説明

静電型電気音響変換器

【課題】静電型電気音響変換器の劣化を抑え、変形できるようにする。
【解決手段】防湿性を有するカバー60の内部においては、電極20Uと振動体10の間に弾性部材30Uが位置し、電極20Lと振動体10との間に弾性部材30Lが位置している。また、電極20U,20Lとカバー60との間には、弾性を有するスペーサ40がある。カバー60は、一端がカバー60内の空間に開口し、他端たカバー60の外部に開口したチューブ70を有している。チューブ70内の凸部71A〜71Cで構成されたファスナーを開くと、カバー60内に空気が入り、カバー60内の空気が振動して音が放音される。ファスナーを開いてカバー60を折り畳むと、カバー60内の空気がチューブ70を通って外部に排出される。折り畳んだ後でファスナーを閉じると、カバー60が密閉され、湿気がカバー60内に進入しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
柔軟性があり、折り曲げることが可能な静電型スピーカとして、例えば、特許文献1に開示された静電型スピーカがある。この静電型スピーカにおいては、アルミニウムが蒸着されたポリエステルの振動膜が、導電性を有する糸により織られた2枚の平面電極の間に位置し、振動膜と平面電極との間にエステルウールが配置されている。この振動膜、平面電極及びエステルウールは柔軟性を有するため、使用しない場合には折り畳んで保管することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−54154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のスピーカにおいては平面電極や振動膜が空気に触れるため、空気中の湿気が多い場合には劣化が早く進む虞がある。このような問題を防ぐ方法としては、スピーカ全体をビニールで包み、スピーカを包んだビニールを密閉する方法が考えられる。一方、ビニール内においては音を放音するために空気を入れる必要があるが、使用しない時に保管や運搬をするため、スピーカを折り曲げたり巻物のように丸めたりしようとすると、密閉されたビニール内にある空気がスピーカの端部に集まるので、折り曲げたり巻物のように丸めたりしてスピーカを変形させることができない。更に、無理に折り曲げたり丸めたりすると端部に集められて行き場を失った空気の圧力によりビニールが破裂してしまう。
また、一対の電極の間に振動膜を挟む構成は、静電型のマイクロフォンとしても用いることができる。このような構成を静電型のマイクロフォンとして用いる場合においても、スピーカの場合と同様に折り曲げたり巻物のように丸めたりして静電型のマイクロフォンを変形させることができず、空気の圧力によりビニールが破裂してしまう。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、静電型電気音響変換器の劣化を抑え、変形できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明は、防湿性を有する袋状のカバーと、一端が前記カバーの内部に開口し、他端が前記カバーの外部に開口した通路と、前記通路を開閉する開閉部と、柔軟性を有する電極と、柔軟性を有する振動体と、前記振動体と前記電極との間に位置し、音及び空気が透過し、弾性及び柔軟性を有する弾性部材とを有し、前記カバー内に収納された変換部とを有する静電型電気音響変換器を提供する。
【0007】
また、本発明は、防湿性を有する袋状のカバーと、一端が前記カバーの内部に開口し、他端が前記カバーの外部に開口した通路と、前記通路を開閉する開閉部と、柔軟性を有する第1電極と、前記第1電極に対向し、柔軟性を有する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置し、柔軟性を有する振動体と、前記振動体と前記第1電極との間及び前記振動体と前記第2電極との間に位置し、音及び空気が透過し、弾性及び柔軟性を有する弾性部材とを有し、前記カバー内に位置する変換部とを有する静電型電気音響変換器を提供する。
【0008】
本発明においては、前記カバーの内面と前記変換部との間に所定の空間を確保するスペーサを備える構成としてもよい。
また、本発明においては、前記変換部の表面と前記カバーの内面との間及び前記変換部の裏面と前記カバーの内面との間が前記通路に連通している構成としてもよい。
また、本発明においては、前記変換部の表面と前記カバーの内面との間又は前記変換部の裏面と前記カバーの内面との間が前記通路と連通し、前記変換部は、当該変換部の表面から裏面に貫通する孔を有する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、静電型電気音響変換器の劣化を抑え、変形させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の上面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】チューブ70を拡大した図。
【図4】駆動回路100の構成を示した図。
【図5】変形例におけるスペーサ40Aの配置位置を示した図。
【図6】変形例に係る静電型スピーカ1の断面図。
【図7】変形例に係るスペーサを示した図。
【図8】変形例に係るスペーサを示した図。
【図9】変形例に係る静電型スピーカの断面図。
【図10】静電型マイクロフォン2に係る電気的構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1(静電型電気音響変換器)の上面図、図2は、図1のA−A線断面図である。なお、図においては、直交するX軸、Y軸およびZ軸で方向を示しており、静電型スピーカ1を正面から見たときの左右方向をX軸の方向、奥行き方向をY軸の方向、高さ方向をZ軸の方向としている。また、図中、「○」の中に「・」が記載されたものは図面の裏から表に向かう矢印を意味するものとする。また、図中、「○」の中に「×」が記載されたものは図面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
【0012】
図に示したように、静電型スピーカ1は、振動体10、電極20U,20L及び弾性部材30U,30Lで構成された放音部2、スペーサ40、カバー60及びチューブ70を有している。放音部2は、供給される信号を音に変換する変換部の一例である。なお、本実施形態においては、電極20Uと電極20Lの構成は同じであり、弾性部材30Uと弾性部材30Lの構成は同じである。このため、これらの部材において符号の末尾が「U」の部材と符号の末尾が「L」の部材とを区別する必要が特に無い場合は、「L」および「U」などの記載を省略する。また、図中の各部材の寸法は、各部材の形状や位置関係を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。
【0013】
(静電型スピーカ1の各部の構成)
まず、静電型スピーカ1を構成する各部について説明する。Z軸上の点から見て矩形の振動体10は、PET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)またはPP(polypropylene:ポリプロピレン)などの絶縁性および柔軟性を有する合成樹
脂のフィルム(絶縁層)の一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜(導電層)を形成したシート状の構成となっている。なお、本実施形態においては、導電膜は、フィルムの一方の面に形成されているが、フィルムの両面に形成されていてもよい。また、振動体10は、導電性を有する金属を圧延して膜状にした構成であってもよい。
【0014】
弾性部材30は、本実施形態においては不織布であって電気を通さず空気および音の通過が可能となっており、その形状はZ軸上の点から見て矩形となっている。また、弾性部材30は、弾性を有しており、外部から力を加えられると変形し、外部から加えられた力が取り除かれると元の形状に戻る。なお、弾性部材30は、絶縁性があり、音及び空気が透過し、弾性がある部材であればよく、中綿に熱を加えて圧縮したもの、織られた布、絶縁性を有する合成樹脂を海綿状にしたものなどであってもよい。
【0015】
電極(固定極)20は、PETまたはPPなどの絶縁性を有する合成樹脂のフィルム(絶縁層)の一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜(導電層)を形成した構成となっている。また電極20は、Z軸上の点から見て矩形となっている。電極20は、表面から裏面に貫通する孔を複数有しており、空気および音の通過が可能となっているが、図面においては、この孔の図示を省略している。なお、振動体10と同様に電極20についても、導電性を有する金属を圧延して膜状にした構成であってもよい。
【0016】
カバー60は、合成樹脂のシート61Uとシート61Lとで袋状に構成されており、内部に放音部2を収納する。シート61Uとシート61Lは、絶縁性と防湿性を有している。なお、シート61U及びシート61Lの素材の一例としてはポリエチレンがあるが、素材はポリエチレンに限定されるものではなく、絶縁性と防湿性を備えていれば他の素材であってもよい。カバー60は、Z軸上の点から見て矩形となっており、X軸方向及びY軸方向の長さが電極20より長く、面積が電極20より広くなっている。
【0017】
スペーサ40は、本実施形態においては、ポリウレタンのスポンジであり、その形状は角柱の形状となっている。スペーサ40は、通気性及び弾性を有している。なお、スペーサ40は、通気性及び弾性を有するものであればよく、中綿に熱を加えて圧縮したものや不織布に厚みを持たせたものなど、他の素材で形成されていてもよい。
【0018】
ケーブル51Aの一端は、カバー60の内部に位置する電極20Uの導電膜に接続されており、ケーブル51Bの一端は、カバー60の内部に位置する電極20Lの導電膜に接続されている。また、ケーブル51Cの一端は、カバー60の内部に位置する振動体10の導電膜に接続されている。また、各ケーブルの他端はコネクター141の端子に接続され、外部から音響信号とバイアス電圧が供給される。
【0019】
チューブ70は、ゴム製のチューブであり、カバー60の内部の空間と外部の空間とを連通させる部材である。チューブ70は、Y軸方向に平行で内周面からチューブ70の内部空間側へ交互に突出した凸部71A〜71Cを有している。チューブ70内の空間は空気が流れる通路となる。図3は、チューブ70を図1のX軸の正方向の側から負方向の側に向かって見た図である。凸部71A〜凸部71Cは、開閉自在なファスナーとして機能し、図2や図3(b)に示したように、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bとの間に押し込むと、凸部71Cが凸部71Aと凸部71Bに係合、密着し、チューブ70の一端から他端側への空気の流れが遮断される。また、図3(a)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、チューブ70内の空間が一端側と他端側とで繋がり、チューブ70の一端から他端側へ空気が流れるようになる。つまり、凸部71A〜71Cは、空気の通路を開閉する開閉部として機能する。
【0020】
(静電型スピーカ1の構造)
次に静電型スピーカ1の構造について説明する。静電型スピーカ1においては、振動体10は、弾性部材30Uの下面と弾性部材30Lの上面との間に配置されている。なお、振動体10は、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Uと弾性部材30Lに接着されており、接着剤が塗布された部分より内側の領域は弾性部材30Uと弾性部材30Lに固着されていない状態となっている。
【0021】
電極20Uは、弾性部材30Uの上面に重ねられている。また、電極20Lは、弾性部材30Lの下面に重ねられている。電極20Uは、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Uに接着されており、電極20Lは、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Lに接着されている。電極20は、接着剤が塗布された部分より内側の領域は弾性部材30に固着されていない状態となっている。また、電極20Uは、導電膜のある側が弾性部材30Uに接しており、電極20Lは、導電膜のある側が弾性部材30Lに接している。
電極20Uの上面には2つの長細いスペーサ40が所定の間隔を空けて並んで接着され、電極20Lの下面には2つのスペーサ40が所定の間隔を空けて並んで接着されている。なお、本実施形態においては、2つのスペーサ40が、スペーサ40の長手方向がY軸方向に沿うように電極20Uの上面の両側と電極20Lの下面の両側に、それぞれ配置されているが、長手方向がX軸方向に沿うように電極20Uの上面の両側と電極20Lの下面の両側に、それぞれ配置されていてもよい。
【0022】
シート61Uとシート61Lは、チューブ70、ケーブル51A〜51C、及び重ねられた電極20、弾性部材30、振動体10を間に挟み、縁から一定の幅で接着剤が塗布され、互いの縁部分が接着されて袋状のカバー60を形成している。なお、本実施形態においては、電極20、弾性部材30及び振動体10は、シート61Uとシート61Lには接着されてなく、カバー60内の空間に位置する。
また、チューブ70の一方の端部は、袋状になったカバー60の内部に位置し、他方の端部は、袋状になったカバー60の外側に位置するようにシート61Uとシート61Lの間に配置されている。また、チューブ70は、シート61Uとシート61Lに隙間なく接着されており、袋状になったカバー60内の空気がチューブ70とシート61U及びシート61Lとの間から外部に漏れないようになっている。
また、ケーブル51A〜51Cもシート61Uとシート61Lに隙間なく接着されており、袋状になったカバー60内の空気が各ケーブルとシート61U及びシート61Lとの間から外部に漏れないようになっている。
【0023】
静電型スピーカ1を構成する各部品は、柔軟性があるため折り曲げたり巻物のように丸めたりすることができる。静電型スピーカ1を収納するために折り曲げたり巻物のように丸めたりする場合には、図3(a)に示したように、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離した状態にする。図3(a)に示したように凸部71Cが凸部71Aと凸部71Bから離れていると、カバー60内の空間が外部に通じた状態となる。この状態で静電型スピーカ1を折り曲げて圧縮したり、丸めて巻き込んだりして小さく変形させると、カバー60内の空気が押し出されてチューブ70内を通って外部へ排出されるため、カバー60内の空気の圧力によりカバー60が破裂するということがない。なお、折り曲げたり丸めたりする場合には、カバー60内の空気をポンプで吸引してカバー60内の空気を直接排出するといった機械を用いた構成としてもよい。この場合も、弾性を備える弾性部材30やスペーサ40が圧縮されて薄くなる。
【0024】
カバー60内の空気を排出し終えた後で図3(b)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bの間に押し込むと、チューブ70の外から内部への空気の流れが遮断され、カバー60は密閉された状態となる。カバー60を構成するシート61Uとシート61Lは防湿性を備えているため、カバー60が密閉されると、外部の湿気がカバー60内へ侵入することがなく、保管している時に電極20や振動体10の導電膜の劣化を抑えることができる。
【0025】
一方、静電型スピーカ1を使用する場合、図3(a)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離し、折り曲げられたり丸められたりしていた静電型スピーカ1を広げる。凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、外部の空気がチューブ70の内部を通ってカバー60内に入る。チューブ70内の空間は、電極20U側(放音部2の表面側)とシート61Uとの間と、電極20L側(放音部2の裏面側)とシート61Lとの間に繋がっているため、カバー60内に入った空気は、放音部2の表面側と放音部2の裏面側に流れ、圧縮されていたスペーサ40と弾性部材30が弾性の復元力により膨張する。スペーサ40が膨張すると、図2に示したようにスペーサ40が角柱の形状となり、電極20とカバー60との間に均一な所定の厚さの空間(隙間)ができ、カバー60内においては放音に必要な空気の層が確保される。
【0026】
スペーサ40と弾性部材30が膨張して空気がカバー60内に入った後で図3(b)に示したように凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bの間に押し込むと、チューブ70の外から内部への空気の流れが遮断され、カバー60内は密閉された状態となる。ここでも、カバー60の内部が密閉されるため、外部の湿気が内部に侵入することがなく、電極20や振動体10の導電膜の劣化を抑えることができる。
【0027】
(静電型スピーカ1の電気的構成)
次に、静電型スピーカ1に係る電気的構成について説明する。図4に示したように、静電型スピーカ1を駆動する駆動回路100は、増幅部130、変圧器110、バイアス電源120、抵抗器R1及び雌型のコネクター140を備えている。
【0028】
増幅部130は、入力される音響信号を増幅して出力する増幅手段である。増幅部130は、変圧器110の一次側コイルの端子に接続されている。増幅部130で増幅された交流の音響信号は、変圧器110へ供給される。
【0029】
変圧器110の二次側コイルのセンタータップは、駆動回路100のグラウンドGNDに接続されている。変圧器110の二次側コイルの一方の端子は、雌型のコネクター140の1番端子に接続され、変圧器110の二次側コイルの他方の端子は、雌型のコネクター140の3番端子に接続されている。
バイアス電源120は、振動体10に対して直流でプラスのバイアス電圧を印加するための電源であり、保護抵抗として機能する抵抗器R1を介して雌型のコネクター140の2番端子に接続されている。バイアス電源120のプラス側は抵抗器R1に接続され、バイアス電源120のマイナス側はグラウンドGNDに接続されている。
【0030】
雄型のコネクター141の1番端子はケーブル51Aで電極20Uに接続され、コネクター141の3番端子はケーブル51Bで電極20Lに接続されている。また、コネクター141の2番端子はケーブル51Cで振動体10に接続されている。なお、コネクター140及びコネクター141においては、各端子間は絶縁されている。
【0031】
駆動回路100で静電型スピーカ1を駆動する際には、静電型スピーカ1を広げてカバー60内に空気を入れた後、雄型のコネクター141を雌型のコネクター140に嵌める。コネクター140にコネクター141が嵌められると、同じ番号の端子同士が接続され、バイアス電源120が抵抗器R1を介して振動体10に接続され、直流でプラスのバイアス電圧が振動体10に印加される。また、コネクター140とコネクター141が接続されると、変圧器110の二次側コイルの端子が電極20Uと電極20Lに接続される。変圧器110のセンタータップはグラウンドGNDに接続されているため、増幅部130に入力された音響信号の振幅が0Vの状態では、電極20Uと電極20Lの電圧は0Vとなる。
【0032】
次に、音響信号の振幅が0Vから変化した場合について説明する。増幅部130に交流の音響信号が入力されると、入力された音響信号が増幅されて変圧器110の一次側に供給される。変圧器110で昇圧されて電極20Lに供給される音響信号は、変圧器110で昇圧されて電極20Uに供給される音響信号とは振幅が同じで信号の極性が逆となる。
【0033】
増幅部130にプラスの音響信号が供給されたことにより、電極20Uにプラスの電圧が印加され、電極20Lにマイナスの電圧が印加されると、振動体10と電極20Uとの間の静電引力が弱まる一方、振動体10と電極20Lとの間の静電引力が強くなる。すると振動体10は、電極20U側に作用する静電引力と電極20L側に作用する静電引力との差に応じて電極20L側(Z軸方向と反対方向)へ変位する。
【0034】
また、増幅部130にマイナスの音響信号が供給されたことにより、電極20Uにマイナスの電圧が印加され、電極20Lにプラスの電圧が印加されると、振動体10と電極20Lとの間の静電引力が弱まる一方、振動体10と電極20Uとの間の静電引力が強くなる。すると振動体10は、電極20U側に作用する静電引力と電極20L側に作用する静電引力との差に応じて電極20U側(Z軸方向)へ変位する。
【0035】
このように振動体10は、音響信号に応じて図中のZ軸の正の方向とZ軸の負の方向に変位し、その変位方向が逐次変わることによって振動となり、その振動状態(振動数、振幅、位相)に応じた音波が振動体10から発生する。
【0036】
本実施形態においては、使用する際にはスペーサ40と弾性部材30が膨張し、音を放音するのに必要な量の空気がカバー60内に入るため、振動体10の振動によりカバー60内の空気を振動させ、音を放音することができる。また、本実施形態においては、チューブ70を閉じてカバー60を密閉するため、湿気による振動体10や電極20の導電膜の劣化を抑えることができる。また、使用しない時には、カバー60内の空気を排出して折り畳んだり丸めたりすることができるため、小さくして保管することができる。
なお、複数の各スペーサ40のZ軸方向の厚さに差がないのが好ましいが、各々の厚さが異なっていてもよい。また、一つのスペーサ40は、Z軸方向の厚さに偏りがないのが好ましい。各スペーサ40の厚さの差が小さく、各々において厚さに偏りがない場合、放音部2の表面側と裏面側とに所定の均一に近い厚さの空間を確保することができる。この空間の厚さが均一に近いと、放音される音の音圧は上面側から見て均一に近くなる。
【0037】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。
【0038】
(変形例1)
上述した実施形態においては、静電型スピーカ1はスペーサ40を備えているが、スペーサ40を備えない構成としてもよい。この構成でも、弾性部材30が膨張した分の空気はカバー60内に入るため、電極20と振動体10との間にある空気を振動させて音を放音させることができる。
【0039】
(変形例2)
本発明においては、スペーサ40のZ軸方向の厚みを厚くすると、カバー60内に入る空気の量が多くなり、スペーサ40のZ軸方向の厚みを薄くすると、カバー60内に入る空気の量が少なくなる。このため、本発明においては、スペーサ40のZ軸方向の厚みにより、カバー60内に入る空気の量を設定するようにしてもよい。
【0040】
(変形例3)
上述した実施形態においては、電極20Uの上面に2つのスペーサ40が配置され、電極20Lの下面に2つのスペーサ40が配置されているが、各電極20の表面に配置されるスペーサ40の数は2つに限定されるものではなく、3つ以上又は1つであってもよい。また、スペーサ40の形状は、角柱の形状に限定されるものではなく、三角柱の形状や円柱の形状、立方体の形状であってもよい。また、図5(a)に示したように上方から見て格子状のスペーサ40Aを用いてもよい。また、直方体の形状である複数のスペーサ40Bを、図5(b)に示したようにX軸方向とY軸方向へ所定の間隔を空けて並べて配置してもよい。また、上述した実施形態においては、スペーサ40は電極20に接着されているが、電極20には接着させず、カバー60の内面に接着するようにしてもよい。
【0041】
(変形例4)
上述した実施形態においては、凸部71A〜71Cによりカバー60内と外部との間の空気の移動を遮断しているが、空気の移動を遮断する構成は上述した実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、チューブ70に栓をしてチューブ70を塞ぐことにより空気の移動を遮断してもよく、また、チューブ70を折り曲げ、折り曲げた部分をクリップで固定することにより空気の移動を遮断してもよい。
また、カバー60内と外部との間で空気を移動させる構成は、上述した実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、カバー60の上面側または下面側に空気弁を設け、この弁によりカバー60内と外部との間の空気の移動を調整してもよい。
【0042】
(変形例5)
上述した実施形態においては、カバー60においてシート61Uとシート61Lとが互いに接着された部分に、ケーブル51A〜51Cとチューブ70が位置し、これらの部品がシート61Uとシート61Lに挟まれて接着されているが、後述するように他の部品がカバー60に接着されるようにしてもよい。
【0043】
図6は、本変形例に係る静電型スピーカ1の断面を示した図である。図6に示したように、本変形例では、電極20及び振動体10のX軸方向の長さを弾性部材30の長さより短くする。また、弾性部材30UのX軸の負の方向の端をシート61Uに接着し、弾性部材30LのX軸方向の両端をシート61Lに接着し、弾性部材30Uと弾性部材30Lの端部(振動体よりはみ出した部分)を互いに接着する。互いに接着された弾性部材30Uと弾性部材30Lにおいては、シート61に接着されていない両端部分に弾性部材30Uと弾性部材30Lを貫通する孔80が設けられている。また、電極20及び振動体10のY軸方向の長さを弾性部材30の長さより短くし、電極20及び振動体10からはみ出した弾性部材30UのY軸方向の両端をシート61Uに接着し、同じくはみ出した弾性部材30LのY軸方向の両端をシート61Lに接着し、弾性部材30Uと弾性部材30Lの端部(振動体10からはみ出した部分)を互いに接着する。
この構成においては、チューブ70からカバー60内に入った空気は、まず電極20U側とカバー60との間に流れる。また、電極20Uとカバー60との間に流れた空気は、孔80を通って電極20Lとカバー60との間にも流れる。また、カバー60内に入った空気は、スペーサ40が通気性を有するため、スペーサ40を通ってX軸の負の方向へも流れる。本変形例においては、弾性部材30を貫通する孔80があるため、空気が上面(表面)側と下面(裏面)側に流れやすく、上面(表面)側と下面(裏面)側とで空気の量の偏りが少なくなる。
【0044】
なお、図6においては、弾性部材30UのX軸の正方向側の縁がシート61Uに接着されてなく、弾性部材30Lの縁がシート61Lに接着されているが、弾性部材30LのX軸の正方向側の縁をシート61Lに接着せず、弾性部材30Uの縁がシート61Uに接着されるようにしてもよい。
また、電極20のX軸方向とY軸方向の長さを弾性部材30と同じとし、電極20UのX軸の負の方向の端をシート61Uに接着し、電極20LのX軸方向の両端をシート61Lに接着し、電極20及び弾性部材30を貫通する孔を開ける構成としてもよい。また、この構成においては、振動体10もX軸方向とY軸方向の長さを弾性部材30と同じとし、振動体10、電極20及び弾性部材30を貫通する孔を開ける構成としてもよい。
【0045】
(変形例6)
上述した実施形態においては、スペーサ40は弾性を備えているが、通気性を備えているのであれば弾性を備えていないものであってもよい。
また、スペーサ40の素材は、弾性及び通気性を備えていない素材であってもよい。なお、弾性及び通気性を備えていない素材を用いる場合、図7(a)に示したように、スペーサ40に凹部41を設けるようにしてもよい。この構成によれば、スペーサ40がカバー60と放音部2に接着されても、スペーサ40で区画された空間の空気が空気の通路となる凹部41を通って隣の区画の空間に移動するため、放音部2とカバー60との間に複数の空間が確保される。なお、凹部41ではなく、図7(b)に示したように、スペーサ40の短手方向に(図7のY軸の方向)貫通する孔42をスペーサ40に設けるようにしてもよい。この変形例によれば、孔42が空気が通過する通路となり、スペーサ40で区画された空間の空気が隣の区画の空間に移動するため、放音部2とカバー60との間に複数の空間が確保される。
また、図8(a)〜(c)は、スペーサ40Aの変形例を示した図である。図8(a)は、本変形例に係るスペーサ40Aの平面図、図8(b)は、本変形例に係るスペーサ40Aの側面図、図8(c)は、本変形例に係るスペーサ40Aの正面図である。この変形例においては、スペーサ40Aの素材は弾性及び通気性を備えていない素材であり、図7に示したスペーサと同様に凹部41を備えている。
この構成によれば、スペーサ40Aがカバー60と放音部2に接着されても、スペーサ40Aで区画された空間の空気が凹部41を通って隣の区画の空間に移動するため、放音部2とカバー60との間に空間が確保される。
【0046】
(変形例7)
上述した実施形態においては、スペーサによりカバー60と放音部2との間に空間を確保しているが、スペーサを設けない構成であってもよい。例えば、カバー60を弾性を有する素材で形成する。なお、このカバーは、放音部2をカバー内に配置し、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離し(即ち、カバー内部とカバー外部が連通した状態)、カバーに外力を加えない状態において、カバー内面と放音部2との間に空気層ができる形状に形成される。
この構成によれば、凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、カバー内の空気を排出することができ、折り曲げてもカバー内の空気の圧力によりカバーが破裂するということがない。また、カバーを外部から押さえて内部の空気を強制的に排出すると、カバーが変形し、Z軸方向の厚さを薄くすることができる。また、カバー内の空気を抜いて薄くなった状態から凸部71Cを凸部71Aと凸部71Bから離すと、空気がカバー内に入ると共に、カバー自身の弾性によりカバーが膨らむ方向へ変形し、放音部2とカバーとの間に空間を確保することができる。
【0047】
(変形例8)
上述した実施形態の静電型スピーカは、プッシュプル型の静電型スピーカであるが、シングル型の静電型スピーカであってもよい。図9は、本変形例に係る静電型スピーカの断面を示した図である。図に示したように、本変形例に係る静電型スピーカは、電極20Lを備えておらず、弾性部材30Lとシート61Lとの間にスペーサ40が配置されている。この構成においては、電極20U、弾性部材30U,30L及び振動体10が放音部2となる。この構成によれば、放音部2の裏面側にある弾性部材30Lとスペーサ40により、放音部2の裏面側にも空間が確保されるため、振動体10が振動して音を放音することができる。
【0048】
(変形例9)
上述した実施形態においては、電極、振動体及び弾性部材を積層した構成を、音響信号を音に変換する静電型のスピーカとしているが、この構成は、音を音響信号に変換する静電型のマイクロフォン(静電型電気音響変換器)とすることも可能である。
図10は、本変形例に係る静電型マイクロフォン3と、静電型マイクロフォン3で収音された音を表す音響信号を生成する音響信号生成回路200の構成を示した図である。本変形例においては、静電型マイクロフォン3は、前述の静電型スピーカ1と同じ部材を備えているため、静電型マイクロフォン3を構成する部材には、静電型スピーカ1の各部材と同じ符号を付し、その説明を省略する。また、音響信号生成回路200の構成は、信号が流れる方向が駆動回路100と異なる以外は、駆動回路100と同じであるため、音響信号生成回路200が備える部品には駆動回路100が備える部品と同じ符号を付し、各部品の説明を省略する。なお、変圧器110の変圧比は適宜調整される。
【0049】
静電型マイクロフォン3においては、導体である電極20と導体である振動体10は距離をおいて向かいあって配置されており、電極20と振動体10は平行平板の導体によって構成されたコンデンサとして機能している。振動体10にはバイアス電圧が印加されているため、静電型マイクロフォン3に音が到達していない状態においては、このコンデンサに一定の電荷が溜まった状態となる。
静電型マイクロフォン3に音が到達した場合、到達した音によって振動体10が振動する。振動体10が振動すると、振動体10と電極20U,20Lとの間の距離が変わるため、振動体10と電極20との間の静電容量に変化が生じる。
【0050】
例えば、振動体10が電極20U側に変位すると、電極20Uと振動体10との間の距離が短くなり、電極20Uと振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20Lと振動体10との間の距離が長くなり、電極20Lと振動体10との間の静電容量が小さくなる。このように静電容量が変化すると、電極20Uと振動体10との電位差が小さくなるように電極20Uの電位が変化し、電極20Lと振動体10との電位差が大きくなるように電極20Lの電位が変化する。ここで、電極20Uと電極20Lとの間で電位差が生じるため、変圧器110の二次側コイルには電流が流れる。
【0051】
また、振動体10が電極20L側に変位すると、電極20Lと振動体10との間の距離が短くなり、電極20Lと振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20Uと振動体10との間の距離が長くなり、電極20Uと振動体10との間の静電容量が小さくなる。すると、電極20Lと振動体10との電位差が小さくなるように電極20Lの電位が変化し、電極20Uと振動体10との電位差が大きくなるように電極20Uの電位が変化する。ここで、電極20Uと電極20Lとの間で電位差が生じ、変圧器110の二次側コイルには、振動体10が電極20Uの方向に変位したときとは逆の方向に電流が流れる。
【0052】
変圧器110の二次側コイルに電流が流れると、この電流に対応して変圧器110の一次側コイルにも電流が流れる。一次側コイルに流れた信号は、増幅部130で増幅され、増幅された信号が静電型マイクロフォン3で収音された音を表す音響信号として増幅部130から出力される。ここで、静電型スピーカ1における放音部2は、静電型マイクロフォン3においては、音を収音する収音部として機能する。また、静電型マイクロフォン3の収音部は、収音した音を信号に変換する変換部の一例である。従って、静電型スピーカ1における放音部2及び静電型マイクロフォン3における収音部は、共に電気信号と音との間で変換を行う変換部の一例である。
【0053】
なお、本変形例においては、変圧器110のインピーダンスが低い場合には、静電型マイクロフォン3の負荷容量の影響により、低い周波数における周波数特性が低下する場合がある。この場合、変圧器110に替えてインピーダンスの高いアンプを電極20U,20Lに接続し、周波数特性の低下を抑えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…静電型スピーカ、2…放音部、3…静電型マイクロフォン、10…振動体、20,20U,20L…電極、30,30U,30L…弾性部材、40…スペーサ、60…カバー、61U,61L…シート、70…チューブ、80…孔、100…駆動回路、110…変圧器、120…バイアス電源、130…増幅部、140,141…コネクター、200…音響信号生成回路、R1…抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防湿性を有する袋状のカバーと、
一端が前記カバーの内部に開口し、他端が前記カバーの外部に開口した通路と、
前記通路を開閉する開閉部と、
柔軟性を有する電極と、柔軟性を有する振動体と、前記振動体と前記電極との間に位置し、音及び空気が透過し、弾性及び柔軟性を有する弾性部材とを有し、前記カバー内に収納された変換部と
を有する静電型電気音響変換器。
【請求項2】
防湿性を有する袋状のカバーと、
一端が前記カバーの内部に開口し、他端が前記カバーの外部に開口した通路と、
前記通路を開閉する開閉部と、
柔軟性を有する第1電極と、前記第1電極に対向し、柔軟性を有する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置し、柔軟性を有する振動体と、前記振動体と前記第1電極との間及び前記振動体と前記第2電極との間に位置し、音及び空気が透過し、弾性及び柔軟性を有する弾性部材とを有し、前記カバー内に収納された変換部と
を有する静電型電気音響変換器。
【請求項3】
前記カバーの内面と前記変換部との間に所定の空間を確保するスペーサを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電型電気音響変換器。
【請求項4】
前記変換部の表面と前記カバーの内面との間及び前記変換部の裏面と前記カバーの内面との間が前記通路に連通していること
を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の静電型電気音響変換器。
【請求項5】
前記変換部の表面と前記カバーの内面との間又は前記変換部の裏面と前記カバーの内面との間が前記通路と連通し、
前記変換部は、当該変換部の表面から裏面に貫通する孔を有すること
を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の静電型電気音響変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−59018(P2013−59018A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−148822(P2012−148822)
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】