説明

静電塗装装置及び塗装方法

【課題】電気的な吸着力を利用しない塗装を行う場合に、雰囲気中に飛散した塗料粒子がスプレーガンに付着することを効果的に防止する。
【解決手段】交流電源装置5の制御部13は、静電塗装中に被塗装物15の狭隘部15bを塗装する低電圧モードとき、通常モードに比べてスイッチング素子10、11の駆動時間を低電圧モードでは短くするような指令信号を出力する。発振回路8は、この指令信号に基づいて、スイッチング素子10、11に出力する駆動信号のパルス幅のデューティ比を変化させて、交流電源装置から出力される交流電圧Vacの電圧を、通常モードに比べて低電圧にする。カスケード3は、この低電圧の交流電圧Vacに応じて、通常モード時(−60kV)に比べて低電圧(−5kV)な直流電圧Vdcを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料の微粒子を負の高電圧に帯電させて噴霧する構成の静電塗装装置及び塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電塗装装置では、スプレーガンに供給された塗料(溶剤塗料、水性塗料などの液体塗料や粉体塗料)は、圧縮空気により霧化され、微粒子として塗装対象である被塗装物に噴霧される。このとき、霧化された塗料の微粒子(以下、塗料粒子と称する)は、スプレーガン内或いはスプレーガンの近傍に設けられた直流高電圧発生部(カスケード)により負の高電圧に帯電され、大地に接地(アース)された被塗装物(陽極)との間に作用する静電気力によって被塗装物の表面に塗着する。この静電塗装装置の場合、一般的に、−60kV〜−100kV程度の高電圧を用いて塗料粒子を帯電させることによって、塗装性能(塗料の被塗装物への塗着率)の向上が図られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図7は、このような従来の静電塗装装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装装置100は、スプレーガン101、このスプレーガン101に内蔵されたカスケード102、このカスケード102に接続ケーブル103を介して接続された交流電源装置104を備えて構成されている。スプレーガン101は、図示しない塗料供給ケーブル及び圧縮空気供給ケーブルにより、塗料供給源及び圧縮空気供給源にも接続されており、塗料供給源から供給された塗料を圧縮空気供給源から供給された圧縮空気により霧化して塗料粒子として噴霧する。
【0004】
交流電源装置104は、発振回路105、直流電源106、2個のスイッチング素子107、出力トランス108及び制御部109を備えて構成されている。交流電源装置104は、直流電源106の出力電圧(例えばDC20V)を2個のスイッチング素子107により出力トランス108の正側又は負側に切り替えることにより、交流電圧Vacを発生させる。スイッチング素子107の導通状態は、発振回路105及び制御部109により制御される。制御部109は、スイッチング素子の通電時間に応じた指令信号を発振回路105に対して出力し、発振回路105は、この指令信号に基づいてパルス状の駆動信号を生成し、スイッチング素子107に出力する。スイッチング素子107は、パルス状の駆動信号のオン/オフに連動して、その通電状態が変化し、直流電源106の出力電圧を切り替えている。これにより、直流電源106の出力電圧の大きさに応じた交流電圧Vac(例えばAC24V/20kHz)が発生し、出力トランス108及び接続ケーブル103を介してカスケード102に供給される。
【0005】
カスケード102は、昇圧トランス102a、倍電圧整流回路102b、出力抵抗102cを備えている。カスケード102は、交流電源装置104から供給される交流電圧Vacに比例した直流電圧Vdcを発生させる。カスケード102は、昇圧トランス102a及び倍電圧整流回路102bにより、例えばコロナ放電を利用する静電塗装の場合には負の直流電圧Vdc(例えば−60kV)を発生させる。この直流電圧Vdcがスプレーガン101のノズル110付近に設けられている電極111に供給されることにより、電極111においてコロナ放電が発生する。
【0006】
これにより、ノズル110の近傍に負のイオン化圏域が形成され、塗料粒子は、このイオン化圏域を通過することにより負の高電圧に帯電される。帯電した微粒子は、圧縮空気により搬送されるとともに、電極111と被塗装物との間に形成される電界によって被塗装物112の方向への静電吸引力が与えられ、被塗装物112に電気的な吸着力により塗着する。尚、安全回路113は、カスケード102に流れる電流の大きさを測定しており、過剰な電流が流れた場合には例えば発振回路105の動作を停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−82064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、被塗装物112の塗装面に、表面形状が平坦な平坦部112aだけではなく、スリットのように狭く奥行きがある狭隘部112bがある場合には、塗料粒子を高電圧に帯電させると、狭隘部112bのエッジ部に電荷が集中してその部分に塗料粒子が引きつけられて厚く塗装される等、塗装むらが発生したり、狭隘部112bの奥まで塗装することができなくなる不具合がある。そのため、狭隘部112bを塗装する場合には、直流電圧Vdcの印加をオフし、塗料粒子を帯電させずに圧縮空気による搬送だけで塗料を被塗装物に塗着させる非静電塗装が行われている。
【0009】
しかしながら、そのような電気的な吸着力を利用しない非静電塗装を行う場合、被塗装物112に塗着せずに雰囲気中に飛散した(あるいは跳ね返った)塗料粒子がスプレーガン101の先端部分(ノズル110の近傍)に付着することがある。このとき、例えば水性塗料やメタリック系塗料のように電気抵抗が比較的低い塗料がスプレーガン101に付着した場合には、狭隘部112bの塗装が終わって平坦部112aの塗装を行うために直流電圧Vdcによる塗料粒子への帯電を再開すると、付着した塗料を経由して電流が漏洩するおそれがある。そのため、所望の電圧で塗料粒子を帯電することができなくなるなど、塗装性能が低下するという問題があった。
【0010】
また、スプレーガン101に付着した塗料が付着限界を超えたり、付着した塗料が乾燥して剥がれ落ちたりした場合などには、圧縮空気によってその塗料片が搬送されて被塗装物112の表面に付着し、塗装品質を低下させるという問題があった。尚、上記特許文献1では、静電塗装を行う際に、雰囲気中に飛散した塗料粒子がスプレーガンに付着することを防止するため、塗料の微細粒子を静電反発する静電電極を、スプレーガン本体の近傍に、荷電電極とは別に設けるようにしている。しかし、非静電塗装を行う場合における塗料粒子のスプレーガンへの付着防止の対策は考えられていなかった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電気的な吸着力を利用しない塗装を行う場合に、雰囲気中に飛散した塗料粒子がスプレーガンに付着することを効果的に防止することができ、ひいては塗料の付着に起因する塗装性能及び塗装品質の低下を未然に防止することができる静電塗装装置及び塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の静電塗装装置は、塗料を微粒子化してノズルから噴霧するスプレーガンと、入力された交流電圧の大きさに比例した直流電圧を発生する直流高電圧発生部と、この直流高電圧発生部に対し低電圧交流電圧を供給するための交流電源装置とを備え、前記スプレーガンにより噴霧される塗料を、前記直流高電圧発生部により負の高電圧に帯電させ、陽極とされた被塗装物に対して吸着させて静電塗装を行う静電塗装装置において、前記直流高電圧発生部により発生される直流電圧を、通常の静電塗装に必要な所定の高電圧と、それよりも低い所定の低電圧とに切替える電圧切替手段を備え、前記塗料を、前記所定の低電圧に帯電させた状態で、被塗装物に吹付ける低電圧モードでの塗装の実行が可能とされているところに特徴を有する(請求項1の発明)。
【0013】
本発明の静電塗装装置によれば、直流高電圧発生部により所定の高電圧を発生させることにより、電気的な吸着力を利用して、塗料粒子を被塗装物の表面に高い効率で塗着させる静電塗装を実行することができる。そして、電圧切替手段により、直流高電圧発生部により発生される直流電圧を、通常の静電塗装よりも低い所定の低電圧に切替えることにより、低電圧モードでの塗装を実行することができる。
【0014】
この低電圧モードでの塗装においては、通常の静電塗装のような電気的な吸着力を利用するものとは異なり、塗料粒子は、主として噴霧による圧縮空気のエア流れによって被塗装物の表面に塗着されるので、狭隘な部分においても、塗装むらなどの発生を抑えて良好な塗装を行うことができる。そして、このとき、塗料粒子は所定の低電圧に帯電されているのであるが、スプレーガン(直流高電圧発生部)側の電位と塗料粒子の電位とが同じ負極性になることによって、電気的反発力が生じ、雰囲気中に飛散した塗料粒子がスプレーガンに付着することが抑制される。
【0015】
尚、ここでいう被塗装物の狭隘な部分とは、単に狭い隙間を有する部分に限定されるのではなく、凹凸が比較的大きい部分、エッジや尖った部分、或いは穴が存在する部分など、静電塗装を行う場合に部分的な電荷の集中が生じ、塗装むらが発生するおそれのある部分全般を指している。それとは逆に、後述する被塗装物の広大な部分とは、平坦面或いは滑らかな曲面が広がっていて、静電塗装を行う場合に電荷が一部に集中するようなことがなく、静電塗装によって高品質な塗装を行うことができる部分を指している。
【0016】
また、本発明においては、静電塗装に必要な所定の電圧が−60kV〜−100kV程度の範囲であるの対し、それよりも低い所定の低電圧として、例えば−1V〜−50kVの範囲内の電圧を適宜設定することができる。より好ましくは、−1kV〜−10kVの範囲内である。要するに、低電圧モードにて静電塗装を行う際に、スプレーガンに対する塗料粒子の付着防止に関して、一定の効果を得ることができる電圧であればよい。
【0017】
ところで、手動塗装用のスプレーガン(ハンドガン)を用いて塗装作業を行うような場合には、塗装作業者は、目視により狭隘な部分を判断し、手動操作により、高電圧を印加して通常の静電塗装をおこなう通常モードと低電圧モードとの間でのモード切替えを行うことができる。これに対し、塗装ラインに固定的に設けられた、或いはロボットに取り付けられたスプレーガンによって被塗装物に対する塗装作業を行う場合には、モードの切替えを自動で行うことが望ましい。
【0018】
そこで、本発明においては、前記被塗装物の表面形状に応じ、広大な部分に対する塗装を行う際には、通常モードでの塗装を実行し、狭隘な部分に対する塗装を行う際には、前記電圧切替手段を動作させて低電圧モードに切替える塗装モード切替手段を設けることができる(請求項2の発明)。これによれば、塗装作業時の作動(塗装モード)を、被塗装物の表面形状に応じて、通常の静電塗装を行う通常モードと低電圧モードとの間で自動的に切替えることができ、常に被塗装物に適した塗装モードで高品質な塗装作業を行うことが可能となる。
【0019】
本発明においては、上記電圧切替手段のより具体的な構成として、次のうち、いずれかの構成を採用することができる。即ち、前記交流電源装置が直流電源の出力電圧を通電により導通状態を制御可能な2つのスイッチング素子により交流電圧に変換するように構成されたものにあっては、電圧切替手段を、前記スイッチング素子への通電時間を変更することにより、前記直流高電圧発生部に供給する交流電圧を切替えるように構成することができる(請求項3の発明)。これによれば、交流電源装置及びスプレーガン側の構成を大きく変更する必要が無く、従来の静電塗装装置の構成を流用することができる。
【0020】
交流電源装置が出力を変更可能に構成された直流電源の出力電圧を交流電圧に変換するように構成されたものにあっては、電圧切替手段を、前記直流電源の出力を変更することにより、前記直流高電圧発生部に供給する交流電圧を切替えるように構成することができる(請求項4の発明)。これによれば、従来の交流電源装置の回路構成を大きく変更する必要がない。
【0021】
交流電源装置がそれぞれ異なる出力電圧を有する複数の直流電源のうちいずれかの出力電圧を交流電圧に変換するように構成され、電圧切替手段を、前記直流電源を選択的に切替えるように構成することができる(請求項5の発明)。これによれば、簡単な回路構成で交流電圧の大きさを変更することができる。
【0022】
或いは、それぞれ異なる大きさの直流電圧を出力する複数の直流高電圧発生部を設けるとともに、電圧切替手段を、前記交流電源装置から供給される交流電圧を複数の前記直流高電圧発生部のうちいずれかに選択的に接続するように構成することができる(請求項6の発明)。これによれば、交流電源装置を変更する必要がない上に、簡単な回路構成で直流高電圧の切り替えができる。
【0023】
また、本発明の塗装方法は、上記した請求項1の発明に記載した静電塗装装置を用い、前記スプレーガンの前記ノズルに対し前記被塗装物を相対的に移動させることにより、前記被塗装物の表面の塗装部位を順次変動させながら塗装を行う塗装方法であって、前記被塗装物の表面形状に応じ、広大な部分に対する塗装を行う際には、通常モードでの塗装を実行し、狭隘な部分に対する塗装を行う際には、前記電圧切替手段を動作させて低電圧モードに切替えるようにしながら塗装作業を進行させるところに特徴を有する(請求項7の発明)。
【0024】
本発明の塗装方法によれば、被塗装物の広大な部分に対しては、通常モードでの静電塗装が実行されるので、静電塗装によって高い効率で高品質な塗装を行うことができる。これに対し、被塗装物の狭隘な部分に対しては、低電圧モードでの塗装が実行されるので、狭隘な部分における塗装むらなどの発生を抑えて良好な塗装を行うことができるとともに、雰囲気中に飛散した塗料粒子がスプレーガンに付着することを効果的に抑制することができる。しかも、塗装モードを、被塗装物の表面形状に応じて、通常モードと低電圧モードとの間で自動的に切替えることができ、常に被塗装物に適した塗装モードで高品質な塗装作業を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の静電塗装装置及び塗装方法によれば、塗料を、通常の静電塗装に必要な高電圧よりも低い所定の低電圧に帯電させた状態で、被塗装物に吹付ける低電圧モードでの塗装の実行を可能としたので、電気的な吸着力を使用しない塗装を行う場合に、雰囲気中に飛散した塗料粒子がスプレーガンに付着することを効果的に防止することができ、ひいては、塗料の付着に起因する塗装性能及び塗装品質の低下を未然に防止することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すもので、静電塗装装置の電気的構成を概略的に示すブロック図
【図2】スイッチング素子の駆動信号の波形を示す図
【図3】静電塗装装置の作動を示すタイミングチャート
【図4】本発明の第2の実施形態を示すもので、図1相当図
【図5】本発明の第3の実施形態を示すもので、図1相当図
【図6】本発明の第4の実施形態を示すもので、図1相当図
【図7】従来例を示すもので、図1相当図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を複数の実施形態により具体的に説明する。
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について、図1から図3を参照しながら説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係る静電塗装装置1の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装装置1は、スプレーガン2、このスプレーガン2に内蔵されたカスケード(本発明でいう、直流高電圧発生部に相当)3、このカスケード3に接続ケーブル4を介して接続された交流電源装置5を備えて構成されている。接続ケーブル4は、交流電圧Vacを供給するための電源ケーブル4a、4bと、後述する安全回路の為の電流検出ケーブル4cを備えて構成されている。
【0029】
スプレーガン2は、例えば電気的絶縁性を有するポリアセタール樹脂やフッ素樹脂などの合成樹脂により本体が形成されており、図示しない塗料供給ケーブル及び圧縮空気供給ケーブルにより、塗料供給源及び圧縮空気供給源に接続されている。スプレーガン2は、一般的な静電塗装に用いられる構成を備えており、ノズル6、及びこのノズル6の近傍に設けられた霧化エア孔及びパターン形成エア孔など(いずれも図示せず)を備えている。スプレーガン2は、圧縮空気供給源から供給された圧縮空気を霧化エア孔及びパターン形成エア孔から吐出することにより、塗料供給源から供給された塗料を霧化するとともに、霧化した塗料粒子を塗装に適した形状(塗装パターン)に形成して噴霧する。
【0030】
カスケード3は、昇圧トランス3a、倍電圧整流回路3b、出力抵抗3cを備えており、交流電源装置5から供給される交流電圧Vacに比例した大きさの直流電圧Vdcを発生させる。すなわち、昇圧トランス3aに入力された交流電圧Vacは、昇圧された後に例えばコッククロフト−ウォルトン型の倍電圧整流回路3bにより昇圧及び整流され、60kV〜100kV程度の高電圧に変換される。この倍電圧整流回路3bは、回路内のダイオード(図示せず)の向きを変えることにより、出力電圧の極性を接地電位に対して正(プラス)、又は負(マイナス)のいずれかにすることができる。本実施形態の場合、倍電圧整流回路3bの出力電圧の極性は接地電位に対して負になるように構成されており、スプレーガン2のノズル6の近傍に設けられているピン状の電極7には、出力抵抗3cを介して負極性の直流電圧Vdcが供給される。
【0031】
交流電源装置5は、発振回路8、直流電源9、2個のスイッチング素子10、11、出力トランス12及び制御部13を備えて構成されている。直流電源9の出力は、出力トランス12の1次側において、スイッチング素子10、11を介して電源グランドに接続されている。具体的には、直流電源9の出力端子は、出力トランス12とスイッチング素子10とにより接地電位に対して正側に、出力トランス12とスイッチング素子11とにより接地電位に対して負側になるように接続されている。
【0032】
スイッチング素子10、11は、例えばMOSFETなどの半導体スイッチにより構成されており、通電により導通状態が制御可能である。スイッチング素子10、11は、通電されると導通状態(オン)になり、通電が停止されると非導通状態(オフ)になり、発振回路8及び制御部13によりオン/オフが制御されている。制御部13は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどを備えたマイクロコンピュータにより構成されており、スイッチング素子10、11の通電時間(オン時間)に応じた指令信号を発振回路8に対して出力する。発振回路8は、この指令信号に基づいてパルス状の駆動信号を生成し、それぞれのスイッチング素子10、11へ出力する。
【0033】
スイッチング素子10、11は、発振回路8から出力される駆動信号に連動してその通電状態が変化し、直流電源9の出力を正側或いは負側に切替える。駆動信号は、スイッチング素子10、11のオン状態が互いに重なることがないタイミングで出力され、この駆動信号のパルス幅に応じてスイッチング素子10、11が交互にオン/オフを繰り返すことにより、出力トランス12の2次側に、直流電源9の出力電圧に応じた低電圧の交流電圧Vacが発生する。この交流電圧Vacは、接続ケーブル4を介してカスケード3に供給される。
【0034】
カスケード3は、交流電圧Vacの電圧の大きさに応じた直流電圧Vdcを発生させる。交流電源装置5から出力された交流電圧Vacは、接続ケーブル4を介してカスケード3に供給され、負の直流電圧Vdcに変換される。この直流電圧Vdcは、出力抵抗を介して、電極7に供給される。
【0035】
安全回路14は、接続ケーブル4(電流検出ケーブル4c)を介してカスケード3に流れる電流の大きさを検出しており、過剰な電流が流れたと判断された場合には、制御部13に異常を検出した旨を示す異常検出信号を出力する。異常検出信号を受信した制御部13は、例えば発振回路8の動作を停止させて交流電源装置5の出力を停止するなどの処理を実行する。
【0036】
上記した構成を備えた静電塗装装置1は、塗装対象である被塗装物15に対して霧化した塗料粒子を吹付ける。このとき、高電圧の直流電圧Vdcを電極7に供給すると、電極7においてコロナ放電が発生し、スプレーガン2から噴霧された塗料粒子が帯電される。被塗装物15は、接地(アース)されて陽極となり、交流電源装置5などと同電位(アース電位)になっている。静電塗装装置1は、通常は、このような塗料粒子を帯電させることによりアースされた被塗装物15に電気的な吸着力により塗着させる静電塗装を実行する(通常モード)。
【0037】
本実施形態では、詳しくは後の作用説明にて述べるように、カスケード3により発生される直流電圧Vdcを、通常の静電塗装に必要な所定の高電圧(例えば−60kV)よりも低い所定の低電圧に切替え、塗料を、所定の低電圧に帯電させた状態で被塗装物15に吹付ける低電圧モードでの塗装の実行が可能とされている。尚、本発明者等の研究によれば、所定の低電圧として、例えば−1V〜−50kVの範囲内の電圧を適宜設定することができる。より好ましくは、−1kV〜−10kVの範囲内である。
【0038】
尚、図示はしないが、本実施形態では、スプレーガン2は塗装作業が行われる塗装ラインに固定的に設置されている。また、塗装ラインには、被塗装物15をアース接続状態で保持し、搬送するための搬送装置が設けられている。さらに、塗装ラインには、全体の作動を制御するための図示しないライン制御装置が設けられている。これにて、スプレーガン2の前方(塗料粒子が噴霧される方向。図1参照)において、被塗装物15をスプレーガン2に対して相対的に移動させることにより、被塗装物15の表面の塗装部位を順次移動させながら塗装が行われる。
【0039】
被塗装物15は、その塗装面に、平坦部15a、即ち平坦面或いは滑らかな曲面が広がっていて、静電塗装を行う場合に電荷が一部に集中するようなことがない部分(本発明でいう、広大な部分に相当)と、狭隘部15b、即ちスリットなどの狭い隙間を有する部分、凹凸が比較的大きい部分、エッジや尖った部分、或いは穴が存在するような部分(本発明でいう、狭隘な部分に相当)とを有している。そのような被塗装物15の表面形状データ(平坦部15a及び狭隘部15bの大きさ、形、位置などのデータ)は、図示しないライン制御装置に予め入力・記憶されている。
【0040】
次の作用説明で述べるように、ライン制御装置は、主としてそのソフトウェア的構成により、本実施形態に係る塗装方法を実行するようになっており、前記被塗装物15の表面形状に応じ、平坦部15aに対する塗装を行う際には通常モードでの静電塗装を実行し、狭隘部15bに対する塗装を行う際には、低電圧モードに切り替えるようにしながら塗装作業を進行させる。
【0041】
次に、上記した構成の静電塗装装置1の作用について説明する。
図2は、塗装作業時における静電塗装装置1の作動を示すタイミングチャートである。交流電源装置5の制御部13には、図示しないライン制御装置から塗装を開始するための塗装開始信号が入力される。被塗装物15がノズル6の前方にない状態(図2の「被塗装物なし」の範囲)では、塗装開始信号がオフされているので、塗料の噴霧は行われない。
【0042】
被塗装物が移動してノズル6の前方に達すると、塗装開始信号がオンになり、制御部13から発振回路8に対して指令信号が出力される。この指令信号を受けた発振回路8は、スイッチング素子に対して駆動信号を出力する。尚、塗装開始信号は、被塗装物15の端部などに塗装不良が生じないように、被塗装物15が移動してノズル6の前方に到達するより若干前の時点でオンされる。
【0043】
図3は、発振回路8から出力される駆動信号の波形を示す図である。スイッチング素子10、11は、駆動信号が「H」の状態でオンし、「L」の状態でオフする。平坦部15aを塗装する場合には、同図(A)に示すように、スイッチング素子10(正側)及びスイッチング素子11(負側)には、デューティ比が約50%であり、「H」状態が互いに重なることがない駆動信号がそれぞれ供給される。この駆動信号に応じてスイッチング素子10、11がオン/オフを繰り返すことにより、直流電源9の出力電圧は交流電圧Vacに変換される。本実施形態では、直流電源9はDC20Vを出力し、スイッチング素子10、11は20kHzでオン/オフを繰り返す。このため、交流電源装置5は、AC24V/20kHzの交流電圧Vacを出力する。
【0044】
カスケード3は、交流電圧Vacに比例した直流電圧Vdcを発生させ、交流電圧VacがAC24Vのときには、約−60kVの高電圧の直流電圧Vdcを発生させる。カスケード3で発生した高電圧の直流電圧Vdcは、電極7に供給され、スプレーガン2から噴霧される塗料粒子は高電圧(例えば−60kV)で帯電され、静電気力により被塗装物15に塗着する静電塗装が行われる。
【0045】
さて、被塗装物15がさらに移動してノズル6の前方に被塗装物15の狭隘部15bが到達すると、ライン制御装置は、塗料粒子を帯電させるための電圧を通常モードよりも低電圧に切り替えるために、電圧切替信号をオンにする。制御部13は、電圧切替信号がオンになると、スイッチング素子10、11の通電時間を通常モードよりも短くするような指令信号を出力する。発振回路8は、指令信号に基づいて、図3(B)に示すように、通常モードにおけるパルス幅(デューティ比:50%)よりも短いパルス幅(デューティ比:5%)の駆動信号を出力する。これにより、スイッチング素子10、11の通電時間(オン時間)が短くなり、出力トランス12の2次側には、通常モード(AC24V/20kHz)よりも低電圧の交流電圧Vac(AC2.4V/20kHz)が発生する。
【0046】
カスケード3は、この低電圧の交流電圧Vacに応じて、通常モード(−60kV)よりも低電圧の直流電圧Vdc(例えば−5kV)を発生させる。この低電圧の直流電圧Vdcは、電極7に供給され、塗料粒子を低電圧に帯電させる。これにより、塗料粒子は通常モードに比べて低電圧な直流電圧Vdcにより帯電されて塗装が行われる(低電圧モード)。すなわち、発振回路8(制御部13を含む)は、塗料粒子を帯電させるための直流電圧Vdcの大きさを、高電圧或いは低電圧に切り替える電圧切替手段に相当する。また、本実施形態では、ライン制御装置及び制御部13等が塗装モード切替手段として機能する。
【0047】
この低電圧モードでは、塗料粒子は、主に圧縮空気のエア流れにより被塗装物15に塗着する。この場合、電極7に印加されている直流電圧Vdcが低電圧であることから、狭隘部15bのエッジ部などに電荷が集中することがないため、塗料粒子がエッジ部近傍に多量に塗着することが防止される。また、僅かに発生する電気的な吸着力よりも圧縮空気のエア流れによる力の方が大きいことから、狭隘部15bの奥側まで塗料粒子が到達する。さらに、スプレーガン2(電極7)側が負に帯電していることから、塗料粒子とスプレーガン2側とが同極性の電位となることにより、雰囲気中に飛散した塗料粒子とスプレーガン2との間に電気的な反発力が生じ、塗料粒子がスプレーガン2に付着することが防止されている。
【0048】
被塗装物15がさらに移動して狭隘部15bの塗装が終了(低電圧モードが終了)すると、電圧切替信号がオフされる。制御部13は、電圧切替信号がオフされると、スイッチング素子10、11に出力される駆動信号のデューティ比を50%にするような指令信号を出力する。そのため、交流電源装置5からは、通常モードに対応する交流電圧Vac(AC24V/20kHz)が出力される。これにより、カスケード3では高電圧(−60kV)の直流電圧Vdcが発生し、塗料粒子を高電圧で帯電させる通常モードによる静電塗装が再び実施される。そして、被塗装物15がスプレーガン2のノズル6の前方から完全に移動すると、塗装開始信号がオフされて、交流電圧Vacの出力が停止する。
【0049】
このように、本実施形態の静電塗装装置1は、塗料粒子を帯電させるための直流電圧Vdcの大きさを高電圧(−60kV)と低電圧(−5kV)とに切替え可能であり、被塗装物15の塗装面の形状に応じて、平坦部15aを塗装する場合には通常モードで静電塗装を実行し、狭隘部15bを塗装する場合には交流電源装置5から出力される交流電圧Vacを低電圧にし、塗料粒子を低電圧で帯電させて塗装を行う低電圧モードに切替えるようにしながら塗装作業を進行させる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態による静電塗装装置1及び塗装方法によれば、次のような効果を奏する。
静電塗装装置1は、カスケード3で高電圧(−60kV)の直流電圧Vdcを発生させることにより、電気的な吸着力を利用して、塗料粒子を被塗装物15の表面に高い効率で塗着させることができるとともに、カスケード3に供給する交流電圧Vacを低電圧に切替えることにより、通常の静電塗装よりも低い所定の低電圧で塗料粒子を帯電させる低電圧モードでの塗装を実行することができる。
【0051】
低電圧モードでは、塗料粒子は、主として噴霧による圧縮空気のエア流れによって被塗装物15の表面に塗着される。また、電荷が狭隘部15bのエッジ部に集中することがない。そのため、狭隘部15bを塗装する場合であっても、エッジ部に多量の塗料が付着したりする塗装むらなどの発生を抑えて良好な塗装を行うことができる。
【0052】
塗料粒子を負の低電圧に帯電させているので、スプレーガン2(電極7)側の電位と塗料粒子の電位とが同じ極性(負極性)になることにより電気的反発力が生じ、雰囲気中に飛散した塗料粒子がスプレーガン2に付着することが抑制される。従って、狭隘部15bの塗装を行った後に再度高電圧を印加する静電塗装を実行するような場合であっても、電流の漏れに起因する塗装性能の低下、及び、スプレーガン2に付着した塗料が剥がれて被塗装物15の表面に付着するなどの塗装品質の低下を未然に防止することができる。
【0053】
塗料粒子を帯電させるための直流電圧Vdcの大きさを制御回路(制御部13及び発振回路8)で切り替えるようにしているので、例えば制御部13の制御プログラムを変更すれことにより、従来の静電塗装装置1の構成を大きく変更することなく、直流電圧Vdcの大きさを切替えることが可能となる。また、カスケード3及びスプレーガン2を従来に構成から変更する必要もない。従って、大きなコストの増加を招くことがない。
【0054】
被塗装物15の平坦部15a及び狭隘部15bのデータを予め設定し、被塗装物15の形状に応じて直流電圧Vdcの大きさを自動で切替える塗装方法で塗装を行っているので、常に被塗装物15に適した塗装モードで高品質な塗装作業を行うことができるなど、塗装作業における作業効率を向上させることができる。
【0055】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について、図4を参照しながら説明する。第2の実施形態では、交流電源装置に用いられている直流電源の出力を可変に構成されている点が第1の実施形態と異なっている。尚、第1の実施形態と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0056】
図4は、第2の実施形態に係る静電塗装装置21の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装装置21は、スプレーガン2、スプレーガン2に内蔵されたカスケード3及び交流電源装置22を備えて構成されている。交流電源装置22は、発振回路8、直流電源23、2個のスイッチング素子10、11、出力トランス12及び制御部13を備えて構成されている。交流電源装置22は、第1実施形態と同様に、直流電源23の出力電圧に応じた交流出力Vacを出力し、直流電源23の出力電圧が大きいほど交流電圧Vacの電圧は高くなり、直流電源23の出力電圧が小さいほど交流電圧Vacの電圧は低くなる。
【0057】
さて、本実施形態の場合、直流電源23は、その出力電圧が可変に構成されている。具体的には、直流電源23は、制御部13からの指令信号に応じて、その出力電圧をDC1V〜DC20Vの範囲内で変化させる。制御部13は、静電塗装中に電圧切替信号がオンになると(図3参照)、直流電源23に対して出力電圧を小さくするような指令信号を出力する。直流電源23は、制御部13から入力される指令信号に応じて、その出力を、通常モードにおける出力電圧(20V)から、低電圧モードにおける出力電圧(例えばDC2V)に低下させる。
【0058】
これにより、交流電源装置22から出力される交流電圧Vacは、通常モード時(AC24V)に比べて低電圧(AC2.4V)になる。その結果、カスケード3が発生させる直流電圧Vdcの電圧も高電圧(−60kV)から低電圧(−5kV)に切替えられる。すなわち、直流電源23(制御部13を含む)は、塗料粒子を帯電させるための直流電圧Vdcの電圧を高電圧又は低電圧に切替えるための電圧切替手段に相当する。
【0059】
このような静電塗装装置21を用いることにより、塗料粒子を帯電させるための直流電圧Vdcを低電圧に切替えることが可能となるので、塗料粒子がスプレーガン2に付着することが抑制され、ひいては塗装性能や塗装品質の低下を未然に防止することができるなど、第1の実施形態と同様の効果を奏する。特に第2の実施形態では、直流電源23を可変にすることにより直流電圧Vdcの電圧を切替えるようにしているので、スプレーガン2やカスケード3は勿論、交流電源装置22の回路構成も大きく変更する必要がなく、大きなコストの増加を招くことがない。
【0060】
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態について、図5を参照しながら説明する。第3の実施形態では、交流電源装置に複数の直流電源を設けている点が第1の実施形態と異なっている。尚、第1の実施形態と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し説明を省略する。
【0061】
図5は、第3の実施形態に係る静電塗装装置31の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装装置31は、スプレーガン2、スプレーガン2に内蔵されたカスケード3及び交流電源装置32を備えて構成されている。交流電源装置32は、発振回路8、2個の直流電源33、34、スイッチ35、2個のスイッチング素子10、11、出力トランス12及び制御部13を備えて構成されている。交流電源装置32は、第1実施形態と同様に、いずれか一方の直流電源33、34の出力電圧に応じた交流出力Vacを出力し、直流電源33、34の出力電圧が大きいほど交流電圧Vacの電圧は高くなり、直流電源33、34の出力電圧が小さいほど交流電圧Vacの電圧は低くなる。
【0062】
さて、本実施形態の場合、直流電源33、34は、互いに異なる出力電圧に設定されている。具体的には、直流電源33の出力電圧はDC20Vであり、直流電源34の出力電圧はDC2Vである。直流電源33、34の出力端子は、スイッチ35に接続され、スイッチ35が切替わることにより、何れか一方の出力端子が出力トランス12に電気的に接続される。このスイッチ35は、例えばメカニカルリレーなどで構成されており、制御部13によってその接点が切替えられる。
【0063】
制御部13は、静電塗装中に電圧切替信号がオンになると(図3参照)、スイッチ35を低電圧の直流電源34側に切替える。これにより、交流電源装置32からは、低電圧(DC2V)の直流電源34の出力に応じた低電圧(AC2.4V)の交流電圧Vacが出力される。その結果、カスケード3が発生させる直流電圧Vdcの電圧も高電圧(−60kV)から低電圧(−5kV)に切替えられる。すなわち、直流電源33、34(制御部13を含む)は、塗料粒子を帯電させるための直流電圧Vdcの電圧を高電圧又は低電圧に切替えるための電圧切替手段に相当する。
【0064】
このような静電塗装装置31を用いることにより、塗料粒子を帯電させるための直流電圧Vdcを低電圧に切替えることが可能となるので、塗料粒子がスプレーガン2に付着することが抑制され、ひいては塗装性能や塗装品質の低下を未然に防止することができるなど、第1の実施形態と同様の効果を奏する。特に第3の実施形態では、2個設けた単出力の直流電源33、34の出力をスイッチ35で切替えるという簡単な構成で直流電圧Vdcを切替えることができ、コストの大きな増加を招くことがない。
【0065】
(第4の実施形態)
以下、本発明の第4の実施形態について、図6を参照しながら説明する。この第3の実施形態では、スプレーガンに2個のカスケードを設けている点が第1の実施形態と異なっている。尚、第1の実施形態と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0066】
図6は、第4の実施形態に係る静電塗装装置41の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装装置41は、スプレーガン42、スプレーガン42に内蔵された2個のカスケード43、44及び交流電源装置5を備えて構成されている。
【0067】
さて、本実施形態の場合、カスケード43、44は、互いに異なる大きさの直流電圧Vdcを発生させることが可能に構成されている。具体的には、カスケード43は約−60kVの直流電圧Vdcを発生させ、カスケード44は−5kVの直流電圧Vdcを発生させる。尚、カスケード43、44の構成は、出力する電圧値は異なるものの、第1の実施形態と実質的に同一である。
【0068】
交流電源装置5が出力する交流電圧Vacは、スプレーガン42内の切替部45に接続されており、この切替部45により、カスケード43、44のうち何れか一方に供給される。また、カスケード43、44の出力端子は、切替部46により、何れか一方が電極7に接続される。これら切替部45、46は、例えばメカニカルリレーなどで構成されており、制御部13によって切替えられる。
【0069】
制御部13は、静電塗装中に電圧切替信号がオンになると(図3参照)、接続ケーブル4を介して、切替部45、46を低電圧の直流電圧Vdcを発生させるカスケード44側に切替える。これにより、電極7には、通常モードにおける電圧(−60kV)よりも小さい低電圧モード(−5kV)の直流電圧Vdcが供給される。すなわち、切替部45、46(制御部13を含む)は、塗料粒子を帯電させるための直流電圧Vdcの電圧を高電圧或いは低電圧に切り替える電圧切替手段に相当する。
【0070】
このような静電塗装装置41を用いることにより、塗料粒子を帯電させるための直流電圧Vdcを低電圧に切替えることが可能となるので、塗料粒子がスプレーガン42に付着することが抑制され、ひいては塗装性能や塗装品質の低下を未然に防止することができるなど、第1の実施形態と同様の効果を奏する。特に第4の実施形態では、交流電源装置5を変更することなく、スプレーガン42側の変更だけで低電圧モードによる塗装を実行できるので、従来の製造設備をそのまま使用することができる。
【0071】
(その他の実施形態)
本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で次のような拡張或いは変更が可能である。
【0072】
各実施形態においては、通常モードと低電圧モードを自動で切替えるようにしたが、作業者が手動で切替えるようにしてもよい。例えば、機械式あるいは電気式の操作スイッチ(本発明でいう、塗装モード切替手段に相当)をスプレーガン本体或いはその近傍に設け、狭隘部を塗装する場合には、その操作スイッチを操作することにより、電圧切替信号をオンする構成としてもよい。これにより、自動化することが困難で手動による塗装が行われている状況でも、効果的に塗料の付着などを防止することができる。
【0073】
各実施形態における直流電圧Vdcや交流電圧Vacの大きさや、スイッチング素子を駆動する駆動信号のパルス幅(デューティ比)などの数値は、これに限定されず、適宜設定すればよい。
【0074】
低電圧モードにおける直流電圧の大きさは、高電圧時に比べて数分の1以下に設定できることが望ましい。すなわち、直流電圧Vdcの大きさは、スプレーガンとの間に電気的な反発力を生じさせることが可能であり、且つ電荷が集中するエッジ部における電気的な吸着力よりも圧縮空気のエア流れによる塗料粒子の搬送力(塗料粒子を搬送する力)のほうが強くなる大きさにするのがよい。
【0075】
各実施形態においてはカスケードをスプレーガンに内蔵した例を示したが、カスケードをスプレーガンとは別体としてもよい。或いは、1個のカスケードを内蔵したスプレーガンに、外付けのカスケードを設ける構成としてもよい。
【符号の説明】
【0076】
図面中、1、21、31、41、100は静電塗装装置、2、42、101はスプレーガン、3、43、44、102はカスケード(直流高電圧発生部)、5、22、32、104は交流電源装置、6、110はノズル、8は発振回路(電圧切替手段)、9、23、33、34は直流電源(電圧切替手段)、13は制御部(電圧切替手段)、15、112は被塗装物、15a、112aは平坦部(広大な部分)、15b、112bは狭隘部(狭隘な部分)、35はスイッチ(電圧切替手段)、45、46は切替部(電圧切替手段)、Vacは交流電圧、Vdcは直流電圧を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料を微粒子化してノズルから噴霧するスプレーガンと、入力された交流電圧の大きさに比例した直流電圧を発生する直流高電圧発生部と、この直流高電圧発生部に対し低電圧交流電圧を供給するための交流電源装置とを備え、
前記スプレーガンにより噴霧される塗料を、前記直流高電圧発生部により負の高電圧に帯電させ、陽極とされた被塗装物に対して吸着させて静電塗装を行う静電塗装装置において、
前記直流高電圧発生部により発生される直流電圧を、通常の静電塗装に必要な所定の高電圧と、それよりも低い所定の低電圧とに切替える電圧切替手段を備え、
前記塗料を、前記所定の低電圧に帯電させた状態で、被塗装物に吹付ける低電圧モードでの塗装の実行が可能とされていることを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
前記被塗装物の表面形状に応じ、広大な部分に対する塗装を行う際には、通常モードでの塗装を実行し、狭隘な部分に対する塗装を行う際には、前記電圧切替手段を動作させて低電圧モードに切替える塗装モード切替手段を備えることを特徴とする請求項1記載の静電塗装装置。
【請求項3】
前記交流電源装置は、直流電源の出力電圧を通電により導通状態を制御可能な2つのスイッチング素子により交流電圧に変換するように構成され、
前記電圧切替手段は、前記スイッチング素子への通電時間を変更することにより、前記直流高電圧発生部に供給する交流電圧を切替えることを特徴とする請求項1又は2記載の静電塗装装置。
【請求項4】
前記交流電源装置は、出力を変更可能に構成された直流電源の出力電圧を交流電圧に変換するように構成され、
前記電圧切替手段は、前記直流電源の出力を変更することにより、前記直流高電圧発生部に供給する交流電圧を切替えることを特徴とする請求項1又は2記載の静電塗装装置。
【請求項5】
前記交流電源装置は、それぞれ異なる出力電圧を有する複数の直流電源のうちいずれかの出力電圧を交流電圧に変換するように構成され、
前記電圧切替手段は、前記直流電源を選択的に切替えることを特徴とする請求項1又は2記載の静電塗装装置。
【請求項6】
それぞれ異なる大きさの直流電圧を出力する複数の前記直流高電圧発生部が設けられ、
前記電圧切替手段は、前記交流電源装置から供給される交流電圧を、複数の前記直流高電圧発生部のうちいずれかに選択的に接続することを特徴とする請求項1又は2記載の静電塗装装置。
【請求項7】
請求項1記載の静電塗装装置を用い、前記スプレーガンの前記ノズルに対し前記被塗装物を相対的に移動させることにより、前記被塗装物の表面の塗装部位を順次変動させながら塗装を行う塗装方法であって、
前記被塗装物の表面形状に応じ、広大な部分に対する塗装を行う際には、通常モードでの塗装を実行し、狭隘な部分に対する塗装を行う際には、前記電圧切替手段を動作させて低電圧モードに切替えるようにしながら塗装作業を進行させることを特徴とする塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−269265(P2010−269265A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124089(P2009−124089)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】