説明

電荷輸送材料、積層体及び有機電界発光素子

【課題】 有機電界発光素子の駆動寿命を向上させるとともに駆動電圧上昇を抑制させる。
【解決手段】 電荷輸送材料として、酸化電位が+0.8V以上であり、下記式で表される基の存在割合が0〜70ppmであるものを用いる。


ただし、該基は少なくとも1つのアリール基、ヘテロアリール基またはカルボニル基と直接結合する。また、該基の炭素原子は芳香環を構成する炭素原子ではない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送材料並びにそれを用いた積層体及び有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜型の電界発光素子(以下適宜、「EL素子」という)としては、電荷輸送材料などに無機材料を使用したものに代わり、有機材料を用いた有機EL素子の開発が行われるようになっている。また、有機EL素子の発光効率を上げる試みとして、蛍光(一重項励起子による発光)ではなく燐光(三重項励起子による発光)を用いることが検討されている。燐光を用いると、蛍光を用いたEL素子と比べて、3倍程度に発光効率が向上すると考えられており、例えば、ユーロピウム錯体、白金錯体等を使用することが報告されている。
【0003】
これまでに開発された燐光分子を用いた有機EL素子の多くは、発光層のホスト材料として、カルバゾリル基を含む材料を用いている。そのような技術の例を挙げれば、例えば、非特許文献1が挙げられる。非特許文献1では、発光層のホスト材料として、以下の構造式で表わされるビフェニル誘導体(H−1)を用いている。
【化1】

【0004】
ビフェニル誘導体(H−1)は、連結基を介して一分子中に2つのカルバゾール環を有し、かつN原子同士が共役しているため、正孔輸送能と電子輸送能とがともに優れている。このため、ビフェニル誘導体(H−1)は、耐熱性、非晶質性には課題を有するものの、ホスト材料として優れて理想的な材料と考えられていた。
【0005】
しかしながら、ビフェニル誘導体(H−1)をホスト材料に用いた有機EL素子をはじめ、従来の有機EL素子は、フラットパネル・ディスプレイ等の表示素子に応用するためには駆動寿命を向上する必要があり、いまだ実用の域に達していない。
そこで、これまで、駆動寿命を向上させるための技術の研究がなされてきた。例えば、特許文献1では、有機EL素子を構成するいずれかの層において、その層を構成する電荷輸送材料中の不純物であるハロゲン化合物の含有量を低減させることにより、有機EL素子の駆動寿命を向上させると共に、駆動電圧を低下させることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3290432号公報
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys., 38巻,L1502頁,1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機EL素子では、その使用に伴って、駆動に要する電圧が上昇する。有機EL素子を実用化するには、駆動寿命を向上させる他、この駆動電圧上昇を抑制する必要がある。しかし、特許文献1などの従来の技術では、駆動電圧上昇を抑制することができなかった。
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、有機EL素子の駆動寿命を向上させるとともに、駆動電圧上昇を抑制することができる電荷輸送材料、並びに、それを用いた積層体及び有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するべく、電荷輸送材料中に使用される化合物及び混入している副成分に関して鋭意検討した結果、電荷輸送材料に含まれる特定の基の濃度を所定値以下とすることにより、駆動寿命が長く、且つ、駆動電圧上昇を抑制することができる有機電界発光素子を得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、酸化電位が+0.8V以上である、1種又は2種以上の化合物よりなる電荷輸送材料であって、電荷輸送材料中の下記式(1)で表される基の存在割合が、0〜70ppmであることを特徴とする、電荷輸送材料に存する。
【化2】

{但し、上記式(1)で表わされる基の炭素原子は、少なくとも1つの、アリール基、ヘテロアリール基またはカルボニル基と直接結合する。また、上記式(1)における炭素原子は、芳香環を構成する炭素原子ではない。}
【0010】
また、本発明の別の要旨は、酸化電位が+0.8V以上である、1種又は2種以上の化合物よりなる電荷輸送材料であって、電荷輸送材料中の下記式(1)で表される基の存在割合が、0〜70ppmであることを特徴とする、電荷輸送材料に存する(請求項2)。
【化3】

{但し、上記式(1)で表わされる基の炭素原子は、少なくとも1つの、アリール基またはヘテロアリール基と直接結合する。また、上記式(1)における炭素原子は、芳香環を構成する炭素原子ではない。}
【0011】
このとき、該化合物のうちの少なくとも1つは、カルバゾール系化合物であることが好ましい(請求項3)。
さらに、該化合物のうちの少なくとも1つは、2,4,6−位に置換基としてアリール基を有するピリジン系化合物であっても好ましい(請求項4)。
【0012】
また、本発明の別の要旨は、上記の電荷輸送材料のみから形成された層を少なくとも有することを特徴とする、積層体に存する(請求項5)。
さらに、本発明の更に別の要旨は、上記の電荷輸送材料と、ドーパントとから形成された有機発光層を少なくとも有することを特徴とする、積層体に存する(請求項6)。
【0013】
また、本発明の更に別の要旨は、基板上に、陽極と、陰極と、該陽極及び該陰極の間に設けられた有機発光層とを有し、更に、上記の電荷輸送材料のみから形成された層を少なくとも1層有することを特徴とする、有機電界発光素子に存する(請求項7)。
さらに、本発明の更に別の要旨は、基板上に、陽極と、陰極と、該陽極及び該陰極との間に設けられ、上記の電荷輸送材料及びドーパントから形成された有機発光層とを有することを特徴とする、有機電界発光素子に存する(請求項8)。
【0014】
ここで、式(1)で表わされる基が少ないことが好ましい理由について説明する。
本発明の発明者らが推察するところ、有機EL素子の駆動電圧が上昇する要因は、有機EL素子を構成する化合物が、使用に伴い、本来の分子構造から変化するためと考えられる。また、この分子構造の変化は、有機EL素子の電荷輸送材料等の有機化合物が、電気的酸化や還元を受ける際の、酸化状態や還元状態の安定性に関係すると考えられる。
【0015】
上記のような酸化状態や還元状態の安定性の低下は、本来耐久性に優れている電荷輸送材料中に、酸化状態や還元状態の安定性に劣る副成分が混在することにより誘起されると考えられる。
【0016】
上記の見解に基づき検討した結果、前記の式(1)で表わされる基を有する化合物を有する場合に、駆動電圧上昇及び駆動寿命に課題が生じることが分かった。この課題は、式(1)で表わされる基を有する化合物を、主成分として大量に有する場合はもちろん、副成分として少量有する場合であっても生じる。
【0017】
例えば、一般に入手可能なカルバゾールには、比較的高い濃度でメチル置換カルバゾールが混入している。具体例を挙げると、市販のカルバゾールは、通常、純度95〜98%であり、その中に、置換位置の異なる少なくとも2種類のメチル置換カルバゾール{下記式(2)}を0.1〜1.0重量%程度含有している。
【化4】

【0018】
よって、市販のカルバゾールを用いて合成されたカルバゾール系化合物には、完全に除去することが困難な不純物として、式(2)のメチル置換カルバゾールに起因するメチル置換体が含まれている。したがって、このようにして合成されたカルバゾール系化合物を電荷輸送材料として有機EL素子を製造した場合、この不純物であるメチル置換体が、駆動電圧上昇及び駆動寿命の課題の原因となっていた。
【0019】
以上のように、式(1)で表わされる基は、駆動電圧上昇及び駆動寿命の課題の原因となっている。したがって、これを少なくする、あるいは無くすことにより、分子構造の変化を生じない安定な電荷輸送材料を得ることができる。これにより、駆動寿命が長く、且つ、駆動電圧上昇を抑制できる有機電界発光素子が得られるようになるのである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電荷輸送材料や積層体を用いることにより、駆動寿命が向上し、且つ、駆動電圧上昇を抑制することが可能な、有機電界発光素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
[I.電荷輸送材料]
本発明の電荷輸送材料は、酸化電位が+0.8V以上の1種又は2種以上の化合物よりなり、且つ、本発明の電荷輸送材料中の下記式(1)で表わされる基(以下適宜、CH基という)の存在割合が、0〜70ppmである。ただし、本明細書において「ppm」は、重量を基準とした割合を表わす。また、本発明の電荷輸送材料に含まれる化合物は有機化合物であるが、有機EL素子の材料として使用する場合には、適宜、任意の無機化合物と混合して用いることもできる。また、CH基の炭素原子は、少なくとも1つの、アリール基、ヘテロアリール基またはカルボニル基と直接結合するか、或いは、少なくとも1つの、アリール基またはヘテロアリール基と直接結合する。特に、CH基の炭素原子が少なくとも1つのアリール基またはヘテロアリール基と直接結合している場合にCH基は駆動電圧上昇や駆動寿命低下をより招きやすいため、少なくとも1つのアリール基またはヘテロアリール基と直接結合する炭素原子を有するCH基の存在割合を上記のように小さくすることがより好ましい。さらに、式(1)における炭素原子は、芳香環を構成する炭素原子ではない。なお、以下適宜、CH基の炭素原子がアリール基、ヘテロアリール基又はカルボニル基に直接結合することを、それぞれ、CH基がアリール基、ヘテロアリール基又はカルボニル基に直接結合するという。
【化5】

【0022】
<1.電荷輸送材料に用いることができる化合物>
電荷輸送材料とは、与えられた電荷(即ち、電子や正孔)を移動させることができる材料であり、上記の条件を満たしていれば他に制限はなく、任意の材料を用いることができる。また、電荷輸送材料は、1種の化合物を単独で用いてもよく、2種以上の化合物を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0023】
ただし、電荷輸送材料は、通常、以下の機能を有するものが好ましい。
(i)注入機能:電界印加時に陽極又は正孔注入層より正孔を注入することができる機能、及び/又は、陰極又は電子注入層より電子を注入することができる機能。
(ii)輸送機能:注入した電荷を電界の力で移動させる機能。
(iii)発光機能:電子と正孔との再結合の場を提供し、これを発光につなげる機能。
(iv)阻止機能:電荷をバランスよく移動、再結合させるため、移動調整する機能。
なお、正孔の注入されやすさと電子の注入されやすさには違いがあってよく、正孔と電子の移動度で表される輸送性能に大小があってもよいが、どちらか一方の電荷を移動することが好ましい。
【0024】
上記の観点から、電荷輸送材料として用いる化合物は、特に、下記式(3)で表される有機化合物が好ましい。
【化6】

ただし、式(3)中、Aは、それぞれ独立に、アリール基又はヘテロアリール基を表わす。また、nは、1以上10以下の整数を表わす。さらに、Zは、n=1の場合は水素原子又は置換基を表わし、nが2以上の場合は直接結合又はn価の連結基を表わす。なお、A及びZはそれぞれ、さらに置換基を有していてもよい。
【0025】
以下、上記式(3)で表わされる化合物について詳細に説明する。
式(3)において、nは、通常1以上、好ましくは2以上、また、通常10以下、好ましくは6以下の整数を表わす。この範囲を超えると各種精製によってCH基の存在割合を十分に低下させることが困難になるために好ましくなく、この範囲を下回ると電荷注入・輸送性が著しく低下することがあるために好ましくない。
【0026】
また、式(3)において、nが1の場合、Zは、水素原子又は任意の置換基である。ここで、Zが置換基である場合の具体例は、アミノ基類、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ヘテロ環オキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシカルボニル基、アシルオキシ基、スルファモイル基類、カルバモイル基類、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルホニル基類、スルフェニル基類、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシル基、メルカプト基、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、シリル基類、ボリル基類、ホスフィノ基、アリール基、ヘテロアリール基、下記式(4)で表わされる基、下記式(5)で表わされる基などが挙げられる。
【0027】
【化7】

【化8】

【0028】
ただし、式(4)において、Raは任意の置換基を表わす。また、Raの炭素数は、通常1以上、また、通常10以下、好ましくは6以下である。さらに、Raの具体例を挙げると、アルキル基、アラルキル基、アリール基などが挙げられる。
また、式(4)及び式(5)において、Rb,Rc,Rdはそれぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表わす。また、Rb,Rc,Rdが任意の置換基である場合には、その炭素数及び具体例としては、それぞれ独立に、Raと同様の炭素数及び具体例が挙げられる。
【0029】
Zがアミノ基類である場合、アミノ基類にはアミノ基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常0以上、また、通常36以下、好ましくは20以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジベンジルアミノ基、チエニルアミノ基、ジチエニルアミノ基、ピリジルアミノ基、ジピリジルアミノ基等が挙げられる。
【0030】
Zがアルコキシカルボニルアミノ基である場合、その炭素数は、通常2以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、メトキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0031】
Zがアリールオキシカルボニルアミノ基である場合、その炭素数は、通常7以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、フェノキシカルボニル基等が挙げられる。
【0032】
Zがヘテロ環オキシカルボニルアミノ基である場合、その炭素数は、通常2以上、好ましくは5以上、また、通常21以下、好ましくは15以下、より好ましくは11以下である。その具体例としては、チエニルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0033】
Zがスルホニルアミノ基である場合、その炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、メタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基、チオフェンスルホニルアミノ基等が挙げられる。
【0034】
Zがアルコキシ基である場合、その炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは12以下、より好ましくは8以下である。その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
【0035】
Zがアリールオキシ基である場合、その炭素数は、通常6以上、また、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは炭素数6である。その具体例としては、フェノキシ基等が挙げられる。
【0036】
Zがヘテロ環オキシ基である場合、その炭素数は、通常1以上、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、また、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは5以下である。その具体例としては、チエニルオキシ基、ピリジルオキシ基等が挙げられる。
【0037】
Zがアシル基である場合、その炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基、テノイル基、ニコチノイル基等が挙げられる。
【0038】
Zがアルコキシカルボニル基である場合、その炭素数は、通常2以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0039】
Zがアリールオキシカルボニル基である場合、その炭素数は、通常7以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは7である。その具体例としては、フェノキシカルボニル基などが挙げられる。
【0040】
Zがヘテロ環オキシカルボニル基である場合、その炭素数は、通常2以上、好ましくは5以上、また、通常20以下、好ましくは12以下、より好ましくは6以下である。その具体例としては、チエニルオキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0041】
Zがアシルオキシ基である場合、その炭素数は、通常2以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例は、アセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、テノイルオキシ基、ニコチノイルオキシ基等が挙げられる。
【0042】
Zがスルファモイル基類である場合、スルファモイル基類にはスルファモイル基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常0以上、また、通常20以下、好ましくは12以下である。その具体例は、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基、チエニルスルファモイル基等が挙げられる。
【0043】
Zがカルバモイル基類である場合、カルバモイル基類にはカルバモイル基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例は、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基等が挙げられる。
【0044】
Zがアルキルチオ基である場合、その炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例は、メチルチオ基、エチルチオ基、n−ブチルチオ基等が挙げられる。
【0045】
Zがアリールチオ基である場合、その炭素数は、通常6以上、また、通常26以下、好ましくは20以下、より好ましくは12以下である。その具体例は、フェニルチオ等が挙げられる。
【0046】
Zがヘテロ環チオ基である場合、その炭素数は、通常1以上、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、また、通常25以下、好ましくは19以下、より好ましくは11以下である。その具体例は、チエニルチオ基、ピリジルチオ基等が挙げられる。
【0047】
Zがスルホニル基類である場合、スルホニル基類にはスルホニル基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、トシル基、メシル基などが挙げられる。
【0048】
Zがスルフェニル基類である場合、スルフェニル基類にはスルフェニル基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、メチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基等が挙げられる。
【0049】
Zがウレイド基類である場合、ウレイド基類にはウレイド基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、ウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基等が挙げられる。
【0050】
Zがリン酸アミド基類である場合、リン酸アミド基類にはリン酸アミド基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。その具体例としては、ジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基等が挙げられる。
【0051】
Zがシリル基類である場合、シリル基類にはシリル基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上、また、通常10以下、好ましくは6以下である。その具体例としては、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0052】
Zがボリル基類である場合、ボリル基類にはボリル基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上、また、通常10以下、好ましくは6以下である。その具体例としては、ジメシチルボリル基等が挙げられる。
【0053】
Zがホスフィノ基類である場合、ホスフィノ基類にはホスフィノ基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常1以上、また、通常10以下、好ましくは6以下である。その具体例としては、ジフェニルホスフィノ基等が挙げられる。
【0054】
Zがアリール基である場合、その炭素数は、通常6以上、また、通常20以下、好ましくは14以下である。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等由来の6員環の単環或いは2〜5縮合環由来の基などが挙げられる。
【0055】
Zがヘテロアリール基である場合、そのヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。また、このとき、Zの炭素数は、通常1以上、好ましくは3以上、また、通常19以下、好ましくは13以下である。その具体例を挙げると、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の5員環又は6員環の単環或いは2〜4縮合環由来の基が挙げられる。
【0056】
一方、nが2以上の場合、Zは直接結合又はn価の連結基を表わす。
Zがn価の連結基である場合、その具体例としては、下記式で表わされる基が挙げられる。
【化9】

さらに、この他、Zが置換基である場合の具体例として前述した基から水素原子をn−1個除去した基なども、Zがn価の連結基である場合の具体例として挙げられる。
また、Zがアルキニル基である場合、その炭素数は、通常2以上、また、通常8以下、好ましくは4以下である。その具体例としてはエチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。
【0057】
これらの中でも、Zは、電気的酸化還元耐久性を向上させる観点、及び、耐熱性を向上させる観点から、アリール基またはヘテロアリール基であることが好ましい。
なお、Zは、さらに置換基を有していても良く、他の基と縮合していてもよい。また、Zが有する置換基が2個以上ある場合には、それらは同一でもよく、異なっていてもよい。さらに、可能な場合には連結して環を形成してもよい。
【0058】
Zが有する置換基は任意であるが、例えば、アリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアミノ基、アルキルアミノ基、ヘテロアリール基などが挙げられる。この中でも、アリール基、ヘテロアリール基が好ましく、アリール基がより好ましい。なお、ここで例示した置換基の具体例としては、Zが置換基である場合について具体例として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0059】
また、Zの分子量は任意であるが、Zが置換基又は連結基である場合、通常1000以下、好ましくは500以下である。Zの分子量をこの範囲とすることにより、蒸着法を用いた成膜の際、電荷輸送材料の気化温度が極度に高温となることを防止できる。また、湿式法を用いた成膜の際、電荷輸送材料の溶媒に対する溶解性を損なうことを防止できる。これにより、本発明の電荷輸送材料を用いて良好な特性の有機EL素子を得ることができる。
【0060】
式(3)において、Aは、任意のアリール基又はヘテロアリール基を表す。
Aがアリール基である場合、その炭素数は、通常6以上、また、通常30以下、好ましくは20以下である。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等の6員環の単環或いは2〜5縮合環由来の基などが挙げられる。
【0061】
また、Aがヘテロアリール基である場合、その炭素数は、通常1以上、好ましくは3以上、また、通常29以下、好ましくは19以下である。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環、テトラゾール環、イミダゾピリジン環等の5員環又は6員環の単環或いは2〜4縮合環由来の基などが挙げられる。
【0062】
例示したものの中でも、Aとしては、電気的酸化還元耐久性の点、及び、広いHOMO−LUMOのバンドギャップの点から、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、チアゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、イミダゾピリジン環、カルバゾール環由来の基が好ましい。
【0063】
この中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、トリアジン環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、ベンゾイミダゾール環、イミダゾピリジン環、カルバゾール環由来の基がより好ましい。また、ベンゼン環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、ベンゾイミダゾール環、イミダゾピリジン環、カルバゾール環由来の基がより好ましい。
【0064】
さらに、Aは、ピリジン環又はカルバゾール環由来の基が、特に好ましい。
ピリジン環由来の基の中でも、ピリジン環の2,4,6−位に置換基を有するものは、電気的酸化還元安定性に優れるため、好ましい。また、このピリジン環に結合する置換基は任意であるが、アリール基又はヘテロアリール基であることが好ましい。
また、カルバゾール環由来の基の中でも、アルキル基、アミノ基、アルコキシ基等の電子供与性基を置換基として有さないものが、電気的還元耐久性を低下させないため、好ましい。
【0065】
さらに、式(3)において、Aは置換基を有していてもよい。Aが有していてもよい置換基は任意であるが、その具体例としては、Zが有し得る置換基として前述したものと同様のものが挙げられる。
【0066】
また、Aの分子量は、その置換基も含めて、通常1000以下、好ましくは500以下である。Aの分子量をこの範囲とすることにより、蒸着法を用いた成膜の際、電荷輸送材料の気化温度が極度に高温となることを防止できる。また、湿式法を用いた成膜の際、電荷輸送材料の溶媒に対する溶解性を損なうことを防止できる。これにより、本発明の電荷輸送材料を用いて良好な特性の有機EL素子を得ることができる。
【0067】
以下、A,Zについて、それぞれ具体例を例示する。
まず、A、及び、n=1の場合のZの具体例としては、以下の基R−1〜R−88が挙げられる。ただし、以下の具体例において、L1及びL2はそれぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表わす。また、ここで例示した基は、L1及びL2以外にも置換基を有していてもよい。なお、Phはフェニル基を表わす。
【0068】
【化10】

【0069】
【化11】

【0070】
【化12】

【0071】
また、nが2以上の場合のZの具体例としては、以下の結合及び基が挙げられる。なお、Z−1で表わしたものは直接結合を表わし、Z−2〜Z−184で表わしたものは基を表わす。
【化13】

【0072】
【化14】

【0073】
【化15】

【0074】
【化16】

【0075】
また、式(3)で表わされる化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
カルバゾール系化合物(トリアリールアミン系化合物を含む)としては、特開昭63−235946号公報、特開平2−285357号公報、特開平2−261889号公報、特開平3−230584号公報、特開平3−232856号公報、特開平5−263073号公報、特開平6−312979号公報、特開平7−053950号公報、特開平8−003547号公報、特開平9−157643号公報、特開平9−268283号公報、特開平9−165573号公報、特開平9−249876号公報、特開平9−310066号公報、特開平10−041069号公報、特開平10−168447号公報、欧州特許第847228号明細書、特開平10−208880号公報、特開平10−226785号公報、特開平10−312073号公報、特開平10−316658号公報、特開平10−330361号公報、特開平11−144866号公報、特開平11−144867号公報、特開平11−144873号公報、特開平11−149987号公報、特開平11−167990号公報、特開平11−233260号公報、特開平11−241062号公報、WO−00/70655号公報、米国特許第6562982号明細書、特開2003−040844号公報、特開2001−313179号公報、特開2001−257076号公報、特願2003−202925号明細書、特願2003−204940号明細書、特願2003−299512号明細書等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
【0076】
また、フェニルアントラセン誘導体としては、特開2000−344691号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
さらに、縮環アリーレンのスターバースト型化合物としては、特開2001−192651号公報、特開2002−324677号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
【0077】
また、縮環型イミダゾール系化合物としては、「Appl. Phys. Lett., 78巻, 1622項、2001」、特開2001−335776号公報、特開2002−338579号公報、特開2002−319491号公報、特開2002−367785号公報、特開2002−367786号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
【0078】
さらに、アゼピン系化合物としては、特開2002−235075号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
また、縮環型トリアゾール系化合物としては、特開2002−356489号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
さらに、プロペラ型アリーレン系化合物としては、特開2003−027048号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
【0079】
また、モノトリアリールアミン型化合物としては、特開2002−175883号公報、特開2002−249765号公報、特開2002−324676号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
さらに、アリールベンジジン系化合物としては、特開2002−329577号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
【0080】
また、トリアリール硼素化合物としては、特開2003−031367号公報、特開2003−031368号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
さらに、インドール系化合物としては、特開2002−305084号公報、特開2003−008866号公報、特開2002−015871号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
【0081】
また、インドリジン系化合物としては、特開2000−311787号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
さらに、ピレン系化合物としては、特開2001−118682号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
また、ジベンゾオキサゾール(又はジベンゾチアゾール)系化合物としては、特開2002−231453号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
【0082】
さらに、ビピリジル系化合物としては、特開2003−123983号公報等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
また、ピリジン系化合物としては、特願2003−347307号明細書、特願2003−374430号明細書等に電荷輸送材料として記載の化合物などが挙げられる。
【0083】
これらの中でも、有機EL素子としての優れた発光特性の点から、カルバゾール系化合物(トリアリールアミン系化合物を含む)、縮環アリーレンのスターバースト型化合物、縮環型イミダゾール系化合物、プロペラ型アリーレン系化合物、モノトリアリールアミン型化合物、インドール系化合物、インドリジン系化合物、ビピリジル系化合物、ピリジン系化合物等が好ましい。
更に、有機EL素子としての駆動寿命の点から、カルバゾール系化合物及びピリジン系化合物がより好ましい。
電荷輸送材料として、とりわけ好ましい化合物の具体例を以下に示す。
【0084】
【化17】

【0085】
【化18】

【0086】
【化19】

【0087】
また、電荷輸送材料として用いる化合物は、そのバンドギャップが、通常3.0V以上、好ましくは3.2V以上、より好ましくは3.5V以上のものが望ましい。燐光発光性色素、とりわけ緑〜青色発光性色素は、バンドギャップが大きく、この燐光発光性色素を用いて有機EL素子を作製する場合には、燐光発光性色素をとりまく電荷輸送材料は、通常、この燐光発光色素のバンドギャップ以上のバンドギャップを有していることが、有機EL素子としての発光効率や寿命の点で好ましいのためである。なお、バンドギャップはサイクリックボルタンメトリーにより測定することができる。
【0088】
さらに、電荷輸送材料として用いる化合物は、そのガラス転移点が、通常70℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上であることが望ましい。ガラス転移点が低すぎると、有機EL素子としての耐熱性が低下する虞があるほか、駆動寿命が短くなる可能性があるためである。
【0089】
また、電荷輸送材料として用いる化合物は、その気化温度が、常圧条件下で、通常300℃以上、好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上、また、通常700℃以下、好ましくは600℃以下、さらに好ましくは550℃以下である。本発明の電荷輸送材料を蒸着法により成膜する場合や昇華法を用いて精製する場合に、高温による劣化を招く虞があるためである。
【0090】
さらに、本発明の電荷輸送材料に用いる化合物の分子量は、通常4000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、また、通常300以上、好ましくは400以上、より好ましくは500以上である。分子量が大きすぎると昇華性が低下し、例えば蒸着による薄膜形成が困難になる傾向がある。また、その合成の過程において、有機EL素子としての駆動寿命を損ない得る、除去が困難な不純物(即ち、CH基を有する化合物)が生成しがちであるため、後述するように有機EL素子を構成する層に使用する電荷輸送材料として適さなくなる虞がある。一方、分子量が小さすぎると、例えば、昇華温度が低くなりすぎるため蒸着による薄膜形成が困難になったり、融点やガラス転移点が低下して耐熱性が低下したり、あるいは、容易に結晶化が起こって成膜性(アモルファス性)が低下したりする虞がある。
【0091】
<2.酸化電位>
本発明の電荷輸送材料の酸化電位は通常+0.8V以上であり、好ましくは+1.0V以上、より好ましくは+1.2V以上である。従来、前述のように、本発明の電荷輸送材料を有機EL素子に用いた場合に、CH基の酸化によりC−H結合解裂が生じ、それにより、有機EL素子の駆動電圧上昇及び駆動寿命低下が発生するという課題があった。これに対し、本発明の電荷輸送材料を用いれば、この駆動電圧上昇及び駆動寿命低下の発生を抑制することができるが、酸化電位が+0.8V未満であると、分子内の他の部位が主として酸化を受け、CH基が酸化される確率が低下するため、CH基に由来する駆動電圧上昇や駆動寿命低下が発生する確率が著しく低下する。このため、酸化電位が+0.8V以上の電荷輸送材料において本発明を適用することが望まれるのである。
【0092】
また、本発明における酸化電位は、以下に述べるような電気化学測定(サイクリックボルタンメトリー)によって測定することができる。なお、測定に用いられる支持電解質、溶媒および電極については、以下に示す例示物に限定されるわけではなく、同程度の測定が可能なものであれば任意のものを用いることができる。
【0093】
支持電解質として、例えば過塩素酸テトラブチルアンモニウムやヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム等を0.1mol/L程度含有させた有機溶媒に、測定対象材料(本発明の電荷輸送材料)を0.1〜2mM程度溶解させる。こうして得られた溶液を、作用電極として例えばグラッシーカーボン電極を用い、対電極として例えば白金電極を用い、掃引速度100mV/secにて電解酸化(又は還元)する。電解酸化(又は還元)時の電位を、例えばフェロセン等の基準物質の酸化還元電位と比較することにより、測定対象材料の酸化電位を得る。こうして得られた酸化電位を、更に飽和甘コウ電極(SCE)を基準電極として換算した値が、本発明における酸化電位である。
なお、用いられる有機溶媒としてはアセトニトリル、塩化メチレン、およびテトラヒドロフランなど、本発明の電荷輸送材料を良く溶解させ、且つ、それ自身が電解酸化(又は還元)されにくい、したがって、電位窓を広くとることができるものが用いられる。
【0094】
<3.CH基>
本発明の電荷輸送材料は、CH基の存在割合が、重量比(即ち、「CH重量」/「電荷輸送材料の総重量」)で、通常0〜70ppmの範囲である。即ち、上記存在割合は、通常70ppm以下であり、50ppm以下が好ましく、30ppm以下がより好ましい。とりわけ、本発明の電荷輸送材料を、大きい酸化電位(具体的には、酸化電位が+1.5V以上)を有する正孔阻止材料に用いる場合には、上記存在割合は10ppm以下であるのが特に好ましい。
【0095】
前述のように、有機化合物中において、CH基は、電気的酸化を受けた場合にC−H結合解裂を起こし、分解劣化しやすい部位であることを本発明者らは見出した。したがって、こうした劣化中心となりうる部位を70ppm以下に抑えることにより、電荷輸送材料のC−H結合解裂を抑制し、それを用いた有機EL素子の駆動電圧上昇及び駆動寿命低下を抑制することが可能となる。なお、CH基の存在割合が70ppmを越えると、有機EL素子の駆動電圧上昇が、定電圧制御型デバイスとしては不適となるレベルにまで増大する上、定電流制御型デバイスとした場合の有機EL素子の輝度低下速度も、実用可能な範囲から逸脱してしまう虞がある。
【0096】
ただし、CH基は、芳香環の骨格に含まれない部分であり、したがって、CH基の炭素原子は芳香環を構成する炭素原子ではない。
また、CH基は、少なくとも1つのアリール基またはヘテロアリール基と単結合によって直接結合している基である。このように、アリール基またはヘテロアリール基と直接結合している場合に、CH基は分解劣化しやすい部位となる。したがって、アリール基またはヘテロアリール基と直接結合しているCH基は、存在割合を上記範囲のように小さくすることが望ましい。
さらに、CH基は、少なくとも1つのカルボニル基と単結合によって直接結合している場合にも、上記のように分解劣化しやすい部位となることがある。したがって、カルボニル基と直接結合しているCH基も、存在割合を上記範囲のように小さくすることが望ましい。
【0097】
よって、CH基は、少なくとも1つの、アリール基、ヘテロアリール基またはカルボニル基と直接結合するか、或いは、少なくとも1つの、アリール基またはヘテロアリール基と直接結合する基であり、このようなCH基が少ないことにより、有機EL素子の駆動電圧上昇及び駆動寿命低下を抑制することが可能となる。ただし、CH基がアリール基またはヘテロアリール基と直接結合している場合に、このCH基は特に分解劣化しやすい部位となることから、少なくとも1つのアリール基またはヘテロアリール基と直接結合するCH基の存在割合を上記のように小さくすることがより好ましい。
ここで、CH基が直接結合するアリール基及びヘテロアリール基に制限はなく、任意のアリール基及びヘテロアリール基が当てはまるが、詳しくは、式(3)におけるAと同様である。
【0098】
さらに、CH基が有する3本の結合手の内の少なくとも1本にアリール基、ヘテロアリール基またはカルボニル基が直接結合した際、残りの結合手に直接結合する基は任意である。即ち、CH基がアリール基、ヘテロアリール基またはカルボニル基と1本の結合手で結合した場合には、残りの2本の結合手に任意の基が直接結合することができ、アリール基、ヘテロアリール基またはカルボニル基が2つの結合手で結合した場合には、残りの1本の結合手に任意の基が直接結合することができる。また、残りの結合手には、水素原子が直接結合していても良い。さらに、アリール基、ヘテロアリール基またはカルボニル基がCH基に3つ直接結合している場合も含まれることは言うまでもない。
【0099】
CH基の残りの結合手に直接結合する、アリール基、ヘテロアリール基及びカルボニル基以外の基の具体例としては、アルケニル基、アルキニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、アシルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基類、シリル基類、ボリル基類、ホスフィノ基類などが挙げられる。なお、これらは置換基を有していてもよい。
【0100】
また、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアルケニル基である場合、その炭素数は通常2以上9以下である。その具体例としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等が挙げられる。
さらに、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアルキニル基である場合、その炭素数は通常2以上9以下である。その具体例としては、エチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。
【0101】
また、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアルキルアミノ基である場合、その炭素数は通常1以上8以下である。その具体例としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基等が挙げられる。
さらに、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアリールアミノ基である場合、その炭素数は通常6以上14以下である。その具体例としては、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等が挙げられる。
【0102】
また、CH基の残りの結合手に直接結合する基が5又は6員環のヘテロアリール環を有するヘテロアリールアミノ基である場合、その炭素数は通常6以上14以下である。その具体例としては、ピリジルアミノ基、チエニルアミノ基、ジチエニルアミノ基等が挙げられる。
さらに、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアシルアミノ基である場合、その炭素数は通常2以上10以下である。その具体例としては、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
【0103】
また、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアルコキシ基である場合、その炭素数は通常1以上8以下である。その具体例は、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
さらに、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアリールオキシ基である場合、その炭素数は通常6以上12以下である。その具体例としては、フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0104】
また、CH基の残りの結合手に直接結合する基が5又は6員環のヘテロアリール環を有するヘテロアリールオキシ基である場合、その炭素数は通常6以上14以下である。その具体例としては、ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられる。
さらに、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアシル基である場合、その炭素数は通常2以上10以下である。その具体例としては、ホルミル基、アセチル基等が挙げられる。
【0105】
また、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアルコキシカルボニル基である場合、その炭素数は通常2以上10以下である。その具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
さらに、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアリールオキシカルボニル基である場合、その炭素数は通常7以上13以下である。その具体例としては、フェノキシカルボニル基等が挙げられる。
【0106】
また、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアルキルカルボニルオキシ基である場合、その炭素数は通常2以上10以下である。その具体例としては、アセトキシ基等が挙げられる。
さらに、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアルキルチオ基である場合、その炭素数は通常1以上8以下である。その具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。
【0107】
また、CH基の残りの結合手に直接結合する基がアリールチオ基である場合、その炭素数は通常6以上12以下である。その具体例としてはフェニルチオ基、1−ナフチルチオ基等が挙げられる。
さらに、CH基の残りの結合手に直接結合する基がスルホニル基類である場合、スルホニル基類にはスルホニル基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は通常1以上10以下である。その具体例としては、トシル基、メシル基などが挙げられる。
【0108】
また、CH基の残りの結合手に直接結合する基がシリル基類である場合、シリル基類にはシリル基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は、通常3以上30以下である。その具体例としては、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
さらに、CH基の残りの結合手に直接結合する基がボリル基類である場合、ボリル基類にはボリル基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は通常8以上28以下である。その具体例としては、ジメシチルボリル基等が挙げられる。
【0109】
また、CH基の残りの結合手に直接結合する基がホスフィノ基類である場合、ホスフィノ基類にはホスフィノ基にアルキル基やアリール基等の炭化水素基が置換したものも含む。その炭素数は通常8以上28以下である。その具体例としては、ジフェニルホスフィノ基等が挙げられる。
ただし、好ましくないCH基の順序としては、置換基を3つ有する3級炭素型CH基が最も素子寿命低下及び駆動電圧上昇を助長するために最も好ましくなく、次には置換基を2つ有する2級炭素型が好ましくなく、その次には置換基を1つ有する1級炭素型が好ましくない。
【0110】
また、本発明の電荷輸送材料は、アリール基と直接結合しているCH基、又は、ヘテロアリール基と直接結合しているCH基と、カルボニル基と直接結合しているCH基とが、一分子内に両方とも存在する化合物を含有しないことが好ましい。
【0111】
<4.CH基の存在割合の算出>
ここで、電荷輸送材料中におけるCH基の存在割合を算出する方法を説明する。
CH基の存在割合を算出する第1の算出方法としては、次のような方法がある。即ち、後述する分析方法を用いて、電荷輸送材料中に存在する化合物の分子構造が同定できた場合、高速液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ等を用い、電荷輸送材料中で、CH基を有する化合物が存在する割合(重量比;以下、PMと表記する)を導出し、CH基を有する化合物中で、CH基が占める割合(重量比;以下、RCHと表記する)を求める。これにより、電荷輸送材料全体に占めるCH基の割合(重量比;以下、PCHと表記する)を得ることができる。
【0112】
即ち、CH基を有する単一または複数の化合物の総重量をWMとし、CH基を有さない単一または複数の化合物の総重量をWAとすると、下記式(6)が成立する。
M=WM/(WA+WM) ・・・式(6)
ここで、CH基のモル重量(=13.019)をMCHとし、CH基を有する単一または複数の化合物の分子量の平均値をMMとすると、下記式(7)が成立する。
CH=MCH/MM ・・・式(7)
【0113】
したがって、PCHは下記式(8)により算出される。
CH=RCH×PM ・・・式(8)
これを用いて、例えば、高速液体クロマトグラフのUV吸収ピーク面積からPMを算出し、それとCH基を有する化合物の分子量とから、PCHを得ることができる。また、ここでのUV吸収ピーク面積の測定には波長254nmのUV光を使用することができる。
【0114】
なお、第1の算出方法によりCH基の存在割合を算出する場合、電荷輸送材料中に存在する化合物の分子構造を同定する分析方法としては、後述する分析方法の中でも特に、質量分析(高速液体クロマトグラフと組合せた、所謂LC−MSを含む)、各種NMR測定、元素分析、高速液体クロマトグラフ、薄層クロマトグラフ等を利用した標品との比較に基づく不純物の同定などを用いることが好ましい。
【0115】
また、CH基の存在割合を算出する第2の算出方法としては、次のような方法がある。即ち、後述する分析方法を用いることにより、電荷輸送材料全体を構成する元素比率や置換基構成、分子部分構造などを明らかにし、次いで、1H−NMRスペクトル(2次元NMRスペクトルを含む)から、CH基の存在割合を上記スペクトルの積分比から導き出す。
【0116】
なお、第2の算出方法によりCH基の存在割合を算出する場合、電荷輸送材料中に存在する化合物の分子構造を同定する分析方法としては、後述する分析方法の中でも特に、元素分析、質量分析、NMRスペクトル、原子吸光分析、蛍光X線分析(ファンダメンタルパラメーター法を含む)、ICP(=誘導結合プラズマ)発光分析、X線光電子分光法などを用いることが好ましい。
【0117】
電荷輸送材料中に存在する化合物の分子構造を同定する分析方法としては、公知の分析方法を任意に用いることができる。分析方法の例としては、ガスクロマトグラフ(GC)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、高速アミノ酸分析計(AAA)、キャピラリー電気泳動測定(CE)、サイズ排除クロマトグラフ(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、交差分別クロマトグラフ(CFC)質量分析(MS、LC−MS,GC−MS,MS/MS)、核磁気共鳴装置{NMR(1H−NMR,13C−NMR)}、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)、紫外可視近赤外分光光度計(UV.VIS,NIR)、電子スピン共鳴装置(ESR)、透過型電子顕微鏡(TEM−EDX)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)、金属元素分析{イオンクロマトグラフ、誘導結合プラズマ−発光分光(ICP−AES)、原子吸光分析(AAS)、蛍光X線分析装置(XRF)}、非金属元素分析、微量成分分析(ICP−MS,GF−AAS,GD−MS)等が挙げられる。
【0118】
さらに具体的に分析方法の一例を挙げて説明する。
有機化合物を構成材料とする電荷輸送材料は有機溶剤に可溶であるため、まずHPLCを用いて構成成分を検出する。次にHPLCにて検出された成分についてLC−MSによる分子量測定を行なう。一方、HPLCにより得られた成分を分取HPLCにより各成分分取を実施し、分取された各成分を1H−NMRにて構造確認を実施することにより推定構造が得られる。より確実にするために13C−NMRを測定するとなおよい。HPLCの代わりにGPCを用いて各分子量ごとに分取し、同様に1H−NMRを用いて構造確認する方法でもよい。さらにFT−IR、元素分析等を実施することにより、構成元素、構成置換基がより明確に推定可能となる。
【0119】
以上の分析結果より、電荷輸送材料構成成分の構造を推定することができる。特にNMRでCH基存在の有無はほぼ明確に確認できるため、完全な構造一致が困難な場合でも、CH基を有するか否かは判断でき得る。
またCH基の含有量は、上記構造決定に用いたHPLC等により、CH基を有する構成材料の電荷輸送材料に対する成分比を求め、例えば第1の算出方法により算出することにより得ることができる。
【0120】
<5.CH基の排除>
次に、電荷輸送材料中のCH基を排除して、本発明の電荷輸送材料を製造する方法を説明する。
本発明の電荷輸送材料の製造方法に制限はなく、任意の方法を用いることができるが、例えば、
(a)CH基を含まない原料のみを使用して電荷輸送材料を製造する方法
(b)原料、中間体、最終合成物の何れかの段階で、各種精製方法を用いて、CH基を有する化合物(不純物)を、排除する方法
などが挙げられる。
【0121】
上記の方法(b)における精製方法としては、公知の方法を任意に用いることができるが、例えば、「分離精製技術ハンドブック」(1993年、(財)日本化学会編)、「化学変換法による微量成分および難精製物質の高度分離」(1988年、(株)アイ ピー シー発光)、あるいは「実験化学講座(第4版)1」(1990年、(財)日本化学会編)の「分離と精製」の項に記載の方法などを用いることができる。
【0122】
具体例としては、抽出(懸濁洗浄、煮沸洗浄、超音波洗浄、酸塩基洗浄を含む)、吸着、吸蔵、融解、晶析(溶媒からの再結晶、再沈殿を含む)、蒸留(常圧蒸留、減圧蒸留)、蒸発、昇華(常圧昇華、減圧昇華)、イオン交換、透析、濾過、限外濾過、逆浸透、圧浸透、帯域溶解、電気泳動、遠心分離、浮上分離、沈降分離、磁気分離、各種クロマトグラフィー(形状分類:カラム、ペーパー、薄層、キャピラリー等。移動相分類:ガス、液体、ミセル、超臨界流体等。分離機構:吸着、分配、イオン交換、分子ふるい、キレート、ゲル濾過、排除、アフィニティー等。)などが挙げられる。
【0123】
<6.電荷輸送材料の用途>
本発明の電荷輸送材料は任意の用途に用いることができるが、有機EL素子に用いて好適である。例えば、有機EL素子の正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、正孔注入層の材料として好ましく用いることができる。
【0124】
中でも、本発明の電荷輸送材料を正孔輸送層の材料(正孔輸送材料)として用いる場合には、本発明の電荷輸送材料は、正孔の注入がされやすく、また、正孔の輸送能が大きいものが好ましい。
上記観点から、本発明の電荷輸送材料を正孔輸送材料として用いる場合、本発明の電荷輸送材料の酸化電位は、+1.4V以下が好ましく、+1.35V以下がより好ましく、+1.3V以下が特に好ましい。
【0125】
さらに、本発明の電荷輸送材料を正孔輸送材料として用いる場合、本発明の電荷輸送材料の正孔移動度は、1×10-5cm2/V・sec以上が好ましく、5×10-5cm2/V・sec以上がより好ましく、1×10-4cm2/V・sec以上が特に好ましい。なお、正孔移動度は、ガラス基盤/ITO膜/本発明の電荷輸送材料の膜(2〜10μm)/アルミニウム膜をこの順に積層し、TOF移動度測定法により測定することができる。
【0126】
また、本発明の電荷輸送材料を正孔阻止層の材料(正孔阻止材料)として用いる場合には、本発明の電荷輸送材料は、電子の注入がされやすく、また、電子の輸送性能が正孔の輸送性能に比べて大きく、さらに、正孔注入機能が低いものが好ましい。
上記観点から、本発明の電荷輸送材料を正孔阻止材料として用いる場合、本発明の電荷輸送材料の酸化電位は、+1.5V以上が好ましく、+1.6V以上がより好ましく、+1.7V以上が特に好ましい。
【0127】
さらに、本発明の電荷輸送材料を正孔阻止材料として用いる場合、本発明の電荷輸送材料の電子移動度は、1×10-5cm2/V・sec以上が好ましく、5×10-5cm2/V・sec以上がより好ましく、1×10-4cm2/V・sec以上が特に好ましい。なお、電子移動度は、上記のTOF移動度測定法により測定することができる。
また、本発明の電荷輸送材料を正孔阻止材料として用いる場合、本発明の電荷輸送材料の正孔移動度は、1×10-5cm2/V・sec以下が好ましく、1×10-7cm2/V・sec以下がより好ましく、1×10-9cm2/V・sec以下が特に好ましい。
【0128】
[II.有機電界発光素子]
以下、本発明の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に用いられる一般的な有機EL素子の構造例を模式的に示す断面図であり、1は基板、2は陽極、4は正孔輸送層、5は発光層(有機発光層)、6は正孔阻止層、8は陰極を各々表わす。さらに、本発明の一実施形態であるこの有機EL素子においては、正孔輸送層4、正孔阻止層6、並びに、後述する電子輸送層7及び正孔注入層3のうち少なくともいずれかが、本発明の電荷輸送材料のみにより形成され、且つ/又は、発光層5が、本発明の電荷輸送材料とドーパントとから形成されることが望ましい。
以下、詳細に説明する。
【0129】
<1.基板>
基板1は有機EL素子の支持体となるものである。その材質や形状は任意であるが、例えば、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板1のガスバリア性が小さすぎると、基板1を通過した外気により有機EL素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0130】
<2.陽極>
基板1上には陽極2が設けられる。陽極2は正孔輸送層4への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極の材質は任意であるが、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/またはスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、あるいは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。
【0131】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などの粉末材料を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に粉末材料を分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。
さらに、導電性高分子を用いて陽極2を形成する場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0132】
また、陽極2は、異なる物質で積層して形成することも可能である。
陽極2の厚みは任意であるが、通常、必要とする透明性により設定することが望ましい。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましい。この場合、陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0133】
<3.正孔輸送層>
陽極2上(又は、後述する正孔注入層3上)には、正孔輸送層4が設けられている。この正孔輸送層4は、正孔を効率よく発光層5に注入するために、陽極2と発光層5との間に設けられる。よって、正孔輸送層4の材料(以下適宜「正孔輸送材料」という)に要求される条件としては、陽極2からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、発光層5に接するために発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させないことが求められる。
【0134】
上記の一般的要求以外に、車載表示用等への応用を考えた場合、有機EL素子にはさらに耐熱性が要求される。したがって、正孔輸送層4の材料としては、ガラス転移温度Tgとして85℃以上の値を有する材料が望ましい。また、これは、正孔注入層3、発光層5、正孔阻止層6、電子輸送層7、などの正孔輸送層4以外の層の材料についても同様である。
【0135】
前述のように、正孔輸送層4の材料である正孔輸送材料として、本発明の電荷輸送材料を用いることができる。この際、正孔輸送材料として本発明の電荷輸送材料に無機材料からなる電荷輸送材料を混合して用いても良いが、通常は、本発明の電荷輸送材料のみを用い、正孔輸送層4を、本発明の電荷輸送材料のみからなる層として形成することが望ましい。これにより、有機EL素子の駆動寿命を向上させるとともに、駆動電圧上昇を抑制することができる。また、この場合、正孔輸送材料として用いることができる化合物の具体例としては、下記式で表されるものなどが挙げられる。
【0136】
【化20】

【0137】
また、正孔輸送材料として本発明の電荷輸送材料以外の材料を用いる場合、このような正孔輸送材料としては、例えば、4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4′,4″−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72巻−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2′,7,7′−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9′−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)等が挙げられる。
【0138】
また、上記の化合物のほか、正孔輸送層4の材料として、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等の高分子材料を用いることも可能である。
なお、これら正孔輸送材料として用いられる化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0139】
正孔輸送層4の形成方法は任意であるが、通常は、塗布法又は真空蒸着法により形成することができる。
塗布法の場合は、正孔輸送材料と、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを混合し、溶媒又は分散媒に溶解又は分散して塗布液を調製する。その後、調製した塗布液をスピンコート法などの方法により陽極2上に塗布し、溶媒又は分散媒を乾燥、除去して正孔輸送層4を形成する。
【0140】
溶媒及び分散媒は、正孔輸送材料等の種類に応じて、任意のものを用いればよい。
また、バインダー樹脂は任意であるが、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等を用いることが出来る。ただし、バインダー樹脂がCH基を有していると、そこから前述した分解劣化が生じる虞があるため、塗布法に用いるバインダー樹脂としては、CH基の含有割合が小さいか、又はCH基を有さないバインダー樹脂を用いることが好ましい。このようなバインダー樹脂の具体例としては、ポリアセチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、下記化合物(P−1),(P−3)などが挙げられる。なお、下記式においてmはそれぞれ独立に正の数を表わす。
【化21】

【0141】
さらに、バインダー樹脂は、その使用量が多いと正孔移動度を低下させる虞があるので、使用量は少ない方が望ましく、通常、50重量%以下が好ましい。
なお、バインダー樹脂や添加剤の酸化電位が+0.8V以上である場合、正孔輸送層4に含まれるCH基の存在割合を70ppm以下とすることができるのであれば、正孔輸送材料、バインダー樹脂、添加剤などをまとめて、本発明の電荷輸送材料とみなすこともできる。これにより、バインダー樹脂や添加剤などの正孔輸送材料以外の材料を用いた場合でも、正孔輸送層4を、本発明の電荷輸送材料のみからなる層として形成することが可能となる。
【0142】
一方、真空蒸着法の場合には、陽極2上に正孔輸送材料を蒸着させて、正孔輸送層4を形成する。具体的操作の一例を挙げると、正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた、陽極2が形成された基板1上に正孔輸送層4を形成させる。
また、正孔輸送層4の膜厚は任意であるが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。このように薄い層を一様に形成するためには、一般に、真空蒸着法がよく用いられる。
【0143】
<4.発光層>
正孔輸送層4の上には発光層5が設けられている。発光層5は、発光材料を含有し、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入されて正孔輸送層4を移動する正孔と、陰極8から注入されて正孔阻止層6を移動する電子との再結合により励起されて、強い発光を示す。
なお発光層5は、本発明の性能を損なわない範囲で、発光材料以外の材料を含んでいてもよい。
【0144】
発光層5に用いられる発光材料は任意である。ただし、一般に、発光材料は、安定な薄膜形状を有し、固体状態で高い発光(蛍光または燐光)量子収率を示し、正孔及び/又は電子を効率よく輸送することができる化合物であることが望ましい。さらに電気化学的かつ化学的に安定であり、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくい化合物であることが要求される。
【0145】
このような条件を満たし、蛍光を発する有機発光層を形成する材料としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体(特開平6−322362号公報)、ビススチリルベンゼン誘導体(特開平1−245087号公報、同2−222484号公報)、ビススチリルアリーレン誘導体(特開平2−247278号公報)、(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体(特開平8−315983号公報)、シロール誘導体、等が挙げられる。これらの発光層材料は、通常は真空蒸着法により正孔輸送層上に積層される。また、前述の正孔輸送層材料のうち、発光性を有する芳香族アミン系化合物も発光層材料として用いることが出来る。
【0146】
また、発光材料は、ドーパントとホスト材料とから形成されることがある。この場合、ホスト材料には本発明の電荷輸送材料を用い、発光層5を、前述のように、本発明の電荷輸送材料及びドーパントから形成された層とすることが望ましい。さらに、発光層5は、本発明の電荷輸送材料及びドーパントのみで形成された層とすることがより望ましい。これにより、有機EL素子の駆動寿命を向上させるとともに、駆動電圧上昇を抑制することができる。また、ドーパントもCH基を有していない方が好ましい。
【0147】
また、このような場合、燐光発光を示す発光層は、ドーパントとして燐光性ドーパントを含んで形成される。燐光性ドーパントに制限はなく任意のものを用いることができるが、例えば、周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられ、該金属錯体のT1(最低励起三重項準位)より高いT1を有する電荷輸送性有機化合物をホスト材料として使用することが好ましい。
【0148】
周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む燐光性有機金属錯体における金属として好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記式(9)または式(10)で表される化合物が挙げられる。
【0149】
ML(q-j)L′j ・・・式(9)
{式(9)中、Mは金属を表わし、qは上記金属の価数を表わす。また、L及びL′は二座配位子を表わす。さらに、jは0、1又は2を表わす。}
【化22】

{式(10)中、M7は金属を表わし、Tは炭素又は窒素を表わす。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表わす。ただし、Tが窒素の場合は、R94及びR95は無い。}
【0150】
以下、まず、式(9)で表わされる化合物について説明する。
式(9)中、Mは任意の金属を表わし、好ましいものの具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
また、式(9)中の二座配位子L及びL′は、それぞれ、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【化23】

【0151】
上記L,L′の部分構造において、環A1″及び環A1′は、それぞれ独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わし、これらは置換基を有していてもよい。また、環A2及び環A2′は、それぞれ独立に、含窒素芳香族複素環基を表わし、これらは置換基を有していてもよい。さらに、R′、R″およびR″′は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシカルボニル基、メトキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基、アシル基、ハロアルキル基又はシアノ基を表す。
【0152】
式(9)で表される化合物として、さらに好ましくは、下記式(9a)、(9b)、(9c)で表される化合物が挙げられる。
【化24】

{式(9a)中、M4はMと同様の金属を表わし、wは上記金属の価数を表わす。また、環A1″は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表わし、環A2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。)
【0153】
【化25】

{式(9b)中、M5はMと同様の金属を表わし、wは上記金属の価数を表わす。また、環A1″は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表わし、環A2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。)
【0154】
【化26】

ただし、式(9c)中、M6はMと同様の金属を表わし、wは上記金属の価数を表わす。また、jは0、1又は2を表わす。さらに、環A1″及び環A1′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。また、環A2および環A2′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。
【0155】
上記式(9a)、(9b)、(9c)において、環A1″および環A1′としては、好ましくは、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0156】
また、環A2、環A2′としては、好ましくは、例えばピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
【0157】
更に、式(9a)、(9b)、(9c)で表される化合物が有していてもよい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0158】
また、置換基がアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。さらに、置換基がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。また、置換基がアルコキシカルボニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。さらに、置換基がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。また、置換基がアリールオキシ基である場合は、その炭素数は通常6以上14以下である。さらに、置換基がジアルキルアミノ基である場合は、その炭素数は通常2以上24以下である。また、置換基がジアリールアミノ基である場合は、その炭素数は通常12以上28以下である。さらに、置換基がアシル基である場合は、その炭素数は通常1以上14以下である。また、置換基がハロアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上12以下である。
【0159】
なお、これら置換基は互いに連結して環を形成しても良い。具体例としては、環A1″が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、または、環A1′が有する置換基と環A2′が有する置換基とが結合するかして、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
中でも、環A1″、環A1′、環A2及び環A2′の置換基として、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。
【0160】
また、式(9a)、(9b)、(9c)におけるM4,M5として好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられる。
上記式(9)、(9a)、(9b)又は(9c)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示す。ただし、ドーパントは下記の化合物に限定されるものではない。
【0161】
【化27】

【0162】
【化28】

【0163】
さらに、上記式(9)、(9a)、(9b)、(9c)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子L及び/又はL′として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、及び、これに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
【0164】
次に、式(10)で表わされる化合物について説明する。
式(10)中、M7は金属を表わし、具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0165】
また、式(10)において、R92及びR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表わす。
【0166】
さらに、Tが炭素の場合、R94及びR95は、それぞれ独立に、R92及びR93と同様の例示物で表わされる置換基を表わす。また、Tが窒素の場合はR94及びR95は無い。
また、R92〜R95はさらに置換基を有していてもよい。さらに有していてもよい置換基に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
さらに、R92〜R95は互いに連結して環を形成してもよい。
【0167】
式(10)で表わされる有機金属錯体の具体例(T−1,T−10〜T−15)を以下に示す。ただし、ドーパントは、下記の例示物に限定されるものではない。また、Meはメチル基を表わし、Etはエチル基を表わす。
【0168】
【化29】

【0169】
また、前述したように、感光層に使用されるホスト材料としては、本発明の電荷輸送材料を用いることが好ましい。
【0170】
さらに、ホスト材料としては、適宜、本発明の電荷輸送材料以外の材料を用いてもよい。本発明の電荷輸送材料以外のホスト材料としては、燐光性ドーパントに対するホスト材料として、例えば、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(米国特許第63030238号明細書)、2,2′,2″−(1,3,5−ベンゼントリル)トリス[1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール](Appl.Phys.Lett.,78巻,1622項,2001)、ポリビニルカルバゾール(特開2001−257076号公報)等が挙げられる。
【0171】
なお、発光材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。したがって、発光材料としてドーパント及びホスト材料を用いる場合には、ドーパント及びホスト材料は、それぞれ独立に、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0172】
また、本発明の有機EL素子における発光層は、ホスト材料及びドーパント以外の添加物を含有していてもよい。例えば、燐光発光を示す発光層において、任意の蛍光色素を含有していてもよい。
さらに、発光層中にドーパントとして含有される有機金属錯体の量は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常30重量%以下、好ましくは10重量%以下が望ましい。下限値を下回ると有機EL素子の発光効率向上に寄与できない場合があり、上限値を上回ると有機金属錯体同士が2量体を形成する等の理由で濃度消光が生じ、発光効率の低下に至る可能性がある。
【0173】
また、燐光発光を示す発光層における燐光性ドーパントの量は、蛍光(1重項)を用いた有機EL素子において、発光層に含有されるドーパント(蛍光色素)の量より、若干多い方が好ましい傾向がある。また、燐光性ドーパントと共に蛍光色素が発光層中に含有される場合、蛍光色素の量は、0.05重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましい。また10重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。
【0174】
発光層5の形成方法は任意であり、例えば、正孔輸送層4と同様の方法で形成することができる。
塗布法により発光層5を形成する場合は、ホスト材料及びドーパントなどの発光材料と、さらに必要に応じて、電子のトラップや発光の消光剤とならないバインダー樹脂と、レベリング剤等の塗布性改良剤などの添加剤とを混合し、溶媒又は分散媒に溶解又は分散した塗布液を調整する。その後、調製した塗布液をスピンコート法などの方法により正孔輸送層4上に塗布し、溶媒又は分散媒を乾燥、除去して発光層5を形成する。
【0175】
溶媒及び分散媒は、正孔輸送層4と同様、発光材料等の種類に応じて、任意のものを用いればよい。
また、バインダー樹脂の種類や使用量、添加剤などについても、正孔輸送層4の場合と同様である。さらに、発光材料としてドーパント及びホスト材料を用い、更に、バインダー樹脂や添加剤を用いる場合、バインダー樹脂や添加剤の酸化電位が+0.8V以上であるときには、ドーパントを除き発光層5に含まれるCH基の存在割合を70ppm以下とすることができるのであれば、ホスト材料、バインダー樹脂、添加剤などをまとめて、本発明の電荷輸送材料とみなすこともできる。これにより、バインダー樹脂や添加剤などのホスト材料以外の材料を用いた場合でも、発光層5を、本発明の電荷輸送材料及びドーパントからなる層として形成することが可能となる。
【0176】
一方、真空蒸着法の場合には、正孔輸送層4上に発光材料を蒸着させて、発光層5を形成する。具体的操作の一例として、発光材料としてホスト材料とドーパントとを用いた場合について説明すると、ホスト材料を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、また、ドーパントを別のるつぼに入れて、真空容器内を適当な真空ポンプで1.0×10-4Torr程度にまで排気する。その後、各々のるつぼを同時に加熱してホスト材料及びドーパントを蒸発させて、るつぼと向かい合って置かれた基板1の正孔輸送層4上に発光層5を形成する。また、他の操作の例として、発光材料としてホスト材料とドーパントとを予め所定比で混合したものを用意し、その発光材料を同一のるつぼを用いて蒸発させてもよい。
【0177】
ところで、ドーパントを発光層5にドープした場合、通常は発光層5の膜厚方向において均一にドープされるが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。例えば、正孔輸送層4との界面近傍にのみドーパントをドープしたり、逆に、正孔阻止層6界面近傍にのみドーパントをドープしてもよい。
さらに、発光層5の膜厚は任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは20nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。また、発光層5も正孔輸送層4と同様、通常は真空蒸着法により形成される。
【0178】
<5.正孔阻止層>
発光層5の上には、正孔阻止層6が設けられている。この正孔阻止層6は、正孔輸送層4から移動してくる正孔が陰極8に到達するのを阻止し、陰極8から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送するために設けられる。よって、正孔阻止層6の材料(以下適宜「正孔阻止材料」という)に要求される条件としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いことが必要である。これにより、正孔阻止層6は正孔と電子とを発光層5内に閉じ込めて、有機EL素子の発光効率を向上させることができるようになる。
【0179】
上記の観点から、正孔阻止材料のイオン化ポテンシャルは、発光層5の発光材料のイオン化ポテンシャル(発光層5がホスト材料とドーパントとを含んでいる場合には、ドーパントのイオン化ポテンシャル)よりも通常0.1eV以上、好ましくは0.5eV以上大きいことが好ましい。さらに、この場合、ドーパントのイオン化ポテンシャルは、ホスト材料のイオン化ポテンシャルよりも、通常0.1eV以上、好ましくは0.3eV以上小さいことがより好ましい。
【0180】
イオン化ポテンシャルは、物質のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義される。イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接定義されるが、電気化学的に測定した酸化電位を基準電極に対して補正しても求められる。後者の方法の場合、例えば飽和甘コウ電極(SCE)を基準電極として用いたとき、下記式(11)で定義される(“Molecular Semiconductors”,Springer−Verlag,1985年、98頁)。
イオン化ポテンシャル=酸化電位(vs.SCE)+4.3eV ・・・式(11)
【0181】
さらに、正孔阻止材料の電子親和力(EA)は、発光層5の電子親和力(発光層5がホスト材料とドーパントとを含んでいる場合には、ホスト材料の電子親和力)と比較して同等以上であることが好ましい。電子親和力も、イオン化ポテンシャルと同様に、真空準位を基準として、真空準位にある電子が物質のLUMO(最低空分子軌道)レベルに落ちて安定化するエネルギーで定義される。電子親和力は、前述のイオン化ポテンシャルから光学的バンドギャップを差し引いて求められるが、電気化学的な還元電位から下記式(12)を用いても求められる。
電子親和力=還元電位(vs.SCE)+4.3eV ・・・式(12)
【0182】
したがって、正孔阻止材料の酸化電位及び還元電位は、下記式(13),(14)のように表わすこともできる。
(正孔阻止材料の酸化電位)−(発光材料の酸化電位)≧0.1V ・・・式(13)
(正孔阻止材料の還元電位)≧(発光材料の還元電位) ・・・式(14)
【0183】
さらに、後述の電子輸送層7を有する有機EL素子においては、正孔阻止材料の電子親和力は、電子輸送層7の材料(以下適宜「電子輸送材料」という)の電子親和力と比較して、下記式(15)で表わすように、同等以下であることが好ましい。
(電子輸送材料の還元電位)≧(正孔阻止材料の還元電位)≧(発光材料の還元電位)
・・・式(15)
【0184】
前述のように、正孔阻止層7の材料である正孔阻止材料として、本発明の電荷輸送材料を用いることができる。この際、正孔阻止材料として本発明の電荷輸送材料に無機材料からなる電荷輸送材料を混合して用いても良いが、通常は、本発明の電荷輸送材料のみを用い、正孔阻止層7を、本発明の電荷輸送材料のみからなる層として形成することが望ましい。これにより、有機EL素子の駆動寿命を向上させるとともに、駆動電圧上昇を抑制することができる。また、この場合、正孔阻止材料として用いることができる化合物の具体例としては、電荷輸送材料として好ましい化合物の具体例として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0185】
また、本発明の電荷輸送材料以外に正孔阻止材料として用いることができるものとしては、例えば、下記式(16)で表わされる混合配位子錯体が挙げられる。
【化30】

[上記式(16)中、R16〜R21は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表わす。また、M8はアルミニウム、ガリウム、インジウムから選ばれる金属原子を表わす。さらに、L3は、以下に示す式(17a)、(17b)、(17c)のいずれかで表される配位子を表わす。
【0186】
【化31】

{上記式(17a),(17b),(17c)中、Ar11〜Ar15は、それぞれ独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。また、Ar11〜Ar15はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい。さらに、Z3はシリコンまたはゲルマニウムを表わす。}]
【0187】
前記式(16)において、R16〜R21はそれぞれ独立して水素原子又は任意の置換基を表わす。ただし、好ましくは、水素原子;塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ベンジル基等のアラルキル基;ビニル基等のアルケニル基;シアノ基;アミノ基;アシル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;カルボキシル基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基などのジアラルキルアミノ基;トリフルオロメチル基等のα−ハロアルキル基;水酸基;置換基を有していても良い、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;置換基を有していても良い、チエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基を表わす。
【0188】
なお、R16〜R21がアルキル基の場合、その炭素数は通常1以上6以下である。さらに、R16〜R21がアラルキル基の場合、その炭素数は通常7以上12以下である。また、R16〜R21がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。さらに、R16〜R21がアシル基の場合、その炭素数は通常1以上14以下である。また、R16〜R21がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。さらに、R16〜R21がアルコキシカルボニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。また、R16〜R21ががアリールオキシ基の場合、その炭素数は通常6以上14以下である。さらに、R16〜R21がジアルキルアミノ基の場合、その炭素数は通常2以上16以下である。また、R16〜R21がジアラルキルアミノ基の場合、その炭素数は通常14以上24以下である。さらに、R16〜R21がα−ハロアルキル基の場合、その炭素数は通常1以上8以下である。また、R16〜R21が芳香族炭化水素基の場合、その炭素数は通常6以上18以下である。さらに、R16〜R21が芳香族複素環基の場合、その炭素数は通常2以上17以下である。
【0189】
また、R16〜R21が芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基である場合、その芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有しうる置換基としては、上記の式(9a)、(9b)、(9c)で表される化合物が有していてもよい置換基として例示したものと同様の置換基が挙げられる。即ち、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0190】
また、R16〜R21が芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基である場合に、その芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有しうる置換基の炭素数も、上記の式(9a)、(9b)、(9c)で表される化合物が有する置換基の説明において述べた置換基の炭素数と、ジアルキルアミノ基及びハロアルキル基を除いて同様である。即ち、置換基がアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。さらに、置換基がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。また、置換基がアルコキシカルボニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。さらに、置換基がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。また、置換基がアリールオキシ基である場合は、その炭素数は通常6以上14以下である。さらに、置換基がジアルキルアミノ基である場合は、その炭素数は通常2以上16以下である。また、置換基がジアリールアミノ基である場合は、その炭素数は通常12以上28以下である。さらに、置換基がアシル基である場合は、その炭素数は通常1以上14以下である。また、置換基がハロアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上8以下である。
【0191】
ただし、R16〜R21としてより好ましくは、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基等が挙げられる。また特に、R19としては、シアノ基がさらに好ましい。
また、上記式(17a),(17b),(17c)中、Ar11〜Ar15として、具体的には、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、又は、チエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基を表わす。なお、これらAr11〜Ar15はさらに置換基を有していてもよい。その置換基は、R16〜R21が芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基である場合、その芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有しうる置換基として示したものと同様のものが挙げられる。
【0192】
上記式(16)で表わされる化合物の好ましい具体例(HB−1〜HB−20)を以下に示す。ただし、正孔阻止材料となりうる化合物は、下記の化合物に限定されるものではない。
【化32】

【0193】
【化33】

【0194】
さらに、正孔阻止材料としては、上記式(16)で表わされる混合配位子錯体の他に、以下の式(18)で示される1,2,4−トリアゾール環残基を、少なくとも1個有する化合物を用いることができる。
【化34】

【0195】
上記式(18)で表わされる1,2,4−トリアゾール環残基を、少なくとも1個有する化合物の具体例を以下に示す。ただし、1,2,4−トリアゾール環残基を少なくとも1個有する化合物は、下記の例示物に限定されるものではない。なお、t−Buはt−ブチル基を表わす。
【0196】
【化35】

【0197】
また、更に別の正孔阻止材料として、下記式(19)で示されるフェナントロリン環を少なくとも1個有する化合物が挙げられる。
【化36】

【0198】
上記式(19)で表わされるフェナントロリン環を少なくとも1個有する化合物の具体例を以下に示す。ただし、フェナントロリン環を少なくとも1個有する化合物は、下記の例示物に限定されるものではない。
【0199】
【化37】

【0200】
なお、正孔阻止材料は、1種の化合物を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正孔阻止層6の形成方法は任意であるが、通常は、正孔輸送層4と同様、塗布法又は真空蒸着法により形成することができる。
塗布法により正孔阻止層6を形成する場合は、正孔輸送材料に代えて正孔阻止材料を用いるほかは、正孔輸送層4の形成と同様にして層形成を行なうことができる。また、バインダー樹脂や添加剤として適当なものを用いることで、正孔阻止層6を、本発明の電荷輸送材料のみからなる層として形成することが可能となることも同様である。
【0201】
一方、真空蒸着法により正孔阻止層6を形成する場合も、正孔輸送材料に代えて正孔阻止材料を用い、陽極2上に代えて発光層5上に蒸着を行なう他は、正孔輸送層4の形成と同様にして層形成を行なうことができる。
また、正孔阻止層6の膜厚は任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。さらに、正孔阻止層6も正孔輸送層4と同様、通常は真空蒸着法で形成される。
【0202】
<6.陰極>
正孔阻止層6上(又は、後述する電子輸送層7上)には、陰極8が設けられる。陰極8は、正孔阻止層6を介して発光層5に電子を注入する役割を果たすものである。
この陰極8の材質は任意であるが、通常、陽極2に使用される材料を用いることが可能である。ただし、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましい。この観点から、通常は、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属、又はそれらの合金が用いられる。合金の具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金が挙げられる。
【0203】
さらに、陰極8と正孔阻止層6(又は、後述する電子輸送層7上)との界面にLiF、MgF2、Li2O等の極薄絶縁膜(0.1nm〜5nm)を挿入することも、有機EL素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl.Phys.Lett.,70巻,152頁,1997年;特開平10−74586号公報;IEEETrans.Electron.Devices,44巻,1245頁,1997年)。
【0204】
陰極8の形成は、陽極2と同様、通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。さらに、粉末材料や導電性高分子を用いて陰極8を形成する場合には、陽極2と同様、塗布により形成することもできる。
また、陽極2と同様に、陰極8を異なる物質で積層して形成することも可能である。
【0205】
陰極8の膜厚は通常、陽極2と同様である。低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増大させる。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0206】
<7.電子輸送層>
有機EL素子の発光効率をさらに向上させることを目的として、正孔阻止層6と陰極8との間には、図2のように、電子輸送層7を設けることがある。電子輸送層7は、電界を与えられた電極2,8間において、陰極8から注入された電子を効率よく正孔阻止層6の方向に輸送し、陰極8から発光層5に電子を効率よく注入して、発光層5内における正孔と電子との再結合を容易にするために設けられるものである。よって、電子輸送層7の電子輸送材料としては、陰極8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し、さらに、注入された電子を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。
【0207】
前述のように、電子輸送層7の材料である電子輸送材料として、本発明の電荷輸送材料を用いることができる。この際、電子輸送材料として本発明の電荷輸送材料に無機材料からなる電荷輸送材料を混合して用いても良いが、通常は、本発明の電荷輸送材料のみを用い、電子輸送層7を、本発明の電荷輸送材料のみからなる層として形成することが望ましい。これにより、有機EL素子の駆動寿命を向上させるとともに、駆動電圧上昇を抑制することができる。また、この場合、電子輸送材料として用いることができる化合物の具体例としては、電荷輸送材料や正孔阻止材料として好ましい化合物の具体例として例示したものと同様のものなどが挙げられる。
【0208】
また、電子輸送材料として本発明の電荷輸送材料以外の材料を用いる場合、上記の条件を満たす材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−又は5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N′−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0209】
また、正孔阻止層6にフェナントロリン誘導体や金属錯体やアルカリ金属をドープしたり、オキサジアゾール誘導体、キノキサリン化合物、フェナントロリン誘導体等の電子輸送性が高く分子量の小さい有機物をドープする等して、正孔阻止層6の電子輸送能を高めることにより、電子輸送層7を形成することもできる。
【0210】
電子輸送層7の形成方法は任意であるが、通常は、正孔輸送層4と同様、塗布法又は真空蒸着法により形成することができる。
塗布法により電子輸送層7を形成する場合は、正孔輸送材料に代えて電子輸送材料を用いるほかは、正孔輸送層4の形成と同様にして層形成を行なうことができる。また、バインダー樹脂や添加剤として適当なものを用いることで、電子輸送層7を、本発明の電荷輸送材料のみからなる層として形成することが可能となることも同様である。
【0211】
一方、真空蒸着法により電子輸送層7を形成する場合も、正孔輸送材料に代えて電子輸送材料を用い、陽極2上に代えて正孔阻止層6上に蒸着を行なう他は、正孔輸送層4の形成と同様にして層形成を行なうことができる。
また、電子輸送層7の膜厚は任意であるが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。さらに、電子輸送層7も正孔輸送層4と同様、通常は真空蒸着法で形成される。
【0212】
<8.正孔注入層>
正孔注入の効率をさらに向上させ、かつ、有機層全体の陽極2への付着力を改善させる目的で、正孔輸送層4と陽極2との間には、図3のように、正孔注入層3を設けることがある。正孔注入層3は、使用初期の有機EL素子の駆動電圧を低下させると共に、有機EL素子を定電流で連続駆動した時の電圧上昇を抑制するために設けられるものである。よって、正孔注入層3に用いられる材料(以下適宜「正孔注入材料」という)には、陽極2とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定、即ち、融点及びガラス転移温度が高いことが要求される。通常要求される具体的な融点及びガラス転移温度は、融点が300℃以上、ガラス転移温度が100℃以上である。さらに、正孔注入材料には、イオン化ポテンシャルが低く陽極2からの正孔注入が容易なこと、及び、正孔移動度が大きいことも要求される。
【0213】
前述のように、正孔注入層3の材料である正孔注入材料として、本発明の電荷輸送材料を用いることができる。この際、正孔注入材料として本発明の電荷輸送材料に無機材料からなる電荷輸送材料を混合して用いても良いが、通常は、本発明の電荷輸送材料のみを用い、正孔注入層3を、本発明の電荷輸送材料のみからなる層として形成することが望ましい。これにより、有機EL素子の駆動寿命を向上させるとともに、駆動電圧上昇を抑制することができる。
【0214】
また、正孔注入材料として本発明の電荷輸送材料以外の材料を用いる場合、上記の条件を満たす材料としては、銅フタロシアニン等のフタロシアニン化合物(特開昭63−295695号公報)、ポリアニリン(Appl.Phys.Lett.,64巻、1245頁,1994年)、ポリチオフェン(Optical Materials,9巻、125頁、1998年)等の有機化合物や、スパッタ・カーボン膜(Synth.Met.,91巻、73頁、1997年)や、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、モリブデン酸化物等の金属酸化物(J.Phys.D,29巻、2750頁、1996年)などが挙げられる。
また、芳香族ジアミン含有ポリエーテルにDDQ(2,3-dicyano-5,6-dichloro-p-benzoquinone)等の電子受容性基をドーピングする等して正孔注入を容易にすることもできる。
【0215】
正孔注入層3の形成方法は任意であるが、通常は、正孔輸送層4と同様、塗布法又は真空蒸着法により形成することができる。また、正孔注入層3の場合、正孔注入材料が無機物の場合には、スパッタ法や電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法が用いられる。
塗布法により正孔注入層3を形成する場合は、正孔輸送材料に代えて正孔注入材料を用いるほかは、正孔輸送層4の形成と同様にして層形成を行なうことができる。また、バインダー樹脂や添加剤として適当なものを用いることで、正孔注入層3を、本発明の電荷輸送材料のみからなる層として形成することが可能となることも同様である。
【0216】
一方、真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合も、正孔輸送材料に代えて正孔注入材料を用いる他は、正孔輸送層4の形成と同様にして層形成を行なうことができる。
また、正孔注入層3の膜厚は任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。さらに、正孔注入層3も正孔輸送層4と同様、通常は真空蒸着法で形成される。
【0217】
<9.その他>
なお、ここで示した有機EL素子の構成はあくまで一実施形態であり、本発明の有機EL素子は、上記の構成から任意に変形して実施することができる。
例えば、上記の有機EL素子は、上述した層のほかに、別の層を含んで構成されていてもよい。
【0218】
また、例えば、図1とは逆の構造、即ち、基板1上に陰極8、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、陽極2の順に積層することも可能である。さらに、同様に、図2および図3に示した前記各層構成とは逆の構造に積層することも可能である。
また、例えば、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板1の間に本発明の有機EL素子を設けることも可能である。
【0219】
ところで、前述のように、有機EL素子は、通常、積層構造となっている。
したがって、その製造途中においては、有機EL素子は、本発明の電荷輸送材料のみから形成された層(例えば、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、正孔阻止層6、電子輸送層7のいずれか)を少なくとも有する積層体となっている場合がある。具体例を挙げれば、基板1上に、陽極2と、正孔輸送材料として本発明の電荷輸送材料のみを用い、その正孔輸送材料のみにより形成された正孔輸送層4とが積層された積層体となっている場合がある。
【0220】
また、有機EL素子は、例えば、本発明の電荷輸送材料と、ドーパントとから形成された有機発光層5を有する積層体となっている場合がある。具体例を挙げれば、基板1上に、陽極2と、正孔輸送層4と、ホスト材料として本発明の電荷輸送材料を用い、発光材料としてこのホスト材料及びドーパントのみを用いた発光層5とを積層された積層体となっている場合がある。
これらのような積層体をはじめ、本発明の電荷輸送材料のみから形成された層、及び、本発明の電荷輸送材料とドーパントとから形成された有機発光層の少なくともいずれかを有する積層体も、本発明の範囲に含むものとする。
【0221】
<10.有機EL素子の用途>
前述した有機EL素子の構成は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極とがX−Yマトリックス状に配置された構造を有する素子のいずれにおいても適用することができる。
【実施例】
【0222】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0223】
<電荷輸送材料について>
(実施例1)
サンプル1〜4として、4,4′−ビス(N−カルバゾリル)ビフェニル(同仁堂社製;DCBP,Sublimed)のLot No.NL−851及びLot No.PY−748、並びに、これらを昇華法で再精製したものを使用した。具体的には、表1に示すとおりのサンプルを用いた。
【表1】

【0224】
なお、上記サンプル2,4の昇華法による再精製は、表2に示す条件により行なった。
【表2】

【0225】
上記のサンプル1〜4それぞれについて、LC−MS法を用い、各LCピークのMSチャート、UV吸収スペクトル、及び滞留時間を標品と比較することなどから、各サンプル1〜4に含まれる不純物の構造を同定した。なお、ここで行なったLC−MS法の測定条件は、表3に示すとおりである。
【表3】

【0226】
各サンプル1〜4について分析した結果、サンプル1〜4には、それぞれ下記(i)〜(vii)に示す分子構造を有する化合物が不純物として含まれていることが分かった。また、これらの不純物(i)〜(vii)のうち、不純物(v)及び不純物(vi)が、CH基を有している。
【0227】
【化38】

【0228】
測定結果から、上記の式(6)〜(8)を用いて、CH基の存在割合PCHを計算した。計算に用いたPM、RCH、WA、WM、MCH及びMMの値を表4に示す。
【表4】

【0229】
さらに、各サンプル1〜4中における、これらの不純物(i)〜(vii)の存在割合、及び、各サンプル1〜4中のCH基の存在割合PCHを、下記表5に示す。なお、表5には、参考のため、各不純物(i)〜(vii)の存在割合も示してある。また、表5において、存在割合PCHは、カルボニル基に直接結合するものを含まない場合のCH基の存在割合を表わす。表5から、サンプル2はCH基の存在割合PCHが70ppm以下であることが確認された。
【0230】
【表5】

【0231】
次に、酸化電位の測定方法として上述した方法により、サンプル1〜4の酸化電位及び還元電位を測定した。作用電極にはGC(グラッシーカーボン)を用い、参照電極にはAg線を用い、対極にはPtを用いた。また、溶媒には、酸化電位測定時及び還元電位測定時とも、アセトニトリル及びテトラヒドロフランの体積比1:1混合溶媒に、0.1MのTBAP(Tetrabutylammonium perchlorate)を含有させたものを用いた。さらに、測定対象であるサンプル1〜4の濃度は1×10-3Mとし、掃引速度は0.1V/secとした。また、内部標準にはFc(フェロセン)を使用し、Fcの酸化電位を+0.41Vvs.SCEとして換算し、電位測定を行なった。
その結果、サンプル1〜4の酸化電位はいずれも+1.27V、還元電位は−2.4Vであり、酸化電位が+0.8V以上であることが確認された。
以上から、サンプル2は、本発明の電荷輸送材料としての条件を満たすことが分かる。
【0232】
(実施例2)
下記構造を有する化合物(M−1)を合成し、熱懸洗、再結晶、及び昇華法で精製することによりCH基を排除し、サンプル5とした。このサンプル5を、HPLCにより分析した。なお、HPLCの測定条件は、表6に示すとおりである。
【0233】
【化39】

【0234】
【表6】

【0235】
分析の結果、本実施例のサンプル5には、化合物(M−1)が99.95重量%、CH基を有する化合物(下記化合物(viii))が0.050重量%確認された。これから、実施例1と同様にしてサンプル5中のCH基の存在割合PCHを算出した。結果を表7に示す。なお、表7において、PCH※の欄の値はカルボニル基に直接結合するものを含まない場合のCH基の存在割合を表わし、PCH※※の欄の値はカルボニル基に直接結合するものを含む場合のCH基の存在割合を表わす。この結果、サンプル5はCH基の存在割合PCHが70ppm以下であることが確認された。
【化40】

【表7】

【0236】
次に、酸化電位測定時の溶媒に、ジクロロメタンに0.1MのTBAPを含有させたものを用い、還元電位測定時の溶媒に、N,N−ジメチルホルムアミドに0.1MのTBAPを含有させたものを用いた他は実施例1と同様にして、サイクリックボルタンメトリーで、サンプル5の酸化電位及び還元電位を測定した。
その結果、サンプル5の酸化電位は+1.94V、還元電位は−2.06Vであり、酸化電位が+0.8V以上であることが確認された。
以上から、サンプル5は、本発明の電荷輸送材料としての条件を満たすことが分かる。
【0237】
(実施例3)
実施例2と同様の操作により、サンプル6を調製した。さらに、サンプル6を、実施例2と同様に分析した。分析の結果、サンプル6に含まれる化合物(M−1)は99.77重量%、CH基を有する化合物(上記化合物(viii))は0.093重量%であることが確認された。これから、実施例2と同様に、サンプル6のCH基の存在割合PCHを算出した。結果を表8に示す。なお、表8において、PCH※の欄の値はカルボニル基に直接結合するものを含まない場合のCH基の存在割合を表わし、PCH※※の欄の値はカルボニル基に直接結合するものを含む場合のCH基の存在割合を表わす。この結果、サンプル6はCH基の存在割合PCHが70ppm以下であることが確認された。
【表8】

【0238】
次に、実施例2と同様にして、サイクリックボルタンメトリーで、サンプル6の酸化電位及び還元電位を測定した。
その結果、サンプル6の酸化電位は+1.94V、還元電位は−2.06Vであり、酸化電位が+0.8V以上であることが確認された。
以上から、サンプル6は、本発明の電荷輸送材料としての条件を満たすことが分かる。
【0239】
(比較例1)
下記構造を有する化合物(M−2)を合成し、熱懸洗、再結晶、及び昇華法で精製したものをサンプル7とした。このサンプル7を、実施例2と同様に分析した。分析の結果、サンプル7はCH基を有する化合物の含有率が100.00重量%であることが確認された。これから、実施例2と同様に、サンプル7のCH基の存在割合PCHを算出した。結果を表9に示す。なお、表9において、存在割合PCHは、カルボニル基に直接結合するものを含まない場合のCH基の存在割合を表わす。表9のように、サンプル7のCH基の存在割合PCHは16126ppmであった。
【表9】

【0240】
【化41】

【0241】
次に、還元電位測定時のサンプル7の濃度を1.0×10-3M以下としたこと以外は実施例2と同様にして、サイクリックボルタンメトリーで、サンプル7の酸化電位及び還元電位を測定した。
その結果、サンプル7の酸化電位は+1.9V、還元電位は−2.11Vであり、酸化電位が+0.8V以上であることが確認された。
以上から、サンプル7は酸化電位が、本発明の電荷輸送材料としての条件を満たすものの、CH基の存在割合が本発明の電荷輸送材料としての条件を満たさないことが分かる。
【0242】
(実施例4)
下記構造を有する化合物(M−3)を合成し、熱懸洗、再結晶、及び昇華法で精製することによりCH基を排除し、サンプル8とした。このサンプル8を、実施例2と同様に分析した。分析の結果、サンプル8は、化合物(M−3)の含有率が99.999重量%以上、CH基を有する化合物の含有率が0.001重量%未満であることが確認された。これから、実施例2と同様に、サンプル8のCH基の存在割合PCHを算出した。結果を表10に示す。なお、表10において、存在割合PCHは、カルボニル基に直接結合するものを含まない場合のCH基の存在割合を表わす。表10のように、サンプル8のCH基の存在割合PCHは0.22ppmであった。この結果、サンプル8はCH基の存在割合PCHが70ppm以下であることが確認された。
【表10】

【0243】
【化42】

【0244】
次に、実施例1と同様にして、サイクリックボルタンメトリーで、サンプル8の酸化電位及び還元電位を測定した。
その結果、サンプル8の酸化電位は+1.66V、還元電位は−2.07Vであり、酸化電位が+0.8V以上であることが確認された。
以上から、サンプル8は、本発明の電荷輸送材料としての条件を満たすことが分かる。
【0245】
(比較例2)
下記構造を有する化合物(M−4)を合成し、熱懸洗、再結晶、及び昇華法で精製して、サンプル9とした。このサンプル9を、実施例2と同様に分析した。分析の結果、サンプル9は、CH基を有する化合物の含有率が100.00重量%であることが確認された。これから、実施例2と同様に、サンプル9のCH基の存在割合PCHを算出した。結果を表11に示す。なお、表11において、存在割合PCHは、カルボニル基に直接結合するものを含まない場合のCH基の存在割合を表わす。表11のように、サンプル9のCH基の存在割合PCHは16115ppmであった。
【表11】

【0246】
【化43】

【0247】
次に、実施例2と同様にして、サイクリックボルタンメトリーで、サンプル9の酸化電位及び還元電位を測定した。
その結果、サンプル9の酸化電位は+1.73V、還元電位は−2.01Vであり、酸化電位が+0.8V以上であることが確認された。
以上から、サンプル9は酸化電位が本発明の電荷輸送材料としての条件を満たすものの、CH基の存在割合が本発明の電荷輸送材料としての条件を満たさないことが分かる。
【0248】
<有機EL素子>
(素子実施例1)
図3に示す構造を有する有機EL素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板1の上に、陽極としてインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜2を150nm堆積したもの(スパッター成膜品;シート抵抗15Ω)を、通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングとを用いて2mm幅のストライプにパターニングしてITO基板を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0249】
次に、陽極2上に、以下のようにして正孔注入層3を形成した。
芳香族ジアミン含有ポリエーテルである上述した化合物(P−1)(重量平均分子量25300;ガラス転移温度171℃)、及び、下記構造の化合物(P−2)を、化合物(P−1)に対し化合物(P−2)の割合が10重量%となるようにして、下記表12に示す条件で、上記ITO基板の陽極2上にスピンコートした。このスピンコートにより、膜厚30nmの均一な薄膜(正孔注入層3)が形成された。
【0250】
【化44】

【0251】
【表12】

【0252】
次に、正孔注入層3上に、以下のようにして、正孔輸送層4を形成した。
まず、正孔注入層3を塗布成膜したITO基板を真空蒸着装置内に設置した。この装置の粗排気を油回転ポンプにより行なった後、装置内の真空度が8×10-5Pa以下になるまでクライオポンプを用いて排気した。
上記装置内に配置されたセラミックるつぼに、正孔輸送材料として、下記構造式(HT−1)で表わされる4,4′−ビス[N−(1−フェナンチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルを入れ、るつぼの周囲のタンタル線ヒーターで加熱して蒸着を行なった。この時のるつぼの温度は、319℃〜331℃の範囲で制御した。これにより、蒸着時の真空度8×10-5Pa、蒸着速度0.1nm/秒で、膜厚60nmの正孔輸送層4を得た。
【0253】
【化45】

【0254】
引続き、以下の方法により、正孔輸送層4上に発光層5を形成した。
ホスト材料としてサンプル2を用い、また、ドーパントとして上記化合物(T−1)を用いて、これらホスト材料とドーパントとをそれぞれ別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行なった。なお、実施例1で確認されたように、サンプル2は本発明の電荷輸送材料の1種である。
【0255】
蒸着の際、ホスト材料のるつぼ温度は298℃に、蒸着速度は0.07nm/秒に制御した。一方、ドーパントのるつぼ温度は248℃、蒸着速度は0.004nm/秒に制御した。この蒸着により、膜厚が30nm、ドーパントである化合物(T−1)がホスト材料であるサンプル2に5重量%含有された発光材料からなる発光層(有機発光層)5が積層された。なお、蒸着時の真空度は9×10-5Paであった。
【0256】
さらに、以下の方法により、発光層5上に正孔阻止層6を形成した。
正孔阻止材料として、以下に示す化合物(Py−1)を用い、この化合物(Py−1)をるつぼに設置し、正孔阻止材料の蒸着により成膜を行なった。蒸着の際、るつぼ温度は275℃、蒸着速度は0.1nm/秒として、10nmの膜厚で正孔阻止層6を積層した。蒸着時の真空度は7×10-5Paであった。
【0257】
【化46】

【0258】
さらに、以下の方法により、正孔阻止層6上に電子輸送層7を形成した。
電子輸送材料として、以下に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体である化合物(ET−1){組成式Al(C96NO)3}を用い、この化合物(ET−1)をるつぼに設置し、電子輸送材料の蒸着により成膜を行なった。蒸着の際、るつぼ温度は250℃、蒸着速度は0.2nm/秒として、35nmの膜厚で電子輸送層7を積層した。また、蒸着時の真空度は7×10-5Paであった。
【0259】
【化47】

【0260】
なお、上記の正孔輸送層4、発光層5、正孔阻止層6及び電子輸送層7を真空蒸着する時の基板1の温度は室温に保持した。
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行なった積層体を、一度、上記真空蒸着装置内より大気中に取り出し、2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陰極蒸着用のマスクとして、陽極2のITOストライプとは直交するように積層体に密着させた。
【0261】
次いで、この積層体を別の真空蒸着装置内に設置し、正孔輸送層4などの有機層の場合と同様にして、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。
これに、以下の方法により、電子輸送層7上に陰極8を形成した。
先ず、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.01nm/秒、真空度5×10-4Paで、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5nm/秒、真空度1×10-3Paで、80nmの膜厚でフッ化リチウム層の上に成膜した。これにより、フッ化リチウム層及びアルミニウム層からなる2層型陰極8を形成した。なお、蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0262】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機EL素子が得られた。
得られた有機EL素子を、室温下、初期輝度5000cd/m2として一定電流で連続駆動させ、輝度半減時間及び駆動電圧上昇(=輝度半減時駆動電圧−初期駆動電圧)を測定した。この測定結果を表13に示す。
また、初期輝度1000cd/m2として一定電流で連続駆動させた場合についても、輝度半減時間及び駆動電圧上昇を測定した。この測定結果は、後述する素子実施例2〜4及び素子比較例2,3の測定結果の基準値として用いることとし、表14に基準値1.0として示す。
【0263】
(素子比較例1−1)
素子実施例1において、サンプル2に代えてサンプル4を用いた以外は、同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を室温下、初期輝度5000cd/m2として一定電流で連続駆動させ、輝度半減時間及び駆動電圧上昇を測定した。この測定結果を表13に示す。
【0264】
(素子比較例1−2)
素子実施例1において、サンプル2に代えてサンプル1を用い、正孔阻止材料として化合物(Py−1)に代えて上記化合物(HB−12)を用いた以外は、同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を室温下、初期輝度5000cd/m2として一定電流で連続駆動させ、輝度半減時間及び駆動電圧上昇を測定した。この測定結果を表13に示す。
【0265】
(素子実施例2)
素子実施例1において、正孔阻止材料として化合物(Py−1)の代わりに実施例2のサンプル5を用いた以外は、同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を室温下、初期輝度1000cd/m2として一定電流で連続駆動させ、輝度半減時間及び駆動電圧上昇を測定した。この測定結果を、素子実施例1の測定結果を基準値「1.0」として規格化した。具体的には、本素子実施例の測定結果を素子実施例1の測定結果で割った値を算出した。規格化された輝度半減時間、及び、規格化された駆動電圧上昇を表14に示す。
【0266】
(素子実施例3)
素子実施例1において、正孔阻止材料として化合物(Py−1)の代わりに実施例3のサンプル6を用いた以外は、同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を室温下、初期輝度1000cd/m2として一定電流で連続駆動させ、輝度半減時間及び駆動電圧上昇を測定し、素子実施例2と同様に測定結果を規格化した。規格化された輝度半減時間、及び、規格化された駆動電圧上昇を表14に示す。
【0267】
(素子実施例4)
素子実施例1において、正孔阻止材料として化合物(Py−1)の代わりに実施例4のサンプル8を用いた以外は、同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を室温下、初期輝度1000cd/m2として一定電流で連続駆動させ、輝度半減時間及び駆動電圧上昇を測定し、素子実施例2と同様に測定結果を規格化した。規格化された輝度半減時間、及び、規格化された駆動電圧上昇を表14に示す。
【0268】
(素子比較例2)
素子実施例1において、正孔阻止材料として化合物(Py−1)の代わりに比較例1のサンプル7を用いた以外は、同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を室温下、初期輝度1000cd/m2として一定電流で連続駆動させ、輝度半減時間及び駆動電圧上昇を測定し、素子実施例2と同様に測定結果を規格化した。規格化された輝度半減時間、及び、規格化された駆動電圧上昇を表14に示す。
【0269】
(素子比較例3)
素子実施例1において、正孔阻止材料として化合物(Py−1)の代わりに比較例2のサンプル9を用いた以外は、同様にして有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を室温下、初期輝度1000cd/m2として一定電流で連続駆動させ、輝度半減時間及び駆動電圧上昇を測定し、素子実施例2と同様に測定結果を規格化した。規格化された輝度半減時間、及び、規格化された駆動電圧上昇を表14に示す。
【0270】
【表13】

【0271】
【表14】

【0272】
表13から、ホスト材料として、本発明の電荷輸送材料であるサンプル2を用いた素子実施例1の有機EL素子は、従来のホスト材料を用いた素子比較例1−1,1−2の有機EL素子に比べて、輝度半減時間が長いことが分かる。また、その駆動電圧上昇も、従来良好な正孔阻止材料として知られた化合物(HB−12)を使用した場合と同程度であることが分かる。したがって、発光層5を、本発明の電荷輸送材料とドーパントとで形成した素子実施例1の有機EL素子によれば、輝度半減時間の向上と駆動電圧上昇の抑制とをともに行なうことができること確認された。
【0273】
また、表14から、正孔阻止材料として本発明の電荷輸送材料であるサンプル5,6,8を用いた素子実施例2,3,4の有機EL素子は、従来の正孔阻止材料を用いた素子比較例2,3の有機EL素子に比べて、輝度半減時間が長く、駆動電圧上昇が小さいことが分かる。したがって、正孔阻止層6を、本発明の電荷輸送材料のみから形成した素子実施例2,3,4の有機EL素子によれば、輝度半減時間の向上と駆動電圧上昇の抑制とをともに行なうことができること確認された。
【産業上の利用可能性】
【0274】
本発明の電荷輸送材料は、電荷輸送材料が用いられる任意の分野において用いることができ、特に、有機電界発光素子の材料として用いて好適である。さらに、本発明の電荷輸送材料は、本発明の電荷輸送材料が有する高い性能に加えて、非晶質性、溶解性、耐熱性、耐久性に優れている。したがって、本発明の電荷輸送材料は、電荷輸送材料用としてだけでなく、発光材料用、太陽電池材料用、バッテリー材料(電解液、電極、分離膜、安定剤など)用、医療用、塗料材料用、コーティング材料用、有機半導体材料用、トイレタリー材料用、帯電防止材料用、熱電素子材料用などにおいても有用である。
【0275】
また、本発明の有機電界発光素子は、駆動寿命が長く、駆動電圧上昇が抑制されているという利点を有する。よって、従来の有機電界発光素子が用いられる各種の分野、即ち、フラットパネル・ディスプレイ(例えば、OAコンピュータ用や壁掛けテレビ)、車載表示素子、携帯電話表示や面発光体としての特徴を活かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯などの分野で好適に利用することができ、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0276】
【図1】有機EL素子の一例を示した模式断面図である。
【図2】有機EL素子の別の例を示した模式断面図である。
【図3】有機EL素子の別の例を示した模式断面図である。
【符号の説明】
【0277】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層(有機発光層)
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化電位が+0.8V以上である、1種又は2種以上の化合物よりなる電荷輸送材料であって、
電荷輸送材料中の下記式(1)で表される基の存在割合が、0〜70ppmである
ことを特徴とする、電荷輸送材料。
【化1】

{但し、式(1)で表わされる基の炭素原子は、少なくとも1つの、アリール基、ヘテロアリール基またはカルボニル基と直接結合する。また、式(1)における炭素原子は、芳香環を構成する炭素原子ではない。}
【請求項2】
酸化電位が+0.8V以上である、1種又は2種以上の化合物よりなる電荷輸送材料であって、
電荷輸送材料中の下記式(1)で表される基の存在割合が、0〜70ppmである
ことを特徴とする、電荷輸送材料。
【化2】

{但し、式(1)で表わされる基の炭素原子は、少なくとも1つの、アリール基またはヘテロアリール基と直接結合する。また、式(1)における炭素原子は、芳香環を構成する炭素原子ではない。}
【請求項3】
該化合物のうちの少なくとも1つが、カルバゾール系化合物である
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の電荷輸送材料。
【請求項4】
該化合物のうちの少なくとも1つが、2,4,6−位に置換基としてアリール基を有するピリジン系化合物である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電荷輸送材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電荷輸送材料のみから形成された層を少なくとも有する
ことを特徴とする、積層体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電荷輸送材料と、ドーパントとから形成された有機発光層を少なくとも有する
ことを特徴とする、積層体。
【請求項7】
基板上に、陽極と、陰極と、該陽極及び該陰極の間に設けられた有機発光層とを有し、
更に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電荷輸送材料のみから形成された層を少なくとも1層有する
ことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項8】
基板上に、陽極と、陰極と、該陽極及び該陰極との間に設けられ、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電荷輸送材料及びドーパントから形成された有機発光層とを有する
ことを特徴とする、有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−13469(P2006−13469A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149918(P2005−149918)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】