説明

電解セル

【課題】電解ガスの発生を伴って被電解液を電解する電解セルにおいて、電流効率の向上を図る。
【解決手段】複数枚の電極がそれぞれ対向して配置され、下部側に流入口5a、上部側に流出口5bが設けられた電極ユニット5を備え、流入口5aから流出口5bにかけて電極間に被電解液を上向流で通液しながら電解する電解セル1であって、流入口5aに被電解液を供給する被電解液供給ライン11と、電解後の電解液の一部を流入口5aに還流する電解液還流ライン6と、流出口5bの下流側であって電解後の電解液と電解ガスとの気液界面より上方に設けられた電解ガス排出手段(電解ガス排出ノズル12、電解ガス排出ライン13)と、流出口5bの下流側であって気液界面より下部に設けられた電解液排出部(電解液排出口14)と、電解液排出部から電解液を電解セル外部に排出する電解液排出ライン15を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被電解液の電解によって電解ガスの発生を伴って電解液が得られる電解セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程のレジスト剥離およびウエハ洗浄に用いられる硫酸/過酸化水素混合液(以下、SPM溶液と呼ぶ。)に代わって、電解硫酸を用いる技術が開発されている。硫酸水溶液を電気分解して過硫酸となし、これの持つ強力な酸化力を利用しようとするものである。SPM溶液では酸化力を保つために随時過酸化水素溶液を追加していくので、硫酸が希釈されてしまい、性能が徐々に低下する問題がある。硫酸電解装置では過硫酸を安定して製造することができるので、常に安定したレジスト剥離・ウエハ洗浄性能が得られる。
【0003】
従来型の硫酸電解では、図3に概略を示すように、電極ユニット30の下部流入口30aから硫酸溶液を加圧供給して上部流出口30bから電解ガスと電解液を気液混合流体として排出している。気液混合流体は、電極ユニット30の外部に設けた気液分離器31に送液され、ここで気液混合液から分解ガスを分離除去して電解液を得ている。ここで電極ユニットとは「バイポーラ電極+スペーサ+バイポーラ電極+・・・+バイポーラ電極」からなるものである。またスペーサにおける下部流入口は、何個かの小径の孔を略等間隔に設けたものである。電極ユニットに硫酸溶液を一定圧以上で加圧供給することにより、硫酸溶液の各電極への通液量を一定範囲に保っている(特許文献1参照)。
【0004】
硫酸電解装置に用いる電極としては、微細なダイヤモンド結晶から成る薄膜層にボロンをドープした導電性ダイヤモンド電極を用いたものが提案されている。導電性ダイヤモンドは白金電極などより酸素発生過電圧が高く、過硫酸生成効率が高いという特徴がある。また、耐久性の面でも白金電極より優れている。特に陽極において、白金電極は表面が酸化されて2価の白金イオンになり、電解液中に溶出していく現象(以下、損耗と呼ぶ。)が起こる。
電解処理としては硫酸電解以外にも、電解酸性水生成処理や、有機物含有水の直接電解処理、塩素含有水の電解による電解殺菌処理など、多彩な用途がある。
【特許文献1】特開2007−262531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電解装置において高い電流密度で電解すると、水素や酸素といった電解ガスの気泡が多量に発生するため、これらの電解ガスの気泡が被電解液の導電性を阻害するため通電抵抗が大きくなり電流効率を低下させるという問題がある。さらに、電解セルの構造により電解ガスが排出しづらく電解セル内に滞留しやすいという問題もある。
【0006】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、電解ガスが発生するような電解処理において、電極間の通液速度を増大させて電解ガスをスムーズに排出できると共に、電解セルへの通液量や電解セルからの排液量を上げることなく電極ユニット内の通液速度を上げることができる電解セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の電解セルのうち、第1の発明は、複数枚の電極がそれぞれ対向して配置され、下部側に流入口、上部側に流出口が設けられた電極ユニットを備え、前記流入口から前記流出口にかけて前記電極間に被電解液を上向流で通液しながら電解する電解セルであって、前記流入口に前記被電解液を供給する被電解液供給ラインと、前記電解後の電解液の一部を前記流入口に還流する電解液還流ラインと、前記電解により発生する電解ガスを排出するべく、前記流出口の下流側であって前記電解後の電解液と前記電解ガスとの気液界面より上方に設けられた電解ガス排出手段と、前記流出口の下流側であって前記気液界面より下部に設けられた電解液排出部と、前記電解液排出部から電解液を電解セル外部に排出する電解液排出ラインと、を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の本発明の電解セルは、前記第1の本発明において、前記被電解液供給ライン中の被電解液を電解液還流ライン中の電解液に混合して前記流入口に供給するように構成していることを特徴とする。
【0009】
第3の本発明の電解セルは、前記第1の本発明において、前記電解液還流ライン中の電解液を被電解液供給ライン中の被電解液に混合して前記流入口に供給するように構成していることを特徴とする。
【0010】
第4の本発明の電解セルは、前記第1の本発明において、前記被電解液供給ライン中の被電解液と前記電解液還流ライン中の電解液とを混合することなくそれぞれ前記流入口に供給するように構成していることを特徴とする。
【0011】
第5の本発明の電解セルは、前記第1〜第4の本発明において、前記電極のうち少なくとも陽極がダイヤモンド電極であることを特徴とする。
【0012】
第6の本発明の電解セルは、前記第1〜第5の本発明において、前記電解液排出部が前記電解液還流ラインの途中に設けられていることを特徴とする。
【0013】
第7の本発明の電解セルは、前記第1〜第6の本発明のいずれかに記載の電解セルに電流密度10〜150A/dmで通電することを特徴とする。
【0014】
電解効率の低下を防止するためには、電解ガスの気泡の存在割合(空隙率)を低減すれば良いことを示唆している。そこで、セルへの液供給量は一定にしておいて、セル出口側に気液分離機能を持たせ、気液分離の後に液体のみをセル入口側に循環できるようにすれば、電極反応量(従って、ガス発生量)を一定にしたまま気液比(空隙率)を低く抑えることができる。これを自然循環型電解セルと名付ける。
【0015】
本発明の自然循環型電解セルによれば、被電解液供給ラインを通して流入口に被電解液が供給される。この被電解液は、電極間を上向流で通液され、電極間を流れる電流によって電解され、また、電解によって電解ガスが発生する。電解ガスを含む電解液は、気液二相流となって電極間を上昇し、流出口を通して電極ユニット外に流れ、電解液と前記電解ガスとの気液界面より上方に設けられた電解ガス排出手段によって電解液に含まれる電解ガスが効果的に排出される。電解液は、一部が電解液還流ラインを通して自然に前記流入口に還流され、引き続き被電解液供給ラインを通して供給される被電解液とともに流入口から前記電極間に上向流で通液される。なお、電解液還流ラインを通して還流される電解液は、被電解液供給ライン中の被電解液と混合して前記流入口に供給しても良く、また、それぞれを混合することなく前記流入口に供給しても良い。
【0016】
上記循環流の推進力は、電極間の気液二相流と降下する液体との密度差により生じるのである。重たい液体が下に下がり、軽い気液二相流が上に押し上げられることにより循環が生じる。また、セル下部から注入される被電解液が大きい通液速度を持っているならば、その慣性力も液循環力として機能させることができる。
液の密度、粘度、電極部の入口・出口の高低差、周回部流路の形状・寸法から、液の循環量を計算することができる。この計算方法は、例えば自然循環型ボイラの循環量の計算などに用いられ、機械工学便覧にも掲載されている。
【0017】
液を循環する方法として外部循環させる方法もある。例えば、気液二相流のままセルから抜き出し、外部においた気液分離器で気体と液体を分けた後、液体をポンプでセル下部へ循環する方法である。しかし、この場合には気液分離器やポンプを設けなければならず、コストアップ要因となるだけでなく、装置も複雑になるので、好ましくない。
【0018】
電解液還流ラインを通して還流される電解液は、電極ユニットの上部側に設けられた流出口を通して電極ユニットの下部側に設けられた流入口に還流されるため、流入口に達する際には位置エネルギによって加圧力が作用し、被電解液供給ラインを通した通液量を増加させることなく電極間での液の通液速度が大きくなる。この結果、電極間では、電解に際し発生する電解ガスが速やかに移動して、該ガスの存在に伴う電流効率の低下や電極の損耗を低減する。また、電解ガスが効果的に除去されることから、電流密度を高くして電解をすることも可能であり、好適には、電流密度10〜150A/dm、より好適には40〜100A/dmで通電することができる。電流密度が40A/dm以上になると、電解ガス発生量が多量になるため、本発明を好適に用いることができる。
【0019】
また、電解セル外には、電極ユニットの流出口の下流側であって、前記気液界面より下方に設けられた電解液排出部を通して電解液排出ラインによって電解ガスが効果的に除去された電解液が排出される。なお、前記流出口から前記電解液排出部に至る流路を電解液還流ラインと共有して電解液還流ラインの途中に電解液排出部を設けるものとすれば、電解液全体の流れによる圧力が電解液還流ラインを流れる電解液に伝わり、前記流入口に還流する電解液の流入圧力を高める作用が得られる。
【0020】
なお、本発明の電解セルは、前述したように高い電流密度などにより電解ガスが多量に発生するような条件下でも高い電解効率で電解処理をできるようにする目的で発明され、好適には導電性ダイヤモンド電極を使用して硫酸水溶液を電気分解して過硫酸となし、これの持つ強力な酸化力を利用して半導体製造工程のレジスト剥離およびウエハ洗浄に利用することができる。しかし、本発明の原理・構造はその他の電極材料を用いた電解セルにも共通して適用できるものである。従って、本発明は、導電性ダイヤモンド電極を用いたセル、あるいは過硫酸生成を目的としたセルのみに限定するものではなく、被電解液の電解によって電解ガスが発生する種々の分野における電解セルに広範に適用することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の電解セルによれば、通液速度を高めて電極ユニットに発生する電解ガスを効果的に電極ユニット外に送り出すことができるので、電解効率の低下を抑制することができる。また、電極ユニットから送り出した電解ガスは圧損なく電解セル外に効果的に排出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<実施形態1>
以下に、本発明の一つの実施形態の電解セル1を図1に基づいて説明する。
円板形の陽極2および陰極4とバイポーラ電極3…3複数枚を一定極間距離で並ぶように固定し、周囲を覆って電極ユニット5を形成し、両外側の陽極2および陰極4に電源を接続する。これらの電極のうち好適には少なくとも陽極2をダイヤモンド電極で構成するものとし、さらに好適には全ての電極をダイヤモンド電極で構成する。ダイヤモンド電極は、基板上にダイヤモンド薄膜を形成するとともに、該ダイヤモンド薄膜の炭素量に対して、好適には50〜20,000ppmの範囲でボロンをドープすることにより製造し、好適には薄膜形成後に基板を取り去って自立型とする。なお、この実施形態では、電極形状を円板形状のものとして説明するが、本発明としては、電極の形状が特に限定されるものではなく、電極が互いに対向して配置されるものであればよい。
【0023】
なお、電極ユニット5の下部には液が電極間に流入し易いように十分な大きさの開口が形成されて流入口5aが設けられている。また、電極ユニット5の上部には気液二相流が大きな抵抗を受けることなく電極間から排出されるように十分な大きさの開口が形成されて流出口5bが設けられている。電極ユニット側面は上記のように気液が電極間に流出入しないように、塞がれている。
【0024】
上記電極ユニット5を、より大きな直径を有するセル本体1aの内部に設置する。電極ユニット5の外径とセル本体1aの内径との間には所定の幅の流路が確保されるように直径を定める。該流路は、電解後の電解液の一部が周回降下する電解液還流ライン6を構成する。なお、この流路には、下向流の妨げになるような突起やその他障害物は設けないのが望ましい。
【0025】
また、セル本体1aの下部には被電解液供給ノズル10を設け、セル外部に伸張する被電解液供給ライン11を接続する。セル本体1aの上部には、電解ガス排出ノズル12を設け、該電解ガス排出ノズル12にセル外部に伸張する電解ガス排出ライン13を接続する。これらの電解ガス排出ノズル12と電解ガス排出ライン13とによって本発明の電解ガス排出手段が構成されている。
【0026】
また、電極ユニット5が完全に液中に浸る位置に気液界面ができるように、セル本体1の側壁には、上記気液界面の下方位置であって、前記電解液還流ライン6の中途両側に電解液排出口14、14が電解液排出部として設けられており、該電解液排出口14、14にセル外部に伸張する電解液排出ライン15、15が接続されている。
【0027】
上記電解セル1の作用について以下に説明をする。
被電解液供給ライン11より被電解液として硫酸を供給すると、該被電解液は、被電解液供給ノズル10を通してセル本体1a内に導入され、セル本体1aと電極ユニット5との隙間を通って流入口5aから電極ユニット5内に上向流で送液される。電極ユニット5では、陽極2、陰極4に通電がなされており、該通電によってバイポーラ電極3が分極し、電極間を流れる被電解液に対する電流が流れる。この通電によって被電解液が電解され、電解に伴って、水素、酸素等の電解ガスが発生する。この電解液と電解ガスとは、被電解液の通液に伴って電極間を通って流出口5bより電極ユニット5外に送り出される。この気液混合液は、電解ガスを含む電解液が比重差により上昇し、気液界面を通して電解ガスが上方に放散され、電解ガスを含まない電解液が比重差によって電解液還流ライン6を下降する。
【0028】
上記気液界面上に放散された電解ガスは、電解ガス排出ノズル12を通してセル本体1a外に排出され、電解ガス排出ライン13によって排気される。
また、電解ガスを除いた電解液は、比重差と、被電解液の流入慣性力とによって電解液還流ライン6を降下し、一部は、電解液排出口14を通してセル本体1a外に排出され、電解液排出ライン15によって移送される。電解液排出口14からは被電解液供給ライン11による電解セル1への供給量と同じ流量だけ排出され、その他の液は電極ユニット5の流入口5aへ向かって循環し、新たに被電解液供給ライン11によって供給される被電解液とともに電極ユニット5内に導入される。この結果、電極ユニット5内での通液量が増大し、電解によって発生する電解ガスが電極間に留まることなく速やかに電極ユニット5外に送り出され、これによって電流効率が向上する。
【0029】
<実施形態2>
次に、第二の実施形態の電解セル20を図2に基づいて説明する。
角型の陽極21a、陰極21cおよびバイポーラ電極21c…21cを複数枚用いて電極ユニット22を構成する。電極ユニット22は下部に流入口22a、上部に流出口22bが設けられており、これを上限に間隙を確保して角型セル本体20aに収納する。この角型セル本体20aの下部には、被電解液流入口23aが設置してあり、該被電解液流入口23aに被電解液供給ライン23が接続されている。また、角型セル本体20aと電極ユニット22上部との間隙は気液界面が形成される大きさに形成されており、該間隙によって気液分離部が構成されている。この気液分離部には、前記気液界面の上方側に、電解ガス排出口24aが形成されており、該電解ガス排出口24aに、セル外部に伸張する電解ガス排出ライン24が接続されている。この電解ガス排出口24aと電解ガス排出ライン24とによって電解ガス排出手段が構成されている。
【0030】
また、上記気液分離部には、上記気液界面よりも下方となる位置に電解液還流ラインとなる循環液の下降管25(ダウンカマーと呼ぶ。)の上端側がセル外部の接続管として接続されている。このようにダウンカマーはセル外部でも、あるいはセル内部でも、いずれに設置しても良い。この場合、管径を十分に太くして循環流の抵抗が増大しないようにすることが重要である。下流管25の下端側は、電極ユニット22と角型セル本体20aとの間の下方間隙に連なるように角型セル本体20aに接続されている。また、下流管25の中途には、電解液排出部および電解液排出ラインとなる電解液排出管26が接続されている。
【0031】
この電解セル20の作用について説明すると、被電解液供給ライン23より被電解液を供給すると、該被電解液は、被電解液流入口23aを通して電極ユニット22と角型セル本体20aとの下方間隙に導入され、さらに、流入口22aを通して角型セル本体22a内に送液される。電極ユニット22では、陽極21a、陰極21b、バイポーラ電極21c…21cの電極間を流れる被電解液に対し通電がなされる。この通電によって電解ガスの発生を伴って被電解液が電解され。この電解液と電解ガスとは、流出口22bより気液分離部に送り出され、電解ガスが気液界面を通して上方に放散され、電解ガスを含まない電解液が比重差によって電解液還流ライン25を下降する。
【0032】
上記気液界面上に放散された電解ガスは、電解ガス排出口24a、電解ガス排出ライン24を通して角型セル本体22a外に排出される。
電解液還流ライン25を降下する電解液の一部は、電解液排出管26を通して角型セル本体20a外に排出される。電解液排出管26からは被電解液供給ライン23による電解セル20への供給量と同じ流量だけ排出され、その他の液は、電解液循環ライン25によって電極ユニット22の流入口22aへ向かって循環し、新たに被電解液供給ライン23によって供給される被電解液とともに電極ユニット22内に導入され、電極ユニット22内での通液量を増大させ、気体分率(空隙率)を低減させることにより、通電抵抗の低減、即ち電流効率の向上効果が得られる。
【0033】
なお、電解装置において、電極が導電性ダイヤモンドであっても損耗を完全に免れるものではない。導電性ダイヤモンドは耐久性が白金よりも格段に優れてはいるものの、徐々に損耗していくため、従来型の硫酸電解ではダイヤモンド電極が損耗しない程度の電流密度までしか電流密度を上げられないという問題がある。高電流密度の電解においても電極を損耗させない、あるいは損耗速度を極力低減することが、導電性ダイヤモンド電極を用いた硫酸電解装置の実用化に不可欠である。
なおダイヤモンド電極の損耗の原因については、明確に解明していないが、恐らく以下のことが原因であろうと推測される。
【0034】
・第1の原因
電極反応により陽極からは酸素ガスが、陰極からは水素ガスが発生するが、特に高電流密度での電解においては、電解溶液の通液量に較べてガス発生量が多いので、電極間には実際には気液二相流が流れている。ガスには導電性が無いので、気液比(空隙率)が高い部分では通電抵抗が大きくなり、流体の流動状態によって瞬間的に通電抵抗が激しく変化することになる。このため、局所的には瞬間的に大きな電流密度で電気が流れることになり、かつその変動が激しいので、損耗を加速することになる。
【0035】
・第2の原因
電極反応が進行するためには、反応物質であるイオンや水分子が電極表面に運ばれて来なければならない。しかし、ガスの発生量が多いと、気泡が邪魔をしてこれら反応物質の供給が阻害される。つまりフラックスが低下することになる。電極表面に反応物質が十分に供給されないまま電圧のみがかかると、ダイヤモンド電極の炭素原子を消費して炭酸イオン(CO2−)となってしまい、損耗に至る。
【0036】
導電性ダイヤモンド電極によって硫酸溶液を電解する場合に本発明の電解セルを用いると、導電性ダイヤモンド電極の電極損耗を低減する効果もある。しかし被電解液によっては、本発明だけでは電極損耗の低減効果が十分でない場合がある。このときは被電解液の濃度や液温を調整することにより被電解液の粘度を低下させ、イオンフラックスを上げることができるので、電極損耗をより効果的に低減することができる。
【実施例1】
【0037】
[実施例1]
図1に示す自然循環型電解セルに、次の条件で通液・通電した。
(条件)
1.電極:導電性ダイヤモンド電極(円形130mmφ)3枚 極間距離:8mm
室数:2室
2.電解液:硫酸濃度=85wt%、温度=40℃、流量=3.7L/min
3.電流密度:50A/dm 極間電圧:18V
【0038】
(結果)
電極ユニット内部循環流量=8.5L/min
(透明材質でセルを製作し、着色流体の流れの速度を計測したところ、セル供給流量の 2.3倍の液が電極間を通過していることが分かった。)
過硫酸生成に関する電流効率=12%
【0039】
[比較例1]
図3に示す循環系を有しない電解セルに、次の条件で通液・通電した。
(条件)
1.電極:導電性ダイヤモンド電極(角型 120mm×120mm)5枚
極間距離:5mm 室数:4室
2.電解液:硫酸濃度=85wt%、温度=40℃、流量=0.8L/min
3.電流密度:50A/dm2 極間電圧:16V
(結果)
過硫酸生成に関する電流効率=9%
【0040】
[考察]
実施例1のような自然循環型電解セルを用いることによって、比較例1と比べて電極間を通過する液流量が増え、電極間気液二相流の気体分率(空隙率)が低減された。それにより通電抵抗を下げることができ電流効率が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態の電解セルを示す断面図である。
【図2】同じく、他の一実施形態の電解セルを示す断面図である。
【図3】従来の電解セルを示す概略図である。
【符号の説明】
【0042】
1 電解セル
2 陽極
3 バイポーラ電極
4 陰極
5 電極ユニット
5a 流入口
5b 流出口
6 電解液循環ライン
10 被電解液供給ノズル
11 被電解液供給ライン
12 電解ガス排出ノズル
13 電解ガス排出ライン
14 電解液排出口
15 電解液排出ライン
20 電解セル
21a 陽極
21b 陰極
21c バイポーラ電極
22 電極ユニット
22a 流入口
22b 流出口
23 被電解液供給ライン
24 電解ガス排出ライン
25 電解液循環ライン
26 電解液排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の電極がそれぞれ対向して配置され、下部側に流入口、上部側に流出口が設けられた電極ユニットを備え、前記流入口から前記流出口にかけて前記電極間に被電解液を上向流で通液しながら電解する電解セルであって、
前記流入口に前記被電解液を供給する被電解液供給ラインと、
前記電解後の電解液の一部を前記流入口に還流する電解液還流ラインと、
前記電解により発生する電解ガスを排出するべく、前記流出口の下流側であって前記電解後の電解液と前記電解ガスとの気液界面より上方に設けられた電解ガス排出手段と、
前記流出口の下流側であって前記気液界面より下部に設けられた電解液排出部と、
前記電解液排出部から電解液を電解セル外部に排出する電解液排出ラインと、を備えることを特徴とする電解セル。
【請求項2】
前記被電解液供給ライン中の被電解液を電解液還流ライン中の電解液に混合して前記流入口に供給するように構成していることを特徴とする請求項1記載の電解セル。
【請求項3】
前記電解液還流ライン中の電解液を被電解液供給ライン中の被電解液に混合して前記流入口に供給するように構成していることを特徴とする請求項1記載の電解セル。
【請求項4】
前記被電解液供給ライン中の被電解液と前記電解液還流ライン中の電解液とを混合することなくそれぞれ前記流入口に供給するように構成していることを特徴とする請求項1記載の電解セル。
【請求項5】
前記電極のうち少なくとも陽極がダイヤモンド電極であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電解セル。
【請求項6】
前記電解液排出部が前記電解液還流ラインの途中に設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電解セル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電解セルに電流密度10〜150A/dmで通電することを特徴とする電解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−138237(P2009−138237A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316796(P2007−316796)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】