説明

露点温度制御方法および露点温度制御装置

【課題】高温の炉内に露点温度制御手段を設ける必要がなく、炉内雰囲気ガスの露点温度を均一化することができる露点温度制御方法と露点温度制御装置を提供する。
【解決手段】鋼板を水平方向に通板して熱処理を施す横型水平炉の炉内に水蒸気を含ませた雰囲気ガスを送り込み、炉内の露点温度を制御する方法において、上記炉の下流側に設けられた雰囲気ガス供給室から水蒸気を含ませた雰囲気ガスを上流の炉内に供給すると共に、炉内の露点温度差に基いて雰囲気ガス供給室から炉内に供給する雰囲気ガスの流量を調整し、炉内の露点温度を均一化する、好ましくはさらに、上記雰囲気ガス供給室内に、鋼板に対して近接、離間が可能な仕切板を配設して雰囲気ガス供給室から炉内に供給する雰囲気ガスに縮流を発生させ、撹拌することを特徴とする露点温度制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板等を連続的に熱処理する熱処理炉の炉内雰囲気ガスの露点を制御する方法と、そのための露点温度制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延した鋼板等を連続的に熱処理する熱処理炉においては、鋼中Cを脱炭したり、鋼板の表面品質(酸化被膜の性状)を向上したりするため、炉内の雰囲気ガス中に水蒸気を添加し、露点温度を適切な値に制御することが行われている。しかし、単に炉内に水蒸気を含んだ雰囲気ガスを送り込むだけでは、炉内の雰囲気ガスの露点温度が大きくバラつき、均一化することはできない。
【0003】
そこで、炉内の雰囲気ガスの露点温度を均一化する方法として、例えば、特許文献1には、鋼板が水平方向に通板される横型水平炉の炉内に、水蒸気とガスとを送り込んで、炉内の雰囲気ガスの露点温度を制御する雰囲気ガスの加湿方法において、水蒸気を噴射する水蒸気噴射ノズルを、前記炉内において、当該炉内に送り込まれる前記ガスの導入孔よりガス流れ方向の下流側であり、かつ前記鋼板の上下側それぞれに配置し、かつ仕切板を、前記炉内において、前記各水蒸気噴射ノズルよりガス流れ方向下流で、上下および上流下流方向に移動自在に配置し、前記炉内の露点温度に基づいて、前記水蒸気噴射ノズルからの水蒸気噴射量、前記水蒸気噴射ノズルの噴射方向および前記仕切板の上下もしくは上流下流方向位置の少なくともいずれかを制御することで、炉内での露点温度を均一化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−264305公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された加湿方法(露点温度制御方法)では、炉内に上下可動式の仕切板および水蒸気噴射ノズルを設置しているため、高温操業時など、炉内の熱負荷の高い状況である場合には、上記設備が炉内に存在することによって、ノズルが高温酸化等の設備トラブル発生するリスクが高まる。また、高温の炉内に設置されているため設備保全上も問題がある。
【0006】
本発明は、従来技術が抱える上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼鈍炉の炉内に水蒸気を含んだ雰囲気ガスを供給し、炉内雰囲気ガスの露点温度を制御する技術において、高温の炉内に露点温度制御手段を設ける必要がなく、炉内雰囲気ガスの露点温度を均一化することができる露点温度制御方法を提案すると共に、そのための露点温度制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた。その結果、従来技術のように、熱処理炉内に水蒸気を含ませたガス供給孔や均一化手段を設けるのではなく、熱処理炉の下流側に別途、雰囲気ガス供給室を設けて、そこから炉内に水蒸気を含ませた雰囲気ガスを供給するようにしてやればよいことを想到し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、鋼板を水平方向に通板して熱処理を施す横型水平炉の炉内に水蒸気を含ませた雰囲気ガスを送り込み、炉内の露点温度を制御する方法において、上記炉の下流側に設けられた雰囲気ガス供給室から水蒸気を含ませた雰囲気ガスを上流の炉内に供給すると共に、炉内の露点温度差に基いて雰囲気ガス供給室から炉内に供給する雰囲気ガスの流量を調整し、炉内の露点温度を均一化することを特徴とする露点温度制御方法である。
【0009】
本発明の露点温度制御方法は、上記雰囲気ガス供給室内に、水蒸気を含ませた雰囲気ガスをガス供給孔から投入すると共に、そのガス供給孔よりガス流の下流側に、鋼板に対して近接、離間が可能な仕切板を配設して雰囲気ガス供給室から炉内に供給する雰囲気ガスの流速を調整することで、雰囲気ガスに縮流を発生させ、撹拌することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、鋼板を水平方向に通板して熱処理を施す横型水平炉の炉内に水蒸気を含ませた雰囲気ガスを送り込み、炉内の露点温度を制御する露点温度制御装置であって、上記横型水平炉の下流側に設けられた雰囲気ガス供給室と、炉内雰囲気ガスの露点温度を測定する露点温度測定手段と、上記露点温度測定手段で測定した炉内の露点温度差に基づいて上記雰囲気ガス供給室から炉内に供給する雰囲気ガスの流量を調整する流量制御手段からなることを特徴とする露点温度制御装置である。
【0011】
本発明の露点温度制御装置は、上記雰囲気ガス供給室内には、水蒸気を含ませた雰囲気ガスを送り込むガス供給孔と、上記ガス供給孔よりガス流の下流側に、鋼板に対して近接、離間が可能な仕切板が配設されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炉内雰囲気の露点温度を均一に制御することができるので、鋼板表面品質(酸化被膜の性状)の向上に大きく寄与することができる。さらに、本発明では、熱処理炉内に水蒸気噴射ノズルや仕切板等の露点温度制御装置を設置していないため、操業トラブルや設備トラブルに対するリスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の露点温度制御装置を設けた熱処理炉の一構成例を示す模式図である。
【図2】雰囲気ガス供給量が炉内通板方向における鋼板上下位置の露点温度差に及ぼす影響を示すグラフである。
【図3】雰囲気ガス供給量が炉内板幅方向における鋼板上下位置の露点温度差に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】雰囲気ガス供給室内の仕切板の使用有無が、炉内通板方向における鋼板上下位置の露点温度差に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】雰囲気ガス供給室内の仕切板の使用有無が、炉内板幅方向における鋼板上下位置の露点温度差に及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用した熱処理炉の構成図であり、1は冷延鋼板等を水平方向に通板して熱処理する横型水平炉(熱処理炉)、2は炉の下流側に設置された雰囲気ガス供給室である。
上記横型水平炉1内の側壁には、水蒸気を含ませた雰囲気ガスを炉内に供給するガス供給孔3が設けられている。また、炉の下流側に設置された雰囲気ガス供給室2内の側壁にも、水蒸気を含ませた雰囲気ガスを室内に投入するガス供給孔6が配設されている。なお、上記ガス供給孔3および6から供給される雰囲気ガスには、同じ成分、同じ水蒸気含有量のものを使用するが、異なるものであってもよい。
【0015】
ガス供給孔6は、鋼板7のパスラインの上下の両側壁面に設けられている。ガス供給孔6から投入される雰囲気ガスは、雰囲気ガス供給配管の上流部に設置された図示されていない加湿器により水蒸気が添加され、均一に混合されてから雰囲気ガス供給室2内に供給される。ガス供給孔3から炉内に供給される雰囲気ガスも同様である。
【0016】
また、上記雰囲気ガス供給室2内には、上記ガス供給孔6より通板方向上流側(ガス流の下流側)かつ鋼板7のパスラインの上下に仕切板4が配設されている。上記仕切板4の上下一方の端部は、炉内の上下壁面近くに固定され、この固定点を中心にして個々に半円状に旋回することで、通板中の鋼板7との間の間隔を調整可能となっている。この仕切板4の開閉度を調整することにより、具体的には、仕切板と鋼板の間をオリフィスの状態として、そこを流れる雰囲気ガスの流速を高めることにより、炉内に供給される雰囲気ガスに縮流を発生させて炉内雰囲気を撹拌し、均一化する作用効果を発揮する。
【0017】
また、上記ガス供給孔6より通板方向下流側(ガス流の上流側)には、仕切板5が配設されており、上記仕切板4と同様、炉内の上下壁面近くに固定され、この固定点を中心にして個々に半円状に旋回することで、通板中の鋼板7との間の間隔を調整可能となっている。この仕切板5により炉内圧力を調整する他、炉内のガスが、雰囲気ガス供給室2の通板方向下流側出口のガスと混合するのを防止することができる。
【0018】
一方、熱処理炉1には、炉内雰囲気ガスの露点温度を測定する露点温度測定手段8(湿度センサ)が、鋼板7のパスラインの上下に設置されている。また、上記露点温度測定手段8で測定した炉内露点温度(露点温度差)に基づいて、雰囲気ガス供給室2から炉内に供給する雰囲気ガスの流量を調整する流量制御手段9が設けられている。この流量制御手段9は、雰囲気ガス供給室2から炉内に供給する雰囲気ガスの流量を調整することによって、鋼板7の上下の露点温度を均一化する。なお、上記ガス流量の調整は、ガス供給孔6から雰囲気ガス供給室2内に投入する雰囲気ガス流量を、ガス供給孔6の上流に設置された流量調整弁を調整することで行う。
【0019】
なお、上記説明では、炉内の雰囲気ガスの露点温度を均一化することについて説明してきたが、露点温度を均一化に加えてさらに、露点温度自体を制御しようとする場合には、雰囲気ガスの流量調整に加えてさらに雰囲気ガス中の水蒸気含有量(湿分)を変化させることを行ってもよい。
【実施例】
【0020】
図1に示したように、本発明の露点温度制御装置を設置した、幅:1800mm、高さ:1400mm、通板方向長さ:130mの熱処理炉において、板厚:0.5〜1.0mm×板幅:900〜1250mmの冷延鋼板を、焼鈍温度:1000℃で、目標露点温度:30℃の雰囲気で熱処理するに際して、上記目標露点温度となるよう水蒸気量を調整した雰囲気ガスを炉内のガス供給孔3から供給すると共に、雰囲気ガス供給室2からも同様に水蒸気量を調整した同成分の雰囲気ガスを、流量を0〜30Nm/hrの範囲で変化させて炉内に供給した。なお、この際、雰囲気ガス供給室2内に設けられた仕切板4は、鋼板に近接させて、オリフィス状態として供給ガスに縮流を発生させた。
【0021】
上記条件における、鋼板7の板幅中央から上下に100mm離れた位置の露点温度を測定し、鋼板上下の露点温度差(下面側の露点温度−上面側の露点温度)を求め、その通板方向位置による変化を図2に示した。
また、上記条件における、鋼板7から上下に100mm離れた位置の露点温度を板幅方向に測定し、板幅方向の露点温度差を図3に示した。
【0022】
図2から、雰囲気ガス供給室からの雰囲気ガス供給量が0Nm/hr、即ち、雰囲気ガスを供給しない場合と比較して、雰囲気ガス供給量が10Nm/hr、20Nm/hrと増加するにつれて長手方向における鋼板上下の露点温度差が小さくなり、30Nm/hrとなると、長手方向における鋼板上下の露点温度差がさらに改善されている。また、図3からも同様に、雰囲気ガス供給室からの雰囲気ガス供給量を増やすことにより、鋼板上下の鋼板幅方向の露点温度差が小さくなっている。
これらのことから、熱処理炉の下流に設けた雰囲気ガス供給室から炉内に雰囲気ガスを供給してやることにより、好ましくは、雰囲気ガスの供給量を多くしてやることにより、炉内通板方向および幅方向における鋼板上下の露点温度差を大幅に低減できる、したがって、炉内の雰囲気ガスを均一化できることがわかる。
【0023】
また、上記の図2、図3において、最も鋼板上下の露点温度差が小さかった雰囲気ガス供給量が30Nm/hrの場合において、仕切板を使用したときと、不使用のときの鋼板上下の露点温度差について、長手方向の分布を測定した結果を図4に、板幅方向の分布を測定した結果を図5に示した。なお、上記仕切板を使用したときとは、仕切板を鋼板に近接させた状態を、不使用のときとは、仕切板を鋼板から十分に離間させた状態にしたことをいう。
【0024】
図4から、仕切板の使用しないときには、鋼板上下の露点温度差が炉内の雰囲気ガス供給口の位置で大きく変動しているが、仕切板を使用したときには、上記のような大きな変動は認められない。同様に、図5でも、仕切板を使用することにより、幅方向における鋼板上下の露点温度差が小さくなっている。これらの結果から、仕切板を使用し、炉内に供給する雰囲気ガスに縮流を発生させることで、炉内の雰囲気ガスが撹拌、均一化される結果、炉内の長手方向、幅方向における鋼板上下の露点温度差を大きく低減できることがわかる。
【符号の説明】
【0025】
1:横型水平式熱処理炉(焼鈍炉)
2:雰囲気ガス供給室
3、6:雰囲気ガス供給孔
4、5:仕切板
7:鋼板
8:露点温度測定手段
9:流量制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を水平方向に通板して熱処理を施す横型水平炉の炉内に水蒸気を含ませた雰囲気ガスを送り込み、炉内の露点温度を制御する方法において、
上記炉の下流側に設けられた雰囲気ガス供給室から水蒸気を含ませた雰囲気ガスを上流の炉内に供給すると共に、
炉内の露点温度差に基いて雰囲気ガス供給室から炉内に供給する雰囲気ガスの流量を調整することを特徴とする露点温度制御方法。
【請求項2】
上記雰囲気ガス供給室内に、水蒸気を含ませた雰囲気ガスをガス供給孔から投入すると共に、そのガス供給孔よりガス流の下流側に、鋼板に対して近接、離間が可能な仕切板を配設して雰囲気ガス供給室から炉内に供給する雰囲気ガスの流速を調整することを特徴とする請求項1に記載の露点温度制御方法。
【請求項3】
鋼板を水平方向に通板して熱処理を施す横型水平炉の炉内に水蒸気を含ませた雰囲気ガスを送り込み、炉内の露点温度を制御する露点温度制御装置であって、
上記横型水平炉の下流側に設けられた雰囲気ガス供給室と、
炉内雰囲気ガスの露点温度を測定する露点温度測定手段と、
上記露点温度測定手段で測定した炉内の露点温度差に基づいて上記雰囲気ガス供給室から炉内に供給する雰囲気ガスの流量を調整する流量制御手段からなることを特徴とする露点温度制御装置。
【請求項4】
上記雰囲気ガス供給室内には、水蒸気を含ませた雰囲気ガスを送り込むガス供給孔と、
上記ガス供給孔よりガス流の下流側に、鋼板に対して近接、離間が可能な仕切板が配設されてなることを特徴とする請求項3に記載の露点温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−112823(P2013−112823A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257069(P2011−257069)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】