説明

露光方法および露光装置

【課題】ワークに塗布したレジストの経時的な感度変化に合わせて露光量を変更し、一巻きの帯状ワークの全ての露光領域を所望の露光精度で露光できるようにすること。
【解決手段】巻き出しロール1から巻き出された帯状ワークWは、露光部3に搬送され、光照射部4からマスクMを介して照射される露光光により露光される。制御部20には、ワークに塗布されたレジストの経時的な感度特性の変化に応じた露光時間の減少量、最後の露光領域の露光時間等のパラメータが記憶されており、制御部20は帯状ワークの露光回数をカウントし、露光を開始してからのカウント値と、上記パラメータに基づき、露光しようしている露光領域の露光時間を求める。そして、この露光時間に応じて、シャッタ機構6のシャッタ板6aの開時間を制御して、帯状ワークの各露光領域を上記求められた露光時間になるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクを介してワークに露光光を照射し、レジストが塗布されたワーク上に、マスクに形成されたパターンを露光(転写)する露光方法および露光装置に関し、特に、TAB(Tape Automated Bonding)やFPC(Flexible Printed Circuit)といった長尺の帯状ワークにパターンを形成するための露光方法および露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶等のデイスプレイパネル、携帯電話、デジタルカメラ、ICカード等では、厚さ25μm〜125μm程度のポリエステルやポリイミド等の樹脂フィルム上に集積回路を実装したフィルム回路基板が用いられている。フィルム回路基板は、その製造工程においては、例えば幅160mm、厚さ100μm、長さ数百mの帯状のワークであり、通常リールに巻かれている。
また、フィルム回路基板は、上記の樹脂フィルム上に、導電体(例えば銅箔)を貼り付けられている。フィルム回路基板の製造は、レジストを塗布する工程、所望の回路パターンを転写する露光工程、レジストの現像工程、不要の導電体を除去するエッチング工程等を、例えば4回から5回、繰り返すことにより行なわれる。各工程においては、フィルム回路基板がリールから巻き出され、処理加工され、再びリールに巻き取られる。以下フィルム回路基板のことを帯状ワークと呼ぶ。
【0003】
帯状ワークの露光装置の先行技術として、例えば特許文献1などが知られている。図6に帯状ワークの露光装置の一例を示す。
帯状ワークW(以下、単にワークWともいう)は、ワークWを保護するスペーサと重ね合せて巻き出しロール1にロール状に巻かれている。巻き出しロール1から引き出す時、スペーサはスペーサ巻き取りロール1aに巻き取られる。また、露光処理の終わったワークWは、スペーサ巻き出しロール2aから巻き出されたスペーサと重ね合わせて巻取りロール2に巻き取られる。
巻き出しロール1から出た帯状ワークWは、たるみ部A1、中間ガイドロールR2を経てエンコーダロールR3と押さえロールR3’により狭持される。エンコーダロールR3は、ワーク搬送時、後述する搬送ロールにおいてスリップが生じていないか確認するためのロールである。
巻き出しロール1から引き出された帯状ワークWは、露光部3を経て、搬送ロールR4と押さえロールR4’によって狭持される。ワークWは、搬送ロールR4が回転することにより設定された所定量搬送され、露光部3のワークステージ10上に送られる。
露光部3上には、ランプ4aと集光鏡4bから構成される光源を備えた光照射部4と、ワークに露光するパターン(マスクパターン)を有するマスクMと、投影レンズ5が設けられている。また、ワークステージ10はワークステージ駆動機構6上に取り付けられており、左右前後方向、上下方向に駆動可能であるとともに、ワークステージ面に垂直な軸を中心として回転駆動が可能である。
【0004】
光照射部4は、またシャッタ機構6を備えている。シャッタ機構6は、シャッタ板6aとシャッタ板駆動機構6bから構成される。シャッタ板駆動機構6bが駆動することにより、シャッタ板6aが光路中に挿入退避される。シャッタ板6aが光路から退避すると、光照射部4から露光光が照射される。シャッタ板6aが光路に挿入されると、光照射部4からの露光光の照射が停止する。
上記シャッタ機構については、例えば特許文献2に記載されている。同文献に記載されるように、シャッタ機構6は、例えば扇形の切り欠き部を有する回転式のシャッタ板を有し、上記切り欠き部が光路上に位置するようにシャッタ板を回転させると、光照射部4からの露光光がマスクMを介してワークWに照射され、上記切り欠き部が設けられていない部分が光路上に位置するようにシャッタ板を回転させると、露光光の照射が停止する。
【0005】
露光部3で、帯状ワークWは、露光される領域の裏面側が、ワークステージ10の表面に真空吸着等の保持手段により保持される。
マスクMと帯状ワークWには、それぞれ位置合せ用のアライメントマークが形成されている。
レジストが塗布された帯状ワークWが露光部3に搬送され、ワークステージ10に吸着保持されると、不図示のアライメント顕微鏡が、マスクMのアライメントマークとワークWのアライメントマークを検出し、ワークステージ10を移動することによりマスクMとワークWの位置合せ(アライメント)がなされる。位置合せ終了後、シャッタ機構6が開となり、光照射部4から露光光がマスクMを介してワークWに照射され、マスクMに形成されたマスクパターンがワークW上に露光される。
【0006】
露光装置の制御部20は、光照射部4のランプ4aの点灯消灯、シャッタ板駆動機構6bの動作、巻き出しロール1からのワークWの巻き出しや巻き取りロール2によるワークWの巻き取りを始めとする帯状ワークWの搬送、またマスクMとワークWの位置合せなど、露光装置全体の動作を制御する。
ワークW上のレジストに、所望の露光精度のパターンを形成するための露光量は、レジストにより異なるが、あらかじめ実験により求められている。露光量は、下式に示すように、露光光の照度と、露光光が照射される照射時間即ち露光時間の積で表される。
露光量=照度×露光時間
したがって、露光量の制御は照度と露光時間の両方で行うことができるが、通常露光時間で制御する。露光時間は、光照射部4の光源からの光路内にシャッタ板6aを挿入退避することにより制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−37026号公報
【特許文献2】特開平11−338005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近、帯状ワークの露光に使用されるレジストにおいて、塗布してから時間が経過すると、徐々に感度が上がるものが出てきた。即ち、塗布してからの時間が長くなるにつれて、パターンを形成する(転写する)ために必要な露光量が減少する。
そのため、工場ではレジスト塗布後あらかじめ決められた時間内に露光処理がなされる。しかし、帯状ワーク場合、ワークの長さ即ちワークに形成される露光領域の数や、1つの露光領域の露光時間の長さにより多少変化するが、平均的には1ロールの露光処理に2時間から3時間かかる。そのため、ワークの最後の露光領域を露光するのは、最初の露光領域の露光から2時間〜3時間後になる。レジストはこの間に徐々に感度が上昇してしまう。
代表的なものとして次のような例があげられる。1つの露光領域の露光時間約2秒、露光領域間のワークの送り時間とマスクとワークの位置合せ時間の合計約2秒、露光領域の数2000。したがって、この帯状ワークの処理時間は、(2秒+2秒)×2000=8000秒、即ち約2時間13分となる。そして、この間に、最適な露光量は15%程度少なくなる(照度が一定とすると、最初の露光領域の露光時間が2秒であれば、最後の露光領域の露光時間はおよそ1.7秒、即ち露光時間は約0.3秒減少する)。
【0009】
したがって、ワークの最後の露光領域を、最初の露光領域の露光量で露光すると、露光量が過剰になる。露光量が過剰になると、例えば露光した部分が現像液に溶けるポジ型レジストの場合、露光しないで残しておきたい部分にも光が回りこみ、露光しないで残しておくべきパターンの幅が狭くなる。したがって、所望の露光精度が得られなくなる。
また、塗布してから時間が経過すると、徐々に感度が低下するレジストもある。その場合、上記とは反対に、ワークの最後の露光領域を、最初の露光領域の露光量で露光すると、露光量が不足になる。ポジ型レジストの場合、露光したい部分の露光量が不足して不要なレジストが残り、所望の露光精度が得られなくなる。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、本発明の目的は、ワークに塗布したレジストの経時的な感度変化に合わせて露光量を変更することができ、一巻きの帯状ワークのすべての露光領域において所望の露光精度で露光することが可能な露光方法および露光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明においては、帯状ワークの各露光領域を順次露光するに際し、該帯状ワークに塗布したレジストの経時的な感度変化に合わせて、露光時間を変化させる。
ここでは、レジストが経時的に感度上昇する特性を持つ場合を例にして説明する。
この場合は、ワークに塗布したレジストの経時的な感度上昇に合わせて、露光量を減らす。そのために、以下のように、あらかじめ対象となるレジストを用いて実験等を行うことにより、露光量の経時的な感度変化を求めておき、その結果に基づいて露光時間を制御する。
例えば、レジストをワークに塗布し、塗布後すぐに露光実験等を行い、所望の露光精度が得られる露光量(照度×露光時間Ts)を求め、その露光時間Tsから、一巻きの帯状ワークのすべてが露光されるおおよその露光処理時間(総露光時間)Taを計算する。
また、ワークにレジスト塗布後、総露光処理時間Ta放置して露光実験を行い、所望の露光精度が得られる露光量(照度×露光時間Te)を求める。
そして、露光1回あたりの露光時間の減少量(n回目の露光時間とn+1回目の露光時間の差)Δtを、例えば以下の式(a)により求める。
Δt=(Ts−Te)/(N−1)・・・・・(a)
N:露光領域数
以上に基づき、n回目の露光領域の露光時間Tnは例えば以下の式(b)で求まる。
Tn=(N−n)×Δt+Te・・・・・(b)
【0011】
なお、上記露光時間の計算は、塗布した直後の露光時間Tsを用いて例えば以下の式で計算するなど、その他の式で計算してもよい。
Tn=Ts−(n−1)×Δt
また、塗布してから時間が経過すると、徐々に感度が低下するレジストの場合は、上記実施例と同様に考えて、以下の式に基づいて露光時間を制御すればよい。
Tn=(n−1)×Δt+Ts
Tn:n回目の露光領域の露光時間
Δt:露光1回あたりの露光時間の増加量
Ts:最初の露光領域の露光時間
さらに、1回の露光ごとに露光時間を変化させる代わりに、複数の露光領域ごとに、段階的に露光時間を短くしても良い。
また、露光時間を上記のように計算で求める代わりに、レジストの感度変化に応じた露光時間をテーブルに記憶させ、該テーブルから露光時間を読み出すようにしてもよい。
【0012】
以上のように本発明においては、以下の手順を実施することにより、レジストの経時的な感度変化に合わせて露光量を変化させる露光を実現することができる。
(1)露光装置の制御部に、上記のようにして求めた露光1回あたりの露光時間の減少量Δt(または増加量)を入力する。
(2)制御部において、上記露光時間の減少量Δt(または増加量)と露光回数に基づきn回目の露光領域の露光時間Tnを求める。
(3)制御部は、n回目の露光領域に対して、上記露光時間Tnになるように、光照射部のシャッタ機構を駆動制御する。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、帯状ワークに塗布したレジストの経時的な感度変化を求めておき、これに基づき露光時間を変化させるようにしたので、ワークに塗布したレジストの経時的な感度上昇に合わせた露光量とすることができる。このため、一巻きの帯状ワークのすべての露光領域において所望の露光精度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例の帯状ワークの露光装置の構成例を示す図である。
【図2】図1に示す露光装置の制御部の構成例を示す図である。
【図3】シャッタを開状態にしたときにワークに照射される露光光の照度の一例を示す図である。
【図4】露光量の変化パターンの例を示す図である。
【図5】制御部の他の構成例を示す図である。
【図6】帯状ワークの露光装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の実施例の帯状ワークの露光装置の構成例を示す図である。図1に示す装置は、制御部の構成及び動作が異なる点を除き、前記図6で説明した露光装置と同様である。
図1において、図6で説明したように、帯状ワークW(以下、単にワークWともいう)は、巻き出しロール1から引き出され、露光部3に搬送されて露光処理が行われ、巻取りロール2に巻き取られる。
露光部3上には、ランプ4aと集光鏡4bから構成される光源を備えた光照射部4と、ワークに露光するパターン(マスクパターン)を有するマスクMと、投影レンズ5が設けられ、ワークWは露光部3のワークステージ10上に搬送されて露光処理がなされる。
光照射部4は、前記したように、シャッタ板6aとシャッタ板駆動機構6bから構成されるシャッタ機構6を備えている。シャッタ板駆動機構6bにより駆動され、シャッタ板6aは光路中に挿入退避される。シャッタ板6aが光路から退避すると、光照射部4から露光光が照射される。シャッタ板6aが光路に挿入されると、光照射部4からの露光光の照射が停止する。
上記シャッタ機構としては、例えば前記特許文献2に記載されるものを用いることができる。
【0016】
露光装置の制御部20は、前記したように、光照射部4のランプ4aの点灯消灯、シャッタ板駆動機構6bの動作、巻き出しロール1からのワークWの巻き出しや巻き取りロール2によるワークWの巻き取りを始めとする帯状ワークWの搬送、またマスクMとワークWの位置合せなど、露光装置全体の動作を制御する。
また、制御装置には登録部21が設けられ、ここから制御部20に、各露光領域の露光時間を設定するためのパラメータである露光領域数N、露光時間の減少量(増加量)Δt等のデータが入力される。
また、制御部20には、露光時間設定部20aが設けられ、ここで、上記パラメータ等に基づき、各露光領域の露光時間を設定し、上記シャッタ機構6を制御する。
【0017】
図2は、上記制御部20の構成例を示す図であり、同図は、経時的に感度上昇特性を持つレジストを用いる場合であって、演算により露光時間を求める場合の構成例を示している。
同図において、制御部20は、露光時間を設定するための露光時間設定部20aと、光照射部4のランプ4aの点灯消灯、シャッタ機構6の動作、帯状ワークWの搬送、マスクMとワークWの位置合せ等の露光装置全体の動作を制御する露光制御部20bと、各種データ等を記憶する記憶部20cから構成され、登録部21から登録された各種パラメータは該記憶部20cに記憶される。なお、制御部20はコンピュータ等で構成することができ、その機能はソフトウェアより実現することができる。図2はその機能構成をブロックで示したものである。
【0018】
露光制御部20bは、前記したように露光装置全体の制御をおこない、ワークWの一つの露光領域の露光が完了する毎に露光完了信号を、露光時間設定部20aの露光回数カウント部201に送出する。
露光時間設定部20aは、露光回数カウント部201と露光時間演算部202を備える。露光回数カウント部201はカウンタを備え、そのカウント値は、露光開始時ゼロクリアされている。そして、各露光領域の処理が終わる毎に露光制御部20bから送られてくる露光完了信号によりカウントアップする。すなわち、露光回数カウント部201カウント値は、現在露光中の帯状ワークの露光回数nを示し、この露光回数nは露光時間演算部202に送られる。
露光時間演算部202は、登録部21から登録され記憶部20cに記憶された露光領域数N、露光時間の減少量Δtと、最後の露光領域の露光時間Teに基づき、前記以下の式(b)で各露光領域の露光時間Tnを求める。なお、ここではレジストが経時的に感度上昇する特性を持つ場合を例にして説明する。
Tn=(N−n)×Δt+Te・・・・・(b)
この露光時間Tnは露光制御部20bに送られ、露光制御部20bはこの露光時間Tnに基づき、シャッタ機構6を制御して帯状ワークWの露光を行う。
【0019】
図1、図2に示した露光装置は次のように動作する。
予め登録部21から、露光領域数N、予め実験等に求めた露光時間減少量Δt、最後の露光領域の露光時間Te等のパラメータを入力し、記憶部20cに記憶させる。
露光を開始すると、前述したように巻き出しロール1から巻き出された帯状ワークWは、たるみ部A1、中間ガイドロールR2を経てエンコーダロールR3と押さえロールR3’により狭持されて露光部3に搬送され、ワークステージ10に吸着保持される。
一方、制御部20の露光時間設定部20aでは、登録部21から入力され記憶部20cに登録された露光領域数N、露光時間減少量Δt、最後の露光領域の露光時間Teと、露光時間設定部20aの露光回数カウント部201のカウント値nに基づき、前記した(b)式により露光時間Tnを求める。求められた露光時間Tnは、露光制御部20bに送られる。なお、露光回数カウント部201のカウント値nは最初はゼロクリアされており、露光が完了する毎にカウントアップする。
【0020】
露光部3上には、光照射部4とマスクMと、投影レンズ5が設けられており、制御部20の露光制御部20bは、前記したように、マスクMとワークWの位置合せ(アライメント)を行い、位置合せ終了後、シャッタ機構6を制御して、光照射部4から露光光をマスクMを介してワークWに照射し、マスクMに形成されたマスクパターンをワークW上に露光する。
その際、露光制御部20bは上記露光時間設定部20aから送られてきた露光時間Tnの間、シャッタ板6aを開状態にして、露光光をマスクMを介してレジストが塗布されたワークWに照射し、マスクMに形成されたマスクパターンをワークW上に露光する。露光が完了すると露光制御部20bは露光完了信号を露光時間設定部20aの露光回数カウント部201に送出する。これにより、露光回数カウント部201のカウント値はカウントアップする。
露光回数カウント部201のカウント値が更新されると、露光時間設定部202は、更新されたnの値と、前記した露光領域数N、露光時間減少量Δt、最後の露光領域の露光時間Teに基づき次の露光領域の露光時間Tnを求める。
【0021】
帯状ワークW上の最初の露光領域の露光が終わると、ワークWは、搬送ロールR4と押さえロールR4’によって狭持され、たるみ部A2を経て巻取りロール2に巻き取られ、ワークW上の次の露光領域がワークステージ10上に搬送される。
そして、前述したようにマスクMとワークWの位置合せ(アライメント)を行い、位置合せ終了後、シャッタ機構6を制御して、上記露光時間設定部20aで求められた露光時間Tnの間、シャッタ板6aを開状態にして、露光光をマスクMを介してレジストが塗布されたワークWに照射する。
以下、同様に、帯状ワークWの各露光領域を順次露光する。露光時間Tnは、露光処理が進むに従い減少し、最後の露光領域を露光する際には、最初の露光領域の露光時間Tnに対して、例えば70%程度の露光時間となる。
図3に前記特許文献2に記載されるシャッタ機構を用いた場合において、シャッタ板6aが開いているときにワークWに照射される露光光の照度を示す。同図の横軸は時間、縦軸は照度であり、同図の斜線で示す面積が露光量に対応する。
第1回目の露光領域を露光する際のワークWの露光量が同図の実線で示す量であるとすると、最後の露光領域を露光する際には、シャッタ板6aが開いている時間が短くなり、露光量は同図の点線で示すように第1回目の露光領域を露光する際の露光量の例えば70%程度となる。
【0022】
次に、上記露光時間Tnの求め方について説明する。ここでは、経時的に感度が上昇するレジストを用いた場合の例を示す。露光時間Tnは例えば、以下の手順で求められる。
(1)経時的に感度が上昇するレジストをワークWに塗布し、塗布後すぐに露光実験を行い、所望の露光精度が得られる露光量(照度×露光時間Ts)を求める。
(2)その露光時間Tsから、一巻きの帯状ワークのすべてが露光されるおおよその露光処理時間(総露光時間)Taを以下の式(c)により計算する。計算式は(照度の変化はないとして)次の通りである。
Ta=(Ts+Th)×N・・・・・(c)
ここで、Ta:トータルの露光処理時間
Th:露光領域間のワークの送り時間やマスクとワークの位置合せ時間などの合計
N:露光領域数
(3)ワークWにレジスト塗布後、総露光処理時間Ta放置して露光実験を行い、上記(1)における実験と同じ照度で、所望の露光精度が得られる露光量(照度×露光時間Te)を求める。Tsは最初の露光領域の露光時間、Teは最後の露光領域の露光時間である。
(4)露光1回あたりの露光時間の減少量(n回目の露光時間とn+1回目の露光時間の差)Δtを前記式(a)で求める。すなわち、最初の露光領域の露光時Ts間から最後の露光領域の露光時間Teを引いて、露光領域数Nから1を引いたもので割ればよい。
Δt=(Ts−Te)/(N−1)・・・・・・(a)
【0023】
(5)最後の露光領域の露光時間Teから見て、1回前の露光時間は1×Δtだけ長いことになり、また、最初の露光領域の露光時間Tsは、最後の露光領域の露光時間Tbから見て(N−1)×Δtだけ長いことになる。したがって、n回目の露光領域の露光時間Tnは以下の式(b)式で表される。
Tn=(N−n)×Δt+Te・・・・・・(b)
なお、1回の露光ごとにΔtの露光時間が減って行くのであるから、式(c)で求めた総露光時間Taよりも実際の総露光時間は短くなる。しかし、減少する露光時間は、上記したように0.3秒程度であるので、ここでは計算上は無視する。もちろん、露光時間を短くした場合の総露光時間を計算し直し、再度その時間でのレジストの感度上昇を求め、露光時間の変化量を計算しても良い。
【0024】
上記露光時間Tnの求め方について、具体的な数値例により説明する。ここでは、実際とは異なる分かりやすい数値を使用する。
(1)露光領域数N=5(回)、最初の露光領域の露光時間Ts=20秒、1回の搬送時間Th=2秒であったとする。最後の露光領域の露光時間Te=12秒とする。
(2)式(c)より、総露光時間Ta=(Ts+Th)×N=(20秒+2秒)×5=110秒
(3)上記より、レジスト塗布後110秒後の最適な露光時間Teを求める。Teが12秒であったとする。
式(a)より、露光1回あたりの露光時間の減少量Δt=(Ts−Te)/(N−1)=(20秒−12秒)/(5−1)=2秒
(4)登録部21から制御部20の記憶部20cに、露光領域数N=5、最後の露光領域の露光時間Te=12秒、露光1回あたりの露光時間の減少量Δt=2秒(または、最初の露光領域の露光時間Ts=20秒)を入力し、記憶させる。
【0025】
(5)式(b)に基づいて、各回数目の露光時間を求める。
1回目(最初)の露光領域の露光時間T1=(N−n)×Δt+Te=(5−1)×2秒+12秒=20秒(=Ts)
2回目の露光領域の露光時間T2=(N−n)×Δt+Te=(5−2)×2秒+12秒=18秒
3回目の露光領域の露光時間T3=(N−n)×Δt+Te=(5−3)×2秒+12秒=16秒
4回目の露光領域の露光時間T4=(N−n)×Δt+Te=(5−4)×2秒+12秒=14秒
5回目(最後)の露光領域の露光時間T5=(N−n)×Δt+Te=(5−5)×2秒+12秒=12秒(=Te)
上記を表にすると以下の通りである。
制御部20は、n回目の露光領域に対して、上記計算によって得られた露光時間Tnになるように、光照射部のシャッタ機構6を駆動制御する。
【0026】
【表1】

【0027】
なお、上記説明では、露光時間設定部20aで式(b)の演算を行なっているが、例えば、登録部から最初の露光領域の露光時間Ts、最後の露光領域の露光時間Te、露光領域数Nを入力し、露光時間設定部20aで前記(a)(b)の演算を行なってTnを求めるようにしてもよい。
また、前記したように、塗布した直後の露光時間Tsを用いて、以下の式で露光時間を計算するようにしてもよい。
Tn=Ts−(n−1)×Δt
また、上記では、塗布してからの時間が経過するとレジストの感度が徐々に向上する場合について説明したが、塗布してから時間が経過すると、徐々に感度が低下するレジストの場合は、上記実施例と同様に考えて、以下の式に基づいて露光時間を制御すればよい。
Tn=(n−1)×Δt+Ts
ここで、
Tn:n回目の露光領域の露光時間
Δt:露光1回あたりの露光時間の増加量
Ts:最初の露光領域の露光時間
【0028】
なお、上記実施例では、露光回数をカウントして露光回数に対する露光時間を求めているが、露光時間をカウントする代わりに、露光を開始してから(あるいは、レジスト塗布してから)の経過時間を求め、経過時間に応じた露光時間を演算して、露光量を制御するようにしてよい。
【0029】
ところで、前記したように露光量は照度と露光時間との積なので、露光時間だけでなく照度の大小でも制御することができる。照度の制御を行う場合は、光路に減光フィルタを挿入したり、ランプに供給する電力を変化させたりすることにより行う。しかし、次のような理由により、照度により露光量の制御を行うことは不利であり、露光時間で制御を行うことの方が有利である。
(1)減光フィルタを使用する場合は、光照射部に新たに、透過する光量が連続的に変えられる減光フィルタを設けなければならない。部品点数が増え装置のコストアップにつながる。
(2)放電ランプの場合、電力を変えることにより微妙な照度調整を行うことが難しい。
(3)露光時間の制御は、シャッタの開閉時間のみを変えることで可能である。制御が容易であり、部品点数を増やす必要もない。また、徐々に露光時間が少なくなるので、全体の処理時間の短縮化も図ることができる。
【0030】
上記の実施例においては、1回の露光ごとに露光時間を変化させている。しかし、露光量が許容される範囲であれば、複数の露光領域ごとに、段階的に露光時間を短くしても良い。例えば、上記したように、2000の露光領域に対して、露光時間が2秒から1.7秒に減少する場合であれば、1番目から500番目の露光領域は露光時間を2秒、501番目から1000番目までは1.9秒、1001番目から1500番目までは1.8秒、1501番目から2000番目までは1.7秒というように、露光時間を段階的に短くするようにしてもよい。
図4に、塗布してからの時間が経過するとレジストの感度が徐々に向上する場合の露光量の変化パターンの例を示す。同図(a)は時間に比例させてリニアに露光量を減少させる場合を示し、同図(b)は露光量を時間に比例させて、上記のように段階的に減少させる場合を示す。また、(c)は露光量を段階的にかつ、非線形に減少させる場合を示す。上記変化パターンは、使用するレジストの特性等に合わせて適宜選択することができる。
【0031】
図5は、制御部20の他の構成例を示す図である。同図は露光時間を計算で求める代わりに、予め作成したテーブルから露光時間を読み出すようにした場合の構成例を示す。
この構成例は、図4(b)(c)に示したように露光量を段階的に変化させる場合や、レジストの感度特性が時間に対して非線形に変化する場合等に適用するのに好適である。
同図において、20aは露光時間を設定するための露光時間設定部、20bは、光照射部4のランプ4aの点灯消灯、シャッタ機構5の動作、帯状ワークWの搬送、マスクMとワークWの位置合せ等の露光装置全体の動作を制御する露光制御部、20cは登録部21から登録された各種パラメータを記憶する記憶部である。
露光時間設定部20aは、前記した露光回数カウント部201と、記憶部20cに記憶された露光時間テーブル204から露光時間を読み出すテーブル参照部203を備える。
露光時間テーブル204は同図Aに示すように露光回数に対する露光時間を登録したテーブルである。該テーブル204に登録される露光時間は、使用するレジストの感度特性、露光領域数等に応じて設定され、前記した実験等により求めたデータに基づき予め作成し、記憶部20cに登録しておく。
【0032】
露光制御部20bは、前記したように露光装置全体の制御をおこない、ワークWの一つの露光領域の露光が完了する毎に露光完了信号を、露光時間設定部20aの露光回数カウント部201に送出する。
露光時間設定部20aの露光回数カウント部201は、前記したように各露光領域の処理が終わる毎に露光制御部20bから送られてくる露光完了信号によりカウントアップし、そのカウント値は、現在露光中の帯状ワークの露光回数nを示す。
テーブル参照部203は、上記露光回数カウント部201から露光回数nが送られてくると、上記露光時間テーブル204からこの露光回数nに対応した露光時間を読み出し、露光制御部20bに送る。
露光制御部20bは、前述したように露光時間設定部20aから送られてきた上記露光時間Tnの間、シャッタ板6aを開状態にして、露光光をマスクMを介してレジストが塗布されたワークWに照射し、マスクMに形成されたマスクパターンをワークW上に露光する。その他の動作は前記図1、図2で説明したのと同様である。
【0033】
なお、上記では露光時間テーブルに露光回数に対する露光時間を記憶させていたが、露光時間テーブルに、レジスト塗布してからの経過時間に対する露光時間を登録しておき、露光回数をカウントする代わりに、露光を開始してから(あるいは、レジスト塗布してから)の経過時間を求め、経過時間に応じた露光時間を読み出して露光量を制御するようにしてよい。なお、露光回数から露光を開始してからの経過時間を求めて、経過時間に応じた露光時間を読み出すようにしてもよい。
また、記憶部20cに、異なるレジストの感度特性に応じた複数のテーブルを記憶させ、使用するレジストの感度特性に応じたテーブルを使用して、露光時間を設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 巻き出しロール
2 巻取りロール
3 露光部
4 光照射部
4a ランプ
4b 集光鏡
5 投影レンズ
6 シャッタ機構
6a シャッタ板
6b シャッタ板駆動機構
10 ワークステージ
20 制御部
20a 露光時間設定部
20b 露光制御部
20c 記憶部
201 露光回数カウント部
202 露光時間演算部
204 露光時間テーブル
203 テーブル参照部
21 登録部
M マスク
W 帯状ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状ワークに形成された複数の露光領域に対してマスクを介して露光光を照射し、マスクに形成されたパターンをワーク上に露光する露光方法において、
一巻の帯状ワークの各露光領域を順次露光するに際し、該帯状ワークに塗布したレジストの経時的な感度変化に合わせて、露光時間を変化させる
ことを特徴とする露光方法。
【請求項2】
一つの露光領域を露光する時間と、レジスト感度の経時的な感度変化特性から露光1回あたりの露光時間の減少量もしくは増加量Δtを求めておき、この減少量もしくは増加量Δtと露光開始してからの経過時間に基づき、各露光領域の露光時間を定める
ことを特徴とする請求項1に記載の露光方法。
【請求項3】
露光光を放射する光源と、該光源からの光の光路にシャッタを挿入退避するシャッタ機構とを供えた光照射部と、
パターンが形成されたマスクを支持するマスクステージと、
パターンが露光される帯状のワークを保持するワークステージと、
帯状ワークの各露光領域の露光を制御する制御部を備えた帯状ワークの露光装置であって、
上記制御部は、露光回数をカウントするカウント部と、各露光領域の露光時間を設定する露光時間設定部とを備え、
該露光時間設定部は、上記カウント部のカウント値に基づき、各露光領域の露光時間を求め、
上記制御部は、上記露光時間設定部により求められた露光時間に応じて、上記シャッタ駆動機構を制御して、シャッタの挿入退避時間を制御する
ことを特徴とする帯状ワークの露光装置
【請求項4】
上記露光時間設定部は、一つの露光領域を露光する時間と、レジスト感度の経時的な感度変化特性から求められた露光1回あたりの露光時間の減少量もしくは増加量Δtと、各露光領域を露光するに要する時間と、上記露光回数をカウントするカウント部におけるカウント値nと、予め設定される露光領域数Nとに基づき、各露光領域の露光時間を求める
ことを特徴とする請求項3に記載の帯状ワークの露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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