説明

電線事故検出装置

【課題】電線に発生した事故の原因を特定するための情報を効率良く低コストに取得する。
【解決手段】電線の近傍の音を順次取得する音取得部と、音取得部で取得される音に関する音情報を順次記憶する音記憶部と、電線の事故が発生したか否かを判別する判別部と、電線の事故が発生したものと判別部が判別した場合、音情報を解析するべく、音記憶部から、電線の事故が発生する前の第1時刻から電線の事故が発生した時の第2時刻までの音情報、又は、第1時刻から第2時刻後の第3時刻までの音情報を読み出す音読出部と、を備えてなる電線事故検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線等の近傍に設けられて、例えばこの近傍の音情報を閃絡事故等の原因を特定するための情報として取得する電線事故検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線は、絶縁体である碍子を介して鉄塔等の支持体に支持されて送電を行うための設備である。この送電線に対し例えば落雷があると、碍子の表面が絶縁破壊されてその機能が実質的に失われる閃絡事故を起こす場合がある。閃絡事故は、送電線への落雷に限らず、例えば塩害による汚損等で碍子表面の絶縁耐力が低下することにより発生したり、鳥獣害等により発生したりするとされている。
【0003】
このような閃絡事故が起きると、送電線と鉄塔との間に電流が流れ保護継電器が動作して遮断器が開状態となるため、この事故は送電線の送電機能に支障をきたす虞があるとされている。そこで、閃絡事故の発生の有無の判別やこの閃絡事故の発生した鉄塔の識別等を目的として、鉄塔の塔脚に流れる電流を検出したり、閃絡に特有の音や光等を検出したりする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、このような閃絡事故が起きると、通常、その原因を特定し対策をたてるという作業が行われる。例えば、作業員が、碍子の破損状態を観察することにより汚損等の有無を判別したり、鉄塔付近で鳥獣の死骸を探し出すことにより事故原因を鳥獣害に特定可能か否かを判別したりする。或いは、例えば、送電線の零相電流の時間波形の情報に基づいて、事故原因を落雷に特定するか否かを判別する技術も開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平7−306240号公報
【特許文献2】特願2003−319549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した閃絡事故の複数の原因のうち落雷以外のものについては、その特定が依然困難とされている。例えば碍子の破損が視認できない程度の閃絡事故の原因を汚損等に特定するためには、事故後に目視で得られる情報では不十分であるし、事故原因を例えば鳥獣害等に特定するためには、鉄塔付近でその死骸を発見する必要がある。何れの場合も、その事故原因を特定するための情報の取得が困難である。
【0006】
一方、例えば前述した碍子表面や鉄塔周辺等をもし事故時にタイミング良く撮影した情報があれば、これは、前述した事故後の情報に比べて事故原因を特定し易いものとなる。しかし、碍子表面や鉄塔の周辺等の映像を常時撮影してそのデータを保存する場合、大きなメモリが必要になるため、設備コストが嵩む虞がある。或いは、碍子表面や鉄塔の周辺等の映像をリアルタイムで遠隔的に監視する場合も、これを監視する作業員に負荷がかかるため、維持コストが嵩む虞がある。
【0007】
尚、以上述べた技術は、送電線の閃絡事故の原因を特定するためのものであるが、一般に、電線の事故の特定には同様の技術及びコスト上の困難性がある。
【0008】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電線に発生した事故の原因を特定するための情報を効率良く低コストに取得することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための発明は、電線の近傍の音を順次取得する音取得部と、前記音取得部で取得される音に関する音情報を順次記憶する音記憶部と、前記電線の事故が発生したか否かを判別する判別部と、前記電線の事故が発生したものと前記判別部が判別した場合、前記音情報を解析するべく、前記音記憶部から、前記電線の事故が発生する前の第1時刻から前記電線の事故が発生した時の第2時刻までの前記音情報、又は、前記第1時刻から前記第2時刻後の第3時刻までの前記音情報を読み出す音読出部と、を備えてなる電線事故検出装置である。
【0010】
この電線事故検出装置によれば、電線の近傍の音は、音取得部により順次取得され、音記憶部により音情報として順次記憶される。第2時刻(t2)で電線に事故が発生したと判別部により判別されたとき、事故前の第1時刻(t1)からt2までの音は音情報として音記憶部に記憶されているため、音読出部は音記憶部からt1〜t2の音情報を読み出すことができる。或いは、事故後の第3時刻(t3)までの音も、音取得部により順次取得されて音記憶部により音情報として順次記憶されるため、音読出部は音記憶部からt1〜t3の音情報を読み出すことができる。つまり、本発明の電線事故検出装置によれば、電線の事故に関して、発生時より前の時間における音情報、又は、発生時の前後の時間における音情報を読み出すことができる。このように、少なくとも事故発生時より前の時間における音情報を解析すれば、事故の原因を特定し易くなる上に、事故発生時より後の時間における音情報も解析すれば、事故の原因をより特定し易くなる。つまり、本発明により事故原因を特定するための情報を効率良く取得できると言える。
【0011】
また、本発明の電線事故検出装置の音記憶部は、例えば音情報を書き換えつつ記憶させることにより、例えば事故の前後の時間の音情報を記憶する程度の記憶容量を有していればよいことになる。これは、例えば如何なる時刻の音情報も後で読み出すべく全ての音情報を音記憶部に記憶させる場合に比べて低コストである。
以上から、本発明の電線事故検出装置によれば、電線に発生した事故の原因を特定するための情報を効率良く低コストに取得できる。
【0012】
また、かかる電線事故検出装置において、前記音記憶部から読み出される前記音情報を記憶する事故音記憶部、を備えたことが好ましい。
この事故音記憶部に記憶されている音情報を解析すれば、電線に発生した事故の原因を特定し易くなる。
【0013】
また、かかる電線事故検出装置において、前記音記憶部は、前記第1時刻から前記第2時刻までの前記音情報又は前記第1時刻から前記第3時刻までの前記音情報を記憶可能である記憶容量を有し、且つ、前記音情報を書き替え可能である記憶素子からなり、前記音情報を順次記憶しつつ更新する動作を繰り返す、ことが好ましい。
この記憶素子は、少なくとも、前述したt1〜t2又はt1〜t3の音情報を書き換え可能に記憶するための記憶容量を有していればよい。この記憶容量は、例えば如何なる時刻の音情報も後で読み出すべく全ての音情報を記憶するための記憶容量よりも小さくて済むため、前記音記憶部は低コストとなり、よって本発明の電線事故検出装置も低コストとなる。
【0014】
また、かかる電線事故検出装置において、前記音記憶部は、2個の個別記憶部からなり、前記2個の個別記憶部は、前記音情報を順次記憶しつつ更新する動作を交互に繰り返す、ことが好ましい。
これにより音記憶部が2個の個別記憶部に分かれることになるため、例えば一方の個別記憶部が破損しても、他方の個別記憶部が音情報を記憶している可能性がある。よって、音記憶部が例えば完全に破損するリスクを回避し易くなる。
【0015】
また、かかる電線事故検出装置において、前記電線の近傍の画像を順次取得する画像取得部と、前記画像取得部で取得される画像に関する画像情報を順次記憶する画像記憶部と、前記電線の事故が発生したものと前記判別部が判別した場合、前記画像情報を解析するべく、前記画像記憶部から、前記音記憶部から読み出される前記音情報と同一期間の前記画像情報を読み出す画像読出部と、を備えたことが好ましい。
この電線事故検出装置によれば、電線の近傍の画像は、画像取得部により順次取得され、画像記憶部により画像情報として順次記憶される。そして、電線の事故に関して、発生時より前の時間又は発生時の前後の時間における画像情報を、前述した音情報とともに読み出すことができる。このように、少なくとも事故発生時より前の時間における音情報及び画像情報を解析すれば、事故の原因を効果的に特定し易くなる上に、事故発生時より後の時間における音情報及び画像情報も解析すれば、事故の原因をより効果的に特定し易くなる。つまり、本発明により事故原因を特定するための情報を効率良く取得できると言える。また、画像記憶部は、音記憶部の場合と同様に、例えば如何なる時刻の画像情報も後で読み出すべく全ての画像情報を記憶する画像記憶部に比べて低コストである。
【0016】
また、かかる電線事故検出装置において、前記画像記憶部から読み出される前記画像情報を記憶する事故画像記憶部、を備えたことが好ましい。
この事故画像記憶部に記憶されている画像情報を解析すれば、電線に発生した事故の原因を効果的に特定し易くなる。
【0017】
また、かかる電線事故検出装置において、前記判別部は、前記音取得部で取得される音のレベルを検出する音検出部を備え、前記音取得部で取得される音のレベルが基準レベルを超えたことを前記音検出部が検出した場合、前記電線の事故が発生したものと判別する、ことが好ましい。
この事故が基準レベルを超える音をともなうものであれば、音検出部及び判別部により、電線における当該事故の発生の有無を確実に判別できる。これにより、この事故の前又は前後の音情報を確実に取得できる。
【0018】
また、かかる電線事故検出装置において、前記判別部は、前記電線の近傍の光のレベルを検出する光検出部を備え、前記電線の近傍の光のレベルが基準レベルを超えたことを前記光検出部が検出した場合、前記電線の事故が発生したものと判別する、ことが好ましい。
この事故が基準レベルを超える光をともなうものであれば、光検出部及び判別部により、電線における当該事故の発生の有無を確実に判別できる。これにより、この事故の前又は前後の音情報を確実に取得できる。
【0019】
また、かかる電線事故検出装置において、前記判別部は、前記電線の近傍の振動のレベルを検出する振動検出部を備え、前記電線の近傍の振動のレベルが基準レベルを超えたことを前記振動検出部が検出した場合、前記電線の事故が発生したものと判別する、ことが好ましい。
この事故が基準レベルを超える振動をともなうものであれば、振動検出部及び判別部により、電線における当該事故の発生の有無を確実に判別できる。これにより、この事故の前又は前後の音情報を確実に取得できる。
【0020】
また、かかる電線事故検出装置において、前記電線を張架する鉄塔の一部に固設することが好ましい。
この電線事故検出装置により、例えば鉄塔と電線との間の碍子に対する閃絡事故の原因を特定するための情報を効率良く低コストに取得できる。
【発明の効果】
【0021】
電線に発生した事故の原因を特定するための情報を効率良く低コストに取得できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
===電線事故検出装置===
図1及び図2を参照しつつ、本実施の形態の電線事故検出装置10の構成例について説明する。図1は、本実施の形態の電線事故検出装置10の外観構成例を示す斜視図である。図2は、本実施の形態の電線事故検出装置10の構成例を示すブロック図である。
【0023】
図1に例示されるように、本実施の形態の電線事故検出装置10は、扉100a、本体100b、及び施錠部100cを備えてなる筐体100に収納されており、この筐体100の鉛直方向上面開口部において、後述するマイクロフォン210a、光センサ310、カメラa300、及びアンテナ220aが露出するように構成されている。扉100aは、所定のヒンジ(不図示)を介して本体100bに対し開閉可能に設けられているが、電線事故検出装置10の使用時には、扉100aは本体100bに対し閉じた状態で施錠部100cにより施錠されるものである。また、マイクロフォン210a、光センサ310、カメラ300a、及びアンテナ220aと、筐体100の上面開口部との間隙には、雨水等が本体10b内部に侵入するのを防止するための所定のシール処理が施されているものとする。
【0024】
また、図1に例示されるように、本実施の形態の電線事故検出装置10は、送電線(電線、不図示)を介して支持する鉄塔1に対し、マイクロフォン210a、光センサ310、及びカメラ300aが碍子(不図示)の近傍に位置するように所定の取り付け手段(不図示)を介して取り付けられているものとする。更に、筐体100の内部には、本実施の形態の電線事故検出装置10を動作させるための所定の電源(不図示)がともに収納されているものとする。
【0025】
尚、電線事故検出装置10の筐体100等は、上記構成に限定されるものではなく、例えば、マイクロフォン210a、光センサ310、及びカメラ300aのみが碍子の近傍に設けられて、それ以外は筐体100に収納され地上付近に設けられていてもよい。
【0026】
図2に例示されるように、本実施の形態の電線事故検出装置10は、主として、制御部200と、音検出機構210と、送信部220と、入出力部230と、タイマ240と、ROM250と、第1RAM260と、第2RAM270と、画像検出機構300と、光センサ310と、振動センサ320とを備えて構成されている。
【0027】
本実施の形態の制御部200は、主として、音検出機構210、送信部220、入出力部230、タイマ240、ROM250、第1RAM260、第2RAM270、画像検出機構300、光センサ310、及び振動センサ320を統括制御する機能を有するものである。また、制御部200は、音検出機構210により検出された音情報の示す音圧レベルを判別したり、この音情報を画像情報とともに第1RAM260に書き込んだり、第1RAM260の音情報及び画像情報を解析用データ270aとして第2RAM270に書き込んだりする機能を有するものである。尚、本実施の形態の制御部200は、判別部、音取得部、音記憶部、音読出部、事故音記憶部、画像取得部、画像記憶部、画像読出部、事故画像記憶部に相当するものである。
【0028】
本実施の形態の音検出機構(音取得部、音検出部)210は、主として、マイクロフォン210aと、増幅器210bと、フィルタ210cと、A/Dコンバータ210dとを備えて構成されるものである。送電線又は碍子近傍の音がマイクロフォン210により音情報として検出されると、この音情報はアナログ信号として増幅器210bにより増幅され、フィルタ210cによりその所定周波数成分のみが抽出され、A/Dコンバータ210dによりデジタル信号としての音情報に変換されるようになっている。尚、フィルタ210cは必須の構成ではなく、例えば、ノイズとされる成分も、後述するように全て第1RAM260に書き込むものとしてよい。
【0029】
本実施の形態の送信部220は、アンテナ220aを通じて、後述する解析用データ270aを所定の音・画像情報解析装置(不図示)に無線で送信する機能を有するものである。尚、送信部220の機能は、無線送信に限定されるものではなく、例えば有線送信であってもよい。また、この送信部220は必須の構成ではなく、例えば作業員が鉄塔1から筐体100を取り外しその場で再生して音・画像情報解析を行うものであってもよい。
【0030】
本実施の形態の入出力部230は、いわゆるコントロールパネルであって、主として、ディスプレイ230aと、スピーカ230bと、記録(録音・録画)スイッチ230cと、再生スイッチ230dと、停止スイッチ230eとを備えて構成されるものである。この入出力部230は、例えば扉100aの裏側(図1の正面と反対側)に設けられており、例えば作業員が所定の入力を行ったり、作業員に対し所定の出力を行ったりするためのものである。ディスプレイ230aは、電線事故検出装置10の動作状態や解析用データ270aに含まれる時刻や画像等を表示するためのものであり、スピーカ230bは、解析用データ270aにおける音を例えば作業員が聞くためのものである。また、記録スイッチ230cは、電線事故検出装置10が音・画像情報取得動作を開始させるためのスイッチであり、再生スイッチ230dは、電線事故検出装置10が音・画像情報出力動作を開始させるためのスイッチであり、停止スイッチ230eは、音・画像情報取得動作又は音・画像情報出力動作を停止させるためのスイッチである。尚、入出力部230は必須の構成ではなく、例えば、解析用データ270aが前述した送信部220を通じて所定の音・画像情報解析装置に無線送信されるだけであれば、作業員とのインタフェース機能は特に必要ない。
【0031】
本実施の形態のタイマ240は、音検出機構210により検出された音情報及び画像検出機構300により検出される画像情報を第1RAM260に書き込む時間を計時するものである。
【0032】
本実施の形態のROM250は、制御部200に前述した処理動作を実行させるための所定のプログラム等を記憶するものである。また、ROM250は、音検出機構210により検出された音情報の示す音圧レベルを判別する際の参照値(基準レベル)のデータ(不図示)を予め記憶するものである。
【0033】
本実施の形態の第1RAM(音記憶部、記憶素子、画像記憶部)260は、音検出機構210により検出された音情報及び画像検出機構300により検出された画像情報を所定時間(例えば5秒間)だけ記憶するA領域(個別記憶部)260aと、この音・画像情報を次の所定時間(例えば5秒間)だけ記憶するB領域(個別記憶部)260bとを記憶領域として備えたものである。このように、本実施の形態では、時間の経過とともに…ABABAB…の順に所定時間単位の音・画像情報がA領域260a及びB領域260bに繰り返し更新されつつ記憶されるようになっている。
【0034】
本実施の形態の第2RAM(事故音記憶部、事故画像記憶部)270は、後述する閃絡音発生時に第1RAM260のA領域260a及びB領域260bに記憶された音・画像情報を、解析用データ270aとして記憶するものである。
【0035】
本実施の形態の画像検出機構(画像取得部)300は、主としてカメラ300aを備えて、送電線又は碍子近傍の画像を検出する機能を有するものであり、本実施の形態の光センサ(光検出部)310及び振動センサ(振動検出部)320は、閃絡事故に起因する光及び振動をそれぞれ検出するものである。
【0036】
===電線事故検出方法===
図3〜図5を参照しつつ、前述した電線事故検出装置10が電線事故を検出する際の本実施の形態の制御部200の動作について説明する。図3は、本実施の形態の制御部200の処理手順を示すフローチャートである。図4は、本実施の形態の第1RAM260及び第2RAM270におけるデータの読み出し及び書き込みのし方を示す概念図である。図5は、本実施の形態の第1RAM260に記憶される音情報の示す音圧の時間変化を表わすグラフである。
【0037】
<<<A領域への書き込み時に閃絡事故が発生した場合>>>
図3に例示されるように、制御部200は、音検出機構210により検出された音情報及び画像検出機構300により検出された画像情報を略リアルタイムで第1RAM260のA領域260aに更新しつつ書き込みする動作を実行する(S100)。
【0038】
一方、制御部200は、ステップS100の処理と並行して、A領域260aに書き込んだ音情報の示す音圧レベルを、ROM250に記憶された所定の参照値と比較することにより、送電線に閃絡音が発生したか否かを判別する(S200)。この参照値は、実際の閃絡事故時に音検出機構210により検出された音情報の示す音圧レベル等に予め設定されているものとする。
【0039】
A領域260aに書き込んだ音情報の示す音圧レベルが参照値を超えたことにより、閃絡事故が発生した(閃絡音が発生した)と判別した場合(S201:YES)、制御部200は、ステップS100で開始したA領域260aに対する書き込み処理を終了するまで継続する(S202、S101:停止)。尚、図3では省略されているが、A領域260aに対する書き込み終了の決定は、書き込みを開始してからタイマ240が所定時間(例えば5秒間)を計時したか否かの判別に基づくものとする。
【0040】
次に、制御部200は、A領域260aに書き込まれた音・画像情報と、この直前に書き込まれていたB領域260bの音・画像情報とを、解析用データ270aとして第2RAM270に書き込み(S102)、後述するステップS103の処理を実行する。
【0041】
A領域260aに書き込んだ音情報の示す音圧レベルが参照値を超えていないことにより、閃絡事故が発生していないと判別した場合(S201:NO)、制御部200は、タイマ240を参照し(S203)、ステップS100で書き込みを開始してから所定時間経過したか否かを判別する(S204)。
【0042】
所定時間経過したと判別した場合(S204:YES)、制御部200は、A領域260aに対する書き込み処理を終了するとともに、音検出機構210により検出された音情報及び画像検出機構300により検出された画像情報の書き込み先を、A領域260aからB領域260bに切り換える(S205、S101:切換)。一方、所定時間経過していないと判別した場合(S204:NO)、制御部200は、ステップS200の処理を継続する。
【0043】
ステップS100〜S102及びステップS200〜S205の処理を概念的なデータ構成を示しつつ具体的に説明すると、以下のようになる。
【0044】
図4の上部には、第1RAM260のA領域260aの旧情報に対し時間の経過とともに変化する音・画像情報の新情報Yを上書きしている途中で、或る時刻の音圧レベルが所定の参照値を超えた場合が例示されている。これは、前述したステップS200、S201:YESの処理に対応するものである。
【0045】
制御部200は、A領域260aへの書き込みが終わるまで継続し新情報Y’とする。これは、前述したステップS202、S101:停止の処理に対応するものである。
制御部200は、新情報Y’と、既にB領域260bに書き込まれている旧情報Xとを、(X、Y’)の時間順で、第2RAM270の解析用データ270aに書き込む。これは、前述したステップS102の処理に対応するものである。
尚、本実施の形態では、前述した(X、Y)が、第1時刻から第2時刻までの情報に相当し、前述した(X、Y’)が第1時刻から第3時刻までの情報に相当する。
【0046】
<<<B領域への書き込み時に閃絡事故が発生した場合>>>
図3に例示されるように、制御部200は、音検出機構210により検出された音情報及び画像検出機構300により検出された画像情報を略リアルタイムで第1RAM260のB領域260aに更新しつつ書き込みする動作を実行する(S103)。
【0047】
一方、制御部200は、ステップS103の処理と並行して、B領域260bに書き込んだ音情報の示す音圧レベルを、前述した所定の参照値と比較することにより、閃絡音が発生したか否かを判別する(S300)。
【0048】
B領域260bに書き込んだ音情報の示す音圧レベルが参照値を超えたことにより、閃絡事故が発生した(閃絡音が発生した)と判別した場合(S301:YES)、制御部200は、ステップS103で開始したB領域260bに対する書き込み処理を終了するまで継続する(S302、S104:停止)。尚、図3では省略されているが、B領域260bに対する書き込み終了の決定は、書き込みを開始してからタイマ240が所定時間(例えば5秒間)を計時したか否かの判別に基づくものとする。
【0049】
次に、制御部200は、B領域260bに書き込まれた音・画像情報と、この直前に書き込まれていたA領域260aの音・画像情報とを、解析用データ270aとして第2RAM270に書き込み(S105)、前述したステップS100の処理を実行する。
【0050】
B領域260bに書き込んだ音情報の示す音圧レベルが参照値を超えていないことにより、閃絡事故が発生していないと判別した場合(S301:NO)、制御部200は、タイマ240を参照し(S303)、ステップS103で書き込みを開始してから所定時間経過したか否かを判別する(S304)。
【0051】
所定時間経過したと判別した場合(S304:YES)、制御部200は、B領域260bに対する書き込み処理を終了するとともに、音検出機構210により検出された音情報及び画像検出機構300により検出された画像情報の書き込み先を、B領域260bからA領域260aに切り換える(S305、S104:切換)。一方、所定時間経過していないと判別した場合(S304:NO)、制御部200は、ステップS300の処理を継続する。
【0052】
ステップS103〜S105及びステップS300〜S305の処理を概念的なデータ構成を示しつつ具体的に説明すると、以下のようになる。
【0053】
図4の下部には、第1RAM260のB領域260bの旧情報に対し時間の経過とともに変化する音・画像情報の新情報Yを上書きしている途中で、或る時刻の音圧レベルが所定の参照値を超えた場合が例示されている。これは、前述したステップS300、S301:YESの処理に対応するものである。
【0054】
制御部200は、B領域260bへの書き込みが終わるまで継続し新情報Y’とする。これは、前述したステップS302、S104:停止の処理に対応するものである。
制御部200は、新情報Y’と、既にA領域260aに書き込まれている旧情報Xとを、(X、Y’)の時間順で、第2RAM270の解析用データ270aに書き込む。これは、前述したステップS105の処理に対応するものである。
尚、本実施の形態では、前述した(X、Y)が、第1時刻から第2時刻までの情報に相当し、前述した(X、Y’)が第1時刻から第3時刻までの情報に相当する。
【0055】
<<<閃絡事故前の音情報の解析>>>
図5(a)に例示されるように、前述した音・画像情報の新情報Yを旧情報に上書きしている途中で閃絡音が発生するまでの特に音情報の時間構造について考える。新情報Yの直前に取得された旧情報Xの音圧レベルに対し、新情報Yの音圧レベルは急峻に立ち上がっている。同図に例示される斜線部が、第1RAM260に記憶されている閃絡音発生時及び発生前の音情報に相当するものである。また、同図の例示によれば、所定の参照値(「所定レベル」)と比較する音圧レベルは、或る時刻の音圧レベル1点のみではなく、当該音圧レベルの近傍の複数点の音圧レベルの平均値としている。これにより、閃絡音発生、即ち閃絡事故発生の判別精度が向上する。但し、これに限定されるものではなく、判別のための音圧レベルのサンプリングは1点のみでもよい。
【0056】
図5(b)に例示されるように、閃絡音が発生した後に新情報Y’が取得されたときの特に音情報の時間構造について考える。本実施の形態では、この音情報(X、Y’)が第2RAM270に解析用データ270aとして記憶される。
【0057】
例えば、新情報Y’における閃絡事故の原因が塩害による碍子の汚損等の場合、この新情報Y’の直前に取得された旧情報Xの音情報を解析すれば、閃絡事故の前兆として例えば碍子のジリジリ音が発生している可能性が高い。つまり、図5(b)に例示される解析用データ270aにおける旧情報Xの部分を作業員が再度聞くことにより、又は、同部分を前述した音・画像情報解析装置により解析することにより、ジリジリ音を確認すれば、発生した閃絡事故の原因を、碍子の汚損等に特定することができる。
【0058】
また、例えば、解析用データ270aにおける旧情報Xの部分を、聞く又は解析することにより例えば該当の碍子の近傍で鳥獣の鳴き声や羽根音等を確認すれば、発生した閃絡事故の原因を、鳥獣害等に特定することができる。
【0059】
===効率良く低コストに音・画像情報を取得===
本実施の形態の電線事故検出装置10によれば、送電線又は碍子近傍の音は音検出機構210により音情報として検出され、この音情報は第1RAM260のA領域260a及びB領域260bに繰り返し更新しつつ記憶されている。一方、音検出機構210により検出された音情報の示す音圧レベルと所定の参照値との比較により、送電線又は碍子近傍から閃絡音が発せられたか否かが判別される。閃絡音に対応する音情報がA領域260a又はB領域260bの何れに書き込み中であるとしても、この閃絡音の音情報を含む新情報Y’と、この直前に取得された旧情報Xとが、解析用データ270aとして第2RAM270に書き込まれる。この旧情報X及び新情報Y’は、閃絡事故及びその直前の音情報を含むものであるため、閃絡事故の前兆となるべき音を聞く又は解析することができる。そして、この前兆となるべき音に応じて、閃絡事故の原因の特定が可能となる。
【0060】
また、本実施の形態の電線事故検出装置10によれば、第1RAM260は例えば2つの記憶領域で十分な上に、第2RAM270も閃絡事故に起因する音情報を記憶するものである。これにより、この電線事故検出装置10は、例えば全ての音情報を記憶するメモリ等に比べて記憶容量が小さくて済む上に、音情報の取得を自動的に行える。よって、この電線事故検出装置10は、設備コスト及び維持コストともに節減できる。
【0061】
更に、本実施の形態の電線事故検出装置10によれば、送電線又は碍子近傍の画像は画像検出機構300により画像情報として検出され、この画像情報は、音情報とともに第1RAM260のA領域260a及びB領域260bに繰り返し更新しつつ記憶されている。前述した音情報の解析に加えて画像情報も解析することにより、閃絡事故の原因の特定をより効果的に行うことが可能となる。尚、画像情報は、例えば作業員がディスプレイ230a上で見て事故原因の特定をするものであってもよい。
【0062】
以上、本実施の形態の電線事故検出装置10によれば、送電線に発生した閃絡事故の原因を特定するための音・画像情報を効率良く低コストに取得することができる。
【0063】
前述した実施の形態では、閃絡事故の発生の有無を判別するために、音検出機構210を通じて閃絡音を検出するものであった。ところで、前述した電線事故検出装置10は、光センサ310及び振動センサ320を更に備えており(図2)、これらを通じて閃絡事故の発生を検出することもできる。例えば、光センサ310により検出される光の輝度レベル(光のレベル)が、閃絡事故に起因する所定値(基準レベル)を超えた場合に、閃絡事故が発生したと判別される。また、例えば、振動センサ320により検出される振動のレベルが、閃絡事故に起因する所定値(基準レベル)を超えた場合に、閃絡事故が発生したと判別される。閃絡事故の発生は、閃絡事故に係る音、光、振動のうちの何れか1つにより検出すればよい。但し、音、光、振動の何れか2つ以上を組み合わせて閃絡事故の発生を検出すれば、その検出精度はより向上する。
【0064】
前述した電線事故検出装置10では、音情報とともに画像情報を取得するものであったが、これに限定されるものではなく、例えば少なくとも音情報を取得すればよい。音情報のみを取得する場合、図2に例示される画像検出機構300は必須の構成ではなくなる。一方、音情報及び画像情報をともに取得する場合でも、これらを、同一のメモリ(例えば第1RAM260)ではなく、別々のメモリに書き込むようにしてもよい。
【0065】
前述した電線事故検出装置10では、第1RAM260は2つの記憶領域を備えるものであったが、この2つに限定されるものではなく、記憶領域は例えば3つ以上であってもよい。この場合、1つのRAMを複数の記憶領域に分けることに限定せず、例えば複数のRAMを設けて、この複数のRAMに順次、音情報を記憶させるものであってもよい。これにより、全てのRAMが破損するリスクを回避し易くなる。或いは、記憶領域は複数でなくてもよく、例えば第1RAM260は1つの記憶領域を備えるものであってもよい。1つの記憶領域の場合でも、新情報が検出される都度、これを旧情報に順次上書きするものであれば、この1つの記憶領域から、事故の前後の時間の情報を読み出すことができる。
【0066】
前述した実施の形態では、図4に例示されるように、事故の後も情報を取得して、情報(X、Y’)として第1RAM260に書き込むものであったが、これに限定されるものではなく、例えば事故の前の時間の情報(X、Y)のみを取得して、これを解析用データ270aとするものであってもよい。要するに、少なくとも事故の前の情報を取得すれば、これを解析して、事故の原因を特定し易くなる。
【0067】
前述した実施の形態では、第1RAM260に記憶された情報(X、Y’)を解析用データ270aとして第2RAM270に書き込むものであったが、これに限定されるものではない。電線事故検出装置10は、例えば、第2RAM270を備えずに、第1RAM260から読み出した情報を、送信部220を通じて、前述した所定の音・画像情報解析装置(不図示)に送信するものであってもよい。或いは、電線事故検出装置10は、例えば、第2RAM270を備えずに、第1RAM260から読み出した情報を、所定の記録手段(不図示)により記録用紙等に記録するものであってもよい。
【0068】
===その他の実施の形態===
前述した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良されるとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0069】
前述した実施の形態では、電線は送電線であったが、これに限定されるものではなく、例えば配電線等を含む一般の電線であってもよい。また、電線の事故を、送電線における閃絡事故としたが、これに限定されるものではない。本発明の電線事故検出装置10は、電線一般に発生し、少なくとも過去に遡って音情報を解析することにより原因を特定可能な事故であれば、いかなる事故に対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施の形態の電線事故検出装置の外観構成例を示す斜視図である。
【図2】本実施の形態の電線事故検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】本実施の形態の制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】本実施の形態の第1RAM及び第2RAMにおけるデータの読み出し及び書き込みのし方を示す概念図である。
【図5】本実施の形態の第1RAMに記憶される音情報の示す音圧の時間変化を表わすグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 鉄塔 10 電線事故検出装置
100 筐体 100a 扉
100b 本体 100c 施錠部
200 制御部 210 音検出機構
210a マイクロフォン 210b 増幅器
210c フィルタ 210d A/Dコンバータ
220 送信部 220a アンテナ
230 入出力部 230a ディスプレイ
230b スピーカ 230c 録音スイッチ
230d 再生スイッチ 230e 停止スイッチ
240 タイマ 250 ROM
260 第1RAM 260a A領域
260b B領域 270 第2RAM
270a 解析用データ 300 画像検出機構
300a カメラ 310 光センサ
320 振動センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の近傍の音を順次取得する音取得部と、
前記音取得部で取得される音に関する音情報を順次記憶する音記憶部と、
前記電線の事故が発生したか否かを判別する判別部と、
前記電線の事故が発生したものと前記判別部が判別した場合、前記音情報を解析するべく、前記音記憶部から、前記電線の事故が発生する前の第1時刻から前記電線の事故が発生した時の第2時刻までの前記音情報、又は、前記第1時刻から前記第2時刻後の第3時刻までの前記音情報を読み出す音読出部と、
を備えたことを特徴とする電線事故検出装置。
【請求項2】
前記音記憶部から読み出される前記音情報を記憶する事故音記憶部、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電線事故検出装置。
【請求項3】
前記音記憶部は、
前記第1時刻から前記第2時刻までの前記音情報又は前記第1時刻から前記第3時刻までの前記音情報を記憶可能である記憶容量を有し、且つ、前記音情報を書き替え可能である記憶素子からなり、前記音情報を順次記憶しつつ更新する動作を繰り返す、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電線事故検出装置。
【請求項4】
前記音記憶部は、2個の個別記憶部からなり、
前記2個の個別記憶部は、前記音情報を順次記憶しつつ更新する動作を交互に繰り返す、
ことを特徴とする請求項3に記載の電線事故検出装置。
【請求項5】
前記電線の近傍の画像を順次取得する画像取得部と、
前記画像取得部で取得される画像に関する画像情報を順次記憶する画像記憶部と、
前記電線の事故が発生したものと前記判別部が判別した場合、前記画像情報を解析するべく、前記画像記憶部から、前記音記憶部から読み出される前記音情報と同一期間の前記画像情報を読み出す画像読出部と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電線事故検出装置。
【請求項6】
前記画像記憶部から読み出される前記画像情報を記憶する事故画像記憶部、
を備えたことを特徴とする請求項5に記載の電線事故検出装置。
【請求項7】
前記判別部は、
前記音取得部で取得される音のレベルを検出する音検出部を備え、前記音取得部で取得される音のレベルが基準レベルを超えたことを前記音検出部が検出した場合、前記電線の事故が発生したものと判別する、
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の電線事故検出装置。
【請求項8】
前記判別部は、
前記電線の近傍の光のレベルを検出する光検出部を備え、前記電線の近傍の光のレベルが基準レベルを超えたことを前記光検出部が検出した場合、前記電線の事故が発生したものと判別する、
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の電線事故検出装置。
【請求項9】
前記判別部は、
前記電線の近傍の振動のレベルを検出する振動検出部を備え、前記電線の近傍の振動のレベルが基準レベルを超えたことを前記振動検出部が検出した場合、前記電線の事故が発生したものと判別する、
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の電線事故検出装置。
【請求項10】
前記電線を張架する鉄塔の一部に固設することを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の電線事故検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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