静電保持装置及びそれを利用した移載方法及び塗膜の付与方法並びに成形型
【課題】凹凸や湾曲部を備えた立体形状を有する被塗物へも転写が行える塗膜の付与方法を提供すること。
【解決手段】ハンドリング対象物102の立体的な一表面形状102aに合致した立体的な静電保持面501を備えた静電保持装置500を用いる。被塗物1の立体的な一表面1aの形状に合致させて立体的に成形された立体塗膜形成用フィルム102を静電保持装置500の静電保持面501に保持させて被塗物1の表面へ移載する塗膜移載工程と、被塗物1の表面1aに立体塗膜形成用フィルム102が移載された状態で立体塗膜形成用フィルム102に物理的及び/又は化学的な作用をさせて立体塗膜形成用フィルム102を被塗物1に固着させる塗膜硬化工程とを含む。家電製品や車両等の塗装に用いることができる。
【解決手段】ハンドリング対象物102の立体的な一表面形状102aに合致した立体的な静電保持面501を備えた静電保持装置500を用いる。被塗物1の立体的な一表面1aの形状に合致させて立体的に成形された立体塗膜形成用フィルム102を静電保持装置500の静電保持面501に保持させて被塗物1の表面へ移載する塗膜移載工程と、被塗物1の表面1aに立体塗膜形成用フィルム102が移載された状態で立体塗膜形成用フィルム102に物理的及び/又は化学的な作用をさせて立体塗膜形成用フィルム102を被塗物1に固着させる塗膜硬化工程とを含む。家電製品や車両等の塗装に用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドリング対象物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面を備えた静電保持装置、及びそれを用いた移載方法、塗膜の付与方法並びに成形型に関する。また、本発明は、特に、単独では形態を維持することが困難な程度に立体形状に賦形された薄膜成形体の立体形状を維持した状態で薄膜成形体を保持できる静電保持装置、及びそれを用いた移載方法、塗膜の付与方法並びに成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被塗物の表面への薄膜の付与方法としては、ローラー塗り、刷毛塗り、スプレー塗りなどによる被塗物への塗膜を形成する方法に加え、静電塗装、粉末塗装など、種々の塗膜の形成手法が知られている。また、予め塗膜となるべきフィルムを形成しておき、塗膜用フィルムを被塗物の表面に密着させて、接着により塗膜用フィルムを被塗物の表面へ転写することも行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
塗料などの液体による塗装では、塗料の粘性が低い場合には一回の塗装では塗膜の厚みには限界があり、例えば、10〜25μm程度を越えて厚みの厚い塗膜を形成するためには、重ね塗りが必要となる。重ね塗りは、下地となる塗膜が乾燥した後に上塗りを塗布させることが好ましく、この場合には塗膜付与工程が長時間必要となるという課題がある。一方、塗料の粘性を増大させれば厚塗りは可能であるが仕上げ面の品質の低下は避けがたい。
【0004】
これに対して、塗膜用フィルムなどの固形物を被塗物の表面へ転写する転写法によれば、1回の転写により厚膜を付与できるという特徴を備えている。しかしながら、従来の転写法は、被塗物が平面である場合に限られ、立体面への転写は行われていない。
【0005】
被塗物が立体である場合にも転写法による塗膜が被塗物に付与できれば、塗膜付与工程の飛躍的な改善が期待される。
【0006】
そこで、この発明の目的は、凹凸や湾曲部を備えた立体形状を有する被塗物へも転写が行える塗膜の付与方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意研究した結果、被塗物の立体面に沿った形状の成形型を用いて立体的な塗膜形成用フィルムを形成させ、その形状を保ったままで被塗物に移載し、塗膜形成用フィルムを硬化させれば、被塗物が立体面を有する場合であっても、転写が行えるのではないかと考えた。
【0008】
また、この際、静電チャックの静電保持面を被塗面の形状に合致した立体的な面とすることにより、単独では形態を維持することが困難な程度に立体形状に賦形された塗膜形成用フィルムであっても、その立体形状を維持した状態で塗膜形成用フィルムの形態を維持しつつ保持できると考えた。
【0009】
また、このような被塗面の形状に合致した静電保持面を金型の成形面に設ければ、成形された成形体をそのまま静電保持性能を有する成形面に保持させて被塗物まで移載できると考えた。
【0010】
さらに、このような静電保持装置及び金型は、ハンドリング対象物(又は塗膜形成用フィルム)が立体形状を維持するのが困難であるものに限らず、形状維持性のあるハンドリング対象物(又は塗膜形成用フィルム)であっても、応用可能であることを見出した。
【0011】
すなわち第1の発明は、ハンドリング対象物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面を備えた静電保持装置である。
【0012】
ここで、ハンドリング対象物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面とは、ハンドリング対象物の一表面の形状と概略同一形状であるか、または該一表面に嵌合又は衝合する形状を意味する。
【0013】
また、第2の発明は、立体的な一表面形状を備えて成形された立体フィルム成形体を、前記一表面形状に合致した請求項1記載の静電保持装置の静電保持面に保持させて移載する移載方法である。
【0014】
また、第3の発明は、被塗物の立体的な一表面形状に合致させて立体的に成形された立体塗膜形成用フィルムを請求項1記載の静電保持装置の静電保持面に保持させて被塗物の表面へ移載する塗膜移載工程と、被塗物の表面に立体塗膜形成用フィルムが移載された状態で立体塗膜形成用フィルムに物理的及び/又は化学的な作用をさせて該立体塗膜形成用フィルムを被塗物に固着させる塗膜硬化工程とを含むことを特徴とする塗膜の付与方法である。
【0015】
ここで、静電保持面は紫外線、光線、電子線の少なくとも一つを含む放射線に対して透過性を備えているのが好ましい。このような静電保持面を有すれば、静電保持面により塗膜形成用フィルムを被塗物の表面に保持させた状態で、放射線を照射させて該塗膜形成用フィルムを硬化させることができ、付与する塗膜形成用フィルムに放射線の照射により接着性を発現させつつ硬化する材料を含ませることにより、被塗物の表面に対して高品質の塗膜を付与させることができる。
【0016】
また、第4の発明は、被塗物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面を備えた成形型である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、凹凸や湾曲部を備えた立体形状を有する被塗物へも転写が行える塗膜の付与方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に第1の発明に係る静電保持装置につき図面を参照しつつ説明する。
【0019】
まず、本発明の説明に先立ち、図11に示す一般的な静電保持装置100について説明する。
【0020】
図11において、符号504は電極(静電電極)を取り付けるベース部材であり、一対の電極要素502a,502bが絶縁材料503に覆われてベース部材504に固定されている。また、これらの電極要素502a、502bは電圧制御部505に接続され、電圧制御部505の制御により各電極要素502aには−V(ボルト)、電極要素502bには+V(ボルト)の所定の電圧が印加され、又は各電極要素502a、502bは接地されるように構成されている。
【0021】
つぎに、このように構成された静電保持装置の作用について説明する。電圧制御部505から各電極要素502a、502bに所定の電圧を印加する。これにより、静電保持面501に静電気力が誘起されてハンドリング対象物102が静電気吸引力で静電保持面501に吸着されて保持される。
【0022】
各電極要素502a、502bへの電圧印加を遮断して各電極要素502a、502bを接地させることにより、静電保持面501は静電気力がなくなり、ハンドリング対象物102の保持が解除される。
【0023】
また、電圧制御部505の電圧の印加を適宜に制御することにより、静電吸引力とハンドリング対象物の重力による落下とのバランスを図ることにより、ハンドリング対象物102を浮上状態で保持することもできる。
【0024】
このような静電チャックは、例えば、特開2004−120921号公報、特開平7−257751号公報、特開平9−322564号公報、特開平10−66367号公報、特開2001−9766号公報などに詳細に説明されている。
【0025】
ここで、従来の静電保持面501は、ハンドリング対象物102が薄板、フィルムなどの平板材料であったので、大略、図11に示すよな平面上に形成されている。これにより、薄板等を対象として保持しても、真空チャックに比較して、周辺部分を含んで撓むことなく薄板を電極面全体の静電力により保持することができる。
【0026】
そこで、本発明の一実施例に係る静電保持装置500では、静電保持面501の形状を、図1に示すように、ハンドリング対象物102の外表面102aの立体形状と概略嵌合する形状とする。この静電保持装置500は、図11に示す静電保持装置100と同様な原理で作動するものであり、不図示のベース部材504に電極要素502a,502bが絶縁材料503に覆われて固定されて、これらの電極要素502a、502bには電圧制御部505から一定の電圧が印加、遮断されるように構成されている。
【0027】
ここで、第1の発明の本質的な目的が、立体的に成形されたハンドリング対象物102(例えば、塗膜形成用フィルム)の形態を維持させた状態でハンドリング対象物102を保持することであるので、例えば、静電保持面501が複数の区画に分画されて隣接する区画が相互に離間していても、各静電保持面501を集合させた状態でハンドリング対象物102の形態を維持しつつ保持できればよい。この離間の程度は、ハンドリング対象物102の状態により異なる。
【0028】
つぎに、このように構成された静電保持装置500の作用について説明しつつ、第2の発明に係る移載方法の発明について説明する。
【0029】
静電保持面501をハンドリング対象物102の近傍に移動させ、電圧制御部505を作動させて各電極要素502a、502bのそれぞれに電圧を印加する。これにより、静電気保持面501に静電気吸引力が作用してハンドリング対象物102は静電保持面501に吸着される。この吸着は面吸着であるので、ハンドリング対象物102が形態保持性が不安定で有ったり、また、極端にハンドリング対象物102に自立性を有さない場合でも、この静電保持面501が支持体として作用して、ハンドリング対象物102の形態を維持するように補助するので、静電保持装置500又は静電保持面501を移動させてもハンドリング対象物102は静電保持面501に確実に保持され、移動できる。
【0030】
つぎに、電圧制御部505を作動させ、各電極要素502a、502bへの電圧供給を遮断して電極要素502a、502bを接地させることにより、静電気力がなくなり、ハンドリング対象物102をリリースすることができる。
【0031】
これにより、この静電保持装置を用いれば、自立性が欠ける、すなわち、単独では形態を維持してハンドリングが困難である立体形状の薄膜成形体であっても、形態を維持しつつ、また、薄膜成形体に応力(ストレス)を発生させることなく移載することができる。
【0032】
つぎに、第3の発明に係る塗膜の付与方法に係る発明につき図面を参照しつつ説明する。
【0033】
この塗膜の付与方法は、被塗物の立体的な一表面形状に合致させて立体的に成形された立体塗膜形成用フィルムを第1の発明に係る静電保持装置の静電保持面501に保持させて被塗物の表面へ移載する塗膜移載工程S1と、被塗物の表面に立体塗膜形成用フィルムが移載された状態で立体塗膜形成用フィルムを物理的及び/又は化学的な作用をさせて被塗物に固着させる塗膜硬化工程S2とから基本的に構成される。
【0034】
ここで、この塗膜移載工程S1に付される立体形成用フィルムは被塗物の立体的な一表面形状に合致させて立体的に成形された立体塗膜形成用フィルムであり、その製造方法は限定されない。
【0035】
図2に示すように、半球状の突起を有する被塗物の外形と全く同一の外形を有する成形型10を用意する。この成形型10の表面10aは剥離性素材により形成されている。この成形型10の剥離性の表面10aに常法により塗膜102を付与する(図3)。この塗膜102は、例えば、公知の離型紙上に形成される塗膜層と本質的に同一であってよい。
【0036】
最も単純な構成では、表面10a上に熱可塑性高分子や、熱硬化性樹脂、光架橋性高分子、電子線硬化性高分子などの硬化性高分子の塗膜を形成することである。塗膜の付与は、スプレー塗り、刷毛塗り、ローラ塗りなど適宜の手法が採用される。また、これらの塗膜は、単層でも複層であってもよく、必要に応じて、顔料、染料、着色剤、安定剤、充填材などの各種添加剤が含有されていてもよい。
【0037】
一例として、被塗物1が車両であり、この車両用塗膜が、図4に示すように、被塗物1としての車体外板の上に、下塗り塗膜2,ベース層3、第1のクリア塗膜4,第2のクリア塗膜5の4層構造である場合には、これらの下塗り塗膜2,ベース層3、第1のクリア塗膜4,第2のクリア塗膜5の4層構造の塗膜102を付与する。もちろん、これらの各層2〜5がそれぞれ別々に順次付与されても、また、層1,2と層3,4とがそれぞれ別々に付与されていてもよい。
【0038】
これにより得られた塗膜102は、支持体としての成形型10に支持されて立体形状を維持し、離型性の表面10aから剥離した状態では形態を維持することが困難である。例えば、この塗膜102の両端だけを保持したのでは、塗膜102に掛かる応力によりこの塗膜102は破損する場合がある。
【0039】
そこで、図5に示すように、静電保持面501の形状が表面10a(又は被塗物の外形)に嵌合する形状である静電保持装置500を用意する。この静電保持装置500は、図11に示す静電保持装置100と同様な原理で作動するものであり、不図示のベース部材504に電極要素502a,502bが絶縁材料503に覆われて固定されて、これらの電極要素502a、502bには電圧制御部505から一定の電圧が印加、遮断されるように構成されている。
【0040】
この静電保持装置500を用い、必要に応じて位置合わせを行いつつ、静電保持面501を表面10aに賦形された塗膜102の外表面102aに軽く接触させ、不図示の電圧制御部により電圧を印加させハンドリング対象物としての塗膜102を静電気力により静電保持面501に吸着させる。ついで、成形型10と塗膜102とを引き剥がし、二点鎖線で示されるように、静電保持面501により塗膜102を保持させる。塗膜102は、支持体としての成形型10と離間しても静電保持面501により保持される。この保持は面吸着(面保持)であるので、塗膜102の形態が安定に維持され、塗膜102に応力がかかることがなく、従って塗膜102が破損することがない。
【0041】
静電保持装置500を所定の位置に移動させるか、及び/又は成形型10を移動させて、図6に示すように、成形型10に変えて被塗物1の表面1aを塗膜102の内表面102bに近接させ概略嵌合させる。
【0042】
電極要素502a、502bへの電圧を遮断して接地させることにより、塗膜102は被塗物1の表面へ移載される。静電保持装置500と被塗物1とを離間させ、被塗物1の表面(塗膜102)を加熱したり、紫外線、電子線などを放射させることにより塗膜102を硬化させれば、塗膜は直ちに硬化して被塗物1の表面へ固着される。
【0043】
変形例としては、静電保持面501を含む静電保持装置500が光線透過性である場合には、図7に示すように、この被塗物1の表面1aに塗膜102を静電保持装置500の静電保持面501を圧接させた状態で光、紫外線、電子線などの放射線νを照射させることにより塗膜102を放射線硬化させることができる。
【0044】
また、同様に静電保持面501より伝熱により塗膜102を加熱できるように構成すれば、塗膜102を熱硬化させて被塗物1に塗膜102を固着することができる。
【0045】
また、圧力により接着力が発現する樹脂を用いれば、静電保持面501より塗膜に圧力を付すことにより塗膜102を被塗物1に固着することができる。
(変形例)
図2の成形型10に変えて図8に示すような成形型10Aを用いてもよい。ここで、この成形型10Aは、被塗物1の表面1aに嵌合する形状の成形表面10Aaを有する。このような成形型10Aを用いれば、例えば、図4の各層2〜5の積層構造の表裏が逆転した塗膜102´(不図示)を得ることができる。
【0046】
そこで、この表裏が逆転した塗膜102´(不図示)に嵌合する形態の静電保持面501´(不図示)を有する静電保持装置500´(不図示)と、この静電保持面501´に嵌合する静電保持面501を有する静電保持装置500との一対の静電保持装置を用い、静電保持装置間で移載させる工程を付与することにより、静電保持面501´と静電保持面501の保持の状態で、塗膜の上下面を反転させれば、実施例と同一の塗膜102を付与させることもできる。
【0047】
つぎに、第4の静電保持面を備えた成形型の発明について、図面を参照しつつ説明する。
【0048】
この成形型20は、図9に示すように、上型21、下型22とから構成される割型である。この上型21の表面21aの形状は、被塗物1の表面1aと嵌合する形状である。この表面21aには、静電保持装置500の静電保持面501が設けられている。この静電保持面501は、厚みが概略均一であり、これによりこの静電保持面501の形状は、被塗物1の表面1aと嵌合する形状である。
【0049】
フィルムの状態で、この成形型20を使用して金型を閉鎖させて金型成形を行う。成形が完了すると同時に、静電保持装置500に電圧を印加する。この状態で、成形型20を開放しても、静電保持装置500は、凹凸や湾曲に成形されたフィルム(塗膜)102を形状変化させることなく吸着保持する。
【0050】
この吸着した状態で、上型21を被塗物1までハンドリングし、図10に示すように、被塗物1と静電保持面501とを衝合させる。この状態で、電圧印加をオフとし、成形後のフィルム102を被塗物1の表面1aにリリースする。上型21を被塗物1とフィルム102とが密着した状態で、紫外線照射や加熱硬化などの、化学的、物理的作用を加えてフィルム102と被塗物1とを固着させる。これにより、フィルム塗装が可能となる。
【0051】
以上、本発明を図面により説明したが、本発明によれば、塗膜の形成工程で、重ね塗り工程を別途に行うことにより、塗装ライン上では、塗膜の移載と硬化とを行えばよい。ここで、塗膜の硬化は、紫外線、電子線などの放射線を作用させることにより硬化させる構成とすれば、瞬時に塗膜は硬化するので、塗装ライン上での施工時間の大幅な短縮が行える。
【0052】
また、塗装工程は、均等な膜厚にするには熟練が必要で有ったが、塗膜を別途の工程で、例えば、フィルム成形により成形することとすれば、膜厚が厚くなった場合には特に、均一な膜厚のフィルムを成形するのが容易であり、工程管理が一層容易となる。
【0053】
また、本発明のように構成すれば、塗膜は必要な大きさのものが提供されるので、塗装ラインにおける塗料の無駄が削減できる。
(応用例)
一般に家電製品は、静電塗装やエアスプレー、エアレススプレーなどで塗装を行っているが、仕上がりには熟練を要した技術が必要であるとされている。これにより、このような家電製品の塗装に本発明を適用する場合には、予め所定の形状に成形された塗膜を静電保持装置を用いて移載するか、又は静電保持装置500を搭載した成形金型を用いてフィルム成形後に移載する。これにより、家電製品の塗装箇所と同一形状の静電保持装置を用いて成型後のフィルムを移載することで、家電製品に対してもフィルム塗装を行うことができる。
【0054】
また、静電保持装置は、近年では大型化が可能であり、例えば、幅2mを超える面積の静電保持面を得ることができる。これにより、例えば、車両の外板などの大型の被塗物に対しても、車体外板の形状に成形されたフィルム状の塗膜を成形し、このフィルム状の塗膜を、例えば、予め下地処理されてパテ塗りされた外板に移送させて、密着させた状態で塗膜を付与させることができる。
【0055】
これにより、重ね塗りせずに厚膜を付与することができるので、塗装作業が大幅に簡易化される。また、紫外線や電子線などの放射線硬化性樹脂を用いる場合には、静電塗装のような溶剤が不要となるので、塗装ラインにおける作業環境を大幅に改善することが可能である。また、硬化に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0056】
これにより、小型の家電製品や玩具、その他の一般製品の塗装から大型の車両の塗装まで、塗装の品質維持を図ったり、塗装の施工工程の簡略化を図ったり、また、作業環境を改善するなどの種々の目的で本発明を適用することができる。
【0057】
以上、この発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限らず、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。
【0058】
例えば、以上の説明では、ハンドリング対象物は薄物であったが、ハンドリング対象物と嵌合する形状の静電保持面を有する静電保持装置によれば、ハンドリング対象物が曲面を有すれば面吸着させることができるので、ハンドリング対象物は薄物に限らず、形状が安定している立体成型物をハンドリングしてもよい。
【0059】
また、以上の説明では、塗膜はフィルム成形による方法で得られているが、塗膜の形成方法は基本的には限定されない。例えば、真空成形や圧空成形により形成してもよく、また、射出成形、圧縮成形、射出圧縮形成などの成形法によってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る静電保持装置とハンドリング対象物との関係を説明する図である。
【図2】本発明の実施例において用いられる成形型の一例を断面により説明する図である。
【図3】成形型の表面に塗膜を形成する工程を説明する図である。
【図4】塗装物の構造を断面により説明する図である。図である。
【図5】本発明に係る静電保持装置により塗膜を吸引保持する状況を説明する図である。
【図6】本発明に係る静電保持装置により保持した塗膜を被塗物へ移載する状況を説明する図である。
【図7】本発明の変形例に係る静電保持装置により圧接した状態で塗膜を硬化させる状況を説明する図である。
【図8】本発明の変形例において用いられる成形型の一例を断面により説明する図である。
【図9】本発明に係る成形型の一例を断面により説明する図である。
【図10】図9の成形型をそのまま用いて移載する工程を説明する図である。
【図11】一般的な静電保持装置の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
1:被塗物
1a:表面(塗布面)
10:成形型
10a:表面
10A:成形型
10Aa:成形表面
20:成形型
21:上型
21a:表面
22:下型
102:塗膜(ハンドリング対象物)
102a:外表面
102b:内表面(裏面)
500:静電保持装置
501:静電保持面
502a、502b:電極要素
503:絶縁材料
504:ベース部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドリング対象物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面を備えた静電保持装置、及びそれを用いた移載方法、塗膜の付与方法並びに成形型に関する。また、本発明は、特に、単独では形態を維持することが困難な程度に立体形状に賦形された薄膜成形体の立体形状を維持した状態で薄膜成形体を保持できる静電保持装置、及びそれを用いた移載方法、塗膜の付与方法並びに成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被塗物の表面への薄膜の付与方法としては、ローラー塗り、刷毛塗り、スプレー塗りなどによる被塗物への塗膜を形成する方法に加え、静電塗装、粉末塗装など、種々の塗膜の形成手法が知られている。また、予め塗膜となるべきフィルムを形成しておき、塗膜用フィルムを被塗物の表面に密着させて、接着により塗膜用フィルムを被塗物の表面へ転写することも行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
塗料などの液体による塗装では、塗料の粘性が低い場合には一回の塗装では塗膜の厚みには限界があり、例えば、10〜25μm程度を越えて厚みの厚い塗膜を形成するためには、重ね塗りが必要となる。重ね塗りは、下地となる塗膜が乾燥した後に上塗りを塗布させることが好ましく、この場合には塗膜付与工程が長時間必要となるという課題がある。一方、塗料の粘性を増大させれば厚塗りは可能であるが仕上げ面の品質の低下は避けがたい。
【0004】
これに対して、塗膜用フィルムなどの固形物を被塗物の表面へ転写する転写法によれば、1回の転写により厚膜を付与できるという特徴を備えている。しかしながら、従来の転写法は、被塗物が平面である場合に限られ、立体面への転写は行われていない。
【0005】
被塗物が立体である場合にも転写法による塗膜が被塗物に付与できれば、塗膜付与工程の飛躍的な改善が期待される。
【0006】
そこで、この発明の目的は、凹凸や湾曲部を備えた立体形状を有する被塗物へも転写が行える塗膜の付与方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意研究した結果、被塗物の立体面に沿った形状の成形型を用いて立体的な塗膜形成用フィルムを形成させ、その形状を保ったままで被塗物に移載し、塗膜形成用フィルムを硬化させれば、被塗物が立体面を有する場合であっても、転写が行えるのではないかと考えた。
【0008】
また、この際、静電チャックの静電保持面を被塗面の形状に合致した立体的な面とすることにより、単独では形態を維持することが困難な程度に立体形状に賦形された塗膜形成用フィルムであっても、その立体形状を維持した状態で塗膜形成用フィルムの形態を維持しつつ保持できると考えた。
【0009】
また、このような被塗面の形状に合致した静電保持面を金型の成形面に設ければ、成形された成形体をそのまま静電保持性能を有する成形面に保持させて被塗物まで移載できると考えた。
【0010】
さらに、このような静電保持装置及び金型は、ハンドリング対象物(又は塗膜形成用フィルム)が立体形状を維持するのが困難であるものに限らず、形状維持性のあるハンドリング対象物(又は塗膜形成用フィルム)であっても、応用可能であることを見出した。
【0011】
すなわち第1の発明は、ハンドリング対象物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面を備えた静電保持装置である。
【0012】
ここで、ハンドリング対象物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面とは、ハンドリング対象物の一表面の形状と概略同一形状であるか、または該一表面に嵌合又は衝合する形状を意味する。
【0013】
また、第2の発明は、立体的な一表面形状を備えて成形された立体フィルム成形体を、前記一表面形状に合致した請求項1記載の静電保持装置の静電保持面に保持させて移載する移載方法である。
【0014】
また、第3の発明は、被塗物の立体的な一表面形状に合致させて立体的に成形された立体塗膜形成用フィルムを請求項1記載の静電保持装置の静電保持面に保持させて被塗物の表面へ移載する塗膜移載工程と、被塗物の表面に立体塗膜形成用フィルムが移載された状態で立体塗膜形成用フィルムに物理的及び/又は化学的な作用をさせて該立体塗膜形成用フィルムを被塗物に固着させる塗膜硬化工程とを含むことを特徴とする塗膜の付与方法である。
【0015】
ここで、静電保持面は紫外線、光線、電子線の少なくとも一つを含む放射線に対して透過性を備えているのが好ましい。このような静電保持面を有すれば、静電保持面により塗膜形成用フィルムを被塗物の表面に保持させた状態で、放射線を照射させて該塗膜形成用フィルムを硬化させることができ、付与する塗膜形成用フィルムに放射線の照射により接着性を発現させつつ硬化する材料を含ませることにより、被塗物の表面に対して高品質の塗膜を付与させることができる。
【0016】
また、第4の発明は、被塗物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面を備えた成形型である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、凹凸や湾曲部を備えた立体形状を有する被塗物へも転写が行える塗膜の付与方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に第1の発明に係る静電保持装置につき図面を参照しつつ説明する。
【0019】
まず、本発明の説明に先立ち、図11に示す一般的な静電保持装置100について説明する。
【0020】
図11において、符号504は電極(静電電極)を取り付けるベース部材であり、一対の電極要素502a,502bが絶縁材料503に覆われてベース部材504に固定されている。また、これらの電極要素502a、502bは電圧制御部505に接続され、電圧制御部505の制御により各電極要素502aには−V(ボルト)、電極要素502bには+V(ボルト)の所定の電圧が印加され、又は各電極要素502a、502bは接地されるように構成されている。
【0021】
つぎに、このように構成された静電保持装置の作用について説明する。電圧制御部505から各電極要素502a、502bに所定の電圧を印加する。これにより、静電保持面501に静電気力が誘起されてハンドリング対象物102が静電気吸引力で静電保持面501に吸着されて保持される。
【0022】
各電極要素502a、502bへの電圧印加を遮断して各電極要素502a、502bを接地させることにより、静電保持面501は静電気力がなくなり、ハンドリング対象物102の保持が解除される。
【0023】
また、電圧制御部505の電圧の印加を適宜に制御することにより、静電吸引力とハンドリング対象物の重力による落下とのバランスを図ることにより、ハンドリング対象物102を浮上状態で保持することもできる。
【0024】
このような静電チャックは、例えば、特開2004−120921号公報、特開平7−257751号公報、特開平9−322564号公報、特開平10−66367号公報、特開2001−9766号公報などに詳細に説明されている。
【0025】
ここで、従来の静電保持面501は、ハンドリング対象物102が薄板、フィルムなどの平板材料であったので、大略、図11に示すよな平面上に形成されている。これにより、薄板等を対象として保持しても、真空チャックに比較して、周辺部分を含んで撓むことなく薄板を電極面全体の静電力により保持することができる。
【0026】
そこで、本発明の一実施例に係る静電保持装置500では、静電保持面501の形状を、図1に示すように、ハンドリング対象物102の外表面102aの立体形状と概略嵌合する形状とする。この静電保持装置500は、図11に示す静電保持装置100と同様な原理で作動するものであり、不図示のベース部材504に電極要素502a,502bが絶縁材料503に覆われて固定されて、これらの電極要素502a、502bには電圧制御部505から一定の電圧が印加、遮断されるように構成されている。
【0027】
ここで、第1の発明の本質的な目的が、立体的に成形されたハンドリング対象物102(例えば、塗膜形成用フィルム)の形態を維持させた状態でハンドリング対象物102を保持することであるので、例えば、静電保持面501が複数の区画に分画されて隣接する区画が相互に離間していても、各静電保持面501を集合させた状態でハンドリング対象物102の形態を維持しつつ保持できればよい。この離間の程度は、ハンドリング対象物102の状態により異なる。
【0028】
つぎに、このように構成された静電保持装置500の作用について説明しつつ、第2の発明に係る移載方法の発明について説明する。
【0029】
静電保持面501をハンドリング対象物102の近傍に移動させ、電圧制御部505を作動させて各電極要素502a、502bのそれぞれに電圧を印加する。これにより、静電気保持面501に静電気吸引力が作用してハンドリング対象物102は静電保持面501に吸着される。この吸着は面吸着であるので、ハンドリング対象物102が形態保持性が不安定で有ったり、また、極端にハンドリング対象物102に自立性を有さない場合でも、この静電保持面501が支持体として作用して、ハンドリング対象物102の形態を維持するように補助するので、静電保持装置500又は静電保持面501を移動させてもハンドリング対象物102は静電保持面501に確実に保持され、移動できる。
【0030】
つぎに、電圧制御部505を作動させ、各電極要素502a、502bへの電圧供給を遮断して電極要素502a、502bを接地させることにより、静電気力がなくなり、ハンドリング対象物102をリリースすることができる。
【0031】
これにより、この静電保持装置を用いれば、自立性が欠ける、すなわち、単独では形態を維持してハンドリングが困難である立体形状の薄膜成形体であっても、形態を維持しつつ、また、薄膜成形体に応力(ストレス)を発生させることなく移載することができる。
【0032】
つぎに、第3の発明に係る塗膜の付与方法に係る発明につき図面を参照しつつ説明する。
【0033】
この塗膜の付与方法は、被塗物の立体的な一表面形状に合致させて立体的に成形された立体塗膜形成用フィルムを第1の発明に係る静電保持装置の静電保持面501に保持させて被塗物の表面へ移載する塗膜移載工程S1と、被塗物の表面に立体塗膜形成用フィルムが移載された状態で立体塗膜形成用フィルムを物理的及び/又は化学的な作用をさせて被塗物に固着させる塗膜硬化工程S2とから基本的に構成される。
【0034】
ここで、この塗膜移載工程S1に付される立体形成用フィルムは被塗物の立体的な一表面形状に合致させて立体的に成形された立体塗膜形成用フィルムであり、その製造方法は限定されない。
【0035】
図2に示すように、半球状の突起を有する被塗物の外形と全く同一の外形を有する成形型10を用意する。この成形型10の表面10aは剥離性素材により形成されている。この成形型10の剥離性の表面10aに常法により塗膜102を付与する(図3)。この塗膜102は、例えば、公知の離型紙上に形成される塗膜層と本質的に同一であってよい。
【0036】
最も単純な構成では、表面10a上に熱可塑性高分子や、熱硬化性樹脂、光架橋性高分子、電子線硬化性高分子などの硬化性高分子の塗膜を形成することである。塗膜の付与は、スプレー塗り、刷毛塗り、ローラ塗りなど適宜の手法が採用される。また、これらの塗膜は、単層でも複層であってもよく、必要に応じて、顔料、染料、着色剤、安定剤、充填材などの各種添加剤が含有されていてもよい。
【0037】
一例として、被塗物1が車両であり、この車両用塗膜が、図4に示すように、被塗物1としての車体外板の上に、下塗り塗膜2,ベース層3、第1のクリア塗膜4,第2のクリア塗膜5の4層構造である場合には、これらの下塗り塗膜2,ベース層3、第1のクリア塗膜4,第2のクリア塗膜5の4層構造の塗膜102を付与する。もちろん、これらの各層2〜5がそれぞれ別々に順次付与されても、また、層1,2と層3,4とがそれぞれ別々に付与されていてもよい。
【0038】
これにより得られた塗膜102は、支持体としての成形型10に支持されて立体形状を維持し、離型性の表面10aから剥離した状態では形態を維持することが困難である。例えば、この塗膜102の両端だけを保持したのでは、塗膜102に掛かる応力によりこの塗膜102は破損する場合がある。
【0039】
そこで、図5に示すように、静電保持面501の形状が表面10a(又は被塗物の外形)に嵌合する形状である静電保持装置500を用意する。この静電保持装置500は、図11に示す静電保持装置100と同様な原理で作動するものであり、不図示のベース部材504に電極要素502a,502bが絶縁材料503に覆われて固定されて、これらの電極要素502a、502bには電圧制御部505から一定の電圧が印加、遮断されるように構成されている。
【0040】
この静電保持装置500を用い、必要に応じて位置合わせを行いつつ、静電保持面501を表面10aに賦形された塗膜102の外表面102aに軽く接触させ、不図示の電圧制御部により電圧を印加させハンドリング対象物としての塗膜102を静電気力により静電保持面501に吸着させる。ついで、成形型10と塗膜102とを引き剥がし、二点鎖線で示されるように、静電保持面501により塗膜102を保持させる。塗膜102は、支持体としての成形型10と離間しても静電保持面501により保持される。この保持は面吸着(面保持)であるので、塗膜102の形態が安定に維持され、塗膜102に応力がかかることがなく、従って塗膜102が破損することがない。
【0041】
静電保持装置500を所定の位置に移動させるか、及び/又は成形型10を移動させて、図6に示すように、成形型10に変えて被塗物1の表面1aを塗膜102の内表面102bに近接させ概略嵌合させる。
【0042】
電極要素502a、502bへの電圧を遮断して接地させることにより、塗膜102は被塗物1の表面へ移載される。静電保持装置500と被塗物1とを離間させ、被塗物1の表面(塗膜102)を加熱したり、紫外線、電子線などを放射させることにより塗膜102を硬化させれば、塗膜は直ちに硬化して被塗物1の表面へ固着される。
【0043】
変形例としては、静電保持面501を含む静電保持装置500が光線透過性である場合には、図7に示すように、この被塗物1の表面1aに塗膜102を静電保持装置500の静電保持面501を圧接させた状態で光、紫外線、電子線などの放射線νを照射させることにより塗膜102を放射線硬化させることができる。
【0044】
また、同様に静電保持面501より伝熱により塗膜102を加熱できるように構成すれば、塗膜102を熱硬化させて被塗物1に塗膜102を固着することができる。
【0045】
また、圧力により接着力が発現する樹脂を用いれば、静電保持面501より塗膜に圧力を付すことにより塗膜102を被塗物1に固着することができる。
(変形例)
図2の成形型10に変えて図8に示すような成形型10Aを用いてもよい。ここで、この成形型10Aは、被塗物1の表面1aに嵌合する形状の成形表面10Aaを有する。このような成形型10Aを用いれば、例えば、図4の各層2〜5の積層構造の表裏が逆転した塗膜102´(不図示)を得ることができる。
【0046】
そこで、この表裏が逆転した塗膜102´(不図示)に嵌合する形態の静電保持面501´(不図示)を有する静電保持装置500´(不図示)と、この静電保持面501´に嵌合する静電保持面501を有する静電保持装置500との一対の静電保持装置を用い、静電保持装置間で移載させる工程を付与することにより、静電保持面501´と静電保持面501の保持の状態で、塗膜の上下面を反転させれば、実施例と同一の塗膜102を付与させることもできる。
【0047】
つぎに、第4の静電保持面を備えた成形型の発明について、図面を参照しつつ説明する。
【0048】
この成形型20は、図9に示すように、上型21、下型22とから構成される割型である。この上型21の表面21aの形状は、被塗物1の表面1aと嵌合する形状である。この表面21aには、静電保持装置500の静電保持面501が設けられている。この静電保持面501は、厚みが概略均一であり、これによりこの静電保持面501の形状は、被塗物1の表面1aと嵌合する形状である。
【0049】
フィルムの状態で、この成形型20を使用して金型を閉鎖させて金型成形を行う。成形が完了すると同時に、静電保持装置500に電圧を印加する。この状態で、成形型20を開放しても、静電保持装置500は、凹凸や湾曲に成形されたフィルム(塗膜)102を形状変化させることなく吸着保持する。
【0050】
この吸着した状態で、上型21を被塗物1までハンドリングし、図10に示すように、被塗物1と静電保持面501とを衝合させる。この状態で、電圧印加をオフとし、成形後のフィルム102を被塗物1の表面1aにリリースする。上型21を被塗物1とフィルム102とが密着した状態で、紫外線照射や加熱硬化などの、化学的、物理的作用を加えてフィルム102と被塗物1とを固着させる。これにより、フィルム塗装が可能となる。
【0051】
以上、本発明を図面により説明したが、本発明によれば、塗膜の形成工程で、重ね塗り工程を別途に行うことにより、塗装ライン上では、塗膜の移載と硬化とを行えばよい。ここで、塗膜の硬化は、紫外線、電子線などの放射線を作用させることにより硬化させる構成とすれば、瞬時に塗膜は硬化するので、塗装ライン上での施工時間の大幅な短縮が行える。
【0052】
また、塗装工程は、均等な膜厚にするには熟練が必要で有ったが、塗膜を別途の工程で、例えば、フィルム成形により成形することとすれば、膜厚が厚くなった場合には特に、均一な膜厚のフィルムを成形するのが容易であり、工程管理が一層容易となる。
【0053】
また、本発明のように構成すれば、塗膜は必要な大きさのものが提供されるので、塗装ラインにおける塗料の無駄が削減できる。
(応用例)
一般に家電製品は、静電塗装やエアスプレー、エアレススプレーなどで塗装を行っているが、仕上がりには熟練を要した技術が必要であるとされている。これにより、このような家電製品の塗装に本発明を適用する場合には、予め所定の形状に成形された塗膜を静電保持装置を用いて移載するか、又は静電保持装置500を搭載した成形金型を用いてフィルム成形後に移載する。これにより、家電製品の塗装箇所と同一形状の静電保持装置を用いて成型後のフィルムを移載することで、家電製品に対してもフィルム塗装を行うことができる。
【0054】
また、静電保持装置は、近年では大型化が可能であり、例えば、幅2mを超える面積の静電保持面を得ることができる。これにより、例えば、車両の外板などの大型の被塗物に対しても、車体外板の形状に成形されたフィルム状の塗膜を成形し、このフィルム状の塗膜を、例えば、予め下地処理されてパテ塗りされた外板に移送させて、密着させた状態で塗膜を付与させることができる。
【0055】
これにより、重ね塗りせずに厚膜を付与することができるので、塗装作業が大幅に簡易化される。また、紫外線や電子線などの放射線硬化性樹脂を用いる場合には、静電塗装のような溶剤が不要となるので、塗装ラインにおける作業環境を大幅に改善することが可能である。また、硬化に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0056】
これにより、小型の家電製品や玩具、その他の一般製品の塗装から大型の車両の塗装まで、塗装の品質維持を図ったり、塗装の施工工程の簡略化を図ったり、また、作業環境を改善するなどの種々の目的で本発明を適用することができる。
【0057】
以上、この発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限らず、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。
【0058】
例えば、以上の説明では、ハンドリング対象物は薄物であったが、ハンドリング対象物と嵌合する形状の静電保持面を有する静電保持装置によれば、ハンドリング対象物が曲面を有すれば面吸着させることができるので、ハンドリング対象物は薄物に限らず、形状が安定している立体成型物をハンドリングしてもよい。
【0059】
また、以上の説明では、塗膜はフィルム成形による方法で得られているが、塗膜の形成方法は基本的には限定されない。例えば、真空成形や圧空成形により形成してもよく、また、射出成形、圧縮成形、射出圧縮形成などの成形法によってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る静電保持装置とハンドリング対象物との関係を説明する図である。
【図2】本発明の実施例において用いられる成形型の一例を断面により説明する図である。
【図3】成形型の表面に塗膜を形成する工程を説明する図である。
【図4】塗装物の構造を断面により説明する図である。図である。
【図5】本発明に係る静電保持装置により塗膜を吸引保持する状況を説明する図である。
【図6】本発明に係る静電保持装置により保持した塗膜を被塗物へ移載する状況を説明する図である。
【図7】本発明の変形例に係る静電保持装置により圧接した状態で塗膜を硬化させる状況を説明する図である。
【図8】本発明の変形例において用いられる成形型の一例を断面により説明する図である。
【図9】本発明に係る成形型の一例を断面により説明する図である。
【図10】図9の成形型をそのまま用いて移載する工程を説明する図である。
【図11】一般的な静電保持装置の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
1:被塗物
1a:表面(塗布面)
10:成形型
10a:表面
10A:成形型
10Aa:成形表面
20:成形型
21:上型
21a:表面
22:下型
102:塗膜(ハンドリング対象物)
102a:外表面
102b:内表面(裏面)
500:静電保持装置
501:静電保持面
502a、502b:電極要素
503:絶縁材料
504:ベース部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドリング対象物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面を備えた静電保持装置。
【請求項2】
立体的な一表面形状を備えて成形された立体フィルム成形体を、前記一表面形状に合致した請求項1記載の静電保持装置の静電保持面に保持させて移載する移載方法。
【請求項3】
被塗物の立体的な一表面形状に合致させて立体的に成形された立体塗膜形成用フィルムを請求項1記載の静電保持装置の静電保持面に保持させて被塗物の表面へ移載する塗膜移載工程と、
被塗物の表面に立体塗膜形成用フィルムが移載された状態で立体塗膜形成用フィルムに物理的及び/又は化学的な作用をさせて該立体塗膜形成用フィルムを被塗物に固着させる塗膜硬化工程とを含むことを特徴とする塗膜の付与方法。
【請求項4】
前記静電保持面は紫外線、光線、電子線の少なくとも一つを含む放射線に対して透過性を備え、
前記塗膜形成用フィルムは、前記放射線の照射により接着性を発現させつつ硬化する材料を含み、
前記塗膜硬化工程は、前記放射線を前記静電保持面を透過させて照射させて該立体塗膜形成用フィルムを硬化させることを特徴とする請求項3に記載の塗膜の付与方法。
【請求項5】
被塗物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面を備えた成形型。
【請求項6】
請求項1記載の静電保持装置及び/又は請求項5記載の成形型を塗膜付与ラインに組み込んだ塗膜付与装置。
【請求項1】
ハンドリング対象物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面を備えた静電保持装置。
【請求項2】
立体的な一表面形状を備えて成形された立体フィルム成形体を、前記一表面形状に合致した請求項1記載の静電保持装置の静電保持面に保持させて移載する移載方法。
【請求項3】
被塗物の立体的な一表面形状に合致させて立体的に成形された立体塗膜形成用フィルムを請求項1記載の静電保持装置の静電保持面に保持させて被塗物の表面へ移載する塗膜移載工程と、
被塗物の表面に立体塗膜形成用フィルムが移載された状態で立体塗膜形成用フィルムに物理的及び/又は化学的な作用をさせて該立体塗膜形成用フィルムを被塗物に固着させる塗膜硬化工程とを含むことを特徴とする塗膜の付与方法。
【請求項4】
前記静電保持面は紫外線、光線、電子線の少なくとも一つを含む放射線に対して透過性を備え、
前記塗膜形成用フィルムは、前記放射線の照射により接着性を発現させつつ硬化する材料を含み、
前記塗膜硬化工程は、前記放射線を前記静電保持面を透過させて照射させて該立体塗膜形成用フィルムを硬化させることを特徴とする請求項3に記載の塗膜の付与方法。
【請求項5】
被塗物の立体的な一表面形状に合致した立体的な静電保持面を備えた成形型。
【請求項6】
請求項1記載の静電保持装置及び/又は請求項5記載の成形型を塗膜付与ラインに組み込んだ塗膜付与装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−68331(P2007−68331A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251491(P2005−251491)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(593115792)筑波精工株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(593115792)筑波精工株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
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