説明

電荷輸送材料、電荷輸送膜用組成物、有機電界発光素子、有機電界発光素子表示装置及び有機電界発光素子照明装置

【課題】高い発光効率、低い駆動電圧、高い駆動安定性を有し、駆動寿命の長い実用性の高い有機電界発光素子を提供するための電荷輸送材料、それを含有する電荷輸送膜用組成物、更には、該組成物を用いて得られた有機電界発光素子、並びにこれを用いた有機電界発光素子表示装置及び照明装置を提供する。
【解決手段】カルバゾリル基を有する化合物を主成分とする電荷輸送材料であって、その液体クロマトグラフのUV254nmでのクロマトグラムにおいて、主成分よりも下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和が、ピーク面積の総和の0.02%以上、25%以下であることを特徴とする、電荷輸送材料。
X=mCz+nB−H ・・・(1)
(式中、Czはカルバゾリル基C12Nの式量166を、Bはフェニレン基Cの式量76を、Hは水素原子の原子量1を、mは1〜3の整数を、nは−3〜3の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的に安定で種々の溶剤に可溶な電荷輸送材料、この電荷輸送材料を含む電荷輸送膜用組成物、この電荷輸送材料を含有する層を有し、かつ発光効率及び駆動安定性が高い有機電界発光素子、並びに該素子を備えた有機電界発光素子表示装置及び有機電界発光素子照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機薄膜を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行われている。その中で、有機薄膜を形成するための電荷輸送材料の純度を高めた結果、有機電界発光素子の性能が向上したことが種々報告されている。
例えば、特許文献1には、電荷輸送材料中の不純物であるハロゲン化合物の含有量を低減させることにより、有機電界発光素子の駆動電圧を低下させると共に、駆動寿命を向上させることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、電荷輸送材料中の不純物であるメチル置換体の含有量を低減させることにより、有機電界発光素子の駆動寿命を向上させるとともに電圧上昇を低減させることが記載されている。
特許文献3には、電荷輸送材料中の不純物である主成分の酸化物の含有量を低減させることにより、有機電界発光素子の駆動寿命を向上させることが記載されている。
【0004】
しかしながら、これらの有機電界発光素子の性能は、実用上未だ十分とは言えず、また、電荷輸送材料の純度を高めれば高めるほど、精製コストが増大する欠点があった。
また、有機電界発光素子の発光効率を上げる試みとして、蛍光(一重項励起子による発光)ではなく燐光(三重項励起子による発光)を用いることが検討されている。これまでに開発された燐光を用いた有機電界発光素子の多くは、電荷輸送材料として、カルバゾリル基を含む材料を用いている。
【0005】
例えば、特許文献1及び特許文献2では、カルバゾリル基を含む材料をホスト材料として用い、燐光性のイリジウム錯体をドーパントとして用いることが記載されている。しかしながら、駆動寿命の点で更なる改善が求められる。
一方、有機薄膜の形成方法としては、真空蒸着法と湿式製膜法が挙げられる。このうち、湿式製膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。
【0006】
特許文献4には、カルバゾリル基を含む材料をホスト材料として用い、燐光性のイリジウム錯体をドーパントとして用いて、湿式製膜法により有機電界発光素子の発光層を成膜性よく形成することよって、発光効率が高く、駆動電圧が低く、耐熱性を含めた駆動安定性に優れる有機電界発光素子を得られることが開示されている。しかしながら、更なる高性能化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−222794号公報
【特許文献2】特開2006−13469号公報
【特許文献3】特開2002−260860号公報
【特許文献4】特開2007−110093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであり、その課題は、高い発光効率、低い駆動電圧、高い駆動安定性を有し、駆動寿命の長い実用性の高い有機電界発光素子を提供するための電荷輸送材料、及びそれを含有する電荷輸送膜用組成物を提供することにある。本発明はまた、有機電界発光素子、並びにそれを具備する有機電界発光素子表示装置及び有機電界発光素子照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、駆動寿命向上のために電荷輸送材料中のある種不純物を低減するとの従来の提案に反して、電荷輸送材料がカルバゾリル基を有する化合物を含む場合、該カルバゾリル基を有する化合物を主成分とし、副成分として、該主成分と基本骨格が同一でカルバゾリル基の少ない化合物又はその誘導体を少量含むことで、電荷輸送性及び電荷注入性が向上し、その結果、得られる有機電界発光素子の駆動電圧が低減し、又、電荷バランスが整えられるため得られる有機電界発光素子の発光効率が向上すること、しかも、カルバゾリル基を含む主成分に由来する成膜性を保持し、結果として、得られる有機電界発光素子の駆動安定性を高められることを見出した。そして、電荷輸送材料における該副成分と該主成分の関係は、カルバゾリル基の式量(166)及びフェニレン基の式量(76)を指標として、液体クロマトグラフのUV254nmでのクロマトグラムにおけるピーク面積割合で表されることを見出した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下に存する。
(1)カルバゾリル基を有する化合物を主成分とする電荷輸送材料であって、その液体クロマトグラフのUV254nmでのクロマトグラムにおいて、主成分よりも下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和が、ピーク面積の総和の0.02%以上、25%以下であることを特徴とする、電荷輸送材料。
【0011】
X=mCz+nB−H ・・・(1)
(式中、Czはカルバゾリル基C12Nの式量166を、Bはフェニレン基Cの式量76を、Hは水素原子の原子量1を、mは1〜3の整数を、nは−3〜3の整数を表す。)
(2)主成分が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする、上記の電荷輸送材料。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、L21は下記式(a)又は(b)を表し、式(b)におけるX21〜X23は、それぞれ独立にCH又はNを表し、Ar21〜Ar23は、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基又はこれらが連結した基を表し、Ar21〜Ar23における芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基は、それぞれ任意の置換基を有していてもよく、Ar21〜Ar23は互いに同一でも異なってもよいが、Ar21〜Ar23の少なくとも1つは置換基としてカルバゾリル基を有する。)
【0014】
【化2】

【0015】
(3)前記式(2)におけるL21が式(a)であり、かつ主成分が下記式(3)で表される部分構造を有することを特徴とする、上記(2)の電荷輸送材料。
【0016】
【化3】

【0017】
(4)主成分が下記式(4)で表される部分構造を有することを特徴とする、上記(2)又は(3)の電荷輸送材料。
【0018】
【化4】

【0019】
(5)主成分が下記式(5)で表される部分構造を有することを特徴とする、上記(2)ないし(4)のいずれかに記載の電荷輸送材料。
【0020】
【化5】

【0021】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の電荷輸送材料を含有することを特徴とする、有機電界発光素子用組成物。
(7)溶媒として置換基を有してもよい芳香族炭化水素を含有する上記(6)に記載の有機電界発光素子用組成物。
(8)さらに、燐光発光材料を含有する上記(6)又は(7)に記載の有機電界発光素子用組成物。
(9)基板上に、陽極、陰極及びこれら両極間に設けられた発光層を有する有機電界発光素子であって、上記(6)ないし(8)のいずれかに記載の有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式製膜法により形成された層を有する有機電界発光素子。
(10)該有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式製膜法により形成された層が、発光層である上記(9)に記載の有機電界発光素子。
(11)上記(9)又は(10)に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機電界発光素子表示装置。
(12)上記(9)又は(10)に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機電界発光素子照明装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電荷輸送材料は、これを用いて有機電界発光素子を作成した場合、高い発光効率、低い駆動電圧、高い駆動安定性を有するため、駆動寿命の長い実用性の高い有機電界発光素子を提供することができる。また、本発明の有機電界発光素子を具備することにより、高性能の有機電界発光素子表示装置及び有機電界発光素子照明装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】HPLCクロマトグラム(UV254nm)による化合物H−1のA〜CロットのHPLCクロマトグラフを示した。
【図3】化合物H−1のA〜CロットのLC−MS測定におけるUV254nmクロマトグラフ及びm/z778マスクロマトグラムを示した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
<電荷輸送材料>
本発明の電荷輸送材料は、カルバゾリル基を有する化合物を主成分とする電荷輸送材料であって、その液体クロマトグラフのUV254nmでのクロマトグラムにおいて、主成分よりも下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和が、ピーク面積の総和の0.02%以上、25%以下であることを特徴とする、電荷輸送材料である。
【0025】
X=mCz+nB−H ・・・(1)
(式中、Czはカルバゾリル基C12Nの式量166を、Bはフェニレン基Cの式量76を、Hは水素原子の原子量1を、mは1〜3の整数を、nは−3〜3の整数を表す。)
(主成分)
本発明における電荷輸送材料の主成分であるカルバゾリル基を有する化合物は、電荷輸送性能を有し、カルバゾリル基を少なくとも1つ有する限り、特に限定されないが、好ましくは、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0026】
【化6】

【0027】
(式中、L21は下記式(a)又は(b)を表し、式(b)におけるX21〜X23は、それぞれ独立にCH又はNを表し、Ar21〜Ar23は、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基又はこれらが連結した基を表し、Ar21〜Ar23における芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基は、それぞれ任意の置換基を有していてもよく、Ar21〜Ar23は互いに同一でも異なってもよいが、Ar21〜Ar23の少なくとも1つは置換基としてカルバゾリル基を有する。)
【0028】
【化7】

【0029】
21が式(b)の場合、式(b)は、3価のベンゼン環、3価のピリジン環、3価のピリミジン環、3価のトリアジン環である。L21は、正孔輸送能が高い点、電気化学的
安定性に優れる点、溶解性に優れる点からは、式(a)であるのが好ましい。L21は、電子輸送能が高い点からは、式(b)であるのが好ましい。式(b)は、溶解性に優れる点からは、3価のベンゼン環又は3価のピリジン環が好ましい。式(b)は、高い電子注入輸送能を有する点からは、3価のピリジン環、3価のピリミジン環又は3価のトリアジン環が好ましい。
【0030】
Ar21〜Ar23は、同一でも異なっていてもよく、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基又はこれらが連結した基を表す。芳香族炭化水素環基として、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などの、5または6員環の単環または2〜5縮合環由来の基が挙げられ、好ましい例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェナントリル基、ピレニル基等が挙げられ、総炭素数は、通常6以上100以下、好ましくは、6以上60以下、さらに好ましくは、6以上30以下である。この範囲であることで、主に電荷輸送を担う部分であるL21
の分子に占める割合が小さくなりすぎず、分子の内側に覆い隠されることがないため、高い電荷輸送能を充分に発揮する傾向がある。上記の中でも、芳香族炭化水素環基としては、非縮合環化合物、即ち、フェニル基、又は、ビフェニル基、ターフェニル基、クォーターフェニル基等の2以上のフェニル基が直接結合して形成される1価の基であるのが、高い三重項励起準位を有する点で好ましい。尚、2以上のフェニル基が直接結合して形成される場合、連結するフェニル基の数は、通常2以上10以下であり、好ましくは、5以下である。5以下であることにより、主に電荷輸送を担う部分であるL21の分子に占める
割合が小さくなりすぎず、分子の内側に覆い隠されることがないため、高い電荷輸送能を充分に発揮するである傾向がある。又、2以上のフェニル基が直接結合する場合、その一部がm位で連結することが、溶解性が向上する点で好ましい。
【0031】
芳香族複素環基としては、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフェノン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環などの、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基が挙げられ、ジベンゾフェノン環、ジベンゾチオフェン環、カルバゾール環由来の基が、高い耐熱性を有する点、電気化学的安定性に優れる点で好ましく、特に電気化学的安定性に優れる点からN−カルバゾリル基が更に好ましい。
【0032】
芳香族炭化水素環基と芳香族複素環基が連結した基としては、上記の芳香族炭化水素環基と芳香族複素環基が結合した基であれば特に限定されないが、L21の電荷輸送能が充分に発揮される点から、芳香族複素環基が2価の芳香族炭化水素環基を介して上記L21と結合する構造の基であるのが好ましい。
Ar21〜Ar23は、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基又はこれらが連結した基であり、更に任意の置換基を有していてもよい。
【0033】
任意の置換基として具体的には、例えば、
(イ) 置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1から8の直鎖または分岐のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n-プロピル、2-プロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル基などが挙げられる。)
(ロ) 置換基を有していてもよいアルケニル基(好ましくは、炭素数2から9のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、1-ブテニル基などが挙げられる。)、
(ハ) 置換基を有していてもよいアルキニル基(好ましくは、炭素数2から9のアルキニル基であり、例えばエチニル、プロパルギル基などが挙げられる。)、
(ニ) 置換基を有していてもよいアラルキル基(好ましくは、炭素数7から15のアラルキル基であり、例えばベンジル基などが挙げられる。)、
(ホ) 置換基を有していてもよいアミノ基[好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1から8のアルキル基を1つ以上有するアルキルアミノ基(例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。)、置換基を有していてもよい炭素数6〜12の芳香族炭化水素環基を有するアリールアミノ基(例えばフェニルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノ基などが挙げられる。)、 置換基
を有していてもよい、5または6員環の芳香族複素環を有するヘテロアリールアミノ基(例えばピリジルアミノ、チエニルアミノ、ジチエニルアミノ基などが含まれる。)、置換基を有していてもよい、炭素数2〜10のアシル基を有するアシルアミノ基(例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノ基などが含まれる。)]、
(へ) 置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルコキシ基であり、たとえばメトキシ、エトキシ、ブトキシ基などが含まれる)、
(ト) 置換基を有していてもよいアリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素環基を有するものであり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ基などが含まれる。)、
(チ) 置換基を有していてもよいヘテロアリールオキシ基(好ましくは5または6員環の芳香族複素環基を有するものであり、例えばピリジルオキシ、チエニルオキシ基などが含まれる)、
(リ) 置換基を有していてもよいアシル基(好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアシル基であり、例えばホルミル、アセチル、ベンゾイル基などが含まれる)、
(ヌ) 置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などが含まれる)、
(ル) 置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基(好ましくは置換基
を有していてもよい炭素数7〜13のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェノキシカルボニル基などが含まれる)、
(ヲ) 置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基(好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルキルカルボニルオキシ基であり、例えばアセトキシ基などが含まれる。)、
(ワ) ハロゲン原子(特に、フッ素原子または塩素原子)、
(カ) カルボキシル基、
(ヨ) シアノ基、
(タ) 水酸基、
(レ) メルカプト基、
(ソ) 置換基を有していてもよいアルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜8までのアルキルチオ基であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基などが含まれる。)、
(ツ) 置換基を有していてもよいアリールチオ基(好ましくは炭素数6〜12までのアリールチオ基であり、例えば、フェニルチオ基、1―ナフチルチオ基などが含まれる。)、
(ネ) 置換基を有していてもよいスルホニル基(例えばメシル基、トシル基などが含まれる)、
(ナ) 置換基を有していてもよいシリル基(例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが含まれる)、
(ラ) 置換基を有していてもよいボリル基(例えばジメシチルボリル基などが含まれる)、置換基を有していてもよいホスフィノ基(例えばジフェニルホスフィノ基などが含まれる)、
などが挙げられる。
【0034】
置換基として例示したものが、さらに置換基を有しても良い置換基は、上記Ar21〜Ar23の置換基として例示したものと同様のものが使用できる。
上記式(2)で表される化合物は、少なくとも1つのカルバゾリル基を有する必要がある。カルバゾリル基を有することで、耐熱性が良好となり、熱による流動や凝集が起きにくくなり、電荷輸送材料として機能する。但し、カルバゾリル基の数が多すぎると電荷注入輸送能が低減される傾向があるため、通常、6以下、好ましくは、4以下であり、特に好ましくは3以下である。尚、カルバゾリル基としては、N―カルバゾリル基、1―カルバゾリル基、2―カルバゾリル基、3―カルバゾリル基、4―カルバゾリル基等が挙げられるが、電気化学的安定性に優れる点から、N―カルバゾリル基であるのが好ましい。又、カルバゾリル基は、L21に直接結合してもよいが、溶剤への溶解性の点、電荷輸送能の点、電気化学的安定性の点から、1個又は複数個のフェニレン基を介して結合するのが好ましく、複数個の場合、通常10個以下である。但し、L21とカルバゾリル基の間に連結するフェニレン基の数が多すぎると、主に電荷輸送を担う部分であるL21の分子に
占める割合が低下し、分子の内側に覆い隠され、電荷輸送能の低下につながる傾向があるため、5個以下のフェニレン基であるのが好ましく、1個のフェニレン基であることがさらに好ましい。
【0035】
又、式(2)で表される化合物は、合成の点からはAr21〜Ar23が同一であるのが好ましいが、非対称性が増し、溶解性がさらに向上する点からは、Ar21〜Ar23の少なくとも2つは異なる基であるのが好ましい。
本発明の電荷輸送材料の主成分は、電荷輸送能を有し、三重項励起準位が高く溶剤への溶解性に優れる点から、下記式(3)で表されるトリフェニルアミン構造を有することが好ましい。
【0036】
【化8】

【0037】
又、本発明の電荷輸送材料の主成分は、溶剤への溶解性を向上させる観点から、下記式(4)で表されるm−フェニレン基を含んでいることが好ましい。
【0038】
【化9】

【0039】
又、該m−フェニレン基はN−カルバゾリル基と結合し、下記式(5)で表される部分構造であることが、耐熱性及び溶解性を両立する点で好ましい。
【0040】
【化10】

【0041】
本発明の電荷輸送材料の主成分の分子量は、通常5000以下、好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下であり、また通常200以上、好ましくは300以上、より好ましくは400以上である。
【0042】
上記範囲内であると、精製が比較的容易でガラス転移温度及び、融点、気化温度などが高いため、耐熱性が良好である。
尚、本発明の電荷輸送材料における主成分は、電荷輸送材料中に70重量%以上含有され、好ましくは、95重量%以上、さらに好ましくは、99重量%以上含有される。
(主成分の例示)
以下に、本発明の電荷輸送材料の主成分としての好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
【化11】

【0044】
【化12】

【0045】
【化13】

【0046】
【化14】

【0047】
(副成分)
本発明の電荷輸送材料における副成分は、下記式(1)で算出される値(X)分だけ小
さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和が、ピーク面積の総和の0.02%以上、25%以下であり、即ち、本発明の電荷輸送材料は、主成分より、下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分を含む。
【0048】
X=mCz+nB−H ・・・(1)
(式中、Czはカルバゾリル基C12Nの式量166を、Bはフェニレン基Cの式量76を、Hは水素原子の原子量1を、mは1〜3の整数を、nは−3〜3の整数を表す。)
主成分よりも上記式(1)だけ小さい分子量の副成分としては、例えば、下記の化合物等が挙げられる。
(A)主成分の化合物のカルバゾリル基のみが脱離した構造の化合物
(a−1)m=1、n=0 :主成分の化合物のカルバゾリル基が1ケ脱離した構造の化合物
(a−2)m=2、n=0 :主成分の化合物のカルバゾリル基が2ケ脱離した構造の化合物
(a−3)m=3、n=0 :主成分の化合物のカルバゾリル基が3ケ脱離した構造の化合物
(B)主成分の化合物のカルバゾリル基とフェニレン基が脱離した構造の化合物
(b−1)m=1、n=1 :主成分の化合物のカルバゾリル基及びフェニレン基が1ケ脱離した構造の化合物
(b−2)m=2、n=2 :主成分の化合物のカルバゾリル基及びフェニレン基がそれぞれ2ケ脱離した構造の化合物
(b−3)m=3、n=3 :主成分の化合物のカルバゾリル基及びフェニレン基がそれぞれ3ケ脱離した構造の化合物
(b−4)m=2、n=1 :主成分の化合物のカルバゾリル基2ケ及びフェニレン基が1ケ脱離した構造の化合物
(b−5)m=3、n=2 :主成分の化合物のカルバゾリル基3ケ及びフェニレン基が2ケ脱離した構造の化合物
(C)主成分の化合物のカルバゾリル基が脱離し、フェニル基が付加した構造の化合物
(c−1)m=1、n=−1 :主成分の化合物のカルバゾリル基が1ケ脱離し、フェニ
ル基が1ケ付加した構造の化合物
(c−2)m=2、n=−2 :主成分の化合物のカルバゾリル基が2ケ脱離し、フェニル基が2ケ付加した構造の化合物
(c−3)m=3、n=−3 :主成分の化合物のカルバゾリル基が3ケ脱離し、フェニル基が3ケ付加した構造の化合物
(c−4)m=2、n=−1 :主成分の化合物のカルバゾリル基が2ケ脱離し、フェニル基が1ケ付加した構造の化合物
(c−5)m=3、n=―2 :主成分の化合物のカルバゾリル基が3ケ脱離し、フェニル基が2ケ付加した構造の化合物
これら副成分の化合物は、主成分の化合物と基本骨格が同一で、主成分の化合物よりカルバゾリル基が1〜3ケとわずかに少ない化合物であり、場合により更にフェニレン基が1〜3ケとわずかに少ないか、逆にフェニレン基が1〜3ケとわずかに多い化合物である。そして、上記のような構造を有するこれら副成分を、カルバゾリル基を有する主成分と共に特定の少量の割合で含む電荷輸送材料は、電荷輸送性及び電荷注入性が向上し、その結果、得られる有機電界発光素子の駆動電圧が低減し、又、電荷バランスが整えられるため得られる有機電界発光素子の発光効率が向上する。
【0049】
その理由の詳細は不明であるが、以下のように推察される。即ち、主成分の化合物は、例えば、前述の一般式(2)におけるL21が式(a)の場合には正孔を輸送し易く、L21が式(b)の場合には電子を輸送し易い一方で、カルバゾリル基を有することで正孔
及び電子の輸送を適度にコントロールして正孔と電子の結合が効率よく行なわれると考えられ、更に、電荷輸送材料が上記主成分と共に上記の副成分を含むことで、正孔及び電子の輸送のコントロール及び正孔と電子の結合がより効率よく行なわれ、電荷輸送性及び電荷注入性が向上することが考えられる。しかも、カルバゾリル基を含む主成分に由来する成膜性を保持し、結果として、得られる有機電界発光素子の駆動安定性を高められると考えられる。
【0050】
尚、脱離するカルバゾリル基の数と脱離又は付加するフェニレン基の数により、上記副成分の分子量は、主成分の分子量より小さい場合と大きい場合のいずれの場合もありうる。
(電荷輸送材料の取得方法)
以下に、副成分を含む本発明の電荷輸送材料の取得方法を説明するが、上述のような副成分は、主成分の合成条件や精製条件をコントロールすることで、電荷輸送材料の主成分の化合物と共に電荷輸送材料中に含まれても、純度の高いカルバゾリル基含有化合物(主成分)に別途合成した上記副成分を混合することで本発明の電荷輸送材料としてもよい。(電荷輸送材料の合成時に、原料不純物に由来して副成分が合成される場合)
以下に、主成分の合成の段階での諸条件をコントロールすることで、本発明で規定する副成分を電荷輸送材料中に含有させる場合の1例を、下記式H−1の化合物(主成分がカルバゾリル基を1ケ有するトリアリールアミン系の化合物)である場合を例に示す。
【0051】
【化15】

【0052】
(1)原料3の合成
上記H−1の化合物の合成原料である下記原料3は、下記の合成ルートでSuzuki
カップリングによって合成できる。
【0053】
【化16】

【0054】
原料3の合成は、通常、窒素気流下、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒、エタノール等のアルコール溶媒、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル溶媒の単独又は混合溶液中、テトラキス(トリフェニルフォスフィンパラジウム)等のホスフィン配位子を有するパラジウム触媒、及び、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の塩基存在下で、3−(N−カルバゾリル)フェニルボロン酸(原料1)と、p−ブロモアニリン(原料2
)を1:1で反応させることによって行なうことができ、反応生成物は、所望により、懸濁洗浄、再沈殿、再結晶、カラムクロマトグラフィー等によって精製される。
【0055】
(2)原料6の合成
上記H−1の化合物の合成原料である下記原料6は、下記の合成ルートでSuzukiカップリングによって合成できる。
【0056】
【化17】

【0057】
原料6の合成は、通常、窒素気流下、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒、エタノール等のアルコール溶媒、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル溶媒の単独又は混合溶液中、テトラキス(トリフェニルフォスフィンパラジウム)等のホスフィン配位子を有するパラジウム触媒、及び、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の塩基存在下で、3−(m−ターフェニル)ボロン酸(原料4)と、4-ブロモヨードベンゼン(原料5)
を1:1で反応させることによって行なうことができ、反応生成物は、所望により、懸濁洗浄、再沈殿、再結晶、カラムクロマトグラフィー等によって精製される。
【0058】
(3)化合物H−1の合成
化合物H−1の合成は、上記で合成された原料3と原料6を用いて、下記合成ルートで
合成される。
【0059】
【化18】

【0060】
化合物H−1の合成は、通常、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル溶媒中、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体等のパラジウム触媒、トリ−t−ブチルホスフィン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン等のホスフィン配位子、及び、t−ブトキシナトリウム、炭酸セシウム等の塩基存在下で、原料3と原料6を1:2で反応させることによって行なうことができ、反応生成物は、所望により、懸濁洗浄、再沈殿、再結晶、カラムクロマトグラフィー等によって精製される。
【0061】
得られた化合物H−1(粗生成物)は、下記の処理により精製されて、塩素原子、臭素
原子、ヨウ素原子の含有量が低減された化合物H−1を得る。
【0062】
【化19】

【0063】
精製の具体的条件は、通常、窒素気流下、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒、エタノール等のアルコール溶媒、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル溶媒の単独又は混合溶液中、テトラキス(トリフェニルフォスフィンパラジウム)等のホスフィン配位子を有するパラジウム触媒、及び、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の塩基存在下で、H−1の粗体1に対し、0.01倍〜10倍モル量のフェニルボロン酸、ビフェニルボロン酸、ターフェニルボロン酸、クォーターフェニルボロン酸等のアリールボロン酸を作用させ、次いで懸濁洗浄、再沈殿、再結晶、カラムクロマトグラフィー等によって、無機物やアリールボロン酸を除くことにより行なわれる。通常、かかる精製処理により、化合物H−1(粗生成物)に含まれるハロゲン化物が除去されることとなる。
【0064】
(4)化合物H−1の合成時の副生物の生成
原料3の合成において、原料1の反応率を向上させるために原料2を過剰に使用すると、得られる原料3とともに生成物中に未反応の原料2が存在することとなる。この未反応の原料2は、上記(3)における原料3と原料6の反応の際に過剰に使用した原料6と反応することによって、下記反応に従って下記副成分(A)が生成し、化合物H−1(粗生成物)中に混在することとなる。従って、上記(3)において、化合物H−1(粗生成物)を精製する際、下記副成分(A)は下記の反応により、副成分1となる。
【0065】
【化20】

【0066】
この副成分1は、目的とする主成分の化合物H−1に対して、前記式(1)、即ち、X
=mCz+nB−Hにおいてm=1、n=0に相当する分だけ小さい分子量の副成分に相当する。従って、原料3を合成する際の原料1及び原料2の使用割合をコントロールし、得られた原料3の精製をコントロールする、或いは、目的物H−1の粗生成物の精製条件をコントロールすることで、本発明で規定する副成分として、下記副成分1を本発明で規定する電荷輸送材料中に含有させることができる。尚、副成分の含有割合が後述の本願発明の規定を満足しない場合には、別途合成した副成分を混合して、所定の範囲とすればよい。
【0067】
(5)m=1、n=0以外の副生物の生成
上記(1)〜(4)では、m=1、n=0に相当する分だけ小さい分子量の副成分を含む化合物H−1の合成について述べたが、nは0に限らず、−3〜3の整数を取り得る。
例えば、上記(1)において、原料1の代わりに下記原料1B(p=1〜3)を用いて、最終的に化合物1Bを合成する場合を例にとると、原料1B(p=1〜3)と原料2から原料3Bを経て、化合物1Bが生成する。化合物1Bおいて、p=1〜3のときの副成分はそれぞれ、X=mCz+nB−Hにおいてm=1、n=1〜3に相当する分だけ小さ
い分子量の化合物となる。
【0068】
【化21】

【0069】
他の例としては、上記(1)において、原料1の代わりにカルバゾリル基を2ケ有する下記原料1Cを用いて、最終的に化合物1Cを合成する場合を例にとると、原料1Cと原料2から、原料3Cを経て、化合物1Cが生成する。化合物1Cに対し、副成分は、X=
mCz+nB−Hにおいてm=2、n=0に相当する分だけ小さい分子量の化合物となる。また、原料1の代わりにカルバゾリル基を3ケ有するボロン酸を用いると、副成分はm=3、n=0に相当する分だけ小さい分子量の化合物となる。
【0070】
【化22】

【0071】
他の例としては、上記(4)において、フェニルボロン酸の代わりに、ビフェニルボロン酸、ターフェニルボロン酸、クォーターフェニルボロン酸を用いることによって、下記副成分1D(q=1〜3)が生成する。上記(3)に記載の化合物H−1に対し、下記副成分1D(q=1〜3)は、X=mCz+nB−Hにおいてm=1、n=−1〜−3に相
当する分だけ小さい分子量となる。
【0072】
【化23】

【0073】
以上の組合せ等により、m=1〜3、n=−3〜3の副成分が、主成分とともに合成され得る。
(副成分の化合物を合成して主成分に混合する場合)
本発明で規定する副成分を電荷輸送材料中に含有させるためには、上述のように、電荷輸送材料の合成条件及び/又は精製条件をコントロールする以外に、別途合成した副成分を電荷輸送材料に混合してもよい。例えば、電荷輸送材料が、カルバゾリル基を1ケ有する同一の置換基を3ケ有するトリアリールアミン化合物である場合、具体的には、例えば
、特開平2007−110093号公報の実施例に記載の下記化合物(2−1)を合成する場合、下記合成ルートでトリス(4−ブロモフェニル)アミン(原料7)にカルバゾリル基含有化合物(原料8)を反応させて目的物(2−1)を得るが、この場合、通常、原料7中の3ケの臭素原子を残存させないようにするために、原料8を過剰に使用することとなり、一般に本発明で規定する副成分が生成しにくい傾向にある。
【0074】
【化24】

【0075】
このような場合には前記式(1)X=mCz+nB−H(式中、Czはカルバゾリル基C12Nの式量166を、Bはフェニレン基Cの式量76を、Hは水素原子の原子量1を、mは1〜3の整数を、nは−3〜3の整数を表す。)に相当する分だけ小さい分子量の副成分を別途合成し、これを本発明の規定を満足するように、主成分のカルバゾリル基含有化合物に混合する。尚、副成分の合成は、例えば、上記(4)に記載の副成分1の合成ルートや、上記副成分1Dの合成ルート等を参考に、一般的有機合成の手法で行なうことができる。
【0076】
(クロマトグラムにおけるピーク面積)
本発明では、電荷輸送材料の液体クロマトグラフのUV254nmでのクロマトグラムにおいて、主成分よりも下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和(以下、「副成分のピーク面積の和」と略することがある)が、ピーク面積の総和の0.02%以上、25%以下である。
【0077】
X=mCz+nB−H ・・・(1)
(式中、Czはカルバゾリル基C12Nの式量166を、Bはフェニレン基Cの式量76を、Hは水素原子の原子量1を、mは1〜3の整数を、nは−3〜3の整数を表す。)
即ち、本発明では、電荷輸送材料が上記のような副成分を含んでおり、これが、液体クロマトグラフのUV254nmでの吸収スペクトルのクロマトグラムにおいて、主成分よりも上記式(1)だけ小さい分子量にピークとして表れるが、本発明では、それらのピーク面積の和が、ピーク面積の総和の0.02%以上25%以下であることを特徴とする。
【0078】
ピーク面積の総和に対する副成分のピーク面積の和は、0.02%以上であるが、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.08%以上、さらに好ましくは0.1%以上であり、一方、25以下であるが、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下である。この割合が小さすぎると、電荷注入性が向上せずに駆動電圧が低減や発光効率の向上に効果がなく、この割合が大き
すぎると、カルバゾリル基が少なく、分子量の小さい副成分の増加により耐熱性が著しく低下する。又、ピーク面積の総和に対する副成分のピーク面積の和が本発明の範囲内であることにより、これを電荷輸送材料とする有機電荷発光素子は、電流効率に優れ、又、初期電圧が低く、しかも優れた駆動寿命を有すこととなる。
【0079】
又、上記の中でも、主成分よりも上記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分(但し、上記式(1)におけるmが1〜3の整数であり、nが−3〜0の整数である)に由来するピーク面積の和が、上記の範囲を満足するのが特に好ましい。
尚、例えば、主成分であるカルバゾリル基を有する化合物がカルバゾリル基を1ケのみ
有する場合、そもそも上記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に、m=3やm=2の場合に該当する副成分が存在しないことは自明で、この場合、m=1に該当する副成分が、本発明における電荷輸送材料の副成分のピークを構成する成分となる。
(クロマトグラムにおけるピーク面積の総和に対する副成分のピーク面積の和(%)の算出方法)
本発明の電荷輸送材料における、ピーク面積の総和に対する副成分のピーク面積の和の割合(%)(以下、単に「副成分の含有率」と略することがある)の算出は、
(i)電荷輸送材料の構成成分(化合物)を検出し、
(ii)該構成成分(化合物)の分子量を特定し、
(iii)該構成成分(化合物)の構造を同定し、
(iv)電荷輸送材料中の副成分の含有率を算出する、
ことにより行なうことができる。
【0080】
(i)電荷輸送材料の構成成分(化合物)の検出
本発明の電荷輸送材料は有機溶剤に可溶であるため、まず高速液体クロマトグラム(HPLC)を用いて構成成分(化合物)を検出する。その測定条件としては、以下の条件が挙げられる。
・装置 : 島津製作所(株) LC−10AVPシステム
・検出器 : 島津製作所(株) SPD−M10AVPフォトダイオードア
レイ検出器
・分離カラム : 野村化学(株) Develosil C30−UG−3
(4.6mmφ×100mmL、粒径:3μm)
・溶離液 : A=水−アセトニトリル(1:1) B=2−プロパノール
B:70(0)→95(10)→95%(30分)
・流速 : 0.8ml/min
・カラム槽温度 : 35℃
・検出波長 : 254nm
(ii)構成成分(化合物)の分子量の特定
次にHPLCで検出された成分について、LC−MS(高速液体クロマトグラフと組み合わせた質量分析)を用いて標品との比較に基づいて分子量測定を行なう。
【0081】
具体的な測定条件としては、以下の条件が挙げられる。
・装置 : 島津製作所(株) LC−10AVPシステム
・検出器 : エービー・サイエックス(株) API3000質量分析計
・分離カラム : 野村化学(株) Develosil C30−UG−3
(4.6mmφ×100mmL、粒径:3μm)
・溶離液 : A=水−アセトニトリル(1:1) B=2−プロパノール
B:70(0)→95(10)→95%(30分)
・流速 : 0.5ml/min、1/1スプリットにて半流量をMS導入
・カラム槽温度 : 35℃
・検出 : エレクトロスプレーイオン化(正イオン検出モード)
(iii)構成成分(化合物)の構造の同定
次に、HPLCにより得られた成分を分取HPLCにより各成分分取を実施し、分取された各成分をH−NMRにて構造確認を実施することにより、構造を推定することができる。ここで、構造の推定をより確実にするためには、13C−NMRや各種2次元NMRを測定するのがより好ましい。尚、本発明においては、電荷輸送材料の各成分の構造を全て同定する必要はなく、少なくとも主成分の構造が同定できれば、後述の(iv)に従い、副成分の含有率を算出することが可能である。
【0082】
(iv)電荷輸送材料中の副成分の含有率の算出
電荷輸送材料中での副成分の含有率は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)によるUV吸収ピーク面積より算出することができ、ここでのUV吸収ピーク面積の測定には254nmのUV光を使用する。この理由は、上述の検出成分は、そのいずれも芳香環に結合する官能基がおおむね類似のものであり、かつこれらの官能基が芳香環を介して結合していることから、芳香環π電子の分極状態はおおむね同一と予想され、分光学的性質に決定的な差はないものと考えられる。従って、HPLC分析における各検出成分のレスポンスファクターは同一であるものと仮定されることによる。
【0083】
又、電荷輸送材料中の副成分の含有率は、少なくとも主成分の構造、特に主成分がカルバゾリル基を有する化合物であることが確認できれば、上述の(ii)でLC−MSにより測定される主成分の分子量、主成分よりも前述の式(1)で算出される値(X)分だけ
小さい副成分の分子量(これは、前述の式(1)により決定される)、及びHPLC分析による主成分及び副成分のUV吸収ピーク面積から算出できる。即ち、電荷輸送材料をLC−MS測定したときに得られるマスクロマトグラムから、所望の分子量(前述の式(1)を用いて算出される)に相当する成分の保持時間を把握し、これと類似条件でのHPLCクロマトグラムでの該当ピークを選別することにより、HPLCクロマトグラムでのピークと分子量を対応させる。このようにして見出したピークのUV吸収ピーク面積を積算することで、副成分の含有率を算出することができる。又、ピーク面積の総和は、HPLCクロマトグラムでのUV吸収ピークの全ピーク面積を積算することで算出することができる。
【0084】
(本発明の電荷輸送材料の物性)
(1)ガラス転移温度
本発明の電荷輸送材料は、通常50℃以上のガラス転移温度を有するが、耐熱性の観点から、ガラス転移温度は80℃以上であることが好ましく、110℃以上であることが更に好ましい。
【0085】
(2)気化温度
本発明の電荷輸送材料は、通常300℃以上、800℃以下の気化温度を有する。なお、本発明の電荷輸送材料は、ガラス転移温度と気化温度の間に結晶化温度を有さないことが好ましい。
(3)溶解度
本発明の電荷輸送材料としては、25℃、大気圧条件下で、m−キシレンに対して5質量%以上溶解するものであることが、溶剤溶解性を確保して、湿式製膜法による成膜性を得るために好ましい。この溶解度は好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。この溶解度の上限については特に定めないが通常50質量%以下である
[電荷輸送膜用組成物]
本発明の電荷輸送膜用組成物は、前述の本発明の電荷輸送材料を含むものであり、好ましくは、有機電界発光素子用に使用される。
【0086】
[1]溶剤
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物として用いられる電荷輸送膜用組成物は溶剤を含んでいることが好ましい。
本発明の電荷輸送膜用組成物に含まれる溶剤としては、溶質である本発明の電荷輸送材料等が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されない。
【0087】
本発明の電荷輸送材料は、溶剤に対する溶解性が非常に高いため、種々の溶剤が適用可能である。例えば、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル;シクロヘキサノン、シクロオクタノン等の脂環式ケトン;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン;メチルエチルケトン、シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環式アルコール;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル等が利用できる。これらのうち、水の溶解度が低い点、容易には変質しない点で、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0088】
有機電界発光素子には、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、組成物中の水分の存在は、乾燥後の膜中に水分が残留し、素子の特性を低下させる可能性が考えられる。その為、組成物中の水分量を低減させることが好ましい。
組成物中の水分量を低減する方法としては、例えば、窒素ガスシール、乾燥剤の使用、溶剤を予め脱水する方法、水の溶解度が低い溶剤を使用する方法等が挙げられる。中でも、水への溶解度が低い溶剤を使用する場合は、湿式製膜工程中に、溶液膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐことができるため好ましい。この様な観点からは、本発明の電荷輸送膜用組成物としては、例えば、25℃における水の溶解度が1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である溶剤を、組成物中に10質量%以上含有することが好ましい。
【0089】
また、湿式製膜時における組成物からの溶剤蒸発による、製膜安定性の低下を低減するためには、電荷輸送膜用組成物の溶剤として、沸点が100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上の溶剤を用いることが効果的である。また、より均一な膜を得るためには、製膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが必要であるが、このためには通常沸点の下限が80℃、好ましくは100℃、より好ましくは120℃で、かつ通常上限が270℃未満、好ましくは250℃未満、より好ましくは230℃未満の溶剤を用いることが効果的である。
【0090】
上述の条件、即ち溶質の溶解性、蒸発速度、水の溶解度の条件を満足する溶剤を単独で用いてもよいが、すべての条件を満たす溶剤が選定できない場合は、2種類以上の溶剤を混合して用いることもできる。
[2]発光材料
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物として用いられる電荷輸送膜用組成物は、発光材料を含有することが好ましい。
【0091】
発光材料とは、本発明の電荷輸送膜用組成物において、主として発光する成分を指し、
有機電界発光素子におけるドーパント成分に当たる。即ち、電荷輸送膜用組成物から発せられる光量(単位:cd/m2)の内、通常10〜100%、好ましくは20〜100%
、より好ましくは50〜100%、最も好ましくは80〜100%が、ある成分材料からの発光と同定される場合、それを発光材料と定義する。
【0092】
発光材料としては、任意の公知材料を使用可能であり、例えば、蛍光発光材料、燐光発光材料を単独で又は複数種を混合して使用できるが、内部量子効率の観点から、好ましくは、燐光発光材料である。
この発光材料の最大発光ピーク波長は390〜490nmの範囲にあることが好ましい。
【0093】
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることも可能である。
青色発光を与える蛍光色素としては、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。緑色蛍光色素としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体等が挙げられる。黄色蛍光色素としては、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。赤色蛍光色素としては、DCM系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0094】
燐光発光材料としては、例えば周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む燐光性有機金属錯体における金属の好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記式(V)又は式(VI)で表される化合物が挙げられる。
【0095】
ML(q-j)L'j (V)
(式(V)中、Mは金属を表し、qは上記金属の価数を表す。また、L及びL'は二座配
位子を表す。jは0〜2の整数を表す。)
【0096】
【化25】

【0097】
(式(VI)中、Mdは金属を表し、Tは炭素原子又は窒素原子を表す。R92〜R95は、そ
れぞれ独立に置換基を表す。ただし、Tが窒素の場合は、R94及びR95は無い。)
以下、まず、式(V)で表される化合物について説明する。
【0098】
式(V)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
また、式(V)中の二座配位子L及びL'は、それぞれ、以下の部分構造を有する配位
子を示す。
【0099】
【化26】

【0100】
【化27】

【0101】
L'として、錯体の安定性の観点から、特に好ましくは、下記のものが挙げられる。
【0102】
【化28】

【0103】
上記L,L'の部分構造において、環A1は芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を
表し、環A2は含窒素芳香族複素環基を表し、これらは置換基を有していてもよい。
環A1、A2が置換基を有する場合、好ましい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基
等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基、フェナンチル基等の芳香族炭化水素環基等が挙げられる。
【0104】
式(V)で表される化合物として、更に好ましくは、下記式(Va)、(Vb)、(Vc)で表される化合物が挙げられる。
【0105】
【化29】

【0106】
(式(Va)中、Maは金属を表し、wは前記金属の価数を表す。また、環A1は置換基
を有していてもよい芳香族炭化水素環基を表し、環A2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0107】
【化30】

【0108】
(式(Vb)中、Mbは金属を表し、wは前記金属の価数を表す。また、環A1は置換基
を有していてもよい芳香族炭化水素環基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、環A2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0109】
【化31】

【0110】
(式(Vc)中、Mcは金属を表し、wは前記金属の価数を表す。また、jは0〜2の整
数を表す。さらに、環A1及び環A1'は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい
芳香族炭化水素環基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。また、環A2及び環A2'は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表
す。)
上記式(Va)、(Vb)、(Vc)において、環A1及び環A1'を構成する基とし
ては、好ましくは、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0111】
また、環A2、環A2'を構成する基としては、好ましくは、例えばピリジル基、ピリ
ミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
更に、環A1、環A1'環A2及び環A2'が有していてもよい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0112】
上記置換基がアルキル基である場合は、その炭素数は通常1〜6である。更に、置換基がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2〜6である。また、置換基がアルコキシカルボニル基である場合は、その炭素数は通常2〜6である。さらに、置換基がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1〜6である。また、置換基がアリールオキシ基である場合は、その炭素数は通常6〜14である。さらに、置換基がジアルキルアミノ基である場合は、その炭素数は通常2〜24である。また、置換基がジアリールアミノ基である場合は、その炭素数は通常12〜28である。さらに、置換基がアシル基である場合は、その炭素数は通常1〜14である。また、置換基がハロアルキル基である場合は、その炭素数は通常1〜12である。
【0113】
なお、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、又は、環A1'が有する置換基と
環A2'が有する置換基とが結合して、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合
環基としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
中でも、環A1、環A1'、環A2及び環A2'の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素環基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が好ましい。
【0114】
また、Ma、Mb、Mcとしては上記Mと同様の金属が挙げられ、中でもルテニウム、ロ
ジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が好ましい。
上記式(V)、(Va)、(Vb)又は(Vc)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されるものではない(以下において、Ph’はフェニル基を表す。)。
【0115】
【化32】

【0116】
【化33】

【0117】
上記式(V)、(Va)、(Vb)、(Vc)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子L及び/又はL'として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピ
リジンを有する錯体、これに置換基が結合した錯体、及び、置換基が互いに結合して縮合環を形成している錯体が好ましい。
【0118】
また、国際公開第2005/019373号パンフレットに記載の化合物も使用することができる。
次に、前記式(VI)で表される化合物について説明する。
式(VI)中、Mdは金属を表し、具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる
金属として前述した金属が挙げられる。中でも、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が好ましい。
【0119】
また、式(VI)において、R92及びR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。
【0120】
さらに、Tが炭素原子の場合、R94及びR95は、それぞれ独立に、R92及びR93と同様の例示物で表される置換基を表す。また、前述の如く、Tが窒素原子の場合はR94及びR95は無い。
また、R92〜R95は更に置換基を有していてもよい。この場合の置換基として特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
【0121】
さらに、R92〜R95は互いに連結して環を形成してもよく、この環が更に任意の置換基を有していてもよい。
式(VI)で表される有機金属錯体の具体例(T−1,T−10〜T−15)を以下に示すが、下記の例示化合物に限定されるものではない。なお、以下において、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0122】
【化34】

【0123】
[3]その他の成分
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物として用いられる電荷輸送膜用組成物中には、前述した溶剤及び発光材料以外にも、必要に応じて、各種の他の溶剤を含んでいてもよい。このような他の溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0124】
また、2層以上の層を湿式製膜法により積層する際に、これらの層が相溶することを防ぐため、製膜後に硬化させて不溶化させる目的で光硬化性樹脂や、熱硬化性樹脂を含有させておくこともできる。
[4]電荷輸送膜用組成物中の材料濃度と配合比
電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物中の電荷輸送材料、発光材料及び必要に応じて添加可能な成分(レベリング剤など)などの固形分濃度は、下限が通常0.01質量%、好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.1質量%、更に好ましくは0.5質量%、最も好ましくは1質量%であり、他方上限が通常80質量%、好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%、更に好ましくは30重量%、最も好ましくは20質量%である。この濃度が下限を下回ると、薄膜を形成する場合、厚膜を形成するのが
困難となり、上限を超えると、薄膜を形成するのが困難となる。
【0125】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物において、発光材料/電荷輸送材料の含有質量比は、下限が通常0.1/99.9、より好ましくは0.5/99.5、更に好ましくは1/99、最も好ましくは2/98以上であり、他方上限が通常50/50、より好ましくは40/60、更に好ましくは30/70、最も好ましくは20/80である。この質量比が下限を下回ったり、上限を超えたりすると、著しく発光効率が低下するおそれがある。
【0126】
[5]電荷輸送膜用組成物の調製方法
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物は、電荷輸送材料、発光材料、及び必要に応じて添加可能なレベリング剤や消泡剤等の各種添加剤よりなる溶質を、適当な溶剤に溶解させることにより調製される。溶解工程に要する時間を短縮するため、及び組成物中の溶質濃度を均一に保つため、通常、溶液を撹拌しながら溶質を溶解させる。溶解工程は常温で行ってもよいが、溶解速度が遅い場合は加熱して溶解させることもできる。溶解工程終了後、必要に応じて、フィルタリング等の濾過工程を付してもよい。
【0127】
[6]電荷輸送膜用組成物の性状、物性等
(水分濃度)
有機電界発光素子を、本発明の電荷輸送膜用組成物(有機電界発光素子用組成物)を用いた湿式製膜法により層形成して製造する場合、用いる有機電界発光素子用組成物に水分が存在すると、形成された膜に水分が混入して膜の均一性が損なわれるため、本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。また一般に、有機電界発光素子は、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、電荷輸送膜用組成物中に水分が存在した場合、乾燥後の膜中に水分が残留し、素子の特性を低下させる可能性が考えられ好ましくない。
【0128】
具体的には、本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物中に含まれる水分量は、通常1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
電荷輸送膜用組成物中の水分濃度の測定方法としては、日本工業規格「化学製品の水分測定法」(JIS K0068:2001)に記載の方法が好ましく、例えば、カールフィッシャー試薬法(JIS K0211−1348)等により分析することができる。
【0129】
(均一性)
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物は、湿式製膜プロセスでの安定性、例えば、インクジェット製膜法におけるノズルからの吐出安定性を高めるためには、常温で均一な液状であることが好ましい。常温で均一な液状とは、組成物が均一相からなる液体であり、かつ組成物中に粒径0.1μm以上の粒子成分を含有しないことをいう。
【0130】
(物性)
本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物の粘度については、極端に低粘度の場合は、例えば製膜工程における過度の液膜流動による塗面不均一、インクジェット製膜におけるノズル吐出不良等が起こりやすくなり、極端に高粘度の場合は、インクジェット製膜におけるノズル目詰まり等が起こりやすくなる。このため、本発明の組成物の25℃における粘度は、下限が通常2mPa・s、好ましくは3mPa・s、より好ましくは5mPa・sであり、他方上限が通常1000mPa・s、好ましくは100mPa・s、より好ましくは50mPa・sである。
【0131】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物の表面張力が高い場合は、基板に対する製膜用液の濡れ性の低下、すなわち液膜のレベリング性が悪化し、乾燥時の製膜面の乱れが起こりやすくなる等の問題が発生するため、本発明の組成物の20℃における表面張力は、通常50mN/m未満、好ましくは40mN/m未満である。
更に、本発明の電荷輸送膜用組成物、特に有機電界発光素子用組成物の蒸気圧が高い場合は、溶剤の蒸発による溶質濃度の変化等の問題が起こりやすくなる。このため、本発明の組成物の25℃における蒸気圧は、通常50mmHg以下、好ましくは10mmHg以下、より好ましくは1mmHg以下である。
【0132】
<有機電界発光素子の構成>
本発明の有機電界発光素子は、基板上に形成された一対の電極に一層以上の有機層を備え、有機層のうちの少なくとも一層が本発明の電荷輸送材料を含有するものであれば、特に限定されるものではない。ここで、有機層としては、有機電界発光素子の層構成により一様ではないが、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層が挙げられる。
【0133】
本発明の有機電界発光素子が1つの有機層を有する場合、この有機層は発光層を意味し、この発光層は電荷輸送能を有し、かつ本発明の電荷輸送材料を含有する。
一方、複数の有機層を有する有機電界発光素子の場合、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層及び電子注入層のうちの少なくとも一層が本発明の電荷輸送材料を含有すればよい。なお、複数の有機層を有する有機電界発光素子の有機層の層構成としては、発光可能であれば特に限定されないが、例えば、次のものが挙げられる。
1)少なくとも発光層及び電子輸送層から構成されるもの
2)少なくとも正孔輸送層及び発光層から構成されるもの
3)少なくとも正孔輸送層、発光層及び電子輸送層から構成されるもの
以下、図1を参照しながら本発明の有機電界発光素子の層構成及びその一般的形成方法等について説明する。なお、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0134】
図1は、本発明にかかる有機電界発光素子の一例を示す模式断面図である。図1に示す有機電界発光素子は、基板1上に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、正孔阻止層6、電子輸送層7、電子注入層8及び陰極9が順次積層された構造を有するものである。
なお、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。これは、有機電界発光素子に用いられる塗布用組成物特有の液性に合うためである。
【0135】
(基板)
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがある。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0136】
(陽極)
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0137】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0138】
なお、陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0139】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることが好ましい。
(正孔注入層)
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
【0140】
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0141】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製する。次いで、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0142】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物及び溶剤を含有する。
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0143】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から、4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0144】
なお、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例に挙げると、芳香族アミンそのもの及び芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
正孔注入層3の形成に用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0145】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)が更に好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(VII)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられ
る。
【0146】
【化35】

【0147】
(式(VII)中、Ar1及びAr2は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭
化水素環基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar3〜Ar5は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar1〜Ar5のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0148】
【化36】

【0149】
(上記各式中、Ar6〜Ar16は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化
水素環基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。R101及びR102は、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表す。)
Ar1〜Ar16の芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶
解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基が更に好ましい。
【0150】
Ar1〜Ar16の芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基は、更に置換基を有していて
もよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが好ましい。
101及びR102が任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0151】
式(VII)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例と
しては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
また、正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4-ethylenedioxythiophene(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)も好ましく、このポリマーの末端をメタクリレ
ート等でキャップしたものであってもよい。
【0152】
さらに、正孔輸送性化合物は、下記[正孔輸送層]の項に記載の架橋性重合体であってもよい。該架橋性重合体を用いた場合の成膜方法についても同様である。好ましい具体例としては、特開2009−295974公報に記載のものが挙げられる。
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で、下限は通常0.01質量%、好ましくは0.1質量%、更に好ましくは0.5質量%であり、また上限は通常70質量%、好ましくは60質量%、更に好ましくは50質量%である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性があ
る。
【0153】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物が更に好ましい。
【0154】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4'−メチルジフェニルヨードニウムテ
トラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開2005/089024号パンフレット);塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アン
モニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0155】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の含有量は、正孔輸送性化合物に対して、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上であり、かつ通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0156】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、更にその他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0157】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物に含まれる溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうるものであることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上であることが好ましい。中でも、沸点が200℃以上であり、かつ400℃以下、特に300℃以下である溶剤が好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。他方、溶剤の沸点が高すぎると、乾燥工程の温度を高くする必要があり、また他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0158】
溶剤としては、例えば、エーテル、エステル、芳香族炭化水素、アミドなどが挙げられ、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。なお、各溶剤の具体例は、上記において説明したとおりである。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0159】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、基体の外表面に位置する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
塗布工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましい。
【0160】
塗布工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
塗布後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。この加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0161】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、混合溶剤中の少なくとも1種類の溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程における温度は、好ましくは120℃以上410℃以下であることが好ましい。
【0162】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置された、るつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0163】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、通常9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0164】
[正孔輸送層]
本発明に係る正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。 また、本発明の有機電界発光素子は、正
孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0165】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのためには、イオン化ポテン
シャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0166】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0167】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0168】
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(VIII)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。特に、下記式(VIII)で表される繰り返し単位からなる重合体であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、Ara又はArbが異なっているものであってもよい。
【0169】
【化37】

【0170】
(式(VIII)中、Ara及びArbは、各々独立して、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。)
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0171】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレ
ン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0172】
溶解性、耐熱性の点から、Ara及びArbは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基(ビフェニレン基)やターフェニル基(ターフェニレン基))が好ましい。
【0173】
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)及びフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
Ara及びArbにおける芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0174】
ポリアリーレン誘導体としては、前記AraやArbとして例示した置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する重合体が挙げられる。
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(IX-1)及び/又は下記式(IX-2)からなる繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0175】
【化38】

【0176】
(式(IX-1)中、Ra、Rb、Rc及びRdは、各々独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシ基を表す。t及びsは、各々独立に、0〜3の整数を表す。t又はsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRa又はRbは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRa又はRb同士で環を形成していてもよい。)
【0177】
【化39】

【0178】
(式(IX-2)中、Re及びRfは、各々独立に、上記式(IX-1)におけるRa、Rb、Rc
はRdと同義である。r及びuは、各々独立に、0〜3の整数を表す。r又はuが2以上
の場合、一分子中に含まれる複数のRe及びRfは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRe又はRf同士で環を形成していてもよい。Xは、5員環又は6員環を構成する原子又は原子群を表す。)
Xの具体例としては、−O−、−BR103−、−NR103−、−SiR1032−、−PR103−、−SR103−、−CR1032−又はこれらが結合してなる基である。なお、R103は、
水素原子又は任意の有機基を表す。本発明における有機基とは、少なくとも一つの炭素原子を含む基である。
【0179】
また、ポリアリーレン誘導体としては、前記式(IX-1)及び/又は前記式(IX-2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(IX-3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0180】
【化40】

【0181】
(式(IX-3)中、Arc〜Arjは、各々独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表す。v及びwは、各々独立に0又は1を表す。)
Arc〜Arjの具体例としては、前記式(VIII)における、Ara及びArbと同様である。
【0182】
上記式(IX-1)〜(IX-3)の具体例及びポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008-98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0183】
真空蒸着法により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
正孔輸送層4はまた、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0184】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。 架橋性
化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。
【0185】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物としては、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特にトリフェニルアミン誘導体が好ましい。
【0186】
架橋性化合物としては、これら正孔輸送性化合物に対して、架橋性基が主鎖又は側鎖に結合しているものが挙げられる。特に架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。
また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を有する繰り返し単位を含む重合体であることが好ましく、上記式(VIII)や式(IX-1)〜(IX-3)に架橋性基が直接又は連結基を介して結合した繰り返し単位を有する重合体であることが好ましい。
【0187】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解又は分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により成膜して架橋させる。
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤;重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤などが挙げられる。また、更に、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂;などを含有していてもよい。
【0188】
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上含有し、かつ通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下含有する。
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱及び/又は光などの活性エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物を形成する。
【0189】
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。
成膜後の加熱の手法は特に限定されない。加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上で、かつ1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0190】
光などの活性エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の活性エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0191】
加熱及び光などの活性エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
[発光層]
正孔注入層3の上には通常発光層4が設けられる。発光層4は、例えば前述の発光材料を含む層であり、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3を通じて注入された正孔と、陰極6から電子輸送層5を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。発光層4は、発光材料(ドーパント)と1種又は2種以上のホスト材料を含むことが好ましい。発光層4は、本発明の電荷輸送材料をホスト材料として含むことが更に好ましい。発光層4は、真空蒸着法で形成してもよいが、本発明の有機電界発光素子用組成物を用い、湿式製膜法によって作製された層であることが特に好ましい。ここで、湿式製膜法とは、前述の如く、溶剤を含む組成物を、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ダイコート、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット法等により製膜するものである。
【0192】
なお、発光層4は、本発明の性能を損なわない範囲で、他の材料、成分を含んでいてもよい。
一般に有機電界発光素子において、同じ材料を用いた場合、電極間の膜厚が薄い方が、実効電界が大きくなる。その結果、注入される電流が多くなり、駆動電圧は低下する。その為、電極間の総膜厚は薄い方が、有機電界発光素子の駆動電圧は低下するが、あまりに薄いと、ITO等の電極に起因する突起により短絡が発生する為、ある程度の膜厚が必要となる。
【0193】
本発明においては、発光層4以外に、正孔注入層3及び後述の電子輸送層5等の有機層を有する場合、発光層4と正孔注入層3や電子輸送層5等の他の有機層とを合わせた総膜厚は通常30nm以上、好ましくは50nm以上であり、更に好ましくは100nm以上である。総膜厚の上限は、通常1000nm、好ましくは500nm、更に好ましくは300nmである。また、発光層4以外の正孔注入層3や後述の電子注入層5の導電性が高い場合、発光層4に注入される電荷量が増加する。その為、例えば正孔注入層3の膜厚を厚くして発光層4の膜厚を薄くし、総膜厚をある程度の膜厚を維持したまま駆動電圧を下げることも可能である。
【0194】
よって、発光層4の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは20nm以上で、通常30
0nm以下、好ましくは200nm以下である。なお、本発明の素子が、陽極及び陰極の両極間に、発光層4のみを有する場合の発光層4の膜厚は、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、通常500nm以下、好ましくは300nm以下である。
[正孔阻止層]
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0195】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0196】
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0197】
[電子輸送層]
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0198】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N'−ジシアノアントラキノンジ
イミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0199】
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子輸送層7の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0200】
[電子注入層]
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率良く発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。その具体例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が挙げられる。また、その膜厚は、通常0.1nm以上、好ましくは5nm以下である。
【0201】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0202】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
[陰極]
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8又は発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0203】
陰極9の材料としては、陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0204】
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0205】
[その他の層]
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記層以外の任意の層を有していてもよく、また任意の層が省略されていてもよい。
[電子阻止層]
任意の層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
【0206】
電子阻止層は、正孔注入層3又は正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0207】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0208】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
さらに、陰極9と発光層5又は電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(II)(CsCO3)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子
の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0209】
また、本発明の有機電界発光素子の構成は上記に限定されるものではなく、積層順序を変更することが可能である。具体的には、基板1上に、陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3及び陽極2が順次積層された構造としてもよい。
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0210】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V25)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0211】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、上記以外の成分が含まれていてもよい。
【0212】
<有機電界発光素子表示装置及び有機電界発光素子照明装置>
本発明の有機電界発光素子表示装置及び有機電界発光素子照明装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を具備するものである。本発明の有機電界発光素子表示装置及び有機電界発光素子照明装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0213】
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機電界発光素子表示装置及び有機電界発光素子照明装置を形成することができる。
【実施例】
【0214】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実施できる。
[HPLCの測定条件]
・装置 : 島津製作所(株) LC−10AVPシステム
・検出器 : 島津製作所(株) SPD−M10AVPフォトダイオード
アレイ検出器
・分離カラム : 野村化学(株) Develosil C30−UG−3
(4.6mmφ×100mmL、粒径:3μm)
・溶離液 : A=水−アセトニトリル(1:1) B=2−プロパノール
B:70(0)→95(10)→95%(30分)
・流速 : 0.8ml/min
[LC−MSの測定条件]
・装置 : 島津製作所(株) LC−10AVPシステム
・検出器 : エービー・サイエックス(株) API3000質量分析計
・分離カラム : 野村化学(株) Develosil C30−UG−3
(4.6mmφ×100mmL、粒径:3μm)
・溶離液 : A=水−アセトニトリル(1:1) B=2−プロパノール
B:70(0)→95(10)→95%(30分)
・流速 : 0.5ml/min、1/1スプリットにて半流量をMS導入
・カラム槽温度 : 35℃
・検出 : エレクトロスプレーイオン化(正イオン検出モード)
実施例1(電荷輸送材料)
(1)原料3の合成
下記合成ルートに従い、Suzukiカップリングによって原料3を合成した。
【0215】
【化41】

【0216】
フラスコに、窒素気流下で原料1(7.3mmol)、原料2(7.0mmol)、トルエン42mL、及びエタノール21mLを入れ室温で攪拌した。これに2M炭酸ナトリウム水溶液22mLを入れ、30分間、室温で窒素バブリングを行った。次いでテトラキス(トリ
フェニルホスフィン)パラジウム(0.14mmol)を入れ、窒素下で4時間加熱還流した。放冷後、有機層を濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/酢酸エチル=4/1)により精製した。60℃で減圧乾燥することにより、原料3(収率73.6%)を得た。
【0217】
尚、原料3のHPLC純度は97.6面積%であり、0.13面積%の4−ブロモアニリンが含まれていた。
(2)原料6の合成
下記合成ルートに従い、Suzukiカップリングによって原料6を合成した。
【0218】
【化42】

【0219】
フラスコに、窒素気流下で原料4(10.4mmol)、原料5(12.5mmol)、トルエン29mL、及びエタノール15mLを入れ室温で攪拌した。これに2M炭酸ナトリウム水溶液16mLを入れ、30分間、室温で窒素バブリングを行った。次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.15mmol)を入れ、窒素下で7時間加熱還流した。放冷後、有機層を濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/ヘプタン=3/1)により粗物を得た。得られた粗物にヘプタン18mLを入れ、室温で30分間攪拌した。析出物をろ別し、60℃で減圧乾燥することにより、原料6(収率56.6%)を得た。
【0220】
(2)化合物H−1を主成分とする電荷輸送材料の合成
以下の合成及び精製ルートで、化合物H−1を主成分とする電荷輸送材料を得た。
【0221】
【化43】

【0222】
フラスコに、原料3(6mmol)、原料6(12.0mmol)、tert-ブトキシナトリウム
(32.4mmol)、トルエン58mLを仕込み、系内を十分に窒素置換して、92℃まで加温した。これにトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.12mmol)のトルエン溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.96mmol)を加えた溶液を添加し、92℃で1.0時間攪拌し、続いて、加熱還流を3時間行った。放冷後、活性白土を加え攪拌後、濾液を濃縮、カラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/ヘプタン=1/1)により精製した。60℃で減圧乾燥することにより、粗体1(収率98.2%)を得た。
【0223】
フラスコに、得られた粗体1、フェニルボロン酸(1.2mmol)、トルエン52mL、エタノール26mL、2M炭酸ナトリウム水溶液13mLを仕込み、系内を十分に窒素置換して、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.06mmol)を添加し、加熱還流を8時間行った。放冷度、トルエン、水を加え、有機層を濃縮、カラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/ヘプタン=1/1)により精製した。精製により得られた生成物をトルエンに溶解させた後、エタノールに滴下することにより、H−1のAロット(収率89.2%)を得た。
【0224】
H−1のAロットのHPLC純度は99.5面積%であった。H−1のAロットには、分子量777の副成分1(主成分より、本発明の式(1)において、m=1、n=0として算出される値(X)分だけ小さい分子量の化合物に相当)が0.09面積%、分子量701の副成分2(主成分より、本発明の式(1)において、m=1、n=1として算出される値(X)分だけ小さい分子量の化合物に相当)が、0.01面積%含まれていた。尚、副成分1及び副成分2の分子量はLC−MS測定により決定した。
【0225】
図2に、HPLCクロマトグラム(UV254nm)による化合物H−1のAロットのHPLCクロマトグラフを示した。図3に、化合物H−1のAロットのLC−MS測定におけるUV254nmクロマトグラフ及びm/z778マスクロマトグラムを示した。
尚、化合物H−1のAロットを合成するために用いた原料3のHPLC純度は、上記の通り、97.6面積%であり、0.13面積%の4−ブロモアニリンが含まれていた。こ
のことから、副成分1は下記式のように、4−ブロモアニリンを出発原料として生成したものと推察した。
【0226】
【化44】

【0227】
実施例2(電荷輸送材料)
HPLC純度が96.6面積%であり、4−ブロモアニリンを0.85面積%含む原料3を用いて、実施例1と同様にして化合物H−1のBロットを合成した(収率83.6%)。化合物H−1のBロットのHPLC純度は99.1面積%であった。化合物H−1のBロットには、分子量777の副成分1(主成分より、本発明の式(1)において、m=1、n=0として算出される値(X)分だけ小さい分子量の化合物に相当)が0.02面積%、分子量701の副成分2(主成分より、本発明の式(1)において、m=1、n=1として算出される値(X)分だけ小さい分子量の化合物に相当)が、0.09面積%含まれていた。
【0228】
図2に、HPLCクロマトグラム(UV254nm)による化合物H−1のBロットのHPLCクロマトグラフを示した。図3に、化合物H−1のBロットのLC−MS測定におけるUV254nmクロマトグラフ及びm/z702マスクロマトグラムを示した。
尚、実施例2の原料3は、17.4倍のスケールで行ったこと以外は、実施例1の原料3と同様に合成した。スケールが異なることにより、精製度合いに変化が生じたものと推測される。
【0229】
比較例1(電荷輸送材料)
カラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン/酢酸エチル=4/1)による精製を強化し、HPLC純度を98.2面積%まで高め、4−ブロモアニリンを0.1面積%以下に抑えた原料3を用いて、実施例1と同様にして化合物H−1のCロットを合成した(収率83.6%)。
【0230】
化合物H−1のCロットのHPLC純度は99.1面積%であった。化合物H−1のCロットには、分子量777の副成分1(主成分より、本発明の式(1)において、m=1、n=0として算出される値(X)分だけ小さい分子量の化合物に相当)及び分子量701の副成分2(主成分より、本発明の式(1)において、m=1、n=1として算出される値(X)分だけ小さい分子量の化合物に相当)は実質的に含まれていなかった(0.01面積%以下)。図2に、HPLCクロマトグラム(UV254nm)による化合物H−1のBロットのHPLCクロマトグラフを示した。
【0231】
化合物H−1のA〜CロットのHPLC純度を表―1にまとめた。
【0232】
【表1】

【0233】
* 1:副成分面積割合(%)は、ピーク面積の総和に対する、主成分よりも下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和の割合(%)を示す。
【0234】
実施例3(有機電界発光素子)
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
ガラス基板の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm成膜したもの(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術により2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
まず、下の構造式(P1)に示す重合体(重量平均分子量:70000,数平均分子量:40000)、構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートおよび安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用塗布液を調製した。この塗布液を下記条件で陽極2上にスピンコートすることにより成膜して、膜厚40nmの正孔注入層3を得た。
【0235】
【化45】

【0236】
<正孔注入層形成用塗布液>
溶媒 安息香酸エチル
塗布液濃度 P1:2.0重量%
A1:0.4重量%
<正孔注入層3の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 大気中
加熱条件 大気中 230℃ 1時間
引き続き、以下の式(P2)に示す重合体(重量平均分子量:82000,数平均分子量:48800)を含有する正孔輸送層形成用塗布液を調製し、これを上記で得られた正孔注入層3の上に、下記の条件でスピンコートすることにより成膜して、加熱により重合させることにより膜厚15nmの正孔輸送層4を形成した。
【0237】
【化46】

【0238】
<正孔輸送層形成用塗布液>
溶媒 シクロヘキシルベンゼン
塗布液濃度 1.0重量%
<正孔輸送層4の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 120秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 230℃、1時間、窒素中
次に、実施例1で合成した化合物H−1のAロット、以下の構造式に示す(C1)および(D1)を含有する発光層形成用塗布液を調製し、これを上記の正孔輸送層4の上に下記の条件でスピンコートすることにより成膜を行い、加熱することで膜厚60nmの発光層5を形成した。
【0239】
【化47】

【0240】
<発光層形成用塗布液>
溶媒 シクロヘキシルベンゼン
塗布液濃度 化合物H−1のAロット 3.75重量%
(C1)1.25重量%
(D1)0.50重量%
<発光層5の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 120秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 130℃、10分、減圧下(0.1MPa)
得られた発光層5の上に、真空蒸着法により正孔阻止層6として下記構造の化合物HB−1を膜厚10nmとなるように、次いで、電子輸送層7として下記構造の化合物ET−1を膜厚30nmとなるように、それぞれ順次積層した。
【0241】
【化48】

【0242】
その後、真空蒸着法により、電子注入層8としてフッ化リチウム(LiF)を膜厚0.5nmとなるように、陰極9としてアルミニウムを膜厚80nmとなるように、それぞれ陽極2であるITOストライプと直交する形状の2mm幅のストライプ状に積層した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の特性(1000cd/m2における電流効率及び駆動電圧)、および初期輝度を6000cd/mとして直流駆動試験を行い、輝度が5100cd/mまで低下する時間(駆動寿命)を表2に記載した。なお、直流駆動試験とは、室温で輝度が初期輝度になる直流電流を流し続けて光らせる試験である。表2に表すが如く、効率が高く、電圧が低く、駆動寿命の長い素子が得られた。
【0243】
実施例4(有機電界発光素子)
実施例3において、化合物H−1のAロットの代わりに、化合物H−1のBロットを用いた他は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子の特性、および初期輝度を6000cd/mとして直流駆動試験を行い、輝度が5100cd/mまで低下する時間(駆動寿命)を表―2に記載した。表―2に表すが如く、効率が高く、電圧が低く、駆動寿命の長い素子が得られた。
【0244】
比較例2(有機電界発光素子)
実施例3において、H−1のAロットの代わりに、化合物H−1のCロットを用いた他は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子の特性、および初期輝度を6000cd/mとして直流駆動試験を行い、輝度が5100cd/mまで低下する時間(駆動寿命)を表―2に記載した。
【0245】
【表2】

【0246】
* 1:副成分面積割合(%)は、使用した電荷輸送材料のHPLCピーク面積の総和に対する、主成分よりも下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和の割合(%)を示す。
* 2:比較例2の駆動寿命を基準(1.0)として相対値で表す。
【0247】
実施例4(電荷輸送材料)
各工程でのカラムクロマトグラフィーでの精製を強化したこと以外は実施例1と同様にして化合物H−1を合成し、H−1のD0ロットとした。
化合物H−1のD0ロットのHPLC純度は99.7面積%であった。化合物H−1のD0ロットには、分子量777の副成分1(主成分より、本発明の式(1)において、m=1、n=0として算出される値(X)分だけ小さい分子量の化合物に相当)及び分子量701の副成分2(主成分より、本発明の式(1)において、m=1、n=1として算出される値(X)分だけ小さい分子量の化合物に相当)は実質的に含まれていなかった(0.01面積%以下)。
【0248】
化合物H−1のD0ロットに対し、0.5重量%の下記化合物H−2(主成分より、本発明の式(1)において、m=1、n=−2として算出される値(X)分だけ小さい分子量の化合物に相当)を混合し、化合物H−1のD1ロットとした。化合物H−1のD1ロットのHPLC測定を行ったところ、HPLC純度は99.1面積%であり、化合物H−2に相当する副成分が0.6面積%含まれていた。
【0249】
化合物H−1のD1ロットのピーク面積の総和に対する、主成分よりも下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和は、0.6%であった。
尚、下記化合物H−2は、特開2006−352088号公報に(H−4)として記載された化合物であり、特開2006−352088号公報に記載の方法に準じて合成した。
【0250】
【化49】

【0251】
実施例5(電荷輸送材料)
実施例4に記載の化合物H−1のD0ロットに対し、15重量%の化合物H−2を混合し、化合物H−1のD2ロットとした。化合物H−1のD2ロットのHPLC測定を行ったところ、HPLC純度は88.2面積%であり、化合物H−2相当する副成分が11.5面積%含まれていた。
【0252】
化合物H−1のD2ロットのピーク面積の総和に対する、主成分よりも下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和は、11.5%であった。
実施例6(有機電界発光素子)
実施例3において、化合物H−1のAロットの代わりに、化合物H−1のD1ロットを用いた他は、実施例3と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子の特性(電流密度10mA/cm2における駆動電圧)、および初期輝度を6000cd/mとして直流駆動試験を行い、輝度が4800cd/mまで低下する時間(駆動寿命)を表−3に記載した。表−3に示した通り、電圧が低く、駆動寿命の長い素子が得られた。
【0253】
実施例7(有機電界発光素子)
実施例3において、化合物H−1のAロットの代わりに、化合物H−1のD2ロットを用いた他は、実施例3と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子の特性(電流密度10mA/cm2における駆動電圧)を表―3に記載した。表―3に示した通り、電圧が低い素子が得られた。
【0254】
比較例3(有機電界発光素子)
実施例3において、化合物H−1のAロットの代わりに、化合物H−1のD0ロットを用いた他は、実施例3と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子の特性(電流密度10mA/cmにおける駆動電圧)、および初期輝度を6000cd/mとして直流駆動試験を行い、輝度が4800cd/mまで低下する時間(駆動寿命)を表―3に記載した。
【0255】
【表3】

【0256】
* 1:副成分面積割合(%)は、使用した電荷輸送材料のHPLCピーク面積の総和に対する、主成分よりも下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和の割合(%)を示す。
* 2:比較例3の駆動寿命を基準(1.0)として相対値で表す。
【符号の説明】
【0257】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルバゾリル基を有する化合物を主成分とする電荷輸送材料であって、その液体クロマトグラフのUV254nmでのクロマトグラムにおいて、主成分よりも下記式(1)で算出される値(X)分だけ小さい分子量の副成分に由来するピーク面積の和が、ピーク面積の総和の0.02%以上、25%以下であることを特徴とする、電荷輸送材料。
X=mCz+nB−H ・・・(1)
(式中、Czはカルバゾリル基C12Nの式量166を、Bはフェニレン基Cの式量76を、Hは水素原子の原子量1を、mは1〜3の整数を、nは−3〜3の整数を表す。)
【請求項2】
主成分が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の電荷輸送材料。
【化1】

(式中、L21は下記式(a)又は(b)を表し、式(b)におけるX21〜X23は、それぞれ独立にCH又はNを表し、Ar21〜Ar23は、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基又はこれらが連結した基を表し、Ar21〜Ar23における芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基は、それぞれ任意の置換基を有していてもよく、Ar21〜Ar23は互いに同一でも異なってもよいが、Ar21〜Ar23の少なくとも1つは置換基としてカルバゾリル基を有する。)
【化2】

【請求項3】
前記式(2)におけるL21が式(a)であり、かつ主成分が下記式(3)で表される部分構造を有することを特徴とする請求項2に記載の電荷輸送材料。
【化3】

【請求項4】
主成分が下記式(4)で表される部分構造を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の電荷輸送材料。
【化4】

【請求項5】
主成分が下記式(5)で表される部分構造を有することを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の電荷輸送材料。
【化5】

【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電荷輸送材料を含有することを特徴とする有機電界発光素子用組成物。
【請求項7】
溶媒として置換基を有してもよい芳香族炭化水素を含有する請求項6に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項8】
さらに、燐光発光材料を含有する請求項6又は7に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項9】
基板上に、陽極、陰極及びこれら両極間に設けられた発光層を有する有機電界発光素子であって、請求項6ないし8のいずれか1項に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式製膜法により形成された層を有する有機電界発光素子。
【請求項10】
該有機電界発光素子用組成物を用いて湿式製膜法により形成された層が、発光層である請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
請求項9または10に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機電界発光素子表示装置。
【請求項12】
請求項9または10に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機電界発光素子照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−89581(P2012−89581A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232887(P2010−232887)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】