公報(図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のリッツ線では、芯線のためにリッツ線全体の柔軟性が損なわれ、巻線にし難い問題点があった。
そこで、本発明の目的は、高固有抵抗材芯線の周りに複数の導体素線を撚るか又は撚らないで集合させた電線において、柔軟性を向上し、巻線にし易くした電線、リッツ線を提供することにある。また、それら電線またはリッツ線を用いた巻線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点では、本発明は、高固有抵抗材芯線(10)の周りに複数の導体素線(1)を撚るか又は撚らないで集合させた電線において、前記芯線(10)は線長方向に所定間隔で付けられた複数の窪み(11)を有し、前記窪み(11)は前記芯線(10)を1周していることを特徴とする電線(101,102)を提供する。
本発明において、高固有抵抗材とは、銅の固有抵抗値の100倍以上の固有抵抗値を有する材料をいう。
上記第1の観点による電線では、電線を曲げるとき、曲げる外側では芯線の窪みが開き、内側では窪みが閉じて芯線が曲がり易いので、柔軟性が向上する。これにより、電線を巻線にし易くなる。
なお、芯線は、例えばノズル内径を一定間隔毎に短時間だけ絞ることを繰り返しながら樹脂をノズルから引き出すことにより製作しうる。また、一定のノズル内径で樹脂をノズルから引き出した後、一定間隔毎に芯線を1周する切り込みを刻設することで製作しうる。
【0005】
第2の観点では、本発明は、高固有抵抗材芯線(20)の周りに複数の導体素線(1)を撚るか又は撚らないで集合させた電線において、前記芯線(20)は線長方向に所定間隔で付けられた複数の窪み(21)を有し、前記窪み(21)は前記芯線(20)を1周しておらず、線長方向に隣接する窪み(21)の周方向の位置が異なることを特徴とする電線(103,104)を提供する。
上記第2の観点による電線では、電線を曲げるとき、曲げる外側では芯線の窪みが開き、内側では窪みが閉じて芯線が曲がり易いので、柔軟性が向上する。これにより、電線を、巻線にし易くなる。
なお、芯線は、例えば一定のノズル内径で樹脂をノズルから引き出した後、一定間隔毎に1/4周の切り込みを周方向の位置をずらしながら刻設することで製作しうる。
【0006】
第3の観点では、本発明は、高固有抵抗材芯線(30)の周りに複数の導体素線(1)を撚ったリッツ線において、前記芯線(30)は螺旋状の窪み(31)を有し、前記窪み(31)の螺旋方向は前記導体素線(1)の撚り方向と逆向きであることを特徴とするリッツ線(105)を提供する。
上記第3の観点による電線では、電線を曲げるとき、曲げる外側では芯線の窪みが開き、内側では窪みが閉じて芯線が曲がり易いので、柔軟性が向上する。これにより、電線を、巻線にし易くなる。窪みの螺旋方向が素線の撚り方向と逆なので、窪みに素線が落ち込むことはない。窪みの螺旋方向と素線の撚り方向とが直交に近いほど窪みに素線が落ち込み難くなるため、大きな窪みとすることができ、大きな柔軟性が得られる。また、材料の削減・軽量化も可能となる。
なお、芯線は、例えば一定のノズル内径で樹脂をノズルから引き出しながら、芯線の周りにカッターを周回させて螺旋状に窪みを刻設することで製作しうる。
【0007】
第4の観点では、本発明は、高固有抵抗材芯線(40)の周りに複数の導体素線(1)を撚ったリッツ線において、前記芯線(40)は複数の高固有抵抗材線(41)を前記導体素線(1)の撚り方向と同向きに撚ったものであることを特徴とするリッツ線(106)を提供する。
上記第4の観点によるリッツ線では、芯線も撚り線なので、柔軟性が向上する。これにより、リッツ線を、巻線にし易くなる。また、撚った場合に生じ易い芯線の捻れの戻りも、素線と一体となった戻りで、全体が調和した戻り(緩み)となり、巻線工程での取り扱いが容易となる。
なお、このリッツ線は、例えば複数の高固有抵抗材線を撚って芯線を製作した後、その芯線の周りに素線を撚り付けていくことで製作しうる。または、複数の高固有抵抗材線を撚って芯線を製作しながら、その直後に芯線の周りに素線を撚り付けていくことで連続的に製作しうる。
【0008】
第5の観点では、本発明は、前記第1または前記第2の観点による電線または前記第3または前記第4の観点によるリッツ線を巻回したことを特徴とする巻線を提供する。
上記5の観点による巻線は、巻線工程が容易になる本発明に係る電線またはリッツ線を用いているので、製造し易く、各種のコイル,トランス,その他の機器に使用しうる。
巻線として使用したときの損失は、銅損とコア損に大別されるが、銅損は空芯時の損失が基本になり、巻線条件によって損失が上積みされる。この空芯巻線の高周波損失を減少できる結果を得ている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電線およびリッツ線は、芯線の柔軟性が向上するため、巻線にし易くなる。また、芯線が高固有抵抗材であるため、高周波損失を減少できる。
本発明の巻線は、芯線の柔軟性を向上させた電線またはリッツ線を用いるため、巻線工程が容易になる。また、高周波損失を減少できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1に係るリッツ線101を示す斜視図である。
このリッツ線101は、芯線10の周りに複数の素線1を撚り付けたものである。図示せぬ絶縁被覆を外周に被せて被覆リッツ線としてもよい。
【0012】
芯線10は、柔軟性のある材質(例えばポリエチレン樹脂)の断面円形の線であり、線長方向に所定間隔で付けられた複数の窪み11を有し、窪み11は芯線10を1周している。最大外径は例えば0.42mmであり、窪み11の深さは例えば0.1mm、窪み11の幅は例えば0.2mmである。窪み11の間隔は例えば1mmである。
【0013】
芯線10は、例えばノズル内径を一定間隔毎に短時間だけ絞ることを繰り返しながら樹脂をノズルから引き出すことにより製作しうる。また、一定のノズル内径で樹脂をノズルから引き出した後、一定間隔毎に芯線を1周する切り込みを刻設することで製作しうる。
【0014】
素線1は、例えば導体径0.14mmのエナメル被覆銅線である。
【0015】
実施例1のリッツ線101によれば、曲げるときに、曲げる外側では窪み11が開き、内側では窪み11が閉じて、芯線10が曲がり易いので、柔軟性が向上する。これにより、リッツ線101を巻線に用い易くなる。
【実施例2】
【0016】
図2は、実施例2に係る集合線102を示す斜視図である。
この集合線102は、芯線10の周りに複数の素線1を撚らずに束ねたものであり、図示せぬ絶縁被覆を外周に被せられる。
【0017】
芯線10および素線1は、実施例1と同じ構成である。
【0018】
実施例2の集合線102によれば、曲げるときに、曲げる外側では窪み11が開き、内側では窪み11が閉じて、芯線10が曲がり易いので、柔軟性が向上する。これにより、リッツ線102を巻線に用い易くなる。
【実施例3】
【0019】
図3は、実施例3に係るリッツ線103を示す斜視図である。
このリッツ線103は、芯線20の周りに複数の素線1を撚り付けたものである。図示せぬ絶縁被覆を外周に被せて被覆リッツ線としてもよい。
【0020】
芯線20は、柔軟性のある材質(例えばナイロン樹脂)の断面円形の線であり、線長方向に所定間隔で付けられた複数の窪み21を有し、窪み21の周方向の長さは芯線20のほぼ1/4周であり、線長方向に隣接する窪み21の周方向の位置が1/4周分ずつずれている。芯線20の最大外径は例えば0.42mmであり、窪み21の深さは例えば0.15mm、窪み21の幅は例えば0.2mmである。窪み21の間隔は例えば2mmである。
【0021】
芯線20は、例えば一定のノズル内径で樹脂をノズルから引き出した後、一定間隔毎に芯線の1/4周の切り込みを周方向に刻設することで製作しうる。
【0022】
素線1は、例えば導体径0.14mmのエナメル被覆銅線である。
【0023】
実施例3のリッツ線103によれば、曲げるときに、曲げる外側では窪み21が開き、内側では窪み21が閉じて、芯線20が曲がり易いので、柔軟性が向上する。これにより、リッツ線103を巻線に用い易くなる。
【実施例4】
【0024】
図4は、実施例4に係る集合線104を示す斜視図である。
この集合線104は、芯線20の周りに複数の素線1を撚らずに束ねたものであり、図示せぬ絶縁被覆を外周に被せられる。
【0025】
芯線20および素線1は、実施例3と同じ構成である。
【0026】
実施例4の集合線104によれば、曲げるときに、曲げる外側では窪み21が開き、内側では窪み21が閉じて、芯線20が曲がり易いので、柔軟性が向上する。これにより、リッツ線104を巻線に用い易くなる。
【実施例5】
【0027】
図5は、実施例5に係るリッツ線105を示す側面図である。
このリッツ線105は、芯線30の周りに複数の素線1を撚り付けたものである。図示せぬ絶縁被覆を外周に被せて被覆リッツ線としてもよい。
【0028】
芯線30は、柔軟性のある材質(例えば塩化ビニール樹脂)の断面円形の線であり、外周面に螺旋状の窪み31を有している。窪み31の螺旋方向は、素線1の撚り方向と逆向きである。芯線20の最大外径は例えば0.42mmであり、窪み21の深さは例えば0.1mm、窪み21の幅は例えば0.3mmである。窪み21の螺旋ピッチは例えば1mmである。
【0029】
芯線30は、例えば一定のノズル内径で樹脂をノズルから引き出しながら、芯線の周りにカッターを周回させて螺旋状に窪みを刻設することで製作しうる。
【0030】
素線1は、例えば導体径0.14mmのエナメル被覆銅線である。
【0031】
実施例5のリッツ線105によれば、曲げるときに、曲げる外側では窪み31が開き、内側では窪み31が閉じて、芯線30が曲がり易いので、柔軟性が向上する。これにより、リッツ線105を巻線に用い易くなる。
【実施例6】
【0032】
図6は、実施例6に係るリッツ線106を示す斜視図である。
このリッツ線106は、芯線40の周りに複数の素線1を撚り付けたものである。図示せぬ絶縁被覆を外周に被せて被覆リッツ線としてもよい。
【0033】
芯線40は、柔軟性のある材質(例えばポリエステル樹脂)の断面円形の高固有抵抗材線41を複数撚ったものである。撚り方向は、素線1の撚り方向と同向きである。芯線40の最大外径は例えば0.42mmであり、高固有抵抗材線41の外径は例えば0.14mmである。撚りピッチは例えば50mmである。
【0034】
素線1は、例えば導体径0.14mmのエナメル被覆銅線である。
【0035】
リッツ線106は、例えば複数の高固有抵抗材線41を撚って芯線40を製作しながら、その直後に芯線40の周りに素線1を撚り付けていくことで連続的に製作しうる。
【0036】
実施例6のリッツ線106によれば、撚り線である芯線40が曲がり易いので、柔軟性が向上する。これにより、リッツ線106を巻線に用い易くなる。
【実施例7】
【0037】
実施例1,3,5,6のリッツ線101,103,105,106および実施例2,4の集合線102,104を巻回した巻線は、巻線工程が容易であり、各種のコイル,トランス,その他の巻線使用機器に使用でき、高周波損失を減少できる。
【0038】
図7に、実施例1のリッツ線101(=中空リッツ線)を使用したソレノイドコイルの損失と、比較例として芯線10の部分まで導体素線としたリッツ線(=通常リッツ線)を使用したソレノイドコイルの損失を示す。
250kHz以上では、実施例1のリッツ線101を使用したソレノイドコイルの損失の方が、芯線10の部分まで導体素線としたリッツ線を使用したソレノイドコイルの損失よりも小さくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の電線、リッツ線および巻線は、例えばチョークコイル,トランス,インダクター,TV用偏向ヨークなどの電磁誘導利用装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1に係るリッツ線を示す斜視図である。
【図2】実施例2に係る集合線を示す断面図である。
【図3】実施例3に係るリッツ線を示す斜視図である。
【図4】実施例4に係る集合線を示す斜視図である。
【図5】実施例5に係るリッツ線を示す側面図である。
【図6】実施例6に係るリッツ線を示す斜視図である。
【図7】実施例1のリッツ線を使用したソレノイドコイルの損失特性および比較例として芯線の部分まで導体素線としたリッツ線を使用したソレノイドコイルの損失特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1 素線
10,20,30,40 芯線
11,21,31 窪み
41 高固有抵抗材線
101,103,105,106 リッツ線
102,104 集合線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高固有抵抗材芯線(10)の周りに複数の導体素線(1)を撚るか又は撚らないで集合させた電線において、前記芯線(10)は線長方向に所定間隔で付けられた複数の窪み(11)を有し、前記窪み(11)は前記芯線(10)を1周していることを特徴とする電線(101,102)。
【請求項2】
高固有抵抗材芯線(20)の周りに複数の導体素線(1)を撚るか又は撚らないで集合させた電線において、前記芯線(20)は線長方向に所定間隔で付けられた複数の窪み(21)を有し、前記窪み(21)は前記芯線(20)を1周しておらず、線長方向に隣接する窪み(21)の周方向の位置が異なることを特徴とする電線(103,104)。
【請求項3】
高固有抵抗材芯線(30)の周りに複数の導体素線(1)を撚ったリッツ線において、前記芯線(30)は螺旋状の窪み(31)を有し、前記窪み(31)の螺旋方向は前記導体素線(1)の撚り方向と逆向きであることを特徴とするリッツ線(105)。
【請求項4】
高固有抵抗材芯線(40)の周りに複数の導体素線(1)を撚ったリッツ線において、前記芯線(40)は複数の高固有抵抗材線(41)を前記導体素線(1)の撚り方向と同向きに撚ったものであることを特徴とするリッツ線(106)。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の電線または請求項3または請求項4に記載のリッツ線を巻回したことを特徴とする巻線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−181760(P2009−181760A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18600(P2008−18600)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】