説明

静圧空気軸受直線案内装置

【課題】ステージが大型化しても温度変化に対する軸受性能の低下を抑え且つ低コストな静圧空気軸受直線案内装置を提供することを課題としている。
【解決手段】基台1から突設するガイド部材2の両側面に所定間隙を置いて対向する一対の対向部4,5をステージ3下部に設けて一対の水平方向空気軸受6を形成する。その各水平方向空気軸受6の位置よりも幅方向外側にそれぞれ上下方向を支持する上下方向空気軸受7を配置する。その各上下用空気軸受7の近傍にそれぞれ、非接触状態でステージ3を基台1に向けて吸引する吸引力発生手段9を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度な加工、及び測定装置、半導体製造、及び検査装置などの試料、工具、検出器などを高精度に移動させるための静圧空気軸受直線案内装置に関し、特にステージが大型化した場合に有利な静圧空気軸受直線案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の静圧空気軸受直線案内装置は、一般に、案内方向に延びるガイドレールに可動体が上側から跨がるように配置され、可動体のステージ55が大型の場合には、例えば、図3に示すような構造が一般的に採用される。
即ち、基台50の上面に対し、幅方向(案内方向に直交する水平方向)に所定距離を開けて一対のガイドレール51を設け、その各ガイドレール51の外側面及び下面に対向する対向部52をステージ55下部の幅方向両端部にそれぞれ設けて、そのガイドレール51の外側面と対向部52との間に水平方向を支持する静圧空気軸受53をそれぞれ配置すると共に、その水平方向の空気軸受53よりも幅方向内側位置である上記各ガイドレール51の上面位置及び下面位置に上下方向を支持する静圧空気軸受54を配置している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、図3のような装置構成では、例えば,固定体(基台50及びガイドレール51)と可動体(ステージ55及び対向部52)との間に温度差が生じた場合には両者に熱膨張差が生じるが、一対のガイドレール51、即ち一対の水平方向用軸受53が幅方向に離れていることから、各水平方向軸受53の軸受すきまが特に変化して、最悪の場合、軸受すきまが無くなり水平方向の空気軸受53が作動しなくなるおそれがある。これは、ステージ55の幅が広くなればなるほど顕著である。
【0004】
また、2本のガイドレール51は、組立時に人手で平行を出して基台50に組付けるため、水平方向真直度を出すのに手間が掛かり、組立技能と時間を必要としていた。
さらに、上記のようにステージ55が大型化した湯合、可動体の軽量化を図るためにステージ55の板厚を薄くすることが一般に行われるが、上記従来の装置構成では各ガイドレール51の側面位置と上面及び下面位置に水平方向及び上下方向を支持する両方の空気軸受53,54を集中して設ける必要があり、加工精度を向上させることが極めて困難でコスト高となるばかりか、所望の軸受すきまが得られなくなるおそれがあり軸受性能上,不利な装置構成となっている。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、ステージが大型化しても温度変化に対する軸受性能の低下を抑え且つ低コストな静圧空気軸受直線案内装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の静圧空気軸受直線案内装置は、基台の基準面から上方に突設し且つ案内方向に延びるガイド部材と、そのガイド部材に沿って案内方向に移動可能な可動体と、上記可動体を空気によって支持案内する空気軸受部とを有する静圧空気軸受直線案内装置において、
上記ガイド部材の両側面に所定間隙を置いて対向する一対の対向部を上記可動体に設けて、そのガイド部材の側面と対向部との間に案内方向に直交する水平方向を支持する水平方向空気軸受をそれぞれ配置し、その各水平方向空気軸受位置よりも外側にそれぞれ上下方向を支持する上下方向空気軸受を配置すると共に、その各上下用空気軸受の近傍にそれぞれ、非接触状態で可動体を基台に向けて吸引する吸引力発生手段を備えることを特徴とするものである。
【0006】
本発明によれば、可動体上面を構成するステージの大小に関係なく一対の水平方向空気軸受の間の距離が小さく設定され、ガイド部材の両側面間の距離及び一対の対向部間の距離についての温度変化による熱膨張量が共に小さいことから、軸受すきまの変化量が少なくなり、安定した軸受性能が得られる。
また、上記一対の水平方向空気軸受の間の距離が小さいことからモーメント剛性も大きいものとなる。
【0007】
しかも、上下方向軸受が水平方向軸受よりも幅方向の外側に配置されるので、一対の水平方向空気軸受の距離を小さくしても、一対の上下方向軸受間の距離は幅方向に大きくとれるため、ステージが大型化しても十分に水平支持可能となり、また、例えば、可動体の幅方向両端部近傍に上下方向空気軸受が配置されて、上下方向の外部負荷などのモーメントに対しても強く安定した直線案内とすることができる。
【0008】
また、各上下方向空気軸受の近傍に吸引力発生手段を設けることで、基台に対する可動体の吸引と浮上とによる可動体に作用する剪断応力が小さく設定される。
ここで、上記ガイド部材は、ステージの幅方向略中央部に配置することが好ましい。このように配置すると水平方向空気軸受はステージの幅方向略中央部で水平方向を支持することになり、水平方向空気軸受から可動体に作用する反力がより小さくなる。
また、一対の上下方向空気軸受については、好ましくは幅方向対称にできるだけ相互の距離を大きく取ることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明を採用すると、固定体と可動体との間に温度差が生じても、可動体の大きさに影響を受けることなく各空気軸受における軸受すきまの変化は殆どなく、温度変化に対して安定した軸受性能を保持する効果を有する。
また、上下、水平とも真直度精度が人の手に依存せず機械加工精度で決まることから、精度の安定した生産と組立時間短縮となり、低コスト化を図れるという効果を有する。
さらに、ステージに空気軸受の反力がほとんど伝わらなくなることからステージ単体の剛性があまり必要なくなり、板厚を薄くでき軽量化に繋がり、制御性も向上するという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の静圧空気軸受直線案内装置を案内方向からみた構成図を、また、図2は、吸着力発生手段を省略した装置の側面図を表す。
まず装置構成について説明すると、上面に水平な基準面1aを備えて案内方向に延びる基台1を有し、その基台1上面の幅方向略中央部にガイド部材2が突設されている。ガイド部材2は、断面角形状のレール部材であって、上記基準面1aに沿って案内方向に延びている。ガイド部材2は、底面と左右側面の計3面が真直、平面で、平行、直角精度が良好に設定されている。
【0011】
上記基台1の基準面1aの上方に所定間隔を開けて可動体の一部を構成するステージ3の下面が平行に対向配置されている。
そのステージ3の下面から、上記ガイド部材2を挟むように、当該ガイド部材2の各側面に所定隙間を開けて対向する対向面を持った対向部4,5がそれぞれ突設している。その各対向部4,5の上記側面に対向する面には当該側面に向けて水平に空気を吹き出す空気穴が設けられることで、ガイド部材2の各側面と各対向部4,5との間にそれぞれ水平方向を支持する水平方向空気軸受6が形成されている。
【0012】
また、上記対向部4,5のうち幅方向外側にある対向部5の下面には、下方に向けて空気を吹き出す空気穴が設けられることで、当該対向部5の下面と基準面1aとの間に一方の上下方向空気軸受7が形成されている。
また、その対向部5と幅方向で対称な位置には、上記可動体下面から下方に第2対向部8が突設し、その第2対向部8の下面と基準面1aとの間に他の上下方向空気軸受7が形成されている。これによって各上下方向空気軸受7は、各水平方向空気軸受6よりも幅方向外方に配置された状態となる。
【0013】
ここで、上記対向部4,5及び第2対向部8は、図2に示すように、案内方向に所定間隔を開けて複数個,設けられている。また、各空気軸受の軸受部の形状は、円形、矩形その他,特に形状は限定されない。
さらに、各上下方向空気軸受7の幅方向外側に吸引力発生手段9がそれぞれ設けられている。
【0014】
各吸引力発生手段9は、基台1の上面に設けられて上記ガイド部材2と平行に延びる強磁性体からなる吸引レール9aと、ステージ3下面に支持されて上記吸引レール9a上面と所定間隙を開けて対向した永久磁石9bと、から構成される。符号9cは永久磁石9bを支持するスペーサであって、上記吸引レール9aと永久磁石9bとの間隙の調整、つまり当該永久磁石9bの高さ位置を調整し易くするために設けられている。
また、図1中、符号10は駆動装置の例としてのリニアモータを表す。
【0015】
次に、上記構成の静圧空気軸受直線案内装置の動作等について説明する。
上記構成の装置にあっては、一対の上下方向空気軸受7及び吸引力発生手段9によって、ステージ3は、基準面1aに対し上下方向に浮上支持されて水平となり、一対の水平方向空気軸受6によって幅方向の位置決めがなされる。そして、ステージ3下部のリニアモータ10によって駆動されてガイド部材2に沿って直線移動する。
【0016】
そして、本実施形態では、ステージ3の大きさに関係なくガイド部材2によるガイド巾を狭くできて、所謂ナローガイド状態となり、これによって、水平方向空気軸受6の距離が狭くモーメント剛性も強いものとなる。
しかも、一対の水平方向空気軸受6間の距離がステージ3の大きさに関係なく小さく設定できるため、ステージ3と基台1及びガイド部材2との間に温度差が生じても、各水平方空気軸受6の軸受隙間への影響は最小限に抑えられて、温度変化に対して安定した軸受性能を保持できる。
【0017】
また、幅方向に離して上下方向を支持案内する上下方向空気軸受7及び吸引力発生手段9が設けられることで、ステージ3が大型化しても十分に安定した上下支持が可能となっている。
このとき、浮上させる各上下方向空気軸受7と吸引する吸引力発生手段9とを近接して配置することで、吸引力と浮上力によるせん断応力が殆どステージ3に作用しないようにしている。
【0018】
また、吸引レール9aを強磁性材から構成することで、小さな面積で吸引力を稼ぎ且つ軽量化を図っている。また、吸引レール9aが、上下方向空気軸受7の外方で案内方向と平行な方向に延在していることから、吸引レール9aは上下方向空気軸受7に対する外部からのごみ安堵の付着を防止する役割も持つ。
なお、永久磁石9bの代わりに電磁石などの他の磁気手段を採用しても構わない。また、吸引力発生手段9としては、真空吸引その他の非接触の吸引手段を採用しても構わない。
【0019】
また、上記各空気軸受6,7と吸引力発生手段9は案内方向にそれぞれ2個設けているので、ステージ3が案内方向に長くなった場合でも上下モーメント及び水平モーメントによる負荷に強いものとなっている。また、案内方向に離して2個設けることで、各対向部4,5,8を案内方向に長くするよりも軽量化が図られる。
さらに、上記の構造により、ステージ3に対して空気軸受6,7の反力や吸引力などによる応力がほとんど発生しないことから、ステージ3の単体精度が確保できる極限まで板厚を薄くすることが可能となり、例えば,アルミ合金などの縦弾性係数の低い材料でステージ3を製作することも可能となる。
【0020】
また、本実施形態では、各空気軸受6,7に空気を供給しない使用停止状態でも、吸引力発生手段10の磁力によってステージ3は基台1側に吸引されて位置決めされた状態となる。
なお、上記実施形態では、リニアモータ10の配置との関係から一対の水平方向空気軸受6の位置が幅方向で左右対称な位置に無いが、一対の水平方向空気軸受6はできるだけ幅方向で左右対称な位置にあることが好ましい。
【0021】
また、上記実施形態では、対向部8,5の下面位置に上下方向空気軸受7を形成しているが、対向部5に水平方向空気軸受6及び上下方向空気軸受7の両方を設ける必要はない。上下方向空気軸受用の対向部を別途,設けてもよい。
また、吸引力発生手段9を上下方向空気軸受7よりも内側に配置してもよいし、また、吸引力発生手段9と上下方向空気軸受7とは幅方向で並ぶ必要もない。つまり、案内方向に平行な方向で吸引力発生手段9と上下方向空気軸受7とを並べて配置してもよい。この場合には、吸引レール9aの上面位置に上下方向空気軸受7が形成されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る装置の案内方向からみた構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る吸引力発生手段を省略した概略側面図である。
【図3】従来の装置構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0023】
1 基台
1a 基準面
2 ガイド部材
3 ステージ(可動体)
4,5 対向部
6 水平方向空気軸受
7 上下方向空気軸受
8 第2対向部
9 吸引力発生手段
10 リニアモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台の基準面から上方に突設し且つ案内方向に延びるガイド部材と、そのガイド部材に沿って案内方向に移動可能な可動体と、上記可動体を空気によって支持案内する空気軸受部とを有する静圧空気軸受直線案内装置において、
上記ガイド部材の両側面に所定間隙を置いて対向する一対の対向部を上記可動体に設けて、そのガイド部材の側面と対向部との間に案内方向に直交する水平方向を支持する水平方向空気軸受をそれぞれ配置し、その各水平方向空気軸受位置よりも外側にそれぞれ上下方向に浮上支持する上下方向空気軸受を配置すると共に、その各上下用空気軸受の近傍にそれぞれ、非接触状態で可動体を基台に向けて吸引する吸引力発生手段を備えることを特徴とする静圧空気軸受直線案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−84034(P2006−84034A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317093(P2005−317093)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【分割の表示】特願平10−97715の分割
【原出願日】平成10年4月9日(1998.4.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】