説明

露光装置用部材

【課題】 金属基複合材料からなり、内部に冷却用溝を具備することを特徴とする露光装置用部材であって、構造が簡略であり十分な冷却効果が可能な露光装置用部材を提供することを目的とする。
【解決手段】 強化材がSiCであり、マトリックスがAl合金であり、該強化材の含有率が30〜80体積%である金属基複合材料からなる露光装置用部材であって、内部に冷却用溝を具備することを特徴とする露光装置用部材。
このような構成によれば、、構造が簡略であり十分な冷却効果が可能な露光装置用部材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィー用の露光装置部材に関するものである。特に、露光装置においてガラス基板などを保持するステージ部材として用いられる露光装置用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
露光装置においては、被転写物体としてのガラス基板に塗布したレジストに対してマスクを対向させ、このマスクに光をあて、マスクのパターンをレジストに転写している。この際、製造工程中のガラス基板の加熱によりガラス基板に残留伸び(ヒステリシス)が生じることがある。また、露光光により加熱されてマスク及びガラス基板の熱膨張が生じることもある。
したがって、露光処理の精度を高めるためには、装置内の温度と雰囲気をきびしく管理する必要がある。このため、従来の露光装置はサーマルクリーンチャンバー内に設けられており、恒温状態に保ちつつ所定のクリーン度を実現する構成になっている。サーマルクリーンチャンバー内には、チャンバー内部の温度を制御するための温度コントローラと、同じくチャンバー内部をクリーンに保つためのクリーンユニットが設けられている。
【0003】
しかしながら、チャンバー内の露光装置本体に露光装置の操作部を設ける場合に、オペレーターがチャンバー内に入り、操作部を操作しなければならない。このため、装置を恒温かつクリーンに保つ上で不都合が生じていた。
【0004】
こうした課題を解決するために、フォトリソグラフィー用の露光装置において、露光装置本体をサーマルクリーンチャンバー内に配置し、マスク及び基板を冷却するための冷却送風手段を露光装置本体に設け、サーマルクリーンチャンバーの外壁に露光装置を制御するための操作部を配置した露光装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−275486号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年露光精度の微細化が進み、さらには露光装置の照明出力が増加する傾向にあり、こうした送風手段のみでは十分な冷却効果が得られず微細化に対応できないという課題がでてきた。
【0006】
したがって、本発明の目的は、金属基複合材料からなり、内部に冷却用溝を具備することを特徴とする露光装置用部材であって、構造が簡略であり十分な冷却効果が可能な露光装置用部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した本発明の目的は、下記する手段により達成される。
(1)強化材がSiCであり、マトリックスがAl合金であり、該強化材の含有率が30〜80体積%である金属基複合材料からなる露光装置用部材であって、内部に冷却用溝を具備することを特徴とする露光装置用部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に詳細に説明するとおり、基板を保持する部材を熱伝導の良い金属基複合材料で作製すること、及びその内部に冷却用の溝を形成することで露光装置の冷却能力が向上し、露光装置の恒温性が向上する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明について更に詳しく説明する。
本発明では、ガラス基板等を保持する露光装置用部材において、金属基複合材料で構成され、内部に冷却用溝を具備したことを特徴とする露光部材を提案している。
金属基複合材料の熱伝導率は例えば強化材がSiC、マトリックスがAl合金の複合材料においては、強化材の含有率にかかわらず150〜170W/m・Kであるが、強化材の含有率を30〜80体積%に変更することによって、熱膨張係数を12.0〜5.0×10-6/℃の任意の値とすることができる。
【0010】
従来の露光装置において空冷機構とした場合、空気の熱伝導率は0.024W/m・℃であるため、冷却効率が低い。また、仮に熱伝導率の高い銅(403W/m・K)やアルミニウム(236W/m・K)を用いた場合、それらの熱膨張係数はそれぞれ16.2×10-6/℃、23.7×10-6/℃と低く、高強度の露光を受け加熱された際に高い寸法精度を保つことができない。またそれぞれのヤング率は110GPa、68.3GPaと低い。さらに熱膨張係数の小さい鋳鉄(9.8×10-6/℃)、炭素鋼(11.7×10-6/℃)、アルミナセラミックス(7.8×10-6/℃)を用いた場合はそれぞれの熱伝導率は47W/m・K、59W/m・K、29W/m・Kと小さいため冷却効率が悪い。
【0011】
そこで、露光装置用部材に金属基複合材料を用いることにより、高放熱性・高剛性化につながり、また寸法変形を抑制できることから、露光装置の照射出力を高出力化することができる。例えば、強化材がSiC、マトリックスがAl合金の金属基複合材料(構成比率SiC70体積%/Al合金30体積%)では、密度3.0g/cm3、ヤング率265GPa、熱伝導率172W/m・K、熱膨張係数6.2×10-6/℃となり、本発明の金属基複合材料が良好な高放熱性・高剛性を有している。
【0012】
このように金属基複合材料を使用すれば、照明出力を高出力化しても熱伝導率が高いため冷却効率がよく、また、熱膨張係数が小さいため、出力の高い照明を受け加熱されても寸法精度が良い状態を保つことができ、さらにヤング率が高いため常温時においても寸法精度が良い状態を保つことができる。
【0013】
また、本発明では、強化材がSiCであり、マトリックスがAl合金であり、該強化材の含有率が30〜80体積%である金属基複合材料からなる露光装置用部材を提案している。
ここでSiC強化材の含有率を30〜80体積%に限定したのは、SiC含有率が30体積%より少ないと、熱膨張係数が14×10-6/℃程度となり高い寸法精度を得るには好ましくないためである。
また、SiC強化材の含有率を80体積%より多くすると緻密な金属基複合材料が得られなくなる。
【0014】
金属基複合材料の製造は、例えば特開2001−329350に述べられている方法で行える。先ず強化材としてSiC粉末を、マトリックス金属としてAl合金を用意する。用意したSiC粉末とAl合金を慣用の方法で複合化する。SiC粉末はAl合金との濡れ性が悪いため複合化が困難である。これまでは高圧鋳造法や粉末冶金法などによって複合化していた。また、これら以外の製造方法として最近、米国のランクサイド社が開発した非加圧金属浸透法がある。
【0015】
この方法は、セラミックス粉末で形成されたプリフォームに、アルミニウム合金を接触させ、窒素雰囲気中で700〜900℃の温度で加熱処理し、溶融したアルミニウム合金をプリフォーム中に浸透させる方法であるが、これは、化学反応を利用して溶融したAl合金のセラミックス粉末への濡れ性を改善し、機械的な加圧を行わなくてもAl合金がプリフォーム中に浸透できるという特徴を持つ。
【0016】
冷却用の溝の形成方法は、プリフォーム成形用の型にあらかじめ溝形状を付与してもよく、また作製したプリフォームに機械加工を施して溝形状を付与しても良く、その後Al合金の浸透を行なうことで、内部に冷却用溝を形成した複合材料を得ることができる。さらにプリフォームの表面に溝を作製し、これと同じものの溝同士を重ね合わせて、あるいは平板を重ね合わせてAl合金の浸透を行うことで内部に冷却用溝を形成した複合材料を得ることができる。
【0017】
また、Al合金を浸透させた後の複合材料に、機械加工を施して溝形状を付与してもよく、また溝形状を付与した複合材料同士あるいは平板を接合して内部に冷却用溝を形成した複合材料を得ることができる。
この複合化方法により複合材料を作製する方法を一例示すと、まず用意したセラミックス粉末でプリフォームを成形する。プリフォームの形成方法としては、公知の方法が用いられ、例えばセラミックス粉末に有機バインダーを添加し、プレスにより形成する方法や、セラミックス粉末に水などの溶媒を加え、フィルタープレスにより形成する方法などが挙げられる。
【0018】
次いで、得られたプリフォームをAl合金と共に窒素雰囲気中で700〜900℃の温度で加熱処理し、溶融したAl合金を非加圧でプリフォーム中に浸透させて接合すべき複数個の複合材料を作製する。この方法で作製することによって安価でかつ容易に複合材料を作製することができるようになる。
【0019】
上記のいずれかの方法で作製した複数個の複合材料の表面を平面研削装置を用いて平面加工し、それに機械加工により溝を設ける。その複合材料の表面部に溝部を除いてペーストなどでMgを0.1〜0.5%含むAl合金を形成しそれを溝が一致するように複合材料同士を重ね合わせる。また、溝は接合すべき複合材料の両方に設けているが、片側の複合材料に設けるだけであってもかまわない。
【0020】
その重ね合わされた複合材料を窒素雰囲気中で加熱処理して接合することにより、内部に溝を有した複合材料が作製される。加熱処理温度は、複合材料中のマトリックスであるAl合金の融点以下の温度であれば良く、通常600℃以下の温度で接合可能である。
以上の方法で複合材料を作製すれば、内部溝を容易にかつ安価に形成できる金属基複合材料を得ることができる。この複合材料に必要に応じて機械加工を施し、露光装置用部材とする。
【0021】
本発明に係わる露光装置用部材の概略構成図を図1に示したが、図1は、本発明の金属基複合材料をガラス基板保持部材に用いた例である。ガラス基板保持部材の上方にはマスクが配置され、基板保持部材の上面には基板が保持されている。また、基板保持部材の内部には冷却用溝が具備されている。この冷却用溝は、冷却配水管に連結している。したがって、この経路に冷却水を流すことで、露光時による基板の温度上昇を好適に抑制できるものである。
【0022】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
(実施例1)
(1)複合材料の作製
市販のSiC粉末(信濃電気精錬社製、平均粒径10μm)100重量部に、有機バインダーとしてPVB(ポリビニルブチラール)を5重量部添加し、これをプレスして200×200×20mmのサイズの、50体積%の充填率を有するプリフォームを形成した。得られたプリフォームをAl合金(JIS H 5202,AC8A)と共に炉内に設置し、窒素雰囲気中で800℃の温度で加熱処理してAl合金を溶融し、溶融したAl合金をプリフォーム中に非加圧で浸透させ、冷却して金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が50体積%の複合材料を2個作製した。
得られた複合材料の表面を2個とも平面加工を施し、そのうちの1個に機械加工により幅10mm、深さ5mmの溝を形成した。一方、接合材としてAl合金粉末100重量部にアクリルバインダーを5重量部加え、これに溶媒としてテルピネオール20重量部加え混合してペーストを作製した。このペーストを溝部を除いた平面部に2個ともに塗布し、これを重ね合わせて炉内に設置し、窒素雰囲気中で500℃の温度で加熱して接合し、内部に溝を有する複合材料を作製した。
【0023】
(2)評価
得られた複合材料から3×4×40mmの試験片を切り出し、その試験片を用いて公知の方法でヤング率を求めた。また熱膨張係数はJIS R 1618に従い、熱伝導率はJIS R 1611に従いそれぞれ測定した。
【0024】
(実施例2)
SiC粉末として市販の平均粒径10μmのSiC粉末(信濃電気精錬社製)30重量%と市販の平均粒径70μmのSiC粉末(信濃電気精錬社製)60重量%を混合し、70体積%の充填率を有するプリフォームを形成した他は実施例1と同様に複合材料(金属基複合材料中のSiC強化材の含有率は70体積%である。)を作製し、評価した。その結果も表1に示す。
【0025】
(実施例3)
実施例1において、プレス圧を低くして30体積%の充填率を有するプリフォームを形成した以外は実施例1と同様に複合材料(金属基複合材料中のSiC強化材の含有率は30体積%である。)を作製し、評価した。その結果も表1に示す。
【0026】
(比較例1)
比較のために比較例1では、アルミニウムを実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0027】
(比較例2)
比較のために比較例2では、銅を実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0028】
(比較例3)
比較のために比較例3では、鋳鉄(FC250)を実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0029】
(比較例4)
比較のために比較例2では、炭素鋼(S55C)を実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0030】
(比較例5)
比較のために比較例2では、アルミナセラミックスを実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1,2および3により得られた金属基複合材料は高いヤング率と熱伝導率、さらに低い熱膨張係数を兼ね備えた材料であり、照明出力を高出力化した露光装置用部材として比較例のいずれよりも適していることが分かった。
【0033】
(3)温度の制御
実施例により得られた金属基複合材料を実際に基板保持部材として用い、実際に露光操作を行ったときの、基板の表面温度を熱電対(図示せず。)により測定した。
その結果、高精度に温度制御した冷却水を冷却用溝に好適流量で流すことにより、基板の表面温度を20℃で設定制御した場合に、設定温度から±1.0℃の精度で制御することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係わる露光装置用部材の概略構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化材がSiCであり、マトリックスがAl合金であり、該強化材の含有率が30〜80体積%である金属基複合材料からなる露光装置用部材であって、内部に冷却用溝を具備することを特徴とする露光装置用部材。

【図1】
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