説明

電解再生液を用いた金属微粒子の製造方法

【課題】 電解再生液を用いた製造方法で、初回の還元剤含有液(バージン反応液)を用いた場合と遜色ない程度の金属微粒子を得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】 使用済み還元剤含有液を電解処理することにより、使用済み還元剤を還元再生した電解再生液を用いて、金属微粒子を繰り返し製造する方法であって、電解再生液に、金属イオン及び分散剤を補充する工程;並びに前記金属イオン及び分散剤が添加された電解再生液のpHを、前記還元剤の電極電位が前記金属イオンが原子となる電極電位よりも低くなるように調節して、還元反応を開始させる工程を含む。前記還元剤は、チタン塩であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済み還元剤含有溶液を電解処理することにより再生された還元剤を含む電解再生液を用いて、金属微粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粉末の製造方法として、特許3018655号(特許文献1)に提案されているような製造方法、すなわち元素周期率表の6A族,7A族,1B族,2B族,3B族,4B族,5B族,6B族および8族の金属または非金属の塩である水溶性の化合物または水溶性錯体の水溶液を準備するステップ、および前記水溶液に三塩化チタンを添加し、前記三塩化チタンの還元作用を用いて、前記金属粉末,前記金属および前記非金属の2種類以上を含有する合金粉末または化合物粉末のいずれかの微粉末を製造するステップを含む、微粉末の製造方法がある。
【0003】
上記金属微粉末の製造方法は、液相のレドックス析出方法として知られているもので、得られる金属微粒子の粒径が揃った、粒度分布がシャープな金属粉末を、効率よく製造できる。このようなことから、微細なパターンを有する導体配線や、金属薄膜を形成するための導電成分、あるいは導電ペーストの導電成分として使用する金属微粉末の製造方法として利用されている。
【0004】
還元剤として用いているチタン塩は比較的高価であり、またエコロジーの観点からも、析出した金属微粉末を回収した後の溶液(使用済み還元剤含有液)を再利用することが求められる。また、使用済み還元剤含有液は、陰極電解処理することにより、Ti4+がTi3+に戻るので、還元剤として再利用可能になる。
【0005】
特開2004−18923号公報(特許文献2)には、レドックス析出法でNi微粉末を製造し、回収した後の使用済み還元剤含有液を、2槽式電解槽の片方に入れ、反対側の槽に0.1Mの硫酸ナトリウム水溶液をいれ、使用済み還元剤含有液側を陰極として電解処理して、使用済み還元剤(Ti4+)をTi3+に再生した電解再生液を用いて、Ni微粉末を、2回目、3回目と製造することが開示されている(実施例)。ここでは、電解再生にあたり、pHが上昇した使用済み還元剤含有液のpHを4に調節した後、回収により消耗した金属イオン(ニッケルイオン)を補充している。なお、段落番号0045には、金属微粉末の製造を連続して繰り返し行うに際して、錯化剤は消耗されないので、補充の必要はないと記載されている。
【0006】
また、電解再生液を用いた金属微粒子の製造方法として、特開2005−42135号公報(特許文献3)には、酸やアルカリを処理の都度、加えていたのでは、Tiイオンの濃度が徐々に低下して行くため、再使用できる回数に限界があったという問題があり、かかる問題の解決手段として、対イオンとしてメタンスルホン酸イオンを加えることを提案している。これにより、電解処理に際して、還元剤含有液のpHを毎回、調整しなおす必要がなくなると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3018655号公報
【特許文献2】特開2004−18923号公報
【特許文献3】特開2005−42135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、電解再生液を用いて金属微粒子を製造する方法が提案されているものの、電解再生液を用いて製造される金属微粒子の粒径、粒度分布等の特性との関係にまでは特に言及されておらず、実用化されているのは、樹脂状結晶金属といった特定形状の金属微粒子の製造方法や粒子状に金属を析出させない無電解めっきだけである。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、他の金属微粒子についても、電解再生液を用いた製造方法で、初回の還元剤含有液(バージン反応液)を用いた場合と遜色ない程度の金属微粒子を得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、電解再生液を用いて金属微粒子を製造する方法について、種々条件を変えて検討した結果、電解再生液では、析出金属を回収することで減少した成分は、回収した金属に対応する金属イオンだけでなく、分散剤も減少していることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の金属微粒子の製造方法は、金属イオン及び該金属イオンを還元する還元剤を含有する反応液における還元反応により析出した金属微粒子を回収した後の溶液(以下、「使用済み還元剤含有液」)を電解処理することにより、使用済み還元剤を還元再生した電解再生液を用いて、金属微粒子を繰り返し製造する方法であって、
電解再生液に、金属イオン及び分散剤を補充する工程;並びに
前記金属イオン及び分散剤が添加された電解再生液のpHを、前記還元剤の電極電位が前記金属イオンが原子となる電極電位よりも低くなるように調節して、還元反応を開始させる工程を含む方法である。
【0012】
前記分散剤は、前記金属イオンモル濃度の0.1〜1.0倍のモル濃度となるように補充することが好ましい。
【0013】
前記還元剤は、チタン塩であることが好ましく、この場合、前記電解再生液のpHを8.5以上とすることにより、還元反応を開始させることが好ましい。
【0014】
還元反応開始工程前に、さらに錯化剤を添加する工程を含むことが好ましく、また、前記分散剤は、界面活性剤であることが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法は、前記金属微粒子として、球状粒子を製造する方法に好適であり、また、ニッケル微粒子の製造に好適である。
【0016】
本明細書において、電極電位とは、標準水素電極を参照電極とする平衡電極電位をいい、例えば、大堺利行ほか「べーシック電気化学」(化学同人社,2000年発行)により、各金属の電極電位を知ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、電解再生液を用いて、バージン溶液を用いた場合に匹敵できる品質を有する金属微粒子を製造することができるので、使用済み還元剤含有液を繰り返し利用することができ、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電解再生処理に用いる電解槽の一例を示す模式図である。
【図2】バージン反応液から得られた金属微粒子の顕微鏡写真(3万倍)である。
【図3】本発明実施例で得られた金属微粒子の顕微鏡写真(3万倍)である。
【図4】比較例で得られた金属微粒子の顕微鏡写真(3万倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、今回、開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0020】
本発明の製造方法は、金属イオン及び該金属イオンを還元する還元剤を含有する反応液における還元反応により析出した金属微粒子を回収した後の溶液(以下、「使用済み還元剤含有液」)を電解処理することにより、使用済み還元剤を還元・再生した電解再生液を用いて、金属微粒子を繰り返し製造する方法であって、電解再生液に、金属イオン及び分散剤を補充する工程;並びに前記金属イオン及び分散剤が添加された電解再生液のpHを、前記還元剤の電極電位が、前記金属イオンが原子となる電極電位よりも低くなるように調節して、還元反応を開始させる工程を含む。
【0021】
<金属微粒子及び金属イオン>
本発明で製造しようとする金属微粒子の種類は特に限定しないが、レドックス析出方法で製造される金属粒子の用途から、導電体として用いられる金属粉末用金属が好ましく用いられる。具体的には、Au、Pt、Pd等の貴金属、Niなどの磁性粒子が挙げられる。
金属微粒子のもとになる金属イオンとしては、還元反応液で使用する溶媒に可溶性の金属化合物が用いられる。例えば、Auの場合は、テトラクロロ金(III)酸四水和物〔HAuCl4・4H2O〕等が挙げられ、Ptの場合は、ジニトロジアンミン白金(II)(Pt(NO2)2(NH3)2)、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(H2[PtCl6]・6H2O)等が挙げられ、Pdの場合は、硝酸パラジウム(II)硝酸溶液〔Pd(NO2)2/H2O〕、塩化パラジウム(II)溶液〔PdCl2〕等が挙げられ、Agの場合は、硝酸銀〔AgNO3〕やメタンスルホン酸銀〔CH3SO3Ag〕、イリジウムの場合は、ヘキサクロロイリジウム(III)酸六水和物〔2(IrCl6)・6H2O〕、ロジウムの場合は、塩化ロジウム(III)溶液〔RhCl3・3H2O〕、ルテニウムの場合は、硝酸ルテニウム(III)溶液〔Ru(NO3)3〕等が挙げられる。さらに、銅の場合は、硝酸銅(II)〔Cu(NO3)2〕、硫酸銅(II)五水和物〔CuSO4・5H2O〕等が挙げられる。また、ニッケルの場合は、塩化ニッケル六水和物、硫酸ニッケル六水和物などが挙げられる。
【0022】
<電解再生液>
はじめに、本発明の製造方法の原料となる電解再生液について説明する。
本発明で使用する電解再生液は、金属イオン及び該金属イオンを還元する還元剤、さらに好ましくは分散剤を含有する溶液での還元反応により析出した金属微粒子を濾過等により回収した後の使用済み還元剤含有液を、陰極電解処理に供して、還元剤を再生した溶液である。
【0023】
(1)使用済み還元剤含有液
使用済み還元剤含有液とは、液相のレドックス析出法に供される溶液で、具体的には、金属微粒子の原料となる金属イオン及び該金属イオンを還元する還元剤を含有する溶液(還元反応液)を、還元処理して、析出した金属微粒子を回収した後の溶液である。前記還元剤として未使用の還元剤を含有する還元反応液(バージン反応液)を用いてレドックス析出法を1回実行した後の使用済み還元剤含有液だけでなく、電解再生液を用いて金属微粒子を析出、回収した後の使用済み還元剤含有液を含む。
【0024】
このような使用済み還元剤含有液は、バージン反応液等の還元反応液と比べて、少なくとも、a)回収された金属微粒子に対応する金属イオンが不在ないしは微量残存しているだけである点、b)還元剤が酸化された状態となっている点の他、c)金属微粒子の回収操作で、消耗、流出した成分濃度が低減している点が異なっている。電解再生液は、このような使用済み還元剤含有液を電解処理して、酸化した還元剤を元の還元剤に再生したものである。
【0025】
還元反応液に用いられる還元剤としては、溶液中で、金属イオンを還元して、金属微粒子として析出させることができる種々の還元剤が使用可能であることから、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、ヒドラジン、遷移金属元素のイオン(三価のチタンイオン、二価のコバルトイオン等)が用いられる。これらのうち、三価のチタンイオンが、イオン化傾向が高く、還元力が優れており、また、毒性・危険が小さいために取り扱いやすいという理由から好ましく用いられる。
従って、使用済み還元剤含有液には、還元反応液で用いられていた還元剤が酸化された状態で含有されている。例えば、三価のチタンイオンを還元剤として用いた場合には、四価のチタンイオンとなっている。
【0026】
使用済み還元剤含有液の溶媒は、還元反応液で使用した溶媒と同じであり、水、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒等などが使用される。水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、2−エトキシエタノール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチルピロリドン等の水溶性の含窒素有機化合物類;および酢酸エチル等の1種または2種以上が挙げられる。
【0027】
還元反応の起こりやすさは、反応液のpHに依存することから、pH調節剤が還元反応液に添加されている場合がある。pH調節剤が添加されている場合、使用済み還元剤含有液中には、pH調節剤に基づくイオンも含有されていることになる。
【0028】
また、析出する金属粒子が凝集、クラスター化することを防止し、得られる金属微粒子の微細化を目的として、還元反応液に分散剤が添加される場合がある。分散剤は、還元反応に直接関与しないので、還元反応液に分散剤が添加されている場合、使用済み還元剤溶液においても、通常、分散剤が含有されていることになる。
【0029】
さらに、金属微粒子析出のための還元反応は、錯化剤が共存していることが好ましい。錯化剤は、製造しようとする金属微粒子のイオン源となる金属イオン、還元剤として使用する金属イオンと錯体を形成して、還元反応をコントロールし、ひいては製造される微粒子の均一化に寄与する。このような理由から、還元反応液には、錯化剤が好ましく含有される。そして、これらの錯化剤は、還元反応で消耗することはあまりないことから、使用済み還元剤含有液においても、還元反応液で用いられていた錯化剤が含有され得る。
【0030】
(2)電解再生処理
以上のような組成を有する使用済み還元剤含有液を、電解処理に供して、電解再生液が得られる。電解再生の方法は特に限定しないが、通常、図1に示す電解槽1などを用いて行うことができる。
【0031】
電解槽1は、陰極室11と、この陰極室11の幅方向略中央部分に挿入、配置した陽極室12とを備えており、陽極室12により2つに分割された陰極室11の部分11a、11bに、それぞれ陰極13a、13bが配設されている。また、陽極室12には、陽極14が配設されている。陰極室の部分11a、11bは、陰極室12の下側の隙間11cによって連通されており、陰極室11と陽極室12とは、イオン交換膜15a、15bを介して分離されている。
【0032】
陰極13a、13bとしては、例えばカーボンフェルトを用いることができる。また陽極14としては、例えばチタンメッシュの表面に白金をコートしたものなどを用いることができる。さらにイオン交換膜15a、15bとしては、陰イオン交換膜〔例えば旭硝子(株)製の商品名セレミオンなど〕を用いることができる。
【0033】
陰極室11に、使用済み還元剤含有液を注入し、陽極室12に、硫酸ナトリウム等の電解質水溶液を入れる。かかる状態で電解処理を行うと、陰極側では、遷移金属のイオンが、酸化状態の高いイオンから低いイオンへの還元反応、すなわち還元剤の電解再生(例えばTi4+→Ti3+)とともに、水の電気分解によってH2が発生する。このような電解再生は、一般に、酸性で進行しやすいことから、使用済み還元剤含有液に、塩酸、硝酸、硫酸等の強酸を添加した後、陰極室に注入することが好ましい。還元剤として、チタンイオンやコバルトイオンを用いている場合、pH3−5程度に調節した後、電解処理に供されることが好ましい。
【0034】
電解反応の進行に伴い、溶液中のハロゲンイオン(例えば、使用済み還元剤含有液を酸性にするために塩酸を添加した場合では塩素イオン)が、イオン交換膜15a、15bを通って陽極側へ移動する。そして陽極側では、水の電気分解によってO2が発生するとともに、陰極側から移動したハロゲンイオンが陽極14の表面で反応してハロゲンガス(例えば、ハロゲンイオンが塩素イオンの場合には、2Cl-→Cl2↑+2e-により生じる塩素ガス)となり、系中から除去される。また、還元剤の電解再生に伴って副次的に起こる水素ガスの発生により、系の水素イオン濃度が低下、すなわちpHが増大する。使用する還元剤の種類にもよるが、通常、電解処理に供される使用済み還元剤含有液は、酸性となっている。例えば、還元剤として、3価のチタンイオンを用いた場合には、使用済み還元剤含有液のpHは、3〜5程度であり、電解再生液では、pH5〜7となっている。
【0035】
(3)電解再生液
以上のような電解再生処理を行って得られる電解再生液は、再生された還元剤を含む溶液であり、残分として含有され得た金属イオン、分散剤、必要に応じて添加された錯化剤を含有する溶液である。
【0036】
<金属イオンの補充>
以上のような組成を有する電解再生液に、金属イオンを補充する。補充する金属イオンは、製造しようとする金属微粒子に対応する金属イオンである。従って、電解再生液の原料となる還元析出法で使用した金属イオンと同種類の金属イオンを補充することになる。
【0037】
補充は、該当金属塩を水に溶解した金属イオン水溶液を添加することにより行う。
補充量は、バージン反応液と同程度の金属イオン濃度となる量、すなわち金属イオン濃度0.01〜0.5モル/Lとなる量であることが好ましい。
【0038】
<分散剤の補充>
分散剤は、還元反応において、析出する金属粒子が凝集、クラスター化することを防止し、微粒子の微細化に役立つ。特に、ニッケルやその合金などの、常磁性を有する金属の場合、反応初期に多量に発生した、未だ単結晶構造の微小な金属微粉末が、単結晶構造ゆえに単純に2極に分極して、多数個が互いに鎖状に繋がった状態となりやすいことから、還元反応液における分散剤の共存は、球状微粒子の製造に有効である。
【0039】
このような理由から、分散剤は、予め、バージン反応液に添加されていることが多い。そして、分散剤は、還元反応および電解再生処理に直接関与しない。また、回収された金属微粒子には、通常、分散剤は付着等はしていない。従って、バージン反応液に分散剤が添加されている場合、通常、使用済み還元剤含有液にも含有されていることになる。
しかしながら、還元反応後、金属微粒子の回収に際し、金属微粒子の濾過後に得られる使用済み還元剤含有液においては、分散剤濃度が減少していることがわかった。よって、電解再生液を繰り返し用いる金属微粒子の製造方法においては、回収した金属イオンの補充だけでなく、分散剤も補充することが、得られる金属微粒子の品質保持の点から重要となる。また、バージン還元反応液に分散剤が添加されていなかった場合であっても、新たに添加することは、特に球状微粒子の製造において有用である。
【0040】
尚、特許文献2において、分散剤を補充していない電解再生液を用いても、粒径が揃った金属微粒子の製造が可能であった実施例が示されている。これは、粒子成長抑制効果があるTi4+が過剰に共存することにより、分散剤共存時と同様の効果が得られたものと考えられる。このような効果を得るためには、チタンイオンを還元剤として要する量の2倍以上含有させておく必要がある。この点、本発明では、高価なチタン塩を、還元剤として必要十分な量を含有させておくだけで、粒径が揃った金属微粒子を得ることができるので、コスト面で有利である。さらに、分散剤を補充することで、何度でも繰り返し使用が可能であるという優位性もある。
【0041】
補充する分散剤としては、水に対して良好な溶解性を有すると共に、析出した金属微粒子を、水中に良好に分散させることができる水溶性化合物であればよい。例えば、金属微粒子状態の凝集を防止するという点から、金属微粒子の表面張力を低下させるような界面活性剤、析出した金属微粒子の周囲を覆うことにより、溶媒中での金属微粒子の分散安定性を高めることで、金属微粒子同士の凝集を防止する水溶性高分子などが好ましく用いられる。
【0042】
上記高分子分散剤としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等のアミン系の高分子分散剤や、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等の、分子中にカルボン酸基を有する炭化水素系の高分子分散剤、ポリビニルアルコール、あるいは、1分子中に、ポリエチレンイミン部分とポリエチレンオキサイド部分とを有する共重合体等の、極性基を有する高分子分散剤が挙げられる。また、その分子量は、100000以下であるのが好ましい。
【0043】
上記界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤のいずれであってもよい。
アニオン界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルスルホン酸アンモニウム塩、アルキルスルホン酸カリウム塩、アルキルスルホン酸ナトリウム塩等のアルキルスルホン酸塩類、アルキルカルボン酸アンモニウム塩、アルキルカルボン酸ナトリウム塩等のアルキルカルボン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジアリルスルホン酸塩類、アルキル燐酸エステル類等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウムヨウ化物などのアルキルトリメチルアンモニウム塩類等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、アルキルエチレンオキサイド付加物、アルキルエステル類、アルキル基・親水性基含有オリゴマー、アルキル基・親油基含有オリゴマー、アルキル基含有オリゴマー、アルキル基・親油基含有ウレタン、アルキルアミンオキサイド、アルキル基含有シリコーンのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0044】
この他、例えばチオ尿素、チオジプロピオン酸などの含硫黄系分散剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドンなどのアミン系分散剤、カルボキシメチルセルロースなどのカルボン酸基を有する炭化水素系分散剤などを用いることもできる。
【0045】
以上のような分散剤のうち、補充する分散剤は、バージン反応液に用いた分散剤と同種類のものであってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0046】
このような分散剤は、得ようとする金属微粒子の粒径に応じて、還元される金属イオンモル濃度の0.1〜1.0倍のモル濃度の範囲内で存在することが好ましい。よって、分散剤は、還元される金属イオンモル濃度の0.1〜1.0倍のモル濃度の範囲内で、得ようとする金属微粒子の粒径に応じて適宜設定される濃度が保持されるように、補充添加すればよい。
【0047】
上記分散剤の添加は、金属イオンの補充とともに行ってもよいし、金属イオン添加後の溶液に添加してもよい。さらに、電解再生液のpHが、還元反応がはじまるpHとかけはなれている場合、還元反応がはじまらない程度の量のpH調節剤を添加した後、分散剤を添加してもよい。
【0048】
<錯化剤、その他の成分の添加>
必要に応じて還元反応液に添加される錯化剤は、還元反応、電解処理に於いても、原則として消耗、消失しないので、補充する必要は特にない。しかしながら、繰り返し使用により、多少、消耗、消失することから、錯化剤の濃度を初期濃度の±10%範囲内とすることができるように、適宜、添加することが好ましい。錯化剤の添加は、金属イオン及び分散剤の補充と同時でもよいし、これらの補充後でもよいし、補充前でもよい。後述するpH調節工程前に添加すればよい。
また、還元剤も徐々にではあるが、繰り返し使用に伴って含有量が低下するので、繰り返し使用するときには、適宜補充することが好ましい。
【0049】
錯化剤としては、例えばクエン酸、酒石酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、コハク酸、リンゴ酸、グリオキシル酸、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのカルボン酸や、そのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの誘導体を挙げることができる。具体的には、クエン酸三ナトリウム〔Na3657〕、酒石酸ナトリウム〔Na2446〕、酢酸ナトリウム〔NaCH3CO2〕、グルコン酸〔C6127〕、チオ硫酸ナトリウム〔Na223〕、アンモニア〔NH3〕、およびエチレンジアミン四酢酸〔C101628〕からなる群より選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。
【0050】
<pH調節工程>
還元反応は、還元剤の電極電位が、還元しようとする金属イオンが原子となる電極電位よりも低いときにおこるので、金属微粒子の製造に必要な成分を含有する反応液を調製した後、還元剤の電極電位が、還元しようとする金属イオンが原子となる電極電位よりも低くなるように、反応液のpHを調節する。例えば、三価のチタンイオンを還元剤として用いた還元反応はアルカリで起こやすいことから、チタン還元剤を用いた場合、溶液をアルカリ性、好ましくはpH8.5以上、より好ましくはpH9−11程度とできるようなpH調節剤(通常、アルカリ性化合物)を添加する。
【0051】
上記アルカリ性化合物としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩など、塩素等のハロゲン元素、硫黄、リン、ホウ素等の不純物元素を含まないアンモニアが好ましく用いられる。
【0052】
溶液のpHが、還元反応が起こるpHに調節されると(チタン還元剤を用いた場合には溶液がアルカリ性になると)、系中で、再生した還元剤中の遷移金属のイオンが酸化状態の低いイオンから高いイオンに酸化される酸化反応が進行し、そしてその際の還元作用によって、補充された金属イオンが還元され、金属微粒子を生成、析出する。
【0053】
以上の還元反応を進行させるための反応温度は、特に限定しないが、通常、30〜60℃程度で、必要に応じて加熱しながら行うことが好ましい。また、反応液は、かく拌しながら、あるいはかく拌しなくてもよい。
【0054】
還元反応により、還元された金属イオンは金属微粒子となって析出する。析出した金属微粒子は、ろ過などして反応系中から回収して洗浄、乾燥などすると金属粉末の製造が完了する。
【0055】
このようにして得られる金属微粉末は、電解再生液に、単に金属イオンを補充して、pHを調節することにより開始させて得られた金属微粒子と比べて、真円度の高い球状微粒子が得られ、粒径、粒径分布も、バージン反応液から得られた場合に匹敵する品質を有する金属微粒子が得られる。
【実施例】
【0056】
本発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0057】
<バージン反応液を用いた金属微粒子の製造>
2Lのビーカーに塩化アンモニウム50g、錯化剤としてクエン酸三ナトリウム・二水和物90gを坪量し、水600g加えて攪拌した。これに炭酸ナトリウム70g、還元剤として20%三塩化チタン溶液80g、分散剤として、水溶したドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2gを加えて攪拌した。得られた溶液のpHは9.0であった。分散剤濃度は、0.006mol/Lである。
これに、金属原料となる塩化ニッケル6水和物10gを水溶した水溶液を添加すると、ニッケルの還元反応が開始した。60分間放置することにより、反応が終了し、金属微粒子が析出した。
反応終了溶液から、析出した金属微粒子を濾過等により回収した。バージン反応液から製造された金属微粒子の顕微鏡写真を図2に示す。図2から、平均粒径126nm(粒度分布σ=20nm)のほぼ球状の金属微粒子が得られたことがわかる。回収後の残液を、使用済み還元剤含有液として、電解再生に供した。
【0058】
尚、平均粒径と粒度分布は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、一次粒子径を実測することにより測定された値である(以下、同様)。
【0059】
<電解再生>
前記で得られた使用済み還元剤含有液に、塩酸100gを添加してpH4にした後、電解槽の陰極室にいれた。電極槽の陽極室に、10%硫酸ナトリウム溶液をいれ、両極間電圧が2V程度になるように、通電して電解再生を進めた。1時間後に、還元作用によりTi4+がTi3+に再生された溶液(電解再生液)を得た。電解再生液のpHは5.5であった。
【0060】
<電解再生液を用いた金属微粒子の製造>
実施例:
上記により得られた電解再生液に、塩化アンモニウム及びクエン酸三ナトリウム・2水和物を補充し、金属原料として塩化ニッケル6水和物10gを添加して攪拌した。
炭酸ナトリウムを添加することにより、溶液のpH8に調節した。さらに分散剤として、水溶させたドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを補充して、分散剤濃度を0.006mol/Lとした。
【0061】
さらに炭酸ナトリウムを添加してpH9とすると、ニッケルイオンの還元反応が開始した。1時間放置して、反応終了させ、金属微粒子が析出させた。金属微粒子が析出した溶液を濾過して、金属微粒子を回収した。回収された金属微粒子の顕微鏡写真を図3に示す。バージン反応液から得られた金属微粒子と比べて、各微粒子の真円度は若干劣っていたが、平均粒径128nm(粒度分布σ=21nm)であり、バージン反応液から得られる金属微粒子と遜色ないことがわかった。
【0062】
比較例:
電解再生液に、分散剤となるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例と同様にして、溶液のpH9にして、ニッケルイオンの還元反応を開始させた。1時間放置して、反応終了させ、金属微粒子が析出させた。金属微粒子が析出した溶液を濾過して、金属微粒子を回収した。回収された金属微粒子の顕微鏡写真を図4に示す。得られたニッケル粒子は、微粒子がクラスター化した鎖状粒子となっていた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の金属微粒子の製造方法によれば、電解再生液を繰り返し使用しても、バージン反応液を用いた場合と比べて遜色ない金属微粒子を製造することができるので、経済的に、金属微粒子を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオン及び該金属イオンを還元する還元剤を含有する反応液における還元反応により析出した金属微粒子を回収した後の溶液(以下、「使用済み還元剤含有液」)を電解処理することにより、使用済み還元剤を還元再生した電解再生液を用いて、金属微粒子を繰り返し製造する方法であって、
電解再生液に、金属イオン及び分散剤を補充する工程;並びに
前記金属イオン及び分散剤が添加された電解再生液のpHを、前記還元剤の電極電位が、前記金属イオンが原子となる電極電位よりも低くなるように調節して、還元反応を開始させる工程
を含む金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記分散剤は、前記金属イオンモル濃度の0.1〜1.0倍のモル濃度となるように補充する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記還元剤は、チタン塩である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記電解再生液のpHを8.5以上とすることにより、還元反応を開始させる請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
還元反応開始工程前に、さらに錯化剤を添加する工程を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記分散剤は、界面活性剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記金属微粒子は、球状粒子である請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記金属微粒子は、ニッケル微粒子である請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−1984(P2013−1984A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136892(P2011−136892)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】