説明

電線皮剥ぎ装置

【課題】芯線の傷付き、芯線の引き出しや芯線切れが発生しないようにカッターの切り込み深さを小さくしても、被覆が皮剥ぎされずに残ってしまうことを防止することが可能な電線皮剥ぎ装置を提供すること。
【解決手段】芯線32が被覆された電線30を保持する電線保持手段3と、電線30の被覆31にカッター4,5を切り込ませるカッター駆動手段6と、電線保持手段3に対してカッター駆動手段6を電線端末側に移動させるカッター移動手段7を備え、カッター移動手段7の往復動するロッド7aがカッター駆動手段6に助走機構9を介して連結されると共に、助走機構9は、ロッド7aに設けられた係合部7cと、カッター駆動手段6に固定され、ロッドaが所定の助走区間だけ電線端末側に移動した時点で該ロッド7aの係合部7cに係合される被係合部10aによって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯線が被覆された電線を皮剥ぎする電線皮剥ぎ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ワイヤーハーネスの製造は、芯線が被覆された電線を所定長さに切断し、切断された電線の端部または中間部に皮剥ぎ加工を施して芯線を露出させ、更に露出された芯線を所定の端子と圧着加工等により接続する工程となっている。通常、電線の皮剥ぎ加工を自動化するために、種々の電線皮剥ぎ装置が提案されている。
【0003】
このような電線皮剥ぎ装置では、芯線が被覆された電線に、その端末から皮剥ぎ長さ位置にて一対のカッターを切り込ませた後、そのまま一対のカッターを電線端末側へ横移動させて被覆を皮剥ぎ長さにわたって皮剥ぎすることが行われており、図6(a)は、被覆31の皮剥ぎが正常になされ、全ての芯線32が所定の皮剥ぎ長さにわたって剥き出しになっている皮剥ぎ良の状態の電線30を示している。また、図6(b)は、カッターの切り込み深さが大き過ぎたために、カッターにより芯線32に傷33を付けてしまった皮剥ぎ不良の状態の電線30を示している。
【0004】
更に、図6(c)は、カッターの切り込む深さが大き過ぎたために、カッターを電線端末側に横移動させる際に外側にある一部の芯線32aが引き出されてしまった皮剥ぎ不良の状態の電線30を示している。そして、図6(d)は、カッターの切り込み深さが図6(b)よりも大きいために、カッターにより一部の芯線32aが切断されてしまった皮剥ぎ不良の状態の電線30を示している。尚、本発明に関連する先行技術文献としては下記特許文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−311673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような芯線32への傷付き不良、芯線32の引き出し不良や芯線32切れ不良を防止するため、カッターの切り込み深さを小さくすると、図6(e)に示すような、所定の皮剥ぎ長さの範囲において全ての芯線32が剥き出しにならず、一部の被覆31が皮剥ぎされずに被覆残り31aが発生する場合がある。このような被覆残り31aが生じたまま、所定の端子を圧着加工等により接続すると、芯線32と端子の圧着部の接触不良が起きてしまう。
【0007】
そこで本発明が解決する課題は、芯線の傷付き、芯線の引き出しや芯線切れが発生しないようにカッターの切り込み深さを小さくしても、被覆が皮剥ぎされずに残ってしまうことを防止することが可能な電線皮剥ぎ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る電線皮剥ぎ装置は、芯線が被覆された電線を保持する電線保持手段と、前記電線の被覆にカッターを切り込ませるカッター駆動手段と、前記電線保持手段に対して前記カッター駆動手段を電線端末側に移動させるカッター移動手段を備え、前記カッター移動手段の往復動するロッドが前記カッター駆動手段に助走機構を介して連結されると共に、前記助走機構は、前記ロッドに設けられた係合部と、前記カッター駆動手段に固定され、前記ロッドが所定の助走区間だけ電線端末側に移動した時点で該ロッドの係合部に係合される被係合部によって構成されていることを要旨とするものである。
【0009】
このような構成の電線皮剥ぎ装置によれば、電線の被覆にカッターを切り込ませるカッター駆動手段と、電線保持手段に対してカッター駆動手段を電線端末側に移動させるカッター移動手段の往復動するロッドとが、助走機構を介して連結されているので、電線の被覆に切り込みされたカッターを高速度の初速のもとに電線端末側に移動させることが可能になっている。
【0010】
したがって、電線の被覆の皮剥ぎの際には、カッターを電線保持手段に対して急速に離間させることによって電線の被覆に高速度の引張負荷を作用させることができるので、芯線の傷付き、芯線の引き出しや芯線切れが発生しないようにカッターの切り込み深さを小さくしても、被覆が皮剥ぎされずに残ってしまうことを防止され、電線被覆の良好な皮剥ぎを実施することが可能になる。
【0011】
この場合、前記助走区間を電線端末側に移動する間に前記ロッドの移動速度が最高速度に到達するようにした構成にすれば、カッター移動手段に設けられたロッドが移動する速度(皮剥ぎ速度)が最高の状態でカッターを移動させることができる。
【0012】
また、前記被係合部は、前記ロッドを内包する略円筒体からなる被係合部材の一端側に突出形成されると共に該被係合部材が前記カッター駆動手段に固定されている構成にすれば、カッター移動手段のロッドとカッター駆動手段を連結する助走機構を簡易な構造とすることができる。
【0013】
更に、前記係合部と前記被係合部の係合される互いの対向面のいずれかに、低反発性の柔軟材料からなる緩衝部材が配置されている構成にすれば、これら係合部と被係合部が助走区間を経て係合(衝突)するときに、相互に反発することを抑制することができ、係合部と被係合部が速やかに一体運動することが可能になる。これにより、カッターが切り込まれた電線の被覆に対してロッドの移動速度と同じ速度のもとに引張負荷を加えることができ、電線の被覆の良好な皮剥ぎがなされることになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電線皮剥ぎ装置によれば、電線の被覆に切り込みされたカッターを高速度の初速のもとに電線端末側に移動させることにより、電線の被覆に高速度の引張負荷を作用させることができるので、芯線の傷付き、芯線の引き出しや芯線切れ等の皮剥ぎ不良が発生しないように被覆へのカッターの切り込み深さを小さくしても、被覆が皮剥ぎされずに残ってしまうことを防止され、電線被覆の良好な皮剥ぎを実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る電線皮剥ぎ装置の概略構成を示した側面図である。
【図2】カッターの概略構成を示した正面図である。
【図3】図1の電線皮剥ぎ装置において電線にカッターが切り込みされた状態を示した側面図である。
【図4】図1の電線皮剥ぎ装置においてエアシリンダのピストンロッドの係合部が助走区間を経て被係合部材の被係合部に係合した状態を示した側面図である。
【図5】図1の電線皮剥ぎ装置において電線の被覆が皮剥ぎされた状態を示した側面図である。
【図6】電線の皮剥ぎ状態を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る電線皮剥ぎ装置の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示されるように電線皮剥ぎ装置1には、矩形状のテーブル2上において前方から後方に向かって順に、電線30を保持する電線保持手段3、上下に対向して配置された一対のカッター4,5を駆動するカッター駆動手段としてのエアチャック6と、カッター4,5、つまりエアチャック6を前後に往復動させるカッター移動手段としてのエアシリンダ7が備えられている。
【0018】
電線保持手段3は、電線30の端部を水平に突出させた状態で保持するためのもので、電線30が挿入される溝3aが上面に形成された電線保持台3bと、図示しないエアシリンダ等によって上下に昇降動される電線押さえ部3cを備えている。この場合、電線抑え部3cの下面には、電線30の軸方向(長手方向)に直交すると共に前方に向かって下傾した押さえ溝3dが複数並んで形成されており、電線保持台3bの上面と電線押さえ部3cの下面の間に挟み込まれた電線30が、後述する被覆31の皮剥ぎの際に後方に引っ張られても電線保持手段3からずれないように保持することが可能になっている。
【0019】
カッター4,5は、図1および図2(a)に示されるように、上下に対向するV字状の刃部4a,5bを備え、各刃部4a,5aはカッター4,5の表面に沿った平面部4b,5bと傾斜状の斜面部4c,5cとから構成されており、電線30に対する切り込み時には互いの平面部4b,5bが摺動自在となっている。この場合、図2(b)に示されるように、カッター4,5の斜面部4c,5cの間に電線30を挟み込んで、電線30の被覆31外周部分に切り込みを入れることができるようになっている。
【0020】
このようなカッター4,5を駆動するエアチャック6は、上下に開閉動作する開閉チャック部6a,6bを有しており、この開閉チャック部6a,6bにカッター4,5が取り付けられている。また、エアチャック6は、前後方向に延びたガイドレール8に案内されるスライダ8aの上面に取り付けられており、後述するカッター移動手段としてのエアシリンダ7によって前後に往復動可能になっている。
【0021】
この場合、エアチャック6の後面側には、助走機構9が設けられており、エアシリンダ7の前後に往復動するピストンロッド7aが、この助走機構9を介してエアチャック6と連結されている。尚、エアシリンダ7は、テーブル2上に設けられたシリンダ固定台7bに固定されている。
【0022】
助走機構9は、エアシリンダ7のピストンロッド7aの先端に設けられた係合部7cと、ピストンロッド7aが所定の助走区間Lだけ電線端末側に移動した時点でそのピストンロッド7aの係合部7cに係合される被係合部10aが形成された被係合部材10とから構成されている。
【0023】
係合部7cは、外周に向けフランジ状に突出した形状を有しており、エアシリンダ7のピストンロッド7aの先端(前端)に固定されている。
【0024】
被係合部材10は、ピストンロッド7aを係合部7cと共に内包する略円筒体形状を有しており、その内径寸法は、係合部7cの外径寸法よりも僅かに大きく設定されている。したがって、ピストンロッド7aに前端に設けられた係合部7cは、被係合部材10の孔10b内において前後に摺動自在になるように挿入されている。
【0025】
被係合部材10は、カッター駆動手段としてのエアチャック6の背面に固定されている。この場合、被係合部10aは、被係合部材10の孔10bの後端において内フランジ状に内側に向かって突出形成されている。
【0026】
また、係合部7cと被係合部10aの係合される互いの対向面、つまり係合部7cの後面と被係合部10aの前面は、ピストンロッド7aの移動方向に直交する垂直面に沿った平坦面となっており、被係合部10aの前面には低反発性の柔軟材料からなる緩衝部材11が配置されている。この緩衝部材11は、その中心にピストンロッド7aを貫通させる孔11aが形成されてなる環形状を有しており、その材質としては、例えばウレタンゴムなどの低反発性樹脂や、シリコンなどを主材料とするゲル状素材を用いることができる。
【0027】
次に、このような構成の電線皮剥ぎ装置1の動作の手順について説明する。
【0028】
先ず、図3に示されるように、電線保持手段3によって後方に向かって所定長さ突出するように電線30を保持する。次に、エアチャック6を駆動して電線30の端末から皮剥ぎ長さ位置にてその被覆31にカッター4,5による切り込みを入れる。このとき、ピストンロッド7aの先端に設けられた係合部7cは、被係合部材10の孔10bの前端に位置している。
【0029】
次に、図3に示される状態から、エアシリンダ7を駆動してピストンロッド7aを後側(電線端末側)に移動させる。このとき、エアシリンダ7の起動当初はピストンロッド7aのみが移動し、図4に示されるように助走区間Lを得て所要の速度、例えば、ピストンロッド7aが最高速度に到達した時点で係合部7cの後面が、被係合部材10の被係合部10bの前面に緩衝部材11を介在させた状態で係合し、図5に示されるようにエアチャック6を急激に後方に移動させる。これにより、電線30の被覆31に切り込みされたカッター4,5が、高速度で後方に移動し、被覆31に高速度の引張荷重が加えられることになる。
【0030】
この場合、図4に示されるように、係合部7cの後面と被係合部10aの前面とが係合、つまり衝突する際、これら両面間に緩衝部材11が介在しているので、金属面どうしが衝突する場合と比べて互いに反発することが抑制され、係合部7cと被係合部10aが係合した後にこれらが速やかに一体運動することになる。その結果、カッター4,5は助走区間Lを経たピストンロッド7aの速度とほぼ同じ速度で急激に後方に移動し、電線30の被覆31に意図する速度のもとに引張負荷が加えられることになる。
【0031】
以上説明した電線皮剥ぎ装置1によれば、電線30の被覆31にカッター4,5を切り込ませるエアチャック6と、電線保持手段3に対してエアチャック6を電線端末側に移動させるエアシリンダ7の往復動するピストンロッド7aとが、助走機構9を介して連結されているので、電線30の被覆31に切り込みされたカッター4,5を高速度の初速のもとに電線10の端末側に移動させることが可能になっている。
【0032】
したがって、電線30の被覆31の皮剥ぎの際には、カッター4,5を電線保持手段3に対して急速に離間させることによって電線30の被覆31に高速度の引張負荷を作用させることができるので、図6(b)〜(d)に示されるような芯線32の傷付き、芯線32の引き出しや芯線32切れが発生しないようにカッター4,5の切り込み深さを小さくしても、図6(e)に示されるような被覆31が皮剥ぎされずに被覆残り31aが発生してしまうことが防止され、電線30の被覆31の良好な皮剥ぎを実施することが可能になる。
【0033】
この場合、助走機構11における助走区間Lを電線30の端末側に移動する間に、エアシリンダ7のピストンロッド7aの移動速度が最高速度に到達するようにした構成にすれば、ピストンロッド7aが移動する速度(皮剥ぎ速度)が最高の状態でカッター4,5を移動させることができる。
【0034】
また、被係合部10aは、ピストンロッド7aを内包する略円筒体からなる被係合部材10の一端側に突出形成されると共にその被係合部材10がエアチャック6に固定されている構成にすれば、エアシリンダ7のピストンロッド7aとエアチャック6を連結する助走機構9を簡易な構造とすることができる。
【0035】
更に、係合部7cと被係合部10aの係合される互いの対向面のいずれかに、低反発性の柔軟材料からなる緩衝部材11が配置されている構成にすれば、これら係合部7cと被係合部10aが助走区間Lを経て係合(衝突)するときに、相互に反発することを抑制することができ、係合部7cと被係合部10aが速やかに一体運動することが可能になる。これにより、カッター4,5が切り込まれた電線30の被覆31に対してピストンロッド7aの移動速度と同じ速度のもとに引張負荷を加えることができ、電線30の被覆31の良好な皮剥ぎがなされることになる。
【0036】
以上、本発明に係る電線皮剥ぎ装置の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、カッター4,5を開閉駆動するカッター駆動手段としてエアチャック6を用いて説明したが、サーボモータ等の駆動源でボールねじ機構を駆動し、対になったカッター4,5を開閉動作させる構成でもよく、上述した実施の形態には限定されない。
【0037】
また、カッター移動手段としてエアシリンダ7を用いて説明したが、同様にサーボモータ等の駆動源でボールねじ機構を駆動することにより、エアチャック6に助走機構9を介して連結されたロッド7aを往復動させる構成でもよく、上述した実施の形態には限定されない。
【符号の説明】
【0038】
1:電線皮剥ぎ装置 2:テーブル 3:電線保持手段 3a:溝
3b:電線保持台 3c:電線押さえ部 3d:押さえ溝
4,5:カッター 4a,5a:刃部 4b,5b:平面部
4c,5c:斜面部 6:エアチャック 6a,6b:チャック部
7:エアシリンダ 7a:ピストンロッド 7b:シリンダ固定台
7c:係合部 8:ガイドレール 8a:スライダ 9:助走機構
10:被係合部材 10a:被係合部 10b:孔 11:緩衝部材
11a:孔 30:電線 31:被覆 32:芯線 L:助走区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線が被覆された電線を保持する電線保持手段と、前記電線の被覆にカッターを切り込ませるカッター駆動手段と、前記電線保持手段に対して前記カッター駆動手段を電線端末側に移動させるカッター移動手段を備え、前記カッター移動手段の往復動するロッドが前記カッター駆動手段に助走機構を介して連結されると共に、前記助走機構は、前記ロッドに設けられた係合部と、前記カッター駆動手段に固定され、前記ロッドが所定の助走区間だけ電線端末側に移動した時点で該ロッドの係合部に係合される被係合部によって構成されていることを特徴とする電線皮剥ぎ装置。
【請求項2】
前記助走区間を電線端末側に移動する間に前記ロッドの移動速度が最高速度に到達するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電線皮剥ぎ装置。
【請求項3】
前記被係合部は、前記ロッドを内包する略円筒体からなる被係合部材の一端側に突出形成されると共に該被係合部材が前記カッター駆動手段に固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電線皮剥ぎ装置。
【請求項4】
前記係合部と前記被係合部の係合される互いの対向面のいずれかに、低反発性の柔軟材料からなる緩衝部材が配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電線皮剥ぎ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−50175(P2012−50175A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187292(P2010−187292)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】