説明

露光装置及び露光用光学装置

【課題】コヒーレント光を光源とした場合、被露光体上に発生する露光ムラを抑制することのできる露光装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る露光装置は、入射する光を拡散させる拡散板と、拡散板をコヒーレント光で経時的に重ねて照明するとともに、拡散板の各点への入射角度を経時的に変化させて照明する照明系と、パターン形成領域を有する光変調器と、拡散板から出射されるコヒーレント光をパターン形成領域に集光する集光光学系と、光変調器で変調されたコヒーレント光を被露光体の表面に結像させる結像光学系と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光などのコヒーレント光を感光媒体の表面に導光する露光装置及び露光用光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置、例えば半導体素子などの回路パターンの形成に用いられるフォトリソグラフィでは、レチクル(マスク)パターンを半導体ウエハ等の基板上に転写する手法を採用している。この手法では、基板上に感光性のフォトレジストを塗布しておき、このフォトレジストの上にレクチルを配置して、このレクチルの上方に高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を配置してレクチルを照射する。これにより、フォトレジスト上には、レチクルパターンに応じた照射光像が形成される。
【0003】
一般に、投影露光装置では、レチクル上に描画された転写対象のパターンを、投影光学系を介して被露光体としての基板上に投影して結像させる。しかしながら、高圧水銀ランプ等の高輝度放電ランプは、寿命が比較的短く、頻繁にランプ交換を行う必要がある。さらには、環境負荷の観点から水銀を使用する高圧水銀ランプの仕様は好ましいものとはいえない。また、複数波長を含む上に発散光源であるため、集光や整形、結像のために比較的大型かつ高機能な光学系を用意する必要があり、装置全体が大型化するという難点がある。
【0004】
このような問題に対処するため、レーザーなどのコヒーレント光源を用いる方式も提案されている。例えば、産業上で広く利用されている半導体レーザーは、高圧水銀ランプなどの高輝度放電ランプに比べて極めて長寿命である。また、単一波長の直進性が高い光を生成可能な光源であるため、光学系を小型かつ単純にすることが可能である上に、装置全体を小型化でき、光利用効率の向上が図られるという利点も有する。
【0005】
その一方で、レーザー光などのコヒーレント光源を用いる方式には、スペックルの発生が問題となってくる。スペックル(Speckle)は、レーザー光などのコヒーレント光を散乱面に照射したときに現れる斑点状のノイズであり、映像を投射するプロジェクタなどで発生した場合には、スクリーン上に発生する輝度ムラ(明るさのムラ)として観察され、投射する映像を劣化させるとともに、観察者に対して生理的な悪影響を及ぼす要因となっている。コヒーレント光を用いた場合にスペックルが発生する理由は、スクリーンなどの散乱反射面で反射したコヒーレント光が、その極めて高い干渉性ゆえに、互いに干渉し合うことを原因としている。
【0006】
このようなコヒーレント光を露光装置に使用した場合、コヒーレント光を原因として発生するスペックルが、基板上に部分的な照射ムラを発生させることとなり、フォトレジスト像の欠損を生じさせ、それにより形成する回路の欠損を生じさせるなどの問題が発生する。
【0007】
このスペックルノイズを低減するため、レーザー光が通過する拡散板を振動させる、レーザースペクトルの波長スペクトルを拡大する、レーザー光の照射対象となるスクリーン自体を振動させるなど、各種試みが行われている。このようなスペックルノイズ低減の試みとして、特許文献1には、コヒーレント光が通過する拡散素子を回転運動させることで、スペックルノイズの低減を図る無スペックル・ディスプレイ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−208089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されるスペックル低減方法では、拡散素子到達前に生じていたスペックルノイズ(干渉パターン)は平均化できるものの、拡散中心からスクリーンへの入射光線角度はスクリーン上のいずれの点においても不変であるため、スクリーン各点の光散乱特性も一定となり、結果としてスクリーン上で発生するスペックルノイズの除去効果は殆ど得られないという問題があった。
【0010】
特許文献1に記載されるスペックル低減方法を、コヒーレント光を利用する露光装置に対しても適用することが可能であるが、このスクリーンと同様に、被露光体としての基板上に発生するスペックルを効果的に除去することはできない。
【0011】
本発明は、コヒーレント光を光源とした場合に生ずるスペックルの抑制を図り、被露光体としての基板上をムラ無く照明する露光装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するため、本発明に係る露光装置は、
入射する光を拡散させる拡散板と、
前記拡散板をコヒーレント光で経時的に重ねて照明するとともに、前記拡散板の各点への入射角度を経時的に変化させて照明する照明系と、
パターン形成領域を有する光変調器と、
前記拡散板から出射されるコヒーレント光を前記パターン形成領域に集光する集光光学系と、
前記光変調器で変調されたコヒーレント光を被露光体の表面に結像させる結像光学系と、を備えることを特徴とする。
【0013】
さらに本発明に係る露光装置において、
前記照明系は、
コヒーレント光を出射する光源と、
前記光源から出射されたコヒーレント光を走査する光走査部と、
前記光走査部で走査された走査光を拡散させ、各点から出射される拡散光が前記拡散板を経時的に重ねてコヒーレント光で照明するとともに、前記拡散板の各点への入射角度を経時的に変化させて照明する光拡散素子と、を備えることを特徴とする。
【0014】
さらに本発明に係る露光装置において、
前記光拡散素子は、ホログラムであることを特徴とする。
【0015】
さらに本発明に係る露光装置において、
前記光拡散素子は、レンズアレイであることを特徴とする。
【0016】
さらに本発明に係る露光装置において、
前記照明系は、
コヒーレント光を出射する光源と、
前記光源から出射されたコヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系
と、を備えることを特徴とする。
【0017】
さらに本発明に係る露光装置において、
前記光変調器は、透過型または反射型のフォトマスクであることを特徴とする。
【0018】
さらに本発明に係る露光装置において、
前記光変調器は、入力される映像信号に基づいて像を形成する透過型または反射型の表示素子であることを特徴とする。
【0019】
さらに本発明に係る露光装置は、
前記拡散板近傍に配設される第1の絞りと
前記結像光学系に配設される第2の絞りを有し、
前記第1の絞りと前記第2の絞りは共役とされていることを特徴とする。
【0020】
また本発明に係る露光用光学装置は、
光源から出射されたコヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の露光装置によれば、光変調器を照明する拡散板をコヒーレント光で経時的に重ねて照明するとともに、拡散板の各点への入射角度を経時的に変化させて照明することで、被露光体上で発生するスペックルを効果的に抑制し照明ムラを抑えた露光を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る露光装置の構成を示す図
【図2】本発明の実施形態に係る照明系の構成を示す図
【図3】本発明の実施形態に係る照明系で使用するホログラム作成の様子を示す図
【図4】本発明の実施形態に係る光走査の様子を示す図
【図5】本発明の他の実施形態に係る光走査の様子を示す図
【図6】本発明の他の実施形態に係る照明系の構成を示す図
【図7】他の実施形態に係る照明系で使用するホログラム作成の様子を示す図
【図8】本発明の実施形態に係る他の照明系の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
では、本発明の実施形態に係る露光装置について図面を参照しつつ説明を行う。図1は、本発明の実施形態に係る露光装置の構成を示す図である。なお、以下に説明する図面は、模式的に示した図であって、実際の形状、寸法、配置とは異なる場合もある。
【0024】
本実施形態の露光装置10は、照明系20、拡散板31、第1の絞り32、集光光学系33、光変調器34、結像光学系35を備えて構成されるものであって、光変調器34に形成される像を被露光体36上に露光させる。なお、図では、被露光体36の面をX−Y平面、それに直交する軸をZ軸としている。
【0025】
照明系20は、被照明領域としての拡散板31を照明する光学系であって、経時的に方向が変化して出射する照明光Lbにて、拡散板31の有効領域に対する入射角度を変化させつつ拡散板31を照明する。その際、照明光Lbが経時的に方向を変化させることで、
各時において出射される照明光Lbが経時的に重ねられて拡散板31の有効領域全体を照明することが必要とされるが、好ましくは、照明光Lbが、照明光Lbの出射方向によらず、常に拡散板31の有効領域、すなわち、被露光体36に対して像を形成するのに必要な拡散板31内の領域の全体を照明することとする。このようにすることで、形成する像の輝度の均一化を図ることが可能となる。照明系20の詳細な構成には、各種形態を採用することが可能であって、後で詳細に説明を行う。
【0026】
拡散板31は、入射する光を拡散させる光学素子であって、例えば、ガラスの片面をすりガラス状(不透明)に加工したものや、オパールガラス、ランダム位相拡散板が用いられる。この他、拡散板31としてホログラムや、マイクロレンズアレイなどを利用することとしてもよい。本実施形態では、このような拡散板31を設けることで、光変調器34には、拡散板31で拡散されたコヒーレント光が入射されることとなり、光変調器34やその他の光学部品で発生するスペックルを目立たなくすることが可能となる。
【0027】
集光光学系33は、拡散板31から出射されるコヒーレント光を光変調器34のパターン形成領域に集光させる光学素子である。本実施形態では、このように拡散板31から出射されるコヒーレント光をパターン形成領域に集光させることで、光利用効率の向上が図られている。また、集光光学系33は、拡散板31の近傍に配設された第1の絞り32と、結像光学系35に配設される第2の絞り35bとを共役にしており、光変調器のすべての位置における結像特性を均一化している。なお、第1の絞り32は、拡散板31もしくはその有効領域の縁により形成してもよい。
【0028】
光変調器34は、例えば、透過型または反射型のレチクル(フォトマスク)である。この場合、レチクルパターンに応じた光像が被露光体36の表面に形成され、半導体素子を作製するための露光装置として用いることができる。この光変調器34は、フォトマスクに代えて、入力される映像信号に基づいて像を形成する液晶マイクロディスプレイなどの表示素子としてもよい。この場合においても表示素子には、透過型、反射型のどちらであってもよい。拡散板31によって照明される光変調器34が、画素毎にコヒーレント光を選択して透過あるいは反射させることで、微細なパターンからなる変調画像(光像)を被露光体36上に形成できる。
【0029】
被露光体36は、例えばレジストパターンを形成するための半導体ウエハである。特に、被露光体36の種類に制限はなく、感光剤を塗布したフィルムであってもよい。
【0030】
結像光学系35は、光変調器34に形成された像を被露光体36上に結像させ、露光させる光学素子であって、本実施形態では、凸レンズ35a、35bの組とその間に配置された第2の絞り35bにて構成されている。なお、前述したように、第2の絞り35bは、拡散板31の近傍に配設される第1の絞り32と共役とされている。
【0031】
以上、本発明の実施形態に係る露光装置の構成について説明したが、本実施形態ではこのような構成を採用することで、光変調器34に形成される像について、被露光体36に露光させる像のスペックルを抑制することで精度向上が図られることとしている。
【0032】
では、この露光装置10において、スペックル抑制の原理などを説明する。図1に示されるように、照明系20から出射される照明光Lb(t1)は、拡散板31領域の少なくとも一部の領域を照明する。時刻t2のときの照明光Lb(t2)も同様に、拡散板31の少なくとも一部の領域を照明する。この図に示されるように照明系20は、入射角度を時間的に変化させつつ拡散板31の有効領域全体を照明することとなる。拡散板31の有効領域は、照明系20から出射される照明光Lbの方向によらず、常に照明される領域に設定されることが輝度の均一化を図る上で好ましい。
【0033】
拡散板31からの出射光は、集光光学系33を介して光変調器34を照明する。このとき集光光学系33は、光変調器34のパターン形成領域全体を照明することとしている。また、拡散板31に入射する照明光Lbは、経時的に入射角度を変化させて入射するため、拡散板31から出射される拡散光も経時的に角度を変化させつつ光変調器34を照明することとなる。したがって光変調器34のパターン形成領域で発生するスペックルは、被露光体36に対する照明時間である露光時間の期間に重ねられ平均化されることとなり、結果として、被露光体36上に発生する照射ムラを抑え、光変調器34に形成されている像を被露光体36上に精度よく露光させることが可能となる。
【0034】
では、本実施形態において、入射角度を時間的に変化させつつ拡散板31を照明する照明系20について説明する。本実施形態では、拡散板31を照明する照明光Lbとして、光拡散素子から出射される拡散光を用いることとしている。
【0035】
図2は、本発明の実施形態に係る照明系20の構成を示す図である。本実施形態の照明系20は、光源11、光走査部15、光拡散素子21(ホログラム)を有して構成されている。なお、照明系20において光源11を除いた他の構成にて、本発明でいう露光用光学装置が構成される。
【0036】
光源11は、コヒーレント光としてのレーザー光を出射する半導体レーザー装置など各種レーザー装置が使用される。光源11から出射されたコヒーレント光は、光走査部15を照明する。
【0037】
光走査部15は、回動中心Raを中心として反射面を回動させることのできるミラーデバイスであって、ポリゴンミラー、ガルバノスキャナ、MEMSスキャナのような可動ミラーを機械的に回動させるミラーデバイスが用いられる。この他、音響光学効果スキャナのような屈折率を変調させるものなど各種形態を採用することができる。露光装置10における1回の露光時間において、この光走査部15は、少なくとも1周期以上、光拡散素子21上を光走査することが好ましい。
【0038】
光源11から出射されたコヒーレント光は、光走査部15の反射面に入射されることとなるが、このとき、コヒーレント光を、光走査部15が回動運動する場合において位置変動が少ない反射面上の1点(以下、「基準点」とも言う)に入射させることが好ましい。このような基準点にコヒーレント光を入射させることで、光拡散素子21にホログラムを使用する場合には、ホログラム作成時に使用した参照光の集光位置を、光走査部15の基準点に設定することが可能となり、記録されているホログラム再生像を確実に得ることが可能となる。
【0039】
ここで光拡散部15による走査光Laにて走査される光拡散素子21について説明する。光拡散素子21は、走査光Laが入射されることで被照明領域、すなわち、拡散板31の有効領域全体を照明する光学素子であって、本実施形態では透過型ホログラムが用いられている。光拡散素子21としてホログラムを採用したことで、走査光Laの入射位置に因らず、常に同一の再生像を得ることが可能となり、被照明領域となる拡散板31の有効領域全体をムラ無く照明することができる。また、ホログラムに入射させる走査光Laのビーム断面形状、あるいは、その入射角度などに自由度を持たせることができ、装置のレイアウトなどを自在なものとすることができる。
【0040】
なお、光拡散素子21には、このようなホログラムに限ることなく、各点から出射される拡散光が拡散板31を照明できる光学素子であればよく、各点から出射される拡散光が拡散板31全体を照明することが好ましい。例えば、微細なレンズがアレイ状に配列され
て構成されたレンズアレイ、あるいは、オパールガラス、すりガラス、樹脂拡散板など、いわゆる通常の拡散板を用いてもよい。なお、本発明における光拡散素子における「拡散」とは、入射光を所定の方向に角度的に拡げて出射することを指し、回折光学素子やレンズアレイ等によう拡散角が十分に制御された場合のみならず、オパールガラス等の散乱粒子により出射角を拡げる場合も含まれるものとする。
【0041】
本実施形態で使用する光拡散素子21としての透過型ホログラムは、記録された再生像として拡散板像22iを再生する。光源11から出射されたコヒーレント光は、回動する光走査部15で反射され、走査光Laとなり光拡散素子21の入射面上を往復して走査する。図にはある時刻t1、t2についての走査光La(t1)、La(t2)の様子が示されている。本実施形態の光拡散素子21は、所定の入射角を有する光(再生照明光)に対して、再生像を形成する透過型ホログラムが用いられている。光走査部15にて走査される走査光Laは、何れの走査位置においても、この透過型ホログラムに対する再生照明光となるように設定されている。なお、本実施形態で使用する透過型ホログラムの作成については後で説明する。
【0042】
図2に示されるように、時刻t1のときの走査光La(t1)は、光拡散素子21にて再生光としての照明光Lb(t1)を出射し拡散板像22iを形成する。また、時刻t2のときの走査光La(t2)は、光拡散素子21にて照明光Lb(t2)を出射し、同じ拡散板像22iを形成する。このように走査光Laが走査されることで、光拡散素子21の何れの入射位置を照射するときにも拡散板像22iが重なるように形成される。この拡散板像22iが拡散板31の有効領域全体を含むように位置させることで、何れの走査位置においても有効領域全体を均一に照明することが可能となる。
【0043】
図3は、本発明の実施形態に係る照明系20で使用される透過型ホログラムを記録(作成)する際の構成(干渉露光)を示す図である。拡散板22の背面側からレーザー光を照射し、前方に拡散した物体光Obをホログラム記録材料24の一方の面から入射させる。その際、拡散板22の各点からの拡散光(物体光Ob)は、ホログラム記録材料24の少なくとも使用領域全面を照明するよう拡散させる。
【0044】
そして、ホログラム記録材料24の同じ面から、集光光学系23にて集光した参照光Rが照射される。集光光学系23の焦点位置Aは、使用時の光走査部15による基準点と一致するように配置されている。物体光Obと参照光Rを同時に入射させ、ホログラム記録材料24中で干渉させる。なお、物体光Obと参照光とは干渉性を有する必要がある。そのため、同一の光源から発振されたレーザー光を分割して一方を物体光Ob、他方を参照光Rとして使用することなどが考えられる。
【0045】
ホログラム記録材料24は所定の現像処理を経て面上の各点において、同じ位置に拡散板像を再生する透過型ホログラム21が作成される。また、記録時に用いられる物体光Obの照射には、オパールガラスやすりガラスといった拡散板22のみならず、レンズアレイなど、各点からの拡散光が使用領域全面を照明できる光学素子(光拡散素子21と峻別できるよう「第2の光拡散素子」と呼ぶ)を用いることとしてもよい。なお、本実施形態では、物体光Obと参照光Rとを干渉させることで干渉縞の記録(干渉露光)を行うこととしたが、計算機にて計算された干渉縞を直接、ホログラム記録材料21に記録する、いわゆる計算機合成ホログラムを採用するものであってもよい。
【0046】
図2の光拡散素子21で再生される拡散板像22iは、図1において拡散板31の有効領域全体を照明するように位置される。図4には、1次元的に走査を行う光走査部15の実施形態が示されている。この形態では、光源部11から出射されたコヒーレント光は、1軸方向に共振振動する光走査部15の反射面上で反射し、光拡散素子21上をライン上
に往復して走査する。光拡散素子21としてホログラムを用いた場合には、何れの走査位置においても拡散板像22iが形成される。このような実施形態では、走査領域がライン状で済むため、光拡散素子21を小型化することができる。ライン状の走査で十分に被照明領域を得るためには、ホログラムを用いることが好ましい。
【0047】
図5には、2次元的に走査を行う光走査部15の実施形態が示されている。この形態では、光源部11からのコヒーレント光は、2軸方向で共振振動する光走査部15の反射面上で反射し、光拡散素子21上を2次元的に走査する。この実施形態においても光拡散素子21からの拡散光は、被照明領域全体を十分に照明するものとなっており、特にホログラムを用いた場合には、被照明領域に合わせた形状の拡散板像22iを形成することが可能であり、光の利用効率が高められる。このような実施形態は、オパールガラスのような通常の拡散板を用いた場合に有効である。各点からの拡散光の照度分布が一定でない場合であっても照度の平均化を図り、被照明領域全体を均一に照明することが可能となる。
【0048】
図2の実施形態では、透過型の光拡散素子21を使用したが、光拡散素子21としては反射型のものを用いることとしてもよい。図6、図7は、光拡散素子21として反射型ホログラムを使用したときの実施形態であって、各図は、それぞれ図2、図3の透過型のものと対応した図となっている。
【0049】
図6は、照明系20の構成を示す図であって、光拡散素子21として反射型ホログラムを使用した実施形態となっている。前述の実施形態と同様、光走査部15からの走査光Laは、光拡散素子21の入射面を時間的に位置を変えつつ走査を行う。反射型ホログラムでこの入射面が、反射面としても機能し、反射された再生像は、前実施形態と同様、拡散板31の有効領域全体を照明する。光拡散素子21の何れの点を走査した場合にも、各点から出射される拡散光は、拡散板31の有効領域を照明することで、有効領域に対する入射角度を時間的に異ならせることが可能となる。したがって、前実施形態と同様、スクリーン41上で発生するスペックル、並びに、露光装置10の各種光学素子で発生するスペックルを十分に目立たなくすることができる。
【0050】
図7は、本実施形態で使用する反射型ホログラムを作成する際の構成(干渉露光)を示した図である。拡散板22の背面側からレーザー光を照射し、前方に拡散した物体光Obをホログラム記録材料24の一方の面から入射させる。その際、拡散板22からの各点からの拡散光(物体光Ob)は、ホログラム記録材料24の少なくとも使用領域全面を照明するよう拡散させる。
【0051】
そして、ホログラム記録材料24の他の面から、集光光学系23にて集光した参照光Rが照射される。集光光学系23の焦点位置Aは、使用時の光走査部15による基準点と一致するように配置されている。物体光Obと参照光Rを同時に入射させ、ホログラム記録材料24中で干渉させる。
【0052】
ホログラム記録材料24は所定の現像処理を経て面上の各点において、同じ位置に拡散板像を再生する反射型ホログラム21が作成される。なお、前実施形態と同様、物体光Obの照射には、オパールガラスやすりガラスといった拡散板22だけでなく、レンズアレイなど、各点からの拡散光が使用領域全面を照明できる光学素子(第2の光拡散素子)であればよい。また、この反射型ホログラムについても計算機合成ホログラムを使用することとしてもよい。
【0053】
以上説明した光学系20は、出射する照明光Lbとして、ホログラムなどの光拡散素子21の各点から出射される拡散光を用いることとしていた。光学系20には、このように光拡散素子21から出射される拡散光を用いる以外に、下記のような実施形態を採用する
こともできる。
【0054】
図8は、本発明の他の実施形態に係る照明系20の構成を示す図である。本実施形態の照明系20は、光源11、光走査部15、第1光路変換系25、レンズアレイ26、第2光路変換系27を有して構成されている。なお、この実施形態においても、照明系20において光源11を除いた他の構成にて、本発明でいう露光用光学装置が構成される。その際、第1光路変換系25については必須の構成ではない。
【0055】
光源11、光走査部15などの構成の詳細は、前述の実施形態と同様であるため、ここではその説明を省略する。なお、光源11から出射されるコヒーレント光に対して、その断面方向の強度分布の均一化を図るビーム成型手段を設けておくことが好ましい。設計例として、光走査部15の近傍の面で均一化されるようにビーム成型手段を設けるとともに、その面と一次元光変調素子面を共役に設定することにより、被照明領域を均一な強度で照明することが可能となる。
【0056】
本実施形態の光走査部15は、Y軸方向に回動中心Raを有し、コヒーレント光をX−Z面内で走査する1次元的走査を行うこととしている。この場合においてもレンズアレイ26の入射面を走査し、結果として被照明領域を十分に照明できることが必要とされる。
【0057】
光源11から入射するコヒーレント光は、この光走査部15にて時間的に方向が変化する走査光Laとなり、第1光路変換系25を経て、レンズアレイ26に入射する。図では、最外端付近の走査光La(t1)とLa(t2)の様子が示されているが、実際には、走査光Laは、このLa(t1)とLa(t2)の間を連続的に移動することとなる。
【0058】
第1光路変換系25は、走査部15からの走査光Laがレンズアレイ26の入射面に対して略垂直に入射するように変換する光学素子であって、集光機能を有する凸レンズなどを用いて構成される。このように変換された走査光La’を、レンズアレイ26を構成する各要素レンズに対して垂直に入射させることで、各要素レンズに対して同じ条件で走査光La’を入射させることとなる。そのためレンズアレイ26の各要素レンズの設計を等しくするなど、設計上の負担を削減することが可能となる。なお、この第1光路変換系25は、必ずしも設ける必要はなく、レンズアレイ26を構成する要素レンズやそれ以降の光学系を入射光の状態に応じて変更することなどにて対応することが可能である。
【0059】
レンズアレイ26は、複数の要素レンズが、光走査部15による光の走査位置(X−Y面上)に配列された光学素子であって、各要素レンズに入射する走査光La’を発散光Lb’に変換する。レンズアレイ26を構成する要素レンズの大きさ、形状は、必要に応じて適宜に設定することが可能であって、例えば、要素レンズの形状としてシリンドリカルレンズを用いたシリンドリカルレンズアレイを用いることや、極小さい大きさの要素レンズで構成されたマイクロレンズアレイを用いることとしてもよい。
【0060】
さらに本実施形態では、各要素レンズが光軸方向(Z軸方向)に複数段(2段)配列された構成を取っている。光源11から出射されるコヒーレント光は、必ずしも平行光として出射されるとは限らず、平行な状態から幾分かずれた散乱成分を含む場合がある。本実施形態では、要素レンズを光軸方向に複数段配置することで、この散乱成分の抑制が図られる。光軸方向に配列される要素レンズは、同等の径を有するとともにその中心軸が光の進行方向に揃えられて配列される。なお、レンズアレイ26は、各要素レンズが光軸方向に1段で構成された形態のものを使用してもよい。
【0061】
第2光路変換系27(本発明における「光路変換系」)は、レンズアレイ26から出射される照明光Lbにて、被照明領域としての拡散板31を照明する光学素子である。光走
査部15によって光走査されたレンズアレイ26の各点から出射される照明光Lbは、この第2光路変換系27を経て、経時的に重なるように被照明領域を照明光Lbで照明する。この第2光路変換系27は、レンズアレイ26から出射される発散光Lb’が、被照明領域としての拡散板31の有効領域を照明する集光機能を有することが好ましい。レンズアレイ26にて発散された発散光Lb’の発散角度を抑え、拡散板31の有効領域に集光させることで、光の利用効率の向上が図られる。さらに、第2光路変換系27は、発散光Lb’が平行光あるいは略平行光となるように変換することが好ましい。平行光あるいは略並行光として拡散板31の有効領域を照明することで、有効領域の各位置について略同条件にて照明することが可能となり、例えば、有効領域全体を均一に照明することが可能となる。
【0062】
なお、第2光路変換系27としては、発散角度を抑える機能を有すればよく、レンズや凹面鏡、ミラーやプリズムの組み合わせなどが用いられる。同等の機能を有するホログラム素子や回折素子などで実現してもよい。また、これらの組み合わせにより実現してもよい。
【0063】
また、第2光路変換系27から出射される照明光Lbは、各時点において、拡散板31の有効領域の少なくとも一部を照明し、光走査部15の走査によって有効領域全体を照明することで足りるものであるが、照明光Lbが各時点において有効領域全体を照明することが好ましい。このような構成によれば、拡散板31の有効領域における輝度分布の均一化を図ることが可能となる。
【0064】
本実施形態のような照明系20を用いた場合においても、拡散板31の有効領域を経時的に重ねてコヒーレント光で照明するとともに、有効領域の各点への入射角度を経時的に変化させて照明することが可能となる。その結果、拡散板31から出射される拡散光は、光変調器34上で平均化されてスペックルの発生が抑えられ、結果として被露光体36に結像される像の照射ムラを解消し、光変調器34に形成される像を精度よく被露光体36に露光させることが可能となる。
【0065】
なお、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。
【符号の説明】
【0066】
10…露光装置
11…光源
15…光走査部
20…照明系
21…光拡散素子
22…拡散板
25…第1光路変換系
26…レンズアレイ
27…第2光路変換系
31…拡散板
32…第1の絞り
33…集光光学系
34…光変調器
35…結像光学系
35a、35c…凸レンズ
35b…第2の絞り
36…被露光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する光を拡散させる拡散板と、
前記拡散板をコヒーレント光で経時的に重ねて照明するとともに、前記拡散板の各点への入射角度を経時的に変化させて照明する照明系と、
パターン形成領域を有する光変調器と、
前記拡散板から出射されるコヒーレント光を前記パターン形成領域に集光する集光光学系と、
前記光変調器で変調されたコヒーレント光を被露光体の表面に結像させる結像光学系と、を備えることを特徴とする
露光装置。
【請求項2】
前記照明系は、
コヒーレント光を出射する光源と、
前記光源から出射されたコヒーレント光を走査する光走査部と、
前記光走査部で走査された走査光を拡散させ、各点から出射される拡散光が前記拡散板を経時的に重ねてコヒーレント光で照明するとともに、前記拡散板の各点への入射角度を経時的に変化させて照明する光拡散素子と、を備えることを特徴とする
請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記光拡散素子は、ホログラムであることを特徴とする
請求項2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記光拡散素子は、レンズアレイであることを特徴とする
請求項2に記載の露光装置。
【請求項5】
前記照明系は、
コヒーレント光を出射する光源と、
前記光源から出射されたコヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備えることを特徴とする
請求項1に記載の露光装置。
【請求項6】
前記光変調器は、透過型または反射型のフォトマスクであることを特徴とする
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の露光装置。
【請求項7】
前記光変調器は、入力される映像信号に基づいて像を形成する透過型または反射型の表示素子であることを特徴とする
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記拡散板近傍に配設される第1の絞りと
前記結像光学系に配設される第2の絞りを有し、
前記第1の絞りと前記第2の絞りは共役とされていることを特徴とする
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の露光装置。
【請求項9】
コヒーレント光を走査する光走査部と、
複数の要素レンズを有し、前記光走査部で走査された光を発散させるレンズアレイと、
前記レンズアレイの各点から出射される発散光の発散角度を抑えるとともに、発散角度
の抑えられた発散光が被照明領域を経時的に重ねて照明するように設定された光路変換系と、を備えることを特徴とする
露光用光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−238657(P2012−238657A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105453(P2011−105453)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】