説明

電線被覆用樹脂組成物および絶縁電線

【課題】高度の難燃性と優れた機械特性、柔軟性を有し、かつ埋立、燃焼などの廃棄時においては、重金属化合物やリン化合物の溶出や、多量の腐食性ガスの発生がなく、端末加工性に優れたノンハロゲン絶縁電線に用いられる電線被覆用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エチレン系共重合体40〜95質量%、ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体5〜60質量%、およびアクリルゴム0〜50質量%を含有する樹脂成分100質量部に対して、金属水和物を100〜300質量部、およびメラミンシアヌレートを0〜70質量部を含有する電線被覆用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線を被覆するための樹脂組成物、並びにその組成物で被覆した絶縁電線に関するものであり、埋立、燃焼などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生がない電線被覆用樹脂組成物、およびそれで被覆した絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線の被覆材料には、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドや分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合したエチレン系共重合体を主成分とする樹脂組成物を使用することがよく知られている。
【0003】
しかし、これらを適切な処理をせずに廃棄した場合、被覆材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤が溶出したり、またこれらを燃焼させると被覆材料に含まれるハロゲン化合物から腐食性ガスやダイオキシン類が発生することがあり、近年、この問題が議論されている。
このため、有害な重金属の溶出やハロゲン系ガスなどの発生の恐れがないノンハロゲン難燃材料で電線を被覆する技術が検討されはじめている。
【0004】
ノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させており、この難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物が、また、前記樹脂としては、ポリエチレン、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体などが用いられている。
【0005】
一方、電子機器内に使用される電子ワイヤハーネスやその他の電気・電子機器用絶縁電線には、安全性の面から非常に厳しい難燃性規格、例えばUL1581(電線、ケーブルおよびフレキシブルコードのための関連規格(Reference Standard for Electrical Wires、Cables, and Flexible Cords))などに規定されている垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)、VW−1規格や水平難燃規格、JIS C3005に規定される60度傾斜難燃特性等が求められている。
さらにこのような電線の被覆用樹脂組成物には、ULや電気用品取締規格などから破断伸び100%、破断抗張力10MPa以上という高い機械特性が要求されている。
【0006】
ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂をベース樹脂とし、これにノンハロゲン系の難燃剤である金属水和物を多量に配合して難燃化した樹脂組成物は、良好な難燃性を付与できるものの、機械特性が著しく低下するという問題があった。
また同時に通常ノンハロゲン材料として多く使用されているポリオレフィン等の樹脂に多量に加えると柔軟性が大きく低下したり、耐外傷性が著しく低下するという問題があった。
【0007】
さらに絶縁電線の必要特性としては、電線の皮むき性が要求され、この可否により例えば家電製品等への量産対応性が大きく左右される。しかし通常のノンハロゲン電線の場合従来のPVC電線と比較して皮むき性が劣り、電線の皮をむいた際ひげが残るなどの問題点がある。このひげ等が加工部に残っていると接触不良などの問題が生じる可能性が大きくなる。
【特許文献1】特開2001−060414号公報
【特許文献2】特開2000−129049号公報
【特許文献3】特開2000−129064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、高度の難燃性と優れた機械特性、柔軟性を有し、かつ埋立、燃焼などの廃棄時においては、重金属化合物やリン化合物の溶出や、多量の腐食性ガスの発生がなく、端末加工性に優れたノンハロゲン絶縁電線およびそれに用いられる電線被覆用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ベース樹脂にエチレン系共重合体とアクリル系エラストマーを導入し、さらに適宜アクリルゴムを添加することによりさらに架橋性のシランカップリング材で表面処理を施した金属水和物を併用することにより、難燃性に優れ、力学的強度にも優れ、さらに高い体積固有抵抗を維持しつつ、端末加工性に優れた電線被覆用樹脂組成物及び絶縁電線が得られることを発見した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)エチレン系共重合体40〜95質量%、ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体5〜60質量%、およびアクリルゴム0〜50質量%を含有する樹脂成分100質量部に対して、金属水和物を90〜300質量部、およびメラミンシアヌレートを0〜70質量部を含有することを特徴とする電線被覆用樹脂組成物、
(2)前記アクリルゴムの前記樹脂成分における含有量が5〜50質量%であることを特徴とする(1)項記載の樹脂組成物、
(3)前記金属水和物が、架橋性のシランカップリング剤で表面処理された金属水和物を、樹脂成分100質量部当り150〜280質量部を含むことを特徴とする(1)または(2)項記載の樹脂組成物、
(4)前記樹脂成分に不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンが2〜30質量%含まれていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の樹脂組成物、
(5)前記エチレン系共重合体がエチレン酢酸ビニルであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の樹脂組成物、
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の樹脂組成物を導体の周りに被覆した絶縁電線、またはケーブル、
(7)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の樹脂組成物を導体の周りに被覆した後に、絶縁体を架橋したことを特徴とする絶縁電線、および
(8)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の樹脂組成物を光ファイバの周りに被覆した光コード、またはケーブル
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電線被覆用樹脂組成物は、導体の周りに被覆することにより、高度の難燃性と優れた機械特性、柔軟性を有し、かつ埋立、燃焼などの廃棄時においては、重金属化合物やリン化合物の溶出や、多量の腐食性ガスの発生がなく、端末加工性に優れたノンハロゲン絶縁電線を提供することができる。また、本発明の電線被覆用樹脂組成物は、光コードやケーブルの被覆物としても、上記と同様な効果あり、好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の電線被覆用樹脂組成物について説明する。
本発明の樹脂組成物は、エチレン系共重合体、ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体を主成分とし、適宜アクリルゴムを含有する樹脂を主成分とする樹脂成分に対し、金属水和物及び適宜メラミンシアヌレートを配合してなる。
【0013】
(A)樹脂成分
本発明において用いられる樹脂成分の各成分(a)〜(d)について説明する。
【0014】
(a)エチレン系共重合体
ここで言うエチレン系共重合体としては、好ましくは、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレンαオレフィン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体ゴムが挙げられる。
【0015】
(a−1)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
本発明に用いることのできるエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレンーメタクリル酸メチル共重合体(EMMA)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。難燃性および機械特性向上の点からは、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。また、難燃性を向上させるうえでエチレンに対し共重合させた共重合成分の含有量(例えばEVAでは酢酸ビニル(VA)含有量、EEAではエチルアクリレート(EA)含有量)が、20〜95質量%が好ましく、さらに好ましくは25〜90質量%、さらに好ましくは30〜85質量%である。またMFR(メルトフローレイト)は、強度の面、樹脂組成物の混練り加工性の面から好ましくは0.1〜20、さらに好ましくは0.1〜10程度である。
【0016】
(a−2)エチレン−αオレフィン共重合体
本発明に用いることのできるエチレン・α−オレフィン共重合体は、例えばエチレンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体であり、α−オレフィンの具体例としては、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられる。
【0017】
エチレン・α−オレフィン共重合体として具体的には、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)、EBR(エチレン・1‐ブテンゴム)、及びメタロセン触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体等が挙げられる。このなかでも、メタロセン触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましい。
エチレン・α−オレフィン共重合体の密度は、940Kg/m以下が好ましく、さらに好ましくは930Kg/m以下、特に好ましくは925Kg/m以下である。この密度の下限には特に制限はないが、通常850Kg/m程度を下限とする。
また、エチレン・α−オレフィン共重合体としては、メルトフローレート(以下、MFRと記す)(ASTM D−1238)が0.5〜50g/10分のものが好ましい。
【0018】
本発明におけるエチレン・α−オレフィン共重合体は、メタロセン触媒の存在下に合成されるものや通常の直鎖型低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレン等が挙げられるが、中でもメタロセン触媒の存在下に合成されるものが好ましい。このようなものとしては、日本ポリケム社から、「カーネル」(商品名)、三井住友ポリオレフィン「エボリュー」(商品名)が上市されている。
【0019】
(a−3)エチレン−プロピレン共重合体ゴム
本発明に用いることのできるエチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPM)は、エチレンとプロピレンのゴム状共重合体である。ここでエチレン・プロピレン共重合体ゴムとはエチレン成分含量が通常40〜75質量%程度のものをいう。エチレン、プロピレン以外の第三成分として不飽和基を有する繰返し単位を重合体にもたせたエチレン−プロピレンターポリマー(EPDM)もあるが本発明においては二重結合をもたないEPMを用いることが好ましい。EPDMを用いた場合は、本発明の目的である優れた柔軟性と伸びが損なわれることがある。EPMは単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
エチレン−プロピレン共重合体ゴムのムーニー粘度、ML1+4(100℃)は好ましくは10〜120、より好ましくは40〜100である。ムーニー粘度が10未満の場合は、得られるエラストマー組成物のゴム弾性が劣ることがある。また120を越えたものを用いると成形加工性が悪くなることがあり、特に成形品の外観が悪化する
【0020】
(a−1)〜(a−3)の樹脂はそれぞれ混合して使用することができる。
その含有量は樹脂成分中、95〜40質量%であり、90〜55質量%であることが好ましい。この量が95質量%を超えると端末加工性が著しく低下し、また40質量%より少なくなると強度が著しく低下したり、外観や著しく低下したり、高温時の巻き付け特性が著しく低下する。
また特に(a−1)の樹脂を使用することが好ましく、樹脂成分100質量%中の酸及びエステル含有量は15質量%以上であることが好ましい。
【0021】
(b)ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体
ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体はハードセグメントをポリアルキルメタクリレート、ソフトセグメントをポリアルキルアクリレートするエラストマーである。ハードセグメントの量は通常5〜75質量%である。
このポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体の含有量は樹脂成分中、5〜60質量%であり、10〜45質量%がさらに好ましい。この量が5質量%より少ないと端末加工性が著しく低下し、又この量が60質量%を超えると強度が著しく低下したり、外観が著しく低下する。
このポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体を加えることにより、端末加工性を著しく向上させるのみならず、金属水和物とポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体の結合により難燃性を向上させる。さらに難燃性を有しつつ、高い柔軟性を確保することができる。
【0022】
(c)アクリルゴム
本発明においては、樹脂成分中、0〜50質量%の範囲内でアクリルゴムを使用することができる。
アクリルゴムは単量体成分としてはアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルと各種官能基を有する単量体を少量共重合させて得られるゴム弾性体であり、共重合させる単量体としては、2−クロルエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル、ブタジエン等を適宜使用することができる。具体的には、Nipol AR(商品名、日本ゼオン社製)、JSR AR(商品名、JSR社製)等を使用することができる。
【0023】
特に単量体成分としてはアクリル酸メチルを使用するのが好ましく、その場合には、エチレンとの2元共重合体や、これにさらにカルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素をモノマーとして共重合させた3元共重合体を特に好適に使用することができる。具体的には、2元共重合体の場合にはベイマックDやベイマックDPを、3元共重合体の場合にはベイマックG、ベイマックG、ベイマックGLS(商品名、いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)を使用することができる。
【0024】
これらのアクリルゴムはポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体との相互作用により、さらに非常に高い難燃性を有することができる。さらに高い機械的強度を維持することが出来、加えて皮むきの際にひげ状に被覆材を伸ばすことなく皮むき性が良好になる。さらにこのアクリルゴムとポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体を併用し導入することにより、PVC様のしっとり感のある外観を具現化させることができる。
本発明においてアクリルゴムは、樹脂成分中0〜50質量%の割合で使用することができ、好ましくは5〜50質量%の割合で使用することができる。アクリルゴムの量が50質量%を越えると電線の押し出し加工性が著しく低下するだけではなく、未架橋時の電線同士の粘着が著しく大きくなり生産性が大幅に低下するためである。
【0025】
(d)不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂
本発明では、樹脂成分として、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンを含むことができる。
不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂とは、例えばカルボン酸、アクリル酸、メタクリル酸で変性されたポリオレフィン樹脂である。ポリオレフィン樹脂としてはポリプロピレン樹脂、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン系共重合体などがある。
通常グラフト率は通常0.5〜15質量%である。
このような樹脂はポリボンド(製造者:クロンプトン)、アドテックス(製造者:日本ポリエチレン)、アドマー(製造者:三井化学)、クレイトン(製造者:JSRクレイトン)などが販売されている。
【0026】
これらのカルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂はポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体との相互作用で高い強度を発生させる。加えて水酸化マグネシウムと成型時に化学的に結合しさらに高い機械的強度を発揮する。さらに効率的にポリマー鎖と水酸化マグネシウムが結合し、また(c)成分と水酸化マグネシウムが強い相互作用を有することにより、燃焼時において吸熱反応が助長されとまた殻形成により延焼を防ぎ、高い難燃性を示す。
この不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂は樹脂成分中、好ましくは2〜30質量%、さらに好ましくは3〜20質量%含有させることができる。
【0027】
本発明においてエチレン系共重合体の一部のかわりに、加熱変形性を向上させるためにポリプロピレン樹脂を加えることができる。ポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ポリプロピレンとエチレンプロピレンゴムのブロック共重合体等が挙げられる。これらは樹脂成分中に好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10〜25質量%含有させることができる。
【0028】
(B)金属水和物
本発明において用いられる金属水和物としては、特に限定はしないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する化合物を単独もしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
これらの金属水和物においては、水酸化マグネシウムが好ましく、このようなものとしては、例えば通常市販されている水酸化マグネシウムを使用することが可能である。本発明において、水酸化マグネシウムは、無処理のままでも、表面処理を施されていてもよい。表面処理としてはたとえば、脂肪酸処理、リン酸処理、チタネート処理、シランカップリング剤による処理などがあげられる。樹脂成分(A)との反応性の点から、本発明においては、無処理のものか、架橋性のシランカップリング剤を用いたものを使用するのが好ましい。
【0029】
本発明における架橋性のシランカップリング剤としては末端にビニル基、メタクロキシ基、グリシジル基、アミノ基を有するもの等が挙げられる。具体的にはたとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でもビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が好ましい。シランカップリング剤による表面処理の方法としては、通常使用される方法で処理を行うことが可能であるが、たとえば、表面処理をしていない水酸化マグネシウムをあらかじめドライブレンドしたり、湿式処理を行ったり、混練り時にシランカップリング剤をブレンドすることなどにより得ることが可能である。使用するシランカップリング剤の配合量は、表面処理するに十分な量が適宜加えられるが、具体的には水酸化マグネシウムに対し0.1〜2.5質量%、好ましくは0.2〜1.8質量%、さらに好ましくは0.3〜1.0質量%である。
【0030】
また、すでにシランカップリング剤処理をおこなった水酸化マグネシウム入手することも可能である。シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムとしては、具体的には、キスマ5L、キスマ5N、キスマ5P(いずれも商品名、協和化学(株)製)や、マグニフィンH5A(商品名、アルベマール(株))などがあげられる。
また、無処理の水酸化マグネシウムとしては、たとえばキスマ5(商品名、協和化学(株))、マグニフィンH5(商品名、アルベマール(株))などがあげられる。
本発明においては、水酸化マグネシウムをシランカップリング剤で処理をする場合には、いずれか1種のシランカップリング剤のみでも、2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明においては、表面処理を行っていない水酸化マグネシウムや、表面処理を行った水酸化マグネシウムをそれぞれ単独で使用しても、併用してもよい。異なる表面処理を行った水酸化マグネシウムを併用することも可能である。
本発明において無処理又はシラン処理されている水酸化マグネシウムを金属水和物の一部に使用した方が良い。これを使用することにより難燃性のみならず高い強度を維持することが可能となる。
【0032】
本発明において金属水和物の含有量は、樹脂成分100質量部に対して90〜300質量部である。90質量部より少ないと難燃性が低下し、300質量部を超えると力学的特性が著しく低下するのみならず、押出負荷が著しく上昇する。
また、金属水和物として、架橋性のシランカップリング剤で表面処理された金属水和物を含む場合、架橋性のシランカップリング剤で表面処理された金属水和物の含有量は、金属水和物中の50%以上であることが好ましい。
【0033】
(C)メラミンシアヌレート
本発明においては、難燃効果を高めるため必要に応じメラミンシアヌレートを添加することができる。本発明で用いることのできるメラミンシアヌレート化合物としては、例えばMCA−0、MCA−1、(商品名 三菱化学(株))、MC610、MC640、MC−6000(いずれも商品名、日産化学社製)などがある。
メラミンシアヌレートの配合量はベース樹脂成分(A)100質量部に対して70質量部以下に制限され、0〜60質量部であることが好ましい。この量が70質量部を越えると力学的強度が著しく低下するためである。
【0034】
本発明の組成物には、さらに難燃効果を高めるために、上記成分に加え、さらにスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛やホウ酸亜鉛を配合することができる。
ホウ酸亜鉛としては、平均粒子径が5μm以下、特に好ましくは3μm程度のものが好ましい。ホウ酸亜鉛としては市販品を用いることができ、例えばアルカネックスFRC−500(2ZnO/3B・3.5HO)、FRC−600(商品名、販売元 水澤化学)などを挙げることができる。
またスズ酸亜鉛としては、スズ酸亜鉛(ZnSnO)、水和物を有するヒドロキシスズ酸亜鉛(ZnSn(OH))が好ましく、商品名アルカネックスZS、アルカネックスZHS(販売元 水澤化学)などの市販品を用いることができる。ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛は平均粒子径が5μm以下、特に好ましくは3μm程度が好ましい。
【0035】
本発明における電線被覆用樹脂組成物には、電線・ケ−ブルの被覆材に一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0036】
酸化防止剤としては、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などがあげられる。
【0037】
金属不活性剤としては、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2’−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などがあげられる。
【0038】
さらに難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボンなどがあげられる。
【0039】
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などがあげられ、なかでも、「ワックスE」「ワックスOP」(商品名、Hoechst社製)などの内部滑性と外部滑性を同時に示すエステル系滑剤が好ましい。
【0040】
本発明の電線被覆用樹脂組成物は、例えば、以下の製造方法により製造することができる。
樹脂成分(A)、金属水和物(B)、さらに必要に応じて前記した添加剤や他の樹脂を加え、加熱混練する。混練温度は、好ましくは150〜220℃であり、混練温度や混練時間等の混練条件は、樹脂成分(a)〜(d)が溶融する温度で適宜設定できる。混練方法としては、ゴム、プラスチックなどで通常用いられる方法であれば満足に使用でき、装置としては例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーあるいは各種のニーダーなどが用いられる。この工程により、各成分が均一に分散された難燃性熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0041】
次に、本発明の絶縁電線について説明する。
本発明の絶縁電線は、前記本発明の樹脂組成物からなる被覆層を導体(例えば軟銅製などの単線または撚線導体)上に有してなり、好ましくはこの被覆層が樹脂組成物の架橋体で構成されたものである。
【0042】
本発明の前記樹脂組成物を導体の被覆材として使用する場合には、好ましくは押出被覆により、導体の外周に形成した少なくとも1層の前記本発明の樹脂組成物からなる被覆層を有すること以外、特に制限はない。例えば、導体としては軟銅の単線又は撚線などの公知の任意のものを用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いてもよい。
【0043】
本発明の絶縁電線は、本発明の樹脂組成物を、汎用の押出被覆装置を用いて、導体周囲に押出被覆することにより製造することができる。このときの押出被覆装置の温度は、シリンダー部で約180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
【0044】
本発明の絶縁電線においては、樹脂組成物を架橋させて被覆層を形成することにより、耐熱性が向上するのみならず、難燃性をも向上させることができる。
【0045】
架橋の方法としては、常法による電子線架橋法や化学架橋法が採用できる。
電子線架橋法の場合は、被覆線を構成する樹脂組成物を押出成形して被覆層とした後に電子線を照射することにより架橋をおこなう。
電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、被覆層を構成する樹脂組成物に、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。
化学架橋法の場合は、被覆層を構成する樹脂組成物に、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物を架橋剤として配合し、押出成形して被覆層とした後に、常法により加熱処理により架橋をおこなう。
【0046】
本発明の絶縁電線は、導体の周りに形成される絶縁被覆層の肉厚は特には限定しないが通常0.15mm〜3mmである。
【0047】
また、本発明の光コードは、前記本発明の樹脂組成物からなる被覆層を光ファイバ上に有してなるものである。本発明の光コードは、上記絶縁電線の製造方法と同様に、本発明の樹脂組成物を光ファイバ周囲に押出被覆することにより製造することができる。
【0048】
また、本発明のケーブルは、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物を被覆層として、導体、光ファイバの外周に被覆されたものすべてを包含し、特にその構造を制限するものではない。被覆層の厚さ、光ファイバ心線等の配線材に縦添えまたは撚り合わせる抗張力繊維の種類、量などは、電線ケーブル又は光ファイバケーブルの種類、用途などによって異なり、適宜に設定することができる。
本発明のケーブルは、光ファイバ素線、光ファイバ心線または導体等の周りに熱可塑性樹脂を被覆した配線材を汎用の押出被覆装置を使用して、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物を被覆層として、または抗張力繊維を縦添えもしくは撚り合わせ周囲に押出被覆することにより、製造される。このときの押出被覆装置の温度は、シリンダー部で180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(実施例、比較例)
まず、表1〜2に示す各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各電線被覆用樹脂組成物を調製した。
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径:0.95mmφ錫メッキ軟銅撚線 構成:21本/0.18mmφ)上に、予め溶融混練した樹脂組成物を押し出し法により被覆して、各実施例、比較例に対応する絶縁電線を製造した。外径は2.63mmとした。被覆後一部の電線については5Mradで電子線照射を行うことにより架橋を行った。
【0051】
得られた各絶縁電線について、引張特性、難燃性、皮むき性、絶縁抵抗を評価し、その結果を表1〜2に併せて示した。試験方法、評価条件について以下に示す。
・引張特性(抗張力、破断時の伸び)
各絶縁電線の被覆層を管状片にし、その引張強度(抗張力)(MPa)と伸び(%)を、引張り試験機を用いて標線間25mm、引張速度500mm/min.の条件で測定した。引張強度および伸びの要求特性は、各々10MPa以上、100%以上である。
・難燃性
各絶縁電線について、UL1581に規定される水平燃焼試験および垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)を各5サンプルについておこない、それぞれ全てに合格したものを「合格」と示した。
なお、実用上、水平燃焼試験は合格であることが必須であり、また垂直燃焼試験も合格であることがより好ましい。
・絶縁抵抗
各絶縁電線について、JIS C 3005に規定される絶縁抵抗を測定し、以下の式によって体積固有抵抗に換算した。
ρ=(L/3.665)・(1/(log10(D/d)))・10・G
ここで、ρ:体積固有抵抗(Ω・cm)、L:電線の長さ(mm)、D:絶縁体外径(mm)、d:導体外径(mm)、G:絶縁抵抗(MΩ)である。
【0052】
・皮むき性
平刃の加工機で絶縁電線の被覆部を皮むきし、皮むき部(端末部)のひげの有無を観測した。
○:ひげは無し。
△:ひげはあるが、非常に少ない。
×:カット不可又はひげが大。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
なお、表1〜2に示す各成分は下記のものを使用した。
(01)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)
酢酸ビニル(VA)成分含有量 33質量%
EU180(商品名 三井デュポンケミカル製)
(02)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)
酢酸ビニル(VA)成分含有量 80質量%
レバプレン800HV(商品名 ランクセス製)
(03)エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)
エチルアクリレート(EA)成分含有量 25質量%
A−714(商品名 三井デュポンケミカル製)
(04)メタロセンポリエチレン(ME−PE)
密度(d)=0.880、MFR=1
(05)ブロックポリプロピレン(B−PP)
MFR=0.8
PB−170A(商品名 サンアロマー製)
(06)ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体
LA4756(商品名 クラレ製)
(07)ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体
LA2250(商品名 クラレ製)
(08)ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体
LA2140(商品名 クラレ製)
(09)アクリルゴム
ベイマックGLS 三井デュポンポリケミカル製
(10)アクリルゴム
ベイマックDP 三井デュポンポリケミカル製
(11)マレイン酸変性ポリエチレン
アドマーXE070(商品名 三井化学製)
(12)無処理水酸化マグネシウム
キスマ5(商品名、協和化学社製)
(13)シランカップリング剤処理水酸化マグネシウム
キスマ5L(商品名、協和化学社製)
(14)メラミンシアヌレート
MC−6000(日産化学(株))
(15)ヒンダートフェノール系老化防止剤
イルガノックス1010(商品名、チバガイギ社製)
(16)多価アクリル化合物
NKエステル3G(新中村化学製)
(17)ステアリン酸マグネシウム
NS−M(鉛市化学製)
【0056】
表1〜2に示されるように、樹脂組成物中に、水酸化マグネシウムの含有量が少なすぎる比較例1の絶縁電線は難燃性に劣り、水酸化マグネシウムの含有量が多すぎる比較例4の樹脂組成物は成形性に劣っている。樹脂組成物中にポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体の含有量が多すぎる比較例2の絶縁電線は伸びや皮むき性の機械特性が悪く、ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体を含まない比較例3の絶縁電線の伸び、皮むき性も劣っている。
これに対し、実施例1〜8の難燃性樹脂組成物を用いた絶縁電線はいずれも、機械特性、耐候性、耐加熱老化性、難燃性、耐加熱変形性に優れたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系共重合体40〜95質量%、ポリアルキルメタクリレートとポリアルキルアクリレートのブロック共重合体5〜60質量%、およびアクリルゴム0〜50質量%を含有する樹脂成分100質量部に対して、金属水和物90〜300質量部、およびメラミンシアヌレート0〜70質量部を含有してなることを特徴とする電線被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリルゴムの前記樹脂成分における含有量が5〜50質量%であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属水和物が、架橋性のシランカップリング剤で表面処理された金属水和物を、樹脂成分100質量部当り150〜280質量部を含むことを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂成分に不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンが2〜30質量%含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン系共重合体がエチレン酢酸ビニルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物を導体の周りに被覆した絶縁電線、またはケーブル。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物を導体の周りに被覆した後に、絶縁体を架橋したことを特徴とする絶縁電線。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物を光ファイバの周りに被覆した光コード、またはケーブル。

【公開番号】特開2008−94977(P2008−94977A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279049(P2006−279049)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】