説明

電鋳マスク治具

【課題】 電鋳マスク治具の着脱に伴う擦り傷の形成を防止する。
【解決手段】 成形品や表面被覆処理品の塗装或いは表面被覆処理用の電鋳マスク治具であって、クッション層8を有している。クッション層8は、緩衝性を有し、電鋳マスク治具14の内面一部に形成され、電鋳マスク治具14と成形品15との直接の接触を阻止する。したがって、成形品に対する塗装処理或いは表面被覆処理品への塗装処理時に、成形品或いは表面被覆処理品に電鋳マスク治具14を取り付ける際、或いは脱型する際に、電鋳マスク治具14の電鋳金属が直接成形品や表面被覆処理品に触れることがないので、成形品、表面被覆処理品に擦り傷を付けることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のヘッドランプやテールランプ等の成形品の一部に塗装或いは蒸着やスパッタリング等の表面被覆処理用又は前記表面被覆処理品の一部に塗装する際に用いる電鋳マスク治具およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装用或いは蒸着やスパッタリング等の表面被覆処理に用いられるマスク治具は、これを大別して電鋳マスク治具、板金マスク治具、樹脂マスク治具に分類され、それぞれに一長一短がある。例えば電鋳マスク治具は、見切り精度に優れるが、価格が高く、成形品の素材に傷がつきやすいという欠点がある。板金マスク治具は、見切り精度は電鋳マスク治具に比べて劣るものの低価格のため、見切り処理が比較的単純な成形品の塗装又は表面被覆処理などに使用される。また、樹脂マスク治具は、成形用の金型が必要であり、金型が高価のため、よほど多数個のマスク治具が必要とされない限り、採用されないのが実情である。
【0003】
見切り線とは、塗装部と、非塗装部との境界線である。マスク治具は、塗装すべき成形品に塗料が見切り部から入り込まないように密着(フィット)させなければならない。具体的には、マスク治具と成形品との間に隙間があると、塗装の場合には、その隙間に塗料が入り込み、見切り線を綺麗に出せず、不良品になってしまう。この問題は蒸着やスパッタリング等の表面被覆処理の場合でも同じである。この表面被覆処理時の金属が隙間内に入り込むと見切り線を綺麗に出すことができない。もっとも、塗装処理或いは表面被覆処理にいずれの種類のマスク治具を選定するかは、用途に応じて決定されるべきであるが、例えば、自動車のヘッドランプやテールランプ等のような成形品の一部を塗装或いは蒸着やスパッタリング等の表面被覆処理又は前記表面被覆処理品の一部に塗装するような用途には、電鋳マスク治具が適している。しかし、電鋳マスク治具は、成形品に密着(フィット)するために、電鋳マスク治具の一部が成形品の素材に強く当たると、電鋳マスク治具を成形品に取り付ける際、或いは成形品から脱型するときに、成形品の表面を傷つけ、これが擦り傷となって成形品に残る虞がある。
【0004】
最近、自動車のヘッドランプやテールランプ等のような成形品については、塗装・表面被覆処理の要求品質が厳しくなってきており、見切り精度に優れた電鋳マスク治具を使用せざるを得ない状況にあるが、前述のように電鋳マスク治具は、成形品から着脱の際に成形品を傷つけるという重大な問題がある。
【0005】
然るに、マスク治具を用いて成形品の塗装用或いは表面被覆処理を行った後、マスク治具を脱型の際に、傷つきやすい成形品を損傷から保護する点については、従来あまり注目されていなかったようである。もっとも、樹脂マスク治具についてではあるが、特許文献1には、マスク治具を用いて成形品の塗装用或いは蒸着処理を行うときに生じる成形品の損傷に着目し、マスク治具からの製品の脱着による製品の傷・打痕不良の低減させる試みが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された樹脂マスク治具を、塗装マスク治具として使用した場合、塗料が該マスク治具表面に貼りつくという問題がある。もっとも、貼りついた塗料は、溶剤槽へ該マスク治具を浸けることによって塗料は剥がれるものの、マスク治具が樹脂製の為、該マスク治具自体の形状が溶剤によって変わってしまうという重大な問題が生じる。
【0007】
合成樹脂成形品の塗装或いは蒸着やスパッタリング等による表面被覆処理又は前記表面被覆処理品への塗装処理に電鋳マスク治具を用いたときに、塗装又は表面被覆処理前後は必ず電鋳マスク治具を成形品から着脱しなければならないのであって、電鋳マスク治具は見切り精度が高いだけ、成形品にしっかりと密着して嵌まり込み、電鋳マスク治具と成形品との硬度の違いから電鋳マスク治具を成形品に取り付ける際、或いは成形品から脱型する際に成形品の表面が傷つきやすいという問題が生じるのは避けることができない。
【特許文献1】特許公開2004−156098
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、成形品の一部に電鋳マスクを取り付けて塗装或いは蒸着やスパッタリング等による表面被覆処理を行うとき、又は前記表面被覆処理品の一部に電鋳マスクを取り付けて塗装するときに、成形品や表面被覆処理品に電鋳マスク治具を取り付ける際、或いは成形品から電鋳マスク治具を脱型する際に成形品や表面被覆処理品の表面を傷つけやすいという点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、塗装処理或いは蒸着やスパッタリング等による表面被覆処理において、電鋳マスク治具が成形品や表面被覆処理品の表面を傷つけないように、成形品や表面被覆処理品に電鋳マスク治具の電鋳金属が直接接触しないようにしたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電鋳マスク治具は、見切り線の近傍に形成したクッション層で成形品を支えて塗装処理或いは蒸着やスパッタリング等による表面被覆処理を行うため、電鋳マスク治具の電鋳金属が、直接成形品や表面被覆処理品に接触することがなく、成形品に対する塗装処理或いは表面被覆処理品への塗装処理時において、成形品あるいは、表面被覆処理品に電鋳マスク治具を取り付ける際、或いは脱型する際に、電鋳マスク治具の電鋳金属が直接成形品、表面被覆処理品に触れることがないので、成形品、表面被覆処理品に擦り傷を付けることがない。
【0011】
したがって本発明によるときには、電鋳マスク治具の特徴である見切り精度を保ちながら、電鋳マスク治具の着脱に伴う擦り傷の形成から成形品の表面を保護し、擦り傷の発生を防止し、製品の歩留まりを大幅に向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の電鋳マスク治具は、塗装或いは表面被覆処理作業にともなう擦り傷の発生を阻止するという目的を、成形品の表面に接触する電鋳マスク治具の内面一部にクッション層を形成することで、電鋳マスク治具の特徴である見切り精度を低下させることなく実現した。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の電鋳マスク治具を用いて塗装を行った自動車のヘッドランプのランプユニットの1例を示す図である。自動車のヘッドランプの表面に金属が被覆処理されて形成された鏡面部分を含むランプユニット1は、図1に示すような形状の製品の成形品(コンビネーションランプボディ)である。このランプユニット1は、自動車の正面両側のヘッドライト、ウインカー、ハザード(フォッグランプ)等の複数のライトのランプハウス2となる凹所が立体的な曲面のボディに形成された合成樹脂成形品である。
【0014】
この例ではランプユニット1の成形品の表面には、金属が真空蒸着あるいはスパッタリング法によって被覆処理されて形成された鏡面に仕上げられている。この実施例では、表面が鏡面に仕上げられた成形品のそれぞれのランプハウス2の筒部分2aを除いて他の部分2bは暗褐色の塗装が施されている例である。
【0015】
図中、ランプハウス2の筒部分2aの鏡面と、他の部分2bの塗装面との境界が見切り線3であり、鏡面と、塗装面との境界を明確に区別するために、ランプユニット1の塗装に際しては、鏡面を残すべきランプハウス2の筒部分2aを見切り精度に優れた電鋳マスク治具で覆い、電鋳マスク治具の表面を含め、ランプユニット1の全面を塗装後、ランプユニット1から電鋳マスク治具を脱型することによってランプユニットの製品となる。
【0016】
本発明による電鋳マスク治具は、クッション層を有している。クッション層は、緩衝性を有し、電鋳マスク治具の内面一部に形成され、電鋳マスク治具の電鋳金属と成形品との接触を阻止するものである。特に、前記クッション層は、電鋳マスク治具の見切り線に沿って前記成形品に支えられる電鋳マスク治具の内面に形成され、電鋳マスク治具の着脱に伴う擦り傷の形成から成形品の表面を保護し、成形品の傷付きを防止する。クッション層は、要するに電鋳マスク治具の緩衝材層であり、種々の緩衝材料の使用が可能であるが、クッション材に弾性体を用い、電鋳マスク治具を製造する際に、電鋳金属の一部に弾性体を埋め込み、一部を電鋳マスク治具の内面に露出させることによって、クッション層を形成できる。
【0017】
ランプユニット1の成形品は、図1に示したように比較的複雑な形状をなしており、ランプユニット1に形成されているランプハウス2の部分は、必ずしもランプユニット1から完全な筒状をなしてその正面に突出した形状になっているとは限らないが、いずれにしてもランプユニット1の一部に形成されて筒型をなし、筒部分2aの開口縁から胴部の一定範囲の部分に鏡面を残し、他の部分に塗装が施されるものであることから、以下の説明を簡単にするため、図2(a),(b)に示すような中空円錐形のランプユニットの成形品を想定し、このランプユニットの形状を象ったモデル4を用いて電鋳マスク治具を製作する場合について以下に説明する。
【0018】
図3は、本発明による電鋳マスク治具の製造処理を工程順に示す図、図5は本発明による電鋳マスク治具を用いて行う塗装処理を工程順に示す図である。本発明による電鋳マスク治具は、(1)隔離処理(クリアランス処理)、(2)感光性樹脂膜形成処理、(3)クッション材添加処理、(4)電鋳処理、(5)マスク仕上げ処理を順に行うことによって製造される。以下工程順に各処理の内容を説明する。なお、(2)感光性樹脂膜形成処理は、後述するようにクッション材を固定するための処理であり、クッション材を固定出来るものであれば、感光性樹脂以外にも接着剤、塗料、反応硬化樹脂等を使用することができる。
【0019】
(1)隔離処理(クリアランス処理)
隔離処理(クリアランス処理)は、塗装すべき成形品の形状を象ったモデルのマスク形成部分を隔離用部材(クリアランス用部材)で覆う処理である。図3(a)において、まず、ランプユニット成形品の形状を象ったモデル4を用意し、そのモデル4に見切り線3を設定し、見切り線3より上方の筒部分6の外周及び上面開口に隔離用部材5を貼り付ける。もっとも、モデル4は特別に用意することなくランプユニット1の製品を用いることもできるが、多数の電鋳マスク治具を製造するときには、通常の場合、ランプユニット1の形状を象ったモデル4が製作される。なお、モデル4はランプユニット1の外形を象ればよいのであって、筒部分6は必ずしもその上面が開口されている必要はない。
【0020】
この実施例においては、モデル4の円錐形の胴部に形成される頚部の段差の位置を見切り線3とし、頚部から上の2段の筒部分6の外形を象った電鋳マスク治具を製作する場合について以下に説明する。隔離用部材5には、シートワックスを用いる。シートワックスは周知のように最適な粘性と硬さがあり、ワックス形成を思いのままに加工でき、特にモデル4への貼り付け時、そのモデル4の形状に追随することができるので好ましく用いられる。なお、隔離用部材5としては、シートワックスの他に、例えば塩ビシート、ウレタンシート、ポリプロピレンシート、シリコンシート等を使用してもよい。
【0021】
後に見切り線3を切り落として得られる電鋳マスク治具の端縁を綺麗に仕上げるには、電鋳マスク治具を支える部分がランプユニット1の最低限見切り線上に3mm以上を確保することがよい。電鋳マスク治具を支える部分が3mm未満では、電鋳マスク治具の着脱時、電鋳マスク治具のクッション層と成形品との接触する割合が小さくなり、局部的な力が加わり易くなるため、電鋳マスク治具のクッション層が弾性変形するものでないと成形品に傷がつく場合がある。それ以外の部分は、成形品塗装或いは表面被覆処理或いは表面被覆処理品への塗装処理において、成形品に電鋳マスク治具の電鋳金属を接触させないためには、モデル4とモデル4の外周に後に形成される電鋳マスク治具内に、逃げの空間を確保しておくのが望ましい。このため、隔離用部材5に用いるシートワックスには、厚さ0.3〜3mmのシートを選定使用し、この隔離用部材5をモデル4に設定された見切り線3の上に5mmの間隔を置いてその上方の筒部分6の外面に貼り付けるとともに、さらに筒部分6の上面開口を平らに覆う。
【0022】
(2)感光性樹脂膜形成処理
感光性樹脂膜形成処理は、モデル4に設定した見切り線3とその上方の隔離用部材5で覆われた部分との間のモデル4の表面に感光性樹脂膜を形成する処理である。この実施例においては、見切り線3から、その上方の隔離用部材5で覆われる部分まででモデル4の表面が露出している約5mmの範囲を除いてモデル4の外面をマスキングテープ(図示略)で覆い、その上から感光性樹脂をスプレー塗布した。感光性樹脂には、株式会社エポック社製の光硬化樹脂F−05−005(不飽和ポリエステル樹脂)をスチレンモノマーで80%に希釈したものを用いた。感光性樹脂を塗布後、マスキングテープを剥がす。これによって、図3(b)のようにモデル4には、見切り線3の上方約5mmの範囲に感光性樹脂膜7が形成される。感光性樹脂の塗布厚みは、乾燥時において10〜20μmの範囲が望ましい。厚さが20μmより厚いと、本発明の電鋳マスク治具を用いてランプユニット1の成形品を塗装するときに、電鋳マスク治具とランプユニット1の成形品との隙間が開きすぎて塗装の塗料が見切り線を越えて塗布禁止領域にまで入り込んでしまう虞がある。逆に厚さが10μmより薄いと電鋳マスク治具をランプユニット1の成形品に取り付ける際に、電鋳マスク治具のクッション層が成形品と接触し弾性変形する場合には、クッション層が薄くなり、その結果、電鋳マスク治具の電鋳シェル(ニッケル層)と成形品とが接触し、成形品を傷つける虞がある。
【0023】
(3)クッション材添加処理
クッション材添加処理は、感光性樹脂膜7が形成されたモデル4の表面に、クッション材として弾性体を接着する処理である。感光性樹脂の厚みは乾燥時において10〜20μmになるように塗布をし、その上に弾性体である耐溶剤性ビーズを散布しビーズの上を軽く手で押しビーズ先端をモデル表面に接触させる。(ビーズが感光性樹脂の中に10〜20μm沈む状態であるのが好ましい。)その後、この上方50cmの位置から水銀灯の光を5分間照射し、感光性樹脂層を硬化させクッション層8を形成した。クッション材8として、弾性体であり、かつ耐溶剤性のウレタンビーズ(三洋化成工業株式会社製:メルテックスLCブラック70〜350ミクロン径のウレタンビーズ)を用いたが、クッション材は、緩衝性を有するものであればよく、好ましくは、本発明のマスク治具を成形品に着脱する際、このマスク治具のクッション層が成形品と接触した際に弾性変形するものがよい。また、クッション材としては、胡桃の粉末、ポリエチレン粉末、フッ素粉末、繊維チップを使用したりすることができる。また、塗装或いは表面被覆処理すると、本発明のマスク治具に例えば塗料や蒸着金属等の表面処理剤が付着する。特に、クッション層に付着してしまうとそれが原因でマスク治具と成形品との着脱性が悪くなったり、成形品に傷を付ける虞がある。したがって、その付着物を溶剤(アセトン、MEK、トルエン等)或いはアルカリ性溶液にて溶かす作業が必要となってくるため、本発明のマスク治具のクッション層は、耐溶剤性のものがよい。
【0024】
(4)電鋳処理
電鋳処理は、電鋳マスターの全表面を導電化し、その表面に電鋳金属を一定厚みに析出させる処理である。この実施例では、クッション材添加処理後の電鋳マスターの全表面に銀鏡反応によって銀の薄膜を形成し、導電化した電鋳マスター9を作り、この導電化した電鋳マスター9を用い、電鋳金属にニッケルを選定して電鋳処理を行う。ニッケル電鋳処理は、図3(d)に示すように、ニッケル電鋳液を満たしたニッケル電鋳槽10の陰極に導電化した電鋳マスター9を取り付けたベニヤ板11をつるし、陽極にニッケルのインゴット12を取り付け、インゴット12のニッケルを導電化した電鋳マスター9の表面に析出させた。電鋳マスター9の表面のニッケル層13の厚みが約1mmに達したときに電鋳マスター9をニッケル電鋳槽10から出槽した。
【0025】
(5)マスク仕上げ処理
マスク仕上げ処理は、電鋳処理後、電鋳シェルを電鋳マスターから脱型し、隔離用部材5を剥離除去後、感光性樹脂膜を溶解除去するとともに、見切り線より下の不要な金属シェルを除去して電鋳マスク治具の形状に仕上げる処理である。出槽した電鋳マスター9より、電鋳シェル13を脱型し、見切り線3より下方の位置Cで電鋳シェル13を切断する。ついでこの電鋳シェル13より隔離用部材5を剥離除去し、溶剤(アセトン、MEK、トルエンなど)中に浸して感光性樹脂膜7を溶解し(図3(f))、さらに、見切り線3の下側の余分のニッケル層を除去し、見切り線3の形状を正確に仕上げ、図3(g)に示す電鋳マスク治具14を得る。
【0026】
得られた電鋳マスク治具14には、見切り線3から上の一定範囲、図4に示すように電鋳マスク治具14のニッケル層13に弾性体の一部が埋もれ、前記感光性樹脂膜7の除去によって一部が電鋳マスク治具14の内面側に露出した弾性体の列によるクッション層8が転写された。なお、電鋳マスク治具14の内面側に露出した弾性体は、非配列(ランダム)によるクッション層8が転写されたものでもよい。また、隔離用部材5の除去によって、電鋳マスク治具14の内面には、後に説明するように隔離用部材5の厚みに相当する成形品に対する逃げの空間が形成された。
【0027】
上記方法によって製造された電鋳マスク治具14を用いてランプユニットの成形品に塗装処理を行う要領を以下に説明する。図5(a)は、ランプユニットの成形品15に本発明による電鋳マスク治具14を取り付けた状態を示している。ランプユニットの成形品15と、モデル4とは、外形がほぼ同じ形状であり、電鋳マスク治具14は、モデル4の一部形状を象って成形されたものであるため、電鋳マスク治具14をランプユニットの成形品15に取り付ける。
【0028】
電鋳マスク治具14は、成形品15の円錐形の胴部に形成される頚部の段差の位置を見切り線3として成形品15の頚部に支えられるが、ランプユニットの成形品15の頚部に対応する電鋳マスク治具14の内面にはクッション層8が形成されているため、電鋳マスク治具14はこのクッション層8を介して成形品15に支えられ、成形品15に対する電鋳マスク治具14の着脱に伴う擦り傷の形成から成形品15の表面を保護され、電鋳マスク治具14が成形品15を傷つけることがない。
【0029】
また、電鋳マスク治具14は、モデル4の隔離処理のためにモデル4の筒部分6に取り付けられたシートワックスの厚み分を含めてその外形を象って形成され、シートワックスはマスク仕上げ処理の際に、電鋳マスク治具14の内面から除かれているため、このシートワックス上に形成された電鋳金属(ニッケル層)と、成形品15間には、図6に示すように電鋳マスク治具14と、電鋳マスク治具14に覆われた成形品15の筒部分間にはシートワックスの厚み分が成形品15の逃げの空間となる隙間16が形成されるため、電鋳マスク治具14の電鋳金属(ニッケル層)が直接成形品15に接触することがなく、従って、電鋳マスク治具14が成形品15を損傷させることがなく、電鋳マスク治具14を成形品15に着脱する際にも成形品15に擦り傷を付けることもない。
【0030】
電鋳マスク治具14をランプユニットの成形品15に取り付けた状態で、予め成型品15の全面に金属蒸着された鏡面17に対して塗料を吹き付けて所要の色に塗装する。電鋳マスク治具14を成形品15に取り付けた状態では、ニッケル層13が成型品15に接触することなく、緩衝性を有するクッション層8が圧縮されて成形品の表面に密着しているため、成型品15に傷を付けることがなく、さらには見切り線3から成形品15の表面への塗料の浸入が阻止される。塗装後、成形品15から電鋳マスク治具14を脱型すれば、図5(b)に示すように見切り線3の位置で、成形品に予め金属蒸着された鏡面17と、電鋳マスク治具14を取り付けて塗装された塗装面18とが明確に区画されたランプユニットの製品が得られる。
【0031】
以上、実施例においては、成形品の見切り線の近傍にクッション層を設ける例を説明した。通常の場合、塗装物品に電鋳マスク治具を取り付ける場合、そのほとんどは、見切り線となる電鋳マスク治具の開口部位の近くで塗装物品に支持されることになるため、見切り線の近傍にクッション層を設けることが重要であるが、クッション層を設ける位置は見切り線の近傍に限らず、電鋳マスク治具と、成形品とが接触する位置、特に着脱の際に、成形品に擦り傷を生じさせる虞がある箇所に任意に設けることができる。
【0032】
本発明においては、要するに塗装処理される物品に支持される電鋳マスクの特定部位にクッション層を設けて物品から隔離することが重要である。なお、クッション層には、ウレタンなどの弾性ビーズを用いる例を説明したが、そのほか、静電植毛などの方法で短繊維を植えつけることによって形成することもできる。また、クッション層8を形成する弾性体等をモデル4に固定する方法として、感光性樹脂膜形成処理後、クッション材添加処理を行う例を説明したが、例えば感光性樹脂のような粘着性を有する層に、クッション層8を形成する弾性体等を添加し、該粘着性を有する層の所定位置に該弾性体を固定したものを予め作成しておき、その作成したものをモデル4に貼着させて、クッション層8を形成する弾性体等をモデル4に固定する方法を採用してもよい。以上実施例においては、電鋳マスク治具を塗装処理に使用する場合について説明したが、本発明による電鋳マスク治具は、塗装処理と全く同じ要領で蒸着やスパッタリング等による表面被覆処理、或いは表面被覆処理品の塗装処理に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
電鋳マスク治具は、自動車のヘッドランプやテールランプのように例えば金属蒸着されて形成された鏡面部分と塗装部分を有する成形品の塗装のほか、一般に塗装する部分と塗装しない部分或いは金属蒸着面を有する部分と蒸着面を有しない部分との境界を精度よく表現するための電鋳マスク治具として各種の分野で用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の電鋳マスク治具を用いて塗装を行った自動車のヘッドランプのランプユニットの1例を示す図である。
【図2】(a)は、ランプユニットの形状を象ったモデルの斜視図、(b)は(a)を側面から見た図であり、断面と表面の状態を示す図である。
【図3】(a)〜(g)は、本発明による電鋳マスク治具の製造処理を工程順に示す図である。
【図4】電鋳マスク治具の内面側に弾性ビーズの一部が露出した状態を示す図である。
【図5】(a)は、本発明による電鋳マスク治具を塗装処理すべき成形品に取り付けた状態を示す図、(b)は、塗装処理後、成形品から、電鋳マスクを取り外した状態を示す図である。
【図6】電鋳マスク治具と成形品との間に形成された成形品の逃げの空間となす隙間を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ランプユニット
2 ランプハウス
2a 筒部分
2b 他の部分
3 見切り線
4 モデル
5 隔離用部材(クリアランス用部材)
6 筒部分
7 感光性樹脂膜
8 クッション層
9 電鋳マスター
10 ニッケル電鋳槽
11 ベニヤ板
12 インゴット
13 電鋳シェル(ニッケル層)
14 電鋳マスク治具
15 成形品
16 隙間
17 鏡面
18 塗装面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品の塗装或いは表面被覆処理用或いは表面被覆処理品の塗装用の電鋳マスク治具であって、クッション層を有し、
クッション層は、緩衝性を有し、電鋳マスク治具の内面一部に形成され、電鋳マスク治具の電鋳金属と成形品や表面被覆処理品との直接の接触を阻止し、電鋳マスク治具の着脱に伴う擦り傷の形成から成形品や表面被覆処理品の表面を保護するものであることを特徴とする電鋳マスク治具。
【請求項2】
前記クッション層は、電鋳マスク治具の見切り線に沿って前記成形品或いは表面被覆処理品に支えられる電鋳マスク治具の内面に形成されているものであることを特徴とする請求項1に記載の電鋳マスク治具。
【請求項3】
前記クッション層は、電鋳マスク治具の電鋳金属に一部が埋め込まれ、一部が電鋳マスク治具の内面に露出した多数の弾性体によって形成されているものであることを特徴とする請求項1に記載の電鋳マスク治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−132433(P2008−132433A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320438(P2006−320438)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】