静油圧式無段変速機
【課題】2つの斜板間に、シリンダに設けた複数のプランジャからなる油圧ポンプと、油圧モータとを設け、上記油圧ポンプから油圧モータ側に作動油を送る高圧油路と、油圧モータ側から油圧ポンプ側に作動油を送る低圧油路と、偏心カムリングの内周面に当接してバルブボデイの半径方向を往復動してプランジャを高圧油路又は低圧油路に切り替える油圧切替弁とを含む油圧回路を、油圧ポンプのプランジャと油圧モータのプランジャとの間に設け、上記斜板の少なくとも一方を傾動させて変速比を変化させると共に、上記偏心カムリングをアクチュエータにより偏心させて油圧回路を閉止するロックアップ機構を備えた静油圧式無段変速機において、出力軸逆回転手段を提供しようとするものである。
【解決手段】アクチュエータにより偏心カムリングを更に駆動して、通常運転時とは逆方向に偏心させることによって、出力軸の回転を入力の回転方向の逆方向に回転させる。
【解決手段】アクチュエータにより偏心カムリングを更に駆動して、通常運転時とは逆方向に偏心させることによって、出力軸の回転を入力の回転方向の逆方向に回転させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静油圧式無段変速機に関するものであり、特に、車両後進のために変速機の出力軸を逆回転させる手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ロックアップ制御機構が開示されているが、出力軸逆回転手段は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−249099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、静油圧式無段変速機において、出力軸逆回転手段を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決したものであって、請求項1に記載の発明は、
2つの斜板9、22間に、シリンダ10に設けた複数のプランジャ12からなる油圧ポンプ2と、他のシリンダ23に設けた複数のプランジャ25からなる油圧モータ3とを設け、上記油圧ポンプ2から油圧モータ3側に作動油を送る高圧油路61と、上記油圧モータ3側から上記油圧ポンプ2側に作動油を送る低圧油路60と、偏心カムリング51、52の内周面に当接してバルブボデイ33の半径方向を往復動して上記プランジャ12、25と上記高圧油路61又は上記低圧油路60の対応関係を切り替える油圧切替弁47、48とを含む油圧回路を上記油圧ポンプ2のプランジャ12と上記油圧モータ3のプランジャ25との間に設け、上記斜板9、22の少なくとも一方22を傾動させて変速比を変化させると共に、上記偏心カムリング52をアクチュエータ66により偏心させて油圧回路を閉止するロックアップ機構を備えた静油圧式無段変速機1において、
上記アクチュエータ66により上記偏心カムリング52を更に駆動して、通常運転時とは逆方向に偏心させることによって、出力軸6の回転を入力の回転方向の逆方向に回転させることを特徴とする静油圧式無段変速機1に関するものである。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の静油圧式無段変速機1において、
上記ロックアップ機構は、上記偏心カムリング52を、同偏心カムリング52の外方に設けられた回動中心56を中心として回動可能に設けると共に、上記偏心カムリング52の、回動中心56の反対側を上記アクチュエータ66により駆動するようにしたことを特徴とするものである。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の静油圧式無段変速機1において、
上記アクチュエータ66は、2段階制御可能なアクチュエータ制御装置を備えた油圧アクチュエータ66であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の静油圧式無段変速機1において、
出力軸6逆回転への切換のための上記アクチュエータ66の作動を、上記シリンダ23が回転している時には禁止する手段を上記アクチュエータ制御装置に設けたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の静油圧式無段変速機1において、
上記出力軸6を逆転させる前で変速比が所定値以下の時に、上記斜板9,22の傾斜角を変更して変速比を所定値以上に変更する手段、または上記出力軸6逆回転への切換のための上記油圧アクチュエータ66の作動を禁止する手段を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明において、
単純な構成で、出力軸6を逆回転させる機構を構成することができる。
【0011】
請求項2の発明において、
単純な構成で出力軸6逆回転機構を構成することができる。
【0012】
請求項3の発明において、
油圧アクチュエータ66で、ロックアップと出力軸6逆回転の2段階の動作を簡単に実現することができる。
【0013】
請求項4の発明において、
正回転の時に出力軸6逆回転に切り替わることを防止することができるので、安全である。
【0014】
請求項5の発明において、
出力軸6逆回転時のエンジンストップを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る静油圧式無段変速機1の縦断面図である。
【図2】上記静油圧式無段変速機1の分配バルブ4付近の拡大縦断面図である。
【図3】コッタ38の図である。
【図4】リテーナリング39の図である。
【図5】C形クリップ40の図である。
【図6】図1のVI−VI断面図であり、車両前進時におけるモータ偏心環状部材55とモータ側偏心カムリング52付近の断面図である。
【図7】モータ揺動部材21の角度を変更するモータサーボ機構28の断面図である。
【図8】モータサーボ機構28によってモータ揺動部材21が直立(斜板の回転面が出力軸に直交)した状態を示す断面図である。
【図9】偏心量がゼロとなったときのモータ偏心環状部材55及びモータ側偏心カムリング52付近の断面図である。
【図10】後進駆動のために、モータ偏心環状部材55が図の右方へ回動駆動された状態を示す図である。
【図11】遠心式ガバナークラッチ5付近の縦断面図である。
【図12】作動油と潤滑油の供給経路を示す静油圧式無段変速機1の要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る静油圧式無段変速機1の縦断面図である。この変速機1は、車両に搭載された内燃機関に接続して用いられるものである。変速機1の出力は、複数の歯車を介して車輪の駆動に供される。上記静油圧式無段変速機1は斜板プランジャ式油圧ポンプ2と斜板プランジャ式油圧モータ3と分配バルブ4と遠心式ガバナークラッチ5とを備えて構成され、静油圧式無段変速機1の出力軸となる出力軸6がその中心を貫通して配設されている。出力軸6の左端は変速機ハウジング7にボールベアリングB1、B2によって、右端は変速機ハウジング7にボールベアリングB3によって回転自在に支持されている。
【0017】
図の中心より左側において、油圧ポンプ2は、出力軸6と同軸かつ相対回転可能に配設されたポンプケーシング8と、ポンプケーシング8の内部において、出力軸6に対して所定角度傾けて配設されたポンプ斜板9と、同ポンプ斜板9と対向して配設されたポンプシリンダ10と、ポンプシリンダ10内に出力軸6を囲んで環状に配列された複数のポンププランジャ孔11と、同ポンププランジャ孔11内に摺動可能に配設された複数のポンププランジャ12とから構成されている。ポンプケーシング8は、一端部が出力軸6にベアリングB2によって、他端部がポンプシリンダ10にベアリングB4によって回転可能に支持されるとともに、変速機ハウジング7に対してベアリングB1によって回転可能に支持されている。ポンプ斜板9は、ポンプケーシング8に対してベアリングB5、B6によって所定角度傾けて相対回転可能に配設されている。
【0018】
ポンプケーシング8の外周には、ボルト13によって締結された変速機入力歯車14が取り付けられている。また、ポンププランジャ12の外側端部はポンプシリンダ10の外方に突出してポンプ斜板9の斜板面9aの凹部に当接係合されている。ポンププランジャ12の内側端部はポンププランジャ孔11内にポンプ油室15を形成している。ポンププランジャ孔11の端部には、吐出口および吸入口として作用するポンプ開口通路16が形成されている。変速機入力歯車14が回転駆動されるとポンプケーシング8が回転し、その内部に配設されたポンプ斜板9がポンプケーシング8の回転に伴って3次元揺動を行い、ポンププランジャ12は斜板面9aの揺動に応じてポンププランジャ孔11内を往復運動し、ポンプ油室15内の作動油を吐出したり吸入したりする。
【0019】
図の中心より右側において、油圧モータ3のケーシング17は、変速機ハウジング7に結合されて固定保持されている。モータケーシング17は、球面部材18と延長部材19とからなり、ボルト20で結合されている。球面部材18の内面には支持球面18aが形成されている。油圧モータ3は、モータケーシング17と、上記支持球面18aに摺接して支持されたモータ揺動部材21と、モータ揺動部材21内にベアリングB7、B8により回転可能に支持されたモータ斜板22と、モータ斜板22と対向するモータシリンダ23と、モータシリンダ23内においてその回転中心線を囲んで環状に配列された複数のモータプランジャ孔24と、同モータプランジャ孔24内に摺動可能に配設された複数のモータプランジャ25とから構成される。モータシリンダ23はその外周部においてベアリングB9を介してモータケーシング17の延長部材19に回転自在に支持されている。モータ揺動部材21は、出力軸6の中心線に対して直角方向(紙面に垂直な方向)に伸びる回動中心Oを中心として揺動するよう支持されている。
【0020】
モータプランジャ25の外側端部はモータシリンダ23の外方に突出してモータ斜板22の斜板面22aの凹部に当接係合され、モータプランジャ25の内側端部はモータプランジャ孔24内にモータ油室26を形成する。モータプランジャ孔24の端部には、吐出口および吸入口として作用するモータ開口通路27が形成されている。モータ揺動部材21の上部外方に突出して形成されたアーム部21aの先端は、モータサーボ機構28のボールナット29に連結されており、ボールナット29にはボールネジ軸30が挿通されている。モータサーボ機構28によりボールネジ軸30が回転駆動されると、ボールナット29が動き、アーム部21aが左右に移動し、モータ揺動部材21が図の回動中心Oを中心として回動する。モータ揺動部材21が回動すると、その内部に回転可能に支持されているモータ斜板22も一緒に回動中心Oを中心として回動し、斜板角度が変化する。
【0021】
図2は、静油圧式無段変速機1の分配バルブ4付近の拡大縦断面図である。ポンプシリンダ10とモータシリンダ23との間に分配バルブ4が配設されている。分配バルブ4のバルブボディ33は、ポンプシリンダ10とモータシリンダ23との間に挟持され、ロー付けによりこれらのシリンダと一体結合されている。モータシリンダ23は出力軸6にスプライン34によって結合されている。したがって、ポンプシリンダ10、分配バルブ4、及びモータシリンダ23は、出力軸6と一体となって回転する。一体結合されたポンプシリンダ10、バルブボディ33、及びモータシリンダ23を、全体として出力回転体Rと呼ぶ。出力回転体Rを出力軸6に取り付ける際の軸方向の位置決め構造について述べる。ポンプシリンダ10の左端位置に対応する出力軸6の外周側に軸方向長さの短い大径部36が形成してある。ポンプシリンダ10の左端面がこの大径部36の端面に当接して、左方向の位置決めがなされる。
【0022】
図3、図4、図5は出力回転体Rの右側の位置決めに用いられる部材の図である。各図の、図(a)は軸方向正面図、図(b)は図(a)のB−B断面図である。出力回転体Rの右側の位置決めは、モータシリンダ23の端面に接して出力軸6に取り付けられた係止部材によって行われる。この係止部材は、コッタ38、リテーナリング39、およびC形クリップ40から構成される。係止部材取付けのために、出力軸6には、外周のスプライン34を横切って、環状の第1係止溝41、および第2係止溝42が形成されている。第1係止溝41には図3に示される半円状に分割形成された一対のコッタ38が嵌め込んで取り付けられる。その上に図4に示されるリテーナリング39が取り付けられる。リテーナリング39がコッタ38を覆い、さらに第2係止溝42に図5に示すC形クリップ40が取り付けられて、リテーナリング39の抜け止めがなされる。以上の結果、モータシリンダ23の右端面が係止部材に当接して右方向の位置決めがなされる。
【0023】
以上のように、出力回転体Rは周方向はスプライン34によって、左方向は大径部36によって、右方向は係止部材38、39、40によって出力軸6に対して位置決めされて一体化され、出力軸6と共に回転する。なお、リテーナリング39には、潤滑油噴射ノズル39aが、全周に3個穿設してある(図4)。
【0024】
図2において、分配バルブ4を構成するバルブボディ33内には、円周方向に等間隔で配置され径方向に延びる複数のポンプ側弁孔45とモータ側弁孔46とが、2列に形成されている。ポンプ側弁孔45内にはポンプ側切替弁47が、モータ側弁孔46内にはモータ側切替弁48が、それぞれ摺動可能に配設されている。
【0025】
上記ポンプ側弁孔45は、ポンププランジャ孔11に対応した位置に形成されている。バルブボディ33に複数のポンプ側連通路49が設けてある。これは上記の各ポンプ側弁孔45とポンププランジャ孔11の各ポンプ開口通路16とをそれぞれ連通するものである。上記モータ側弁孔46は、モータプランジャ孔24に対応した位置に形成されている。バルブボディ33に複数のモータ側連通路50が設けてある。これは上記の各モータ側弁孔46とモータプランジャ孔24の各モータ開口通路27とをそれぞれ連通するものである。
【0026】
分配バルブ4において、ポンプ側切替弁47の外周端を囲む位置にポンプ側偏心カムリング51が配設され、モータ側切替弁48の外周端を囲む位置にはモータ側偏心カムリング52が配設されている。ポンプ側偏心カムリング51は、ポンプ偏心環状部材53の内周に取り付けられている。ポンプ偏心環状部材53は、ポンプケーシング8の端部にボルト54(図1)によって結合されているものである。モータ側偏心カムリング52は、モータ偏心環状部材55の内周に取り付けられている。モータ偏心環状部材55は、モータケーシング17の延長部材19にピン56(図1)によって回動可能にによって結合されているものである。ポンプ側偏心カムリング51の内周面には、ポンプ側切替弁47の外側端がポンプ側規制リング57を介して摺動可能に係止され、モータ側偏心カムリング52の内周面には、モータ側切替弁48の外側端がモータ側規制リング58を介して摺動可能に係止されている。ポンプ側、モータ側いずれにおいても、偏心カムリング51、52と規制リング57、58とは相対回転可能となっている。
【0027】
バルブボディ33の内周面と向き合う出力軸6の外周面には、低圧油路60として作用する環状凹部が削設されている。すべてのポンプ側弁孔45の出力軸側開口端およびモータ側弁孔46の出力軸側開口端がこの低圧油路60に連通している。
【0028】
バルブボディ33内の外周の近くには高圧油路61が形成されている。高圧油路61は、ポンプ側弁孔45とモータ側弁孔46とを連通する軸方向貫通孔61aと、すべてのポンプ側弁孔45を環状に連通するポンプ側環状連通溝61bと、すべてのモータ側弁孔46を環状に連通するモータ側環状連通溝61cとから構成されている。これらの複数の孔61a、溝61b、61cは互いに連通して、高圧油路61を構成している。
【0029】
ここで、上記分配バルブ4の作動について述べる。内燃機関の駆動力が変速機入力歯車14に伝達されてポンプケーシング8が回転すると、この回転に応じてポンプ斜板9が3次元揺動をする。ポンプ斜板9の斜板面9aに当接係合されたポンププランジャ12は、ポンプ斜板9の3次元揺動によって、ポンププランジャ孔11内を軸方向に往復運動をする。ポンププランジャ12の内方移動時にポンプ油室15からポンプ開口通路16を通って作動油が吐出され、ポンププランジャ12の外方移動時にポンプ開口通路16を通ってポンプ油室15内に作動油が吸入される。
【0030】
ポンププランジャ12及びモータプランジャ25の移動方向及び位置を説明するに当たって、つぎの定義によって述べる。
ポンププランジャ12及びモータプランジャ25の移動は、分配バルブボディ33を中心として、中心に近づく方向への移動を内方移動、中心から遠ざかる方向への移動を外方移動とする。
ポンププランジャ12及びモータプランジャ25の位置は、分配バルブボディ33を中心として、中心に最も近づいた位置を内端位置、中心から最も遠ざかった位置を外端位置とする。
【0031】
ポンプケーシング8が回転すると、ポンプ偏心環状部材53の内周面に取り付けられたポンプ側偏心カムリング51は、ポンプケーシング8と共に回転する。ポンプ側偏心カムリング51の中心は、ポンプケーシング8の回転中心に対して偏心している。即ちバルブボディ33に対しても偏心して取り付けられているので、ポンプ側偏心カムリング51の回転に応じてポンプ側切替弁47がポンプ側弁孔45内を径方向に往復運動する。
【0032】
このように、ポンプ側切替弁47が往復運動し、バルブボディ33の中で径方向内方へ移動すると、ポンプ側切替弁47の小径部47aによってポンプ側連通路49が径方向外方へ開き、ポンプ開口通路16と高圧油路61とが連通する。逆に、ポンプ側切替弁47がバルブボディ33の中で径方向外方へ移動するとポンプ側連通路49が径方向内方へ開き、ポンプ開口通路16と低圧油路60とが連通する。
【0033】
ポンプケーシング8の回転に伴ってポンプ斜板9が揺動し、ポンププランジャ12が最も外方に押し出された位置と、最も内方に押し込まれた位置との間で往復運動するのに対応して、ポンプ側偏心カムリング51はポンプ側切替弁47を径方向に往復運動させる。この結果、ポンプケーシング8の回転に伴ってポンププランジャ12が内方へ移動する時には、ポンプ油室15内の作動油がポンプ開口通路16から吐出される。この時、ポンプ開口通路16は高圧油路61に連通するようポンプ側偏心カムリング51の偏心取付け位置が決められているので、作動油は高圧油路61に送出される。一方、ポンプケーシング8の回転に伴って、ポンププランジャ12が外方へ移動する時には、上記とは反対に、低圧油路60内の作動油がポンプ開口通路16を通ってポンプ油室15内に吸入される。即ち、ポンプケーシング8が回転駆動されると、出力軸6を挟んで、一方の側のポンプ油室15から吐出された作動油は高圧油路61に供給され、出力軸6を挟んで反対側のポンプ油室15へは低圧油路60から作動油が吸入される。
【0034】
図6は図1のVI−VI断面図であり、通常の車両前進時におけるモータ偏心環状部材55とモータ側偏心カムリング52付近の断面図である。この図はモータシリンダ23の方へ向いて見た図であり、出力軸6の正転状態におけるモータ偏心環状部材55を示している。モータ偏心環状部材55はモータケーシング17(図1)の延長部材19の端部にピン56によって回動可能に結合されている。モータ偏心環状部材55の内周面に取り付けられたモータ側偏心カムリング52の中心Bは、モータ偏心環状部材55が通常位置(図6の位置)にあるときには、変速機中心面C(ボールネジ軸30の中心と出力軸6の中心とを通る面)に対して左方へ偏心している。即ち、モータ側偏心カムリング52の中心Bは、バルブボデイ33の回転中心Aの左側に位置している。モータ側切替弁48はモータ側規制リング58によってモータ側偏心カムリング52の内周に常時当接しているので、モータシリンダ23が回転すると、その回転に応じてモータ側切替弁48がモータ側弁孔46内を径方向に往復運動する。
【0035】
図6の中心面Cの右側に示されるように、モータ側切替弁48がバルブボディ33の中で径方向内方へ移動すると、モータ側切替弁48の小径部48aによってモータ側連通路50が径方向外方へ開き高圧油路61と連通し、モータ開口通路27(図2)と高圧油路61とが連通するので、高圧油路61からモータ油室26(図2)へ作動油が送られる。図6の中心面Cの左側に示されるように、モータ側切替弁48がバルブボディ33の中で径方向外方へ移動すると、モータ側連通路50が径方向内方へ開き低圧油路60と連通し、モータ開口通路27(図2)と低圧油路60とが連通するので、モータ油室26から低圧油路60へ作動油が戻される。
【0036】
油圧ポンプ2から吐出された作動油は高圧油路61に送られ、この作動油はモータ側連通路50及びモータ開口通路27を通ってモータ油室26内に供給され、モータプランジャ25は軸方向外方に駆動される。モータプランジャ25の外側端の軸方向外方への押圧駆動力により、モータプランジャ25は、外方へ移動しつつ、モータ揺動部材21とベアリングB7、B8とが形成する傾斜面に沿って、モータ斜板22と共に移動する。この結果、モータシリンダ23はモータプランジャ25の移動に伴って回転する。モータシリンダ23の回転に伴って、これと一体のバルブボデイ33も回転し、モータ側偏心カムリング52はモータ側切替弁48をバルブボディ33の径方向に往復動させる。
【0037】
出力軸6を中心として、モータシリンダ23は、モータ斜板22の回転と共に回転するので、変速機中心面Cに関して、上記の外方移動するモータプランジャ25とは反対側のモータプランジャ25はモータ斜板22の回転と共に内方へ移動し、モータ油室26内の作動油はモータ開口通路27から低圧油路60に押し出され、ポンプ側連通路49及びポンプ開口通路16(図2)を通ってポンプ油室15内に吸収される。
【0038】
以上のように、油圧ポンプ2と油圧モータ3とをつなぐ油圧閉回路が分配バルブ4によって構成され、油圧ポンプ2の回転に応じて吐出された作動油が、油圧閉回路の一方(高圧油路61)を介して油圧モータ3に送られてこれを回転駆動し、さらに、油圧モータ3の回転に伴って油圧モータ3から吐出された作動油は油圧閉回路の他方(低圧油路60)を介して油圧ポンプ2に戻される。
【0039】
上記の静油圧式無段変速機1において、内燃機関からの入力によって油圧ポンプ2が駆動され、油圧モータ3の回転駆動力が分配バルブ4および油圧モータ3を介して変速され、出力軸6から取り出され、車輪に伝達される。車両が通常走行する状態の時には、高圧油路61が高圧となり、低圧油路60が低圧となる。しかし、降坂路走行等において、車輪からの駆動力が出力軸6から油圧モータ3に伝達され、油圧ポンプ2の回転駆動力が内燃機関に伝達されてエンジンブレーキ作用が生じる状態の時には、低圧油路60が高圧となり、高圧油路61が低圧となる。
【0040】
図7は、モータ揺動部材21の角度を変更するモータサーボ機構28の断面図である。モータサーボ機構28はモータ揺動部材21のアーム部21aの近くに位置し、出力軸6と平行なボールネジ軸30と、ボールネジ軸30に螺合するボールナット29を備えている。ボールナット29はモータ揺動部材21のアーム部21aに連結されており、ボールネジ軸30が回転駆動されると、ボールナット29がボールネジ軸30上を移動し、モータ揺動部材21が回動する。
【0041】
ボールネジ軸30を回転駆動するために、変速機ハウジング7の外側面に斜板制御モータ62が取付けられている。斜板制御モータ62の回転軸63に設けられたピニオン63aの駆動力は、中間軸64の中間歯車64a、46bを介してボールネジ軸30の端部の歯車65に伝達され、ボールネジ軸30を回転駆動し、モータ揺動部材21を回動させ、モータ斜板22の傾斜角を変えることができる。
【0042】
図8は、上記モータサーボ機構28によってモータ揺動部材21が直立(斜板の回転面が出力軸6に直交)した状態を示す断面図である。静油圧式無段変速機1の変速比はモータ揺動部材21の傾斜角を変化させることによって無段階に変化させることができる。モータ揺動部材21の傾斜角を変え、モータ斜板22が出力軸6に直交した時、トップ変速比となる。
【0043】
図9は、偏心量がゼロとなったときのモータ偏心環状部材55及びモータ側偏心カムリング52付近の断面図である。モータ斜板22の傾斜が90度、即ちトップ変速比となった時、アクチュエータ66に作動油が注入され、ピストンロッド67が押し出され、モータ偏心環状部材55が回動駆動され、モータ側偏心カムリング52の偏心量がゼロとなるよう制御される。この時、モータ側偏心カムリング52の中心Bはバルブボデイ33の中心Aと一致する。図9はこのようにして中心Aと中心Bとが一致した状態を示している。この時、油圧ポンプ2、高圧油路61、油圧モータ3、及び低圧油路60からなる油圧閉回路は閉鎖され、ポンプシリンダ10、バルブボディ33、モータシリンダ23、および出力軸6は、変速機入力歯車14及びポンプケーシング8と一体回転(いわゆる直結)し、入力回転と出力回転が同じとなる。この状態をロックアップと呼ぶ。ロックアップのためにアクチュエータ66へは、アクチュエータ制御機構により予め調整された適量の作動油が注入される。
【0044】
図10は、車両の後進駆動のために、アクチュエータ66に作動油が更に注入され、ピストンロッド67が更に押し出され、モータ偏心環状部材55が図の右方へ回動駆動された状態を示す図である。この時、モータ側偏心カムリング52の中心Bは、モータシリンダ23の方へ向いて、変速機中心面Cの右側にあり、バルブボデイ33の中心Aの右側にある。これは、車両の停止状態から後進に移る場合に操作される状態であり、斜板の角度は通常の前進時の角度と同じである。内燃機関が始動されると、バルブボディ33における高圧油送給位置が、モータシリンダの方へ向いて変速機中心面Cの左側、即ち、変速機中心面に関して、前進時とは逆になるので、出力回転体Rは前進時とは逆の方向に回転し、出力軸6は逆転し、車両を後進させることができる。
【0045】
アクチュエータ66に最大量の作動油を注入することにより、上記偏心カムリング52を更に偏心させて、通常運転時とは逆方向に偏心させることによって、出力軸6の回転を入力の回転方向の逆方向に回転させるようにしたので、単純な構成で、出力軸6を逆回転させる機構を構成することができる。
【0046】
上記出力軸逆回転機構は、上記偏心カムリング52を、同偏心カムリング52の上方に設けられたピン56を中心として回動可能に設けると共に、上記偏心カムリング52の、同偏心カムリングの中心Bに関して、ピン56の反対側を上記アクチュエータ66により駆動するようにしたので、単純な構成で出力軸逆回転機構を構成することが可能となっている。また、上記アクチュエータ66は、2段階制御可能なアクチュエータ制御装置を備えているので、油圧アクチュエータで、ロックアップと出力軸逆転の2段階の動作を簡単に実現することができる。
【0047】
車両を後進させようとする時、内燃機関が既に運転状態にある場合は、内燃機関と無段変速機1との間に設けてあるクラッチ(図示なし)をOFFにした状態で、モータ偏心環状部材55の回動を行い、モータ偏心環状部材55の回動が終了してからクラッチをONにし、無段変速機入力歯車14に内燃機関の駆動力を接続する。
【0048】
アクチュエータ制御装置には、出力軸逆回転への切換のための上記アクチュエータの作動を、上記シリンダが回転している時には禁止する手段が設けてあるので、正回転時に突然逆回転することが無く、安全である。また、上記出力軸6を逆転させる前で変速比が所定値以下の時に、上記斜板22の傾斜角を変更して変速比を所定値以上に変更する手段、または上記出力軸6逆回転への切換のための上記油圧アクチュエータ66の作動を禁止する手段を設けてあるので、出力軸逆回転時のエンジンストップを防止することができる。この静油圧式無段変速機1には遠心式ガバナークラッチ5が組み込まれているので、内燃機関の駆動力が入力された後は、スムーズに静油圧式無段変速機1が作動を始める。
【0049】
図11は遠心式ガバナークラッチ5付近の縦断面図である。静油圧式無段変速機1においては、低圧油路60と高圧油路61とを連通させると、高油圧が発生しなくなり、油圧ポンプ2と油圧モータ3との間の動力伝達が行われなくなる。すなわち、低圧油路60と高圧油路61との連通開度の制御を行うことによってクラッチ制御が行われる。
【0050】
遠心式ガバナークラッチ5は、ポンプケーシング8の端部にボルト69によって結合されたカムプレート70およびスプリングシート71と、カムプレート70の内面に径方向に斜めに延びて形成された複数のカムプレート溝70a内にそれぞれ受容されたローラ72と、カムプレート溝70aと対向するアーム部73aを有する受圧プレート73と、一端がスプリングシート71に支えられ他端で受圧プレート73を付勢するコイルばね74と、上記受圧プレート73の中央部に一体的に接続されると共に上記カムプレート70の中央貫通孔70bに挿通され、軸方向に摺動する摺動軸75と、上記摺動軸75のクラッチ弁係止部75aに係止された棒状のクラッチ弁76とから構成される。上記クラッチ弁76は、出力軸6内に設けられたクラッチ弁孔77に挿入されている。上記受圧プレート73と上記摺動軸75とは溶接によって一体に結合されている。
【0051】
ポンプケーシング8が静止状態、すなわちカムプレート70もスプリングシート71も回転していない状態では、コイルばね74が受圧プレート73に加える付勢力によりアーム部73aがローラ72をカムプレート溝70aに押し付ける。カムプレート溝70aは斜めになっているのでローラ72はカムプレート70の径方向内方に押し込まれ、受圧プレート73と、これと一体の摺動軸75と、摺動軸75に係止されているクラッチ弁76は、左方に移動した状態となっている。
【0052】
ポンプケーシング8が変速機入力歯車14(図1)を介して回転駆動され、カムプレート70、スプリングシート71が回転すると、遠心力によってローラ72はカムプレート70の傾斜面に沿って径方向外方へ押し出され、アーム部73aを右方へ押し、受圧プレート73はコイルばね74の付勢力に抗して右方へ動く。アーム部73aは、スプリングシート71に設けられた係合板71aに係合しているので、受圧プレート73はスプリングシート71と一体回転する。受圧プレート73とこれと一体の摺動軸75の右方向への移動量はローラ72に作用する遠心力、即ちポンプケーシング8の回転速度に応じて決まる。ポンプケーシング8の回転速度が高まると、摺動軸75に係止されているクラッチ弁76は出力軸6内のクラッチ弁孔77内の奥部へ移動する。このようにしてポンプケーシング8の回転によってローラ72に作用する遠心力を用いて遠心式ガバナ機構が構成される。
【0053】
図11に示されるように、出力軸6には、低圧油路60とクラッチ弁孔77とをつなぐ低圧油路連絡通路79が形成され、出力軸6およびポンプシリンダ10には、高圧油路61とクラッチ弁孔77とをつなぐ斜め油路80、環状溝81および高圧油路連絡通路82が形成されている。ポンプケーシング8が静止状態の時には、クラッチ弁76の小径部76aを介して、低圧油路連絡通路79と高圧油路連絡通路82とが連通し、その結果、低圧油路60と高圧油路61が連通するので、クラッチはOFFとなっている。
【0054】
ポンプケーシング8の回転が所定速度以上となり、上記ガバナ機構の遠心力作用によって、クラッチ弁76がクラッチ弁孔77の最奥部へ移動すると、高圧油路連絡通路82の開口はクラッチ弁76の大径部側面76bで塞がれる(図2におけるクラッチ弁76の位置参照)。これによって、低圧油路60と高圧油路61の連通が遮断され、油圧ポンプ2と高圧油路61と油圧モータ3と低圧油路60とからなるオイル循環の閉回路が形成され、静油圧式無段変速機1が機能する。クラッチOFF状態からクラッチON状態への移行はローラ72の移動によっているので、これに応じて、クラッチは徐々に接続される。
【0055】
図12は作動油と潤滑油の供給経路を示す静油圧式無段変速機1の要部縦断面図である。作動油は、内燃機関に設けられている高圧オイルポンプ(図示なし)から、出力軸6の中心に軸方向に形成された出力軸中心油路85に図の右端から供給される。出力軸中心油路85はその最奥部において、径方向に延びて外周に至る油路86につながる。油路86はさらに、出力軸6と一体となって回転する出力回転体R(モータシリンダ23、バルブボディ33、ポンプシリンダ10)内において出力軸6と平行に形成された出力回転体内油路87とつながる。出力回転体内油路87は、モータシリンダ23内の油路87a、バルブボディ33内の油路87b、ポンプシリンダ10内の油路87cからなる油路である。
【0056】
ポンプシリンダ10内には、高圧油路61内に補充油を供給するためのチェックバルブ88が設けてある。出力回転体内油路87は、その最奥部で径方向外方に向かう油路89を介してチェックバルブ88とにつながり、高圧油路61からの作動油の漏れ(圧力低下)に応じて、作動油がバルブボディ33の高圧油路61へ供給される。ポンプシリンダ10の別の部分に、低圧油路60に作動油を補充する油路とチェックバルブが上記と同様に設けてあり、低圧油路60からの作動油の漏れ(圧力低下)に応じて、低圧油路60に作動油が供給される(図示省略)。
【0057】
出力回転体内油路87の最奥部に対応する出力軸6の外周には外周環状溝90が設けてあり、出力回転体内油路87の最奥部と連通している。出力軸6のクラッチ弁孔77の内周には内周環状溝91が設けてあり、1箇所の連通油路92によって、前記外周環状溝90と連通している。出力軸6には、上記クラッチ弁孔内周環状溝91に連通して出力軸6の外周に向かう潤滑油噴射ノズル93が出力軸周囲に3箇所穿設してある。出力回転体内油路87内に供給されたオイルの一部が、外周環状溝90、連通油路92、内周環状溝91、および潤滑油噴射ノズル93を経て噴射され、ポンプ斜板9等が潤滑される。
【0058】
出力軸6には、出力軸中心油路85から、出力回転体Rの右端位置決め部のリテーナリング39へ向かう径方向油路94が1箇所設けてある。リテーナリング39の内周に形成されている環状溝39bに、上記径方向油路94の外側端部が連通している。上記内周環状溝39bと連通しリテーナリング39に3箇所穿設してある潤滑油噴射ノズル39a(図4)に、出力軸中心油路85内に供給されたオイルの一部が供給され、潤滑油噴射ノズル39aから噴射され、モータ斜板22等が潤滑される。
【0059】
以上詳述したように、上記実施形態においては次のような効果がもたらされる。
(1)上記アクチュエータ66によりモータ側偏心カムリング52を更に偏心させて、変速機中心面Cに関して、通常運転時とは逆方向に偏心させることによって、出力軸6の回転を入力の回転方向の逆方向に回転させるようにしたので、単純な構成で、出力軸6を逆回転させる機構を構成することができる。
(2)上記出力軸逆回転機構は、モータ側偏心カムリング52を、同偏心カムリングの外方に設けられた回動中心56を中心として回動可能に設けると共に、上記偏心カムリングの、同偏心各リングの中心Bに関して、回動中心56の反対側を上記アクチュエータ66により駆動するようにしたので、単純な構成で出力軸逆回転機構を構成することができる。
(3)上記アクチュエータは、2段階制御可能なアクチュエータ制御装置を備えているので、油圧アクチュエータ66で、ロックアップと出力軸逆転の2段階の動作を簡単に実現することができる。
(4)上記アクチュエータ制御装置には、出力軸逆回転への切換のための上記アクチュエータ66の作動を、シリンダ10、23が回転している時には禁止する手段を設けてあり、正回転の時に出力軸逆回転に切り替わることを防止することができるので、安全である。
(5)上記出力軸6を逆転させる前で変速比が所定値以下の時に、上記斜板22の傾斜角を変更して変速比を所定値以上に変更する手段、または上記出力軸6逆回転への切換のための上記油圧アクチュエータ66の作動を禁止する手段を設けてあるので、出力軸逆回転時のエンジンストップを防止することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…静油圧式無段変速機、2…斜板プランジャ式油圧ポンプ、3…斜板プランジャ式油圧モータ、9…ポンプ斜板、10…ポンプシリンダ、12…ポンププランジャ、22…モータ斜板、23…モータシリンダ、25…モータプランジャ、33…バルブボディ、47…ポンプ側切替弁、48…モータ側切替弁、51…ポンプ側偏心カムリング、52…モータ側偏心カムリング、56…ピン、60…低圧油路、61…高圧油路、66…アクチュエータ、A…バルブボデイ33の回転中心、B…モータ側偏心カムリング52の中心、C…変速機中心面、O…モータ揺動部材の回動中心、R…出力回転体
【技術分野】
【0001】
本発明は、静油圧式無段変速機に関するものであり、特に、車両後進のために変速機の出力軸を逆回転させる手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ロックアップ制御機構が開示されているが、出力軸逆回転手段は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−249099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、静油圧式無段変速機において、出力軸逆回転手段を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決したものであって、請求項1に記載の発明は、
2つの斜板9、22間に、シリンダ10に設けた複数のプランジャ12からなる油圧ポンプ2と、他のシリンダ23に設けた複数のプランジャ25からなる油圧モータ3とを設け、上記油圧ポンプ2から油圧モータ3側に作動油を送る高圧油路61と、上記油圧モータ3側から上記油圧ポンプ2側に作動油を送る低圧油路60と、偏心カムリング51、52の内周面に当接してバルブボデイ33の半径方向を往復動して上記プランジャ12、25と上記高圧油路61又は上記低圧油路60の対応関係を切り替える油圧切替弁47、48とを含む油圧回路を上記油圧ポンプ2のプランジャ12と上記油圧モータ3のプランジャ25との間に設け、上記斜板9、22の少なくとも一方22を傾動させて変速比を変化させると共に、上記偏心カムリング52をアクチュエータ66により偏心させて油圧回路を閉止するロックアップ機構を備えた静油圧式無段変速機1において、
上記アクチュエータ66により上記偏心カムリング52を更に駆動して、通常運転時とは逆方向に偏心させることによって、出力軸6の回転を入力の回転方向の逆方向に回転させることを特徴とする静油圧式無段変速機1に関するものである。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の静油圧式無段変速機1において、
上記ロックアップ機構は、上記偏心カムリング52を、同偏心カムリング52の外方に設けられた回動中心56を中心として回動可能に設けると共に、上記偏心カムリング52の、回動中心56の反対側を上記アクチュエータ66により駆動するようにしたことを特徴とするものである。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の静油圧式無段変速機1において、
上記アクチュエータ66は、2段階制御可能なアクチュエータ制御装置を備えた油圧アクチュエータ66であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の静油圧式無段変速機1において、
出力軸6逆回転への切換のための上記アクチュエータ66の作動を、上記シリンダ23が回転している時には禁止する手段を上記アクチュエータ制御装置に設けたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の静油圧式無段変速機1において、
上記出力軸6を逆転させる前で変速比が所定値以下の時に、上記斜板9,22の傾斜角を変更して変速比を所定値以上に変更する手段、または上記出力軸6逆回転への切換のための上記油圧アクチュエータ66の作動を禁止する手段を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明において、
単純な構成で、出力軸6を逆回転させる機構を構成することができる。
【0011】
請求項2の発明において、
単純な構成で出力軸6逆回転機構を構成することができる。
【0012】
請求項3の発明において、
油圧アクチュエータ66で、ロックアップと出力軸6逆回転の2段階の動作を簡単に実現することができる。
【0013】
請求項4の発明において、
正回転の時に出力軸6逆回転に切り替わることを防止することができるので、安全である。
【0014】
請求項5の発明において、
出力軸6逆回転時のエンジンストップを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る静油圧式無段変速機1の縦断面図である。
【図2】上記静油圧式無段変速機1の分配バルブ4付近の拡大縦断面図である。
【図3】コッタ38の図である。
【図4】リテーナリング39の図である。
【図5】C形クリップ40の図である。
【図6】図1のVI−VI断面図であり、車両前進時におけるモータ偏心環状部材55とモータ側偏心カムリング52付近の断面図である。
【図7】モータ揺動部材21の角度を変更するモータサーボ機構28の断面図である。
【図8】モータサーボ機構28によってモータ揺動部材21が直立(斜板の回転面が出力軸に直交)した状態を示す断面図である。
【図9】偏心量がゼロとなったときのモータ偏心環状部材55及びモータ側偏心カムリング52付近の断面図である。
【図10】後進駆動のために、モータ偏心環状部材55が図の右方へ回動駆動された状態を示す図である。
【図11】遠心式ガバナークラッチ5付近の縦断面図である。
【図12】作動油と潤滑油の供給経路を示す静油圧式無段変速機1の要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る静油圧式無段変速機1の縦断面図である。この変速機1は、車両に搭載された内燃機関に接続して用いられるものである。変速機1の出力は、複数の歯車を介して車輪の駆動に供される。上記静油圧式無段変速機1は斜板プランジャ式油圧ポンプ2と斜板プランジャ式油圧モータ3と分配バルブ4と遠心式ガバナークラッチ5とを備えて構成され、静油圧式無段変速機1の出力軸となる出力軸6がその中心を貫通して配設されている。出力軸6の左端は変速機ハウジング7にボールベアリングB1、B2によって、右端は変速機ハウジング7にボールベアリングB3によって回転自在に支持されている。
【0017】
図の中心より左側において、油圧ポンプ2は、出力軸6と同軸かつ相対回転可能に配設されたポンプケーシング8と、ポンプケーシング8の内部において、出力軸6に対して所定角度傾けて配設されたポンプ斜板9と、同ポンプ斜板9と対向して配設されたポンプシリンダ10と、ポンプシリンダ10内に出力軸6を囲んで環状に配列された複数のポンププランジャ孔11と、同ポンププランジャ孔11内に摺動可能に配設された複数のポンププランジャ12とから構成されている。ポンプケーシング8は、一端部が出力軸6にベアリングB2によって、他端部がポンプシリンダ10にベアリングB4によって回転可能に支持されるとともに、変速機ハウジング7に対してベアリングB1によって回転可能に支持されている。ポンプ斜板9は、ポンプケーシング8に対してベアリングB5、B6によって所定角度傾けて相対回転可能に配設されている。
【0018】
ポンプケーシング8の外周には、ボルト13によって締結された変速機入力歯車14が取り付けられている。また、ポンププランジャ12の外側端部はポンプシリンダ10の外方に突出してポンプ斜板9の斜板面9aの凹部に当接係合されている。ポンププランジャ12の内側端部はポンププランジャ孔11内にポンプ油室15を形成している。ポンププランジャ孔11の端部には、吐出口および吸入口として作用するポンプ開口通路16が形成されている。変速機入力歯車14が回転駆動されるとポンプケーシング8が回転し、その内部に配設されたポンプ斜板9がポンプケーシング8の回転に伴って3次元揺動を行い、ポンププランジャ12は斜板面9aの揺動に応じてポンププランジャ孔11内を往復運動し、ポンプ油室15内の作動油を吐出したり吸入したりする。
【0019】
図の中心より右側において、油圧モータ3のケーシング17は、変速機ハウジング7に結合されて固定保持されている。モータケーシング17は、球面部材18と延長部材19とからなり、ボルト20で結合されている。球面部材18の内面には支持球面18aが形成されている。油圧モータ3は、モータケーシング17と、上記支持球面18aに摺接して支持されたモータ揺動部材21と、モータ揺動部材21内にベアリングB7、B8により回転可能に支持されたモータ斜板22と、モータ斜板22と対向するモータシリンダ23と、モータシリンダ23内においてその回転中心線を囲んで環状に配列された複数のモータプランジャ孔24と、同モータプランジャ孔24内に摺動可能に配設された複数のモータプランジャ25とから構成される。モータシリンダ23はその外周部においてベアリングB9を介してモータケーシング17の延長部材19に回転自在に支持されている。モータ揺動部材21は、出力軸6の中心線に対して直角方向(紙面に垂直な方向)に伸びる回動中心Oを中心として揺動するよう支持されている。
【0020】
モータプランジャ25の外側端部はモータシリンダ23の外方に突出してモータ斜板22の斜板面22aの凹部に当接係合され、モータプランジャ25の内側端部はモータプランジャ孔24内にモータ油室26を形成する。モータプランジャ孔24の端部には、吐出口および吸入口として作用するモータ開口通路27が形成されている。モータ揺動部材21の上部外方に突出して形成されたアーム部21aの先端は、モータサーボ機構28のボールナット29に連結されており、ボールナット29にはボールネジ軸30が挿通されている。モータサーボ機構28によりボールネジ軸30が回転駆動されると、ボールナット29が動き、アーム部21aが左右に移動し、モータ揺動部材21が図の回動中心Oを中心として回動する。モータ揺動部材21が回動すると、その内部に回転可能に支持されているモータ斜板22も一緒に回動中心Oを中心として回動し、斜板角度が変化する。
【0021】
図2は、静油圧式無段変速機1の分配バルブ4付近の拡大縦断面図である。ポンプシリンダ10とモータシリンダ23との間に分配バルブ4が配設されている。分配バルブ4のバルブボディ33は、ポンプシリンダ10とモータシリンダ23との間に挟持され、ロー付けによりこれらのシリンダと一体結合されている。モータシリンダ23は出力軸6にスプライン34によって結合されている。したがって、ポンプシリンダ10、分配バルブ4、及びモータシリンダ23は、出力軸6と一体となって回転する。一体結合されたポンプシリンダ10、バルブボディ33、及びモータシリンダ23を、全体として出力回転体Rと呼ぶ。出力回転体Rを出力軸6に取り付ける際の軸方向の位置決め構造について述べる。ポンプシリンダ10の左端位置に対応する出力軸6の外周側に軸方向長さの短い大径部36が形成してある。ポンプシリンダ10の左端面がこの大径部36の端面に当接して、左方向の位置決めがなされる。
【0022】
図3、図4、図5は出力回転体Rの右側の位置決めに用いられる部材の図である。各図の、図(a)は軸方向正面図、図(b)は図(a)のB−B断面図である。出力回転体Rの右側の位置決めは、モータシリンダ23の端面に接して出力軸6に取り付けられた係止部材によって行われる。この係止部材は、コッタ38、リテーナリング39、およびC形クリップ40から構成される。係止部材取付けのために、出力軸6には、外周のスプライン34を横切って、環状の第1係止溝41、および第2係止溝42が形成されている。第1係止溝41には図3に示される半円状に分割形成された一対のコッタ38が嵌め込んで取り付けられる。その上に図4に示されるリテーナリング39が取り付けられる。リテーナリング39がコッタ38を覆い、さらに第2係止溝42に図5に示すC形クリップ40が取り付けられて、リテーナリング39の抜け止めがなされる。以上の結果、モータシリンダ23の右端面が係止部材に当接して右方向の位置決めがなされる。
【0023】
以上のように、出力回転体Rは周方向はスプライン34によって、左方向は大径部36によって、右方向は係止部材38、39、40によって出力軸6に対して位置決めされて一体化され、出力軸6と共に回転する。なお、リテーナリング39には、潤滑油噴射ノズル39aが、全周に3個穿設してある(図4)。
【0024】
図2において、分配バルブ4を構成するバルブボディ33内には、円周方向に等間隔で配置され径方向に延びる複数のポンプ側弁孔45とモータ側弁孔46とが、2列に形成されている。ポンプ側弁孔45内にはポンプ側切替弁47が、モータ側弁孔46内にはモータ側切替弁48が、それぞれ摺動可能に配設されている。
【0025】
上記ポンプ側弁孔45は、ポンププランジャ孔11に対応した位置に形成されている。バルブボディ33に複数のポンプ側連通路49が設けてある。これは上記の各ポンプ側弁孔45とポンププランジャ孔11の各ポンプ開口通路16とをそれぞれ連通するものである。上記モータ側弁孔46は、モータプランジャ孔24に対応した位置に形成されている。バルブボディ33に複数のモータ側連通路50が設けてある。これは上記の各モータ側弁孔46とモータプランジャ孔24の各モータ開口通路27とをそれぞれ連通するものである。
【0026】
分配バルブ4において、ポンプ側切替弁47の外周端を囲む位置にポンプ側偏心カムリング51が配設され、モータ側切替弁48の外周端を囲む位置にはモータ側偏心カムリング52が配設されている。ポンプ側偏心カムリング51は、ポンプ偏心環状部材53の内周に取り付けられている。ポンプ偏心環状部材53は、ポンプケーシング8の端部にボルト54(図1)によって結合されているものである。モータ側偏心カムリング52は、モータ偏心環状部材55の内周に取り付けられている。モータ偏心環状部材55は、モータケーシング17の延長部材19にピン56(図1)によって回動可能にによって結合されているものである。ポンプ側偏心カムリング51の内周面には、ポンプ側切替弁47の外側端がポンプ側規制リング57を介して摺動可能に係止され、モータ側偏心カムリング52の内周面には、モータ側切替弁48の外側端がモータ側規制リング58を介して摺動可能に係止されている。ポンプ側、モータ側いずれにおいても、偏心カムリング51、52と規制リング57、58とは相対回転可能となっている。
【0027】
バルブボディ33の内周面と向き合う出力軸6の外周面には、低圧油路60として作用する環状凹部が削設されている。すべてのポンプ側弁孔45の出力軸側開口端およびモータ側弁孔46の出力軸側開口端がこの低圧油路60に連通している。
【0028】
バルブボディ33内の外周の近くには高圧油路61が形成されている。高圧油路61は、ポンプ側弁孔45とモータ側弁孔46とを連通する軸方向貫通孔61aと、すべてのポンプ側弁孔45を環状に連通するポンプ側環状連通溝61bと、すべてのモータ側弁孔46を環状に連通するモータ側環状連通溝61cとから構成されている。これらの複数の孔61a、溝61b、61cは互いに連通して、高圧油路61を構成している。
【0029】
ここで、上記分配バルブ4の作動について述べる。内燃機関の駆動力が変速機入力歯車14に伝達されてポンプケーシング8が回転すると、この回転に応じてポンプ斜板9が3次元揺動をする。ポンプ斜板9の斜板面9aに当接係合されたポンププランジャ12は、ポンプ斜板9の3次元揺動によって、ポンププランジャ孔11内を軸方向に往復運動をする。ポンププランジャ12の内方移動時にポンプ油室15からポンプ開口通路16を通って作動油が吐出され、ポンププランジャ12の外方移動時にポンプ開口通路16を通ってポンプ油室15内に作動油が吸入される。
【0030】
ポンププランジャ12及びモータプランジャ25の移動方向及び位置を説明するに当たって、つぎの定義によって述べる。
ポンププランジャ12及びモータプランジャ25の移動は、分配バルブボディ33を中心として、中心に近づく方向への移動を内方移動、中心から遠ざかる方向への移動を外方移動とする。
ポンププランジャ12及びモータプランジャ25の位置は、分配バルブボディ33を中心として、中心に最も近づいた位置を内端位置、中心から最も遠ざかった位置を外端位置とする。
【0031】
ポンプケーシング8が回転すると、ポンプ偏心環状部材53の内周面に取り付けられたポンプ側偏心カムリング51は、ポンプケーシング8と共に回転する。ポンプ側偏心カムリング51の中心は、ポンプケーシング8の回転中心に対して偏心している。即ちバルブボディ33に対しても偏心して取り付けられているので、ポンプ側偏心カムリング51の回転に応じてポンプ側切替弁47がポンプ側弁孔45内を径方向に往復運動する。
【0032】
このように、ポンプ側切替弁47が往復運動し、バルブボディ33の中で径方向内方へ移動すると、ポンプ側切替弁47の小径部47aによってポンプ側連通路49が径方向外方へ開き、ポンプ開口通路16と高圧油路61とが連通する。逆に、ポンプ側切替弁47がバルブボディ33の中で径方向外方へ移動するとポンプ側連通路49が径方向内方へ開き、ポンプ開口通路16と低圧油路60とが連通する。
【0033】
ポンプケーシング8の回転に伴ってポンプ斜板9が揺動し、ポンププランジャ12が最も外方に押し出された位置と、最も内方に押し込まれた位置との間で往復運動するのに対応して、ポンプ側偏心カムリング51はポンプ側切替弁47を径方向に往復運動させる。この結果、ポンプケーシング8の回転に伴ってポンププランジャ12が内方へ移動する時には、ポンプ油室15内の作動油がポンプ開口通路16から吐出される。この時、ポンプ開口通路16は高圧油路61に連通するようポンプ側偏心カムリング51の偏心取付け位置が決められているので、作動油は高圧油路61に送出される。一方、ポンプケーシング8の回転に伴って、ポンププランジャ12が外方へ移動する時には、上記とは反対に、低圧油路60内の作動油がポンプ開口通路16を通ってポンプ油室15内に吸入される。即ち、ポンプケーシング8が回転駆動されると、出力軸6を挟んで、一方の側のポンプ油室15から吐出された作動油は高圧油路61に供給され、出力軸6を挟んで反対側のポンプ油室15へは低圧油路60から作動油が吸入される。
【0034】
図6は図1のVI−VI断面図であり、通常の車両前進時におけるモータ偏心環状部材55とモータ側偏心カムリング52付近の断面図である。この図はモータシリンダ23の方へ向いて見た図であり、出力軸6の正転状態におけるモータ偏心環状部材55を示している。モータ偏心環状部材55はモータケーシング17(図1)の延長部材19の端部にピン56によって回動可能に結合されている。モータ偏心環状部材55の内周面に取り付けられたモータ側偏心カムリング52の中心Bは、モータ偏心環状部材55が通常位置(図6の位置)にあるときには、変速機中心面C(ボールネジ軸30の中心と出力軸6の中心とを通る面)に対して左方へ偏心している。即ち、モータ側偏心カムリング52の中心Bは、バルブボデイ33の回転中心Aの左側に位置している。モータ側切替弁48はモータ側規制リング58によってモータ側偏心カムリング52の内周に常時当接しているので、モータシリンダ23が回転すると、その回転に応じてモータ側切替弁48がモータ側弁孔46内を径方向に往復運動する。
【0035】
図6の中心面Cの右側に示されるように、モータ側切替弁48がバルブボディ33の中で径方向内方へ移動すると、モータ側切替弁48の小径部48aによってモータ側連通路50が径方向外方へ開き高圧油路61と連通し、モータ開口通路27(図2)と高圧油路61とが連通するので、高圧油路61からモータ油室26(図2)へ作動油が送られる。図6の中心面Cの左側に示されるように、モータ側切替弁48がバルブボディ33の中で径方向外方へ移動すると、モータ側連通路50が径方向内方へ開き低圧油路60と連通し、モータ開口通路27(図2)と低圧油路60とが連通するので、モータ油室26から低圧油路60へ作動油が戻される。
【0036】
油圧ポンプ2から吐出された作動油は高圧油路61に送られ、この作動油はモータ側連通路50及びモータ開口通路27を通ってモータ油室26内に供給され、モータプランジャ25は軸方向外方に駆動される。モータプランジャ25の外側端の軸方向外方への押圧駆動力により、モータプランジャ25は、外方へ移動しつつ、モータ揺動部材21とベアリングB7、B8とが形成する傾斜面に沿って、モータ斜板22と共に移動する。この結果、モータシリンダ23はモータプランジャ25の移動に伴って回転する。モータシリンダ23の回転に伴って、これと一体のバルブボデイ33も回転し、モータ側偏心カムリング52はモータ側切替弁48をバルブボディ33の径方向に往復動させる。
【0037】
出力軸6を中心として、モータシリンダ23は、モータ斜板22の回転と共に回転するので、変速機中心面Cに関して、上記の外方移動するモータプランジャ25とは反対側のモータプランジャ25はモータ斜板22の回転と共に内方へ移動し、モータ油室26内の作動油はモータ開口通路27から低圧油路60に押し出され、ポンプ側連通路49及びポンプ開口通路16(図2)を通ってポンプ油室15内に吸収される。
【0038】
以上のように、油圧ポンプ2と油圧モータ3とをつなぐ油圧閉回路が分配バルブ4によって構成され、油圧ポンプ2の回転に応じて吐出された作動油が、油圧閉回路の一方(高圧油路61)を介して油圧モータ3に送られてこれを回転駆動し、さらに、油圧モータ3の回転に伴って油圧モータ3から吐出された作動油は油圧閉回路の他方(低圧油路60)を介して油圧ポンプ2に戻される。
【0039】
上記の静油圧式無段変速機1において、内燃機関からの入力によって油圧ポンプ2が駆動され、油圧モータ3の回転駆動力が分配バルブ4および油圧モータ3を介して変速され、出力軸6から取り出され、車輪に伝達される。車両が通常走行する状態の時には、高圧油路61が高圧となり、低圧油路60が低圧となる。しかし、降坂路走行等において、車輪からの駆動力が出力軸6から油圧モータ3に伝達され、油圧ポンプ2の回転駆動力が内燃機関に伝達されてエンジンブレーキ作用が生じる状態の時には、低圧油路60が高圧となり、高圧油路61が低圧となる。
【0040】
図7は、モータ揺動部材21の角度を変更するモータサーボ機構28の断面図である。モータサーボ機構28はモータ揺動部材21のアーム部21aの近くに位置し、出力軸6と平行なボールネジ軸30と、ボールネジ軸30に螺合するボールナット29を備えている。ボールナット29はモータ揺動部材21のアーム部21aに連結されており、ボールネジ軸30が回転駆動されると、ボールナット29がボールネジ軸30上を移動し、モータ揺動部材21が回動する。
【0041】
ボールネジ軸30を回転駆動するために、変速機ハウジング7の外側面に斜板制御モータ62が取付けられている。斜板制御モータ62の回転軸63に設けられたピニオン63aの駆動力は、中間軸64の中間歯車64a、46bを介してボールネジ軸30の端部の歯車65に伝達され、ボールネジ軸30を回転駆動し、モータ揺動部材21を回動させ、モータ斜板22の傾斜角を変えることができる。
【0042】
図8は、上記モータサーボ機構28によってモータ揺動部材21が直立(斜板の回転面が出力軸6に直交)した状態を示す断面図である。静油圧式無段変速機1の変速比はモータ揺動部材21の傾斜角を変化させることによって無段階に変化させることができる。モータ揺動部材21の傾斜角を変え、モータ斜板22が出力軸6に直交した時、トップ変速比となる。
【0043】
図9は、偏心量がゼロとなったときのモータ偏心環状部材55及びモータ側偏心カムリング52付近の断面図である。モータ斜板22の傾斜が90度、即ちトップ変速比となった時、アクチュエータ66に作動油が注入され、ピストンロッド67が押し出され、モータ偏心環状部材55が回動駆動され、モータ側偏心カムリング52の偏心量がゼロとなるよう制御される。この時、モータ側偏心カムリング52の中心Bはバルブボデイ33の中心Aと一致する。図9はこのようにして中心Aと中心Bとが一致した状態を示している。この時、油圧ポンプ2、高圧油路61、油圧モータ3、及び低圧油路60からなる油圧閉回路は閉鎖され、ポンプシリンダ10、バルブボディ33、モータシリンダ23、および出力軸6は、変速機入力歯車14及びポンプケーシング8と一体回転(いわゆる直結)し、入力回転と出力回転が同じとなる。この状態をロックアップと呼ぶ。ロックアップのためにアクチュエータ66へは、アクチュエータ制御機構により予め調整された適量の作動油が注入される。
【0044】
図10は、車両の後進駆動のために、アクチュエータ66に作動油が更に注入され、ピストンロッド67が更に押し出され、モータ偏心環状部材55が図の右方へ回動駆動された状態を示す図である。この時、モータ側偏心カムリング52の中心Bは、モータシリンダ23の方へ向いて、変速機中心面Cの右側にあり、バルブボデイ33の中心Aの右側にある。これは、車両の停止状態から後進に移る場合に操作される状態であり、斜板の角度は通常の前進時の角度と同じである。内燃機関が始動されると、バルブボディ33における高圧油送給位置が、モータシリンダの方へ向いて変速機中心面Cの左側、即ち、変速機中心面に関して、前進時とは逆になるので、出力回転体Rは前進時とは逆の方向に回転し、出力軸6は逆転し、車両を後進させることができる。
【0045】
アクチュエータ66に最大量の作動油を注入することにより、上記偏心カムリング52を更に偏心させて、通常運転時とは逆方向に偏心させることによって、出力軸6の回転を入力の回転方向の逆方向に回転させるようにしたので、単純な構成で、出力軸6を逆回転させる機構を構成することができる。
【0046】
上記出力軸逆回転機構は、上記偏心カムリング52を、同偏心カムリング52の上方に設けられたピン56を中心として回動可能に設けると共に、上記偏心カムリング52の、同偏心カムリングの中心Bに関して、ピン56の反対側を上記アクチュエータ66により駆動するようにしたので、単純な構成で出力軸逆回転機構を構成することが可能となっている。また、上記アクチュエータ66は、2段階制御可能なアクチュエータ制御装置を備えているので、油圧アクチュエータで、ロックアップと出力軸逆転の2段階の動作を簡単に実現することができる。
【0047】
車両を後進させようとする時、内燃機関が既に運転状態にある場合は、内燃機関と無段変速機1との間に設けてあるクラッチ(図示なし)をOFFにした状態で、モータ偏心環状部材55の回動を行い、モータ偏心環状部材55の回動が終了してからクラッチをONにし、無段変速機入力歯車14に内燃機関の駆動力を接続する。
【0048】
アクチュエータ制御装置には、出力軸逆回転への切換のための上記アクチュエータの作動を、上記シリンダが回転している時には禁止する手段が設けてあるので、正回転時に突然逆回転することが無く、安全である。また、上記出力軸6を逆転させる前で変速比が所定値以下の時に、上記斜板22の傾斜角を変更して変速比を所定値以上に変更する手段、または上記出力軸6逆回転への切換のための上記油圧アクチュエータ66の作動を禁止する手段を設けてあるので、出力軸逆回転時のエンジンストップを防止することができる。この静油圧式無段変速機1には遠心式ガバナークラッチ5が組み込まれているので、内燃機関の駆動力が入力された後は、スムーズに静油圧式無段変速機1が作動を始める。
【0049】
図11は遠心式ガバナークラッチ5付近の縦断面図である。静油圧式無段変速機1においては、低圧油路60と高圧油路61とを連通させると、高油圧が発生しなくなり、油圧ポンプ2と油圧モータ3との間の動力伝達が行われなくなる。すなわち、低圧油路60と高圧油路61との連通開度の制御を行うことによってクラッチ制御が行われる。
【0050】
遠心式ガバナークラッチ5は、ポンプケーシング8の端部にボルト69によって結合されたカムプレート70およびスプリングシート71と、カムプレート70の内面に径方向に斜めに延びて形成された複数のカムプレート溝70a内にそれぞれ受容されたローラ72と、カムプレート溝70aと対向するアーム部73aを有する受圧プレート73と、一端がスプリングシート71に支えられ他端で受圧プレート73を付勢するコイルばね74と、上記受圧プレート73の中央部に一体的に接続されると共に上記カムプレート70の中央貫通孔70bに挿通され、軸方向に摺動する摺動軸75と、上記摺動軸75のクラッチ弁係止部75aに係止された棒状のクラッチ弁76とから構成される。上記クラッチ弁76は、出力軸6内に設けられたクラッチ弁孔77に挿入されている。上記受圧プレート73と上記摺動軸75とは溶接によって一体に結合されている。
【0051】
ポンプケーシング8が静止状態、すなわちカムプレート70もスプリングシート71も回転していない状態では、コイルばね74が受圧プレート73に加える付勢力によりアーム部73aがローラ72をカムプレート溝70aに押し付ける。カムプレート溝70aは斜めになっているのでローラ72はカムプレート70の径方向内方に押し込まれ、受圧プレート73と、これと一体の摺動軸75と、摺動軸75に係止されているクラッチ弁76は、左方に移動した状態となっている。
【0052】
ポンプケーシング8が変速機入力歯車14(図1)を介して回転駆動され、カムプレート70、スプリングシート71が回転すると、遠心力によってローラ72はカムプレート70の傾斜面に沿って径方向外方へ押し出され、アーム部73aを右方へ押し、受圧プレート73はコイルばね74の付勢力に抗して右方へ動く。アーム部73aは、スプリングシート71に設けられた係合板71aに係合しているので、受圧プレート73はスプリングシート71と一体回転する。受圧プレート73とこれと一体の摺動軸75の右方向への移動量はローラ72に作用する遠心力、即ちポンプケーシング8の回転速度に応じて決まる。ポンプケーシング8の回転速度が高まると、摺動軸75に係止されているクラッチ弁76は出力軸6内のクラッチ弁孔77内の奥部へ移動する。このようにしてポンプケーシング8の回転によってローラ72に作用する遠心力を用いて遠心式ガバナ機構が構成される。
【0053】
図11に示されるように、出力軸6には、低圧油路60とクラッチ弁孔77とをつなぐ低圧油路連絡通路79が形成され、出力軸6およびポンプシリンダ10には、高圧油路61とクラッチ弁孔77とをつなぐ斜め油路80、環状溝81および高圧油路連絡通路82が形成されている。ポンプケーシング8が静止状態の時には、クラッチ弁76の小径部76aを介して、低圧油路連絡通路79と高圧油路連絡通路82とが連通し、その結果、低圧油路60と高圧油路61が連通するので、クラッチはOFFとなっている。
【0054】
ポンプケーシング8の回転が所定速度以上となり、上記ガバナ機構の遠心力作用によって、クラッチ弁76がクラッチ弁孔77の最奥部へ移動すると、高圧油路連絡通路82の開口はクラッチ弁76の大径部側面76bで塞がれる(図2におけるクラッチ弁76の位置参照)。これによって、低圧油路60と高圧油路61の連通が遮断され、油圧ポンプ2と高圧油路61と油圧モータ3と低圧油路60とからなるオイル循環の閉回路が形成され、静油圧式無段変速機1が機能する。クラッチOFF状態からクラッチON状態への移行はローラ72の移動によっているので、これに応じて、クラッチは徐々に接続される。
【0055】
図12は作動油と潤滑油の供給経路を示す静油圧式無段変速機1の要部縦断面図である。作動油は、内燃機関に設けられている高圧オイルポンプ(図示なし)から、出力軸6の中心に軸方向に形成された出力軸中心油路85に図の右端から供給される。出力軸中心油路85はその最奥部において、径方向に延びて外周に至る油路86につながる。油路86はさらに、出力軸6と一体となって回転する出力回転体R(モータシリンダ23、バルブボディ33、ポンプシリンダ10)内において出力軸6と平行に形成された出力回転体内油路87とつながる。出力回転体内油路87は、モータシリンダ23内の油路87a、バルブボディ33内の油路87b、ポンプシリンダ10内の油路87cからなる油路である。
【0056】
ポンプシリンダ10内には、高圧油路61内に補充油を供給するためのチェックバルブ88が設けてある。出力回転体内油路87は、その最奥部で径方向外方に向かう油路89を介してチェックバルブ88とにつながり、高圧油路61からの作動油の漏れ(圧力低下)に応じて、作動油がバルブボディ33の高圧油路61へ供給される。ポンプシリンダ10の別の部分に、低圧油路60に作動油を補充する油路とチェックバルブが上記と同様に設けてあり、低圧油路60からの作動油の漏れ(圧力低下)に応じて、低圧油路60に作動油が供給される(図示省略)。
【0057】
出力回転体内油路87の最奥部に対応する出力軸6の外周には外周環状溝90が設けてあり、出力回転体内油路87の最奥部と連通している。出力軸6のクラッチ弁孔77の内周には内周環状溝91が設けてあり、1箇所の連通油路92によって、前記外周環状溝90と連通している。出力軸6には、上記クラッチ弁孔内周環状溝91に連通して出力軸6の外周に向かう潤滑油噴射ノズル93が出力軸周囲に3箇所穿設してある。出力回転体内油路87内に供給されたオイルの一部が、外周環状溝90、連通油路92、内周環状溝91、および潤滑油噴射ノズル93を経て噴射され、ポンプ斜板9等が潤滑される。
【0058】
出力軸6には、出力軸中心油路85から、出力回転体Rの右端位置決め部のリテーナリング39へ向かう径方向油路94が1箇所設けてある。リテーナリング39の内周に形成されている環状溝39bに、上記径方向油路94の外側端部が連通している。上記内周環状溝39bと連通しリテーナリング39に3箇所穿設してある潤滑油噴射ノズル39a(図4)に、出力軸中心油路85内に供給されたオイルの一部が供給され、潤滑油噴射ノズル39aから噴射され、モータ斜板22等が潤滑される。
【0059】
以上詳述したように、上記実施形態においては次のような効果がもたらされる。
(1)上記アクチュエータ66によりモータ側偏心カムリング52を更に偏心させて、変速機中心面Cに関して、通常運転時とは逆方向に偏心させることによって、出力軸6の回転を入力の回転方向の逆方向に回転させるようにしたので、単純な構成で、出力軸6を逆回転させる機構を構成することができる。
(2)上記出力軸逆回転機構は、モータ側偏心カムリング52を、同偏心カムリングの外方に設けられた回動中心56を中心として回動可能に設けると共に、上記偏心カムリングの、同偏心各リングの中心Bに関して、回動中心56の反対側を上記アクチュエータ66により駆動するようにしたので、単純な構成で出力軸逆回転機構を構成することができる。
(3)上記アクチュエータは、2段階制御可能なアクチュエータ制御装置を備えているので、油圧アクチュエータ66で、ロックアップと出力軸逆転の2段階の動作を簡単に実現することができる。
(4)上記アクチュエータ制御装置には、出力軸逆回転への切換のための上記アクチュエータ66の作動を、シリンダ10、23が回転している時には禁止する手段を設けてあり、正回転の時に出力軸逆回転に切り替わることを防止することができるので、安全である。
(5)上記出力軸6を逆転させる前で変速比が所定値以下の時に、上記斜板22の傾斜角を変更して変速比を所定値以上に変更する手段、または上記出力軸6逆回転への切換のための上記油圧アクチュエータ66の作動を禁止する手段を設けてあるので、出力軸逆回転時のエンジンストップを防止することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…静油圧式無段変速機、2…斜板プランジャ式油圧ポンプ、3…斜板プランジャ式油圧モータ、9…ポンプ斜板、10…ポンプシリンダ、12…ポンププランジャ、22…モータ斜板、23…モータシリンダ、25…モータプランジャ、33…バルブボディ、47…ポンプ側切替弁、48…モータ側切替弁、51…ポンプ側偏心カムリング、52…モータ側偏心カムリング、56…ピン、60…低圧油路、61…高圧油路、66…アクチュエータ、A…バルブボデイ33の回転中心、B…モータ側偏心カムリング52の中心、C…変速機中心面、O…モータ揺動部材の回動中心、R…出力回転体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの斜板(9,22)間に、シリンダ(10)に設けた複数のプランジャ(12)からなる油圧ポンプ(2)と、他のシリンダ(23)に設けた複数のプランジャ(25)からなる油圧モータ(3)とを設け、上記油圧ポンプ(2)から油圧モータ(3)側に作動油を送る高圧油路(61)と、上記油圧モータ(3)側から上記油圧ポンプ(2)側に作動油を送る低圧油路(60)と、偏心カムリング(51,52)の内周面に当接してバルブボデイ(33)の半径方向を往復動して、上記プランジャ(12,25)と上記高圧油路(61)又は上記低圧油路(60)の対応関係を切り替える油圧切替弁(47,48)とを含む油圧回路を、上記油圧ポンプ(2)のプランジャ(12)と上記油圧モータ(3)のプランジャ(25)との間に設け、上記斜板(9,22)の少なくとも一方(22)を傾動させて変速比を変化させると共に、上記偏心カムリング(52)をアクチュエータ(66)により偏心させて油圧回路を閉止するロックアップ機構を備えた静油圧式無段変速機(1)において、
上記アクチュエータ(66)により上記偏心カムリング(52)を更に駆動して、通常運転時とは逆方向に偏心させることによって、出力軸(6)の回転を入力の回転方向の逆方向に回転させることを特徴とする静油圧式無段変速機(1)。
【請求項2】
上記出力軸逆回転機構は、上記偏心カムリング(52)を、同偏心カムリング(52)の外方に設けられた回動中心(56)を中心として回動可能に設けると共に、上記偏心カムリング(52)の、同偏心カムリングの中心(B)に関して、回動中心(56)の反対側を上記アクチュエータ(66)により駆動するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の静油圧式無段変速機。
【請求項3】
上記アクチュエータ(66)は、2段階制御可能なアクチュエータ制御装置を備えた油圧アクチュエータ(66)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静油圧式無段変速機。
【請求項4】
出力軸(6)逆回転への切換のための上記アクチュエータ(66)の作動を、上記シリンダ(10、23)が回転している時には禁止する手段を上記アクチュエータ制御装置に設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の静油圧式無段変速機。
【請求項5】
上記出力軸(6)を逆転させる前で変速比が所定値以下の時に、上記斜板(9,22)の傾斜角を変更して変速比を所定値以上に変更する手段、または上記出力軸(6)逆回転への切換のための上記油圧アクチュエータ(66)の作動を禁止する手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の静油圧式無段変速機。
【請求項1】
2つの斜板(9,22)間に、シリンダ(10)に設けた複数のプランジャ(12)からなる油圧ポンプ(2)と、他のシリンダ(23)に設けた複数のプランジャ(25)からなる油圧モータ(3)とを設け、上記油圧ポンプ(2)から油圧モータ(3)側に作動油を送る高圧油路(61)と、上記油圧モータ(3)側から上記油圧ポンプ(2)側に作動油を送る低圧油路(60)と、偏心カムリング(51,52)の内周面に当接してバルブボデイ(33)の半径方向を往復動して、上記プランジャ(12,25)と上記高圧油路(61)又は上記低圧油路(60)の対応関係を切り替える油圧切替弁(47,48)とを含む油圧回路を、上記油圧ポンプ(2)のプランジャ(12)と上記油圧モータ(3)のプランジャ(25)との間に設け、上記斜板(9,22)の少なくとも一方(22)を傾動させて変速比を変化させると共に、上記偏心カムリング(52)をアクチュエータ(66)により偏心させて油圧回路を閉止するロックアップ機構を備えた静油圧式無段変速機(1)において、
上記アクチュエータ(66)により上記偏心カムリング(52)を更に駆動して、通常運転時とは逆方向に偏心させることによって、出力軸(6)の回転を入力の回転方向の逆方向に回転させることを特徴とする静油圧式無段変速機(1)。
【請求項2】
上記出力軸逆回転機構は、上記偏心カムリング(52)を、同偏心カムリング(52)の外方に設けられた回動中心(56)を中心として回動可能に設けると共に、上記偏心カムリング(52)の、同偏心カムリングの中心(B)に関して、回動中心(56)の反対側を上記アクチュエータ(66)により駆動するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の静油圧式無段変速機。
【請求項3】
上記アクチュエータ(66)は、2段階制御可能なアクチュエータ制御装置を備えた油圧アクチュエータ(66)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静油圧式無段変速機。
【請求項4】
出力軸(6)逆回転への切換のための上記アクチュエータ(66)の作動を、上記シリンダ(10、23)が回転している時には禁止する手段を上記アクチュエータ制御装置に設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の静油圧式無段変速機。
【請求項5】
上記出力軸(6)を逆転させる前で変速比が所定値以下の時に、上記斜板(9,22)の傾斜角を変更して変速比を所定値以上に変更する手段、または上記出力軸(6)逆回転への切換のための上記油圧アクチュエータ(66)の作動を禁止する手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の静油圧式無段変速機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−208717(P2011−208717A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76600(P2010−76600)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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